説明

磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法、並びに磁気記録再生装置

【課題】磁気ヘッドへの汚染物質や腐食物の付着を防止することができる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基板1上に少なくとも磁性層2、保護層3、潤滑剤層4を備える磁気記録媒体11であって、前記潤滑剤層は、ベンゼン環の水素原子と、2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を2以上置換した化合物を含有するとともに、前記磁気記録媒体を2000rpm以上で回転させてオクタメチルシクロテトラシロキサンを含む空気に大気圧で8時間曝露した後の、当該磁気記録媒体の表面のシロキサンの付着量が、曝露する前の付着量の4倍以下となるように設けられていることを特徴とする磁気記録媒体を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法、並びに磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、磁気記録再生装置の記録密度は400Gビット/平方インチが実用化されており、さらに今後、磁気記録再生装置の記録密度の向上は続くと言われている。そして、磁気記録再生装置の記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。このような磁気記録媒体としては、磁気記録媒体用の基板上にスパッタリング法などにより記録層等を積層した後、この記録層上にカーボン等の保護膜を形成し、更に保護膜上に液体の潤滑剤を塗布する構成が主流となっている。
【0003】
上記構成において、保護層は、記録層に記録された情報を保護するとともに、磁気ヘッドの摺動性を高める効果、記録層を被覆して記録層に含まれる金属が環境汚染物質により腐食するのを防ぐ役割を有する。しかし、保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の保護は十分ではない。そのため、保護層の表面に、厚さが0.5〜3nm程度の潤滑剤を塗布して潤滑剤層を形成し、保護層の耐久性や保護力を改善している。このように、潤滑剤層を設けることによって、磁気ヘッド(磁気ヘッドスライダ)が保護層と直接接触するのを防止することができるとともに、磁気記録媒体上を摺動する磁気ヘッド(磁気ヘッドスライダ)の摩擦力を著しく低減させ、また、磁気記録媒体内部への汚染物質の侵入を防ぐことができる。
【0004】
ここで、潤滑剤としては、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤や脂肪族炭化水素系潤滑剤などが従来から提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、HOCH−CFO−(CO)p−(CFO)q−CHOH(p、qは整数。)の構造をもつパーフロロアルキルポリエーテルの潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が開示されている。
また、特許文献3には、HOCHCH(OH)−CHOCHCFO−(CO)p−(CFO)q―CFCHOCH―CH(OH)CHOH(p、qは整数。)の構造をもつパーフロロアルキルポリエーテル(テトラオール)の潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が開示されている。
さらに、特許文献4には、(−CFO−)または(−CFCFO−)から選ばれたパーフルオロオキシアルキレン単位とホスファゼン化合物を有する磁気記録媒体用途の潤滑剤が開示されている。
【0005】
一方、磁気記録再生装置の記録密度を向上させるためには、磁気ヘッドの浮上量をより小さくして、磁気ヘッドを磁気記録媒体の表面により近づける必要がある。
【0006】
ところで、従来から磁気記録媒体の表面には、イオン性の汚染物質が存在する場合が多いという問題があった。このイオン性の汚染物質の多くは、磁気記録媒体の製造工程において外部(例えば、周囲環境または磁気記録媒体のハンドリング)から付着するものである。また、ハードディスクドライブ内部での使用に際して、環境汚染物質がドライブ内部に侵入し、付着していた。たとえば、磁気記録媒体またはハードディスクドライブを高温・高湿条件下に保持した場合、磁気記録媒体の表面にイオンなどの環境物質を含む水などが吸着する。このイオンなどの環境物質を含む水は潤滑剤層を通り抜け、潤滑剤層の下に存在する微少なイオン成分を凝縮させて、イオン性の汚染物質を発生させていた。
【0007】
このような汚染物質が磁気記録媒体上に存在する場合には、汚染物質が小さい場合でも、磁気ヘッドを磁気記録媒体の表面により近づけると、磁気ヘッドは汚染物質と容易に接触して、磁気ヘッドに汚染物が付着(転写)する。そして、磁気ヘッドに汚染物質が付着(転写)すると、磁気ヘッドの記録再生特性が低下するとともに、磁気ヘッドの浮上安定性が損なわれ、ひいては磁気ヘッドを破壊させる場合が発生する。また、イオン性の汚染物質の場合には、保護膜の微小欠陥部分(ピンホール)で記録層の腐食反応を引き起こす原因となる。そのため、磁気記録媒体製造の際、およびドライブ内での使用に際しては、このような汚染物質を除去または発生を防ぐ必要があった。
【0008】
汚染物質を除去するために、例えば、特許文献5には、保護膜を形成した磁気記録媒体の表面を純水でスクラブ洗浄して、磁気記録媒体の表面に付着した蟻酸イオン,しゅう酸イオン,アンモニウムイオン、あるいはその他のイオン塩類(SO2−,NO,Na)を除去した後、磁気記録媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法が開示されている。
【0009】
ところで、潤滑剤層は、一般に、フッ素樹脂系潤滑剤をフッ素系溶媒に溶解または分散させて、潤滑剤を含む溶液を調整した後、これを保護層上に塗布して形成する。塗布方法としては、スピンコート法やディップ法などがある。たとえば、ディップ法では、潤滑剤浸漬槽に入れた潤滑剤を含む溶液中に磁気記録媒体を浸漬した後、潤滑剤浸漬槽から磁気記録媒体を所定の速度で引き上げて磁気記録媒体表面に均一な膜厚の潤滑剤層を形成する。
