説明

磁気記録媒体、該磁気記録媒体を備えた磁気記録装置および転写用担体

【課題】パターン形成が容易であり、かつトラッキングサーボの精度のよいサーボパターンを備えた磁気記録媒体を得る。
【解決手段】磁気記録媒体1において、バーストパターンに含まれるバースト20を、クロストラック方向Yにダウントラック方向長さが徐々に増加する形状を有する、複数のデータトラックに亘って形成された第1の信号領域21と、第1の信号領域21のダウントラック方向に隣接して設けられた第2の信号領域19とからなる、第1の信号領域21のダウントラック方向最大長Lを一辺とする矩形領域からなるものとする。また、バースト20をクロストラック方向Yに複数配列する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録媒体に関し、特にトラッキングサーボのためのサーボ信号を備えてなる磁気記録媒体および磁気記録装置、ならびに磁気記録媒体にサーボ信号を転写するための転写パターンを凹凸パターンとして備えた転写用担体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録再生装置は、小型でかつ大容量を実現するために、記録密度の高密度化の傾向にあり、特に、代表的な磁気記憶装置であるハードディスクドライブの分野では、技術の進歩が急激である。
【0003】
記録密度の高密度化に伴い、ハードディスクにおいては、狭トラック化が進められている。また、記録密度のさらなる高密度化の要請から、隣接するデータトラックを溝(グルーブ)からなるグルーブパターン(ガードバンド)で分離し、隣接トラック間の磁気的干渉を低減するようにしたディスクリートトラックメディア(DTM)や単磁区を構成する磁性体(単磁区微粒子)が物理的に孤立して規則的に配列されてなり、単磁区微粒子1個に1ビットを記録するビットパターンメディア(BPM)などが注目されている。
【0004】
狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査させて高いS/N比で信号を再生するために、いわゆるトラッキングサーボ技術が大きな役割を担っている。このトラッキングサーボとしては、セクターサーボ方式が広く採用されている。
【0005】
セクターサーボ方式とは、磁気ディスク等の磁気記録媒体のデータ面に、一定角度等で配列されたサーボフィールドに、トラックのアドレス情報信号、再生クロック信号、細かい位置制御のためのバーストパターン等のサーボ情報を記録しておき、磁気ヘッドが、このサーボフィールドを走査してサーボ情報を読み取り自らの位置を確認しつつ修正する方式である。
【0006】
従来の磁気記録媒体へのサーボ情報(サーボパターン)の記録方法としては、磁気記録媒体(スレーブ媒体)に転写すべき情報に応じた凹凸パターンからなる転写パターンを有するマスター単体を用い、このマスター担体と磁気記録媒体とを密着させた状態で、記録用磁界を印加することにより、マスター担体の凹凸パターンにより記録されているサーボ情報に対応する磁化パターンを磁気記録媒体に磁気的に転写する方法が知られている。
【0007】
また、一方、DTM、BPMのようなパターンドメディアへのサーボ情報の記録方法としては、転写すべき情報に応じた凹凸パターンを備えたインプリントモールドを用い、インプリントリソグラフィ法等によりそのグルーブパターン、ビットパターンの形成時に同時にサーボパターンを凹凸パターンとして形成する方法が提案されている。
【0008】
特許文献1に記載されているように、バーストパターンとして、A〜Dまでの4つのバーストビット列を含む振幅サーボパターン、あるいは位相サーボパターンがよく知られている。
【0009】
振幅サーボパターンから得られる位置誤差信号(Position Error Signal:PES)においては、A−Bバーストからの信号とC−Dバーストからの信号との切り替え時の不連続点がトラック毎に2箇所(64PES、192PESにおいて)生じる(特許文献2参照)。また、Sin波の振幅を検出するために、ある同一のバーストビットが複数回繰り返し配置されていることを要する。
【0010】
また、位相サーボパターンにおいては、複数のトラックに跨ってほぼ半径方向に延びる平行なパターンが形成されており、不連続点は振幅サーボパターンと比べて少なくなるが、位置誤差信号としてSin波の位相を検出するために、やはり同一のパターンが繰りかえし配置されていることを要し、さらに逆位相のパターンを備える必要がある。
【0011】
また、特許文献3には、ヘッドを走査する際に測定される周波数がダウントラック方向に変化するように、円周方向に沿うサーボパターンの長さが連続的に変化する複数のトラックを横断する細長いパターンが提案されている。特許文献3には、原理的には、細長いパターンが少なくとも2本あればよいが、安定したトラッキングを実現するためには、現実的には、サーボパターンの幅が80クロック分程度は必要であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−276911号公報
【特許文献2】特開2007−213745号公報
【特許文献3】特開2003−323772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
狭トラック化に伴って、サーボフィールドに形成されるパターンの個々の領域の微細化も進んでいる。バースト部から得られるSin波形の振幅や位相情報を元にオフトラック量を求める振幅サーボや位相サーボ方式では、データビットのビット長の短化に伴う、磁気記録装置におけるリードチャネルの周波数帯域の周波数の上昇により、そのリードチャネルの周波数の制限からバースト部を構成するパターンもより細線化が求められている。
特許文献3のサーボ方式においても、1つの細長いパターンの幅は1クロック幅に相当すると記載されており、細線化は避けられない。
【0014】
一方で、既述のように、マスター担体やインプリントモールドなどにおいては、凹凸パターンとしてサーボパターンを担持するため、サーボパターンとしては、複雑でないパターンが望まれる。
【0015】
すなわち、従来の振幅サーボや位相サーボ方式のバーストパターンは、凹凸パターンとしてサーボパターンを担持する転写用担体を用いた磁気記録媒体の作製に、不都合となりつつある。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたのであって、パターン形成が容易であり、かつより簡易なアルゴリズムによるサーボ制御が可能であり、トラッキングサーボの精度を向上させることが可能なサーボパターンを備えた磁気記録媒体およびその磁気記録媒体を備えた磁気記録装置を提供することを目的とするものである。また、磁気記録媒体にそのサーボパターンを形成するための凹凸パターンを備えたインプリントモールドおよび磁気転写用マスター担体などの転写用担体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の磁気記録媒体は、磁気記録媒体のサーボパターン中のバーストパターンから得られる信号の積分値に基づいて、該磁気記録媒体における磁気ヘッドの半径方向走査位置を検出するサーボ方式を採用する磁気記録装置において使用される、前記サーボパターンを備えた磁気記録媒体であって、
