磁気記録媒体の製造方法
【課題】 優れたパターンを有した磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】 磁気記録層上に凹凸パターンを有するマスクを形成し、前記マスクの凹部に対応する前記磁気記録層の領域の磁性を失活することを含むパターンド媒体の製造方法であって、前記磁気記録層の上部に設けた注入深度調節層を介したイオンビームの照射によって、前記磁気記録層の磁性を失活することを含み、磁性の失活の進行に伴って、前記注入深度調節層の膜厚が減少し、イオンビーム侵入深さが深くなるパターンド媒体の製造方法。
【解決手段】 磁気記録層上に凹凸パターンを有するマスクを形成し、前記マスクの凹部に対応する前記磁気記録層の領域の磁性を失活することを含むパターンド媒体の製造方法であって、前記磁気記録層の上部に設けた注入深度調節層を介したイオンビームの照射によって、前記磁気記録層の磁性を失活することを含み、磁性の失活の進行に伴って、前記注入深度調節層の膜厚が減少し、イオンビーム侵入深さが深くなるパターンド媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、パターンド媒体などの磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクといった記録媒体における記憶容量の飛躍的な増大が望まれている。その要望にこたえるべく、高い記憶容量を有する磁気記録媒体の開発が進められている。
【0003】
現行のハードディスクに用いられている磁気記録媒体では、磁性体微粒子の多結晶体を含む薄膜の一定の領域を1ビットとして記録している。記録媒体の記録容量を上げるためには記録密度を増加させなければならない。すなわち、1ビットあたりの記録に使用できる記録マークサイズを小さくしなければならない。しかし、単純に記録マークサイズを小さくすると、磁性体微粒子の形状に依存するノイズの影響が無視できなくなる。ノイズを低減するために磁性体微粒子の粒子サイズを小さくすると、熱揺らぎのために常温で記録を保持することができなくなる。
【0004】
これらの問題を回避するため、予め記録材料を非記録材料によって分断し、単一の磁性ドットを単一の記録セルとして記録再生を行うビットパターンド媒体(BPM)が提案されている。
【0005】
また、HDDに組み込まれる磁気記録媒体において、隣接トラック間の干渉によりトラック密度の向上が妨げられるという問題が顕在化している。特に記録ヘッド磁界のフリンジ効果の低減は重要な技術課題である。この問題に対して、磁気記録層を加工して記録トラック間を物理的に分離するディスクリートトラック型パターンド媒体(DTR媒体)が提案されている。DTR媒体では、記録時に隣接トラックの情報を消去するサイドイレース現象、再生時に隣接トラックの情報を読み出すサイドリード現象などを低減できる。そのため、DTR媒体は高記録密度を提供しうる磁気記録媒体として期待されている。なお、パターンド媒体を広い意味で用いる場合、ビットパターンド媒体やDTR媒体を含むものとする。
【0006】
パターンド媒体を製造する方法として、磁気記録層の磁性を失活することにより、磁気記録層に磁性領域と非磁性領域とのパターンを形成する技術が存在する。この技術では、優れたパターンを有した磁気記録媒体を得るために、目的とする領域に対して正確に且つ均一に磁性を失活することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−077756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れたパターンを有した磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、磁気記録層上に凹凸パターンを有するマスクを形成し、前記マスクの凹部に対応する前記磁気記録層の領域の磁性を失活することを含むパターンド媒体の製造方法であって、前記磁気記録層の上部に設けた注入深度調節層を介したイオンビームの照射によって、前記磁気記録層の磁性を失活することを含み、磁性の失活の進行に伴って、前記注入深度調節層の膜厚が減少し、イオンビーム侵入深さが深くなるパターンド媒体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るディスクリートトラック媒体(DTR媒体)の周方向に沿う平面図。
【図2】実施形態に係るビットパターンド媒体(BPM)の周方向に沿う平面図。
【図3】第1の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【図4】従来の製造方法の一例を示す断面図。
【図5】従来の製造方法の一例を示す断面図。
【図6】実施形態に係る製造方法を示す断面図。
【図7】従来のイオン注入を示す断面図およびサイドへの広がりを示す図。
【図8】実施形態に係るイオン注入を示す断面図およびサイドへの広がりを示す図。
【図9】イオンビームにおける深さ方向に対するイオンの分布を示す図。
【図10】第2の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【図11】第3の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【図12】第4の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【図13】実施形態によって製造された磁気記録媒体を搭載した磁気記録装置を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0012】
[磁気記録媒体]
図1に、実施形態に係る磁気記録媒体の一例であるディスクリートトラック媒体(DTR媒体)の周方向に沿う平面図を示す。図1に示すように、磁気記録媒体100の周方向に沿って、サーボ領域210と、データ領域220が交互に形成されている。サーボ領域210には、プリアンブル部211、アドレス部212、バースト部213が含まれる。データ領域220には隣接するトラック同士が互いに分離されたディスクリートトラック221が含まれる。
【0013】
図2に、実施形態に係る磁気記録媒体の他の例であるビットパターンド媒体の周方向に沿う平面図を示す。この磁気記録媒体100では、データ領域220に磁性ドット222が形成されている。
【0014】
[製造方法]
(第1の実施形態)
図3(a)〜(h)を参照して、第1の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0015】
図3(a)に示すように、ガラス基板1上に、磁気記録層2、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層3、第1のハードマスク4、第2のハードマスク5、第3のハードマスク6およびレジスト7を積層させる。例えば、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC層3、厚さ30nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ30nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜する。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートする。レジストには、例えば、一般的なフォトレジストを用いる。一方、例えば図1または2に示すパターンに対応する所定の凹凸パターンが形成されたスタンパを用意する。スタンパは、EB描画、Ni電鋳、射出成形を経て製造される。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置する。
【0016】
図3(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写する。その後、スタンパを取り外す。図3(b)には、インプリントの後にスタンパを取り外した状態が示される。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残っている。
【0017】
図3(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させる。この工程は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行われる。
【0018】
図3(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させる。この工程は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0019】
図3(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させる。例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を30秒として行われる。
【0020】
図3(f)に示すように、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させる。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成される。磁性の失活は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、分圧比1:3のHeとN2との混合ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間60秒にて行われる。
【0021】
図3(g)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去する。この工程は、例えば過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行われる。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離する。
【0022】
図3(h)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体が得られる。
【0023】
第1の実施形態に係る製造方法では、第1のハードマスク4がイオンビームの注入深度を調節するための注入深度調節層として機能する。注入深度調節層としての第1のハードマスク4は、図3(a)の各層を積層する段階において成膜される。
【0024】
(従来の製造方法との差異)
図4から6を用いて、実施形態に係る製造方法と従来の製造方法との差異を説明する。
【0025】
図4および5には従来の製造方法が示され、図6には実施形態に係る製造方法が示される。従来の製造方法では、図4に示されるように、例えば異なるエネルギーを有する複数のイオンビーム(AからC)によって、マスク10を介して磁気記録層2を失活する。この方法では、イオンビームを比較的高いエネルギーにて照射することでマスク10のエッチングを生じさせることなく、磁気記録層2の失活が行われる。これによって形成される非磁性領域8は、複数のイオンビームを用いたことに起因して、横方向に広がって失活される。あるいは、図5に示されるように、マスクを介さずに磁気記録層2の失活が行われる。この場合、比較的低いエネルギーのイオンビームが用いられ、失活の進行とともに磁気記録層2の一部が除去され、結果として表面に凹凸が発生した媒体が形成される。
【0026】
実施形態に係る製造方法では、図6に示されるように、注入深度調節層9(図中、マスク10内に含まれる)を介して磁気記録層2に対してイオンビームを照射し、マスク10の膜厚を減少させながら磁性を失活する。これによって、非磁性領域8の横方向への広がりおよび媒体表面の凹凸の発生を防ぐ、または最小限に抑えることができる。
【0027】
図7から9を用いてより詳細に説明する。図7は、従来のイオン注入を示す断面図およびサイドへの広がりを示す図である。図8は、実施形態に係るイオン注入を示す断面図およびサイドへの広がりを示す図である。図9は、イオンビームにおける深さ方向に対するイオンの分布を示す図である。
【0028】
一般に、磁性の失活のためにイオンビーム照射する場合、図9に示されるような深さ方向のイオンの分布が生じる。図9では、横軸に深さ、縦軸に特定の深さにおけるイオンの量が示される。図9に示されるように、注入されるイオンの量は全ての深さにわたって一定ではなく、ある一定の深さにおいてイオンの量がピークを有した分布となっている。そのため、単に単一のイオンビームを磁気記録層に照射した場合、深さ方向のイオン分布に応じて、失活が十分な部分と不十分な部分とが生じてしまう。
【0029】
従来の製造方法では、このような不均一な失活を避けるため、図7(a)に示されるように、価数の異なる複数種のイオンビームまたは異なるエネルギーを有する複数のイオンビームを使用する。すなわち、互いにピークがずれた複数のイオンビームを使用して、イオン量を補い合って均一に磁性を失活しようしている。しかしながら、図7(b)に示されるように、これらの複数のイオンビームは横方向への広がりが互いに異なり、その結果、マスク10における凹部の形状よりも広く非磁性領域8が形成されてしまい、フリンジ特性が悪化する。
【0030】
これに対し、実施形態に係る製造方法では、失活に伴って減少する注入深度調節層9を介して磁気記録層2を失活する。この様な構成とすることで、磁気記録層2表面の凹凸の形成を防ぐことができる。さらに、単一のイオンビームを用いる場合であっても、深さ方向に均一に磁性失活することが可能となる。これは、注入深度調節層9の膜厚の減少とともにイオンビームによるイオンの分布が下方へスライドし、磁気記録層2の深さ方向の全ての部位をイオンビームのピークが通過するためである。また、単一のイオンビームを使用することから、注入エネルギーを低く抑えることもでき、横方向への広がりを抑えて磁性を失活することも可能となる(図8a)。
【0031】
(イオンビーム侵入深さ)
実施形態において「イオンビーム侵入深さ」とは、図9を用いて次の通り定義される。すなわち、「イオンビーム侵入深さ」とは、失活開始時の注入深度調節層9の表面(A)から、ある時点でのイオンの分布の先端までの距離(C)である。また、失活開始時の注入深度調節層9の表面(A)から、ある時点でのイオン量のピークまでの距離(B)を、「イオン侵入ピーク」と定義する。これらについては、TRIM等のシミュレーションによって求めることができる。また、実際にどの程度イオンが侵入しているかについては、断面TEM−EELS、TEM−EDXマッピング等の手法によって測定できる。イオンビームは、基本的に重元素または高密度の膜を透過する際には減衰し、軽元素または低密度の膜を透過する際には変化が少ない。したがって、磁気記録層9の失活においては、「イオンビーム侵入深さ」または「イオン侵入ピーク」を検討することが重要となる。
【0032】
実施形態において、好ましくは、失活完了時のイオンビーム侵入深さが磁気記録層2より下に位置する。失活完了時において、イオンビームが磁気記録層2全体に到達することによって、磁気記録層2が不足なく失活される。また、好ましくは、失活開始時のイオンビーム侵入深さが磁気記録層2内に位置する。照射開始の時点で、イオンビームのピークが磁気記録層2より下にある場合、磁気記録層2の表面側で十分な失活を期待できない場合があるが、失活開始時のイオンビーム侵入深さが磁気記録層2内に位置することで十分な磁性の失活を行うことができる。さらに好ましくは、失活開始時のイオンビーム侵入深さが磁気記録層2より上に位置する。これにより、イオンビームのピークが磁気記録層2の浅い領域を通過することが保証され、十分な失活を行うことができる。
【0033】
(第2の実施形態)
図10(a)〜(j)を参照して、第2の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0034】
図10(a)に示すように、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC層3、厚さ3nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ20nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜する。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートする。レジスト7には、例えば、一般的なフォトレジストを用いる。一方、例えば図1または2に示すパターンに対応する所定の凹凸パターンが形成されたスタンパを用意する。スタンパは、EB描画、Ni電鋳、射出成形を経て製造される。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置する。
【0035】
図10(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写する。その後、スタンパを取り外す。図10(b)には、インプリントの後にスタンパを取り外した状態が示される。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残っている。
【0036】
図10(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させる。この工程は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行われる。
【0037】
図10(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させる。この工程は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0038】
図10(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させる。例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0039】
図10(f)に示すように、第2のハードマスク5まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9を成膜する。例えば、厚さ30nmのCrを成膜する。
【0040】
図10(g)に示すように、Crから成る注入深度調節層9、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させる。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成される。この磁性の失活は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、分圧比1:1のHeとN2との混合ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間100秒にて行われる。
【0041】
図10(h)に示すように、残存している注入深度調節層9を除去する。この工程は、例えばRIE装置により、プロセスガスとしてCl2を使用し、チャンバー圧を1Pa、パワーを400Wとし、エッチング時間20秒として行われる。
【0042】
図10(i)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去する。この工程は、例えば過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行う。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離する。さらに、H2プラズマによって表面を洗浄する。
【0043】
図10(j)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体が得られる。
【0044】
第2の実施形態に係る製造方法では、第1のハードマスク4とは独立して注入深度調節層9を設ける。そのため、第1のハードマスク4を薄く成膜することができる。注入深度調節層9は、図10(f)に示されるように、マスクに対して凹凸パターンを形成した後に成膜される。
【0045】
(第3の実施形態)
