説明

磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法

【課題】より好ましいデータの読み取りおよび書き込みを行うことが可能な磁気記録媒体、および、そのような磁気記録媒体の製造方法を提供することを課題としている。
【解決手段】本発明により提供される磁気記録媒体Aの製造方法は、基板11上に磁性膜を形成する工程と、上記磁性膜を覆うように保護層14を形成する工程と、上記磁性膜の一部を露出させるように保護層14に貫通部を形成する工程と、上記磁性膜のうち貫通部から露出する部分を除去し、保護層14の残部が積層した状態で互いに離間する複数の記録部13aを形成する工程と、保護層14の残部を覆うとともに、複数の記録部13aの間を充填するように非磁性層を形成する工程と、保護層14の残部が露出するように非磁性層に化学機械研磨を施して非磁性部13bを形成する工程と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクなどの記憶装置を構成するための記録媒体として磁気記録媒体が知られている。コンピュータシステムにおける情報処理量の増大に伴い、磁気記録媒体の高密度化の要求が高まっている。高記録密度化を図るのに好ましい磁気記録媒体としては、たとえば記録部がパターン化されたディスクリートトラックメディア(DTM)が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図13には、DTMである従来の磁気記録媒体を断面図で示している。図13に示す磁気記録媒体Xは、基板91と、基板91上に積層された軟磁性層92と、軟磁性層92上に積層された複数の記録部93および非磁性部94と、複数の記録部93および非磁性部94上に積層された保護層95と、保護層95上に積層された潤滑層96とを備えている。複数の記録部93は、軟磁性層92上に一様に形成された磁性膜にイオンビームエッチングを施して上記磁性膜の一部を除去することにより互いに離間するように形成されている。磁気記録媒体Xでは、磁気ヘッドが引っかかるのを防ぐために、上記磁性膜が除去された部分を埋めるよう非磁性部94が形成されている。複数の記録部93および非磁性部94の表面は平坦に形成されており、その上に積層される保護層95および潤滑層96も平坦に形成されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−92659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁気記録媒体Xは、その表面が過度に平坦となるため、その表面に磁気ヘッドを吸着してしまうことがあった。このため、磁気記録媒体Xは、表面に磁気ヘッドがぶつかることがあり、データの読み取りおよび書き込みを好ましく行うことができないことがあった。
【0006】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、より好ましいデータの読み取りおよび書き込みを行うことが可能な磁気記録媒体、および、そのような磁気記録媒体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面により提供される磁気記録媒体の製造方法は、基板上に磁性膜を形成する工程と、上記磁性膜を覆うように保護層を形成する工程と、上記磁性膜の一部を露出させるように上記保護層に貫通部を形成する工程と、上記磁性膜のうち上記貫通部から露出する部分を除去し、上記保護層の残部が積層した状態で互いに離間する複数の記録部を形成する工程と、上記保護層の残部を覆うとともに、上記複数の記録部の間を充填するように非磁性層を形成する工程と、上記保護層の残部が露出するように上記非磁性層に化学機械研磨を施して非磁性部を形成する工程と、を含むことを要件としている。
【0008】
好ましくは、上記保護層は、上記非磁性層よりも硬い材質からなる。
【0009】
好ましくは、上記保護層に上記貫通部を形成する工程において、所定のパターニングが施されたレジスト層を用いて酸素エッチングを行う。
【0010】
好ましくは、上記複数の記録部を形成する工程において、上記保護層の残部をマスクとしてイオンビームエッチングを行う。
【0011】
本発明の第2の側面により提供される磁気記録媒体は、基板上に形成された互いに離間する複数の記録部と、上記複数の記録部の間に充填された非磁性部と、上記複数の記録部の表面を覆う保護層と、を備えており、上記非磁性部の表面が上記保護層の表面に対して凹むように形成されていることを要件としている。
