説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁性粉末の凝集パラメーターである磁気クラスターサイズの大きさをできる限り小さくしてかつ平滑な磁性面をうることができる塗布型磁気記録媒体の製造方法において希釈工程も考慮した混練方法および希釈方法を提供する。
【解決手段】混練工程と希釈工程とにおいて混練物の単位体積当りに加える混練エネルギー(Ek)と希釈エネルギー(Ed)のエネルギー比Ek/Edが0.5〜1.1で行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録媒体の製造方法に係り、特に、塗布型磁気記録媒体に用いる磁性粉末の混練方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体は、連続走行する帯状の支持体(以下、「ウェブ」という)上に磁性塗料を塗布して塗膜を形成する塗布工程を経ておもに磁気テープとして製造される。磁気テープは、近年、再生ヘッドに磁気抵抗型のMRヘッド(Magneto Resistive head)を採用したコンピュータバックアップ用が主流となってきて、ハードの大容量、高記録密度への急速な傾向に伴い、これに対応して磁気テープにもより優れたC/N(信号レベルのノイズに対する比)を有するものが求められている。
【0003】
このため、材料面では従来以上の微粒子磁性粉末の使用と磁気テープの磁性層の表面性をより平滑にしてスペーシングロスの低減への要求が高まっている。この磁性層表面を平滑にする方法として、現在では重層塗布方式を用い、下層に非磁性の層を設けて上層に薄い磁性層を塗布する方法が一般的である。高記録密度や大容量の要求の高まりにつれ重層構成でも、最近は上層の磁性層は0.1μm以下とますます薄くなりつつある。
【0004】
一方、先に述べたMRヘッドは、誘導型磁気ヘッドと比較して数倍の再生出力を得ることができるとともに、誘導コイルを用いないため、インピーダンスノイズ等の機器ノイズが大幅に低下し、磁気記録媒体側のノイズを下げることにより、C/Nを向上できるという特徴を持っている。
【0005】
ところが、MRヘッドでは、磁気記録媒体との接触による発熱やテープ上の凹みによる吸熱の影響を受けて、サーマルアスペリティノイズが発生するという問題がある。また、誘導型磁気ヘッドと比較して感度が良好なことに加えて特に、高密度記録用の磁気記録媒体では、そのビット長が短いため、以前は無視しうる程度でしかなかった磁性層表面の凹凸や微小なわずかな厚み変動や下層との界面の乱れが記録再生時のノイズを大きくしてC/Nの低下となるのでこれらを極力小さくすることに注力されつつある。
【0006】
これの対応として、磁性塗料中のより微粒子となった磁性粉末の分散性を高度に向上させることがえられ、磁性粉末の分散性向上のための製造工程に注目した分野から磁性塗料に関する各種の提案がなされている(特許文献1〜4等参照)。
【0007】
良好な磁性粉末の分散ということは、本質的には、磁性塗料において磁性粉末の個々の粒子がバラバラで、凝集していない一次粒子により近い状態で磁性塗料中に存在することである。
磁性塗料製造工程においてこの分散性にもっとも関係する工程は、磁性粉末を結合剤等の媒体中に練り込む混練と呼ばれる工程である。したがって、製造工程からの磁性塗料に関する提案もこの工程に関してのものが多数を占める。
【0008】
特許文献1から4のいずれも混練工程についての、混練物の固形物濃度や処理温度を制御することで混練物に加えるせん断力を増して磁性粉末を分散しやすくしようとするものである。しかし、いずれの文献も対象となっている磁性粉末の粒子径は、明確に表示されてないものも含めて結晶子サイズや比表面積から長軸長が80nm以上と推測されて現在主流となりつつある長軸長が60nm以下のものはない。また、混練工程につづく希釈工程との関連やせん断力自体の定量的扱いはなされていない。
【0009】
特許文献5(特開平10−21538)では平均長軸長が1.0μm以下の微粒子磁性粉末を混練する際の、磁性塗料単位重量当りの動力を定量的に扱って、処理する磁性粉末の平均長軸長との関係を検討して、磁性粉末を均一に分散させるに好適な動力(エネルギー)の範囲を開示している。
【0010】
また、特許文献6(特開2005−339649)では希釈工程でのせん断力についても言及して、混練工程と希釈工程とにおける塗料温度を規定することを開示している。
【0011】