図11(a)〜(k)を参照して、第3の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。ただし、図11(a)〜(e)の工程は第2の実施形態の図10(a)〜(e)の工程と同様に行うことができるため、説明を省略する。
【0046】
図11(f)に示すように、パターン化された第2のハードマスク5をマスクとして、Moから成る第1のハードマスク4をエッチングしてパターンを転写し、凹部でDLC層3の表面を露出させる。この処理は、例えば、イオンミリング装置により、プロセスガスとしてArを使用し、チャンバー圧を0.05Paとし、加速電圧400V、処理時間10秒にて行われる。
【0047】
図11(g)に示すように、パターン化された第1のハードマスク4をマスクとして、DLC層3をエッチングしてパターンを転写し、凹部で磁気記録層2の表面を露出させる。この処理は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0048】
図11(h)に示すように、DLC層3まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9を成膜する。例えば、厚さ30nmのWを成膜する。
【0049】
図11(i)に示すように、Wから成る注入深度調節層9を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させる。この工程は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間50秒にて行われる。この処理により、注入深度調節層9の膜厚は例えば30nmから2nmへと減少する。
【0050】
図11(j)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去する。この工程は、例えば過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行う。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離し、磁気記録層2の非磁性領域8上には注入深度調節層9が、磁性が維持される領域上にはDLC層3がそれぞれ残る。この残留するDLC層3の膜厚は例えば3nmとなり、注入深度調節層9の膜厚は例えば2nmとなり、生じる凹凸差は1nmとなる。
【0051】
図11(k)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体が得られる。
【0052】
第3の実施形態に係る製造方法では、第1のハードマスク4とは独立して注入深度調節層9を設ける。そのため、第1のハードマスク4を薄く成膜することができる。注入深度調節層9は、図11(h)に示されるように、マスクに対して凹凸パターンを形成した後に成膜される。
【0053】
(第4の実施形態)
図12(a)〜(k)を参照して、第4の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。ただし、図12(a)〜(e)の工程は第2の実施形態の図10(a)〜(e)の工程と同様に行うことができるため、説明を省略する。
【0054】
図12(f)に示すように、パターン化された第2のハードマスク5をマスクとして、Moから成る第1のハードマスク4をエッチングしてパターンを転写し、凹部でDLC層3の表面を露出させる。この工程は、例えば、イオンミリング装置により、プロセスガスとしてArを使用し、チャンバー圧を0.05Paとし、加速電圧400V、処理時間10秒にて行われる。
【0055】
図12(g)に示すように、パターン化された第1のハードマスク4をマスクとして、DLC層3をエッチングしてパターンを転写し、凹部で磁気記録層2の表面を露出させる。この処理は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0056】
図12(h)に示すように、DLC層3まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9を成膜する。例えば、厚さ25nmのWを成膜する。
【0057】
図12(i)に示すように、Wから成る注入深度調節層9を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させる。この工程は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間50秒にて行われる。この処理により、注入深度調節層9が全てエッチングされ、磁気記録層2の凹部表面も例えば3nmエッチングされる。
【0058】
図12(j)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去する。この工程は、例えば過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行う。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離し、磁気記録層2の磁性が維持される領域上にはDLC層3が残る。この残留するDLC層3の膜厚は例えば3nmとなり、一方、非磁性領域8の表面は3nmエッチングされているため、生じる凹凸差は6nmとなる。
【0059】
図12(k)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体が得られる。
【0060】
第4の実施形態に係る製造方法では、第1のハードマスク4とは独立して注入深度調節層9を設ける。そのため、第1のハードマスク4を薄く成膜することができる。注入深度調節層9は、図12(h)に示されるように、マスクに対して凹凸パターンを形成した後に成膜される。また、第3の実施形態と比較して、注入深度調節層9を薄く成膜することで、図12(i)に示すように、失活の際に注入深度調節層9が全て消失する。
【0061】
なお、製造した磁気記録媒体において、各種の膜の厚さおよび凹凸の深さは、例えばAFM(atomic force microscope)、断面TEM(transmission electron microscopy)などを用いて容易に測定することができる。また、メタルマスク種およびその組成比については、EDX(energy dispersive X-ray spectroscopy)分析を行なうことで容易に測定できる。加工完成後媒体をXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析し、媒体内の残留ガスを分析することで、イオンビームエッチングで用いたエッチングガス種とその効果を調査することが可能である。エッジラフネスについては、AFMまたは平面SEM(scanning electron microscopy)を用いて画像解析により測定が可能である。
【0062】
[材料の詳細]
以下に、実施形態に係るパターンド媒体の製造方法にて使用できる材料について説明する。
【0063】
(注入深度調節層)
注入深度調節層9は、イオンビーム照射によるイオンの侵入深さの調節のために設けられる。失活の進行に伴って注入深度調節層9の膜厚が減少することで、イオンビーム侵入深さが深くなっていく。
【0064】
注入深度調節層9として、レジスト材料、種々の無機物および金属並びにそれらの化合物を用いることができる。レジスト材料を用いる場合、一般的な光硬化レジスト、熱硬化レジスト、SOG(Spin−On−Glass)等を使用することができる。レジスト材料を成膜後、スタンパをインプリントしてできるインプリント残渣をそのまま注入深度調節層として使用することもできる。一方、各マスクのパターン形成後に、蒸着等によってレジスト材料を成膜することもできる。非金属の無機物を用いる場合、C、CxNy(y≦x)、Si、SiO2、SixNy(y≦4x/3)、SixCy(y≦25x)などを用いることができる。金属を用いる場合、Ag、Au、Cu、Pd、Pt、Ru等の貴金属、およびAl、Cr、Hf、Mo、Nb、Ta、Ti、V、W、Zr等の化合物を作り易い金属を使用することができる。プロセス中に化合物を作り易い材料は、一般的にエッチングレートが遅い。エッチングレートの遅い注入深度調節層9は、十分な量のイオンを注入することができ、好適である。また、貴金属は注入イオン種と反応生成物を作りにくいため、イオンが注入深度調節層9中でトラップされず、注入され易いという利点がある。
【0065】
第1のハードマスク4を、注入深度調節層9として使用することもできる。この場合、注入深度調節層9は、各層の成膜時(例えば図3aの工程)に第1のハードマスク4として成膜される。
【0066】
注入深度調節層9を剥離層として使用することもできる。例えば、Mo、Cr等のような酸によって容易に溶解される金属は、失活の工程で注入深度の調節のために使用した後、そのまま剥離のために使用することができる。また、Ti、Taはフッ酸で除去することができる。注入深度調節層9としてレジスト材料を使用する場合、レジスト剥離液で除去することができる。また、複数種の注入深度調節層9を重ねて成膜してもよい。例えば、前述したエッチングレートの遅いTa等の注入深度調節層を媒体表面側に、Moのような剥離が容易な注入深度調節層を基板側に設けることで、イオンの十分な注入と弱酸による剥離を実現することができる。
【0067】
注入深度調節層9の初期膜厚は、その層がもつイオン遮蔽性に応じて決定することができる。例えば、イオン遮蔽性が高い材料を用いる場合、注入深度調節層9が薄くなるにつれてイオン侵入深さが深くなるため、注入深度調節層9は薄くてもかまわない。逆に、イオン遮蔽性が低い材料を用いる場合、注入深度調節層9がエッチングされるにつれ、注入深度調節層9の表面からのイオン侵入深さは浅くなることがある。その場合、注入深度調節層9は厚めに成膜する必要がある。イオン遮蔽性がいずれの場合であっても、注入深度調節層9の初期膜厚および注入深度調節層9のエッチングされる膜厚が薄すぎる場合、磁気記録層2の深さ方向の失活が不足するおそれが生じる。したがって、注入深度調節層9の初期膜厚およびエッチングされる膜厚は、イオン侵入深さに応じて適切に選択する必要がある。プロセスのロバスト性を保つ観点から、注入深度調節層9の膜厚は実際に必要な厚さよりも厚くてかまわない。第1のハードマスク4と注入深度調節層9とを兼ねた層を成膜する場合、その膜厚は例えば10から40nmとすることが好ましく、特に15〜30nmとすることが好ましい。一方、マスクの凹凸パターン形成後に注入深度調節層9を成膜する場合も同様である。成膜する厚さを調節することで、磁性失活によって注入深度調節層9を全て消失させるか、一部残すかを調節することができる。
【0068】
(レジスト)
レジスト7としては、UV硬化樹脂や、ノボラックを主成分とした一般的なレジスト7などを用いることができる。UV硬化樹脂を使用する場合は、スタンパ材は石英や樹脂などの光を透過させるものがよい。UV硬化樹脂に紫外線を照射することで硬化させることができる。紫外線の光源としては例えば高圧水銀ランプを用いればよい。ノボラックを主成分とした一般的なレジスト7を使用する場合は、スタンパにNi、石英、Si、SiCなどの材質を用いることができる。レジスト7は熱や圧力を加えることで硬化させることができる。
【0069】
(ハードマスク)
第1から第3のハードマスクは、注入深度調節層9と組成が異なるものを使用することが好ましい。組成が異なることで、それらの層のエッチングレートおよび遮蔽性に差が生じ、膜厚方向および膜内方向からの注入イオンの広がりが防止される。注入深度調節層9として例えばCr、Mo等の金属を使用する場合、レジストやCを主成分とする材料は選択比を大きく出来るため好ましい。逆に注入深度調節層9としてCを用いる場合、SiやTa、Tiなどを各ハードマスクとすることができる。しかしながら、第1のハードマスク4は、注入深度調節層9として設けることもできる。
【0070】
第1のハードマスク4は、容易に薄利が可能な材料を使用することができる。例えば、磁気記録層の主成分よりも剥離液に対する反応性が高いものを使用できる。具体的には、Mo、Cr、Ta、V、Nb、Ta、Zr、Al等を使用することができる。第1のハードマスク4の膜厚は、注入深度調節層9として設ける場合には、10から40nmとすることが好ましく、特に20〜30nmとすることが好ましい。また、剥離層として設ける場合には、第1のハードマスク4の膜厚は、1から5nmとすることが好ましく、特に3nmとすることが好ましい。
【0071】
第2のハードマスク5としては、例えばカーボンを主成分とする材料、CN、BC等を使用することができる。特にカーボンを70%以上含有することが好ましい。第2のハードマスク5の膜厚は、15から100nmとすることが好ましく、特に20から50nmとすることが好ましい。
【0072】
第3のハードマスク5としては、Si、Ti、Ta、W等を使用することができる。特にSiを使用することが好ましい。第3のハードマスク6の膜厚は、2から5nmとすることが好ましく、特に3nmとすることが好ましい。
【0073】
(ダイヤモンドライクカーボン層)
磁気記録層2の酸化を防止する層として、第1のハードマスク4と磁気記録層2との間にダイヤモンドライクカーボン(DLC)層3を設けることができる。DLC層3はカーボンを主成分とする。DLC層3の厚さは1〜20nmとすることができる。
【0074】
(基板)
基板1としては、例えばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板、酸化表面を有するSi単結晶基板などを用いることができる。ガラス基板としては、アモルファスガラスおよび結晶化ガラスが用いられる。アモルファスガラスとしては、汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスが挙げられる。結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスが挙げられる。セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが挙げられる。基板1としては、上述した金属基板や非金属基板の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。また、基板上への薄膜の形成方法としては、スパッタリング法だけでなく、真空蒸着法または電解メッキ法などを使用して同様な効果を得ることができる。
【0075】
(軟磁性裏打ち層)
軟磁性裏打ち層(SUL)は、垂直磁気記録層を磁化するための単磁極ヘッドからの記録磁界を水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる作用を有する。軟磁性裏打ち層には、Fe、NiまたはCoを含む材料を用いることができる。このような材料として、FeCo系合金例えばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金例えばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金例えばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金例えばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金例えばFeZrNなどを挙げることができる。Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造または微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることもできる。軟磁性裏打ち層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、TiおよびYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることもできる。Co合金には80at%以上のCoが含まれることが好ましい。このようなCo合金は、スパッタ法により成膜した場合にアモルファス層が形成されやすい。アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示すとともに、媒体の低ノイズ化を図ることができる。好適なアモルファス軟磁性材料としては、例えばCoZr、CoZrNbおよびCoZrTa系合金などを挙げることができる。
【0076】
軟磁性裏打ち層の下に、軟磁性裏打ち層の結晶性の向上または基板との密着性の向上のために、さらに下地層を設けてもよい。こうした下地層の材料としては、Ti、Ta、W、Cr、Pt、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。軟磁性裏打ち層と記録層との間に、非磁性体からなる中間層を設けてもよい。中間層は、軟磁性裏打ち層と記録層との交換結合相互作用を遮断し、記録層の結晶性を制御する、という2つの作用を有する。中間層の材料としては、Ru、Pt、Pd、W、Ti、Ta、Cr、Si、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。
【0077】
スパイクノイズ防止のために軟磁性裏打ち層を複数の層に分け、0.5〜1.5nmのRuを挿入することで反強磁性結合させてもよい。また、CoCrPt、SmCo、FePtなどの面内異方性を持つ硬磁性膜またはIrMn、PtMnなどの反強磁性体からなるピン層と軟磁性層とを交換結合させてもよい。交換結合力を制御するために、Ru層の上下に磁性膜(例えばCo)または非磁性膜(例えばPt)を積層してもよい。
【0078】
(磁気記録層)
垂直磁気記録層としては、Coを主成分とし、少なくともPtを含み、さらに酸化物を含む材料を用いることが好ましい。垂直磁気記録層は、必要に応じて、Crを含んでいてもよい。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化チタンが好適である。垂直磁気記録層は、層中に磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)が分散していることが好ましい。この磁性粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性粒子の配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)を得ることができる。このような構造を得るためには、含有させる酸化物の量が重要となる。
【0079】
垂直磁気記録層の酸化物含有量は、Co、Cr、Ptの総量に対して、3mol%以上12mol%以下であることが好ましく、5mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。垂直磁気記録層の酸化物含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁気記録層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子を分離させ、微細化させることができるためである。酸化物の含有量が上記範囲を超えた場合、酸化物が磁性粒子中に残留し、磁性粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには、磁性粒子の上下に酸化物が析出し、結果として磁性粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)が得られなくなるため好ましくない。
【0080】
垂直磁気記録層のCr含有量は、0at%以上16at%以下であることが好ましく、10at%以上14at%以下であることがより好ましい。Cr含有量として上記範囲が好ましいのは、磁性粒子の一軸結晶磁気異方性定数Kuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られるためである。Cr含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子の結晶性、配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。
【0081】
