説明

磁気記録用磁性粉およびその製造方法、ならびに磁気記録媒体

【課題】高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した飽和磁化を有する磁気記録用磁性粉を得ること。
【解決手段】磁性粒子の集合体からなる磁気記録用磁性粉。前記磁性粒子は、六方晶フェライト磁性粒子の還元処理物であって、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録用磁性粉およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した飽和磁化を有する、塗布型磁気記録媒体の作製に好適な磁性粉末およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記磁性粉を含む塗布型磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属粉末が主に用いられてきた。強磁性金属粉末は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高保磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
近年、記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには、強磁性金属粉末の改良には限界が見え始めている。これは、強磁性金属粉末は粒子サイズを小さくしていくと熱揺らぎのため超常磁性となってしまい、磁気記録媒体に用いることができなくなるからである。
【0004】
これに対し六方晶フェライト磁性粉末は、結晶構造に由来する高い結晶磁気異方性を有し熱的安定性に優れるため、微細化しても磁気記録に適した優れた磁気特性を維持することができる。また、六方晶フェライト磁性粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粉末は、高密度化に適した強磁性体である。
【0005】
近年、上記優れた特性を有する六方晶フェライト磁性粉末を更に改良するための手段について、様々な検討がなされている。例えば特許文献1には、置換型六方晶フェライト磁性粉末を還元性雰囲気中で加熱処理することにより、その飽和磁化を高めることが提案されている。特許文献2にも、六角板状のフェライト磁性粉(六方晶フェライト磁性粉末)を還元処理することにより、その飽和磁化を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2659957号明細書
【特許文献2】特開平7−85450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2はいずれも、高飽和磁化の磁性体が望ましいとの技術思想に基づき、六方晶フェライト磁性粉末の飽和磁化を高めることを目的とするものである。従来の磁気誘導型ヘッドを使用する記録再生システムにおいては、確かに高飽和磁化の磁性体が望ましいとの事情が存在したが、近年、再生ヘッドはAMRヘッド、更にはGMRヘッドへと進歩し高感度化している。これら高感度ヘッドを使用する記録再生システムでは、磁気記録媒体の磁化が大きすぎるとヘッドが飽和してしまうことから、飽和磁化が低い磁性体が指向されている(例えば特許第4143713号明細書、特開2007−246393号公報参照)。
【0008】
かかる状況下、本発明は、高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した飽和磁化を有する磁気記録用磁性粉を得ることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、六方晶フェライト磁性粒子の還元処理物であって、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲である磁性粒子が、高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した飽和磁化を有することを新たに見出した。更には、上記磁性粒子が、還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性粒子を加熱処理することによって得られることも明らかとなった。なお、上記特許文献1および2には六方晶フェライトを還元することの開示があるが、いずれも六方晶フェライトの飽和磁化を高めることを目的とするものであり、本発明に対する教示を与えるものではない。
【0010】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]磁性粒子の集合体からなる磁気記録用磁性粉であって、
前記磁性粒子は、六方晶フェライト磁性粒子の還元処理物であって、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲であることを特徴とする磁気記録用磁性粉。
[2]前記六方晶フェライト磁性粒子は、一般式:AFe1219[Aは、Ba、Sr、PbおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素]で表される組成を有する、[1]に記載の磁気記録用磁性粉。
[3]45A・m2/kg未満の飽和磁化を有する、[1]または[2]に記載の磁気記録用磁性粉。
[4]120kA/m以上230kA/m以下の保磁力を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉。
[5]磁化の時間減衰の傾きが0.0050(1/ln(s))以下となる熱的安定性を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉。
