説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】平滑な表面性を有し、ヘッドとのスペーシングが少なく、高記録密度が可能でありながら、走行性に優れ、ヘッド摩耗も少ない、塗布型の磁気記録媒体および上記性能を達成し、かつ生産性に優れた磁気記録媒体の製造方法を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を少なくとも有する磁気記録媒体において、前記磁性層表面の原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した中心面平均表面粗さRaが2nm以下であり、最大高さRmaxが50nm以下であり、かつタッピングモ−ド原子間力顕微鏡により検出された位相差の算術平均が2〜20°である磁気記録媒体およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、平滑な表面性を有し、ヘッドとのスペーシングが少なく、高記録密度が可能でありながら、走行性に優れ、ヘッド摩耗も少ない、塗布型の磁気記録媒体および上記性能を達成し、かつ生産性に優れた磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録においては、高密度化とともに記録波長が短くなる傾向にある。特に、再生ヘッドのMRヘッド化に伴い、磁性体を微粒子化して単位体積当りの磁性粒子数を増やすことにより、媒体ノイズを下げることが検討されている。また、磁性体粒子を磁気的にセパレートするために、磁性液の高分散化が採用されている。しかし、磁性液を高分散化すると、研磨剤粒子の磁性層からの露出が抑制されたり、磁性層表面の突起高さが低下したりし、そのため耐久性が低下するという問題を生じる。
【0003】
この問題を解決し、高密度記録と走行耐久性を両立する手法として、より研磨力が高く、かつ粒径制御されたダイヤモンドを研磨剤として使用する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1、2においては、磁性液中にダイヤモンドを入れ、サンドミルで分散する手法が提案されているが、この分散法では、分散中にダイヤモンドがメディアビーズ(ガラスビーズやZrO2 ビーズ)や分散機内壁(主にステンレス鋼製部材)を摩耗させるために、摩耗粉が異物として磁性液中に混入するという問題を生じる。したがって、上記従来の技術では、走行耐久性向上と高密度記録の両立が困難であった。
【0005】
そこで本出願人は、強磁性粉末と結合剤とを含む磁性液と、研磨剤と溶剤とを含む研磨剤液とをそれぞれ別個に分散処理し、次いで前記磁性液と前記研磨剤液とを混合し、しかる後に前記磁性液と前記研磨剤液との混合液を超音波印加により分散処理する磁気記録媒体の製造方法を提案した(特許文献3)。
当該製造方法は、磁性層中への異物混入が少なく、走行耐久性に優れ、かつヘッド磨耗の少ない磁気記録媒体を製造することができ、有用である。
【0006】
ところで、磁気記録媒体の記録容量を高めるためには、より高い記録密度が必要であり、そのため現在では、磁性層における磁性体の微粒子化や、表面の平滑化が検討されている。また、異方性磁気抵抗効果型再生ヘッド(いわゆるAMRヘッド)や、更に感度の高い巨大磁気抵抗効果型再生ヘッド(いわゆるGMRヘッド)も提案されている。
しかし、表面の平滑化を極度に高めた場合、上記特許文献3の技術では、媒体とヘッドのはりつき、ガイドとの摺動による磁性層の削れ等の問題が発生することがわかった。
【特許文献1】特開2000−149243号公報
【特許文献2】特開2003−85734号公報
【特許文献3】特開2005−228369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、平滑な表面性を有し、ヘッドとのスペーシングが少なく、高記録密度が可能でありながら、走行性に優れ、ヘッド摩耗も少ない、塗布型の磁気記録媒体および上記性能を達成し、かつ生産性に優れた磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
1)非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を少なくとも有する磁気記録媒体において、前記磁性層表面の原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した中心面平均表面粗さRaが2nm以下であり、最大高さRmaxが50nm以下であり、かつ原子間力顕微鏡のタッピングモ−ドで計測されるプロ−ブのドライブ信号と応答信号の位相差の算術平均が2〜20°であることを特徴とする磁気記録媒体。
2)前記強磁性粉末が、平均板径30nm以下の六方晶フェライト粉末であることを特徴とする上記1)に記載の磁気記録媒体。
3)前記磁性層が、平均粒子径100nm以下のダイヤモンド粒子を含むことを特徴とする上記1)または2)に記載の磁気記録媒体。
4)強磁性粉末および結合剤を含む磁性液と、研磨剤を含む研磨剤液とを個別に分散処理し、次いで前記磁性液と研磨剤液とを混合し磁性層形成用塗布液を調製し、これを非磁性支持体上に塗布して磁性層を設ける工程を少なくとも有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性液と研磨剤液とを混合した後、得られた混合液に対し、エアーを巻き込む処理と、超音波を印加する処理とを併用して施すことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
5)前記エアーを巻き込む処理が、攪拌羽根を有する高速攪拌機を用い、前記攪拌羽根先端周速10m/秒以上で5分間以上攪拌を行う処理であり、その後、前記超音波を印加する処理を行うことを特徴とする上記4)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
6)カーボンブラックを含むカーボンブラック液をビーズミル分散し、得られた分散液に対し、エアーを巻き込む処理を行い、その後、超音波を印加する処理を行い、これに前記磁性液および研磨剤液を混合し、前記磁性層形成用塗布液を調製することを特徴とする上記4)または5)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平滑な表面性を有し、ヘッドとのスペーシングが少なく、高記録密度が可能でありながら、走行性に優れ、ヘッド摩耗も少ない、塗布型の磁気記録媒体および上記性能を達成し、かつ生産性に優れた磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体における磁性層は、原子間力顕微鏡により検出された位相差の算術平均が2〜20°であることを特徴としている。該位相差の算術平均は、2〜10°が好ましく、2〜6°がさらに好ましい。本発明者は、AFMを用いて測定した中心面平均表面粗さRaが2nm以下であり、かつ最大高さRmaxが50nm以下である超平滑な表面を有する磁性層において、当該磁性層表層に、固体添加剤(研磨剤、カーボンブラック)および微細な空隙部が適度に存在すれば、媒体とヘッドのはりつき、ガイドとの摺動による磁性層の削れ等の問題が防止されることを見出した。さらに本発明者は、前記固体添加剤および空隙部の存在の形態が、原子間力顕微鏡により検出される位相差の算術平均と相関関係があることを見出した。すなわち、位相差の算術平均が上記範囲を満たせば、磁性層表層に固体添加剤および微細な空隙部が適度に形成されていることになり、媒体とヘッドのはりつき、ガイドとの摺動による磁性層の削れ等の問題を解決することができる。なお、磁性層表層には、前記固体添加剤および空隙部のほかにも、液体潤滑剤が適度に存在していることが望ましい。
位相差の算術平均が2°未満である場合は、磁性層表層が磁性体と結合剤からなる層を主体に形成されていることを表しており、研磨剤、カーボンブラック、空隙部が該表層に存在せず、媒体とヘッドのはりつき、ガイドとの摺動による磁性層の削れ等の問題が発生する。逆に位相ずれの算術平均が20°を超えると、磁性層表層の磁性体の充填度が低下し、出力が下がるという問題が発生する。
【0011】
なお、本発明でいう、原子間力顕微鏡により検出された位相差は、タッピングモ−ドで表面形状を観察しながらプロ−ブのドライブ信号と応答信号の位相差を検出することで計測できる。本明細書では、多機能走査プローブ顕微鏡(Digital Instruments社製D3100)を用い、下記の条件で測定して位相差を求めた。この計測法は位相イメ−ジング(Phase Imaging)と呼称され、凝着力、粘弾性の違いを位相差のコントラストとして表示するのが一般的だが、本発明では、表面形状における高低差から中心面平均表面粗さRaを求めるように、位相差の算術平均値を求めた。又、AFM表面形状との対応取りから、下記条件では磁性層表層から50nm深さ以内、多くは20nm深さ以内の位相情報を検出しているとみられる。
測定面積:5μm角
Tip:曲率10nmのダイヤモンド針
Scanrate:1Hz
Scan角:0°
Tip速度:10μm/秒
走査数:512
Prove周波数:265−269kHz
位相:70°
出力:1.3−2.4V
【0012】
次に、本発明の磁気記録媒体を構成する各成分について説明する。
[非磁性支持体]
本発明に用いられる非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレート、等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロ−ストリアセテ−ト、ポリカ−ボネ−ト、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリアラミド、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾ−ルなどの公知のフィルムが使用できる。ポリエチレンナフタレ−ト、ポリアミドなどの高強度支持体を用いることが好ましい。また必要に応じ、磁性面と非磁性支持体面の表面粗さを変えるため特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などをおこなっても良い。また本発明の支持体としてアルミまたはガラス基板を適用することも可能である。
【0013】
中でもポリエステル支持体(以下、単にポリエステルという)が好ましい。このようなポリエステルはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどジカルボン酸およびジオールからなるポリエステルである。
主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。
これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸及び/または2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコール及び/または1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。特に好ましくはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルである。
なお、本発明に用いられるポリエステルは、二軸延伸されていてもよいし、2層以上の積層体であってもよい。
