説明

磁界遮蔽機構、アクチュエータ

【課題】磁石に連結される磁性体部材の磁化を防止する磁界遮蔽機構及びこれを用いたアクチュエータを提供する。
【解決手段】磁界遮蔽機構50は、第一方向に着磁された第一磁石3aの磁極側に、放射方向に着磁された環形の第二磁石52を、第一方向と放射方向が交差するように配置して、第一磁石3aから第二磁石52側への磁界を遮蔽又は減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石に近接する磁性体部材の磁化を防止する磁界遮蔽機構及びこれを用いたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータは、回転型モータの固定子側と回転子(可動子)側を直線状に引き伸ばしたように構成され、電気エネルギを直線運動するための推力に変換する。直線的な推力が得られるリニアモータは、移動体を直線運動させる一軸のアクチュエータとして用いられる。
【0003】
リニアモータの一種として、ロッドタイプのものが知られている。ロッドタイプのリニアモータは、複数の円筒形のコイルを積層し、積層して出来たコイルの孔内にマグネットを有するロッドを挿入した構成になっている。
また、コイルは、例えば、U・V・W相の三相を順次繰り返し配列した状態でフォーサに支持される。そして、これらのコイルに120°ずつ位相が異なる三相電流を流すと、コイルの軸線方向に移動する移動磁界が発生する。ロッドは、この移動磁界により推力を得て、移動磁界の速さに同期しコイルに対して直線運動を行う。
【0004】
このようなリニアモータを用いた一例として、特許文献1に記載された実装ヘッドがある。この実装ヘッドは、鉛直方向に延在するロッドタイプのリニアモータを複数備えている。これらのリニアモータは、互いのロッドを平行に配列するようにして、そのハウジングがフレームに支持されている。また、ハウジングに対して上下動するロッドの下端部には、電子部品を吸着保持するノズルが配設されている。また、ハウジングの上部には、ハウジングに対するロッドの鉛直方向の位置を検出する位置検出手段としてリニアエンコーダが配設されている。そして、ノズルで電子部品を吸着保持して、基板上へ実装する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4208155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロッドタイプのリニアモータを実装ヘッド等に用いる場合には、ロッドの一端に連結部材等を連結する必要がある。しかし、この連結部材等が磁性体である場合には、連結部材等がロッドのマグネットにより磁化されるという問題がある。すなわち、連結部材等が磁化されると鉄粉等が付着して、連結部材等の機能(例えば開閉や摺動等の動作)を損なうおそれがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、磁石に連結される磁性体部材の磁化を防止する磁界遮蔽機構及びこれを用いたアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明に係る磁界遮蔽機構は、第一方向に着磁された第一磁石の磁極側に、放射方向に着磁された環形の第二磁石を、前記第一方向と前記放射方向が交差するように配置して、前記第一磁石から前記第二磁石側への磁界を遮蔽又は減少させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るアクチュエータは、マグネットを有するロッドと、前記ロッドを囲むコイルを含むフォーサと、を備え、前記マグネットの磁界と前記コイルに流れる電流とによって、前記ロッドと前記フォーサとを前記ロッドの長手方向に沿って相対移動させるアクチュエータにおいて、前記ロッドの一端に、上記磁界遮蔽機構を介して、磁性材料から形成された連結部材が接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る磁界遮蔽機構によれば、前記第一磁石から前記第二磁石側への磁界を遮蔽又は減少させることができる。
本発明に係るアクチュエータよれば、ロッドの一端に接続した連結部材の磁化が防止されるので、鉄粉等の付着による連結部材の機能低下等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るアクチュエータの概略構成を示す斜視図(一部断面図)である。
【図2】フォーサ、コイル及びコイルホルダを示す斜視図である。
【図3】ロッドの構成を示す断面図である。