[6]下記減磁率Aと減磁率Bとの差(B−A)が0.0001〜0.0050の範囲となる熱的安定性を有する、[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉。
減磁率A:温度300Kで外部磁場40,000Oe(≒3184kA/m)で磁化を飽和させ、その後、外部磁場を−600Oe(≒−48kA/m)にし、減磁界が600Oe(≒48kA/m)になった時を時間の基準として測定される減磁率。
減磁率B:上記減磁率Aを測定した磁性粉を昇温速度5℃/分で320Kまで昇温し、該温度で10分間保持した後、降温速度5℃/分で300Kまで降温した後、上記減磁率測定と同じ方法で測定した減磁率。
[7]還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性粒子に加熱処理を施すことにより該六方晶フェライト磁性粒子の一部を還元することによって、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲である磁性粒子の集合体からなる磁性粉を得ることを特徴とする、磁気記録用磁性粉の製造方法。
[8]還元性雰囲気中での加熱温度が100〜200℃の範囲であり、かつ加熱時間が5〜30分間の範囲である、[7]に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
[9]前記加熱処理を施される六方晶フェライト磁性粒子は、一般式:AFe1219[Aは、Ba、Sr、PbおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素]で表される組成を有する、 [7]または[8]に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
[10]前記加熱処理を施される六方晶フェライト磁性粒子の飽和磁化は45A・m2/kg以上である、[7]〜[9]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
[11]前記加熱処理を施される六方晶フェライト磁性粒子の保磁力は235kA/m以上である、[7]〜[10]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
[12]前記還元性雰囲気は水素雰囲気である、[7]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
[13]非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉であることを特徴とする磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した磁気特性を有する磁気記録用磁性粉を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
磁性粒子の集合体からなる磁気記録用磁性粉であって、
前記磁性粒子は、六方晶フェライト磁性粒子の還元処理物であって、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲であることを特徴とする磁気記録用磁性粉;および、
還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性粒子に加熱処理を施すことにより該六方晶フェライト磁性粒子の一部を還元することによって、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲である磁性粒子の集合体からなる磁性粉を得ることを特徴とする、磁気記録用磁性粉の製造方法、
に関する。本発明における磁性粉は、磁気記録用途に使用されるものであり、塗布型磁気記録媒体の磁性層に含まれる強磁性粉末として好適に使用されるものである。
【0013】
本発明の磁性粉を構成する磁性粒子は、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲となるように六方晶フェライト磁性粒子を還元処理して得られたものである。
本発明者による検討の結果、上記Dc/Dtemは、六方晶フェライト磁性粒子の還元処理の程度を示す指標として用いることができるものであって、還元処理が進行するほどDc/Dtemの値は小さくなることが見出されたが、これは以下の理由によるものと考えられる。六方晶フェライト磁性粒子の還元は表層部から内部へと進行し、還元された部分は結晶質から非晶質(アモルファス)に転化するため、還元が進むほど結晶子サイズは小さくなる。しかし粒子サイズ自体は実質的に変化しないため、粒子サイズと結晶子サイズの比である上記のDc/Dtemは還元が進むほど小さくなる。そして本発明者の鋭意検討の結果、六方晶フェライトを還元処理すると、還元処理進行の初期領域(以下、「第一領域」という)では、還元処理前と比べて飽和磁化および保磁力は緩やかに減少し、上記領域から更に還元処理が進行すると保磁力の急激な減少および飽和磁化の減少が見られるようになり(以下、「第二領域」という)、更に還元処理を進行させると保磁力は大きく変化しないが飽和磁化が大きく高まる(以下、「第三領域」という)ことが明らかとなった。そして、上記第一領域に相当する磁性粒子は、0.90〜0.75の範囲のDc/Dtemを示すこと、かかる磁性粒子は高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した磁気特性を有することが、本発明者により新たに見出された結果、本発明が完成されたのである。一方、還元処理が第三領域まで進行するとX線回折分析によりα−Feの存在が明確に確認されるほど六方晶フェライトに含まれるFeのα−Feへの転換が起こる。前述の特許文献1は、上記第三領域に相当する技術を開示するものであるのに対し、本発明は上記第一領域に関するものであって、特許文献1とは別異の技術思想に基づく発明である。上記Dc/Dtemが0.90超では、還元処理による飽和磁化の調整が不十分であり、高感度再生ヘッドに適した飽和磁化を実現することが困難となる。一方、上記Dc/Dtemが0.75を下回るほど還元処理が進行すると、保磁力の低下が著しい上記第二領域では磁気記録に不適な磁性粒子となり、上記第三領域まで還元処理が進行すると飽和磁化が増加に転じ、本発明の目的に反することとなる。高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した磁気特性を実現する観点から、本発明の磁性粉を構成する磁性粒子のDc/Dtemは、0.90〜0.80の範囲であることが好ましい。
