磁気記憶装置及び磁気記憶媒体
【課題】記録密度の高密度化を図る。
【解決手段】磁気ディスク20が有する軟磁性層21が、硬磁性層23のキュリー温度よりも低いキュリー温度であるため、光照射ヘッド50(レーザダイオード150A,150B)を用いて隣接トラック62を加熱して、加熱部分に対応する軟磁性層21の一部をキュリー温度以上とすることにより、当該一部の磁束吸収能力を失わせることができる。これにより、軟磁性層の加熱部分を磁束が流れにくくなるので、加熱部分への情報記録(硬磁性層への情報記録)を抑制することができる。したがって、記録対象トラックへの記録時に、隣接トラックに書き込まれた情報の上書き(消去)が発生するのを抑制することができる。また、記録対象トラックに磁束を集中させることにより急峻な磁界分布を得ることができるので、磁気ディスクに対する高密度記録を実現することが可能である。
【解決手段】磁気ディスク20が有する軟磁性層21が、硬磁性層23のキュリー温度よりも低いキュリー温度であるため、光照射ヘッド50(レーザダイオード150A,150B)を用いて隣接トラック62を加熱して、加熱部分に対応する軟磁性層21の一部をキュリー温度以上とすることにより、当該一部の磁束吸収能力を失わせることができる。これにより、軟磁性層の加熱部分を磁束が流れにくくなるので、加熱部分への情報記録(硬磁性層への情報記録)を抑制することができる。したがって、記録対象トラックへの記録時に、隣接トラックに書き込まれた情報の上書き(消去)が発生するのを抑制することができる。また、記録対象トラックに磁束を集中させることにより急峻な磁界分布を得ることができるので、磁気ディスクに対する高密度記録を実現することが可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記憶装置及び磁気記憶媒体に関し、特に、垂直磁気記録用の磁気記憶装置及び当該磁気記憶装置に用いて好適な磁気記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク(HDD:Hard Disk Drive)等の情報記憶装置に必要な記憶容量は急速に増加しており、これに伴い、記録密度の高密度化に対する要求は年々増してきている。このように記録密度が高密度化するにつれ、記録ヘッドを用いた記録対象トラックへの書き込みの際に、隣接トラックに記録されていた情報が消去(上書き)される現象(いわゆる隣接トラックイレーズ(ATE:Adjacent Track Erasure)又はサイドイレーズ)が頻繁に発生することが懸念されている。
【0003】
このため、最近では、上記隣接トラックイレーズを抑制するために、記録ヘッドの磁極の両側に磁気シールドを配置することにより、隣接トラックに向かう磁束を吸収する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、記録ヘッドの磁極の幅よりも小さい径のレーザ光を記録対象トラックに照射して加熱することにより、磁性層の保磁力を低下させ、記録対象トラックの実効幅を実際の幅よりも狭くする技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−190518号公報
【特許文献2】特開2000−251202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、隣接トラックイレーズやサイドイレーズを抑制し、かつ書き込み能力を維持するためには、記録ヘッドから発生する磁界の強度分布(ヘッド磁界分布)が、情報が記録される対象領域の範囲において急峻に立ち上がることが望ましい。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のように磁気シールドを用いた場合には、隣接トラックへの磁界漏れを抑えることができる反面、記録対象トラックへの記録に寄与する磁界強度が低下するため、書き込み能力が劣化するおそれがある。
【0008】
また、上記特許文献2のように記録対象トラックの加熱を行う場合には、記録対象トラックの領域内にレーザ光を正確に照射する必要があるが、その位置合わせを高精度に行うことは難しい。また、磁性層の保磁力を低下させるために必要とされる温度は、例えば400〜500℃程度とされているが、高速回転するハードディスクを上記温度まで瞬時に加熱するのは困難である。更に、上記加熱によって、潤滑層や保護層など、記録層の周辺各部に影響が生じることも懸念されている。具体的には、垂直磁気記録の磁気ディスクにおいては、一般的に、記録層の裏側に磁束の集中化等のための裏打ち層(軟磁性層)が設けられるが、記録層を加熱した結果、熱伝導により軟磁性層が加熱され、当該軟磁性層の磁束吸収能力が失われるなどの影響が出ることが懸念されている。このように、軟磁性層の磁束吸収能力が失われると、記録層への情報の記録ができなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる事情の下になされたものであり、記録密度のさらなる高密度化が可能な磁気記憶装置及び磁気記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書記載の磁気記憶装置は、情報記録用の記録層と、その少なくとも一部に前記記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有する裏打ち層とを有する磁気記憶媒体と、前記記録層に対し、前記裏打ち層の反対側から記録磁界を発生して、前記記録層に情報を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドが前記記録磁界を発生して情報を記録する記録対象領域の周囲の領域の少なくとも一部を加熱する加熱手段と、を備える磁気記憶装置である。
【0011】
これによれば、磁気記憶媒体が有する裏打ち層が、記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有しているため、加熱手段を用いて記録対象領域の周囲の領域の少なくとも一部を加熱して、当該領域内に位置する低キュリー温度部分をキュリー温度以上とすることにより、その低キュリー温度部分の磁束吸収能力を失わせることができる。これにより、加熱した部分においては、磁束が裏打ち層(低キュリー温度部分)を流れにくくなるので、加熱した部分への情報記録(記録層への情報記録)が抑制される。したがって、記録対象領域に情報を記録する際に、その周囲の領域に書き込まれた情報の上書き(又は消去)、すなわちATE又はサイドイレーズが発生するのを抑制することができる。また、記録対象領域に磁束が集中することにより記録対象領域において急峻なヘッド磁界分布を得ることができることから、高密度記録を実現することが可能となる。
【0012】
本明細書記載の磁気記憶媒体は、情報記録用の記録層と、その少なくとも一部に前記記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有する裏打ち層と、を備える磁気記憶媒体である。
【0013】
これによれば、磁気記憶媒体が有する裏打ち層が、記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有しているため、情報を記録する領域(記録対象領域)の周囲の領域の少なくとも一部を加熱して、当該領域内に位置する低キュリー温度部分をキュリー温度以上とすれば、その低キュリー温度部分の磁束吸収能力を失わせることができる。これにより、加熱した部分においては、磁束が裏打ち層(低キュリー温度部分)を流れにくくなるので、加熱した部分への情報記録(記録層への情報記録)が抑制される。したがって、記録対象領域に情報を記録する際に、その周囲の領域に書き込まれた情報の上書き(又は消去)、すなわちATEやサイドイレーズが発生するのを抑制することができる。また、記録対象領域に磁束が集中することにより急峻な磁界分布を得ることができることから、記録密度のさらなる高密度化を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書記載の磁気記憶装置および磁気記憶媒体は、記録密度のさらなる高密度化を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
≪第1の実施形態≫
以下、本発明に係る磁気記憶装置および磁気記憶媒体の第1の実施形態について図1〜図8に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本第1の実施形態に係る磁気記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)100の内部構成を示している。この図1に示すように、HDD100は、箱型の筺体11と、筺体11内部の空間(収容空間)に収容された磁気記憶媒体としての磁気ディスク20、スピンドルモータ15、ヘッド・スタック・アッセンブリ(HSA)16、及びヘッド駆動回路、各種の制御用LSI等が実装された制御基板(図示せず)等と、を備える。なお、筺体11は、実際には、ベースと上蓋(トップ・カバー)とにより構成されているが、図1では、上蓋の図示を省略している。
【0017】