【図4】マグネットとコイルの位置関係を説明する図である。
【図5】アクチュエータの制御部を示す模式図である。
【図6】ロッドに連結されたボールスプラインの概略構成を示す斜視図である。
【図7】第一実施形態に係る磁界遮蔽機構を示す図である。
【図8】第一実施形態に係る磁界遮蔽機構の効果(磁束密度の解析結果)を示す図である。
【図9】第二実施形態に係る磁界遮蔽機構を示す図である。
【図10】第二実施形態に係る磁界遮蔽機構の効果(磁束密度の解析結果)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るアクチュエータA(リニアモータ10)の概略構成を示す斜視図(一部断面図)である。
アクチュエータAは、マグネットの磁界とコイルに流れる電流によって推力を得るリニアモータ10を備えている。リニアモータ10は、フォーサ2に対してロッド1が軸線方向(長手方向)に移動するロッドタイプリニアモータである。
【0013】
アクチュエータAは、例えば、電子部品を基板上の所定の位置にマウントするのに用いられる。すなわち、アクチュエータAは、ロッド1の先端に、チップ状の電子部品等を吸着保持可能なノズル等(不図示)を接続して用いられる。
アクチュエータAとしては、リニアモータ10を一つ(一軸)のみ設ける場合の他、作業効率を上げるための多数(多軸)のリニアモータ10を並べて配置する場合であってもよい。
【0014】
図1に示すように、アクチュエータAは、内部に複数のマグネット3を有する丸棒状のロッド1と、ロッド1をその軸周りに囲む複数のコイル4と、これらのコイル4を内部に収容するフォーサ2と、を備えている。
そして、マグネット3の磁界とコイル4に流れる電流とによって、ロッド1とフォーサ2とをロッド1の軸線方向(長手方向)に沿って相対移動させる。
【0015】
図2は、フォーサ2、コイル4及びコイルホルダ5を示す斜視図である。
コイル4は、銅線を螺旋状に巻いたもので、円筒状又はリング状に夫々形成されている。これらのコイル4は、その中心軸線が一致するように重ねて配列(積層)されて、コイルホルダ5に保持される。
コイル4同士の間には、それぞれ樹脂製スペーサ5aが配置される。この樹脂製スペーサ5aもコイルホルダ5に保持される。樹脂製スペーサ5aは、略リング状又はC字状に形成されている。このような構成によって、隣り合うコイル4同士は絶縁される。
【0016】
また、コイルホルダ5において、コイル4側とは反対側の面には、プリント基板6が設けられている。コイル4の巻線の端部4aは、プリント基板6に結線されている。
【0017】
フォーサ2は、樹脂又はセラミックス等からなり、角棒状又は細長い直方体状に形成される。
本実施形態では、フォーサ2とコイル4及びコイルホルダ5とが、インサート成形によって一体に成形される。すなわち、コイル4及びコイルホルダ5を金型にセットした状態で、溶融した樹脂又はセラミックスを金型内に注入した後、硬化させて、フォーサ2、コイル4及びコイルホルダ5を一体に成形するようにしている。
【0018】
また、本実施形態では、図1に示すように、フォーサ2には、コイル4の放熱性を高めるためにフィン2aが複数形成される。
なお、このようなインサート成形を用いる代わりに、コイルホルダ5に保持されたコイル4をアルミ製のフォーサ2に収納し、コイル4とフォーサ2との隙間を接着剤で埋めて、コイル4及びコイルホルダ5をフォーサ2に固定してもよい。
【0019】
また、図1に示すように、フォーサ2の長手方向の両端部には、エンドケース9が夫々配設される。エンドケース9には、ロッド1の直線運動を案内するための軸受であるブッシュ8が取り付けられる。
また、これらのエンドケース9のうち、長手方向の一方側に配置されたエンドケース9aは、フォーサ2に対するロッド1の位置を検出する位置検出ヘッド(位置検出手段)を兼ねている。
【0020】
エンドケース9aには、ロッド1がフォーサ2に対して相対移動する際に生じる、マグネット3の磁界の方向の変化を検出する磁気センサ12が備えられている。
磁気センサ12は、ロッド1から所定のすきまを開けて配置され、ロッド1の直線運動によって生ずるロッド1の磁界の方向(磁気ベクトルの方向)の変化を検出する。
磁気センサ12は、Si若しくはガラス基板と、その上に形成されたNi、Feなどの強磁性金属を主成分とする合金の強磁性薄膜金属で構成される磁気抵抗素子を有している。このような磁気センサ12は、特定の磁界方向で抵抗値が変化するためにAMR(Anisotropic-Magnetro-Resistance)センサ又は異方性磁気抵抗素子と呼ばれる。
また、磁気センサ12は、後述する位置検出回路13に電気的に接続される。