【0010】
記録密度を向上させるために、磁気記録再生装置の磁気ヘッドの浮上量をより小さくする場合、潤滑剤層もより薄くすることが求められる。しかし、潤滑剤層を薄くすると、潤滑剤層による磁気記録媒体の表面の被覆率が低下する。これにより、磁気記録媒体の表面の一部が露出される場合が発生する。このとき、汚染物質によって、その露出部分から磁気記録媒体の表面が汚染されるおそれがある。
【0011】
しかし、従来の上記方法では、磁気記録再生装置の記録密度の高まりに伴い、磁気ヘッド浮上量がより小さくなることにより顕著となった極微量の汚染物質を磁気記録媒体上から完全に取り除くことができなかった。そのため、磁気ヘッドへ汚染物質が付着(転写)され、磁気記録再生装置の磁気記録再生特性を不安定とする場合があった。なお、特許文献6には、イオン散乱を用いて磁気記録媒体表面の潤滑剤の被覆率を調べ、この方法を用いて被覆率を高めた磁気記録媒体を用いることにより耐蝕性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭62−66417号公報
【特許文献2】特開平11−49716号公報
【特許文献3】特開平9−282642号公報
【特許文献4】特開2002−275484号公報
【特許文献5】特開2000−235708号公報
【特許文献6】特開2004−164704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、磁気記録媒体に付着し、または磁気記録媒体の内部に侵入して磁気記録媒体を腐食させる汚染物質を極限まで低減することにより、磁気ヘッドへの汚染物質や腐食物の付着(転写)を防止することができる磁気記録媒体の製造方法及び安定した磁気記録再生特性を有する磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述のように、磁気記録媒体の表面には平均膜厚が20オングストローム(2nm)程度の潤滑剤層が設けられている。ここで、従来の潤滑剤は、平均分子量が2000〜5000程度の高分子化合物であることから、潤滑剤層はこの膜厚では炭素保護膜の全表面を均一に被覆しているとは考えにくく、磁気記録媒体の炭素保護膜表面でアイランド状または網目状に形成されていると考えられる。すなわち、ハードディスクドライブ内部に侵入した環境汚染物質は、潤滑剤層を容易にすり抜け、その下の炭素保護膜表面に達しているものと考えられる。
【0015】
本願発明者は、磁気記録媒体の腐食のメカニズムについて検討し、磁気記録媒体の腐食は特許文献6に記載された磁気記録媒体表面の潤滑剤の被覆率のみに依存するのではなく、環境汚染物質は炭素保護膜表面に存在する「極性サイト」に付着し、この付着した汚染物質が磁気記録媒体内部に侵入することで磁性層等を腐食させることを解明した。また、本願発明者は、この腐食の進行を防ぐ方法について検討し、潤滑剤の化合物の骨格中に極性の大きい官能基を含有させ、この官能基を炭素膜の「極性サイト」に結合させることにより、磁気記録媒体の耐性を著しく向上できることを見出した。そして、本願発明者は、潤滑剤の極性官能基と炭素膜の「極性サイト」との結合力を高める磁気記録媒体の製造方法、及び耐性の高い磁気記録媒体を見出して本願発明を完成させた。
【0016】
なお、「極性サイト」とは、炭素膜表面に存在する水酸基(−OH)、カルボン酸基(−COOH)、カルボニル基(−C=O)などの酸素原子を含む官能基、あるいはシアノ基(ニトリル基:−CN)、アミノ基(−NH)などの窒素原子を含む官能基、あるいは炭素膜中の炭素原子がラジカル状態にあり共有結合を形成していない部分(ダングリングボンド)を示すものである。
【0017】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] 非磁性基板上に少なくとも磁性層、保護層、潤滑剤層を備える磁気記録媒体であって、前記潤滑剤層は、ベンゼン環の水素原子と、2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を2以上置換した化合物を含有するとともに、前記磁気記録媒体を2000rpm以上で回転させてオクタメチルシクロテトラシロキサンを含む空気に大気圧で8時間曝露した後の、当該磁気記録媒体の表面のシロキサンの付着量が、曝露する前の付着量の4倍以下となるように設けられていることを特徴とする磁気記録媒体。
[2] 前記化合物が、下記式(1)に示す化学式を有し、平均分子量が1000〜5000の範囲内であることを特徴とする前項1に記載の磁気記録媒体。
但し、下記式(1)において、p及びqは整数を示す。
【化1】

[3] 前記化合物が、ベンゼン環の水素原子と、3つの水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を1以上置換した化合物を含むことを特徴とする前項1に記載の磁気記録媒体。
[4] 前記潤滑剤層が、末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を50質量%以上含有し、かつ、末端に3つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を5質量%以上含有することを特徴とする前項3に記載の磁気記録媒体。
[5] 前記潤滑剤層の膜厚が、8Å〜14Åの範囲内であることを特徴とする前項1〜4の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
[6] 前記保護層が、炭素を含むことを特徴とする前項1〜5の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
