説明

磁気記録テープ用ポリエステルフィルム

【課題】 高密度での記録が可能である大容量磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとして、ベースフィルムの生産性、電磁変換特性に優れ、エラーが少なく、特に高密度磁気記録を可能とするデータ記録用テープ用途に好適なベースとなるポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】ポリエステル層Aとポリエステル層Bとを有し、ポリエステル層Aのポリエステル層Bと反対側の表面Aに皮膜層Iを有し、ポリエステル層Bのポリエステル層Aとは反対側の表面を表面Bとする積層フィルムであって、以下の(a)〜(d)を満足する磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとする。
(a)表面Aに設ける皮膜層Iは、平均粒径5〜60nmの不活性粒子Iが含まれ、皮膜層I上の平均面粗さRaが2〜6nmで、皮膜層I上の深さ7nm以上の凹みが5,000個/mm以下である。
(b)ポリエステル層Aは、実質的に不活性粒子を含有しないポリエステル層で、層厚みが3.0μm以上である。
(c)ポリエステル層Bは、平均粒径0.1〜1.0μmの不活性粒子Bを含有するポリエステル層である。
(d)表面Bは、平均面粗さRaが8〜20nm、かつ十点平均面粗さRzが300nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録テープ用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフイルムに代表されるポリエステルフィルムは、その優れた物理的、化学的特性の故に広い用途に、特に磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられている。2軸配向ポリエステルフィルムは、デジタルビデオ用テープや、コンピューターのバックアップ用テープ(以後、データテープという)などに用いられている。
【0003】
磁気記録媒体に代表される例として、1996年に実用化された民生用デジタルビデオテープはベースフィルム上にCoの金属磁性薄膜を設け、その表面にダイヤモンド状カーボン膜をコーティングしてなり、Hi8用蒸着(ME)テープに比べて表面性が更に平滑化したにもかかわらず、良好な耐久性をもつ。そのベースフィルムとしては、(1)熱可塑性樹脂からなる層Aと、微粒子が含有された熱可塑性樹脂からなる層Bとが積層された複合フィルム(例えば特許文献1参照)、(2)平滑なポリエステルフィルムであり非磁性面側表面に滑剤主体の被覆層が形成されたフィルム(例えば特許文献2参照)、等が用いられ、Hi8MEテープ用ベースに比べ、更に金属磁性膜形成表面粗度の小さいベースフィルムが利用されている。
【0004】
しかしながらこのように非常に平滑な民生用デジタルビデオテープは、その磁性面の表面うねりにより電磁変換特性が非常に変化し、また蒸着工程での冷却キャンに付着する異物の影響により、得られたテープのドロップアウト(DO)特性が非常に変化する。
【0005】
上記(1)より作成したテープはテープ磁性面の表面うねりのバラツキが大であり、電磁変換特性のバラツキが大であった。また、上記(2)の技術は非磁性面側表面の滑剤主体の被覆層が蒸着工程、特に真空蒸着の冷却キャンで削れたり、剥離したりしがちであり、それによりDOが多くなる欠点があった。
【0006】
この問題を解決するために、(3)ポリエステルフィルムの片側表面Aに強磁性金属薄膜層が設けられ、該強磁性金属薄膜層のSRa値が2〜5nm、SRz値が40〜70nm、表面うねりが30nm未満であることを特徴とする磁気テープ(例えば特許文献3参照)等が用いられており、冷却キャンでの削れが改善され、表面のうねりも小さくなり、電磁変換特性の良好なテープが得られる。
【0007】
しかし、近年のさらなる高密度に磁気記録を行うデータテープにおいては、トラックが非常に小型化したことによって、ベースフィルムの表面状態が磁気テープの磁性層の表面性に大きな影響を及ぼし、磁気記録層の表面の凹凸として発現し、それが記録・再生信号のノイズの原因となり、データの再生不良を引き起こす問題が生じてきた。このため、上記の高密度磁気記録媒体においては、磁気記録媒体で磁性層を形成する側の表面は電磁変換特性の観点からもベースフィルムの表面はできるだけ平滑であることが望ましい。平滑ベースフィルムとして、(4)実質的に不活性粒子を含有しないポリエステル層の少なくとも磁性面を形成する側の表面Iに皮膜層を設けた垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム(例えば特許文献4参照)や、磁気テープの走行耐久性を両立させた、(5)ポリエステル層の磁性面を形成する側の表面Iに皮膜層を設けた磁気記録テープ用ポリエステルフィルムであって、表面Iの皮膜層は水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分とし、この皮膜層には平均粒径の異なる少なくとも2種の不活性粒子が含有されたベースフィルム(例えば特許文献5参照)などが提案されている。
【0008】
一方でベースフィルムの製膜、製膜工程での搬送、傷付き、巻取りおよび巻出しといったハンドリングの観点からは、ベースフィルムの表面は出来るだけ粗いことが望ましい。なぜならば、フィルム表面が平坦過ぎると、フィルム−フィルム相互の滑り性が悪化し、ブロッキング現象が発生したり、ロールに巻いたときの形状(ロールフォーメーション)が悪化したりして、製品歩留りの低下や製品の製造コストの上昇をきたすからである。このように、電磁変換特性とハンドリング性の観点から相反する特性が要求される。従って上記(3)に代表されるように、ベースフィルムの設計では、磁性層を形成する側の表面は平滑面、一方で磁性層を形成する側の表面の反対側の面は、粗い表面が形成されているベースフィルムが一般的に用いられる。
【0009】
上記した(3)、(4)、(5)の高密度磁気記録媒体では、平滑な磁性層を形成する側の表面に、ハンドリング性のため粗くした反対側の面の粗さや突起が起因となり、ロール状に巻き取った際に転写の影響が顕著に現れる。高密度記録を達成するため本来平滑である磁性層の表面が数nm程度凹むことにより、電磁変換特性の低下や、ノイズの原因になることが新たに分かり、平滑な磁性層表面に影響を与えない、ベースフィルムの表面設計が必要となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平1−26338号公報
【特許文献2】特公平4−33273号公報
【特許文献3】特開平10−172126号公報
【特許文献4】特開2010−79995号公報
【特許文献5】特開2010−225249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記した従来の問題を解決し、ノイズが少なく電磁変換特性に優れ、かつベースフィルムの生産性に優れ、高密度での記録が可能である大容量磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとして、特にコンピューターのデータバックアップ用途に好適なベースとなるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するための本発明は以下の特徴を有する。