しかしながら、特許文献5や特許文献6の対象である磁性粉末の粒子径は、最小のものでも長軸長が80nmである。現在、コンピューターバックアップ用の記録媒体で主に使用されている60nm以下で粒子径が小さいので粒子間凝集力が大きく分散がより困難な磁性粉末については開示されていない。
【0012】
さらに、特許文献5では混練工程に続く希釈工程については何ら触れていない。また、特許文献6では希釈工程についても言及しているものの、発明の思想は、混練工程と同様に、せん断力を単により大きく与えることがよいというものである。
【0013】
また、磁性粉末の分散性の評価もそれまでの周知の項目である磁性塗膜についての表面の平均粗さ(Ra)、保磁力分布(SFD)、光沢、単位面積中の一定の高さ以上の突起の個数などである。このような項目は、磁性粉末の分散が不十分なために生じる物理的な凝集に起因する特性の直接的な情報を与えるという意味で有力ではある。しかし、前述したように現状の超微粒子磁性粉末を用いた塗膜では、上であげたパラメーターよりも電磁変換特性のC/Nのノイズレベルに本質的に影響する磁気クラスター(磁気的凝集)サイズの大きさ(特許文献7)を評価することが、磁性粉末の分散性の尺度を知るには有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−298690号公報
【特許文献2】特開平9−320051号公報
【特許文献3】特開平7−14158号公報
【特許文献4】特開平8−96357号公報
【特許文献5】特開平10−21538号公報
【特許文献6】特開2005−339649号公報
【特許文献7】特許第4001532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
すなわち、これまでの製造工程に注目した磁性粉末の分散性を向上させる特許は、電磁変換特性のノイズレベルに関与する磁気クラスターサイズの大きさを評価したものはなく、さらに分散の対象である磁性粉末の平均粒子径が60nm以下のものを対象として実証したものはなく、また、混練工程にのみに関与したものか、希釈工程を含むものも混練工程と全く同じ思想で対処したものでしかない。まして、二つの工程の、磁性塗料中の磁性粉末の分散との関係を明らかにしてかつ両者の工程の分散するためのエネルギー比を定量的に規定したものは一切ない。
【0016】
それゆえ、混練工程で過剰なエネルギーを与えて微小な磁性粉末の凝集を生じさせてあとの希釈工程でときほぐすことができずに分散後の磁性塗料でも磁気的凝集が存在したり、逆に混練工程でのエネルギーが少ないために希釈工程で大きなエネルギーを与えても磁気的凝集が残ったままで分散後の磁気クラスターの大きさが小さくならないなどの問題があった。また、重層構造の磁気記録媒体ではこれらの分散不良は、先述した磁性層の厚み変動とか上下層の界面の乱れの発生原因となった。
【0017】
これらは磁気特性の低下や磁性層表面の平滑性の損失も生じさせ、高密度記録の再生においてノイズを増加させてC/N低下の原因となった。
【0018】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので上記の問題を解決して、本質的に磁性粉末の凝集パラメーターである磁気クラスターサイズの大きさをできる限り小さくしてかつ平滑な磁性面をうることができる塗布型磁気記録媒体に用いる磁性粉末の混練方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は混練機を使用して、強磁性粉末及び/または非磁性粉末と結合剤とを有機溶剤中で混練する混練工程と、該混練物に樹脂溶液及び/または有機溶剤を加えて希釈する希釈工程を経て製造された磁性塗料を非磁性の支持体上に塗布してなる磁気記録媒体の製造方法において、 前記混練工程と希釈工程とにおいて該混練物の単位体積当りに加える混練エネルギーEk(MJ/m)と希釈エネルギーEd(MJ/m)のエネルギー比Ek/Edが0.5〜1.1で行うことを特徴とする磁気記録媒体の磁性粉末の混練方法を提供する。
【0020】
微粒子の磁性粉末を分散するには先述したように、せん断力(エネルギー)が大きく加えられる混練工程が重視されるがこれに続く分散前の希釈工程も同様に重要な工程である。これらの工程の機能は、まず混練工程の、分散対象である磁性粉末を含む組成物(以下混練物という)に対する機能は(1)磁性粉末に高いせん断力を加えてできるかぎりほぐす機能(以下解砕機能という)が主であり、希釈工程の機能は(2)ほぐされた磁性粉末の表面にせん断力を加え、バインダである結合剤樹脂を展ばした状態でできる限り吸着させて覆い、表面にバインダが吸着した状態での磁性粉末を次の分散工程で、安定して均一に分散できるような適度な流動性を維持できるように調節する機能と考えられる。これらの機能を与える工程は、一般にはともに混練装置にて行われる。
