説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体

【課題】ベースフィルムに発生する皺などの変形を防止して製品の品質を向上させることができ、かつ、生産性を向上させることができる磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】ベースフィルムを40℃以上に暖めた巻芯に巻き取って、200≧54000/D+0.007L+106 α[ :巻芯の外径(mm)、L:ベースフィルムの巻長(m)、α:巻芯の円周方向の線膨張係数(/℃)]という条件を満たすロール状に形成し、ロール状態のままベースフィルムを50℃以上で熱処理し、熱処理後、ロール状態のベースフィルムを40℃以上に保って次の工程の送り出しを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体に関し、特に磁気テープなどの磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に磁気テープは、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造される。ここで、カレンダ処理後に行われる熱処理の工程は、ベースフィルムを巻芯に巻いたままロールの状態で処理される。
【0003】
しかし、このようにロール状態でベースフィルムを熱処理すると、ベースフィルムに皺などの変形が生じやすいという問題があった。そして、このようなベースフィルムの変形は、ヘッド当たりを悪化させ、出力を低下させたり、スリット後の磁気テープの幅寸法精度を低下させたり、サーボ信号の記録時や再生時にヘッドが追従できずにトラッキングエラーを引き起こすという問題があった。
【0004】
そこで、このような問題を解消するために、特許文献1では、熱処理後のスリット工程で、切断部に搬送されるフィルムの温度調整を行うことにより、フィルムの幅方向の局部的な伸びや縮みを緩和して、フィルムを所定幅で高精度にスリットすることが提案されている。また、特許文献2では、カレンダ処理したフィルムを熱処理したのち、さらにカレンダ処理を行うことが提案されている。また、特許文献3では、ロール状のフィルムをシート状の包装材で包装し、その包装材でフィルムを径方向内側に加圧しながら熱処理することが提案されている。
【特許文献1】特開2001−310293号公報
【特許文献2】特開2004−319017号公報
【特許文献3】特開2005−8874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、切断部に搬送されるフィルムの温度調整を行っても、一度発生した皺や変形を完全に取り除くことは難しいという欠点がある。
【0006】
また、特許文献2のように、熱処理後に更にカレンダ処理を行うと、カレンダ処理を2回行うこととなり、生産性が悪いという欠点があった。また、熱処理後に更にカレンダ処理を行うと、クリープ特性などの熱処理の効果が低減してしまうという欠点があった。さらに、塗布機にカレンダ装置を取り付けたとしても、塗布機の速度にカレンダ速度を合わせなければならないため、処理条件に制約ができてしまうという欠点もあった。
【0007】
また、特許文献3のように、包装材で加圧しながら熱処理すると、磁性層表面が面の粗いバックコート層に押し付けられて変形(バック面写り)し、表面粗さ(Ra)が増加してしまうという欠点がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ベースフィルムに発生する皺などの変形を防止して製品の品質を向上させることができ、かつ、生産性を向上させることができる磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、前記目的を達成するために、帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、前記ベースフィルムを40℃以上に暖めた前記巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを50℃以上で熱処理し、熱処理後、前記巻芯に巻き取られた状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0010】
請求項1に係る発明は、熱処理時に巻芯が熱膨張することにより、面圧が上がり、バック面写りが促進されることに鑑み、熱処理するベースフィルムを40℃以上に暖めた巻芯に巻き取ってロール状に形成し、熱処理時との温度差を小さくして熱処理する。これにより、熱処理時における巻芯の熱膨張を抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。また、請求項1に係る発明は、熱処理されたベースフィルムに発生する皺等の変形が、熱処理工程の後、フィルムが巻芯にロール状に巻き取られた状態で冷却されることにより発生することに鑑み、熱処理工程の後、ロール状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行う。これにより、熱処理後にロール状態のまま冷却されることによって生じる皺等の変形を防止することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記目的を達成するために、帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、前記ベースフィルムを40℃以上に暖めた前記巻芯に巻き取って下記条件を満たすロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを50℃以上で熱処理することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0012】
200≧54000/D+0.007L+106 α
:巻芯の外径(mm)
L:ベースフィルムの巻長(m)
α:巻芯の円周方向の線膨張係数(/℃)
請求項2に係る発明によれば、熱処理するベースフィルムを40℃以上に暖めた巻芯に巻き取ってロール状に形成し、熱処理時との温度差を小さくして熱処理することにより、熱処理時における巻芯の熱膨張を抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。また、200≧54000/D+0.007L+106 αの条件を満たすように、ベースフィルムを巻芯に巻き取ることにより、その巻芯に巻き取られたベースフィルムを熱処理した際、巻芯の熱膨張を低くし、かつ、ベースフィルムの熱収縮による応力を低く抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記目的を達成するために、帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、前記ベースフィルムを巻芯に巻き取って下記条件を満たすロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理し、熱処理後、前記巻芯に巻き取られた状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0014】
200≧54000/D+0.007L+106 α
:巻芯の外径(mm)
L:ベースフィルムの巻長(m)
α:巻芯の円周方向の線膨張係数(/℃)
請求項3に係る発明によれば、200≧54000/D+0.007L+106 αの条件を満たすように、ベースフィルムを巻芯に巻き取ることにより、その巻芯に巻き取られたベースフィルムを熱処理した際、巻芯の熱膨張を低くし、かつ、ベースフィルムの熱収縮による応力を低く抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。また、熱処理工程の後、ロール状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行うことにより、熱処理後にロール状態のまま冷却されることによって生じる皺等の変形を防止することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記目的を達成するために、帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、前記ベースフィルムを40℃以上に暖めた前記巻芯に巻き取って下記条件を満たすロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを50℃以上で熱処理し、熱処理後、前記巻芯に巻き取られた状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0016】
200≧54000/D+0.007L+106 α
:巻芯の外径(mm)
L:ベースフィルムの巻長(m)
α:巻芯の円周方向の線膨張係数(/℃)
請求項4に係る発明によれば、熱処理するベースフィルムを40℃以上に暖めた巻芯に巻き取ってロール状に形成し、熱処理時との温度差を小さくして熱処理することにより、熱処理時における巻芯の熱膨張を抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。また、200≧54000/D+0.007L+106 αの条件を満たすように、ベースフィルムを巻芯に巻き取ることにより、その巻芯に巻き取られたベースフィルムを熱処理した際、巻芯の熱膨張を低くし、かつ、ベースフィルムの熱収縮による応力を低く抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。さらに、熱処理工程の後、ロール状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行うことにより、熱処理後にロール状態のまま冷却されることによって生じる皺等の変形を防止することができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、前記目的を達成するために、前記ベースフィルムを前記巻芯に巻き取ってロール状に形成した後、前記巻芯の温度低下を5℃以下に維持して前記熱処理の工程に入れることを特徴とする請求項1、2又は4に記載の磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、40℃以上に暖めた巻芯にベースフィルムを巻き取ってロール状に形成した後、巻芯の温度低下を5℃以下に維持して熱処理の工程に入れられる。これにより、熱処理時との温度差が小さくなり、巻芯の熱膨張が抑えられて、バック面写りが抑制される。
【0019】
請求項6に係る発明は、前記目的を達成するために、前記巻芯に巻き取られたベースフィルムの温度を40℃以上とすることを特徴とする請求項1、2、4又は5に記載の磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0020】
請求項6に係る発明によれば、巻芯に巻き取られたベースフィルムの温度が40℃以上とされる。
【0021】
請求項7に係る発明は、前記目的を達成するために、前記熱処理の次の工程が、前記ベースフィルムをスリット部で所定幅で長手方向にスリットする工程であることを特徴とする請求項1、3又は4に記載の磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0022】