垂直磁気記録層のPt含有量は、10at%以上25at%以下であることが好ましい。Pt含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁性層に必要なKuが得られ、さらに磁性粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるためである。Pt含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。Pt含有量が上記範囲未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性に十分なKuが得られないため好ましくない。
【0082】
垂直磁気記録層は、Co、Cr、Pt、酸化物のほかに、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reから選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進し、または結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。8at%を超えた場合、磁性粒子中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子の結晶性、配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0083】
垂直磁気記録層としては、CoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSi、ならびにPt、Pd、Rh、およびRuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造、さらに、これらにCr、BおよびOを添加したCoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどを使用することもできる。
【0084】
垂直磁気記録層の厚さは、好ましくは5ないし60nm、より好ましくは10ないし40nmである。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置を作製することができる。垂直磁気記録層の厚さが5nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向がある。垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。垂直磁気記録層の保磁力は、237000A/m(3000Oe)以上とすることが好ましい。保磁力が237000A/m(3000Oe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
【0085】
(保護層)
保護層11は、垂直磁気記録層の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐ目的で設けられる。保護層11の材料としては、例えばC、SiO2、ZrO2を含むものが挙げられる。保護層11の厚さは1から10nmとすることが好ましい。これにより、ヘッドと媒体の距離を小さくできるので、高密度記録に好適である。カーボンは、sp2結合炭素(グラファイト)とsp3結合炭素(ダイヤモンド)に分類できる。耐久性、耐食性はsp3結合炭素のほうが優れるが、結晶質であることから表面平滑性はグラファイトに劣る。通常、カーボンの成膜はグラファイトターゲットを用いたスパッタリング法で形成される。この方法では、sp2結合炭素とsp3結合炭素が混在したアモルファスカーボンが形成される。sp3結合炭素の割合が大きいものはダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれ、耐久性、耐食性に優れ、アモルファスであることから表面平滑性にも優れるため、磁気記録媒体の表面保護層として利用されている。CVD(chemical vapor deposition)法によるDLCの成膜は、原料ガスをプラズマ中で励起、分解し、化学反応によってDLCを生成させるため、条件を合わせることで、よりsp3結合炭素に富んだDLCを形成することができる。
【0086】
[工程の詳細]
以下に、実施形態に係るパターンド媒体の製造方法に含まれる工程について説明する。
【0087】
(マスク成膜)
一般的な磁気記録媒体の磁気記録層の表層に、第1のハードマスク4、第2のハードマスク5、第3のハードマスク6の順に成膜する。これらはスパッタまたはCVDにより成膜することができる。
【0088】
その後、さらにその上からレジスト7を形成する。媒体の表面に、スピンコート法、ディップ法、インクジェット法等で均一にレジストを塗布する。レジストには一般的な感光性樹脂や熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を用いることが出来る。樹脂は酸素やフッ素を含むガスによるRIEでエッチングされるものが望ましい。
【0089】
(インプリント)
レジスト7を形成後、スタンパをインプリントして、凹凸パターンをレジスト7に転写する。インプリント用スタンパは、石英、樹脂、Si、Niなどの材料で作製されたものを用いる。石英や樹脂でできたスタンパを用いた際には、紫外光で硬化する感光性樹脂(フォトレジスト)が好適である。レジストが熱硬化性または熱可塑性樹脂であれば、インプリント時に熱または圧力を加えるため、スタンパはSi、Niのものが好適である。
【0090】
例えば、記録トラックとサーボ情報のパターンが形成された樹脂スタンパを5tで60秒間プレスし、紫外光を10秒間照射することによって、レジストにそのパターンを転写する。プレスは、ダイセットの下板に、スタンパ、基板、スタンパを積層し、ダイセットの上板で挟む。基板には予め、両面にレジストが塗付されている。スタンパ及び基板は、スタンパの凹凸面と基板のレジスト膜側を対向させる。インプリントによって作製されたパターンの凹凸高さは30〜50nmであるため、その残渣は5〜20nm程度となる。スタンパにフッ素系の剥離材を塗布すれば、スタンパとレジストの良好な剥離ができる。
【0091】
(残渣除去)
RIE(反応性イオンエッチング)でインプリント後のレジスト残渣除去を行う。プラズマソースは、低圧で高密度プラズマが生成可能なICP(Inductively Coupled Plasma)が好適であるが、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマや、一般的な並行平板型RIE装置を用いてもよい。レジストに感光性樹脂を用いた場合には、O2ガスまたはCF4ガス、O2とCF4との混合ガスを用いる。レジスト7にSi系の材料(例えば、SOG(Spin-On-Glass))を用いた場合には、CF4またはSF6等のフッ素ガスRIEを用いる。残渣除去はレジスト下の第3のハードマスク6が露出した段階で終了とする。
【0092】
(第3のハードマスクのパターニング)
インプリントおよびレジスト残渣除去の後、パターンが形成されたレジスト7をマスクとして、第3のハードマスク6をパターニングする。第3のハードマスク6のパターニングにはRIEを用いても良いし、その他のイオンビームエッチング装置を用いてもよい。第3のハードマスク6のパターニングは第2のハードマスク5の表面が露出した段階で終了とする。
【0093】
(第2のハードマスクのパターニング)
第3のハードマスク6のパターニングの後、第2のハードマスク5をパターニングする。第2のハードマスク5のパターニングには反応性ガスによるRIEを用いても良いし、希ガスによるイオンビームエッチング法を用いても良い。反応性ガスによるエッチングを行うのであれば、例えば、SF6、CF4、Cl2、HBrまたはこれらのガスにアシストとしてAr等の希ガスを加えたものが好適である。希ガスによるエッチングの場合はHe、Ne、Ar、Xe、Kr等のガスが好適である。また、希ガスにN2、O2などの反応性ガスを混合させることもできる。第2のハードマスク5のパターニングは第1のハードマスク4の表面が露出した段階で終了とする。
【0094】
(磁気記録層の磁性失活)
磁気記録層2のパターニングにはイオンビーム照射による磁性失活法を用いる。磁性失活によって、磁気記録媒体のフリンジ特性が向上する。磁性失活とは、磁気記録層2のマスクから露出した領域の磁性を、マスクで覆われた領域の磁性と比較して弱める工程を指す。磁性を弱めるとは、軟磁性化させたり、非磁性化または反磁性化させたりすることを意味する。このような磁性の変化は、VSM(試料振動型磁力計)やKerr(磁気光学カー効果)測定装置によりHn、Hs、Hcなどの値を測定することで観測することができる。
【0095】
イオンビームは一般的なイオン注入機、ECRイオンシャワー装置、走査型の収束イオンビーム装置、ガスクラスターイオンビーム装置などを用いて発生させることができる。イオン注入機であれば、大面積に対して高スループットでイオンビーム照射を行うことができるし、ECRイオンソースを用いれば、高電流密度で媒体1枚当たりのタクト時間を短縮できる。
【0096】
使用するイオン種は、He、Ne、Ar、Kr、Xeらの希ガスまたはN2、O2、H2などの反応性ガス、あるいはそれらの混合物が好ましい。希ガスを用いれば、磁気記録層をアモルファス化し、磁化の垂直配向を弱めることができる。N2、O2、H2などの反応性ガスを用いれば、記録層の磁性元素と反応し、あるいは格子間に侵入し、磁化を減らすことができる。また、反応性ガスと希ガスとを混合すれば、より高い反応性が得られ、失活のタクト時間を短縮できる。
【0097】
イオンビーム照射において、注入されるイオンの量は、注入するイオンのエネルギーおよび被注入材料に依存する幅を持ったガウス分布に従う。実施形態に係るパターンド媒体のような数10nm程度の薄い記録層への注入には、比較的低いエネルギーのイオンビームが好ましい。好ましくは100keV以下で、より好ましくは50keV以下である。
【0098】
(第1のハードマスクの剥離)
磁気記録層のパターニングの後、第1のハードマスク4の剥離を行う。第1のハードマスク4の上に残る第2のハードマスク5、第3のハードマスク6等は、第1のハードマスク4と共に剥離される。剥離の手法は、第1のハードマスク4として使用する材料に応じて適宜選択することができる。例えば、ウェットプロセス、反応性イオンエッチング、イオンビームエッチング等を行うことができる。
【0099】
ウェットプロセスの場合、水、酸、アルカリ等を剥離液として用いることができる。剥離層としての第1のハードマスク4と磁気記録層2との間にDLCなどからなる保護層を設けることで、磁気記録層へダメージを与えずにマスクの剥離を行うことができる。剥離液は、第1のハードマスク4の材料に応じて適宜選択されるが、例えば高温の水、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を使用することができる。具体的には、過酸化水素水、塩酸、硝酸、フッ酸、スルファミン酸、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等の種々の酸、アルカリを使用することができる。剥離後、剥離液が残らないように、磁気記録媒体を水あるいは溶媒にて洗浄することが好ましい。
【0100】
(保護層形成および後処理)
カーボンから成る保護層11は、凹凸へのカバレッジをよくするためにCVD法で成膜することが望ましいが、スパッタ法または真空蒸着法により成膜してもよい。CVD法によれば、sp3結合炭素を多く含むDLC膜が形成される。膜厚は2nm以下だとカバレッジが悪くなり、10nm以上だと、記録再生ヘッドと媒体との磁気スペーシングが大きくなってSNRが低下するので好ましくない。保護層11上に潤滑剤を塗布することができる。潤滑剤としては、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ化アルコール、フッ素化カルボン酸などを用いることができる。
【0101】
(注入深度調節層の成膜)
マスクの凹凸パターン形成後に、注入深度調節層9を成膜することができる。例えば、第2の実施形態に係る製造方法では、第2のハードマスク5のパターニング後に注入深度調節層9の成膜が行われる。また、第3および4の実施形態に係る製造方法では、DLC層3のパターニング後に注入深度調節層9の成膜が行われる。成膜の方法は、使用する材料に応じて適宜選択することができる。例えば、スパッタリング、蒸着等によって行うことができる。注入深度調節層9の成膜の後に、磁気記録層2の失活が行われる。
【0102】
(第1のハードマスクのパターニング)
第2のハードマスク5のパターニング後に、第1のハードマスク4のパターニングを行うことができる。特に、第3および第4の実施形態に係る製造方法において行われる。第1のハードマスク4のパターニングには、反応性ガスによるRIEを用いても良いし、希ガスによるイオンビームエッチング法を用いても良い。第1のハードマスク4のパターニングはDLC層3の表面が露出した段階で終了とする。
【0103】
(ダイヤモンドライクカーボン層のパターニング)
第1のハードマスク4のパターニング後に、DLC層3のパターニングを行うことができる。特に、第3および第4の実施形態に係る製造方法において行われる。DLC層3のパターニングには、反応性ガスによるRIEを用いても良いし、希ガスによるイオンビームエッチング法を用いても良い。DLC層3のパターニングは磁気記録層2の表面が露出した段階で終了とする。
【0104】
[磁気記録装置]
次に、実施形態に係る磁気記録装置(HDD)について説明する。図13は、実施形態によって製造された磁気記録媒体を搭載した磁気記録装置を示す斜視図である。
【0105】
図13に示すように、本発明の実施形態に係る磁気記録装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。パターンド媒体100は、スピンドルモータ140に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。磁気記録装置150は、複数のパターンド媒体100を備えたものでもよい。
【0106】
パターンド媒体100に対して情報の記録再生を行うヘッドスライダー130は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダー130の先端付近には磁気ヘッドが設けられている。パターンド媒体100が回転すると、サスペンション154による押付け圧力とヘッドスライダー130の媒体対向面(ABS)で発生する圧力とがつりあい、ヘッドスライダー130の媒体対向面は、パターンド媒体100の表面から所定の浮上量をもって保持される。
【0107】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム160の一端に接続されている。アクチュエータアーム160の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム160のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とから構成することができる。アクチュエータアーム160は、ピボット157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッドをパターンド媒体100の任意の位置にアクセスできる。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例】
【0109】
[実施例1]
図3に示す方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。
【0110】
図3(a)に示すように、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC保護膜3、厚さ30nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ30nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜した。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートした。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置した。
【0111】
図3(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写した。その後、スタンパを取り外した。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残った。
【0112】
図3(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行った。
【0113】
図3(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0114】
図3(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させた。誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を30秒として行った。
【0115】
図3(f)に示すように、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させた。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成された。磁性の失活は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、分圧比1:3のHeとN2との混合ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間60秒にて行った。
【0116】
図3(g)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離した。
【0117】
図3(h)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0118】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。
【0119】
[実施例2]
図10に示す方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。
【0120】
図10(a)に示すように、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC層3、厚さ3nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ20nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜した。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートした。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置した。
【0121】
図10(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写した。その後、スタンパを取り外した。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残った。
【0122】
図10(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行った。
【0123】
図10(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0124】
図10(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0125】
図10(f)に示すように、第2のハードマスク5まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9として厚さ30nmのCrを成膜した。
【0126】