【0014】
かかる本発明の磁性粉は、還元性雰囲気中での加熱処理(還元処理)を含む、上記本発明の磁性粉の製造方法によって得ることができる。還元処理が六方晶フェライトの磁気特性に与える影響は還元処理条件によって大きく相違し、
(1)比較的穏和な還元処理条件下(加熱処理温度が比較的低い、処理時間が短い)では、飽和磁化および保磁力は緩やかに減少し上記第一領域に相当する磁性粒子が得られ、
(2)上記領域と比べて還元処理条件を強力にすると、保磁力が急激に低下し飽和磁化も低下し上記第二領域に相当する磁性粒子が得られ、
(3)更に還元処理条件をより強力にすると、保磁力は大きく変化しないが飽和磁化が大きく高まり上記第三領域に相当する磁性粒子が得られる、
ことも、本発明者による検討の結果、明らかとなった。本発明の磁性粉の製造方法は、上記(1)に相当する還元処理条件において六方晶フェライト磁性粒子を還元処理することにより、高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した飽和磁化を示す磁気記録用磁性粉を提供するものであり、本発明の磁性粉の製造方法として好適なものである。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0015】
六方晶フェライト磁性粒子
本発明の磁気記録用磁性粉を得るために上記Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲となる程度に還元処理が施される六方晶フェライト磁性粒子は、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、およびそれらの各置換体、例えばCo置換体等である。具体的には、マグネートプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネートプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有したマグネートプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般にはCo−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用できる。原料およびその製法によっては特有の不純物を含有するものもあるが、そのような粒子が本発明の磁性粉を構成する六方晶フェライト磁性粒子に含まれることも許容されるものとする。本発明の磁性粉を得るための六方晶フェライト磁性粒子の好ましいフェライト組成については後述する。
【0016】
本発明の磁性粉の原料となる六方晶フェライト磁性粒子としては、一般に硬磁性体と呼ばれる高い保磁力を有するものを用いることが好ましい。高い保磁力を有する磁性体は、結晶磁気異方性が高く熱的安定性に優れるため、高密度記録化のために微細化しても熱揺らぎによる磁気特性の低下が少ないためである。上記観点から、原料六方晶フェライト磁性粒子としては、230kA/m以上の保磁力を有するものを用いることが好ましく、235kA/m以上の保磁力を有するものを用いることがより好ましい。また、一般に入手可能な六方晶フェライト磁性粒子の保磁力は、通常500kA/m以下程度である。本発明の磁性粉は六方晶フェライト磁性粒子に強い還元処理を施すことなく得ることができるため、原料磁性粒子が優れた熱的安定性を有するものである場合には、その熱的安定性を損なうことなく、記録性を改善(飽和磁化を高感度再生ヘッドを使用する記録再生システムに適した範囲に調整)することができる。
【0017】
本発明の磁性粉は、通常、前述の第一の領域内のものであるため、多くの場合、その保磁力は原料磁性粒子の保磁力と比べて若干低下している。ただし還元処理の程度は上記Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲となる程度であるため、保磁力の急激な低下を示すものではない。本発明の磁性粉の保磁力は、好ましくは120kA/m以上230kA/m未満の範囲である。保磁力が低すぎると、隣接記録ビットからの影響で記録を保持しづらくなり、熱的安定性が劣るからである。また、保磁力が高すぎると記録することができなくなるからである。保磁力としては、160kA/m以上230kA/m未満であることがさらに好ましい。
【0018】
高い熱的安定性を得るためには、原料六方晶フェライト磁性粒子の結晶磁気異方性定数は、0.75×10-1J/cc(0.75×106erg/cc)以上であることが好ましい。より好ましくは1×10-1J/cc(1×106erg/cc)以上である。結晶磁気異方性が高い方が、磁性粒子を小さくでき、SNR等の電磁変換特性上有利である。また、記録特性の観点からは、原料六方晶フェライト磁性粒子の結晶磁気異方性定数は、5×10-1J/cc(0.5×107erg/cc)以下であることが好ましい。
【0019】
