説明

磁気記録ヘッド、磁気記録装置

【課題】高周波磁界を発生する発振器を用いるマイクロ波アシスト記録において、高い高周波磁界強度と有効記録磁界強度が得られる磁気記録ヘッドを実現する。
【解決手段】本発明に係る磁気記録ヘッドは、主磁極と、磁気記録媒体に高周波磁界を印加する高周波磁界発生層を有する発振器と、主磁極のトレーリング側に設けられたトレーリングシールドとを備え、高周波磁界発生層と主磁極との間の距離、および高周波磁界発生層とトレーリングシールドとの間の距離が、ともに3nm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に対し高周波磁界を印加することにより磁化反転を誘導する機能を有する磁気記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(Hard Disk Drive)などの磁気記録再生装置において、年率40%程度の急速な記録密度の増加が求められており、2013年ごろには面記録密度は1Tbits/inchに達すると予想されている。
【0003】
面記録密度を向上させるためには、磁気記録ヘッドおよび再生ヘッドの微細化と磁気記録媒体の粒径の微細化が必要である。しかし、磁気記録ヘッドの微細化により記録磁界強度は減少するため、記録能力が不足することが予測される。また、磁気記録媒体の粒径が微細化すると熱揺らぎの問題が顕在化するため、粒径の微細化と同時に保磁力や異方性エネルギーを増加させる必要があり、これらを同時に達成することが困難になる。したがって、面記録密度を向上させるためには、記録能力を向上させることが鍵となる。
【0004】
そこで、熱や高周波磁界を印加することにより、情報を記録するときのみ一時的に磁気記録媒体の保磁力を低下させる、アシスト記録方式が提案されている。下記特許文献1には、「熱」を印加することによるアシスト記録方式が記載されている。
【0005】
一方、「マイクロ波アシスト記録(MAMR)」と呼ばれる、高周波磁界を印加することによるアシスト記録方式が、近年着目されている。MAMRでは、強力なマイクロ波帯の高周波磁界をナノメートルオーダーの領域に印加して記録媒体を局所的に励起し、磁化反転磁界を低減して情報を記録する。同方式では磁気共鳴を利用するため、記録媒体の異方性磁界に比例する強い高周波磁界を用いないと、磁化反転磁界を低減する効果が十分に得られない。
【0006】
下記特許文献2には、高周波アシスト磁界を発生させるため、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)に類似する、積層膜を電極で挟んだ構造の高周波発振器が開示されている。高周波発振器は、GMR構造内に発生するスピン揺らぎをもつ伝導電子を、非磁性体を介して磁性体に注入することにより、微小な高周波振動磁界を発生させることができる。
【0007】
下記非特許文献1には、特許文献2と同様に、スピントルクを用いたマイクロ波発振が報告されている。
【0008】
下記非特許文献2には、垂直磁気ヘッドの主磁極に隣接した磁気記録媒体の近傍に、スピントルクによって高速回転する高周波磁界発生層(Field Generation Layer:以下、FGLと略す)を配置してマイクロ波(高周波磁界)を発生せしめ、磁気異方性の大きな磁気記録媒体に情報を記録する技術が開示されている。
【0009】
下記非特許文献3には、発振器を、磁気記録ヘッドの主磁極と主磁極の後方側(トレーリング側)のシールドの間に配置させ、高周波磁界の回転方向を記録磁界極性に応じて変化させることにより、磁気記録媒体の磁化反転を効率的にアシストする技術が開示されている。
【0010】
シールドは、現行製品の磁気ヘッドにも広く採用されており、現行製品ではヘッド進行方向の記録磁界勾配を向上させるために用いられる。一方、MAMRでは、記録磁界極性に応じて発振器の高周波磁界の回転方向を変化させるためにシールドが用いられる。
【0011】
磁化反転を効率よく生じさせるためには、発振器の高周波磁界の回転方向が、反転させたい磁気記録媒体の磁化の才差運動方向と同じ方向である方が望ましい。そのため、非特許文献3に記載されている技術では、磁化反転を効率よく生じさせる回転方向の高周波磁界を用いて、磁化反転をアシストすることができる。
【0012】
なお、簡単のために以後、主磁極とトレーリングシールドの間に高周波発振器を配置したマイクロ波アシストヘッドをMAMRヘッド、高周波発振器を除いた主磁極とトレーリングシールドから構成される部分を記録ヘッドと呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7-244801号公報
【特許文献2】特開2005-025831号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献l】Nature, Vol. 425, pp.380 (2003)
【非特許文献2】”Microwave Assisted Magnetic Recording”, J-G. Zhu et.al, IEEE trans. Magn., Vol. 44, NO.1, pp.125 (2008)
【非特許文献3】”Medium damping constant and performance characteristics in microwave assisted magnetic recording with circular as field”, Y. Wang et. al, Journal of Applied Physics, Vol. 105, pp.07B902 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