前記バーストパターンに含まれるバーストが、クロストラック方向にダウントラック方向長さが略直線的に増加する形状を有する、複数のデータトラックに亘って形成されてなる1つの第1の信号領域と、該第1の信号領域のダウントラック方向に隣接して設けられた1つまたは2つの第2の信号領域とからなる、前記第1の信号領域のダウントラック方向最大長を一辺とする矩形領域からなるものであり、
該バーストが、前記クロストラック方向に複数配列されていることを特徴とするものである。
【0018】
ここで、クロストラック方向とは、トラック番号が増える(+)向きおよび減る(−)向き(ディスク径の内径向きおよび外径向き)いずれをも含むものであり、従って、「クロストラック方向にダウントラック方向長さが略直線的に増加する」とは、クロストラック方向のいずれかの向きにダウントラック方向長さが略直線的に増加していればよい。
また、ここで第1の信号領域のダウントラック方向最大長とは、第1の信号領域が存在するダウントラック方向の最大長さをいうものとする。
第1の信号領域と第2の信号領域とは互いに異なる磁性状態を示す領域であり、互いに異なる磁化状態を有する領域であってもよいし、磁性領域と非磁性領域とからなるものであってもよい。
【0019】
前記形状は、前記複数のデータトラックに跨って延びる、前記ダウントラック方向および前記クロストラック方向と交差する第1の辺と、前記複数のデータトラックに跨って延びる、前記第1の辺と平行でない第2の辺とを有するものであることが望ましい。ここで、辺は線分(直線)を意味するものである。
【0020】
また、前記バーストは、前記ダウントラック方向に複数配列されていることが望ましい。さらに、このとき、前記ダウントラック方向に隣り合って配列されているバーストが、前記形状が前記クロストラック方向にずれて配置されていることが特に望ましい。
【0021】
本発明の磁気記録装置は、本発明の磁気記録媒体を搭載しているものであることを特徴とする。
【0022】
本発明の磁気記録装置は、磁気記録媒体のサーボパターン中のバーストパターンから得られる信号の積分値に基づいて、該磁気記録媒体における磁気ヘッドの半径方向走査位置を検出するサーボ方式を採用するものであり、予め各トラック毎のオントラック時のバースト信号値情報を記憶する記憶部と、該バースト信号値と、磁気ヘッドにより前記磁気記録媒体を走査して得られたバーストからの信号積分値とを比較する比較部とを備え、該比較に基づいてオフトラック量を求め、前記磁気ヘッドの位置制御を行うものである。
【0023】
本発明の転写用担体は、本発明の磁気記録媒体のサーボパターンを形成するための転写用サーボパターンを凹凸パターンとして表面に備えた転写用担体であって、
前記転写用サーボパターンが、前記磁気記録媒体における前記バーストの前記第1の信号領域に対応する、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する平面形状を有する、前記磁気記録媒体上における複数のデータトラックに亘って形成された凹部または凸部を含むことを特徴とするものである。
【0024】
ここで、転写用担体としては、一様な磁性層を有する磁気記録媒体に磁気転写により磁化パターンを形成するための磁気転写用マスター担体、ディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアなどのパターンドメディアを作製する際に、各パターンドメディア用の凹凸パターン形状を転写形成するための反転凹凸パターンを備えたインプリントモールドなどが挙げられる。
【0025】
なお、転写用担体が磁気転写用マスター担体である場合、サーボパターンに応じた凹凸パターンが基板表面に形成されていれば、その凹凸パターン表面に沿って磁性層が形成されてなるもののほか、凹凸パターンの凸部表面にのみ磁性層が設けられ凹部が非磁性体材料により埋め込まれて表面が平坦化されているもの、凹凸パターンの凹部のみに磁性層が埋め込まれ表面が平坦化されているものであってもよい。
【0026】
また、転写用担体がディスクリートメディア用のインプリントモールドである場合、サーボパターンに応じた凹凸パターンに加えて、グルーブを形成するための凹凸を表面に備えたものとなる。転写用担体がビットパターンメディア用のインプリントモールドである場合、サーボパターンに応じた凹凸パターンに加えて、独立したビットを構成するための凹凸を表面に備えたものとなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の磁気記録媒体は、サーボパターン中のバーストパターンが、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する形状を有する、複数のデータトラックに亘って形成された第1の信号領域を有するバーストを含むものとなっており、このようなバーストパターンは、バーストにおける信号の積分からオフトラック量を換算することができるため、Sin波形に基づいてオフトラック量を求める従来の方式とは異なり磁気記録装置におけるリードチャネルの周波数制限を受けない。周波数制限による細線化の必要がなく、またバーストは複数のデータトラックに亘る形状を有し、最低1対の+/−の信号領域(1つの第1の信号領域と1つの第2の信号領域)から構成することができるため、サーボ領域を従来と比較して小さくすることができ、相対的にデータ領域を増加させることが可能となり、磁気記録媒体の記録密度向上を図ることができる。
【0028】
パターンの微細化を抑制することができるので、凹凸パターンとしてサーボパターンを担持する転写用担体を用いた磁気記録媒体の作製に好適であり、サーボパターンを高精度に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気記録媒体のセクタ構造を示す平面概念図
【図2】図1の部分Aの拡大図
【図3】第2のバーストパターンを示す模式図
【図4】第3のバーストパターンを示す模式図
【図5】第4のバーストパターンを示す模式図
【図6】バーストの変形例
【図7】第5のバーストパターンを示す模式図
【図8】第6のバーストパターンを示す模式図
【図9】ダウントラック方向における符号付バースト信号の出力積分値の検出例を示す図
【図10】本発明の第2の実施形態に係る磁気記録媒体の一部を拡大した模式図
【図11】本発明の第3の実施形態に係る磁気記録媒体の一部を拡大した模式図
【図12】(A)本発明の第1の実施形態に係る転写用担体(磁気転写用マスター担体)の平面概念図と(B)その一部の拡大図
【図13】磁気転写方法の工程図
【図14】本発明の第2の実施形態に係る転写用担体(ナノインプリントモールド)の一部を示す拡大図
【図15】インプリント法の工程図
【図16】本発明の磁気記録媒体を収容してなる磁気記録再生装置の概略構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0031】
<第1の実施形態の磁気記録媒体>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気記録媒体1のセクタ構造を示す平面概念図である。本実施形態の磁気記録媒体1は、平面基板上に一様に磁気記録層が設けられてなる磁気ディスク媒体である。図2は図1における部分Aを拡大した図である。なお、図中、ディスク表面において、ディスクの周方向(ダウントラック方向)をX軸、半径方向(クロストラック方向)をY軸としている。