磁気ディスク20は、表面が記録面となっており、スピンドルモータ15によって、その回転軸回りに例えば4200〜15000rpmなどの高速度で回転駆動される。なお、磁気ディスク20は、表面と裏面の両面が記録面であっても良い。また、磁気ディスク20は、回転軸に沿って(図1の紙面直交方向に沿って)複数枚設けられていても良い。
【0018】
HSA16は、円筒形状のハウジング部30と、ハウジング部30に固定されたフォーク部31と、フォーク部31に保持されたコイル32と、ハウジング部30に固定されたキャリッジアーム33と、キャリッジアーム33に保持されたヘッドスライダ34と、を備えている。なお、前述のように、磁気ディスク20の表面と裏面の両面が記録面である場合には、キャリッジアーム及びヘッドスライダが磁気ディスク20を挟んで上下対称に一対設けられる。また、磁気ディスクが複数枚設けられている場合には、各磁気ディスクの各記録面に対応して、キャリッジアームとヘッドスライダが設けられる。
【0019】
キャリッジアーム33は、例えばステンレス板を打ち抜き加工したり、アルミニウム材料を押し出し加工することにより成型される。ヘッドスライダ34の先端には、磁気ヘッド40(図1では不図示、図4(a)参照)が設けられる。
【0020】
HSA16は、ハウジング部30の中心部分に設けられた軸受部材17を介して、筺体11に回転自在(Z軸回りの回転が自在)に連結されている。また、HSA16が有するコイル32と、筺体11のベースに固定された永久磁石を含む磁極ユニット18とにより構成されるボイスコイルモータ19により、キャリッジアーム33の軸受部材17を中心とした揺動が行われる。なお、図1では、揺動の軌道が、一点鎖線にて示されている。
【0021】
上記のように構成されるHDD100では、磁気ディスク20に対するデータ(情報)の読み書きは、キャリッジアーム33の先端に設けられた磁気ヘッド40(図4(a)参照)によって行われる。ここで、磁気ヘッド40を保持するヘッドスライダ34は、磁気ディスク20の回転によって生じる揚力によって、磁気ディスク20の表面から浮上し、磁気ヘッド40は、磁気ディスク20との間に微小間隔を維持した状態でデータの読み書きを実行する。また、キャリッジアーム33が上述した揺動を行うことにより、磁気ヘッド40が磁気ディスク20のトラック横断方向にシーク移動し、読み書きする対象のトラックを変更する。
【0022】
図2は、磁気ディスク20の積層構造を模式的に示す断面図である。磁気ディスク20のガラス製の基板20A上には、複数の層が積層されている。具体的には、磁気ディスク20には、その基板20Aに近い側から順に、軟磁性層(裏打ち層)21と、非磁性の中間層22と、硬磁性層(記録層)23と、保護層24と、潤滑層25とが積層されている。
【0023】
軟磁性層21は、例えば、約100nmの厚さを有しており、その材料としては、Alを含むNi基軟磁性材料が用いられている。この場合のNiとAlの組成比は、Ni:90atm%、Al:10atm%に設定されている。この材料は、キュリー温度(Curie Temperature)が、図3のグラフに示すように約150℃と比較的低く、かつ、飽和磁化の温度係数が高い材料である。
【0024】
なお、低キュリー温度の材料としては、上記材料に限らず、例えば、Ni90Ti10、Ni95Cr5、Ni95Mo5、(Ni90Al10)99Si1等を採用することができる。なお、上記材料における下付き数字は、原子百分率(atm%)を意味している。また、上記材料における組成比については、上記に限らず、所望のキュリー温度に応じて、組成比を調整することとしても良い。
【0025】
中間層22は、例えば、約15nmの厚さを有しており、その材料として、Ruが用いられている。
【0026】
硬磁性層23は、例えば、約12nmの厚さを有しており、その材料として、(Co67Cr13Pt20)92−(TiO2)8が用いられている。この硬磁性層23のキュリー温度は、図3のグラフに示すように、約500℃であり、軟磁性層21よりも大幅に高い温度となっている。また、磁気ヘッド40から発生される記録磁界により、硬磁性層23に情報(データ)が垂直磁気記録方式にて記録される。
【0027】
保護層24は、例えば、約3nmの厚さを有しており、その材料として、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)が用いられている。また、潤滑層25は、約1nmの厚さを有しており、その材料として、パーフルオロ・ポリエーテルなどが用いられる。
【0028】
図4(a)は、磁気ヘッド40および磁気ディスク20の模式図である。本第1の実施形態では、磁気ヘッド40として、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドが用いられており、磁気ディスク20の回転(図4(a)の矢印D方向への回転)により、磁気ディスク20のトラックの長手方向に沿って、磁気ディスク20に対して矢印D方向とは逆方向(矢印E方向)に相対移動する。
【0029】
この磁気ヘッド40は、図4(a)に示すように、記録ヘッド41と、上部磁気シールド42と、下部磁気シールド43と、磁気シールド42,43の間に設けられた再生用センサヘッド(MR素子)44と、を備える。また、本第1の実施形態の磁気ヘッド40には、加熱手段としての光照射ヘッド50が設けられている。この光照射ヘッド50は、図4(a)のA−A線断面である図4(b)に示すように、記録ヘッド41(記録ヘッド41を構成する主磁極411)の三方を囲む状態で配置されている。より詳細には、光照射ヘッド50は、図4(b)に示すように、一対のレーザダイオード150A,150Bとこれらレーザダイオード150A,150Bを連結する連結部材151とを有している。
【0030】
記録ヘッド41は、図4(a)に示すように、主磁極411と、補助磁極412と、情報記録用のコイル413とを有する。コイル413に電流が供給されると、主磁極411から出た磁束は、図4(a)に示すように、硬磁性層23をまっすぐ通り抜けて軟磁性層21に到達し、軟磁性層21及び補助磁極412を経由して主磁極411に戻る。
【0031】
次に、上記のように構成される記録ヘッド41及び光照射ヘッド50を用いた、記録対象のトラック(記録対象トラック)に対する情報の記録方法について説明する。
【0032】
図5には、磁気ディスク20の記録対象トラック61に対して記録ヘッド41(主磁極411)が情報を記録している状態が示されている。また、図6には、当該記録状態を磁気ディスク20を断面して示す図、及びそのときのヘッド磁界強度が示されている。
【0033】
本実施形態では、図5に示すように、記録ヘッド41から記録対象トラック61に情報が書き込まれている間(主磁極411から磁気ディスク20に対して磁束が出されている間)、記録対象トラック61に隣接するトラック(以下、「隣接トラック」と呼ぶ)62には、レーザダイオード150A、150Bからスポット光620A,620Bが照射されるようになっている。また、このスポット光620A,620Bが照射された部分は急激に加熱され、図6においてクロスハッチングが付されている軟磁性層21の一部が、例えば、150℃以上(ただし、硬磁性層23のキュリー温度よりも低い温度である必要がある)にまで達する。
【0034】
このように、軟磁性層21の一部が150℃以上となると、図3に示すキュリー温度を超えることから、磁束吸収能力がほぼ消失することになる。一方、加熱されない記録対象トラック61の軟磁性層21は高飽和磁化に保たれているため、記録ヘッド41からの磁束を吸収する。このように加熱、非加熱に応じて軟磁性層21の磁束吸収能力が制御された結果、図7の例(隣接トラック62の加熱を行わない例(比較例))と比較すると分かるように、ヘッド磁界分布が非常に急峻になり、記録ヘッド41から出る磁束が、記録対象トラック61部分に集中していることが分かる。
【0035】
また、本実施形態では、軟磁性層21として、飽和磁化の温度係数が高い材料、すなわち、温度による飽和磁化の変化が急峻な材料を採用していることから、隣接トラック62を加熱したときの熱伝導によって軟磁性層21内の温度分布が緩やかになったとしても、ヘッド磁界分布を急峻化することができる。これにより、記録対象トラック61における軟磁性層の磁束吸収能力を維持しつつ、隣接トラック62における軟磁性層の磁束吸収能力を低減することが可能である。
【0036】
なお、本第1の実施形態では、軟磁性層21のキュリー温度(約150℃)と硬磁性層23のキュリー温度(約500℃)との差が非常に大きい(約350℃)ことから、隣接トラック62を150℃以上まで加熱しても、硬磁性層23は高飽和磁化に維持される。したがって、隣接トラック62に書き込まれている情報が誤って消去されるおそれはほとんどない。
【0037】
ここで、本第1の実施形態の方法を用いた場合の、オーバーライト特性(磁気ヘッドがどの程度の書き込み能力を有するかを示す特性)及び隣接領域イレーズ特性(出力減衰率)の測定結果について説明する。なお、当該測定には、スピンスタンド(測定装置)を用い、当該測定における比較例としては、図7に示す加熱を行わない構成を用いることとした。また、本第1の実施形態および比較例で使用した磁気ディスクの保磁力は約5kOeであるものとし、さらに、ヘッドのスキュー角(トラックに対する主磁極411の傾き)を15°に設定して測定することとした。
【0038】
また、スピンスタンドに設けられた記録ヘッドの電流値を40mA、その記録ヘッドが有する書き込み磁極の幅(トラック幅方向の寸法)を100nm、磁気ディスクの周回速度を15m/sとした。