MAMRで1Tbits/inch程度の記録密度を実現するためには、強力な高周波磁界をナノメートルオーダーの領域に照射して磁性記録媒体を局所的に磁気共鳴状態にし、磁化反転磁界を低減して情報を記録する必要がある。
【0016】
特許文献1、2、および非特許文献1に開示される技術では、発振する高周波磁界の周波数が低すぎるか、または磁界強度が弱すぎるという理由により、1Tbits/inch程度の高い記録密度を実現することは困難である。
【0017】
非特許文献文献2や3に開示された技術を用いれば、1Tbits/inch以上の記録密度を実現できる可能性があることが報告されている。そこで本発明者等も、非特許文献3に記載されているMAMR方式の技術を用いることにより、どの程度の記録密度向上の可能性があるのかを検討した。具体的にはLLG(Landau−Liftshitz−Gilbert−Langevin equations)方程式を用いたマイクロマグネティックシミュレーションにより、記録ヘッドの主磁極から発生する記録磁界強度と高周波磁界発生層から発生する高周波磁界強度を計算した。計算の前提として、記録ヘッドと高周波磁界発生層の間の磁気的な相互作用を考慮した現実的な環境を想定した場合と、磁気的な相互作用を仮想的に無視した場合の2つを仮定した。MAMRヘッド構造は非特許文献2や非特許文献3に記載されるものとした。
【0018】
シミュレーションの結果、記録ヘッドと高周波磁界発生層の間の磁気的な結合を考慮した場合は、記録ヘッドの主磁極からは十分に強い記録磁界強度が発生するが、高周波磁界発生層からの高周波磁界強度は非常に小さくなった。一方で、主記録ヘッドと高周波磁界発生層の間の磁気的な結合を考慮しなかった場合には、高周波磁界発生層からは非特許文献2や3に記載されるとおり約2kOeもの高い高周波磁界を発生した。これは、今回計算に用いたMAMRヘッドの高周波磁界発生層と主磁極が接しているために、高周波磁界発生層と主磁極の間の磁気的な結合が大きく、高周波磁界発生層の発振が阻害されたためである。したがって、現実的には記録ヘッドと高周波磁界発生層の間の磁気的な交換結合による影響により、高周波磁界発生層の磁化が固着し、十分な高周波磁界強度を実現できない。
【0019】
高周波磁界発生層と記録ヘッドの主磁極間の磁気的な結合を抑制するためには、高周波磁界発生層をトレーリング端に設ければよいとも考えられる。しかし、この場合も高周波磁界強度は向上しない。この要因は、高周波磁界発生層とトレーリングシールドの間の磁気的な結合により、高周波磁界発生層の発振が阻害されるためである。したがって、高周波磁界発生層と主磁極との間の磁気的結合、および高周波磁界発生層とトレーリングシールドとの間の磁気的結合を、ともに低減する必要がある。
【0020】
さらに、高周波磁界発生層を主磁極から遠い位置に配置すると、上記問題以外に、高周波磁界の印加による実効的な記録磁界強度を向上させる効果が激しく減衰する問題があることも、検討により分かった。実際に、高周波磁界発生層と主磁極の間の距離が約30nmであるMAMRヘッドを用いて、仮想的に高周波磁界発生層と記録ヘッドの間の磁気結合が十分に小さい仮定の基に数値計算を実施した結果、記録した信号の信号品質は非常に悪かった。これは、高周波磁界発生層の位置が主磁極から遠すぎる条件では、高周波磁界が最も高くなる位置が主磁極よりもかなり遠くなってしまうためである。
【0021】
以上の通り、高周波磁界発生層は主磁極に近すぎても遠すぎても、高周波磁界強度や有効記録磁界強度の減衰を招き、高記録密度を実現することができない。
【0022】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、高周波磁界を発生する発振器を用いるマイクロ波アシスト記録において、高い高周波磁界強度と有効記録磁界強度が得られる磁気記録ヘッドを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る磁気記録ヘッドは、主磁極と、磁気記録媒体に高周波磁界を印加する高周波磁界発生層を有する発振器と、主磁極のトレーリング側に設けられたトレーリングシールドとを備え、高周波磁界発生層と主磁極との間の距離、および高周波磁界発生層とトレーリングシールドとの間の距離が、ともに3nm以上である。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る磁気記録ヘッドによれば、高周波磁界発生層と記録ヘッドとの間の相互作用を適切に制御することにより、高い記録密度を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態1に係る磁気記録装置の構成例を示す図である。
【図2】記録ヘッド部100の詳細構成を示す図である。
【図3】リーディング方向に対抗する面から見たときの主磁極120と発振器110の模式図を示す。
【図4】後述の図6に示す条件Bの構成例を示す図である。
【図5】後述の図6に示す条件Cの構成例を示す図である。
【図6】FGL111の膜厚および位置を変化させたときにFGL111から発生する高周波磁界強度(Hac)と、d_FMおよびd_FTとの関係を示す図である。
【図7】式1を満たす範囲を示す図である。
【図8】式2を満たす範囲を示す図である。
【図9】実施形態2に係る磁気記録装置の構成例を示す図である。
【図10】実施形態2における記録ヘッド部100の詳細構成を示す図である。
【図11】実施形態3に係る記録ヘッド部100の詳細構成を示す図である。
【図12】MAMRヘッドの有効磁界強度の増幅率とd_FMの関係を示す図である。
【図13】主磁極120から磁気記録媒体300に向かって発生する記録磁界の磁束分布の模式図である。
