説明

磁気記録ヘッド及びその製造方法、及び磁気ディスク装置

【課題】
マイクロ波アシスト記録において、非磁性の電極を磁極の外側に設けることで、AMR効果や渦電流による配線の抵抗変化を抑え、スピントルク発振器に流れる電流の変動を抑制して安定な発振を実現する。
【解決手段】
マイクロ波アシスト記録に用いられる磁気記録ヘッドは、主磁極と、主磁極上に配置され、スピントルクによって磁化が高速回転する磁化高速回転層を含むスピントルク発振器と、スピントルク発振器上に配置されたトレーリングシールドと、媒体対向面に配置された該トレーリングシールドと磁気的に接続されて媒体対向面に対して垂直方向に伸延する副磁極を有し、主磁極もしくはトレーリングシールドもしくは副磁極の磁性体に対してスピントルク発振器が配置されているトレーリングギャップの外側に、非磁性電極を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録ヘッド及びその製造方法、及び磁気ディスク装置に係り、特にマイクロ波アシスト磁気記録ヘッド方式におけるスピントルク発振器を有する磁気記録ヘッド及びその製造方法、及びこの磁気記録ヘッドを搭載した磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(ハードディスクドライブ)における高記録密度化は、年率40%程度の急速な成長を求められている。この成長を実現するためには、より小さなトラック幅とビット長で磁気記録媒体に書き込む必要があり、磁気記録ヘッドの更なる微細化が求められている。しかし磁気記録ヘッドの微細化を行うと、磁気記録ヘッドから生じる記録磁界そのものも減じられてしまい、磁気記録媒体に記録するのに必要十分な磁界を得ることができなくなってしまう。このため、磁気記録ヘッド単体では足りない分を補い、磁気記録媒体に書き込みやすくする技術が注目されている。その技術とはエネルギーアシスト記録と呼ばれており、媒体に対し何らかのエネルギーを加えることで磁化反転に必要な磁界を弱め、通常では記録不可能な記録媒体に磁気信号を書き込む技術であり、記録能力向上と記録領域の微細化の両立を図ることが可能となる。この記録をアシストするために用いられるエネルギーとしては、レーザにより生じる熱を利用して記録を行う手法(熱アシスト記録)と、高周波発振器から生じるマイクロ波を利用して記録を行う手法(マイクロ波アシスト記録)が知られている。
【0003】
特にマイクロ波を利用する記録技術は、近年になって登場したばかりであるが、エネルギーアシスト記録の1つとして期待されている。特許文献1には、高周波電界を磁気ヘッドの記録素子、あるいは磁気記録媒体に対して照射することで、ジュール加熱あるいは磁気共鳴加熱を与えて、媒体の保磁力を局所的に低減させ、少ない記録磁界でも書き込みやすくする技術が開示された。
【0004】
また、非特許文献1は、高周波磁界を用いるもので、垂直磁気ヘッドの主磁極に隣接したスピントルクによって磁化が高速回転する磁化高速回転体(Field Generation Layer:FGL)を配置してマイクロ波を発生させ、磁気異方性の大きな磁気記録媒体に情報を記録する技術(マイクロ波アシスト記録技術)が開示されている。さらに非特許文献2には、スピントルク発振器を磁気記録ヘッドの主磁極とトレーリングシールドの間に配置させ、高周波磁界の回転方向を記録磁界極性に応じて変化させることで、磁気記録媒体の磁化反転を効率的にアシストする技術が開示されている。
【0005】
これらの報告にあるように、従来の垂直磁気記録ヘッドと組み合わせることが可能であることが判明し、その実現性の高さからマイクロ波アシスト記録の研究開発が加速している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−243527号公報
【特許文献2】特開2009−070541号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.G.Zhu and X.Zhu,‘Microwave Assisted Magnetic Recording,’The Magnetic Recording Conference (TMRC) 2007 Paper B6 (2007)
