説明

磁気記録媒体および磁気記録装置

【目的】面内磁気記録特性が優れ、高密度記録が可能な磁気記録媒体およびこのような媒体を再現性良く製造する方法ならびにこのような媒体を用いた大容量で高い信頼性を有する磁気記録装置を提供する。
【構成】磁性膜をコバルト基合金で、下地膜をCr,Mo,W,V,Nb,Taからなる第1の群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む非磁性金属で構成しかつ下地膜を(110)面配向結晶粒および(100)面配向結晶粒を有するように形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は磁気記録媒体および磁気記録装置に係り,特に高密度磁気記録に好適な薄膜型記録媒体およびこれを用いた磁気記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年における電子計算機の小型化・高速化に伴い,磁気ディスク装置その他の外部記憶装置の大容量化・高速アクセス化が強く求められるようになった。特に磁気ディスク記録装置は,高密度高速記録に適した記憶装置であり,その需要が一段と強まりつつある。磁気ディスク装置に用いられる磁気記録媒体としては,酸化物磁性体の粉末をディスク基板上に塗布した塗布型の記録媒体と,金属磁性体の薄膜を基板上に蒸着した薄膜型の記録媒体とが知られている。この薄膜型記録媒体は,塗布型記録媒体に比較して記録膜中の磁性体の密度が高いため,より高密度の記録に適している。
【0003】薄膜型記録媒体の磁性体材料としては,主に結晶磁気異方性の大きいCo基合金が用いられる。Co基合金は六方最密充填型(hexagonalclose−packed:以後hcpと略記する)の結晶構造を有し,磁化容易方向がhcp構造のc軸と平行であり,この方向に高い保磁力Hcおよび残留磁化Br,角形比Sを有する。現在の磁気ディスク装置においては磁化方向はディスク面と略平行であるため,媒体形成にあたってはCo基合金のc軸がディスク面と略平行な成分を多く持つように結晶成長させる必要がある。この目的のため多くの場合に,磁性膜の下地膜として体心立方構造(body−centered cubic:以後bccと略記する)を有するCrあるいはCr合金膜が用いられている。これらの下地膜の結晶配向性は磁性膜の結晶配向性に大きな影響を及ぼすことが知られている。例えば特開昭63−197018号においてはCr下地膜にTiあるいはSiを添加すると,Crの結晶配向性がディスク面内で等方的となり,モジュレーションが減少する効果があることが示されている。また特開昭62−257618号においてはCrにVあるいはFeを添加すると格子定数が増加し,Crの(100)面とCo基合金の(110)面との整合性が向上し,保磁力や角形比が向上することが示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように従来より様々な種類の下地膜を用いた薄膜型記録媒体が提案されているが,これらは主に保磁力,角形比などの静磁気特性を向上させたものであり,記録時のノイズ,再生出力,分解能など動的な磁気特性に関する検討は詳細になされていない。さらに従来の薄膜型記録媒体では記録再生時の分解能,S/Nは未だ不十分であり,磁気ディスク装置の性能を現在より向上するため,より優れた特性を有する媒体を開発することが強く求められていた。また,再生感度に優れる録再分離型のMRヘッドを用いて高S/Nの記録再生を行なう場合には,媒体からのノイズを従来よりも大幅に低減することが求められていた。
【0005】以上の課題,状況に鑑み,本発明の第1の目的は媒体の面内磁気記録特性が優れ,高密度記録が可能な磁気記録媒体を提供することであり,第2の目的はこのような媒体を再現性良く製造する方法を提供することであり,第3の目的は,このような媒体を用いた大容量で高い信頼性を有する磁気記録装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは下地膜の結晶配向性と記録再生時のノイズ,再生出力,分解能など動的な磁気特性の関係に関し鋭意研究を重ねた結果,上記目的は磁性膜としてCo基合金膜を用い,下地膜としてCr,Mo,W,V,NbおよびTaから成る第1の群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含む薄膜型磁気記録媒体において,下地膜がbcc型の結晶構造を有し,その(100)格子面が基板と略平行な結晶粒と(110)格子面が基板と略平行な結晶粒の双方が,再現性良く一定の比率で混在した記録媒体を形成せしめることにより達せられるとの知見を得た。