【図14】磁界角度とダウントラック方向位置の関係を示す。
【図15】高周波アシストによる有効磁界強度の増幅率とd_FMを、TGとHUSの比で規格化した値の関係を示す。
【図16】実施形態4に係る磁気記録再生ヘッドの構成例を示す図である。
【図17】実施形態5に係る磁気記録再生装置1000の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。理解を容易にするため、以下の図において同じ機能部分には同一の符号を付して説明する。
【0027】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る磁気記録装置の構成例を示す図である。ここでは、磁気記録再生ヘッド周辺の概略を示した。なお、本明細書で説明する図面は、磁気記録再生ヘッドの全体構成を示すため、各部の縮尺は実際のヘッドの縮尺と必ずしも同じではないことを付言しておく。その他の部位についても同様である。
【0028】
磁気記録再生ヘッドは、記録ヘッド部100と再生ヘッド部200を備える、記録再生分離ヘッドである。
【0029】
記録ヘッド部100は、発振器110、主磁極120、副磁極130a、トレーリングシールド130b、コイル160を備える。発振器110は、高周波磁界を発生する。主磁極120は、記録ヘッド磁界を発生する。トレーリングシールド130bは、発振器110の磁化回転方向を制御するために設けられている。コイル160と副磁極130aは、主磁極120に磁場を励磁する。
【0030】
磁気記録再生ヘッドの媒体に対する進行方向をリーディング方向と呼び、磁気記録再生ヘッドの媒体に対する進行方向と反対の方向をトレーリング方向と呼ぶ。図1には示していないが、主磁極120のトラック幅方向の外側にサイドシールドを設けてもよい。サイドシールドは主磁極120の両側に設けてもよいし、外側と内側のどちらか一方にだけ設けてもよい。
【0031】
図1では、磁気記録媒体300に対する磁気記録再生ヘッドの進行方向から見て、再生ヘッド部200が先頭で記録ヘッド部100が後方となるように配置しているが、磁気記録再生ヘッドの進行方向から見て記録ヘッド部100が先頭で再生ヘッド部200が後方になるように配置を逆転した構成でもよい。
【0032】
再生ヘッド部200は、再生センサ210、下部磁気シールド220、上部磁気シールド230を備える。再生センサ201は、記録信号を再生する役割を担うことさえできれば任意の構成を採用することができる。再生センサ210の構成としては、いわゆるGMR(Giant Magneto−Resistive)効果を有する再生センサでもよいし、TMR(Tunneling Magneto−Resistive)効果を有する再生センサでもよいし、EMR(Electro Mechanical Resonant)効果を有する再生センサでもよい。また、外部磁界に対して逆極性の応答をする2つ以上の再生センサを有するいわゆる差動型再生センサでもよい。下部磁気シールド220と上部磁気シールド230は、再生信号品質を向上させるために重要な役割を担うため、設けることが好ましい。図1には特に記載していないが、上部磁気シールド230は記録ヘッド部100の補助磁極としての役割を兼ね備えることができる。
【0033】
図2は、記録ヘッド部100の詳細構成を示す図である。発振器110は、主磁極側から順に、FGL111、中間層112、スピン注入固定層113を有する。FGL111は、高周波磁界を発生する。中間層112は、スピン透過性の高い材料を用いて構成されている。スピン注入固定層113は、FGL111にスピントルクを与える。また、FGL111と主磁極120の間の距離(d_FM)を適切に制御するため、FGL111と主磁極120の間に、適切な膜厚に設定した磁気結合遮断層140を設ける。
【0034】
本実施形態1における構成例では、各層の厚さはそれぞれ、磁気結合遮断層140=7nm、FGL111=10nm、中間層112=3nm、スピン注入固定層113=10nmである。したがって、主磁極120とトレーリングシールド130bとの間の距離(TG)は、30 nmである。
【0035】
本実施形態1において、主磁極120の材料はFe70Co30であり、飽和磁化(M_MP)は2.4Tである。トレーリングシールド130bの材料はNiFeであり、飽和磁化(M_TS)は1.2Tである。主磁極120やトレーリングシールド130bの材料としては、後述する式1と式2を満たす範囲であれば、磁性体であることに加えて特に条件はないが、主磁極120の材料は、M_MPが大きいほど高い記録磁界強度を発生する上で有利である。また、トレーリングシールド130bの材料は、透磁率が高いほうが記録電流極性の反転に伴うFGL111への磁界印加応答が速くなるので有利である。
【0036】
本実施形態1において、磁気結合遮断層140の材料はTaである。磁気結合遮断層140の材料としては、非磁性体の導電性材料である以外に格別の制限はなく、例えばAu、Ag、Pt、Ta、Ir、Al、Si、Ge、Tiなどから任意に選択することができる。
【0037】
本実施形態1において、FGL111の材料はFe70Co30である。Fe70Co30の飽和磁化は2.4Tであり、高い高周波磁界を発生することができる。FGL111の材料としては、磁性体であり、後述の式1と式2を満たす範囲でさえあれば、FGL111としての役割を担うことができる。例えば、FeCo合金の他に、NiFe合金、CoFeGe、CoMnGe、CoFeAl、CoFeSi、CoMnSi、CoFeSiなどのホイスラー合金、TbFeCoなどのRe−TM系アルモファス系合金、CoCr系合金などでもよい。また、CoIrなど負の垂直異方性エネルギーを持つ材料でもよいし、Co/Ptなどの正の垂直異方性エネルギーを持つ材料でもよい。FGL111は、異なる材料の層を複数積層した構成でもよいし、異なる飽和磁化や異方性エネルギーの大きさが異なる材料を組み合わせたものでもよい。
