説明

磁気記録媒体及びその製造法

【課題】高密度磁気記録媒体を安価に作成する.
【解決手段】平坦な基板101上に周期的凹凸構造を有する非磁性中間体114を形成し、中間体上に磁性膜111を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置に関し、特に磁気記録媒体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録装置において、人工的に記録トラックをパターニングした磁気記録媒体(ディスクリートトラックメディア(DTM))や、記録ビットをパターニングした磁気記録媒体(パターンドメディア(PM)またはディスクリートビットメディア(DBM))が提案されている(例えば特許第1888363号公報、特開平6-231443号公報、特開平4-336404号公報)。PMやDTMにおいて、記録密度を向上するためにはビット及びトラックに相当する凹凸構造はサブミクロンオーダーの微細化が要求される。このような微細構造の作製には、例えば電子線リソグラフィ(EBL)(例えばR.M.H.New et al, JVST B 12 (1994) p.3196)、X線リソグラフィ(例えばF.Rousseaux et al, JVST B 13 (1995) p.2787)などの使用が提案されている。しかしながら一般的にはこれらEBLや X線リソグラフィは高コストであるという問題が挙げられる。
【0003】
サブミクロンオーダーの構造の低コスト、高スループット生産に関して、インプリント方式による微小パターンの形成が報告されている(例えばS.Y.Chou et al, SCIENCE 272 (1996) p.85)。インプリント方式は、予め形成された型(モールド)を、被転写体を塗布した基板上に密着させてモールドの凹凸構造を複製をする手法である。本手法は、被転写体として熱可塑性樹脂を使用し、基板上の樹脂をガラス転移点以上に加熱して軟化させ、モールドを押し付けた後冷却して、硬化したモールドを除去する熱インプリント、被転写体として光硬化性樹脂を使用し、基板上に塗布された樹脂にモールドを押し当て、光照射により該樹脂を光硬化させて形成する光インプリント、特定の雰囲気中で軟化する樹脂を被転写体として使用する化学インプリントなど、幾つかの種類に分類できるが、いずれの手法においても、モールドを押し付けた被転写体を硬化させた後に該モールドを取り外し、被転写体にモールドの凹凸構造を転写することを特徴とした技術である。また米国特許第5,772,905号明細書によると、前記のようにインプリント法により基板上の被転写体に凹凸構造を形成した後、被転写体の該凹凸構造をマスクとしてエッチングにより該基板を掘り込む技術が開示されている。
【0004】
このようなインプリント技術を用いて磁気記録媒体を作成した例として、PMでは例えばS.Y.Chou et al, JAP 79 (1996) p.6101、DTMでは例えばD.Wachenschwanz et al, IEEE Trans. Magn, 41(2005) p.670などが報告されている。同時に前記のS.Y.Chou et al, JAP 79 (1996) p.6101では、リフトオフによる磁気記録媒体作成プロセスも開示されている。また、平坦な磁性膜の上にレジスト構造を形成し、このレジスト構造をマスクとして磁性膜を削る方法が、例えば、K. Hattori et al, IEEE Trans. Magn. 40 (2004) p.2510などに示されている。いずれの手法においても、マスクとした被転写体レジストは最終的には除去されている。
【0005】
米国特許第6,809,356号明細書、米国特許第6,518,189号明細書などにおいては、熱および圧力を用いたインプリントによりレジストフィルムを変形させて、高密度記録用のCDとして使う技術が開示されている。特開2003-178431号公報には、軟磁性層上に熱可塑樹脂をコーティングし、熱可塑性樹脂に加熱・加圧によりパターンを形成し、その凹部に磁気記録層を埋め込む方法が開示されている。また、特開2004-62995号公報には、凹凸パターンを形成した熱可塑性樹脂を含む磁気記録媒体用基板が開示されている。特開昭59-124030号公報、特開昭60-195738号公報、特開昭63-222349号公報などには、凹凸構造を磁気記録膜上、または光磁気記録膜上に形成することが述べられている。特開昭62-169643号公報には、ビニスエステルを光記録媒体基板材料として使用する方法が述べられている。本開示によると、基板として直接、その材料を使用している。
【0006】
【特許文献1】特許第1888363号公報
【特許文献2】特開平6-231443号公報
【特許文献3】特開平4-336404号公報
【特許文献4】米国特許第5,772,905号明細書
【特許文献5】米国特許第6,809,356号明細書
【特許文献6】米国特許第6,518,189号明細書
【特許文献7】特開2003-178431号公報
【特許文献8】特開昭59-124030号公報
【特許文献9】特開昭60-195738号公報
【特許文献10】特開昭63-222349号公報
【非特許文献1】JVST B 12 (1994) p.3196
【非特許文献2】JVST B 13 (1995) p.2787
【非特許文献3】SCIENCE 272 (1996) p.85
【非特許文献4】JAP 79 (1996) p.6101
【非特許文献5】IEEE Trans. Magn, 41(2005) p.670
【非特許文献6】IEEE Trans. Magn. 40 (2004) p.2510
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気記録媒体の微細構造の作製において電子線リソグラフィやX線リソグラフィを用いる方法では、コストの観点から大量生産は困難である。前記熱及び圧力を用いたインプリント技術では、凹凸構造の形成は熱及び圧力による変形に限られており、必然的に使用している材料は熱可塑性樹脂に限られる。またCDは再生専用媒体であり、記録再生が自由に行える磁気記録媒体への適用例は開示されていない。すなわち、凹凸構造上に必要な磁気特性を有する磁気記録層を堆積することは想定されていない。特開2003-178431号公報及び特開2004-62995号公報に記載された技術は、熱可塑性樹脂に凹凸構造を形成した後に再度、融点もしくは軟化点を越える加熱工程を行うことはできない。特開昭59-124030号公報、特開昭60-195738号公報、特開昭63-222349号公報に記載された方法は、固着防止などを目的としたものであり、PM、DTMに求められる磁気的な構造を作成するものではない。特開昭62-169643号公報が対象とする光記録もしくは光磁気記録は、一般にヘッド浮上量は磁気記録に比べて大きいため、基板自体の平坦性や硬度に関する制約は小さい。一方、磁気記録媒体においては、基板の平坦性とともに基板硬度も重要な因子となっている。本開示による材料、方式では磁気記録媒体に要求される平坦性、硬度を確保することができず、磁気記録媒体基板への適用は困難である。また、該材料の耐熱性の限界から処理温度は60〜200℃に限られており、必要な磁気特性を得るためにより高温の熱処理が要求される磁気記録媒体への適用は困難である。