ここで,(100)格子面が基板と略平行な結晶粒と(110)格子面が基板と略平行な結晶粒とが下地膜表面に占める面積比率は、(100)格子面と(110)格子面とのX線回折ピーク強度の比として表すことができる。しかし、(100)格子面のX線回折ピークは観測されないので、(100)格子面と同等すなわちこの面と原子配置が同一である(200)格子面のピークを代わりに観測する。また、(110)格子面および(200)格子面に帰属されるX線回折ピークの強度をI110,I200と略記する。記録再生時のS/Nが25dB以上、出力半減記録密度(以下D50と略記する)が50kFCI以上の高い記録密度の媒体を得るためには,下地膜のI200/I110の値を0.2以上20以下となるように下地膜を配向成長せしめることが望ましい。また,特に記録再生時のS/Nが27dB以上、D50が53kFCI以上のさらに高密度な記録再生を可能とするためには、I200/I110の値が0.5以上10以下となるように下地膜の結晶配向性を制御することがより好ましい。
【0007】また、高記録密度を達成するために望ましい下地膜のI200/I110の値およびこの望ましいI200/I110値を再現性良く得るための結晶配向性の制御方法はこれまで知られていない。しかし本発明に到るまでの広範な研究により,下地膜において好ましい結晶配向性を実現するためには、まず下地膜中の酸素濃度を最適化することが有効であることがわかった。すなわち下地膜の結晶配向性を再現性良く制御し,I200/I110の値を最適化するためには膜内に取り込まれた不純物酸素濃度を0.1重量%以上5重量%以下,より好ましくは3重量%以下とすることが有効である。また、膜の結晶性をより完全に進行させるために,基板直上に成長する初期成長層の影響を抑えるべく下地膜厚を最適化することも有効である。すなわち下地膜の結晶配向性を制御し,I200/I110の値を最適化するためには下地膜厚を5nm以上300nm以下とすることが望ましい。
【0008】また、上記第1の群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含む下地膜にTi,Mn,Co,Si,Ga,Ge,V,Cu,Znから成る第2の群から選ばれた少なくとも1つの元素を1原子%以上30原子%以下の濃度で添加すると下地膜の配向性が好ましい状態に制御され,I200/I110の値を最適化できるので好ましい。
【0009】さらに上記第1の群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含む下地層にRu,Rh,Pd,Os,Ir,Pt,Auから成る第3の群から選ばれた少なくとも1種の元素を0.01原子%以上5原子%以下の濃度で添加することによっても下地膜の配向性が好ましい状態に制御され,I200/I110の値を最適化できるので好ましい。
【0010】また、ディスク基板として、従来はAl−Mg合金上にNi−P等の非磁性表面硬化層を積層したものが一般に使用されてきたが,非磁性表面硬化層の表面にNi,Mg,Al,Si,Ti,Zr,Cr,Mn,Cu,Zn,Mo,W,Nb,Ta,Pt,Pd,Rh,Ru,Os,Au,Irから成る第4の群から選ばれた少なくとも1種の元素を1原子%以上99原子%以下の濃度で含む中間層を膜厚2nm以上100nm以下となるように形成することによっても下地膜の配向性が好ましい状態に制御され、I200/I110の値を最適化できるので好ましい。なお,上記4種類の元素群に関して,1つの群の元素が既に膜中に含まれている場合,その群の他の元素は少量含有可能なその他の元素と考えられる。
