説明

磁気記録装置

【課題】マイクロ波アシスト記録方式を採用した磁気記録装置において、正極性側のマイクロ波周波数と負極性側のマイクロ波周波数をともに最適に調整する。
【解決手段】本発明に係る磁気記録装置は、正極性側の電流波形と負極性側の電流波形が非対称なライト電流を、磁気ヘッドに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HDD(Hard Disk Drive)の記録密度向上にともない、記録媒体のビットサイズは微細化が進んでいる。しかし、ビットサイズの微細化が進むにつれ、熱揺らぎによる記録状態の消失が懸念される。この問題を解決し、高密度記録で記録ビットを安定に維持するためには、保磁力の大きな(すなわち磁気異方性の大きな)記録媒体を使用する必要がある。
【0003】
保磁力の大きな記録媒体に情報を記録するためには、強い記録磁界が必要である。しかし実際には、記録ヘッドの狭小化、および利用できる磁性材料の制限により、記録磁界強度にも上限がある。そのため、記録媒体の保磁力は、記録ヘッドが発生することができる記録磁界の大きさによって制約される。
【0004】
このように、媒体の高い熱安定性と、記録しやすい保磁力という、相反する要求に応えるため、各種の補助手段を使って記録媒体の保磁力を記録時のみ実効的に低くする記録手法が考案されている。磁気ヘッドとレーザなどの加熱手段を併用して情報を記録する熱アシスト記録などがその代表である。
【0005】
一方、記録ヘッドからの記録磁界に高周波磁界を併用することにより、記録媒体の保磁力を局所的に低減させて情報を記録する手法も存在する。例えば、下記特許文献1には、高周波磁界により磁気記録媒体をジュール加熱あるいは磁気共鳴加熱し、記録媒体の保磁力を局所的に低減させ、情報を記録する技術が開示されている。このような高周波磁界と磁気ヘッド磁界との磁気共鳴を利用する記録手法(以降、マイクロ波アシスト記録という)では磁気共鳴を利用するので、反転磁界の低減効果を得るためには、記録媒体の異方性磁界に比例する、強い高周波磁界を印加することが必要である。
【0006】
下記非特許文献1には、外部からのバイアス磁界なしに発振するスピントルク発振器に関する計算結果が開示されている。
【0007】
下記非特許文献2には、垂直磁気ヘッドの主磁極に隣接した磁気記録媒体の近傍に、スピントルクによって磁化が高速回転する磁化高速回転体(Field Generation Layer:FGL)を配置してマイクロ波(高周波磁界)を発生させ、磁気異方性の大きな磁気記録媒体に情報を記録する技術が開示されている。
【0008】
下記非特許文献3には、FGLに近接する主磁極の磁界を利用してFGLの回転方向を制御するスピントルク発振器が開示されている。これにより、効率的に、媒体のマイクロ波アシスト磁化反転が実現できるとされている。
【0009】
また、ライト電流を利用した記録補償方法として、書き込み補償(ライトプリコンペンセーション)がある。これは、高記録密度化によりビット間の磁化が相互に干渉することによって生じる、ノンリニアビットシフト(NLTS:Non−Linear Transition Shift)を補償する方法である。同手法では、情報を記録するときにあらかじめ特定されたビットの位相をシフトすることにより、ピークシフトが問題になる特定のビット配列のデータを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−243527号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】X. Zhu and J. G. Zhu, “Bias-Field-Free Microwave Oscillator Driven by Perpendicularly Polarized Spin Current”, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, P2670 VOL.42, NO.10 (2006)
【非特許文献2】J. G. Zhu and X. Zhu, “Microwave Assisted Magnetic Recording”, The Magnetic Recording Conference (TMRC) 2007 Paper B6 (2007)
【非特許文献3】J. Zhu and Y. Wang, “Microwave Assisted Magnetic Recording with Circular AC Field Generated by Spin Torque Transfer”, MMM Conference 2008 Paper GA-02 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