【0008】
本発明は、高密度磁気記録媒体に適用可能なサブミクロンオーダーの凹凸構造を高スループットかつ低価格で作製することを目的とする。また、同時に基板材料選択の自由度を向上させることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
レジストや熱可塑性樹脂を直接、基板凹凸構造として用いると、機械的及び化学的強度が弱く、また形状作製以降に該樹脂の融点以上の加熱工程を行うことができないため、基板凹凸構造上に作製した磁気記録層について、磁気記録媒体として必要な磁気特性を得られないことが問題となる。また、レジストをマスクとして基板をエッチングする技術によると、耐熱温度の問題は解決するものの、高スループット化が困難であり、結果として高コストを避けられない。
【0010】
本発明の磁気記録媒体は、平坦基板上に凹凸を有する非磁性中間体を配置することを特徴とする。インプリントにより基板上の被転写体に形状を転写し、その構造を中間体として用い、中間体上に必要な磁気記録層を堆積することにより上記目的を達成することができる。非磁性中間体としては、光硬化させた光硬化性材料又は熱硬化させた熱硬化性材料で、200℃以上の耐熱温度を有するものが適当である。必要に応じて中間体の硬度や基板との密着性を高めるためにベークを行った後、作製した中間体上に磁気記録層を堆積することにより磁気記録媒体を安価に得ることが可能となる。また、インプリントに代えて露光装置を用いて中間体を形成することも可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、エッチングやミリングの工程を省略することができるため、高スループットかつ低価格の高密度磁気記録媒体を提供することが可能となる。また、高アスペクトの凹凸構造を形成することも容易であり、トラック、ビット間の磁気的分離など必要な磁気特性を得ることが容易となる。また、基板と磁気記録層を物理的・化学的に分離することが可能となるため、基板材料の選択の自由度が向上し、より低コスト、高硬度の材料を基板として選択することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明による磁気記録媒体作製プロセスの概略を示す模式図である。本実施例に於いては、各記録トラックが磁気的に分割された、いわゆるディスクリートトラック媒体を作製する例を示している。詳しい説明は省くが、パターン媒体についても同様の手法で作製することが可能である。
【0014】
・工程1
図1(a)に示すように、基板101として、市販されている厚さ0.635mm、直径65mm、表面硬度700Hvの平坦ガラス円板を使用した。ハードディスクドライブとして組み込むために、基板101の中央部には予め直径20mmの穴が空けてある。基板101をクリーニングし、更に基板101表面の濡れ性をよくするために酸素アッシャ処理を行った。ただし、濡れ性は基板101と被転写体102の間の界面エネルギーによって決まるため、酸素アッシャ以外に適当な手法を用いた方がよい場合もある。また、密着層を挿入することも選択肢の一つである。もちろん、何も行わないことも選択肢の一つである。
【0015】
基板101上に、熱硬化性を有する液体状のSi系被転写体102を滴下した。ただし被転写体102はモールド103側に滴下しても構わない。ここで、被転写体102としては、いわゆるスピンオングラス(SOG)を使用した。SOGは、半導体産業において使用されているものをベースとしたが、本実施例においては、後述するように穴部を生成する物質を配合せずに使用した。
【0016】
モールド103は電子線(EB)描画および反応性イオンエッチング(RIE)により円周状のトラック構造およびサーボ情報を含む構造を形成したSiを使用した。モールド103はSiに代えて、他の半導体、金属、石英、樹脂などにより作製しても構わない。また、作成法はEBに代えて光リソグラフィ、イオンビームリソグラフィ(IBL)、集束イオンビーム(FIB)加工などの微細加工技術を使用したものでもよい。更に、別のモールドをインプリントにより複製したものでも構わない。モールド表面にはパターン形成後の剥離が容易になるよう、離型処理を施した。モールド103は後の工程で剥離が容易となるよう、外径を70mmとした。もちろん、必要に応じて基板101と同じく外径65mmでもそれ以下でも構わない。モールド103にも基板101と同様に中心部に直径20mmの穴が空けてあり、基板101およびモールド103の穴を利用して両者の相対的な位置関係を揃えることができる。両面に同時にパターンを形成する際には、上面と下面のモールドの外周部に窪みを設けておくことにより、各面のパターンの方向を揃えることも可能になる。なお、このとき基板101には窪みを設けても設けなくてもよい。
【0017】
モールド103に含まれるパターンは磁気記録媒体として使用する際のパターンの鏡像であり、円周状のパターンは各記録トラックに相当している。また円周状のトラックのほかにサーボパターンなども含まれている。モールドの凹凸の高さの差は80nmとした。もちろん、この値は実際に使用する磁性膜の厚さやトラックピッチ、凸部(ランド部)幅などによって変化させる必要がある。また、トラックピッチは全面に渡って一様ではなく、WO2003/019540を参考に、HDD内でのヘッドのヨー角に応じて変化させた。本実施例においてはディスク半径値r=20mmの場所でトラックピッチが150nmとし、ランド部とグルーブ部の幅の比は1:1、すなわち75nmと75nmとした。従って、この部分でのモールド103の凸部の高さ/幅の比は1.07で1に近い値となっている。もちろん、これら値は必要に応じて変えることが求められている。更に本方式によっていわゆるパターン型媒体を作成する場合は、各記録ビットが孤立するようにパターニングすることも可能である。
【0018】
本実施例においては、基板101上に被転写体102として、いわゆるSOGを使用した。SOGは層間絶縁膜として広く半導体産業において使用されている材料である。ここで、半導体産業においては、その誘電率を低くするために空孔を発生させる物質を混入させて使用されているが、一方でこのような空孔は硬度を低下させることが示されている (例えばY.Toivola et al, J.ECS 151 (2004) p.F45)。磁気ディスク用基板においては、(1)表面平坦性、(2)硬度、(3)熱的および化学的安定性などが強く求められている一方で、誘電率に関する要求はない。我々は、SOGにおいて不純物及び空孔を体積空孔密度で0.05以下に減らすことにより、上記(1)-(3)を満たすことを見出した。従って、本実施例においては不純物を除去し、体積空孔密度が0.05以下であるSOGを使用した。これにより表面平坦性が高い中間体を得ることができた。