【0032】
図1に示すように、磁気ディスク媒体1上には、データ領域11とサーボ領域12とが周方向に交互に配置されている。すなわち、同心円状のトラック内において、サーボ領域12が断続的に配置され、データ領域11はサーボ領域12間に配置されている。
【0033】
データ領域11は、磁気記録装置の磁気ヘッドによってユーザデータを書き込み可能な領域である。
サーボ領域12は、磁気ヘッドによるサーボトラッキングを行うためのサーボ情報が磁化パターンとして記録されている領域である。
【0034】
図2は、図1における部分Aを拡大した図であり、複数トラック101〜106の一部を示すものである。サーボ領域12には、再生信号のクロックを同期させるための情報が記録されたプリアンブル部12a、サーボ信号認識コード、セクタ情報、シリンダ情報などが形成されたアドレス部12b、および位置誤差を検出するためのバーストパターンが形成されたバースト部12cからなるサーボパターンが設けられている。サーボ領域12においては、斜線で示した領域と白抜き領域(非斜線領域)とでは逆極性の磁区が形成されている。例えば、垂直磁気記録媒体においては、斜線領域表面がS極であれば白抜き領域表面がN極であり、斜線領域表面がN極であれば白抜き領域表面がS極である。
【0035】
本実施形態においては、バーストパターンが従前の磁気ディスクにおけるパターンと大きく異なる。図2に示すように、本実施形態の磁気記録媒体1におけるバーストは、2点鎖線で囲まれている矩形領域からなり、複数のデータトラックに跨って延びる、ダウントラック方向Xおよびクロストラック方向Yと交差する第1の辺21aと、複数のデータトラックに跨って延びる、第1の辺21aと平行でない第2の辺21bとを有する、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する三角形状(斜線領域)の1つの第1の信号領域21と、該第1の信号領域21と組み合わされて上述の矩形領域を構成する三角形状(非斜線領域)の1つの第2の信号領域19とから構成されている。ここで、第1の信号領域21においてダウントラック方向長さとは、同一クロストラック方向位置(同一半径方向位置)における第1の辺21aと第2の辺21bとの距離である。本実施形態において、第1の信号領域21のダウントラック方向最大長Lは、三角形状の底辺21cに相当する。バースト20の矩形領域は、この第1の信号領域21のダウントラック方向最大長Lの長さのダウントラック方向に平行な2辺を有するものである。バースト20の幅は4〜32クロックであることが好ましい。
【0036】
なお、図中のバースト20を示す二点鎖線は仮想線であり、第2の信号領域19とバースト20を囲む領域とは同一磁化領域であるため、2点鎖線で示す第2の信号領域19と周囲領域との境界は、実際には視覚的に区別できるものではない。以下の実施形態において同様である。
【0037】
現実的には第2の信号領域19中に三角形状の第1の信号領域21が設けられているにすぎず、ここでは、その、第1の信号領域21を含む仮想的な矩形領域をバースト20と規定している。
なお、本磁気記録媒体が搭載される磁気記録装置あるいは磁気記録再生装置において、磁気記録ヘッドを用いたトラッキングサーボ時において、バースト20はバースト部における最小サンプリングウィンドウ領域に相当する。
【0038】
バースト部12cには、バースト20(現実的には三角形状の第1の信号領域21)が、クロストラック方向に配列されてなる第1のバースト列22と、この第1のバースト列22のダウントラック側に、第1のバースト列22のバースト20間における不連続部分をカバーできるように、すなわちクロストラック方向における第1の信号領域21間の隣接部が存在するトラックにおけるPES信号をカバーできるように一定のオフセットを加えたクロストラック方向位置に三角形状の第1の信号領域21が配置された第2のバースト列23とが設けられている。なお、バーストパターンは、第1のバースト列22および第2のバースト列23がそれぞれダウントラック方向に複数回繰り返し配列されてなるものであってもよい。
【0039】
プレアンブル周期をTとした場合、従来の振幅サーボのためのフォーバーストにおけるバーストは1サーボトラック幅、1/2〜1T程度微細パターンの繰り返しであるが、本実施形態のバーストの第1の信号領域21は、複数サーボトラック幅、ダウントラック方向に数T〜10T長程度と大きな領域を占めるものである。
【0040】
図2に示すバースト20の第1の信号領域21は、直角三角形状であり、その辺21bがクロストラック方向に沿うように、かつ斜辺21aがクロストラック方向およびダウントラック方向と交わるように配置されており、クロストラック方向に(例えばトラック101から103にかけて)、そのダウントラック方向長さが徐々に増加する。すなわち、直角三角形の第1の信号領域21は、クロストラック方向に徐々に各トラックにおいて占める面積が徐々に増加するように配置されている。
【0041】
このように、バースト20においてクロストラック方向に第1の信号領域21が占める線分長さが徐々に変化しているので、磁気ヘッドが辺21bから直角三角形の底辺21cの長さ分(バースト20のダウントラック方向長さ分)走査したときに検出される符号付信号出力の積算値(走査した長方形内の斜線部分と非斜線部分の面積の差分に相当)からオフトラック量を求めることができる。互いに異なる極性の磁区が形成されている第1および第2の信号領域からは、例えば、第1の信号領域から+の信号、第2の信号領域から−の信号が得られる。このとき、バースト20のクロストラック方向に沿った一辺から対向する他辺までを磁気ヘッドが走査した際の信号の積算値を、各トラックにおけるオントラックにおいて出力されるべき信号値と比較することにより、オフトラック量を求めることができる。このようなトラッキングサーボを行うために、本磁気記録媒体を搭載する磁気記録装置は、各トラック毎のオントラックにおける信号値情報を備えた記憶部と、信号値と測定された積算信号値(積分値)とを比較する比較部とを備えればよい。
【0042】
クロストラック方向の配列における第1の信号領域21同士の隣接箇所、例えば、第1のバースト列22における、第1の信号領域21のクロストラック方向におけるつなぎ目となるトラック104においては、第1の信号領域21が占める線分長さの変化が不連続となることから、第1のバースト列22からのオフトラック量の検出が困難である。
【0043】
そこで、少なくともトラック104における位置信号は、第2のバースト列23のバースト20から取得できるように、第2のバースト列23は、第1のバースト列22のバーストの隣接箇所が位置するトラックにおいて、第2のバースト列の第1の信号領域21が、そのダウントラック方向長さがクロストラック方向に徐々に変化する部分が位置するように第1のバースト列に対してクロストラック方向にずれて配置されている。
【0044】