【0021】
磁性粉末を良好に分散させるには、(1)と(2)のそれぞれの機能を最大限に発揮させることが重要である。そして(1)の混練解砕機能は、いわゆる一次粒子がいくつか凝集してかたまりとなった磁性粉末を本質的にほぐすという物理的力が有効であり、(2)の希釈工程での機能は吸着という化学的現象を含むことから時間の因子を考慮する必要がある。
【0022】
この考えに基づいて、両工程において混練物に対して作用させたせん断力を設備に与えた動力から、時間も計算しての仕事量から混練物の単位体積当りに換算したエネルギー量として捉えて、その量と混練物を分散したあとの磁性塗料から得た塗膜の平滑性や磁性粉末の凝集度合いの尺度となる磁気クラスターサイズとの関係を明らかにして良好な分散性である磁性塗料をうる磁性粉末の混練方法を提供したものである。
【0023】
本発明の混練方法において、混練物の単位体積当りの混練エネルギーEkが1000MJ/m以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の混練方法において、混練機が、回分式ニーダ、加圧ニーダ、連続ニーダ、2軸連続式混練機、及び2軸連続式押し出し機のうちのいずれかであることが好ましい。
【0025】
本発明の混練方法において、混練工程の混練物の固形分濃度を75wt%以上に調製することが磁性粉末の凝集をよく解砕できるので好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、磁性塗膜面の平滑性が大幅に向上し、磁気クラスターサイズが小さい磁性塗料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかる磁性塗料の製造方法が適用される工程図である。
【図2】本発明にかかる混練工程、希釈工程に使用した装置の断面模式図である。
【図3】本発明にかかる混練工程、希釈工程をふくむ混練機の動力の電流値の変化を示す図である。
【図4】混練物の単位体積当りに加える混練エネルギーEk(MJ/m)と希釈エネルギーEd(MJ/m)のエネルギー比と磁気シートの特性との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る磁性塗料の製造方法について、更に詳細に説明する。先述したように、本発明は、混練機を使用して、強磁性粉末及び/又は非磁性粉末と結合剤とを有機溶剤中で混練する混練工程と、この混練物にさらに結合剤樹脂及び/又は有機溶剤(以下樹脂溶液等と略す)を加えて希釈する希釈工程を経て磁性塗料を製造し、この磁性塗料を非磁性の支持体上に塗布して、磁気記録媒体を製造する方法に関するもので、特に、塗布型磁気記録媒体に用いる磁性粉末の混練方法に関するものである。
【0029】
図1は、本発明の塗布型磁気記録媒体の製造方法の1例を示す工程図である。この図において、本発明が係るのは混練工程と希釈工程である。これらの工程に使用する装置は混練機であり、オープンニーダ、加圧ニーダ、連続ニーダ、2軸連続式混練機等いずれも使用できる。
【0030】
混練工程から希釈工程を経て製造された磁性塗料は、サンドグラインダーミルに代表される分散機による分散工程を経由して塗布工程以降に供給され、所定速度で搬送されるウェブ(非磁性の支持体)上に所定の膜厚に塗布され、磁性塗膜が形成される。
【0031】
図2は、本発明で使用した回分式の 混練機の断面を模式的に示したものである。
混練機1の上面は、内部の空間体積が一定にできるように蓋(図示せず)が設置されている。原材料が投入されて1の内部には、ブレード(攪拌羽根)3が平行に配されており、互いに逆方向に回転駆動されて原材料にせん断力を与え、矢印に示されるように投入された原料が混練されるようなっている。原材料は混練物2で示した。
【0032】
分散工程以降の装置や方法は、従来公知のものが採用されても本発明の思想の本質には直接には影響しないので自由に選択できる。また、磁気記録媒体の各構成部材についても、磁性層に用いる磁性粉末の平均粒子径が60nm以下の場合に、本発明の効果が顕著であること以外は、何ら本発明の思想に反しないので 従来公知の構成部材がいずれも使用できる。
【0033】
図3には、図1の製造工程中混練機で実施される混練工程および希釈工程での混練機を駆動させるのに必要な動力の電流値の経時的変化を模式的に示した。