マイクロ波アシスト記録方式において、スピントルクオシレーターから発生したマイクロ波磁界によるアシスト効果を効率よく発揮させるためには、マイクロ波磁界の周波数が記録媒体の磁気共鳴周波数と一致することが重要である。これは、マイクロ波アシスト記録方式においては、マイクロ波磁界と媒体磁化とを強磁性共鳴させることより、媒体磁化の保持力を大幅に低下させ、結果として記録媒体の磁化反転磁界を大きく低減させるためである。
【0013】
非特許文献3のように、主磁極から発生する磁界を利用してアシスト効果を効率よく発揮させる構造を採用している場合、主磁極磁界には、正磁界(媒体に下向きに印加される磁界)と負磁界(媒体に上向きに印加される磁界)が存在する。正負磁界によってスピントルクオシレーターには正負の磁界が印加される。
【0014】
マイクロ波磁界周波数は、スピントルクオシレーターに印加される磁界強度に対して相関があることが知られており、磁界強度が高くなるにつれて、マイクロ波周波数は高くなる。これは、スピントルクオシレーターに流れるスピンからFGLが受けるスピントルクと、外部磁界とが釣り合うことによってスピントルク発振が生じ、スピントルクオシレーターが外部から強い磁界を受けると、FGLの磁化の緩和時間が短くなって磁化回転が速くなるためである。このことは同時に、FGL磁化の発振周波数が高くなること、つまりマイクロ波磁界の周波数も同時に高くなることを示している。
【0015】
スピントルクオシレーターから発生するマイクロ波周波数は、主磁極からスピントルクオシレーターに印加される磁界が正負極性とも等しい絶対値を有する場合でも、スピントルクオシレーターの形状や膜特性によっては、正負極性間で非対称になってしまう可能性がある。この場合、正磁界中におけるマイクロ波周波数が記録媒体にとって最適であっても、負磁界中におけるマイクロ波周波数が記録媒体にとって最適な周波数からずれてしまう現象が生じてしまう。そのため、マイクロ波のアシスト効果を最大限に利用することができず、信号品質を示す指標であるSNR(Signal to Noise Ratio)が悪化してしまう可能性が懸念される。
【0016】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、マイクロ波アシスト記録方式を採用した磁気記録装置において、正極性側のマイクロ波周波数と負極性側のマイクロ波周波数をともに最適に調整することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る磁気記録装置は、正極性側の電流波形と負極性側の電流波形が非対称なライト電流を、磁気ヘッドに供給する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る磁気記録装置によれば、ライト電流を極性ごとに調整することにより、正負磁界中におけるマイクロ波周波数を等しくすることができる。これにより、記録媒体にとって最適なマイクロ波周波数を利用して情報を記録することができる。したがって、マイクロ波アシスト効果を最大限に利用した磁気記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1に係る磁気記録装置1000の構成図である。
【図2】磁気ヘッド010の模式図である。
【図3】記録ヘッド部100とその一部であるスピントルクオシレーター110の詳細構成を示す図である。
【図4】ライト電流303のタイムチャートである。
【図5】主磁極120とシールド130の間でスピントルクオシレーター110に印加される磁界とマイクロ波周波数の実験例を示す図である。
【図6】正負極性間のマイクロ波周波数のずれと信号品質の関係を示す図である。
【図7】磁気記録装置1000がライト電流303を最適化する処理を示すフローチャートである。
【図8】実施形態2におけるライト電流307のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。理解を容易にするため、以下の図において同じ機能部分には同一の符号を付して説明する。
【0021】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る磁気記録装置1000の構成図である。磁気記録装置1000は、磁気ディスク001、磁気ヘッド010を備える磁気ディスク装置である。磁気ヘッド010は、後述するスピントルクオシレーター110を有している。
【0022】
磁気ディスク001は、ディスクの中央を固定されている。スピンドルモーター(SPM)002は、磁気ディスク001を回転させる。アクチュエーター003は、磁気ヘッド010の位置を固定する。ボイスコイルモーター004は、アクチュエーター003を駆動することにより、磁気ヘッド010を磁気ディスク001上で半径方向に移動させることができる。
【0023】