【0013】
(1)ポリエステル層Aとポリエステル層Bとを有し、ポリエステル層Aのポリエステル層Bと反対側の表面Aに皮膜層Iを有し、ポリエステル層Bのポリエステル層Aとは反対側の表面を表面Bとする積層フィルムであって、以下の(a)〜(d)を満足する磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0014】
(a)表面Aに設ける皮膜層Iは、平均粒径5〜60nmの不活性粒子Iが含まれ、皮膜層I上の平均面粗さRaが2〜6nmで、皮膜層I上の深さ7nm以上の凹みが5,000個/mm以下である。
【0015】
(b)ポリエステル層Aは、実質的に不活性粒子を含有しないポリエステル層で、層厚みが3.0μm以上である。
【0016】
(c)ポリエステル層Bは、平均粒径0.1〜1.0μmの不活性粒子Bを含有するポリエステル層である。
【0017】
(d)表面Bは、平均面粗さRaが8〜20nm、かつ十点平均面粗さRzが300nm以下である。
【0018】
(2)表面Bに10〜50mg/mの固形分質量にて有機化合物からなる被覆層IIが設けられている、上記(1)に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0019】
(3)不活性粒子Bの平均粒径dB(μm)と、ポリエステル層Bの厚みtB(μm)が下記式を満足する、上記(1)または(2)に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0020】
0.2≦dB /tB ≦3
(4)総厚みが4〜9μmである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0021】
(5)ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを構成成分として含んでいる、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電磁変換特性に非常に優れた超高密度磁気記録テープの製造が可能となる。
【0023】
また、本発明の磁気記録テープ用ポリエステルフィルムを用いると、超高密度にデジタル記録することが可能であり、特に、高密度記録、高信頼性が要求されるコンピューターのバックアップ用途のベースフィルムとして使用すると優れた結果を得ることができ、好適である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明における積層フィルムは共押出法等によるポリエステル層Aとポリエステル層Bの二層構造を有するポリエステルフィルムである。ポリエステル層Aは磁気テープを製造する際に磁性層を設け、磁気記録をする側の面(皮膜層Iが設けられる面で、以下表面Aという)である。一方、ポリエステル層Aの表面Aとは反対側のポリエステル層Bはフィルムの巻取り性を付与するために巻取り性の観点より不活性粒子Bを含有させる必要がある。
【0025】
本発明においてポリエステル層Aを構成するポリマー(以下、ポリエステルaという)およびポリエステル層Bを構成するポリマー(以下、ポリエステルbという)は、分子配向により高強度フィルムを形成するポリエステルであればよい。中でもポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレート)を構成成分として含んでいることが好ましい。このポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、それぞれ、全構成成分の80モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート以外の共重合成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸(ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの場合)、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸(ポリエチレンテレフタレートの場合)、2,7−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上の多価カルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。上記ポリエステルは、また、ポリエステルとは非反応性のスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、該ポリエステルに実質的に不溶なポリアルキレングリコールなどの少なくとも一つが5質量%を超えない範囲で混合してもよい。ポリエステルa、bは同じ種類でも異なる種類であってもよい。
【0026】
ポリエステルaは実質的に不活性粒子を含有しない。実質的に不活性粒子を含有しないとは、積極的に触媒残渣を析出させたり、不活性粒子を添加したりしていないことを意味し、具体的には、粒径0.05μm以上の不活性粒子の含有量が、ポリエステルaの質量を基準として、0.001質量%未満であることが好ましい。実質的に不活性粒子が含まれると、ポリエステルa内の不活性粒子の凝集による粗大突起が磁気テープの精密な表面設計を妨げる要因となったり、不活性粒子による表面Aの変形により、磁気テープにした際に電磁変換特性が大幅に低下したり、ノイズが増えたりする原因になる。
【0027】
ポリエステルbに含有させる好ましい不活性粒子Bの成分は、例えば、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、(3)金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、(4)金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、(5)炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイヤモンドなど)、および(6)粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子が挙げられる。これらのうち、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、合成炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイヤモンド、またはカオリンからなる粒子が好ましい。さらに好ましくは、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、または炭酸カルシウムからなる微粒子である。これらの不活性粒子は1種または2種以上を混合して使用してもよい。また界面活性化剤、帯電防止剤、各種エステル成分等、異なる成分を添加させてもよい。
