説明

磁気記憶媒体および磁気記憶媒体駆動装置

【課題】電子線描画に適応し、高い精度で電磁変換素子のトラッキングサーボ制御を実現することができる磁気記憶媒体を提供する。
【解決手段】バーストライン41では、半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体64a、64b、65a、65bが配置される。バーストライン41同士の間では円周線に対して繰り返しパターンの位相が半径方向にずらされる。トラッキングサーボ制御にあたって磁気ヘッドの読み出し素子は1円周上でバーストラインを横切る。バーストラインの繰り返しパターン中では部分的に1円周上に非磁性体領域が確立されるものの、繰り返しパターンの位相は半径方向にずれることから、全てのバーストラインで共通の1円周上に非磁性体領域が配置されるわけではない。読み出し素子が1円周上で複数本のバーストラインを横切ると、常に所定レベル以上のゲインが確保されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスク駆動装置といった磁気記憶媒体駆動装置に関し、特に、そういった磁気記憶媒体駆動装置に組み込まれる磁気記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビットパターンドメディアは広く知られる。ビットパターンドメディアでは非磁性体中に配列される磁性ドットごとにビットデータは記録される。磁性ドットの確立にあたってフォトリソグラフィ技術が利用される。ディスク基板上でフォトレジストは露光される。露光にあたって電子線が用いられる。電子線は所定のクロック信号に応じて間欠的に照射される。こうしてビームスポットの羅列に基づきフォトレジストは露光される。こういった電子線描画ではビームスポット単位で露光が実施される。ビームスポット形状の集合体で磁性ドットは形成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
磁性ドットで構成されるバーストパターンは広く知られる。バーストパターンは磁気ディスクの周方向に規定の間隔で配列される。このとき、バーストパターンでは半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性ドットが配列される。円周線に対して全てのバーストパターンで繰り返しパターンの位相は合わせ込まれる。その結果、磁性ドット同士の間隔が任意の円周線上に集中する。こういった円周線上では磁気ヘッドから十分な大きさの読み出し信号が出力されることができない。磁気ヘッドのトラッキングサーボ制御にあたって十分な精度が確保されることができない。
【0004】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、電子線描画に適応し、高い精度で電磁変換素子のトラッキングサーボ制御を実現することができる磁気記憶媒体を提供することを目的とする。本発明は、そういった磁気記憶媒体を利用した磁気記憶媒体駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、一形態によれば、半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体を配置し、周方向に規定の間隔で配列される複数本のバーストラインを備え、少なくとも隣接する前記バーストライン同士の間では円周線に対して前記繰り返しパターンの位相が半径方向にずれることを特徴とする磁気記憶媒体が提供される。
【0006】
バーストラインはトラッキングサーボ制御で利用される。トラッキングサーボ制御にあたって磁気ヘッドの読み出し素子は1円周上でバーストラインを横切る。バーストラインの繰り返しパターン中では部分的に1円周上に非磁性体領域が確立されるものの、繰り返しパターンの位相は半径方向にずれることから、全てのバーストラインで共通の1円周上に非磁性体領域が配置されるわけではない。したがって、読み出し素子が1円周上で複数本のバーストラインを横切ると、常に所定レベル以上のゲインが確保されることができる。バーストラインに基づき得られるサーボ信号では位相の変動は効果的に抑制される。こういった磁気記憶媒体によれば、高い精度で磁気ヘッドは位置決めされることができる。
【0007】
こういった磁気記憶媒体は特定の磁気記憶媒体駆動装置に利用されることができる。特定の磁気記憶媒体駆動装置は、筐体と、前記筐体に組み込まれる磁気記憶媒体と、前記磁気記憶媒体の表面に向き合わせられる磁気ヘッドとを備えればよい。磁気記憶媒体は、半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体を配置し、周方向に規定の間隔で配列される複数本のバーストラインを備えればよい。少なくとも隣接するバーストライン同士の間では円周線に対して繰り返しパターンの位相が半径方向にずれればよい。