【0038】
本実施形態1において、中間層112の材料はCuである。中間層112の材料としては、非磁性体の導電性材料であることが好ましく、例えばAu、Ag、Pt、Ta、Ir、Al、Si、Ge、Tiなどを用いることができる。
【0039】
本実施形態1において、スピン注入固定層113の材料はCo/Ptである。また、本実施形態1で用いたCo/Ptの垂直異方性磁界Hkは8kOeである。スピン注入固定層113の材料として、垂直異方性を持った材料を用いることにより、FGL111の発振を安定させることができる。例えばCo/Ptの他に、Co/Ni、Co/Pd、CoCrTa/Pdなどの人工磁性材料を用いることが好ましい。また、発振の安定性は若干失われるが、FGL111と同様の材料を用いることもできる。
【0040】
図1〜図2には示していないが、スピン注入固定層113の上部に、スピン注入固定層113の凹凸や磁気特性を制御するためのキャップ層を設けてもよい。キャップ層は非磁性導電材料であり、例えばAu、Ag、Pt、Ta、Ir、Al、Si、Ge、Tiなどを用いることができる。
【0041】
図3は、リーディング方向に対抗する面から見たときの主磁極120と発振器110の模式図を示す。発振器110のトラック幅(Two)は40nmであり、主磁極120のトラック幅(Pw)は45nmである。TwoとPwの値は、高い記録密度が得られるように任意に設定することができる。発振器の素子高さ方向の幅(SHo)は40nmである。SHoの値は、FGL111から適切な高周波磁界強度と周波数が得られるように、適切に設計することができる。主磁極120の高さ方向に底面に対して略垂直な長さ(TH)は、60nmである。THの値は、適切な記録磁界強度が得られるように適切に設計することができる。さらに、浮上面から見てTHよりも上方の部位におけるトラック幅の広がりの大きさも、適切に設定することができる。
【0042】
本発明の特徴は、FGL111と主磁極120の間の磁気的な結合、およびFGL111とトレーリングシールド130bの間の磁気的な結合を抑制できることである。これにより、FGL111の発振が阻害されることによる高周波磁界の劣化を招くことがなく、安定的に高い高周波磁界を媒体に印加することができる。以下に、FGL111と記録ヘッド部100の間の磁気的結合を抑制するための具体的な条件とその効果を説明する。
【0043】
本発明では、FGL111と主磁極120の間の距離(d_FM)、およびFGL111とトレーリングシールド130bの間の距離(d_FT)がともに3nm以上になるような構成とする。図2で説明した構成例におけるd_FMは、実質的に磁気結合遮断層140の膜厚となるので、7nmである。また、d_FTは実質的には中間層112とスピン注入固定層113の膜厚の和となるので、13nmである。よって、図2で説明した構成例では、d_FMとd_FTはともに3nm以上となる。
【0044】
以下では、d_FMとd_FTをこのように設定することにより得られる効果とその範囲を検証するため、図2に示した構成例を条件Aとし、比較のため以下の図4に示す条件Bと図5に示す条件Cを設定して数値計算を実施した。なお、d_FMやd_FTを自由に制御できるように、仮想的に中間層112とスピン注入固定層113がなくてもFGL111にスピントルクが印加できるものと仮定して数値計算を実施することとした。そのため、図4〜図5において、中間層112またはスピン注入固定層113が存在しない場合もある。TGは30nmで固定とし、FGL111の膜厚は10nmとした。
【0045】
図4は、後述の図6に示す条件Bの構成例を示す図である。条件Bにおいて、d_FMは2nmであり、磁気結合遮断層140は主磁極120側に配置している。したがって、d_FM=2nm、d_FT=18nmとなる。
【0046】
図5は、後述の図6に示す条件Cの構成例を示す図である。条件Cにおいて、d_FMは1nmであり、磁気結合遮断層140はトレーリングシールド130b側に配置している。したがって、d_FM=19nm、d_FT=1nmとなる。
【0047】
図6は、FGL111の膜厚および位置を変化させたときにFGL111から発生する高周波磁界強度(Hac)と、d_FMおよびd_FTとの関係を示す図である。高周波磁界強度は磁気記録媒体300内に印加される値を示している。
【0048】
条件A〜Cの構成例では、FGL111の飽和磁化(M_FGL)とM_MPはいずれも2.4Tであり、M_TSは1.2Tである。また、M_FGLが1.2T、M_MPが1.8Tの構造における検討結果も併記した。条件Dについては、後述の実施形態2で改めて説明する。
【0049】
図6に示すデータによれば、いずれの条件においても、d_FMとd_FTが3nm以下のときには、Hacが大きく減衰することがわかる。これは、FGL111と主磁極120、あるいはFGL111とトレーリングシールド130bが磁気的に結合することにより、FGL111の磁化が固着し発振が停止してしまうためである。この結果より、d_FMとd_FTを3nm以上にすれば、Hacの減衰を抑制できることが分かる。
【0050】
図6に示すデータ例では、M_MP、M_FGL、M_TSを固定したが、これらの間の比率によっては、d_FMとd_FTをより大きく確保する必要が生じる可能性も考えられる。例えば、M_FGLに対するM_MPの比が変わると、主磁極120とFGL111の間の磁気結合が変化すると考えられる。同様に、M_FGLに対するM_TSの比が変わると、FGL111とトレーリングシールド130bの間の磁気結合が変化すると考えられる。
