説明

磁気記録媒体およびその製造方法ならびに磁気記録装置

【課題】耐久性に優れ、かつヘッドの安定走行を可能にする磁気記録媒体(パターンドメディア)を提供する。
【解決手段】2次元的に配列された磁性体からなる記録セルと前記記録セルを取り囲む非磁性層を含む磁気記録層と、前記記録セル上に形成された潤滑剤の高付着性部と、前記潤滑剤の高付着性部に直接付着した潤滑剤とを有することを特徴とする磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体およびその製造方法ならびに磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)などの磁気記録装置は、パソコンの普及により一般に広く使用されるようになってきた。近年では、インターネットおよび高精細画像情報を扱うDVDなどの出現により、扱う情報量が急激に増大してきており、大容量化への要望は大きくなってきている。さらに、携帯電話、カーナビゲーション、MP3プレーヤーなどのモバイル機器への小型HDD搭載も進んできており、高密度化への期待は一層強まってきている。このような状況は、HDDの記録密度の著しい向上によってもたらされたといえる。HDDでは、より小さい磁気記録マークを形成することによって記録密度を向上させる。より小さいマークを形成するには、より小さい書き込みヘッド、より小さな磁界の検出が可能な再生ヘッド、より小さいマークを安定に書き込むことが可能な磁気記録媒体が必要である。
【0003】
従来、磁気記録媒体により小さいマークを形成するためには、スパッタ成膜される磁気記録層を構成する磁性粒子の微細化することが行われてきた。しかし、磁性粒子の微細化は、微小な磁性粒子の熱的な安定性の劣化いわゆる熱揺らぎ問題によって困難さが大きくなってきている。熱揺らぎ問題を解決するには、磁気材料自体の熱的な安定性を向上させればよいが、これは記録磁界への耐性も高めることになり、記録書き込み時により大きな磁界を必要とするようになる。しかし、書き込みヘッドによって得られる磁界強度は限界に近づいているのが現状である。
【0004】
以上のような背景から、これまでの磁気記録媒体とは構造が大きく異なるパターンドメディアが提案されている。パターンドメディアではあらかじめ最小記録単位である記録セルをリソグラフィーにより記録トラック上に配列して形成する。従来のスパッタ成膜された磁気記録層では、最小記録マークであっても数十〜数百個の磁性粒子の集まりに対して記録を書き込んでいたが、パターンドメディアでは磁性粒子の大きさはリソグラフィーで形成される記録セルの大きさにまで拡大できるため、磁性粒子の微細化に起因する熱揺らぎの問題を根本的に解決することができる。
【0005】
しかし、パターンドメディアは微細加工された記録セルを有するため、ヘッドが媒体に衝突した場合などに、その衝撃や摩擦によって記録セル自体が破壊される可能性が高くなる。単一の磁性粒子からなる記録セルは、微小な欠損などであってもその磁気的な特性が大きく変わってしまう。パターンドメディアで実現することが想定されている記録密度では、ヘッドと媒体との距離がさらに縮まるため、衝突や磨耗に対する耐久性への要求はますます大きくなってくるはずである。
【0006】
ヘッドと媒体との衝撃や磨耗に対する耐久性を上げるために、記録膜上の保護膜として硬度の高いダイヤモンドライクカーボン膜が採用されるようになってきている(たとえば特許文献1参照)。しかし、CVDで成膜されたダイヤモンドライクカーボン膜の表面は潤滑剤の付着性が非常に悪いため、潤滑剤の付着した領域と付着していない領域が存在したり、接触時に潤滑剤が剥離してヘッド側に付着したりするなどの問題が起こる。
【0007】
一方、潤滑剤の付着性を改善する方法として様々な表面処理が提案されている。しかし、表面全体で潤滑剤の付着性を向上させると、ヘッドが媒体表面に接触した際に大きなキャピラリの形成が起こりヘッドの吸着力を増すことになり、磨耗による媒体へのダメージが大きくなってしまう。つまり、濡れ性の向上とヘッドと媒体距離の短縮とはトレードオフの関係にあるといえる。特にパターンドメディアにおいては、潤滑剤の付着性が悪い状態で、潤滑剤のない領域ができた場合には単一の粒子へのダメージが大きいため、潤滑剤の均一な付着性を実現することが必要不可欠となる。
【0008】
従来の媒体に対しては、表面上に、凹凸をつけることによって、このような課題を解決する方法が提案されている。媒体の表面に凹凸をつけることによって潤滑剤の存在する領域が微細に分断されて潤滑剤の付着性が向上し、かつ接触時にもヘッドと媒体との間に微小な空間を確保することができ、接触時の潤滑剤の剥離やヘッドの吸着による摩擦の増大を防ぐことができる。しかし、記録密度の向上に伴って、凹凸構造はヘッド−媒体間の距離を短縮することを妨げるようになる。