【0028】
不活性粒子Bの平均粒径は0.1μm〜1μmであり、好ましくは0.2μmから0.5μmである。また、不活性粒子Bは異なる平均粒径を有する2種以上のものを用いてもよく、その場合は最も平均粒径の大きい粒子の平均粒径が1μm未満でなければならない。また、2種の平均粒径を有する不活性粒子Bを用いる場合は、不活性粒子Bのうち、平均粒径の小さい粒子の質量W(BS)に対して、平均粒径の大きい粒子の質量W(BL)は、W(BL)/W(BS)<0.3であることが好ましい。不活性粒子Bの平均粒径が1μmを超えると、フィルムの巻取り性は向上するが、ポリエステルフィルムに磁性層を設けた後、ロール状に巻き放置した時に、その不活性粒子Bの形状が表面Aに設けられた磁性層に転写することで凹みとして現れ、磁気テープのドロップアウトやエラーが多発することにより電磁変換特性が低下する。また平均粒径が0.1μm未満の場合、フィルムをロール上に巻き取る際にハンドリング性が悪く、生産効率が低下する。
【0029】
本発明においてポリエステル層Aの層厚みは3.0μm以上である。3.0μm未満の場合、ロール状にフィルムを巻き取った際、ポリエステル層B内の不活性粒子Bのフィルム内部を通した突き上げのため、表面Aの形状が変形しやすく、変形のため磁性層の電磁変換特性が低下する。なお、不活性粒子Bの平均粒径dB(μm)と、ポリエステル層Bの厚みtB(μm)の関係は0.2≦dB/tB≦3.0であることが好ましい。より好ましくは0.8≦dB/tB≦2.0であり、dB/tBが0.2より小さい場合、不活性粒子がポリエステル層B内に埋まり気味となり、フィルムの巻き取り性向上の効果が出ない。dB/tBが3.0を超えると、表面B側に不活性粒子Bの突起がポリエステル層Bから突出しすぎる形状となり、ポリエステルフィルムに磁性層を設けた後、ロール状に巻き放置した時に、その不活性粒子Bの形状が表面Aに設けられた磁性層に転写することで凹みとして現れ、磁気テープのドロップアウトやエラーが多発することにより電磁変換特性が低下する。フィルム全厚みが同じ場合、ポリエステル層Bは不活性粒子Bの効果が出る範囲内で厚みが薄いほうが上記理由から好ましい。
【0030】
本発明においては、ポリエステル層Aのポリエステル層Bとは反対側の表面Aに、以下に詳述する皮膜層Iが形成されている。皮膜層Iは水溶性ポリエステル樹脂を含有し、その他の水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分としている。
【0031】
水溶性ポリエステル樹脂としては、酸成分とグリコール成分が重縮合したポリエステルであって、スルホン酸基又はその塩を含有していることが好ましく、例えば酸成分としてジカルボン酸成分のみならずスルホン酸基のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめること、及び/又は、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70質量%共重合せしめることによって水溶性を付与したものが好ましいが、これらに限定されるものではない。スルホン酸基又はジカルボン酸としては、好ましくは5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などが使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。また、ポリエステル鎖にアクリル重合体鎖を結合させたグラフトポリマー又はブロックコポリマー、あるいは2種のポリマーがミクロな粒子内で特定の物理的構成(IPN、コアシェル)を構成したアクリル変性ポリエステル樹脂も含まれる。
【0032】
皮膜層Iの水溶性ポリエステル樹脂以外の構成成分の水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が好ましく挙げられ、なかでも、上記水溶性ポリエステルにセルロース誘導体の高分子ブレンド体が特に好ましい。セルロース誘導体は特にフィルム表面の微細凹凸構造の形成に寄与し、水溶性ポリエステル共重合体はセルロース誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性向上に寄与および不活性粒子が削れて脱落することを防止する役割がある。
【0033】
水分散性高分子としては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できるがこれらに限定されない。
【0034】
本発明においては、皮膜層I中には以下に詳述する不活性粒子Iを含んでいる。
【0035】
不活性粒子Iの成分としては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、およびジビニルベンゼンから選ばれた、各単量体の重合体、あるいは共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアナミン、シリコーン等の有機質、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、グラファイト等の無機質のいずれを用いてもよい。一般に無機質からなる粒子は硬度が高く変形しにくいため磁気ヘッドのクリーニング性に優れており、また種々のサイズの微粒子の製造が容易であることから無機質、特にシリカからなる球状シリカ粒子が好ましい。一方、有機質からなる粒子は分散性に優れており粒子同士の凝集が少ない。中でも、スチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、ジビニルベンゼンの重合体およびジビニルベンゼンの共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の高分子粒子であることが好ましい。
【0036】
また、不活性粒子Iの観察平均粒径は、5〜60nmである。これは、磁気テープにした際、磁気ヘッドとの摩擦を低減させ走行耐久性を維持する他、繰り返しの使用における磁気ヘッドへのセルフクリーニング性を向上させる役割を果たす。その観察平均粒径は上記したとおり5〜60nmである。この観察平均粒径は表面I側のフィルム上から観測される粒径の平均値であり、表面I側の皮膜中の不活性粒子に起因する突起のうち、個々の粒径が5〜60nmの範囲にある突起の平均の粒径を意味する。
【0037】
観察平均粒径が5nm未満であると、磁気テープの繰り返しの使用における、クリーニング効果が向上せず、耐久性が向上しない。一方、観察平均粒径が60nmを超えると、磁気テープの表面が粗くなり、電磁変換特性が著しく低下する。また、繰り返し使用により、不活性粒子が削れて脱落し、ドロップアウトが増加することがある。この観察平均粒径は15〜40nmが特に好ましい。
【0038】
