磁気記録装置及び磁気ヘッド
【課題】主磁極の残留磁化成分によって生じるポールイレーズを回避でき、従来に比べてより一層の高密度記録が可能な磁気ヘッド、及びその磁気ヘッドを備えた磁気記録装置を提供する。
【解決手段】磁気ヘッド13は、再生ヘッド20と記録ヘッド30とを積層した構造を有している。記録ヘッド30は、主磁極32と、リターンヨーク33と、コイル34とにより構成されている。主磁極32は、FeRhのように加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、FeCoのように加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層して形成されている。主磁極32の近傍には発熱体36が配置され、この発熱体36によりデータ記録時に主磁極32が加熱される。
【解決手段】磁気ヘッド13は、再生ヘッド20と記録ヘッド30とを積層した構造を有している。記録ヘッド30は、主磁極32と、リターンヨーク33と、コイル34とにより構成されている。主磁極32は、FeRhのように加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、FeCoのように加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層して形成されている。主磁極32の近傍には発熱体36が配置され、この発熱体36によりデータ記録時に主磁極32が加熱される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体にデータを記録する磁気記録装置及びその磁気記録装置に使用する磁気ヘッドに関し、特にポールイレーズによるデータの消失を回避できる磁気記録装置及び磁気ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化社会の発展にともない、磁気記録装置(ハードディスク装置)のより一層の大容量化が要求されている。従来は、磁気記録媒体(磁気ディスク)の表面を水平方向(媒体表面に平行な方向)に磁化する水平磁気記録方式の磁気記録装置が一般的であった。しかし、磁気記録装置のより一層の大容量化の要求に答えるべく磁気記録媒体の表面を垂直方向に磁化する垂直磁気記録方式の磁気記録装置が開発され、現在では一般的に使用されるようになってきた。
【0003】
垂直磁気記録方式の磁気記録装置では、記録ヘッドとしていわゆる単磁極ヘッドが使用されている。単磁極ヘッドは、記録すべきデータに応じた電流が供給されるコイルと、コイルに供給された電流により磁気記録媒体に向けて垂直方向に磁力線を発生する狭幅の主磁極と、主磁極から放出された磁力線が戻る広幅のリターンヨークとにより構成されている。
【0004】
磁気記録装置のより一層の大容量化を実現するには、磁気記録媒体の記録密度を更に向上させることが必要である。そのためには、保磁力の大きな記録層を有する磁気記録媒体と、磁気記録媒体に高密度にデータの書き込みが可能な磁気ヘッド(記録ヘッド)とが必要である。磁気ヘッドは、磁気記録媒体の狭トラック化に対応するために大きな磁界を発生する必要があり、そのために主磁極には飽和磁束密度(Bs)が高い磁性材料(以下、「高Bs磁性材料」ともいう)が用いられている。
【0005】
特許文献1には、垂直磁界の強度を確保して記録性能を向上させるために、主磁極の端面形状をT字形とした磁気ヘッドが記載されている。
【特許文献1】特開2003−242608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高Bs磁性材料により形成された主磁極を有する磁気ヘッドには、以下に示す問題点がある。すなわち、高Bs磁性材料は一般的に軟磁気特性が悪く、残留磁化成分が大きい。そのため、高Bs磁性材料により形成された主磁極では、コイルに電流が流れていない状態でも磁力線が発生し、磁気記憶媒体に記憶されているデータを消去してしまうことがある。この現象はポールイレーズと呼ばれる。ポールイレーズは、主磁極を構成する磁性材料の特性によるものであるので、特許文献1のように単に主磁極の形状を変えるだけではポールイレーズを防止することはできない。
【0007】
以上から、本発明の目的は、主磁極の残留磁化成分によって生じるポールイレーズを回避でき、従来に比べてより一層の高密度記録が可能な磁気ヘッド、及びその磁気ヘッドを備えた磁気記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、磁気記録媒体にデータを書き込む磁気ヘッドにおいて、前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、前記主磁極を加熱する加熱部とを有すること磁気ヘッドが提供される。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、磁気記憶媒体と、前記磁気記憶媒体を回転する磁気記憶媒体回転手段と、前記磁気記憶媒体にデータを書き込む磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを支持するアームと、前記アームを駆動して前記磁気ヘッドを前記磁気記憶媒体の表面に沿って移動させるアーム駆動手段と、前記磁気記憶媒体回転手段及び前記アーム駆動手段を制御するとともに、前記磁気ヘッドを介して前記磁気記憶媒体に対しデータの記録及び再生を行う制御回路部とを有し、前記磁気ヘッドは、前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、前記主磁極を加熱する加熱部とにより構成されている磁気記録装置が提供される。
【0010】
本発明においては、主磁極が、例えばFeRh又はFeRhIrのように加熱により磁気特性が増大する材料を含んで構成され、加熱前は媒体の磁化を反転させない磁界強度であり、加熱により媒体の磁化を反転させる磁界強度となる温度特性を有している。従って、データ書き込み時に加熱部により主磁極を加熱すると、主磁極から強力な磁力線が放出され、磁気記録媒体に高密度にデータを記録することができる。また、データ書き込み時以外のときには前記加熱部による加熱を停止することにより、主磁極の磁化がほぼ0となり、ポールイレーズによるデータの消失が防止される。
【0011】
主磁極は、加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層した構造としてもよい。これにより、加熱により磁気特性が増大する材料のみで構成した場合に比べて大きな磁化が得られ、より一層の高密度記録に対応することができる。また、主磁極の温度を検出する温度検出部を備え、温度検出部の出力により加熱部を制御して主磁極の温度を管理することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気記録装置(ハードディスク装置)の構造を示す平面図である。
【0014】
磁気記録装置10は、筐体11と、その筐体11内に配置された円盤状の磁気記録媒体(磁気ディスク)12と、磁気記録媒体12を回転させるスピンドルモータ(図示せず)と、磁気ヘッド13を支持するアーム14と、アーム14を駆動するボイスコイルモータ(図示せず)と、スピンドルモータ及びボイスコイルモータを制御するとともに磁気ヘッド13を介して磁気記録媒体12に対しデータの書き込み及び読み出しを行う制御回路部16とにより構成されている。
【0015】
磁気記録媒体12は、その中心部がスピンドルモータの回転軸12aに連結されており、回転軸12aを中心として高速で回転する。また、アーム14は、ボイスコイルモータの駆動軸14aに連結されており、駆動軸14aを中心として一定の角度範囲を回転する。このアーム14の先端部には板バネ状のサスペンション15が設けられており、サスペンション15の先端部の磁気記録媒体12側の面には磁気ヘッド13が搭載されている。磁気ヘッド13は、スライダーと呼ばれるほぼ直方体の形状の部材と、スライダーの端面に配置された再生ヘッド(磁気抵抗素子等)及び記録ヘッド(インダクティブヘッド)とにより構成されている。
【0016】
この図1に示すように構成された磁気記録装置10において、スピンドルモータにより磁気記録媒体12が高速で回転すると、磁気記録媒体12の回転によって生じる空気流により磁気ヘッド13は磁気記録媒体12から若干浮上する。制御回路部16は、ボイスコイルモータを制御してアーム14を駆動し、磁気ヘッド13を磁気記録媒体12の半径方向の所定の位置に移動させてデータの書き込み又は読み出しを行う。
【0017】