図3のA点に示すように表面処理工程を終えて混練機中にある組成物に樹脂溶液を添加してせん断力を加えたときにトルクが上昇して混練機の動力の電流値が大きく増加していわゆる湿潤ピークが出現する。本発明では、このピークが発生したあとトルクが減少しきった地点(図3のB点)を基準として混練開始とする。
【0034】
混練工程での混練物の固形分濃度は75wt%以上が好ましい。これより低濃度だと混練物が軟らかくてせん断力がかからない。75wt%以上であればよいが、固形分濃度は95wt%以内が好ましい。95wt%を超えると溶剤が不足して混練物がひと塊にならずバラバラになってやはりせん断力がかからないからである。
【0035】
トルクの尺度である混練機の動力の電流値は、混練中は一定の値を維持して希釈用に固形分濃度を下げるためにあらたな樹脂溶液を加えた時点で低下し始める(図3のC点)。本発明の混練工程とは、B点からC点までをいう。本発明の場合、希釈工程の最終時点での固形分濃度は50wt%に設定した。
【0036】
希釈工程を経たのちさらに、次工程に送るために混練機から組成物を取り出せるように有機溶剤を添加する(図3のD点)。D点での固形分濃度は通常30wt%以下なので
本発明の設定した希釈工程の最終時点(固形分濃度は50wt%)は、図3ではC点とD点の間に存在することになる。
【0037】
本発明は、この混練工程と希釈工程において混練機にかかった動力から、組成物(混練物)の単位体積当りに要したせん断力を算出して各々の工程にかかるエネルギーと塗料中の磁性粉末の分散性との関連を、磁性塗料から得た塗膜特性から明らかにしたものである。
【0038】
なお、各工程の単位体積当りに要したエネルギーは、混練機に何も材料を入れない場合に駆動させたときの動力をエネルギー基準ゼロとして算出した。
【0039】
磁気記録媒体の構成部材は、先述したように本発明に本質的には影響はないが本発明の製造方法で得た磁性塗料が用いられる記録媒体の主な構成部材について簡単に述べる。
【0040】
(磁性層)
非磁性層(以下、「下層」ともいう。)と、磁性層(以下、「上層」ともいう。)を支持体の両面ないし片面に設けることができる。上下層は、下層を塗布後、下層が湿潤状態にある間(Wet on Wet)でも、乾燥した後(Wet on Dry)でも上層の磁性層を設けることができる。
【0041】
(磁性粉末)
本発明における磁性粉末としては、強磁性金属粉末、窒化鉄粉末、六方晶系フェライト粉末など従来公知のものが挙げられる。これらの磁性粉末の大きさは、形状が針状ないしは紡錘状のものは長軸長、球状もしくは無定形の場合は長い方のさしわたし径、板状の場合は最大さしわたし径の長さが10〜60nmのものが好ましい。60nmより大きいと本発明の効果がさほど顕著でなく、10nmより小さいのは実情ではほぼ工業的には生産が困難だからである。
【0042】
上述した磁性粉末は、公知の分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。
【0043】
磁性粉末の保磁力(Hc)は、好ましくは159〜240kA/m(2000〜3000Oe)である。強磁性金属粉末の場合の飽和磁化(σs)は、好ましくは80〜120A・m2 /kg(80〜120emu/g)である。
【0044】
(非磁性層)
本発明における下層は、少なくともカーボンブラックを含むと2種類以上の非磁性粉末、及び結合剤からなる。
【0045】
(非磁性粉末)
カーボンブラック以外の非磁性粉末としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機化合物から選択することができる。
【0046】
下層の結合剤樹脂(種類と量)、潤滑剤・分散剤・添加剤の種類、量、溶剤、分散方法等に関しては、磁性層に関する公知の技術が適用できる。
【0047】
(結合剤)
本発明に使用される結合剤としては、従来より公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂や、これらの混合物が使用される。
【0048】
(カーボンブラック、研磨剤)
本発明において、磁性層に使用されるカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック、等を用いることができる。
【0049】
本発明において、研磨剤としては、主としてモース硬度6以上の公知の材料が単独又は組合せで使用される。これら研磨剤の平均粒径は、0.01〜2μmでその粒度分布が狭い方が好ましい。