【0014】
また、ポリエステルは、さらに他の共重合成分が共重合されていても良いし、他のポリエステルが混合されていても良い。これらの例としては、先に挙げたジカルボン酸成分やジオール成分、またはそれらから成るポリエステルを挙げることができる。
本発明に用いられるポリエステルには、フィルム時におけるデラミネーションを起こし難くするため、スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ポリオキシアルキレン基を有するジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ポリオキシアルキレン基を有するジオールなどを共重合してもよい。
中でもポリエステルの重合反応性やフィルムの透明性の点で、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、4−ナトリウムスルホフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸およびこれらのナトリウムを他の金属(例えばカリウム、リチウムなど)やアンモニウム塩、ホスホニウム塩などで置換した化合物またはそのエステル形成性誘導体、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体およびこれらの両端のヒドロキシ基を酸化するなどしてカルボキシル基とした化合物などが好ましい。この目的で共重合される割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、0.1〜10モル%が好ましい。
また、耐熱性を向上する目的では、ビスフェノール系化合物、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を有する化合物を共重合することができる。これらの共重合割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、1〜20モル%が好ましい。
【0015】
本発明において、ポリエステルの合成方法は、特に限定があるわけではなく、従来公知のポリエステルの製造方法に従って製造できる。例えば、ジカルボン酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させる直接エステル化法、初めにジカルボン酸成分としてジアルキルエステルを用いて、これとジオール成分とでエステル交換反応させ、これを減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去することにより重合させるエステル交換法を用いることができる。この際、必要に応じてエステル交換触媒あるいは重合反応触媒を用い、あるいは耐熱安定剤を添加することができる。
また、合成時の各過程で着色防止剤、酸化防止剤、結晶核剤、すべり剤、安定剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、粘度調節剤、消泡透明化剤、帯電防止剤、pH調整剤、染料、顔料、反応停止剤などの各種添加剤の1種又は2種以上を添加させてもよい。
【0016】
また、ポリエステルにはフィラーが添加されてもよい。フィラーの種類としては、球形シリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、アルミナ等の無機粉体、架橋ポリスチレン、シリコーン樹脂等の有機フィラー等が挙げられる。
また、支持体を高剛性化するために、これらの材料を高延伸したり、表面に金属や半金属または、これらの酸化物の層を設けることもできる。
【0017】
本発明において、非磁性支持体であるポリエステルの厚みは、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、とくに好ましくは3〜10μmである。また支持体表面の中心面平均表面粗さ(Ra)は、6nm以下、より好ましくは4nm以下である。このRaは、WYKO社製HD2000で測定した。
また、非磁性支持体の長手方向及び幅方向のヤング率は、6.0GPa以上が好ましく、7.0GPa以上がさらに好ましい。
【0018】
本発明の磁気記録媒体は、前記の非磁性支持体の少なくとも一方の面に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を設けたものであり、非磁性支持体と磁性層との間に実質的に非磁性である非磁性層(下層)を設けたものが好ましい。
【0019】
[磁性層]
磁性層に含まれる強磁性粉末として、その体積が1000〜20000nmであることが好ましく、2000〜8000nmであることが更に好ましい。この範囲とすることにより、熱揺らぎにより磁気特性の低下を有効に抑えることができると共に低ノイズを維持したまま良好なC/N(S/N)を得ることができる。強磁性粉末としては、特に制限はないが、強磁性金属粉末、六方晶フェライト粉末または窒化鉄系粉末が好ましい。
針状粉末の体積は、形状を円柱と想定して長軸長、短軸長から求める。
板状粉末の場合は、形状を角柱(六方晶系フェライト粉末の場合は6角柱)と想定して板径、軸長(板厚)から体積を求める。
窒化鉄系粉末の場合は、形状を球と想定して体積を求める。
磁性体のサイズは、磁性層を適当量剥ぎ取る。剥ぎ取った磁性層30〜70mgにn−ブチルアミンを加え、ガラス管中に封かんし熱分解装置にセットして140℃で約1日加熱する。冷却後にガラス管から内容物を取り出し、遠心分離し、液と固形分を分離する。分離した固形分をアセトンで洗浄し、TEM用の粉末試料を得る。この試料を日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザ−で粉体の輪郭をトレースしカ−ルツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。
なお、本明細書において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。粉体サイズ測定において、標準偏差/平均値をパーセント表示したものを変動係数と定義する。
【0020】
<強磁性金属粉末>
本発明の磁気記録媒体における磁性層に用いられる強磁性金属粉末としては、Feを主成分とするもの(合金も含む)であれば、特に限定されないが、α−Feを主成分とする強磁性合金粉末が好ましい。これらの強磁性粉末には所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つがα−Fe以外に含まれるものが好ましく、特に、Co,Al,Yが含まれるのが好ましい。さらに具体的には、CoがFeに対して10〜40原子%、Alが2〜20原子%、Yが1〜15原子%含まれるのが好ましい。
【0021】
上記強磁性金属粉末には後述する分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。また、強磁性金属粉末は、少量の水、水酸化物又は酸化物を含むものであってもよい。強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とするのが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化するのが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は通常、6〜12であるが、好ましくは7〜11である。また強磁性金属粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Sr、NH、SO、Cl、NO、NOなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましい。各イオンの総和が300ppm以下程度であれば、特性には影響しない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましくその値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。
【0022】
強磁性金属粉末の平均長軸長は、20〜100nmが好ましく、20〜60nmが更に好ましく、20〜40nmがとくに好ましい。
また強磁性金属粉末の結晶子サイズは70〜180Åが好ましく、80〜140Åが更に好ましく、90〜130Åが特に好ましい。
この結晶子サイズは、X線回折装置(理学電機製RINT2000シリーズ)を使用し、線源CuKα1、管電圧50kV、管電流300mAの条件で回折ピークの半値幅からScherrer法により求めた平均値である。
【0023】
強磁性金属粉末のBET法による比表面積(SBET)は、45〜120m/g以上が好ましく、50〜100m/gであることがさらに好ましい。
45m/g未満ではノイズが高くなり、120m/gを超えると表面性が得にくく好ましくない。この範囲であれば良好な表面性と低いノイズの両立が可能となる。強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とするのが好ましい。
結合剤の種類によって強磁性粉末の含水率は最適化するのが好ましい。強磁性粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は4〜12であるが、好ましくは6〜10である。
強磁性粉末は必要に応じ、表面処理を行いAl、Si、Pまたはこれらの酸化物などの形になっていてもかまわない。その量は強磁性粉末に対し0.1〜10%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m以下になり好ましい。
強磁性金属粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合があるが200ppm以下であれば特に特性に影響を与える事は少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は、空孔が少ないほうが好ましく、その値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。
【0024】
また強磁性金属粉末の形状については、先に示した粒子体積を満足すれば針状、粒状、米粒状又は板状いずれでもかまわないが、特に針状の強磁性粉末を使用することが好ましい。針状強磁性金属粉末の場合、平均針状比は4〜12が好ましく、さらに好ましくは5〜8である。強磁性金属粉末の抗磁力(Hc)は、好ましくは159.2〜278.5kA/m(2000〜3500Oe)であり、さらに好ましくは167.1〜238.7kA/m(2100〜3000Oe)である。また、飽和磁束密度は、好ましくは150〜300mT(1500〜3000G)であり、さらに好ましくは160〜290mTである。また飽和磁化(σs)は、好ましくは90〜140A・m/kg(90〜140emu/g)であり、さらに好ましくは100〜120A・m/kgである。磁性体自体のSFD(switching field distribution)は小さい方が好ましく、0.6以下であることが好ましい。SFDが0.6以下であると、電磁変換特性が良好で、出力が高く、また磁化反転がシャープでピークシフトが小さくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。Hc分布を小さくするためには、強磁性金属粉末においてはゲータイトの粒度分布を良くする、単分散αFeを使用する、粒子間の焼結を防止するなどの方法がある。