図2は、磁気ヘッド13の概略構成を示す模式図である。なお、図2において紙面下側が磁気記録媒体12に対向する面(浮上面:以下、「ABS面」ともいう)である。また、図2中の白抜き矢印は、磁気記録媒体12の移動方向を示している。
【0018】
この図2に示すように、磁気ヘッド13は、図示しない基板(スライダー)の端面上に、再生ヘッド20と、記録ヘッド30とを積層した構造を有している。再生ヘッド20は、磁気シールド層21,23の間に磁気抵抗素子22を配置した構造を有している。磁気抵抗素子22としては、例えばMR(Magneto Resistive)素子、GMR(Giant Magneto Resistive)素子又はTMR(Tunneling MagnetoResistive)素子等が使用される。
【0019】
一方、記録ヘッド30は、磁気シールド層31と、主磁極32と、リターンヨーク33と、コイル34とにより構成されている。磁気シールド層31及びリターンヨーク33はFeNi合金等の磁性材料により形成され、主磁極32のABS面と反対側の端部に接続されている。そして、主磁極32と磁気シールド層31との間及び主磁極32とリターンヨーク33との間にそれぞれ渦巻状のコイル34が配置されている。また、リターンヨーク33の端部にはトレーシングシールド35が設けられている。このトレーシングシールド35には、主磁極32で発生する不要な磁界を吸収して記録磁界分布を急峻にするという作用がある。
【0020】
主磁極32の一方の面側には絶縁層(図示せず)を介して発熱体36が配置され、他方の面側には温度検出器(温度センサ)37が配置されている。温度検出器37は、例えば異なる金属線の接合部を感熱部とする熱電対により構成されている。
【0021】
図3は主磁極32を磁気記録媒体12側から見た平面図である。この図3中の白抜き矢印は、磁気記録媒体12の移動方向を示している。
【0022】
図3に示すように、主磁極32は台形形状であり、狭幅の辺b側がFeRh層32a、広幅の辺a側がFeCo層32bの2層構造を有している。幅広の辺aの長さは例えば50〜100nmであり、狭幅の辺bの長さは例えば20〜50nmである。
【0023】
FeRhは例えば100℃程度に加熱することで強磁性体としての性質を示して磁気特性が増大し、室温では反強磁性体としての性質を示す材料として知られている。このような材料としては、外にもFeRhIr等がある。FeRhを100℃に加熱したときの飽和磁束密度Bsは約1.7Tであり、室温のときの飽和磁束密度Bsはほぼ0である。一方、FeCoは高Bs磁性材料として知られている。FeCo層32bに替えて、FeCoB層、FeNi層、FeNiCo層又はFeZrN層等を形成してもよい。
【0024】
なお、本実施形態では主磁極32をFeRh層32aとFeCo層32bとの2層構造としているが、主磁極をFeRh(加熱により磁気特性が増大する材料)のみで構成してもよい。しかし、本実施形態のように主磁極32をFeRh層とFeCo層(加熱しないときに高Bsの磁性材料からなる層)との積層構造とすることにより、データ書き込み時により一層強力な磁界を発生させることができる。
【0025】
図4は、発熱体36を示す平面図である。この図4に示すように、発熱体36は、ジグザグに配置された抵抗発熱線42と、抵抗発熱線42の両端に接続された一対の電極41a,41bとにより構成されている。抵抗発熱線42は電流を流すと抵抗発熱する材料により形成すればよく、本実施形態では抵抗発熱配線42がNiCu合金からなるものとする。抵抗発熱配線42を構成するNiCu合金のCu含有率は10〜60原子%とすることが好ましく、25〜45原子%とすることがより一層好ましい。また、必要に応じてNiCu合金に、Ta,Al,Cr,Fe,Mo,Ru,Si,Pt,Ti,Au,Ag,Nb及びZrからなる群から選択された少なくとも一種の元素を添加してもよい。これらの添加元素の含有率は5%以下とすることが好ましい。抵抗発熱配線42の厚さ(NiCu膜の厚さ)は例えば10nm〜100nm程度とする。
【0026】
図5は、制御回路部16のうちデータの記録及び再生に関わる部分の回路を示すブロック図である。この図5に示すように、制御回路部16は、制御LSI(Large Scale Integration)51、ライトゲート52、ライト回路53、復調回路54、増幅器55、定電流源56及び発熱体制御回路57を有している。
【0027】
制御LSI51は、CPU(中央演算処理装置)等の外部装置(図示せず)に接続され、外部装置から磁気記録媒体12に記録すべき記録データを受信する。そして、制御LSI51は、外部装置から受信した記録データを、ライトゲート52を介してライト回路53に出力する。ライトゲート52は、制御LSI51から出力される記録制御信号に応じて、制御LSI51からライト回路53への信号の伝達の制御を行う。すなわち、ライトゲート52は、制御LSI51から出力される記録制御信号がアクティブのときは制御LSI51から出力される記録データをライト回路53に伝達し、記録制御信号が非アクティブのときは制御LSI51からライト回路53への記録データの伝達を遮断する。
【0028】
ライト回路53は、制御LSI51から送られてきた記録データに応じて書き込み電流を生成し、記録ヘッド30(より正確にはコイル34)に出力する。
【0029】
再生ヘッド20は、増幅器55及び定電流源56に接続されている。定電流源56は、制御LSI51から出力される再生制御信号に応じて再生ヘッド20に所定の電流を供給する。再生ヘッド20は、磁気記録媒体12からデータを読み出すときに磁気記録媒体12からの磁力線により抵抗値が変化し、その抵抗値の変化にともなって再生ヘッド20の両端子間の電圧が変化する。この電圧の変化が読み出し信号として増幅器55に入力される。増幅器55は、再生ヘッド20から入力した読み出し信号を増幅して復調回路54に出力する。復調回路54は、増幅器55から出力された信号を復調して再生データとし、制御LSI51に出力する。制御LSI51は、この再生データを外部装置に伝達する。
【0030】
また、制御LSI51は、記録ヘッド30を介して磁気記録媒体12にデータを記録する際に、発熱体制御回路57を制御して発熱体36に給電し、発熱体36を抵抗発熱させる。このとき制御LSI51は、温度検出器37から出力される信号により主磁極32の温度を検出し、その検出結果に応じて発熱体制御回路57を制御して、発熱体36の温度が約100℃になるようにする。更に、制御LSI51は、磁気記録媒体12へのデータの記録が完了した後、発熱体制御回路57を制御して発熱体36への電力供給を即時停止し、主磁極32の温度をほぼ室温まで低下させる。
【0031】
図6は、発熱体制御回路57の構成を示すブロック図である。この図6に示すように、発熱体制御回路57は、スイッチングトランジスタ61と、直流定電圧回路62と、可変抵抗器63と、D/A(デジタル/アナログ)変換器64とにより構成されている。
【0032】
スイッチングトランジスタ61は、制御LSI51から出力される発熱体オン/オフ信号によりオン/オフする。スイッチングトランジスタ61がオン状態のときには直流定電圧回路62から出力される電圧がスイッチングトランジスタ61及び可変抵抗器62を介して発熱体36に供給され、発熱体36が発熱する。一方、スイッチングトランジスタ61がオフ状態のときは、直流定電圧回路62と発熱体36との間が電気的に遮断される。
【0033】
D/A変換器64は、制御LSI51から出力されるデジタルの発熱体電流値制御信号をD/A(デジタル/アナログ)変換し、アナログ信号を出力する。可変抵抗器63は、D/A変換器64から出力されるアナログ信号の電圧に応じて抵抗値が決定され、その結果発熱体36に流れる電流量が決まり、主磁極32の温度が決定される。
【0034】
図7は、本実施形態に係る磁気記録装置のデータ記録時(書き込み時)の動作を示すフローチャートである。まず、ステップS11において、磁気記録媒体12にデータを書き込むか否かを判定する。データを書き込む場合(YESの場合)は、ステップS12に移行して発熱体36への給電を開始する。その後、ステップS13において、温度検出器37により主磁極32の温度を検出し、ステップS14において主磁極32の温度が約100℃になるように発熱体36への給電量を調整する。
【0035】
次に、ステップS15に移行し、ライト回路53を介して磁気ヘッド(記録ヘッド30)に書き込み電流を供給し、磁気記録媒体12にデータを書き込む。その後、ステップS16においてデータの書き込みを終了するか否かを判定する。書き込むべきデータが更にある場合(NOの場合)は、ステップS13に戻り、主磁極32の温度を制御しながら磁気記録媒体12に更にデータを書き込む。