【0011】このように結晶配向性が制御された下地膜の上にCoもしくはFe,もしくはNiを主たる成分とする磁性層を膜厚10〜100nm形成し,保護層としてカーボンを膜厚10〜50nm形成し,さらに吸着性のパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層を1〜20nm設けることにより媒体面内において高密度記録が可能な磁気記録媒体が得られる。また,磁性膜としてさらにCr,Mo,W,Zr,Ta,Nb,Al,Si,Ptのいずれか少なくとも一種を添加した合金を用いると媒体の記録再生特性および耐食性がさらに向上するので好ましい。特に,磁性膜を構成する磁性体がCoNi,CoCr,CoFe,CoMo,CoW,CoPt,CoRe等の合金である場合に良好な特性を認めることができる。また,特に良好な耐食性や磁気特性を求める場合は磁性膜を構成するための磁性体としてCoNiZr,CoCrPt,CoCrTa,CoNiCrを主たる成分とする合金で構成することが望ましい。また,保護層としてWC,WMoC等の炭化物,ZrNbN,Si34等の窒化物,SiO2,ZrO2等の酸化物,あるいはB,B4C,MoS2,Rh等を用いると耐摺動性,耐食性を向上できるので好ましい。ディスク基板は,Al−Mg合金,化学強化ガラス,または有機樹脂を使用することができ,かつこれらの基板の上に,NiP,NiWP,NiV等からなる非磁性メッキ層を形成したものを使用することも可能である。さらに上記磁気記録媒体とトラック幅が10μm以下の磁気ヘッドを組合せることにより,大容量で高信頼性の磁気記録装置を提供することができる。
【0012】
【作用】記録媒体の面内保磁力を増加させ高い再生出力を得るためには,Co基合金中のc軸が略面内方向を向いた結晶粒,すなわちhcp結晶構造の(100)あるいは(110)格子面が基板と略平行である(以後(100)あるいは(110)面配向等と略記する)結晶粒の比率を増す必要がある。しかしながら,このような媒体では記録ビットの境界すなわち磁化遷移領域において互いに向きの異なる磁化が強い反発を起こすため反磁界成分が大きく,磁化の揺らぎが大きくなる。このため高密度記録時に媒体ノイズが極めて大きくなりS/N比が低下する問題がある。特に,再生感度に優れるMRヘッドを用いて高S/Nの記録再生を行なう場合には,媒体ノイズの増加はS/Nが低下するため問題である。これに対してc軸が基板面内から略28度傾いた(101)配向の結晶粒では(100)あるいは(110)配向の結晶粒成分に比べ再生出力や面内保磁力成分が若干低下するが,逆にこの傾きのため記録ビット境界における磁化が略垂直成分を持ち,磁化の反発が略垂直方向に逃げられるため磁化の揺らぎが小さく,したがってノイズ成分が極めて小さくなるという利点がある。以上の点を考慮すると高密度記録時でも再生出力が高く,かつノイズが低い媒体としては,c軸が略面内を向いた(100)あるいは(110)配向の結晶粒成分と,c軸が基板面から略28度傾いた(101)配向の結晶粒成分とが適当な比率で混在した構造が適している。
【0013】このような配向性を有するCo合金膜を形成するためには下地膜の配向性を制御し,この上にCo基合金膜をエピタキシャル成長させることが有効である。例えばbcc構造のCrをX線回折分析すると(110),(200),(211)(220),(310),(222)等の格子面に帰属される回折ピークが観測される。一方,結晶粒の配向性が全く無秩序なCr粉末試料の,上記格子面に帰属するX線回折ピークの相対強度比は順に100,16,30,18,20,6等となることがJCPDSの標準データ集に記載されている。しかし,真空蒸着,スパッタリング等により形成されたCr膜は,原子間距離や基板との相互作用などの影響により,ある種の格子面が優先的に基板と平行に成長する傾向にある。このため,Cr膜のX線,電子線あるいは中性子線回折分析時の回折ピーク強度比は粉末試料のデータとは異なり,膜中の不純物,膜厚,組成,基板,蒸着時の条件等により著しく変化する。
【0014】このようなCr膜上にCo基合金磁性膜をスパッタリング等の方法により形成すると,その界面においてCo基合金の結晶格子とCr下地膜の結晶格子の空間的な原子位置のずれが小さくなるようにCo基合金膜が配向成長する。例えばCrの(110)格子面上にはCo基合金の(100),(001),(101)格子面が成長し,Crの(100)格子面(X線回折分析では(200)として検出される)上にはCo基合金の(110)格子面が成長する。従ってCo基合金において(100)あるいは(110)配向の結晶粒成分と,(101)配向の結晶粒成分を混在させて成長させるためには,下地Cr膜においては(110)配向の結晶粒成分と(100)配向の結晶粒成分とを混在させることが必要である。
