説明

磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法、磁気記録再生装置

【課題】信頼性に優れたサーボ情報が書き込まれ、高精度のレジストパターンを用いて磁性層からなるパターン形状の全てを高精度で形成することにより歩留まりよく製造できる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基板上に磁気的に分離された磁性層からなる環状の磁気記録パターン51aが備えられ、磁気記録パターン51aにサーボ情報が磁気的に書き込まれている磁気記録媒体50とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法、磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、MR(magnet resistive)ヘッドおよびPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇はさらに激しさを増し、近年ではさらにGMR(giant magnet resistive)ヘッド、TMR(tunneling magnet resistive)ヘッドなども導入され、1年に約50%ものペースで増加を続けている。これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されており、そのために磁性層の高保磁力化と高信号対雑音比(SNR)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0003】
最新の磁気記録装置において、トラック密度は110kTPIにも達している。しかし、トラック密度を上げていくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となりSNRを損なうという問題が生じやすくなる。このことはそのままBit Error rateの低下につながるため記録密度の向上に対して障害となっている。
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかし、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0004】
また、トラック密度を上げていくと、トラック間距離が近づくため、磁気記録装置には極めて高精度のトラックサーボ技術が要求されている。また、隣接トラックからの影響をできるだけ排除するため、記録を幅広く実行し、再生を記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。この方法では、トラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を十分得ることが困難である。そのため、十分なSN比(SNR)を確保することが難しいという問題がある。
【0005】
上述した熱揺らぎの問題を解決し、十分なSN比の確保、あるいは十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラック同士を物理的または磁気的に分離することによってトラック密度を上げようとする試みがなされている。このような技術を以下にディスクリートトラック法、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と呼ぶ。
【0006】
ディスクリートトラック媒体の一例として、複数の凸部と各凸部を囲む凹部とを有する非磁性基板上に、軟磁性層と強磁性層を積層し、非磁性基板の形状を反映した凹凸が軟磁性層および強磁性層に形成され、磁気的に分断された強磁性層の凸部のみを記録領域とする磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため、熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体を形成できるとされている。
【0007】
ディスクリートトラック媒体は、一般に、非磁性基板上に連続した磁性層を形成し、磁性層の上にパターニングしたレジスト層を形成し、これを用いて磁性層を磁気的に分離する方法を用いて形成されている。また、レジスト層をパターニングする方法としては、フォトリソグラフィー法や、液状のレジストにスタンプを用いてパターン転写するナノインプリント法がなど用いられている。
【0008】
また、ディスクリートトラック媒体の製造方法としては、何層かの薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後にトラックを形成する方法や、あらかじめ基板表面に直接、あるいはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法がある(例えば、特許文献2,特許文献3参照)。
【0009】
また、ディスクリート方式の磁気記録媒体の製造方法として、外部からのイオン注入あるいはレーザ照射などを行うことにより、非磁性基体上の連続した磁性層の所望の箇所の磁気的特性を局所的に変えて記録トラックを形成する方法もある(例えば、特許文献4参照)。
また、例えば、特許文献5には、磁性層に、ランド間のギャップ代わりに、イオン注入によって磁化されない領域のあるものが開示されている。
また、例えば、特許文献6には、基板上に、磁性層、イオンバッファ層をこの順に形成して、イオンバッファ層を介在させた状態で磁性層に対してイオンを注入し、熱処理することで、イオンの注入領域の磁気特性を改質する磁性パターン形成方法が開示されている。
【0010】
また、例えば、特許文献7には、セルフサーボ参照信号を用いて磁気ヘッドを位置決め制御しながら、磁気ヘッドによりバースト信号を記録する工程と、磁気ヘッドの位置を前記バースト信号を記録した位置から微小変化させながら、前記磁気ヘッドにより前記バースト信号を再生すると共に、前記セルフサーボ参照信号の再生によって前記磁気ヘッドの前記磁気ディスクにおける半径方向位置を検出し、前記磁気ヘッドの位置と前記バースト信号の再生信号出力との関係を求める工程と、前記関係に基づいてデータトラックピッチを決定する工程とを実行するデータトラックピッチ決定手段が備えられている磁気ディスク装置が記載されている。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−209952号公報
【特許文献6】特開2006−309841号公報
【特許文献7】特開2005−100611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のディスクリートトラック媒体の製造方法では、磁気的に分離された磁性層からなるパターン形状の精度が不十分で歩留まりが低いため、磁性層のパターン形状を精度よく形成することにより、歩留まりを向上させることが要求されていた。磁性層のパターン形状の精度を低下させる主な原因としては、磁性層からなるパターン形状を形成する際に用いられるレジストパターンの厚さのバラツキやエッジダレなどレジストパターンの形状不良が挙げられる。
【0012】
ここで従来の磁気記録媒体の課題について、図4を用いて説明する。図4は、従来のディスクリート型の磁気記録媒体の一例を説明するための平面図であり、図4(a)はディスクリート型の磁気記録媒体の全体を示した模式図であり、図4(b)は図4(a)において矩形で示したディスクリート型の磁気記録媒体の一部の領域のみを拡大して示した拡大模式図である。
【0013】
図4に示す磁気記録媒体40は、図4(a)および図4(b)に示すように、円盤状の基板の一方の表面に、データ領域41とサーボ情報領域42とが備えられたものである。なお、図4(a)においては、中心から放射状に延びる線で示された領域がサーボ情報領域42に該当し、放射状の線と線との間の領域がデータ領域41に該当する。
データ領域41を構成する磁性層からなるデータ記録パターン41aは、磁気記録トラックを構成するものであり、図4(b)に示すように、円環状の規則的な形状とされている。
【0014】
また、図4(b)に示すように、サーボ情報領域42には、バースト情報領域43、アドレス情報領域44、プリアンブル情報領域45が備えられている。
バースト情報領域43には、磁気ヘッドを磁気記録トラックの中央に位置付けさせるためのバースト情報として、バーストパターン43aが形成されている。バーストパターン43aは、バースト情報領域43を構成する磁性層からなるものであり、隣接する磁気記録トラック間に設けられた細かなドット状の形状とされている。