【0036】
一方、ステップS16でデータの書き込みを終了すると判定した場合(YESの場合)は、ステップS17に移行し、発熱体36への給電を停止する。これにより、主磁極32の温度は室温まで低下する。
【0037】
図8は、横軸に温度をとり、縦軸に磁化をとって、FeRhの磁化の温度依存性を示す図である。この図8に示すように、FeRhは室温では磁化が0となって反強磁性を示し、温度が約80℃以上になると強磁性を示して大きな磁化をもつ。例えば、100℃〜300℃の温度範囲では、磁化が1000emu/cc以上となる。また、温度が約440℃以上になると再び磁化が0となる。
【0038】
本実施形態では、前述したように磁気記録媒体12にデータを記録するときにはFeRhにより構成される主磁極32の温度を約100℃まで加熱するので、主磁極32が強磁性を示し、強力な磁力線を発生する。これにより、磁気記録媒体12に高密度にデータを記録することが可能になる。また、本実施形態では、磁気記録媒体12へのデータの書き込みが終了した後は発熱体36への給電を停止し、主磁極32の温度を室温まで低下させる。これにより、主磁極32の残留磁化によるポールイレーズの発生が回避され、データ信頼性が向上する。このように、本実施形態に係る磁気記録装置は、高密度記録と信頼性の向上とを両立させることができる。
【0039】
なお、発熱体36に供給する電流は直流電流でもよいが、磁気記録媒体12に記録するデータに応じた周波数の交流電流としてもよい。発熱体36に、記録データに応じた周波数の交流電流を供給する場合について、以下に説明する。
【0040】
図9は、記録ヘッド30のコイル34に供給される電流(書き込み電流)と発熱体36に供給される電流(発熱体への電流)の位相を示すタイムチャートである。この図9に示すように、ライトゲート52がオンになって記録ヘッド30に書き込み電流が供給されている間、発熱体36には書き込み電流と逆位相の電流を供給する。図2からわかるようにコイル34と発熱体36とは近接しているため、書き込み電流に対し逆位相の電流を発熱体36に供給することにより、書き込み電流により発生する高周波の磁束を随時打ち消す向きの高周波の磁束が発生する。この逆位相の電流によって磁気記録媒体12の軟磁性裏打層の位置においてもそれぞれの磁束が打ち消し合う方向に働いて、軟磁性裏打層における不要な磁区構造の形成が回避されるとともに、広域イレーズ(WATER:Wide Area Track ERasure)の原因となる磁界の発生が防止される。
【0041】
この逆位相の電流の振幅は、発熱体36を発熱させるのに必要な電力量から決定される。また、この逆位相の電流の振幅は、書き込み電流による書き込み磁界の影響を考慮して、書き込み電流によって発生する磁界の振幅よりも小さくすることが好ましい。
【0042】
図10(a),(b)は、本実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法の一例を示す模式図である。
【0043】
まず、図10(a)に示す構造を形成するまでの工程を説明する。アルチック(AlTiC)等からなる基板71の上側全面に、例えばアルミナ(Al2O3)等の絶縁材料により絶縁層72を形成する。その後、絶縁層72の上に例えばめっき法によりFeNi等の磁性材料からなる磁気シールド層73(図2の磁気シールド層21に対応)を所定の大きさに形成する。磁気シールド層73は、上述のFeNi以外の磁性材料、例えばFeNiCo、FeCo、FeZrN又はCoZrNbにより形成してもよい。他の磁気シールド層についても同様である。
【0044】
次に、例えばスパッタリング法によって磁気シールド層73の上にアルミナ等の絶縁材料によりシールドギャップ層74を所定の厚さに形成する。その後、シールドギャップ層74の上に、磁気抵抗素子75(図2の磁気抵抗素子22に対応)を形成する。磁気抵抗素子75としてMR素子を使用する場合は、例えば厚さが20nmのNiFeCrからなるSAL(Soft Adjacent layer)層と、厚さが10nmのTa等からなる非磁性層と、厚さが20nmのNiFe等からなるMR層とを積層して構成される。これらのSAL層、非磁性層及びMR層はスパッタリング法により形成され、フォトリソグラフィ法及びエッチング法により所定の形状にパターニングされて磁気抵抗素子75となる。磁気抵抗素子75としてGMR素子又はTMR素子を採用してもよい。
【0045】
次に、例えばスパッタリング法により、基板71の上側にアルミナ等の絶縁材料からなるシールドギャップ層76を形成し、このシールドギャップ層76により磁気抵抗素子75を被覆する。そして、例えばめっき法により、シールドギャップ層76の上にFeNi等の磁性材料からなる磁気シールド層77(図2の磁気シールド層23に対応)を所定の大きさに形成する。
【0046】
次に、磁気シールド層77の上に、例えばスパッタリング法により、アルミナ等の絶縁材料からなるシールドギャップ層78を所定の厚さに形成する。そして、このシールドギャップ層78の上に、例えばめっき法により、FeNi等の磁性材料からなる磁気シールド層79(図2の磁気シールド層31に対応)を所定の大きさに形成する。その後、基板71の上側全面に例えばアルミナからなる平坦化層80を形成し、表面を平坦化する。
【0047】
次に、図10(b)に示す構造を形成するまでの工程を説明する。上述したようにして平坦化層80を形成した後、基板71の上側全面に例えばスパッタリング法によりアルミナ等からなる絶縁層81を所定の厚さに形成する。その後、絶縁層81の上に例えばアルミニウム合金からなる金属膜を形成し、フォトリソグラフィ法及びエッチング法により金属膜を所定の形状にパターニングしてコイル82(図2の磁気シールド層31側のコイル34に対応)を形成する。その後、基板71の上側に例えばアルミナ等により絶縁層83を形成し、この絶縁層83によりコイル82を被覆する。
【0048】
次に、絶縁層83の上に、例えばスパッタリング法によりNiCu膜を形成し、このNiCu膜をフォトリソグラフィ法及びエッチング法により所定の形状にパターニングして発熱体84(図2の発熱体36に対応)を形成する。その後、基板71の上側に発熱体84を被覆する絶縁層85をアルミナ等により形成する。
【0049】
次に、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いて絶縁層85の表面からシールド層70に到達する開口部を形成し、この開口部内に例えばFeNi等の磁性材料を充填してコンタクト部86aを形成する。その後、絶縁層85及びコンタクト部86の上に、FeRh層とFeCu層との2層構造の主磁極87(図2の主磁極32に対応)を形成する。
【0050】
図11(a)〜(d)は、主磁極87の形成方法をより詳細に示す模式図である。まず、図11(a)に示すように、絶縁層85の上にフォトレジストを塗布してレジスト膜88を形成する。そして、このレジスト膜88を露光及び現像処理して、所望の形状の開口部88aを形成する。この場合、露光条件及び現像条件を適切に設定し、開口部88aの断面形状が図11(a)に示すように逆台形となるようにする。
【0051】
次に、図11(b)に示すようにめっき法又はスパッタリング法により開口部88a内にFeRh層32aを所定の厚さに形成する。続いて、図11(c)に示すように、めっき法又はスパッタリング法によりFeRh層32aの上にFeCo層32bを所定の厚さに形成する。その後,図11(d)に示すように、レジスト膜88を除去する。このようにして、レジスト膜88の開口部88aに対応する形状の主磁極87が形成される。
【0052】
上述したようにして主磁極87を形成した後、基板71の上側に主磁極87を被覆する絶縁層(図示せず)を形成し、その上に温度検出器(図2の温度検出器37に対応)として熱電対(図示せず)を形成する。その後、基板71の上側に温度検出器を覆う絶縁層89を例えばアルミナにより形成する。
【0053】
次に、絶縁層89の上に例えばアルミニウム合金膜を形成し、このアルミニウム合金膜をパターニングしてコイル90(図2の主磁極33側のコイル34)を形成する。その後、基板71の上側に絶縁層91を形成し、この絶縁層91によりコイル90を被覆する。
【0054】
次に、絶縁層91の表面から主磁極87に到達する開口部を形成し、この開口部内に例えばFeNi等の磁性材料を充填してコンタクト部86bを形成する。その後、絶縁層91及びコンタクト部86bの上にFeNi等の磁性材料からなるリターンヨーク92(図2のリターンヨーク33に対応)を所定の大きさに形成する。