[7] 非磁性基板上に少なくとも磁性層、保護層、潤滑剤層を備える磁気記録媒体の製造方法であって、ベンゼン環の水素原子と、2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を2以上置換した化合物を含有する潤滑剤層を形成する工程と、前記潤滑剤層を形成した後に紫外線を1秒〜30秒の範囲内で照射する工程、および/または、基板全体を80℃〜130℃、1分〜20分の範囲内で加熱する工程と、を含み、前記磁気記録媒体を2000rpm以上で回転させながら、オクタメチルシクロテトラシロキサンを含む空気に大気圧で8時間曝露した後の当該磁気記録媒体の表面のシロキサンの付着量を、曝露する前の付着量3の倍以下とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[8] 潤滑剤層を形成した後、紫外線を照射する工程の前又は後に、基板全体を80℃〜130℃、1分〜20分の範囲内で加熱する工程を設けることを特徴とする前項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[9] 前項1〜6の何れか一項に記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に移動するヘッド移動部と、前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の磁気記録媒体は、環境汚染物質の付着が少なく、耐環境性が高いため、磁気記録媒体の表面から磁気ヘッドへの前記汚染物の転写を防止することができ、磁気記録再生特性を安定させることができる。
【0019】
本発明の磁気記録媒体の製造方法を用いれば、耐腐食性の高い磁気記録媒体を製造することが可能となる。
【0020】
本発明の磁気記録再生装置は、磁気記録媒体上の汚染物質に起因する磁気ヘッドの汚染や破損が生じにくく、耐環境性に優れ、磁気記録再生特性の安定した磁気記録再生装置とすることができる。また、本発明の磁気記録再生装置は、磁気記録媒体の潤滑剤層が徐々に薄くなっても高い耐環境性が維持されるため、高い信頼性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
【図2】図2は、本発明の磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、本願発明の潤滑剤(実施例1〜5)又は従来の潤滑剤(比較例1〜3)を磁気記録媒体表面に塗布し、シロキサン化合物を含む雰囲気に曝露した後の、シロキサンの磁気記録媒体表面への吸着量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体及び磁気記録再生装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
<磁気記録媒体>
先ず、本発明の一実施形態である磁気記録媒体について説明する。
図1に示すように、本実施形態の磁気記録媒体11は、非磁性基板1上に、磁性層2、保護層3、潤滑剤層4と、がこの順序で積層されて概略構成されている。
【0024】
(非磁性基板)
非磁性基板1としては、AlまたはAl合金などの金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成されたものなどを用いることができる。また、非磁性基板1には、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなるものを用いてもよいし、この非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成したものを用いてもよい。
【0025】
(磁性層)
磁性層2は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましく、例えば、Co−Cr−Ta系、Co−Cr−Pt系、Co−Cr−Pt−Ta系、Co−Cr−Pt−B−Ta系合金等からなる層を用いることができる。
【0026】
また、磁性層2は、面内磁気記録または垂直磁気記録の磁性層(磁気記録層ともいう)のいずれでもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁気記録の磁性層が好ましい。面内磁気記録の磁性層2としては、強磁性のCoCrPtTa磁性層を用いることができ、この場合、前記磁性層2と非磁性基板1との間に非磁性のCrMo下地層(図示略)を設けることが好ましい。前記下地層は、単層であっても多層であってもよい。
【0027】
垂直磁気記録の磁性層2としては、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−Cr−15Pt−10SiO合金からなる磁性層を用いることができ、前記磁性層2と非磁性基板1との間に、例えば、軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる図示略の裏打ち層と、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどの図示略の配向制御膜と、必要によりRu等の図示略の中間膜を設けることが好ましい。
【0028】
磁性層2の厚さは、3nm以上20nm以下とすることが好ましく、5nm以上15nm以下とすることがより好ましい。
また、磁性層2は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法など従来の公知のいかなる方法によって形成してもよいが、通常、スパッタ法により形成する。
【0029】
(保護層)
保護層3としては、従来の公知の材料、例えば、炭素(通常は硬質炭素やダイヤモンド状炭素)、SiCの単体またはそれらを主成分とした材料を使用することができるが、「極性サイト」へのシロキサンの付着効果は、特に保護層3として炭素膜を用いた場合に顕著に発現するため、炭素膜を用いることが好ましい。
【0030】
なお、本明細書中において、「極性サイト」とは、炭素膜表面に存在する水酸基(−OH)、カルボン酸基(−COOH)、カルボニル基(−C=O)などの酸素原子を含む官能基、あるいはシアノ基(ニトリル基:−CN)、アミノ基(−NH)などの窒素原子を含む官能基、あるいは炭素膜中の炭素原子がラジカル状態にあり共有結合を形成していない部分(ダングリングボンド)をいう。
【0031】