【0009】
現状では、これらの問題を解決して、パターンドメディアの耐久性の向上を実現できる技術は知られていない。
【特許文献1】特開2004−295989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐久性に優れ、かつヘッドの安定走行を可能にする磁気記録媒体(パターンドメディア)、およびこのようなパターンドメディアを簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る磁気記録媒体は、2次元的に配列された磁性体からなる記録セルと前記記録セルを取り囲む非磁性層を含む磁気記録層と、前記記録セル上に形成された潤滑剤の高付着性部と、前記潤滑剤の高付着性部に直接付着した潤滑剤とを有することを特徴とする。前記潤滑剤の高付着性部は、たとえば、H、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む炭素膜で形成されている。
【0012】
本発明の他の態様に係る磁気記録媒体の製造方法は、磁性体薄膜上に潤滑剤の高付着性材料膜を形成し、リソグラフィーによって前記潤滑剤の高付着性材料膜およびその下の磁性体薄膜をエッチングし、記録セルとその上の潤滑剤の高付着性部を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明のさらに他の態様に係る磁気記録媒体の製造方法は、磁性体薄膜上に炭素膜を形成し、リソグラフィーによって前記炭素膜およびその下の磁性体薄膜をエッチングし、記録セルとその上の炭素膜を形成し、非磁性体を成膜して前記記録セル間の凹部に埋め込むとともに前記炭素膜を被覆し、前記非磁性体を、H、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むエッチングガスにより、前記炭素膜表面を露出させるようにエッチバックして前記炭素膜表面を潤滑剤の高付着性部にすることを特徴とする。
【0014】
本発明のさらに他の態様に係る磁気記録装置は、前記磁気記録媒体を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐久性に優れ、かつヘッドの安定走行を可能にするパターンドメディアを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る磁気記録媒体では、記録セル上に潤滑剤が選択的に付着しやすい高付着性部が形成され、高付着性部に直接接触して潤滑剤が塗布されているため、ヘッドが媒体に接触しても、高付着性部に付着した潤滑剤によって保護される。すなわち、潤滑剤が記録セルに対応して2次元的に非常に均一にしかも微細に分布しているため、ヘッドが媒体に接触しても大きなキャピラリが形成されず、接触したヘッドが容易に媒体表面から離脱し、ヘッドが記録セルを破壊することを防止できる。また、どの記録セルも潤滑剤でキャップされているため、潤滑剤の量を少なくしても潤滑剤が付着していない領域が広がることはなく、ヘッドの接触時に記録セルへの衝撃や磨耗によるダメージを大幅に低減することができる。ここで、高付着性部は化学的な性質によって潤滑剤が付着しやすくなっている領域であるため凹凸を設ける必要がない。このため、凹凸構造によってヘッド−媒体間の距離が広がるという問題を避けることができる。もちろん、ヘッド−媒体間の距離に影響がない程度であれば、凹凸構造を設けても構わない。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。
最初に、図1(a)〜(c)を参照して、従来の磁気記録媒体における問題点を説明する。図1(a)は、従来の磁気記録媒体10の表面に潤滑剤20が塗布され、その上方にヘッド30が配置されている状態を示している。図1(b)に示すように、ヘッド30が媒体10と接触した際に、潤滑剤20がヘッド30と媒体10との間でキャピラリを形成し、これが吸着および摩擦の増大を引き起こすと考えられる。このキャピラリの大きさは、ヘッド30が媒体10に接触した領域からある程度広い範囲にわたって潤滑剤20を巻き込みながら形成される。このため、場合によっては、図1(c)に示すように、多量の潤滑剤20がヘッド30側へ移動することが起こりうる。
【0018】
図2に、本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体(パターンドメディア)の断面図を示す。図2において、非磁性基板11上に、2次元的に配列された磁性体ドットからなる記録セル14が形成され、記録セル14上に潤滑剤の高付着性部15が形成されている。これらの記録セル14を取り囲むように非磁性層16が形成されている。こうして非磁性基板11上に磁気記録層が形成されている。また、潤滑剤の高付着性部15に直接接触するように潤滑剤20が付着している。