【0025】
強磁性金属粉末は、公知の製造方法により得られたものを用いることができ、下記の方法を挙げることができる。焼結防止処理を行った含水酸化鉄、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFe又はFe−Co粒子などを得る方法、複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末は公知の徐酸化処理が施される。含水酸化鉄、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元し、酸素含有ガスと不活性ガスの分圧、温度、時間を制御して表面に酸化皮膜を形成する方法が、減磁量が少なく好ましい。
【0026】
<強磁性六方晶フェライト粉末>
強磁性六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト等が挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S,Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加した物を使用できる。また原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。好ましいその他の原子およびその含有率は、前記の強磁性金属粉末の場合と同様である。
【0027】
六方晶フェライト粉末の粒子サイズは、上述の体積を満足するサイズであることが好ましいが、平均板径は、30nm以下が好ましく、10〜25nmが更に好ましく、15〜20nmが特に好ましい。
平均板状比は1〜15であり、さらに1〜7であることが好ましい。平均板状比が1〜15であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性が得られ、かつ、粒子間のスタッキングによるノイズ増大を抑えることができる。また、上記粒子サイズの範囲内におけるBET法による比表面積(SBET)は、40m/g以上が好ましく、40〜200m/gであることがさらに好ましく、60〜100m/gであることが最も好ましい。
【0028】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・板厚を数値化することは、粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定することで比較できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すと、σ/平均サイズ=0.1〜1.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0029】
六方晶フェライト粉末の抗磁力(Hc)は、143.3〜318.5kA/m(1800〜4000Oe)の範囲とすることができるが、好ましくは159.2〜238.9kA/m(2000〜3000Oe)である。さらに好ましくは191.0〜214.9kA/m(2200〜2800Oe)である。
抗磁力(Hc)は、粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
【0030】
六方晶フェライト粉末の飽和磁化(σs)は30〜80A・m/kg(emu/g)である。飽和磁化(σs)は高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向がある。飽和磁化(σs)の改良のため、マグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合することや、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。磁性体を分散する際に磁性体粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤としては、無機化合物及び有機化合物が使用される。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物又は水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。添加量は磁性体の質量に対して0.1〜10質量%である。磁性体のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。磁性体に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0%が選ばれる。
【0031】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し0.1〜10%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m以下になり好ましい。強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0032】
[窒化鉄磁性粒子]
窒化鉄磁性粒子におけるFe162相の平均粒径とは、Fe162粒子の表面に層が形成されている場合は、当該層を含まないFe162粒子そのものをいう。
【0033】
本発明の磁性粒子はFe162相を少なくとも含むが、他の窒化鉄の相を含まないことが好ましい。これは、窒化鉄(Fe4NやFe3N相)の結晶磁気異方性は1×105erg/cc程度であるのに対し、Fe162相は2〜7×106erg/ccの高い結晶磁気異方性を有するからである。これにより、微粒子化した際にも高い保磁力を維持する事ができる。この高い結晶磁気異方性は、Fe162相の結晶構造に起因する。結晶構造は、N原子がFeの八面体格子間位置に規則的に入った体心正方晶であり、N原子が格子に入る際の歪が、高い結晶磁気異方性の発生原因と考えられる。Fe162相の磁化容易軸は窒化により伸びたC軸である。
【0034】
Fe162相を含む粒子の形状は粒状ないし楕円状であることが好ましい。さらに好ましくは球状である。これは、立方晶であるα−Feの等価な3方向のうち一方向が窒化により選ばれc軸(磁化容易軸)となるため、粒子形状が針状であれば、磁化容易軸が短軸方向、長軸方向にある粒子が混在することになり好ましくないからである。従って、長軸長/短軸長の軸比の平均値は好ましくは、2以下(例えば、1〜2)であり、より好ましくは1.5以下(例えば、1〜1.5)である。
【0035】
粒径は窒化する前の鉄粒子の粒径で決まり、単分散であることが好ましい。これは一般的には、単分散の方が、媒体ノイズが下がるためである。そして、Fe162を主相とする窒化鉄系磁性粉末の粒径は、鉄粒子の粒径で決まり、鉄粒子の粒径分布は単分散であることが好ましい。これは粒子サイズの大きい粒子と小さい粒子で窒化の度合いが異なり、磁気特性が異なるためである。この意味からも窒化鉄系磁性粉末の粒径分布は単分散であることが好ましい。
【0036】
磁性体であるFe162相の粒径としては9〜11nmである。これは、粒径が小さくなると熱揺らぎの影響が大きくなり、超常磁性化し、磁気記録媒体に適さなくなるからである。また、磁気粘性のためヘッドで高速記録する際の保磁力が高くなり、記録しづらくなるからである。一方、粒径が大きいと、飽和磁化を小さくすることが出来ないため、記録時の保磁力が高くなりすぎ、記録をすることが困難となるからである。また、粒子サイズが大きいと、磁気記録媒体としたときの粒子性のノイズが高くなるからである。粒径分布は、単分散であることが好ましい。これは一般的には、単分散の方が、媒体ノイズが下がるためである。粒径の変動係数は15%以下(好ましくは2〜15%)であり、さらに好ましくは、10%以下(好ましくは2〜10%)である。
【0037】
Fe162を主相とする窒化鉄系磁性粉末は、その表面が酸化皮膜で覆われていることが好ましい。これは、微粒子Fe162は酸化しやすく、窒素雰囲気でハンドリングを要するからである。
【0038】
酸化皮膜は、希土類元素及び/またはシリコン、アルミニウムから選ばれる元素を含んでいることが好ましい。これにより、従来の鉄、Coを主成分とするいわゆるメタル粒子と同様の粒子表面を有することとなり、メタル粒子を取り扱っていた工程との親和性が高くなるからである。希土類元素は、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Tb,Dy,Gdが好ましく用いられ、特にYが分散性の観点から好ましく用いられる。
【0039】
また、シリコンおよびアルミニウム以外に、必要に応じて、ホウ素やリンを含ませるようにしてもよい。さらに、炭素、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウムなども有効な元素として含ませてもよい。これらの他の元素と希土類元素および/またはシリコン、アルミニウムとを併用することにより、より高い形状維持性と分散性能を得ることができる。
【0040】
表面化合物層の組成は、鉄に対する希土類元素あるいはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンの総含有量は、0.1〜40.0原子%が好ましく、さらに好ましくは1.0〜30.0原子%、より好ましくは3.0〜25.0原子%であるのがよい。これらの元素が少なすぎると、表面化合物層の形成が困難となり、磁性粉末の磁気異方性が減少するだけでなく、酸化安定性に劣る。またこれらの元素が多すぎると、飽和磁化の過度な低下が起こりやすい。
【0041】
酸化皮膜の厚みは1〜5nmが好ましく、2〜3nmがより好ましい。この範囲より薄いと酸化安定性が低くなりやすく、厚いと実質的に粒子サイズが小さくなりにくくなることがあることによる。
【0042】
Fe162を主相とする窒化鉄系の磁性粒子の磁気特性としては、その保磁力(Hc)が、79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)であることが好ましく、159.2〜278.6kA/m(2000〜3500Oe)であることがより好ましい。さらに好ましくは、197.5〜237kA/m(2500〜3000Oe)である。これは、Hcが低いと、例えば面内記録の場合、隣の記録ビットの影響を受けやすくなり、高記録密度に適さなくなることがあるからであり、高すぎると記録されづらくなることがあるからである。
【0043】
飽和磁化は80〜160Am2/kg(80〜160emu/g)が好ましく、80〜120Am2/kg(80〜120emu/g)がより好ましい。これは低すぎると、信号が弱くなることがあり、高すぎると例えば面内記録の場合、隣の記録ビットに影響を及ぼしやすくなり、高記録密度に適さなくなるためである。角型比としては、0.6〜0.9が好ましい。
【0044】
また、この磁性粉末は、BET比表面積が40〜100m2/gであることが好ましい。これは、BET比表面積が小さすぎると、粒子サイズが大きくなり、磁気記録媒体に適用すると粒子性ノイズが高くなり、また磁性層の表面平滑性が低下して、再生出力が低下しやすい。また、BET比表面積が大きすぎると、Fe162相を含む粒子が凝集しやすくなり均一な分散物を得ることが難しく、平滑な表面を得ることが難しくなるからである。
【0045】
窒化鉄系粉末の平均粒径は、前述のように30nm以下であり、好ましくは5〜25nmであり、更に好ましくは10〜20nmである。
【0046】