【0039】
まず、オーバーライト特性の測定では、磁気ディスクにビットパターンを400kFCI(flux change per inch)の高記録密度で記録し、その後、このビットパターン上に95kFCIの低記録密度でビットパターンをオーバーライトし、先に高記録密度で記録したビットパターンの信号出力変化を測定した。この結果、図8に示すように、本第1の実施形態の場合も、比較例の場合も、ともに−40dB以下を示し、ほぼ同等のオーバーライト特性が得られていることがわかった。
【0040】
次いで、隣接領域イレーズ特性を以下の手順で測定した。
(1)トラックピッチを120nmに設定し、対象トラックの左右の隣接トラックにそれぞれ100kFCIのビットパターンを書き込んだ後、各隣接トラックの出力値を測定。
(2)対象トラックに800kFCIのビットパターンを10000回記録(書き込み)。
(3)各隣接トラックの出力値を再度測定し、(1)で測定された初期出力値からの減衰率を測定。
【0041】
ここで、(2)の書き込み回数10000回は、ハードディスクドライブに要求される記録保証回数であるものとする。また、(3)で求められる出力減衰率は、低い値であるほど隣接領域イレーズが抑制されていることを意味するものである。また、出力減衰率としては、2つの隣接トラックのうち、高い方の値を示す隣接トラックの値を採用することとした。
【0042】
上記のように、隣接領域イレーズ特性の測定を行ったところ、図8に示すように、隣接領域イレーズ特性に係る出力減衰率は、本第1の実施形態では2.1%と、ほぼ誤差範囲の値を示したのに対し、比較例では23.5%と大きな値を示しており、比較例では、顕著な隣接領域イレーズが発生していることが分かった。また、上記2つの測定結果から、本第1の実施形態の構成・方法を採用することにより、磁気ヘッドの磁界分布の広がりを抑えることができ、また、高密度記録を実現できることがわかった。
【0043】
以上説明したように、本第1の実施形態によると、磁気ディスク20が有する軟磁性層21が、硬磁性層23のキュリー温度よりも低いキュリー温度であるため、光照射ヘッド50を用いて記録対象トラック61に隣接する隣接トラック62を加熱して、加熱部分に対応する軟磁性層21の一部をキュリー温度以上とすることにより、当該一部の磁束吸収能力を失わせることが可能である。これにより、加熱した部分においては、磁束が軟磁性層を流れにくくなるので、加熱した部分への情報記録(硬磁性層への情報記録)を抑制することができる。したがって、記録対象トラックに情報を記録する際に、隣接トラックに書き込まれた情報の上書き(消去)、すなわちATE又はサイドイレーズが発生するのを抑制することができる。また、記録対象トラックに磁束を集中させることにより急峻な磁界分布を得ることができるので、磁気ディスクに対する高密度記録を実現することが可能である。
【0044】
また、本第1の実施形態によると、従来のように、記録対象トラック61内の狭い領域にスポット光を当てることなく、記録対象トラック61のみ非加熱とすれば良いため、従来に比べて、スポット光の調整が容易で、簡易な構成で高密度記録を実現することが可能である。また、従来よりも低温で磁気ディスク20を加熱すれば良いため、この点からも簡易に高密度記録を実現することが可能である。
【0045】
また、軟磁性層21と硬磁性層23とのキュリー温度には約350℃の差があることから、軟磁性層21を加熱する際に硬磁性層23が加熱されても問題なく、ATEやサイドイレーズの抑制を実現することが可能である。
【0046】
また、本実施形態では、磁気ディスクの層構造のうちの、軟磁性層21の材料を従来の材料から変更することとしている。したがって、材料に対する要求がシビアな記録層と比べて、材料選択の自由度が高い軟磁性層21(例えば、軟磁性層21は、硬磁性層23に保護された状態にあるので、酸化し易い材料なども選択可能)の材料を変更することで、磁気ディスクを簡易に製造することが可能である。
【0047】
なお、上記第1の実施形態では、光照射ヘッド50により、記録対象トラック61の両側に位置する1つのトラックを加熱する場合について説明したが、これに限らず、記録対象トラック61の両側に位置する複数のトラックを加熱することとしても良い。
【0048】
なお、上記第1の実施形態では、ヘッド軌道およびトラックの形状に応じてトラックと主磁極411との角度(スキュー角)が変更されても、主磁極411が隣接トラックまではみ出さないように、主磁極411の形状を台形状とする場合について図示した。しかしながら、これに限られるものではなく、主磁極411として、その他の形状(例えば、矩形形状)を採用することとしても良い。
【0049】
なお、上記第1の実施形態(図5)では、主磁極411の進行方向(図5の矢印E方向)前端(図5の紙面下側の端部)と、スポット光620A,620Bの進行方向前端(図5の紙面下側の端部)とが、ほぼ一致する場合について図示したが、これに限られるものではない。例えば、スポット光620A,620Bの進行方向前端が、主磁極411の進行方向前端よりも、進行方向前方に位置していても良い。このようにすることで、隣接トラックをより確実に加熱することが可能となる。
【0050】
≪第2の実施形態≫
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0051】
図9には、本第2の実施形態における主磁極411と、主磁極411近傍に設けられたレーザダイオード150A’、150B’と、が簡略的に示されている。この図9では、第1の実施形態(図4(b)の構成)と異なり、オンオフ制御系160によって、レーザダイオード150A’、150B’のオンオフを制御する点に特徴を有している。
【0052】
オンオフ制御系160は、オンオフ切替部154と、ヘッドIC156(HDDに、一般的に搭載されている)とを有している。ヘッドIC156は、ホストから入力された書き込みコマンドを受信すると、そのコマンド中から記録対象トラックの情報を読み出して、オンオフ切替部154に送信する。また、オンオフ切替部154は、当該記録対象トラックの情報に基づいて、レーザダイオード150A’、150B’のオンオフを切り替える。
【0053】
図10には、主磁極411と磁気ディスク20との位置関係に応じた、トラックと主磁極411との角度(スキュー角)との関係が模式的に示されている。
【0054】
図1に示すように、ヘッドスライダ34は、円弧状の移動軌跡を描くことから、主磁極411も同様に、円弧状の移動軌跡を描く。したがって、図10に示すように、符号「411(A)」で示す位置に主磁極411があるときには、図11(a)に示すように、主磁極411はスキュー角θだけ傾いた状態となり、主磁極411の先端部(図11(a)における下端部)が、左側のトラックに接近する。
【0055】
一方、図10に符号「411(B)」で示す位置に主磁極411があるときには、図11(b)に示すように、主磁極411の先端部(図11(b)における下端部)が、右側のトラックに接近する。
【0056】
このように、トラック61内における主磁極411の位置変化により、図11(a)の状態では、左側の隣接トラックのほうがサイドイレーズされやすくなり、図11(b)の状態では、右側の隣接トラックのほうがサイドイレーズされやすくなる。
【0057】
したがって、本実施形態では、オンオフ切替部154が、ヘッドIC156から入力された記録対象トラックの情報(位置情報)から、主磁極411が磁気ディスク20の外周側に位置するか内周側に位置するかを判断する。そして、オンオフ切替部154は、図10の符号「411(A)」のように、主磁極411が磁気ディスク20の外周側に位置すると判断したときには、図11(a)に示すように、レーザダイオード150A’のみをオンにする(スポット光620A’参照)。これにより、左側の隣接トラックのみ(当該トラックの軟磁性層21のみ)加熱するようにする。
【0058】
また、オンオフ切替部154は、図10の符号「411(B)」のように、主磁極411が磁気ディスク20の内周側に位置すると判断したときには、図11(b)に示すように、レーザダイオード150B’のみをオンにする(スポット光620B’参照)。これにより、右側の隣接トラックのみ(当該トラックの軟磁性層21のみ)加熱するようにする。
【0059】
なお、主磁極411が、図10に符号「411(C)」で示すような磁気ディスク20の外周と内周の中間位置に位置すると判断されるような場合には、オンオフ切替部154は、レーザダイオード150A’、150B’のいずれもオンにすることとしても良い。また、上記中間位置にあるときには、主磁極411は記録対象トラックの中央に位置し、サイドイレーズが発生しにくいことから、レーザダイオード150A’、150B’のいずれもオフにすることとしても良い。
【0060】
以上詳細に説明したように、本第2の実施形態によると、主磁極411の磁気ディスク20との位置関係に応じて、上記のような制御を行うことにより、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、レーザダイオードの使用を最小限とすることで、省電力化を図ることが可能である。
【0061】