【0019】
図3(a)〜(c)を参照して、図2に示したような本発明の実施形態に係るパターンドメディアの効果を説明する。
【0020】
図3(a)に示すように、それぞれの記録セル14上の高付着性部15に対応して潤滑剤20が局在しているため、ヘッド30と媒体とが接触したときにも非常に小さいキャピラリしか形成されない。このため、図3(b)に示すように、ヘッド30が全面的に媒体表面に吸着されることはない。また、図3(c)に示すように、ヘッド30は媒体から容易に離脱するため、安定走行を続けることができる。
【0021】
以下、本発明の実施形態に係るパターンドメディアに用いられる材料などについてより詳細に説明する。
【0022】
基板は、ガラス基板、金属基板、プラスティック基板、Si基板などを用いることが可能である。また、これらの基板上に金属膜または誘電体膜を形成したものを用いてもよい。通常、磁気記録媒体においては、磁気記録層の結晶配向を整える目的などにより、磁気記録層の下地層として複数の金属または誘電体の薄膜を形成するのが一般的である。また、垂直磁気記録媒体においては、磁気記録層の下に軟磁性下地膜を形成することが一般的である。基板の形状は特に限定されないが、0.85インチ、1インチ、1.8インチ、2.5インチ、3インチのディスク形状のものが挙げられる。また、長方形のカード型や、テープ形状であってもよい。
【0023】
基板上に形成される記録セルは、強磁性材料からなる。具体的には、Co、Fe、Niの強磁性金属の少なくとも1種類を含んでいる。より具体的には、Cr、Pt、Pd、Ta、Tb、Sm、Gdなどの金属を少なくとも1種類を含んでいるものであってもよい。記録セルの形状は特に限定されない。円柱、楕円柱、正方形柱、長方形柱、円錐、楕円錐、およびそれらの角が曲率を持っているものなどであってもよい。記録セルのサイズは特に限定されないが、記録密度が従来の記録媒体よりも高いことを考えると、基板面内方向のサイズで、円柱、円錐などの場合には平均直径が20nm以下、正方形柱、長方形柱、楕円柱、楕円錐などの場合には長軸方向の平均幅が200nm以下、短軸方向の平均幅が20nm以下であることが好ましい。記録セルの基板面内方向の間隔は特に限定されないが、上記同様、記録密度が十分高いことを考えると、円柱、円錐の場合には中心間距離が50nm以下、正方形柱、長方形柱、楕円柱、楕円錐などの場合には長軸方向の間隔が300nm以下、短軸方向の間隔が50nm以下であることが好ましい。記録セルの高さは、所望の記録密度をもつ記録セルの磁化を磁気再生ヘッドで再生したときに十分な出力が得られることなどを考慮すると、5nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0024】
記録セルを取り囲むように埋め込まれる非磁性体層は、記録セルの磁気特性に影響を与えない非磁性体材料からなるものであれば限定されない。たとえば、C(カーボン)、SiO2、SiN、Al34、TiO2、ZrOなどの誘電体材料、Si、Ge、Al、Cu、Au、Pt、Pd、Ag、Ti、Ta、Wなどの金属、半導体またはこれらの合金であってもよい。非磁性体としてポリマーを用いてもよい。ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、スピンオングラス、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。非磁性体の高さは特に限定されない。記録セルの耐久性および記録再生時に、凹凸があることによって磁気ヘッドの接近が困難にならない条件を考慮すると、記録セルの高さに対して±5nm以内の範囲であることが好ましい。
【0025】
本発明の実施形態に係る磁気記録媒体では、記録セル上に潤滑剤の高付着性部が形成される。潤滑剤の高付着性部は、記録セルへの衝撃に対する耐久性が十分で、かつ潤滑剤の付着性が高い材料であれば特に限定はされない。潤滑剤の付着性の高さは、同じ塗布条件での非磁性層への潤滑剤の付着量が多ければよい。このような潤滑剤の高付着性部は、H、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む炭素膜であることが好ましい。つまり、現状のハードディスク媒体において保護膜として用いられている炭素膜にH、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を添加したものを用いることが好ましい。炭素膜としては、SP3構造を主要な成分とするダイヤモンドライクカーボンが好ましいが、SP2構造を多く含むグラファイトライクカーボンであってもよい。また、グラファイトライクカーボンの表面を紫外線で照射してもよいし、化学的に修飾してもよい。ダイヤモンドライクカーボン自体は潤滑剤の付着性は悪いが、H、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を添加することにより潤滑剤の付着性が高くなる。