窒化鉄磁性粒子の製造方法については、公知技術を適用でき、例えばWO2003/079332記載の方法を参考にできる。
【0047】
上記の製造方法により製造される磁性粒子は、磁気記録媒体の磁性層に好適に使用することができる。当該磁気記録媒体としては、ビデオテープ、コンピュータテープ等の磁気テープ;フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等の磁気ディスク;等が挙げられる。
【0048】
[結合剤]
本発明の磁気記録媒体の磁性層、非磁性層、及びバック層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他の公知技術は、それらを互いに適宜適用することができる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関する公知技術が適用できる。
【0049】
本発明に使用される結合剤としては従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が使用される。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものである。
【0050】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコ−ル、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラ−ル、ビニルアセタ−ル、ビニルエ−テル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノ−ル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコ−ン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネ−トプレポリマ−の混合物、ポリエステルポリオ−ルとポリイソシアネ−トの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等があげられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコ−ル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネ−トを組み合わせたものがあげられる。
【0051】
ポリウレタン樹脂の構造はポリエステルポリウレタン、ポリエ−テルポリウレタン、ポリエ−テルポリエステルポリウレタン、ポリカ−ボネ−トポリウレタン、ポリエステルポリカ−ボネ−トポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM,−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2 、(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2 、−N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0052】
本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としてはダウケミカル社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD,VROH,VYES,VYNC,VMCC,XYHL,XYSG,PKHH,PKHJ,PKHC,PKFE,日信化学工業社製、MPR−TA、MPR−TA5,MPR−TAL,MPR−TSN,MPR−TMF,MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80,DX81,DX82,DX83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バ−ノックD−400、D−210−80、クリスボン6109,7209,東洋紡社製バイロンUR8200,UR8300、UR−8700、RV530,RV280、大日精化社製、ダイフェラミン4020,5020,5100,5300,9020,9022、7020,三菱化学社製、MX5004,三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310,F210などが挙げられる。
【0053】
本発明の非磁性層、磁性層に用いられる結合剤は非磁性粉末または磁性粉末に対し、5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いられる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネ−トは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。本発明において、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10kg/mm(0.49〜98MPa)、降伏点は0.05〜10kg/mm(0.49〜98MPa)が好ましい。
【0054】
本発明に用いるポリイソシアネ−トとしては、トリレンジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、キシリレンジイソシアネ−ト、ナフチレン−1,5−ジイソシアネ−ト、o−トルイジンジイソシアネ−ト、イソホロンジイソシアネ−ト、トリフェニルメタントリイソシアネ−ト等のイソシアネ−ト類、また、これらのイソシアネ−ト類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネ−ト等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製、コロネートL、コロネ−トHL,コロネ−ト2030、コロネ−ト2031、ミリオネ−トMR,ミリオネ−トMTL、武田薬品社製、タケネ−トD−102,タケネ−トD−110N、タケネ−トD−200、タケネ−トD−202、住友バイエル社製、デスモジュ−ルL,デスモジュ−ルIL、デスモジュ−ルN,デスモジュ−ルHL,等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0055】
本発明における磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。これら添加剤としては、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基を持つシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェネチルホスホン酸、α−メチルベンジルホスホン酸、1−メチル−1−フェネチルホスホン酸、ジフェニルメチルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ベンジルフェニルホスホン酸、α−クミルホスホン酸、トルイルホスホン酸、キシリルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、クメニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ヘプチルフェニルホスホン酸、オクチルフェニルホスホン酸、ノニルフェニルホスホン酸等の芳香族環含有有機ホスホン酸及びそのアルカリ金属塩、オクチルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、イソオクチルホスホン酸、イソノニルホスホン酸、イソデシルホスホン酸、イソウンデシルホスホン酸、イソドデシルホスホン酸、イソヘキサデシルホスホン酸、イソオクタデシルホスホン酸、イソエイコシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸及びそのアルカリ金属塩、リン酸フェニル、リン酸ベンジル、リン酸フェネチル、リン酸α−メチルベンジル、リン酸1−メチル−1−フェネチル、リン酸ジフェニルメチル、リン酸ビフェニル、リン酸ベンジルフェニル、リン酸α−クミル、リン酸トルイル、リン酸キシリル、リン酸エチルフェニル、リン酸クメニル、リン酸プロピルフェニル、リン酸ブチルフェニル、リン酸ヘプチルフェニル、リン酸オクチルフェニル、リン酸ノニルフェニル等の芳香族リン酸エステル及びそのアルカリ金属塩、リン酸オクチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソオクチル、リン酸イソノニル、リン酸イソデシル、リン酸イソウンデシル、リン酸イソドデシル、リン酸イソヘキサデシル、リン酸イソオクタデシル、リン酸イソエイコシル等のリン酸アルキルエステル及びそのアルカリ金属塩、アルキルスルホン酸エステル及びそのアルカリ金属塩、フッ素含有アルキル硫酸エステル及びそのアルカリ金属塩、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸ブチル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸及びこれらの金属塩、又はステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブトキシエチル、アンヒドロソルビタンモノステアレート、アンヒドロソルビタントリステアレート等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良い1〜6価アルコール、炭素数12〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良いアルコキシアルコールまたはアルキレンオキサイド重合物のモノアルキルエーテルのいずれか一つとからなるモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステル又は多価脂肪酸エステル、炭素数2〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどが使用できる。また、上記炭化水素基以外にもニトロ基およびF、Cl、Br、CF、CCl、CBr等の含ハロゲン炭化水素等炭化水素基以外の基が置換したアルキル基、アリール基、アラルキル基を持つものでもよい。
【0056】
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウム又はスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸又はリン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
【0057】
上記潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも純粋ではなく主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれても構わない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0058】
