説明

磁気粘性流体緩衝器

【課題】ピストンのストローク量に対して減衰係数を連続的に変化させる。
【解決手段】非磁性体によって円筒形に形成され、磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体が封入されるシリンダ10と、非磁性体によって形成され、シリンダ10の内周との間に磁気粘性流体が通過可能な間隔をもってシリンダ10内に摺動自在に配置されるピストン21と、ピストン21が連結されるピストンロッド22と、シリンダ10に取り付けられてシリンダ10内に磁界を作用させる磁石30とを備える磁気粘性流体緩衝器100であって、シリンダ10は、その外周に当該シリンダ10の他の部分と比較して薄肉に形成される平面部15を有し、磁石30は、平面部15に対応した形状に形成されて平面部15に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界の作用によって見かけの粘性が変化する磁気粘性流体を利用した磁気粘性流体緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される緩衝器として、磁気粘性流体が通過する流路に磁界を作用させ、磁気粘性流体の見かけの粘性を変化させることによって、減衰力を変化させるものがある。
【0003】
特許文献1には、磁気粘性流体が封入されたシリンダにおける軸方向の両端部に永久磁石が取り付けられた磁気粘性流体ダンパが開示されている。この磁気粘性流体ダンパは、シリンダの外周にヨーク材が設けられ、ピストンとピストンロッドの一部とが強磁性体で形成されるものである。ピストンが中立領域に位置しているときには、永久磁石の磁力は磁気粘性流体に作用しないが、ピストンが中立領域を越えてストロークしたときには、永久磁石から、ピストンロッドとピストンとヨーク材とを介して磁気回路が形成される。これにより、永久磁石の磁力がピストンとシリンダとの間の磁気粘性流体に作用し、磁気粘性流体の粘度が高くなって減衰係数が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−239982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の磁気粘性流体ダンパは、ピストンが中立領域を越えてストロークしたときに、永久磁石の磁力が磁気粘性流体に作用して減衰係数が大きく変化するものである。即ち、この磁気粘性流体ダンパでは、ピストンが中立領域に位置するときと、ピストンが中立位置を越えたときとで、磁気粘性流体の粘度が段階的に変化する。これにより、この磁気粘性流体ダンパの減衰係数は、シリンダ内を摺動するピストンのストローク量に応じて段階的に変化することとなる。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、シリンダに磁石が取り付けられる磁気粘性流体緩衝器において、ピストンのストローク量に対して減衰係数を連続的に変化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非磁性体によって円筒形に形成され、磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体が封入されるシリンダと、非磁性体によって形成され、前記シリンダの内周との間に磁気粘性流体が通過可能な間隔をもって前記シリンダ内に摺動自在に配置されるピストンと、前記ピストンが連結されるピストンロッドと、前記シリンダに取り付けられて前記シリンダ内に磁界を作用させる磁石と、を備える磁気粘性流体緩衝器であって、前記シリンダは、その外周に当該シリンダの他の部分と比較して薄肉に形成される平面部を有し、前記磁石は、前記平面部に対応した形状に形成されて前記平面部に取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ピストンがストロークすることによって、シリンダとピストンとの間の間隔を磁気粘性流体が通過する。このシリンダとピストンとは非磁性体によって形成され、シリンダにはシリンダ内の磁気粘性流体に磁界を作用させる磁石が取り付けられる。よって、シリンダやピストンが磁路を形成することはなく、シリンダとピストンとの間の間隔を通過する磁気粘性流体への磁界の影響は、ピストンがストロークして磁石に近付くにつれて徐々に大きくなることとなる。したがって、ピストンのストローク量に対して減衰係数を連続的に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気粘性流体緩衝器の斜視図である。
【図2】(a)は、図1におけるシリンダ及び磁石のA−A断面を示す図であり、(b)は、図1の変形例に係るシリンダ及び磁石のA−A断面を示す図である。
