説明

磁気記録媒体用アルミ基板の洗浄方法

【課題】平滑なデータ面を確保しつつ、より清浄度の高い磁気記録媒体用基板を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体用のNi−Pめっきを施したアルミ基板の洗浄方法であって、酸性電解液中に基板を浸漬し、且つ、基板を陽極に接触させ、一方で基板端面近傍に不溶性電極(陰極)を配置し、両電極間に直流電圧を印加して基板端面のみを選択的にエッチング処理を施し、基板端面を洗浄することを特徴とする磁気記録媒体用アルミ基板の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータの外部記憶装置を始めとする各種磁気記録装置に搭載される磁気記録媒体用アルミ基板の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体用のNi−Pめっきを施したアルミ基板は、ハードディスクドライブに組み込む際に基板内周端面にパーティクルが存在すると発塵し、不良の原因となるために洗浄する必要がある。
【0003】
また、基板外周端面の汚れはスパッタ成膜前の最終洗浄で浸漬超音波洗浄を行う際に、データ面に移動してきてエラーの原因となる。
【0004】
これら問題となる基板端面の汚れの原因はアルミナやコロイダルシリカなどの研磨砥粒であり、単に付着しているのみならず突き刺さり等で残留するものが殆どである。
【0005】
従来はPVAやウレタンなどを素材とするスポンジでの擦り洗い(例えば、特許文献1参照。)や酸などの薬液浸漬超音波洗浄(例えば、特許文献2参照。)で除去を行っていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−141634号公報
【特許文献2】特開2005−44488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のようなスポンジ擦り洗いではスポンジへの汚れの蓄積で洗浄効果が低下する。また、このようなスポンジ擦り洗いでは基板に突き刺さっている砥粒の除去には効果が不十分である。
【0008】
また、特許文献2に記載のような酸などの薬液浸漬超音波洗浄では、エッチング効果により突き刺さり砥粒に対しても除去効果が高いが、長時間、高温、或いは強酸で処理した場合、アルミ基板データ面の粗さRaが大きくなり高記録密度用媒体用基板としては適用が困難となる。また、内周端面においては超音波が当りにくく洗浄し難いといった欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みなされたもので、本発明の磁気記録媒体用アルミ基板の洗浄方法は、磁気記録媒体用のNi−Pめっきを施したアルミ基板の洗浄方法であって、酸性電解液中に基板を浸漬し、且つ、基板を陽極に接触させ、一方で基板端面近傍に不溶性電極(陰極)を配置し、両電極間に直流電圧を印加して基板端面のみを選択的にエッチング処理を施し、基板端面を洗浄することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の磁気記録媒体用アルミ基板の洗浄方法によれば、Ni−Pめっきアルミ基板の端面部を選択的にエッチングすることにより、データ面の粗さを損なうこと無く基板端面部の付着物を除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の洗浄方法によれば、磁気記録媒体用のNi−Pめっきを施したアルミ基板を酸性電解液中に浸漬し、基板を陽極に接触させ、一方で基板端面近傍に不溶性電極(陰極)を配置し、両電極間に直流電圧を印加して基板端面のみを選択的にエッチング処理を施す。この基板は、図1に示すように、中心孔を有する円形ディスク状の基板であり、本発明の洗浄方法においては、中心孔の縁及び外周の縁をエッチングにより洗浄する。
不溶性電極とは、電圧印加時に電解液中に電極成分が溶出しない電極を意味し、このような電極として、ステンレス鋼電極、白金電極・チタン電極・炭素電極などを挙げることができる。
ここで用いる酸性電解液としては、燐酸、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸水溶液、クエン酸・酒石酸などの有機酸水溶液などを挙げることができる。
【0012】
本発明においては、基板を陽極に接触させる。陽極に接触する基板の部位は、基板内周端面であってもよく、基板外周端面であってもよい。どちらの場合も、陽極を基板受け具として用いてよい。
【0013】
陽極を図2に示すように基板外周端面に接触させた場合は、不溶性電極(陰極)を基板内周端面が形成する円の中心部に、基板と接触しないように配置する。この状態で両極間に電圧を印加すると、陰極に最も近い基板内周端面がエッチングされるとともに、基板内周端面上に付着した、あるいは基板内周端面に突き刺さった砥粒などのパーティクルが除去される。
【0014】
また、陽極を図3に示すように基板内周端面に接触させた場合は、基板外周端面が形成する円より大きい円周のリング状または筒状の不溶性電極(陰極)を基板と同心円となるように、かつ基板と接触しないように配置する。この状態で両極間に電圧を印加すると、陰極に最も近い基板外周端面がエッチングされるとともに、基板外周端面上に付着した、あるいは基板外周端面に突き刺さった砥粒などのパーティクルが除去される。
【0015】
両極間に印加する電圧は5〜60Vであることが好ましく、通電する電流は3〜20Aであることが好ましい。基板を浸漬する酸性電解液の温度は20〜50℃であることが好ましく、エッチング処理時間は30〜150秒であることが好ましい。電圧、電流、処理時間が上記下限未満であるとパーティクル除去効果が不十分となり、電圧、電流、処理時間が上記上限を超えるとエッチングが過度に進んで、データ面(図1参照)を傷める惧れがある。