本実施形態のサーボパターンにおいては、トラック101−102を第1のバースト列22、トラック103−104を第2のバースト列23、トラック105−106を第1のバースト列22・・と2トラック毎にPES信号を取得するバースト列を切り替えるようにすることができる。バースト列切り替え時には、PES信号の不連続性が生じるが、従来のフォーバーストの際には、トラック毎に2箇所程度生じていた不連続性を本実施形態のバーストパターンにおいては、2トラックに1箇所程度に抑制することができる。また、ここでは、バーストが4トラックに跨るものであるが、より多くのトラック(例えば、8トラック、16トラックなど)に亘って連続的にダウントラック長が変化する形状とすれば、PES信号を取得するバースト列の切り替えを4トラック毎、8トラック毎などとすることができ、不連続性の発生をより低減することができる。
【0045】
(バーストパターンの他の例)
ここで、本発明の磁気記録媒体におけるバーストパターンの他の例を図3〜図8を参照して説明する。各図において、左端の符号101、102・・・はトラック番号を示している。
【0046】
バーストパターンとしては、図3に第2のバーストパターン24として示すように、三角形状の第1の信号領域21が、すなわちバースト20がクロストラック方向に複数配列されてなる第1のバースト列のみであってもよい。ただし、上述のとおり、第1の信号領域21間の不連続部分における位置制御の精度が十分なものとならない恐れがあることから、図2のように、不連続部分をカバーする第2のバースト列23が設けられていることが望ましい。
【0047】
また、図4に示す第3のバーストパターン25のように、第1のバースト列22を構成する第1のバースト20と第2のバースト列23とを構成する第2のバースト20’との大きさが異なっていてもよい。第2のバースト列23は第1のバースト列22の不連続箇所をカバーできればよいので、少なくともトラック104、108・・等の第1のバースト列22の第1の信号領域21の隣接部が位置するトラックにおける位置信号を、第2のバースト列23の第1の信号領域21’から取得できるように、第2のバースト列23の第1の信号領域21’が、少なくとも第1のバースト列22の第1の信号領域21の隣接部が位置するトラックの幅方向全域においてそのダウントラック方向長さがクロストラック方向に徐々に変化する部分が位置するように、第1のバースト列に対してクロストラック方向にずれて配置されていればよい。したがって、さらには第1のバースト列22と第2のバースト列23とを構成するバースト20、20’の第1の信号領域の形状が互いに異なるものであってもよい。
【0048】
また、図5に第4のバーストパターン26として示すように、第2のバースト列23において、バースト20の第1の信号領域21が第1のバースト列22とは左右対称に配置されていてもよい。
【0049】
バーストにおける第1の信号領域の形状は、直角三角形に限るものではなく、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する形状を有する、複数のデータトラックに亘って形成されたものであればよい。
【0050】
図6(A)に示すように、バースト30は、略直角三角形状の第1の信号領域31と第2の信号領域29とからなる矩形状であり、第1の信号領域がそのトラックを横切る辺31aが微細な階段状に形成されていてもよい。段差がデータトラック幅の1/2以下程度であれば、磁気ヘッドによる信号読み取りの際に、信号が平均化されて、ほぼ直線の場合と同等の信号が検出されると考えられる。バースト30は、第1の信号領域31のダウントラック方向最大長Lの長さのダウントラック方向に平行な辺を有している。
【0051】
また、図6(B)に示すように、バースト35における第1の信号領域32は、複数のデータトラックに跨って延びる2つの辺32a、32bが互いに平行でなければ、そのバースト35の第1の信号領域32のデータトラック方向長さはダウントラック方向に徐々に変化するものとなるので、直角三角形状でなくてもよい。このとき、バースト35は、1つの第1の信号領域32と、そのダウントラック方向の上流側および下流側に配置された2つの第2の信号領域34a、34bとから構成される矩形領域である。このバースト35において、第1の信号領域32のダウントラック方向最大長は、第1の信号領域32が存在するダウントラック方向領域の長さLである。
【0052】
同様に、図6(C)に示すように、バースト38における第1の信号領域33は二等辺三角形であってもよい。ここでは、バースト38は、1つの第1の信号領域33と、そのダウントラック方向の上流側および下流側に隣接配置された2つの第2の信号領域37a、37bとから構成される矩形領域である。このバースト38において、第1の信号領域33のダウントラック方向最大長は、第1の信号領域33の底辺の長さL4である。
【0053】
いずれのバースト30、35、37においても、第1の信号領域と第2の信号領域との占有面積がダウントラック方向に徐々に直線的に変化することから、磁気ヘッド走査により信号積算値を得、そのオントラック時の信号値との差からオフトラック量を得ることができる。
【0054】
さらに、図7に第5のバーストパターン27として示すように、バーストパターン27は、二等辺三角形状の第1の信号領域33、33’をトラック方向に互いの一辺33cが重なりひし形を構成するように配置し、このひし形がクロストラック方向に繰り返し配置されていてもよい。第5のバーストパターン27において、第1のバースト38は、二等辺三角形状の第1の信号領域33と、それに隣接する第2の信号領域37a、37bからなり、この第1のバースト38と、第1の信号領域33’とそれに隣接する第2の信号領域37a’、37b’とからなる第2のバースト38’クロストラック方向に互い違いに配置されている。
【0055】
第1のバースト38の第1の信号領域33は、クロストラック方向+(正)の向き(トラック番号が増える向き)に徐々にそのダウントラック方向長さが増加する二等辺三角形状であり、第2のバースト38’の第1の信号領域33’は、クロストラック方向−(負)の向き(トラック番号が減る向き)に徐々にそのダウントラック方向長さが増加する二等辺三角形状である。
【0056】
また、ダウントラック方向長さが徐々に増加する形状は、第1の信号領域の一部に含まれていればよく、図8に第6のバーストパターン28として示すように、バースト40の第1の信号領域36の形状としては、直角三角形の鋭角がカットされたような形状であってもよい。このようなバースト40の第1の信号領域36においても、辺36a、36bにより、複数のトラック(例えば、トラック101−103)に亘ってその辺36a、36b間の距離(ダウントラック方向長さ)が徐々に変化する形状が構成されている。ここでは、バースト40は、1つの第1の信号領域36と、そのダウントラック方向の上流側および下流側に隣接配置された2つの第2の信号領域39a、39bとから構成される矩形領域である。このバースト40において、第1の信号領域36のダウントラック方向最大長は、その底辺の長さLである。
【0057】
また上記各パターンにおいては、クロストラック方向に配列されたバーストは隣接バーストとそれぞれ接触するように配置されているが、クロストラック方向におけるバースト間は離間していてもよい(図10、図11参照。)。
【0058】