【図3】(a)は、磁気粘性流体緩衝器における磁石の斜視図であり、(b)は、変形例に係る磁石の斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る磁気粘性流体緩衝器の作用を説明するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
まず、図1から図3を参照して、本発明の実施の形態に係る磁気粘性流体緩衝器100について説明する。
【0012】
磁気粘性流体緩衝器100は、磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体を用いることで減衰係数が変化可能なダンパである。磁気粘性流体緩衝器100は、その減衰係数が、ストローク量に応じて比例的に変化するように形成される。
【0013】
磁気粘性流体緩衝器100は、磁気粘性流体が封入されるシリンダ10と、シリンダ10内に摺動自在に配置されるピストン21と、ピストン21が連結されるピストンロッド22と、シリンダ10の外周に固定されシリンダ10内に磁界を作用させる磁石30と、を備える。
【0014】
シリンダ10内に封入される磁気粘性流体は、磁界の作用によって見かけの粘性が変化するものであり、油等の液体中に強磁性を有する微粒子を分散させた液体である。磁気粘性流体の粘性は、作用する磁界の強さに応じて変化し、磁界の影響がなくなると元の状態に戻る。
【0015】
シリンダ10は、その両端に開口部を有する円筒状に形成される円筒部11と、円筒部11における両端の開口部に取り付けられるヘッド部材12とボトム部材13とを備える。
【0016】
円筒部11は、一方の開口部における内周に形成される螺合部11aと、他方の開口部における内周に形成される螺合部11bとを有する。
【0017】
ヘッド部材12の外周には、螺合部11aと螺合する螺合部12bが形成される。円筒部11の内周とヘッド部材12の外周との間には、シール部材14aが設けられ、シリンダ10内の磁気粘性流体がシールされる。ヘッド部材12には、ピストンロッド22が挿通する孔12aが形成される。
【0018】
同様に、ボトム部材13の外周には、螺合部11bと螺合する螺合部13bが形成される。円筒部11の内周とボトム部材13の外周との間には、シール部材14bが設けられ、シリンダ10内の磁気粘性流体がシールされる。ボトム部材13には、ピストンロッド22が挿通する孔13aが形成される。
【0019】
シリンダ10は、非磁性体によって形成される。これにより、シリンダ10が磁路になることが防止され、シリンダ10内に封入された磁気粘性流体に効率的に磁場が作用するようにできる。
【0020】
シリンダ10は、円筒部11の外周にシリンダ10の他の部分と比較して薄肉に形成される一対の平面部15を有する。
【0021】
平面部15は、図2(a)に示すように、シリンダ10における円筒部11の外周に、180度間隔で二箇所に凹状に形成される。一対の平面部15は、互いに平行に対向するように設けられる。平面部15は、円筒状に形成されるシリンダ10の接線方向に平行な平面として矩形に形成される。
【0022】
ピストン21は、その外径がシリンダ10における円筒部11の内径より小さな円柱状に形成される。つまり、ピストン21は、シリンダ10における円筒部11の内周との間に磁気粘性流体が通過可能な環状の間隔をもって形成される。
【0023】
ピストン21がシリンダ10内を軸方向に摺動すると、ピストン21とシリンダ10との間の間隔を磁気粘性流体が通過する。磁気粘性流体緩衝器100は、ピストン21とシリンダ10との間の環状の間隔が絞りの役割をすることによって、減衰力を発生するものである。
【0024】
ピストン21は、非磁性体によって形成される。これにより、ピストン21に磁石30の磁界が直接作用することはなく、また、ピストン21が片側に寄せられてフリクションが増加することを防止できる。
【0025】
ピストンロッド22は、ピストン21と同軸になるように形成され、ピストン21の中心を挿通する。ピストンロッド22は、ピストン21と一体に形成される。ピストンロッド22をピストン21と別体に形成して、ねじ等によって接合してもよい。
【0026】
ピストンロッド22の一方の端部22aは、ヘッド部材12の孔12aを挿通し、ヘッド部材12に摺動自在に支持されるとともに、シリンダ10の外部へと延在する。ピストンロッド22の他方の端部22bは、ボトム部材13の孔13aを挿通し、ボトム部材13に摺動自在に支持される。
【0027】
このように、ピストンロッド22は、ヘッド部材12及びボトム部材13に摺動自在に支持されることによって、ピストン21の外周とシリンダ10の内周との間に環状の間隔があいていても、シリンダ10内にて径方向にずれることなく軸方向に摺動可能である。
【0028】