【0015】
また、アドレス情報領域44には、データ領域41の番地を示すトラック情報及びセクタ情報を含むアドレス情報として、アドレスパターン44aが形成されている。アドレスパターン44aは、アドレス情報領域44を構成する磁性層からなるものであり、データ記録パターン41aと直交する方向に延在する不規則な線状の形状とされている。
また、プリアンブル情報領域45には、磁気記録トラック内でデータ領域41からサーボ情報領域42に移る箇所の識別に用いられるプリアンブル情報として、プリアンブルパターン45aが形成されている。プリアンブルパターン45aは、プリアンブル情報領域45を構成する磁性層からなるものであり、データ記録パターン41aと直交する方向に延在する長さの揃った線状の形状とされている。
【0016】
図4(a)に示す磁気記録媒体40では、表面上を円周方向に移動する磁気ヘッド(不図示)が、プリアンブル情報領域45のプリアンブル情報を読み込んでアドレス情報を読み込む準備をし、サーボ情報領域42において、データ領域41のアドレス情報を読み込み、同一円周上に設けられたバースト情報領域43のバースト情報を読み込んでトラック位置の微調整を行い、その後、データ領域41において情報の読み書きを行うことができるようになっている。
【0017】
図4(b)に示すように、磁性層からなる各パターン41a、43a、44a、45aの密度は、データ領域41、バースト情報領域43、アドレス情報領域44、プリアンブル情報領域45の各領域で異なっている。このように、ディスクリート型磁気記録媒体40の磁性層は、ピッチやパターン幅等の相違する複数のパターン形状が混在した複雑な形状を有している。
【0018】
図4に示す磁気記録媒体40の製造工程において、磁性層からなるパターン形状を形成する際に用いられるレジストパターンの形状不良の原因としては、レジストの粘度、レジストの硬化温度、硬化時間、湿度、露光時間、露光強度等のさまざまなパターニング条件が挙げられる。これらのパターニング条件は、磁性層のパターン形状に応じて適宜決定される。
【0019】
しかしながら、図4に示す磁気記録媒体40のように、磁性層が複数のパターン形状が混在している複雑な形状を有するものである場合、レジストパターンを形成するための最適なパターニング条件を、パターン形状が異なることに起因する精度のバラツキが生じないように最適化することは困難であった。
具体的には例えば、レジストパターンを形成するためのパターニング条件を、データ記録パターン41aのパターン形状に対応するように決定すると、バーストパターン43aやアドレスパターン44a、プリアンブルパターン45aのパターン形状が不完全となってしまう。また、レジストパターンを形成するためのパターニング条件を、バーストパターン43aやアドレスパターン44a、プリアンブルパターン45aのパターン形状に対応するように決定すると、データ記録パターン41aのパターン形状が不完全となってしまう。
【0020】
このように、磁性層が複雑な形状を有している場合には、レジストパターンを形成するためのパターニング条件を十分に最適化することができず、磁気記録媒体上に形成される磁性層からなるパターン形状の全てを十分に高い精度で形成しうる高精度のレジストパターンを形成することは困難である。したがって、図4に示す従来の磁気記録媒体40においては、磁性層からなるパターン形状の全てを高精度で形成することは困難であった。
【0021】
また、図4に示す磁気記録媒体40では、サーボ情報としてサーボ情報領域42に磁性層からなるバーストパターン43a、アドレスパターン44a、プリアンブルパターン45aが形成されている。このため、磁気ヘッドにより磁気記録媒体40から読み込まれるサーボ情報の品質は、サーボ情報領域42に形成された磁性層からなるパターン形状の精度によって変化することになる。
上述したように、図4に示す磁気記録媒体40においては、磁性層からなるパターン形状の全てを高精度で形成することは困難であるため、サーボ情報領域42に形成されたパターン形状の精度が不十分となり、高品質なサーボ情報が得られない場合があった。このため、図4に示す磁気記録媒体40では、磁気ヘッドによる磁気記録媒体40の読み込み不良や書き込み不良が生じる恐れがあり、サーボ情報の信頼性を向上させることが要求されていた。
【0022】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、信頼性に優れたサーボ情報が書き込まれたものであり、磁性層からなるパターン形状を形成する際に用いられるレジストパターンを高精度で形成することができ、高精度のレジストパターンを用いて磁性層からなるパターン形状の全てが高精度で形成されることにより歩留まりよく製造できる磁気記録媒体を提供することを課題とする。
また、本発明は、信頼性に優れたサーボ情報が書き込まれ、精度よくレジストパターンを形成することができ、高精度で形成されたレジストパターンを用いて、磁性層のパターン形状を精度よく形成できる歩留まりの高い磁気記録媒体の製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の磁気記録媒体を備え、信頼性に優れたサーボ情報が得られ、歩留まりよく製造できる磁気記録再生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、レジストパターンの形状不良を改善して、磁性層のパターン形状を精度よく形成するために、以下に示すように、鋭意研究した。
すなわち、本発明者は、磁気記録媒体の磁性層が複雑な形状を有していることが、レジストパターンの形状の精度を低下させる主な原因であることを考慮し、磁性層の形状に着目して検討を重ねた。その結果、本発明者は、情報の読み書きされる磁気的に分離された環状の磁気記録パターンに、磁気的にサーボ情報を書き込むことで、従来の磁気記録媒体においてサーボ情報領域に形成されていた複数のパターン形状を形成しなくて済むようにすれば、磁性層の形状を環状のパターン形状のみからなる単純なものとすることが可能になるとともに、信頼性に優れたサーボ情報が書き込まれたものとすることができることを見出し、本発明を想到した。
【0024】
すなわち本発明は次の構成を採用する。
(1)非磁性基板上に磁気的に分離された磁性層からなる環状の磁気記録パターンが備えられ、前記磁気記録パターンにサーボ情報が磁気的に書き込まれていることを特徴とする磁気記録媒体。
(2)前記サーボ情報が、バースト情報、アドレス情報、プリアンブル情報から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体
【0025】
(3)非磁性基板上に設けられた磁性層上にレジストパターンを形成し、前記レジストパターンを用いて、磁気的に分離された前記磁性層からなる環状の磁気記録パターンを形成する工程と、磁気ヘッドを用いてサーボ情報を前記磁気記録パターンに磁気的に書き込むサーボ情報書込み工程とを含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(4)前記サーボ情報書込み工程の前に、表面にプリサーボ情報パターンを備えた磁気転写用マスター担体を用いて、前記磁気記録パターンにプリサーボ情報を磁気転写する工程を行い、前記サーボ情報書込み工程において、前記磁気ヘッドに前記磁気記録パターンに磁気転写された前記プリサーボ情報を読み込ませながら、前記磁気ヘッドにより前記磁気記録パターンに前記サーボ情報を書き込ませることを特徴とする(3)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(5)前記プリサーボ情報が、位相差サーボ情報であることを特徴とする(3)または(4)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0026】
(6)磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドとを備えた磁気記録再生装置であって、前記磁気記録媒体が(1)または(2)に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明の磁気記録媒体によれば、非磁性基板上に磁気的に分離された磁性層からなる環状の磁気記録パターンが備えられ、磁気記録パターンにサーボ情報が磁気的に書き込まれているので、磁性層の形状を環状のパターン形状のみからなる単純なものとすることが可能となる。したがって、本発明の磁気記録媒体においては、サーボ情報領域にサーボ情報として磁性層からなるパターンを形成する必要がなく、磁性層からなるパターン形状を形成する際に用いられるレジストパターンを形成するためのパターニング条件を最適化して、高精度のレジストパターンを形成することができる。よって、本発明の磁気記録媒体においては、非磁性基板上に形成される磁性層からなるパターン形状の全てを、高精度のレジストパターンを用いて十分に高い精度で形成できる。その結果、本発明の磁気記録媒体は、歩留まりよく形成できるものとなる。
