説明

磁気記録媒体用シリコン基板およびその製造方法

【解決課題】 充分な耐衝撃性を有し、加工プロセスや磁気記録層の成膜プロセスを複雑なものとすることがなく、表面平坦性に優れ、しかもコストダウンを可能とする磁気記録媒体用Si基板を提供すること。
【解決手段】 粗研磨(S6)後の多結晶シリコン基板表面に熱酸化により酸化膜を形成(S7)した後、CVDやスパッタなどの気相系成膜処理もしくはシリコーン系材料やオルガノシリカを含有する液剤を塗布して段差や結晶粒界部分を遮蔽する平滑な薄膜とした後、この薄膜を適度な温度で熱処理して有機成分を気散させることでSiやSiO膜を形成し(S8)、このSi膜、SiO膜に対してCMP研磨等の精密研磨(S9)を施して基板の平坦性を高めることとした。これにより、多結晶粒の結晶方位の違いや結晶粒界の存在には影響を受けずに平坦で平滑な表面(ウェビネスとマイクロウェビネスの2乗平均値が何れも0.3nm以下)を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体製造用のシリコン基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報記録の技術分野において、文字や画像あるいは楽曲といった情報を磁気的に読み込み・書き出しする手段であるハードディスク装置は、パーソナルコンピュータを初めとする電子機器の一次外部記録装置や内蔵型記録手段として必須のものとなっている。このようなハードディスク装置には磁気記録媒体としてハードディスクが内蔵されているが、従来のハードディスクでは、ディスク表面に磁気情報を水平に書き込むいわゆる「面内磁気記録方式(水平磁気記録方式)」が採用されていた。
【0003】
図10(A)は、水平磁気記録方式106のハードディスクの一般的な積層構造を説明するための断面概略図で、非磁性基板101上に、スパッタリング法で成膜されたCr系下地層102、磁気記録層103および保護膜としてのカーボン層104が順次積層され、このカーボン層104の表面に液体潤滑剤を塗布して形成された液体潤滑層105が形成されている(例えば、特許文献1参照)。そして、磁気記録層103は、CoCr,CoCrTa,CoCrPt等の一軸結晶磁気異方性のCo合金であり、このCo合金の結晶粒がディスク面と水平に磁化されて情報が記録されることとなる。なお、磁気記録層103中の矢印は磁化方向を示している。
【0004】
しかしながら、このような水平磁気記録方式では、記録密度を高めるために個々の記録ビットのサイズを小さくすると、隣接した記録ビットのN極同士およびS極同士が反発し合って境界領域が磁気的に不鮮明になるので、高記録密度化のためには磁気記録層の厚みを薄くして結晶粒のサイズを小さくする必要がある。結晶粒の微細化(小体積化)と記録ビットの微小化が進むと熱エネルギによって結晶粒の磁化方向が乱されてデータが消失するという「熱揺らぎ」の現象が生じることが指摘され、高記録密度化には限界があるとされるようになった。つまり、KuV/kT比が小さいと熱揺らぎの影響が深刻になる。ここで、Kuは記録層の結晶磁気異方性エネルギ、Vは記録ビットの体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度(K)である。
【0005】
このような問題に鑑みて検討されるようになったのが「垂直磁気記録方式」である。この記録方式では、磁気記録層はディスク表面と垂直に磁化されるため、N極とS極が交互に束ねられてビット配置され、磁区のN極とS極は隣接しあって相互に磁化を強めることとなる結果、磁化状態(磁気記録)の安定性が高くなる。つまり、垂直に磁化方向が記録される場合には、記録ビットの反磁界が低減されるので、水平磁気記録方式と比較すると、記録層の厚みをそれほど小さくする必要はない。このため、記録層厚を厚くして垂直方向を大きくとれば、全体としてKuV/kT比が大きくなって「熱揺らぎ」の影響を小さくすることが可能である。
【0006】
上述のように、垂直磁気記録方式は、反磁場の軽減とKV値を確保できるため、「熱揺らぎ」による磁化不安定性が低減され、記録密度の限界を大幅に拡大することが可能となる磁気記録方式であることから、超高密度記録を実現する方式として期待されている。
【0007】
図10(B)は、軟磁性裏打ち層の上に垂直磁気記録のための記録層を設けた「垂直二層式磁気記録媒体116」としてのハードディスクの基本的な層構造を説明するための断面概略図で、非磁性基板111上に、軟磁性裏打ち層112、磁気記録層113、保護層114、潤滑層115が順次積層されている。ここで、軟磁性裏打ち層112には、パーマロイやCoZrTaアモルファスなどが典型的に用いられる。また、磁気記録層113としては、CoCrPt系合金、CoPt系合金、PtCo層とPdとCoの超薄膜を交互に数層積層させた多層膜、PtFeあるいは、SmCoアモルフアス膜などが用いられる。なお、磁気記録層113中の矢印は磁化方向を示している。
【0008】
図10(B)に示したように、垂直磁気記録方式のハードディスクでは、磁気記録層113の下地として軟磁性裏打ち層112が設けられ、その磁気的性質は「軟磁性」であり、層厚みは概ね100nm〜200nm程度とされる。この軟磁性裏打ち層112は、書き込み磁場の増大効果と磁気記録膜の反磁場低減を図るためのもので、磁気記録層113からの磁束の通り道であるとともに、記録ヘッドからの書き込み用磁束の通り道として機能する。つまり、軟磁性裏打ち層112は、永久磁石磁気回路における鉄ヨークと同様の役割を果たす。このため、書き込み時における磁気的飽和の回避を目的として、磁気記録層113の層厚に比較して厚く層厚設定される必要がある。
【0009】