請求項7に係る発明によれば、熱処理工程の後、ベースフィルムがロール状態のまま35℃以上に保たれて、次のスリットの工程の送り出しが行われる。
【0023】
請求項8に係る発明は、前記目的を達成するために、前記ベースフィルムが、前記スリット部でスリットされるまでに35℃以下に冷却されることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、熱処理工程の後、ベースフィルムがロール状態のまま35℃以上に保たれて、次のスリットの工程の送り出しが行われる。そして、スリット部でスリットされるまでに35℃以下に冷却される。
【0025】
請求項9に係る発明は、前記目的を達成するために、前記ベースフィルムが、前記スリット部でスリットされるまで35℃以上に保たれ、スリット後に室温にされることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0026】
請求項9に係る発明によれば、熱処理工程の後、ベースフィルムがロール状態のまま35℃以上に保たれて、次のスリットの工程の送り出しが行われる。そして、スリット部でスリットされた後、室温(たとえば、18〜30℃)に冷却される。
【0027】
請求項10に係る発明は、前記目的を達成するために、前記巻芯が、その円周方向の線膨張係数が5×10-6以下で、かつ、円周方向のヤング率が8000kg/mm2 以上の材質からなることを特徴とする請求項2、3又は4に記載の磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0028】
本発明によれば、巻芯を線膨張係数が5×10-6以下で、かつ、ヤング率が8000kg/mm2 以上の材料で構成することにより、熱処理したベースフィルムに円筒座屈やシンチングが生じるのを防止することができる。
【0029】
請求項11に係る発明は、前記目的を達成するために、前記巻芯の材質がCFRPであることを特徴とする請求項2、3、4又は10に記載の磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0030】
請求項11に係る発明によれば、巻芯の材質をCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)とすることにより、熱処理工程での巻芯の膨張や熱収縮によってベースフィルムに与えられる応力が小さくなり、磁気テープを製造した際に、テープの直線性が低下することなく、トラッキングエラーが生じるのを防止できる。また、低熱収縮率化を図ることができ、熱処理したベースフィルムに円筒座屈やシンチングが生じるのを防止できる。これにより、製造された磁気テープを巻回させたときの巻姿の悪化を防止でき、磁気テープの品質や歩留まりを向上させることができる。
【0031】
請求項12に係る発明は、前記目的を達成するために、前記ベースフィルム上に少なくとも1つの磁性層を塗布形成し、全ての塗布が終了した前記ベースフィルムに連続的に1.0〜4.0kg/mのテンションをかけながら1.0〜10.0秒、温度95〜140℃で第1の熱処理を行い、その後、前記第1の熱処理の温度よりも低い温度で前記ベースフィルムをカレンダ処理し、カレンダ処理された前記ベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11に記載の磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0032】
請求項12に係る発明によれば、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11に記載の磁気記録媒体の製造方法にベースフィルムの熱収縮率を低減させる方法が組み合わせされる。熱収縮率を低減させる方法として、ベースフィルム上に少なくとも1つの磁性層を塗布形成し、全ての塗布が終了した後、ベースフィルムに連続的に1.0〜4.0kg/mのテンションをかけながら1.0〜10.0秒、温度95〜140℃で第1の熱処理を行い、その後、第1の熱処理の温度よりも低い温度で前記ベースフィルムをカレンダ処理する。これにより、これにより、熱収縮率が小さい磁気記録媒体を効率良く得ることができる。
【0033】
請求項13に係る発明は、前記目的を達成するために、請求項1〜12のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
【0034】
請求項13に係る発明によれば、皺などの変形のない、良好な品質の磁気記録媒体を売ることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ベースフィルムに発生する皺などの変形を防止して製品の品質を向上させることができ、かつ、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付図面に従って本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体を実施するための最良の形態について説明する。
【0037】
<第1の実施の形態>
本実施の形態において、磁気記録媒体としての磁気テープは、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造される。
【0038】
塗布工程では、原反ロールから帯状可撓性のベースフィルムを送り出し、塗布部において、一方の面に磁性層、他方の面にバックコート層を塗布形成する。磁性層及びバックコート層が形成されたベースフィルムは、巻芯に巻き取られてロール状に形成される。
【0039】
カレンダ工程では、複数のカレンダローラの間にベースフィルムを通すことで、各カレンダローラの間の各ニップでベースフィルムFを挟持、加熱加圧して、ベースフィルムFの表面を平滑化する。図1は、カレンダ工程で用いられるカレンダ装置10の概略構成を示す図である。同図に示すように、ロール状のベースフィルムFは、巻戻しリール12にセットされ、この巻戻しリール12からカレンダ部14に送り出される。カレンダ部14には、複数(ここでは7本)のカレンダローラCが相接するように配置されており、ベースフィルムFは、この相接するように配置されたカレンダローラの間をガイドローラGにガイドされながら走行する。そして、その走行過程で各カレンダローラ の間のニップで挟持、加熱加圧されて、表面が平滑化される。各カレンダローラCの間を通されたベースフィルムFは、巻取りリール16にセットされた巻芯Sに巻き取られ、ロール状に形成される。
【0040】
熱処理工程では、図2に示すように、カレンダ処理後のロール状態のベースフィルムFを恒温室20に入れ、所定温度(50℃以上)の環境雰囲気の中で所定時間放置して熱処理を行う。なお、熱処理の方法は、これに限定されるものではなく、温度を徐々に上げて熱処理するようにしてもよい。
【0041】
スリット工程では、熱処理後のロール状態のベースフィルムFをスリット部に送り出し、スリット部で所定幅で長手方向にスリットする。図3は、このスリット工程で用いられる裁断装置30の概略構成を示す図である。同図に示すように、ロール状のベースフィルムFは、巻戻しリール32にセットされ、この巻戻しリール32からスリット部34に送り出される。巻戻しリール32とスリット部34との間には、複数のガイドローラ36によってベースフィルムFの搬送路が形成されており、その搬送路の途中には、ベースフィルムFの搬送速度を調整するためのフリクションローラ38が設けられている。スリット部34は、上下一対の回転刃40、42によって帯状のベースフィルムFを所定幅の複数本のテープTにスリットする。スリット部34でスリットされたテープTはガイドローラ44を介して巻取りリール46に導かれ、その巻取りリール46にセットされた巻芯S’に巻き取られる。
【0042】
さて、上記のように、磁気テープは、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造されるが、熱処理の工程でベースフィルムFをロール状態のまま熱処理すると、巻芯Sの熱膨張によって面圧が上がり、バック面写りが促進されることが判明した。また、熱処理後、ロール状態のままベースフィルムFを冷却すると、その冷却時にベースフィルムFに皺等の変形が生じることが判明した。
【0043】
そこで、本実施の形態では、熱処理するベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ってロール状に形成し、このロール状に巻き取られたベースフィルムFを50℃以上で熱処理する。また、熱処理後、ロール状態のベースフィルムFを35℃以上に保って、次のスリット工程の送り出しを行う。
【0044】
このように、熱処理するベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ってロール状に形成し、熱処理することにより、熱処理時における巻芯Sの温度変化を小さくでき、巻芯Sの熱膨張を抑止することができる。この結果、巻芯Sの熱膨張による面圧の上昇を抑制でき、バック面写りを抑止できる。
【0045】
また、熱処理後、ロール状態のベースフィルムFを35℃以上に保って、次のスリット工程の送り出しを行うことにより、ベースフィルムFに皺等の変形が生じるのを防止することができる。この結果、スリット工程でスリットされるテープの幅精度を向上させることができ、トラッキングエラーを低減させることができる。また、バック面写りを低減でき、エラーを低減させることができる。さらに、熱処理後の冷却処理が不要になるので、生産性も向上させることができる。
【0046】
なお、本実施の形態では、カレンダ処理後にベースフィルムFが熱処理されることから、カレンダ工程でカレンダ処理されたベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取り、ロール状に形成するものとする。
【0047】
また、上記のように、熱処理時における巻芯Sの温度変化を小さくして、巻芯Sの熱膨張を抑止することから、巻取り後は巻芯Sの温度が低下しないうちにベースフィルムFを熱処理の工程に入れるようにする。好ましくは、巻き取り後の巻芯Sの温度低下を5℃以下に維持して、熱処理の工程に入れるようにする。
【0048】
なお、巻芯Sを暖める方法に関しては、公知の手法を用いることができるものとし、たとえば、40℃以上の恒温室に巻芯Sを入れて、40℃以上に暖めるようにしてもよいし、巻芯Sにヒータ等の加熱手段を設けて、40℃以上に暖めるようにしてもよい。また、巻芯Sの外側から赤外線ヒータ等の加熱手段で40℃以上に暖めるようにしてもよいし、巻芯Sを装置にセットするチャッキング部にヒータ等の加熱手段を設けて、40℃以上に暖めるようにしてもよい。
【0049】
また、巻芯Sに加熱手段を設けて暖める場合には、初期は30℃程度にしておき、巻き取り開始後に40℃以上になるように温度制御を行うようにしてもよい。
【0050】
また、巻芯Sの材質は、特に限定されるものではなく、アルミ等の金属であってもよいし、FRP(Fiber Reinfoced Plastics:繊維強化プラスチック)やCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)などでもよい。
【0051】