【非特許文献2】Y.Wang、et.al、”Media damping constant and performance characteristics in microwave assisted magnetic recording with circular as field”,Journal of Applied Physics、vol.105、pp07B902−07B902−3 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のライトヘッドでは主磁極とトレーリングシールドの間には磁気的なギャップ(以降TSギャップ)が設けられており、主磁極やトレーリングシールドに電流を流すことはなく、一般にTSギャップを構成する材料には絶縁材料が用いられている。
【0009】
しかしマイクロ波アシスト磁気記録では、一般的にスピントルク発振器は主磁極とトレーリングシールドの間に配置されており、高周波磁界を発生させるために、スピントルク発振器に電流を流す必要がある。すなわち、主磁極とトレーリングシールドに電流を流す必要があると言える。
【0010】
しかし従来のライトヘッドとマイクロ波アシスト記録では構造が異なるために、電流を流す上で重大な課題が3つある。
【0011】
まず1つ目に異方性磁気抵抗(AMR:Anisotropic Magneto−Resistance 以下AMR)効果や渦電流による電気抵抗の変動が挙げられる。従来のライトヘッドでは主磁極近傍に配置されたコイルに電流(記録電流と呼ぶ)を流して、主磁極やトレーリングシールドなどの磁性膜を励磁することによって書き込みを行うが、マイクロ波によるアシストを得るためにスピントルク発振器に電流を流すと、記録電流の増減によって前述の磁性膜中の磁化の方向が変わる。このとき、主磁極とトレーリングシールドをスピントルク発振器に電流を供給する配線として用いると、前述の磁性膜中の磁化の方向と発振器電流の方向の相対的な角度が変化して、AMR効果が発生する。
【0012】
このAMRの効果によって、磁性膜材料の電気抵抗が変動する恐れがあり、スピントルク発振器に対して定電圧の電流を流す場合、AMRによる電気抵抗の変動が生じると、スピントルク発振器に流れる電流値までも変動してしまい、安定した発振を妨げる恐れがある。また、記録電流の増減によって前述の磁性膜中の磁化の方向が変化すると、この変化を妨げるように渦電流が前述の磁性膜中に流れる(特に記録電流が反転したときに顕著である)。これにより、発振器電流が変動してしまい、スピントルク発振器の安定な発振を妨げられることになる。上述の二つの現象は、より高い記録密度に対応するために、主磁極やトレーリングシールドのパターンが小さくなると、この影響はより顕著になってくるため、無視できない課題の一つである。
【0013】
前記の1つ目の課題を解決するためには、特許文献2のように主磁極やトレーリングシールドを配線として使わず、スピントルク発振器と主磁極、及びスピントルク発振器とトレーリングシールドの間にそれぞれ非磁性体の配線を設ける手段が考えられる。
【0014】
しかしこの様にTSギャップ間に電極層を挿入してしまうと、主磁極とトレーリングシールドの磁気的なギャップが広がり、スピントルク発振器の積層方向に垂直に印加される磁界が減少し、その結果として発生する高周波磁界の周波数が高くすることができず、アシスト効果が十分に得られない恐れがある。このように、TSギャップを広げないこと、望ましくは、狭くすることが2つ目の課題である。
【0015】
3つ目の課題は、スピントルク発振器の配線も含めた素子抵抗を低くすることである。スピントルク発振器を挟持する主磁極およびトレーリングシールドは記録媒体に情報記録するために強い磁界を出せるように構造設計しているものであり、スピントルク発振器の配線としての抵抗を低くするために、その形状や膜厚を自由に形成することはできない。また、配線として磁性体を用いる場合には、磁性金属は一般に配線に用いられている非磁性金属に比べて電気抵抗率が高いので、配線抵抗が高くなってしまう恐れがある。
【0016】
一方、スピントルク発振器を発振させるためには、スピントルク効率を大きくすることが必要で、大きなスピントルク効率を得る方法の一つに高い電流密度の電流を流すことがある。この場合、長期信頼性や発熱による抵抗増加の影響などを考えると、配線抵抗は低い方が望ましい。
【0017】