【0055】
次いで、基板71の上側全面に例えばアルミナからなるオーバーコート層93を形成し、表面を平坦化する。このようにして、本実施形態に係る磁気ヘッドが完成する。
【0056】
本実施形態に係る磁気ヘッドは、主磁極がFeRh層とFeCo層との積層構造を有しているので、データ記録時に磁気ヘッドを加熱することで高密度記録が可能になる。また、データ記録が終了した後は室温に戻す(加熱を停止する)ことで主磁極の残留磁化が殆ど0となり、ポールイレーズによるデータの消失が防止される。
【0057】
以下、本発明の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
【0058】
(付記1)磁気記録媒体にデータを書き込む磁気ヘッドにおいて、
前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、
加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、
前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、
前記主磁極を加熱する加熱部と
を有することを特徴とする磁気ヘッド。
【0059】
(付記2)前記主磁極が、前記加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層した構造を有することを特徴とする付記1に記載の磁気ヘッド。
【0060】
(付記3)前記加熱により磁気特性が増大する材料が、FeRh及びFeRhIrのいずれかであることを特徴とする付記1又は2に記載の磁気ヘッド。
【0061】
(付記4)前記加熱しないときに強磁性を示す材料が、FeCo、FeCoB、FeNi、FeNiCo及びFeZrNのうちのいずれかであることを特徴とする付記2に記載の磁気ヘッド。
【0062】
(付記5)更に、前記主磁極の温度を検出する温度検出部を有することを特徴とする付記1に記載の磁気ヘッド。
【0063】
(付記6)磁気記憶媒体と、
前記磁気記憶媒体を回転する磁気記憶媒体回転手段と、
前記磁気記憶媒体にデータを書き込む磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを支持するアームと、
前記アームを駆動して前記磁気ヘッドを前記磁気記憶媒体の表面に沿って移動させるアーム駆動手段と、
前記磁気記憶媒体回転手段及び前記アーム駆動手段を制御するとともに、前記磁気ヘッドを介して前記磁気記憶媒体に対しデータの記録及び再生を行う制御回路部とを有し、
前記磁気ヘッドは、前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、前記主磁極を加熱する加熱部とにより構成されていることを特徴とする磁気記録装置。
【0064】
(付記7)前記加熱部が、給電により発熱する発熱体からなることを特徴とする付記6に記載の磁気記録装置。
【0065】
(付記8)前記制御回路部は、データ記録時に前記磁気ヘッドの加熱部へ給電して前記主磁極を加熱し、それ以外のときには前記加熱部への給電を停止することを特徴とする付記7に記載の磁気記録装置。
【0066】
(付記9)前記加熱部には、前記コイルに供給される書き込み電流と逆位相の電流を供給することを特徴とする付記8に記載の磁気記録装置。
【0067】
(付記10)前記磁気ヘッド内に前記主磁極の温度を検出する温度検出部を有し、前記制御回路部は前記温度検出部の出力に応じて前記加熱部に供給する電流を制御することを特徴とする付記7に記載の磁気記録装置。
【0068】
(付記11)前記磁気ヘッドの前記主磁極が、前記加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層した構造を有することを特徴とする付記6に記載の磁気記録装置。
【0069】
(付記12)前記加熱により磁気特性が増大する材料が、FeRh及びFeRhIrのいずれかであることを特徴とする付記6に記載の磁気記録装置。
【0070】
(付記13)前記加熱しないときに強磁性を示す材料が、FeCo、FeCoB、FeNi、FeNiCo及びFeZrNのうちのいずれかであることを特徴とする付記11に記載の磁気記録装置。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る磁気記録装置(ハードディスク装置)の構造を示す平面図である。
【図2】図2は、磁気ヘッドの概略構成を示す模式図である。
【図3】図3は、主磁極を磁気記録媒体側から見た平面図である。
【図4】図4は、発熱体を示す平面図である。
【図5】図5は、制御回路部のうちデータの記録及び再生に関わる部分の回路を示すブロック図である。
【図6】図6は、発熱体制御回路の構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、実施形態に係る磁気記録装置のデータ記録時(書き込み時)の動作を示すフローチャートである。
【図8】図8は、FeRhの磁化の温度依存性を示す図である。
【図9】図9は、記録ヘッドのコイルに供給される電流(書き込み電流)と発熱体に供給される電流(発熱体への電流)の位相を示すタイムチャートである。
【図10】図10(a),(b)は、実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法の一例を示す模式図である。
【図11】図11(a)〜(d)は、主磁極の形成方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0072】
10…磁気記録装置、
11…筐体、
12…磁気記録媒体(磁気ディスク)、
13…磁気ヘッド、
14…アーム、
15…サスペンション、
16…制御回路部、
20…再生ヘッド、
21,23,31,73,77,79…磁気シールド層、
22,75…磁気抵抗素子、
30…記録ヘッド、
32,87…主磁極、
32a…FeRh層、
32b…FeCo層、
33,92…リターンヨーク、
34,82,90…コイル、
35…トレーシングシールド、
36,84…発熱体、
37…温度検出部、
41a,41b…電極、
42…抵抗発熱線、
51…制御LSI、
52…ライトゲート、
53…ライト回路、
54…復調回路、
55…増幅器、
56…定電流源、
57…発熱体制御回路、
61…スイッチングトランジスタ、
62…直流定電圧回路、
63…可変抵抗器、
64…D/A変換器、
71…基板、
72,81,83,85,89,91…絶縁層、
74,76,78…シールドギャップ層、
88…レジスト膜、
93…オーバーコート層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体にデータを記録する磁気記録装置及びその磁気記録装置に使用する磁気ヘッドに関し、特にポールイレーズによるデータの消失を回避できる磁気記録装置及び磁気ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化社会の発展にともない、磁気記録装置(ハードディスク装置)のより一層の大容量化が要求されている。従来は、磁気記録媒体(磁気ディスク)の表面を水平方向(媒体表面に平行な方向)に磁化する水平磁気記録方式の磁気記録装置が一般的であった。しかし、磁気記録装置のより一層の大容量化の要求に答えるべく磁気記録媒体の表面を垂直方向に磁化する垂直磁気記録方式の磁気記録装置が開発され、現在では一般的に使用されるようになってきた。
【0003】
垂直磁気記録方式の磁気記録装置では、記録ヘッドとしていわゆる単磁極ヘッドが使用されている。単磁極ヘッドは、記録すべきデータに応じた電流が供給されるコイルと、コイルに供給された電流により磁気記録媒体に向けて垂直方向に磁力線を発生する狭幅の主磁極と、主磁極から放出された磁力線が戻る広幅のリターンヨークとにより構成されている。
【0004】
磁気記録装置のより一層の大容量化を実現するには、磁気記録媒体の記録密度を更に向上させることが必要である。そのためには、保磁力の大きな記録層を有する磁気記録媒体と、磁気記録媒体に高密度にデータの書き込みが可能な磁気ヘッド(記録ヘッド)とが必要である。磁気ヘッドは、磁気記録媒体の狭トラック化に対応するために大きな磁界を発生する必要があり、そのために主磁極には飽和磁束密度(Bs)が高い磁性材料(以下、「高Bs磁性材料」ともいう)が用いられている。
【0005】