保護層3の膜厚は、1nm〜10nmの範囲内とすることが好ましい。これにより、高記録密度状態で使用した場合、磁気的スペーシングを低減することができるとともに、耐久性を向上させることができる。ここで、磁気的スペーシングとは、磁気ヘッド(特に素子部)と磁性層4との間の距離を表す。磁気的スペーシングを狭くするほど電磁変換特性を向上させることができる。
【0032】
保護層3の成膜方法としては、通常のカーボンターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエンなどの炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法,IBD(イオンビーム蒸着)法などを用いることができる。さらに、これらの方法を組み合わせて複数の層として構成しても良い。また、保護膜の強度を向上させたり、潤滑剤との親和性を増したりする目的で、炭素膜中に窒素原子を添加しても良い。窒素原子を添加する方法としては、スパッタ法やCVD法に使用するキャリアガスや原料ガスに窒素ガスを混合させる方法や、炭素膜形成後に窒素ガスプラズマ雰囲気に曝露する方法を採用することができる。
【0033】
(潤滑剤層)
本願発明の潤滑剤層4は、ベンゼン環の水素原子と、2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を2以上置換した化合物(以下、単に「末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物」という場合がある)を含有する構成とする。
【0034】
このような潤滑剤層4は、後述するように潤滑剤層4が設けられた磁気記録媒体11を、シロキサン化合物を含む雰囲気に曝露した際に、シロキサンの磁気記録媒体11の表面への吸着量が低い特徴を有する。それは、潤滑剤層4に含まれる潤滑剤の極性官能基が保護膜表面の官能基と強固に結合しているため、磁気記録媒体11の環境物質に対する耐性が高いためである。すなわち、上記化合物の骨格中には極性の大きい官能基、具体的にはパーフルオロエーテル基中の水酸基、ベンゼン環(フェニレン)を含有するため、この極性の大きい官能基を保護層3の「極性サイト」と強固に結合させることができるためである。
【0035】
本願発明では、ベンゼン環の水素原子と、2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を2以上置換した化合物を潤滑剤として用いるが、ベンゼン環でパーフルオロエーテル基が2つ結合する位置は、オルト、メタ、パラの何れでも可能ではあるものの、パーフロロポリエーテル化合物の分子量が大きいことに鑑みれば、下記式(2)に示されるようにパーフロロポリエーテル化合物がパラの位置に結合した化合物を用いるのが好ましい。このような化合物を採用することにより、保護膜と潤滑剤との結合力を強固なものとすることに加え、保護膜表面での潤滑剤の配列を規則的なものとすることができる。このような化合物としては、ARJ−DD(商品名、松村石油研究所(MORESCO)社製)、またはこれらの関連物質を出発原料として合成、精製して得た反応生成物を用いることができる。
【0036】
【化2】

【0037】
上記式(2)において、p及びqは整数を示している。また、上記式(2)に示す化合物の平均分子量は、1000〜5000の範囲内であることが好ましい。
【0038】
本願発明では、潤滑剤として用いる化合物を、上述したベンゼン環の水素原子と2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基とを2以上置換した化合物において、2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基を、3以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と1以上置換した化合物(以下、単に「末端に3つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物」という場合がある)とすることにより、化合物に含まれる極性の大きい官能基を増やすことが可能となり、潤滑剤と保護層3の「極性サイト」との結合をより高めることができる。
【0039】
また、本願発明では、潤滑剤層が、末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物と、末端に3つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物と、を含有するように構成するのが好ましい。潤滑剤層を単一の化合物から構成すると、化合物が規則的に網目状に配列しやすくなるが、その網目の空隙をぬって環境物質が保護膜表面に付着する場合がある。そのため、潤滑剤の規則的な網目状の配列の空隙を埋めるため別の潤滑剤を混合することにより、潤滑剤層による保護膜表面の被覆率を高めることが可能となる。
【0040】
ここで、潤滑剤層中には、末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を50質量%以上含有させることが好ましく、70質量%以上含有させることがより好ましく、80質量%以上含有させることがさらに好ましい。末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を50質量%未満とすると、保護膜と潤滑剤との結合力が低下するために好ましくない。また、90質量%を超えると、保護膜表面での化合物の規則配列性が高まり空隙が生じやすくなるために好ましくない。
【0041】
また、潤滑剤層中には、末端に3つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を5質量%以上含有させることが好ましく、10質量%以上含有させることがより好ましく、20質量%以上含有させることがさらに好ましい。末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を5質量%未満とすると、潤滑剤の規則的な網目状の配列の空隙を埋める効果が不十分となるために好ましくない。これに対して、5質量%以上とすると、潤滑剤の規則的な網目状の配列の空隙を埋めて、潤滑剤層による保護膜表面の被覆率を向上できるために好ましい。