なお、六方晶フェライトについては、特許文献1に記載されているように保磁力を下げるために保磁力調整成分としてFeを置換する置換元素を添加することが行われる。しかし置換元素の導入は結晶磁気異方性を低下させるため、熱的安定性の観点からは好ましくない。そこで本発明では、原料六方晶フェライト磁性粒子として、置換元素を含まない六方晶フェライト磁性粒子を使用することが好ましい。置換元素を含まない六方晶フェライト磁性粒子とは、一般式:AFe1219[Aは、Ba、Sr、PbおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素]で表される組成を有するものである。したがって本発明の磁性粉を構成する磁性粒子としては、上記一般式で表される組成を有する六方晶フェライト磁性粒子が、0.90〜0.75のDc/Dtemを示す程度に還元処理されているものが好ましい。
【0020】
上記好ましい諸特性を有する六方晶フェライト磁性粒子を使用することは熱的安定性の観点から好ましいが、そのような特性を有する六方晶フェライトの飽和磁化は、通常45A・m2/g(45emu/g)以上1000A・m2/g(1000emu/g)以下である。しかし45A・m2/g以上の飽和磁化は、近年使用される高感度ヘッドの飽和による感度低下の原因となる。これに対し本発明によれば、六方晶フェライト磁性粒子を0.90〜0.75のDc/Dtemを示す程度に還元処理することにより、その飽和磁化を高感度ヘッドの使用に適した範囲に制御することができる。したがって本発明の磁性粉は、45A・m2/g未満の飽和磁化を示すことが好ましい。また、再生出力の観点からは、本発明の磁性粉の飽和磁化は40A・m2/g以上であることが好ましい。
【0021】
本発明の磁性粉を構成する磁性粒子および原料磁性粒子の形状は、球形、多面体状等のいずれの形状でも構わない。また、上記磁性粒子の粒子サイズとしては、高密度記録の観点から、透過型電子顕微鏡(TEM)により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径が好ましくは5〜200nmであり、さらに好ましくは5〜25nmである。具体的には、磁性粒子を日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性粒子を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で、当該粒子を構成する六方晶フェライトの板径方向における最大長径を測定する。なお六方晶フェライトにおける板径方向は、(220)面に垂直な方向と一致するため、上記方法により測定することで、前記磁性粒子の(220)面に垂直な方向における粒子径が求められる。また本発明において前記磁性粒子の(220)面に垂直な方向における粒子径は、上記方法で測定される透過型電子顕微鏡で撮影した写真において500個の粒子を無作為に抽出して測定した粒子径の平均値とする。また、本明細書に記載の粒子サイズに関する平均値も、同様に透過型電子顕微鏡で撮影した写真において500個の粒子を無作為に抽出して測定した値の平均値とする。
【0022】
還元処理
本発明の磁性粉の製造方法では、六方晶フェライト磁性粒子に対して、還元性雰囲気中で加熱処理(還元処理)を施す。還元ガスとしては水素、一酸化炭素、炭化水素等が用いられる。水素、一酸化炭素は還元分解時に酸化され、それぞれ水、二酸化炭素の形で気体として粒子から取り除かれる点で好ましい。ただし一酸化炭素は毒性が高いため、安全性および取り扱いの容易性の観点からは、水素を使用することがより好ましい。還元分解時の雰囲気ガスは、還元分解の反応効率の点からは、還元ガスを50体積%以上含有するものが好ましく、90体積%以上含有するものがより好ましい。反応容器にガス流入口と排気口を設け、還元分解中に常時還元ガス気流を流入させつつ反応後のガスを排出することが、反応効率の点から特に好ましい。還元ガス気流中での還元分解は、Ca還元の様にCaが不純物として混入することもなく、還元分解での副生成物が気相中に移り除かれる点で有利である。なお、安全上の配慮から不活性ガスで希釈した水素または一酸化炭素も好ましく用いることができる。このように不活性ガスにより希釈することによって、還元処理による磁気特性の変化を制御することもできる。
【0023】
上記還元処理は、反応炉にガス流入口と排気口を設け、還元性雰囲気ガス気流を常時流入させつつ反応後のガスを排出して行うことが、反応効率の点から好ましい。また、還元処理による副生成物を除去するため、排気ガスをスクラバーで処理することもできる。還元処理時の加熱処理条件については、0.90〜0.75のDc/Dtemを示す六方晶フェライト磁性粒子の還元処理物の集合体からなる磁性粉が得られるように温度および時間を設定する。加熱処理温度は、前記した第一領域に相当する還元処理を行う観点から、反応炉内温度として100〜200℃の範囲とすることが好ましい。特に、還元力の強い還元ガス(例えば純水素および一酸化炭素)を使用する場合には、200℃を超える加熱処理温度では、還元処理が前記した第二領域まで進行する結果、保磁力の急激な低下を招くことがあるからである。また、100℃未満では、0.90以下のDc/Dtemを実現することが困難な場合があるからである。加熱処理温度は、工程管理上は195℃以下であることがより好ましく、処理時間の短縮化の観点からは130℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましい。還元処理時間は、還元性雰囲気中の還元ガス濃度等に応じて、所望の磁気特性の磁性粒子が得られるように設定すればよく特に限定されるものではないが、生産性等の観点からは5〜30分間程度が好ましく、例えば純水素を用いる場合には5〜25分間程度が好適である。
【0024】