また、不活性粒子Iに起因する突起密度は100〜8,000万個/mmであることが好ましく、より好ましくは1,000〜5,000万個/mmである。突起密度が100万個/mm未満であると、粒子の存在密度が小さすぎるため、クリーニング効果が期待できない。また、8,000万個/mmを超えると、磁気テープの表面が粗くなり、電磁変換特性が著しく低下する上、磁気テープ繰り返しの走行で、粒子の脱落が発生し、表面が削れてのドロップアウトが増加する傾向がある。この不活性粒子Iに起因する突起の凝集率は30%未満であることが好ましく、より好ましくは15%未満である。該突起の凝集率が30%以上であると、粗大突起により磁気ヘッドとのスペーシングロスが大きくなり電磁変換特性が著しく低下する上、磁気テープの走行で粒子の脱落によるドロップアウトの原因となる。
【0039】
また、不活性粒子Iは必要に応じて平均粒径が異なる2種以上の不活性粒子を含有せしめてもよい。
【0040】
本発明において、皮膜層I上の平均面粗さRa値は2〜6nmであり、より好ましくは2.5〜4.5nmである。Ra値が6nmを超えると、磁気テープの磁気ヘッドとの走行耐久性は向上するが、電磁変換特性が低下する。また、Ra値が2nm未満であると、電磁変換特性は良好であるが、磁気テープの繰り返し使用における磁気ヘッドとの摩擦が増え走行耐久性が低下する。
【0041】
本発明において、ポリエステル層Bのポリエステル層Aとは反対側の表面(以下、表面Bという)の平均面粗さRaは8〜20nmである。好ましくは10〜16nmである。十点平均面粗さRzは、300nm以下、好ましくは250nm以下である。Raが8nm未満であると、平滑になりすぎて、ポリエステルフィルムの製造の際、特に製膜後のスリッターによるスリット工程で、フィルムを所定の幅にスリットしロール状に巻き製品化する時にしわが入りすぎ、ロール状に巻けなくなる。Raが20nmを超える、または、Rzが300nmを超えると、磁気テープにして、ロール状に巻き取った際、表面Aに設けられた磁性層に転写することで凹みとして現れ、磁気テープのドロップアウトやエラーが多発することにより電磁変換特性が低下する。さらにRaとRzの比は、Rz/Ra≦22を満たすことが好ましい。Rz/Raが22を上回ると、表面B側の粗大な突起により、ロール状に巻き取った際、表面Aに設けられた磁性層に転写することで凹みとして現れ、電磁変換特性が著しく低下する。
【0042】
本発明において、表面B側には、上述の表面Bの平均粗さRa、Rzを満たす範囲内で、10〜50mg/mの固形分質量で有機化合物からなる被覆層IIを設けてもよい。表面Bに皮膜層を設ける場合は、表面BのRa、Rzは被覆層IIの上からの測定値を意味する。
【0043】
被覆層IIとしては、易滑性であって削られにくく、かつ、ポリエステルフィルムからの分解物を通さない機能を有するものであればよく、主として、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子から構成され、好ましくは、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤とが加わった組成物から形成されることが好ましい。被覆層IIに用いられる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が使用できる。また、水分散性高分子のエマルジョンとしては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。
【0044】
シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン等のシロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。シリコーンにより皮膜層の易滑性が向上し、表面B側のフィルムの走行性、耐削れ性が確保される。またポリエステルフィルムを巻いたときのフィルム間のブロッキングが防止される。なおフッ素化合物を易滑剤として用いてもよい。
【0045】
シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基をもつ有機ケイ素単量体が挙げられ、その反応基の一つはメトキシ基、エトキシ基、シラノール基などであり、もう一つの反応基はビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基などである。反応基としては水溶性高分子の側鎖、末端基およびポリエステルと結合するものが選ばれるが、シランカップリング剤としてビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が適用できる。シランカップリング剤はシリコーンの易滑剤層からの遊離防止に寄与し、さらに、皮膜層とポリエステルとの接着性向上にも寄与する。
【0046】
被覆層IIの固形分質量は10〜50mg/mであることが好ましく、より好ましくは25〜40mg/mである。被覆層IIは磁気テープにして、ロール状に巻き取った際、表面Aに設けられた磁性層への転写を低減させる役割があり、固形分質量が10mg/m未満であると、上記の効果が得られない。固形分質量が50mg/mを超えると、製膜工程で被覆層IIが削れたり、磁気テープ製造の工程で削れ物が付着したりする。
【0047】
本発明において、皮膜層I上の深さ7nm以上の凹みの個数は5,000個/mm以下であることが好ましい。凹み個数はポリエステルフィルムをロール状に巻き取った際、表層に比べ、巻芯部分で多い傾向にあるが、表層から巻芯にかけて測定しその最大値を意味する。凹み個数が5,000個/mmを超えると、磁気テープ表面の変形により電磁変換特性が著しく低下する。皮膜層I上の凹みの大きさは深さ7nm以上のものが、電磁変換特性に大きく影響する。凹み個数を5,000個/mm以下にするためには、上記ポリエステル層Aの層厚み、表面BのRa、Rz、被覆層IIの固形分質量を所定の条件にする。また、ロール状に巻取る際に、巻取り張力と面圧を低くすること、ロール状での巻芯部分の個数を減らすために、ロール巻芯部からロール表層部にかけて面圧テーパ、張力テーパを利用して徐々に低面圧、低張力で巻き取ることも有効な手法である。
【0048】
本発明における磁気記録テープ用ポリエステルフィルムは、ポリエステル層A、ポリエステル層B、皮膜層を含む総厚みが4〜9μmであることが好ましく、さらには4.5〜6.0μmであることが好ましい。
【0049】
(製造方法)
本発明におけるポリエステルフィルム(ポリエステル層)は種々の方法により製造することが可能である。ポリエステル層A、ポリエステル層Bからなる二層構造の積層ポリエステルフィルムを得るには、ポリエステルaとポリエステルbを共押出し法により製造するのが好ましく、表面Aおよび表面Bの皮膜層Iや被覆層IIの形成は塗布法により行うのが好ましい。
【0050】
以下、本発明におけるポリエステルフィルムの製造方法の例を説明する。
【0051】