【0015】下地膜においてこのような結晶配向性を実現させるためには下地膜内に取り込まれる不純物酸素濃度を再現性良く最適化することが有効である。また膜の結晶成長を再現性良く制御するためには,基板直上に成長する膜厚数nm程度の初期成長層の影響を抑えるべく,膜厚を最適化することが有効である。また下地膜の(110)格子面上にはCo基合金の(100),(001),あるいは(101)格子面が成長するが,Ti,Mn,Co,Si,Ga,Ge,V,Cu,Znから成る第2の群,もしくはRu,Rh,Pd,Os,Ir,Pt,Auから成る第3の群から選ばれた少なくとも1種の元素を添加すると,下地膜の(110)格子面とCo基合金の(101)格子面との原子位置の整合性が増し(101)格子面が優先的に成長しやすくなり,高い再生出力および低いノイズを得ることができる。上記第2の群あるいは第3の群から選ばれた元素の最適な添加量は添加元素の種類により変化するが,第2の群から選ばれた添加元素については添加後の下地膜の主成分元素がbcc型結晶構造を保つことが必要であり,望ましい範囲は1原子%以上30原子%以下で,高密度記録が可能な媒体を得る上で特に望ましい範囲は5原子%以上30原子%以下である。また,第3の群から選ばれた添加元素についても添加後の下地膜の主成分元素がbcc型結晶構造を保つことが必要であり,望ましい範囲は0.01原子%以上5原子%以下である。また,ディスク基板と上記下地膜の間にNi,Mg,Al,Si,Ti,Zr,Cr,Mn,Cu,Zn,Mo,W,Nb,Ta,Pt,Pd,Rh,Ru,Os,Au,Irから成る第4の群から選ばれた少なくとも1種の元素を1原子%以上99原子%以下の濃度で含む中間層を膜厚2nm以上100nm以下となるように形成することによっても下地膜の配向性が好ましい状態に制御され、I200/I110の値を最適化できる。
【0016】下地膜に対する以上の効果はCrに限らず同じく体心立方格子構造を有するMo,W,V,NbおよびTaからなる第1の群から選ばれた少なくとも1種の元素を主たる成分とする合金についても認められる。また磁性膜についてもCoCrPtやCoCrTaに限らずCoの他にNi,Ti,Zr,Hf,Ta,Pt,Nb,Cr,Mo,W,Si,Geの中から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する合金についても認められる。本発明による媒体は磁化状態の分散が極めて小さく,さらに高出力,低ノイズのため,トラック幅が10μm以下の磁気ヘッドで記録しても50kFCI以上の高い記録密度でS/Nが25dB以上,さらにO/W特性が26dB以上で大容量の磁気記録装置が得られる。
【0017】
【実施例】以下,実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。図1は,本発明の実施例に係る薄膜型磁気記録媒体の縦断構造を模式的に示したものである。同図において,11はAl−Mg合金,化学強化ガラス,有機樹脂,セラミックス等からなる磁気ディスク基板,12および12’は基板11の両面に形成したNiP,NiWP等からなる非磁性メッキ層であって,Al−Mg合金を基板として用いた場合はこのようなメッキ層を備えたものを磁気ディスクの基板として使用する。13および13’はメッキ層12,12’の上に形成したクロム,モリブデン,タングステンまたはクロム,モリブデン,タングステンのいずれかを主な成分とする合金からなる金属下地膜,14および14’は当該下地膜の上に形成したCoNi,CoCr,CoRe,CoPt,CoP,CoFe,CoNiZr,CoCrAl,CoCrTa,CoCrPt,CoNiCr,CoCrNb,CoNiP,CoNiPt,CoCrSi等からなる金属磁性層,15および15’は当該磁性膜の上に形成したカーボン,ボロン,B4C,SiC,SiO2,Si34,WC,WMoC,WZrC等からなる非磁性保護膜をそれぞれ示す。 