【0050】
これらの研磨剤は、必要に応じて下層に添加することもできる。これら磁性層、下層に添加する研磨剤の粒径、量は、最適値に設定すべきものである。
【0051】
本発明で用いられる添加剤のすべて又はその一部は、磁性及び非磁性塗料製造のどの工程で添加してもかまわない、たとえば、混練工程前に磁性体と混合する場合、磁性体と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0052】
本発明で用いられる有機溶剤としては、公知のものが使用でき、たとえば、特開平6−68453号公報に記載の溶剤を用いることができる。
【0053】
(層構成)
本発明における磁気記録媒体の厚さ構成は、たとえば、支持体の厚さを、4〜10μmとでき、支持体と下層との間に密着性向上のための下塗り層を設けてもかまわない。
【0054】
本発明において、支持体の一方に下層と磁性層とを設け、他方にバック層を設ける構成も採用できる。このバック層の厚さを、0.3〜0.7μmとできる。これらの下塗層及びバック層には、公知の構成が使用できる。
【0055】
本発明における、磁気記録媒体の磁性層の厚さは、用いるヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、0.05〜0.3μmとできる。
【0056】
本発明における磁気記録媒体の下層の厚さは0.5〜1.5μmとできる。
【0057】
(支持体)
本発明に用いられる支持体は、非磁性であることが好ましい。非磁性の支持体としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド(脂肪族ポリアミドやアラミド等の芳香族ポリアミドを含む)、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの公知のフィルムが使用できる。
【0058】
(製造方法)
本発明における磁気記録媒体の磁性塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、及び、混練物に樹脂溶液等を加えて希釈する希釈工程からなり、必要に応じて、これ以外に、分散工程、及びこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。
【0059】
混練工程では、オープンニーダ、加圧ニーダ、連続ニーダ、エクストルーダ、2軸連続式混練機、及び2軸連続式押し出し機など強い混練力を持つものを使用することが好ましい。
【0060】
ニーダを用いる場合には、磁性粉末又は非磁性粉末と結合剤のすべて又はその一部(ただし全結合剤の30重量%以上が好ましい)及び磁性粉末100重量部に対し10〜500重量部の範囲で混練処理するのが好ましい。
【0061】
また、磁性層液及び下層液を分散させるには、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0062】
本発明で重層構成の磁気記録媒体を塗布する場合、以下のような方式を用いることができる。
【0063】
1)磁性塗料の塗布で一般的に用いられるグラビア塗布装置、ロール塗布装置、ブレード塗布装置、エクストルージョン塗布装置等により、まず下層を塗布し、下層がウェット状態のうちに支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により上層を塗布する方法。
2)塗布液通液スリットを二つ内蔵する一つの塗布ヘッドにより上下層をほぼ同時に塗布する方法。
3)バックアップロール付きエクストルージョン塗布装置により上下層をほぼ同時に塗布する方法。
【0064】
本発明の構成を実現するために、下層を塗布し乾燥させたのち、その上に磁性層を設ける逐次重層塗布を用いても無論かまわず、本発明の効果が失われるものではない。
【0065】
本発明では、配向装置は、希土類磁石とソレノイドで交流磁場を印加するなど公知の配向装置を用いることが好ましい。
【実施例】
【0066】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造における混練方法を実施例をもって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の主旨から、磁性塗料の磁性粉末の分散性を注視するために磁性層のみの塗膜単独を作製して評価した。なお、実施例中の「部」の表示は「重量部」を示すものとする。
【0067】
〈磁性粉末〉