押出機にてポリエステルaを溶融状態にしてさらにそのままフィルターにて高精度濾過する。また、別の押出機にて不活性粒子Bを含有させたポリエステルbを溶融状態にして別のフィルターで高精度濾過したのち、フィードブロックにそれぞれ導き、溶融状態にて複合積層せしめる。ポリエステルaとポリエステルbとの積層厚みの比は、各層の押出機の押出量を調整することにより、所望の積層厚み比にすることができる。このようにして溶融、好ましくは積層せしめた後、融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度で口金より押出もしくは共押出ししたのち、10〜50℃のキャスティングドラム上で急冷固化して未延伸積層フィルムシートを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg)〜(Tg+80)℃の温度(ただし、Tgはポリエステルのガラス転移温度)で2〜8倍の倍率で、好ましくは3〜7.5倍で延伸する。さらに表面A、必要に応じて表面Bに皮膜層Iや被覆層IIを形成するための塗液をフィルム表面に塗布して乾燥し、その後上記延伸方向とは直角方向に(一軸延伸方向とは直交する方向に)延伸配向させ、熱固定する製造方法により、本発明におけるフィルムを製造することができる。
【0052】
表面A側の皮膜層Iを形成するために塗布する塗液の固形分濃度としては0.1〜2質量%が好ましく、より好ましくは0.6〜1.6質量%である。そして塗液には本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤などを添加することができる。皮膜層I中に含まれる不活性粒子Iの分散状態を調整するためには、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液などの酸・塩基成分を適宜使用すればよい。また、フィルムに塗布する直前の塗液温度は12℃〜28℃、より好ましくは19℃から25℃に調整して塗布することが好ましい。塗液温度が28℃を超える状態でフィルムに塗布すると、上記皮膜成分の水溶性高分子、水分散性高分子、シランカップリング剤などの固形物が発生することがある。また、塗液温度が12℃未満であると、不活性粒子Iの凝集により粗大突起が発生しやすい傾向にある。
【0053】
表面B側の被覆層IIを形成する場合、塗布する塗液の固形分濃度としては0.01〜1質量%が好ましく、より好ましくは0.3〜0.8質量%である。そして塗液には本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤などを添加することができる。
【0054】
二軸延伸は例えば逐次二軸延伸法又は同時二軸延伸法で行うことができるが、所望するならば熱固定前にさらに縦方向あるいは横方向、またはその両方(縦と横方向)に再度延伸させ機械的強度を高めた、いわゆる強力化タイプとすることもできる。
【0055】
表面A側の皮膜層Iを形成するためには、前述した通り、1軸方向への延伸を終えた段階で所定組成・濃度の塗液を基層フィルム上に塗布する方法をとればよい。その塗布方法としては、ドクターブレード方式、グラビア方式、リバースロール方式、メイヤーバー方式のいずれであってもよい。表面AのRa値は皮膜層中の不活性粒子の量や材料平均粒径を調整することにより制御することができる。表面Bの被覆層IIの形成に関しても同様の方法を用いればよい。また、皮膜層Iや被覆層IIの厚みは、塗液の固形分濃度、塗布厚みの調整により所望値に制御することができる。
【0056】
本発明の磁気記録テープ用ポリエステルフィルムは磁気記録媒体のベースフィルムとして、特にデジタルデータを記録しMRヘッドで再生する磁気テープ用途に使用すると、高密度で記録が可能であり、かつ耐久性に優れた結果を得ることができる。特に高信頼性が要求されるデータバックアップ用途のベースフィルムとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
本実施例で用いた測定法を以下に示す。
【0058】
(1)ポリエステル層A、Bの厚みおよびフィルム全体の厚み測定
フィルム全体の厚みはマイクロメーターにてランダムに10点測定し、その平均値を用いる。ポリエステル層A、Bの層厚については、相対的に薄いポリエステル層の層厚みを以下に述べる方法にて測定し、相対的に厚いポリエステル層の層厚みは、全厚みより皮膜層および相対的に薄いポリエステル層の層厚を引き算して求める。
【0059】
二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、深さ5,000nmの範囲のフィルム中の粒子の内最も高濃度の粒子に起因する金属元素、フィルム中に金属元素を含まない粒子を含有する場合は、ポリエステルフィルム重合時の最も高濃度に含有する触媒に起因する金属元素濃度(M)を測定する。金属元素濃度Mは一旦安定値1になったのち、単調に増加するかまたは減少して安定値2になる。この分布曲線をもとに、前者の場合は、(安定値1+安定値2)/2の粒子濃度を与える深さをもって、薄いポリエステル層の厚み(μm)とする。
【0060】
(2)不活性粒子Bの平均粒径の測定
ポリエステルフィルムの表面B側からポリエステル樹脂をプラズマ低温灰化処理法(たとえばヤマト科学製PR-503型)で除去し粒子を露出させる。処理条件は被膜や熱可塑性樹脂は灰化されるが粒子はダメージを受けない条件を選択する。これをSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、粒子の画像(粒子によってできる光の濃淡)をイメージアナライザー(たとえばケンブリッジインストルメント製QTM900)に結びつけ、観察箇所を変えて粒子数10,000個以上で次の数値処理を行い、それによって求めた数平均径を平均粒径(dB)とする。
【0061】
(3)皮膜層Iの不活性粒子Iの測定
A.不活性粒子Iの観察平均粒径の測定
表面Iから観察平均粒径を求める場合は、皮膜表面I上に金属スパッター装置により金属蒸着層を20〜30nm(この時のスパッターの蒸着膜厚をxnmとする)で設け、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧5kVで入射方向垂直の条件下、倍率10万倍で観測し、面積円相当径が25〜60nmとなる少なくとも100個の突起(粒子に起因するもの)について平均値を算出し、この平均値から2xnmを減じた値をもって観察平均粒径とする。
【0062】
B.不活性粒子Iに起因する突起の個数密度の測定
皮膜層I上の、不活性粒子の個数密度は、上述A.の手法において、電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)により、3万倍の拡大倍率で観察し、10枚以上の写真撮影を行うことにより測定し、撮影された写真から観察される突起の個数をカウントする。1mmあたりの突起の個数に換算して、個数密度とした。
【0063】
(4)フィルムの平均面粗さRa値、十点平均粗さRz値
フィルムの表面(A、B)の平均面粗さRa値、十点平均粗さRz値は、原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した。具体的には、セイコーインスツルメント(株)製の卓上小型プローブ顕微鏡(“Nanopics”1000)を用い、ダンピングモードで、フィルムの表面を40μm角または100μm角の範囲で原子間力顕微鏡計測走査を行い、得られる表面のプロファイル曲線よりJIS・B0601・1996・Raに相当する算術平均粗さよりRa値を、十点平均粗さよりRz値を求めた。なお、測定条件の詳細は以下のとおりである。