実施例1外径130mm、内径40mm、厚さ1.9mmのAl−4Mg(原子記号の前に付した数字は当該素材の含有量を示す。この場合は重量%)からなるディスク基板11の両面にNi−12P(重量%)からなる膜厚13μmのメッキ層12、12’を形成した。このNiPメッキ層の表面を略円周方向(ヘッド走行方向)に膜厚が15μmとなるまで研磨し、中心線平均面粗さが5nmである微細な凹凸を形成した(このような表面加工を以後にテクスチャ加工と略記する)。上記ディスク基板をマグネトロンスパッタリング装置に装填して,250℃の温度に保持し、2mTorrのアルゴン圧の条件のもとで膜厚300nmのCr下地膜13、13’を形成した。この下地膜の上にCo−12Cr−4Ta(原子%)からなる膜厚40nmの金属磁性膜14、14’を積層した。その後、磁性膜上に膜厚20nmのカーボン保護膜15、15’を形成し、最後に当該保護膜上に吸着性のパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層(図示せず)を形成した。
【0018】上記磁気記録媒体形成にあたり,スパッタリング成膜中の排気速度を2.2〜5.3m3/秒の範囲で変化させた(試料No.1〜7)。これらの試料について、下地膜中の酸素含有量と結晶配向性、磁気記録特性の関係を調べた。すなわち下地膜中の酸素量を二次イオンマイクロアナライザー、あるいは螢光X線分析により求めた。またX線回折分析により,下地膜の(200)および(110)面に帰属される回折ピーク強度の比率I200/I110を求めた。またVSMにより媒体試料の面内方向の保磁力を測定した。さらに、媒体の記録再生特性を相対速度12m/s、浮上スペーシング0.1μmにおいて、実効ギャップ長0.4μm、トラック幅10μmの薄膜磁気ヘッドを用いて、出力半減記録密度(D50)、S/Nの値を求めた。これらの測定結果を表1にまとめて示す。
【0019】
【表1】


【0020】表1に示されるように、スパッタリング時の排気速度を制御することにより下地膜中の不純物酸素濃度が変化し、下地膜の(200)および(110)面に帰属される回折ピーク強度の比率I200/I110が再現性良く変化した。さらにI200/I110の変化にともない保磁力、出力半減記録密度D50、S/Nの値が変化した。特に、不純物酸素濃度が0.1重量%以上3重量%以下の時にI200/I110が0.2以上20以下の値を有し高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られた。またI200/I110が0.5以上10以下の値を有するときに特に媒体からのノイズが著しく減少し、高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られた。
【0021】実施例2実施例1と同様に、ディスク基板11、12、12’をマグネトロンスパッタリング装置に装填して、150℃の温度に保持し、5mTorrのアルゴン圧の条件のもとでCr下地膜13、13’を膜厚を3nmから500nmまで変化させて成膜した(試料No.8〜14)。その際、実施例1に示したように排気速度を最適化し下地膜中の酸素量を3重量以下%に設定した。この下地膜の上にCo−13Cr−4Ta(原子%)からなる膜厚40nmの金属磁性膜14、14’を積層した。その後、磁性膜上に膜厚20nmのカーボン保護膜15、15’を形成し、最後に実施例1と同様の潤滑層(図示せず)を形成した。また実施例1と同様に下地膜の(200)および(110)面に帰属される回折ピーク強度の比率I200/I110および,媒体試料の面内方向の保磁力を測定した。さらに、媒体の記録再生特性を相対速度12m/s、浮上スペーシング0.1μmにおいて、CoTaZr合金を記録用磁極材とし、磁気抵抗効果型(以後MR型と略記する)再生素子を有する録再分離型薄膜磁気ヘッドを用いて、出力半減記録密度、S/Nの値を求めた。これらの測定結果を表2にまとめて示す。
【0022】
【表2】


【0023】表2に示されるように、下地膜の膜厚を変化させることにより下地膜の回折ピーク強度の比率I200/I110が変化し、これに伴い保磁力、出力半減記録密度、S/Nの値が変化した。特に、下地膜の膜厚が5nm以上300nm以下の時にI200/I110が0.5以上10以下の値を示し、特に媒体からのノイズが著しく減少し、高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られた。