図10(g)に示すように、Crから成る注入深度調節層9、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させた。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成された。この磁性の失活は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、分圧比1:1のHeとN2との混合ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間100秒にて行った。
【0127】
図10(h)に示すように、残存している注入深度調節層9を除去した。この工程は、RIE装置により、プロセスガスとしてCl2を使用し、チャンバー圧を1Pa、パワーを400Wとし、エッチング時間20秒として行った。
【0128】
図10(i)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4をDLC層3から剥離させた。さらに、H2プラズマによって表面を洗浄した。
【0129】
図10(j)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0130】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。
【0131】
[実施例3]
図11に示す方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。
【0132】
図11(a)〜(e)に示すように、各層の成膜およびパターン形成を行った。これらの工程は、実施例2の図10(a)〜(e)に示される工程と同様に行った。
【0133】
図11(f)に示すように、パターン化された第2のハードマスク5をマスクとして、Moから成る第1のハードマスク4をエッチングしてパターンを転写し、凹部でDLC層3の表面を露出させた。この処理は、イオンミリング装置により、プロセスガスとはArを使用し、チャンバー圧を0.05Paとし、加速電圧400V、処理時間10秒にて行った。
【0134】
図11(g)に示すように、パターン化された第1のハードマスク4をマスクとして、DLC層3をエッチングしてパターンを転写し、凹部で磁気記録層2の表面を露出させた。この処理は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0135】
図11(h)に示すように、DLC層3まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9として厚さ30nmのWを成膜した。
【0136】
図11(i)に示すように、Wから成る注入深度調節層9を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活した。この工程は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間50秒にて行った。この処理により、注入深度調節層9の膜厚は30nmから2nmへと減少した。
【0137】
図11(j)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離し、磁気記録層2の非磁性領域8上には注入深度調節層9が、磁性が維持される領域上にはDLC層3がそれぞれ残った。この残留するDLC層3の膜厚は3nm、注入深度調節層9の膜厚は2nmとなり、生じた凹凸差は1nmであった。
【0138】
図11(k)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0139】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。
【0140】
[実施例4]
図12に示す方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。
【0141】
図12(a)〜(e)に示すように、各層の成膜およびパターン形成を行った。これらの工程は、実施例2の図10(a)〜(e)に示される工程と同様に行った。
【0142】
図12(f)に示すように、パターン化された第2のハードマスク5をマスクとして、Moから成る第1のハードマスク4をエッチングしてパターンを転写し、凹部でDLC層3の表面を露出させた。この工程は、イオンミリング装置により、プロセスガスとしてArを使用し、チャンバー圧を0.05Paとし、加速電圧400V、処理時間10秒にて行った。
【0143】
図12(g)に示すように、パターン化された第1のハードマスク4をマスクとして、DLC層3をエッチングしてパターンを転写し、凹部で磁気記録層2の表面を露出させた。この処理は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0144】
図12(h)に示すように、DLC層3まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9として厚さ25nmのWを成膜した。
【0145】
図12(i)に示すように、Wから成る注入深度調節層9を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活した。この工程は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間50秒にて行った。この処理により、注入深度調節層9が全てエッチングされ、磁気記録層2の凹部表面も3nmエッチングされた。
【0146】
図12(j)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離し、磁気記録層2の磁性が維持される領域上にはDLC層3が残った。この残留するDLC層3の膜厚は3nmとなった。非磁性領域8表面は3nmエッチングされているため、生じた凹凸差は6nmとなった。
【0147】
図12(k)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0148】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。
【0149】
[実施例5]
実施例1と同様の方法でDTR媒体を作製した。ただし、図3(a)の工程において、注入深度調節層を兼ねるMoから成る第1のハードマスク4の膜厚を5nm、10nm、20nm、30nmまたは40nmとし、図3(f)の工程において、第1のハードマスク4が1〜5nm残るようにエッチングを停止した。
【0150】
また、比較例1として、図3(e)の工程までは実施例1と同様に行った後、注入深度調節層を兼ねるMoから成る第1のハードマスク4およびDLC層3をエッチングし、実施例2と同様の磁性失活を行って媒体を作製した。
【0151】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行った。さらに、媒体の非磁性領域のMsをVSMにて測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0152】
エラー率ERの結果から、磁性失活の際に注入深度調節層を設けた媒体は、DTR媒体として優れた性能を示すことが確認された。また、Msの結果から、磁性失活の際に注入深度調節層を設けた媒体では比較例1と比較して、十分に磁性が失活されることがわかった。
【0153】
実施例2、3および4についても、注入深度調節層の厚さを変化させて媒体を作製し、比較例と比較した。その結果、実施例1の媒体と同様に、注入深度調節層を設けることで
磁性を十分に失活させることが可能となり、エラー率を低く抑えることができることがわかった。
【0154】
[実施例6]
実施例1と同様の方法でDTR媒体を作製した。ただし、図3(f)の磁性失活の工程において、残留する注入深度調節層の膜厚が20nm、10nm、5nmまたは2nmとなるようにイオンビーム照射を停止した。
【0155】
また、比較例2として、図3(f)の磁性失活の工程において、実施例2と同様のガスを使用し、エネルギーを30keVにてイオン注入を行ってDTR媒体を作製した。このような高いエネルギーのイオン注入を行う場合、注入深度調節層の膜厚は減少しない。
【0156】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行った。さらに、媒体の非磁性領域のMsをVSMにて測定した。結果を表2に示す。
【表2】
【0157】
実施形態に係る媒体では、磁性が十分に失活し、良好なエラー率が得られた。これに対し、比較例2では、磁性は十分に失活しているものの、エラー率を測定することができなかった。ドライブから媒体を取り出して調査したところ、高エネルギーのイオン注入により、サイドにダメージが広がっていることが判明した。以上の結果より、注入深度調節層の膜厚を減少させながら低エネルギーによるイオンビームを照射することで、サイドへのダメージがなく媒体のパターニングが可能であることが示された。
【0158】
実施例2、3および4についても、注入深度調節層の減少量を変化させて媒体を作製し、比較例と比較した。その結果、実施例1の媒体と同様に、注入深度調節層の膜厚を減少させながら失活することで、サイドへのダメージが生じず、磁性が十分に失活され、レラー率を低く抑えることができることがわかった。
【0159】
[実施例7]
実施例1と同様の方法でDTR媒体を作製した。ただし、図3(a)の工程において、照射するイオンビームとしてHe、Ne、Ar、Kr、Xe、N2、O2、H2、He−N2の混合ガス、Ne−H2の混合ガスまたはAr−O2の混合ガスを用いた。さらに、照射エネルギーについてはサイドにダメージがないような条件へと変更した。比較例として比較例1を作製した。
【0160】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行った。さらに、媒体の非磁性領域のMsをVSMにて測定した。結果を表3に示す。
【表3】
【0161】
実施形態に係る媒体は、磁性が十分に失活し、良好なエラー率が得られた。これに対し、比較例1では、非記録領域のMsを0まで下げることができず、エラー率が測定不可能であった。イオンビームにおいて種々のガスを使用した場合でも、実施形態に係る媒体は優れた性能を発揮することがわかった。
【0162】
実施例2、3および4についても、使用するガス種を変えて媒体を作製し、比較例と比較した。その結果、実施例1の媒体と同様に、種々のガスを使用した場合でも、優れた性能を発揮することがわかった。
【0163】
[実施例8]
実施例2と同様の方法でDTR媒体を作製した。ただし、図10(f)の工程で成膜する注入深度調節層の材料として、C、C0.9N0.1、Si、SiO2、Si3N4、Si5C19、Ag、Au、Cu、Pd、Pt、Ru、CoPt、CoCrPt,CoCrPt−SiO2、Al、Cr、Hf、Mo、Nb、Ta、Ti、V、WまたはZrを用いた。なお、注入深度調節層の剥離は、注入深度調節層として使用する材料に応じて表4に示されるように適宜選択した。さらに、比較例として比較例1を作製した。
【0164】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行った。さらに、媒体の非磁性領域のMsをVSMにて測定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0165】
実施形態に係る媒体は、磁性が十分に失活し、良好なエラー率が得られた。これに対し、比較例1では、非記録領域のMsを0まで下げることができず、エラー率が測定不可能であった。注入深度調節層として種々の材料を使用した場合でも、実施形態に係る媒体は優れた性能を発揮することがわかった。
【0166】
実施例1、3および4についても、注入深度調節層として使用する材料を変えて媒体を作製し、比較例と比較した。その結果、実施例2の媒体と同様に、注入深度調節層として種々の材料を使用した場合でも、優れた性能を発揮することがわかった。
【0167】
[実施例9]
実施例1と同様の方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。ただし、注入深度調節層および剥離層としての第1のハードマスク(Mo)4と第2のハードマスク(C)5との間に、第2の注入深度調節層としてTaを10nm積層した。さらに、Moの厚さを5nmへと薄膜化した。
【0168】
図3(a)に示すように、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC保護膜3、厚さ5nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ5nmの第2の注入深度調節層(Ta)(図示せず)、厚さ30nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜した。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートした。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置した。
【0169】
図3(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写した。その後、スタンパを取り外した。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残った。
【0170】
図3(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行った。
【0171】
図3(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0172】
図3(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させた。誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を30秒として行った。
【0173】
図3(f)に示すように、Taから成る第2の失活深度調整層、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させた。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成された。磁性の失活は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間60秒にて行った。この時、Taは全てエッチングされ消失した。
【0174】
図3(g)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離した。
【0175】
図3(h)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0176】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。以上のように、失活深度調整層をMoとTaの2層にしても、問題なく媒体が作製でき、ドライブ駆動可能であることが示された。
【符号の説明】
【0177】
1…基板、2…磁気記録層、3…ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層、4…第1のハードマスク、5…第2のハードマスク、6…第3のハードマスク、7…レジスト、8…非磁性領域、9…注入深度調節層、10…マスク、11…保護層、100…磁気記録媒体、130…ヘッドスライダー、140…スピンドルモータ、150…磁気記録装置、154…サスペンション、156…ボイスコイルモータ、157…ピボット、160…アクチュエータアーム、210…サーボ領域、211…プリアンブル部、212…アドレス部、213…バースト部、220…データ領域、221…ディスクリートトラック、222…磁性ドット。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、パターンド媒体などの磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクといった記録媒体における記憶容量の飛躍的な増大が望まれている。その要望にこたえるべく、高い記憶容量を有する磁気記録媒体の開発が進められている。
【0003】
現行のハードディスクに用いられている磁気記録媒体では、磁性体微粒子の多結晶体を含む薄膜の一定の領域を1ビットとして記録している。記録媒体の記録容量を上げるためには記録密度を増加させなければならない。すなわち、1ビットあたりの記録に使用できる記録マークサイズを小さくしなければならない。しかし、単純に記録マークサイズを小さくすると、磁性体微粒子の形状に依存するノイズの影響が無視できなくなる。ノイズを低減するために磁性体微粒子の粒子サイズを小さくすると、熱揺らぎのために常温で記録を保持することができなくなる。
【0004】
これらの問題を回避するため、予め記録材料を非記録材料によって分断し、単一の磁性ドットを単一の記録セルとして記録再生を行うビットパターンド媒体(BPM)が提案されている。
【0005】
また、HDDに組み込まれる磁気記録媒体において、隣接トラック間の干渉によりトラック密度の向上が妨げられるという問題が顕在化している。特に記録ヘッド磁界のフリンジ効果の低減は重要な技術課題である。この問題に対して、磁気記録層を加工して記録トラック間を物理的に分離するディスクリートトラック型パターンド媒体(DTR媒体)が提案されている。DTR媒体では、記録時に隣接トラックの情報を消去するサイドイレース現象、再生時に隣接トラックの情報を読み出すサイドリード現象などを低減できる。そのため、DTR媒体は高記録密度を提供しうる磁気記録媒体として期待されている。なお、パターンド媒体を広い意味で用いる場合、ビットパターンド媒体やDTR媒体を含むものとする。
【0006】
パターンド媒体を製造する方法として、磁気記録層の磁性を失活することにより、磁気記録層に磁性領域と非磁性領域とのパターンを形成する技術が存在する。この技術では、優れたパターンを有した磁気記録媒体を得るために、目的とする領域に対して正確に且つ均一に磁性を失活することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−077756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れたパターンを有した磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、磁気記録層上に凹凸パターンを有するマスクを形成し、前記マスクの凹部に対応する前記磁気記録層の領域の磁性を失活することを含むパターンド媒体の製造方法であって、前記磁気記録層の上部に設けた注入深度調節層を介したイオンビームの照射によって、前記磁気記録層の磁性を失活することを含み、磁性の失活の進行に伴って、前記注入深度調節層の膜厚が減少し、イオンビーム侵入深さが深くなるパターンド媒体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るディスクリートトラック媒体(DTR媒体)の周方向に沿う平面図。
【図2】実施形態に係るビットパターンド媒体(BPM)の周方向に沿う平面図。
【図3】第1の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【図4】従来の製造方法の一例を示す断面図。
【図5】従来の製造方法の一例を示す断面図。
【図6】実施形態に係る製造方法を示す断面図。
【図7】従来のイオン注入を示す断面図およびサイドへの広がりを示す図。
【図8】実施形態に係るイオン注入を示す断面図およびサイドへの広がりを示す図。
【図9】イオンビームにおける深さ方向に対するイオンの分布を示す図。
【図10】第2の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【図11】第3の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【図12】第4の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【図13】実施形態によって製造された磁気記録媒体を搭載した磁気記録装置を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0012】