これらの添加物の具体例としては、例えば、日本油脂社製:NAA−102、ヒマシ油硬化脂肪酸、NAA−42、カチオンSA、ナイミーンL−201、ノニオンE−208、アノンBF、アノンLG、竹本油脂社製:FAL−205、FAL−123、新日本理化社製:エヌジエルブOL、信越化学社製:TA−3、ライオン社製:アーマイドP、ライオン社製:デュオミンTDO、日清オイリオ社製:BA−41G、三洋化成社製:プロフアン2012E、ニューポールPE61、イオネットMS−400等が挙げられる。
【0059】
また、本発明における磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0060】
本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン社製#80、#60、#55、#50、#35、三菱化学社製#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN150、50、40、15、RAVEN−MT−P、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用したりしてもかまわない。また、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独又は組み合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合、磁性体の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。したがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層及び非磁性層でその種類、量、組み合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性を基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明の磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0061】
[研磨剤]
本発明に用いられる研磨剤としてはα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイヤモンド、窒化珪素、炭化珪素チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモ−ス硬度6以上の公知の材料が単独または組合せで使用される。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90%以上であれば効果にかわりはない。これら研磨剤の粒子サイズは0.01〜2μmが好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/gが好ましい。本発明に用いられる研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、板状のいずれでも良いが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。具体的には住友化学社製AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT−20、HIT−30、HIT−55、HIT−60、HIT−70、HIT−80、HIT−100、レイノルズ社製、ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製、WA10000、上村工業社製、UB20、日本化学工業社製、G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製、TF100、TF140、イビデン社製、ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製、B−3などが挙げられる。これらの研磨剤は必要に応じ非磁性層に添加することもできる。非磁性層に添加することで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0062】
本発明では、研磨剤として平均粒子径100nm以下のダイヤモンド粒子を使用するのが好ましい。平均粒子径は5〜80nmが好ましく、10〜50nmがさらに好ましい。平均粒子径100nm以下のダイヤモンド粒子を使用することにより、本発明の位相差の算術平均が達成され易くなるとともに、高記録密度特性、走行耐久性、ヘッド摩耗性に優れた媒体を提供できる。ダイヤモンド粒子の添加量は、強磁性粉末に対して、0.05〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。
【0063】
本発明で用いられる有機溶剤は公知のものが使用できる。本発明で用いられる有機溶媒は、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0064】
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。本発明で用いる有機溶媒は磁性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は変えてもかまわない。非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性を上げる、具体的には上層溶剤組成の算術平均値が非磁性層溶剤組成の算術平均値を下回らないことが肝要である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0065】
本発明で使用されるこれらの分散剤、潤滑剤、界面活性剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。例えば、無論ここに示した例のみに限られるものではないが、分散剤は極性基で吸着又は結合する性質を有しており、磁性層では主に強磁性金属粉末の表面に、また非磁性層では主に非磁性粉末の表面に前記の極性基で吸着又は結合し、例えば、一度吸着した有機リン化合物は、金属又は金属化合物等の表面から脱着し難いと推察される。したがって、本発明の強磁性金属粉末表面又は非磁性粉末表面は、アルキル基、芳香族基等で被覆されたような状態になるので、該強磁性金属粉末又は非磁性粉末の結合剤成分に対する親和性が向上し、さらに強磁性金属粉末あるいは非磁性粉末の分散安定性も改善される。また、潤滑剤としては遊離の状態で存在するため非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い、表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させるなどが考えられる。また本発明で用いられる添加剤のすべて又はその一部は、磁性層又は非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0066】
[非磁性層]
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。
【0067】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO、SiO、Cr、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO、CaCO、BaCO、SrCO、BaSO、炭化珪素、炭化チタンなどが単独又は2種類以上を組み合わせて使用される。好ましいのは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0068】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0069】
非磁性粉末の比表面積は、1〜150m/gであり、好ましくは20〜120m/gであり、さらに好ましくは50〜100m/gである。比表面積が1〜150m/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましいが、pHは6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下又は脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることはない。非磁性粉末の含水率は、0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0070】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、1〜20μmol/mであり、さらに好ましくは2〜15μmol/mである。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm(200〜600mJ/m)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl、SiO、TiO、ZrO、SnO、Sb、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl、SiO、TiO、ZrOであるが、さらに好ましいのはAl、SiO、ZrOである。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0071】
本発明の非磁性層に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HDなどが挙げられる。堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興産製100A、500A、チタン工業製Y−LOP及びそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0072】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のマイクロビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm(245〜588MPa)、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm(294〜490MPa)であり、薄膜硬度計(日本電気製HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。詳細は「薄膜の力学的特性評価技術」リアライズ社を参考にできる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0073】
本発明の非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は100〜500m/g、好ましくは150〜400m/g、DBP吸油量は20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は5〜80nm、好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0074】
本発明の非磁性層に用いることができるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化学社製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
【0075】