【0019】
・工程2
図1(b)に示すように、液体状の被転写体102を滴下した基板101及びモールド103を、インプリントチャンバに投入した。図示されていないが、基板101、モールド103と加圧板106の接触する面の片側もしくは両側には、微細な凹凸や傾きを補正するための緩衝材を導入した。また、図示されていないが、基板101及びモールド103の相対的な位置は中心部の穴を用いて整列させた。また、図示されていないが、基板101の両面に被転写体を介在させ、必要なパターンを有するモールドを上下から押し付けることにより、基板101の両面に凹凸構造を転写することも可能である。もちろん、転写するモールドは必要に応じて上面と下面でパターンを変えておく。
【0020】
インプリントチャンバは、真空ポンプ104により排気される。チャンバ内部の圧力が十分に低下してから、加圧板106により基板101とモールド103を加圧した。加圧機構107による加圧圧力は、必要な構造や、被転写体の種類、加圧時間などにより変化するが、本実施例においては0.5MPaとした。加圧後、加熱・冷却機構105を用いて被転写体を適切に加熱する。本実施例においては150℃で1分間の加熱を行ったが、被転写体の材料や厚さ、構造などにより必要に応じて変化をさせる必要がある。必要な温度よりも低い温度では被転写体は適切な変形・硬化を起こさず、また高すぎる温度ではプロセス時間の増大、被転写体の変質などをもたらす。その後、被転写体102を含む基板101、モールド103を冷却する。必要な温度まで冷却後、モールド103を剥離すると、被転写体102に転写された構造が完成する。本実施例においては80℃まで冷却後、剥離を行った。もちろん、適切な凹凸構造が得られる範囲で剥離温度は変更して構わない。また剥離はインプリントチャンバ内で行っても、インプリントチャンバ外で行っても構わない。
【0021】
・工程3
図1(c)に、基板101及び形状を転写された中間体114の模式図を示す。ここで本実施例において中間体114とは、工程[b]で述べた被転写体と同じ材料であるが、硬化後は凹凸構造を有するため、液体状の被転写体と区別するために中間体と呼称する。
【0022】
この凹凸構造を有する中間体114の一部を拡大したものが図1(c)の右の図である。転写された構造の断面は、凹凸を有する。本構造において、凸部表面108は各凸部の表面を表す。凸部表面108は微視的な表面粗さが2.0nm以下となっている。ただし、基板101自体には基板面全体で数μm程度のうねりがあるため、巨視的にはそれを反映した高さの差があっても構わない。凹部表面109に関しては、表面粗さに関する制限はない。また、凸部表面108と凹部表面109の平均高さの差である凹凸差Hは、本実施例においては80nmである。これはモールドの凹凸差と一致しており、インプリント加圧時において、被転写体がモールド凹部の最深部まで進入したことを意味している。ただし、被転写体がモールド凹部の最深部まで進入することは必須ではなく、モールド凹部深さよりも中間体の凹凸差Hの方が小さくても構わない。また、剥離時の条件などによりモールド凹部深さよりも中間体の凹凸差Hのほうが大きくなったとしても、必要な構造が崩れていなければ問題ない。
【0023】
・工程4
必要に応じて表面平滑化またはテクスチャ処理、クリーニングを行う。ただし本工程において表面平滑化とは、凸部表面108の高さを揃えることであり、作製した凹凸構造を平坦にすることではない。引き続いて、図1(d)に示すように、中間体上に必要な磁気記録層111を堆積する。ただし本実施例において磁気記録層とは、磁気記録において必要な特性を得るために必要な構造のことを指している。例えば本実施例においては、特開2005-38596を参考に、中間体上に、磁気記録層111としてプリコート層、磁区制御層、軟磁性下地層、中間層、垂直記録層、保護層をDCマグネトロンスパッタリング法により形成した。ここで磁区制御層は非磁性層及び反強磁性層より形成されている。磁気記録層の形成は、プリコート層、磁区制御層、軟磁性下地層は室温にて、中間層、垂直記録層はランプヒータにより200℃程度に加熱下において行った。引き続き垂直記録層を蒸着後、100℃程度まで磁場中冷却を行った。
【0024】
従って、中間体には、必要な熱処理温度・時間において変形や膜剥がれを起こさない材料を選択する必要がある。本実施例においては、前述のようにプロセス中において200℃まで加熱されるため、中間体材料には200℃以上の耐熱温度が要求される。また他の磁気記録媒体作製プロセスを採用した場合でも、中間体材料にはプロセス中における最大温度以上の耐熱性を有することが求められる。なお、プロセス中に特に高温を経ない場合でも、ドライブに組み込んだ後の環境において100℃近くまで環境温度が上がる可能性があるため、中間体に対して最低でも100℃以上の耐熱性は必要である。最後に保護層を形成するが、保護膜形成は必要に応じて、次工程の平坦化後に行っても構わない。また、平坦化前後で2回行っても構わない。
【0025】
垂直記録層としては、上記文献に示される膜厚20nmのCoCrPt合金を使用したが、他の元素を含む合金や、Co/Pd多層膜など超格子構造をとる材料でも構わない。また軟磁性下地層は上記文献に示されるCoTaZr合金としたが、その膜厚は凹凸構造に応じて必要な磁気特性が得られる範囲で薄くすることが望ましい。本実施例においては、軟磁性下地層の膜厚は70nmとし、磁気記録層は合計で150nmとなった。なお、合計膜厚を薄くすることができれば、被転写体102に形成される凹凸構造の凹凸差H、ひいてはモールドの凹凸差を小さくすることも可能となる。すなわち凹凸差Hは、磁気記録層として必要な磁気特性を得られる磁気記録層膜厚、形成法に応じて決める必要がある。
【0026】
・工程5
必要に応じて、表面を平坦化する。例えば、図1(e)に示すように、凹部に非磁性体を埋め込み、表面全体を機械化学研磨もしくはミリングすることにより本工程は行われる。埋め込みに用いられる非磁性体は、例えばAl2O3, SiO2などの絶縁体のほか、Alなどの金属や、他の有機化合物などでも構わない。また記録再生特性に影響を与えない範囲であれば、磁性材料を含んでいても構わない。表面平坦化後に、必要に応じて保護膜、潤滑膜などを形成する。ここで保護膜厚さとは凸部上垂直記録層上の保護膜の厚さとすると、保護膜厚さは10nm以下に抑える必要がある。これは保護膜が厚くなると、浮上量が実効的に大きくなってしまい、記録再生特性の劣化を引き起こすためである。一方、保護膜は薄くしすぎると本来の目的を達することができなくなってしまう。従って、本実施例においては保護膜の厚さは5nmとした。
【0027】