磁石30は、その端面31がシリンダ10の平面部15に対応した形状に形成され、一対の平面部15に各々取り付けられる。平面部15は、シリンダ10の他の部分と比較して薄肉に形成されるため、磁石30の磁界がシリンダ10内に封入される磁気粘性流体に作用することを妨げない。
【0029】
磁石30は、図3(a)に示すように、矩形に形成される平面部15に対応して、その端面31が矩形になるような直方体状に形成される。この他にも、平面部15を円形に形成して、磁石30を、図3(b)に示すようにその端面31が円形になるような円柱状に形成してもよい。
【0030】
このように、シリンダ10の外周に平面部15が形成されることによって、取り付けられる磁石30をシリンダ10の外周に対応した円弧状の形状に形成する必要はなく、磁石30の端面31を平面状に形成することが可能となる。よって、磁石30の加工コストを低減できるとともに、シリンダ10への磁石30の取付性を向上できる。
【0031】
磁石30は、図2(a)に示すように、互いに平行に対向するように一対設けられる。一方の磁石30は、シリンダ10の平面部15と当接する端面31がN極であり、他方の磁石30は、シリンダ10の平面部15と当接する端面31がS極である。これにより、対向する一対の磁石30の間に直線的な磁界を発生させ、シリンダ10内の磁気粘性流体に磁界を作用させることを可能としている。
【0032】
磁石30を、図2(b)に示すように、平面部15に取り付けられたときに、シリンダ10の外径寸法に収まる厚さの平板状に形成してもよい。この場合、磁石30がシリンダ10から外周に突出しないため、磁石30が設けられない通常の緩衝器と同様に用いることが可能である。例えば、磁気粘性流体緩衝器100の外周にコイルばねを取り付けて、スプリングダンパとして用いることが可能である。
【0033】
磁石30は、ピストンロッド22がシリンダ10内に最も進入したときのピストン21の位置に対応して配設される。そのため、シリンダ10内の磁気粘性流体の粘度は、軸方向の位置によって相違する。具体的には、シリンダ10内の磁気粘性流体は、磁石30に近付くほど磁界の影響が大きくなり強磁性を有する微粒子が集まることによって粘度が高くなる。一方、シリンダ10内の磁気粘性流体は、磁石30から離れるほど磁界の影響が小さくなって粘度が低くなる。
【0034】
そのため、ピストンロッド22がシリンダ10内に進入する方向にストロークすると、ピストン21とシリンダ10との間の間隔を通過する磁気粘性流体への磁石30による磁界の影響が徐々に大きくなる。よって、シリンダ10内に進入する方向へのピストンロッド44のストロークに応じて、磁気粘性流体の見かけの粘度が高くなる。したがって、磁気粘性流体緩衝器100の減衰係数は、ピストンロッド22がシリンダ10内に進入するほど大きくなることとなり、ピストン21のストローク量に対して減衰係数Cを連続的に変化させることができる。
【0035】
以下、図4を参照して、磁気粘性流体緩衝器100の作用について説明する。
【0036】
図4において、横軸は、シリンダ10に対するピストンロッド22の進入量であるストローク量S[m]であり、縦軸は、磁気粘性流体緩衝器100の減衰係数C[N・s/m]である。図3において、直線Xは、磁気粘性流体緩衝器100の減衰係数Cを示すものであり、直線Yは、磁気粘性流体緩衝器100に磁石30を設けずに、シリンダ10内の磁気粘性流体に磁界が作用しない場合の減衰係数Cを示すものである。
【0037】
磁石30が設けられない場合には、シリンダ10に対してピストンロッド22が進入していっても、絞りの役割をするピストン21とシリンダ10との間の環状の間隔は、常に一定である。また、磁石30が設けられないため、シリンダ10内の磁気粘性流体に磁界が影響せず、シリンダ10内における磁気粘性流体の粘度はピストンロッド22のストローク量にかかわらず一定である。よって、この場合の減衰係数Cは、直線Yに示すように、ストローク量Sの変化に対して常に一定の値である。
【0038】
これに対して、磁気粘性流体緩衝器100では、直線Xに示すように、シリンダ10からピストンロッド22が最も退出したストローク量がSminの状態では、減衰係数Cは最小である。ただし、このストローク量がSminの状態においても、シリンダ10内の磁気粘性流体には磁石30による磁界が影響して強磁性を有する微粒子が整列しているため、磁石30が設けられない場合と比較すると減衰係数Cは大きくなっている。
【0039】
ストローク量がSminの状態からピストンロッド22がシリンダ10内に進入してゆくと、減衰係数Cは比例的に大きくなり、ストローク量がSmaxのときに減衰係数Cが最大となる。これは、ピストン21とシリンダ10との間の環状の間隔における磁気粘性流体の粘度が徐々に大きくなるためである。また、ピストン21が、磁界の影響が大きい一対の磁石30の間に進入し、ピストン21とシリンダ10との間の環状の間隔のうち、磁界の影響を直接的に受ける長さが徐々に大きくなるためである。