上記還元処理は、上部が開口した反応容器に六方晶フェライト磁性粒子を入れた状態で反応チャンバー内に配置して行うことができる。この場合、反応容器の底部に位置する六方晶フェライト磁性粒子を還元性雰囲気に接触させるために容器内の粒子を適宜攪拌することが好ましい。このためにはロータリーキルン等が好ましく用いられる。なお、ハンドリング性をいっそう向上するために上記還元処理後の磁性粒子を酸化処理し、最表面に酸化物層を形成することも、好ましい対応である。酸化処理は、公知の徐酸化処理によって行うことができる。
【0025】
本発明の磁性粉を構成する六方晶フェライト磁性粒子の粒径は、前述のように、好ましくはTEMにより求められる(220)面に垂直な方向における粒子径が5〜200nmであり、さらに好ましくは5〜25nmである。これは、SNR等電磁変換特性上は微粒子であることが好ましいが、小さくしていくと超常磁性を示し、記録に適さなくなるからである。なお、粒子径200nm超であれば、上記還元処理を施すことなく、記録再生に適した磁気特性を示す磁性粒子も存在する。したがって、本発明の磁性粉は、そのままでは記録再生に適した粒子を得ることが困難な粒子径200nm以下の粒子から構成されることが好ましい。
【0026】
本発明は、六方晶フェライト磁性粒子に比較的穏やかな還元処理を施すものであるため、優れた熱的安定性を有する原料磁性粒子を使用すれば、その熱的安定性を損なうことなく、所望の記録性を有する磁気記録用磁性粉を提供することができる。本発明の磁性粉が有することが望ましい熱的安定性の詳細については、実施例に基づき後述する。
【0027】
以上説明した本発明の磁性粉は、磁気記録用途に用いられるものであり、結合剤および溶媒と混合し塗布液として支持体上に塗布することにより磁性層を形成することができる。したがって、本発明の磁性粉は、塗布型磁気記録媒体への適用に好適である。即ち、本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記強磁性粉末が本発明の磁性粉であることを特徴とする磁気記録媒体に関する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と本発明の磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する重層構成の磁気記録媒体であることもでき、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を有する磁気記録媒体であることもできる。
【0028】
本発明の磁気記録媒体の厚み構成については、非磁性支持体の厚みは、例えば3〜80μm、好ましくは3〜50μm、より好ましくは3〜10μmである。非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と保磁力を持たないことを意味する。
【0029】
磁性層の厚みは、好ましくは10〜80nm、より好ましくは30〜80nmであり、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化することが好ましい。また、バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0030】
その他の本発明の磁気記録媒体の詳細については、磁気記録媒体に関する公知技術を適用することができる。例えば、磁気記録媒体を構成する材料および成分ならびに磁気記録媒体の作製方法の詳細については、例えば、特開2006−108282号公報段落[0030]〜[0145]および同公報の実施例の記載、ならびに特開2007−294084号公報段落[0024]〜[0039]、[0068]〜[0116]および同公報の実施例の記載を参照できる。特に、上記磁性粉末を高度に分散させ優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得るためには、特開2007−294084号公報段落[0024]〜[0029]に記載の技術を適用することが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の具体的実施例および比較例を挙げるが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下において「部」は、質量部を示す。
【0032】
1.磁気記録用磁性粉の実施例、比較例
【0033】
[実施例1〜5、比較例1〜7]
下記表1記載のバリウムフェライト(以下、「BaFe」と記載する。フェライト組成はBaFe1219)を反応炉内で、純水素ガス気流中で加熱処理した。還元処理中、反応炉のガス流入口から純水素ガス気流ガス気流を常時流入させつつ排気口から反応後のガスを排出した。反応炉としては、アルバック理工製ゴールドイメージ炉(P810C)を用い、昇温速度150℃/minで表2に示す加熱処理温度まで昇温し、該温度で表2に示す時間加熱処理を行い、その後、降温速度20℃/minで炉内を40℃まで冷却した後、空気を導入した。その後、温度が数度上昇した後、室温まで冷却した。
【0034】
評価方法
(1)比表面積SBET
表1記載のSBETの測定は、窒素吸着法により行った。
(2)粒子サイズ(TEM観察による平均板径、平均板厚、平均粒子体積)の評価
表1記載の粒子サイズの測定は、HITACHI製の透過型電子顕微鏡(印加電圧200kV)により行った。
(3)磁気特性
原料BaFe(比較例5)および実施例1〜5、比較例1〜4、6、7で作製した磁性粉の磁気特性を、玉川製作所製超電導振動式磁力計(VSM)を使用し、印加磁場3184kA/m(40kOe)の条件で評価した。結果を表3に示す。
(4)Dc、Dtemの測定
Dtemは、前記した方法により求めた。
Dcは、X線回折装置により求められる(220)面の回折ピークからシェラーの式により求めた。なお(220)面の回折ピークは、測定原理上、単独のピークとなるため、当該ピークから結晶子サイズを求めることができる。
また、得られたX線回折分析結果よりブラッグの式を用いてa軸、c軸の格子定数を求めた。