一般に、磁気記録媒体用の基板には硬度が求められている。これは、ディスク回転時の面ぶれに起因するトラックミスレジストレーションを減らし、エラーレートを減少させるためである。ここで、基板材料としてガラスを用いた場合、基板硬度を増すために、その表面にアルカリ金属を侵入させる、いわゆる化学強化法が有効であることが知られている(例えば、鄒 et al, IDEMA36 (2000) p10)。一方、磁気記録媒体において、磁気記録層は主として金属で構成されているが、金属は腐食されることによりその磁気特性、機械的特性が損なわれることが知られている。このため従来の磁気記録媒体においては、基板として化学強化ガラスを使用した場合、基板上に残留した不純物が磁気記録層に影響を及ぼすことがないよう、添加材料の選択、基板の作製、洗浄プロセスには十分注意し、基板表面上の不純物、特にアルカリ不純物、の濃度を低く抑えることが求められてきた。しかしながら本実施例においては、基板と磁気記録層は中間体によって遮られており両者が直接接触することはない。このため従来求められていた基板の不純物に対する制約を取り除くことが可能となる。すなわち、これは従来よりも基板に対する材料選択の余地が広がることを意味しており、高硬度、低コストの材料を基板として選択することが可能となる。
【0028】
一方で、磁気記録層と直接接触することになる中間体に関しては、上記の理由から不純物濃度に関する制約が求められる。本実施例においては、中間体のアルカリイオン性不純物濃度は1ppm以下とした。これを超えるアルカリ不純物を含有する中間体材料を使用した場合、長期的に信頼性が損なわれる可能性がある。また、上記のように基板表面からの不純物の拡散を中間体により阻止するためには、中間体の最薄部の厚さは一定以上の値を持つことが望ましい。この点に関して詳細は図を用いて後述する。
【0029】
以上のようなプロセスにより磁気記録媒体を作製することにより、従来より高スループット、低価格でかつ特性の優れた磁気記録媒体を得ることができた。磁気記録媒体の完成後、作製した磁気記録媒体を磁気記録装置に組み込んで記録再生動作を行った。組み込み後の磁気記録装置としての特性は実施例3にて詳細に述べる。
【実施例2】
【0030】
図2は、本発明による磁気記録媒体作製プロセスの概略を示す模式図である。本実施例は、各記録トラックが磁気的に分割された、いわゆるディスクリートトラック媒体を作製する例を示している。
【0031】
・工程1
図2(a)に示すように、基板201には、厚さ0.635mm、直径65mmの化学強化ガラス円板を使用した。本発明では中間体を用いる媒体構造を作製するため、前述のように基板については表面における不純物濃度に対する制約が小さい。本実施例においては表面硬度が高いことを条件に材料を選択し、基板表面における残留アルカリ濃度の測定は行わなかった。ハードディスクドライブとして組み込むために、基板201の中央部には予め直径20mmの穴が空けてある。基板201をクリーニングし、更に基板201表面の濡れ性をよくするために酸素アッシャ処理を行った。ただし、濡れ性は基板201と被転写体202の間の界面エネルギーによって決まるため、酸素アッシャ以外に適当な手法を用いたほうがよい場合もある。もちろん、何も行わないことも選択肢の一つである。
【0032】
基板201上に、光硬化性を有する液体状のSi系被転写体202を滴下した。ここで、被転写体202としては、光硬化性を有する材料として、マイクロレジスト社のORMOCER(R)を使用した。滴下はディスペンサを用い、基板201面上の16箇所に落とした。他にスピンコート法などを使用しても構わない。
【0033】
モールド203としては、直径65mm、厚さ1.0mmの石英製円板上に磁気記録媒体として必要となる構造をパターニングしたものを使用した。ここで磁気記録媒体として必要な構造とは、トラック構造の他、サーボパターンなどを含む。もちろん、モールドパターンと実際に転写されるパターンは鏡映関係になるため、モールドパターンはこの点を注意して設計する必要がある。本実施例においては、トラックピッチ100nmのいわゆるディスクリートトラック媒体を作製したため、モールド203もこの大きさの構造が必要となる。
【0034】
図示しないが、本実施例においては、まずSi基板上に電子線(EB)描画およびエッチングにより凹凸構造を形成し、この凹凸構造をインプリント法を用いて石英基板に転写後、エッチングによりレプリカを形成し、そのレプリカをモールドとして使用した。もちろん、原版作成時に必要な構造が得られるのであれば、EB描画に限らず、イオンビームリソグラフィ、集束イオンビーム(FIB)加工、X線リソグラフィ、インプリントによるモールド複製など、他の手法を用いても構わない。また、レプリカをとることなく、直接、EB描画、エッチングによりモールドを作製しても構わない。
【0035】
被転写体202に光を照射する必要があるため、本実施例においてはモールド203の材料として光透過性を有する石英を採用したが、基板201側から光を照射することが可能であれば必ずしも石英には拘らず、例えばSiを用いたモールドでも構わない。なお、本実施例において、光透過性とは被転写体202を硬化させるのに必要な波長についての透過性を意味する。
【0036】
・工程2
図2(b)に示すように、液体状の被転写体202を滴下した基板201及びモールド203を、インプリントチャンバ205に投入した。図示されていないが、基板201及びモールド203の相対的な位置は中心部の穴を用いて整列させた。この機械的な位置決めにより、中心穴の位置を±50μmの精度で合わせることが可能となった。本実施例においては機械的な方式で位置決めを行ったが、もちろん光学的な方式に変えても構わない。また、図示されていないが、基板201の両面に被転写体を介在させ、必要なパターンを有するモールドを上下から押し付けることにより、基板201の両面に凹凸構造を転写することも可能である。転写するモールドは必要に応じて上面と下面でパターンを変えておく。なお、図2では説明のため、モールド203と被転写体202はインプリントチャンバ205外で接触させたように記されているが、実際にはモールド203はインプリントチャンバ205内に設置し、モールド203と被転写体202はインプリントチャンバ205内で接触させることが望ましい。
【0037】
インプリントチャンバ205には真空ポンプ204が接続されており、真空ポンプ204によりチャンバを排気し、内部の圧力を十分に低下させる。排気は、被転写体202をモールド203の微細パターン内へ進入しやすくし、また酸素阻害による非硬化を防ぐ効果がある。しかしながら、排気は必ずしも不可欠な工程ではなく、要求されるパターンの構造や被転写体202の種類によっては省略可能である。光源208は使用する被転写体202を硬化させる波長の光を含む必要があり、同時に加圧板206はその波長の光を透過させる必要がある。また、加圧板206を透過後の光強度は、被転写体202の硬化を完了させるまでの時間を決定する。従って、光源208の強度や加圧板206の透過率、厚さなどは、インプリントプロセスに要求されるスループットを勘案して決める必要がある。例えば、本実施例においては、光源208からの100mW/cm2の紫外光により硬化させるために加圧板206として厚さ20mmの石英を採用した。
【0038】