【0021】
図3は、ロッド1の構成を示す断面図である。
ロッド1は、例えばステンレス等の非磁性材からなるパイプ1aと、このパイプ1aの内部空間に配置された円柱状の複数のマグネット(セグメント磁石)3とを有している。これらのマグネット3は、互いに同極を対向させるようにして軸線方向(長手方向,第一方向)に沿って配列(積層)している。
【0022】
そして、ロッド1は、積層されたコイル4内を貫通すると共に、フォーサ2に軸線方向に移動可能に支持される。
また、ロッド1は、その軸線方向に一端に、磁性体材料から形成されたスプライン軸17を有している。ロッド1の材料(磁性体材料)としては、鉄鋼(SS400等)、オーステナイト系を除くステンレス鋼(オーステナイト・フェライト系、フェライト系、マルテンサイト系)等が用いられる。
【0023】
スプライン軸17は、その一方側の端部(基端部)がパイプ1aの中空空間に挿入されることによって、パイプ1aに同軸に接続固定される。
なお、後述するように、ロッド1のマグネット3とスプライン軸17との間には、スプライン軸17の磁化を防止(抑制)する磁界遮蔽機構50,60が配置される。
【0024】
また、図3に示すように、隣り合うマグネット3同士の間には、例えば鉄等の軟質磁性材料からなる円柱状又は円板状のポールシュー(磁極ブロック)7が配設される。
このように、ポールシュー7をマグネット3同士の間に介在させることで、ロッド1に発生する磁束密度を正弦波に近付けることができる。磁束密度を正弦波に近付け、かつ、磁束密度を大きくするために、ポールシュー7の軸線方向の長さは、マグネット3の軸線方向の長さよりも短く設定される。
本実施形態では、ポールシュー7の軸線方向の長さは、マグネット3の軸線方向の長さの約1/2に設定される。
【0025】
図4は、ロッド1のマグネット3とフォーサ2のコイル4の位置関係を示す図である。
マグネット3の配列ピッチは、コイル4の配列ピッチよりも長く設定される。また、ロッド1は、コイル4に対して同軸に配置されており、ロッド1の外周面とコイル4の内周面との間には、僅かに間隙が設けられる。
フォーサ2のコイル4は、3つでU・V・W相からなる一組の三相コイルとなる。すなわち、一組の三相コイルを複数組み合わせて、コイルユニットが構成される。そして、U・V・W相の三相に分けた複数のコイルに120°ずつ位相が異なる三相電流を流すと、コイル4の軸線方向に移動する移動磁界が発生する。これにより、ロッド1は、移動磁界により推力を得て、移動磁界の速さに同期してコイル4に対して相対的に直線運動を行うことができる。
【0026】
図5は、アクチュエータAの制御部11を示す模式図である。
制御部11は、磁気センサ12が出力する信号を処理する位置検出回路13、位置検出回路13からの信号等に基づいてリニアモータ10を駆動するドライバ14等を備える。
磁気センサ12が出力する信号は、位置検出回路13を経て、リニアモータ10のドライバ14に出力される。ドライバ14には、リニアモータ10を制御するのに適した形態をした電力を供給するPWMインバータ(PWM:Pulse Width Modulation)などの電力変換器、並びに位置検出回路13からの信号及び上位コンピュータからの指令によって電力変換器を制御する制御器が組み込まれる。
磁気センサ12と位置検出回路13とは、エンコーダケーブル15によって接続される。リニアモータ10のコイル4とドライバの電力変換器とは、動力ケーブル16によって接続される。
【0027】
図6は、ロッド1に連結されたボールスプライン20を示す斜視図である。
ロッド1に接続固定されたスプライン軸17の外周面には、軸線方向に沿って延びるスプライン溝17Aが複数形成される。これらのスプライン溝17Aは、互いに周方向に間隔を開け配置される。スプライン溝17Aには、ボールスプラインナット18のボール(転動体)38が転動可能に嵌め合わされる。すなわち、ボールスプラインナット18により、ロッド1に連結されたスプライン軸17を軸線方向に沿って摺動可能に支持している。
スプライン溝17Aにはボール38が転動するから、これらボール38に対する機械的強度を確保するために焼き入れがされる。
【0028】
ボールスプラインナット18は、スプライン軸17に遊嵌された円筒状の外筒37と、スプライン軸17と外筒37との間に転がり運動可能に介在される複数のボール38と、外筒37に組み込まれ、複数のボール38を扁平した環状又はサーキット状をなすボール循環路(転動体循環路)に整列する保持器39と、を備えている。