【0024】実施例3実施例1と同様に、ディスク基板11、12、12’をマグネトロンスパッタリング装置に装填して、200℃の温度に保持し、2mTorrのアルゴン圧の条件のもとでTiの添加濃度を0〜40原子%の範囲で変えて種々の組成のCr−Ti系合金下地膜13、13’を40nm成膜した(試料No.15〜21)。その際、実施例1と同様に排気速度を最適化し下地膜中の酸素含有量を3重量%以下に設定した。この下地膜の上にCo−13Cr−6Pt(原子%)からなる膜厚30nmの金属磁性膜14、14’を積層した。その後、磁性膜上に膜厚10nmのカーボン保護膜15、15’を形成し、最後に実施例1と同様の潤滑層(図示せず)を形成した。また実施例1と同様に下地膜の(200)および(110)面に帰属される回折ピーク強度の比率I200/I110および、媒体試料の面内方向の保磁力を測定した。さらに、実施例2と同様の方法により媒体の記録再生特性を求めた。これらの測定結果を表3にまとめて示す。
【0025】
【表3】


【0026】表3に示されるように、下地膜中のTiの濃度を変化させることにより下地膜の回折ピーク強度の比率I200/I110が変化し、これに伴い保磁力、出力半減記録密度、S/Nの値が変化した。特に、下地膜中のTiの濃度が1原子%以上30原子%以下であるときI200/I110の値が0.5以上10以下の値を示し、媒体からのノイズが著しく減少し、高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られた。
【0027】実施例4実施例1と同様に、ディスク基板11、12、12’をマグネトロンスパッタリング装置に装填して、150℃の温度に保持し、2mTorrのアルゴン圧の条件のもとでCrにMn、Co、Si、Ga、Ge、V、CuおよびZnからなる第2の群中のいずれか1つの元素を5原子%添加した合金下地膜13、13’を40nm成膜した(試料No.23〜30)。また、比較のため無添加の試料を作製した(試料No.22)。その際、実施例1と同様に排気速度を最適化し下地膜中の酸素含有量を3重量%以下に設定した。この下地膜の上にCo−13Cr−4Pt(原子%)からなる膜厚30nmの金属磁性膜14、14’を積層した。その後、磁性膜上に膜厚10nmのカーボン保護膜15、15’を形成し、最後に実施例1と同様の潤滑層(図示せず)を形成した。また実施例1と同様に下地膜の(200)および(110)面に帰属される回折ピーク強度の比率I200/I110および媒体試料の面内方向の保磁力を測定した。さらに、実施例2と同様の方法により媒体の記録再生特性を求めた。これらの測定結果を表4にまとめて示す。
【0028】
【表4】


【0029】表4に示されるように、下地膜中に上記元素を添加することにより下地膜の回折ピーク強度の比率I200/I110は0.5以上10以下の値を示し、出力半減記録密度、S/Nの値が無添加の試料(試料No.22)より向上した。なお、下地膜中の上記添加元素の濃度が1原子%以上30原子%以下のとき、I200/I110の値は0.5以上10以下の値を示し、特に添加元素の濃度が5原子%以上15原子%以下のときに媒体からのノイズが著しく減少し、高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られることが確認された。
【0030】実施例5実施例1と同様に、ディスク基板11、12、12’をマグネトロンスパッタリング装置に装填して、300℃の温度に保持し、2mTorrのアルゴン圧の条件のもとでCrにRu、Rh、Pd、Os、Ir、PtおよびAuからなる第3の群中のいずれか1つの元素を1原子%添加した合金下地膜13、13’を40nm成膜した(試料No.32〜38)。また、比較のため無添加の試料を作製した(試料No.31)。その際、実施例1と同様に排気速度を最適化し下地膜中の酸素含有量を3重量%以下に設定した。この下地膜の上にCo−14Cr−6Pt(原子%)からなる膜厚30nmの金属磁性膜14、14’を積層した。その後、磁性膜上に膜厚10nmのカーボン保護膜15、15’を形成し、最後に実施例1と同様の潤滑層(図示せず)を形成した。また実施例1と同様に下地膜の(200)および(110)面に帰属される回折ピーク強度の比率I200/I110および媒体試料の面内方向の保磁力を測定した。さらに、実施例2と同様の方法により媒体の記録再生特性を求めた。これらの測定結果を表5にまとめて示す。