【0042】
上記の効果を高めるためには、本実施形態の潤滑剤として用いる化合物に対して分子量が3倍〜1/3倍程度の化合物を混合するのが好ましい。この範囲で化合物を混合すると第1成分の化合物が形成する網目の空隙に、第2成分の化合物を埋めることができる。
【0043】
また、本願発明では、潤滑剤層による保護膜表面の被覆率を高めるため、上記式(2)に示すような末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物及び末端に3つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物の他に、以下の化学式(3)〜(7)から選ばれる化合物を1以上含有する潤滑剤を用いることが好ましい。ここで、化学式(3)、化学式(4)、化学式(5)、化学式(6)は、パーフルオロポリエーテル化合物である。また、化学式(7)は、パーフルオロオキシアルキレン単位を有するホスファゼン化合物である。
【0044】
【化3】

【0045】
【化4】

【0046】
【化5】

【0047】
【化6】

【0048】
【化7】

【0049】
但し、上記化学式(3)〜(6)においては、その構造中に少なくとも1つ以上の(A)または(B)で表される末端官能基構造を有することを要する。
また、上記化学式(7)中、xは1〜5の整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基のいずれかであり、Rは末端基が−CHOH又は−CH(OH)CHOHのパーフルオロポリエーテル鎖である。ここでRのパーフルオロポリエーテル鎖は繰り返し単位として(CFCFO),(CFO),(CFCFCFO)のうち少なくとも1つ以上を含む。
【0050】
なお、上記化学式(3)〜(6)に示す化合物としては、例えば、Fomblin Z−DOL(商品名、Solvay Solexis社製)、Fomblin Z−TETRAOL(商品名、Solvay Solexis社製)、又はこれらの関連物質を出発原料として合成、精製して得た反応生成物を挙げることができる。
【0051】
また、化学式(7)の化合物としては、X−1p(商品名、DowChemical社製)、MORESCO PHOSPHAROL A20H−2000(商品名、松村石油研究所(MORESCO)社製)、A20H−DD(商品名、松村石油研究所(MORESCO)社製)、またはこれらの関連物質を出発原料として合成、精製して得た反応生成物を挙げることができる。
【0052】
(潤滑剤層の膜厚)
潤滑剤層4の平均膜厚は、潤滑剤層による保護膜表面の被覆率を高めるため、0.5nm(5Å)〜3nm(30Å)の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5Å〜20Åの範囲内、最も好ましくは8Å〜14Åの範囲内とする。図3は、本願発明の潤滑剤として、末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を80質量%、末端に3つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を15質量%、上記化学式(3)に示した潤滑剤を5質量%の混合物、および従来の潤滑剤として上記化学式(3)に示した化合物のみを磁気記録媒体表面に塗布した後、シロキサン化合物を含む雰囲気に曝露しシロキサンの磁気記録媒体表面への吸着量を示した結果である。
【0053】
図3を見ても明らかなように、本願発明の潤滑剤を用いた磁気記録媒体は、潤滑剤層の膜厚が薄い場合においてもシロキサン等の環境物質に対して高い耐吸着性を有することが分かる。すなわち、本願発明では、潤滑剤層4の平均膜厚を上記範囲内にすることにより、磁気記録媒体11の保護効果を高めると共に、潤滑剤が磁気ヘッドに転写されて磁気ヘッドが汚染されることを防ぐことができる。また、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくして、磁気記録媒体11の記録密度を高くすることができる。
【0054】
(潤滑剤層の形成方法)
潤滑剤層4は、潤滑剤層形成用溶液を調製した後、前記潤滑剤層形成用溶液を磁気記録媒体11上に塗布して形成する。
【0055】
通常、潤滑剤単体は粘度の大きい油状液体である。このため、潤滑剤を溶媒で希釈して、塗布方法に適した濃度の潤滑剤層形成用溶液(塗布溶液)とする。ここで用いる溶媒としては、例えば、バートレルXF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒などを挙げることができる。
【0056】
次に、スピンコート法やディップ法などを用いて、潤滑剤層形成用溶液を保護層3上に塗布して潤滑剤層4を形成する。例えば、ディップ法では、ディップコート装置の潤滑剤浸漬槽に入れた前記潤滑剤層形成用溶液中に、保護層3までの各層を形成した非磁性基板1を浸漬した後、潤滑剤浸漬槽から非磁性基板1を所定の速度で引き上げて非磁性基板1の保護層3上の表面に均一な膜厚の潤滑剤層4を形成する。
【0057】
<潤滑剤層を形成した後の加熱工程>
本願発明では、形成された潤滑剤層を加熱処理、紫外線照射処理することによって、潤滑剤の極性官能基と保護膜表面の官能基との結合力をより高めることができる。また加熱処理には、潤滑剤層に含まれる塗布溶液を蒸発除去する効果もあり、その場合の加熱温度は塗布溶液の沸点温度付近から潤滑剤の分解温度以下の範囲が選択される。すなわち、加熱処理温度としては、好ましくは40℃〜200℃の範囲内、より好ましくは80℃〜130℃の範囲内、加熱時間は加熱温度に依存するが、好ましくは30秒〜120分の範囲内、より好ましくは1分〜20分の範囲内が選択される。本願発明で潤滑剤層を形成後に行うのが好ましい工程は、紫外線照射処理、加熱処理、紫外線照射処理を行いその後の加熱処理、加熱処理を行いその後の紫外線照射処理であるが、この中で特に、紫外線照射処理を行いその後の加熱処理が好ましい。
【0058】
<紫外線照射工程>