図10(A)に示したような水平磁気記録方式は、その熱揺らぎ等による記録限界から、100G〜150Gbit/平方インチの記録密度を境として、図10(B)に示したような垂直磁気記録方式に順次切り替わりつつある。なお、垂直磁気記録方式での記録限界がどの程度であるかは現時点では定かではないが、500Gbit/平方インチ以上であることは確実視されており、一説では、1000Gbit/平方インチ程度の高記録密度が達成可能であるとされている。このような高記録密度が達成できると、2.5インチHDDプラッタ当り600〜700Gバイトの記録容量が得られることになる。
【0010】
ところで、HDD用の磁気記録媒体用基板には、一般に、3.5インチ径の基板としてAl合金基板が、2.5インチ径の基板としてガラス基板が使用されている。特に、ノートブックパソコンのようなモバイル用途では、HDDが外部からの衝撃を頻繁に受けるため、これらに搭載される2.5インチHDDでは、磁気ヘッドの「面打ち」により記録メディアや基板が傷ついたり、データが破壊される可能性が高いことから、磁気記録媒体用基板として硬度の高いガラス基板が使用されるようになった。
【0011】
モバイル機器が小型化されると、それに内蔵される磁気記録媒体用基板にはより高い耐衝撃性が求められることとなる。2インチ径以下の小口径基板用途の殆どはモバイル用途であるので、2.5インチ径の基板以上に、高い耐衝撃性が求められる。また、モバイル機器の小型化は必然的に、搭載部品の小型化と薄型化を要求するところとなり、2.5インチ径基板の標準厚が0.635mmであるのに対し、例えば1インチ径基板の標準厚みは0.382mmとされている。このような事情を背景として、ヤング率が高く薄板でも充分な強度が得られ、しかも磁気記録媒体の製造プロセスと相性のよい基板が求められている。
【0012】
ガラス基板は主にアモルファス強化ガラスで0.382mm厚の1インチ径基板が実用化されているものの、これ以上の薄板化は容易ではない。また、ガラス基板は絶縁体であるので、磁性膜をスパッタ成膜する工程において基板がチャージアップを生じやすいという問題がある。実用上はスパッタ工程で基板の掴み換えを行うことで量産化を可能としているが、ガラス基板の使用を難しいものにしている要因の1つである。
【0013】
次世代記録膜としてFePtなどが検討されているが、高保磁力化するためには600℃前後の高温熱処理が必要とされる。そこで、熱処理温度の低減が検討されてはいるが、それでも400℃以上の熱処理が必要であり、この温度は、現在使用されているガラス基板の使用に耐え得る温度を超えており、Al基板もこのような高温での処理に耐え得ない。
【0014】
ガラス基板やAl基板以外にも、サファイアガラス基板、SiC基板、エンジニアリングプラスティック基板、カーボン基板などの代替基板が提案されたが、強度、加工性、コスト、表面平滑性、成膜親和性などの観点からは、小口径基板の代替基板としては何れも不充分であるというのが実情である。
【0015】
このような事情を背景として、本発明者らは、シリコン(Si)の単結晶基板をHDD記録膜基板として使用することを既に提唱している(例えば、特許文献2参照)。
【0016】
Si単結晶基板は広くLSI製造用基板として用いられ、表面平滑性、環境安定性、信頼性等に優れているのはもちろんのこと、剛性もガラス基板と比較して高いので、HDD基板に適している。加えて、絶縁性のガラス基板とは異なり半導体性であり、通常はp型もしくはn型のドーパントが含まれていることが多いために、ある程度の導電性をもつ。したがって、スパッタ成膜時におけるチャージアップもある程度は軽減され、金属膜の直接スパッタ成膜やバイアススパッタも可能である。さらに、熱伝導性も良好であるので、基板加熱も容易で、スパッタ成膜工程との相性は極めて良好である。しかも、Si基板の結晶純度は非常に高く、加工後の基板表面は安定で経時変化も無視できるという利点がある。
【特許文献1】特開平5−143972号公報
【特許文献2】特開2005−108407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、LSI等の素子製造用の「半導体グレード」のSi単結晶は一般に高価である。事実、近年の太陽電池の普及による需要増加に伴い、「半導体グレード」のシリコン単結晶の価格が高騰している。単結晶Si基板を磁気記録媒体用基板として用いることを考えた場合には、口径が大きくなるとガラス基板やAl基板に比較して原料コスト面で劣るという深刻な問題がある。
【0018】
また、単結晶Si基板は、特定の結晶方位(110)に僻開するという性質があるため、モバイル機器等に搭載して外部衝撃を受けた場合に、僻開してしまうというおそれもある。この点につき端面の研磨加工の改善で実用上問題ないことを本発明者らは確認しているが、破損の懸念は解消されるものではない。
【0019】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、充分な耐衝撃性を有し、加工プロセスや磁気記録層の成膜プロセスを複雑なものとすることがなく、表面平坦性に優れ、しかもコストダウンを可能とする磁気記録媒体用Si基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の課題を解決するために、本発明の磁気記録媒体用シリコン基板は、純度99.999%以上の多結晶シリコン基板の主面上に第一層として熱酸化膜を備え、第二層としてシリコンもしくはシリコン酸化膜をスパッタ、CVD、湿式塗布により備え、ウェビネスとマイクロウェビネスの2乗平均値が何れも0.3nm以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明のシリコン基板の直径は例えば65mm以下であり、上記一層目の熱酸化膜の厚みは10nm以上および上記二層目の酸化膜もしくはシリコン膜の厚みは10nm以上である。