なお、上記第2の実施形態では、レーザダイオード150A’,150B’のレーザ光が略円形である場合について図示したが、これに限らず、レーザ光は、上記第1の実施形態と同様、長円形や矩形であっても良い。
【0062】
また、上記第2の実施形態では、オンオフ切替部154が、主磁極411と磁気ディスク20との位置関係に応じてレーザダイオード150A’,150B’のオンオフ制御を行う場合について説明したが、これに限られるものではなく、その他、スキュー角θを検出可能な検出手段を設け、その検出結果に応じて、レーザダイオード150A’,150B’のオンオフ制御を行うこととしても良い。
【0063】
なお、上記第1、第2の実施形態では、磁気ディスクとして、図12(a)に示すような磁気ディスク20’や図12(b)に示すような磁気ディスク20”を採用することとしても良い。このうち、図12(a)の磁気ディスク20’は、ディスクの径方向に関して所定幅を有するトラック状の軟磁性層21と所定幅の非磁性層26とが交互に配列されている点に特徴を有している。このような構成を採用することにより、記録層が分断されたディスクリートトラックと同様、加熱をしない場合には、図13のグラフの点線で示す磁界強度を得られ、更に、隣接トラック62を加熱することにより、図13のグラフに実線にて示すように、ヘッド磁界強度を急峻にすることができる。これにより、サイドイレーズの抑制をより効果的に実現することが可能となる。
【0064】
また、図12(b)の磁気ディスク20”は、ディスクの径方向に関して所定幅を有するトラック状の軟磁性層21、軟磁性層21と同一形状の中間層22、軟磁性層21と同一形状の硬磁性層23の層と、所定幅の非磁性層26とが交互に配列されている点に特徴を有している。このような構成を採用しても、上記図12(a)の磁気ディスク20’と同様の機能を発揮することが可能である。
【0065】
なお、図12(a)、図12(b)では、軟磁性層21をトラック状とする構成を採用した場合について説明したが、これに限られるものではなく、例えば、軟磁性層21をビット状に形成する構成(すなわち、ビットパターンドメディアの如き構成)を採用することとしても良い。このような構成を採用した場合、主磁極411が対向するビット構造の周辺に位置する領域の少なくとも一部を加熱することで、磁気ディスクの線記録密度を高密度化することが可能である。
【0066】
なお、上記各実施形態では、軟磁性層21全体を、硬磁性層23のキュリー温度よりも低いキュリー温度の材料により構成する場合について説明したが、これに限らず、例えば、図14に示すように、軟磁性層21を2層で構成し、上層21Aのみを硬磁性層23のキュリー温度よりも低いキュリー温度の材料により構成することとしても良い。このようにしても、軟磁性層21を加熱することにより、上層21Aを磁束が通らなくなるとともに、下層21Bにも磁束が届かなくなるので、上記各実施形態と同様の効果を得ることが可能である。また、図14のように軟磁性層21を2層(又は複数層)とする概念は、図12(a)や図12(b)に示す磁気ディスク20’、20”にも適用することが可能である。
【0067】
また、上記各実施形態では、硬磁性層23と軟磁性層21との間に中間層22が設けることとしたが、これに限らず、中間層22を極薄にするか、あるいは、省略することにより、軟磁性層21の厚み方向の一部もしくは全体を硬磁性層23と磁気的に結合させても良い。このような構成を採用することにより、記録対象の領域においては、軟磁性層21が硬磁性層23の磁化反転を助長するため、磁化反転が容易となる。これにより、磁気ヘッドの磁界分布の急峻化に加え、磁気ディスクにおける磁化反転容易な領域を限定することが可能である。
【0068】
なお、上記各実施形態では、記録対象トラック61の両隣に位置する隣接トラック62を加熱するため、光照射ヘッド50に2つのレーザダイオード150A,150B(又は150A’,150B’)を設ける場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、図15(a)、図15(b)に示すように、レーザ光をU字状に照射するか(図15(a)のスポット光620参照)、レーザ光を3箇所に照射する(図15(b)のスポット光620C参照)ことにより、記録対象トラック61の主磁極411の進行方向(相対的な進行方向(図15(a)、図15(b)の矢印E方向))後方を加熱することとしても良い。これにより、記録対象トラック61上の記録対象領域以外の領域への上書き(消去)を防止することが可能である。
【0069】
また、記録対象トラック61の主磁極411の進行方向後方に代えて、又はこれとともに、記録対象トラック61の主磁極411の進行方向前方を加熱することとしても良い。このような進行方向前方の加熱は、磁気ディスク20に対してランダム記録を実行する場合に特に有効である。
【0070】
なお、上記各実施形態では、加熱手段として、光照射ヘッド50を採用した場合について説明したが、これに限られるものではなく、その他の加熱手段、例えば電熱線等を含む熱源などを採用することとしても良い。
【0071】
なお、上記各実施形態では、軟磁性層21(の少なくとも一部)のキュリー温度を約150℃としたが、これに限られるものではなく、軟磁性層21(の少なくとも一部)のキュリー温度は、硬磁性層23のキュリー温度よりも低ければ良い。例えば、軟磁性層21のキュリー温度は、約300℃以下であっても良い。ただし、温度制御上、硬磁性層23のキュリー温度との差は大きいほうが好ましいことから、軟磁性層21のキュリー温度としては、約100℃〜約200℃の範囲であることが好ましい。
【0072】
また、上記各実施形態では、光照射ヘッド50を用いて、軟磁性層21の温度がキュリー温度以上になるように加熱する場合について説明したが、これに限られるものではなく、キュリー温度付近まで加熱することとしても、十分に上記各実施形態と同様の効果を発揮することが可能である。
【0073】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】一実施形態に係るハードディスクドライブの構成を示す図である。
【図2】磁気ディスクの断面図である。
【図3】軟磁性層および硬磁性層のそれぞれの飽和磁化と温度との関係を示す図である。
【図4】図4(a)は、磁気ヘッドおよび磁気ディスクの模式図であり、図4(b)は、主磁極と光照射ヘッドの模式図である。
【図5】記録ヘッドの主磁極と、磁気ディスクのトラックとを模式的に示す平面図である。
【図6】磁気ディスクの径方向に関するヘッド磁界強度の分布を示す図である。
【図7】図6と比較するための図であり、非加熱の場合のヘッド磁界強度の分布を示す。
【図8】図6、図7の例を用いた、オーバーライト特性と隣接領域イレーズ特性の測定結果を示す図である。
【図9】第2の実施形態に係る主磁極及び光照射ヘッド、並びにオンオフ制御系の構成を示す図である。
【図10】主磁極と磁気ディスクとの位置関係を示す図である。
【図11】オンオフ制御系の制御を説明するための図である。
【図12】磁気ディスクの変形例(その1)を示す図である。
【図13】図12(a)の磁気ディスクの効果を示す図である。
【図14】磁気ディスクの変形例(その2)を示す図である。
【図15】光照射ヘッドの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
20 磁気ディスク(磁気記憶媒体)
21 軟磁性層(裏打ち層)
23 硬磁性層(記録層)
50 光照射ヘッド(加熱手段)
61 記録対象トラック(記録対象領域)
100 ハードディスクドライブ(磁気記憶装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記憶装置及び磁気記憶媒体に関し、特に、垂直磁気記録用の磁気記憶装置及び当該磁気記憶装置に用いて好適な磁気記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク(HDD:Hard Disk Drive)等の情報記憶装置に必要な記憶容量は急速に増加しており、これに伴い、記録密度の高密度化に対する要求は年々増してきている。このように記録密度が高密度化するにつれ、記録ヘッドを用いた記録対象トラックへの書き込みの際に、隣接トラックに記録されていた情報が消去(上書き)される現象(いわゆる隣接トラックイレーズ(ATE:Adjacent Track Erasure)又はサイドイレーズ)が頻繁に発生することが懸念されている。
【0003】
このため、最近では、上記隣接トラックイレーズを抑制するために、記録ヘッドの磁極の両側に磁気シールドを配置することにより、隣接トラックに向かう磁束を吸収する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、記録ヘッドの磁極の幅よりも小さい径のレーザ光を記録対象トラックに照射して加熱することにより、磁性層の保磁力を低下させ、記録対象トラックの実効幅を実際の幅よりも狭くする技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−190518号公報