紫外線照射処理には、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマランプ等の公知の光源を用いて、照射強度を、好ましくは0.5〜100(mW/cm)、より好ましくは1〜50(mW/cm)の範囲内、照射時間を、好ましくは0.1秒〜30分、より好ましくは1秒〜30秒の範囲内で行う。特に、潤滑剤層と保護層との結合力を高めるためには、高い光エネルギが得られる波長260nm以下の低波長光のスペクトルを持つランプが好ましく、その点で、低圧水銀ランプ、エキシマランプを用いることが好ましい。また、紫外線によって大気中の酸素がオゾンに分解してしまい、このオゾンが潤滑剤を分解する場合がある。そのため、紫外線照射中の雰囲気としては窒素ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気、又は真空中、など無酸素雰囲気で行なうことが好ましい。
【0059】
<磁気記録媒体表面へのシロキサンの付着量評価>
次に、本発明の一実施形態である磁気記録媒体表面へのシロキサンの付着量評価について説明する。
本実施形態の磁気記録媒体11の評価方法は、非磁性基板1上に少なくとも磁性層2、保護層3、潤滑剤層4を有する磁気記録媒体11を、シロキサンを含む雰囲気に曝露し、磁気記録媒体11の表面へのシロキサンの吸着量から磁気記録媒体11の環境物質に対する耐性を評価することを特徴としている。前述したように、潤滑剤層4は炭素からなる保護膜3の全表面を被覆しているわけではなく、磁気記録媒体11の保護層3の表面でアイランド状または網目状に形成されている。そして、ハードディスクドライブ内部に侵入した環境汚染物質は、潤滑剤層4を容易にすり抜け、その下の保護膜3の表面に達する。
【0060】
ここで、炭素膜からなる保護膜3自体は、本来は、化学的に安定であり、また耐性の高い物質であるが、発明者の検討によると、磁気記録媒体11に用いる炭素膜からなる保護膜3の表面には「極性サイト」が存在し、その「極性サイト」に環境汚染物質が付着する。付着した環境汚染物質は、その箇所で凝集して磁気ヘッドを汚染すると共に、保護膜3を通り抜けて磁性層2まで達し、磁性層2を腐食させて磁気特性を低下させ、また磁性層2の腐食物は保護膜3の表面に拡散して磁気ヘッドを汚染する。
【0061】
本願発明者は、潤滑剤の化合物の骨格中に極性の大きい官能基として水酸基(−OH)、フェニレン(―C―)を含有させ、この官能基を炭素膜の「極性サイト」に結合させることにより、磁気記録媒体の汚染物質からの耐性を向上できることを見出し、またその結合力を評価する方法として、シロキサンの磁気記録媒体表面への吸着量を用いる方法を発明した。すなわち、本願発明者の検討によると、シロキサンは炭素膜の「極性サイト」に付着するが、その「極性サイト」に潤滑剤の極性官能基が強固に結合している場合は付着できない。よって、磁気記録媒体をシロキサン雰囲気に曝露し、シロキサンの磁気記録媒体表面への吸着量を調べることにより炭素膜の「極性サイト」への潤滑剤の極性官能基の結合力を定量化可能となり、また、これにより磁気記録媒体の環境汚染物質に対する耐性を定量化することができる。
【0062】
なお、本実施形態の環境汚染物質とは、例えば、イオン性不純物であり、このイオン性不純物に含まれる金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどを挙げることができる。また、無機イオンとしては、例えば、シリコンイオン、塩素イオン、HCOイオン、HSOイオン、硫酸イオン、アンモニアイオン、シュウ酸イオン、蟻酸イオンなどを挙げることができる。
【0063】
本実施形態において、シロキサン(siloxane)とは、ケイ素と酸素を骨格とする化合物であり、Si−O−Si結合(シロキサン結合)を持つものの総称である。また、シロキサンは、例えば、一般式として、RSiO−(RSiO)n−SiR(Rはアルキル基を示す)で表すことができる。本願発明者の検討によると、シロキサンは炭素膜の「極性サイト」へ結合させることが可能であり、また、炭素膜の「極性サイト」に他の物質が結合している場合は、この結合箇所に結合させないことができる。
【0064】
本実施形態において、磁気記録媒体の表面へのシロキサンの吸着量を調べる方法には、公知の表面分析方法を用いることができる。具体的には、例えば、磁気記録媒体の表面に吸着しているシロキサンを脱離させ、この脱離したシロキサンを2次イオン質量分析計で測定し、その測定結果を曝露前の磁気記録媒体での測定結果と比較する。2次イオン質量分析計で測定される曝露前の吸着量に対する曝露後の吸着量の比(吸着率)を指標とする。本実施形態では、シロキサン吸着率は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。シロキサン吸着率が4を超えると、実際の使用においてヘッドの浮上不安定および磁気信号の読み書き不能が引き起こされるために好ましくない。これにより、磁気記録媒体の環境汚染物質に対する耐性を、より現実の使用状態での耐性に近づけて定量化することが可能となる。
【0065】
本実施形態では、磁気記録媒体を、シロキサンを含む雰囲気へ曝露するに際し、磁気記録媒体を回転させ、実際の磁気記録媒体の使用態様、すなわち、磁気記録媒体がハードディスクドライブ等に内蔵されて使用される使用態様に合致させることが好ましい。シロキサンを含む雰囲気への曝露は、具体的には、例えば、磁気記録装置を用いて磁気記録媒体を2000rpm以上の回転速度で回転させて、シロキサンを0.5体積%含む空気に大気圧で8時間曝露させる条件で行う。
【0066】
磁気記録媒体の回転速度は、2000rpm以上が好ましく、3600〜15000rpmの範囲がより好ましく、4200〜15000rpmrpmの範囲が特に好ましい。回転速度が2000rpmrpm未満であるとシロキサンの吸着量が安定せず、再現性に乏しくなるために好ましくない。一方、4200〜15000rpmの範囲であると、シロキサンの吸着量が安定するために好ましい。
【0067】