本発明では 上記3つの課題のうち少なくとも1つを解決することにある。即ち、本発明の目的は、マイクロ波アシスト磁気記録におけるスピントルク発振器の動作を安定させ、かつ、アシスト効果を十分に引き出すための電流供給の構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る磁気記録ヘッド、好ましくは、マイクロ波アシスト記録に用いられる磁気記録ヘッドであって、主磁極と、該主磁極上に配置されスピントルクによって磁化が高速回転する磁化高速回転層を含むスピントルク発振器と、該スピントルク発振器上に配置されたシールド磁性膜と、該シールド磁性膜上に配置された上部磁極と、磁極を構成する磁性体の少なくともどちらか一方、すなわち主磁極またはトレーリングシールドや副磁極などに、隣接して形成された非磁性電極と、を有することを特徴とする磁気記録ヘッドとして構成される。即ち、本発明は、スピントルク発振器への電流供給の経路として主磁極または副磁極の近傍に設けた非磁性電気配線によって、従来のような新たな電極層の挿入によるTSギャップの広がりを防止し、高い電流密度の電流を流すことができる構成を有する。特に、非磁性電気配線をTSギャップの外側に設ける。
【0019】
好ましい例では、磁気記録ヘッドにおいて、該主磁極に対してTSギャップの外側に、隣接して該非磁性電極が形成される。また、好ましくは、磁気記録ヘッドにおいて、該シールド磁性膜に隣接して非磁性電極が形成される。また、好ましくは、磁気記録ヘッドにおいて、該上部磁極に隣接して非磁性電極が形成される。
【0020】
また、好ましくは、磁気記録ヘッドにおいて、該主磁極と、該主磁極近傍に配置された、サイドシールド磁性膜との間にあるサイドシールドギャップ膜が非磁性体で形成されており、該サイドシールドギャップ膜に隣接して該非磁性電極が形成される。
【0021】
また、好ましくは、磁気記録ヘッドにおいて、非磁性体で形成された該サイドシールドギャップ膜により、該主磁極の先端まで非磁性体の配線が引き回された形状である。また、好ましくは、磁気記録ヘッドにおいて、該サイドシールドに隣接して該非磁性電極が形成されており、電気的に接続されている。
【0022】
また、好ましくは、磁気記録ヘッドにおいて、該主磁極上にヨーク磁性膜を形成し、該主磁極に隣接して該非磁性電極が形成され、該ヨーク磁性膜と該非磁性電極が電気的に接続されており、並列な電気回路となっている。
【0023】
また、好ましくは、非磁性電極に使用する材料はAl、Ti、V、Cr、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Ir、Pt、Auの単層膜またはこれらを含んだ積層膜である。
【0024】
また、好ましくは、該シールドギャップ膜に使用する材料はAl、Ti、V、Cr、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Ir、Pt、Auの単層膜またはこれらを含んだ積層膜である。
【0025】
本発明に係る磁気記録ヘッドの製造方法は、好ましくは、非磁性電極を形成する工程と、該非磁性電極上に主磁極を形成する工程と、主磁極の外側にサイドシールド磁性膜を形成する工程と、該主磁極と該サイドシールド磁性膜の間にシールドギャップ膜を形成する工程と、該主磁極上にヨーク磁性膜を形成する工程と、該主磁極上に該スピントルク発振器を成膜する工程と、該スピントルク発振器を所望のトラック幅と素子高さにエッチングする工程と、該エッチングされた部分を絶縁膜で埋め戻す工程と、該エッチングに用いたマスクを除去する工程と、トラックと素子高さをそれぞれ形成した該スピントルク発振器の上に磁性膜をスパッタもしくはめっきで形成する工程と、を有することを特徴とする磁気記録ヘッドの製造方法である。
【0026】
また、本発明に係る磁気ディスク装置は、好ましくは、磁気ヘッドを所定方向に移動させながら、回転する磁気ディスクに情報を書き込む磁気ディスク装置において、該磁気ヘッドは、マイクロ波アシスト記録に用いられる磁気ヘッドであって、主磁極と、該主磁極上に配置され、スピントルクによって磁化が高速回転する磁化高速回転層を含むスピントルク発振器と、該スピントルク発振器上に配置される磁性膜と、磁極を構成する磁性体の少なくともどちらか一方の磁性体のTSギャップの外側に、非磁性電極を有することを特徴とする磁気ディスク装置として構成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、非磁性体による電極を磁極の先端まで持ってくることにより、AMR効果や渦電流などによる抵抗変化を抑えることが可能となり、スピントルク発振器の発振を安定化させることができる。また、非磁性体による電極を磁極のTSギャップの外側に配置することで、TSギャップを物理的に狭くすることが可能となり、より強いアシスト効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施例におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図2】一比較例におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの媒体対向面における構造図。