【0031】
【表5】


【0032】表5に示されるように、下地膜中に上記元素を添加することにより下地膜の回折ピーク強度の比率I200/I110の値は0.5以上10以下の値を示し、出力半減記録密度、S/Nの値が無添加の試料(試料No.31)より向上した。また、下地膜中の上記添加元素の濃度が0.01原子%以上5原子%以下のときにI200/I110の値は0.5以上10以下の値を示し、特に添加元素の濃度が0.5原子%以上2原子%以下のときに媒体からのノイズが著しく減少し、高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られることが確認された。
【0033】実施例6実施例1と同様に、ディスク基板11、12、12’をマグネトロンスパッタリング装置に装填して、200℃の温度に保持し、中間層(図示せず)としてNi、Mg、Al、Si、Ti、Zr、Cr、Mn、Cu、Zn、Mo、W、Nb、Ta、Pt、Pd、Rh、Ru、Os、AuおよびIrからなる第4の群中のいずれか1つの元素を膜厚10nm成膜した(試料No.40〜60)。また、比較のため中間層を設けない試料を作製した(試料No.39)。その上に膜厚40nmのCr−10Ti(原子%)からなる下地膜13、13’を形成した。その際、実施例1と同様に排気速度を最適化し下地膜中の酸素含有量を3重量%以下に設定した。この下地膜の上にCo−15Cr−8Pt(原子%)からなる膜厚30nmの磁性膜14、14’を積層した。その後、磁性膜上に膜厚10nmのカーボン保護膜15、15’を形成し、最後に実施例1と同様の潤滑層(図示せず)を形成した。また実施例1と同様に下地膜の(200)および(110)面に帰属される回折ピーク強度の比率I200/I110および媒体試料の面内方向の保磁力を測定した。さらに、実施例2と同様の方法により媒体の記録再生特性を求めた。これらの測定結果を表6にまとめて示す。
【0034】
【表6】


【0035】表6に示されるように、基板と下地膜の間に上記元素からなる中間層を形成することにより下地膜の回折ピーク強度の比率I200/I110の値が0.5以上10以下の値を示し、中間層を形成しない試料(試料No.39)に比べ、媒体からのノイズが著しく減少し、高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られることが確認された。また、上記中間層の膜厚を2nm以上100nm以下の範囲で変化させた場合も、同様に高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られた。さらに上記中間層として、上記第4群から選ばれた元素2種類以上を1原子%以上99原子%以下濃度で含有する合金を膜厚2nm以上100nm以下の範囲で形成した場合も、同様にI200/I110が0.5以上10以下の値を有し高い出力半減記録密度、S/Nの値が得られた。
【0036】実施例7これまでの実施例で示した磁気記録媒体を4枚使用し、CoTaZr合金を記録用磁極材とし、再生部にMR素子を有するMR型複合薄膜磁気ヘッドを7個組み合わせた磁気記録装置を試作した。本装置は、図2に示すように、磁気記録媒体21、磁気記録媒体駆動部22、磁気ヘッド23、磁気ヘッド駆動部24、記録再生信号処理系25などの部品から構成される。この磁気記録装置を使用し、スペーシング0.1μmにおいて記録再生特性を測定した結果、従来品に比較し面記録密度を2倍以上に高めることができた。また、従来装置に比べ小形の磁気記録装置を提供できた。また、本実施例ではCoTaZr合金を磁極材とするMR型複合薄膜磁気ヘッドを用いた場合について説明したが、NiFe,CoFe合金等を記録用磁極材とする録再分離型薄膜磁気ヘッドを用いた場合、CoTaZr、FeAlSi合金等をギャップ部に設けたメタル・イン・ギャップ型(MIG)録再分離複合磁気ヘッドを用いた場合、さらには従来の誘導型薄膜ヘッド、MIGヘッドを用いた場合でも同様の効果が得られることを確認した。