本実施形態では、シロキサンとしてオクタメチルシクロテトラシロキサンを用いることが好ましい。シロキサンとして上記オクタメチルシクロテトラシロキサンを用いた場合は、前述したようにシロキサンを保護膜3である炭素膜の「極性サイト」へ結合させることでき、また、炭素膜の「極性サイト」に他の物質が結合している場合は、この結合箇所に結合させない効果をより確実に発現させることができる。
【0068】
空気中の上記シロキサンの割合は、0.1〜5体積%であることが好ましく、0.2〜2体積%の範囲がより好ましく、0.5〜1体積%の範囲が特に好ましい。シロキサンの割合が0.1体積%未満であると、シロキサンの吸着量が飽和せず再現性に乏しくなるために好ましくなく、5体積%を超えると、過剰分が表面に堆積する場合があるために好ましくない。一方、0.2〜2体積%の範囲であると、シロキサンの吸着量が安定するために好ましい。
【0069】
磁気記録媒体へのシロキサンを含む空気の曝露時間は、3時間以上であることが好ましく、6時間以上がより好ましく、8時間以上が特に好ましい。曝露時間が3時間未満であると、シロキサンの吸着量が飽和せず再現性に乏しくなるために好ましくない。一方、8時間以上であると、シロキサンの吸着量が安定するために好ましい。
【0070】
<磁気記録再生装置>
次に、本発明を適用した一実施形態である磁気記録再生装置の一例について説明する。図2は、本実施形態の磁気記録再生装置101の一例を示す斜視図である。本実施形態の磁気記録再生装置101は、本実施形態である磁気記録媒体11と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部123と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド124と、磁気ヘッド124を磁気記録媒体11に対して相対運動させるヘッド移動部126、磁気ヘッド124への信号入力と磁気ヘッド124からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号処理部128とを具備したものである。これらを組み合わせて、記録密度の高い磁気記録再生装置101を構成することができる。
【0071】
磁気ヘッド124の素子部(再生部)をGMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録再生装置101を実現することができる。また、磁気ヘッド124の浮上量を0.005μm(5nm)〜0.020μm(20nm)と従来用いられているより低い高さで浮上させると、出力が向上して高いSNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録再生装置101とすることができる。
【0072】
本実施形態の磁気記録再生装置101は、本実施形態である磁気記録媒体11と、磁気ヘッド124と、を具備する構成なので、磁気ヘッド124の浮上量を十分小さくすることができ、磁気記録媒体11の記録密度を向上させることができる。また、磁気記録媒体11上を摺動する磁気ヘッド124の摩擦力を著しく低減させることができるとともに、高温条件下におかれた場合であっても、磁気記録媒体11上の汚染物質に起因する磁気ヘッド124の汚染や破損を生じにくくして、耐環境性に優れ、磁気記録再生特性の安定した磁気記録再生装置101とすることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0074】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
非磁性基板として、外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmの結晶化ガラス基板(オハラ社製)を用意した。次に、この非磁性基板にテクスチャーを施して、十分に洗浄し乾燥した。次に、上記テクスチャーを施した非磁性基板をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社(日本)製、C3040)のチャンバ内にセットした後、前記チャンバ内の真空到達度が2×10−7Torr(2.7×10−5Pa)となるまで排気した。
【0075】
DCスパッタリング法を用いて、非磁性基板上に軟磁性層としてFeCoB膜、中間層としてRu膜、磁性層として25Fe−30Co−45Pt膜を順次成膜した。成膜したそれぞれの層の膜厚は、軟磁性層が600Å、中間層が100Å、磁性層が150Åであった。
【0076】
次に、CVD法を用いて、3nmの膜厚の保護膜(カ−ボン層)を積層した後、前記チャンバ内から上記各層を形成した非磁性基板を取り出した。このようにして、潤滑剤層形成前基板を作製した。
【0077】
次に、ディップ法を用いて、前記潤滑剤層形成前基板の保護層上に潤滑剤層を形成した。
潤滑剤には、上記式(2)に示すような末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を80質量%、末端に3つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を15質量%、上記化学式(3)に示した潤滑剤を5質量%の混合物(実施例1〜6)、および上記式(3)に示した化合物(比較例1〜3)を使用し、実施例については膜厚を8Å(実施例1)、9Å(実施例2)、11.1Å(実施例3)、13.5Å(実施例4)、15.3Å(実施例5)、比較例については10.5Å(比較例1)、12.8Å(比較例2)、15.7Å(比較例3)とした。
【0078】
なお、潤滑剤層形成用溶液を溶解するための溶媒として、バートレルXF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)を用いた。また、潤滑剤層形成用溶液中における潤滑剤の濃度はいずれも0.3質量%とした。ディップコート装置の浸漬槽に前記潤滑剤層形成用溶液を満たし、その中に前記潤滑剤層形成前基板を浸漬した。
次に、一定の引き上げ速度で前記浸漬槽から前記潤滑剤層形成前基板を引き上げて、前記潤滑剤層形成前基板の保護層上に均一な膜厚の潤滑剤層を形成して、実施例の磁気記録媒体を作製した。
さらに、作製した磁気記録媒体を90℃、5分間で加熱処理を行った後、3mW/cmの低圧水銀ランプを用いて5秒間の紫外線照射を行った。