【0064】
(測定面:表面A)
測定モード ダンピングモード
測定方向 幅方向
測定領域 40×40μm
スキャンスピード 380s/FRAME
スキャン回数 512本
振幅モード LL(20%)
(測定面:表面B)
測定モード ダンピングモード
測定方向 幅方向
測定領域 100×100μm
スキャンスピード 380s/FRAME
スキャン回数 512本
振幅モード HH(100%)
(5)皮膜層I上の凹み個数の測定
上記(4)の皮膜層I上の平均面粗さ測定において得られた2次元像から、断面プロファイルを得る。断面プロファイル像の凹凸で、平均の凸部、凹部のラインを各々引き、その中心線をベースラインとする。このベースラインに対して凹み部分の最低部がベースラインから7nm以上の距離にあるものを凹みとし、個数をカウントする。得られる40μm角の像で20本以上の断面プロファイルから上記カウントを行い、得られた凹み個数を1mm換算し、皮膜層I上の凹み個数とした。
【0065】
(6)表面B側の被覆層IIの固形分質量
フィルムの表面Bにおける皮膜形成用の塗液を塗布する際、一定時間内の塗布により消費される塗液の量を求める。その一定時間内に水溶液が塗布された面積を、塗布幅とフィルム速度と塗布時間とから算出し、塗布時の水溶液消費量を塗布面積で除し、さらに、塗布した水溶液中の固形分濃度より、皮膜層の固形分量(単位:mg/m)を算出した。
【0066】
(7)巻取り性
スリット時の巻取り条件を最適化後、幅620mm×長さ10,000mで10ロールのスリットを行い、10日間常温で放置後のフィルムシワの発生のないロールを良品として、以下の基準で巻取り性の評価をする。
【0067】
良品ロール本数 判定基準
8本以上 ○
4〜7本 △
3本以下 ×
(8)磁気テープの特性
磁気テープの特性は以下のようにして評価した。
【0068】
本発明のフィルムの表面Aに、真空蒸着装置を用いて、コバルト−酸素皮膜を50nmの膜厚で形成した。次いで、コバルト−酸素皮膜層上に、スパッタリング法によりダイヤモンド状カーボン膜を10nmの厚さで形成させ、フッ素含有脂肪酸エステル系潤滑剤を3nmの厚さで塗布した。続いて表面B上に、カーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を500nmの厚さで設け、スリッターにより3.8mm幅にスリットし、リールに巻き取り磁気テープ(MICRO MVテープ)を作製した。
【0069】
A.耐久性の評価
磁気テープ(MICRO MVテープ)の走行耐久性は、市販のMICRO MV方式ビデオカメラ(MICRO MVビデオカメラ)を用いて静かな室内で録画し、1分間の再生をして画面にあらわれたブロック状のモザイク個数(ドロップアウト(DO)個数)を数えることによって、評価した。DO個数は常温(25℃)でテープ製造後の初期特性(初回のDO個数)を最初に調べた。次にテープの再生を全長にわたり200回くり返し、200回目の再生時のDO個数を測定した。
【0070】
B.電磁変換特性(C/N)の評価
上記で作製したテープについて、市販のMICRO MV方式ビデオカメラ(MICRO MVビデオカメラ)を用いて、7MHz±1MHzのC/Nの測定を行った。このC/Nを市販のMICRO MVテープと比較して、以下のように判定した。
【0071】
+3dB以上 :◎
+2dB以上〜+3dB未満 :○
+1dB以上〜+2dB未満 :△
+1dB未満 :×
次に実施例に基づき、本発明を説明する。
【0072】
[実施例1]
(ポリエステルaの製造方法)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部、酢酸カルシウム0.09質量部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02質量部および三酸化アンチモン0.03質量部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧し、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、実質的に不活性粒子を含有しないポリエチレンテレフタレート(PET;ポリエステルa)を得た。
【0073】
(ポリエステルbの製造方法)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部、酢酸カルシウム0.09質量部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02質量部および三酸化アンチモン0.03質量部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧し、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、その後吐出ノズルより水中に押出しカッターによって直径約5mm長さ約7mmの円柱状のチップとした。こうして得られたポリマーに不活性粒子Bとして数平均粒径(材料平均粒径)300nmのポリスチレン球を0.50wt%含有させポリエステルbを得た。
【0074】
(ポリエステルフィルムの製造方法)
得られたポリエステルa、ポリエステルbを、それぞれ170℃で3時間乾燥後、2台の押出し機に、ポリエステル層Aとポリエステル層Bの厚みの比が7:1となるように調整して共押出しにより供給し、溶融温度280〜300℃にて溶融し、平均目開き1μmの鋼線フィルターで高精度ろ過したのち、マルチマニホールド型共押出しダイを用いて、ポリエステルaの片面にポリエステルbを積層させ、温度25℃のキャスティングドラム上にて急冷して、ポリエステル層A、層Bの2層構造からなる未延伸積層フィルムを得た。次にこのようにして得られた未延伸積層フィルムを予熱し、ロール延伸法にて110℃で3倍に縦延伸した。
【0075】
縦延伸後の工程で表面A側の表面に以下の組成・濃度の水溶液をメイヤーバー方式にて塗布した。
【0076】
表面A側への塗布水溶液の組成(皮膜層I)
水 99.3質量%(小数点以下2位で四捨五入)
メチルセルロース 0.13質量%
水溶性ポリエステル樹脂(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1重縮合体) 0.60質量%
材料平均粒径20nmの球状シリカ粒子 1.3×10−3質量%
その後、ステンターにて横方向に110℃で4倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを220℃の熱風で4秒間熱固定し、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。これをスリッターで小幅にスリットし、円筒コアーにロール状に巻取り、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0077】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0078】