以上の方法により、実施例1〜5、比較例1〜4、および原料BaFe(比較例5)について得られたDc、Dc/Dtem、およびa軸、c軸の格子定数を表2に示す。
(5)磁化の時間減衰の傾き
原料BaFe(比較例5)および実施例1〜5、比較例3、4で作製した磁性粉について、超電導電磁石式振動試料型磁力計(玉川製作所製TM−VSM1450−SM型)を用いて、次の手順で、磁気記録媒体の保存時に受ける反磁界相当の反磁界400Oe(≒32kA/m)と600Oe(≒48kA/m)の磁化の時間減衰の傾きを求めた。測定では、サンプルとしては磁性粉体0.1gを測定ホルダーに圧密したものを用いた。なお、比較例1、2で作製した磁性粒子は、下記表3に示すように保磁力が著しく低く他の磁性粉と対等に比較することができないため測定対象から除外した。
測定方法
熱揺らぎ磁気余効の場合、磁化の時間減衰においてΔM/(lnt1−lnt2)は一定となる。磁化は磁場によっても変化することから、磁場一定にした後の磁化を時間毎に測定することによって磁化の時間減衰の傾きを求めた。
具体的には、サンプルに40kOe(≒3200kA/m)の外部磁場をかけ、直流消磁した後、磁石を電流値制御とし目標の反磁界を発生させる電流を供給し、目標の反磁界に外部磁場を漸近させた。これは、外部磁場が変動することにより安定化処理がなされ、磁化の時間減衰が見かけ小さくなることを防ぐためである。
磁場が目標値に達した時間を零とし、1分毎に磁化を25分間測定し、磁化の時間減衰の傾きΔM/(lnt1−lnt2)を求めた。結果を表3に示す。なお、表3にはΔM/(lnt1−lnt2)を40kOeの外部磁場における磁化で割り規格化した値を示す。
(6)α−Feの検出
実施例1〜5、比較例1〜4、6、7で作製した磁性粉を構成する磁性粒子、および原料BaFe(比較例5)について、X線回折装置により表面組成分析を行ったところ、実施例1〜5、比較例1〜5ではX線回折スペクトルに、CuKα線で2θ=45°のα−Feのピークは見られなかった。これに対し比較例6、7ではX線回折スペクトルに上記のα−Feのピークが確認された。このようにα−Feのピークが確認されるほど還元処理が進行した六方晶フェライト磁性粒子は、下記表3に示すように保磁力の著しい低下が見られ、また表2に示すように還元処理が進行するほどDc/Dtemは低下することから、Dc/Dtemは0.75を明らかに下回るものとなっている。
なお上記X線回折分析において、原料BaFe(比較例5)および還元処理を施し作製した実施例、比較例の磁性粉において六方晶フェライトを示すパターンが確認された。この結果から、還元処理により得られた磁性粒子において、六方晶フェライトの結晶構造が維持されていることが確認された。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
表3中、Dc/Dtemが0.75を下回る磁性粒子からなる比較例1、比較例2の磁性粉は、原料BaFeから保磁力が著しく低下し、磁気記録用磁性粉として使用することは困難である。
また、Dc/Dtemが0.90を超える比較例3、4では、還元処理が不十分であるため、原料BaFeから磁気特性は何ら変化せず、飽和磁化を高感度ヘッドを使用する記録再生システムに適する範囲に制御することはできなかった。
これに対し、Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲となるように六方晶フェライト磁性粒子に還元処理を施し得られた磁性粒子からなる実施例1〜5の磁性粉は、原料BaFeから飽和磁化を低下させ、高感度ヘッドを使用する記録再生システムに適する範囲に制御することができた。また、比較例1、2のような保磁力の著しい低下はなく、磁気記録に好適な保磁力を有する磁性粉が得られたことも確認できる。なお実施例1〜5では、原料BaFe(比較例5)に対してa軸、c軸の格子定数が若干増加している。これは、粒子表面が還元分解されバリウムフェライト粒子が実質的に小さくなる結果、構造緩和により格子定数が大きくなったことによるものと考えられる。
磁性粉の熱的安定性については、前記した方法により測定される磁化の時間減衰の傾きは、磁性粉の熱的安定性を示す指標である。記録の保持性の点からは、上記方法により測定される磁化の時間減衰の傾きが0.0050(1/ln(s))以下である磁性粒子が好ましく、0.0030(1/ln(s))以下である磁性粒子がより好ましい。表3に示したように実施例1〜5の磁性粉の磁化の時間減衰の傾きが上記好ましい範囲内であったことから、これら実施例では還元処理によっても、原料BaFeの高い熱的安定性が損なわれず良好に維持されていることが確認できる。磁気記録媒体の磁性層に含まれる磁性粒子が熱的安定性に劣るものであると、磁性粒子が磁化方向を保とうとするエネルギー(磁気エネルギー)が熱エネルギーに抗することが困難となり、記録された信号が経時的に減衰(磁化減衰)して再生信号の信頼性が低下してしまう。したがって磁気記録媒体の信頼性を高めるためには、記録された信号を大きく減衰させずに保持し得る高い熱的安定性を有する磁性粒子を使用することが求められる。上記傾きが小さいほど記録の保持性の点から好ましいため、最も好ましい下限値は0.000(1/ln(s))であるが、0.0010(1/ln(s))以上であっても、通常の使用環境では実用上十分な記録の保持性を有すると言える。
【0039】
上記の磁化の時間減衰の傾きは、磁性粉の熱的安定性の指標であるが、温度を上下させることで上記傾きが大きくなることがある。これは、温度を上昇させることにより磁性体内の一部のスピンが反転し、その分、減磁界が増えることによるものと考えられる。温度を上下させることで傾きが大きくなること、即ち熱的安定性が低下することは好ましくない。そこで、長期にわたり高い熱的安定性を有することを評価するために、以下の方法により実施例1〜5の磁性粉を評価した。以下の方法で測定される減磁率の差(B−A)が好ましくは0.0001〜0.0050、より好ましくは0.0001〜0.0025の範囲であれば、長期にわたり優れた熱的安定性を有し、保存時に温度変化が起こったとしても記録を良好に保持可能であると判断することができる。