図2のバーストの直角三角形の底辺21cの長さ(ダウントラック方向長さ)をプレアンブル周期の8倍、辺21aの長さ(クロストラック方向長さ)をサーボトラック幅の4倍としたときの符号付きバースト信号の積分値の検出例(実験結果)を図9に示す。図9において、横軸はサーボトラック番号、縦軸は出力積分値である。図9に示されているように、第1のバースト列22、第2のバースト列23からの出力が交互に直線的な部分(図中の破線および実線で示す直線部)を有していることがわかる。この直線部分を用いて位置誤差を検出するように、図9に示す例では、2トラック毎に第1のバースト列、第2のバースト列からのPES信号を切り替えて用いればよい。この直線的に変化する出力は、第1の信号領域のダウントラック方向長さが直線的に変化することに起因するものである。
【0059】
図2に示したバーストパターンを備えた磁気記録媒体においては、前述のように、磁気ヘッドが辺21bから直角三角形の底辺21cの長さL分走査したときに検出される符号付信号出力の積算値(出力積分値)からオフトラック量を求めることができる。上述の通り、オントラック時の信号値情報として、オントラック時の信号値そのもの、もしくは出力積分値の直線の傾きに関する情報を取得しておき、オントラック時の信号値と、磁気ヘッド走査により得られた出力積分値とを比較することにより、オフトラック量を演算することができ、このように、クロストラック方向に直線的に変化する出力積分値を用いることにより、トラッキングサーボのアルゴリズムを簡易なものとすることが可能となる。
【0060】
一方、実際のアプリケーションでは、プレアンブル(Preamble)から取得した基準クロック(Clock)とバーストの開始時刻との間に僅かな位相ずれ(Clockの半分以下)が生じるため、辺21bから辺21aまでの区間を完全に正確な開始タイミングで測定することは困難であり、バースト部のディジタルサンプリング開始タイミングが辺21bより遅れた場合、それはオフトラック量の誤検出となりトラッキング精度を低下させてしまう恐れがある。
【0061】
オフトラック量の誤検出を回避する第1の方法としては、バーストの配置とディジタルサンプリングのタイミングを変える方法がある。具体的には、バーストの両側にタイミング誤差を吸収するために、1クロック幅以上の同一極性の矩形領域を確保すればよい。バーストの両側の極性が同じであれば構わないため、実際には、図2中、2点鎖線で囲まれたバースト20の両側に白い領域(第2の信号領域と同一の信号となる領域)を確保しておけばよい。そして、ディジタルサンプリングの開始時刻を、バースト20のクロストラック方向の第1の辺21bより1クロックだけ早め、測定終了時刻をクロストラック方向の第2の辺21dより1クロック遅らせる。これによって確実に測定ウィンドウの中にバースト領域を確保できるためタイミング誤差の影響をキャンセルすることが可能になる。また、これによって、両側矩形領域部分に相当するバースト信号の積算値へのオフセットが発生するが、このオフセットはオフトラック量に依存しない一定量であるためファームウェアやパラメーターの事前設定で対応可能である。
【0062】
オフトラック量の誤検出を回避する第2の方法は、図7のバースト38の第1の信号領域33のようにトラックを横切る2本の境界線の両方がトラックを垂直に横切らない形状を用いて、三角形の底辺33c付近以外では境界線が2本ともサンプリングウィンドウ(バースト38内)に入るようにする方法である。この場合、第1の方法で必要とされるタイミング誤差を吸収するための領域の設置は不要となる。
【0063】
<第2の実施形態の磁気記録媒体>
図10は、本発明の第2の実施形態に係る磁気記録媒体2のトラック101−111の一部を模式的に示す拡大図である。本実施形態の磁気記録媒体2は、データ領域において、隣接するトラック間が非磁性体55により分離されてなるディスクリートトラックメディア(DTM)である。
【0064】
DTM2においても第1の実施形態の磁気記録媒体1と同様に、データ領域11とサーボ領域12とが周方向に交互に配置されている。
【0065】
図10に示すように、DTM2はそのデータ領域11において、トラック間に非磁性体55が設けられてトラック同士は分離されている。この非磁性体55が設けられている領域は、空隙であってもよく、空隙の場合には所謂グルーブと呼ばれる溝となって隣接トラックを分離する。
DTM2におけるサーボ領域は、サーボ情報が予め凹凸パターンとして記録された領域である。少なくとも凸部表面は磁性体により形成されている。
【0066】
サーボ領域のバースト部12cには、複数のデータトラックに跨って延びる、ダウントラック方向Xおよびクロストラック方向Yと交差する第1の辺51aと、複数のデータトラックに跨って延びる、第1の辺51aと平行でない第2の辺51bとを有する、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する形状の1つの第1の信号領域51と、そのダウントラック方向に隣接して設けられた2つの第2の信号領域57a、57bとから構成されたバースト56が複数設けられている。
【0067】
本実施形態において、第1の信号領域51は、二等辺三角形の角部が切り取られた多角形状を有している。また、本実施形態においては、バースト56がクロストラック方向に1トラック分離間して配列されてなる第1のバースト列52と、この第1のバースト列52のダウントラック側に、第1のバースト列52のバースト56間における不連続部分(例えば、図10においてトラック105−107)をカバーできるように、すなわちクロストラック方向におけるバースト56間の隣接部が存在するトラックにおけるPES信号をカバーできるように一定のオフセットを加えたクロストラック方向位置に配置された第2のバースト列53とが設けられている。
【0068】
DTM2においては、斜線で示される第1の信号領域51および非斜線領域である第2の信号領域(白抜き領域)のどちらか一方が、磁性体により構成され、他方が非磁性体により構成される。すなわち、第1の信号領域1が非磁性体で構成されていれば、白抜き領域は所定の磁化を有する磁性体により構成され、第1の信号領域51が磁性体で構成されていれば、白抜き領域は非磁性体により構成される。ここで、非磁性体領域は空隙であってもよい。すなわち、磁性体領域が非磁性体領域に対して凸状に形成されていてもよい。サーボ領域の磁性体は予め所定の方向に磁化され、磁気ヘッドの走査により、第1の信号領域と第2の信号領域とからは互いに異なる信号が得られる。
【0069】
第1の実施形態の磁気記録媒体1の場合と同様に、磁気ヘッドが辺51bから二等辺三角形の底辺の長さ分(バースト56のダウントラック方向長さ分)L走査したときに検出される符号付信号出力の積算値(走査した長方形内の斜線部分と非斜線部分の面積の差分に相当)からオフトラック量を求めることができる。
【0070】
DTM2においては、図2〜図8に示したいずれかの平面形状の第1の信号領域を備えたバーストを適用してもよい。
【0071】
<第3の実施形態の磁気記録媒体>
図11は、本発明の第3の実施形態に係る磁気記録媒体3のトラック101−111の一部を模式的に示す拡大図である。本実施形態の磁気記録媒体3は、データ領域11において、多数の磁性ドット65が物理的に孤立して規則的に配列されてなり、1個の磁性ドット65に1ビットを記録するビットパターンメディア(BPM)である。
【0072】