【0022】
このようなシリコン基板上に磁気記録層を設けることで、本発明の磁気記録媒体を得ることができる。
【0023】
本発明の磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法は、純度99.999%以上の多結晶シリコン基板の主面上に熱酸化膜を形成する工程(第一層目)と、熱酸化膜上にシリコンもしくはシリコン酸化膜をスパッタ、CVD、イオンプレーティング、PVD、湿式塗布により備える工程(第二層目)と、該最上膜を平坦化する研磨工程とを備え、前記熱酸化膜形成工程は、多結晶シリコン基板を熱酸化することで形成させ、シリコンもしくはシリコン酸化膜は熱酸化した多結晶シリコン基板の熱酸化主面に、スパッタ、CVD、イオンプレーティング、PVDによって形成するか、湿式塗布(有機シリカ若しくはシリコーン系材料をスピン塗布して熱処理を施すことにより実行される)によって実行される。
【発明の効果】
【0024】
本発明において、多結晶シリコン基板を熱酸化した後、更にシリコンもしくはシリコン酸化膜を備えることによる利点について述べる。
まず熱酸化を行う利点は、多結晶シリコン基板の強度の向上にある。先にも述べたが、モバイル用途を考えた場合、強度は重要な特性と1つである。ガラス基板と原理的には同じであるが、基板表面の圧縮応力を増加させることで基板の強度を向上させることができる。シリコン基板の場合、表面に熱酸化膜を形成させることにより、Si−Siの間にO原子が入り込むことで圧縮応力を発生させることが可能である。これにより、シリコン基板の強度を向上させることが可能である。
【0025】
次に、更にシリコンもしくはシリコン酸化膜を熱酸化した多結晶シリコン基板の熱酸化主面に、スパッタ、CVDによって膜形成する利点としては、多結晶シリコン基板内に残存する不溶解含有物(インクルージョン)の影響を無くすことができる点にある。不溶解含有物(インクルージョン)としては、多結晶シリコンを製造する過程で、炭化ケイ素、チッ化アルミニウムなどが混入する。炭化ケイ素は還元反応に伴い生成されるスラグであり、チッ化アルミニウムは溶解時の鋳型離型剤、ルツボ材からの混入が主な原因である。単結晶と異なり結晶粒界が存在する多結晶の場合、これら不溶解含有物を完全に除去することは極めて難しい。不溶解含有物は熱酸化しても、酸化膜内に取り込まれたり、表面に存在するものは脱落し穴となったりして熱酸化膜上に影響を与える。
図9(a)に、ヘッド/ディスク浮上特性評価装置(HDF−2007、クボタコンプス(株)社製)を用い、ヘッド浮上高さ10nm,基板サイズ2.5インチで行ったヘッド衝突試験におけるアコースティック ・ エミッション[AE]出力のマッピング結果を示す。色が濃く表示されているのが、衝突部位91である。次に、衝突した箇所の走査形プローブ顕微鏡(SPM)による凹凸(TOPO)像を観察した結果、図9(b)に示すように直径およそ30μmの凹凸が確認できた。さらに、衝突した箇所をX線マイクロアナライザ(EPMA)により分析した結果、図9(c)に示すように、不溶解含有物として、炭化ケイ素が検出された。
このように、多結晶シリコン基板の表面に熱酸化により酸化膜を形成することで基板強度を向上させることは可能であるが、熱酸化膜自体を研磨加工しても不溶解含有物(インクルージョン)の影響で欠陥を除去することは出来ない。
この問題に対し、本発明は熱酸化により強度を向上させた後、第二層としてシリコンもしくはシリコン酸化膜を塗布することで、不溶解含有物(インクルージョン)の影響を無くすることができる。
本発明の磁気記録媒体用シリコン基板についてヘッド/ディスク浮上特性評価装置を用いた同様の評価試験を行うと、図8のように衝突部位が殆ど観察されなかった。これは、不溶解含有物(インクルージョン)の影響を無くすことができた結果と考えられる。
【0026】
さらに、本発明では、熱酸化後の多結晶シリコン基板表面にスパッタ、CVD、イオンプレーティング、PVDでSi膜、SiO膜を成膜した後もしくはシリコーン系材料やオルガノシリカを含有する液剤を塗布して段差や結晶粒界部分を遮蔽する平滑な薄膜とした後、この薄膜を適度な温度で熱処理して有機成分を気散させることでSiO膜を形成し、このSiO膜をCMP研磨等の精密研磨して基板の平坦性を高めることとしたので、多結晶粒の結晶方位の違いや結晶粒界の存在には影響を受けずに平坦で平滑な表面を得ることができる。
【0027】
これにより、充分な耐衝撃性を有し、加工プロセスや磁気記録層の成膜プロセスを複雑なものとすることがなく、表面平坦性に優れ、しかもコストダウンを可能とする磁気記録媒体用Si基板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の磁気記録媒体用Si基板の製造プロセスの一例を説明するためのフローチャートである。先ず、Si基板をコア抜きして取得するための多結晶Siウェハを準備する(S1)。この多結晶Siウェハは、いわゆる「半導体グレード」(一般には、その純度は「11ナイン」(99.999999999%)以上である)のものである必要はなく、概ね「太陽電池グレード」のものでよい。太陽電池グレードの多結晶Siウェハの純度は、一般的には「6ナイン」(99.9999%)以上であるが、本発明では、「5ナイン」(99.999%)までは許容できる。磁気記録用基板用途では基本的に構造材料として使用するため、太陽電池用途と異なりボロン(B)や燐(P)などのドーパント量の制御をする必要はない。
【0029】