また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。本発明の非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0076】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0077】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0078】
また、本発明の磁気記録媒体は、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層又は非磁性層との接着力を向上させることができる。下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂が使用される。
【0079】
[層構成]
本発明で用いられる磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが前述のように3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、とくに好ましくは3〜10μmである。また、非磁性支持体と非磁性層又は磁性層の間に下塗り層を設けた場合、下塗り層の厚みは、0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0080】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜120nmであり、さらに好ましくは30〜100nmであり、とくに好ましくは30〜80nmである。また、磁性層の厚み変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±30%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0081】
本発明の非磁性層の厚みは、0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下又は抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0082】
[バック層]
本発明の磁気記録媒体には、非磁性支持体の他方の面にバック層を設けるのが好ましい。バック層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方が適用される。バック層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0083】
[製造方法]
本発明で用いられる磁性層形成用塗料、非磁性層形成用塗料またはバック層形成用塗料を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、及びこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。非磁性層形成用塗料およびバック層形成用塗料の製造のための個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもよく、すべての原料はどの工程の最初又は途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。また、非磁性層形成用塗料またはバック層形成用塗料を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0084】
本発明の製造方法は、磁性層形成用塗料の調製方法に特徴を有する。すなわち、磁性層の、タッピングモ−ドAFMで検出された位相差の算術平均が2〜20°であることを達成するために、強磁性粉末および結合剤を含む磁性液と、研磨剤を含む研磨剤液とを個別に分散処理し、次いで前記磁性液と研磨剤液とを混合した後、得られた混合液に対し、エアーを巻き込む処理と、超音波を印加する処理とを併用して施すことを特徴としている。
【0085】
磁性層形成用塗料中の固形分濃度は、5〜25質量%が好ましい。更に5〜15質量%が好ましい。固形分濃度が高いと粒子間距離が狭まることにより、エア−の巻き込みは困難になる。一方、固形分濃度が低いとエア−が合一しやすくなり、液中におけるエア−含有量が下がる。
研磨剤を含む研磨剤液は、一般的に研磨剤および有機溶剤を含むものであり、研磨剤液中の研磨剤の濃度は、5〜20質量%が好ましい。
平均粒径100nm以下の研磨剤を使用する本発明では5〜10質量%が更に好ましい。
固形分濃度が高いと粒子間距離が狭まることにより、エア−の巻き込みは困難になる。一方、固形分濃度が低いとエア−が合一しやすくなり、液中におけるエア−含有量が下がる他、超音波(キャビティの破裂)が凝集粒子に当たる確率が下がり、循環回数を上げる必要性がでるなど生産性が低下する。
【0086】
強磁性粉末および結合剤を含む磁性液と、研磨剤を含む研磨剤液との個別の分散処理において、磁性液の分散処理は、例えばビーズミル分散機等を用いた分散処理を採用することができる。このとき、エアーを巻き込む処理を併用してもよい。研磨剤液の分散処理は、バッチ式超音波分散処理装置による第1ステップと、循環式超音波分散処理装置による第2ステップとよりなるのが好ましい。このような分散処理は、特開2005−228369号公報に開示されている。いずれにせよ、磁性液と研磨剤液の分散処理は、凝集粒子が確実に解砕される程度に行うことが好ましい。
【0087】
次いで前記磁性液と研磨剤液とを混合した後、得られた混合液に対し、エアーを巻き込む処理と、超音波を印加する処理とを併用して施す。エアーを巻き込む処理は、形成される磁性層の表層に必要上十分な空隙部を形成する必要があり、その度合いとしては、例えばディゾルバー攪拌機のような、攪拌羽根を有する高速攪拌機を用い、前記攪拌羽根先端周速10m/秒以上で5分間以上攪拌する条件が挙げられる。好ましくは、攪拌羽根先端周速Vと攪拌時間tの積Vt(m/秒×秒)が3000〜30000(m)。Vtが小さいとエア−巻き込みが少なく、十分な効果がでない。一方、Vtが上記範囲を超えて大きくなっても、エア−量は処理時間に対して増えないため、生産効率が下がる。又、攪拌羽根先端周速は高く設定することで、分散安定性が向上するため、液中のエア−サイズも超音波との組み合わせにより小さくなっているのではないかと考えている。このため、攪拌羽根先端周速Vは10〜50m/秒が好ましい。常温大気圧中では攪拌時間はVtの積が上記範囲になるように設定することが好ましいが、加圧等の処理を施す場合は、Vtを短くすることが可能である。攪拌羽根先端周速20m/秒以下では、ディゾルバー攪拌機の他、ホモジナイザ−等の高速攪拌機が使用可能であるが、20m/秒を超える攪拌羽根先端周速では、旋回型薄層高速攪拌装置(フィルミックス)を使うことがエネルギ−転移の観点から好ましい。
このような攪拌処理により、形成される磁性層の表層に必要上十分な空隙部が形成されるとともに、本発明で規定する位相差の算術平均の範囲を満たすことができる。
超音波を印加する処理は、攪拌処理と同時に行ってもよいが、攪拌処理が終了した後に行うことが望ましい。超音波処理装置としては、公知の装置を利用することができ、例えば流体を通過させながら超音波を印加するフロー式の超音波分散装置等を利用することができる。超音波処理条件としては、例えば周波数が15〜20kHz、振幅が20〜60μm、照射面積が36〜50mmφ、照射距離は1〜4mm、照射体積(照射面積×照射距離)における滞留時間が0.02〜5秒であるのが好ましい。更に好ましくは、0.08〜2秒。
フロ−式の超音波分散装置を多連もしくは、循環するように送液ラインを組むことで照射体積を通過するト−タル滞留時間が前記範囲になることが好ましい。
滞留時間が前記滞留時間より短い場合は、超音波分散による粒子解砕効果が低下し、かつ、添加剤(研磨剤、カ−ボンブラック)粒子の存在状態がミクロンオ−ダ−で不均一になる。一方、前記滞留時間が長いと本発明で規定する位相差(特に位相遅れになる空隙部)を形成しずらくなる。この現象は、超音波分散によるキャビテ−ションの他、高流量に伴う配管経路でのキャビティ−ションが追加され、研磨剤、カ−ボンブラック等の粒子表面の帯電状態が変化して、粉体表面へのエア−吸着が促進されているとみている。又、高流量化に伴い、超音波照射時間が短くなるため、処理液の温度上昇も抑制できる点も、処理液中のエア−含有を可能にしていると考えている。
【0088】
また本発明では、磁性液において、カーボンブラックについてはさらに個別に分散処理するのが好ましい。具体的には、有機溶剤中にカーボンブラックを5〜30質量%含むカーボンブラック液を調製し、これをビーズミル分散し、凝集粒子の解砕を行い、得られた分散液に対し、エアーを巻き込む処理を行い、その後、超音波を印加する処理を行うことが望ましい。カ−ボンブラック液の固形分濃度は、使用するカ−ボンブラックの平均粒径に併せて、上記範囲内で適宜調整することが好ましい。つまり、粒子間距離を考慮して微粒子化に伴い液の固形分濃度を下げるように設定する。但し、前記下限を超えて下げるとエア−の含有が難しくなり分散安定性が低下する。一方、上限を超えるとビ−ズミル分散処理時の液粘度上昇を引き起こしたり、攪拌機付き超音波分散装置を用いて有機溶剤中にカ−ボンブラックを添加して液化する処理が十分に機能しない場合が生じる。
エアーを巻き込む処理および超音波を印加する処理は、上述の条件が例示される。カーボンブラック液の分散処理が終了した後は、これに前記磁性液および研磨剤液を混合し、得られた混合液に上述のようにエアーを巻き込む処理と、超音波を印加する処理とを併用して施し、磁性層形成用塗布液を調製する。
【0089】
上述のようにエアーを巻き込む処理と、超音波を印加する処理とを併用することにより、磁性層形成用塗布液に非常に細かい泡粒子(ナノバブル)が含有されると考えている。また超音波処理によって粉体表面の帯電状態が変化し、ナノバブルが粉体表面に吸着していると考えている。これにより、強磁性粉末を含む粉体の分散安定性が飛躍的に向上するとみている。また、このナノバブルによって、磁性層表層付近に数十ナノサイズの空隙(空洞)が形成できていると考えている。磁性層表層におけるこの空隙(空洞)の存在量を適宜調整することで、電磁変換特性を低下させることなく、凝着力を低下させ、走行耐久性が向上できる。また、この空隙(空洞)の存在は、対衝撃性を向上させたり、磁性層表層付近の潤滑剤の供給源として機能している可能性もある。
添加剤液(研磨剤液・カーボンブラック液)は、磁性液に比べて超音波処理により表面エネルギーが変化する。この表面エネルギーの差異によって、混合液の調製時、両者はナノサイズでは混ざりにくい現象が起きると考えている。この状態にある磁性層形成用塗布液は塗膜形成時、表面エネルギ−差により空気層のある方向に、短時間に添加剤(研磨剤・カ−ボンブラック)を移動させる現象を引き起こしていると考えている。この現象を利用することで、例えば100nm以下のダイヤモンドを効率的に磁性層表層に偏在化させることが可能となり、ヘッド摩耗の観点から研磨剤添加量の削減や研磨剤の微粒子化を行っても必要な研磨剤突起高さ(例えば10−20nm)を確保でき、ヘッド摩耗を抑制しつつ、走行耐久性の優れた媒体を作ることができる。又、カ−ボンブラックでも同様に磁性層表層に偏在化させることが可能で、カ−ボンブラック添加量の削減やカ−ボンブラックの微粒子化を行っても必要なカ−ボンブラック突起高さ(例えば15−25nm)を確保できる。これにより研磨剤突起とヘッドとの接触を抑制でき、ヘッド摩耗を更に低減できると共に、微小突起密度が上がり、走行耐久性が向上する。又、添加剤(研磨剤・カ−ボンブラック)量の削減は磁性体の充填度向上に寄与するため、磁性層表層の空隙(空洞)の存在量を調整することで、走行耐久性と電磁変換特性を高次に両立した媒体を作ることができる。又、本発明の製法により添加剤(研磨剤・カ−ボンブラック)突起高さが高くなる場合は、カレンダ処理条件を高温・高圧・低速化することで適宜調整することが好ましい。
