説明

磁気記録ヘッド、磁気記録再生装置および磁気記録ヘッド作製方法

【課題】データを正確に記録させることを課題とする。
【解決手段】磁気記録ヘッドは、磁気記憶媒体の円周方向に沿ってスリットが設けられた主磁極と、当該主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルとを有し、磁気記憶媒体にデータを記録させる場合に、磁性ドットに対応する主磁極にかかるコイルの電流を強くし、もう一方の主磁極にかかるコイルの電流を弱くすることにより、非対称な磁界を発生させてライトマージンを増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録ヘッド、磁気記録再生装置および磁気記録ヘッド作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録再生装置の大容量化に伴って、磁気記憶媒体の記録密度の向上が進められている。高い記録密度を有する媒体としては、構造的にパターン化された記憶用領域を有するビットパターンドメディアがある。
【0003】
一般的な正方格子配置のビットパターンドメディアにおいては、磁気記録ヘッドによって書き込まれる1ビット(1つの磁性ドット)のアスペクト比が4〜7程度であり、磁性ドットは、ダウントラック方向(円周方向)よりもクロストラック方向(半径方向)に細長い形状となっている。また、アスペクト比が大きい場合には、磁性ドットがより高密度化されていることから、磁気記録再生装置におけるデータ転送量(データアクセス速度)が大きいということになる。
【0004】
ところが、正方格子配置のビットパターンドメディアでは、磁性ドット間の溝を作製する技術や、ライト処理において隣接する磁性ドットをイレーズしないようにするための磁性ドット間の幅の広さなどの制約により、より高アスペクト比の磁性ドットを加工することが困難である。
【0005】
そこで、最近では、自己組織配列材料などを用いて、ダウントラック方向に配列された磁性ドットを形成し、隣接する磁性ドット列に含まれる磁性ドットが1/2ピッチずつずれた千鳥配置のビットパターンドメディアが提案されている。そして、千鳥配置された複数の磁性ドット列を1トラックとして、複数の磁性ドット列に含まれる磁性ドットに順次記録再生を行なう様々な磁気記録再生装置が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2008−130210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術では、データを正確に記録させることができないという課題がある。具体的には、1/2ピッチずつずれた千鳥配置によるビットパターンドメディア(図6−1参照)では、正方格子配置によるビットパターンドメディア(図6−2参照)と比較して、ライトマージンが1/2となる。なお、図6−1は、従来技術に係る千鳥配置でのライトマージンを示す図であり、図6−2は、従来技術に係る正方格子配置でのライトマージンを示す図である。
【0008】
また、ライトマージンは、磁気記録ヘッドの主磁極によって発生される磁界の分布や、隣接する磁性ドット間の幅の広さなどによって変動し、低いライトマージン内においては、媒体にデータを正確に記録できない場合がある。例えば、図7に示すように、千鳥配置によるビットパターンドメディアの磁性ドットAに対するライトマージンは、磁性ドット間の距離と同一の「a」となる。なお、図7は、従来技術に係る磁気記録ヘッドによるライトマージンを示す図である。
【0009】
この結果、媒体の記録密度を向上させても、低いライトマージン内で記録可能な磁気記録ヘッドを提供することが困難であるため、上述した従来技術では、データを正確に記録させることができない。
【0010】
そこで、本発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、データを正確に記録させることが可能である磁気記録ヘッド、磁気記録再生装置および磁気記録ヘッド作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本願の開示する磁気記録ヘッドは、データを記憶する磁気記憶媒体にデータを読み書きする磁気記録ヘッドであって、前記磁気記憶媒体の円周方向に沿って分割された主磁極と、前記分割された主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルと、を有することを要件とする。
【発明の効果】
【0012】
本願の開示する磁気記録ヘッド、磁気記録再生装置および磁気記録ヘッド作製方法によれば、データを正確に記録させることが可能であるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る磁気記録ヘッド、磁気記録再生装置および磁気記録ヘッド作製方法の実施例を説明する。
【実施例】
【0014】
[磁気記録再生装置の構成]
最初に、図1を用いて、本実施例に係る磁気記憶媒体10を有する磁気記録再生装置1の構成を説明する。図1は、本実施例に係る磁気記録再生装置1の構成例を示す図である。
【0015】
具体的には、磁気記録再生装置1は、データを記憶する磁気記憶媒体10と、当該磁気記憶媒体10にデータを読み書きする磁気記録ヘッド13とを有し、当該磁気記録ヘッド13が、磁気記憶媒体10の円周方向に沿って分割された主磁極と、分割された主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルとを有する。
【0016】
例えば、図1に示すように、磁気記録再生装置1における磁気記憶媒体10は、各種情報を高密度に記憶する垂直磁気記憶媒体であり、スピンドルモータ11により回転駆動される。