また、巻芯Sの径は、特に限定されるものではないが、φ160mm以上とし、好ましくはφ300mm以上、さらに好ましくはφ400mm以上とする。
【0052】
また、巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFの温度については、特に限定しないが、巻芯Sに巻き取られるベースフィルムFの温度を制御することにより、30℃以上、より好ましくは40℃としてもよい。この場合、ベースフィルムの長手方向の温度変化は特に限定しない。一定パターンでもよいし、徐々に上げていく形態でもよい。また、徐々に下げてもよいし、上げ下げの組み合わせでもよい。
【0053】
また、本実施の形態では、熱処理工程において、ベースフィルムを50℃以上で熱処理することとしているが、熱処理の温度や時間は特に限定されるものではない。
【0054】
また、熱処理後のロール状態のベースフィルムFの温度を管理する方法については、たとえば、ロール状態のベースフィルムFの周囲をシートで覆って35℃以上に保つ方法や35℃以上の別の恒温室に保管するなど種々の保温方法を用いることができる。
【0055】
また、一般に熱処理後のロール状態のベースフィルムFは蓄熱作用により、一定時間は35℃以上に維持することができるので、ロール状態のベースフィルムFが35℃以下に下がらない間に次の工程の送り出しを行ってもよい。また、温度を熱処理の温度から下げる場合は、一様に下げることが好ましい。
【0056】
また、ベースフィルムFを送り出す温度は35℃以上とするが、好ましくは35℃以上で、かつ、熱処理の温度の−30℃以内、さらに好ましくは35℃以上で、かつ、熱処理の温度の−20℃以内とすることが好ましい。
【0057】
なお、裁断装置30では、巻戻しリール22から送り出したベースフィルムFをガイドローラ26によって搬送する過程で冷却し、スリット部24の手前で35℃以下に下がるように制御する。これにより、スリット部24でスリットされるテープ幅の安定性が向上する。
【0058】
巻戻しリール22から送り出されたベースフィルムFを冷却する手段としては、たとえば、走行するベースフィルムFに冷却用のローラを接触させて冷却したり、冷風を当てて冷却したりする方法などが用いられる。
【0059】
また、スリット部24の手前で35℃以下に下がるように制御するのではなく、巻戻しリール22から送り出したベースフィルムFをスリット部24でスリットされるまで35℃以上に維持し、スリット後に室温(たとえば、18〜30℃)にするように制御してもよい。これにより、ハンドリングが安定し、テープ直線性が向上する。
【0060】
また、ベースフィルムFの送り出し部には、ロール状態のベースフィルムFを保温するため、ヒータ等の加熱手段を設置することが好ましい。本実施の形態では、たとえば、巻戻しリール32の近傍にロール状態のベースフィルムFを保温するためのヒータ等の加熱手段を設置する。
【0061】
また、本実施の形態では、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で磁気テープを製造する場合を例に説明したが、本発明が適用される磁気テープの製造方法は、これに限定されるものではない。たとえば、[塗布]→<熱処理>→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]→<表面処理・熱処理・サーボライト>→[書き込み]という工程で製造する場合にも同様に適用することができる(<カッコ>内は必要に応じて実施される工程)。
【0062】
また、本実施の形態では、ベースフィルムが熱処理後にスリットされる場合を例に説明したが、本発明は、熱処理後に他の処理が行われる場合にも同様に適用することができる。たとえば、熱処理後に巻返し処理が行われる場合にも同様に適用することができる。この場合も熱処理後のロール状のベースフィルムを35℃以上に保って巻返し処理部の送り出しを行い、巻返し処理を行うようにする。
【0063】
また、本実施の形態では、カレンダ処理後に熱処理することから、カレンダ工程でベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ることとしたが、熱処理工程の前の工程がカレンダ工程以外の工程の場合には、その工程でベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取るものとする。たとえば、塗布工程後にベースフィルムFを巻芯に巻き取ったまま熱処理する場合には、塗布処理されたベースフィルムFを巻芯に巻き取る際、40℃以上に暖めた巻芯に巻き取るようにする。また、熱処理の前の工程で巻芯に巻き取られたベースフィルムFを巻戻し、40℃以上に暖めた巻芯に巻き取ってロール状に形成し、熱処理するようにしてもよい。
【0064】
<第2の実施の形態>
磁気テープが、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造される点は上記第1の実施の形態と同じである。
【0065】
本発明は、巻芯Sの外径(mm)を 、ベースフィルムFの巻長(m)をL、巻芯Sの円周方向の線膨張係数(/℃)をαとしたとき、200≧54000/D+0.007L+106 αという条件を満たすように、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取り、熱処理したときに、巻芯Sの熱膨張を低くし、かつ、ベースフィルムFの熱収縮による応力を低く抑えて、バック面写りが防止できることを見出した。
【0066】
そこで、本実施の形態では、200≧54000/D+0.007L+106 αという条件を満たすように、カレンダ処理後のベースフィルムFを巻芯Sに巻き取って熱処理する。この際、ベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ってロール状に形成し、50℃以上で熱処理する。
【0067】
熱処理するベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ってロール状に形成し、熱処理することにより、上記第1の実施の形態と同様に、熱処理時における巻芯Sの温度変化を小さくでき、巻芯Sの熱膨張を抑止することができる。この結果、巻芯Sの熱膨張による面圧の上昇を抑制でき、バック面写りを抑止できる。
【0068】
また、上記条件を満たすように、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取ることにより、その巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFを熱処理した際、巻芯Sの熱膨張を低くし、かつ、ベースフィルムFの熱収縮による応力を低く抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。
【0069】
なお、巻芯Sは、その円周方向の線膨張係数が5×10-6以下で、かつ、円周方向のヤング率が8000kg/mm2 以上の材料で構成することがこのましい。これにより、ロール状態のベースフィルムFを熱処理した際、ベースフィルムFに円筒座屈やシンチングが生じるのを防止することができる。このような材料として、たとえばCFRPを用いることができ、LEX材(登録商標:日本鋳造株式会社)などを用いることができる。
【0070】
また、巻芯Sの構造は、特に限定されず、内部にリブなどの補強が設けられていてもよい。また、円筒部が2重構造になっていてもよい。なお、巻芯Sを上記材料で構成した場合、線膨張率の際による熱変形を抑えるため、ボディと側板とを共に同じ材質とすることが好ましい。また、外周の低熱膨張の材質部を取り外し式のスリーブとしてもよい。また、外形は円筒形でも50μm/Rのクラウン形状になっていてもよい。
【0071】
なお、巻芯Sの径は、特に限定されるものではないが、φ160mm以上とし、好ましくはφ300mm以上、さらに好ましくはφ400mm以上とする。
【0072】
また、ベースフィルムFの厚さtは、特に限定されるもではないが、たとえば5μm以上とする。ベースフィルムFの厚さtは、ベースフィルムFを巻芯Sに巻回する回数をnとし、巻芯Sに巻回されたベースフィルム全体の厚さをTとしたとき、t=T/nによって得ることができる。また、ベースフィルムFの長さLは、特に限定されるものではなく、たとえば1000m≦L≦12000mとする。
【0073】
また、上記第1の実施の形態と同様に、巻芯Sに巻き取ったベースフィルムFは、巻芯Sの温度が低下しないうちにベースフィルムFを熱処理の工程に入れるようにする。好ましくは、巻き取り後の巻芯Sの温度低下を5℃以下に維持して、熱処理の工程に入れるようにする。
【0074】
また、巻芯Sを暖める方法に関しては、公知の手法を用いることができるものとし、たとえば、40℃以上の恒温室に巻芯Sを入れて、40℃以上に暖めるようにしてもよいし、巻芯Sにヒータ等の加熱手段を設けて、40℃以上に暖めるようにしてもよい。また、巻芯Sの外側から赤外線ヒータ等の加熱手段で40℃以上に暖めるようにしてもよいし、巻芯Sを装置にセットするチャッキング部にヒータ等の加熱手段を設けて、40℃以上に暖めるようにしてもよい。
【0075】
また、巻芯Sに加熱手段を設けて暖める場合には、初期は30℃程度にしておき、巻き取り開始後に40℃以上になるように温度制御を行うようにしてもよい。
【0076】
また、本実施の形態では、巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFの温度については、特に限定しないが、巻芯Sに巻き取られるベースフィルムFの温度を制御することにより、30℃以上、より好ましくは40℃としてもよい。この場合、ベースフィルムの長手方向の温度変化は特に限定しない。一定パターンでもよいし、徐々に上げていく形態でもよい。また、徐々に下げてもよいし、上げ下げの組み合わせでもよい。
【0077】
また、本実施の形態では、熱処理工程において、ベースフィルムを50℃以上で熱処理することとしているが、熱処理の温度や時間は特に限定されるものではない。たとえば、50〜120℃の範囲で1〜50時間の範囲で熱処理を行うことが好ましい。
【0078】
また、本実施の形態では、カレンダ処理後に熱処理することから、カレンダ工程でカレンダ処理後のベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ることとしたが、熱処理工程の前の工程がカレンダ工程以外の工程の場合には、その工程でベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取るものとする。たとえば、塗布工程後にベースフィルムFを巻芯に巻き取ったまま熱処理する場合には、塗布処理されたベースフィルムFを巻芯に巻き取る際、40℃以上に暖めた巻芯に巻き取るようにする。また、熱処理の前の工程で巻芯に巻き取られたベースフィルムFを巻戻し、40℃以上に暖めた巻芯に巻き取ってロール状に形成し、熱処理するようにしてもよい。なお、この場合も200≧54000/D+0.007L+106 αという条件を満たすように、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取るものとする。
【0079】