引き続き、加圧板206により基板201とモールド203を加圧する。被転写体202が十分にモールド203の凹凸パターンに入り込んだ後、光源208から光を照射する。必要な量の光を照射後、加圧、排気を停止し、モールド203と中間体214を剥離する。ここで被転写体202と中間体214は同じ材料であるが、成型前の液体状の状態を被転写体、硬化後の状態を中間体と呼称して区別する。モールド203と中間体214の剥離はインプリントチャンバ205内で行っても、インプリントチャンバ205外で行っても構わないが、一般的にはインプリントチャンバ205内で行ったほうがスループットや汚染防止などの観点から望ましい。
【0039】
・工程3
図2(c)に示すように、基板201および形成された中間体214よりなるディスク基板210を、ベークヒータ209により加熱する。もちろんベークヒータに代えて、ランプヒータなど他の加熱方式を用いてもよい。本加熱工程により、形成された中間体214は完全に硬化し、同時に基板201との密着性が向上する。本実施例においては200℃で1時間の加熱を行った。本工程は被転写体の種類や、ディスク基板に求められる特性により温度や時間を調整する必要がある。また、図では他の部分は省略してあるが、本工程はインプリントチャンバ205内で行っても、取り出してから行っても構わない。インプリントチャンバ205内で行う場合、必要に応じて真空ポンプ204を使用し、真空下で加熱を行ってもよい。
【0040】
このようにして完成した凹凸形状を観察した結果、を図3(a)に示す。本図は、実施例2に従って作製した試料を切断し、そのトラック部の断面を走査型電子顕微鏡で観察した図である。トラックピッチ100nmに相当する凹凸パターン構造が形成されていることがわかる。また、同様に図3(b)に本実施例により形成されたサーボパターンに対応する凹凸構造を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した例を示す。本AFM像においては凸部が明るく、凹部が暗く表示されるカラーテーブルを使用している。サーボ情報が磁気情報ではなく、凹凸構造として形成されていることがわかる。凹凸構造完成後は実施例1で示したものと同様の工程をとることにより磁気記録媒体が完成する。
【0041】
以上のようなプロセスにより磁気記録媒体を作製することにより、従来より高スループット、低価格でかつ特性の優れた磁気記録媒体を得ることができる。なお、本実施例中、モールド接触により構造を転写する方式に代えて、マスクを用いた光学露光により凹凸構造を作製しても構わない。ただしこの場合は被転写体として、感光、現像後に凹凸構造を形成する適切な光レジスト剤を使用する必要がある。磁気記録媒体の完成後、作製した磁気記録媒体を磁気記録装置に組み込んで記録再生動作を行った。組み込み後の磁気記録装置としての特性は実施例3にて詳細に述べる。
【0042】
磁気記録層堆積後の本実施例による磁気記録媒体のトラック方向の断面模式図を図3(c)に示す。図中、301はトラックピッチ(Tp)、302は凸部下部幅(Wb)、303は凸部上部幅(Wt)、311は凸部半値幅(Whf)、312はグルーブ幅(Wg)、304は凹凸差(H)である。ここで、Tp= Wb + Wg である。また、305はベース層厚(Hb)である。ここでベース層厚とは、中間体において、凹部表面と平坦基板表面の間にある平坦部の厚さを意味する。図において中間体上の磁気記録層は軟磁性下地層と垂直記録層のみが示してあり、その他の層は省略してある。306は凸部上における軟磁性下地層厚(tSUL)、307は凸部上における垂直記録層厚(tMAG)、308は凸部上における磁気記録層厚(t)である。ただし図面では省略した層があるため、実際にはt > tSUL+ tMAGとなる。また309は側壁面上における最小軟磁性下地厚(Tside_SUL)、310は側壁面上における最大磁気記録層厚(Tsidemax)である。側面形状が直線状でない場合、図示するように凹凸差Hの半値幅となる点での傾きを基準にTside_SUL, Tsidemaxを定義する。313はトラック幅(Tw)、314は非磁性体幅(Wn)である。ここで非磁性体としては、大気でもよいし、Al-O、Si-O等の無機材料、或いは他の有機材料でも構わない。DTMにおいては、再生時の信号強度を確保するため、Tw > Tnであることが望ましい。なお、ドライブ中での動作においてはWn領域の垂直記録層へは情報の記録動作は行わない。記録再生動作は記録・再生ヘッドがTw領域上を走行しているときに行うように必要なサーボ、信号処理を行う。
【0043】
軟磁性下地層は、Twと同程度の幾何学トラック幅(Tww-geo)を有する主磁極からの磁束を吸収し、Tpよりも幅広の副磁極に戻す役割を担っていため、図示されるように軟磁性下地層は隣接する凸部同士に渡って連続していること、即ち Tside_SUL > 0 が求められる。更に、前記実施例で説明した材料を用いた場合、望ましくは Tside_SUL > 20 nm である。ただし、高透磁率材料を使用することができればTside_SULは薄くすることは可能である。なお、一般的には Tside_SUL < tSUL である。
【0044】
一方、隣接トラック間において、各トラック上の記録層同士が磁気的に結合すると、DTMもしくはPMとしての特有の効果が得られなくなってしまう。従って隣接トラック同士において垂直記録層が繋がらないように、Wn > 0である必要がある。この条件を満たすためには必要なtMAG、tSULを確保しつつ、Tsidemaxを小さくすることが有効である。ここでTsidemaxは凸部形状、磁気記録層の厚さ(t)及び堆積条件によって変化する。
【0045】
上記のような必要な形状を得るための条件は、凸部形状や軟磁性下地層堆積の条件により決定される。ここで影響を及ぼす堆積条件としては粒子入射方向、堆積速度、スパッタガス圧力、ガス流量、時間、温度、堆積膜厚などが挙げられる。従って、磁気記録層の各層において最適な堆積条件を選ぶ必要がある。また、ここで注目される凸部形状を表す指標としては上記Wb, Wt, Whf, Hなどが挙げられる。一般的には、凸部のアスペクト比 H/Whf は小さいほうが凹凸形状の作製は容易で、軟磁性下地層の付きまわりも改善される。通常、凸部のアスペクト比としてはH/Whf = 1〜2が目安となり、H/Whf> 4では構造が不安定となり好ましくない。
【0046】
本実施例においては凸部形状に関して、インプリント工程を経るため、Wt ≦ Wbなる制約を受ける。これはWt > Wbの場合、インプリント工程中のモールド剥離時に凹凸形状の崩れを起こす可能性があるためである。しかしながらWt ≦ Wb であれば凸部の形状を制御することは可能である。実際には、上記のようにTside_SUL> 0であることが必要なので、凸部形状が逆台形方、すなわちWt > Wb となることは望ましくない。従って、この制約はインプリント工程を採用するデメリットとはならない。一方で、上記のように凸部形状によりWnやTside_SUL、Tsidemaxを制御できることは、インプリントを用いて構造を作製するメリットの一つである。
【0047】