多結晶Siウェハの純度の下限を「5ナイン」と設定するのは、これよりも低純度であると、粒界に結晶中の不純物が析出して基板強度を低下させるおそれがあるためである。なお、基板強度等の観点からは多結晶Siウェハの純度は高いほど好ましいが、高純度とするにつれて原料コストは増大する。したがって、精々、「8ナイン」(99.999999%)〜「9ナイン」(99.9999999%)程度でよい。
【0030】
多結晶Siウェハの形状は矩形でも円板状でもよいが、材料歩留まりの観点からは、矩形形状の方が好ましい。なお、太陽電池用多結晶Siウェハの一般的な形状は約150mm角の矩形であるので、図1に示したプロセス例ではこの形状の多結晶Siウェハを用いた例を示している。なお、多結晶Siウェハ自体の強度や耐衝撃性を向上させる観点からは、多結晶粒の平均グレインサイズを考慮することが重要であり、これを1mm以上15mm以下とすることが望ましい。
【0031】
この多結晶Siウェハから、レーザ加工による「コア抜き」により、多結晶Si基板を取得する(S2)。本発明では、主として、モバイル機器用途の磁気記録媒体用Si基板を想定しているので、コア抜きするSi基板の直径は概ね65mm以下であり、直径の下限は一般に21mmとなる。
【0032】
コア抜き加工には、ダイヤモンド砥石によるカップ切断、超音波切断、ブラスト加工、ウォータージェット処理など種々の方法があるが、加工速度の確保、切り代量の削減、口径の切り替え容易性、治具製作や後加工の容易性などから、固体レーザによるレーザコア抜きが望ましい。固体レーザはパワー密度が高くビームを絞れるため、溶断残渣(ドロス)の発生が少なく加工面が相対的にきれいなためである。この場合のレーザ光源としては、Nd−YAGレーザやYb−YAGレーザなどを挙げることができる。
【0033】
コア抜きして得られたSi基板に、芯取および内外端面処理を施し(S3)、さらに、エッチングを施して加工ダメージ層を除去し(S4)、その後の研磨でチッピング等が生じないように端面研磨加工を施す(S5)。
【0034】
このようにして得られたSi基板に、粗研磨を施して表面を概ね平坦化する。この粗研磨工程は、図1の「粗研磨」(S6)に相当する。本発明では、この表面平滑化のための粗研磨加工を、中性若しくはアルカリ性のスラリを用いたCMP処理で実行する。
【0035】
一般に、単結晶Si基板の表面の平滑化は、アルカリ性のスラリによる多段CMP研磨により行われる。しかし、本発明が対象とするSi基板は多結晶であるために、結晶粒毎に結晶方位が異なる。そのため、アルカリ性スラリを用いてCMP研磨を行うと、結晶粒毎に研磨速度が異なることに起因して良好な表面平坦性を得られなくなる。このような理由により、表面平滑化のための粗研磨加工を、中性からアルカリ性のスラリで行う場合pHの調整が必要である。
【0036】
具体的には、中性近傍からアルカリ性領域(PH7〜11)のコロイダルシリカ等のスラリを用いたCMP研磨を行う。pH11を超えると粒間段差が大きくなり過ぎる。pH7以下では機械研磨主体となり、研磨速度が遅くなり過ぎる。また、LSIの層間絶縁膜のCMP研磨で用いられている酸化剤やコーティング剤をスラリに添加することも有効である。
【0037】
例えば、粗研磨(S6)として、pH10のアルカリ性コロイダルシリカを用いてCMP研磨を実行する。なお、この粗研磨の工程は、多結晶Si基板の厚みムラや表面段差を大まかに除去するためのものでSi基板表面の平坦性が確保できればよく、研磨布によって発生する研磨痕や深さ10nm程度のスクラッチ程度の微小キズなどは存在していても構わない。
【0038】
次いで、シリコン基板への熱酸化膜形成(S7)を行う。
シリコン基板への熱酸化膜形成の方法としては多々挙げられるが、実用的な方法としては、酸化雰囲気として、酸素を用いる方法、酸素−水による方法、水中での方法、水素−酸素の燃焼によって生成する水を用いた方法があるが、酸素の代わりに酸素を含んだガス、ヘリウム−酸素、ネオン−酸素、アルゴン−酸素や窒素−酸素(空気含む)などでもよい。圧力としては、常圧、高圧下での酸化が行われる。さらに、ハロゲンを添加した雰囲気での酸化法も用いられる。酸化法としては、ドライ酸素酸化、ウエット酸素酸化、スチーム酸化、水素燃焼酸化、高圧酸化、酸素分圧酸化、ハロゲン酸化、プラズマ酸化、陽極酸化などが挙げられるが、本発明においてはこれら方法に限定されるものではない。
熱処理温度については、目標の酸化膜の膜厚により適宜決定されるが、およそ400〜1200℃の範囲である。処理時間はおよそ1分〜72時間である。
【0039】
前記シリコン基板上に形成する熱酸化膜の厚みは、上記粗研磨(S6)後のSi基板表面の平坦性にもよるが、10nm以上800nm以下であることが好ましい。10nm未満であると、インクルージョンや多結晶段差の影響が出てくるとなる場合があり、800nmを超えても、特性的には問題がないと考えるが、熱酸化に要する時間が長くなり、コストアップとなり、経済性が劣る場合がある。
【0040】
シリコン基板の場合、表面に熱酸化膜を形成させることにより、Si−Siの間にO原子が入り込むために圧縮応力を発生させることが可能である。これにより、シリコン基板の強度を向上させることが可能である。
【0041】
圧縮応力が発生するメカニズムは、基板最表面のSi−Si結合内に熱酸化することで、O原子が割り込み基板最表面の体積が増加することで圧縮応力が発生していると考えられる。
どの程度の圧縮応力がかかっているか数値化は難しいが、以下、検討を行った。
まず、図2の模式的断面図に示すように、φ65mm(φ20mm穴)×厚0.635mmの粗研磨基板を準備し、該基板の両面に、それぞれ300nm、500nm、800nmの酸化膜(22、23)を熱酸化により形成した(図2(a))。基板内部24には引っ張り応力25、基板両面の酸化膜(22、23)には圧縮応力26が発生している。