【特許文献2】特開2000−251202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、隣接トラックイレーズやサイドイレーズを抑制し、かつ書き込み能力を維持するためには、記録ヘッドから発生する磁界の強度分布(ヘッド磁界分布)が、情報が記録される対象領域の範囲において急峻に立ち上がることが望ましい。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のように磁気シールドを用いた場合には、隣接トラックへの磁界漏れを抑えることができる反面、記録対象トラックへの記録に寄与する磁界強度が低下するため、書き込み能力が劣化するおそれがある。
【0008】
また、上記特許文献2のように記録対象トラックの加熱を行う場合には、記録対象トラックの領域内にレーザ光を正確に照射する必要があるが、その位置合わせを高精度に行うことは難しい。また、磁性層の保磁力を低下させるために必要とされる温度は、例えば400〜500℃程度とされているが、高速回転するハードディスクを上記温度まで瞬時に加熱するのは困難である。更に、上記加熱によって、潤滑層や保護層など、記録層の周辺各部に影響が生じることも懸念されている。具体的には、垂直磁気記録の磁気ディスクにおいては、一般的に、記録層の裏側に磁束の集中化等のための裏打ち層(軟磁性層)が設けられるが、記録層を加熱した結果、熱伝導により軟磁性層が加熱され、当該軟磁性層の磁束吸収能力が失われるなどの影響が出ることが懸念されている。このように、軟磁性層の磁束吸収能力が失われると、記録層への情報の記録ができなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる事情の下になされたものであり、記録密度のさらなる高密度化が可能な磁気記憶装置及び磁気記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書記載の磁気記憶装置は、情報記録用の記録層と、その少なくとも一部に前記記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有する裏打ち層とを有する磁気記憶媒体と、前記記録層に対し、前記裏打ち層の反対側から記録磁界を発生して、前記記録層に情報を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドが前記記録磁界を発生して情報を記録する記録対象領域の周囲の領域の少なくとも一部を加熱する加熱手段と、を備える磁気記憶装置である。
【0011】
これによれば、磁気記憶媒体が有する裏打ち層が、記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有しているため、加熱手段を用いて記録対象領域の周囲の領域の少なくとも一部を加熱して、当該領域内に位置する低キュリー温度部分をキュリー温度以上とすることにより、その低キュリー温度部分の磁束吸収能力を失わせることができる。これにより、加熱した部分においては、磁束が裏打ち層(低キュリー温度部分)を流れにくくなるので、加熱した部分への情報記録(記録層への情報記録)が抑制される。したがって、記録対象領域に情報を記録する際に、その周囲の領域に書き込まれた情報の上書き(又は消去)、すなわちATE又はサイドイレーズが発生するのを抑制することができる。また、記録対象領域に磁束が集中することにより記録対象領域において急峻なヘッド磁界分布を得ることができることから、高密度記録を実現することが可能となる。
【0012】
本明細書記載の磁気記憶媒体は、情報記録用の記録層と、その少なくとも一部に前記記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有する裏打ち層と、を備える磁気記憶媒体である。
【0013】
これによれば、磁気記憶媒体が有する裏打ち層が、記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有しているため、情報を記録する領域(記録対象領域)の周囲の領域の少なくとも一部を加熱して、当該領域内に位置する低キュリー温度部分をキュリー温度以上とすれば、その低キュリー温度部分の磁束吸収能力を失わせることができる。これにより、加熱した部分においては、磁束が裏打ち層(低キュリー温度部分)を流れにくくなるので、加熱した部分への情報記録(記録層への情報記録)が抑制される。したがって、記録対象領域に情報を記録する際に、その周囲の領域に書き込まれた情報の上書き(又は消去)、すなわちATEやサイドイレーズが発生するのを抑制することができる。また、記録対象領域に磁束が集中することにより急峻な磁界分布を得ることができることから、記録密度のさらなる高密度化を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書記載の磁気記憶装置および磁気記憶媒体は、記録密度のさらなる高密度化を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
≪第1の実施形態≫
以下、本発明に係る磁気記憶装置および磁気記憶媒体の第1の実施形態について図1〜図8に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本第1の実施形態に係る磁気記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)100の内部構成を示している。この図1に示すように、HDD100は、箱型の筺体11と、筺体11内部の空間(収容空間)に収容された磁気記憶媒体としての磁気ディスク20、スピンドルモータ15、ヘッド・スタック・アッセンブリ(HSA)16、及びヘッド駆動回路、各種の制御用LSI等が実装された制御基板(図示せず)等と、を備える。なお、筺体11は、実際には、ベースと上蓋(トップ・カバー)とにより構成されているが、図1では、上蓋の図示を省略している。
【0017】
磁気ディスク20は、表面が記録面となっており、スピンドルモータ15によって、その回転軸回りに例えば4200〜15000rpmなどの高速度で回転駆動される。なお、磁気ディスク20は、表面と裏面の両面が記録面であっても良い。また、磁気ディスク20は、回転軸に沿って(図1の紙面直交方向に沿って)複数枚設けられていても良い。
【0018】
HSA16は、円筒形状のハウジング部30と、ハウジング部30に固定されたフォーク部31と、フォーク部31に保持されたコイル32と、ハウジング部30に固定されたキャリッジアーム33と、キャリッジアーム33に保持されたヘッドスライダ34と、を備えている。なお、前述のように、磁気ディスク20の表面と裏面の両面が記録面である場合には、キャリッジアーム及びヘッドスライダが磁気ディスク20を挟んで上下対称に一対設けられる。また、磁気ディスクが複数枚設けられている場合には、各磁気ディスクの各記録面に対応して、キャリッジアームとヘッドスライダが設けられる。
【0019】
キャリッジアーム33は、例えばステンレス板を打ち抜き加工したり、アルミニウム材料を押し出し加工することにより成型される。ヘッドスライダ34の先端には、磁気ヘッド40(図1では不図示、図4(a)参照)が設けられる。
【0020】
HSA16は、ハウジング部30の中心部分に設けられた軸受部材17を介して、筺体11に回転自在(Z軸回りの回転が自在)に連結されている。また、HSA16が有するコイル32と、筺体11のベースに固定された永久磁石を含む磁極ユニット18とにより構成されるボイスコイルモータ19により、キャリッジアーム33の軸受部材17を中心とした揺動が行われる。なお、図1では、揺動の軌道が、一点鎖線にて示されている。
【0021】
上記のように構成されるHDD100では、磁気ディスク20に対するデータ(情報)の読み書きは、キャリッジアーム33の先端に設けられた磁気ヘッド40(図4(a)参照)によって行われる。ここで、磁気ヘッド40を保持するヘッドスライダ34は、磁気ディスク20の回転によって生じる揚力によって、磁気ディスク20の表面から浮上し、磁気ヘッド40は、磁気ディスク20との間に微小間隔を維持した状態でデータの読み書きを実行する。また、キャリッジアーム33が上述した揺動を行うことにより、磁気ヘッド40が磁気ディスク20のトラック横断方向にシーク移動し、読み書きする対象のトラックを変更する。
【0022】
図2は、磁気ディスク20の積層構造を模式的に示す断面図である。磁気ディスク20のガラス製の基板20A上には、複数の層が積層されている。具体的には、磁気ディスク20には、その基板20Aに近い側から順に、軟磁性層(裏打ち層)21と、非磁性の中間層22と、硬磁性層(記録層)23と、保護層24と、潤滑層25とが積層されている。
【0023】
軟磁性層21は、例えば、約100nmの厚さを有しており、その材料としては、Alを含むNi基軟磁性材料が用いられている。この場合のNiとAlの組成比は、Ni:90atm%、Al:10atm%に設定されている。この材料は、キュリー温度(Curie Temperature)が、図3のグラフに示すように約150℃と比較的低く、かつ、飽和磁化の温度係数が高い材料である。
【0024】
なお、低キュリー温度の材料としては、上記材料に限らず、例えば、Ni90Ti10、Ni95Cr5、Ni95Mo5、(Ni90Al10)99Si1等を採用することができる。なお、上記材料における下付き数字は、原子百分率(atm%)を意味している。また、上記材料における組成比については、上記に限らず、所望のキュリー温度に応じて、組成比を調整することとしても良い。
【0025】