磁気記録装置1000はさらに、ヘッドアンプIC005、リードライトチャネル(R/Wチャネル)006、ハードディスクコントローラ(HDC)/マイクロプロセッサ(MPU)集積回路007(以下、HDC/MPU007)を備える。
【0024】
HDC/MPU007は、外部ホストからの書き込みデータを受信し、R/Wチャネル006を介して、ヘッドアンプIC005に伝送する。ヘッドアンプIC005は、R/Wチャネル006から供給されたライト信号302に対応したライト電流303を磁気ヘッド010に供給する。磁気ヘッド010は、ライト電流303に対応する信号を磁気ディスク001に書き込む。
【0025】
磁気ヘッド010は、磁気ディスク001に記憶されているデータをリード信号304として読み出す。ヘッドアンプIC005は、リード信号304を増幅し、R/Wチャネル006を介して、HDC/MPU007から外部ホストに出力する。
【0026】
ヘッドアンプIC005はさらに、スピントルクオシレーター110にスピンを供給するための駆動信号(電流または電圧)301を生成するSTO電流印加装置を含む。
【0027】
本発明における「電流供給回路」「エラーレート測定部」は、ヘッドアンプIC005がこれに相当する。
【0028】
図2は、磁気ヘッド010の模式図である。磁気ヘッド010は、記録ヘッド部100と再生ヘッド部200を備える、記録再生分離ヘッドである。
【0029】
記録ヘッド部100は、スピントルクオシレーター110、主磁極120、コイル160を備える。スピントルクオシレーター110は、高周波磁界を発生する。主磁極120は、記録ヘッド磁界を発生する。コイル160は、主磁極120に磁場を励磁する。さらに、主磁極120のトレーリング方向にトレーリングシールド130を設けることができる。
【0030】
トレーリング方向は、磁気ヘッド010の記録媒体に対する進行方向とは反対の方向である。リーディング方向は、磁気ヘッド010の媒体対に対する進行方向である。図2には示していないが、主磁極120のトラック幅方向の外側にサイドシールドを設けてもよい。
【0031】
図2に示す構成では、磁気ディスク001に対する磁気ヘッド010の進行方向から見て、再生ヘッド部200が先頭で記録ヘッド部100が後方の配置としているが、磁気ヘッド010の進行方向から見て記録ヘッド部100が先頭で再生ヘッド部200が後方になるように配置を逆転した構成でもよい。
【0032】
再生ヘッド部200は、再生センサ210、下部磁気シールド220、上部磁気シールド230を備える。再生センサ210は、記録信号を再生する役割を担うことさえできれば任意の構成を採用することができる。再生センサ210の構成としては、いわゆるGMR(Giant Magneto−Resistive)効果を有する再生センサでもよいし、TMR(Tunneling Magneto−Resistive)効果を有する再生センサでもよいし、EMR(Electro Mechanical Resonant)効果を有する再生センサでもよい。また、外部磁界に対して逆極性の応答をする2つ以上の再生センサを有するいわゆる差動型再生センサでもよい。下部磁気シールド220と上部磁気シールド230は、再生信号品質を向上させるために重要な役割を担うため、設けることが好ましい。
【0033】
図3は、記録ヘッド部100とその一部であるスピントルクオシレーター110の詳細構成を示す図である。図中に示す垂直記録媒体001の記録層は、磁気的にABS(Air Bearing Surface)面と垂直な方向に磁化される。
【0034】
磁気ディスク001は、一般的には、保護膜、記録層、軟磁性下地層などから構成される。磁気ディスク001は、各ビットが連続して存在するいわゆる連続媒体でもよいし、複数のトラック間に記録ヘッドが情報を書き込むことができない非磁性領域が設けられている、いわゆるディスクリートトラックメディアでもよい。また、基板上に、凸状の磁性パターンと磁性パターン間の凹部を充填する非磁性体とを含む、いわゆるパターンド媒体でもよい。
【0035】
磁気ヘッド部100のスピントルクオシレーター110は、FGL111、中間層112、スピン注入固定層113、回転ガイド層114を有する。FGL111は、高周波磁界を発生する。中間層112は、スピン透過性の高い材料を用いて構成されている。スピン注入固定層113は、FGL111にスピントルクを与える。回転ガイド層114は、FGL111の磁化回転を安定化させるための層である。
【0036】
主磁極120とトレーリングシールド130は、スピントルクオシレーター110に対する電極としても利用される。電流は、スピントルクオシレーター110の膜面に対して垂直に流す。この電流により、スピントルクオシレーター110にスピンを注入することができる。
【0037】