また、本実施の形態では、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で磁気テープを製造する場合を例に説明したが、本発明が適用される磁気テープの製造方法は、これに限定されるものではない。たとえば、[塗布]→<熱処理>→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]→<表面処理・熱処理・サーボライト>→[書き込み]という工程で製造する場合にも同様に適用することができる(<カッコ>内は必要に応じて実施される工程)。
【0080】
<第3の実施の形態>
磁気テープが、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造される点は上記第1の実施の形態と同じである。
【0081】
本実施の形態では、巻芯Sの外径(mm)を 、ベースフィルムFの巻長(m)をL、巻芯Sの円周方向の線膨張係数(/℃)をαとしたとき、200≧54000/D+0.007L+106 αという条件を満たすようにベースフィルムFを巻芯Sに巻き取って熱処理する。そして、熱処理後、ロール状態のベースフィルムFを35℃以上に保って、次のスリット工程の送り出しを行う。
【0082】
上記条件を満たすように、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取ることにより、上記第2の実施の形態と同様に、巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFを熱処理した際、巻芯Sの熱膨張を低くし、かつ、ベースフィルムFの熱収縮による応力を低く抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。
【0083】
また、熱処理後、ロール状態のベースフィルムFを35℃以上に保って、次のスリット工程の送り出しを行うことにより、上記第1の実施の形態と同様に、ベースフィルムFに皺等の変形が生じるのを防止することができるとともに、バック面写りを低減することができる。
【0084】
なお、巻芯Sは、その円周方向の線膨張係数が5×10-6以下で、かつ、円周方向のヤング率が8000kg/mm2 以上の材料で構成することがこのましい。これにより、ロール状態のベースフィルムFを熱処理した際、ベースフィルムFに円筒座屈やシンチングが生じるのを防止することができる。このような材料として、たとえばCFRPを用いることができ、LEX材(登録商標:日本鋳造株式会社)などを用いることができる。
【0085】
また、巻芯Sの構造は、特に限定されず、内部にリブなどの補強が設けられていてもよい。また、円筒部が2重構造になっていてもよい。なお、巻芯Sを上記材料で構成した場合、線膨張率の際による熱変形を抑えるため、ボディと側板とを共に同じ材質とすることが好ましい。また、外周の低熱膨張の材質部を取り外し式のスリーブとしてもよい。また、外形は円筒形でも50μm/Rのクラウン形状になっていてもよい。
【0086】
なお、巻芯Sの径は、特に限定されるものではないが、φ160mm以上とし、好ましくはφ300mm以上、さらに好ましくはφ400mm以上とする。
【0087】
また、ベースフィルムFの厚さtは、特に限定されるものではないが、たとえば5μm以上とする。ベースフィルムFの厚さtは、ベースフィルムFを巻芯Sに巻回する回数をnとし、巻芯Sに巻回されたベースフィルム全体の厚さをTとしたとき、t=T/nによって得ることができる。また、ベースフィルムFの長さLは、特に限定されるものではなく、たとえば、1000m≦L≦12000mとする。
【0088】
また、熱処理の温度や時間は特に限定されるものではないが、50〜120℃の範囲で1〜50時間の範囲で熱処理を行うことが好ましい。
【0089】
また、熱処理後のロール状態のベースフィルムFの温度を管理する方法については、たとえば、ロール状態のベースフィルムFの周囲をシートで覆って35℃以上に保つ方法や35℃以上の別の恒温室に保管するなど種々の保温方法を用いることができる。
【0090】
また、一般に熱処理後のロール状態のベースフィルムFは蓄熱作用により、一定時間は35℃以上に維持することができるので、ロール状態のベースフィルムFが35℃以下に下がらない間に次の工程の送り出しを行ってもよい。また、温度を熱処理の温度から下げる場合は、一様に下げることが好ましい。
【0091】
また、ベースフィルムFを送り出す温度は35℃以上とするが、好ましくは35℃以上で、かつ、熱処理の温度の−30℃以内、さらに好ましくは35℃以上で、かつ、熱処理の温度の−20℃以内とすることが好ましい。
【0092】
なお、裁断装置30では、巻戻しリール22から送り出したベースフィルムFをガイドローラ26によって搬送する過程で冷却し、スリット部24の手前で35℃以下に下がるように制御する。これにより、スリット部24でスリットされるテープ幅の安定性が向上する。
【0093】
巻戻しリール22から送り出されたベースフィルムFを冷却する手段としては、たとえば、走行するベースフィルムFに冷却用のローラを接触させて冷却したり、冷風を当てて冷却したりする方法などが用いられる。
【0094】
また、スリット部24の手前で35℃以下に下がるように制御するのではなく、巻戻しリール22から送り出したベースフィルムFをスリット部24でスリットされるまで35℃以上に維持し、スリット後に室温(たとえば、18〜30℃)にするように制御してもよい。これにより、ハンドリングが安定し、テープ直線性を向上させることができる。
【0095】
また、ベースフィルムFの送り出し部には、ロール状態のベースフィルムFを保温するため、ヒータ等の加熱手段を設置することが好ましい。本実施の形態では、たとえば、巻戻しリール32の近傍にロール状態のベースフィルムFを保温するためのヒータ等の加熱手段を設置する。
【0096】
また、本実施の形態では、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で磁気テープを製造する場合を例に説明したが、本発明が適用される磁気テープの製造方法は、これに限定されるものではない。たとえば、[塗布]→<熱処理>→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]→<表面処理・熱処理・サーボライト>→[書き込み]という工程で製造する場合にも同様に適用することができる(<カッコ>内は必要に応じて実施される工程)。
【0097】
また、本実施の形態では、カレンダ処理後に熱処理することから、カレンダ工程でカレンダ処理されたベースフィルムFを200≧54000/D+0.007L+106 αという条件を満たすように巻芯Sに巻き取ることとしているが、熱処理工程の前の工程がカレンダ工程以外の工程の場合には、その工程で上記条件式を満たすようにベースフィルムFを巻芯Sに巻き取るものとする。たとえば、塗布工程後にベースフィルムFを巻芯に巻き取ったまま熱処理する場合には、塗布処理されたベースフィルムFを巻芯に巻き取る際、上記条件式を満たすように巻芯に巻き取るようにする。また、熱処理の前の工程で巻芯に巻き取られたベースフィルムFを巻戻し、上記条件式を満たすように巻芯Sに巻き取るようにしてもよい。
【0098】
また、本実施の形態では、ベースフィルムが熱処理後にスリットされる場合を例に説明したが、本発明は、熱処理後に他の処理が行われる場合にも同様に適用することができる。たとえば、熱処理後に巻返し処理が行われる場合にも同様に適用することができる。この場合も熱処理後のロール状のベースフィルムを35℃以上に保って巻返し処理部の送り出しを行い、巻返し処理を行うようにする。
【0099】
<第4の実施の形態>
磁気テープが、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造される点は上記第1の実施の形態と同じである。
【0100】
本実施の形態では、200≧54000/D+0.007L+106 αという条件を満たすように、カレンダ処理後のベースフィルムFを巻芯Sに巻き取って熱処理する。この際、ベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ってロール状に形成し、50℃以上で熱処理する。そして、熱処理後、ロール状態のベースフィルムFを35℃以上に保って、次のスリット工程の送り出しを行う。
【0101】
熱処理するベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ってロール状に形成し、熱処理することにより、上記第1の実施の形態と同様に、熱処理時における巻芯Sの温度変化を小さくでき、巻芯Sの熱膨張を抑止することができる。この結果、巻芯Sの熱膨張による面圧の上昇を抑制でき、バック面写りを抑止できる。
【0102】
また、上記条件を満たすように、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取ることにより、上記第2の実施の形態と同様に、その巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFを熱処理した際、巻芯Sの熱膨張を低くし、かつ、ベースフィルムFの熱収縮による応力を低く抑えることができ、バック面写りを抑制することができる。
【0103】
また、熱処理後、ロール状態のベースフィルムFを35℃以上に保って、次のスリット工程の送り出しを行うことにより、上記第1の実施の形態と同様に、ベースフィルムFに皺等の変形が生じるのを防止することができるとともに、バック面写りを低減させることができる。
【0104】
なお、巻芯Sは、その円周方向の線膨張係数が5×10-6以下で、かつ、円周方向のヤング率が8000kg/mm2 以上の材料で構成することがこのましい。これにより、ロール状態のベースフィルムFを熱処理した際、ベースフィルムFに円筒座屈やシンチングが生じるのを防止することができる。このような材料として、たとえばCFRPを用いることができ、LEX材(登録商標:日本鋳造株式会社)などを用いることができる。
【0105】
また、巻芯Sの構造は、特に限定されず、内部にリブなどの補強が設けられていてもよい。また、円筒部が2重構造になっていてもよい。なお、巻芯Sを上記材料で構成した場合、線膨張率の際による熱変形を抑えるため、ボディと側板とを共に同じ材質とすることが好ましい。また、外周の低熱膨張の材質部を取り外し式のスリーブとしてもよい。また、外形は円筒形でも50μm/Rのクラウン形状になっていてもよい。
【0106】
なお、巻芯Sの径は、特に限定されるものではないが、φ160mm以上とし、好ましくはφ300mm以上、さらに好ましくはφ400mm以上とする。
【0107】
また、ベースフィルムFの厚さtは、特に限定されるもではないが、たとえば5μm以上とする。ベースフィルムFの厚さtは、ベースフィルムFを巻芯Sに巻回する回数をnとし、巻芯Sに巻回されたベースフィルム全体の厚さをTとしたとき、t=T/nによって得ることができる。また、ベースフィルムFの長さLは、特に限定されるものではなく、たとえば1000m≦L≦12000mとする。
【0108】
また、巻芯Sに巻き取ったベースフィルムFは、巻芯Sの温度が低下しないうちにベースフィルムFを熱処理の工程に入れるようにする。好ましくは、巻き取り後の巻芯Sの温度低下を5℃以下に維持して、熱処理の工程に入れるようにする。
【0109】