特許文献1には、垂直磁界の強度を確保して記録性能を向上させるために、主磁極の端面形状をT字形とした磁気ヘッドが記載されている。
【特許文献1】特開2003−242608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高Bs磁性材料により形成された主磁極を有する磁気ヘッドには、以下に示す問題点がある。すなわち、高Bs磁性材料は一般的に軟磁気特性が悪く、残留磁化成分が大きい。そのため、高Bs磁性材料により形成された主磁極では、コイルに電流が流れていない状態でも磁力線が発生し、磁気記憶媒体に記憶されているデータを消去してしまうことがある。この現象はポールイレーズと呼ばれる。ポールイレーズは、主磁極を構成する磁性材料の特性によるものであるので、特許文献1のように単に主磁極の形状を変えるだけではポールイレーズを防止することはできない。
【0007】
以上から、本発明の目的は、主磁極の残留磁化成分によって生じるポールイレーズを回避でき、従来に比べてより一層の高密度記録が可能な磁気ヘッド、及びその磁気ヘッドを備えた磁気記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、磁気記録媒体にデータを書き込む磁気ヘッドにおいて、前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、前記主磁極を加熱する加熱部とを有すること磁気ヘッドが提供される。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、磁気記憶媒体と、前記磁気記憶媒体を回転する磁気記憶媒体回転手段と、前記磁気記憶媒体にデータを書き込む磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを支持するアームと、前記アームを駆動して前記磁気ヘッドを前記磁気記憶媒体の表面に沿って移動させるアーム駆動手段と、前記磁気記憶媒体回転手段及び前記アーム駆動手段を制御するとともに、前記磁気ヘッドを介して前記磁気記憶媒体に対しデータの記録及び再生を行う制御回路部とを有し、前記磁気ヘッドは、前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、前記主磁極を加熱する加熱部とにより構成されている磁気記録装置が提供される。
【0010】
本発明においては、主磁極が、例えばFeRh又はFeRhIrのように加熱により磁気特性が増大する材料を含んで構成され、加熱前は媒体の磁化を反転させない磁界強度であり、加熱により媒体の磁化を反転させる磁界強度となる温度特性を有している。従って、データ書き込み時に加熱部により主磁極を加熱すると、主磁極から強力な磁力線が放出され、磁気記録媒体に高密度にデータを記録することができる。また、データ書き込み時以外のときには前記加熱部による加熱を停止することにより、主磁極の磁化がほぼ0となり、ポールイレーズによるデータの消失が防止される。
【0011】
主磁極は、加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層した構造としてもよい。これにより、加熱により磁気特性が増大する材料のみで構成した場合に比べて大きな磁化が得られ、より一層の高密度記録に対応することができる。また、主磁極の温度を検出する温度検出部を備え、温度検出部の出力により加熱部を制御して主磁極の温度を管理することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気記録装置(ハードディスク装置)の構造を示す平面図である。
【0014】
磁気記録装置10は、筐体11と、その筐体11内に配置された円盤状の磁気記録媒体(磁気ディスク)12と、磁気記録媒体12を回転させるスピンドルモータ(図示せず)と、磁気ヘッド13を支持するアーム14と、アーム14を駆動するボイスコイルモータ(図示せず)と、スピンドルモータ及びボイスコイルモータを制御するとともに磁気ヘッド13を介して磁気記録媒体12に対しデータの書き込み及び読み出しを行う制御回路部16とにより構成されている。
【0015】
磁気記録媒体12は、その中心部がスピンドルモータの回転軸12aに連結されており、回転軸12aを中心として高速で回転する。また、アーム14は、ボイスコイルモータの駆動軸14aに連結されており、駆動軸14aを中心として一定の角度範囲を回転する。このアーム14の先端部には板バネ状のサスペンション15が設けられており、サスペンション15の先端部の磁気記録媒体12側の面には磁気ヘッド13が搭載されている。磁気ヘッド13は、スライダーと呼ばれるほぼ直方体の形状の部材と、スライダーの端面に配置された再生ヘッド(磁気抵抗素子等)及び記録ヘッド(インダクティブヘッド)とにより構成されている。
【0016】
この図1に示すように構成された磁気記録装置10において、スピンドルモータにより磁気記録媒体12が高速で回転すると、磁気記録媒体12の回転によって生じる空気流により磁気ヘッド13は磁気記録媒体12から若干浮上する。制御回路部16は、ボイスコイルモータを制御してアーム14を駆動し、磁気ヘッド13を磁気記録媒体12の半径方向の所定の位置に移動させてデータの書き込み又は読み出しを行う。
【0017】
図2は、磁気ヘッド13の概略構成を示す模式図である。なお、図2において紙面下側が磁気記録媒体12に対向する面(浮上面:以下、「ABS面」ともいう)である。また、図2中の白抜き矢印は、磁気記録媒体12の移動方向を示している。
【0018】
この図2に示すように、磁気ヘッド13は、図示しない基板(スライダー)の端面上に、再生ヘッド20と、記録ヘッド30とを積層した構造を有している。再生ヘッド20は、磁気シールド層21,23の間に磁気抵抗素子22を配置した構造を有している。磁気抵抗素子22としては、例えばMR(Magneto Resistive)素子、GMR(Giant Magneto Resistive)素子又はTMR(Tunneling MagnetoResistive)素子等が使用される。
【0019】
一方、記録ヘッド30は、磁気シールド層31と、主磁極32と、リターンヨーク33と、コイル34とにより構成されている。磁気シールド層31及びリターンヨーク33はFeNi合金等の磁性材料により形成され、主磁極32のABS面と反対側の端部に接続されている。そして、主磁極32と磁気シールド層31との間及び主磁極32とリターンヨーク33との間にそれぞれ渦巻状のコイル34が配置されている。また、リターンヨーク33の端部にはトレーシングシールド35が設けられている。このトレーシングシールド35には、主磁極32で発生する不要な磁界を吸収して記録磁界分布を急峻にするという作用がある。
【0020】
主磁極32の一方の面側には絶縁層(図示せず)を介して発熱体36が配置され、他方の面側には温度検出器(温度センサ)37が配置されている。温度検出器37は、例えば異なる金属線の接合部を感熱部とする熱電対により構成されている。
【0021】
図3は主磁極32を磁気記録媒体12側から見た平面図である。この図3中の白抜き矢印は、磁気記録媒体12の移動方向を示している。
【0022】
図3に示すように、主磁極32は台形形状であり、狭幅の辺b側がFeRh層32a、広幅の辺a側がFeCo層32bの2層構造を有している。幅広の辺aの長さは例えば50〜100nmであり、狭幅の辺bの長さは例えば20〜50nmである。
【0023】
FeRhは例えば100℃程度に加熱することで強磁性体としての性質を示して磁気特性が増大し、室温では反強磁性体としての性質を示す材料として知られている。このような材料としては、外にもFeRhIr等がある。FeRhを100℃に加熱したときの飽和磁束密度Bsは約1.7Tであり、室温のときの飽和磁束密度Bsはほぼ0である。一方、FeCoは高Bs磁性材料として知られている。FeCo層32bに替えて、FeCoB層、FeNi層、FeNiCo層又はFeZrN層等を形成してもよい。
【0024】
なお、本実施形態では主磁極32をFeRh層32aとFeCo層32bとの2層構造としているが、主磁極をFeRh(加熱により磁気特性が増大する材料)のみで構成してもよい。しかし、本実施形態のように主磁極32をFeRh層とFeCo層(加熱しないときに高Bsの磁性材料からなる層)との積層構造とすることにより、データ書き込み時により一層強力な磁界を発生させることができる。
【0025】