【0026】
本発明の実施形態に係る磁気記録媒体では、潤滑剤は高付着性部の表面に選択的に直接接触して付着する。なお、このことは非磁性層の表面には潤滑剤が全く付着していないことを意味しているわけではない。非磁性層の表面よりも高付着性部の表面における潤滑剤の付着量が多ければよい。事実、潤滑剤が完全に存在しないような非磁性層表面を形成することは不可能である。また、ヘッドが媒体に接触した時に、高付着性部上の潤滑剤が剥離されたとしても、非磁性層表面に付着した潤滑剤が高付着性部上に補充されるという効果も得られる。高付着性部上での潤滑剤の付着量が非磁性層上での潤滑剤の付着量よりも20%以上多ければ、本発明の効果は高い。
【0027】
次に、図4(a)〜(e)を参照して、本発明の一実施形態に係るパターンドメディアの第1の製造方法を説明する。
【0028】
図4(a)に示すように、まず非磁性基板11上に強磁性層12を成膜する。強磁性層の成膜方法は特に限定されないが、成膜スピードなどの観点からスパッタリングを用いることが好ましい。次に、強磁性層12上に、潤滑剤の高付着性材料膜15を成膜する。高付着性材料膜としては、上述したように、たとえばH、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むダイヤモンドライクカーボン膜が用いられる。この場合、プラズマCVD法によりダイヤモンドライクカーボン膜を成膜した後、H、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むガスを用いたプラズマ中に放置することによって、高付着性材料膜15を形成することができる。また、チャンバー内にH、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むガスを導入しながらプラズマCVD法でダイヤモンドライクカーボン膜を成膜することによって、高付着性材料膜15を形成することもできる。
【0029】
図4(b)に示すように、高付着性材料膜15上に、2次元的に配列された記録セルを加工するためのエッチングマスク18を形成する。エッチングマスク18の材料は特に限定されない。たとえば、高付着性材料膜15上にレジストを塗布し、電子線描画装置により記録セルのパターンに対応するエッチングマスク18を形成することができる。また、ナノインプリント法によりエッチングマスク18を形成することもできる。すなわち、あらかじめ別の方法で作製した凹凸スタンパを、基板の上に塗布したレジストなどの可塑性の膜に押し付けることでエッチングマスク18を形成することも可能である。
【0030】
図4(c)に示すように、エッチングマスク18で覆われていない領域で、高付着性材料膜15をエッチングし、さらに強磁性層12をエッチングして2次元的に配列された磁性体ドットからなる記録セル14を形成する。高付着性材料膜15と強磁性層12のエッチングには、リアクティブイオンエッチング(RIE)やイオンビームエッチングなどの方法を用いることができ、両者の方法を連続的に用いることもできる。たとえば、酸素ガスによるRIEにより高付着性材料膜15をエッチングした後に、Arイオンビームエッチングにより強磁性層12をエッチングする方法を採用することができる。このように、高付着性材料膜15と強磁性層12を連続的に加工すると、記録セル14上に正確に高付着性部を形成することができる。
【0031】
図4(d)に示すように、全面に非磁性層16を成膜し、記録セル14間の凹部を埋め込む。非磁性層16の材料としては、C(カーボン)、SiO2、SiN、Al34、TiO2、ZrOなどの誘電体材料、Si、Ge、Al、Cu、Au、Pt、Pd、Ag、Ti、Ta、Wなどの金属、半導体またはこれらの合金を用いることができる。非磁性層16の成膜方法は特に限定されず、スパッタ法などを用いることができる。
【0032】
図4(e)に示すように、非磁性層16をエッチバックして、高付着材料膜15を露出させる。非磁性層16をスパッタ法により成膜したままの状態では、非磁性層16は記録セル14および高付着性材料膜15による凹凸構造に沿って形成されているため、表面の凹凸が大きい。このような表面をエッチバックすると、凹凸の形状がそのまま残るため、衝撃に対して十分な耐久性が得られない原因になる。そこで、エッチバックの工程前に、非磁性層16の表面を平坦化することが好ましい。たとえば、非磁性層16をスパッタ成膜した後、アニール処理することにより表面形状を平坦化することができる。また、スパッタ成膜中に基板にバイアス電圧を印加し、試料表面を軽くエッチバックしながら非磁性層16を成膜することによって、非磁性層16の表面を平坦化してもよい。