説明

神経保護効果のある化合物

本出願は神経の変性を防止する方法を開示しており、その方法は、(a)トランスフォーミング増殖因子のスーパーファミリーのメンバーまたは神経栄養因子タンパク質をコードするDNA配列をプロモーターに機能的に連結して含む組換え体ウイルベクタースまたはプラスミドベクターを作り出すこと、(b)培養細胞群をこの組換え体ベクターでインビトロにてトランスフェクトして、その培養細胞群を得ること、および(c)傷害を受けた神経の近辺領域にそのトランスフェクト細胞群を移植し、傷害を受けた神経の近辺領域内において該DNA配列を発現させて神経の変性を防止すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の技術分野
【0002】
本発明は、神経変性の防止に関する。
【背景技術】
【0003】
2.技術の一般的背景および状況
【0004】
本技術分野では、治療的な神経保護分子化合物および同化合物を使用して神経系および神経細胞の変性を防止する方法が求められている。
【非特許文献1】Leferら, J MoI Cell Cardiol, 1992, 24: 585-593
【非特許文献2】Ripamonti and Duneas, PlastReconstr Surg, 1998, 101: 227-239
【発明の開示】
【0005】
本発明の一態様では、本発明は神経保護化合物に関する。特に本発明の例示としての化合物は、アンフェタミンまたはカイニン酸の細胞障害性に対抗して神経を保護する。
【0006】
本発明の一実施態様では、本発明は神経の変性を防止する方法であって、以下を含む方法に関する。
【0007】
(a)トランスフォーミング増殖因子のスーパーファミリーのメンバーまたは神経栄養因子タンパク質をコードするDNA配列をプロモーターに機能的に連結して含む組換え体ウイルスベクターまたはプラスミドベクターを作り出すこと、
【0008】
(b)培養細胞群をこの組換え体ベクターでインビトロにてトランスフェクトして、培養細胞群を得ること、および
【0009】
(c)傷害を受けた神経の近辺領域にこのトランスフェクト細胞を移植し、傷害を受けた神経の近辺領域内において該DNA配列を発現させて該神経の変性を防止すること。
【0010】
この方法において、トランスフォーミング増殖因子は骨形態形成タンパク質(bone morphogenic protein:BMP)であってよく、このBMPはBMP−2、BMP−3、BMP−4、またはBMP−9であってよい。他の実施態様では、上記方法において、神経栄養因子はGDNFであってよい。
【0011】
他の態様で、この細胞は結合組織細胞であってよく、例えば線維芽細胞である。またこの細胞は神経細胞であってよく、例えばグリア細胞またはシュワン細胞である。この細胞は照射処理してよく、更にこの神経は末梢神経であってよい。上記方法においてベクターはウイルスベクターであってよい。このウイルスベクターはレトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはヘルペスウイルスベクターであってよい。
【0012】
他の実施態様では、本発明は神経の変性を防止する方法に関し、傷害を受けた神経の近辺領域にBMPタンパク質含有組成物を投与することを含む。この方法では、このBMPタンパク質はBMP−2、BMP−3、BMP−4、またはBMP−9であり得る。
【0013】
また、移植前の細胞集団は、例えば液体窒素下に10%DMSO中に保存してよい。
【0014】
(図面の簡単な説明)
本発明は、詳細説明、および本発明を限定しない単なる実例として示す添付図面から、更に十分に理解されよう。
【0015】
図1は、3T3−hBMP細胞においてメタンフェタミン(MAP)により誘導された細胞障害性を示す。黒塗りボックスは、MAP処理しなかった場合の3T3細胞、3T3−PMT−BMP3、または3T3−hBMP4細胞を示し、斜線ボックスは1mMのMAPで処理した場合を示す。
【0016】
図2は、図1で観察した各細胞に対応する細胞顕微鏡写真を示し、図2A、2B、および2CはMAP処理しなかった場合の対照3T3細胞、3T3−PMT−BMP3、または3T3−hBMP4細胞に対応し、図2D、2E、および2Fは図1で上に表記したごとく1mMのMAPで処理した場合の対照3T3細胞、3T3−PMT−BMP3、または3T3−hBMP4細胞に対応する。