図4は、発熱体36を示す平面図である。この図4に示すように、発熱体36は、ジグザグに配置された抵抗発熱線42と、抵抗発熱線42の両端に接続された一対の電極41a,41bとにより構成されている。抵抗発熱線42は電流を流すと抵抗発熱する材料により形成すればよく、本実施形態では抵抗発熱配線42がNiCu合金からなるものとする。抵抗発熱配線42を構成するNiCu合金のCu含有率は10〜60原子%とすることが好ましく、25〜45原子%とすることがより一層好ましい。また、必要に応じてNiCu合金に、Ta,Al,Cr,Fe,Mo,Ru,Si,Pt,Ti,Au,Ag,Nb及びZrからなる群から選択された少なくとも一種の元素を添加してもよい。これらの添加元素の含有率は5%以下とすることが好ましい。抵抗発熱配線42の厚さ(NiCu膜の厚さ)は例えば10nm〜100nm程度とする。
【0026】
図5は、制御回路部16のうちデータの記録及び再生に関わる部分の回路を示すブロック図である。この図5に示すように、制御回路部16は、制御LSI(Large Scale Integration)51、ライトゲート52、ライト回路53、復調回路54、増幅器55、定電流源56及び発熱体制御回路57を有している。
【0027】
制御LSI51は、CPU(中央演算処理装置)等の外部装置(図示せず)に接続され、外部装置から磁気記録媒体12に記録すべき記録データを受信する。そして、制御LSI51は、外部装置から受信した記録データを、ライトゲート52を介してライト回路53に出力する。ライトゲート52は、制御LSI51から出力される記録制御信号に応じて、制御LSI51からライト回路53への信号の伝達の制御を行う。すなわち、ライトゲート52は、制御LSI51から出力される記録制御信号がアクティブのときは制御LSI51から出力される記録データをライト回路53に伝達し、記録制御信号が非アクティブのときは制御LSI51からライト回路53への記録データの伝達を遮断する。
【0028】
ライト回路53は、制御LSI51から送られてきた記録データに応じて書き込み電流を生成し、記録ヘッド30(より正確にはコイル34)に出力する。
【0029】
再生ヘッド20は、増幅器55及び定電流源56に接続されている。定電流源56は、制御LSI51から出力される再生制御信号に応じて再生ヘッド20に所定の電流を供給する。再生ヘッド20は、磁気記録媒体12からデータを読み出すときに磁気記録媒体12からの磁力線により抵抗値が変化し、その抵抗値の変化にともなって再生ヘッド20の両端子間の電圧が変化する。この電圧の変化が読み出し信号として増幅器55に入力される。増幅器55は、再生ヘッド20から入力した読み出し信号を増幅して復調回路54に出力する。復調回路54は、増幅器55から出力された信号を復調して再生データとし、制御LSI51に出力する。制御LSI51は、この再生データを外部装置に伝達する。
【0030】
また、制御LSI51は、記録ヘッド30を介して磁気記録媒体12にデータを記録する際に、発熱体制御回路57を制御して発熱体36に給電し、発熱体36を抵抗発熱させる。このとき制御LSI51は、温度検出器37から出力される信号により主磁極32の温度を検出し、その検出結果に応じて発熱体制御回路57を制御して、発熱体36の温度が約100℃になるようにする。更に、制御LSI51は、磁気記録媒体12へのデータの記録が完了した後、発熱体制御回路57を制御して発熱体36への電力供給を即時停止し、主磁極32の温度をほぼ室温まで低下させる。
【0031】
図6は、発熱体制御回路57の構成を示すブロック図である。この図6に示すように、発熱体制御回路57は、スイッチングトランジスタ61と、直流定電圧回路62と、可変抵抗器63と、D/A(デジタル/アナログ)変換器64とにより構成されている。
【0032】
スイッチングトランジスタ61は、制御LSI51から出力される発熱体オン/オフ信号によりオン/オフする。スイッチングトランジスタ61がオン状態のときには直流定電圧回路62から出力される電圧がスイッチングトランジスタ61及び可変抵抗器62を介して発熱体36に供給され、発熱体36が発熱する。一方、スイッチングトランジスタ61がオフ状態のときは、直流定電圧回路62と発熱体36との間が電気的に遮断される。
【0033】
D/A変換器64は、制御LSI51から出力されるデジタルの発熱体電流値制御信号をD/A(デジタル/アナログ)変換し、アナログ信号を出力する。可変抵抗器63は、D/A変換器64から出力されるアナログ信号の電圧に応じて抵抗値が決定され、その結果発熱体36に流れる電流量が決まり、主磁極32の温度が決定される。
【0034】
図7は、本実施形態に係る磁気記録装置のデータ記録時(書き込み時)の動作を示すフローチャートである。まず、ステップS11において、磁気記録媒体12にデータを書き込むか否かを判定する。データを書き込む場合(YESの場合)は、ステップS12に移行して発熱体36への給電を開始する。その後、ステップS13において、温度検出器37により主磁極32の温度を検出し、ステップS14において主磁極32の温度が約100℃になるように発熱体36への給電量を調整する。
【0035】
次に、ステップS15に移行し、ライト回路53を介して磁気ヘッド(記録ヘッド30)に書き込み電流を供給し、磁気記録媒体12にデータを書き込む。その後、ステップS16においてデータの書き込みを終了するか否かを判定する。書き込むべきデータが更にある場合(NOの場合)は、ステップS13に戻り、主磁極32の温度を制御しながら磁気記録媒体12に更にデータを書き込む。
【0036】
一方、ステップS16でデータの書き込みを終了すると判定した場合(YESの場合)は、ステップS17に移行し、発熱体36への給電を停止する。これにより、主磁極32の温度は室温まで低下する。
【0037】
図8は、横軸に温度をとり、縦軸に磁化をとって、FeRhの磁化の温度依存性を示す図である。この図8に示すように、FeRhは室温では磁化が0となって反強磁性を示し、温度が約80℃以上になると強磁性を示して大きな磁化をもつ。例えば、100℃〜300℃の温度範囲では、磁化が1000emu/cc以上となる。また、温度が約440℃以上になると再び磁化が0となる。
【0038】
本実施形態では、前述したように磁気記録媒体12にデータを記録するときにはFeRhにより構成される主磁極32の温度を約100℃まで加熱するので、主磁極32が強磁性を示し、強力な磁力線を発生する。これにより、磁気記録媒体12に高密度にデータを記録することが可能になる。また、本実施形態では、磁気記録媒体12へのデータの書き込みが終了した後は発熱体36への給電を停止し、主磁極32の温度を室温まで低下させる。これにより、主磁極32の残留磁化によるポールイレーズの発生が回避され、データ信頼性が向上する。このように、本実施形態に係る磁気記録装置は、高密度記録と信頼性の向上とを両立させることができる。
【0039】
なお、発熱体36に供給する電流は直流電流でもよいが、磁気記録媒体12に記録するデータに応じた周波数の交流電流としてもよい。発熱体36に、記録データに応じた周波数の交流電流を供給する場合について、以下に説明する。
【0040】
図9は、記録ヘッド30のコイル34に供給される電流(書き込み電流)と発熱体36に供給される電流(発熱体への電流)の位相を示すタイムチャートである。この図9に示すように、ライトゲート52がオンになって記録ヘッド30に書き込み電流が供給されている間、発熱体36には書き込み電流と逆位相の電流を供給する。図2からわかるようにコイル34と発熱体36とは近接しているため、書き込み電流に対し逆位相の電流を発熱体36に供給することにより、書き込み電流により発生する高周波の磁束を随時打ち消す向きの高周波の磁束が発生する。この逆位相の電流によって磁気記録媒体12の軟磁性裏打層の位置においてもそれぞれの磁束が打ち消し合う方向に働いて、軟磁性裏打層における不要な磁区構造の形成が回避されるとともに、広域イレーズ(WATER:Wide Area Track ERasure)の原因となる磁界の発生が防止される。
【0041】
この逆位相の電流の振幅は、発熱体36を発熱させるのに必要な電力量から決定される。また、この逆位相の電流の振幅は、書き込み電流による書き込み磁界の影響を考慮して、書き込み電流によって発生する磁界の振幅よりも小さくすることが好ましい。
【0042】
図10(a),(b)は、本実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法の一例を示す模式図である。
【0043】