そして、外筒37は、中央に外筒37を収容するための貫通孔が形成されたハウジング等(不図示)に支持される。このハウジングは、フォーサ2に対して相対移動しない状態に設置される。
【0029】
また、外筒37の内周面には、スプライン軸17のスプライン溝17Aに対応して軸線方向に延びる複数条のボール転走溝(転動体転走溝)が形成される。外筒37の軸線方向の両端には、外筒37に保持器39を組み付けるための止め輪40が夫々設けられている。
【0030】
ボールスプラインナット18に対するスプライン軸17の相対的な直線運動に伴い、ボール38がスプライン軸17のスプライン溝17Aと外筒37のボール転走溝との間を転がり運動する。
外筒37のボール転走溝の一端まで転がったボール38は、保持器39によりスプライン溝17Aから掬い上げられ、U字状の方向転換路42を経由した後、向きを変えてボール転走溝と平行に延びる戻し通路41に入る。戻し通路41を通過したボール38は、反対側の方向転換路42を経由した後、再びスプライン溝17Aに戻される。
ここで、戻し通路41は保持器39と外筒37との間に形成されているので、戻し通路41においてボール38がスプライン溝17Aに接触することはない。
【0031】
ボールスプラインナット18に形成されるボール転走溝とスプライン軸17のスプライン溝17Aとの間には、ボール38が介在されるから、ボールスプラインナット18はスプライン軸17がその軸線の回りに回転するのを制限する。すなわち、ボールスプラインナット18とスプライン軸17とは、互いの軸周りの相対回転が規制される。
【0032】
このように、アクチュエータAには、前述したボールスプラインナット18とスプライン軸17とを有するボールスプライン20が用いられる。
これにより、ボールスプラインナット18がロッド1を軸線方向に沿って摺動可能に支持する。また、ボールスプラインナット18により、ロッド1がフォーサ2に対してその軸周りに回転することを規制される。したがって、ロッド1の軸線方向の動作精度がより高められる。
【0033】
図7は、第一実施形態に係る磁界遮蔽機構50を示す図である。図7(a)は図3の一部拡大図であり、図7(b)は図7(a)の断面図である。
ロッド1とスプライン軸17の間(連結部)には、ロッド1のマグネット3によるスプライン軸17の磁化を防止又は緩和するために、磁界遮蔽機構50が設けられる。
磁界遮蔽とは、マグネット3からスプライン軸17への磁界の影響(磁化)を完全に遮断(遮蔽)する場合に限らず、磁界の影響を弱める(減少させる)場合も含む。つまり、マグネット3からスプライン軸17への磁気漏れを防止又は減少できればよい。
【0034】
磁界遮蔽機構50は、ロッド1の内部に配置された複数のマグネット3のうち最もスプライン軸17側に配置されたマグネット3a(第一磁石)とスプライン軸17(連結部材)との間に、リング形(環形)のマグネット52(第二磁石)を配置したものである。
マグネット52は、マグネット3a及びスプライン軸17の基端部17bと同一の外径を有し、中心部が空間(中空部54)となっている円筒形の磁石である。また、マグネット52は、半径方向(放射方向)に着磁された二層(積層形)の磁石である。
マグネット52としては、フェライト磁石、アルニコ磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石等の焼結磁石が用いられる。
【0035】
すなわち、複数の磁石53a,53bが互いに同極を対向させるようにして、半径方向に沿って配列される。本実施形態では、半径の異なる2つの円筒形の磁石53a,53bが互いに嵌め合うように接合される。内側の磁石53aは、内周面がN極、外周面がS極に着磁される。一方、外側の磁石53bは、内周面がS極、外周面がN極に着磁される。したがって、マグネット52の外周面(外環面)52aと内周面(内環面)52bは共にN極に着磁される。
【0036】
マグネット52は、その軸方法の一端面52cがマグネット3aの端面(N極)に接し、他端面52dがスプライン軸17の基端面17sに接するように配置される。つまり、マグネット3aの端面3asの磁極(N極)とマグネット52の外周面52a及び内周面52bの磁極(N極)とが同一(同極)となるように配置される。
マグネット52の着磁方向(半径方向,放射方向)とマグネット3aの着磁方向(長手方向,第一方向)が直交(交差)するように配置される。
【0037】
マグネット3a、スプライン軸17及びマグネット52の直径は同一であり、パイプ1aの中空空間に配置される。そして、ロッド1のパイプ1aの中空空間において、マグネット3a、スプライン軸17、マグネット52は、順次当接している。これにより、マグネット3aを含む複数のマグネット3及びポールシュー7がロッド1のパイプ1a内で軸線方向に移動しないように、固定される。