【0037】
【発明の効果】本発明によれば高密度記録が可能な磁気記録媒体および,これを用いた小形で大容量の磁気記録装置を提供でできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る薄膜型磁気記録媒体の断面構造図である。
【図2】本発明の実施例に係る磁気記録装置の縦断面構造図である。
【符号の説明】
11…磁気ディスク基板、12、12’…非磁性メッキ層、13,13’…金属下地膜、14、14’…金属磁性膜、15、15’…非磁性保護膜、21…磁気記録媒体、22…磁気記録媒体駆動部、23…磁気ヘッド、24…磁気ヘッド駆動部、25…記録再生信号処理系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】非磁性基板と、該基板上に形成された下地膜と、該下地膜上に形成された磁性膜を有する磁気記録媒体において、上記下地膜はCr,Mo,W,V,Nb,Taからなる第1の群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む非磁性金属からなり、上記磁性膜はコバルト基合金からなり、かつ上記下地膜は(110)面配向した結晶粒および(100)面配向した結晶粒を有していることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】非磁性基板と、該基板上に形成された下地膜と、該下地膜上に形成された磁性膜を有する磁気記録媒体において、上記下地膜はCr,Mo,W,V,Nb,Taからなる第1の群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む非磁性金属からなり、上記磁性膜はコバルト基合金からなり、かつ上記下地膜の(110)面および(200)面に対応づけられるX線回折分析の回折ピーク強度を各々I110およびI200と定義した場合、I200/I110の値は0.2以上20以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】上記I200/I110の値は0.5以上10以下である請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】上記磁性層はCoの他にNi,Ti,Zr,Hf,Ta,Pt,Nb,Cr,Mo,Ta,W,Si,Geの中から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいる請求項1又は2記載の磁気記録媒体。
【請求項5】上記下地膜はTi,Mn,Co,Si,Ga,Ge,V,Cu,Znからなる第2の群から選ばれた少なくとも1種の元素を1原子%以上30原子%以下含んでいる請求項1又は2記載の磁気記録媒体。
【請求項6】上記下地膜はRu,Rh,Pd,Os,Ir,Pt,Auからなる第3の群から選ばれた少なくとも1種の元素を0.01原子%以上5原子%以下含んでいる請求項1又は2記載の磁気記録媒体。
【請求項7】上記基板と上記下地膜の間に中間層が形成されており、該中間層はNi,Mg,Al,Si,Ti,Zr,Cr,Mn,Cu,Zn,Mo,W,Nb,Ta,Pt,Pd,Rh,Ru,Os,Au,Irから成る第4の群から選ばれた少なくとも1種の元素を1原子%以上99原子%以下含みかつその膜厚は2nm以上100nm以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】上記下地膜の膜厚は5nm以上300nm以下である請求項7記載の磁気記録媒体。
【請求項9】上記下地膜の不純物酸素濃度は3重量%以下である請求項1乃至8のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】請求項1乃至9のいずれか一項に記載の磁気記録媒体と,該磁気記録媒体の回転駆動部と,磁気ヘッドと,該磁気ヘッドの駆動部と,記録再生信号処理系とを具備してなることを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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