【0017】
図3は、マウスにおいて、カイニン酸塩(I.C.V. 0.1μg/頭)で誘起されたニューロン欠損に対するNIH3T3−BMP4の効果を示す。値はそれぞれ動物4匹の平均値+/−標準偏差であり、対照群に対して*p<0.001であり、Sal+KAまたは3T3+KA(DMRによるANOVAテスト)に対して#p<0.01である。
【0018】
図4は、マウスをカイニン酸塩処理した結果としてのニューロン欠損の顕微鏡写真を示す。図4Aはコントロールの生理食塩液で処理した動物の海馬CA3切片を示し、図4Bは生理食塩+カイニン酸塩液で処理した動物のCA3切片を示し、図4Cはカイニン酸塩を注入する前にNIH3T3のみで処理した動物のCA3切片を示し、図4Dはカイニン酸塩を注入する前に組換え体BMP4を発現するNIH3T3細胞で処理した動物のCA3切片を示す。
【0019】
(好ましい実施態様の詳細説明)
本出願では、「a」および「an」は単数および複数の両方の対象を示すのに用いる。
【0020】
本出願書において、「結合組織細胞」または「結合組織の細胞」には結合組織に存在し膠原性の細胞外マトリックスを分泌する細胞、例えば線維芽細胞、軟骨細胞(cartilage cell)(chondrocytes)、および骨細胞(bone cell)(骨芽細胞(osteoblasts)/osteocytes)、ならびに脂肪細胞(fat cell)(adipocyte)および平滑筋細胞が挙げられる。好ましくは、結合組織細胞は線維芽細胞、軟骨細胞、および骨細胞である。更に好ましくは、結合組織細胞は線維芽細胞である。また結合組織細胞には間葉細胞が挙げられ、これは未成熟な線維芽細胞として知られている。本発明は、結合組織細胞の混合培養物を使用しても単一種の細胞を使用しても実施可能であると認められる。
【0021】
本明細書において、傷害を受けた神経または神経系の「近辺」に細胞を注入するという意味は、その注入部位と傷害領域との間の領域が狭く、その結果傷害部位の傷害神経細胞の変性が有効に防止されることである。したがって、傷害を受けた神経の近辺に細胞を注入した場合に、注入した細胞が傷害部位またはその接近部位において有効なポリペプチドを発現することが含まれ、このポリペプチドによって直接的もしくは間接的に神経変性の防止成果が可能になる。細胞は傷害部位で漏れ出てしまう傾向があるので、特に脊椎索が傷害した場合の末梢神経には傷害部位の「上流」に注入が可能である。
【0022】
本明細書において、「プロモーター」には、真核細胞において活性であり、転写を制御する、どのようなDNA配列も可能である。そのプロモーターは真核細胞と原核細胞の一方または両方において活性であり得る。このプロモーターは哺乳動物細胞で活性であるのが好ましい。このプロモーターは構成的に発現されるか誘起されてよい。このプロモーターは誘起されるのが好ましい。このプロモーターは外部刺激によって誘起されるのが好ましい。このプロモーターはホルモンまたは金属によって誘起されるのが更に好ましい。このプロモーターは重金属によって誘起されるのがなおいっそう好ましい。最も好ましくは、このプロモーターはメタロチオネインの遺伝子プロモーターである。同様に転写を制御する「エンハンサー要素」はDNAベクター構造体に挿入され、かつ本発明の構造体とともに使用されて目的遺伝子の発現を増進することができる。
【0023】
本明細書において、「選択可能なマーカー」には、導入DNAを安定に維持している細胞によって発現される遺伝子産物であって、変化した表現型、例えば形態変化、あるいは酵素活性をその細胞に発現させる原因産物となるものが挙げられる。トランスフェクト遺伝子を発現する細胞を単離するためには、選択可能なマーカー、例えば抗生物質や他の薬剤に対する抵抗性を付与する酵素活性、を有するマーカーをコードする第二の遺伝子を同細胞に導入する。選択可能なマーカーの例には、チミジンキナーゼ、ジヒドロ葉酸還元酵素、カナマイシン、ネオマイシン、ゲネチシン等のアミノグリコシド系抗生物質に対する抵抗性を付与するアミノグリコシドリン酸転移酵素、ヒグロマイシンBリン酸転移酵素、キサンチン−グアニンホスホリボシル転移酵素、CAD(デノボウリジン生合成の最初の三つの酵素活性を有する単独タンパク質−カルバミルリン酸合成酵素、アスパラギン酸塩カルバミル転移酵素、およびジヒドロオロターゼ)、アデノシン脱アミノ酵素、アスパラギン合成酵素(Sambrookら, Molecular Cloning, Chapter 16. 