【0038】
マグネット52が有する磁力(磁束密度)は、マグネット3aの磁力に比べて小さい(弱い)。具体的には、マグネット3aが例えば約48MG(48KT)の場合、マグネット52が例えば約24MG(48KT)以下である。つまり、マグネット52が有する磁力は、マグネット3aの磁力の約1/2以下である。更に、後述する様に、マグネット52が有する磁力がマグネット3aの磁力の約1/6程度(約6MG(6KT))であっても、同様の効果が得られる。
【0039】
図8は、第一実施形態に係る磁界遮蔽機構50の効果(磁束密度の解析結果)を示す図である。
図8(a)はマグネット3aとスプライン軸17との間に磁界遮蔽機構50を配置した場合、図8(b)はマグネット3aとスプライン軸17との間にポールシュー7を配置した(磁界遮蔽機構50を配置しない)場合を示している。
なお、図8(a),図8(b)において、色調が濃い(暗い)部分は磁束密度が高く、薄い(明るい)部分は磁束密度が低いことを示している。
【0040】
図8(a)ではマグネット3aに比べてスプライン軸17の色調が薄く(明るく)なっている。一方、図8(b)ではマグネット3aとスプライン軸17の色調がほぼ同一になっている。
そして、図8(a)と図8(b)を比較すると、図8(a)ではスプライン軸17の色調が薄く(明るく)、図8(b)ではスプライン軸17の色調が濃く(暗く)なっている。
つまり、マグネット3aとスプライン軸17との間に磁界遮蔽機構50を配置した場合(図8(a))には、スプライン軸17が殆ど磁化されていないことが確認できる。一方、マグネット3aとスプライン軸17との間に磁界遮蔽機構50を配置しない場合(図8(b))には、マグネット3aの磁界(磁気)により、ポールシュー7及びスプライン軸17が共に磁化されることが確認できる。
【0041】
このように、マグネット3aとスプライン軸17との間にマグネット52を配置することで、スプライン軸17の磁化を防止(抑制)することができる。
マグネット52の外周面52aと内周面52bの磁極(N極)からの磁力線がマグネット3aの端面3asの磁極(N極)からの磁力線とが対向するため、マグネット3aの端面3asの磁極(N極)からの磁力線の方向が変化して、スプライン軸17への磁界の影響が小さくなると推測される。
【0042】
マグネット52の磁力(磁束密度)としては、マグネット3aの端面3asの磁極からの磁力線の方向を変化させれば足りるので、マグネット3aよりも弱い(小さい)磁力であってもよい。上述したように、本実施形態では、マグネット52の磁力は、マグネット3aの磁力(約24MG(48KT))の約1/2以下である。具体的には、マグネット52の磁力は、約1/6程度(約6MG(6KT))である。
【0043】
また、マグネット52の磁力がマグネット3aの磁力の約1/2以下であるため、マグネット52のスプライン軸17に対する磁界の影響も、マグネット3aの場合に比べて小さい。しかも、マグネット52がスプライン軸17に接する他端面52dには、N極とS極が着磁されるので、マグネット52の他端面52dからの磁力線がスプライン軸17側に大きく広がることがない。
このため、マグネット52のスプライン軸17に対する磁界の影響は非常に小さく抑えられている。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の磁界遮蔽機構50によれば、簡単な構成によりスプライン軸17の磁化を確実に防止(抑制)することができる。すなわち、マグネット3aとスプライン軸17との間に、半径方向に着磁された環状(円筒形)のマグネット52を配置することで、スプライン軸17の磁化を防止(抑制)することができる。つまり、磁石(マグネット3a)に近接する磁性体(スプライン軸17)の磁化を簡単な構成により防止(抑制)することができる。
【0045】
このため、例えば、スプライン軸17の表面に鉄粉等が吸着して、スプラインナットの18の摺動を阻害するという不具合を防止できる。したがって、ロッド1の一端に接続した連結部材(スプライン軸17)の機能低下又は機能不全を回避できる。
また、例えば、スプライン軸17に吸着した鉄粉等の影響を避けるため、スプライン軸17の長さを伸ばして鉄粉等の付着のない領域にスプラインナットの18を嵌め合わせる等の対策が不要となる。したがって、スプライン軸17の長さを必要最小限に抑えることができ、装置の少スペース化、低価格化を図ることができる。
【0046】