【0008】
他の形態によれば、非磁性体中で所定の形状に象られる単位磁性体で構成される第1磁性域と、所定のずれ量で第1磁性域から半径方向にずれる単位磁性体で構成される第2磁性域とが円周方向に交互に連続して配置されることを特徴とする磁気記憶媒体が提供される。
【0009】
こういった磁気記憶媒体は特定の磁気記憶媒体駆動装置に利用されることができる。特定の磁気記憶媒体駆動装置は、筐体と、前記筐体に組み込まれる磁気記憶媒体と、前記磁気記憶媒体の表面に向き合わせられる磁気ヘッドとを備えればよい。磁気記憶媒体では、非磁性体中で所定の形状に象られる単位磁性体で構成される第1磁性域と、所定のずれ量で第1磁性域から半径方向にずれる単位磁性体で構成される第2磁性域とが円周方向に交互に連続して配置されればよい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、電子線描画に適応し、高い精度で電磁変換素子のトラッキングサーボ制御を実現することができる磁気記憶媒体は提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0012】
図1は磁気記憶媒体駆動装置の一具体例すなわちハードディスク駆動装置(HDD)11の内部構造を概略的に示す。このHDD11は筐体すなわちハウジング12を備える。ハウジング12は箱形のベース13およびカバー(図示されず)を有する。ベース13は例えば平たい直方体の内部空間すなわち収容空間を区画する。ベース13は例えばアルミニウムといった金属材料から鋳造に基づき成形されればよい。カバーはベース13の開口に結合される。カバーとベース13との間で収容空間は密閉される。カバーは例えばプレス加工に基づき1枚の板材から成形されればよい。
【0013】
収容空間には磁気記憶媒体の一具体例すなわち1枚以上の磁気ディスク14が収容される。磁気ディスク14はスピンドルモーター15のスピンドル軸に装着される。スピンドルモーター15は例えば5400rpmや7200rpm、10000rpm、15000rpmといった高速度で磁気ディスク14を回転させることができる。後述されるように、個々の磁気ディスク14はいわゆる垂直磁気記憶媒体に構成される。
【0014】
収容空間にはキャリッジ16がさらに収容される。キャリッジ16はキャリッジブロック17を備える。キャリッジブロック17は、ベース13の底板から垂直方向に立ち上がる支軸18に回転自在に連結される。キャリッジブロック17には、支軸18から水平方向に延びる複数のキャリッジアーム19が区画される。キャリッジブロック17は例えば押し出し成型に基づきアルミニウムから成型されればよい。
【0015】
個々のキャリッジアーム19の先端にはヘッドサスペンション21が取り付けられる。ヘッドサスペンション21はキャリッジアーム19の先端から前方に延びる。ヘッドサスペンション21にはフレキシャが張り合わせられる。フレキシャ上には浮上ヘッドスライダー22が支持される。フレキシャに基づき浮上ヘッドスライダー22はヘッドサスペンション21に対してその姿勢を変化させることができる。浮上ヘッドスライダー22にはヘッド素子すなわち電磁変換素子(図示されず)が搭載される。
【0016】
電磁変換素子は書き込みヘッド素子と読み出しヘッド素子とを備える。書き込みヘッド素子にはいわゆる単磁極ヘッドが用いられる。単磁極ヘッドは薄膜コイルパターンの働きで磁界を生成する。磁界は、主磁極の働きで、磁気ディスク14の表面に直交する垂直方向から磁気ディスク14に作用する。この磁界の働きで磁気ディスク14に情報は書き込まれる。その一方で、読み出しヘッド素子には巨大磁気抵抗効果(GMR)素子やトンネル接合磁気抵抗効果(TMR)素子が用いられる。GMR素子やTMR素子では、磁気ディスク14から作用する磁界の向きに応じてスピンバルブ膜やトンネル接合膜の抵抗変化が引き起こされる。こういった抵抗変化に基づき磁気ディスク14から情報は読み出される。
【0017】
磁気ディスク14の回転に基づき磁気ディスク14の表面で気流が生成されると、気流の働きで浮上ヘッドスライダー22には正圧すなわち浮力および負圧が作用する。浮力および負圧とヘッドサスペンション21の押し付け力とが釣り合うことで磁気ディスク14の回転中に比較的に高い剛性で浮上ヘッドスライダー22は浮上し続けることができる。
【0018】