1989、そのすべての内容は参照により本明細書に援用される)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書において、「トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)のスーパーファミリー」には、胚芽の発達過程で広範な分化プロセスに関与する構造的に関連するタンパク質のグループが包含される。このファミリーには、例えば正常な雄の性発達に必要なミューラー管抑制物質(MIS)(Behringerら, Nature, 345:167, 1990)、背腹軸の形成および仮想円板の形態形成に必要なショウジョウバエのデカペンタプレジック(DDP)遺伝子産物(Padgettら,Nature, 325:81-84, 1987)、卵の植物極に局在するゼノパスVg−1遺伝子産物(Weeksら, Cell, 51:861-867, 1987)、ゼノパス胚の中胚葉および前面構造の形成を誘起できるアクチビン(Masonら, Biochem, Biophys. Res. Commun., 135:957-964, 1986)(Thomsenら, Cell, 63:485, 1990)、および軟骨および骨の形成を誘起する骨形成タンパク質(BMP、例えばBMP−2、3、4、5、6および7、オステオゲニンOP−1)(Sampathら, J. Biol. Chem., 265:13198, 1990)が挙げられる。TGF−β遺伝子産物は種々の分化プロセス、例えば脂質形成、筋肉形成、軟骨形成、造血、および上皮細胞の分化に影響を及ぼすことができる(概説にMassague, Cell 49:437, 1987参照、そのすべての内容は参照により本明細書に援用される)。
【0025】
TGF−βファミリーのタンパク質は、先ず大型の前駆体タンパク質として合成され、続いてC末端から約110〜140個のアミノ酸の塩基性残基の塊状部分が加水分解による開裂を受ける。このタンパク質のC末端領域は全て構造的に関連しているので、それら相互の相同性の程度に基づいて、異なるメンバーをそれぞれ別個のサブグループに分類することができる。特定のサブグループ内での相同性は、70%〜90%のアミノ酸配列一致であるが、サブグループ間での相同性は著しく低く、概ね20%〜50%である。それぞれの場合において、活性種はC末端断片がジスルフィド結合した二量体の態様をしている。これまで検討してきた大部分のファミリーメンバーではホモ型二量体が生物学的に活性であるのが判っているが、他のファミリーメンバーでは、インヒビン(Ungら, Nature, 321:779, 1986)やTGF−β(Cheifetzら, Cell, 48:409, 1987)のようにヘテロ型二量体も検出されており、ヘテロ型二量体は生物学的特性がそれぞれのホモ型二量体の特性とは異なるようである。
【0026】
TGF−β遺伝子スーパーファミリーのメンバーには、例えばTGF−β3、TGF−β2、TGF−β4(ニワトリ)、TGF−βl、TGF−β5 (ゼノパス)、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、OP−l/BMP−7、BMP−8、BMP−9、ショウジョウバエ 60A、ショウジョウバエDPP、Vgrl、GDF−I、ゼノパスVgf、インヒビン−βA、インヒビン−βB、インヒビン−α、およびMISが挙げられる。これらの遺伝子の多くはMassague, Ann. Rev. Biochem. 67:753-791,1998において検討されており、そのすべての内容は参照により本明細書に援用される。
【0027】
TGF−β遺伝子スーパーファミリーの好ましいメンバーはTGF−βである。更に好ましいメンバーはTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、OP−l/BMP−7、BMP−8、またはBMP−9である。
【0028】
タンパク質を上記の指示名称で記載する場合、そのタンパク質が野生型の正確な配列を有するとは限らないと理解される。タンパク質の配列上の変異は容認可能であり、機能的にそのタンパク質と実質的に同じ活性を呈する他のポリペプチド配列もその指示名称に包含される。
【0029】
神経組織
【0030】