BPM3においても第1、2の実施形態の磁気記録媒体1、2と同様に、データ領域11とサーボ領域12とが周方向に交互に配置されている。
【0073】
図11に示すように、BPM3はそのデータ領域11において、磁性ドット65は非磁性体66により互いに離間し、孤立している。
BPM3におけるサーボ領域は、DTM2と同様に、サーボ情報が予め凹凸パターンとして記録された領域である。ここでは、非磁性体に形成された凹部に磁性体が埋め込まれている。
【0074】
サーボ領域のバースト部12cには、複数のデータトラックに跨って延びる、ダウントラック方向Xおよびクロストラック方向Yと交差する第1の辺61aと、複数のデータトラックに跨って延びる、第1の辺61aと平行でない第2の辺61bとを有する、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する形状の第1の信号領域61と、そのダウントラック方向に隣接して設けられた第2の信号領域68a、68bとから構成されたバースト67が設けられている。
【0075】
本実施形態において、第1の信号領域61は、二等辺三角形の角部が切り取られた多角形状を有している。また、本実施形態においては、バースト67がクロストラック方向に1トラック分離間して配列されてなる第1のバースト列62と、この第1のバースト列62のダウントラック側に、第1のバースト列62のバースト67間における不連続部分(例えば、図11においてトラック105−107)をカバーできるように、すなわちクロストラック方向におけるバースト67間の隣接部が存在するトラックにおけるPES信号をカバーできるように一定のオフセットを加えたクロストラック方向位置に配置された第2のバースト列63とが設けられている。
【0076】
BPM3においては、非斜線領域(白抜き領域)で示される第2の信号領域が非磁性体により構成されており、斜線で示される第1の信号領域61は非磁性体に形成された凹部に磁性体が埋め込まれて構成されている。サーボ領域に形成されている、第1の信号領域61を含む磁性体は予め所定の方向に磁化される。磁化の向きは、1つのバースト67内においては、一様とするが、バースト毎で異なる向きに磁化されていてもよい。磁気ヘッドの走査により、磁性体の領域と非磁性体の領域とで互いに異なる信号が得られる。
【0077】
第1、2の実施形態の磁気記録媒体1、2の場合と同様に、磁気ヘッドが辺61bから二等辺三角形の底辺の長さ分(バースト56のダウントラック方向長さ分)L走査したときに検出される符号付信号出力の積算値(走査した長方形内の斜線部分と非斜線部分の面積の差分に相当)からオフトラック量を求めることができる。
【0078】
BPM3においても、図2〜図8に示したいずれかの平面形状の第1の信号領域を備えたバーストを適用してもよい。
【0079】
以上に説明したように、本発明の磁気ディスク媒体においては、バーストパターンを構成するバーストの第1の信号領域が、複数トラック幅、複数データビット長を有する大きな形状であるため、バーストパターンを転写用凹凸パターンとして担持する転写用担持体に形成される転写用凹凸パターンの個々の凸部もしくは凹部の大きさを大きくすることができる。転写用担持体において、バーストの第1の信号領域に相当する凸部(もしくは凹部)をなるべく大きく、複雑に変化しないパターンとすることができるため、磁気転写用マスター担体、インプリントモールドの作製およびこれらを用いた磁気記録媒体の作製が、より容易にかつ精度よくできる。
【0080】
<第1の実施形態の転写用担体(磁気転写用マスター担体)>
図12(A)は、本発明の実施形態に係る転写用担体である磁気転写用マスター担体7の平面図であり、図12(B)はその部分拡大図である。
図12(A)に示すように、本実施形態の磁気転写用マスター担体7は、中心孔70を有する円盤状に形成されており、片面の内周部および外周部を除く円環状領域に、転写すべき情報に応じた微細凹凸パターンを表面に備えている。ここでは、磁気記録媒体1に形成されているサーボ領域12の磁化パターンを形成するための凹凸パターンを備えている場合について説明する。
【0081】
磁気転写用マスター担体7は、磁気ディスク媒体1上のサーボ領域12に相当する、転写用サーボパターンが凹凸パターンとして形成されたサーボ凹凸パターン領域72を備えているサーボ凹凸パターン領域72間の領域71は、磁気ディスク媒体1上のデータ領域11に相当する。
【0082】
図12(B)は、図12(A)における部分Aを拡大した図であり、図2に示す磁気ディスク上の一部領域に対応した領域を示している。サーボ凹凸パターン領域72には、再生信号のクロックを同期させるための情報が記録されたプリアンブル部72a、サーボ信号認識コード、セクタ情報、シリンダ情報などが形成されたアドレス部72b、および位置誤差を検出するためのバーストパターン75が形成されたバースト部72cが設けられている。サーボ凹凸パターン領域72において、斜線で示した領域が凸部あるいは凹部として形成されている。
【0083】
図12(B)に示すように、本実施形態の磁気転写用マスター担体7における転写用のバーストパターン75は、複数のデータトラックに跨って延びる、ダウントラック方向Xおよびクロストラック方向Yと交差する第1の辺76aと、複数のデータトラックに跨って延びる、第1の辺76aと平行でない第2の辺76bとを有する、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する三角形状の上面(もしくは開口)を有する凸部(もしくは凹部)76から構成されている。ここで、凸部(もしくは凹部)76のダウントラック方向長さとは、上面(もしくは開口)における同一クロストラック方向位置における第1の辺76aと第2の辺76bとの距離である。
【0084】
図12に示す転写用バーストパターン75において凸部(もしくは凹部)76は、図2に示す磁気ディスク媒体1におけるバースト20の第1の信号領域21の配列に対応して配列されている。
【0085】
磁気転写用マスター担体7においては、磁気ディスク媒体1上における第1の信号領域21が大きいほど、それに対応して設けられる凸部(もしくは凹部)76の形状を大きく形成することができ、好ましい。
【0086】
磁気転写用マスター担体7は、主として、基材7aとこの基材7aの表面上に形成される磁性層7bとを備える。基材7aは、その表面に微細凹凸パターンを有し、磁性層7bは、微細凹凸パターンの表層に全面に亘って一様に形成されている。本実施形態においては、製造が容易である等の理由により、凹部にも磁性層7bが形成されているが、磁性層は凸部の表面に備えられていればよく、凹部には磁性層7bはなくてもよい。マスター担体7は、さらに、保護層、潤滑剤層、下地層等を備えていることが好ましい。
【0087】
(磁気転写用マスター担体の作製方法)
表面が平滑なSi基板上に、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して、レジスト層を形成し、回転ステージ上でSi基板を回転させながら、サーボ信号に対応して変調した電子ビームを照射し、レジスト層の略全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを描画露光する。
【0088】