[実施例2]
実施例1のポリエステルbの製造方法において、不活性粒子Bを数平均粒径(材料平均粒径)200nmのポリスチレン球に変更した。実施例1のポリエステルフィルムの製造方法において、ポリエステル層Aとポリエステル層Bの厚みの比が12:1となるように調整して共押出しにより供給し、縦延伸後の工程で表面A側の表面に以下の組成・濃度の水溶液をメイヤーバー方式にて塗布した。
【0079】
表面A側への塗布水溶液の組成(皮膜層I)
水 99.3質量%(小数点以下2位で四捨五入)
メチルセルロース 0.13質量%
水溶性ポリエステル樹脂(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1重縮合体) 0.60質量%
材料平均粒径30nmの球状ポリスチレン粒子 1.1×10−3質量%
また、表面B側に被覆層IIを設けるため、ポリエステル層Bの外側に下記組成・濃度の水溶液を固形分塗布量が28mg/mとなるようエアナイフ方式にて塗布した。
【0080】
表面B側への塗布水溶液の組成(被覆層II)
水 99.44質量%
メチルセルロース 0.26質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.29質量%
アミノエチルシランカップリング剤 1.1×10−3質量%
その他は実施例1と同様にして、厚さ5.2μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0081】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0082】
[実施例3]
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル層Aとポリエステル層Bの厚みの比が5:1となるように調整した以外は実施例1と同様にして、厚さ3.6μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0083】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0084】
[実施例4]
実施例1のポリエステルbの製造方法において、不活性粒子Bを数平均粒径(材料平均粒径)900nmのポリスチレン球に変更した。
【0085】
その他は実施例1と同様にして、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0086】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0087】
[実施例5]
実施例2のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル層Aとポリエステル層Bの厚みの比が48:1となるように調整した以外は実施例2と同様にして、厚さ4.9μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0088】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0089】
[実施例6]
実施例1のポリエステルbの製造方法において、不活性粒子Bを数平均粒径(材料平均粒径)200nmのポリスチレン球に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0090】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0091】
[実施例7]
実施例1のポリエステルbの製造方法において、不活性粒子Bを数平均粒径(材料平均粒径)800nmのポリスチレン球に変更し、ポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル層Aとポリエステル層Bの厚みの比が21:1になるように調整した以外は実施例1と同様にして、厚さ4.4μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0092】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0093】
[実施例8]
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、表面A側への塗布水溶液の組成を以下のように変更した。
【0094】
表面A側への塗布水溶液の組成(皮膜層I)
水 99.3質量%(小数点以下2位で四捨五入)
メチルセルロース 0.13質量%
水溶性ポリエステル樹脂(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1重縮合体) 0.60質量%
材料平均粒径60nmの球状シリカ粒子 1.4×10−3質量%
その他は実施例1と同様にして、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0095】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0096】
[実施例9]
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、表面A側への塗布水溶液の組成を以下のように変更した。
【0097】
表面A側への塗布水溶液の組成(皮膜層I)
水 99.3質量%(小数点以下2位で四捨五入)
メチルセルロース 0.13質量%
水溶性ポリエステル樹脂(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1重縮合体) 0.60質量%
材料平均粒径8nmの球状シリカ粒子 1.0×10−3質量%
その他は実施例1と同様にして、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0098】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0099】
[実施例10]
実施例2のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル層Bの外側へ塗布する水溶液を固形分塗布量が11mg/mとなるよう変更した以外は実施例2と同様にして、厚さ5.2μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0100】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0101】
[実施例11]
実施例2のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル層Bの外側へ塗布する水溶液を固形分塗布量が48mg/mとなるよう変更した以外は実施例2と同様にして、厚さ5.2μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0102】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0103】