【0028】
また、本発明の磁気記録媒体では、磁気記録パターンにサーボ情報が磁気的に書き込まれているので、サーボ情報として磁性層からなるパターンが形成されている場合のように、磁性層からなるパターン形状の精度によってサーボ情報の品質が変化することはなく、信頼性に優れた高精度のサーボ情報が書き込まれたものとすることができる。
【0029】
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板上に設けられた磁性層上にレジストパターンを形成し、前記レジストパターンを用いて、磁気的に分離された前記磁性層からなる環状の磁気記録パターンを形成する工程と、磁気ヘッドを用いてサーボ情報を前記磁気記録パターンに磁気的に書き込むサーボ情報書込み工程とを含む方法であるので、サーボ情報領域にサーボ情報として磁性層からなるパターンを形成する必要がなく、磁性層の形状を環状のパターン形状のみからなる単純なものとすることが可能となる。したがって、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、最適なパターニング条件で高精度のレジストパターンを形成することができ、高精度のレジストパターンを用いて、高精度の磁気記録パターンを形成することが可能となる。その結果、歩留まりよく磁気記録媒体を製造できる。
【0030】
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法では、磁気ヘッドを用いてサーボ情報を前記磁気記録パターンに磁気的に書き込むので、サーボ情報として磁性層からなるパターンを形成する場合のように、磁性層からなるパターン形状の精度によってサーボ情報の品質が変化することはなく、信頼性に優れた高精度のサーボ情報が書き込まれた磁気記録媒体が得られる。
【0031】
また、本発明の磁気記録再生装置は、本発明の磁気記録媒体を備えたものであるので、磁気ヘッドによって信頼性に優れたサーボ情報が得られるものとなるとともに、歩留まりよく製造できるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明の磁気記録媒体およびその製造方法、磁気記録再生装置について、図面を参照して詳細に説明する。尚、以下の説明において参照する図面において、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の磁気記録媒体および磁気記録再生装置の寸法関係とは異なっている場合がある。
【0033】
<磁気記録媒体>
まず、本発明の磁気記録媒体について例を挙げて説明する。
図1は、本発明の磁気記録媒体の一例を説明するための平面図であり、図1(a)は磁気記録媒体の一部の領域のみを拡大して示した拡大模式図である。また、図1(b)は図1(a)に示す磁気記録媒体の製造工程の一部を説明するための工程図であり、図1(a)に示された領域と同じ領域のみを拡大して示した拡大平面図である。
また、図2(i)は、図1に示す磁気記録媒体の断面構造を説明するための断面図であり、磁気記録媒体の一部を半径方向から見た拡大模式図である。なお、図2(i)においては、説明を容易にするために基板と磁性層と保護膜層のみを示す。また、図2(a)〜図2(h)は、図1に示す磁気記録媒体の製造工程の一部を説明するための工程図であり、図2(i)に示された領域と同じ領域のみを拡大して示した拡大断面図である。
【0034】
図1(a)に示す磁気記録媒体50は、円盤状の非磁性基板1上に、データ領域51とサーボ情報領域52とが備えられたものである。データ領域51は、磁気記録媒体50の回転中心から一定角度間隔で磁気記録媒体50の全面に放射状に形成されており、図1(a)に示すように、隣接するデータ領域51間の領域がサーボ情報領域52とされている。データ領域51およびサーボ情報領域52には、図1(a)および図2(i)に示すように、磁気的に分離された磁性層2からなる磁気記録パターン51aが備えられている。本実施形態の磁気記録パターン51aは、凹部51cと凸部51bとを有するものであり、凹部51cを構成する磁性層2の磁気特性が改質されて非磁性化されていることにより、隣接する凸部51b間が磁気的に分離されている。凹部51cの幅は10〜100nm程度であることが好ましく、凸部51bの幅は10〜200nm程度であることが好ましい。
ここで、磁性層2が「磁気的に分離されている」とは、少なくとも磁性層2の表面において磁気的に分離されていればよく、磁性層2の底部においては分離されていなくてもよい。
【0035】
磁気記録パターン51aは、円盤状の磁気記録媒体50の回転中心に対して単純な同心円状の形状を有するものであり、50nm程度の幅の磁気記録トラックを構成する円環状の規則的な形状のものである。
サーボ情報領域52に配置された磁気記録パターン51aには、サーボ情報が磁気的に書き込まれている。サーボ情報領域52に書き込まれているサーボ情報は、バースト情報、アドレス情報、プリアンブル情報から選ばれる少なくとも1つを含むものとすることができる。バースト情報とは、磁気ヘッドを磁気記録トラックの中央に位置付けさせるための情報である。また、アドレス情報とは、データ領域51の番地を示すトラック情報及びセクタ情報を含む情報であり、プリアンブル情報とは、磁気記録トラック内でデータ領域51からサーボ情報領域52に移る箇所の識別に用いられる情報である。
【0036】
本実施形態においては、サーボ情報領域52の磁気記録パターン51aに書き込まれたバースト情報とアドレス情報とプリアンブル情報とを含むサーボ情報によって、非磁性基板1上に設けられた多数のデータ領域51が位置付けされている。そして、本実施形態においては、磁気記録媒体50の表面上を円周方向に移動する磁気ヘッド(不図示)が、サーボ情報領域52において、対応するデータ領域51のプリアンブル情報、アドレス情報、バースト情報を読み込み、バースト情報を用いて磁気記録パターン51aからなる磁気記録トラック位置に対する磁気ヘッドの位置の微調整を行い、その後、データ領域51において情報の読み書きを行うことができるようになっている。
【0037】
ここで、例えば、磁気的に分離された磁性層2からなる磁気記録パターン51aに何も情報が書き込まれていない場合、磁気ヘッドを用いてサーボ情報を書き込むためには、磁気記録パターン51aからなる幅の狭い磁気記録トラックの中央に、何らかの方法で磁気ヘッドを位置決めする必要がある。また、磁気記録トラックを構成する磁気記録パターン51aは、ディスクリート型磁気記録媒体50の回転中心に対して偏心して形成されている場合があるため、磁気記録トラック位置に対する磁気ヘッドの位置を随時微調整しながら磁気ヘッドを磁気記録トラックの中央の位置に位置合わせする必要がある。加えて、磁気ヘッドにより、磁気記録媒体50の表面での絶対位置(座標)を検知させ、それに基づいてデータ領域51の番地を定める必要がある。
【0038】
また、図1に示す磁気記録媒体50は、図2(i)に示すように、非磁性基板1上に磁性層2が形成され、磁性層2の上に保護膜層9が形成され、保護膜層9上に潤滑層(図2においては図示略)が形成されているものである。なお、本実施形態においては、保護膜層および潤滑層が設けられている磁気記録媒体を例に挙げて説明するが、保護膜層および潤滑層は設けられていなくてもよい。
【0039】
非磁性基板1としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など任意のものを用いることができる。これらの中でも、非磁性基板1として、Al合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板またはシリコン基板を用いることが好ましい。また、非磁性基板1の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下、さらには0.5nm以下であることが好ましく、0.1nm以下であることがより好ましい。
【0040】
磁性層2は、Coを主成分とする合金から形成することが好ましい。また、磁性層2は、面内磁性層であっても垂直磁性層であってもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層であることが好ましい。