図3に、各々の酸化膜形成基板21の片面の酸化膜22を研磨機によって除去する前後で、Optiflat(Phase Shift Technology社製)を用いて、ソリ(Flatness)を計測した結果を示す。片面の酸化膜除去後は、すべての酸化膜厚について、酸化膜を除去した面に対しおわん型のソリを示した。これは、酸化膜22面に圧縮応力が発生していたことを示唆し、図2(b)のように片面の酸化膜22を除去することにより、図2(c)に示すように、残る酸化膜23の圧縮応力の影響で基板のソリが発生したものと考えられる。
【0042】
続いて、熱酸化後のSi基板表面にシリコンまたはシリコン酸化膜(SiO膜)を形成(成膜)する(S8)。
本発明の磁気記録媒体用シリコン基板は、純度99.999%以上の多結晶シリコン基板を用いて形成されるものであるが、図4に示すように不溶解含有物43が存在している。これら不溶解含有物43は熱酸化しても、酸化膜48内に取り込まれず、表面に存在するものは脱落し穴となったりして熱酸化膜48上に影響を与える。そこで、結晶粒分布を反映した段差47を埋め、かつ、不溶解含有物43の影響がなくなるように、多結晶シリコン基板の熱酸化膜の表面45に、スパッタ、CVD、イオンプレーティング、PVD、湿式塗布(有機シリカ若しくはシリコーン系材料を含有する液剤をスピン塗布して熱処理を施すことにより実行される)などによってシリコンもしくはシリコン酸化膜49を膜形成させる。
基板表面にSiO膜を生成させた場合、基板表面に圧縮応力が発生するので薄板の強度が増し、またSiO膜はアモルファスであるので特定方向への僻開性がなく、基板としての強度や耐衝撃性を向上させることができる。
【0043】
前記熱酸化膜上に形成するシリコン膜もしくは酸化膜の厚みは、10nm以上800nm以下であることが好ましい。10nm未満であると、粒間段差を埋めることができず、また不溶解含有物の影響が残ってしまう場合があり、800nmを超えると、特性的には問題はないが、熱酸化に要する時間が長くなり、コストアップにつながり、経済性が劣る場合がある。
【0044】
S8工程で熱酸化膜上に形成する材料が、シリコンもしくはシリコン酸化膜であるのは、用途によるものである。次世代のパターンドメディアや熱アシスト用とした場合、加工性や熱伝導性が要求されるため、最上面は金属シリコンが好ましい。これに対し、現行のモバイル用途や高回転が要求されるサーバー用の場合、現行プロセスがガラス基板用の工程であり、ガラス基板面と性質が近いシリコン酸化膜である方が導入し易い点にある。よって、本発明は用途に応じて最表面の膜種を選択することが可能である。
【0045】
スパッタの場合はSiもしくはSiOのターゲットを用いることで成膜は可能である。また、CVDの場合はシラン基を有するガスであれば成膜は可能である。
湿式法については、シリコーン系材料やオルガノシリカを含有する液剤をSi基板表面に塗布して平滑な薄膜とした後、この薄膜を適度な温度で熱処理して有機成分を気散させることでSiO膜を得る。
【0046】
このような酸化膜形成用のシリコン源としては、シラン化合物(特にアルコキシシラン)を加水分解・縮合した加水分解縮合物等(例えば、Honeywell製アキュフローT−27やアライドシグナル製のアキュグラスP−5Sなど)が例示される。
【0047】
このようなオルガノシリカやシリコーン系材料の膜を、例えばスピンコートにより100nm以上の厚さに均一塗布し、その後、400℃以上、好ましくは400℃〜1200℃の加熱処理を行ってSiO膜とする。得られるSiO膜の厚みは塗布剤の種類やスピンコート条件にもよるが、一般には、概ね100nm〜700nm程度である。なお、液剤を塗布する方式であるので、粗研磨(S6)後のSi基板表面の平坦性が一定程度以下(例えば、粒間段差が10nm以下で、ウェビネスWaが概ね2.0nm以下)であれば、熱酸化膜形成後、スピンコートすることによりSi基板表面に残された段差や結晶粒界部分は遮蔽され、平坦な塗布面が得られる。
【0048】
シリコン源としてのシラン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメトキシジシラン、ヘキサエトキシジシラン、1,1,2,2−テトラメトキシ−1,2−ジメチルジシラン、1,1,2,2−テトラエトキシ−1,2−ジメチルジシラン、1,1,2,2−テトラメトキシ−1,2−ジフェニルジシラン、1,2−ジメトキシ−1,1,2,2−テトラメチルジシラン、1,2−ジエトキシ−1,1,2,2−テトラメチルジシラン、1,2−ジメトキシ−1,1,2,2−テトラフェニルジシラン、1,2−ジエトキシ−1,1,2,2−テトラフェニルジシラン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1−(ジメトキシメチルシリル)−1−(トリメトキシシリル)メタン、1−(ジエトキシメチルシリル)−1−(トリエトキシシリル)メタン、1−(ジメトキシメチルシリル)−2−(トリメトキシシリル)エタン、1−(ジエトキシメチルシリル)−2−(トリエトキシシリル)エタン、ビス(ジメトキシメチルシリル)メタン、ビス(ジエトキシメチルシリル)メタン、1,2−ビス(ジメトキシメチルシリル)エタン、1,2−ビス(ジエトキシメチルシリル)エタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼンなどが例示される。なお、これらのシラン化合物を2種以上用いることもできる。
【0049】
また、このようなシラン化合物を溶かし込むための溶媒としては、エチル又はイソプロピルのようなアルコール、ベンゼンやトルエンのような芳香族炭化水素、n−ヘプタンやドデカンのようなアルカン、ケトン、エステル、グリコールエーテル又は環状ジメチルポリシロキサン等が例示される。