【図3A】本発明の一実施例におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図3B】一実施例におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図4】一実施例におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの媒体対向面における構造図。
【図5】一実施例におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図6A】実施例1における磁気記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図6B】実施例1における磁気記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図6C】実施例1における磁気記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図6D】実施例1における磁気記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図6E】実施例1における磁気記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図7】実施例2におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図8A】実施例3におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図8B】実施例3におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図9】実施例4におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの斜視図。
【図10】実施例5におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図11】実施例6におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図12】実施例7におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの斜視図。
【図13A】実施例7におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの断面図。
【図13B】実施例7におけるスピントルク発振器を有する記録ヘッドの媒体対向面における構造図。
【図14】本実施例による磁気ディスク装置の全体構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、マイクロ波アシスト記録において、非磁性の電極を磁極の外側に設けることで、配線の電気抵抗を低減し、また配線の電気抵抗の変動を防止する。以下、図面を参照しながら、幾つかの実施例について説明する。
【実施例1】
【0030】
図1にスピントルク発振器を有する磁気記録ヘッドの構造を示す。
【0031】
図1において、10はスピントルク発振器、20は主磁極、30はヨーク磁性膜、50は電流源、60は下部コイル、70はトレーリングシールド、80は副磁極、90は上部コイル、100は磁気記録媒体、110Aはシールドギャップ膜、140はリーディングエッジシールド、160は磁気記録ヘッドを支持する基板である。
【0032】
図1には、媒体100に対するヘッド移動方向を示す矢印8と、ヘッドに対する媒体100の移動方向を示す矢印9を示した。以下の説明では、表現の簡略化のため、矢印8の向きを「下部」、「下側」又は「下部側」で示し、矢印9の向きを「上部」、「上側」又は「上部側」で示す。従って、「上部磁極」は「副磁極80」のことであり、「下部磁極」は「主磁極20」のことである。 図1に示した、ハイト方向6は、磁気記録媒体100の表面上に垂直な方向を示し、さらに、紙面に垂直方向であることを示す記号7は、媒体100への磁気信号を書き込む時のトラック幅を規定するトラック方向を示す。
【0033】