スピントルクオシレーター110の構成は、図3に示すように主磁極120側から回転ガイド層114、FGL111、中間層112、スピン注入固定層113の順に積層してもよいし、反対に主磁極120側からスピン注入固定層113、中間層112、FGL111、回転ガイド層114の順に積層してもよい。
【0038】
スピントルクオシレーター110の総膜厚の下限は特にないが、上限は200nm程度である。これは、スピントルクオシレーター110の総膜厚が厚すぎると主磁極120とトレーリングシールド130の間の距離が広がりすぎ、スピントルクオシレーター110に印加させる主磁極120からの磁界の減衰が激しくなり、FGL111の高周波発振が持続できなくなるためである。
【0039】
本実施形態1において、中間層112の材料はCuであり、膜厚は2nmである。中間層112の材料としては、非磁性体の導電性材料であることが好ましく、例えばAu、Ag、Pt、Ta、Ir、Al、Si、Ge、Tiなどを用いることができる。
【0040】
本実施形態1において、スピン注入固定層113の材料はCo/Ptであり、膜厚は10nmである。また、本実施形態1で用いたCo/Ptの垂直異方性磁界Hkは8kOeである。スピン注入固定層113の材料として、垂直異方性を持った材料を用いることにより、FGL111の発振を安定させることができる。例えばCo/Ptの他に、Co/Ni、Co/Pd、CoCrTa/Pdなどの人工磁性材料を用いることが好ましい。FGL111と同様の材料を用いることもできる。
【0041】
本実施形態1において、回転ガイド層114の材料は、垂直異方性エネルギーを持ったCo/Niであり、膜厚は10nmである。本実施形態1におけるCo/Niの垂直異方性磁界Hkは5kOeである。回転ガイド層114もスピン注入固定層113と同様の材料を用いることが好ましい。
【0042】
スピントルクオシレーター110を以上のような構成とすることにより、高周波磁界を磁気ディスク001に印加することができる。
【0043】
本実施形態1において、主磁極120とトレーリングシールド130の構成としては、飽和磁化が大きく結晶磁気異方性がほとんどないCoFe合金のような材料を用いることが好ましい。FGL111の材料は、FeCo合金の他に、NiFe合金、CoFeGe、CoMnGe、CoFeAl、CoFeSi、CoMnSi、CoFeSiなどのホイスラー合金、TbFeCoなどのRe−TM系アルモファス系合金、CoCr系合金などでもよい。また、CoIrなど負の垂直異方性エネルギーを持つ材料でもよい。
【0044】
以上、本実施形態1に係る磁気記録装置1000の構成を説明した。以下では、磁気ディスク001に情報を書き込むためのライト電流について説明する。
【0045】
主磁極120から発生される磁界は、ライト電流をコイル160に通電し、電磁誘導によって主磁極120を励磁することにより発生させる。従来技術において、コイル160に通電するライト電流は、正負極性の双方について対称な大きさで通電している。これに対して本発明では、ライト電流の大きさを極性ごとに調整し、マイクロ波アシスト効果を高めることを図る。
【0046】
図4は、ライト電流303のタイムチャートである。比較のため、図4(a)には従来技術におけるライト電流303の波形を示し、図4(b)には本発明におけるライト電流303の波形を示した。
【0047】
ライト電流303は、主磁極120から正負磁界を発生させるため、正極性と負極性が交互に切り替わる。ライト電流305は、ライトプリコンペンセーションによって位相シフトしたものである。従来技術では、NLTSによって生じた位相のシフトを再生信号に基づき事前に把握することにより、位相をシフトさせている。
【0048】
本発明におけるライト電流306は、ライト電流303の正負いずれかの極性において出力をシフトさせている。ヘッドアンプIC005は、ライト電流306を片側極性ごとに調整することにより、マイクロ波アシスト効果が十分に発揮できるようにする。
【0049】
ライト電流303の出力をシフトさせる方法としては、例えばヘッドアンプIC005がライト電流303に正負いずれかの直流成分を付加してもよいし、R/Wチャネル006がライト信号302をシフトさせてもよいし、ヘッドアンプIC005がライト電流303をシフトさせてもよい。
【0050】
以下では、ライト電流303を極性ごとに調整する理由、およびその調整による記録特性の改善効果について詳細に説明する。
【0051】
図5は、主磁極120とシールド130の間でスピントルクオシレーター110に印加される磁界(ギャップ磁界:Hgap)とマイクロ波周波数の実験例を示す図である。スピントルクオシレーター110のトラック幅方向の幅Twは60nm、素子高さ方向の高さSHは90nm、駆動電流は6.5mAである。
【0052】