図9は、第二実施形態に係る磁界遮蔽機構60の概略構成を示す模式図である。
なお、以下の説明において、第一実施形態に係る磁界遮蔽機構50と同一の構成部材等には同一の符号を付して、その説明を簡略又は省略する。
【0047】
第一実施形態に係る磁界遮蔽機構50では、外周面52aと内周面52bが共にN極に着磁された円筒形のマグネット52を用いた。これに対して、第二実施形態に係る磁界遮蔽機構60では、外周面62aと内周面62bが共にS極に着磁された円筒形のマグネット62を用いている。
【0048】
すなわち、マグネット62は、マグネット3a及びスプライン軸17の基端部17bと同一の外径を有し、中心部が空間(中空部64)となっている円筒形の磁石である。また、マグネット62は、半径方向(放射方向)に着磁された二層(積層形)の磁石(磁石63a,63b)である。
マグネット62としては、フェライト磁石、アルニコ磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石等の焼結磁石が用いられる。
【0049】
マグネット62は、その軸方法の一端面62cがマグネット3aの端面(N極)に接し、他端面62dがスプライン軸17の基端面17sに接するように配置される。つまり、マグネット3aの端面3asの磁極(N極)とマグネット62の外周面62a及び内周面62bの磁極(S極)とが異なる(異極)ように配置される。
マグネット62の着磁方向(半径方向,放射方向)とマグネット3aの着磁方向(長手方向,第一方向)が直交(交差)するように配置される。
マグネット62が有する磁力(磁束密度)は、マグネット3aの磁力とほぼ同一である。具体的には、マグネット3aが例えば約48MG(48KT)の場合、マグネット62も例えば約48MG(48KT)である。
【0050】
図10は、第二実施形態に係る磁界遮蔽機構60の効果(磁束密度の解析結果)を示す図である。すなわち、図10は、マグネット3aとスプライン軸17との間に磁界遮蔽機構60を配置した場合を示す。
なお、図10において、色調が濃い(暗い)部分は磁束密度が高く、薄い(明るい)部分は磁束密度が低いことを示している。
【0051】
図10ではマグネット3aに比べてスプライン軸17の色調が薄く(明るく)なっている。
そして、図10と図8(b)を比較すると、図10ではスプライン軸17の色調が薄く(明るく)、図8(b)ではスプライン軸17の色調が濃く(暗く)なっている。
更に、図10と図8(a)を比較すると、スプライン軸17の色調は、図8(a)の方が図10よりも若干薄く(明るく)なっていることが確認できる。
すなわち、マグネット3aとスプライン軸17との間に磁界遮蔽機構60を配置した場合には、磁界遮蔽機構50の場合と同様に、スプライン軸17が磁化されていないことが確認できる。
【0052】
このように、マグネット3aとスプライン軸17との間にマグネット62を配置することで、スプライン軸17の磁化を防止(抑制)することができる。
マグネット3aの端面3asの磁極(N極)からの磁力線が隣接するマグネット62の外周面62aと内周面62bの磁極(S極)に向かうため、スプライン軸17への磁界の影響が小さくなると推測される。
つまり、磁界遮蔽機構60によってもスプライン軸17の磁化を防止(抑制)することができる。
【0053】
上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0054】
例えば、マグネット3aの外形(外径)とマグネット52,62の外形(外径)を一致させる場合について説明したが、これに限らない。すなわち、マグネット3aの外形に対して、マグネット52,62の外形が倣う形状であればよい。具体的には、半径が異なる円環形や、多角形の角環状などであってもよい。
【0055】
マグネット52,62として焼結磁石を用いる場合について説明したが、これに限らない。マグネット52の磁力は、約6MG(6KT))で足りるので、いわゆるボンド磁石(ゴム磁石、塩ビ磁石、プラスチック磁石などとも呼ばれる)であってもよい。すなわち、フェライト磁石等を砕いてゴムやプラスチックに練り込んだ柔軟性のある磁石を用いてもよい。
特に、マグネット52は、比較的弱い磁力であっても磁界遮蔽機構50の機能を十分に果たすことができるので、安価なボンド磁石を用いることで、装置コストを低減できる。
【0056】
また、マグネット52,62の軸線方向の長さは、適宜変更可能である。また、マグネット52,62の着磁は、二層に限らず、多層であってもよい。