【0017】
そして、磁気記憶媒体10の読み書きは、ヘッド支持機構であるアーム12の一方の先端に設けられた磁気記録ヘッド13によって行なわれる。磁気記録ヘッド13は、磁気記憶媒体10の回転により生じる揚力によって、当該磁気記憶媒体10の表面からわずかに浮いた状態を維持して読み書きを実行する。
【0018】
また、アーム12のもう一方の端に設けられたヘッド駆動機構であるボイスコイルモータ14の駆動により、アーム12が軸15を中心とする円弧上を回動し、磁気記録ヘッド13が磁気記憶媒体10のトラック横断方向にシーク移動し、読み書きする対象のトラックを変更する。
【0019】
[磁気記録ヘッドの構造]
次に、図2を用いて、本実施例に係る磁気記録ヘッド13の構造を説明する。図2は、本実施例に係る磁気記録ヘッド13の構造例を示す図である。
【0020】
磁気記録ヘッド13は、例えば、データを記憶する磁気記憶媒体10にデータを読み書きするためのものであり、磁気記憶媒体10と磁気記録ヘッド13とを有する磁気記録再生装置1などに配設される。また、例えば、磁気記録ヘッド13は、磁気記憶媒体10にデータを記録するのに要する磁界を発生させる主磁極と、当該主磁極を励磁し、電流が流されるコイルとを有する。
【0021】
上述した構成において、磁気記録ヘッド13は、磁気記憶媒体10の円周方向に沿って分割された主磁極と、分割された主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルとを有する。
【0022】
具体的に説明すると、磁気記録ヘッド13は、図2に示すように、磁気記憶媒体10の円周方向に沿ってスリットが設けられ、主磁極が二分割されている。そして、磁気記録ヘッド13は、二分割された主磁極それぞれを励磁するためのコイル20とコイル21とを有する。なお、トレーリングシールドは、主磁極のトレーリングエッジから発生される磁界の一部を吸収するものである。
【0023】
[コイルに流される電流]
次に、図3および図4を用いて、本実施例に係る磁気記録ヘッド13によるライトマージンと、本実施例に係るコイル20およびコイル21に流される電流の強さを説明する。また、以下では、千鳥配置の磁気記憶媒体10として説明するが、どのような配置の磁気記憶媒体であっても良い。なお、図3は、本実施例に係る磁気記録ヘッド13によるライトマージンを示す図であり、図4は、本実施例に係る磁性ドットに応じたコイル20およびコイル21に流される電流の波形を示す図である。
【0024】
具体的には、複数のコイルは、磁気記憶媒体10にデータが記録される場合に、磁気記憶媒体10の磁性ドットの配置に応じて流れる電流を変更させる。また、分割された主磁極は、磁気記憶媒体10にデータを記憶するのに要する磁界を発生させる。
【0025】
例えば、磁気記録ヘッド13は、図3に示すように、主磁極を励磁するコイル20およびコイル21に流される電流の大きさを変えることによって、磁性ドットXを含むドット列(上側)と、磁性ドットYを含むドット列(下側)とにかかる磁界の分布を変え、磁気記憶媒体10にデータを記録させる。
【0026】
詳細に説明すると、磁気記録ヘッド13は、磁性ドットXにデータを記録する場合に、図3の上側の主磁極にかかるコイルの電流を強くし、図3の下側の主磁極にかかるコイルの電流を弱くする。また、磁気記録ヘッド13は、磁性ドットYにデータを記録する場合に、図3の下側の主磁極にかかるコイルの電流を強くし、図3の上側の主磁極にかかるコイルの電流を弱くする。
【0027】
言い換えると、磁気記録ヘッド13は、図4に示すように、記録したい磁性ドット側の主磁極にかかるコイルの電流を強くし、もう一方の主磁極にかかるコイルの電流を弱くして、非対称な磁界を発生させる。なお、図4では、一方向に磁化させているが、逆向きに磁化させたい場合には、コイル20およびコイル21の電流の向きを逆方向にすれば良い。
【0028】
このことにより、本実施例に係る磁気記録ヘッド13によるライトマージンは、図7に示した磁性ドット間の距離と同一である「a」よりも、図3に示した「b」だけ増加する。つまり、本実施例に係る磁気記録ヘッド13によるライトマージンは、「a+b」となり、例えば、「a=25nm[ナノメートル]」および「b=5nm」である場合に、20%ほどライトマージンを増加させることができる。
【0029】
また、一般的に、磁気記憶媒体10にデータを記録させる場合には、所定以上の磁界がなければ磁性ドットにデータを記録させることができない。このことから、主磁極によって発生される磁界分布においては、データを記録する磁性ドットにかかる二分割された一方の主磁極のみによる磁界だけではデータの記録に要する磁界が得られないため、もう一方の主磁極を利用して、データの記録に要する磁界に達するようにする。
【0030】
[磁気記録ヘッド作製方法]
次に、図5を用いて、上記の磁気記録ヘッド13の作製方法を説明する。図5は、本実施例に係る磁気記録ヘッド13の作製方法を説明するための図である。
【0031】
具体的には、磁気記憶媒体10の円周方向に沿って分割された主磁極を作製する主磁極作製工程と、分割された主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルを配置するコイル配置工程とを含む。
【0032】
例えば、図5に示すように、二つの主磁極の間(中心部)にレジストを配置して、スパッタ法などにより材料を積層させ、分割された主磁極を作製する。そして、分割された二つの主磁極を励磁するためのコイルを配置させることにより、磁気記録ヘッド13を作製する。なお、磁気記録ヘッド13の作製にかかるその他の工程は、一つの主磁極を有する磁気記録ヘッドの一般的な作製工程と同様であるためその説明を省略する。