レジスト層を現像処理し、露光(描画)部分を除去して、残ったレジスト層による所望厚さの被覆層をマスクとして反応性イオンエッチングなどにより選択エッチングを行い、レジスト層を除去することにより、凹凸パターンを有する原盤を得る。
【0089】
次に、原盤の表面に均一厚さに導電層を形成し、その上に、電鋳により所望の厚さの金属(例えば、Ni)による金属板を積層する。この金属板を原盤から剥離し、原盤から反転した凹凸パターンを有する基材7aを得る。
【0090】
次いで、基材7aの凹凸表面上に磁性層7bを形成し、最後に、基材7aの内径および外径を、所定のサイズに打抜き加工する。以上のプロセスにより、磁性層7bが設けられた凹凸パターンを有するマスター担体7を作製することができる。
【0091】
(磁気転写方法)
次に、上記磁気転写用マスター担体7を用い、基板1a上に垂直磁気記録層である磁性層1bを有してなる磁気記録媒体1に転写パターンを転写する磁気転写方法について説明する。図13は磁気転写工程を示す図である。
【0092】
図13(A)に示すように、予め磁気ディスク媒体1に初期直流磁界Hinをトラック面に垂直な一方向に印加して磁性層1bの磁化を初期直流磁化させておく。その後、図13(B)に示すように、この磁気ディスク媒体1の磁性層1b側の面とマスター担体7の磁性層7bの面とを密着させ、磁気ディスク媒体1のトラック面に垂直な方向に初期直流磁界Hinとは逆方向の転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。その結果、図13(C)に示すように、転写用磁界がマスター担体7の磁性層7bに吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体1の磁性層1bの磁化が反転し、その他の部分の磁化は反転しない結果、磁気ディスク媒体1の磁性層1bにはマスター担体7の凹凸パターンに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁化パターンとして転写記録される。
【0093】
<第2の実施形態の転写用担体(インプリントモールド)>
本発明の第2の実施形態の転写用担体としてDTM用のインプリントモールド8について説明する。図14は、インプリントモールド8の一部を拡大して模式的に示した拡大模式図である。
【0094】
インプリントモールド8は、磁気転写用マスター担体とほぼ同様の形状を有し、転写すべき情報に応じた微細凹凸パターン表面に備えている。本実施形態において、インプリントモールド8は、DTMに形成されるサーボパターンおよびグルーブに応じた微細凹凸パターンを表面に備えてなる。
【0095】
インプリントモールド8は、DTM2上のサーボ領域12に相当する、転写用サーボパターンが凹凸パターンとして形成されたサーボ凹凸パターン領域82と、DTM2上のデータ領域11に相当する、データトラック間を分離するグルーブに応じた凸部80が形成されたグルーブパターン領域81とを備えている。
【0096】
図14は、図10に示すDTM2の一部領域に対応した領域を示している。サーボ凹凸パターン領域のバースト部82cには、複数のデータトラックに跨って延びる、ダウントラック方向Xおよびクロストラック方向Yと交差する第1の辺86aと、複数のデータトラックに跨って延びる、第1の辺86aと平行でない第2の辺86bとを有する、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する形状の上面を有する凸部86から構成された転写用のバーストパターン85が設けられている。
【0097】
図14に示す転写用バーストパターン85において凸部86は、図10に示すDTM2におけるバーストパターン50のバーストの第1の信号領域51の配列に対応して配列されている。
インプリントモールド8においても、磁気転写用マスター担体7の場合と同様に、バーストの第1の信号領域51が大きいほど、それに対応して設けられる凸部86の形状を大きく形成することができ、好ましい。
【0098】
(インプリントモールドの作製方法)
インプリントモールドの作製工程において、その原盤作製は磁気転写用マスター担体の原盤作製工程とほぼ同一である。ただし、電子線描画工程において、サーボ信号に相当するパターンだけでなくデータ領域におけるグルーブに対応するグルーブパターンを描画する。
【0099】
磁気転写用マスター担体の原盤と同様の方法で、凹凸パターンを有する原盤を得た後、光硬化性樹脂を含有するインプリントレジスト液を塗布してなるインプリントレジスト層が形成された光透過性を有する基板(例えば、石英基板)に対して、原盤を押し当てることにより、原盤に形成された凹凸パターンをインプリントレジスト層に転写する。
【0100】
インプリントレジスト層に紫外線を照射して転写されたパターンを硬化させる。
その後、転写されたレジストパターンをマスクとして基板をエッチングし、その後レジストを除去し、表面に形成された微細凹凸パターンを備えるインプリントモールド8を得る。
【0101】
(インプリントリソグラフィ)
次に、このインプリントモールド8を用いて、DTM2を作製する方法を説明する。
図15に示すように、磁性層2bおよびインプリントレジスト層2cが被覆された基板2aに対して、このインプリントレジスト層2cに、インプリントモールド8の微細凹凸パターンを押し当て、加圧することにより、インプリントモールド8の凹凸パターンがインプリントレジスト層2cに転写される。
【0102】
その後、凹凸パターンが形成されたインプリントレジスト層2cをマスクとして、RIEエッチングなどにより磁性層2bをエッチングし、磁性層2bに凹凸パターンを形成し、凹部に非磁性材料を埋め込み、表面を平坦化した後、必要に応じて、保護膜などを形成してDTM2を得る。
【0103】
なお、上記ではDTMの製造について説明したが、BPMも同様の工程で製造することができる。
【0104】
以上説明したインプリントモールドおよびインプリントモールドを用いたディスクリートトラックメディアの製造方法は一例であり、本発明の上述の作製方法に限るものではない。
【0105】
磁気転写用マスター担体、インプリントモールドのように凹凸パターンによりサーボ情報を担持する転写用担体を用いてサーボ情報記録済みの磁気記録媒体を作製する場合、本発明の磁気記録媒体に記録されているようなバーストを備えたバーストパターンに対応する凹凸パターンは、比較的大きな凸部または凹部により構成されるものとなるため転写用担体の作製が容易になる。特に、図8、図10等に示した、鋭角を含まないバーストから構成されたバーストパターン、図10、図11等に示した、バーストを隣接バーストと離間して配置したバーストパターンなどが、凹凸パターンの転写により磁気記録媒体のサーボパターンを形成するインプリント法においては好適である。
【0106】
<磁気記録装置>
図16は、本発明の磁気記録媒体の実施形態の磁気ディスク媒体1を備えた磁気記録装置の一実施形態を示す概略構成図である。磁気記録媒体として、DTM、BPMを備えたものであってもよい。
【0107】
本実施形態の磁気記録装置は、上述の磁気記録媒体1と、該磁気記録媒体1を収容する筐体110と回路基板120とを備えてなる。
上述した磁気記録媒体1のバーストパターンからトラッキングサーボを行うために、磁気記録装置は、各トラック毎のオントラックにおける信号値情報を予め備えた記憶部と、この記憶部に記憶された信号値と磁気ヘッドの走査により得られた積算信号値(積分値)とを比較する比較部とを有し、これらは回路基板120内に備えられる。