また、巻芯Sを暖める方法に関しては、公知の手法を用いることができるものとし、たとえば、40℃以上の恒温室に巻芯Sを入れて、40℃以上に暖めるようにしてもよいし、巻芯Sにヒータ等の加熱手段を設けて、40℃以上に暖めるようにしてもよい。また、巻芯Sの外側から赤外線ヒータ等の加熱手段で40℃以上に暖めるようにしてもよいし、巻芯Sを装置にセットするチャッキング部にヒータ等の加熱手段を設けて、40℃以上に暖めるようにしてもよい。
【0110】
また、巻芯Sに加熱手段を設けて暖める場合には、初期は30℃程度にしておき、巻き取り開始後に40℃以上になるように温度制御を行うようにしてもよい。
【0111】
また、巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFの温度については、特に限定しないが、巻芯Sに巻き取られるベースフィルムFの温度を制御することにより、30℃以上、より好ましくは40℃としてもよい。この場合、ベースフィルムの長手方向の温度変化は特に限定しない。一定パターンでもよいし、徐々に上げていく形態でもよい。また、徐々に下げてもよいし、上げ下げの組み合わせでもよい。
【0112】
また、本実施の形態では、熱処理工程において、ベースフィルムを50℃以上で熱処理することとしているが、熱処理の温度や時間は特に限定されるものではない。たとえば、50〜120℃の範囲で1〜50時間の範囲で熱処理を行うことが好ましい。
【0113】
また、熱処理後のロール状態のベースフィルムFの温度を管理する方法については、たとえば、ロール状態のベースフィルムFの周囲をシートで覆って35℃以上に保つ方法や35℃以上の別の恒温室に保管するなど種々の保温方法を用いることができる。
【0114】
また、一般に熱処理後のロール状態のベースフィルムFは蓄熱作用により、一定時間は35℃以上に維持することができるので、ロール状態のベースフィルムFが35℃以下に下がらない間に次の工程の送り出しを行ってもよい。また、温度を熱処理の温度から下げる場合は、一様に下げることが好ましい。
【0115】
また、ベースフィルムFを送り出す温度は35℃以上とするが、好ましくは35℃以上で、かつ、熱処理の温度の−30℃以内、さらに好ましくは35℃以上で、かつ、熱処理の温度の−20℃以内とすることが好ましい。
【0116】
なお、裁断装置30では、巻戻しリール22から送り出したベースフィルムFをガイドローラ26によって搬送する過程で冷却し、スリット部24の手前で35℃以下に下がるように制御する。これにより、スリット部24でスリットされるテープ幅の安定性が向上する。
【0117】
巻戻しリール22から送り出されたベースフィルムFを冷却する手段としては、たとえば、走行するベースフィルムFに冷却用のローラを接触させて冷却したり、冷風を当てて冷却したりする方法などが用いられる。
【0118】
また、スリット部24の手前で35℃以下に下がるように制御するのではなく、巻戻しリール22から送り出したベースフィルムFをスリット部24でスリットされるまで35℃以上に維持し、スリット後に室温(たとえば、18〜30℃)にするように制御してもよい。これにより、ハンドリングが安定し、テープ直線性が向上する。
【0119】
また、ベースフィルムFの送り出し部には、ロール状態のベースフィルムFを保温するため、ヒータ等の加熱手段を設置することが好ましい。本実施の形態では、たとえば、巻戻しリール32の近傍にロール状態のベースフィルムFを保温するためのヒータ等の加熱手段を設置する。
【0120】
また、本実施の形態では、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で磁気テープを製造する場合を例に説明したが、本発明が適用される磁気テープの製造方法は、これに限定されるものではない。たとえば、[塗布]→<熱処理>→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]→<表面処理・熱処理・サーボライト>→[書き込み]という工程で製造する場合にも同様に適用することができる(<カッコ>内は必要に応じて実施される工程)。
【0121】
なお、本実施の形態では、カレンダ処理後に熱処理することから、カレンダ工程でカレンダ処理後のベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取ることとしたが、熱処理工程の前の工程がカレンダ工程以外の工程の場合には、その工程でベースフィルムFを40℃以上に暖めた巻芯Sに巻き取るものとする。たとえば、塗布工程後にベースフィルムFを巻芯に巻き取ったまま熱処理する場合には、塗布処理されたベースフィルムFを巻芯に巻き取る際、40℃以上に暖めた巻芯に巻き取るようにする。また、熱処理の前の工程で巻芯に巻き取られたベースフィルムFを巻戻し、40℃以上に暖めた巻芯に巻き取ってロール状に形成し、熱処理するようにしてもよい。なお、この場合も200≧54000/D+0.007L+106 αという条件を満たすように、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取るものとする。
【0122】
また、本実施の形態では、ベースフィルムが熱処理後にスリットされる場合を例に説明したが、本発明は、熱処理後に他の処理が行われる場合にも同様に適用することができる。たとえば、熱処理後に巻返し処理が行われる場合にも同様に適用することができる。この場合も熱処理後のロール状のベースフィルムを35℃以上に保って巻返し処理部の送り出しを行うようにする。
【0123】
<第5の実施の形態>
本実施の形態の磁気記録媒体の製造方法は、上述した第1、第2、第3又は第4の実施の形態の磁気記録媒体の製造方法にベースフィルムの熱収縮率を下げる方法を組み合わせたものである。
【0124】
ベースフィルムの熱収縮率を下げる方法としては、たとえば、特開2000−105921号公報に記載された方法を用いるものとする。この方法は、ベースフィルムに磁性層及びバックコート層を塗布形成後、連続的に1.0〜4.0kg/mのテンションをかけながら1.0〜10.0秒、95〜140℃の温度で熱処理を行い(第1の熱処理)、その後、第1の熱処理の温度よりも低い温度でベースフィルムをカレンダ処理するものである。
【0125】
図4は、上記の塗布処理と熱処理(第1の熱処理)を行うための塗布装置の概略構成を示す図である。同図に示すように、この塗布装置50は、ベースフィルムFの原反からベースフィルムFを送り出す送出部52と、送出部52から送り出されたベースフィルムFの一方の面に磁性層を塗布形成する磁性層塗布部54と、磁性層が塗布形成されたベースフィルムFを乾燥する第1乾燥ゾーン56と、ベースフィルムFの他方の面にバックコート層を塗布形成するバックコート層塗布部58と、バックコート層が塗布形成されたベースフィルムFを乾燥、熱処理する第2乾燥・熱処理ゾーン60と、乾燥、熱処理されたベースフィルムFを巻芯に巻き取る巻取部62とで構成されている。
【0126】
送出部52と磁性層塗布部54との間、磁性層塗布部54と第1乾燥ゾーン56との間、第1乾燥ゾーン56とバックコート層塗布部58との間、バックコート層塗布部58と第2乾燥・熱処理ゾーン60との間、第2乾燥・熱処理ゾーン60と巻取部62との間には、それぞれ溝付き吸引ドラム64が設置されている。この溝付き吸引ドラム64は、駆動した搬送ドラム表面にベースフィルムFを吸引保持するために、駆動搬送ローラ表面に軸方向に沿った多数の溝と、この溝に連通した多数の貫通孔を設け、ドラム軸より吸引することによって負圧にした搬送ドラムである。塗布装置50は、この溝付き吸引ドラム64の吸引力及び回転速度を制御することにより、各処理ゾーン(送出部52と磁性層塗布部54との間、磁性層塗布部54と第1乾燥ゾーン56との間、第1乾燥ゾーン56とバックコート層塗布部58との間、バックコート層塗布部58と第2乾燥・熱処理ゾーン60との間、第2乾燥・熱処理ゾーン60と巻取部62との間)におけるテンションを個別に調整する。
【0127】
なお、このようにベースフィルムFのテンションを調整する方式は、一般にドロー方式と呼ばれるが、ダンサー方式等の他の方式を用いて調整するようにしもよい。
【0128】
以上のように構成された塗布装置50において、ベースフィルムFは、送出部52から送り出され、磁性層塗布部54で一方の面に磁性層が塗布形成されたのち、第1乾燥ゾーン56で乾燥され、その後、バックコート層塗布部58で他方の面にバックコート層が塗布形成される。この後、第2乾燥・熱処理ゾーン60において、連続的に1.0〜4.0kg/mのテンションをかけられながら、1.0〜10.0秒、95〜140℃の温度で熱処理(第1の熱処理)され、巻取部62で巻芯に巻き取られる。
【0129】
塗布装置50で磁性層及びバックコート層が塗布形成されたベースフィルムFは、この後、カレンダ装置10によりカレンダ処理される。この際、カレンダ装置10は、前記第1の熱処理の熱処理温度よりも低い温度でベースフィルムFをカレンダ処理する。
【0130】
このように、全ての塗布が終了したベースフィルムを上記条件で熱処理し、その後、その熱処理の温度よりも低い温度でカレンダ処理することにより、熱収縮率が小さい磁気記録媒体を効率良く得ることができる。そして、この熱収縮率を下げる方法を上記第1、第2、第3又は第4の実施の形態の磁気記録媒体の製造方法に組み合わせることにより、さらに製品に品質を向上させることができる。
【0131】
なお、ベースフィルムの熱収縮率を下げる方法は、これに限定されるものではなく、他の方式を用いてもよい。
【0132】
また、図4に示した塗布装置の構成は一例であり、他の構成の塗布装置を用いてもよい。たとえば、図4に示した塗布装置では、第2乾燥ゾーンと熱処理ゾーンとが一体的に構成されているが、第2乾燥ゾーンと熱処理ゾーンとが独立した構成の塗布装置を用いてもよい。
【0133】
また、上述した一連の実施の形態によって得られる磁気テープの利用分野は、特に限定されないが、たとえばコンピュータデータのバックアップなどに使用される磁気テープに使用することで効果を得ることができる。
【0134】
以下、このコンピュータデータのバックアップなどに使用される磁気テープについて説明する。この場合、磁気テープは、基本的にベースフィルムの一方の面に磁性層、他方の面にバックコート層を有する構成のものを意味し、たとえばベースフィルムと磁性層との間に更に非磁性層を設けた構成の磁気テープであってもよい。また、両面が磁性層のものであってもよい。
【0135】
ベースフィルムとしては、従来から磁気テープのベースフィルム材料として用いられているものを使用することができ、特に非磁性のものが好ましい。これらの例としては、ポリエステル類(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの混合物、エチレンテレフタレート成分とエチレンナフタレート成分を含む重合物)、ポリオレフィン類(例、ポリプロピレン)、セルロース誘導体類(例、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート)、ポリカーボネート、ポリアミド(中でも芳香族ポリアミド、アラミド)、ポリイミド(中でも全芳香族ポリイミド)などの合成樹脂フィルムを挙げることができる。これらの中では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリアミド及びアラミドが好ましい。