【0051】
そこで、M_MP、M_FGL、M_TSの値が変化しても、FGL111と主磁極120の間の磁気結合、およびFGL111とトレーリングシールド130bの間の磁気結合を安定的に抑制するためには、下記式1と式2を満たすように、d_FMとd_FTを構成すればよいと考えられる。
【0052】
d_FM≧3(nm)×M_MP/M_FGL ・・・ (式1)
d_FT≧3(nm)×M_TS/M_FGL ・・・(式2)
【0053】
上記式1と式2は、M_FGLが小さいほどFGL111は磁気的結合の影響を受けやすく、また主磁極120やトレーリングシールド130bの飽和磁化が小さいほど磁気的結合磁界は小さくなることを根拠にしている。実際に図6に示すデータ例において、M_FGLが1.2Tの条件では、d_FMやd_FTが比較的大きい場合でもHacが減衰している。
【0054】
図7は、式1を満たす範囲を示す図である。図7において、式2の条件を満たしていることを前提とした。図8は、式2を満たす範囲を示す図である。図8において、式1の条件を満たしていることを前提とした。図7と図8に示すように、式1と式2を満たす範囲であれば、Hacの減衰が起きておらず、高いHacが実現できることが分かる。
【0055】
なお、図7〜図8に示すように、M_FGLが低下すると。Hacが全体的に低下していることが分かる。これは、各構成で実現可能な最大HacはM_FGLに比例するためである。例えば図7には示していないが、M_FGLが0.6Tの構成では最大でもHacは約0.5kOeしか得られず、媒体磁化の反転を効率的にアシストすることは出来ない。媒体の磁化反転をアシストするには最低でもHacが1kOe程度あることが好ましいため、このHacを維持するためにはM_FGLは1.0T以上であることが望ましい。
【0056】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1に係る磁気記録再生ヘッドによれば、FGL111と主磁極120の間の磁気結合、およびトレーリングシールド130bとFGL111の間の磁気結合を抑制することができる。これにより、高いHacを発生させることができる発振器110を搭載したMAMRヘッドを実現し、高い記録密度を達成することができる。
【0057】
<実施の形態2>
図9は、本発明の実施形態2に係る磁気記録装置の構成例を示す図である。ここでは図1と同様に、磁気記録再生ヘッド周辺の概略を示した。本実施形態2では、発振器110と磁気結合遮断層140以外の構成は実施形態1と同様であるため、以下では差異点を中心に説明する。
【0058】
本実施形態2では、FGL111、中間層112、スピン注入固定層113の積層順序が実施形態1とは反対である。また、磁気結合遮断層140はFGL111と主磁極120の間ではなくFGL111とトレーリングシールド130bの間に設けられている。
【0059】
図10は、本実施形態2における記録ヘッド部100の詳細構成を示す図である。本実施形態2では、主磁極120側から順に、スピン注入固定層113、中間層112、FGL111、磁気結合遮断層140を積層する。さらに、実施形態1と同様に、d_FMとd_FTがともに3nm以上になるように各層の膜厚を調整する。これにより、FGL111と主磁極120の間の磁気結合、およびトレーリングシールド130bとFGL111の間の磁気結合を抑制できる。また、実施形態1と同様に、d_FM、d_FT、M_FGL、M_MP、M_TSが式1と式2の関係を満たすようにすれば、より効果的に磁気的な結合を抑制することができる。
【0060】
主磁極120の材料とトレーリングシールド130bの材料は、実施形態1と同様である。FGL111と中間層112も実施形態1と同様の材料および膜厚であり、各層の位置のみが異なる。スピン注入固定層113の材料や特性は実施形態1と同様であるが、膜厚は6nmである。磁気結合遮断層140の材料と特性も実施形態1と同一であるが、膜厚は11nmである。
【0061】
図10に示す構成により、d_FMは9nm、d_FTは11nmとなり、ともに3nm以上となる。また、式1と式2の右辺もそれぞれ3.0と1.5となり、これらの関係を満たす。
【0062】
図6〜図7において、図10に示す構成を条件Dとして併記した。図6〜図7から分かるように、本実施形態2においても、FGL111と主磁極120の間の磁気結合、およびトレーリングシールド130bとFGL11の間の磁気結合を抑制し、Hacの減衰を抑制することができる。
【0063】
本実施形態2では、実施形態1とは異なり、スピン注入固定層113が主磁極120の近くに位置するため、スピン注入固定層113に印加される主磁極120からの磁界強度が大きく、記録電流極性の変化に応じたスピン注入固定層113の磁化反転が早い利点がある。一方で、FGL111は実施形態1の構成よりも主磁極120から遠い位置になるため、Hacが低い位置で記録転移位置が形成され、Hac印加による実効的な記録磁界強度の向上効果が小さくなる。
【0064】
<実施の形態3>
図11は、本発明の実施形態3に係る記録ヘッド部100の詳細構成を示す図である。本実施形態3において、発振器110のスピン注入固定層113の膜厚が20nmである点が、実施形態1とは異なる。その他の構成は実施形態1と同様であるが、本実施形態3では磁気記録媒体300についてより詳細に説明する。
【0065】
磁気記録媒体300は、磁気記録再生ヘッドに近い側から順に、記録層301、中間層302、軟磁性下地層303を有する。
【0066】