キャリッジブロック17にはボイスコイルモーター(VCM)23が連結される。ボイスコイルモーター23の働きでキャリッジブロック17は支軸18回りで回転することができる。こうしたキャリッジブロック17の回転に基づきキャリッジアーム19およびヘッドサスペンション21の揺動は実現される。浮上ヘッドスライダー22の浮上中に支軸18回りでキャリッジアーム19が揺動すると、浮上ヘッドスライダー22は磁気ディスク14の半径線に沿って移動することができる。その結果、浮上ヘッドスライダー22上の電磁変換素子は最内周記録トラックと最外周記録トラックとの間で同心円状の記録トラックを横切ることができる。こうした浮上ヘッドスライダー22の移動に基づき電磁変換素子は目標記録トラックに対して位置決めされる。
【0019】
ヘッドサスペンション21の先端には、ヘッドサスペンション21の先端から前方に延びるロードタブ24が区画される。ロードタブ24はキャリッジアーム19の揺動に基づき磁気ディスク14の半径方向に移動することができる。ロードタブ24の移動経路上には磁気ディスク14の外側でランプ部材25が配置される。ランプ部材25はベース13に固定される。ロードタブ24はランプ部材25に受け止められる。ランプ部材25は例えば硬質プラスチック材料から成型されればよい。
【0020】
ランプ部材25にはロードタブ24の移動経路に沿って延びるランプ25aが形成される。このランプ25aは磁気ディスク14の回転軸から遠ざかるにつれて磁気ディスク14の表面を含む仮想平面から遠ざかる。したがって、キャリッジアーム19が支軸18回りで磁気ディスク14の回転軸から遠ざかると、ロードタブ24はランプ25aを上っていく。こうして浮上ヘッドスライダー22は磁気ディスク14の表面から引き剥がされる。浮上ヘッドスライダー22は磁気ディスク14から外側に待避する。反対に、キャリッジアーム19が支軸18回りに磁気ディスク14の回転軸に向かって揺動すると、ロードタブ24はランプ25aを下っていく。回転中の磁気ディスク14から浮上ヘッドスライダー22には浮力が作用する。ランプ部材25およびロードタブ24は協働でいわゆるロードアンロード機構を構成する。
【0021】
図2に示されるように、磁気ディスク14の表裏面には、磁気ディスク14の半径方向に沿って湾曲しつつ延びる複数筋(例えば60本)のサーボセクター領域28が規定される。サーボセクター領域28にはサーボパターンが確立される。サーボパターンに書き込まれる磁気情報は浮上ヘッドスライダー22上の電磁変換素子で読み取られる。サーボパターンから読み出される情報に基づき浮上ヘッドスライダー22は磁気ディスク14の半径方向に位置決めされる。サーボセクター領域28の湾曲は電磁変換素子の移動経路に基づき設定される。
【0022】
隣接するサーボセクター領域28の間にはデータ領域29が確保される。データ領域29には、例えば図3に示されるように、記録トラック31ごとに磁性ドット32が配列される。個々の磁性ドット32は磁性体で構成される。磁性ドット32同士は非磁性体で磁気的に隔絶される。ここでは、磁性体の形状や磁性体同士の間隔は単位ブロック33に基づき決定される。単位ブロック33は電子線のビームスポットに基づき決定される。個々の磁性ドット32は、半径方向に隣接する2個の単位ブロック33で規定される。記録トラック31上では磁気ディスク14の周方向に沿って磁性ドット32同士の間に1個の単位ブロック33の間隔が確保される。同様に、隣接する記録トラック31同士の間には磁気ディスク14の半径方向に1個の単位ブロック33の間隔が確保される。個々の磁性ドット32では上向きまたは下向きの磁化が確立される。「上向き(例えばN極)」「下向き(例えばS極)」で2値は区別される。電磁変換素子の書き込み素子は記録トラック31に沿ってデータ領域29に情報を書き込む。同様に、電磁変換素子の読み出し素子34は、データ領域29の記録トラック31に書き込まれるビットデータ列を読み取る。磁性ドット32が細分化されればされるほど、個々の磁性ドット32で良好な磁化特性は得られる。ここでは、隣接する記録トラック31同士の間でトラックピッチ(Tp)すなわち記録トラック31の中心線同士の間隔は3つの単位ブロックで特定される。
【0023】
図4は本発明の第1実施形態に係るサーボセクター領域28を示す。各サーボセクター領域28では、上流から順番にプリアンブル域36、サーボマークアドレス域37および位相バースト域38が区画される。プリアンブル域36では、例えば、磁気ディスク14の半径線上で延びる複数筋の磁性パターン39が確立される。磁性パターン39は磁気ディスク14の周方向に等間隔で配置される。こういったプリアンブル域36の働きで読み出し素子34から読み出される信号の同期が確保される。同時に、読み出し素子34から読み出される信号に基づきゲインが調整される。ここで、「上流」や「下流」は、磁気ディスク14の回転中に規定される浮上ヘッドスライダー22の走行方向に基づき定義される。
【0024】