【0050】
オルガノシリカやシリコーン系材料を熱処理する温度は塗布した材料の種類により異なるが、一般には、400℃〜500℃の温度範囲とし、10分以上を目処に加熱すればよい。面荒れを起こさない範囲で急速加熱(例えば、100℃/分)することも可能である。なお、熱処理雰囲気は大気でよいが、不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0051】
S7工程で得られた熱酸化膜と、該熱酸化膜上にオルガノシリカやシリコーン系材料を用いて形成したシリコン酸化膜とは、断面観察によって判別することができる。その方法としては、特に限定されないが、例えば、TEM、EPMAによる断面観察やオージェ、XPS等の表面状態分析やX線分析といった方法が挙げられる。
【0052】
上述のようにして形成した第二層のさらに上方に、最上膜として上記方法と同じようにシリコン酸化膜層を形成したのち、後述の研磨工程(S9)につなげてもよい。
【0053】
このようなシリコン膜もしくはシリコン酸化膜の形成に続いて、SiO膜の研磨を行う(S9)。なお、この研磨工程は、研磨布、研磨液等の研磨諸条件を変えて、複数段設けてもよい。この研磨工程は、SiO膜の表面平坦性を確保するための工程であり、「ケミカル作用」による研磨と「機械作用」による研磨を複合させた化学機械研磨[CMP研磨]とする。この研磨により、適当な厚みのSiO膜部分が取り除かれ、熱酸化膜上に形成されるSiO膜は一般には概ね100nm〜700nm程度であるが、該熱酸化膜上に形成されるSiO膜の厚みが、例えば、10nm〜500nmとなるまで研磨除去される。
【0054】
一般に、多結晶Si基板のベア面にCMP研磨を施すと、結晶方位が互いに異なる結晶粒間で研磨速度の差に起因する段差が生じるが、本発明では多結晶Si基板の表面には上述のSi膜もしくはSiO膜が形成されているため、当該段差の発生の心配は全くない。このため、表面ラフネスRaの低い、しかも多結晶Siベア面で認められた結晶方位による段差やインクルージョン欠陥や1μm以下の研磨屑や研磨材の付着による微小欠陥が少ない良好な多結晶Si基板面が得られる。しかも、Si膜もしくはSiO膜は概ね平坦化された粗研磨面上に被覆されており厚みも均一であるので、比較的短時間の研磨で最終平滑面を得ることができる。
【0055】
このように、本発明では、多結晶Si基板の加工プロセス中の適切な段階で、基板表面に酸化膜を形成するため、多結晶粒の結晶方位の違いや結晶粒界の存在には影響を受けずにCMP研磨によって平坦で平滑な表面を得ることができる。また、熱酸化膜を設けることにより、機械強度にも優れた多結晶Si基板を作製することができる。
【0056】
なお、粗研磨工程(S6)および研磨工程(S9)に用いるCMP研磨用スラリは一般的なものでよい。例えば、平均粒径が20〜80nmのコロイダルシリカのスラリのpH値を7〜11のアルカリ性領域として用いる。なお、pH調整は、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、水酸化リチウム、塩酸、硫酸、フッ酸などを添加することで行う。また、コロイダルシリカの濃度としては1〜40%程度とし、コロイダルシリカを分散させたスラリを用いて、5分〜1時間程度CMP研磨し所望の表面平滑度とする。特に、粗研磨(S6)は10〜300g/cmの研磨圧で、研磨(S9)は50〜300g/cmの研磨圧で行うことが好ましい。
【0057】
研磨工程(S9)に続き、スクラブ洗浄(S10)、RCA洗浄(S11)を行って基板表面を清浄化する。その後、当該基板表面を光学検査(S12)して、梱包、出荷される(S14)。また、必要に応じて、強度試験(S13)を行う。そして、このようにして得られた酸化膜付き多結晶のSi基板上に、磁気記録層を形成すると、図10(B)に図示したような積層構造の磁気記録媒体を得ることができる。磁気記録層としては、CoCrPt系合金、CoPt系合金、PtCo層とPdとCoの超薄膜を交互に数層積層させた多層膜、PtFeあるいは、SmCoアモルフアス膜等の従来公知のものを採用することができる。なお、「Si基板上に、磁気記録層」とあるが、Si基板に隣接して磁気記録層を設けたものに限定されず、Si基板の上方に軟磁性裏打ち層を介して磁気記録層を形成したものであってよい。
【0058】
このようにして得られた多結晶Si基板は、ウェビネスとマイクロウェビネスの2乗平均値が何れも0.3nm以下となり、ハードディスク用の基板として充分な表面特性を得ることができる。そして、このようなSi基板上に磁気記録層を設けることで磁気記録媒体が得られる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1〜5
純度が「6ナイン」の多結晶Siウェハ(156mm角、厚み0.6mm)を準備し(S1)、この多結晶Siウェハから、レーザ加工機(YAGレーザ、波長1064nm)により、外径27mm、内径7mmのSi基板をコア抜きしてウェハ当たり30枚の基板を得た(S2)。これらの基板に、芯取・内外端面処理(S3)、エッチング(S4)、端面研磨(S5)を施した。
【0060】
次いで、多結晶Si基板の主面に、粗研磨加工(S6)を施し厚みを382μmとした。この粗研磨加工は両面研磨機を用い、pH10の平均コロイダルシリカ(粒径80nm)のスラリで、研磨圧200g/cmで60分間研磨した。この粗研磨後のSi基板主面の粒間段差を光学検査機(Zygo)で調べたところ、概ね5nm程度であった。
【0061】