測定方法
温度300Kで外部磁場40,000Oe(≒3184kA/m)で磁化を飽和させ、その後、外部磁場を−600Oe(≒−48kA/m)にし、減磁界が600Oe(≒48kA/m)になった時を時間(外部磁場を−600Oeにしてから20分後)の基準とし、減磁率A(decay rate A)を評価した。
その後、上記減磁率Aを測定した磁性粒子を昇温速度5℃/分で320Kまで昇温し、該温度(320K)で10分間保持した後、降温速度5℃/分で300Kまで降温した。その後、上記と同様、温度300Kで外部磁場40,000Oe(≒3184kA/m)で磁化を飽和させた後、外部磁場を−600Oe(≒−48kA/m)にし、減磁界が600Oe(≒48kA/m)になった時を時間の基準とし、減磁率B(decay rate B)を評価した。
得られた結果を、表4に示す。表4に示すように、実施例1〜5で得られた磁性粉は、減磁率の差(B−A)が上記好ましい範囲内であったことから、長期にわたり優れた熱的安定性を有することが確認できる。
【0040】
【表4】

【0041】
2.磁気記録媒体の実施例、比較例
【0042】
[実施例6〜8]
(1)磁性層塗布液処方
表5記載の磁性粉 100部
ポリウレタン樹脂 15部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=400eq/ton
α−Al23(粒子サイズ0.15μm) 4部
板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm) 0.5部
ダイヤモンド粉末(平均粒径:60nm) 0.5部
カーボンブラック(粒子サイズ 20nm) 1部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0043】
(2)非磁性層塗布液処方
非磁性無機質粉体 85部
α−酸化鉄
表面処理剤:Al23、SiO2
長軸径:0.15μm
タップ密度:0.8
針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH8
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 15部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂 22部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=200eq/ton
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0044】
(3)バックコ−ト層塗布液処方
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 40.5部
カーボンブラック(平均粒径:370nm) 0.5部
硫酸バリウム 4.05部
ニトロセルロース 28部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有) 20部
シクロヘキサノン 100部
トルエン 100部
メチルエチルケトン 100部
【0045】
(4)各層形成用塗布液の調製
上記処方の磁性層塗布液、非磁性層塗布液、バックコート層塗布液のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで240分間混練した後、ビ−ズミルで分散した(磁性層塗布液は1440分、非磁性層塗布液は720分、バックコート層塗布液は720時間)。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製コロネート3041)をそれぞれ4部加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過した。その後、磁性層塗布液に対して、日立ハイテク製 冷却遠心分離機 himac CR−21Dで回転数10000rpnmとして30分間、遠心分離処理を行い、凝集物を除去する分級処理を行った。
【0046】
(5)磁気テープの作製
得られた非磁性層塗布液を乾燥後の厚さが1.5μmになるように、厚さ5μmのPEN支持体(WYKO社製HD2000で測定した平均表面粗さRa=1.5nm)上に塗布した後、100℃で乾燥させて非磁性層を形成した。非磁性層を形成した支持体原反に70℃24時間の熱処理を施した後、上記分級処理後の磁性層塗布液を、乾燥後に20nmの厚さとなるように非磁性層上にウェットオンドライ塗布した後、100℃で乾燥させた。磁性層を設けた面と反対の支持体表面に、バックコート層塗布液を塗布、乾燥させて厚さ0.5μmのバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧350kg/cm、温度100℃で表面平滑化処理を行った後、1/2インチ幅にスリットして磁気テ−プを作製した。
【0047】
[比較例8]
磁性粉として、上記1.(磁性粉の実施例、比較例)で用いた原料BaFeを使用した点を除き、実施例6〜8と同様の方法で磁気テープを得た。
【0048】
(6)磁気テープの評価
(6−1)保磁力
玉川製作所製超電導振動式磁力計(VSM)を使用し、印加磁場3184kA/m(40kOe)の条件で評価した。
(6−2)電磁変換特性(ORC、SNR)
ドラムテスター(相対速度5m/sec)を用いて、以下の方法で電磁変換特性の測定を行った。
1)ORC