サーボマークアドレス域37には特定のパターンで磁性ドットが配置される。磁性ドットの配置はセクター番号やトラック番号を反映する。同時に、サーボマークアドレス域37には磁気ディスク14の半径線上で延びる複数筋の磁性パターンが確立される。この磁性パターンはサーボクロック信号を特定する。このサーボクロック信号に基づき後述の位相は特定される。サーボマークアドレス域37の働きでセクター番号やトラック番号は特定される。同時に、プリアンブル域36およびサーボマークアドレス域37の働きで位相の基準タイミングは特定される。
【0025】
位相バースト域38には、磁気ディスク14の半径線に対して所定の傾斜角で延びる複数本の磁性パターンすなわち位相バーストライン41が確立される。位相バーストライン41の確立にあたって位相バースト域38には偶数(even)域38aと奇数(odd)域38bとが交互に配置される。偶数域38aおよび奇数域38bは対で利用される。偶数域38aでは、位相バーストライン41を通過する読み出し素子34が磁気ディスク14の内周側にずれればずれるほど、位相は早まる。反対に、奇数域38bでは、位相バーストライン41を通過する読み出し素子34が磁気ディスク14の外周側にずれればずれるほど、位相は早まる。
【0026】
図5に示されるように、ボイスコイルモーター23にはモータードライバー回路42が接続される。モータードライバー回路42はボイスコイルモーター23に駆動電流を供給する。ボイスコイルモーター23は、供給される駆動電流に基づき指定の変位量で変位することができる。こうした変位量はキャリッジブロック17の回転量(回転角)に基づき設定される。
【0027】
ヘッドIC43にはリードライトチャネル回路44が接続される。リードライトチャネル回路44は決められた変復調方式に従って信号の変調や復調を実施する。変調後の信号すなわち書き込み信号はヘッドIC43に供給される。ヘッドIC43は書き込み信号を増幅する。増幅後の書き込み信号は書き込み素子45に供給される。読み出し素子34から出力される読み出し信号はヘッドIC43で増幅された後にリードライトチャネル回路44に供給される。リードライトチャネル回路44は読み出し信号を復調する。
【0028】
モータードライバー回路42およびリードライトチャネル回路44にはHDC46が接続される。HDC46はモータードライバー回路42に制御信号を供給する。この制御信号に基づきモータードライバー回路42の出力すなわち駆動電流は制御される。HDC46は同様にリードライトチャネル回路44に変調前の書き込み信号を送り込むとともにリードライトチャネル回路44から復調後の読み出し信号を受け取る。変調前の書き込み信号は例えばホストコンピューターから送り込まれるデータに基づきHDC46で生成されればよい。そういったデータはコネクター47からHDC46に受け渡されればよい。コネクター47には、例えばホストコンピューターのメインボードから延びる制御信号用ケーブルや電源用ケーブル(ともに図示されず)が接続されればよい。同様に、HDC46は復調後の読み出し信号に基づきデータを再現する。再現されたデータはホストコンピューターに向けてコネクター47から出力されればよい。こうしたデータの送受信にあたってHDC46は例えばバッファメモリー48を利用することができる。バッファメモリー48は一時的にデータを保存する。バッファメモリー48には例えばSDRAM(シンクロナスダイナミックランダムアクセスメモリー)が用いられればよい。
【0029】
HDC46にはMPU49が接続される。MPU49は、例えばROM(リードオンリーメモリー)51に記憶されるプログラムに基づき動作するCPU(中央演算処理装置)52を備える。CPU52はその動作の実現にあたって例えばフラッシュROM53からデータを取得することができる。そういったプログラムやデータは一時的にRAM(ランダムアクセスメモリー)54に格納されることができる。ROM51やフラッシュROM53、RAM54はCPU52に直接に接続されればよい。
【0030】
電磁変換素子の読み出し素子34はいわゆるトラッキングサーボ制御に基づき記録トラックを追従し続ける。このトラッキングサーボ制御では、磁気ディスク14上のサーボパターンに基づき読み出し素子34から位置信号が読み出される。位置信号はヘッドIC43で増幅された後にリードライトチャネル回路44からHDC46に送り込まれる。HDC46は位置信号に基づきボイスコイルモーター23の制御量を特定する。HDC46から供給される制御信号に基づきモータードライバー回路42からボイスコイルモーター23に駆動電流は供給される。
【0031】