本発明においては、公知技術であるインプリントされた凹凸構造をエッチングマスクとする方式(例えばD.Wachnschwanz et al, IEEE 41 (2005) p.670)とは異なり、転写された凹凸構造を磁気記録媒体の凹凸構造として直接使用するため、Hbに本質的には制限はない。ただし不必要に厚いHbはコストを上げる要因ともなるため、Hbは最大でも100μm以下、望ましくは10μm以下とすることが望ましい。一方で、実施例1で説明したように、ベース層には基板と磁気記録層を遮断する機能を持たせることができる。このような機能を持たせるためには一定の厚さが必要となる。我々の実験によると、Hbは全域に渡って、最低でも5nm、望ましくは30nm以上であることが判明した。すなわちHbがこの条件を満たしていれば、基板からの不純物の拡散を許容限界値以下に抑えることが可能であることが判明した。
【0048】
また、同時にこのようなHbに対する条件は基板表面の平坦性に関しても制約を緩めることが可能となる。即ち、表面平均粗さが大きな基板を使用した場合でも、この表面を覆うのに十分な量以上の被転写体を用いることにより最表面の粗さは中間体の表面粗さで定義されることとなる。従って従来、表面粗さが重視されてきた基板に対する材料選択の選択肢を広げることが可能となる。
【0049】
これらの条件を満たす適切なHb値を得るためには、インプリント時の押し付け圧力を適切に制御し、かつ押し付け圧力の面内分布を小さくすることが重要である。本実施例においてはHb = 500nmとなるように押し付け圧力、押し付け方式などの条件を設定した。
【0050】
tMAGは垂直記録層厚であり、記録ヘッド主磁極からの磁束を効果的に軟磁性下地層に導くためにはtMAGは小さいほうが望ましいが、一方でtMAGが小さすぎると熱揺らぎの問題が発生する。本実施例においてはtMAG = 15nmとした。一般的に、tMAG= 3 〜 30nmの範囲で選ばれることが望ましい。
【0051】
本実施例においては軟磁性下地層と垂直記録層を組み合わせた磁気記録層を使用する例を説明したが、必要に応じて軟磁性下地層を省いて垂直記録層を堆積すること、または面内記録層を堆積することも可能である。これらの場合、上記で説明した条件において、tSUL = 0 として必要な値を求めることができる。
【0052】
本実施例においてはDTMの作製について説明をしたが、PMについても同様に行うことが可能である。もちろん、PMの場合はトラック方向のみならずビット長方向にもパターンが形成されているので、上記の条件は適宜、ビット長方向にも適用して考える必要がある。
【0053】
ここで、本発明によるPM, DTM製造方法を従来の製造方法と比較する。PM, DTMを作製する方法として、例えばHattori et al, IEEE Trans. Magn.40 (2004) p.2510には予め平坦基板上に磁気記録層を堆積し、該磁気記録層上部に金属層を形成し、該金属層上にインプリントによりレジストに構造を転写し、該レジストをマスクに前記金属層を削り、該金属層をマスクとして前記磁気記録層をRIEもしくはIBEにより削る方法が示されている。本方式によると磁気記録層を直接、IBEもしくはRIEを行う必要がありスループットが低い。また、IBE, RIE装置は一般に大規模かつ高価である。一方、実施例1,2に示した本発明の方式では、IBE, RIEが不要であるため、低コストでの大量生産が可能である。
【0054】
また、同文献に示された方式では、基板と磁気記録層は直接接触するため、基板には、低不純物濃度かつ高硬度という特性が求められる。一方で実施例1,2に示した本発明の方式では中間体により基板と磁気記録層を遮蔽することができるため基板の不純物濃度に対する制約は除くことが可能となる。従って材料選択の余地が広がり、より高硬度の材料を基板として選択することが可能となる。基板として高硬度の材料が選択できるようになると、ディスクの高速回転時の面ブレが減少し、従ってトラックミスレジストレーションを減らすことに貢献する。即ちRW時のエラーレートの低減に効果をもたらす。
【0055】
更に、現在の磁気記録媒体はディスクの両面に記録を行うように構成されているが、本方式により基板の両面に凹凸構造を形成する場合、基板両面に磁気記録膜を堆積、両面にレジスト構造を作製後、両面をRIEもしくはIMによって削る必要がある。ここで、前述のようにRIE、IMはスループットが低いため、磁気記録媒体のスループットが低くなる。また両面を同時にRIE、IMすることのできる装置は構成が複雑で高価、低安定性となることが避けられない。一方、実施例1、2に示したように中間体にインプリントにより構造を形成することは、片面のインプリントとほとんど変わらない時間で行うことが可能である。このため特に両面化の際には、本発明によるプロセスを適用することでスループットの向上、低価格化を得ることが可能となる。
【0056】
また、例えば、D.Wachenschwanz et al, IEEE Trans. Magn 41 (2005) p.670によると、平坦基板上に塗布されたレジストにインプリント法を用いて凹凸構造を作製し、レジストの凹凸構造をマスクとして基板をエッチングして基板自体を凹凸加工し、凹凸構造上に磁気記録層を堆積する方法が示されている。本方式によると基板自体をエッチングにより凹凸加工をする必要がある。このためエッチング工程を追加する必要があり、スループットを高めることが困難である。同時にエッチング装置は一般に高価であるため低コスト化の障害ともなる。また、磁気記録層と凹凸加工された基板自体が直接接触するため、基板には、低不純物濃度かつ高硬度という特性が求められる。
【0057】
一方、実施例1,2に示した本発明の方式ではエッチングが不要であり、かつ中間体により基板と磁気記録層を遮蔽することができるため基板の不純物濃度に対する制約は除くことが可能となる。この効果は上記のとおりである。更に基板を直接エッチングする場合、エッチングの面内分布が問題となる。エッチングの面内分布が大きいと、エッチングされる深さやパターンの大きさ、基板間の形状や特性などにばらつきが生じることとなる。これを避けるためには極めて高精度のプロセス管理が要求されることとなり、低コスト化を妨げる。また前記、高精度のプロセス管理に代えて、エッチングされにくい層を途中に挿入し、該層をエッチング停止層もしくはエッチング検出層として使用することも可能であるが、これらはコスト増加の要因となる。なお、前記文献においては基板はNiPを採用しているが、NiP基板に代えてガラス基板を採用しても同様である。また、エッチングにはウエットエッチングを採用しているが、RIEやIBE, IMなどのドライエッチングを採用した場合でも同様である。
【0058】