表1には、本発明で使用の各種磁性粉末を示した。なおどの磁性粉末も磁性粉末に対して3wt%のリン酸系分散剤で表面処理したものである。

表1
【実施例1】
【0068】
〈磁性塗料〉
混練工程と希釈工程を説明する。次の組成物(1)を、高速攪拌混合機にて、予め高速混合したのち、混練機に投入して固形分濃度81重量%の混練物とする。このとき混練機のブレードにかかるトルクが上昇して、図3に示すような電流値のピーク(いわゆる湿潤ピーク)が発現する。やがてこの電流値のピークは低下する。電流値が低下しきった点(図3のB点)からを混練工程のスタートとする。混練の終点は、次に混練機に樹脂や溶剤を投入して固形分濃度が81wt%より低下してトルクの電流値も低下し始める点(図3のC点)である。混練機のブレードを25rpmの回転数で40分間(図3のBからCもまでの時間)混練した。この時間が混練工程時間となる。
上記混練物を入れている混練機に、樹脂と溶剤を加えて、混練物がダマにならないように徐々に加えて稀釈を行った。最終希釈固形分濃度が50wt%の希釈物を得た。このときのブレード回転数は25rpmのままで、固形分濃度が81wt%より低下した点(図3のC点)から固形分濃度が50wt%になった時点(図示せず)までを希釈工程として混練機は90分間稼動した。
組成物(1)
磁性粉末(A) 100部
塩化ビニル系共重合体(日本ゼオン社製MR−104) 17.0 部
ポリエステルポリウレタン(東洋紡製UR8300) 6.0部
テトラヒドロフラン 2.2部
メチルエチルケトン 81.9部
トルエン 42.3部
【0069】
希釈後の組成物に、下の量の溶剤を加えて最終稀釈固形分濃度が30wt%のプレミクス用組成物を得た。プレミクス処理後セラミックビーズを使用したビーズミルで分散した。
メチルエチルケトン 115.5部
トルエン 52.5部
【0070】
分散後の磁性塗料を簡易アプリケータを用いて、厚みが10μmのポリエチレンナフタレートの支持体上に磁性塗膜を作製した。
【0071】
得られた磁気シートは、より直接的に分散性を評価するために、磁性層表面処理加工である鏡面化工程のカレンダ処理を行わなかった。この状態で磁気シートの、磁性粉末の凝集パラメーターである磁気クラスターサイズと磁性層の平滑性評価を行った。
【0072】
混練物に加えたせん断力の算出は次のようにした。混練工程、希釈工程の混練機中の混練物について、各組成材料の重量から各々の比重を用いて混練物全体の体積を算出する。
混練物全体の体積は、混練工程では工程中の固形物濃度は変化しないで一定であるが、希釈工程では、断続的に樹脂溶液等を添加して希釈終了時点の固形物濃度50wt%にいたるため、本発明では、希釈工程の混練物全体の体積は、希釈工程開始および終了時点の混練物の両者の体積の平均を希釈工程の体積とした。
【0073】
次式によって各工程での混練機の動力と仕事量を計算する。
動力=2π×T×N/60 [W] T:トルク[N・m],N:回転数[rpm]
仕事量=動力×t×10−6 [MJ] t:工程所要稼働時間[sec]
ここで、トルク(T)は工程時間中持続しての一定の値は示さない。そのため工程時間中の全トルクを積算して便宜上単位時間(分)にならした平均トルクをその工程のトルク値とした。
【0074】
得た仕事量から、単位体積当りの混練物に与えたエネルギー(MJ/m)を算出して、
混練物の単位体積当りに加える混練エネルギー(Ek)とした。同様の計算方法で希釈工程についても混練物の単位体積当りに加える希釈エネルギー(Ed)を求めて、両者のエネルギー比Ek/Edを求めた。
【0075】
磁気シートの評価項目は、磁性層の表面粗さRaと磁気クラスターサイズである。
【0076】
表面粗さは、以下の手順で評価した。ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000を用い、走査型白色光干渉法にてScan Lengthを2μmで10点平均粗さRaを求めた。測定の際には、50倍の対物レンズを用い、2倍ズームで測定した。よって、倍率は100倍である。測定視野は70μm×52μmである。
【0077】
磁気クラスターサイズは以下の手順で評価した。磁気力顕微鏡として、デジタルインスツルメント社製,Nano ScopeIIIを用い、周波数検出法により磁性層の漏れ磁界像を測定した。測定プローブには、コバルトアロイコートを有するプローブ(先端曲率半径:25〜40nm,保磁力:約400Oe,磁気モーメント:約1×10−13emu)を用い、走査範囲は5μm四方、走査速度は5μm/secとした。得られた漏れ磁界像の磁化強度の中心値Cと標準偏差δとの和(C+δ)より大きな磁化強度を有する部分を2値化処理することにより表示し、該部分を磁気クラスターとして、その円相当径の平均値を測定した。