ギャップ磁界Hgapは、ライト電流303がコイル160に流れることにより主磁極120を励磁した結果、主磁極120とトレーリングシールド130の間に発生するものであるため、ライト電流303の大きさと相関を持つ。そのため、図5の横軸をライト電流303と読みかえることができる。正極性のライト電流303を印加したとき、正方向のギャップ磁界Hgapが印加されるものとする。
【0053】
従来技術におけるマイクロ波磁気記録では、磁気ヘッド部100は記録時に正負両極性で同じ大きさのライト電流303を用い、磁界を正負交互に発生させて記録する。同時にスピントルクオシレーター110に対しても、正負両極性で同じ大きさのライト電流303から発生した磁界が印加される。この場合、スピントルクオシレーター110へ印加された磁界に対して、正負極性で対称に同じマイクロ波周波数が発生する。そのマイクロ波が記録媒体の磁気共鳴周波数に一致すれば、高いアシスト効果を得ることができる。
【0054】
しかし、図5の実験例に示すように、実際のスピントルクオシレーター110においては、正極性の磁界によって発生するマイクロ波の周波数依存性401と、負極性の磁界によって発生するマイクロ波の周波数依存性402との間には、大きな違いがある。
【0055】
例えば図5において、正極性の磁界が+6kOeである場合、マイクロ波周波数は14GHzであるのに対し、負極性の磁界が−6kOeである場合は、マイクロ波周波数は11.5GHzとなり、極性間で3.5GHzの差が発生してしまうことが確認されている。
【0056】
一方、本発明に係る磁気記録装置1000は、ライト電流303を極性毎に調整する。例えば、負極性の磁界−6kOeに対応するライト電流303の値を、正極性の磁界+3.5kOeに対応する値とすることにより、マイクロ波周波数を両極性ともに11.5GHzに合わせることができる。
【0057】
実際のマイクロ波アシスト磁気記録では、記録媒体の磁気共鳴周波数とマイクロ波周波数を一致させることが重要であるため、ライト電流303を極性ごとに調整することにより、両極性ともに等しいマイクロ波周波数を発生させ、最適な周波数で磁気記録をアシストすることができる。
【0058】
次に、マイクロ波周波数が記録媒体にとって最適な周波数から外れたときの記録特性の低下量について説明する。
【0059】
図6は、正負極性間のマイクロ波周波数のずれと信号品質の関係を示す図である。正極性におけるマイクロ波周波数が記録媒体にとって最適な周波数である場合において、負極性のマイクロ波周波数と記録媒体に最適な周波数の間のずれ量と、その状態で記録再生した時の信号品質(SNR)との関係を数値計算すると、図6のようになる。この計算において、磁気ディスク001は垂直記録媒体、スピントルクオシレーター110のトラック幅方向の幅Twは40nm、素子高さ方向の高さSHは40nmと想定した。
【0060】
図6の横軸は、負極性のライト電流303が印加されているときのマイクロ波周波数と、正極性のライト電流303が印加されているときのマイクロ波周波数との差分である。正極性におけるマイクロ波周波数は一定としている。図6の縦軸は、ライト電流303の周波数を、最大動作周波数の2分の1(周期Tの2倍)としたときのSNR(2T−SNR)である。
【0061】
曲線501は、負極性時の周波数が、正極性時の周波数よりも高周波数側にシフトした時の関係性を示す。曲線502は、負極性時の周波数が、正極性時の周波数よりも低周波数側にシフトした時の関係性を示す。
【0062】
図6に示すように、負極性時のマイクロ波周波数が正極性時のマイクロ波周波数と同じ時(ΔFrequensy=0GHz)に最大のSNRとなり、高周波側・低周波側ともに正極性時の周波数から離れるにしたがって、信号品質が落ちていくことがわかる。例えば、負極性時のマイクロ波周波数が4GHzシフトした場合は、最適な周波数と比べてSNRが2dB低下することがわかる。
【0063】
本発明に係る磁気記録装置1000は、ライト電流306の極性毎の大きさを調整し、スピントルクオシレーター110が発生するマイクロ波周波数を極性ごとに調整することにより、マイクロ波周波数が記録媒体の共鳴周波数とミスマッチすることによるアシスト効果の劣化を防ぎ、マイクロ波アシスト記録の効果を最大限に生かすことができる。
【0064】
図7は、磁気記録装置1000がライト電流303を最適化する処理を示すフローチャートである。以下、図7の各ステップについて説明する。
【0065】
(図7:ステップS701)
ヘッドアンプIC005は、主磁極120とトレーリングシールド130の電極からスピントルクオシレーター110に対し駆動電流を印加し、スピンを注入する。例えば、駆動電流として電流密度が1×10A/cmの電流を印加する。これにより、スピントルクオシレーター110を構成するスピン注入層113からFGL111へスピンを注入する状態にする。この段階では、スピントルクオシレーター110に磁界が印加されていないため、FGL111は発振していない。