【0040】
このように、ピストンロッド22がシリンダ10内に最も進入したときのピストン21の位置に対応して磁石30を配設することによって、ピストンロッド22がシリンダ10内に進入する方向のストローク量に対して、磁気粘性流体緩衝器100の減衰係数Cを比例的に大きくすることができる。
【0041】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0042】
シリンダ10とピストン21とは非磁性体によって形成され、シリンダ10にはシリンダ10内の磁気粘性流体に磁界を作用させる磁石30が取り付けられる。よって、シリンダ10やピストン21が磁路を形成することはなく、シリンダ10とピストン21との間の間隔を通過する磁気粘性流体への磁界の影響は、ピストン21がストロークして磁石30に近付くにつれて徐々に大きくなることとなる。したがって、ピストン21のストローク量に対して減衰係数Cを連続的に変化させることができる。
【0043】
また、磁気粘性流体が封入される円筒形のシリンダ10が、その外周に薄肉に形成される平面部15を有し、この平面部15に磁石30が取り付けられる。よって、磁石30をシリンダ10の外周に対応する形状に形成する必要はない。したがって、磁石30を直方体状や円柱状などのように端面31が平面状になるように形成することが可能であるため、シリンダ10への磁石30の取付性を向上できる。
【0044】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る磁気粘性流体緩衝器は、車両などに搭載される緩衝器として利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
100 磁気粘性流体緩衝器
10 シリンダ
11 円筒部
12 ヘッド部材
13 ボトム部材
15 平面部
21 ピストン
22 ピストンロッド
30 磁石
31 端面
44 ピストンロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体によって円筒形に形成され、磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体が封入されるシリンダと、
非磁性体によって形成され、前記シリンダの内周との間に磁気粘性流体が通過可能な間隔をもって前記シリンダ内に摺動自在に配置されるピストンと、
前記ピストンが連結されるピストンロッドと、
前記シリンダに取り付けられて前記シリンダ内に磁界を作用させる磁石と、を備える磁気粘性流体緩衝器であって、
前記シリンダは、その外周に当該シリンダの他の部分と比較して薄肉に形成される平面部を有し、
前記磁石は、前記平面部に対応した形状に形成されて前記平面部に取り付けられることを特徴とする磁気粘性流体緩衝器。
【請求項2】
前記磁石は、前記ピストンロッドが前記シリンダ内に最も進入したときの前記ピストンの位置に対応して配設されることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項3】
前記平面部は、互いに平行に対向するように一対設けられ、
前記磁石は、一対の前記平面部に各々取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項4】
前記平面部は矩形に形成され、
前記磁石は、直方体状に形成されて端面で前記平面部と当接し、
一対の前記磁石のうち一方は前記平面部にN極が当接し、他方は前記平面部にS極が当接することを特徴とする請求項3に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項5】
前記平面部は円形に形成され、
前記磁石は、円柱状に形成されて端面で前記平面部と当接し、
一対の前記磁石のうち一方は前記平面部にN極が当接し、他方は前記平面部にS極が当接することを特徴とする請求項3に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項6】
前記磁石は、前記平面部に取り付けられたときに、前記シリンダの外径寸法に収まる厚さに形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の磁気粘性流体緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−177405(P2012−177405A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39992(P2011−39992)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【出願人】(000155609)KYB−YS株式会社 (18)
【Fターム(参考)】