【0136】
ベースフィルムの厚みは、特に制限はないが、2〜8μm(更に好ましくは、3〜8μm、特に好ましくは、3〜7μm)の範囲にあることが好ましい。
【0137】
磁性層は、基本的には強磁性粉末及び結合剤から形成されている。また、磁性層には、通常、さらに潤滑剤、導電性粉末としてカーボンブラック、そして研磨剤が含有されている。
【0138】
強磁性粉末としては、たとえばγ−Fe2 3 、Fe3 4 、FeOx (x=1.33〜1.5)、CrO2 、Co含有γ−Fe2 3 、Co含有FeOx (x=1.33〜1.5)、強磁性金属粉末及び板状六方晶フェライト粉末を挙げることができる。本発明においては、強磁性粉末として、強磁性金属粉末又は板状六方晶フェライト粉末の使用が好ましい。特に好ましくは強磁性金属粉末である。
【0139】
強磁性金属粉末は、その粒子の比表面積が好ましくは30〜70m2 /gであって、X線回折法から求められる結晶子サイズは、50〜300Aである。比表面積が余り小さいと高密度記録に充分に対応できなくなり、余り大き過ぎても分散が充分に行えず、従って平滑な面の磁性層が形成できなくなるため同様に高密度記録に対応できなくなる。強磁性金属粉末は、少なくともFeを含むことが必要であり、具体的には、Fe、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Zn−Ni又はFe−Ni−Coを主体とした金属単体あるいは合金である。またこれらの強磁性金属粉末の磁気特性については、高い記録密度を達成するために、その飽和磁化量(σs )は110emu/g以上、好ましくは120emu/g以上、170emu/g以下である。又保磁力(Hc)は、800〜3000エルステッド(Oe)(好ましくは、1500〜2500Oe)の範囲である。そして、透過型電子顕微鏡により求められる粉末の長軸長(すなわち、平均粒子径)は、0.5μm以下、好ましくは、0.01〜0.3μmで軸比(長軸長/短軸長、針状比)は、5以上、20以下、好ましくは、5〜15である。更に特性を改良するために、組成中にB、C、Al、Si、P等の非金属、もしくはその塩、酸化物が添加されることもある。通常、前記金属粉末の粒子表面は、化学的に安定化させるために酸化物の層が形成されている。
【0140】
また、板状六方晶フェライト粉末は、その比表面積は25〜65m2 /gであって、板状比(板径/板厚)が2〜15、板径は0.02〜1.0μmである。板状六方晶フェライト粉末は、強磁性金属粉末と同じ理由から、その粒子サイズが大きすぎても小さすぎても高密度記録が難しくなる。板状六方晶フェライトとしては、平板状でその平板面に垂直な方向に磁化容易軸がある強磁性体であって、具体的には、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、及びそれらのコバルト置換体等を挙げることができる。これらの中では、特にバリウムフェライトのコバルト置換体、ストロンチウムフェライトのコバルト置換体が好ましい。本発明で用いる板状六方晶フェライトには、更に必要に応じてその特性を改良するためにIn、Zn、Ge、Nb、V等の元素を添加してもよい。また、これらの板状六方晶フェライト粉末の磁気特性については、高い記録密度を達成するために、前記のような粒子サイズが必要であると同時に飽和磁化(σs )は少なくとも50emu/g以上、好ましくは53emu/g以上である。また、保磁力は、700〜2000エルステッド(Oe)の範囲であり、900〜1600Oeの範囲であることが好ましい。
【0141】
上記の強磁性粉末の含水率は0.01〜2重量%とすることが好ましい。また結合剤の種類によって含水率を最適化することが好ましい。強磁性粉末のpHは用いる結合剤との組み合わせにより最適化することが好ましく、そのpHは通常4〜12の範囲であり、好ましくは5〜10の範囲である。強磁性粉末は、必要に応じて、Al、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処理を施してもよい。表面処理を施す際のその使用量は、通常強磁性粉末に対して、0.1〜10重量%である。表面処理を施すことにより、脂肪酸などの潤滑剤の吸着を100mg/m2 以下に抑えることができる。強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、及びSrなどの無機イオンが含まれる場合があるが、その含有量は5000ppm以下であれば特性に影響を与えることはない。
【0142】
潤滑剤は、磁性層表面ににじみ出ることによって、磁性層表面と磁気ヘッド、ドライブのガイドポールとシリンダとの間の摩擦を緩和し、摺接状態を円滑に維持させるために添加される。潤滑剤としては、たとえば、脂肪酸、あるいは脂肪酸エステルを挙げることができる。脂肪酸としては、たとえば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、アラキン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、及びパルミトレイン酸等の脂肪族カルボン酸またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0143】
また、脂肪酸エステルとしては、たとえばブチルステアレート、sec −ブチルステアレート、イソプロピルステアレート、ブチルオレエート、アミルステアレート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−ヘキシルデシルステアレート、ブチルパルミテート、2−エチルヘキシルミリステート、ブチルステアレートとブチルパルミテートの混合物、オレイルオレエート、ブトキシエチルステアレート、2−ブトキシ−1−プロピルステアレート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルをステアリン酸でアシル化したもの、ジエチレングリコールジパルミテート、ヘキサメチレンジオールをミリスチン酸でアシル化してジオールとしたもの、そしてグリセリンのオレエート等の種々のエステル化合物を挙げることができる。これらのものは、単独あるいは組み合わせて使用することができる。潤滑剤の通常の含有量は、磁性層の強磁性粉末100重量部に対して、0.2〜20重量部(好ましくは0.5〜10重量部)の範囲である。
【0144】
カーボンブラックは、磁性層の表面電気抵抗(Rs )の低減、動摩擦係数(μK 値)の低減、走行耐久性の向上、及び磁性層の平滑な表面性を確保する等の種々の目的で添加される。カーボンブラックは、その平均粒子径が3〜350nm(更に好ましくは、10〜300nm)の範囲にあることが好ましい。また、その比表面積は、5〜500m2 /g(更に好ましくは、50〜300m2 /g)であることが好ましい。DBP吸油量は、10〜1000mL/100g(更に好ましくは、50〜300mL/100g)の範囲にあることが好ましい。またpHは、2〜10、含水率は、0.1〜10%、そしてタップ密度は、0.1〜1g/ccであることが好ましい。
【0145】
カーボンブラックは、さまざまな製法で得たものが使用できる。使用できるカーボンブラックの例としては、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック及びランプブラックを挙げることができる。カ−ボンブラックの具体的な商品例としては、BLACKPEARLS2000、1300、1000、900、800、700、VULCANXC−72(以上、キャボット社製)、#35、#50、#55、#60及び#80(以上、旭カ−ボン(株)製)、#3950B、#3750B、#3250B、#2400B、#2300B、#1000、#900、#40、#30、及び#10B(以上、三菱化学(株)製)、CONDUCTEXSC、RAVEN150、50、40、15(以上、コロンビアカ−ボン社製)、ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックECDJ−500およびケッチェンブラックECDJ−600(以上、ライオンアグゾ(株)製)を挙げることができる。カーボンブラックの通常の添加量は、強磁性粉末100重量部に対して0.1〜30重量部であり、好ましくは0.2〜15重量部の範囲である。
【0146】
研磨剤としては、たとえば溶融アルミナ、炭化珪素、酸化クロム(Cr2 3 )、コランダム、人造コランダム、ダイアモンド、人造ダイアモンド、ザクロ石、エメリー(主成分:コランダムと磁鉄鉱)を挙げることができる。これらの研磨剤は、モース硬度5以上(好ましくは、6以上)であり、平均粒子径が、0.05〜1μm(更に好ましくは、0.2〜0.8μm)の大きさのものが好ましい。研磨剤の添加量は通常、強磁性粉末100重量部に対して、3〜25重量部(好ましくは、3〜20重量部)の範囲である。
【0147】
磁性層の結合剤としては、たとえば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。熱可塑性樹脂の例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコ−ル、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、及びビニルエーテルを構成単位として含む重合体、あるいは共重合体を挙げることができる。共重合体としては、たとえば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル−スチレン共重合体、メタアクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、メタアクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタアクリル酸エステル−スチレン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロビニルエーテル−アクリル酸エステル共重合体を挙げることができる。
【0148】
上記の他にポリアミド樹脂、繊維素系樹脂(セルロースアセテートブチレート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロースなど)、ポリ弗化ビニル、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂なども利用することができる。
【0149】
また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、たとえばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とポリイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物を挙げることができる。
【0150】
上記ポリイソシアネートとしては、たとえばトリレンジイソシアネート、4−4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのイソシアネート類、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、及びイソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネ−トを挙げることができる。