本実施形態3において、記録層301はCoCrPt系合金から構成され、膜厚は15nm、飽和磁化(Ms)は300emu/cc、垂直異方性エネルギーは4.5×10erg/ccである。記録層301の材料はCoCrPt系合金の以外でもよいが、垂直磁気異方性を持つ材料であることが好ましい。また、記録層301は異なる垂直異方性エネルギーを持つ複数の層から構成することができる。
【0067】
中間層302は、記録層301と軟磁性下地層303の間の磁気的な結合を抑制するために設けらる。本実施形態3における中間層302の材料はRuであるが、非磁性材料であること以外に制約はない。中間層302の膜厚は25nmである。
【0068】
軟磁性下地層303は、主磁極120から記録層301に印加される記録磁界を向上させる役割を担う。本実施形態3における軟磁性下地層303の材料は、CoFeTaである。軟磁性下地層303の材料は透磁率が高いものが好ましいが、磁性体材料であれば記録層301に印加される記録磁界強度を増加させる役割を担うことができる。
【0069】
磁気記録媒体300には、記録層301や軟磁性下地層303以外の層を加えることができる。例えば、記録層301の上部に、記録層301の腐食や、記録層301と磁気ヘッドスライダが直接接触することによる特性劣化を抑制することを目的とした、保護膜を設けてもよい。
【0070】
図11における磁気記録再生ヘッドと記録層301との間の距離は、5nmである。磁気記録媒体300は、各ビットが連続して存在するいわゆる連続媒体でもよいし、複数のトラック間に記録ヘッドが情報を書き込むことができない非磁性領域が設けられている、いわゆるディスクリートトラックメディアでもよい。また、基板上に、凸状の磁性パターンと磁性パターン間の凹部を充填する非磁性体とを含む、いわゆるパターンド媒体でもよい。
【0071】
本実施形態3では、実施形態1〜2の特徴である、FGL111と主磁極120との間の磁気的な結合を抑制することに加えて、d_FMが12nm以下となるような構成にする。この構成により、FGL111と主磁極120の間の距離が離れすぎることによって起こる、高周波磁界のアシスト効率が低下することを抑制し、有効磁界強度を高く保つことができる。
【0072】
図12は、MAMRヘッドの有効磁界強度の増幅率とd_FMの関係を示す図である。有効磁界の増幅率は、高周波磁界を印加したときの有効磁界強度と高周波磁界を印加しないときの有効磁界強度の比である。この比が大きいほど、高周波アシストが効果的に機能していることになる。
【0073】
d_FMは、磁気結合者断層140、スピン注入固定層113、中間層112の膜厚を制御することにより制御することとした。また、これらの膜厚が変化しても、FGL111と主磁極120の間の磁気結合、およびFGL111とトレーリングシールド130bの間の磁気結合が変化する以外には影響を与えないと仮定して、FGL111から発生する高周波磁界強度や有効磁界を計算した。
【0074】
磁気記録再生ヘッドと軟磁性下地層303との間の距離(HUS)は45nmであり、主磁極120とトレーリングシールド130bとの間の距離(TG)は40nmである。比較のため、HUSを20nmに変更した場合とTGを20nmに変更した場合の記録磁界強度も併記した。
【0075】
図11に示す構成はd_FM=7nmであるので、図12の条件Eに相当する。高周波磁界を印加したときの有効磁界強度は、高周波磁界を印加しないときの2倍に増幅しており、高周波磁界を印加することによる十分な効果が得られていることが分かる。
【0076】
しかし、d_FMが12nmよりも大きい場合は、有効磁界の増幅率は激しく減衰している。たとえば、HUS=45nm、TG=40nm、d_FM=20nmの条件では、増幅率は約1.2倍しかない。したがって、d_FMを12nm以下にすることにより、高周波磁界を印加することによる有効磁界向上効果を十分に生かすことができると考えられる。
【0077】
なお、実施形態1で説明したようにd_FMが3nmよりも小さいと、高周波磁界強度自体が減衰するため、有効磁界の増幅率は小さくなる。よって、本実施形態3においてもd_FMは3nm以下にする必要がある。同様の理由により、本実施形態3においても式1と式2を満たすことがより好ましい。
【0078】
図13は、主磁極120から磁気記録媒体300に向かって発生する記録磁界の磁束分布の模式図である。図13を用いて、d_FMが大きいと有効磁界強度が減衰する理由を説明する。実際には発振器110にも磁束は流れるが、図13では記載を簡単にするために省略している。
【0079】
図13から分かるように、主磁極120の直下では、磁束は記録層301に向かって直角に近い角度で印加される。記録層301の膜面に対する磁束の角度を磁界角度θと定義する。膜面に対して垂直な角度を、θ=90°とする。
【0080】
高周波磁界が記録層301の磁化に対して垂直に印加されるほど、高周波磁界アシストによる媒体の実効的な保磁力は原理的に低下する。よって、記録層301の磁化は膜面に対して垂直方向を向いているほうが、高周波アシストの効率がよい。
【0081】
記録層301の磁化方向は、主磁極120から発生する磁界角度に大きく依存し、磁界角度は90度に近いほど高周波アシストの効率が高く、磁界角度が0度では効果は完全に消失する。主磁極120から記録層301に印加される磁界の磁界角度は、主磁極120に近いほど大きいので、FGL111も主磁極120に近いほどアシスト効率が向上し、有効磁界強度の増幅率が向上するのである。したがって、d_FMが12nm以下となる構造とすることにより、高周波アシストによる有効磁界強度の増幅率が高い構造を実現することができる。
【0082】
図14は、磁界角度とダウントラック方向位置の関係を示す。主磁極120のトレーリング側の先端を、ダウントラック方向位置=0とする。ダウントラック方向位置の値が大きくなるほど、トレーリングシールド130b側に近くなる。図14において、HUSが45nm、TGが40nmの条件に加えて、比較のため、HUSを25nmに変更した場合とTGを20nmに変更した場合の磁界角度も併記した。