例えば、面内磁性層用の磁性層2としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とからなる積層構造などを用いることができる。
また、例えば、垂直磁性層用の磁性層2としては、軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる裏打ち層と、必要に応じて設けられるPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどの配向制御膜と、必要に応じて設けられるRu等の中間膜と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金などからなる磁性膜とからなる積層構造の磁性層などを用いることができる。
【0041】
磁性層2の膜厚は、磁性層2に用いられる磁性材料の種類や積層構造などに応じて、十分なヘッド出入力が得られる厚みとなるように決定される。磁性層2は、磁気記録媒体50から情報を再生する際に一定以上の出力を得るために、ある程度以上の膜厚が必要である。しかし、磁気記録再生装置の記録再生特性を表す諸パラメーターは、出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、磁性層2の膜厚を最適に設定する必要がある。具体的には、磁性層2の膜厚は、3nm以上20nm以下とされることが好ましく、5nm以上15nm以下とすることがより好ましい。
【0042】
保護膜層9としては、Diamond Like Carbonなどの炭素(C)、水素化炭素(HxC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO2、Zr23、TiNなど、通常用いられる保護膜層材料を用いることができる。また、保護膜層9は、2層以上の層から構成されていてもよい。
保護膜層9の膜厚は10nm以下とすることが好ましい。保護膜層9の膜厚が10nmを越えると磁気ヘッドと磁性層2との距離が大きくなり、十分な出入力信号の強さが得られなくなる恐れがある。
【0043】
また、保護膜層9の上には潤滑層(図示略)を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられる。潤滑層の厚みは、通常1〜4nmとされる。
【0044】
<磁気記録媒体の製造方法>
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法として、図1(a)および図2(i)に示す本実施形態の磁気記録媒体の製造方法を例に挙げて詳細に説明する。
まず、図2(a)に示すように、円盤状の非磁性基板1上に、スパッタ法などにより磁性層2を形成する。
次いで、図2(b)に示すように、磁性層2上にマスク層3を形成する。マスク層3は、スパッタリング法やCVD法などにより成膜することができる。
【0045】
マスク層3は、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO2、Ta25、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれた何れか一種以上を含む材料で形成することが好ましい。マスク層3の材料としては、上記の材料の中でも、As、Ge、Sn、Gaを用いることが好ましく、Ni、Ti、V、Nbを用いることがより好ましく、Mo、Ta、W、Cを用いることが最も好ましい。
マスク層3として、上記の材料からなるものを用いることにより、磁性層2の一部をイオンミリングなどによって除去する工程における磁性層2の遮蔽性に優れたものとなるとともに、マスク層3による磁気記録パターン51aの形成精度を向上させることができる。さらに、上記の材料は、酸素ガスなどの反応性ガスを用いたドライエッチング(反応性イオンエッチングまたは反応性イオンミリング)を容易に行うことができるものであるため、磁性層2上にマスク層3を設けることにより、後述するレジスト層を除去する工程における磁性層2上の残留物を減らすことができ、磁性層2の表面の汚染を減少させることができる。
【0046】
次に、図2(c)に示すように、マスク層3の上にレジスト層4を形成する。レジスト層4は、スピンコート法によりマスク層3上にレジストを塗布する方法などにより形成できる。
レジスト層4は、放射線照射により硬化するレジストからなるものであることが好ましい。なお、ここでの放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波である。また、放射線照射により硬化するレジストとしては、例えば、熱線により硬化する熱硬化樹脂、紫外線により効果する紫外線硬化樹脂などが挙げられる。紫外線硬化樹脂としては、例えば、ノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等が挙げられる。
【0047】
次に、マスク層3およびレジスト層4のパターニングを行う。マスク層3およびレジスト層4をパターニングするには、まず、図2(d)に示すように、非磁性基板1上に形成される磁性層2からなる磁気記録パターン51aのネガパターンを、レジスト層4に形成する。ここで形成するネガパターンとは、磁気記録パターン51aを構成する分離領域(凹部51c)に対応する領域のレジスト層4に凹部を形成したものである。
【0048】
レジスト層4にネガパターンを形成する方法としては、通常のフォトリソグラフィー技術を用いてもよいが、レジスト層4にスタンプ5を用いて、パターンの形状を転写する方法を用いることが作業効率の点から好ましい。スタンプ5を用いてレジスト層4にパターンの形状を転写する方法としては、例えば、図2(d)における矢印で示すように、レジスト層4にスタンプ5を所定の圧力で押圧することによりパターンを転写した後、レジスト層4からスタンプ5を分離する方法が挙げられる。
【0049】
スタンプ5としては、中心に対して同心円状(複数の円環状)のパターンであって、磁気記録パターン51aに対応する形状を有するパターンの形成されたものが用いられる。スタンプ5の材料としては、パターンの形状を転写するために必要な硬度および耐久性を有するものであればよく、特に限定されないが、例えばガラスやNi、樹脂などを好ましく使用できる。具体的には、例えば、スタンプ5として、金属プレートに電子線描画などの方法を用いてパターンが形成されたものなどを使用できる。
【0050】
なお、本実施形態においては、レジスト層4に用いる材料を、放射線照射により硬化する材料とし、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、または、レジスト層4にパターンを転写する工程の後に、レジスト層4に放射線を照射して、レジスト層4を硬化させることが好ましい。
このような製造方法を用いることにより、レジスト層4に、スタンプ5の形状を精度良く転写することができる。また、後述するマスク層3の一部を除去する工程において、マスク層3のエッジの部分にダレが発生することを防止でき、図2(f)に示す磁性層2の一部を除去する工程におけるマスク層3の遮蔽性を向上させるとともに、磁気記録パターン51aの形成精度を向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態の製造方法におけるレジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程においては、レジスト層4の流動性が高い状態で、レジスト層4にスタンプ5を押圧し、レジスト層4にスタンプ5を押圧した状態でレジスト層4に放射線を照射することによりレジスト層4を硬化させ、その後、スタンプ5をレジスト層4から分離する方法を用いてもよい。このような製造方法とした場合、スタンプ5の形状をより一層精度良く、レジスト層4に転写することができ、好ましい。
また、このような製造方法を用いた場合、スタンプ5の形状を精度良くレジスト層4に転写でき、高精度のレジストパターンを形成することができるので、後述する磁性層2の磁気特性を改質する工程において、磁性層2の保磁力、残留磁化を極限まで低減させることが可能となり、磁気記録の際の書きにじみがなく、高い面記録密度を有する磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0052】