まず、図10(a)に示す構造を形成するまでの工程を説明する。アルチック(AlTiC)等からなる基板71の上側全面に、例えばアルミナ(Al2O3)等の絶縁材料により絶縁層72を形成する。その後、絶縁層72の上に例えばめっき法によりFeNi等の磁性材料からなる磁気シールド層73(図2の磁気シールド層21に対応)を所定の大きさに形成する。磁気シールド層73は、上述のFeNi以外の磁性材料、例えばFeNiCo、FeCo、FeZrN又はCoZrNbにより形成してもよい。他の磁気シールド層についても同様である。
【0044】
次に、例えばスパッタリング法によって磁気シールド層73の上にアルミナ等の絶縁材料によりシールドギャップ層74を所定の厚さに形成する。その後、シールドギャップ層74の上に、磁気抵抗素子75(図2の磁気抵抗素子22に対応)を形成する。磁気抵抗素子75としてMR素子を使用する場合は、例えば厚さが20nmのNiFeCrからなるSAL(Soft Adjacent layer)層と、厚さが10nmのTa等からなる非磁性層と、厚さが20nmのNiFe等からなるMR層とを積層して構成される。これらのSAL層、非磁性層及びMR層はスパッタリング法により形成され、フォトリソグラフィ法及びエッチング法により所定の形状にパターニングされて磁気抵抗素子75となる。磁気抵抗素子75としてGMR素子又はTMR素子を採用してもよい。
【0045】
次に、例えばスパッタリング法により、基板71の上側にアルミナ等の絶縁材料からなるシールドギャップ層76を形成し、このシールドギャップ層76により磁気抵抗素子75を被覆する。そして、例えばめっき法により、シールドギャップ層76の上にFeNi等の磁性材料からなる磁気シールド層77(図2の磁気シールド層23に対応)を所定の大きさに形成する。
【0046】
次に、磁気シールド層77の上に、例えばスパッタリング法により、アルミナ等の絶縁材料からなるシールドギャップ層78を所定の厚さに形成する。そして、このシールドギャップ層78の上に、例えばめっき法により、FeNi等の磁性材料からなる磁気シールド層79(図2の磁気シールド層31に対応)を所定の大きさに形成する。その後、基板71の上側全面に例えばアルミナからなる平坦化層80を形成し、表面を平坦化する。
【0047】
次に、図10(b)に示す構造を形成するまでの工程を説明する。上述したようにして平坦化層80を形成した後、基板71の上側全面に例えばスパッタリング法によりアルミナ等からなる絶縁層81を所定の厚さに形成する。その後、絶縁層81の上に例えばアルミニウム合金からなる金属膜を形成し、フォトリソグラフィ法及びエッチング法により金属膜を所定の形状にパターニングしてコイル82(図2の磁気シールド層31側のコイル34に対応)を形成する。その後、基板71の上側に例えばアルミナ等により絶縁層83を形成し、この絶縁層83によりコイル82を被覆する。
【0048】
次に、絶縁層83の上に、例えばスパッタリング法によりNiCu膜を形成し、このNiCu膜をフォトリソグラフィ法及びエッチング法により所定の形状にパターニングして発熱体84(図2の発熱体36に対応)を形成する。その後、基板71の上側に発熱体84を被覆する絶縁層85をアルミナ等により形成する。
【0049】
次に、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いて絶縁層85の表面からシールド層70に到達する開口部を形成し、この開口部内に例えばFeNi等の磁性材料を充填してコンタクト部86aを形成する。その後、絶縁層85及びコンタクト部86の上に、FeRh層とFeCu層との2層構造の主磁極87(図2の主磁極32に対応)を形成する。
【0050】
図11(a)〜(d)は、主磁極87の形成方法をより詳細に示す模式図である。まず、図11(a)に示すように、絶縁層85の上にフォトレジストを塗布してレジスト膜88を形成する。そして、このレジスト膜88を露光及び現像処理して、所望の形状の開口部88aを形成する。この場合、露光条件及び現像条件を適切に設定し、開口部88aの断面形状が図11(a)に示すように逆台形となるようにする。
【0051】
次に、図11(b)に示すようにめっき法又はスパッタリング法により開口部88a内にFeRh層32aを所定の厚さに形成する。続いて、図11(c)に示すように、めっき法又はスパッタリング法によりFeRh層32aの上にFeCo層32bを所定の厚さに形成する。その後,図11(d)に示すように、レジスト膜88を除去する。このようにして、レジスト膜88の開口部88aに対応する形状の主磁極87が形成される。
【0052】
上述したようにして主磁極87を形成した後、基板71の上側に主磁極87を被覆する絶縁層(図示せず)を形成し、その上に温度検出器(図2の温度検出器37に対応)として熱電対(図示せず)を形成する。その後、基板71の上側に温度検出器を覆う絶縁層89を例えばアルミナにより形成する。
【0053】
次に、絶縁層89の上に例えばアルミニウム合金膜を形成し、このアルミニウム合金膜をパターニングしてコイル90(図2の主磁極33側のコイル34)を形成する。その後、基板71の上側に絶縁層91を形成し、この絶縁層91によりコイル90を被覆する。
【0054】
次に、絶縁層91の表面から主磁極87に到達する開口部を形成し、この開口部内に例えばFeNi等の磁性材料を充填してコンタクト部86bを形成する。その後、絶縁層91及びコンタクト部86bの上にFeNi等の磁性材料からなるリターンヨーク92(図2のリターンヨーク33に対応)を所定の大きさに形成する。
【0055】
次いで、基板71の上側全面に例えばアルミナからなるオーバーコート層93を形成し、表面を平坦化する。このようにして、本実施形態に係る磁気ヘッドが完成する。
【0056】
本実施形態に係る磁気ヘッドは、主磁極がFeRh層とFeCo層との積層構造を有しているので、データ記録時に磁気ヘッドを加熱することで高密度記録が可能になる。また、データ記録が終了した後は室温に戻す(加熱を停止する)ことで主磁極の残留磁化が殆ど0となり、ポールイレーズによるデータの消失が防止される。
【0057】
以下、本発明の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
【0058】
(付記1)磁気記録媒体にデータを書き込む磁気ヘッドにおいて、
前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、
加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、
前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、
前記主磁極を加熱する加熱部と
を有することを特徴とする磁気ヘッド。
【0059】
(付記2)前記主磁極が、前記加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層した構造を有することを特徴とする付記1に記載の磁気ヘッド。
【0060】
(付記3)前記加熱により磁気特性が増大する材料が、FeRh及びFeRhIrのいずれかであることを特徴とする付記1又は2に記載の磁気ヘッド。
【0061】
(付記4)前記加熱しないときに強磁性を示す材料が、FeCo、FeCoB、FeNi、FeNiCo及びFeZrNのうちのいずれかであることを特徴とする付記2に記載の磁気ヘッド。
【0062】
(付記5)更に、前記主磁極の温度を検出する温度検出部を有することを特徴とする付記1に記載の磁気ヘッド。
【0063】
(付記6)磁気記憶媒体と、
前記磁気記憶媒体を回転する磁気記憶媒体回転手段と、
前記磁気記憶媒体にデータを書き込む磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを支持するアームと、
前記アームを駆動して前記磁気ヘッドを前記磁気記憶媒体の表面に沿って移動させるアーム駆動手段と、
前記磁気記憶媒体回転手段及び前記アーム駆動手段を制御するとともに、前記磁気ヘッドを介して前記磁気記憶媒体に対しデータの記録及び再生を行う制御回路部とを有し、
前記磁気ヘッドは、前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、前記主磁極を加熱する加熱部とにより構成されていることを特徴とする磁気記録装置。
【0064】
(付記7)前記加熱部が、給電により発熱する発熱体からなることを特徴とする付記6に記載の磁気記録装置。
【0065】
(付記8)前記制御回路部は、データ記録時に前記磁気ヘッドの加熱部へ給電して前記主磁極を加熱し、それ以外のときには前記加熱部への給電を停止することを特徴とする付記7に記載の磁気記録装置。
【0066】