【0083】
図13や図14から分かるように、磁界角度は主磁極120側からトレーリングシールド側に移動するにつれて小さくなっていく。これは、磁束が磁性体である軟磁性下地層303とトレーリングシールド130bに向かって流れていくためである。一方で、FGL111から記録層301に印加される高周波磁界は高周波で変動するため、軟磁性下地層303やトレーリングシールド130bの影響を受けない。高周波磁界は、主磁極120とは異なり、FGL111の底面よりも側面から発生する磁界の方が大きいので、記録層301層の膜面内の成分が大きくなる。
【0084】
図12と図14では、HUSとTGの組み合わせを3パターン例示したが、これらの値が変わると、有効磁界の増幅率も変化すると考えられる。例えば、HUSが小さくなると磁界角度が大きくなり、有効磁界の増幅率も変化する。そこで、TGとHUSの値が変化しても、高周波磁界アシストによる有効磁界の増幅率を安定的に高くするためには、d_FMの範囲が下記式3を満たすような構成にすればよいと考えられる。
【0085】
d_FM≦12×TG/HUS ・・・(式3)
【0086】
式3の条件を満たす構成により、TGやHUSの値が変化しても、図12に示すような高周波磁界印加による有効磁界強度の増幅率とd_FMの関係を、良好に維持することができる。式3の根拠については後述する。
【0087】
図15は、高周波アシストによる有効磁界強度の増幅率とd_FMを、TGとHUSの比で規格化した値(d_FM×HUS/TG)の関係を示す。この規格化した値は、式3を変形して得たものである。図15に示すように、式3を満たすことにより、TGとHUSの値が変化しても、有効磁界の増幅率を常に1.5倍以上に保つことができる。
【0088】
図15に示す条件Eは、図11に示す構成例に相当する。条件Eに示すように、高周波磁界を印加することによる有効磁界強度の増幅率は約2倍である。条件Eは、式3の左辺であるd_FMが7nmであり、右辺である12×TG/HUSは10.7であるので、式3を満たしていることが分かる。
【0089】
TGやHUSの値により、高周波アシストによる有効磁界の増幅率とd_FMとの関係が異なる理由は、以下の通りである。
【0090】
図14から分かるように、TGとHUSの比によって、主磁極120から記録層301に印加される磁界の磁界角度が異なる。主磁極120から軟磁性下地層303へ流れる磁束量は、HUSが小さいほど多くなる。また、主磁極120からトレーリングシールド130bへ流れる磁束量は、TGが小さいほど多くなる。軟磁性下地層303に流れる磁束の量が多いほど磁界角度は大きくなり、トレーリングシールド130bに流れる磁束の量が多いほど磁界角度は小さくなる。よって、TGとHUSの比により磁界角度が変化するといえる。
【0091】
なお、図12に示すように、HUS/TGが大きくなると、有効磁界の増幅率は全体的に低下する傾向があるといえる。そのため、図12に示しているような、HUS/TG≦2.25の範囲内に、各部のサイズを収めることが望ましいと考えられる。
【0092】
<実施の形態3:まとめ>
以上のように、本実施形態3によれば、d_FMを12nm以下の範囲内とすることにより、有効磁界の増幅率を高く維持することができる。さらには、式3を満たすことにより、TGやHUSの値が変化しても、有効磁界の増幅率を高く維持することができる。
【0093】
また、本実施形態3において、実施形態1で説明したd_FMの範囲を満たすことにより、FGL111と主磁極120の間の磁気結合、およびトレーリングシールド130bとFGL111の間の磁気結合に起因する高周波磁界強度自体の減衰を抑制し、結果として高い有効磁界強度が得られる。
【0094】
<実施の形態4>
図16は、本発明の実施形態4に係る磁気記録再生ヘッドの構成例を示す図である。本実施形態4では、発振器110と磁気結合遮断層140以外の構成は実施形態3と同様であるため、以下では差異点を中心に説明する。
【0095】
本実施形態4では、FGL111、中間層112、スピン注入固定層113の積層順序が実施形態3とは反対である。また、磁気結合遮断層140はFGL111と主磁極120の間ではなくFGL111とトレーリングシールド130bの間に設けられている。さらには、磁気結合遮断層140とスピン注入固定層113の膜厚が、実施形態3とは異なる。磁気記録媒体300の構成は実施形態3と同一である。
【0096】
本実施形態4では、実施形態2で説明した、FGL111と主磁極120の間の磁気結合、およびトレーリングシールド130bとFGL111との間の磁気結合を抑制するためのd_FMの条件に加えて、実施形態3と同様に、d_FMが12nm以下となるように各層の膜厚を調整する。これにより、高周波磁界を印加することによる有効磁界の増幅率を高い水準で維持できる。また、実施形態3と同様に、d_FM、TG、HUSが式3の関係を満たすようにすれば、より効果的に磁気的な結合を抑制することができる。
【0097】
主磁極120の材料とトレーリングシールド130bの材料は、実施形態1と同様である。FGL111と中間層112も実施形態1と同様の材料および膜厚であり、各層の位置のみが異なる。スピン注入固定層113の材料と特性は実施形態1と同一であるが、膜厚は6nmである。磁気結合遮断層140の材料と特性も実施形態1と同一であるが、膜厚は21nmである。
【0098】
図16に示す構成により、d_FMは9nm(≦12nm)となる。HUSとTGは実施形態3と同一であるため、式3も満たす。図12より、本実施形態4における有効磁界の増幅率は約1.8倍であり、大きな増幅率を実現できていることが分かる。