【0151】
上記ポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、及びポリカプロラクトンポリウレタンなどの構造を有する公知のものが使用できる。
【0152】
本発明において、磁性層の結合剤は、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、及びニトロセルロースの中から選ばれる少なくとも1種の樹脂と
、ポリウレタン樹脂との組み合わせ、又は、これらに更にポリイソシアネートを組み合わせて構成することが好ましい。
【0153】
結合剤としては、より優れた分散性と得られる層の耐久性を得るために必要に応じて、−COOM、−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)2 、−O−P=O(OM)2 (Mは水素原子、またはアルカリ金属塩基を表わす。)、−OH、−NR2 、−N+ R3 (Rは炭化水素基を表わす。)、エポキシ基、−SH、−CNなどから選ばれる少なくとも一つの極性基を共重合または付加反応で導入して用いることが好ましい。このような極性基は、結合剤に10-1〜10-8モル/g(更に好ましくは、10-2〜10-6モル/g)の量で導入されていることが好ましい。
【0154】
磁性層の結合剤は、強磁性粉末100重量部に対して、通常5〜50重量部(好ましくは10〜30重量部)の範囲で用いられる。なお、磁性層に結合剤として塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソシアネートを組み合わせて用いる場合は、全結合剤中に、塩化ビニル系樹脂が5〜70重量%、ポリウレタン樹脂が2〜50重量%、そしてポリイソシアネートが2〜50重量%の範囲の量で含まれるように用いることが好ましい。
【0155】
磁気テープの磁性層を形成するための塗布液には、磁性粉末を結合剤中に良好に分散させるために、分散剤を添加することができる。また必要に応じて、可塑剤、カーボンブラック以外の導電性粒子(帯電防止剤)、防黴剤などを添加することもできる。分散剤としては、たとえば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(RCOOH、Rは炭素数11〜17個のアルキル基、又はアルケニル基)、前記脂肪酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる金属石けん、前記の脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、前記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンは、エチレン、プロピレンなど)、硫酸塩、及び銅フタロシアニン等を使用することができる。これらは、単独でも組み合わせて使用しても良い。分散剤は、磁性層の結合剤100重量部に対して通常0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0156】
次に、バックコート層について説明する。バックコート層は、カーボンブラックと結合剤とから形成されていることが好ましい。また、無機粉末や潤滑剤が更に添加されていることが好ましい。
【0157】
カーボンブラックは、平均粒子サイズの異なる二種類のものを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、平均粒子サイズが10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子サイズが230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは一般に液体潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。一方、粒子サイズが230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックは、固体潤滑剤としての機能を有しており、またバック層の表面に微小突起を形成し、接触面積を低減化して、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0158】
微粒子状カーボンブラックの具体的な商品としては、以下のものを挙げることができる。RAVEN2000B(18nm)、RAVEN1500B(17nm)(以上、コロンビアカーボン社製)、BP800(17nm)(キャボット社製)、PRINTEX90(14nm)、PRINTEX95(15nm)、PRINTEX85(16nm)、
PRINTEX75(17nm)(以上、デグサ社製)、#3950(16nm)(三菱化学(株)製)。また粗粒子状カーボンブラックの具体的な商品の例としては、サーマルブラック(270nm)(カーンカルブ社製)、RAVENMTP(275nm)(コロンビアカーボン社製)を挙げることができる。
【0159】
バックコート層において、平均粒子サイズの異なる二種類のものを使用する場合、10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックの含有比率(重量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは、95:5〜85:15の範囲である。バックコート層中のカーボンブラック(その全量)の含有量は、結合剤100重量部に対して、通常30〜110重量部の範囲であり、好ましくは、50〜90重量部の範囲である。
【0160】
無機粉末は、硬さの異なる二種類のものを併用することが好ましい。具体的には、モース硬度3〜4.5の軟質無機粉末とモース硬度5〜9の硬質無機粉末とを使用することが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末を添加することで、繰り返し走行による摩擦係数の安定化を図ることができる。しかもこの範囲の硬さでは、摺動ガイドポールが削られることもない。また軟質無機粉末の平均粒子サイズは、30〜50nmの範囲にあることが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末としては、たとえば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、及び酸化亜鉛を挙げることができる。これらは、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、特に、炭酸カルシウムが好ましい。バックコート層内の軟質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100重量部に対して10〜140重量部の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、35〜100重量部の範囲である。
【0161】
モース硬度が5〜9の硬質無機粉末を添加することにより、バックコート層の強度が強化され、走行耐久性が向上する。これをカーボンブラックと共に使用すると、繰り返し摺動に対しても劣化が少なく、強いバックコート層となる。またこの無機粉末の添加により、適度の研磨力が付与され、テープガイドポール等への削り屑の付着が低減する。硬質無機粉末は、その平均粒子サイズが80〜250nm(更に好ましくは、100〜210nm)の範囲にあることが好ましい。
【0162】
モース硬度が5〜9の硬質無機質粉末としては、たとえばα−酸化鉄、α−アルミナ、及び酸化クロム(Cr2 3 )を挙げることができる。これらの粉末は、それぞれ単独で用いても良いし、あるいは併用しても良い。これらの内では、α−酸化鉄又はα−アルミナが好ましい。硬質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100重量部に対して通常3〜30重量部の範囲であり、好ましくは、3〜20重量部の範囲である。
【0163】
バックコート層には、潤滑剤を含有させることができる。潤滑剤は、磁性層に記載した潤滑剤の中から適宜選択して使用できる。バックコート層において、潤滑剤は結合剤100重量部に対して通常1〜5重量部の範囲で添加される。また、バックコート層に、磁性層に記載した分散剤を添加することもできる。分散剤の添加量は、磁性層に添加する量と同様な量とすることができる。
【0164】
バックコート層の結合剤は、前記磁性層に記載した結合剤を使用することができる。使用できる結合剤としては、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及び硬化剤としてのポリイソシアネートを挙げることができる。バックコート層の結合剤はカーボンブラック100重量部に対して、通常5〜250重量部(好ましくは、10〜200重量部)である。
【0165】
上記のように、本発明の磁気テープは、ベースフィルムと磁性層との間に非磁性層が設けられた構成のものであってもよい。すなわち、ベースフィルムの一方側の面に非磁性層と磁性層とをこの順に有し、他方側の面にバックコート層を有する構成の磁気テープであってもよい。
【0166】
非磁性層は、非磁性粉末及び結合剤を含む実質的に非磁性の層である。この非磁性層は、その上の磁性層の電磁変換特性に影響を与えないように実質的に非磁性であることが必要であるが、磁性層の電磁変換特性に影響を与えない程度に少量の磁性粉末が含有されていても特に問題にはならない。また、通常、非磁性層には、これらの成分以外に潤滑剤が含まれている。
【0167】
非磁性層で用いられる非磁性粉末としては、たとえば、非磁性無機粉末、カーボンブラックを挙げることができる。非磁性無機粉末は、比較的硬いものが好ましく、モース硬度が5以上(更に好ましくは、6以上)のものが好ましい。非磁性無機粉末の例としては、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、二酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び硫酸バリウムを挙げることができる。これらは単独でまたは組み合わせて使用することができる。これらのうちでは、二酸化チタン、α−アルミナ、α−酸化鉄、又は酸化クロムが好ましい。非磁性無機粉末の平均粒子径は、0.01〜1.0μm(好ましくは、0.01〜0.5μm、特に、0.02〜0.1μm)の範囲にあることが好ましい。
【0168】
カーボンブラックは、磁性層に導電性を付与して帯電を防止すると共に、非磁性層上に形成される磁性層の平滑な表面性を確保する目的で添加される。非磁性層で用いるカーボンブラックは、前記の磁性層に記載したカーボンブラックを使用することができる。但し、非磁性層で使用するカーボンブラックは、その平均粒子径が35nm以下(更に好ましくは、10〜35nm)であることが好ましい。カーボンブラックの通常添加量は、非磁性層に、全非磁性無機粉末100重量部に対して、3〜20重量部であり、好ましくは、4〜18重量部、更に好ましくは、5〜15重量部である。
【0169】
潤滑剤としては、前記の磁性層にて記載した脂肪酸、あるいは脂肪酸エステルを使用することができる。潤滑剤の添加量は、非磁性層の全非磁性粉末100重量部に対して、通常0.2〜20重量部の範囲である。