【0012】
好ましくは、上記保護層は、上記非磁性部よりも硬い材質からなる。
【0013】
このような製造方法によると、上記非磁性層と上記保護層とで化学機械研磨による磨耗の度合いが異なるため、研磨後の上記非磁性部の表面と上記保護層の残部の表面との間に高低差を生じさせることが可能となる。このようにすると、磁気記録媒体の表面に、磁気ヘッドが引っかからない程度の微小な凹凸を形成することができ、磁気ヘッドが表面に吸着するのを防ぐことができる。したがって、上記の製造方法による磁気記録媒体は、磁気ヘッドが表面にぶつかることがなく、好ましいデータの読み書きを行うことができる。
【0014】
本発明のその他の利点および特徴については、以下に行う発明の実施形態の説明から、より明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0016】
図1および図2には、本発明に係る磁気記録媒体の一実施形態を示している。図1は、ディスク状の磁気記録媒体Aの平面図であり、図2は、図1の磁気記録媒体Aのディスク径方向に沿った部分拡大断面図である。
【0017】
磁気記録媒体Aは、基板11、軟磁性層12、記録層13、保護層14、および、潤滑層15を含む積層構造を有し、ディスクリートトラックメディア(DTM)として構成されたものである。
【0018】
基板11は、主に、磁気記録媒体Aの剛性を確保するための部位であり、例えば、アルミニウム合金、ガラス、または樹脂よりなる。
【0019】
軟磁性層12は、記録時等に稼働する磁気ヘッド(図示略)からの磁束を再び当該磁気ヘッドに還流させる磁路を磁気記録媒体A内に効率よく形成するためのものであり、高透磁率を有して大きな飽和磁化を有するとともに小さな保磁力を有する軟磁性材料よりなる。軟磁性層12を構成するための軟磁性材料としては、例えば、FeC、FeNi、FeCoB、FeCoSiC、およびFeCo−AlOなどのFeを主成分とした材料や、CoZrNb、CoZrTaなどのCoを主成分とした材料が挙げられる。この軟磁性層12の厚さは例えば25〜200nmである。
【0020】
記録層13は、図2に示すように、軟磁性層12上に5〜35nmの厚みで積層されており、複数の記録部13aおよび非磁性部13bを有する。記録部13aは、図1にて一部を模式的に太線で示すように、磁気記録媒体Aの回転軸心を共通中心として同心円状に配置され、たとえば、垂直磁気異方性を有し、情報トラックを構成する。記録部13aは、所定の磁性材料よりなる。記録部13aの構成材料としては、例えば、CoCrPt−SiO2、FePt、CoPd、SmCo、TbFeCoなどの垂直磁気異方性を有する材料や、CoCrPt、CoCrPtBなどの面内磁気異方性を有する材料を採用することができる。記録部13aの上には保護層14が形成されている。
【0021】
非磁性部13bは、記録層13において記録部13aが形成されていない領域に形成された磁性を有しない部位である。この非磁性部13bの構成材料としては、例えばSiO2が用いられる。図2に示すように、非磁性部13bの表面には保護層14の表面に対して凹むように凹面16が形成されている。
【0022】
保護層14は、厚さ1〜5nmであり、複数の記録部13aを覆うように形成されている。保護層14の材料としては、たとえばダイヤモンドライクカーボンが用いられる。
【0023】
潤滑層15は、厚さ1〜2nmであり、保護層14および非磁性部13bを覆うように形成されている。潤滑層15の材料としては、パーフロロポリエーテルやフォンブリン系潤滑剤などを用いることができる。図2に示すように、この潤滑層15の表面は、下地となる非磁性部13bに形成された凹面16に対応する凹部が形成されている。
【0024】
このような磁気記録媒体Aの情報記録時には、潤滑層15に対して記録用の磁気ヘッド(図示略)が浮上配置され、当該磁気ヘッドによる記録磁界の印加によって、一の記録部13aにて、磁化方向が適宜反転する複数の記録マークがディスク周方向に連なって形成される。このとき、情報記録進行中であって磁界が印加される記録部13aと、これの隣りの記録部13aとが、非磁性部13bにより分断されているため、当該隣りの記録部13aの記録マークが消失ないし劣化するというクロスライト現象が抑制される。クロスライト現象が抑制される磁気記録媒体は、トラックの狭ピッチ化ないし高記録密度化を図るうえで好ましい。