磁気記録媒体ではないが、ある平坦な基板に凹凸を形成させる方法として、例えばS.Y.Chou et al, nature417 (2002) p.835では、Si基板にモールドを押し当て、強力なレーザー光で基板自体を溶融させ、モールドの形状を転写する方法が示されている。本方式では、基板自体を溶融させる必要があるため、基板を極めて高温に加熱する必要がある。例えば、前記文献によると基板としてSiを使用しているため、加工時の基板表面はSiの融点である1414℃以上とする必要がある。該基板と接触するモールドにはこの温度に耐えるため基板より高い融点が求められており、材料選択は限定される。また、文献には示されていないが、本方式を磁気記録媒体作製に適用した場合、上述のように基板と磁気記録層が直接接触する構造となる。従って基板が直接磁気記録層と接触することになるため、基板材料選択時には基板不純物の影響を考慮する必要がある。一方、実施例1,2で説明した方式では、基板自体は変化させず、中間体のみを変化させる。従って基板やモールドの選択の自由度が高く、プロセスも容易である。更に基板不純物を中間体により遮断することも可能であるため、基板材料選択の自由度、及び高信頼性を得ることが可能となる。
【実施例3】
【0059】
図4は、本発明によって得られた磁気記録媒体401を組み込んだ磁気記録装置の模式図である。本発明により作製された記録媒体401はスピンドル402に取り付けられ、軸を中心に回転することができる。本実施例においては記録媒体401としてはトラックとビットの両方をパターニングしたPMを使用した。
【0060】
記録ヘッドは軟磁性体よりなる主磁極、銅合金よりなるコイルなどにより構成される、いわゆる単磁極型(SPT)垂直ヘッドを使用した。主磁極先端部には飽和磁束密度Bs=2.4Tを有する軟磁性Co系合金を採用した。再生ヘッドとしては巨大磁気抵抗効果(GMR)膜を利用したセンサを採用した。もちろん、トンネル磁気抵抗効果膜など他の再生センサ膜を使用しても構わない。これら記録ヘッド及び再生ヘッドはスライダ403内に組み込まれている。記録ヘッドおよび再生ヘッドは信号の入出力を行うためのケーブルが取り付けてあり、信号は信号処理系406との間でやり取りされる。スライダ403はジンバル404に固定されている。ジンバルはアクチュエータ405に取り付けられている。アクチュエータ405及びスピンドル402により、スライダ403は磁気記録媒体401上の必要な場所に移動することができる。図示していないが本ドライブにはロードアンロード機構が備えられており、非動作時にはヘッドは記録媒体401上の記録部から退避させられている。
【0061】
スピンドル402により磁気記録媒体401を回転させ、必要な回転数になった後、ヘッドを磁気記録媒体401上にロードする。スライダには溝が切ってあり、空力的な効果により必要な浮上量407を得ることができる。ここで、磁気記録媒体401の表面形状により必要なスライダ溝形状を使用する必要がある。本実施例においては、回転数が7200rpmの時に浮上量が5nmとなるように設計されたスライダを使用した。このような浮上高さを得たときに、我々は中間体の凸部の表面粗さが2nmを超えるとクラッシュの発生が多くなることを発見した。従って、前述のように適切な材料及びプロセスを選択し、本実施例においては凸部の表面粗さが2nm以下となるように中間体を形成した。
【0062】
記録ヘッドから発生した磁場は凸部上の磁気記録層を通過してSULに至り、記録層の磁化方向を必要な方向に向けさせる。再生時は記録ビットから発生した磁場を再生ヘッドにより検出して信号処理を行う。
【0063】
本実施例においては磁気記録媒体401として、前記実施例で説明したTp= 150 nm、Wb = Wg= 75 nm、tMAG=15nmを有する円板を使用した。また、記録ヘッドとしては、幾何学記録トラック幅Tww-geo= 100 nmのいわゆる単磁極型ヘッドを採用した。一般に、Tww-geoがTpよりも大きくなると隣接トラックへの書き込みが問題となる。DTMにおいてはWn上への領域は書き込みが行われないため、平坦媒体よりは制約は緩いものの、Tww-geoがTpの2倍を超えることは許されない。一方、小さすぎる場合は記録に必要な磁場が得られにくくなる。シミュレーションによると、Tww-geoがTpの0.2倍よりも小さくなると、記録電流に関わらず記録に必要な磁場が得られないことが判明した。このため、Tww-geoは0.2×Tp< Tww-geo < 2.0 ×Tpの範囲内で選ぶことが望ましい。また、再生ヘッドとしては幾何学再生トラック幅Twr-geo = 100 nmのCIP-GMRヘッドを使用した。Twr-geoは0.2×Tp < Twr-geo < 1.0 ×Tpの範囲内で選ぶことが望ましい。
【0064】
従来の平坦連続膜用いた磁気記録装置においては、磁気記録媒体にはビット、トラックの構造はなく、磁気記録装置に組み込み後にヘッドによって記録されて初めてビットやトラックが定義された。しかしながらPM, DTMにおいては必要な記録密度が得られるよう、予めビット長Lおよびトラックピッチ(Tp)を設計し、その値を満たすようにリソグラフィにより凹凸構造を作製する。トラックピッチに関しては、予め形成された凹凸構造に対応したサーボパターンにより定義されている。再生ヘッドにより凹凸構造に対応したサーボ情報を読み、これを元に位置決めを行う。前記実施例による磁気記録媒体の作製においては、中心位置決め精度は±50μm以下に収まるようにプロセスを構築した。このため、本実施例による磁気記録装置においては、内部に組み込まれたサーボ機構により十分、追従できる精度を得ることができた。磁気記録媒体の中心位置決め精度が50μmを超えると、サーボ機構での追従が追いつかずにエラーレートが上昇する可能性がある。
【0065】
また、記録時には記録ヘッドが磁気記録媒体内の中間体の凸部領域上を浮上するよう制御することが望ましい。サーボパターンは再生ヘッドにより検出されるため、再生時は正確にトラックに追従することができるが、記録時には再生ヘッドと記録ヘッドの相対的な位置関係がずれている場合、そのずれ量を補正して位置を制御する必要がある。このためには予め再生ヘッドと記録ヘッドのずれ量を測定しておき、この情報を元に補正をかけることが望ましい。ずれ量の情報は各ヘッドごとに信号処理系406に記憶させておく。ただし、このずれ量がRW動作時に無視できるほど小さい場合、この機構は不要である。また、ヘッドごとのすれ量のばらつきが小さい場合、ずれ量の値として一定値を用いても構わない。
【0066】
またPMにおけるビット長に関しては、形成された構造の周期にあわせて記録できるよう、ディスクの半径値に応じて回転数や記録周波数を調整する必要がある。このような制御が可能となるよう、信号処理系406を構成しておく必要がある。
【0067】
本ドライブにおいて、記録再生試験を行った結果、本発明による磁気記録媒体を使用した磁気記録装置は良好なリードライト特性を得ることができた。また、従来より知られているPM, DTMに比べ低コストで磁気記録装置を作製することが可能となった。具体的には、従来のプロセスでは必須であった2億円/機のエッチング装置が不要となる一方で、本発明による媒体作製に伴う追加コストは中間体原材料のみであり、差引のコストは大幅に減少させることが可能となった。更に従来プロセスで必要であったエッチング時間を省略することが可能となり、ディスク1枚あたり約10秒の生産性向上が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による磁気記録媒体作製プロセスの概略を示す模式図。