【0170】
非磁性層の結合剤としては、前述した磁性層にて記載した結合剤を使用することができる。結合剤は、非磁性層の非磁性粉末100重量部に対して、通常5〜50重量部(好ましくは10〜30重量部)の範囲で用いられる。なお、非磁性層に結合剤として塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソシアネートを組み合わせて用いる場合は、全結合剤中に、塩化ビニル系樹脂が5〜70重量%、ポリウレタン樹脂が2〜50重量%、そしてポリイソシアネートが2〜50重量%の範囲の量で含まれるように用いることが好ましい。なお、非磁性層においても前記の磁性層に添加することができる任意成分を添加してもよい。
【0171】
非磁性層を有する態様の磁気テープの場合に、磁性層及び非磁性層の形成方法は特に限定されないが、磁性層は、非磁性層用塗布液をベースフィルム上に塗布後、形成された塗布層(非磁性層)が湿潤状態にあるうちにこの上に磁性層用塗布液を塗布する、所謂ウエット・オン・ウエット方式による塗布方法を利用して形成されたものであることが好ましい。
【0172】
上記ウエット・オン・ウエット方式による塗布方法としては、たとえば以下の方法を挙げることができる。
【0173】
(1)グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、あるいはエクストルージョン塗布装置などを用いて、ベースフィルム上にまず非磁性層を形成し、該非磁性層が湿潤状態にあるうちに、ベースフィルム加圧型エクストルージョン塗布装置により、磁性層を形成する方法(特開昭60−238179号、特公平1−46186号、及び特開平2−265672号公報参照)。
【0174】
(2)二つの塗布液用スリットを備えた単一の塗布ヘッドからなる塗布装置を用いてベースフィルム上に磁性層、及び非磁性層をほぼ同時に形成する方法(特開昭63−88080号、特開平2−17921号、及び特開平2−265672号各公報参照)。
【0175】
(3)バックアップローラ付きエクストルージョン塗布装置を用いて、ベースフィルム上に磁性層及び非磁性層をほぼ同時に形成する方法(特開平2−174965号公報参照)。非磁性層及び磁性層は同時重層塗布法を利用して形成することが好ましい。
【0176】
磁気テープのバックコート層の表面は、テープが巻かれた状態で磁性層の表面に転写される傾向にある。このためバックコート層の表面も比較的高い平滑性を有していることが好ましい。磁気テープのバックコート層の表面は、その表面粗さRa(カットオフ0.08mmの中心線平均粗さ)が、0.003〜0.060μmの範囲にあるように調整されていることが好ましい。なお、表面粗さは、通常塗膜形成後、カレンダによる表面処理工程において、用いるカレンダローラの材質、その表面性、そして圧力、速度等により、調節することができる。
【0177】
本発明の製造方法に従って製造される、ベースフィルムの一方の側に磁性層を、他方の側にバックコート層を有する単層構成の磁気テープの磁性層は、その厚みが、1.0〜3.0μm(さらに好ましくは、1.5〜2.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0178】
また、この構成の磁気テープの全体の厚みは4.0〜12.0μm、さらに好ましくは、4.0〜10.0μm)の範囲にあることが好ましい。
【0179】
また、バックコート層の厚みは、0.1〜1.0μm(さらに好ましくは、0.2〜0.8μm)の範囲にあることが好ましい。
【0180】
非磁性層を有する構成の磁気テープの磁性層は、その厚みが、0.01〜1.0μm(更に好ましくは、0.05〜0.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0181】
また、非磁性層の厚みは、0.01〜3.0μm(更に好ましくは、0.5〜2.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0182】
磁性層の厚みと非磁性層の厚みとの比は、1:2〜1:15(更に好ましくは、1:5〜1:12)の範囲にあることが好ましい。
【0183】
非磁性層を有する構成の磁気テープの全体の厚み及びバックコート層の厚みは、前記の単層構成の磁気テープと同じ範囲にあることが好ましい。
【実施例】
【0184】
5000mのベースフィルムの原反を塗布、カレンダ処理後、以下の各条件で熱処理、スリットし、製造された磁気テープをLTO(Linear Tape-Open)ドライブを用いてエラー検査を実施、評価した。
【0185】
実施例1:条件ナシ、実施例2:条件A、実施例3:条件B、実施例4:条件C、実施例5:条件A+条件B、実施例6:条件B+条件C、実施例7:条件A+条件B+条件C、実施例8:条件A+条件B+条件C+条件D
条件A:熱処理後、ロール状態のベースフィルムを35℃以上に保ってスリット工程の送り出しを行う。
【0186】
条件B:熱処理するベースフィルムを40℃以上に暖めた巻芯に巻き取ってロール状に形成し、熱処理する。
【0187】
条件C:カレンダ処理後のベースフィルムを200≧54000/D+0.007L+106 αという条件を満たすように巻芯に巻き取ってロール状に形成し、熱処理する。
【0188】
条件D:ベースフィルムの熱収縮率を下げる方法を組み合わせる。
【0189】
結果を表1に示す。
【0190】
【表1】

表1に示すように、条件A、B、Cを単独で実施することによってもエラー低減効果が確認されたが、2つの条件を組み合わせて実施することにより、さらにエラー低減効果が向上することが確認され、3つの条件を組み合わせて実施することにより、さらにエラー低減効果が向上することが確認された。また、さらに条件Dを組み合わせて実施することにより、さらにエラー低減効果が向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】カレンダ工程の説明図
【図2】熱処理工程の説明図
【図3】裁断装置の概略構成図
【図4】塗布装置の概略構成図
【符号の説明】
【0192】
F…ベースフィルム、S…巻芯、10…カレンダ装置、20…恒温室、30…裁断装置、34…スリット部、50…塗布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、
前記ベースフィルムを40℃以上に暖めた前記巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを50℃以上で熱処理し、熱処理後、前記巻芯に巻き取られた状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、
前記ベースフィルムを40℃以上に暖めた前記巻芯に巻き取って下記条件を満たすロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを50℃以上で熱処理することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
200≧54000/D+0.007L+106 α
:巻芯の外径(mm)
L:ベースフィルムの巻長(m)
α:巻芯の円周方向の線膨張係数(/℃)
【請求項3】
帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、
前記ベースフィルムを巻芯に巻き取って下記条件を満たすロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理し、熱処理後、前記巻芯に巻き取られた状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
200≧54000/D+0.007L+106 α
:巻芯の外径(mm)
L:ベースフィルムの巻長(m)
α:巻芯の円周方向の線膨張係数(/℃)
【請求項4】
帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、
前記ベースフィルムを40℃以上に暖めた前記巻芯に巻き取って下記条件を満たすロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを50℃以上で熱処理し、熱処理後、前記巻芯に巻き取られた状態のベースフィルムを35℃以上に保って次の工程の送り出しを行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
200≧54000/D+0.007L+106 α
:巻芯の外径(mm)
L:ベースフィルムの巻長(m)
α:巻芯の円周方向の線膨張係数(/℃)
【請求項5】
前記ベースフィルムを前記巻芯に巻き取ってロール状に形成した後、前記巻芯の温度低下を5℃以下に維持して前記熱処理の工程に入れることを特徴とする請求項1、2又は4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記巻芯に巻き取られたベースフィルムの温度を40℃以上とすることを特徴とする請求項請求項1、2、4又は5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理の次の工程が、前記ベースフィルムをスリット部で所定幅で長手方向にスリットする工程であることを特徴とする請求項1、3又は4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記ベースフィルムが、前記スリット部でスリットされるまでに35℃以下に冷却されることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記ベースフィルムが、前記スリット部でスリットされるまで35℃以上に保たれ、スリット後に室温にされることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記巻芯が、その円周方向の線膨張係数が5×10-6以下で、かつ、円周方向のヤング率が8000kg/mm2 以上の材質からなることを特徴とする請求項2、3又は4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
前記巻芯の材質がCFRPであることを特徴とする請求項2、3、4又は10に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記ベースフィルム上に少なくとも1つの磁性層を塗布形成し、全ての塗布が終了した前記ベースフィルムに連続的に1.0〜4.0kg/mのテンションをかけながら1.0〜10.0秒、温度95〜140℃で第1の熱処理を行い、その後、前記第1の熱処理の温度よりも低い温度で前記ベースフィルムをカレンダ処理し、カレンダ処理された前記ベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま前記ベースフィルムを熱処理することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−244675(P2006−244675A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62989(P2005−62989)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】