説明

神経プローブ刺入具

【課題】機械的強度の比較的弱い神経プローブを脳深部まで刺入するための神経プローブ刺入具を提供する。
【解決手段】神経プローブ刺入具は,脳の硬膜を貫通しうる硬度を有する外管と,外管に挿通され,外管よりも硬度が小さい内管とを備え,内管は,外管の端部から突出可能に外管に対して移動可能であって,内管の内部に,電極を有する神経プローブが収容可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,脳機能の解明及び治療などを行うために,主に脳内部に神経プローブを刺入するための神経プローブ刺入具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の社会の高齢化に伴い,脳障害による疾病(例えば,パーキンソン病,運動麻痺,癲癇など)を発症した患者が増大している。このような脳障害による疾患の治療法開発のために,脳機能の解明,特に,脳内の神経回路の活動の解明は不可欠である。そのために,脳内に挿入され,脳細胞の電気信号(脳波)を検出する神経プローブが従来より用いられてきた。また,脳障害のよる疾患の治療において,障害が発生している脳の部位を特定するため,さらに,脳内に電気刺激を与える手段としても神経プローブは利用される。
【0003】
また,パーキンソン病の治療ではさまざまな薬物治療法があるが,薬物治療法は長い時間が経つと効果が失われたり,副作用が出る場合もあり,薬物治療が困難な患者に対しては,大脳の基底核(basal ganglia)を刺激するDBS(Deep Brain Stimulation:脳深部刺激療法)が一つの治療選択肢になっている。
【0004】
脳内の電気信号を検出し,また,脳に電気刺激を与えるために脳に挿入される神経プローブは,例えば,特許文献1及び2に開示されるように,LSI(Large Scale Integration)の製造技術を用いて,シリコン製の数百ミクロン程度の細いプローブとして実現されている。シリコン製神経プローブは,その先端に,計測(記録)及び刺激のための複数の電極や,血流量センサ等各種センサなどの微小回路を搭載することができ,複数の機能が集積された多機能プローブである。また,非特許文献1で提案されているシリコン製の神経プローブは,大脳深部の基底核まで届く長さ(約40mm)を有し,その先端部分の片面だけではなく,両面に電極を有する構成となっている。両面に電極が配置されることで,神経プローブの両面側からの電気信号を検出可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−68403号公報
【特許文献2】特開2006−230955号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics 48 (2009) 04C194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,シリコン製神経プローブは,全体がシリコン基板で形成されているために機械的強度が小さく,脆いため,基底核などの脳深部までは,単独では刺入できない。例えば,特許文献2には,ステンレス鋼パイプにより脳膜(髄膜)を貫通させ,シリコン製神経プローブを脳内に刺入することが開示されているが,比較的硬い硬膜を含む髄膜を貫通できるほどに硬いステンレス鋼パイプをそのまま脳深部まで刺入し,神経プローブを脳深部まで導入することは,脳組織に大きな損傷を与え,侵襲性が高い。
【0008】
そこで,本発明の目的は,機械的強度の比較的弱い神経プローブを脳深部まで刺入するための神経プローブ刺入具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の神経プローブ刺入具は,脳の硬膜を貫通しうる硬度を有する外管と,外管に挿通され,外管よりも硬度が小さい内管とを備え,内管は,外管の端部から突出可能に外管に対して移動可能であって,内管の内部に,電極を有する神経プローブが収容可能であることを特徴とする。
【0010】
好ましくは,内管は,脳細胞を傷つけない程度の硬度を有し,外管が硬膜を貫通した状態で,内管は,外管から突出して,脳内に延びるように配置され,内管内の神経プローブを脳内に刺入する。
【0011】
例えば,シリコン基板から形成される神経プローブが内管内に収容され,または,神経電位記録用電極と電気刺激用電極を含む複数の電極を有する神経プローブが内管内に収容される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,機械的強度が比較的弱い神経プローブを脳深部まで刺入することができる。神経プローブを脳内の所望位置に正確に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態における神経プローブ刺入具の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における神経プローブ刺入具の構成を示す図である。
【図3】神経プローブ20を説明するための図である。
【図4】神経プローブ20を神経プローブ刺入具10により脳内に刺入する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら,かかる実施の形態例が,本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0015】
図1は,本発明の実施の形態における神経プローブ刺入具の概念を示す図,図2は,本発明の実施の形態における神経プローブ刺入具の構成例を示す図であり,図2(a)は正面図,図2(b)は端面図である。神経プローブ刺入具10は,外管11と内管12を有する2重管として構成される。外管11と内管12は,共にニッケル合金などの金属管で形成され,内管12の外径は,外管11の内径より小さいかほど同一であり,内管12は,外管11内を移動又は摺動可能である。図2(b)では,内管12が外管11よりわずかに突出している状態を示す。内管12は,その内部に神経プローブ20を収容可能な内径を有する。例えば,幅300μm程度の神経プローブ20を内管12に収容する場合,概略的には,内管の外径500μm,外管の外径700μm(肉厚100μm)程度の寸法となる。また,図1では,例示として,猿の脳に刺入される状態が示されているが,もちろん,人間の脳への刺入も可能である。また,外管11及び内管12の長さ寸法は,適宜必要な長さに設計される。
【0016】