また、一般的に磁気ヘッドには再生ヘッドも具備しており、本明細書には明示していないが、磁気記録ヘッドの上部、下部のどちらにあっても良い。
【0034】
図3Aは本発明の実施例1の磁気記録ヘッドにおけるヘッド進行方向8のスピントルク発振器10を含む面の断面概略図である。本構造の特徴は、シールドギャップ膜110Aを導電性材料、望ましくは、Al、Ti、V、Cr、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Ir、Pt、Auの単層膜またはこれらを含んだ積層膜などからなる低抵抗率の金属材料で構成し、その下側に非磁性電極40を設けられたことにある。これにより、スピントルク発振器10に供給されていた電流はヨーク磁性膜30を流れることなく、また、主磁極20を流れる電流も減らすことができるため、ヨーク磁性膜30および主磁極20のみを電極として用いる場合に比べて、AMR効果あるいは渦電流による電気抵抗の変化を低減でき、スピントルク発振器10の安定した発振を維持することができる。このとき、電流経路における主磁極20の電気抵抗に比べて、導電性材料からなるシールドギャップ膜110および非磁性電極40の電気抵抗が低いほど、その効果は大きい。
【0035】
このとき、非磁性電極40の素子高さ方向の位置は、配線として機能する範囲で任意に設けることができるが、ヨーク磁性膜30よりも磁気記録媒体に近い側まで、即ち、主磁極20の先端付近まで配置されていることが、電気抵抗低減の観点から望ましい。
【0036】
図2に比較例の媒体対向面における構造を示す。本構造は、非磁性電極40をスピントルク発振器10の上下に配置した構造であるが、このような構造にすると、主磁極20とトレーリングシールド70の磁気的な間隔、即ちTSギャップが広がってしまうことにより、スピントルク発振器に印加される磁界が減少してしまう。その結果、発生する交流磁界の周波数を高くすることができず、十分なアシスト効果を得ることができない恐れがある。また、特に、抵抗率の低い金属材料を非磁性電極40に用いた場合には、ウェハ工程の後で磁気ヘッドの素子を所望の素子高さになるように削るラップ加工の際に、腐食やスメア(smear)が発生する可能性がある。これを防ぐには媒体対向面に露出する非磁性電極40の断面積を小さくすることが必要で、そのためには、電極の膜厚を薄くし、かつ、幅を狭く形成することになる。これは、非磁性電極40の形成と主磁極20の形成を高い精度で位置合わせをすることが求められ、工程的に特段の配慮を必要とする。
【0037】
なお、図3Aと類似した構造として、図3Bに示されるように、主磁極20の下側にリーディングシールド140があっても良い。
【0038】
また、図4は媒体対向面における構造であるが、シールドギャップ膜110Aの両脇にサイドシールド磁性膜130を配置することにより、配線抵抗の更なる低抵抗化を実現することが可能である。
【0039】
さらに、図5に示すように、副磁極80との間でバックギャップを形成し、かつ、強い磁界を発生させるための磁性膜であるヨーク磁性膜30を主磁極20に対して上置きとし、非磁性電極40を主磁極20に対してTSギャップの外側に配置することで、副磁極80側にバックギャップ間隔調節用磁性膜120を設けることで、記録ヘッドの実効的な磁路長を短くすることができるため、高周波応答に優れた構造にすることが可能である。このとき、ヨーク磁性膜30とバックギャップ間隔調節用磁性膜120とは、電流が流れない程度の絶縁がとれていればよい。
【0040】
上記のような構造を持つマイクロ波アシスト磁気記録に用いる磁気記録ヘッドの製造方法の一例について、図6A〜図6Eを参照しながら、具体的に述べる。
【0041】
まず、基板160の上にコイル60を形成した後に、Al、Ti、V、Cr、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Ir、Pt、Auの単層膜またはこれらを含んだ積層膜などの非磁性材料をスパッタリング法もしくはめっき法にて非磁性電極40を形成する。[図6A]
次に、非磁性電極40の上に主磁極20を形成するが、このとき主磁極20をトレンチ内に主磁極材料を埋め込むダマシンプロセス(damascene process)で形成する場合、サイドシールド(図4Bの130)と主磁極20の間に配置されるシールドギャップ膜110Aを、Al、Ti、V、Cr、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Ir、Pt、Auの単層膜またはこれらを含んだ積層膜などの非磁性体の金属に置き換えることで、シールドギャップ膜110Aを電極配線として用いることができるので、非磁性体の配線を主磁極先端まで引き延ばすことが可能になる。このシールドギャップ膜110Aは、主磁極20の周囲を覆うような形になり、非磁性電極40と主磁極20の間に配置される。[図6B]