[磁気記録媒体]
図1に、実施形態に係る磁気記録媒体の一例であるディスクリートトラック媒体(DTR媒体)の周方向に沿う平面図を示す。図1に示すように、磁気記録媒体100の周方向に沿って、サーボ領域210と、データ領域220が交互に形成されている。サーボ領域210には、プリアンブル部211、アドレス部212、バースト部213が含まれる。データ領域220には隣接するトラック同士が互いに分離されたディスクリートトラック221が含まれる。
【0013】
図2に、実施形態に係る磁気記録媒体の他の例であるビットパターンド媒体の周方向に沿う平面図を示す。この磁気記録媒体100では、データ領域220に磁性ドット222が形成されている。
【0014】
[製造方法]
(第1の実施形態)
図3(a)〜(h)を参照して、第1の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0015】
図3(a)に示すように、ガラス基板1上に、磁気記録層2、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層3、第1のハードマスク4、第2のハードマスク5、第3のハードマスク6およびレジスト7を積層させる。例えば、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC層3、厚さ30nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ30nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜する。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートする。レジストには、例えば、一般的なフォトレジストを用いる。一方、例えば図1または2に示すパターンに対応する所定の凹凸パターンが形成されたスタンパを用意する。スタンパは、EB描画、Ni電鋳、射出成形を経て製造される。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置する。
【0016】
図3(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写する。その後、スタンパを取り外す。図3(b)には、インプリントの後にスタンパを取り外した状態が示される。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残っている。
【0017】
図3(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させる。この工程は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行われる。
【0018】
図3(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させる。この工程は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0019】
図3(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させる。例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を30秒として行われる。
【0020】
図3(f)に示すように、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させる。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成される。磁性の失活は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、分圧比1:3のHeとN2との混合ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間60秒にて行われる。
【0021】
図3(g)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去する。この工程は、例えば過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行われる。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離する。
【0022】
図3(h)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体が得られる。
【0023】
第1の実施形態に係る製造方法では、第1のハードマスク4がイオンビームの注入深度を調節するための注入深度調節層として機能する。注入深度調節層としての第1のハードマスク4は、図3(a)の各層を積層する段階において成膜される。
【0024】
(従来の製造方法との差異)
図4から6を用いて、実施形態に係る製造方法と従来の製造方法との差異を説明する。
【0025】
図4および5には従来の製造方法が示され、図6には実施形態に係る製造方法が示される。従来の製造方法では、図4に示されるように、例えば異なるエネルギーを有する複数のイオンビーム(AからC)によって、マスク10を介して磁気記録層2を失活する。この方法では、イオンビームを比較的高いエネルギーにて照射することでマスク10のエッチングを生じさせることなく、磁気記録層2の失活が行われる。これによって形成される非磁性領域8は、複数のイオンビームを用いたことに起因して、横方向に広がって失活される。あるいは、図5に示されるように、マスクを介さずに磁気記録層2の失活が行われる。この場合、比較的低いエネルギーのイオンビームが用いられ、失活の進行とともに磁気記録層2の一部が除去され、結果として表面に凹凸が発生した媒体が形成される。
【0026】
実施形態に係る製造方法では、図6に示されるように、注入深度調節層9(図中、マスク10内に含まれる)を介して磁気記録層2に対してイオンビームを照射し、マスク10の膜厚を減少させながら磁性を失活する。これによって、非磁性領域8の横方向への広がりおよび媒体表面の凹凸の発生を防ぐ、または最小限に抑えることができる。
【0027】
図7から9を用いてより詳細に説明する。図7は、従来のイオン注入を示す断面図およびサイドへの広がりを示す図である。図8は、実施形態に係るイオン注入を示す断面図およびサイドへの広がりを示す図である。図9は、イオンビームにおける深さ方向に対するイオンの分布を示す図である。
【0028】
一般に、磁性の失活のためにイオンビーム照射する場合、図9に示されるような深さ方向のイオンの分布が生じる。図9では、横軸に深さ、縦軸に特定の深さにおけるイオンの量が示される。図9に示されるように、注入されるイオンの量は全ての深さにわたって一定ではなく、ある一定の深さにおいてイオンの量がピークを有した分布となっている。そのため、単に単一のイオンビームを磁気記録層に照射した場合、深さ方向のイオン分布に応じて、失活が十分な部分と不十分な部分とが生じてしまう。
【0029】
従来の製造方法では、このような不均一な失活を避けるため、図7(a)に示されるように、価数の異なる複数種のイオンビームまたは異なるエネルギーを有する複数のイオンビームを使用する。すなわち、互いにピークがずれた複数のイオンビームを使用して、イオン量を補い合って均一に磁性を失活しようしている。しかしながら、図7(b)に示されるように、これらの複数のイオンビームは横方向への広がりが互いに異なり、その結果、マスク10における凹部の形状よりも広く非磁性領域8が形成されてしまい、フリンジ特性が悪化する。
【0030】
これに対し、実施形態に係る製造方法では、失活に伴って減少する注入深度調節層9を介して磁気記録層2を失活する。この様な構成とすることで、磁気記録層2表面の凹凸の形成を防ぐことができる。さらに、単一のイオンビームを用いる場合であっても、深さ方向に均一に磁性失活することが可能となる。これは、注入深度調節層9の膜厚の減少とともにイオンビームによるイオンの分布が下方へスライドし、磁気記録層2の深さ方向の全ての部位をイオンビームのピークが通過するためである。また、単一のイオンビームを使用することから、注入エネルギーを低く抑えることもでき、横方向への広がりを抑えて磁性を失活することも可能となる(図8a)。
【0031】
(イオンビーム侵入深さ)
実施形態において「イオンビーム侵入深さ」とは、図9を用いて次の通り定義される。すなわち、「イオンビーム侵入深さ」とは、失活開始時の注入深度調節層9の表面(A)から、ある時点でのイオンの分布の先端までの距離(C)である。また、失活開始時の注入深度調節層9の表面(A)から、ある時点でのイオン量のピークまでの距離(B)を、「イオン侵入ピーク」と定義する。これらについては、TRIM等のシミュレーションによって求めることができる。また、実際にどの程度イオンが侵入しているかについては、断面TEM−EELS、TEM−EDXマッピング等の手法によって測定できる。イオンビームは、基本的に重元素または高密度の膜を透過する際には減衰し、軽元素または低密度の膜を透過する際には変化が少ない。したがって、磁気記録層9の失活においては、「イオンビーム侵入深さ」または「イオン侵入ピーク」を検討することが重要となる。
【0032】
実施形態において、好ましくは、失活完了時のイオンビーム侵入深さが磁気記録層2より下に位置する。失活完了時において、イオンビームが磁気記録層2全体に到達することによって、磁気記録層2が不足なく失活される。また、好ましくは、失活開始時のイオンビーム侵入深さが磁気記録層2内に位置する。照射開始の時点で、イオンビームのピークが磁気記録層2より下にある場合、磁気記録層2の表面側で十分な失活を期待できない場合があるが、失活開始時のイオンビーム侵入深さが磁気記録層2内に位置することで十分な磁性の失活を行うことができる。さらに好ましくは、失活開始時のイオンビーム侵入深さが磁気記録層2より上に位置する。これにより、イオンビームのピークが磁気記録層2の浅い領域を通過することが保証され、十分な失活を行うことができる。
【0033】
(第2の実施形態)
図10(a)〜(j)を参照して、第2の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0034】
図10(a)に示すように、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC層3、厚さ3nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ20nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜する。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートする。レジスト7には、例えば、一般的なフォトレジストを用いる。一方、例えば図1または2に示すパターンに対応する所定の凹凸パターンが形成されたスタンパを用意する。スタンパは、EB描画、Ni電鋳、射出成形を経て製造される。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置する。
【0035】
図10(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写する。その後、スタンパを取り外す。図10(b)には、インプリントの後にスタンパを取り外した状態が示される。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残っている。
【0036】
図10(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させる。この工程は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行われる。
【0037】
図10(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させる。この工程は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0038】
図10(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させる。例えば誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0039】
図10(f)に示すように、第2のハードマスク5まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9を成膜する。例えば、厚さ30nmのCrを成膜する。
【0040】
図10(g)に示すように、Crから成る注入深度調節層9、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させる。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成される。この磁性の失活は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、分圧比1:1のHeとN2との混合ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間100秒にて行われる。
【0041】
図10(h)に示すように、残存している注入深度調節層9を除去する。この工程は、例えばRIE装置により、プロセスガスとしてCl2を使用し、チャンバー圧を1Pa、パワーを400Wとし、エッチング時間20秒として行われる。
【0042】
図10(i)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去する。この工程は、例えば過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行う。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離する。さらに、H2プラズマによって表面を洗浄する。
【0043】
図10(j)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体が得られる。
【0044】
第2の実施形態に係る製造方法では、第1のハードマスク4とは独立して注入深度調節層9を設ける。そのため、第1のハードマスク4を薄く成膜することができる。注入深度調節層9は、図10(f)に示されるように、マスクに対して凹凸パターンを形成した後に成膜される。
【0045】
(第3の実施形態)
図11(a)〜(k)を参照して、第3の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。ただし、図11(a)〜(e)の工程は第2の実施形態の図10(a)〜(e)の工程と同様に行うことができるため、説明を省略する。
【0046】
図11(f)に示すように、パターン化された第2のハードマスク5をマスクとして、Moから成る第1のハードマスク4をエッチングしてパターンを転写し、凹部でDLC層3の表面を露出させる。この処理は、例えば、イオンミリング装置により、プロセスガスとしてArを使用し、チャンバー圧を0.05Paとし、加速電圧400V、処理時間10秒にて行われる。
【0047】
図11(g)に示すように、パターン化された第1のハードマスク4をマスクとして、DLC層3をエッチングしてパターンを転写し、凹部で磁気記録層2の表面を露出させる。この処理は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0048】
図11(h)に示すように、DLC層3まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9を成膜する。例えば、厚さ30nmのWを成膜する。
【0049】
図11(i)に示すように、Wから成る注入深度調節層9を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させる。この工程は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間50秒にて行われる。この処理により、注入深度調節層9の膜厚は例えば30nmから2nmへと減少する。
【0050】
図11(j)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去する。この工程は、例えば過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行う。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離し、磁気記録層2の非磁性領域8上には注入深度調節層9が、磁性が維持される領域上にはDLC層3がそれぞれ残る。この残留するDLC層3の膜厚は例えば3nmとなり、注入深度調節層9の膜厚は例えば2nmとなり、生じる凹凸差は1nmとなる。
【0051】
図11(k)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体が得られる。
【0052】
第3の実施形態に係る製造方法では、第1のハードマスク4とは独立して注入深度調節層9を設ける。そのため、第1のハードマスク4を薄く成膜することができる。注入深度調節層9は、図11(h)に示されるように、マスクに対して凹凸パターンを形成した後に成膜される。
【0053】
(第4の実施形態)
図12(a)〜(k)を参照して、第4の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。ただし、図12(a)〜(e)の工程は第2の実施形態の図10(a)〜(e)の工程と同様に行うことができるため、説明を省略する。
【0054】
図12(f)に示すように、パターン化された第2のハードマスク5をマスクとして、Moから成る第1のハードマスク4をエッチングしてパターンを転写し、凹部でDLC層3の表面を露出させる。この工程は、例えば、イオンミリング装置により、プロセスガスとしてArを使用し、チャンバー圧を0.05Paとし、加速電圧400V、処理時間10秒にて行われる。
【0055】
図12(g)に示すように、パターン化された第1のハードマスク4をマスクとして、DLC層3をエッチングしてパターンを転写し、凹部で磁気記録層2の表面を露出させる。この処理は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行われる。
【0056】
図12(h)に示すように、DLC層3まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9を成膜する。例えば、厚さ25nmのWを成膜する。
【0057】
図12(i)に示すように、Wから成る注入深度調節層9を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させる。この工程は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間50秒にて行われる。この処理により、注入深度調節層9が全てエッチングされ、磁気記録層2の凹部表面も例えば3nmエッチングされる。
【0058】
図12(j)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去する。この工程は、例えば過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行う。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離し、磁気記録層2の磁性が維持される領域上にはDLC層3が残る。この残留するDLC層3の膜厚は例えば3nmとなり、一方、非磁性領域8の表面は3nmエッチングされているため、生じる凹凸差は6nmとなる。
【0059】