【実施例】
【0016】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【0017】
<実施例1>
図2に示すように樹脂製水槽中に45℃、pH2.5の燐酸水溶液を入れて酸性電解液を準備した。この水溶液中にNi−Pめっき基板保持と陽極を兼ねたSUS316製の冶具にNi−Pめっき基板を保持させ、この基板と基板外周端面と接触した状態の冶具が完全に漬かるまで浸漬した。
【0018】
次に基板中央の孔に、基板に接触しないように棒状のSUS316で作成された陰極を差し込み、直流で電圧50V、電流5Aを100sec通電して基板内周端面をエッチングするとともに、基板内周端面上に付着した、あるいは基板内周端面に突き刺さった砥粒などのパーティクルを除去した。
【0019】
その後、水槽より引き上げて基板外周端面をスポンジで擦り洗いし、洗浄剤での超音波浸漬洗浄を行い、更に純水で数段すすぎ洗いを行った後乾燥した。洗浄後の基板の測定視野内の基板内周端面における500nm以上のパーティクルの個数を電子顕微鏡による外観検査で調べた。その結果を図4に示す。なお、図4には、通常洗浄(純水を染み込ませたスポンジによる端面の擦り洗い)及び燐酸のみの洗浄(燐酸水溶液を染み込ませたスポンジによる端面の擦り洗い)と通常洗浄の組み合わせ後の基板内周端面における500nm以上のパーティクルの個数を比較のために示した。
【0020】
<実施例2>
図2に示すように樹脂製水槽中に45℃、pH2.5の燐酸水溶液を入れて酸性電解液を準備した。
【0021】
SUS316で作成された櫛歯状に溝を切った陽極棒を準備し、この陽極棒をNi−Pめっき基板の中央の孔に差込み基板をフックさせて基板を固定すると同時に基板内周端面と接触させた。
【0022】
次にSUS316で作成された、基板外周端面が形成する円より大きい円周のリング状の陰極を基板と同心円となるように、かつ基板と接触しないように配置した。次いで、直流で電圧50V、電流5Aを100sec通電して基板内周端面をエッチングするとともに、基板内周端面上に付着した、あるいは基板内周端面に突き刺さった砥粒などのパーティクルを除去した。
【0023】
その後、水槽より引き上げて基板外周端面をスポンジで擦り洗いし、洗浄剤での超音波浸漬洗浄を行い、更に純水で数段すすぎ洗いを行った後乾燥した。洗浄後の基板の測定視野内の基板外周端面における500nm以上のパーティクルの個数を電子顕微鏡による外観検査で調べた。その結果を図5に示す。なお、図5には、通常洗浄及び燐酸水溶液中での超音波洗浄と通常洗浄の組み合わせ後の基板外周端面における500nm以上のパーティクルの個数を比較のために示した。
【0024】
図4、5から、通常洗浄及び燐酸水溶液中での超音波洗浄と通常洗浄の組み合わせに比べて、本発明の洗浄方法が高い洗浄性を示していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の研磨方法により、平滑なデータ面を確保しつつ、より清浄度の高い磁気記録媒体用基板を得ることが可能になる。
また、洗浄性がよくなることで磁気記録媒体とした場合の品質も向上するため、より高品質の磁気記録媒体の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】磁気記録媒体用アルミ基板を示す模式図である。
【図2】本発明による基板内周端面洗浄を示す図である。
【図3】本発明による基板外周端面洗浄を示す図である。
【図4】本発明による基板内周端面洗浄の洗浄性を示す図である。
【図5】本発明による基板外周端面洗浄の洗浄性を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1:基板内周端面
2:基板外周端面
3:データ面
10:基板(陽極)
11:冶具(陽極)
12:陰極
13:水槽
14:燐酸水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体用のNi−Pめっきを施したアルミ基板の洗浄方法であって、酸性電解液中に基板を浸漬し、且つ、基板を陽極に接触させ、一方で基板端面近傍に不溶性電極(陰極)を配置し、両電極間に直流電圧を印加して基板端面のみを選択的にエッチング処理を施し、基板端面を洗浄することを特徴とする磁気記録媒体用アルミ基板の洗浄方法。
【請求項2】
前記基板端面近傍に不溶性電極(陰極)を配置することが、基板内周端面が形成する円の中心部に、基板と接触しないように不溶性電極(陰極)を配置することであり、陽極が基板外周端面と接触するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用アルミ基板の洗浄方法。
【請求項3】
前記基板端面近傍に不溶性電極(陰極)を配置することが、基板外周端面が形成する円より大きい円周のリング状または筒状の不溶性電極(陰極)を基板と同心円となるように、かつ基板と接触しないように配置することであり、陽極が基板内周端面が形成する円内に、基板内周端面全面と接触するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用アルミ基板の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−289299(P2009−289299A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138031(P2008−138031)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】