また、スパッタ法により非磁性層16を成膜した後、ポリマー材料を塗布して凹部に埋め込むことにより表面を平坦化することも可能である。ポリマー材料を塗布した後、アニール処理することにより、表面をさらに平坦化することもできる。ポリマー材料を用いると、比較的低温でのアニール処理により平坦化が可能になるため、アニール処理により非磁性層16自体を平坦化する場合と比較して、スループットの低下を防ぐことができる。エッチバックはイオンミリングやRIEを用いて行うのが有効である。表面に潤滑剤20を塗布し、記録セル14上の高付着性材料膜15に潤滑剤20を直接付着させる。潤滑剤20としては、パーフルオロポリエーテル系のものを使うのが好ましい。たとえば、フォンブリンや、クライドックスなどの製品名で市販されているものを用いることができる。
【0033】
このような方法により、記録セル14上の高付着性材料膜15に対して潤滑剤20を確実に付着させることができるようになり、パターンドメディアの耐久性を向上させることが可能になる。
【0034】
次に、図5(a)〜(e)を参照して、本発明の他の実施形態に係るパターンドメディアの第2の製造方法を説明する。
【0035】
図5(a)に示すように、図4(a)の場合と同様、非磁性基板11上に強磁性層12を成膜し、その上にダイヤモンドライクカーボン膜13を成膜する。図5(b)に示すように、図4(b)の場合と同様、ダイヤモンドライクカーボン膜13上に、2次元的に配列された記録セルを加工するためのエッチングマスク18を形成する。図5(c)に示すように、図4(c)の場合と同様、エッチングマスク18で覆われていない領域で、ダイヤモンドライクカーボン膜13をエッチングし、さらに強磁性層12をエッチングして2次元的に配列された磁性体ドットからなる記録セル14を形成する。エッチング方法についても、図4(c)に関連して説明したのと同様の方法を用いることができる。図5(d)に示すように、図4(d)の場合と同様、全面に非磁性層16を成膜し、記録セル14間の凹部を埋め込む。
【0036】
図5(e)に示すように、非磁性層16をエッチバックする。この際、エッチングガス中にH、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を混合してエッチバックを行うことにより、ダイヤモンドライクカーボン膜13の表面が露出したときに、その表面を潤滑剤の高付着性部15に変換することができる。図4の方法では、レジストを塗布してエッチングマスク18を形成する工程やその後の工程において、高付着性材料膜15の表面が変性する可能性があるが、図5の方法ではエッチバックによりダイヤモンドライクカーボン膜13が露出したときに、H、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むプラズマにさらされてその表面が潤滑剤の高付着性部15に変換されるので、最も重要な表面のみを確実に高付着性部15に変換することができる。その後、表面に潤滑剤20を塗布し、記録セル14上の高付着性部15に潤滑剤20を直接付着させる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
(第1の実施例)
本実施例では第1の方法を用いて製造したパターンドメディアについて説明する。直径2.5インチのガラス基板上に、スパッタ法により強磁性層としてCoCrPt膜を20nm成膜した。その上に、プラズマCVD法によりダイヤモンドライクカーボン膜を5nm成膜した。このダイヤモンドライクカーボン膜表面をCF4ガスプラズマにさらして高付着性材料膜とした。一方、直径20nm、深さ40nmの円筒形の穴が間隔40nmで四角格子を組んで円周に沿って配列したパターンを持つNiのスタンパを用意した。高付着性材料膜上にノボラック系ポリマー膜を膜厚50nmで塗布した後、ナノインプリント法によりノボラック系ポリマー膜にNiスタンパを押し付けて、エッチングマスクパターンを形成した。アルゴンイオンミリングにより、高付着性材料膜および強磁性層をエッチングして記録セルを形成した。非磁性層の材料としてダイヤモンドライクカーボンをプラズマCVD法により40nm成膜して記録セル間の凹部を埋め込んだ。非磁性層上に、表面を平坦化するためにポリスチレン膜を50nm成膜し、150℃でアニール処理を行った。アルゴンイオンミリングより約50nmエッチバックを行い、高付着性材料膜の表面を露出させた。表面に潤滑剤としてZ−dolを約0.5nmの膜厚となるようディップコート法により塗布し、高付着性材料膜上に直接付着させた。
【0038】
得られたパターンドメディアを組み込んだハードディスクドライブで浮上試験を行ったところ、5時間後にも安定な浮上走行が確認された。
【0039】
(第2の実施例)