【0090】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁性層形成用塗料を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。ここで複数の磁性層形成用塗料を逐次又は同時に重層塗布してもよく、非磁性層形成用塗料と磁性層形成用塗料とを逐次又は同時に重層塗布してもよい。上記磁性層形成用塗料又は非磁性層形成用塗料を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0091】
磁性層形成用塗料の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層形成用塗料の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0092】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい、また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0093】
このようにして得られた塗布原反は、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、カレンダー処理に施される。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどが利用される。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0094】
塗布原反は、概ね、巻き取りロールの芯側から外側に向かって光沢値が低下し、長手方向において品質にばらつきがあることがある。なお光沢値は、表面粗さRaと相関(比例関係)があることが知られている。したがって、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させず一定に保持すると、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違について何ら対策が講じられていないことになり、最終製品も長手方向に品質のばらつきが生じる。
したがって、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させ、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違を相殺するのが好ましい。具体的には、巻き取りロールから巻き出された塗布原反の芯側から外側に向かってカレンダーロールの圧力を低下させていくのが好ましい。本発明者らの検討によれば、カレンダーロールの圧力を下げると光沢値は低下する(平滑性が低下する)ことが見出されている。これにより、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違が相殺され、長手方向において品質にばらつきのない最終製品が得られる。
【0095】
なお、前記ではカレンダーロールの圧力を変化させる例について説明したが、これ以外にも、カレンダーロール温度、カレンダーロール速度、カレンダーロールテンションを制御することによって行うことができる。塗布型媒体の特性を考慮すると、カレンダーロール圧力、カレンダーロール温度を制御するのが好ましい。カレンダーロール圧力を低くする、あるいはカレンダーロール温度を低くすることにより、最終製品の表面平滑性は低下する。逆に、カレンダーロール圧力を高くする、あるいはカレンダーロール温度を高くすることにより、最終製品の表面平滑性は高まる。
【0096】
これとは別に、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体を、サーモ処理して熱硬化を進行させることもできる。このようなサーモ処理は、磁性層形成用塗料の配合処方により適宜決定すればよいが、例えば35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。またサーモ処理時間は、12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
【0097】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用する。また金属ロールで処理することもできる。
【0098】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲であり、圧力は100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲の条件が好ましい。
【0099】
本発明の磁気記録媒体における磁性層は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した中心面平均表面粗さRaが2nm以下であり、好ましくは0.5〜1.5nmである。最大高さRmax(測定面積5μm角内の形状の最大変位量)は、50nm以下であり、好ましくは10〜50nmである。本発明における上記中心面平均表面粗さRa及び最大高さRmaxは実施例にて定義されるものである。また磁性層の十点平均粗さRzは30nm以下が好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールやカレンダ処理のロール表面形状などでコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0100】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等が選定される。
【0101】
[物理特性]
本発明に用いられる磁気記録媒体の磁性層の飽和磁束密度は100〜400mTが好ましい。また磁性層の抗磁力(Hc)は、143.2〜318.3kA/m(1800〜4000Oe)が好ましく、159.2〜278.5kA/m(2000〜3500Oe)が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFD及びSFDrは0.6以下、さらに好ましくは0.3以下である。
【0102】
本発明で用いられる磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において0.50以下であり、好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面10〜108Ω/sq、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0103】
磁性層のガラス転移温度(動的粘弾性測定装置、レオバイブロン等により、110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失正接の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×10〜8×10Pa(1×10〜8×10dyne/cm)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0104】
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m以下、さらに好ましくは10mg/m以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0105】
本発明の磁気記録媒体は、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当たりを良くすることができる。
【0106】
[磁気記録再生方法]
本発明の磁気記録媒体における再生方法としては、最大線記録密度200KFCI以上で磁気記録された信号をGMRヘッドにより再生するのが好ましい。
シールド間距離は、0.08μm〜0.18μm、再生トラック幅は、0.1μm〜2.5μmである。
【0107】
本発明の磁気記録媒体がテープ状磁気記録媒体の場合、再生ヘッドとしてGMRヘッドを用いることで、従来に比べ高周波領域で記録した信号であっても高いS/Nでの再生が可能である。従って、本発明の磁気記録媒体は、より高密度記録用のコンピュータデータ記録用の磁気テープやディスク状の磁気記録媒体として最適である。
【実施例】
【0108】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。また、実施例中の「部」特に示さない限り質量部を示す。
【0109】
[実施例1]
磁性層形成用塗布液
(磁性液)
バリウムフェライト磁性粉 100部
(Hc:2500Oe(200kA/m)、平均板径:20nm)
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂(SO3Na基濃度260eq/t) 15部
シクロヘキサノン 150部
メチルエチルケトン 150部
(研磨剤液)
ダイヤモンド粉末(平均粒子径:80nm) 3部
シクロヘキサノン 27部
(カーボンブラック液)
カーボンブラック(平均粒子径:80nm) 0.5部
シクロヘキサノン 2部
(その他成分)
ブチルステアレート 1部
ステアリン酸 1部
ポリイソシアネ−ト(日本ポリウレタン社製コロネート) 2.5部
(仕上げ添加溶剤)
シクロヘキサノン 180部
メチルエチルケトン 180部
【0110】
非磁性層形成用塗布液
非磁性無機質粉末:α−酸化鉄 85部
平均長軸長:0.15μm,平均針状比:7
BET比表面積:52m/g
カーボンブラック 15部
平均粒子径:20nm
塩化ビニル共重合体(スルホン酸基含有) 13部
ポリウレタン樹脂(スルホン酸基含有) 6部
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
ポリイソシアネ−ト(日本ポリウレタン社製コロネート) 5部
【0111】
バック層形成用塗布液
非磁性無機質粉末:α−酸化鉄 80部
平均長軸長:0.15μm,平均針状比:7
BET比表面積:52m/g
カーボンブラック 20部
平均粒子径:20nm
カ−ボンブラック 3部
平均粒子径:100nm
塩化ビニル共重合体 13部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂 6部
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ステアリン酸 3部
ポリイソシアネ−ト(日本ポリウレタン社製コロネート) 5部
メチルエチルケトン 400部
【0112】
上記磁性液をオ−プン型ニ−ダ−により混練・希釈処理後、横型ビーズミル分散機により、粒径0.5mmのZrビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で、1パス滞留時間を2分とし、8パスの分散処理終了後、粒径0.1mmのZrビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速7m/秒で、1パス滞留時間を2分とし、16パスの分散処理を行った。各分散パス毎に攪拌機付きタンクに受けて、攪拌によりエアーを巻き込ませながら分散処理した。