この粗研磨した基板をスクラブ洗浄を行い、熱酸化処理を行った。熱酸化条件は、基板を管状炉に導入し、酸素雰囲気下(今回は空気)で、ウエット酸素酸化を行った。酸化条件は1000℃×10〜300分間により熱酸化膜厚100、300、600、1000nmを得た。
得られた基板について、次に、スピンコータでオルガノシリカ(上記のアキュフローT−27およびアキュグラスP−5S)を塗布し、400℃で30分間大気中で加熱してSiO膜を形成した。(S8)このSiO膜を膜厚検査機(品番:F20、フィルメトリクス社製)で測定したところ、厚みは概ね300〜1200nmであり、面内での膜厚分布も均一であった。よって、熱酸化膜厚(100〜1000nm)を差し引くと200nm程度の酸化膜が形成されたことになる。
続いて、仕上げ用の粒の細かいコロイダルシリカ(pH値10、粒径40nm)を用いて研磨圧100g/cmのCMP研磨(S8)を行い、SiO膜の表面から100nm研磨して、微小欠陥がない平滑な研磨面を得た。
【0062】
これらの多結晶Si基板を、スクラブ洗浄(S10)で残留コロイダルシリカを除去した後に精密洗浄(RCA洗浄:S11)を行い、多結晶Si基板の表面特性を光学検査(S12)により評価した。具体的には、研磨面の湾曲度(ウェビネスをPhase Shifter社製のOpti−Flatで、マイクロウェビネスをZygo社製の光学計測器で測定)、および、平滑性(ラフネス:Digital Instrument社製のAFM装置で測定)を評価した。
(強度試験)
更に、これら基板について図5のような強度測定装置50を用いて強度試験を行った。具体的には、ロードセル51上に立てられた受けピン52上に、リングガイド53内を通して多結晶基板54(ワーク)を設置し、該基板の中央部にシャフト55内を可動するφ7.6の円柱ヘッド56を押し当て、そのときの荷重をロードセル51で検出し、破壊強度を計測した。
以上の試験結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から、熱酸化膜を施したシリコン基板は、その膜厚に比例して強度が向上しているのに対し、比較例1に示す酸化膜塗布のみの基板強度は、比較例2に示す膜無しのシリコン基板と大差なかった。このことより、シリコン基板自体を熱酸化によって酸化膜を形成することにより基板強度を向上させることが確認できた。単に、シリコン基板表面に塗布する程度では基板強度が向上しないということである。
また、この表1からわかるとおり、本発明にかかる磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法により得られたSi膜付き多結晶Si基板の表面特性は良好であり、多結晶Siのベア面を比較的強いアルカリ性(例えばpH12)のコロイダルシリカでCMP研磨加工した場合のような、結晶粒分布を反映した段差は一切観察されなかった。比較例として準備した試料(熱酸化膜を設けずに実施例と同条件で研磨した多結晶Si基板)の表面は、各結晶粒相互間の結晶方位の違いを反映して段差が大きく、ウェビネスとマイクロウェビネスの値は非常に悪かった。しかしながら、ラフネスは低い値を示していた。これは個々の結晶粒に着目すれば平滑な面となっていたためと考えられる。
【0065】
実施例6〜10
実施例1〜5で得られた熱酸化膜付多結晶シリコン基板(酸化膜厚100〜1000nm)にCVD法により、シリコン膜の成膜を行った。
CVD法は一般的に行われているシランガスを用いた成膜方法である。
CVDとはChemical Vapor Deposition の略で化学蒸着法といわれ Siの薄膜を作りたいときなど、シラン(SiH)を数百度の高温に加熱した基板の表面に送り、熱分解、酸化、還元、置換などの反応を繰り返して薄膜を作る技術である。
【0066】
続いて、コロイダルシリカ(pH値10、粒径40nm)を用いて研磨圧100g/cmのCMP研磨(S9)を行い、Si膜の表面から150nm研磨して、微小欠陥がない平滑な研磨面を得た。
【0067】
これらの多結晶Si基板を、スクラブ洗浄(S10)で残留コロイダルシリカを除去した後に精密洗浄(RCA洗浄:S11)を行い、実施例1〜5と同様の表面特性を光学検査(S12)および強度試験(S13)を行った。
【0068】
表2は、このようにして得られた実施例6〜10の試料の評価結果(Ra:ラフネス、Wa:ウェビネス、μ−Wa:マイクロウェビネス)を纏めたものである。なお、比較例として、Si膜付け無しの試料の評価結果を同時に示した。
また、強度試験も実施例1〜5と同じく行った。
【0069】
【表2】

【0070】
表2から、熱酸化膜を施したシリコン基板は、その膜厚に比例して強度が向上していたのに対し、酸化膜塗布のみの基板強度は、膜無しのシリコン基板と大差なかった。このことより、シリコン基板自体を熱酸化によって酸化膜を形成することにより基板強度を向上させることが確認できた。
また、以上の表1および表2からわかるとおり、本発明にかかる磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法により得られたSi膜付き多結晶Si基板の表面特性は良好であり、多結晶Siのベア面を比較的強いアルカリ性(例えばpH12)のコロイダルシリカでCMP研磨加工した場合のような、結晶粒分布を反映した段差は一切観察されなかった。比較例として準備した試料(熱酸化膜を設けずに実施例と同条件で研磨した多結晶Si基板)の表面は、各結晶粒相互間の結晶方位の違いを反映して段差が大きく、ウェビネスとマイクロウェビネスの値は非常に悪かった。しかしながら、ラフネスは低い値を示していた。これは個々の結晶粒に着目すれば平滑な面となっていたためと考えられる。
【0071】