【0025】
図3は、磁気記録媒体Aの製造工程の概要を示すフローチャート図を示しており、図4〜図12には図3に示すフローチャートに従う磁気記録媒体Aの製造方法を表している。
【0026】
本方法においては、まず、図4に示すように、基板11に軟磁性層12および磁性膜23を順次形成する(図3;S01)。軟磁性層12の形成は、例えばスパッタリング法により、基板11上に上述の軟磁性材料を成膜することによって行うことができる。磁性膜23は、例えば、全体にわたって垂直磁気異方性を有する垂直磁化膜である。磁性膜23の形成においては、例えばスパッタリング法により、記録部13aに関して上述した磁性材料を軟磁性層12上に成膜する。なお、本製造工程において、基板11およびその上に積層された層構造からなる磁気記録媒体Aの素体を被加工体20と呼ぶ。
【0027】
本方法においては、次に、図5に示すように、磁性膜23上に保護層24を形成する(図3;S02)。保護層24の形成においては、例えばスパッタリング法により、ダイヤモンドライクカーボンを磁性膜23上に成膜する。
【0028】
本方法においては、次に、図6に示すように、保護層24上にレジスト層25を形成する(図3;S03)。レジスト層25の形成は、例えばスピンコート法によって行うことができる。このレジスト層25は、厚さが30〜300nmである。
【0029】
本方法においては、次に、図7に示すように、レジスト層25をパターニングする(図3;S04)。レジスト層25のパターニングは、例えばナノ・インプリント法により行うことができる。このパターニングにより、レジスト層25には、非磁性部13bに対応する凹部25bが形成される。
【0030】
本方法においては、次に、図8に示すように、保護層24を加工する(図3;S05)。保護層24の加工は、О2ガスを反応ガスとする反応性イオンビームエッチング(酸素エッチング)により行われる。この工程では、まず、レジスト層25の凹部25bの底部が除去され、レジスト層25に貫通部が形成される。さらに、この貫通部から露出する保護層24が除去され、保護層24に貫通部24aが形成される。この酸素エッチングによる保護層24の残部は、完成した磁気記録媒体Aにおける保護層14となる。
【0031】
本方法においては、次に、図9に示すように、複数の記録部13aを形成する(図3;S06)。複数の記録部13aの形成は、レジスト層25の残部および保護層24の残部(保護層14)をマスクとして磁性膜23にアルゴンイオンビームエッチングを施すことによって行われる。この工程では、貫通部24aから露出する磁性膜23をその下にある軟磁性層12が露出するまで除去する。このエッチングによる磁性膜23の残部が完成した磁気記録媒体Aにおける複数の記録部13aとなる。さらに、この工程の後に、図10に示すように、有機溶剤を用いてレジスト層25の残部を除去する。
【0032】
本方法においては、次に、図11に示すように、非磁性層26を形成する(図3;S07)。非磁性層26の形成は、例えばCVD法によりSiO2を被加工体20の表面に堆積させることによって行うことができる。この非磁性層26は、記録部13aの間に充填され、さらに、保護層14を覆うように形成される。
【0033】
本方法においては、次に、図12に示すように、非磁性層26に化学機械研磨(CMP)を施す。この工程におけるCMPによる非磁性層26の残部が非磁性部13bとなる。この工程では、保護層14が露出するまで非磁性層26の研磨を行う。さらに、保護層14が形成されていない部分に研磨を加え、凹面16を形成する。この凹面16の深さは研磨に加減を加えることで自在に設定可能である。このようなCMP作業は、保護層14は非磁性層26よりも硬度に優れたダイヤモンドライクカーボンからなるため、好ましく行うことができる。
【0034】
以上の工程の後に、被加工体20の表面を潤滑層15で覆うことにより、図2に示した磁気記録媒体Aを製造することができる。
【0035】
上記の製造方法によると、磁気記録媒体Aの表面には非磁性層26に形成した凹面16に応じた凹部が形成される。このため、磁気記録媒体Aの表面は過度に平坦となることがないため、上述した磁気ヘッドが記録時に磁気記録媒体Aの表面に吸着されることがない。さらに、凹面16の深さは自在に設定可能であるため、磁気記録媒体Aの表面の凹部の深さを調整し、上記磁気ヘッドが上記凹部に引っかからないようにすることも可能である。したがって、上記した製造方法によると、表面に磁気ヘッドがぶつかることがなく、データの読み取りおよび書き込みを好ましく行うことができる磁気記録媒体Aを提供することができる。