レジスト層4にスタンプ5を押圧した状態で、レジスト層4に放射線を照射する方法としては、例えば、スタンプ5の反対側、すなわち非磁性基板1側から放射線を照射する方法や、スタンプ5の材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ5側から放射線を照射する方法、スタンプ5の側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ材料または非磁性基板1からの熱伝導により放射線を照射する方法などを用いることができる。
中でも特に、レジスト材料として紫外線硬化樹脂を用いるとともに、スタンプ材料として紫外線の透過性に優れたガラスや樹脂を用い、レジスト層4にスタンプ5を押圧した状態で、スタンプ5側から紫外線を照射することにより、レジスト層4を硬化させることが好ましい。
【0053】
次に、図2(d)に示すネガパターンを形成した後に残ったレジスト層8と、磁気記録パターン51aの凹状の分離領域(凹部51c)に対応する領域のマスク層3とを除去する。このことにより、図2(e)に示すように、磁性層2上の凸部51bとなる領域に残存するマスク層3と、パターニングされたレジスト層4であるレジストパターン4aとからなるマスクが形成される。
【0054】
スタンプ5を用いてネガパターンを形成した後に残ったレジスト層8は、反応性イオンエッチング、イオンミリングなどのドライエッチングにより除去できる。
ネガパターンを形成した後に残ったレジスト層8の厚みは0〜10nmの範囲内であることが好ましい。レジスト層8の厚みを上記範囲とすることで、磁気記録パターン51aの凹状の分離領域(凹部51c)に対応する領域のマスク層3を除去する工程において、マスク層3のエッジの部分にダレが発生することを防止でき、図2(f)に示す磁性層2の一部を除去する工程におけるマスク層3の遮蔽性を向上させるとともに、磁気記録パターン51aの形成精度を向上させることができる。
また、磁気記録パターン51aの凹状の分離領域(凹部51c)に対応する領域のマスク層3は、例えば、反応性イオンエッチング、イオンミリングなどのドライエッチングにより除去できる。
【0055】
次に、図2(f)に示すように、マスク層3が除去されて露出した磁気記録パターン51aにおける凹状の分離領域(凹部51c)となる領域の磁性層2の表層部を0.1nm〜15nmの範囲内の深さdで、例えばイオンミリングのミリングイオン6などによって除去する。ここで、磁性層2の表層の一部を除去する深さdは、0.1nm〜15nmの範囲内とすることが好ましく、1〜10nmの範囲内とすることがより好ましい。磁性層2の表層を除去する深さdが0.1nmより小さいと、磁性層2を除去する効果が十分に得られない恐れがある。また、磁性層2の表層を除去する深さdが15nmより大きいと、磁気記録媒体50の表面の平滑性が悪化して、磁気記録媒体50を用いた磁気記録再生装置における磁気ヘッドの浮上特性を低下させてしまう恐れがある。
【0056】
本実施形態のように、マスク層3が除去されて露出した磁性層2の磁気特性を改質する工程の前に、磁性層2の表層の一部を除去した場合、磁性層2の表層の一部を除去しないで磁性層2の磁気特性を改質した場合と比較して、磁気記録パターン51aのコントラストがより鮮明になるとともに、磁気記録媒体50のS/Nを向上させることができる。この理由は、磁性層2の表層の一部を除去することにより、マスク層3が除去されて露出した磁性層2の表面の清浄化・活性化が図られて、磁性層2の磁気特性を改質する際における反応性プラズマや反応性イオンと磁性層2との反応性が高められるとともに、磁性層2の表層に空孔等の欠陥が導入されて、磁性層2の磁気特性を改質する際に表層の欠陥を通じて磁性層2に反応性イオンが侵入しやすくなったためと考えられる。
【0057】
次に、図2(f)に示すように、表層部の除去された領域7の磁性層2を反応性プラズマや反応性イオンにさらして、磁性層2の磁気特性を改質する。磁性層2の磁気特性の改質された領域は、磁気記録パターン51aからなる複数の磁気記録トラックをそれぞれ磁気的に分離する領域となる。
ここで、磁気記録パターン51aを形成するための磁性層2の改質とは、磁性層2をパターン化するために、磁性層2の保磁力や残留磁化等の磁気特性を部分的に変化させることを意味する。本実施形態においては、磁性層2を改質することにより、磁性層2の保磁力を低下させるととともに、残留磁化を低下させる。
【0058】
磁性層2の磁気特性を改質する際に用いられる反応性プラズマとしては、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)や反応性イオンプラズマ(RIE;Reactive Ion Plasma)などが例示できる。
誘導結合プラズマは、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化し、そのプラズマ内部に高周波数の変動磁場によって渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマである。誘導結合プラズマは電子密度が高く、従来のイオンビームを用いる場合と比較して、広い面積の磁性膜の磁気特性の改質を高い効率で実現できる。
【0059】
反応性イオンプラズマは、プラズマ中にO2、SF6、CHF3、CF4、CCl4等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマである。反応性イオンプラズマを用いることにより、磁性膜2の磁気特性の改質をより高い効率で実現することができる。
また、磁性層2の磁気特性を改質する反応性イオンとしては、前述の誘導結合プラズマや反応性イオンプラズマ内に存在する反応性のイオンなどが挙げられる。
【0060】
なお、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態においては、磁性層2の表層の一部を改質することにより磁気的に分離された磁性層を形成したが、磁性層を物理的に加工して磁性層に凹部を形成し、凹部内を非磁性材料で埋めた後、磁気記録媒体の表面を平滑化する方法によって磁気的に分離された磁性層を形成してもよい。
【0061】
このようにして磁性層2の一部の磁気特性を改質した後、図2(g)に示すように、磁性層2の上に設けられているレジストパターン4aおよびマスク層3を除去する。レジストパターン4aおよびマスク層3は、ドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチングなどの手法を用いて除去することが好ましい。
【0062】
レジストパターン4aおよびマスク層3を除去した後、図2(h)に示すように、磁性層2にArなどの不活性ガス11を照射して、磁性層2の表層部を1〜2nmの範囲内でエッチング除去することが好ましい。このことにより、磁性層2の一部の磁気特性を改質することによって磁性層2の表面が粗面化されている場合であっても、粗面化された磁性層2の表面を除去することができる。
【0063】
次いで、図2(i)に示すように、磁性層2上に保護膜層9を形成することが好ましい。通常、保護膜層9はスパッタ法もしくはCVD法により形成される。
さらに、保護膜層9の上には潤滑層(図示略)を形成することが好ましい。
【0064】
続いて、磁気転写用マスター担体を用いて、磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aにプリサーボ情報を磁気転写する。プリサーボ情報は、磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aからなる磁気記録トラックの中央に、磁気ヘッドが位置決めできるようにする情報であり、磁気ヘッドにより磁気記録媒体50の表面における磁気ヘッドの絶対位置を検知可能とする情報である。
【0065】
本実施形態においては、図1(b)に示すように、磁気記録媒体50のデータ領域51の磁気記録パターン51aに、プリサーボ情報パターンとして位相差サーボ情報パターン55aを形成することにより、プリサーボ情報として位相差サーボ情報を磁気転写した。なお、図1(b)においては、図面を見やすくするために、データ領域51およびサーボ情報領域52に設けられている磁気記録パターン51aの図示を省略して示している。
位相差サーボ情報は、磁気記録媒体50の半径方向に変化する位相差サーボ情報パターン55aの線状パターンの間隔によって定まる断続的な信号の位相によって、磁気記録パターン51aの磁気記録トラック内における磁気ヘッドの位置を検知する情報である。