Bs=1.6T Gap長0.2μmのライトヘッドを用い、線記録密度275kFCIの信号を記録し、GMRヘッド(Tw幅 3μm、sh−sh=0.18μm)で再生した。このとき、記録電流を変えながら、出力が最大になる電流を最適記録電流(ORC)とした。
2)SNR
上記1)記載の条件下、上記1)で求めた最適記録電流で信号を記録再生し275kFCIの出力と0〜2×275kFCIの積分ノイズの比を測定した。
【0049】
以上の結果を、表5に示す。表5に示すSNRは、比較例8の磁気テープの測定値を基準とした相対値で表した。
【0050】
【表5】

【0051】
先に表3および表4に示したように、実施例3〜5の磁性粉は高い熱的安定性を有するものであった。これら磁性粉を用いて作製された実施例6〜8の磁気テープは、表5に示すように、原料BaFeを用いて作製された比較例6の磁気テープと比べて、より少ない記録電流で高いSNRを示すものであった。
【0052】
以上の結果から、本発明によれば、高い熱的安定性と優れた記録性を兼ね備えた磁性粉を提供できること、および、かかる磁性粉を用いることにより高い信頼性と優れた記録性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供できること、が示された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の磁性粉は塗布型磁気記録媒体用として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子の集合体からなる磁気記録用磁性粉であって、
前記磁性粒子は、六方晶フェライト磁性粒子の還元処理物であって、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲であることを特徴とする磁気記録用磁性粉。
【請求項2】
前記六方晶フェライト磁性粒子は、一般式:AFe1219[Aは、Ba、Sr、PbおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素]で表される組成を有する、請求項1に記載の磁気記録用磁性粉。
【請求項3】
45A・m2/kg未満の飽和磁化を有する、請求項1または2に記載の磁気記録用磁性粉。
【請求項4】
120kA/m以上230kA/m以下の保磁力を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉。
【請求項5】
磁化の時間減衰の傾きが0.0050(1/ln(s))以下となる熱的安定性を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉。
【請求項6】
下記減磁率Aと減磁率Bとの差(B−A)が0.0001〜0.0050の範囲となる熱的安定性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉。
減磁率A:温度300Kで外部磁場40,000Oe(≒3184kA/m)で磁化を飽和させ、その後、外部磁場を−600Oe(≒−48kA/m)にし、減磁界が600Oe(≒48kA/m)になった時を時間の基準として測定される減磁率。
減磁率B:上記減磁率Aを測定した磁性粉を昇温速度5℃/分で320Kまで昇温し、該温度で10分間保持した後、降温速度5℃/分で300Kまで降温した後、上記減磁率測定と同じ方法で測定した減磁率。
【請求項7】
還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性粒子に加熱処理を施すことにより該六方晶フェライト磁性粒子の一部を還元することによって、透過型電子顕微鏡により求められる(220)面に垂直な方向における粒子径Dtemと、(220)面の回折ピークから求められる結晶子サイズDcとの比Dc/Dtemが0.90〜0.75の範囲である磁性粒子の集合体からなる磁性粉を得ることを特徴とする、磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項8】
還元性雰囲気中での加熱温度が100〜200℃の範囲であり、かつ加熱時間が5〜30分間の範囲である、請求項7に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項9】
前記加熱処理を施される六方晶フェライト磁性粒子は、一般式:AFe1219[Aは、Ba、Sr、PbおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素]で表される組成を有する、請求項7または8に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項10】
前記加熱処理を施される六方晶フェライト磁性粒子の飽和磁化は45A・m2/kg以上である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項11】
前記加熱処理を施される六方晶フェライト磁性粒子の保磁力は235kA/m以上である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項12】
前記還元性雰囲気は水素雰囲気である、請求項7〜11のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項13】
非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉であることを特徴とする磁気記録媒体。

【公開番号】特開2012−169026(P2012−169026A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206805(P2011−206805)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】