図12(k)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体が得られる。
【0060】
第4の実施形態に係る製造方法では、第1のハードマスク4とは独立して注入深度調節層9を設ける。そのため、第1のハードマスク4を薄く成膜することができる。注入深度調節層9は、図12(h)に示されるように、マスクに対して凹凸パターンを形成した後に成膜される。また、第3の実施形態と比較して、注入深度調節層9を薄く成膜することで、図12(i)に示すように、失活の際に注入深度調節層9が全て消失する。
【0061】
なお、製造した磁気記録媒体において、各種の膜の厚さおよび凹凸の深さは、例えばAFM(atomic force microscope)、断面TEM(transmission electron microscopy)などを用いて容易に測定することができる。また、メタルマスク種およびその組成比については、EDX(energy dispersive X-ray spectroscopy)分析を行なうことで容易に測定できる。加工完成後媒体をXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析し、媒体内の残留ガスを分析することで、イオンビームエッチングで用いたエッチングガス種とその効果を調査することが可能である。エッジラフネスについては、AFMまたは平面SEM(scanning electron microscopy)を用いて画像解析により測定が可能である。
【0062】
[材料の詳細]
以下に、実施形態に係るパターンド媒体の製造方法にて使用できる材料について説明する。
【0063】
(注入深度調節層)
注入深度調節層9は、イオンビーム照射によるイオンの侵入深さの調節のために設けられる。失活の進行に伴って注入深度調節層9の膜厚が減少することで、イオンビーム侵入深さが深くなっていく。
【0064】
注入深度調節層9として、レジスト材料、種々の無機物および金属並びにそれらの化合物を用いることができる。レジスト材料を用いる場合、一般的な光硬化レジスト、熱硬化レジスト、SOG(Spin−On−Glass)等を使用することができる。レジスト材料を成膜後、スタンパをインプリントしてできるインプリント残渣をそのまま注入深度調節層として使用することもできる。一方、各マスクのパターン形成後に、蒸着等によってレジスト材料を成膜することもできる。非金属の無機物を用いる場合、C、CxNy(y≦x)、Si、SiO2、SixNy(y≦4x/3)、SixCy(y≦25x)などを用いることができる。金属を用いる場合、Ag、Au、Cu、Pd、Pt、Ru等の貴金属、およびAl、Cr、Hf、Mo、Nb、Ta、Ti、V、W、Zr等の化合物を作り易い金属を使用することができる。プロセス中に化合物を作り易い材料は、一般的にエッチングレートが遅い。エッチングレートの遅い注入深度調節層9は、十分な量のイオンを注入することができ、好適である。また、貴金属は注入イオン種と反応生成物を作りにくいため、イオンが注入深度調節層9中でトラップされず、注入され易いという利点がある。
【0065】
第1のハードマスク4を、注入深度調節層9として使用することもできる。この場合、注入深度調節層9は、各層の成膜時(例えば図3aの工程)に第1のハードマスク4として成膜される。
【0066】
注入深度調節層9を剥離層として使用することもできる。例えば、Mo、Cr等のような酸によって容易に溶解される金属は、失活の工程で注入深度の調節のために使用した後、そのまま剥離のために使用することができる。また、Ti、Taはフッ酸で除去することができる。注入深度調節層9としてレジスト材料を使用する場合、レジスト剥離液で除去することができる。また、複数種の注入深度調節層9を重ねて成膜してもよい。例えば、前述したエッチングレートの遅いTa等の注入深度調節層を媒体表面側に、Moのような剥離が容易な注入深度調節層を基板側に設けることで、イオンの十分な注入と弱酸による剥離を実現することができる。
【0067】
注入深度調節層9の初期膜厚は、その層がもつイオン遮蔽性に応じて決定することができる。例えば、イオン遮蔽性が高い材料を用いる場合、注入深度調節層9が薄くなるにつれてイオン侵入深さが深くなるため、注入深度調節層9は薄くてもかまわない。逆に、イオン遮蔽性が低い材料を用いる場合、注入深度調節層9がエッチングされるにつれ、注入深度調節層9の表面からのイオン侵入深さは浅くなることがある。その場合、注入深度調節層9は厚めに成膜する必要がある。イオン遮蔽性がいずれの場合であっても、注入深度調節層9の初期膜厚および注入深度調節層9のエッチングされる膜厚が薄すぎる場合、磁気記録層2の深さ方向の失活が不足するおそれが生じる。したがって、注入深度調節層9の初期膜厚およびエッチングされる膜厚は、イオン侵入深さに応じて適切に選択する必要がある。プロセスのロバスト性を保つ観点から、注入深度調節層9の膜厚は実際に必要な厚さよりも厚くてかまわない。第1のハードマスク4と注入深度調節層9とを兼ねた層を成膜する場合、その膜厚は例えば10から40nmとすることが好ましく、特に15〜30nmとすることが好ましい。一方、マスクの凹凸パターン形成後に注入深度調節層9を成膜する場合も同様である。成膜する厚さを調節することで、磁性失活によって注入深度調節層9を全て消失させるか、一部残すかを調節することができる。
【0068】
(レジスト)
レジスト7としては、UV硬化樹脂や、ノボラックを主成分とした一般的なレジスト7などを用いることができる。UV硬化樹脂を使用する場合は、スタンパ材は石英や樹脂などの光を透過させるものがよい。UV硬化樹脂に紫外線を照射することで硬化させることができる。紫外線の光源としては例えば高圧水銀ランプを用いればよい。ノボラックを主成分とした一般的なレジスト7を使用する場合は、スタンパにNi、石英、Si、SiCなどの材質を用いることができる。レジスト7は熱や圧力を加えることで硬化させることができる。
【0069】
(ハードマスク)
第1から第3のハードマスクは、注入深度調節層9と組成が異なるものを使用することが好ましい。組成が異なることで、それらの層のエッチングレートおよび遮蔽性に差が生じ、膜厚方向および膜内方向からの注入イオンの広がりが防止される。注入深度調節層9として例えばCr、Mo等の金属を使用する場合、レジストやCを主成分とする材料は選択比を大きく出来るため好ましい。逆に注入深度調節層9としてCを用いる場合、SiやTa、Tiなどを各ハードマスクとすることができる。しかしながら、第1のハードマスク4は、注入深度調節層9として設けることもできる。
【0070】
第1のハードマスク4は、容易に薄利が可能な材料を使用することができる。例えば、磁気記録層の主成分よりも剥離液に対する反応性が高いものを使用できる。具体的には、Mo、Cr、Ta、V、Nb、Ta、Zr、Al等を使用することができる。第1のハードマスク4の膜厚は、注入深度調節層9として設ける場合には、10から40nmとすることが好ましく、特に20〜30nmとすることが好ましい。また、剥離層として設ける場合には、第1のハードマスク4の膜厚は、1から5nmとすることが好ましく、特に3nmとすることが好ましい。
【0071】
第2のハードマスク5としては、例えばカーボンを主成分とする材料、CN、BC等を使用することができる。特にカーボンを70%以上含有することが好ましい。第2のハードマスク5の膜厚は、15から100nmとすることが好ましく、特に20から50nmとすることが好ましい。
【0072】
第3のハードマスク5としては、Si、Ti、Ta、W等を使用することができる。特にSiを使用することが好ましい。第3のハードマスク6の膜厚は、2から5nmとすることが好ましく、特に3nmとすることが好ましい。
【0073】
(ダイヤモンドライクカーボン層)
磁気記録層2の酸化を防止する層として、第1のハードマスク4と磁気記録層2との間にダイヤモンドライクカーボン(DLC)層3を設けることができる。DLC層3はカーボンを主成分とする。DLC層3の厚さは1〜20nmとすることができる。
【0074】
(基板)
基板1としては、例えばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板、酸化表面を有するSi単結晶基板などを用いることができる。ガラス基板としては、アモルファスガラスおよび結晶化ガラスが用いられる。アモルファスガラスとしては、汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスが挙げられる。結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスが挙げられる。セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが挙げられる。基板1としては、上述した金属基板や非金属基板の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。また、基板上への薄膜の形成方法としては、スパッタリング法だけでなく、真空蒸着法または電解メッキ法などを使用して同様な効果を得ることができる。
【0075】
(軟磁性裏打ち層)
軟磁性裏打ち層(SUL)は、垂直磁気記録層を磁化するための単磁極ヘッドからの記録磁界を水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる作用を有する。軟磁性裏打ち層には、Fe、NiまたはCoを含む材料を用いることができる。このような材料として、FeCo系合金例えばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金例えばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金例えばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金例えばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金例えばFeZrNなどを挙げることができる。Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造または微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることもできる。軟磁性裏打ち層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、TiおよびYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることもできる。Co合金には80at%以上のCoが含まれることが好ましい。このようなCo合金は、スパッタ法により成膜した場合にアモルファス層が形成されやすい。アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示すとともに、媒体の低ノイズ化を図ることができる。好適なアモルファス軟磁性材料としては、例えばCoZr、CoZrNbおよびCoZrTa系合金などを挙げることができる。
【0076】
軟磁性裏打ち層の下に、軟磁性裏打ち層の結晶性の向上または基板との密着性の向上のために、さらに下地層を設けてもよい。こうした下地層の材料としては、Ti、Ta、W、Cr、Pt、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。軟磁性裏打ち層と記録層との間に、非磁性体からなる中間層を設けてもよい。中間層は、軟磁性裏打ち層と記録層との交換結合相互作用を遮断し、記録層の結晶性を制御する、という2つの作用を有する。中間層の材料としては、Ru、Pt、Pd、W、Ti、Ta、Cr、Si、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。
【0077】
スパイクノイズ防止のために軟磁性裏打ち層を複数の層に分け、0.5〜1.5nmのRuを挿入することで反強磁性結合させてもよい。また、CoCrPt、SmCo、FePtなどの面内異方性を持つ硬磁性膜またはIrMn、PtMnなどの反強磁性体からなるピン層と軟磁性層とを交換結合させてもよい。交換結合力を制御するために、Ru層の上下に磁性膜(例えばCo)または非磁性膜(例えばPt)を積層してもよい。
【0078】
(磁気記録層)
垂直磁気記録層としては、Coを主成分とし、少なくともPtを含み、さらに酸化物を含む材料を用いることが好ましい。垂直磁気記録層は、必要に応じて、Crを含んでいてもよい。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化チタンが好適である。垂直磁気記録層は、層中に磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)が分散していることが好ましい。この磁性粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性粒子の配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)を得ることができる。このような構造を得るためには、含有させる酸化物の量が重要となる。
【0079】
垂直磁気記録層の酸化物含有量は、Co、Cr、Ptの総量に対して、3mol%以上12mol%以下であることが好ましく、5mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。垂直磁気記録層の酸化物含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁気記録層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子を分離させ、微細化させることができるためである。酸化物の含有量が上記範囲を超えた場合、酸化物が磁性粒子中に残留し、磁性粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには、磁性粒子の上下に酸化物が析出し、結果として磁性粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)が得られなくなるため好ましくない。
【0080】
垂直磁気記録層のCr含有量は、0at%以上16at%以下であることが好ましく、10at%以上14at%以下であることがより好ましい。Cr含有量として上記範囲が好ましいのは、磁性粒子の一軸結晶磁気異方性定数Kuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られるためである。Cr含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子の結晶性、配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。
【0081】
垂直磁気記録層のPt含有量は、10at%以上25at%以下であることが好ましい。Pt含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁性層に必要なKuが得られ、さらに磁性粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるためである。Pt含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。Pt含有量が上記範囲未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性に十分なKuが得られないため好ましくない。
【0082】
垂直磁気記録層は、Co、Cr、Pt、酸化物のほかに、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reから選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進し、または結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。8at%を超えた場合、磁性粒子中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子の結晶性、配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0083】
垂直磁気記録層としては、CoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSi、ならびにPt、Pd、Rh、およびRuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造、さらに、これらにCr、BおよびOを添加したCoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどを使用することもできる。
【0084】
垂直磁気記録層の厚さは、好ましくは5ないし60nm、より好ましくは10ないし40nmである。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置を作製することができる。垂直磁気記録層の厚さが5nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向がある。垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。垂直磁気記録層の保磁力は、237000A/m(3000Oe)以上とすることが好ましい。保磁力が237000A/m(3000Oe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
【0085】
(保護層)
保護層11は、垂直磁気記録層の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐ目的で設けられる。保護層11の材料としては、例えばC、SiO2、ZrO2を含むものが挙げられる。保護層11の厚さは1から10nmとすることが好ましい。これにより、ヘッドと媒体の距離を小さくできるので、高密度記録に好適である。カーボンは、sp2結合炭素(グラファイト)とsp3結合炭素(ダイヤモンド)に分類できる。耐久性、耐食性はsp3結合炭素のほうが優れるが、結晶質であることから表面平滑性はグラファイトに劣る。通常、カーボンの成膜はグラファイトターゲットを用いたスパッタリング法で形成される。この方法では、sp2結合炭素とsp3結合炭素が混在したアモルファスカーボンが形成される。sp3結合炭素の割合が大きいものはダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれ、耐久性、耐食性に優れ、アモルファスであることから表面平滑性にも優れるため、磁気記録媒体の表面保護層として利用されている。CVD(chemical vapor deposition)法によるDLCの成膜は、原料ガスをプラズマ中で励起、分解し、化学反応によってDLCを生成させるため、条件を合わせることで、よりsp3結合炭素に富んだDLCを形成することができる。
【0086】
[工程の詳細]
以下に、実施形態に係るパターンド媒体の製造方法に含まれる工程について説明する。
【0087】
(マスク成膜)
一般的な磁気記録媒体の磁気記録層の表層に、第1のハードマスク4、第2のハードマスク5、第3のハードマスク6の順に成膜する。これらはスパッタまたはCVDにより成膜することができる。
【0088】
その後、さらにその上からレジスト7を形成する。媒体の表面に、スピンコート法、ディップ法、インクジェット法等で均一にレジストを塗布する。レジストには一般的な感光性樹脂や熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を用いることが出来る。樹脂は酸素やフッ素を含むガスによるRIEでエッチングされるものが望ましい。
【0089】
(インプリント)
レジスト7を形成後、スタンパをインプリントして、凹凸パターンをレジスト7に転写する。インプリント用スタンパは、石英、樹脂、Si、Niなどの材料で作製されたものを用いる。石英や樹脂でできたスタンパを用いた際には、紫外光で硬化する感光性樹脂(フォトレジスト)が好適である。レジストが熱硬化性または熱可塑性樹脂であれば、インプリント時に熱または圧力を加えるため、スタンパはSi、Niのものが好適である。