【0066】
(図7:ステップS702)
ヘッドアンプIC005は、主磁極120を励磁するため、コイル160にライト電流303を通電する。ここでは、テスト書き込みとして、正負極性が対称である従来のライト電流を印加する。例えば、32mAのライト電流303を印加する。
【0067】
(図7:ステップS703)
ヘッドアンプIC005は、ステップS702で印加したライト電流303の下でエラーレートを測定し、正負極性が対称な状態の下における最適なライト電流303を決定する。ここでは、正負両極性において、ライト電流303に応じた磁界が主磁極120から発生し、それと同時にスピントルクオシレーター110にも磁界が印加される。FGL111は、磁界によるトルクと駆動電流によるトルクがつり合うことにより、スピントルク発振をしている。
【0068】
(図7:ステップS704)
ヘッドアンプIC005は、片側極性の電流値をシフトさせたライト電流306を印加する。例えば、ライト電流303の振幅を正極性側のみ10%増幅させる。振幅を増幅した正極性側では、その電流量に応じた磁界が主磁極120から発生する。ライト電流306の正極性側で発生する磁界は、負極性側での磁界よりも大きくなるため、増幅した正磁界側ではマイクロ波周波数が負極性側よりも高周波側へシフトする。
【0069】
(図7:ステップS705)
ヘッドアンプIC005は、コイル160にライト電流306を通電した状態でエラーレートを測定する。
【0070】
(図7:ステップS706)
ヘッドアンプIC005は、ステップS705で測定したエラーレートが最適値に収束している場合は本フローチャートを終了し、収束していない場合はステップS704へ戻って同様の処理を繰り返す。ただし、ステップS704〜S705を2回目以降に実施するときは、それ以前に使用したものとは異なる波形(振幅)のライト電流306を用いることとする。ステップS704〜S706を繰り返すことにより、正負両極性ともにマイクロ波周波数を最適な値にするライト電流306を探索することができる。
【0071】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1に係る磁気記録装置1000は、正負両極性ともに等しいマイクロ波周波数を発生させることができるため、両極性のマイクロ波磁界を、記録媒体にとって最適な磁気共鳴周波数に一致させることができる。これにより、マイクロ波アシスト効果を最大限に利用することができる。
【0072】
<実施の形態2>
実施形態1では、ライト電流303の振幅を正負いずれかの側においてシフトさせることにより、ライト電流303を正負極性間で非対称な波形とし、いずれの極性側においてもマイクロ波周波数を最適に調整する例を説明した。本発明の実施形態2では、ライト電流を調整する手段として、従来から用いられているオーバーシュート電流を用いる例を説明する。
【0073】
オーバーシュート電流とは、ライト電流の極性が反転するとき、定常レベルのライト電流よりも高いレベルの電流を所定時間印加し、極性を急峻に反転させて書き込み速度を高めるためのものである。
【0074】
実施形態1で説明したように、ライト電流303を正負極性間で非対称な波形とするためには、定常状態とは異なる波形のライト電流を印加する必要があり、そのための特別な回路構成などが必要になる。しかし、磁気記録装置1000がオーバーシュート電流を印加する機能を備えている場合、これを流用してライト電流を変形されることができる。本実施形態2では、この点に着目し、オーバーシュート電流を用いてライト電流を調整することとした。
【0075】
オーバーシュート電流を印加する機能は、具体的にはライト電流を印加する回路等と同様の機能部が備えることができるが、これに限られるものではなく、別途専用の回路などを設けてもよい。
【0076】
図8は、本実施形態2におけるライト電流307のタイムチャートである。本実施形態2では、オーバーシュート電流を片側極性ごとにコントロールすることにより、正負両極性におけるマイクロ波周波数を調整する。具体的には、オーバーシュート電流を用いるライト電流307において、オーバーシュート電流のピーク値OSを調整することにより、正負いずれかの側のライト電流ピーク(の絶対値)を、反対側のピーク(の絶対値)よりも大きくすることができる(ライト電流308)。
【0077】
また、オーバーシュート電流のピーク値の他にも、ライト電流の極性が反転したときから所定時間(Du)の間、そのピーク値を維持させることにより、ライト電流307を調整し、正負両極性におけるマイクロ波周波数を一定に維持することができる。
【0078】