なお、本実施形態においては、プリサーボ情報として位相差サーボパターンを形成したが、プリサーボ情報は位相差サーボパターンに限定されるものではなく、磁気記録媒体に形成されているトラック位置への正確な位置合わせが不要であって容易に位置合わせできるサーボパターンであれば、位相差サーボパターン以外のものであってもプリサーボ情報として使用できる。
【0066】
図1(b)に示すように、位相差サーボ情報パターン55aは、磁気記録媒体50のプリサーボ情報領域55の磁気記録パターン51aに形成されている。プリサーボ情報領域55は、データ領域51の円周方向両側に配置されているサーボ情報領域52との境界の一方に接する領域である。プリサーボ情報領域55の数は特に限定されないが、例えば、半径方向に255箇所設けることができる。
位相差サーボ情報パターン55aは、図1(b)に示すように、円周方向および半径方向に対して交差する方向に傾斜されて形成された複数の線状パターンからなる。位相差サーボ情報パターン55aを構成する複数の線状パターンの傾斜方向は、磁気ヘッドのインライン角(磁気ヘッドとピボット(磁気ヘッドの回転中心)を結ぶ線と、ヘッドスライダがなす角)の方向とされており、磁気ヘッドのスキュー角(円周方向に対する磁気ヘッドの傾き角)の方向に対して僅かに傾斜されて形成されている。また、線状パターンの間隔は、磁気記録媒体50の円周方向では均一であるが、磁気記録媒体50の半径方向では異なるものとなっており、中心から外側に向かうにつれて徐々に大きくなっている。
【0067】
本実施形態においては、磁気転写用マスター担体として、磁気記録媒体50に接する側の表面にプリサーボ情報パターンである位相差サーボ情報パターンを備えたものが用いられる。磁気転写用マスター担体には、位相差サーボ情報パターンとして、磁気記録媒体50に設けられる図1(b)に示す位相差サーボ情報パターン55aに対応するパターン形状が刻印されている。
磁気転写用マスター担体の材料としては、位相差サーボ情報パターンのパターン形状を磁気記録媒体50に磁気転写するために必要な硬度および耐久性を有するものであればよく、特に限定されないが、例えば、Si、ガラス、セラミックス、あるいはNiなどを好ましく使用できる。
【0068】
磁気転写用マスター担体の表面に位相差サーボ情報パターンを刻印する方法としては、特に限定されないが、磁気転写用マスター担体となる材料に、薄膜形成技術により、磁気記録媒体50の位相差サーボ情報パターン55aに対応する形状で、FeCo、CoNiといった高透磁率材料からなる軟磁性体やFePtなどのからなる強磁性体を埋め込む方法などを用いることができる。
なお、磁気転写用マスター担体の表面に埋め込まれる軟磁性体や強磁性体は、磁気転写用マスター担体の表面と同じ高さとなるように埋め込んでもよいし、磁気転写用マスター担体の表面に軟磁性体や強磁性体を埋め込んだ後、必要に応じて、磁気記録媒体50に接する側の表面を精密研磨して、磁気転写用マスター担体の表面と、埋め込まれた軟磁性体や強磁性体の高さとが同じ高さとなるようにしてもよい。
【0069】
また、磁気転写用マスター担体の表面に位相差サーボ情報パターンを刻印する方法は、ニッケルなどからなる金属プレートに電子線描画などの方法を用いて形成する方法であってもよい。
また、磁気転写用マスター担体の磁気記録媒体50に接する側の表面には、潤滑材を塗布してなる潤滑層が設けられていてもよい。
【0070】
本実施形態においては、磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aに磁気転写されるプリサーボ情報として位相差サーボ情報を用いているため、磁気転写用マスター担体の表面に形成されるプリサーボ情報パターンとして、図1(b)に示す位相差サーボ情報パターン55aに対応する位相差サーボ情報パターンが形成されている。
磁気記録パターン51aに磁気転写される位相差サーボ情報パターン55aは、円周方向および半径方向と交差する方向に傾斜されて形成された複数の線状パターンからなる単純な形状を有するものである。また、磁気記録パターン51aは、磁気記録媒体50の回転中心に対して単純な同心円状である円環状のものである。このため、本実施形態においては、磁気転写用マスター担体の中心と磁気記録媒体50の中心とを一致させるだけで、磁気転写用マスター担体と磁気記録媒体50との位置合わせ行うことができ、磁気記録媒体50の円周方向における位置合わせを行う必要はない。したがって、磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aにプリサーボ情報(位相差サーボ情報)を磁気転写する際に、磁気記録パターン51aと磁気転写用マスター担体の表面に形成された位相差サーボ情報パターンとの位置合わせを行う必要はない。よって、プリサーボ情報として位相差サーボ情報を用いた場合、磁気転写用マスター担体を用いて磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aに、容易にプリサーボ情報を磁気転写することができる。
【0071】
本実施形態において、磁気転写用マスター担体を用いて、磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aに位相差サーボ情報を磁気転写するには、まず、磁気記録媒体50に対する磁気転写用マスター担体の位置を位置合わせして、磁気記録媒体50の表面と磁気転写用マスター担体とを接触させる。そして、磁気転写用マスター担体の裏面側から磁気記録媒体50と磁気転写用マスター担体との当接面に垂直な方向に直流磁界を印加する。このことにより、磁気記録媒体50のプリサーボ情報領域55の磁気記録パターン51aに位相差サーボ情報パターン55aが形成され、磁気転写用マスター担体から磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aに位相差サーボ情報が磁気転写される。
なお、本実施形態において用いられる磁気転写用マスター担体は、磁性を有している必要はない。磁気転写用マスター担体が、透磁性を有する材料である場合には、磁気転写用マスター担体を磁気記録媒体50の表面に接触させた状態で、磁気転写用マスター担体の裏面側から磁界を印加することにより、磁気転写用マスター担体に形成されている位相差サーボ情報パターンを磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aに転写できる。
【0072】
次に、磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aに磁気転写されたプリサーボ情報(位相差サーボ情報)を磁気ヘッドに読み込ませながら、同時に、磁気ヘッドにより読み込んだプリサーボ情報と同一の磁気記録トラックのサーボ情報領域52の磁気記録パターン51aに磁気的に、バースト情報、アドレス情報、プリアンブル情報から選ばれる少なくとも1つを含むサーボ情報を書き込ませる。すなわち、磁気ヘッドにプリサーボ情報を読み込ませることで、プリサーボ情報に基づいて磁気ヘッドに磁気記録媒体50の表面における自らの絶対位置を検知させ、磁気記録パターン51aからなる磁気記録トラックの中央に磁気ヘッドを位置決めさせるとともに、磁気記録媒体50の表面のサーボ情報領域52にサーボ情報を書き込ませる。
なお、磁気記録パターン51aにサーボ情報を書き込む際には、磁気ヘッドを備える周知のサーボライターを用いることができる。
【0073】
本実施形態においては、磁気記録パターン51aにサーボ情報を書き込んだ後、磁気記録媒体50のプリサーボ情報領域55に刻印された位相差サーボ情報パターン55aを消去して、磁気記録パターン51aからプリサーボ情報(位相差サーボ情報)を消去することが好ましい。このことにより、プリサーボ情報領域55の磁気記録パターン51aをデータ領域51として使用することができるものとなる。
プリサーボ情報は、磁気記録パターン51aにサーボ情報を書き込む際に用いられるものであり、磁気記録パターン51aにサーボ情報を書き込んだ後は不要である。このため、上述したように、磁気記録パターン51aにサーボ情報を書き込んだ後、磁気記録パターンに磁気転写されたプリサーボ情報を消去して、磁気記録媒体50上のデータ領域51として使用可能な面積を広くすることが好ましいが、製造工程を簡略化するためにプリサーボ情報を消去しなくてもよい。
このようにして、図1〜図3に示すディスクリート型磁気記録媒体40が製造される。
【0074】
なお、上述した実施形態においては、磁気転写用マスター担体として、プリサーボ情報パターンが刻印されたものを用いる場合を例に挙げて説明したが、磁気転写用マスター担体として、プリアンブルパターン、アドレスパターン、バーストパターンが刻印されたものを用いてもよい。この場合、磁気ヘッドによりサーボ情報領域52の磁気記録パターン51aに磁気的にサーボ情報を書き込ませる必要は無く、製造工程を簡略化することができる。