図6に示されるように、プリアンブル域36の1磁性パターン39では、半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体57が配置される。繰り返しパターンの1単位パターン58は、周方向に配列される3つの磁性ドット59で構成される。個々の磁性ドット59は、前述と同様に、半径方向に隣接する2個の単位ブロック33で規定される。1単位パターン58では磁気ディスク14の周方向に沿って磁性ドット59同士の間に1個の単位ブロック33の間隔が確保される。同様に、隣接する単位パターン58同士の間には磁気ディスク14の半径方向に1個の単位ブロック33の間隔が確保される。個々の磁性ドット59では例えば上向き(N極)の磁化が確立される。隣接する磁性パターン39同士の間には、例えば1単位パターン58と同一の間隔、すなわち、3個の単位ブロックの間隔が確保される。しかも、このプリアンブル域36では、磁性パターン39同士の間で円周線に対して繰り返しパターンの位相が半径方向に1単位ブロック33ずつすなわちトラックピッチTpの3分の1の大きさずつずらされる。ここで、トラックピッチTpに相当する間隔は、電子線描画で半径方向に配列される3個のビームスポットすなわち3回の描画で形成される。すなわち、半径方向に2単位ブロックの間隔で電子線は照射され、後工程で対応箇所の磁性体の残存が確立される一方で、続く1単位ブロックの間隔で電子線は照射されず、後工程で対応箇所の磁性体は削除される。その結果、規定本数すなわち3本の磁性パターン39ごとに1周期が形成される。1プリアンブル域36内で磁性パターン39の総本数は規定本数の整数倍(3の倍数)に設定される。
【0032】
図7に示されるように、位相バースト域38の偶数域38aでは、個々の位相バーストライン41ごとに、半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体62が配置される。繰り返しパターンの1単位パターン63は、周方向に配列される2つの磁性ドット64a、64bを含む。個々の磁性ドット64a、64bは、前述と同様に、半径方向に隣接する2個の単位ブロック33で規定される。単位パターン63では上流側の磁性ドット64aの上流に1個の磁性ドット65aが配置される。磁性ドット65aは1個の単位ブロックで構成される。この磁性ドット65aと上流側の磁性ドット64aとの間には周方向に1個の単位ブロックの間隔が確保される。磁性ドット65aの内周端すなわち内周側輪郭線は磁性ドット64a、64bの内周端すなわち内周側輪郭線に合わせ込まれる。言い換えれば、磁性ドット65aの内周端と磁性ドット64a、64bの内周端とは1円周線上に位置する。同様に、下流側の磁性ドット64bの下流には1個の磁性ドット65bが配置される。磁性ドット65bは1個の単位ブロックで構成される。この磁性ドット65bと下流側の磁性ドット64bとの間には周方向に1個の単位ブロックの間隔が確保される。磁性ドット65bの外周端すなわち外周側輪郭線は磁性ドット64a、64bの外周端すなわち外周側輪郭線に合わせ込まれる。言い換えれば、磁性ドット65bの外周端と磁性ドット64a、64bの外周端とは1円周線上に位置する。個々の磁性ドット64a、64bおよび磁性ドット65a、65bでは例えば上向き(N極)の磁化が確立される。隣接する位相バーストライン41同士の間には例えば6個の単位ブロックの間隔が確保される。しかも、この位相バースト域38では、位相バーストライン41同士の間で円周線に対して繰り返しパターンの位相が半径方向に1単位ブロック33ずつすなわちトラックピッチTpの3分の1の大きさずつずらされる。ここで、トラックピッチTpに相当する間隔は、電子線描画で半径方向に配列される3個のビームスポットすなわち3回の描画で形成される。すなわち、半径方向に2単位ブロックの間隔で電子線は照射され、後工程で対応箇所の磁性体の残存が確立される一方で、続く1単位ブロックの間隔で電子線は照射されず、後工程で対応箇所の磁性体は削除される。その結果、規定本数すなわち3本の位相バーストライン41ごとに1周期が形成される。1偶数域38a内で位相バーストライン41の総本数は規定本数の整数倍(3の倍数)に設定される。
【0033】
図8から明らかなように、位相バースト域38の奇数域38bは偶数域38aと同様に形成される。ただし、繰り返しパターンの1単位パターン66は、周方向に配列される2つの磁性ドット67a、67bを含む。個々の磁性ドット67a、67bは、前述と同様に、半径方向に隣接する2個の単位ブロック33で規定される。単位パターン66では上流側の磁性ドット67aの上流に1個の磁性ドット68aが配置される。この磁性ドット68aと上流側の磁性ドット67aとの間には周方向に1個の単位ブロックの間隔が確保される。磁性ドット68aの外周端すなわち外周側輪郭線は磁性ドット67a、67bの外周端すなわち外周側輪郭線に合わせ込まれる。言い換えれば、磁性ドット68aの外周端と磁性ドット67a、67bの外周端とは1円周線上に位置する。同様に、下流側の磁性ドット67bの下流には1個の磁性ドット68bが配置される。この磁性ドット68bと下流側の磁性ドット67bとの間には周方向に1個の単位ブロックの間隔が確保される。磁性ドット68bの内周端すなわち内周側輪郭線は磁性ドット67a、67bの内周端すなわち内周側輪郭線に合わせ込まれる。言い換えれば、磁性ドット68bの内周端と磁性ドット67a、67bの内周端とは1円周線上に位置する。個々の磁性ドット67a、67bおよび磁性ドット68a、68bでは例えば上向き(N極)の磁化が確立される。