【0099】
<実施の形態5>
図17は、本発明の実施形態5に係る磁気記録再生装置1000の構成例を示す図である。磁気記録再生ヘッドは実施形態1〜4のいずれかで説明したものであり、ヘッドスライダー600に搭載される。
【0100】
磁気記録再生装置1000は、磁気記録媒体300をスピンドルモータ400で回転させ、アクチュエーター500によってヘッドスライダー600を磁気記録媒体300のトラック上に誘導する。すなわち、ヘッドスライダー600上に形成した再生ヘッドおよび記録ヘッドがこの機構により磁気記録媒体300上の所定の記録位置に近接して相対運動し、信号を順次書き込み、または読み取る。アクチュエーター500は、ロータリーアクチュエーターであることが望ましい。
【0101】
記録信号は、信号処理系700を通じて記録ヘッドにより磁気記録媒体300上に記録される。信号処理系700は、再生ヘッドの出力を信号として得る。再生ヘッドを所望の記録トラック上へ移動させる際に、再生ヘッドからの高感度な出力を用いてトラック上の位置を検出し、アクチュエーター500を制御して、ヘッドスライダー600の位置を決めることができる。
【0102】
図17では、ヘッドスライダー600、磁気記録媒体300を各1個示したが、これらは複数であっても構わない。また磁気記録媒体300は、両面に記録情報を有して情報を記録してもよい。ディスク両面に情報を記録する場合、ヘッドスライダー600は磁気記録媒体300の両面に配置する。
【符号の説明】
【0103】
100:記録ヘッド部、110:発振器、111:高周波磁界発生層(FGL)、112:中間層、113:スピン注入固定層、120:主磁極、130a:副磁極、130b:トレーリングシールド、140:磁気結合遮断層、160:コイル、200:再生ヘッド部、210:再生センサ、220:下部磁気シールド、230:上部磁気シールド、300:磁気記録媒体、301:記録層、302:中間層、303:軟磁性下地層、400:スピンドルモータ、500:アクチュエーター、600:ヘッドスライダー、700:信号処理系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体に磁界を印加する主磁極と、
前記主磁極のトレーリング側に設けられたトレーリングシールドと、
前記主磁極と前記トレーリングシールドの間に設けられた発振器と、
を備え、
前記発振器は、高周波磁界を発生する高周波磁界発生層を有し、
前記高周波磁界発生層と前記主磁極との間の距離、および前記高周波磁界発生層と前記トレーリングシールドとの間の距離が、ともに3nm以上である
ことを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項2】
前記高周波磁界発生層と前記主磁極との間の距離に、前記主磁極の飽和磁化に対する前記高周波磁界発生層の飽和磁化の比を乗算すると、3nm以上となるように構成され、かつ、
前記高周波磁界発生層と前記トレーリングシールドとの間の距離に、前記トレーリングシールドの飽和磁化に対する前記高周波磁界発生層の飽和磁化の比を乗算すると、3nm以上となるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記高周波磁界発生層の飽和磁化は1.0T以上である
ことを特徴とする請求項2記載の磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記主磁極と前記高周波磁界発生層の間の距離が12nm以下である
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記主磁極と前記高周波磁界発生層との間の距離に、前記主軸極と前記トレーリングシールドとの間の距離に対する、前記磁気記録ヘッドと前記磁気記録媒体の軟磁性下地層との間の距離の比を乗算すると、12nm以下となるように構成されている
ことを特徴とする請求項4記載の磁気記録ヘッド。
【請求項6】
前記主軸極と前記トレーリングシールドとの間の距離に対する、前記磁気記録ヘッドと前記磁気記録媒体の軟磁性下地層との間の距離の比が、2.25以下となるように構成されている
ことを特徴とする請求項5記載の磁気記録ヘッド。
【請求項7】
前記発振器は、
前記主磁極に近接する側から順に、前記高周波磁界発生層、中間層、スピン注入固定層を積層した構成を有し、
さらに前記主磁極と前記高周波磁界発生層との間に、非磁性材料を用いて形成された磁気結合遮断層を有する
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録ヘッド。
【請求項8】
前記発振器は、
前記主磁極に近接する側から順に、スピン注入固定層、中間層、前記高周波磁界発生層を積層した構成を有し、
さらに前記主磁極と前記高周波磁界発生層との間に、非磁性材料を用いて形成された磁気結合遮断層を有する
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録ヘッド。
【請求項9】
請求項1記載の磁気記録ヘッドと、
前記磁気記録ヘッドが情報を記録する磁気記録媒体と、
前記磁気記録ヘッドが読み取りする信号を処理する信号処理部と、
を備えることを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−47999(P2013−47999A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186358(P2011−186358)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】