中間層22は、例えば、約15nmの厚さを有しており、その材料として、Ruが用いられている。
【0026】
硬磁性層23は、例えば、約12nmの厚さを有しており、その材料として、(Co67Cr13Pt20)92−(TiO2)8が用いられている。この硬磁性層23のキュリー温度は、図3のグラフに示すように、約500℃であり、軟磁性層21よりも大幅に高い温度となっている。また、磁気ヘッド40から発生される記録磁界により、硬磁性層23に情報(データ)が垂直磁気記録方式にて記録される。
【0027】
保護層24は、例えば、約3nmの厚さを有しており、その材料として、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)が用いられている。また、潤滑層25は、約1nmの厚さを有しており、その材料として、パーフルオロ・ポリエーテルなどが用いられる。
【0028】
図4(a)は、磁気ヘッド40および磁気ディスク20の模式図である。本第1の実施形態では、磁気ヘッド40として、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドが用いられており、磁気ディスク20の回転(図4(a)の矢印D方向への回転)により、磁気ディスク20のトラックの長手方向に沿って、磁気ディスク20に対して矢印D方向とは逆方向(矢印E方向)に相対移動する。
【0029】
この磁気ヘッド40は、図4(a)に示すように、記録ヘッド41と、上部磁気シールド42と、下部磁気シールド43と、磁気シールド42,43の間に設けられた再生用センサヘッド(MR素子)44と、を備える。また、本第1の実施形態の磁気ヘッド40には、加熱手段としての光照射ヘッド50が設けられている。この光照射ヘッド50は、図4(a)のA−A線断面である図4(b)に示すように、記録ヘッド41(記録ヘッド41を構成する主磁極411)の三方を囲む状態で配置されている。より詳細には、光照射ヘッド50は、図4(b)に示すように、一対のレーザダイオード150A,150Bとこれらレーザダイオード150A,150Bを連結する連結部材151とを有している。
【0030】
記録ヘッド41は、図4(a)に示すように、主磁極411と、補助磁極412と、情報記録用のコイル413とを有する。コイル413に電流が供給されると、主磁極411から出た磁束は、図4(a)に示すように、硬磁性層23をまっすぐ通り抜けて軟磁性層21に到達し、軟磁性層21及び補助磁極412を経由して主磁極411に戻る。
【0031】
次に、上記のように構成される記録ヘッド41及び光照射ヘッド50を用いた、記録対象のトラック(記録対象トラック)に対する情報の記録方法について説明する。
【0032】
図5には、磁気ディスク20の記録対象トラック61に対して記録ヘッド41(主磁極411)が情報を記録している状態が示されている。また、図6には、当該記録状態を磁気ディスク20を断面して示す図、及びそのときのヘッド磁界強度が示されている。
【0033】
本実施形態では、図5に示すように、記録ヘッド41から記録対象トラック61に情報が書き込まれている間(主磁極411から磁気ディスク20に対して磁束が出されている間)、記録対象トラック61に隣接するトラック(以下、「隣接トラック」と呼ぶ)62には、レーザダイオード150A、150Bからスポット光620A,620Bが照射されるようになっている。また、このスポット光620A,620Bが照射された部分は急激に加熱され、図6においてクロスハッチングが付されている軟磁性層21の一部が、例えば、150℃以上(ただし、硬磁性層23のキュリー温度よりも低い温度である必要がある)にまで達する。
【0034】
このように、軟磁性層21の一部が150℃以上となると、図3に示すキュリー温度を超えることから、磁束吸収能力がほぼ消失することになる。一方、加熱されない記録対象トラック61の軟磁性層21は高飽和磁化に保たれているため、記録ヘッド41からの磁束を吸収する。このように加熱、非加熱に応じて軟磁性層21の磁束吸収能力が制御された結果、図7の例(隣接トラック62の加熱を行わない例(比較例))と比較すると分かるように、ヘッド磁界分布が非常に急峻になり、記録ヘッド41から出る磁束が、記録対象トラック61部分に集中していることが分かる。
【0035】
また、本実施形態では、軟磁性層21として、飽和磁化の温度係数が高い材料、すなわち、温度による飽和磁化の変化が急峻な材料を採用していることから、隣接トラック62を加熱したときの熱伝導によって軟磁性層21内の温度分布が緩やかになったとしても、ヘッド磁界分布を急峻化することができる。これにより、記録対象トラック61における軟磁性層の磁束吸収能力を維持しつつ、隣接トラック62における軟磁性層の磁束吸収能力を低減することが可能である。
【0036】
なお、本第1の実施形態では、軟磁性層21のキュリー温度(約150℃)と硬磁性層23のキュリー温度(約500℃)との差が非常に大きい(約350℃)ことから、隣接トラック62を150℃以上まで加熱しても、硬磁性層23は高飽和磁化に維持される。したがって、隣接トラック62に書き込まれている情報が誤って消去されるおそれはほとんどない。
【0037】
ここで、本第1の実施形態の方法を用いた場合の、オーバーライト特性(磁気ヘッドがどの程度の書き込み能力を有するかを示す特性)及び隣接領域イレーズ特性(出力減衰率)の測定結果について説明する。なお、当該測定には、スピンスタンド(測定装置)を用い、当該測定における比較例としては、図7に示す加熱を行わない構成を用いることとした。また、本第1の実施形態および比較例で使用した磁気ディスクの保磁力は約5kOeであるものとし、さらに、ヘッドのスキュー角(トラックに対する主磁極411の傾き)を15°に設定して測定することとした。
【0038】
また、スピンスタンドに設けられた記録ヘッドの電流値を40mA、その記録ヘッドが有する書き込み磁極の幅(トラック幅方向の寸法)を100nm、磁気ディスクの周回速度を15m/sとした。
【0039】
まず、オーバーライト特性の測定では、磁気ディスクにビットパターンを400kFCI(flux change per inch)の高記録密度で記録し、その後、このビットパターン上に95kFCIの低記録密度でビットパターンをオーバーライトし、先に高記録密度で記録したビットパターンの信号出力変化を測定した。この結果、図8に示すように、本第1の実施形態の場合も、比較例の場合も、ともに−40dB以下を示し、ほぼ同等のオーバーライト特性が得られていることがわかった。
【0040】
次いで、隣接領域イレーズ特性を以下の手順で測定した。
(1)トラックピッチを120nmに設定し、対象トラックの左右の隣接トラックにそれぞれ100kFCIのビットパターンを書き込んだ後、各隣接トラックの出力値を測定。
(2)対象トラックに800kFCIのビットパターンを10000回記録(書き込み)。
(3)各隣接トラックの出力値を再度測定し、(1)で測定された初期出力値からの減衰率を測定。
【0041】
ここで、(2)の書き込み回数10000回は、ハードディスクドライブに要求される記録保証回数であるものとする。また、(3)で求められる出力減衰率は、低い値であるほど隣接領域イレーズが抑制されていることを意味するものである。また、出力減衰率としては、2つの隣接トラックのうち、高い方の値を示す隣接トラックの値を採用することとした。
【0042】
上記のように、隣接領域イレーズ特性の測定を行ったところ、図8に示すように、隣接領域イレーズ特性に係る出力減衰率は、本第1の実施形態では2.1%と、ほぼ誤差範囲の値を示したのに対し、比較例では23.5%と大きな値を示しており、比較例では、顕著な隣接領域イレーズが発生していることが分かった。また、上記2つの測定結果から、本第1の実施形態の構成・方法を採用することにより、磁気ヘッドの磁界分布の広がりを抑えることができ、また、高密度記録を実現できることがわかった。
【0043】
以上説明したように、本第1の実施形態によると、磁気ディスク20が有する軟磁性層21が、硬磁性層23のキュリー温度よりも低いキュリー温度であるため、光照射ヘッド50を用いて記録対象トラック61に隣接する隣接トラック62を加熱して、加熱部分に対応する軟磁性層21の一部をキュリー温度以上とすることにより、当該一部の磁束吸収能力を失わせることが可能である。これにより、加熱した部分においては、磁束が軟磁性層を流れにくくなるので、加熱した部分への情報記録(硬磁性層への情報記録)を抑制することができる。したがって、記録対象トラックに情報を記録する際に、隣接トラックに書き込まれた情報の上書き(消去)、すなわちATE又はサイドイレーズが発生するのを抑制することができる。また、記録対象トラックに磁束を集中させることにより急峻な磁界分布を得ることができるので、磁気ディスクに対する高密度記録を実現することが可能である。
【0044】
また、本第1の実施形態によると、従来のように、記録対象トラック61内の狭い領域にスポット光を当てることなく、記録対象トラック61のみ非加熱とすれば良いため、従来に比べて、スポット光の調整が容易で、簡易な構成で高密度記録を実現することが可能である。また、従来よりも低温で磁気ディスク20を加熱すれば良いため、この点からも簡易に高密度記録を実現することが可能である。
【0045】
また、軟磁性層21と硬磁性層23とのキュリー温度には約350℃の差があることから、軟磁性層21を加熱する際に硬磁性層23が加熱されても問題なく、ATEやサイドイレーズの抑制を実現することが可能である。