【0034】
トラッキングサーボ制御にあたって電磁変換素子の読み出し素子34が順番にプリアンブル域36、サーボマークアドレス域37および位相バースト域38を通過すると、図9に示されるように、読み出し素子34から信号が出力される。サーボマークアドレス域37の通過に基づきHDC46はサーボクロック信号を生成する。続いて位相バースト域38の通過に基づきHDC46は偶数域38aおよび奇数域38bごとに信号波形を取り込む。HDC46は高速フーリエ変換に基づき信号波形の平均化を実施する。HDC46は偶数域38aおよび奇数域38bごとにサーボクロック信号および信号波形に基づき位相差を演算する。こうして演算された位相差に基づきHDC46は位置誤差信号を出力する。位置誤差信号は制御信号としてボイスコイルモーター23に供給される。この信号波形ではプリアンブル域36、サーボマークアドレス域37および位相バースト域38で常に所定のゲインは確保される。その結果、電磁変換素子は確実に目標の記録トラック31を追従することができる。特に、図10〜図12に示されるように、磁気ディスク14の半径方向位置に拘わらず、図9に示されるように、位相バースト域38で所定のゲインは確保されることができる。しかも、位相バーストライン41同士の間で円周線に対して繰り返しパターンの位相は半径方向にトラックピッチTpの整数比でずらされることから、いずれの記録トラック31でも同一のパターンで信号波形は変化する。したがって、位置誤差信号の算出は簡素化されることができる。位相バーストライン41同士の間で円周線に対して繰り返しパターンの位相が半径方向にトラックピッチTpの整数倍でずらされても、同様な効果は得られる。その上、1偶数域38aや1奇数域38bでは位相バーストライン41の総本数は規定本数の整数倍に設定されることから、信号波形の平均化は正確に実施されることができる。平均化に伴う誤差は解消されることができる。
【0035】
本発明者は、前述の位相バースト域38に基づきコンピューターシミュレーションを実施した。シミュレーションで位置誤差信号と電磁変換素子の変位との関係が算出された。その結果、図13に示されるように、位置誤差信号の大きさと変位の大きさとの間に直線的な相関関係が確認された。前述の位相バースト域38によれば、高い精度で電磁変換素子の位置決めは実施されることが確認された。
【0036】
同時に、本発明者は比較例に係る位相バースト域に基づきコンピューターシミュレーションを実施した。比較例に係る位相バースト域38aでは、図14に示されるように、個々の位相バーストライン41ごとに、半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体62が配置される。繰り返しパターンの1単位パターン64は前述の位相バーストライン41と同様に構成される。ただし、この位相バースト域38aでは、位相バーストライン41同士の間で円周線に対して繰り返しパターンの位相は一致する。その結果、図15に示されるように、磁性ドット64a、64bの中央位置に読み出し素子34の中心線が合わせ込まれると、信号波形で十分なゲインは確保されることができる。その一方で、図16に示されるように、単位パターン63同士の間に読み出し素子34の中心線が位置すると、信号波形でゲインは著しく低下する。その結果、図17に示されるように、位置誤差信号の大きさと変位の大きさとの間で相関関係に歪みが観察された。こうした位相バースト域38aによれば、電磁変換素子は高い精度で位置決めされることはできない。
【0037】
図18は本発明の第2実施形態に係るサーボセクター領域28aを示す。この第2実施形態では前述の位相サーボ方式に係るサーボセクター領域28に代えて振幅サーボ方式のサーボセクター領域28aが利用される。このサーボセクター領域28aでは、第1磁性領域71、第2磁性領域72、第3磁性領域73および第4磁性領域74が確立される。第1磁性領域71は、周方向に結合される6つの単位磁性体76で構成される。個々の単位磁性体76は半径方向に結合される3つの単位ブロック33で構成される。第1磁性領域71は所定の間隔で半径方向に配列される。ここでは、隣接する第1磁性領域71同士の間には半径方向に3個の単位ブロックの間隔が確保される。第2磁性領域72は、同様に、周方向に結合される6つの単位磁性体76で構成される。第2磁性領域72は第1磁性領域71と互い違いに配置される。したがって、読み出し素子34が記録トラック31を追従すると、第1磁性領域71に基づく出力の振幅と、第2磁性領域72に基づく出力の振幅は一致する。こういった一致に基づきボイスコイルモーター23は制御される。トラッキングサーボ制御は実現される。