【0090】
例えば、記録トラックとサーボ情報のパターンが形成された樹脂スタンパを5tで60秒間プレスし、紫外光を10秒間照射することによって、レジストにそのパターンを転写する。プレスは、ダイセットの下板に、スタンパ、基板、スタンパを積層し、ダイセットの上板で挟む。基板には予め、両面にレジストが塗付されている。スタンパ及び基板は、スタンパの凹凸面と基板のレジスト膜側を対向させる。インプリントによって作製されたパターンの凹凸高さは30〜50nmであるため、その残渣は5〜20nm程度となる。スタンパにフッ素系の剥離材を塗布すれば、スタンパとレジストの良好な剥離ができる。
【0091】
(残渣除去)
RIE(反応性イオンエッチング)でインプリント後のレジスト残渣除去を行う。プラズマソースは、低圧で高密度プラズマが生成可能なICP(Inductively Coupled Plasma)が好適であるが、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマや、一般的な並行平板型RIE装置を用いてもよい。レジストに感光性樹脂を用いた場合には、O2ガスまたはCF4ガス、O2とCF4との混合ガスを用いる。レジスト7にSi系の材料(例えば、SOG(Spin-On-Glass))を用いた場合には、CF4またはSF6等のフッ素ガスRIEを用いる。残渣除去はレジスト下の第3のハードマスク6が露出した段階で終了とする。
【0092】
(第3のハードマスクのパターニング)
インプリントおよびレジスト残渣除去の後、パターンが形成されたレジスト7をマスクとして、第3のハードマスク6をパターニングする。第3のハードマスク6のパターニングにはRIEを用いても良いし、その他のイオンビームエッチング装置を用いてもよい。第3のハードマスク6のパターニングは第2のハードマスク5の表面が露出した段階で終了とする。
【0093】
(第2のハードマスクのパターニング)
第3のハードマスク6のパターニングの後、第2のハードマスク5をパターニングする。第2のハードマスク5のパターニングには反応性ガスによるRIEを用いても良いし、希ガスによるイオンビームエッチング法を用いても良い。反応性ガスによるエッチングを行うのであれば、例えば、SF6、CF4、Cl2、HBrまたはこれらのガスにアシストとしてAr等の希ガスを加えたものが好適である。希ガスによるエッチングの場合はHe、Ne、Ar、Xe、Kr等のガスが好適である。また、希ガスにN2、O2などの反応性ガスを混合させることもできる。第2のハードマスク5のパターニングは第1のハードマスク4の表面が露出した段階で終了とする。
【0094】
(磁気記録層の磁性失活)
磁気記録層2のパターニングにはイオンビーム照射による磁性失活法を用いる。磁性失活によって、磁気記録媒体のフリンジ特性が向上する。磁性失活とは、磁気記録層2のマスクから露出した領域の磁性を、マスクで覆われた領域の磁性と比較して弱める工程を指す。磁性を弱めるとは、軟磁性化させたり、非磁性化または反磁性化させたりすることを意味する。このような磁性の変化は、VSM(試料振動型磁力計)やKerr(磁気光学カー効果)測定装置によりHn、Hs、Hcなどの値を測定することで観測することができる。
【0095】
イオンビームは一般的なイオン注入機、ECRイオンシャワー装置、走査型の収束イオンビーム装置、ガスクラスターイオンビーム装置などを用いて発生させることができる。イオン注入機であれば、大面積に対して高スループットでイオンビーム照射を行うことができるし、ECRイオンソースを用いれば、高電流密度で媒体1枚当たりのタクト時間を短縮できる。
【0096】
使用するイオン種は、He、Ne、Ar、Kr、Xeらの希ガスまたはN2、O2、H2などの反応性ガス、あるいはそれらの混合物が好ましい。希ガスを用いれば、磁気記録層をアモルファス化し、磁化の垂直配向を弱めることができる。N2、O2、H2などの反応性ガスを用いれば、記録層の磁性元素と反応し、あるいは格子間に侵入し、磁化を減らすことができる。また、反応性ガスと希ガスとを混合すれば、より高い反応性が得られ、失活のタクト時間を短縮できる。
【0097】
イオンビーム照射において、注入されるイオンの量は、注入するイオンのエネルギーおよび被注入材料に依存する幅を持ったガウス分布に従う。実施形態に係るパターンド媒体のような数10nm程度の薄い記録層への注入には、比較的低いエネルギーのイオンビームが好ましい。好ましくは100keV以下で、より好ましくは50keV以下である。
【0098】
(第1のハードマスクの剥離)
磁気記録層のパターニングの後、第1のハードマスク4の剥離を行う。第1のハードマスク4の上に残る第2のハードマスク5、第3のハードマスク6等は、第1のハードマスク4と共に剥離される。剥離の手法は、第1のハードマスク4として使用する材料に応じて適宜選択することができる。例えば、ウェットプロセス、反応性イオンエッチング、イオンビームエッチング等を行うことができる。
【0099】
ウェットプロセスの場合、水、酸、アルカリ等を剥離液として用いることができる。剥離層としての第1のハードマスク4と磁気記録層2との間にDLCなどからなる保護層を設けることで、磁気記録層へダメージを与えずにマスクの剥離を行うことができる。剥離液は、第1のハードマスク4の材料に応じて適宜選択されるが、例えば高温の水、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を使用することができる。具体的には、過酸化水素水、塩酸、硝酸、フッ酸、スルファミン酸、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等の種々の酸、アルカリを使用することができる。剥離後、剥離液が残らないように、磁気記録媒体を水あるいは溶媒にて洗浄することが好ましい。
【0100】
(保護層形成および後処理)
カーボンから成る保護層11は、凹凸へのカバレッジをよくするためにCVD法で成膜することが望ましいが、スパッタ法または真空蒸着法により成膜してもよい。CVD法によれば、sp3結合炭素を多く含むDLC膜が形成される。膜厚は2nm以下だとカバレッジが悪くなり、10nm以上だと、記録再生ヘッドと媒体との磁気スペーシングが大きくなってSNRが低下するので好ましくない。保護層11上に潤滑剤を塗布することができる。潤滑剤としては、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ化アルコール、フッ素化カルボン酸などを用いることができる。
【0101】
(注入深度調節層の成膜)
マスクの凹凸パターン形成後に、注入深度調節層9を成膜することができる。例えば、第2の実施形態に係る製造方法では、第2のハードマスク5のパターニング後に注入深度調節層9の成膜が行われる。また、第3および4の実施形態に係る製造方法では、DLC層3のパターニング後に注入深度調節層9の成膜が行われる。成膜の方法は、使用する材料に応じて適宜選択することができる。例えば、スパッタリング、蒸着等によって行うことができる。注入深度調節層9の成膜の後に、磁気記録層2の失活が行われる。
【0102】
(第1のハードマスクのパターニング)
第2のハードマスク5のパターニング後に、第1のハードマスク4のパターニングを行うことができる。特に、第3および第4の実施形態に係る製造方法において行われる。第1のハードマスク4のパターニングには、反応性ガスによるRIEを用いても良いし、希ガスによるイオンビームエッチング法を用いても良い。第1のハードマスク4のパターニングはDLC層3の表面が露出した段階で終了とする。
【0103】
(ダイヤモンドライクカーボン層のパターニング)
第1のハードマスク4のパターニング後に、DLC層3のパターニングを行うことができる。特に、第3および第4の実施形態に係る製造方法において行われる。DLC層3のパターニングには、反応性ガスによるRIEを用いても良いし、希ガスによるイオンビームエッチング法を用いても良い。DLC層3のパターニングは磁気記録層2の表面が露出した段階で終了とする。
【0104】
[磁気記録装置]
次に、実施形態に係る磁気記録装置(HDD)について説明する。図13は、実施形態によって製造された磁気記録媒体を搭載した磁気記録装置を示す斜視図である。
【0105】
図13に示すように、本発明の実施形態に係る磁気記録装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。パターンド媒体100は、スピンドルモータ140に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。磁気記録装置150は、複数のパターンド媒体100を備えたものでもよい。
【0106】
パターンド媒体100に対して情報の記録再生を行うヘッドスライダー130は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダー130の先端付近には磁気ヘッドが設けられている。パターンド媒体100が回転すると、サスペンション154による押付け圧力とヘッドスライダー130の媒体対向面(ABS)で発生する圧力とがつりあい、ヘッドスライダー130の媒体対向面は、パターンド媒体100の表面から所定の浮上量をもって保持される。
【0107】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム160の一端に接続されている。アクチュエータアーム160の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム160のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とから構成することができる。アクチュエータアーム160は、ピボット157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッドをパターンド媒体100の任意の位置にアクセスできる。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例】
【0109】
[実施例1]
図3に示す方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。
【0110】
図3(a)に示すように、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC保護膜3、厚さ30nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ30nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜した。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートした。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置した。
【0111】
図3(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写した。その後、スタンパを取り外した。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残った。
【0112】
図3(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行った。
【0113】
図3(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0114】
図3(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させた。誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を30秒として行った。
【0115】
図3(f)に示すように、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させた。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成された。磁性の失活は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、分圧比1:3のHeとN2との混合ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間60秒にて行った。
【0116】
図3(g)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離した。
【0117】
図3(h)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0118】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。
【0119】
[実施例2]
図10に示す方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。
【0120】
図10(a)に示すように、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC層3、厚さ3nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ20nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜した。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートした。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置した。
【0121】
図10(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写した。その後、スタンパを取り外した。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残った。
【0122】
図10(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行った。
【0123】
図10(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0124】
図10(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0125】
図10(f)に示すように、第2のハードマスク5まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9として厚さ30nmのCrを成膜した。
【0126】
図10(g)に示すように、Crから成る注入深度調節層9、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させた。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成された。この磁性の失活は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、分圧比1:1のHeとN2との混合ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間100秒にて行った。
【0127】
図10(h)に示すように、残存している注入深度調節層9を除去した。この工程は、RIE装置により、プロセスガスとしてCl2を使用し、チャンバー圧を1Pa、パワーを400Wとし、エッチング時間20秒として行った。
【0128】
図10(i)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4をDLC層3から剥離させた。さらに、H2プラズマによって表面を洗浄した。
【0129】
図10(j)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0130】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。
【0131】
[実施例3]
図11に示す方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。
【0132】
図11(a)〜(e)に示すように、各層の成膜およびパターン形成を行った。これらの工程は、実施例2の図10(a)〜(e)に示される工程と同様に行った。
【0133】
図11(f)に示すように、パターン化された第2のハードマスク5をマスクとして、Moから成る第1のハードマスク4をエッチングしてパターンを転写し、凹部でDLC層3の表面を露出させた。この処理は、イオンミリング装置により、プロセスガスとはArを使用し、チャンバー圧を0.05Paとし、加速電圧400V、処理時間10秒にて行った。
【0134】
図11(g)に示すように、パターン化された第1のハードマスク4をマスクとして、DLC層3をエッチングしてパターンを転写し、凹部で磁気記録層2の表面を露出させた。この処理は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0135】
図11(h)に示すように、DLC層3まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9として厚さ30nmのWを成膜した。
【0136】
図11(i)に示すように、Wから成る注入深度調節層9を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活した。この工程は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間50秒にて行った。この処理により、注入深度調節層9の膜厚は30nmから2nmへと減少した。
【0137】
図11(j)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離し、磁気記録層2の非磁性領域8上には注入深度調節層9が、磁性が維持される領域上にはDLC層3がそれぞれ残った。この残留するDLC層3の膜厚は3nm、注入深度調節層9の膜厚は2nmとなり、生じた凹凸差は1nmであった。
【0138】
図11(k)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0139】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。
【0140】
[実施例4]
図12に示す方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。
【0141】
図12(a)〜(e)に示すように、各層の成膜およびパターン形成を行った。これらの工程は、実施例2の図10(a)〜(e)に示される工程と同様に行った。
【0142】
図12(f)に示すように、パターン化された第2のハードマスク5をマスクとして、Moから成る第1のハードマスク4をエッチングしてパターンを転写し、凹部でDLC層3の表面を露出させた。この工程は、イオンミリング装置により、プロセスガスとしてArを使用し、チャンバー圧を0.05Paとし、加速電圧400V、処理時間10秒にて行った。
【0143】
図12(g)に示すように、パターン化された第1のハードマスク4をマスクとして、DLC層3をエッチングしてパターンを転写し、凹部で磁気記録層2の表面を露出させた。この処理は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0144】
図12(h)に示すように、DLC層3まで凹凸パターンを形成した媒体に対して、注入深度調節層9として厚さ25nmのWを成膜した。
【0145】
図12(i)に示すように、Wから成る注入深度調節層9を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活した。この工程は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間50秒にて行った。この処理により、注入深度調節層9が全てエッチングされ、磁気記録層2の凹部表面も3nmエッチングされた。