【0108】
筐体110は、磁気ディスク媒体1、スピンドルモータ(SPM)112、磁気ヘッド113、ボイス・コイル・モータ(VCM)(図示せず)を含んでなるアクチュエータ115、ヘッドジンバル組立体118、キャリッジアーム116、シャフト119、ヘッドアンプ117等を密封して搭載する。磁気ディスク媒体1はSPM112に装着されている。磁気ヘッド113は、磁気ディスク媒体1に磁気情報を記録する記録(ライト)素子(図示せず)、磁気ディスク媒体1に記録された磁気情報を電気信号として取り出す働きを有する再生(リード)素子(図示せず)を含むものである。ヘッドジンバル組立体118の磁気ヘッド113が搭載されていない端部はキャリッジアーム116の先端に固定されている。キャリッジアーム116は、VCMによりシャフト119を回転軸にして揺動駆動することができる。磁気ヘッド113はこの揺動駆動により磁気ディスク媒体1上を概ね径方向に走査することができる。磁気ヘッド113が磁気ディスク媒体1上の所望のデータトラックに位置決めされることにより、磁気ヘッド113は磁気ディスク媒体1上のデータトラックに情報を書き込む、あるいは磁気ディスク媒体1から情報を読み取ることができる。ヘッドアンプ117は、記録信号123を元に磁気ヘッド113に搭載される記録素子に電流を流して磁気ディスク媒体1に記録を行う、あるいは、磁気ヘッド113の再生素子が検出した磁気ディスク媒体1の磁化情報を再生信号124として変換する働きを担っている。
【0109】
回路基板120は、リードチャネル126、マイクロ・プロセッシング・ユニット(MPU)125、スピンドルモータ(SPM)ドライバ121、ボイス・コイル・モータ(VCM)ドライバ122、ディスクコントローラ127等を含む。リードチャネル126は、ヘッドアンプ117からの再生信号124(サーボ信号あるいはデータ信号)を解読してデジタル情報に変換する、あるいは、ディスクコントローラ127から記録指示された情報を、ヘッドアンプ117を駆動するための記録信号123に変換する働きを担う。
【0110】
MPU125は、リードチャネル126が解読したサーボ信号のデジタル情報(サーボ情報)を元に、VCMドライバ122を駆動して磁気ヘッド113の位置決め制御をおこなう、あるいは、SPMドライバ121を駆動して磁気ディスク媒体1の回転制御を行う。このMPU125は、サーボバーストに基づく位置制御に際し、図示しない記憶部から所望トラックのオントラック時の信号値を読み出し、該信号値と磁気ヘッド113が磁気ディスクのバーストパターンのバーストから取得した信号積分値とを比較する比較部を内包するものであり、トラッキングサーボを担うものである。
【0111】
ディスクコントローラ127は、ホストコンピュータ128から記録再生命令によって、MPU125に磁気ヘッド113の位置決め指示をし、磁気ヘッド113の磁気ディスク媒体1へのアドレッシングを行う働きを担う。また、ディスクコントローラ127は、リードチャネル126に記録再生するデジタル情報の送受信を行なって、結果をホストコンピュータ128へ返す動作を行う働きを担う。
【0112】
磁気ディスク媒体1を回転させた状態において、サーボ領域12に含まれるサーボパターンを構成する磁化パターンからの再生信号から磁気ヘッド113の位置情報を得る。得られた磁気ヘッド113から出力信号をもとに、磁気ヘッド113はトラックに対して位置決めされ、データ領域11の所望の位置に情報を記録することができる。
【0113】
本磁気記録装置は、連続性の高いバーストからなるバーストパターンを有する磁気ディスク媒体を備えているので、精度の高いPES信号を得て、精度よくトラッキングサーボを行うことができる。
【符号の説明】
【0114】
1 磁気記録媒体(磁気ディスク媒体)
2 磁気記録媒体(DTM)
3 磁気記録媒体(BPM)
7 転写用担体(磁気転写用マスター担体)
8 転写用担体(インプリントモールド)
11 データ領域
12 サーボ領域
12c バースト部
19 バーストの第2の信号領域
20 バースト
21 バーストの第1の信号領域
22 第1のバースト列
23 第2のバースト列
X ダウントラック方向
Y クロストラック方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体のサーボパターン中のバーストパターンから得られる信号の積分値に基づいて、該磁気記録媒体における磁気ヘッドの半径方向走査位置を検出するサーボ方式を採用する磁気記録装置において使用される、前記サーボパターンを備えた磁気記録媒体であって、
前記バーストパターンに含まれるバーストが、クロストラック方向にダウントラック方向長さが略直線的に増加する形状を有する、複数のデータトラックに亘って形成されてなる1つの第1の信号領域と、該第1の信号領域のダウントラック方向に隣接して設けられた1つまたは2つの第2の信号領域とからなる、前記第1の信号領域のダウントラック方向最大長を一辺とする矩形領域からなるものであり、
該バーストが、前記クロストラック方向に複数配列されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記形状が、前記複数のデータトラックに跨って延びる、前記ダウントラック方向および前記クロストラック方向と交差する第1の辺と、前記複数のデータトラックに跨って延びる、前記第1の辺と平行でない第2の辺とを有するものであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記バーストが、前記ダウントラック方向に複数配列されていることを特徴とする請求項1または2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記ダウントラック方向に隣り合って配列されているバーストが、前記形状が前記クロストラック方向にずれて配置されていることを特徴とする請求項3記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1から4に記載の磁気記録媒体を搭載していることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項6】
請求項1から5いずれか1項記載の磁気記録媒体のサーボパターンを形成するための転写用サーボパターンを凹凸パターンとして表面に備えた転写用担体であって、
前記転写用サーボパターンが、前記磁気記録媒体における前記バーストの前記第1の信号領域に対応する、クロストラック方向にダウントラック方向長さが徐々に増加する平面形状を有する、前記磁気記録媒体上における複数のデータトラックに亘って形成された凹部または凸部を含むことを特徴とする転写用担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−165300(P2011−165300A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275307(P2010−275307)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】