[比較例1]
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル層Aとポリエステル層Bの厚みの比が14:3となるように調整した以外は実施例1と同様にして、厚さ3.4μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0104】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0105】
[比較例2]
実施例1のポリエステルbの製造方法において、不活性粒子Bを数平均粒径(材料平均粒径)80nmのポリスチレン球に変更し、ポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル層Aとポリエステル層Bの厚みの比が21:1となるように調整した以外は実施例1と同様にして、厚さ4.4μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0106】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0107】
[比較例3]
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、表面A側への塗布水溶液の組成を以下のように変更した。
【0108】
表面A側への塗布水溶液の組成(皮膜層I)
水 99.3質量%(小数点以下2位で四捨五入)
メチルセルロース 0.13質量%
水溶性ポリエステル樹脂(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1重縮合体) 0.60質量%
材料平均粒径65nmの球状シリカ粒子 1.4×10−3質量%
その他は実施例1と同様にして、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0109】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0110】
[比較例4]
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、表面A側への塗布水溶液の組成を以下のように変更した。
【0111】
表面A側への塗布水溶液の組成(皮膜層I)
水 99.3質量%(小数点以下2位で四捨五入)
メチルセルロース 0.13質量%
水溶性ポリエステル樹脂(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1重縮合体) 0.60質量%
材料平均粒径4nmの球状シリカ粒子 1.0×10−3質量%
その他は実施例1と同様にして、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0112】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0113】
[比較例5]
実施例1のポリエステルbの製造方法において、不活性粒子Bを数平均粒径(材料平均粒径)1,100nmのポリスチレン球に変更した。
【0114】
その他は実施例1と同様にして、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0115】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0116】
[比較例6]
実施例2のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル層Bの外側へ塗布する水溶液を固形分塗布量が52mg/mとなるよう変更した以外は実施例2と同様にして、厚さ5.2μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0117】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0118】
[比較例7]
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ロール状に巻き取る時の張力、面圧を実施例1比1.5倍に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ4.8μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0119】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
表2から明らかなように、本発明によるポリエステルフィルムはベースフィルムの生産性にも優れており、ベースフィルムから製造された磁気記録テープは、電磁変換特性に非常に優れ、繰り返し走行させても走行耐久性の良好な磁気記録テープであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル層Aとポリエステル層Bとを有し、ポリエステル層Aのポリエステル層Bと反対側の表面Aに皮膜層Iを有し、ポリエステル層Bのポリエステル層Aとは反対側の表面を表面Bとする積層フィルムであって、以下の(a)〜(d)を満足する磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
(a)表面Aに設ける皮膜層Iは、平均粒径5〜60nmの不活性粒子Iが含まれ、皮膜層I上の平均面粗さRaが2〜6nmで、皮膜層I上の深さ7nm以上の凹みが5,000個/mm以下である。
(b)ポリエステル層Aは、実質的に不活性粒子を含有しないポリエステル層で、層厚みが3.0μm以上である。
(c)ポリエステル層Bは、平均粒径0.1〜1.0μmの不活性粒子Bを含有するポリエステル層である。
(d)表面Bは、平均面粗さRaが8〜20nm、かつ十点平均面粗さRzが300nm以下である。
【請求項2】
表面Bに10〜50mg/mの固形分質量にて有機化合物からなる被覆層IIが設けられている、請求項1に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
不活性粒子Bの平均粒径dB(μm)と、ポリエステル層Bの厚みtB(μm)が下記式を満足する、請求項1または2に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
0.2≦dB /tB ≦3
【請求項4】
総厚みが4〜9μmである、請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを構成成分として含んでいる、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2013−25847(P2013−25847A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160490(P2011−160490)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】