【0038】
第3磁性領域73は、周方向に結合される6つの単位磁性体76で構成される。上流側から奇数番目の単位磁性体76すなわち第1磁性域77に対して、偶数番目の単位磁性体76すなわち第2磁性域78は半径方向に単位ブロック33の大きさでずらされる。こうして第1磁性域77と第2磁性域78とは円周方向に交互に連続して配置される。第4磁性領域74は第3磁性領域73と同様に構成される。ただし、第4磁性領域74は第3磁性領域73と互い違いに配置される。
【0039】
トラッキングサーボ制御にあたって電磁変換素子の読み出し素子34が第3磁性領域73および第4磁性領域74を通過すると、読み出し素子34がトラックの中心線を辿る限り、第1磁性領域71や第2磁性領域72の中心線を辿る場合と同様に読み出し素子34から信号が出力される。その一方で、読み出し素子34が円周方向に第3磁性領域73および第4磁性領域74の縁を辿る場合には、互い違いに配置される磁性体の影響に基づき、読み出し素子34から出力される再生信号に高周波成分は重畳される。こういった再生信号は個々の磁性領域73、74ごとに平均化されればよい。平均化された再生信号では離散フーリエ変換に基づき周波数成分は算出される。同時に、平均化された再生信号の振幅は抽出される。こうして高周波成分の影響は低減される。安定したトラッキングサーボ制御は実現されることができる。
【0040】
ここで、トラックピッチTpに相当する間隔は、電子線描画で半径方向に配列される3個のビームスポットすなわち3回の描画で形成される。振幅サーボ方式では第1磁性領域71および第2磁性領域72に続く第3番目の磁性領域および第4番目の磁性領域の中心線はトラックの中心線に一致しなければならない。本実施形態のように電子線描画にあたって奇数の描画回数でトラックピッチTpの間隔が設定される場合には、トラックの中心線に接するビームスポットは確立されることができない。したがって、第3磁性領域73や第4磁性領域74が第1磁性領域71や第2磁性領域72と同一の形状に形作られると、円周方向に延びる縁は第3磁性領域73や第4磁性領域74で描き出されることができない。その一方で、本実施形態のように第1磁性域77および第2磁性域78の組み合わせで第3磁性領域73や第4磁性領域74が構成されると、たとえ電子線描画にあたって奇数の描画回数でトラックピッチTpの間隔が設定されても、第3磁性領域73や第4磁性領域74は確実に確立されることができる。
【0041】
(付記1) 半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体を配置し、周方向に規定の間隔で配列される複数本のバーストラインを備え、少なくとも隣接する前記バーストライン同士の間では円周線に対して前記繰り返しパターンの位相が半径方向にずれることを特徴とする磁気記憶媒体。
【0042】
(付記2) 付記1に記載の磁気記憶媒体において、前記位相のずれ量はトラックピッチの整数倍もしくは整数比であることを特徴とする磁気記憶媒体。
【0043】
(付記3) 付記1または2に記載の磁気記憶媒体において、前記位相のずれ量は規定本数の前記バーストラインごとに周期的に設定され、前記バーストラインの総本数は規定本数の整数倍に設定されることを特徴とする磁気記憶媒体。
【0044】
(付記4) 筐体と、前記筐体に組み込まれる磁気記憶媒体と、前記磁気記憶媒体の表面に向き合わせられる磁気ヘッドとを備え、前記磁気記憶媒体は、半径線に対して所定の傾斜角で延びて、半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体を配置し、周方向に規定の間隔で配列される複数本のバーストラインを備え、少なくとも隣接する前記バーストライン同士の間では円周線に対して繰り返しパターンの位相が半径方向にずれることを特徴とする磁気記憶媒体駆動装置。
【0045】
(付記5) 付記4に記載の磁気記憶媒体駆動装置において、前記位相のずれ量はトラックピッチの整数倍もしくは整数比であることを特徴とする磁気記憶媒体駆動装置。
【0046】
(付記6) 付記4または5に記載の磁気記憶媒体駆動装置において、前記位相のずれ量は規定本数の前記バーストラインごとに周期的に設定され、前記バーストラインの総本数は規定本数の整数倍に設定されることを特徴とする磁気記憶媒体駆動装置。
【0047】