図6および図7は、粗研磨工程(S6)と実施例1で得られた多結晶シリコン基板の面精度である。図6より、粗研磨工程(S6)では多結晶シリコン基板面に存在する結晶方位の異なる結晶粒で研磨速度の違いによる粒界段差が多数発生していることがわかった。
これに対し、図7より、研磨工程(S9)では多結晶シリコン基板面の結晶方位の影響、不溶解含有物(インクルージョン)の影響が無くなり平滑な面が得られていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、充分な耐衝撃性を有し、加工プロセスや磁気記録層の成膜プロセスを複雑なものとすることがなく、表面平坦性に優れ、しかもコストダウンを可能とする磁気記録媒体用Si基板を提供することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の磁気記録媒体用Si基板の製造プロセスの一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の磁気記録媒体用シリコン基板の圧縮応力の確認方法を示した模式的断面図である。
【図3】Si基板の両面に形成する酸化膜厚を(a)300nm,(b)500nm,(c)800nmと変えて、片側の酸化膜を除去する前後の基板の湾曲状態を表現した模式図である。
【図4】粗研磨工程(S6)から研磨工程(S9)までの多結晶シリコン基板の状態の模式的断面図である。
【図5】実施例で用いた強度測定装置の全体構成を示す模式的断面図である。
【図6】粗研磨工程(S6)で得られた多結晶Si基板の面精度計測結果(ウエビネス、マイクロウエビネス、ラフネス)である。
【図7】研磨工程(S9)で得られた多結晶Si基板の各種面精度の計測結果[(a)Optiflatによるウエビネス、(b)Zygoによるマイクロウエビネス、 (c)AFM観察によるラフネス]である。
【図8】本発明の磁気記録媒体用シリコン基板のヘッド衝突試験による衝突部位の分布図である。
【図9】(a)従来の方法で得られた多結晶Si基板のヘッド衝突試験におけるアコースティック ・ エミッション出力のマッピング結果、(b)(a)の衝突部位の走査形プローブ顕微鏡(SPM)による凹凸(TOPO)像、(c)(a)の衝突部位のX線マイクロアナライザ(EPMA)による元素分析結果である。
【図10】(A)水平磁気記録方式106のハードディスクの一般的な積層構造を説明するための断面概略図、(B)軟磁性裏打ち層112の上に垂直磁気記録のための記録層113を設けた「垂直二層式磁気記録媒体116」としてのハードディスクの基本的な層構造を説明するための断面概略図である。
【符号の説明】
【0074】
1 磁気記録媒体用シリコン基板
21 酸化膜形成基板
22、23 酸化膜
24 基板内部
25 引っ張り応力
26 圧縮応力
41 多結晶シリコン基板
43 不溶解含有物
45 熱酸化膜の表面
47 段差
48 熱酸化膜
49 シリコン膜またはシリコン酸化膜
50 強度測定装置
51 ロードセル
52 受けピン
53 リングガイド
54 多結晶基板(ワーク)
55 シャフト
56 可動円柱ヘッド
91 衝突部位
100 シリコンまたはシリコン酸化膜を形成せず研磨した基板
101、111 非磁性基板
102 Cr系下地層
103、113 磁気記録層
104、114 保護層
105、115 潤滑層
106 水平磁気記録媒体
112 軟磁性裏打ち層
116 垂直磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99.999%以上の多結晶シリコン基板の主面上に該基板の熱酸化膜を備え、該熱酸化膜上に、スパッタ、CVD、イオンプレーティング、PVD、湿式塗布により形成したシリコン膜もしくはシリコン酸化膜を備え、
前記シリコン膜もしくはシリコン酸化膜の表面のウェビネスおよびマイクロウェビネスの2乗平均値が、何れも0.3nm以下である磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項2】
前記シリコン基板の直径が、65mm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項3】
前記熱酸化膜の厚みが、10nm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項4】
前記シリコン膜もしくは酸化膜の厚みが、10nm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁気記録媒体用シリコン基板上に磁気記録層を備えた磁気記録媒体。
【請求項6】
純度99.999%以上の多結晶シリコン基板の主面上に第一層として熱酸化膜を形成する工程と、
前記熱酸化膜上に、第二層として、スパッタ、CVD、イオンプレーティング、PVDまたは湿式塗布により、シリコンもしくはシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第二層または前記第二層上に設けた最上膜を平坦化する研磨工程とを含む磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法。
【請求項7】
前記研磨工程は、化学機械研磨にて前記第二層または前記第二層上に設けた最上膜の膜厚が10nm〜500nmとなるまで行うことを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−301630(P2009−301630A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153926(P2008−153926)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】