次に、主磁極20上に、スピントルク発振器10として、トラック方向7とハイト方向6にそれぞれの寸法を有する磁性層を形成する。[図6C]
次に、主磁極20上にヨーク磁性膜30をスパッタリング法もしくはめっき法により形成する。また同様にして、スピントルク発振器10の上にトレーリングシールド70を形成する。このとき、ヨーク磁性膜30の上を絶縁させた状態で、トレーリングシールド70と同時にバックギャップを構成するバックギャップ間隔調節用磁性膜120を形成することで高周波応答に優れた構造にすることができる。[図6D]
次に、上部コイル90と、副磁極80をスパッタリング法もしくはめっき法で形成する。[図6E]
なお、コイルについては、主磁極20の上下で下部コイル60と上部コイル90が接続されている、所謂ヘリカルコイルと、下部コイル60と上部コイル90がそれぞれのレイヤーで形成されている、所謂デュアルパンケーキコイルのどちらを形成してもよい。
【0042】
以上の工程により、非磁性電極40を主磁極20の下部に電気的に隣接して形成することで、配線抵抗が低く、AMR効果による抵抗変化を抑えることが可能な磁気記録ヘッドを製造することが可能である。
【実施例2】
【0043】
図7に、本発明の実施例2の磁気記録ヘッドのヘッド進行方向8のスピントルク発振器10を含む面の断面概略図である。主磁極20に対してヨーク磁性膜30を下部に、非磁性電極40を上部に配置した構造であり、この様にすることで、非磁性電極40と上部コイル90を同時に形成することが可能になり、プロセスの観点から工程短縮が期待できる。
【実施例3】
【0044】
図8Aは、本発明の実施例3の磁気記録ヘッドのヘッド進行方向8のスピントルク発振器10を含む面の断面概略図である。非磁性電極40を記録ヘッドの下部ではなく、上部側に設けた構造である。
【0045】
実施例1、2では、非磁性電極40を主磁極20、およびシールドギャップ膜110Aの外側に設けた構造を述べた。しかし、実施例1、2では記録ヘッドの上部側は磁性体(副磁極80)を配線として使っているため、AMR効果あるいは渦電流による配線抵抗の変動が生じる可能性がある。そこで、記録ヘッドの上部側に非磁性の配線40を設けた構造についてここでは述べる。
【0046】
実施例1の図6A〜図6Eにおいて、図6Aのときに非磁性電極40を形成せず、図6Eに示されるように上部磁極80(上部コア磁性膜(副磁極))まで形成した後に、非磁性電極40Aをスパッタリング法もしくはめっき法などの手段で形成する。[図8A]なお、下部電極については図8Aではヨーク磁性膜30を用いているが、図8Bのように、非磁性導電性材料からなるシールドギャップ膜110Aをもちいても良い。
【実施例4】
【0047】
図9は、本発明の実施例4における磁気記録ヘッドの上方からの鳥瞰図であり、トレーリングシールド70から非磁性電極40をハイト方向6の奥行き方向に引き回した構造である。
【0048】
実施例3の図8では副磁極80が非磁性電極40に繋がっていたが、図9ではトレーリングシールド70が非磁性電極40に繋がった構造である。これによりトレーリングシールド70から非磁性電極40を引き回すことで、副磁極80が電流経路にならず、電流が流れる磁性体の割合を更に減らすことが可能になる。このとき、非磁性電極40はトレーリングシールド70のどの部分から引き回しても良いが、副磁極80に干渉しない場所に設けるのが望ましい。なお、トレーリングシールド70と非磁性電極40の形状は、他のパターンに干渉しない範囲で任意である。
【実施例5】
【0049】
図10は、本発明の実施例5の磁気記録ヘッドのヘッド進行方向8のスピントルク発振器10を含む面の断面概略図であり、主磁極20と副磁極80のそれぞれに非磁性電極40を接続した構造である。具体的には、実施例1の図6A〜図6Eまで形成した後に、図8Aに示されるように、副磁極80の上に非磁性電極40を形成する。
【実施例6】
【0050】
図11は、本発明の実施例5における磁気記録ヘッドのヘッド進行方向8のスピントルク発振器10を含む面の断面概略図である。実施例1における非磁性電極40を、ヨーク磁性膜30と電気的に並列接続した回路となっている構造である。