【0033】
[本実施例による効果]
上述したように、磁気記録ヘッド13は、磁気記憶媒体10の円周方向に沿って二分割された主磁極と、二分割された主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルとを有し、磁気記憶媒体10にデータを記録させる場合に、磁気記憶媒体10の記録したい磁性ドット列に応じた主磁極の磁界を強くし、もう一方の主磁極の磁界を弱くすることにより、ライトマージンを増加させるので、データを正確に記録させることが可能である。
【0034】
つまり、磁気記録ヘッド13は、特に、高い記録密度を有する千鳥配置のビットパターンドメディアにデータを記録させる場合に、分割された主磁極によって発生される磁界の分布を変えることでライトマージンを高く保つことができるので、一様な磁界を発生させる主磁極を用いる従来技術と比較して、データを正確に記録させることが可能である。
【0035】
例えば、磁気記録ヘッド13は、磁気記憶媒体10の円周方向に沿ってスリットが設けられ、主磁極が二分割されている。そして、磁気記録ヘッド13は、二分割された主磁極それぞれを励磁するためのコイル20とコイル21とを有する。また、磁気記録ヘッド13は、磁性ドットXを含むドット列にデータを記録する場合に、当該磁性ドットXに応じた主磁極にかかるコイルの電流を強くし、もう一方の主磁極にかかるコイルの電流を弱くすることにより、非対称な磁界を発生させてライトマージンを増加させる。この結果、磁気記録ヘッド13は、磁気記憶媒体10にデータを正確に記録させることができる。
【0036】
なお、本実施例では、主磁極を二分割にして、二分割された主磁極それぞれを励磁するコイルを配置させる場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、データを記録させる磁気記憶媒体の磁性ドットの配列に応じて主磁極の分割数を変え、当該分割数に応じて主磁極を励磁するコイルを配置させることもできる。つまり、主磁極によって発生される磁界の分布に起因してライトマージンが低くなる従来技術と比較して、磁気記憶媒体の磁性ドットの配置を加味して主磁極を分割し、発生される磁界の分布を変えることで、様々な磁気記憶媒体に対応してライトマージンを高く保ち、データを正確に記録させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施例に係る磁気記録再生装置の構成例を示す図である。
【図2】本実施例に係る磁気記録ヘッドの構造例を示す図である。
【図3】本実施例に係る磁気記録ヘッドによるライトマージンを示す図である。
【図4】本実施例に係る磁性ドットに応じたコイルに流される電流の波形を示す図である。
【図5】本実施例に係る磁気記録ヘッドの作製方法を説明するための図である。
【図6−1】従来技術に係る千鳥配置でのライトマージンを示す図である。
【図6−2】従来技術に係る正方格子配置でのライトマージンを示す図である。
【図7】従来技術に係る磁気記録ヘッドによるライトマージンを示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 磁気記録再生装置
10 磁気記憶媒体
11 スピンドルモータ
12 アーム
13 磁気記録ヘッド
14 ボイスコイルモータ
15 軸
20、21 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを記憶する磁気記憶媒体にデータを読み書きする磁気記録ヘッドであって、
前記磁気記憶媒体の円周方向に沿って分割された主磁極と、
前記分割された主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルと、
を有することを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項2】
前記複数のコイルは、前記磁気記憶媒体にデータが記録される場合に、前記磁気記憶媒体の磁性ドットの配置に応じて流れる電流を変更させることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記分割された主磁極は、前記磁気記憶媒体にデータを記録するのに要する磁界を発生させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気記録ヘッド。
【請求項4】
データを記憶する磁気記憶媒体と、当該磁気記憶媒体にデータを読み書きする磁気記録ヘッドとを有する磁気記録再生装置であって、
前記磁気記録ヘッドが、
前記磁気記憶媒体の円周方向に沿って分割された主磁極と、
前記分割された主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルと、
を有することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項5】
データを記憶する磁気記憶媒体にデータを読み書きする磁気記録ヘッドの作製方法であって、
前記磁気記憶媒体の円周方向に沿って分割された主磁極を作製する主磁極作製工程と、
前記分割された主磁極それぞれを励磁するための複数のコイルを配置するコイル配置工程と、
を含むことを特徴とする磁気記録ヘッド作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−102758(P2010−102758A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271318(P2008−271318)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】