【図2】本発明による磁気記録媒体作製プロセスの概略を示す模式図。
【図3】本発明の実施例を示す模式図。
【図4】本発明によって得られた磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録装置の模式図。
【符号の説明】
【0069】
101:平坦基板、102:被転写体、103:モールド、104:真空ポンプ、105:加熱・冷却機構、106:加圧板、107:加圧機構、108:凸部表面、109:凹部表面、111:磁気記録層、114:中間体、201:基板、202:被転写体、203:モールド、204:真空ポンプ、205:インプリントチャンバ、206:加圧板、207:加圧機構、208:光源、209:ベークヒータ、210:ディスク基板、211:凸部表面、212:凹部表面、214:中間体、301:トラックピッチ(Tp)、302:凸部下部幅(Wb)、303:凸部上部幅(Wt)、304:凹凸差(H)、305:ベース層厚(Hb)、306:軟磁性下地層厚(tSUL)、307:垂直記録層厚(tMAG)、308:磁気記録層厚(t)、309:最小軟磁性下地厚(Tside_SUL)、310:最大磁気記録層厚(Tsidemax)、311:凸部半値幅(Whf)、312:グルーブ幅(Wg)、313:トラック幅(Tw)、314:非磁性体幅(Wn)、401:磁気記録媒体、402:スピンドル、403:スライダ、404:ジンバル、405:アクチュエータ、406:信号処理系、407:浮上量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な基板と、
前記基板の少なくとも一つの面上に形成された非磁性中間体と、
前記非磁性中間体の上に形成された磁気記録層とを備え、
前記非磁性中間体は、表面にトラックピッチもしくはビット周期に対応する凹凸構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1記載の磁気記録媒体において、前記非磁性中間体は光硬化させた光硬化性材料又は熱硬化させた熱硬化性材料よりなり、200℃以上の耐熱温度を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1記載の磁気記録媒体において、前記非磁性中間体は、表面にサーボパターンに対応した凹凸構造を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1記載の磁気記録媒体において、磁気記録層の膜厚は前記非磁性中間体のトラック部またはビット部の凹凸差の2.0倍以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1記載の磁気記録媒体において、前記非磁性中間体のベース層厚さは5nm以上であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1記載の磁気記録媒体において、前記非磁性中間体の凸部の最表面の平均表面粗さは2nm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項1記載の磁気記録媒体において、該磁気記録層は軟磁性下地層、中間層、垂直記録層を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項1記載の磁気記録媒体において、磁気記録層堆積後の凹部に非磁性体を埋め込み、最表面を平坦化したことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
請求項1記載の磁気記録媒体において、前記非磁性中間体は体積空孔密度が0.05以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項1記載の磁気記録媒体において、前記非磁性中間体はアルカリイオン性不純物濃度が1ppm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項11】
平坦な基板上もしくは凹凸構造を有するモールド上に被転写体を形成する工程と、
前記モールドを被転写体に接触させ加圧する工程と、
前記モールドの凹凸構造を前記被転写体に転写する工程と、
前記モールドを前記被転写体から剥離する工程と、
前記モールドの凹凸構造が転写された被転写体上に磁気記録層を堆積する工程と
を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記被転写体は光硬化性樹脂からなり、前記モールドの凹凸構造を前記被転写体に転写する工程では前記被転写体に紫外光を照射することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記被転写体は光硬化性樹脂からなり、前記モールドは透光性の材料により構成されており、前記モールドの凹凸構造を前記被転写体に転写する工程では前記モ―ルドを介して紫外光を照射することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記被転写体は熱硬化性樹脂からなり、前記モールドの凹凸構造を前記被転写体に転写する工程では前記被転写体を150℃以上に加熱することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項15】
請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記モールドの凹凸構造が転写された被転写体の硬度を増し前記基板との密着性を向上させるために、前記磁気記録層を堆積する前に200℃以上に加熱する工程を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項16】
請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記モールドを被転写体に接触させ加圧する工程の前に、前記基板とモールドの位置関係をアライメントする工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項17】
請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記基板を一対のモールドで挟み、前記基板の両面に同時に凹凸構造を転写することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−95162(P2007−95162A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282669(P2005−282669)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】