しかしながら、磁気転写用マスター担体として、プリアンブルパターン、アドレスパターン、バーストパターンが刻印されたものを用いた場合、磁気転写するためには、磁気転写用マスター担体に刻印されているパターンと、狭い間隔で同心円状に形成された円環状の磁気記録パターン51aとの位置を一致させる位置合わせを行う必要がある。このため、磁気転写用マスター担体として、プリアンブルパターン、アドレスパターン、バーストパターンが刻印されたものを用いた場合、磁気転写用マスター担体として、プリサーボ情報パターンが刻印されたものを用いる場合と比較して、磁気転写するための位置合わせが技術的に難しいものとなり、磁気記録媒体50に対する磁気転写用マスター担体の位置合わせの精度が不十分となる恐れがある。
【0075】
本実施形態の磁気記録媒体50は、非磁性基板1上に磁気的に分離された磁性層2からなる環状の磁気記録パターン51aが備えられ、磁気記録パターン51aにサーボ情報が磁気的に書き込まれているので、磁性層2の形状を環状のパターン形状のみからなる単純なものとすることが可能となる。
したがって、本実施形態の磁気記録媒体50においては、サーボ情報領域にサーボ情報として磁性層からなるパターンを形成する必要がない。よって、磁性層2からなるパターン形状を形成する際に用いられるレジストパターン4aを形成するためのパターニング条件を最適化して、高精度のレジストパターン4aを形成することができる。その結果、非磁性基板1上に形成される磁性層2からなるパターン形状の全てを、高精度のレジストパターンを用いて十分に高い精度で歩留まりよく形成できる。
【0076】
また、本実施形態の磁気記録媒体50では、磁気記録パターン51aにサーボ情報が磁気的に書き込まれているので、サーボ情報として磁性層からなるパターンが形成されている場合のように、磁性層からなるパターン形状の精度によってサーボ情報の品質が変化することはなく、高精度で信頼性に優れたサーボ情報が書き込まれたものなる。
【0077】
また、本実施形態の磁気記録媒体50の製造方法は、非磁性基板1上に設けられた磁性層2上にレジストパターン4aを形成し、レジストパターン4aを用いて、磁気的に分離された磁性層2からなる環状の磁気記録パターン51aを形成する工程と、磁気ヘッドを用いてサーボ情報を磁気記録パターン51aに磁気的に書き込むサーボ情報書込み工程とを含む方法であるので、サーボ情報領域にサーボ情報として磁性層からなるパターンを形成する必要がなく、最適なパターニング条件でレジストパターン4aを形成することができ、高精度のレジストパターン4aを形成することができる。
したがって、本実施形態の磁気記録媒体50の製造方法によれば、高精度のレジストパターン4aを用いて、高精度の磁気記録パターン51aを形成することができ、歩留まりよく製造できる。
【0078】
また、本実施形態の磁気記録媒体50の製造方法では、サーボ情報を磁気記録パターン51aに磁気的に書き込む前に、表面にプリサーボ情報パターンを備えた磁気転写用マスター担体を用いて、磁気記録パターン51aにプリサーボ情報を磁気転写する工程を行い、サーボ情報を磁気記録パターン51aに磁気的に書き込む工程において、磁気ヘッドに磁気記録パターン51aに磁気転写されたプリサーボ情報を読み込ませながら、磁気ヘッドにより磁気記録パターン51aにサーボ情報を書き込ませるので、磁気記録パターン51aにプリサーボ情報が磁気転写されていない場合と比較して、容易に高速で精度よく磁気記録パターン51aにサーボ情報の書き込みを行うことができる。
【0079】
また、本実施形態の磁気記録媒体50の製造方法では、プリサーボ情報が、位相差サーボ情報であるので、円周方向および半径方向と交差する方向に傾斜されて形成された複数の線状パターンからなる単純な形状を有する位相差サーボ情報パターンを備えた磁気転写用マスター担体を用いて、磁気記録パターン51aに位相差サーボ情報を磁気転写することにより、磁気記録パターンにプリサーボ情報を磁気転写することができる。
このため、磁気転写用マスター担体の中心と磁気記録媒体50の中心とを一致させるだけで、磁気転写用マスター担体と磁気記録媒体50との位置合わせ行うことができ、磁気転写用マスター担体を用いて磁気記録媒体50の磁気記録パターン51aに、容易にプリサーボ情報を磁気転写することができる。
【0080】
<磁気記録再生装置>
次に、本発明の磁気記録再生装置について例を挙げて説明する。
図3は、本発明の磁気記録再生装置の一例であるハードディスクドライブを示した概略斜視図である。図3に示すハードディスクドライブは、図1に示すディスクリート型の磁気記録媒体50と、磁気記録媒体50を記録方向に駆動する媒体駆動部34と、記録部と再生部とを備える磁気ヘッド27と、磁気ヘッド27を磁気記録媒体50に対して相対運動させるヘッド駆動部28と、磁気ヘッド27への信号入力と磁気ヘッド27からの出力信号再生を行うための記録再生信号系29(記録再生信号処理手段)とを具備するものである。
【0081】
本実施形態のハードディスクドライブは、図1に示すディスクリート型の磁気記録媒体50を備えたものであるので、磁気ヘッド27によって信頼性に優れたサーボ情報が得られるものとなるとともに、歩留まりよく製造できるものとなる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
(実施例)
まず、真空チャンバ内に、円盤状のハードディスク(HD)用のガラス基板を設置して、1.0×10―5Pa以下に真空排気した。なお、ガラス基板としては、Li2Si25、Al23−K2O、Al23−K2O、MgO−P25、Sb23−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスからなり、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)2オングストロームのものを用いた。
【0083】
該ガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、FeCoB軟磁性膜からなる裏打ち層と、Ruからなる中間層と、70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金からなる磁性膜とをこの順で積層してなる磁性層を形成した。続いて、スパッタ法を用いて、磁性層上にTaからなるマスク層を積層し、マスク層の上にスピンコート法によりレジストを塗布し、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂からなるレジスト層を形成した。
それぞれの層の膜厚は、裏打ち層60nm、中間層10nm、磁性膜15nm、マスク層60nm、レジスト層100nmとした。
【0084】
次いで、磁気記録媒体の磁気記録パターンに対応するパターンの形成された紫外線透過率95%以上のガラスからなるスタンプを、レジスト層に1MPa(約8.8kgf/cm2)の圧力で押圧することによりパターンを転写した。続いて、波長250nmの紫外線をスタンプの上部から10秒間照射して、レジスト層を硬化させた。その後、レジスト層からスタンプを分離した。
このようにして転写された磁気記録パターンに対応するレジスト層のネガパターンは、凸部の幅が120nm、凹部の幅が60nmの円環状であった。
【0085】
次に、ネガパターンを形成した後に凹部に残っていたレジスト層をドライエッチングにより除去した。ドライエッチング条件は、O2ガスを40sccm、圧力0.3Paで高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時間10秒とした。
その後、レジスト層を除去して露出した磁気記録パターンの凹状の分離領域に対応する領域のマスク層をドライエッチングにより除去した。ドライエッチング条件は、CF4ガスを50sccm、圧力0.6Pa、高周波プラズマ電力500W、DCバイアス60W、エッチング時間30秒とした。このことにより、磁性層上の凸部となる領域に残存するマスク層と、パターニングされたレジスト層であるレジストパターンとからなるマスクを形成した。
【0086】
その後、マスク層が除去されて露出した磁性層の表層部をイオンミリングにより除去した。イオンミリングにはArイオンを用いた。イオンミリングにおけるイオンの量は5×1016原子/cm2、加速電圧は20keVとした。また、イオンミリングにより除去された磁性層の表層の深さは0.1nmであった。