本実施例では、第2の方法を用いて製造したパターンドメディアについて説明する。直径2.5インチのガラス基板上に、スパッタ法により強磁性層としてCoCrPt膜を20nm成膜した。その上に、プラズマCVD法によりダイヤモンドライクカーボン膜を5nm成膜した。ダイヤモンドライクカーボン膜上にノボラック系ポリマー膜を膜厚50nmで塗布した後、ナノインプリント法によりノボラック系ポリマー膜にNiスタンパ(直径20nm、深さ40nmの円筒形の穴が間隔40nmで四角格子を組んで円周に沿って配列したパターンを持つもの)を押し付けて、エッチングマスクパターンを形成した。アルゴンイオンミリングにより、ダイヤモンドライクカーボン膜および強磁性層をエッチングして記録セルを形成した。非磁性層の材料としてSiO2をスパッタ法により40nm成膜して記録セル間の凹部を埋め込んだ。非磁性層上に、表面を平坦化するためにポリスチレン膜を50nm成膜し、150℃でアニール処理を行った。エッチングガスとしてCF4ガスを用いてリアクティブイオンエッチングにより約50nmエッチバックを行い、ダイヤモンドライクカーボン膜の表面を露出させることにより、その表面を潤滑剤の高付着性部に変換した。表面に潤滑剤としてZ−dolを約0.5nmの膜厚となるようディップコート法により塗布し、高付着性材料膜上に直接付着させた。
【0040】
得られたパターンドメディアを組み込んだハードディスクドライブで浮上試験を行ったところ、5時間後にも安定な浮上走行が確認された。
【0041】
(第3の実施例)
本実施例では、高付着性材料膜を形成するために酸素ガスプラズマへの暴露を用いた。直径2.5インチのガラス基板上に、スパッタ法により強磁性層としてCoCrPt膜を20nm成膜した。その上に、プラズマCVD法によりダイヤモンドライクカーボン膜を15nm成膜した。このダイヤモンドライクカーボン膜表面を酸素ガスプラズマ中にさらして高付着性材料膜とした。この際、酸素ガスプラズマに暴露中にダイヤモンドライクカーボン膜がエッチングされ、暴露終了時に膜厚が5nmとなるように条件を調整した。高付着性材料膜上にノボラック系ポリマー膜を膜厚50nmで塗布した後、ナノインプリント法によりノボラック系ポリマー膜にNiスタンパ(直径20nm、深さ40nmの円筒形の穴が間隔40nmで四角格子を組んで円周に沿って配列したパターンを持つもの)を押し付けて、エッチングマスクパターンを形成した。アルゴンイオンミリングにより、高付着性材料膜および強磁性層をエッチングして記録セルを形成した。非磁性層の材料としてダイヤモンドライクカーボンをプラズマCVD法により40nm成膜して記録セル間の凹部を埋め込んだ。非磁性層上に、表面を平坦化するためにポリスチレン膜を50nm成膜し、150℃でアニール処理を行った。アルゴンイオンミリングより約50nmエッチバックを行い、高付着性材料膜の表面を露出させた。表面に潤滑剤としてZ−dolを約0.5nmの膜厚となるようディップコート法により塗布し、高付着性材料膜上に直接付着させた。
【0042】
得られたパターンドメディアを組み込んだハードディスクドライブで浮上試験を行ったところ、5時間後にも安定な浮上走行が確認された。
【0043】
(第4の実施例)
本実施例では、高付着性材料膜を形成するために水素ガスプラズマへの暴露を用いた。直径2.5インチのガラス基板上に、スパッタ法により強磁性層としてCoCrPt膜を20nm成膜した。その上に、プラズマCVD法によりダイヤモンドライクカーボン膜を5nm成膜した。このダイヤモンドライクカーボン膜表面を水素ガスプラズマ中にさらして高付着性材料膜とした。高付着性材料膜上にノボラック系ポリマー膜を膜厚50nmで塗布した後、ナノインプリント法によりノボラック系ポリマー膜にNiスタンパ(直径20nm、深さ40nmの円筒形の穴が間隔40nmで四角格子を組んで円周に沿って配列したパターンを持つもの)を押し付けて、エッチングマスクパターンを形成した。アルゴンイオンミリングにより、高付着性材料膜および強磁性層をエッチングして記録セルを形成した。非磁性層の材料としてダイヤモンドライクカーボンをプラズマCVD法により40nm成膜して記録セル間の凹部を埋め込んだ。非磁性層上に、表面を平坦化するためにポリスチレン膜を50nm成膜し、150℃でアニール処理を行った。アルゴンイオンミリングより約50nmエッチバックを行い、高付着性材料膜の表面を露出させた。表面に潤滑剤としてZ−dolを約0.5nmの膜厚となるようディップコート法により塗布し、高付着性材料膜上に直接付着させた。
【0044】
得られたパターンドメディアを組み込んだハードディスクドライブで浮上試験を行ったところ、5時間後にも安定な浮上走行が確認された。
【0045】
(第5の実施例)