【0078】
実施例1以外の実施例および比較例は、表2に表示した磁性粉末を用いて混練物の固形分濃度を変化させて、また混練工程と希釈工程も表2に示す混練機の稼動条件で作業を行った以外は、実施例1と同様にして磁気シートを作製して評価に供した。
【0079】
表3には、各実施例および各比較例の混練工程と希釈工程の混練物単位体積あたりのエネルギーとその比をまとめた。表中で示したエネルギーが与えられて作製した磁気シートの表面平滑性Raと磁気クラスターサイズをまとめた。
【0080】





図4には、表3の結果から、磁性粉末A1を用いた場合についての混練物の単位体積当りに加える混練エネルギーEk(MJ/m)と希釈エネルギーEd(MJ/m)のエネルギー比と磁気シートの特性との関係をまとめて示した。
同程度の分散度であっても、磁性塗膜のRaや磁気クラスターサイズは、磁性粉末の平均粒子径によって大きく影響を受ける。よって、図4には同一磁性粉末A1を用いた磁気シートの結果をまとめている。


【0081】
前述したように、磁気シートの特性は磁性塗料の磁性粉末の分散性の尺度となる表面平滑性Raと磁気クラスターサイズである。鏡面化処理前の表面平滑性Raと磁気クラスターサイズの好ましい数値は、われわれの過去からの実際の試作テープのデータの蓄積から、Raは6.0以下で磁気クラスターサイズは52nm以下であると良好なC/Nが確保されることを得ていたのでこれらの値をしきい値とした。
【0082】
図4から、優れたC/Nを確保する、すなわち磁性粉末の分散が良好なことを示す表面平滑性Raと磁気クラスターサイズを得るには、磁性塗料の製造において混練工程と希釈工程の混練物単位体積あたりのエネルギー比をある一定範囲に制御することが必要であることがわかる。
【0083】
すなわち、本発明ではじめて、良好なC/Nが得られる、磁性塗膜の特性であるRaと磁気クラスターサイズの両者がともに先にあげたしきい値を満足するのは、混練物の単位体積当りに加える混練エネルギー(Ek)と希釈エネルギー(Ed)のエネルギー比Ek/Edが0.5〜1.1の範囲であることを実証した。
【0084】
実施例17と比較例8との比較から、磁性粉末の粒子径が60nmより大きいものを用いた場合は、混練機での混練物の単位体積当りに加える混練エネルギー(Ek)と希釈エネルギー(Ed)のエネルギー比についての好ましい範囲の効果はさほど顕著でない。磁性粉末がA1やA3を用いた場合の結果からも、平均粒子径が60nm以下の微粒子磁性粉末を用いる場合に、特に本発明が有用であることがわかる。
【0085】
実施例18〜20と比較例9〜11の結果から、磁性粉末が、窒化鉄系磁性粉末や六方晶系磁性粉末であっても、混練物の単位体積当りに加える混練エネルギー(Ek)と希釈エネルギー(Ed)のエネルギー比Ek/Edが、本発明で明らかにして規定した範囲にある方が、好ましい表面平滑性Raと磁気クラスターサイズがえられることがわかる。
【符号の説明】
【0086】
1・・・混練機、2・・・混練物、3・・・ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練機を使用して、強磁性粉末及び/又は非磁性粉末と結合剤とを有機溶剤中で混練する混練工程と、該混練物に有機溶剤を加えて希釈する希釈工程を経て製造された磁性塗料を非磁性の支持体上に塗布してなる磁気記録媒体の製造方法において、
前記混練工程と希釈工程とにおいて該混練物の単位体積当りに加える混練エネルギー(Ek)と希釈エネルギー(Ed)のエネルギー比Ek/Edが0.5〜1.1で行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記混練エネルギーEkが1000MJ/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記混練工程において、前記混練物の固形分濃度を75wt%以上に調製することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−118988(P2011−118988A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275714(P2009−275714)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】