(付記9)前記加熱部には、前記コイルに供給される書き込み電流と逆位相の電流を供給することを特徴とする付記8に記載の磁気記録装置。
【0067】
(付記10)前記磁気ヘッド内に前記主磁極の温度を検出する温度検出部を有し、前記制御回路部は前記温度検出部の出力に応じて前記加熱部に供給する電流を制御することを特徴とする付記7に記載の磁気記録装置。
【0068】
(付記11)前記磁気ヘッドの前記主磁極が、前記加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層した構造を有することを特徴とする付記6に記載の磁気記録装置。
【0069】
(付記12)前記加熱により磁気特性が増大する材料が、FeRh及びFeRhIrのいずれかであることを特徴とする付記6に記載の磁気記録装置。
【0070】
(付記13)前記加熱しないときに強磁性を示す材料が、FeCo、FeCoB、FeNi、FeNiCo及びFeZrNのうちのいずれかであることを特徴とする付記11に記載の磁気記録装置。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る磁気記録装置(ハードディスク装置)の構造を示す平面図である。
【図2】図2は、磁気ヘッドの概略構成を示す模式図である。
【図3】図3は、主磁極を磁気記録媒体側から見た平面図である。
【図4】図4は、発熱体を示す平面図である。
【図5】図5は、制御回路部のうちデータの記録及び再生に関わる部分の回路を示すブロック図である。
【図6】図6は、発熱体制御回路の構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、実施形態に係る磁気記録装置のデータ記録時(書き込み時)の動作を示すフローチャートである。
【図8】図8は、FeRhの磁化の温度依存性を示す図である。
【図9】図9は、記録ヘッドのコイルに供給される電流(書き込み電流)と発熱体に供給される電流(発熱体への電流)の位相を示すタイムチャートである。
【図10】図10(a),(b)は、実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法の一例を示す模式図である。
【図11】図11(a)〜(d)は、主磁極の形成方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0072】
10…磁気記録装置、
11…筐体、
12…磁気記録媒体(磁気ディスク)、
13…磁気ヘッド、
14…アーム、
15…サスペンション、
16…制御回路部、
20…再生ヘッド、
21,23,31,73,77,79…磁気シールド層、
22,75…磁気抵抗素子、
30…記録ヘッド、
32,87…主磁極、
32a…FeRh層、
32b…FeCo層、
33,92…リターンヨーク、
34,82,90…コイル、
35…トレーシングシールド、
36,84…発熱体、
37…温度検出部、
41a,41b…電極、
42…抵抗発熱線、
51…制御LSI、
52…ライトゲート、
53…ライト回路、
54…復調回路、
55…増幅器、
56…定電流源、
57…発熱体制御回路、
61…スイッチングトランジスタ、
62…直流定電圧回路、
63…可変抵抗器、
64…D/A変換器、
71…基板、
72,81,83,85,89,91…絶縁層、
74,76,78…シールドギャップ層、
88…レジスト膜、
93…オーバーコート層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体にデータを書き込む磁気ヘッドにおいて、
前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、
加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、
前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、
前記主磁極を加熱する加熱部と
を有することを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】
前記主磁極が、前記加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層した構造を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
前記加熱により磁気特性が増大する材料が、FeRh及びFeRhIrのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
磁気記憶媒体と、
前記磁気記憶媒体を回転する磁気記憶媒体回転手段と、
前記磁気記憶媒体にデータを書き込む磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを支持するアームと、
前記アームを駆動して前記磁気ヘッドを前記磁気記憶媒体の表面に沿って移動させるアーム駆動手段と、
前記磁気記憶媒体回転手段及び前記アーム駆動手段を制御するとともに、前記磁気ヘッドを介して前記磁気記憶媒体に対しデータの記録及び再生を行う制御回路部とを有し、
前記磁気ヘッドは、前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、前記主磁極を加熱する加熱部とにより構成されていることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項5】
前記制御回路部は、データ記録時に前記磁気ヘッドの加熱部へ給電して前記主磁極を加熱し、それ以外のときには前記加熱部への給電を停止することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録装置。
【請求項1】
磁気記録媒体にデータを書き込む磁気ヘッドにおいて、
前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、
加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、
前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、
前記主磁極を加熱する加熱部と
を有することを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】
前記主磁極が、前記加熱により磁気特性が増大する材料からなる第1の層と、加熱しないときに強磁性を示す材料からなる第2の層とを積層した構造を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
前記加熱により磁気特性が増大する材料が、FeRh及びFeRhIrのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
磁気記憶媒体と、
前記磁気記憶媒体を回転する磁気記憶媒体回転手段と、
前記磁気記憶媒体にデータを書き込む磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを支持するアームと、
前記アームを駆動して前記磁気ヘッドを前記磁気記憶媒体の表面に沿って移動させるアーム駆動手段と、
前記磁気記憶媒体回転手段及び前記アーム駆動手段を制御するとともに、前記磁気ヘッドを介して前記磁気記憶媒体に対しデータの記録及び再生を行う制御回路部とを有し、
前記磁気ヘッドは、前記データに応じた書き込み電流が供給されるコイルと、加熱により磁気特性が増大する材料を含み、前記コイルに供給された前記書き込み電流により前記磁気記録媒体に向けて磁力線を放出する主磁極と、前記主磁極から放出された磁力線が戻るリターンヨークと、前記主磁極を加熱する加熱部とにより構成されていることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項5】
前記制御回路部は、データ記録時に前記磁気ヘッドの加熱部へ給電して前記主磁極を加熱し、それ以外のときには前記加熱部への給電を停止することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−54231(P2009−54231A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219585(P2007−219585)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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