本実施例では、高付着性材料膜を形成するために窒素ガスプラズマへの暴露を用いた。直径2.5インチのガラス基板上に、スパッタ法により強磁性層としてCoCrPt膜を20nm成膜した。その上に、プラズマCVD法によりダイヤモンドライクカーボン膜を5nm成膜した。このダイヤモンドライクカーボン膜表面を窒素ガスプラズマ中にさらして高付着性材料膜とした。高付着性材料膜上にノボラック系ポリマー膜を膜厚50nmで塗布した後、ナノインプリント法によりノボラック系ポリマー膜にNiスタンパ(直径20nm、深さ40nmの円筒形の穴が間隔40nmで四角格子を組んで円周に沿って配列したパターンを持つもの)を押し付けて、エッチングマスクパターンを形成した。アルゴンイオンミリングにより、高付着性材料膜および強磁性層をエッチングして記録セルを形成した。非磁性層の材料としてダイヤモンドライクカーボンをプラズマCVD法により40nm成膜して記録セル間の凹部を埋め込んだ。非磁性層上に、表面を平坦化するためにポリスチレン膜を50nm成膜し、150℃でアニール処理を行った。アルゴンイオンミリングより約50nmエッチバックを行い、高付着性材料膜の表面を露出させた。表面に潤滑剤としてZ−dolを約0.5nmの膜厚となるようディップコート法により塗布し、高付着性材料膜上に直接付着させた。
【0046】
得られたパターンドメディアを組み込んだハードディスクドライブで浮上試験を行ったところ、5時間後にも安定な浮上走行が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来の磁気記録媒体における問題点を説明する図。
【図2】本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体(パターンドメディア)の断面図。
【図3】本発明の実施形態に係るパターンドメディアの効果を説明する図。
【図4】本発明の一実施形態に係るパターンドメディアの第1の製造方法を示す断面図。
【図5】本発明の他の実施形態に係るパターンドメディアの第2の製造方法を示す断面図。
【符号の説明】
【0048】
10…磁気記録媒体、11…非磁性基板、12…強磁性層、13…ダイヤモンドライクカーボン膜、14…記録セル、15…高付着性部(高付着性材料膜)、16…非磁性層、18…エッチングマスク、20…潤滑剤、30…ヘッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元的に配列された磁性体からなる記録セルと前記記録セルを取り囲む非磁性層を含む磁気記録層と、
前記記録セル上に形成された潤滑剤の高付着性部と、
前記潤滑剤の高付着性部に直接付着した潤滑剤と
を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記潤滑剤の高付着性部が、H、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む炭素膜で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記記録セル上の前記潤滑剤の高付着性部に付着している潤滑剤の量が、前記非磁性層上に付着している潤滑剤の量より多いことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
磁性体薄膜上に潤滑剤の高付着性材料膜を形成し、
リソグラフィーによって前記潤滑剤の高付着性材料膜およびその下の磁性体薄膜をエッチングし、記録セルとその上の潤滑剤の高付着性部を形成する
ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
磁性体薄膜上に炭素膜を形成し、
リソグラフィーによって前記炭素膜およびその下の磁性体薄膜をエッチングし、記録セルとその上の炭素膜を形成し、
非磁性体を成膜して前記記録セル間の凹部に埋め込むとともに前記炭素膜を被覆し、
前記非磁性体を、H、F、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むエッチングガスにより、前記炭素膜表面を露出させるようにエッチバックして前記炭素膜表面を潤滑剤の高付着性部にする
ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気記録媒体を具備したことを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−318607(P2006−318607A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142699(P2005−142699)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度経済産業省「大容量光ストレージ技術の開発事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】