【0079】
(シロキサン吸着量の評価)
実施例1〜5及び比較例1〜3で製造した磁気記録媒体を、市販の磁気記録装置(2.5インチ型ハードディスクドライブ:東芝社製MK1646GSX,回転数5400rpm)内のスピンドルモーターに固定した。装置内の空間にオクタメチルシクロテトラシロキサン50μLをマイクロシリンジにて滴下し、装置上部の蓋を閉めた後装置を起動した。室温で8時間稼動させることにより、シロキサンへの曝露操作を行った。その後、磁気記録媒体表面のシロキサンの吸着量を2次イオン質量分析計(SIMS:Oryx社製TTS−2000)によって調べた。なお、磁気記録媒体表面には曝露処理前であってもある程度の量のシロキサンが吸着しているため、磁気記録装置に組み込む前に予めSIMSにて吸着量を調べておき、曝露処理後に測定した吸着量との比を調べることでシロキサンの吸着能を測定した。
評価結果を表1及び図3に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
(シロキサン吸着量の測定結果)
表1に示すように、比較例1〜3における曝露処理前後のシリコンの吸着量比(前後比:Y/X)は、膜厚の低下に伴い急激に大きくなった。これに対して、実施例1〜5は、曝露処理前後のシリコンの吸着量比が膜厚を下げてもいずれも4以下であった。
したがって、本発明に係る実施例1〜5は、炭素保護膜に対する潤滑剤の被覆率を高め、かつ、炭素保護膜表面の極性サイトを潤滑剤の官能基で消失させることができることを確認した。
【0082】
また、磁気記録媒体はハードディスクドライブに内蔵され、長時間高速で回転されるため、潤滑剤は遠心力により徐々に振り切られ膜厚が薄くなる。本願発明の潤滑剤が得された磁気記録媒体は、潤滑剤層が薄くなっても高い耐環境性が確保されるため、高い信頼性の要求されるハードディスクドライブに供することができる。
【符号の説明】
【0083】
1…非磁性基板
2…磁性層
3…保護層
4…潤滑剤層
11…磁気記録媒体
101…磁気記録再生装置
123…媒体駆動部
124…磁気ヘッド
126…ヘッド移動部
128…記録再生信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に少なくとも磁性層、保護層、潤滑剤層を備える磁気記録媒体であって、
前記潤滑剤層は、ベンゼン環の水素原子と、2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を2以上置換した化合物を含有するとともに、前記磁気記録媒体を2000rpm以上で回転させてオクタメチルシクロテトラシロキサンを含む空気に大気圧で8時間曝露した後の、当該磁気記録媒体の表面のシロキサンの付着量が、曝露する前の付着量の4倍以下となるように設けられていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記化合物が、下記式(1)に示す化学式を有し、平均分子量が1000〜5000の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
但し、下記式(1)において、p及びqは整数を示す。
【化1】

【請求項3】
前記化合物が、ベンゼン環の水素原子と、3つの水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を1以上置換した化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記潤滑剤層が、末端に2つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を50質量%以上含有し、かつ、末端に3つの水酸基を有するパーフルオロエーテル基が結合した化合物を5質量%以上含有することを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記潤滑剤層の膜厚が、8Å〜14Åの範囲内であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記保護層が、炭素を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
非磁性基板上に少なくとも磁性層、保護層、潤滑剤層を備える磁気記録媒体の製造方法であって、
ベンゼン環の水素原子と、2以上の水酸基を末端に有するパーフルオロエーテル基と、を2以上置換した化合物を含有する潤滑剤層を形成する工程と、
前記潤滑剤層を形成した後に紫外線を1秒〜30秒の範囲内で照射する工程、および/または、基板全体を80℃〜130℃、1分〜20分の範囲内で加熱する工程と、を含み、
前記磁気記録媒体を2000rpm以上で回転させながら、オクタメチルシクロテトラシロキサンを含む空気に大気圧で8時間曝露した後の当該磁気記録媒体の表面のシロキサンの付着量を、曝露する前の付着量3の倍以下とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
潤滑剤層を形成した後、紫外線を照射する工程の前又は後に、基板全体を80℃〜130℃、1分〜20分の範囲内で加熱する工程を設けることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか一項に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に移動するヘッド移動部と、
前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−282707(P2010−282707A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137321(P2009−137321)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(508222689)ショウワデンコウ エイチディ シンガポール ピーティイー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】