また、マグネット52,62の中空部54,64に非磁性体55,65(図7,図9参照)を配置してもよい。これにより、マグネット52,62の機械的強度を増強させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、ロッド1の一端側にのみにスプライン軸17及び磁界遮蔽機構50,60を配置する場合について説明したが、両端にスプライン軸17及び磁界遮蔽機構50,60を配置してもよい。
【0058】
また、磁気センサ12を設ける代わりに、磁気スケール、リニアスケール(リニアエンコーダ)等を設けて、フォーサ2に対するロッド1の位置を検出することとしてもよい。
【0059】
ロッド1(マグネット3a)に接続(近接)する磁性体からなる連結部材としてスプライン軸17を例にして説明したが、これに限らない。
例えば、磁性体からなる連結部材としてのシャフトを、ロッド1に連結し、このシャフトをブッシュ等のすべり軸受で支持する場合であってもよい。また、例えば、磁性体からなる連結部材として、電子部品等を吸着保持するノズルや電子部品等を狭持するハンド等の外部機器をロッド1に接続してもよい。
これらの場合であっても、ロッド1とシャフトや外部機器の間に、磁界遮蔽機構50,60を介在させることで、シャフトや外部機器の磁化を防止できる。したがって、外部機器の機械的又は電気的な動作・機能が阻害又は不全となる不具合が回避できる。
【0060】
また、本実施形態では、マグネット3a、磁界遮蔽機構50,60(マグネット52,62)及びスプライン軸17がそれぞれ直接接触する場合について説明したが、これに限らない。例えば、それぞれの部材の間に非磁性体等を介在させてもよい。
【0061】
また、スプライン20の転動体としてボール38が複数設けられていることとしたが、転動体として、ボール38以外のローラ等を用いても構わない。
【符号の説明】
【0062】
A…アクチュエータ、 1…ロッド、 2…フォーサ、 3,3a…マグネット(第一磁石)、 4…コイル、 10…リニアモータ、 17…スプライン軸(連結部材)、 18…ボールスプラインナット、 50…磁界遮蔽機構、 52…マグネット(第二磁石)、 52a…外周面(外環面)、 52b…内周面(内環面)、 54…中空部、 55…非磁性体、 60…磁界遮蔽機構、 62…マグネット(第二磁石)、 62a…外周面(外環面)、 62b…内周面(内環面)、 64…中空部、 65…非磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に着磁された第一磁石の磁極側に、放射方向に着磁された環形の第二磁石を、前記第一方向と前記放射方向が交差するように配置して、
前記第一磁石から前記第二磁石側への磁界を遮蔽又は減少させることを特徴とする磁界遮蔽機構。
【請求項2】
前記第一磁石における前記磁極と、前記第二磁石の外環面及び内環面の磁極が同極であることを特徴とする請求項1に記載の磁界遮蔽機構。
【請求項3】
前記第一磁石における前記磁極と、前記第二磁石の外環面及び内環面の磁極が異極であることを特徴とする請求項1に記載の磁界遮蔽機構。
【請求項4】
前記第二磁石は、複層に着磁した積層形の磁石であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の磁界遮蔽機構。
【請求項5】
前記第二磁石の中空部に非磁性体を配置したことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載の磁界遮蔽機構。
【請求項6】
前記第二磁石の環状外形を、前記第一磁石の前記第一方向に交差する方向の外形に倣わせることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか一項に記載の磁界遮蔽機構。
【請求項7】
マグネットを有するロッドと、前記ロッドを囲むコイルを含むフォーサと、を備え、前記マグネットの磁界と前記コイルに流れる電流とによって、前記ロッドと前記フォーサとを前記ロッドの長手方向に沿って相対移動させるアクチュエータにおいて、
前記ロッドの一端に、請求項1から6のうちいずれか一項に記載の磁界遮蔽機構を介して、磁性材料から形成された連結部材が接続されることを特徴とするアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−44767(P2012−44767A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183208(P2010−183208)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】