(付記7) 非磁性体中で所定の形状に象られる単位磁性体で構成される第1磁性域と、所定のずれ量で第1磁性域から半径方向にずれる単位磁性体で構成される第2磁性域とが円周方向に交互に連続して配置されることを特徴とする磁気記憶媒体。
【0048】
(付記8) 筐体と、前記筐体に組み込まれる磁気記憶媒体と、前記磁気記憶媒体の表面に向き合わせられる磁気ヘッドとを備え、前記磁気記憶媒体では、非磁性体中で所定の形状に象られる単位磁性体で構成される第1磁性域と、所定のずれ量で第1磁性域から半径方向にずれる単位磁性体で構成される第2磁性域とが円周方向に交互に連続して配置されることを特徴とする磁気記憶媒体駆動装置。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】磁気記憶媒体駆動装置の一具体例すなわちハードディスク駆動装置(HDD)の内部構造を概略的に示す平面図である。
【図2】磁気記憶媒体の一具体例すなわち磁気ディスクの拡大部分平面図である。
【図3】磁気ディスク上でデータ領域の構造を概略的に示す拡大部分平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るサーボセクター領域の構造を概略的に示す拡大部分平面図である。
【図5】HDDの制御系の構成を概略的に示すブロック図である。
【図6】プリアンブル域の構造を概略的に示す拡大部分平面図である。
【図7】位相バースト域の偶数域の構造を概略的に示す拡大部分平面図である。
【図8】位相バースト域の奇数域の構造を概略的に示す拡大部分平面図である。
【図9】電磁変換素子の読み出し素子から出力される信号の信号波形を示すグラフである。
【図10】読み出し素子の半径方向位置と出力信号のゲインとの関係を示す拡大部分平面図である。
【図11】読み出し素子の半径方向位置と出力信号のゲインとの関係を示す拡大部分平面図である。
【図12】読み出し素子の半径方向位置と出力信号のゲインとの関係を示す拡大部分平面図である。
【図13】位置誤差信号と電磁変換素子の変位との関係を示すグラフである。
【図14】比較例に係る位相バースト域の偶数域の構造を概略的に示す拡大部分平面図である。
【図15】電磁変換素子の読み出し素子から出力される信号の信号波形を示すグラフである。
【図16】電磁変換素子の読み出し素子から出力される信号の信号波形を示すグラフである。
【図17】位置誤差信号と電磁変換素子の変位との関係を示すグラフである。
【図18】本発明の第1実施形態に係るサーボセクター領域の構造を概略的に示す拡大部分平面図である。
【符号の説明】
【0050】
11 磁気記憶媒体駆動装置(ハードディスク駆動装置)、12 筐体(ハウジング)、14 磁気記憶媒体(磁気ディスク)、34 磁気ヘッド(電磁変換素子の読み出し素子)、41 位相バーストライン、62 磁性体、64a 磁性体(磁性ドット)、64b 磁性体(磁性ドット)、65a 磁性体(磁性ドット)、65b 磁性体(磁性ドット)、76 単位磁性体、77 第1磁性域、78 第2磁性域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体を配置し、周方向に規定の間隔で配列される複数本のバーストラインを備え、少なくとも隣接する前記バーストライン同士の間では円周線に対して繰り返しパターンの位相が半径方向にずれることを特徴とする磁気記憶媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記憶媒体において、前記位相のずれ量はトラックピッチの整数倍もしくは整数比であることを特徴とする磁気記憶媒体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気記憶媒体において、前記位相のずれ量は規定本数の前記バーストラインごとに周期的に設定され、前記バーストラインの総本数は規定本数の整数倍に設定されることを特徴とする磁気記憶媒体。
【請求項4】
筐体と、前記筐体に組み込まれる磁気記憶媒体と、前記磁気記憶媒体の表面に向き合わせられる磁気ヘッドとを備え、前記磁気記憶媒体は、半径方向に繰り返される規定の繰り返しパターンで非磁性体中に磁性体を配置し、周方向に規定の間隔で配列される複数本のバーストラインを備え、少なくとも隣接する前記バーストライン同士の間では円周線に対して繰り返しパターンの位相が半径方向にずれることを特徴とする磁気記憶媒体駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−55720(P2010−55720A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221758(P2008−221758)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】