本発明は、上記の実施形態をそのまま使用することに限定されるものではなく、実施する段階において、その要旨を逸脱しない範囲内で構成する要素を変更することができる。また、上記の実施形態で示されている複数の構成要素は適宜に組み合わせることにより、種々の発明を形成することができる。例えば、実施形態で示した全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態に構成要素を適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0079】
001:磁気ディスク
002:スピンドルモーター
003:アクチュエーター
004:ボイスコイルモーター
005:ヘッドアンプIC
006:リードライトチャネル
007:ハードディスクコントローラ
010:磁気ヘッド
100:記録ヘッド部
110:スピントルクオシレーター
111:FGL
112:中間層
113:スピン注入固定層
114:回転ガイド層
120:主磁極
130:トレーリングシールド
160:コイル
200:再生ヘッド部
210:再生センサ
220:下部磁気シールド
230:上部磁気シールド
301:STO駆動信号
302:ライト信号
303:ライト電流
304:リード信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を記録する磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に磁界を印加する磁気ヘッドと、
高周波磁界を発生させるスピントルクオシレーターと、
前記磁気記録媒体に情報を書き込む磁界を発生させるためのライト電流を前記磁気ヘッドに供給する電流供給回路と、
を備え、
前記スピントルクオシレーターは、
前記ライト電流によって発振するように構成されており、
前記電流供給回路は、
正極性側の電流波形と負極性側の電流波形が非対称な前記ライト電流を、前記磁気ヘッドに供給する
ことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項2】
前記電流供給回路は、
前記ライト電流の正極性側のピーク電流の絶対値と負極性側のピーク電流の絶対値のうちいずれか一方を他方よりも大きくすることにより、前記ライト電流の正極性側の電流波形と負極性側の電流波形を非対称にする
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録装置。
【請求項3】
前記電流供給回路は、
前記ライト電流の極性を反転させるとき、定常時の前記ライト電流よりも絶対値が大きいオーバーシュート電流を前記磁気ヘッドに供給し、
正極性側の前記オーバーシュート電流のピークの絶対値と負極性側のピークの絶対値のうちいずれか一方を他方よりも大きくすることにより、前記ライト電流の正極性側の電流波形と負極性側の電流波形を非対称にする
ことを特徴とする請求項2記載の磁気記録装置。
【請求項4】
前記電流供給回路は、
前記ライト電流の極性を反転させるとき、定常時の前記ライト電流よりも絶対値が大きいオーバーシュート電流を前記磁気ヘッドに供給し、
前記オーバーシュート電流のピークを所定時間維持することにより、前記ライト電流の正極性側の電流波形と負極性側の電流波形を非対称にする
ことを特徴とする請求項2記載の磁気記録装置。
【請求項5】
前記ライト電流を用いて前記磁気記録媒体に情報を書き込むときのエラーレートを測定するエラーレート測定部を備え、
前記電流供給回路は、
前記ライト電流を用いてテスト書き込みを実施してそのときの前記エラーレートを取得し、
前記エラーレートが所定条件を満たすまで、前記ライト電流の波形を変更して前記テスト書き込みを繰り返す
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録装置。
【請求項6】
前記電流供給回路は、
前記ライト電流の正極性側の電流振幅と負極性側の電流振幅のうちいずれか一方を他方よりも大きくすることにより、前記ライト電流の正極性側の電流波形と負極性側の電流波形を非対称にする
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録装置。
【請求項7】
前記電流供給回路は、
前記ライト電流の正極性側と負極性側のうちいずれか一方に、直流成分を付加することにより、前記ライト電流の正極性側の電流波形と負極性側の電流波形を非対称にする
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48001(P2013−48001A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186418(P2011−186418)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【特許番号】特許第5048860号(P5048860)
【特許公報発行日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】