【0036】
さらに、上記の製造方法によると、複数の記録部13aは、エッチングおよびCMPを行う際に保護層14によって保護されている。このため、磁気記録媒体Aでは、その製造過程および完成後において複数の記録部13aが劣化しにくくなっている。したがって、磁気記録媒体Aでは、複数の記録部13aにデータの読み取りおよび書き込みをより好ましく行うことができる。
【0037】
本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は本発明の範囲に含まれる。たとえば、上記実施形態においては、非磁性部13bには球面状の凹面16が形成されているが、その他の形状であってもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の一例を示す平面図である。
【図2】図1の磁気記録媒体の部分拡大断面図である。
【図3】図1に示す磁気記録媒体の製造方法の一例を示すフローチャート図である。
【図4】記録層を形成する工程を示す断面図である。
【図5】保護層を形成する工程を示す断面図である。
【図6】レジスト層を形成する工程を示す断面図である。
【図7】レジスト層をパターニングする工程を示す断面図である。
【図8】保護層を加工する工程を示す断面図である。
【図9】記録部を形成する工程を示す断面図である。
【図10】レジスト層を除去する工程を示す断面図である。
【図11】非磁性層を形成する工程を示す断面図である。
【図12】非磁性層をCMPにより研磨するする工程を示す断面図である。
【図13】従来の磁気記録媒体の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0039】
A 磁気記録媒体
11 基板
12 軟磁性層
13 記録層
13a 記録部
13b 非磁性部
14 保護層
15 潤滑層
16 凹面
20 非加工体
23 磁性膜
24 保護層
25 レジスト層
26 非磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁性膜を形成する工程と、
上記磁性膜を覆うように保護層を形成する工程と、
上記磁性膜の一部を露出させるように上記保護層に貫通部を形成する工程と、
上記磁性膜のうち上記貫通部から露出する部分を除去し、上記保護層の残部が積層した状態で互いに離間する複数の記録部を形成する工程と、
上記保護層の残部を覆うとともに、上記複数の記録部の間を充填するように非磁性層を形成する工程と、
上記保護層の残部が露出するように上記非磁性層に化学機械研磨を施す工程と、
を含むことを特徴とする、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
上記保護層は、上記非磁性層よりも硬い材質からなる、請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
上記保護層に上記貫通部を形成する工程において、所定のパターニングが施されたレジスト層を用いて酸素エッチングを行う、請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
上記複数の記録部を形成する工程において、上記保護層の残部をマスクとしてイオンビームエッチングを行う、請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
基板上に形成された互いに離間する複数の記録部と、
上記複数の記録部の間に充填された非磁性部と、
上記複数の記録部の表面を覆う保護層と、
を備えており、
上記非磁性部の表面が上記保護層の表面に対して凹むように形成されていることを特徴とする、磁気記録媒体。
【請求項6】
上記保護層は、上記非磁性部よりも硬い材質からなる、請求項5に記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−193650(P2009−193650A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35947(P2008−35947)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】