【0051】
記録ヘッドの下部電極(主磁極20側の電極)として、非磁性電極40にヨーク磁性膜30を並列な配線として利用することで、更なる配線の低抵抗化を可能にする。
【実施例7】
【0052】
図12は、本発明の実施例7における磁気記録ヘッドの上方からの鳥瞰図であり、非磁性電極40を主磁極20の側面に配置した構造である。シールドギャップ膜110Aの側面に非磁性電極40を形成し、矢印6のハイト方向に引き回すことで、下部電極として利用する構造である。
【実施例8】
【0053】
図13Aは主磁極20をダマシンではなく、マスクを用いたエッチングにより形成した場合の断面概略図である。図13Aにおいて、110Bは非磁性配線である。実施例1〜7までは主にダマシン法により形成する主磁極20における非磁性電極40の形成について述べた。非磁性電極を挿入することによる効果は、主磁極20をダマシン法又はエッチング法のいずれの製造方法で形成しても同様である。
【0054】
ここで、図13Bに図13Aの媒体対向面における構造を示す。ダマシン法によって形成した主磁極では、主磁極20とサイドシールド磁性膜130の間に配置される、シールドギャップ膜140を非磁性体の配線として利用する構造について述べた。エッチング法によって形成した主磁極20においては、シールドギャップ膜140よりも主磁極を先に形成することになるため、一般的にシールドギャップ膜140はカバレッジの良いCVD法により絶縁膜を被覆する。このような構造では、Al、Ti、V、Cr、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Ir、Pt、Auの単層膜またはこれらを含んだ積層膜などの非磁性体で形成した非磁性配線110Bを主磁極20の下部に配置し、主磁極20と同時にエッチングすることで、非磁性体の配線を形成することができる。これによりダマシン構造と同様に、非磁性体の配線を主磁極20の端部まで引き伸ばすことができるため、AMR効果あるいは渦電流による電気抵抗の変動を抑えることが可能になる。
【実施例9】
【0055】
図14は、上記実施例により形成された磁気記録ヘッドを搭載した磁気ディスク装置を示す。図14において、170はスピントルク発振器10を備えた磁気ヘッド、180は、その先端部に磁気ヘッド170を搭載したアーム、100は磁気ディスク(磁気記録媒体)、190は磁気ディスクを回転駆動するスピンドルモータ、200は磁気記録再生信号を処理する信号処理回路、210はアーム180を回転駆動するボイスコイルモータである。
【0056】
本発明によるスピントルク発振器10を搭載した磁気ヘッド170を使用することで、マイクロ波によるアシスト効果によって、より高記録密度が可能となる。
【符号の説明】
【0057】
6:ハイト方向
7:トラック方向
8:素子下部方向
9:素子上部方向
10:スピントルク発振器
20:主磁極
30:ヨーク磁性膜
40:非磁性電極
50:電流源
60:下部コイル
70:トレーリングシールド
80:副磁極
90:上部コイル
100:記録媒体
110A:シールドギャップ膜
110B:非磁性配線
120:バックギャップ間隔調整用磁性膜
130:サイドシールド磁性膜
140:リーディングエッジシールド
160:基板
170:スピントルク発振器搭載型磁気記録再生分離磁気ヘッド(磁気ヘッド)
180:アーム
190:スピンドルモータ
200:信号処理回路
210:ボイスコイルモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波アシスト記録に用いられる磁気記録ヘッドであって、
主磁極と、該主磁極上に配置され、スピントルクによって磁化が高速回転する磁化高速回転層を含むスピントルク発振器と、該スピントルク発振器上に配置されたトレーリングシールドと、媒体対向面に配置された該トレーリングシールドと磁気的に接続されて媒体対向面に対して垂直方向に伸延する副磁極を有し、主磁極もしくはトレーリングシールドもしくは副磁極の磁性体に対してスピントルク発振器が配置されているトレーリングギャップの外側に、非磁性電極を有することを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の磁気記録ヘッドにおいて、該主磁極に隣接して形成されたヨーク磁性膜と、該ヨーク磁性膜に並列に形成された該非磁性電極を、該スピントルク発振器に対する並列な電気配線になっていることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項3】