【0046】
また、本実施形態では、磁気ディスクの層構造のうちの、軟磁性層21の材料を従来の材料から変更することとしている。したがって、材料に対する要求がシビアな記録層と比べて、材料選択の自由度が高い軟磁性層21(例えば、軟磁性層21は、硬磁性層23に保護された状態にあるので、酸化し易い材料なども選択可能)の材料を変更することで、磁気ディスクを簡易に製造することが可能である。
【0047】
なお、上記第1の実施形態では、光照射ヘッド50により、記録対象トラック61の両側に位置する1つのトラックを加熱する場合について説明したが、これに限らず、記録対象トラック61の両側に位置する複数のトラックを加熱することとしても良い。
【0048】
なお、上記第1の実施形態では、ヘッド軌道およびトラックの形状に応じてトラックと主磁極411との角度(スキュー角)が変更されても、主磁極411が隣接トラックまではみ出さないように、主磁極411の形状を台形状とする場合について図示した。しかしながら、これに限られるものではなく、主磁極411として、その他の形状(例えば、矩形形状)を採用することとしても良い。
【0049】
なお、上記第1の実施形態(図5)では、主磁極411の進行方向(図5の矢印E方向)前端(図5の紙面下側の端部)と、スポット光620A,620Bの進行方向前端(図5の紙面下側の端部)とが、ほぼ一致する場合について図示したが、これに限られるものではない。例えば、スポット光620A,620Bの進行方向前端が、主磁極411の進行方向前端よりも、進行方向前方に位置していても良い。このようにすることで、隣接トラックをより確実に加熱することが可能となる。
【0050】
≪第2の実施形態≫
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0051】
図9には、本第2の実施形態における主磁極411と、主磁極411近傍に設けられたレーザダイオード150A’、150B’と、が簡略的に示されている。この図9では、第1の実施形態(図4(b)の構成)と異なり、オンオフ制御系160によって、レーザダイオード150A’、150B’のオンオフを制御する点に特徴を有している。
【0052】
オンオフ制御系160は、オンオフ切替部154と、ヘッドIC156(HDDに、一般的に搭載されている)とを有している。ヘッドIC156は、ホストから入力された書き込みコマンドを受信すると、そのコマンド中から記録対象トラックの情報を読み出して、オンオフ切替部154に送信する。また、オンオフ切替部154は、当該記録対象トラックの情報に基づいて、レーザダイオード150A’、150B’のオンオフを切り替える。
【0053】
図10には、主磁極411と磁気ディスク20との位置関係に応じた、トラックと主磁極411との角度(スキュー角)との関係が模式的に示されている。
【0054】
図1に示すように、ヘッドスライダ34は、円弧状の移動軌跡を描くことから、主磁極411も同様に、円弧状の移動軌跡を描く。したがって、図10に示すように、符号「411(A)」で示す位置に主磁極411があるときには、図11(a)に示すように、主磁極411はスキュー角θだけ傾いた状態となり、主磁極411の先端部(図11(a)における下端部)が、左側のトラックに接近する。
【0055】
一方、図10に符号「411(B)」で示す位置に主磁極411があるときには、図11(b)に示すように、主磁極411の先端部(図11(b)における下端部)が、右側のトラックに接近する。
【0056】
このように、トラック61内における主磁極411の位置変化により、図11(a)の状態では、左側の隣接トラックのほうがサイドイレーズされやすくなり、図11(b)の状態では、右側の隣接トラックのほうがサイドイレーズされやすくなる。
【0057】
したがって、本実施形態では、オンオフ切替部154が、ヘッドIC156から入力された記録対象トラックの情報(位置情報)から、主磁極411が磁気ディスク20の外周側に位置するか内周側に位置するかを判断する。そして、オンオフ切替部154は、図10の符号「411(A)」のように、主磁極411が磁気ディスク20の外周側に位置すると判断したときには、図11(a)に示すように、レーザダイオード150A’のみをオンにする(スポット光620A’参照)。これにより、左側の隣接トラックのみ(当該トラックの軟磁性層21のみ)加熱するようにする。
【0058】
また、オンオフ切替部154は、図10の符号「411(B)」のように、主磁極411が磁気ディスク20の内周側に位置すると判断したときには、図11(b)に示すように、レーザダイオード150B’のみをオンにする(スポット光620B’参照)。これにより、右側の隣接トラックのみ(当該トラックの軟磁性層21のみ)加熱するようにする。
【0059】
なお、主磁極411が、図10に符号「411(C)」で示すような磁気ディスク20の外周と内周の中間位置に位置すると判断されるような場合には、オンオフ切替部154は、レーザダイオード150A’、150B’のいずれもオンにすることとしても良い。また、上記中間位置にあるときには、主磁極411は記録対象トラックの中央に位置し、サイドイレーズが発生しにくいことから、レーザダイオード150A’、150B’のいずれもオフにすることとしても良い。
【0060】
以上詳細に説明したように、本第2の実施形態によると、主磁極411の磁気ディスク20との位置関係に応じて、上記のような制御を行うことにより、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、レーザダイオードの使用を最小限とすることで、省電力化を図ることが可能である。
【0061】
なお、上記第2の実施形態では、レーザダイオード150A’,150B’のレーザ光が略円形である場合について図示したが、これに限らず、レーザ光は、上記第1の実施形態と同様、長円形や矩形であっても良い。
【0062】
また、上記第2の実施形態では、オンオフ切替部154が、主磁極411と磁気ディスク20との位置関係に応じてレーザダイオード150A’,150B’のオンオフ制御を行う場合について説明したが、これに限られるものではなく、その他、スキュー角θを検出可能な検出手段を設け、その検出結果に応じて、レーザダイオード150A’,150B’のオンオフ制御を行うこととしても良い。
【0063】
なお、上記第1、第2の実施形態では、磁気ディスクとして、図12(a)に示すような磁気ディスク20’や図12(b)に示すような磁気ディスク20”を採用することとしても良い。このうち、図12(a)の磁気ディスク20’は、ディスクの径方向に関して所定幅を有するトラック状の軟磁性層21と所定幅の非磁性層26とが交互に配列されている点に特徴を有している。このような構成を採用することにより、記録層が分断されたディスクリートトラックと同様、加熱をしない場合には、図13のグラフの点線で示す磁界強度を得られ、更に、隣接トラック62を加熱することにより、図13のグラフに実線にて示すように、ヘッド磁界強度を急峻にすることができる。これにより、サイドイレーズの抑制をより効果的に実現することが可能となる。
【0064】
また、図12(b)の磁気ディスク20”は、ディスクの径方向に関して所定幅を有するトラック状の軟磁性層21、軟磁性層21と同一形状の中間層22、軟磁性層21と同一形状の硬磁性層23の層と、所定幅の非磁性層26とが交互に配列されている点に特徴を有している。このような構成を採用しても、上記図12(a)の磁気ディスク20’と同様の機能を発揮することが可能である。
【0065】
なお、図12(a)、図12(b)では、軟磁性層21をトラック状とする構成を採用した場合について説明したが、これに限られるものではなく、例えば、軟磁性層21をビット状に形成する構成(すなわち、ビットパターンドメディアの如き構成)を採用することとしても良い。このような構成を採用した場合、主磁極411が対向するビット構造の周辺に位置する領域の少なくとも一部を加熱することで、磁気ディスクの線記録密度を高密度化することが可能である。
【0066】
なお、上記各実施形態では、軟磁性層21全体を、硬磁性層23のキュリー温度よりも低いキュリー温度の材料により構成する場合について説明したが、これに限らず、例えば、図14に示すように、軟磁性層21を2層で構成し、上層21Aのみを硬磁性層23のキュリー温度よりも低いキュリー温度の材料により構成することとしても良い。このようにしても、軟磁性層21を加熱することにより、上層21Aを磁束が通らなくなるとともに、下層21Bにも磁束が届かなくなるので、上記各実施形態と同様の効果を得ることが可能である。また、図14のように軟磁性層21を2層(又は複数層)とする概念は、図12(a)や図12(b)に示す磁気ディスク20’、20”にも適用することが可能である。
【0067】
また、上記各実施形態では、硬磁性層23と軟磁性層21との間に中間層22が設けることとしたが、これに限らず、中間層22を極薄にするか、あるいは、省略することにより、軟磁性層21の厚み方向の一部もしくは全体を硬磁性層23と磁気的に結合させても良い。このような構成を採用することにより、記録対象の領域においては、軟磁性層21が硬磁性層23の磁化反転を助長するため、磁化反転が容易となる。これにより、磁気ヘッドの磁界分布の急峻化に加え、磁気ディスクにおける磁化反転容易な領域を限定することが可能である。