【0146】
図12(j)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離し、磁気記録層2の磁性が維持される領域上にはDLC層3が残った。この残留するDLC層3の膜厚は3nmとなった。非磁性領域8表面は3nmエッチングされているため、生じた凹凸差は6nmとなった。
【0147】
図12(k)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0148】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。
【0149】
[実施例5]
実施例1と同様の方法でDTR媒体を作製した。ただし、図3(a)の工程において、注入深度調節層を兼ねるMoから成る第1のハードマスク4の膜厚を5nm、10nm、20nm、30nmまたは40nmとし、図3(f)の工程において、第1のハードマスク4が1〜5nm残るようにエッチングを停止した。
【0150】
また、比較例1として、図3(e)の工程までは実施例1と同様に行った後、注入深度調節層を兼ねるMoから成る第1のハードマスク4およびDLC層3をエッチングし、実施例2と同様の磁性失活を行って媒体を作製した。
【0151】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行った。さらに、媒体の非磁性領域のMsをVSMにて測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0152】
エラー率ERの結果から、磁性失活の際に注入深度調節層を設けた媒体は、DTR媒体として優れた性能を示すことが確認された。また、Msの結果から、磁性失活の際に注入深度調節層を設けた媒体では比較例1と比較して、十分に磁性が失活されることがわかった。
【0153】
実施例2、3および4についても、注入深度調節層の厚さを変化させて媒体を作製し、比較例と比較した。その結果、実施例1の媒体と同様に、注入深度調節層を設けることで
磁性を十分に失活させることが可能となり、エラー率を低く抑えることができることがわかった。
【0154】
[実施例6]
実施例1と同様の方法でDTR媒体を作製した。ただし、図3(f)の磁性失活の工程において、残留する注入深度調節層の膜厚が20nm、10nm、5nmまたは2nmとなるようにイオンビーム照射を停止した。
【0155】
また、比較例2として、図3(f)の磁性失活の工程において、実施例2と同様のガスを使用し、エネルギーを30keVにてイオン注入を行ってDTR媒体を作製した。このような高いエネルギーのイオン注入を行う場合、注入深度調節層の膜厚は減少しない。
【0156】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行った。さらに、媒体の非磁性領域のMsをVSMにて測定した。結果を表2に示す。
【表2】
【0157】
実施形態に係る媒体では、磁性が十分に失活し、良好なエラー率が得られた。これに対し、比較例2では、磁性は十分に失活しているものの、エラー率を測定することができなかった。ドライブから媒体を取り出して調査したところ、高エネルギーのイオン注入により、サイドにダメージが広がっていることが判明した。以上の結果より、注入深度調節層の膜厚を減少させながら低エネルギーによるイオンビームを照射することで、サイドへのダメージがなく媒体のパターニングが可能であることが示された。
【0158】
実施例2、3および4についても、注入深度調節層の減少量を変化させて媒体を作製し、比較例と比較した。その結果、実施例1の媒体と同様に、注入深度調節層の膜厚を減少させながら失活することで、サイドへのダメージが生じず、磁性が十分に失活され、レラー率を低く抑えることができることがわかった。
【0159】
[実施例7]
実施例1と同様の方法でDTR媒体を作製した。ただし、図3(a)の工程において、照射するイオンビームとしてHe、Ne、Ar、Kr、Xe、N2、O2、H2、He−N2の混合ガス、Ne−H2の混合ガスまたはAr−O2の混合ガスを用いた。さらに、照射エネルギーについてはサイドにダメージがないような条件へと変更した。比較例として比較例1を作製した。
【0160】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行った。さらに、媒体の非磁性領域のMsをVSMにて測定した。結果を表3に示す。
【表3】
【0161】
実施形態に係る媒体は、磁性が十分に失活し、良好なエラー率が得られた。これに対し、比較例1では、非記録領域のMsを0まで下げることができず、エラー率が測定不可能であった。イオンビームにおいて種々のガスを使用した場合でも、実施形態に係る媒体は優れた性能を発揮することがわかった。
【0162】
実施例2、3および4についても、使用するガス種を変えて媒体を作製し、比較例と比較した。その結果、実施例1の媒体と同様に、種々のガスを使用した場合でも、優れた性能を発揮することがわかった。
【0163】
[実施例8]
実施例2と同様の方法でDTR媒体を作製した。ただし、図10(f)の工程で成膜する注入深度調節層の材料として、C、C0.9N0.1、Si、SiO2、Si3N4、Si5C19、Ag、Au、Cu、Pd、Pt、Ru、CoPt、CoCrPt,CoCrPt−SiO2、Al、Cr、Hf、Mo、Nb、Ta、Ti、V、WまたはZrを用いた。なお、注入深度調節層の剥離は、注入深度調節層として使用する材料に応じて表4に示されるように適宜選択した。さらに、比較例として比較例1を作製した。
【0164】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行った。さらに、媒体の非磁性領域のMsをVSMにて測定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0165】
実施形態に係る媒体は、磁性が十分に失活し、良好なエラー率が得られた。これに対し、比較例1では、非記録領域のMsを0まで下げることができず、エラー率が測定不可能であった。注入深度調節層として種々の材料を使用した場合でも、実施形態に係る媒体は優れた性能を発揮することがわかった。
【0166】
実施例1、3および4についても、注入深度調節層として使用する材料を変えて媒体を作製し、比較例と比較した。その結果、実施例2の媒体と同様に、注入深度調節層として種々の材料を使用した場合でも、優れた性能を発揮することがわかった。
【0167】
[実施例9]
実施例1と同様の方法によって磁気記録媒体を製造した。さらに、その性能を評価した。ただし、注入深度調節層および剥離層としての第1のハードマスク(Mo)4と第2のハードマスク(C)5との間に、第2の注入深度調節層としてTaを10nm積層した。さらに、Moの厚さを5nmへと薄膜化した。
【0168】
図3(a)に示すように、ガラス基板1上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoZrNb)(図示せず)、厚さ20nmの配向制御用下地層(Ru)(図示せず)および厚さ20nmの磁気記録層2(CoCrPt−SiO2)、厚さ2nmのDLC保護膜3、厚さ5nmの第1のハードマスク(Mo)4、厚さ5nmの第2の注入深度調節層(Ta)(図示せず)、厚さ30nmの第2のハードマスク(C)5、厚さ3nmの第3のハードマスク(Si)6を成膜した。第3のハードマスク6上に、厚さ80nmになるようにレジスト7をスピンコートした。スタンパを、その凹凸面がレジスト7に対向するように配置した。
【0169】
図3(b)に示すように、レジスト7に対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジスト7に転写した。その後、スタンパを取り外した。レジスト7に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残った。
【0170】
図3(c)に示すように、ドライエッチングにより、凹部のレジスト残渣を除去し、第3のハードマスク6の表面を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒として行った。
【0171】
図3(d)に示すように、パターン化されたレジスト7をマスクとし、イオンビームエッチングを用いて第3のハードマスク6にパターンを転写し、凹部で第2のハードマスク5を露出させた。この工程は、誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を20秒として行った。
【0172】
図3(e)に示すように、パターン化された第3のハードマスク6をマスクとして、Cから成る第2のハードマスク5をエッチングしてパターンを転写し、凹部で第1のハードマスク4の表面を露出させた。誘導結合プラズマ(ICP)RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を30秒として行った。
【0173】
図3(f)に示すように、Taから成る第2の失活深度調整層、Moから成る第1のハードマスク4およびDLC層3を介して、磁気記録層2のパターン凹部に対応する領域の磁性を失活させた。これにより、磁気記録層2に非磁性領域8が形成された。磁性の失活は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンによって、N2ガスを使用し、ガス圧0.04Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧5000V、処理時間60秒にて行った。この時、Taは全てエッチングされ消失した。
【0174】
図3(g)に示すように、残存している第1のハードマスク(Mo)4を、その上の層ごと除去した。この工程は、過酸化水素水へ媒体を浸漬し、1分間保持することで行った。これにより、第1のハードマスク4がDLC層3から剥離した。
【0175】
図3(h)に示すように、CVD(化学気相堆積)により保護層11を形成し、潤滑剤を塗布することでパターンド媒体を得た。
【0176】
作製した媒体をドライブに搭載し、フリンジ試験を行った。媒体の磁気的なLand幅は54nm、Groove幅は16nm、実効記録ヘッド幅(MWW)は80nm、実効再生ヘッド幅(MRW)は50nmとし、1000回の隣接記録後にエラー率測定を行ったところ、エラー率が10の−5乗以下となり、DTR媒体として問題なく動作したことを確認した。以上のように、失活深度調整層をMoとTaの2層にしても、問題なく媒体が作製でき、ドライブ駆動可能であることが示された。
【符号の説明】
【0177】
1…基板、2…磁気記録層、3…ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層、4…第1のハードマスク、5…第2のハードマスク、6…第3のハードマスク、7…レジスト、8…非磁性領域、9…注入深度調節層、10…マスク、11…保護層、100…磁気記録媒体、130…ヘッドスライダー、140…スピンドルモータ、150…磁気記録装置、154…サスペンション、156…ボイスコイルモータ、157…ピボット、160…アクチュエータアーム、210…サーボ領域、211…プリアンブル部、212…アドレス部、213…バースト部、220…データ領域、221…ディスクリートトラック、222…磁性ドット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録層上に凹凸パターンを有するマスクを形成し、前記マスクの凹部に対応する前記磁気記録層の領域の磁性を失活することを含むパターンド媒体の製造方法であって、
前記磁気記録層の上部に設けた注入深度調節層を介したイオンビームの照射によって、前記磁気記録層の磁性を失活することを含み、
磁性の失活の進行に伴って、前記注入深度調節層の膜厚が減少し、イオンビーム侵入深さが深くなるパターンド媒体の製造方法。
【請求項2】
失活完了時のイオンビーム侵入深さが前記磁気記録層より下に位置する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
失活開始時のイオンビーム侵入深さが前記磁気記録層内に位置する請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
失活開始時のイオンビーム侵入深さが前記磁気記録層より上に位置する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記注入深度調節層が失活によって消失する請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記注入深度調節層が失活後に残存し、残存した前記注入深度調節層を剥離することを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記注入深度調節層を前記マスクの成膜時に成膜する請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記注入深度調節層を前記マスクの凹凸パターン形成後に成膜する請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記注入深度調節層と前記磁気記録層との間にダイヤモンドライクカーボン層を設ける請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
磁気記録層上に、ダイヤモンドライクカーボン層、剥離層を兼ねる前記注入深度調節層、マスク層およびレジストを順に成膜し、
前記マスク層に凹凸パターンを形成し、
前記マスク層をマスクとして前記磁気記録層の磁性を失活し、
前記注入深度調節層を剥離する
ことを含む請求項7または9に記載の製造方法。
【請求項11】
磁気記録層上に、ダイヤモンドライクカーボン層、剥離層、前記注入深度調節層、マスク層およびレジストを順に成膜し、
前記マスク層に凹凸パターンを形成し、
前記マスク層をマスクとして前記磁気記録層の磁性を失活し、
前記剥離層を剥離する
ことを含む請求項7または9に記載の製造方法。
【請求項12】
磁気記録層上に、ダイヤモンドライクカーボン層、剥離層、マスク層およびレジストを順に成膜し、
前記マスク層に凹凸パターンを形成し、
前記注入深度調節層を成膜し、
前記マスク層をマスクとして前記磁気記録層の磁性を失活し、
前記剥離層を剥離する
ことを含む請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項13】
イオンビーム照射時の加速電圧がプロセス中で一定である請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
イオンビーム源がHe、Ne、Ar、Kr、Xe、N2、O2およびH2から成る群から選択されるガスまたはそれらの混合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
前記注入深度調節層の組成が、C、CxNy(y≦x)、Si、SiO2、SixNy(y≦4x/3)、SixCy(y≦25x)、Ag、Au、Cu、Pd、Pt、Ru、CoPt、CoCrPt、CoCrPt−SiO2、Al、Cr、Hf、Mo、Nb、Ta、Ti、V、WおよびZrから成る群から選択される少なくとも1つの材料を主成分とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の製造方法によって製造された磁気記録媒体を搭載した磁気記録装置。
【請求項1】
磁気記録層上に凹凸パターンを有するマスクを形成し、前記マスクの凹部に対応する前記磁気記録層の領域の磁性を失活することを含むパターンド媒体の製造方法であって、
前記磁気記録層の上部に設けた注入深度調節層を介したイオンビームの照射によって、前記磁気記録層の磁性を失活することを含み、
磁性の失活の進行に伴って、前記注入深度調節層の膜厚が減少し、イオンビーム侵入深さが深くなるパターンド媒体の製造方法。
【請求項2】
失活完了時のイオンビーム侵入深さが前記磁気記録層より下に位置する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
失活開始時のイオンビーム侵入深さが前記磁気記録層内に位置する請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
失活開始時のイオンビーム侵入深さが前記磁気記録層より上に位置する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記注入深度調節層が失活によって消失する請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記注入深度調節層が失活後に残存し、残存した前記注入深度調節層を剥離することを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記注入深度調節層を前記マスクの成膜時に成膜する請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記注入深度調節層を前記マスクの凹凸パターン形成後に成膜する請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記注入深度調節層と前記磁気記録層との間にダイヤモンドライクカーボン層を設ける請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
磁気記録層上に、ダイヤモンドライクカーボン層、剥離層を兼ねる前記注入深度調節層、マスク層およびレジストを順に成膜し、
前記マスク層に凹凸パターンを形成し、
前記マスク層をマスクとして前記磁気記録層の磁性を失活し、
前記注入深度調節層を剥離する
ことを含む請求項7または9に記載の製造方法。
【請求項11】
磁気記録層上に、ダイヤモンドライクカーボン層、剥離層、前記注入深度調節層、マスク層およびレジストを順に成膜し、
前記マスク層に凹凸パターンを形成し、
前記マスク層をマスクとして前記磁気記録層の磁性を失活し、
前記剥離層を剥離する
ことを含む請求項7または9に記載の製造方法。
【請求項12】
磁気記録層上に、ダイヤモンドライクカーボン層、剥離層、マスク層およびレジストを順に成膜し、
前記マスク層に凹凸パターンを形成し、
前記注入深度調節層を成膜し、
前記マスク層をマスクとして前記磁気記録層の磁性を失活し、
前記剥離層を剥離する
ことを含む請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項13】
イオンビーム照射時の加速電圧がプロセス中で一定である請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
イオンビーム源がHe、Ne、Ar、Kr、Xe、N2、O2およびH2から成る群から選択されるガスまたはそれらの混合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
前記注入深度調節層の組成が、C、CxNy(y≦x)、Si、SiO2、SixNy(y≦4x/3)、SixCy(y≦25x)、Ag、Au、Cu、Pd、Pt、Ru、CoPt、CoCrPt、CoCrPt−SiO2、Al、Cr、Hf、Mo、Nb、Ta、Ti、V、WおよびZrから成る群から選択される少なくとも1つの材料を主成分とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の製造方法によって製造された磁気記録媒体を搭載した磁気記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−53954(P2012−53954A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196050(P2010−196050)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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