請求項1記載の磁気記録ヘッドにおいて、該スピントルク発振器上に配置されたトレーリングシールドと、該トレーリングシールドに隣接して形成された副磁極と、該トレーリングシールドもしくは該副磁極に隣接して配置された該非磁性電極を有することを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気記録ヘッドにおいて、
該主磁極近傍に設けられたサイドシールド磁性膜と、該サイドシールド磁性膜に隣接して形成された該非磁性電極が、電気的に繋がっており、一体となった電気配線となっていることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気記録ヘッドにおいて、
該サイドシールド磁性膜と、該主磁極の間にあるシールドギャップ膜が非磁性体で形成されており、該シールドギャップと隣接して該非磁性電極が形成されていることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気記録ヘッドにおいて、
ヨーク磁性膜と副磁極を磁気的に繋ぐバックギャップは、該ヨーク磁性膜と電気的に絶縁されていることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気記録ヘッドにおいて、該非磁性電極が該主磁極もしくは該シールドギャップ膜に隣接して設けられており、かつ該副磁極もしくは該トレーリングシールドにも隣接して該非磁性電極が設けられていることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の磁気記録ヘッドにおいて、
該非磁性電極もしくは該非磁性配線の材料は、Al、Ti、V、Cr、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Ir、Pt、Auの単層膜、またはこれらの材料を含んだ積層膜であることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項9】
主磁極を形成する工程と、該主磁極に隣接してヨーク磁性膜を形成する工程と、磁極を構成する磁性体に対して隣接して設けられた非磁性電極を形成する工程と、該主磁極上にスピントルク発振器を成膜する工程と、該主磁極もしくは該スピントルク発振器の脇にサイドシールド磁性膜を形成する工程と、該スピントルク発振器上にトレーリングシールドを形成する工程を有する磁気記録ヘッドの製造方法
【請求項10】
主磁極を形成する工程と、該主磁極に隣接してヨーク磁性膜を形成する工程と、該主磁極上にスピントルク発振器を成膜する工程と、該主磁極もしくは該スピントルク発振器の脇にサイドシールド磁性膜を形成する工程と、該スピントルク発振器上にトレーリングシールドを形成する工程と、該トレーリングシールド上に上部磁極を形成する工程と、磁極を構成する磁性体に対して隣接して設けられた非磁性電極を形成する工程を有する磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
磁気ヘッドを所定方向に移動させながら、回転する磁気ディスクに情報を書き込む磁気ディスク装置において、該磁気ヘッドは、マイクロ波アシスト記録に用いられる磁気ヘッドであって、主磁極と、該主磁極上に配置され、スピントルクによって磁化が高速回転する磁化高速回転層を含むスピントルク発振器と、該スピントルク発振器上に配置されたトレーリングシールドと、該トレーリングシールド上に配置された該副磁極と、該主磁極および該トレーリングシールドもしくは該副磁極を含む、磁極を構成する磁性体の少なくともどちらか一方の磁性体の外側に、非磁性電極を有することを特徴とする磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−62004(P2013−62004A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199211(P2011−199211)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【特許番号】特許第5117606号(P5117606)
【特許公報発行日】平成25年1月16日(2013.1.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願 (平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】