【0068】
なお、上記各実施形態では、記録対象トラック61の両隣に位置する隣接トラック62を加熱するため、光照射ヘッド50に2つのレーザダイオード150A,150B(又は150A’,150B’)を設ける場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、図15(a)、図15(b)に示すように、レーザ光をU字状に照射するか(図15(a)のスポット光620参照)、レーザ光を3箇所に照射する(図15(b)のスポット光620C参照)ことにより、記録対象トラック61の主磁極411の進行方向(相対的な進行方向(図15(a)、図15(b)の矢印E方向))後方を加熱することとしても良い。これにより、記録対象トラック61上の記録対象領域以外の領域への上書き(消去)を防止することが可能である。
【0069】
また、記録対象トラック61の主磁極411の進行方向後方に代えて、又はこれとともに、記録対象トラック61の主磁極411の進行方向前方を加熱することとしても良い。このような進行方向前方の加熱は、磁気ディスク20に対してランダム記録を実行する場合に特に有効である。
【0070】
なお、上記各実施形態では、加熱手段として、光照射ヘッド50を採用した場合について説明したが、これに限られるものではなく、その他の加熱手段、例えば電熱線等を含む熱源などを採用することとしても良い。
【0071】
なお、上記各実施形態では、軟磁性層21(の少なくとも一部)のキュリー温度を約150℃としたが、これに限られるものではなく、軟磁性層21(の少なくとも一部)のキュリー温度は、硬磁性層23のキュリー温度よりも低ければ良い。例えば、軟磁性層21のキュリー温度は、約300℃以下であっても良い。ただし、温度制御上、硬磁性層23のキュリー温度との差は大きいほうが好ましいことから、軟磁性層21のキュリー温度としては、約100℃〜約200℃の範囲であることが好ましい。
【0072】
また、上記各実施形態では、光照射ヘッド50を用いて、軟磁性層21の温度がキュリー温度以上になるように加熱する場合について説明したが、これに限られるものではなく、キュリー温度付近まで加熱することとしても、十分に上記各実施形態と同様の効果を発揮することが可能である。
【0073】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】一実施形態に係るハードディスクドライブの構成を示す図である。
【図2】磁気ディスクの断面図である。
【図3】軟磁性層および硬磁性層のそれぞれの飽和磁化と温度との関係を示す図である。
【図4】図4(a)は、磁気ヘッドおよび磁気ディスクの模式図であり、図4(b)は、主磁極と光照射ヘッドの模式図である。
【図5】記録ヘッドの主磁極と、磁気ディスクのトラックとを模式的に示す平面図である。
【図6】磁気ディスクの径方向に関するヘッド磁界強度の分布を示す図である。
【図7】図6と比較するための図であり、非加熱の場合のヘッド磁界強度の分布を示す。
【図8】図6、図7の例を用いた、オーバーライト特性と隣接領域イレーズ特性の測定結果を示す図である。
【図9】第2の実施形態に係る主磁極及び光照射ヘッド、並びにオンオフ制御系の構成を示す図である。
【図10】主磁極と磁気ディスクとの位置関係を示す図である。
【図11】オンオフ制御系の制御を説明するための図である。
【図12】磁気ディスクの変形例(その1)を示す図である。
【図13】図12(a)の磁気ディスクの効果を示す図である。
【図14】磁気ディスクの変形例(その2)を示す図である。
【図15】光照射ヘッドの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
20 磁気ディスク(磁気記憶媒体)
21 軟磁性層(裏打ち層)
23 硬磁性層(記録層)
50 光照射ヘッド(加熱手段)
61 記録対象トラック(記録対象領域)
100 ハードディスクドライブ(磁気記憶装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録用の記録層と、その少なくとも一部に前記記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有する裏打ち層とを有する磁気記憶媒体と、
前記記録層に対し、前記裏打ち層の反対側から記録磁界を発生して、前記記録層に情報を記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドが前記記録磁界を発生して情報を記録する記録対象領域の周囲の領域の少なくとも一部を加熱する加熱手段と、を備える磁気記憶装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドにより前記記録対象領域に情報が記録されるときに、
前記加熱手段は、前記記録対象領域が存在する記録対象トラックに隣接する隣接トラックのうち、前記記録ヘッドが有する磁極部分に近い側の隣接トラックのみを加熱することを特徴とする請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項3】
前記低キュリー温度部分は、前記裏打ち層のうち前記記録層に最も近い位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記憶装置。
【請求項4】
前記低キュリー温度部分は、キュリー温度が200℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気記憶装置。
【請求項5】
前記低キュリー温度部分は、Al、Ti、Cr、Mo、及びSiのうちの少なくとも1つ以上の元素を含むNi基軟磁性材料から形成されている特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気記憶装置。
【請求項6】
前記裏打ち層は、トラック状又はビット状に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁気記憶装置。
【請求項7】
前記記録層は、前記裏打ち層と同一形状で形成されていることを特徴とする請求項6に記載の磁気記憶装置。
【請求項8】
情報記録用の記録層と、
その少なくとも一部に前記記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有する裏打ち層と、を備える磁気記憶媒体。
【請求項1】
情報記録用の記録層と、その少なくとも一部に前記記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有する裏打ち層とを有する磁気記憶媒体と、
前記記録層に対し、前記裏打ち層の反対側から記録磁界を発生して、前記記録層に情報を記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドが前記記録磁界を発生して情報を記録する記録対象領域の周囲の領域の少なくとも一部を加熱する加熱手段と、を備える磁気記憶装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドにより前記記録対象領域に情報が記録されるときに、
前記加熱手段は、前記記録対象領域が存在する記録対象トラックに隣接する隣接トラックのうち、前記記録ヘッドが有する磁極部分に近い側の隣接トラックのみを加熱することを特徴とする請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項3】
前記低キュリー温度部分は、前記裏打ち層のうち前記記録層に最も近い位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記憶装置。
【請求項4】
前記低キュリー温度部分は、キュリー温度が200℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気記憶装置。
【請求項5】
前記低キュリー温度部分は、Al、Ti、Cr、Mo、及びSiのうちの少なくとも1つ以上の元素を含むNi基軟磁性材料から形成されている特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気記憶装置。
【請求項6】
前記裏打ち層は、トラック状又はビット状に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁気記憶装置。
【請求項7】
前記記録層は、前記裏打ち層と同一形状で形成されていることを特徴とする請求項6に記載の磁気記憶装置。
【請求項8】
情報記録用の記録層と、
その少なくとも一部に前記記録層のキュリー温度よりも低いキュリー温度である低キュリー温度部分を有する裏打ち層と、を備える磁気記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−55691(P2010−55691A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219870(P2008−219870)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
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