図3は,神経プローブ20を説明するための図である。神経プローブ20は,シリコン基板を本体とし,半導体製造プロセスを用いて,その先端部分に複数の微小電極が形成される。電極は,電気刺激用電極及び神経電位の記録・計測用電極のいずれにも適用することができる。シリコン製神経プローブ20は,神経電位記録用と電気刺激用電極の両方を搭載可能であるため,一回の刺入・埋め込みで,記録及び刺激が行え,神経プローブを記録や刺激ごとに複数回出し入れする必要がなく,神経プローブの出し入れに伴う脳組織への損傷を抑えることができる。また,電極を神経プローブの両面に配置することで,神経電位を表裏の両電極で検知することで,神経電位の立体的な記録・計測が可能となるとともに,一本の神経プローブによる計測可能範囲が広がり,且つ電気刺激を行える範囲も拡大することができる。さらに,神経プローブ20は,電極に加えて,血流量センサなど各種センサを搭載可能であり,また,薬液を注入するためのマイクロ流路や,光を伝搬させる光導波路などが設けられていてもよい。また,増幅機能や各種信号処理(信号多重化処理,A/D変換処理など)を行う回路(LSIチップ)が神経プローブ20上に形成されてもよい。神経プローブ20は,極細フレキシブルケーブル(フレキシブルチューブ)を介して,計測・刺激装置などの外部装置と接続している。
【0017】
神経プローブ20は,その一端側に設けられた電極が,外管11及び内管12の一端側に配置されるように収容され,神経プローブ20の他端側から延びる極細フレキシブルケーブルは,内管12内に収容され,内管12の他端側から外部装置に延びる。
【0018】
このように,シリコン製神経プローブ20は,神経電位の記録と電気刺激,各種センサ測定,薬液注入など様々な用途に対応する多機能プローブであり,一回埋め込むことで,その後,さまざまな治療に対応可能となるが,シリコン基板は,機械的強度が比較的弱く,脳に挿入する際,シリコン製神経プローブ20単体では,比較的硬い硬膜を含む脳膜を貫通して,脳深部まで刺入することができない。
【0019】
神経プローブ刺入具10は,このようなシリコン製神経プローブ20を,脳深部に刺入するために,上述した二重管構造を有している。神経プローブ刺入具10について,さらに詳しく説明する。
【0020】
外管11は,硬膜を貫通可能な程度の硬度を有する。脳を覆っている髄膜には,頭蓋骨側に張りついている硬膜と,大脳側にくっついている軟膜,硬膜と軟膜の間にあるくも膜の3種類の膜があるが,この髄膜を貫通して脳内に刺入するために,髄膜のうち最も硬い硬膜を破ることができる程度の硬度が必要となる。外管11を当該硬度で形成することで,外管11が硬膜を破り,外管11とともに,その内部に収容される内管12及び神経プローブ20は,髄膜を貫通し,脳内に導入される。
【0021】
内管12は,外管11よりも小さい硬度で形成される。内管12は,髄膜の内側の脳内に刺入される管であるので,硬膜を貫通可能な程度又はそれより大きい硬度を有すると,内管12の刺入により,脳神経細胞に損傷を与えるおそれがある。内管12は,脳神経細胞に損傷を与えず,且つ脳内を進入可能な程度の適度な柔軟性を有する硬度で形成される。外管11と内管12の硬度差は,例えば,外管11と内管12が同一材質で形成する場合は,肉厚差で調整可能であり,もちろん,硬度の異なる別々の材料により,外管11と内管12を作成してもよい。外管11と内管11は,ニッケル合金に限られることなく,所望の寸法で所定の硬度を得られる様々な材料から選択しうる。
【0022】
図4は,神経プローブ20を神経プローブ刺入具10により脳内に刺入する工程を示す図である。神経プローブ刺入具10の断面が示される。神経プローブ20を収容した神経プローブ刺入具10を脳内に刺入する場合は,まず,図4(a)に示すように,内管12を外管11内に収容した状態で,外管11により脳の硬膜を破り,神経プローブ刺入具10を進入させる。神経プローブ20は,内管12とともに外管11内に格納されているため,硬膜貫通による神経プローブ20の機械的ダメージはない。そして,外管11により硬膜を貫通させたところで,図4(b)に示すように,内管12を外管11から延ばすように出して,内管12のみを脳内に進入させる。内管12は,脳内を進入できる十分な硬度を有しているので,脳深部の所望の位置まで,内管12を刺入することができ,内管12に収容される神経プローブ20も,脳深部まで到達する。内管12は,脳神経細胞にダメージを与えない柔軟性及び細さであるために侵襲性が十分に低い。神経プローブ12を脳内の所定位置に位置決めした後,図4(c)に示すように,内管12のみが引き抜かれ,神経プローブ12が脳内に埋め込まれる。こうして,神経プローブ20を,脳深部にまで折れずに正確な位置に刺入することができる。
【0023】
一旦埋め込まれた神経プローブ20を脳内から取り出す場合は,内管12のみを脳内に刺入して,脳内に留置されている神経プローブ20を内管12内に収容してから,神経プローブ20とともに内管12を引き抜けばよい。
【符号の説明】
【0024】
10:神経プローブ刺入具,11:外管,12:内管,20:神経プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳の硬膜を貫通しうる硬度を有する外管と,
前記外管に挿通され,前記外管よりも硬度が小さい内管とを備え,
前記内管は,前記外管の端部から突出可能に前記外管に対して移動可能であって,前記内管の内部に,電極を有する神経プローブが収容可能であることを特徴とする神経プローブ刺入具。
【請求項2】
請求項1において,
前記内管は,脳細胞を傷つけない程度の硬度を有し,
前記外管が硬膜を貫通した状態で,前記内管は,前記外管から突出して,脳内に延びるように配置され,前記内管内の前記神経プローブを脳内に刺入することを特徴とする神経プローブ刺入具。
【請求項3】
請求項1又は2において,
シリコン基板から形成される神経プローブが前記内管内に収容されることを特徴とする神経プローブ刺入具。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて,
神経電位記録用電極と電気刺激用電極を含む複数の電極を有する前記神経プローブが前記内管内に収容されることを特徴とする神経プローブ刺入具。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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