カーボンブラック液は、攪拌機付きバッチ型超音波分散装置(20kHz、600W、36mmφ振動子、2基搭載の15Lタンク、攪拌羽根径95mmφ)に液量10kgになるように投入し、攪拌回転数1200rpmで、30分処理して液化処理した。液化したカーボンブラック液を横型ビーズミル分散機により、粒径0.5mmZrビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で、1パス滞留時間を2分とし、6パスの分散処理を行った。その液をディゾルバー攪拌機で周速10m/秒で30分攪拌後、日本精機製作所製フロー式超音波分散機US-1200(20kHz、1200W、照射面積50mmφ)に流量3kg/分で、2パス処理した。
研磨剤液は、攪拌機付きバッチ型超音波分散装置(20kHz、600W、36mmφ振動子、2基搭載の15Lタンク、攪拌羽根径95mmφ)に液量10kgになるように投入し、攪拌回転数1200rpmで、30分処理して液化処理した。液化した研磨剤液を日本精機製作所製フロー式超音波分散機US-1200(20kHz、1200W、照射面積50mmφ)に流量0.3kg/分で9パス処理した。超音波処理した研磨剤は一旦、タンクに受けた上で、絶対精度1μmのデッドエンド型のデプスフィルタで濾過した。
【0113】
磁性液、カーボンブラック液および研磨剤液と、その他の成分としての潤滑剤、硬化剤及び仕上げ添加溶剤をディゾルバー攪拌機に導入し、攪拌羽根先端周速10m/秒で30分間攪拌した後、3連型のフロー式超音波分散装置US-1200(20kHz、1200W、照射面積50mmφ)により流量7.5kg/分で1ハ゜ス処理した後に、絶対精度1μmのデッドエンド型のデプスフィルタで濾過して磁性層形成用塗布液を作製した。作製した磁性層形成用塗布液は室温下で、一旦静置保存させ、塗布直前に作った攪拌機付きタンクにバッチ投入することで、塗布液を供給するようにした。
【0114】
非磁性層形成用塗布液は潤滑剤(ブチルステアレート、ステアリン酸)及びポリイソシアネ−トを除く、前述成分をオ−プン型ニ−ダ−により混練・希釈処理して、その後、横型ビーズミル分散機により、粒径0.5mmのZrビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で、1パス滞留時間を6分とし、8パスの分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ブチルステアレート、ステアリン酸)及びポリイソシアネ−トを添加して、ディゾルバ−攪拌機にて周速10m/sで30分の攪拌・混合処理を施し、絶対精度1μmのデッドエンド型のデプスフィルタで濾過して非磁性層形成用塗布液を作製した。
バック層形成用塗布液は潤滑剤(ステアリン酸)及びポリイソシアネ−ト、メチルエチルケトン(400部)を除く、前述成分をオ−プン型ニ−ダ−により混練・希釈処理して、その後、横型ビーズミル分散機により、粒径1mmのZrビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で、1パス滞留時間を6分とし、8パスの分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸)及びポリイソシアネ−ト、メチルエチルケトン(400部)を添加して、ディゾルバ−攪拌機にて周速10m/sで30分の攪拌・混合処理を施し、絶対精度1μmのデッドエンド型のデプスフィルタで濾過してバック層形成用塗布液を作製した。
厚さ6μmのポリエチレンフタレート支持体上に、乾燥後の厚さが1.5μmになるように非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させた後、その上に乾燥後の厚さが0.08μmになるように磁性層形成用塗料を塗布し、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに0.10Tの磁力を持つ磁石で垂直方向に配向、乾燥させた。又、バック層形成用塗料は磁性層形成用塗料を塗布した後に、支持体の反対面に乾燥後の厚さが0.5μmになるように塗布し乾燥させた。その後、金属ロ−ルのみから構成されるカレンダ−で速度100m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、温度90℃で表面平滑化処理を行なった後、硬化させた。その後、70℃dry環境で24時間熱処理を行った。熱処理後、1/2インチ幅にスリットし、スリット品の送り出し、巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレ−ドが磁性面に押し当たるように取り付けたテ−プクリ−ニング装置で磁性層の表面のクリ−ニングを行いテープ試料を得た。
【0115】
多機能走査プローブ顕微鏡(Digital Instruments社製D3100)(SPM)を用い、下記の条件により、位相差の算術平均を測定した。
モ−ド:タッピングモ−ド
測定面積:5μm角
Tip:曲率10nmのダイヤモンド針
Scanrate:1Hz
Scan角:0°
Tip速度:10μm/秒
走査数:512
Prove周波数:265−269kHz
位相:70°
出力:1.3−2.4V
【0116】
又、前述の原子間力顕微鏡(AFM)を用いて磁性層の中心面平均表面粗さRa及び磁性層の最大高さRmaxを測定した。
モード:AFMモード(コンタクトモード)
測定面積:5μm角
Tip:曲率10nmのダイヤモンド針
Scanrate:1Hz
走査数:512
【0117】
また、得られた磁気テープについて、以下のようにして走行耐久性およびヘッド摩耗を調べた。
走行耐久性:23℃50%環境下で3mmφのAltic部材に磁性層を接するように1/2インチ幅の磁気テ−プを荷重100gで180度ラップさせ、14mm/秒の速度で、100ハ゜ス繰り返し摺動した。摺動後の磁性層のダメ−ジを以下で評価した。摺動面の任意の4箇所を光学顕微鏡の50倍で観察し、磁性層剥がれや摺動キズ等のダメ−ジがないものを○、50倍の観察でダメ−ジが1視野当たり1箇所以上あるものを×として評価した。その中間に当たるダメ−ジを△と評価した。
ヘッド摩耗:市販のSDLTドライブ(Quantum社製:SDLT320)を使い、23℃50%環境下で、600m長のテ−プを繰り返し600時間走行させた。
ガ−ド部とMRヘッド部との高低差を原子間力顕微鏡で、走行前後で計測し、ヘッド摩耗量を求めた。比較例4を1とした相対値でヘッド摩耗量を示す。
【0118】
[実施例2]
研磨剤液において、ダイヤモンド粒子の平均粒子径を50nmに変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0119】
[比較例1]
研磨剤液において、ダイヤモンド粒子の平均粒子径を150nmに変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0120】
[比較例2]
実施例1の磁性層形成用塗布液の処方は同じものとし、磁性液およびカーボンブラック液を混練処理し、粗分散液を調製し、しかる後、ダイヤモンド粒子を粉体として加えた。これを縦型バッチ式ビーズミル分散機により、粒径0.5mmのZrビーズを用い、滞留時間720分で分散処理した後、その他の成分としての潤滑剤および硬化剤とをディゾルバー攪拌機に導入し、攪拌羽根先端周速10m/秒で30分間攪拌した。続いて、絶対精度1μmのデッドエンド型のデプスフィルタで濾過して磁性層形成用塗布液を作製し、作製した磁性層形成用塗布液は塗布直前の給液タンク内で常に攪拌羽根先端周速10m/秒以上の攪拌を施す形で塗布液を供給した。以降は実施例1と同様である。
【0121】
[比較例3]
比較例2において、ダイヤモンド粒子を用いなかったこと以外は、比較例2を繰り返した。
【0122】
[比較例4]
実施例1において、磁性層形成用塗布液における強磁性粉末として、強磁性金属粉末(組成:Co/Fe=25at%、Al/Fe=7at%、Y/Fe=12at%、平均長軸長0.45μm、Hc:191kA/m、σs:117A・m2/kg、SBET:62m2/g、結晶子サイス゛:110Å、平均針状比5)を用いたこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0123】
結果を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
表1から、本発明の磁気記録媒体は、タッピングモ−ド原子間力顕微鏡により検出された位相差の算術平均が2〜20°であることにより、超平滑な表面を有していても、走行耐久性に優れ、ヘッド摩耗も少ないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を少なくとも有する磁気記録媒体において、前記磁性層表面の原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した中心面平均表面粗さRaが2nm以下であり、最大高さRmaxが50nm以下であり、かつ原子間力顕微鏡のタッピングモ−ドで計測されるプロ−ブのドライブ信号と応答信号の位相差の算術平均が2〜20°であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記強磁性粉末が、平均板径30nm以下の六方晶フェライト粉末であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層が、平均粒子径100nm以下のダイヤモンド粒子を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
強磁性粉末および結合剤を含む磁性液と、研磨剤を含む研磨剤液とを個別に分散処理し、次いで前記磁性液と研磨剤液とを混合し磁性層形成用塗布液を調製し、これを非磁性支持体上に塗布して磁性層を設ける工程を少なくとも有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性液と研磨剤液とを混合した後、得られた混合液に対し、エアーを巻き込む処理と、超音波を印加する処理とを併用して施すことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記エアーを巻き込む処理が、攪拌羽根を有する高速攪拌機を用い、前記攪拌羽根先端周速10m/秒以上で5分間以上攪拌を行う処理であり、その後、前記超音波を印加する処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
カーボンブラックを含むカーボンブラック液をビーズミル分散し、得られた分散液に対し、エアーを巻き込む処理を行い、その後、超音波を印加する処理を行い、これに前記磁性液および研磨剤液を混合し、前記磁性層形成用塗布液を調製することを特徴とする請求項4または5に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2007−272955(P2007−272955A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94924(P2006−94924)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】