【0087】
次に、表層部の除去された領域の磁性層を反応性プラズマにさらして磁性層の磁気特性を改質した。ここでの反応性プラズマ処理には、アルバック社の誘導結合プラズマ装置NE550を用いた。また、プラズマの発生に用いるガスおよび条件としては、O2を90cc/分を用い、プラズマ発生のための投入電力は200W、装置内の圧力は0.5Paとし、磁性層を300秒間処理した。
【0088】
磁性層の磁気特性を改質した後、磁性層の上に設けられているレジストパターンおよびマスク層をドライエッチングにより除去し、磁気記録パターンを露出させた。
その後、磁気記録パターンの露出された表面上に、CVD法によりカーボンからなる厚み5nmの保護膜層を形成した。続いて、保護膜層の上に、潤滑材を塗布して潤滑層を形成した。
【0089】
続いて、磁気転写用マスター担体を用いて、磁気記録媒体の半径方向に255箇所設けられた各プリサーボ情報領域の磁気記録パターンに、位相差サーボ情報パターンを形成することにより、プリサーボ情報である位相差サーボ情報を磁気転写した。位相差サーボ情報パターンは、磁気ヘッドのスキュー角(円周方向に対する磁気ヘッドの傾き角)の方向に対して僅かに傾斜されて形成された線状パターンからなるものであり、線状パターンの幅が約2μmであるものとした。
【0090】
磁気転写用マスター担体としては、以下に示す方法により形成されたものを用いた。すなわち、Siからなる非磁性体基板の一方の主面上に、フォトリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて、深さ0.2μmの凹部からなる位相差サーボ情報パターンを形成した後、位相差サーボ情報パターンの形成されている表面に、スパッタリング法でFePtからなる強磁性層を成膜し、表面をエッチングして平坦化することにより形成した。
【0091】
そして、磁気転写用マスター担体の中心と磁気記録媒体の中心とを一致させることにより、磁気記録媒体に対する磁気転写用マスター担体の位置を位置合わせし、磁気転写用マスター担体を磁気記録媒体の表面に接触させて磁界印加装置により、磁気転写用マスター担体の裏面側から磁気記録媒体と磁気転写用マスター担体との当接面に垂直な方向に直流磁界を印加した。このことにより、磁気記録媒体のプリサーボ情報領域の磁気記録パターンに位相差サーボ情報パターンが形成され、磁気転写用マスター担体から磁気記録媒体の磁気記録パターンにプリサーボ情報として位相差サーボ情報が磁気転写された。
【0092】
その後、位相差サーボ情報の磁気転写された磁気記録媒体をサーボライターに設置し、サーボライターの磁気ヘッドに位相差サーボ情報を読み込ませながら、同時に、磁気ヘッドにより読み込んだ位相差サーボ情報と同一の磁気記録トラックのサーボ情報領域の磁気記録パターンに磁気的に、サーボ情報としてプリアンブル情報(幅約0.5μm)、アドレス情報(幅約1μm)、バースト情報(幅約0.5μm)をこの順で書き込んだ。その後、位相差サーボ情報を磁気的に消去し、位相差サーボ情報の書き込まれていた領域であるプリサーボ情報領域を、データ領域とした。
【0093】
以上の方法で製造した磁気記録媒体について、保磁力量、電磁変換特性(SNRおよび3T−squash)、ヘッド浮上高さ(グライドアバランチ)を測定した。
電磁変換特性の評価はスピンスタンドを用いて実施した。なお、評価用の磁気ヘッドには、記録用として垂直記録ヘッド、読み込み用としてTuMRヘッド(Tunneling Magneto Resistive head)を用い、750kFCIの信号を記録したときのSNR値および3T−squashを測定した。ここで、3T−squash(3トラックスカッシュ)とは、センタートラックに信号を記録した後、センターの両隣に信号を記録し、両隣に信号を記録する前と後とにおけるセンタートラックの信号強度(割合(%))である。
【0094】
その結果、上記の方法により製造された磁気記録媒体は、SNRが13.5dB、3T−squashが85%であり、電磁変換特性に優れていた。
また、保磁力量は3800(Oe)であり、ヘッド浮上高さは6nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、高い製造歩留まりで磁気記録パターンを有する磁気記録媒体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、本発明の磁気記録媒体の一例を説明するための平面図であり、図1(a)は磁気記録媒体の一部の領域のみを拡大して示した拡大模式図である。また、図1(b)は図1(a)に示す磁気記録媒体の製造工程の一部を説明するための工程図であり、図1(a)に示された領域と同じ領域のみを拡大して示した拡大平面図である。
【図2】図2(i)は、図1に示す磁気記録媒体の断面構造を説明するための断面図であり、磁気記録媒体の一部を半径方向から見た拡大模式図である。また、図2(a)〜図2(h)は、図1に示す磁気記録媒体の製造工程の一部を説明するための工程図であり、図2(i)に示された領域と同じ領域のみを拡大して示した拡大断面図である。
【図3】図3は、本発明の磁気記録再生装置の一例であるハードディスクドライブを示した概略斜視図である。
【図4】図4は、従来のディスクリート型の磁気記録媒体の一例を説明するための平面図であり、図4(a)はディスクリート型の磁気記録媒体の全体を示した模式図であり、図4(b)は図4(a)において矩形で示したディスクリート型の磁気記録媒体の一部の領域のみを拡大して示した拡大模式図である。
【符号の説明】
【0097】
1…非磁性基板、2…磁性層、3…マスク層、4…レジスト層、4a…レジストパターン、5…スタンプ、6…ミリングイオン、8…レジスト層、9…保護膜層、11…不活性ガス、27…磁気ヘッド、28…ヘッド駆動部、29…記録再生信号系、34…媒体駆動部、40、50…磁気記録媒体、41、51…データ領域、41a…データ記録パターン、42、52…サーボ情報領域、43…バースト情報領域、43a…バーストパターン、44…アドレス情報領域、44a…アドレスパターン、45…プリアンブル情報領域、45a…プリアンブルパターン、51a…磁気記録パターン、51b…凸部、51c…凹部、55…プリサーボ情報領域、55a…位相差サーボ情報パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に磁気的に分離された磁性層からなる環状の磁気記録パターンが備えられ、
前記磁気記録パターンにサーボ情報が磁気的に書き込まれていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記サーボ情報が、バースト情報、アドレス情報、プリアンブル情報から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
非磁性基板上に設けられた磁性層上にレジストパターンを形成し、前記レジストパターンを用いて、磁気的に分離された前記磁性層からなる環状の磁気記録パターンを形成する工程と、
磁気ヘッドを用いてサーボ情報を前記磁気記録パターンに磁気的に書き込むサーボ情報書込み工程とを含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記サーボ情報書込み工程の前に、表面にプリサーボ情報パターンを備えた磁気転写用マスター担体を用いて、前記磁気記録パターンにプリサーボ情報を磁気転写する工程を行い、
前記サーボ情報書込み工程において、前記磁気ヘッドに前記磁気記録パターンに磁気転写された前記プリサーボ情報を読み込ませながら、前記磁気ヘッドにより前記磁気記録パターンに前記サーボ情報を書き込ませることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記プリサーボ情報が、位相差サーボ情報であることを特徴とする請求項3または4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドとを備えた磁気記録再生装置であって、
前記磁気記録媒体が請求項1または2に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−123158(P2010−123158A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293311(P2008−293311)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】