神経組織は脊索に影響を受けて胚期の外胚葉から派生する。外胚葉が誘起されると厚めの神経板が形成され、次にそれが分化し、最終的にはその末端が融合して神経管が形成され、その管から全ての中枢神経系が派生する。中枢神経系は脳、頭部神経、および脊髄神経からなる。末梢神経系は神経堤と呼ばれる神経溝に隣接する細胞から派生する。
【0031】
神経組織は身体全体に分布し、複雑な統合通信ネットワークを形成している。神経細胞(ニューロン)は他のニューロンと交信するために回路を形成し、その回路は非常に単純なものから非常に複雑で高次元のものまである。ニューロンがメッセージを実際に伝達し統合する間に、グリア細胞と呼ばれる他の神経組織細胞はニューロンを助けるためにニューロンを保持、保護、防御および栄養供給する。グリア細胞は脳ではニューロンより約10倍多く存在する。グリア細胞はニューロンの働きとって必要な微小環境を作製し、時には神経による加工処理と活動を補助する。ニューロンは励起可能な細胞である。このことの意味は、刺激が適切であれば活動ポテンシャルが起動し、それが細胞膜全体に拡がって情報を遠隔の細胞に伝達するということである。ニューロンは独立の機能単位であり、その役割は刺激を受理し、伝達し、加工処理することである。
【0032】
一般に、ニューロンは三つの部分から構成される。すなわち、核と細胞器官が局在している細胞本体、細胞本体から伸長する突起であって環境または他のニューロンからの刺激を受ける樹状突起、および細胞本体から伸長する長い単一の突起であって神経インパルスを他の細胞に伝達する軸索である。軸索は通常その遠位末端で枝分かれしており、各枝は他の細胞上で終結しその終末端に球体がある。この終末端の球体が隣接の細胞と相互作用することによって、シナプスと呼ばれる構造が形成される。シナプスは分化しており、信号を受け取り、それを電位に変換する。
【0033】
ヒトの身体に存在するほとんどのニューロンは多極性であり、このことはそれらニューロンには2個以上の細胞突起があり、その1個だけが軸索で他の突起は樹状突起であることを意味する。網膜または嗅粘膜の2極ニューロンには1個の樹状突起と軸索が細胞本体から出ている。脊髄索の神経節には偽単極ニューロンが存在するので、樹状突起が採取した知覚刺激は細胞本体を通過せずに直接に軸索に到達可能である。またニューロンは機能によって分類してもよい。知覚ニューロンは感覚刺激の受理と伝達に関与する。運動ニューロンは刺激を送って筋肉と腺を制御する。他のニューロン、すなわち介在ニューロンは、機能的なネットワークの構成部分としてのニューロンの間で調節媒体として作用する。
【0034】
シナプスは、細胞信号を伝搬する機能に分化した細胞連結体である。多くのシナプスは化学的シナプスであり、シナプス前部末端の小胞には化学物質メッセンジャーが含有されており、シナプス前部の膜が刺激されるとこのメッセンジャーはシナプス間隙に放出される。化学物質メッセンジャーは拡散してシナプス間隙を横断しシナプス後部の膜のレセプターに結合する。これにより、シナプス後部の膜の極性状態に変化が誘起され、細胞活性が影響を受ける。神経と筋肉の接合部はシナプスの特異な型である。35個を超える神経伝達物質が知られており、大部分が小分子(一酸化窒素、アセチルコリン)、カテコールアミン(ノルエピネフリン、セロトニン)、または神経に活性なペプチド(エンドルフィン、バソプレシン)である。神経伝達物質は一度使用されると、酵素分解、拡散、またはシナプス前部細胞によるエンドサイトーシスにより急速に除去される。
【0035】
ミエリンと呼ばれる絶縁性物質に包まれたニューロンがある。この脂質に富んだ物質は、末梢神経系ではグリア細胞;シュワン細胞により、また中枢神経系では希突起神経膠細胞によってできている。絶縁すると、脱分極する必要がある膜表面積が減少するので、より迅速な神経伝導が可能になる。ミエリンで包まれたニューロンでは、ミエリン化されていない1つの区域から他の区域へ神経インパルスが軸索の長さを飛び越える。或る神経組織では組織内部においてニューロンの細胞本体が欠落すると、大型の末梢神経や脳の白色物質のようにミエリン鞘によって組織が白色に見える。星状神経膠細胞と呼ばれる他のグリア細胞は、構造の統合、ニューロンへの栄養供給、および神経組織の微小環境の維持に関与している。星状神経膠細胞どうしは間隙の接合部を介して相互に直接交信し、ニューロンを健全に生存させるために局部環境を制御することができる。上衣細胞は脊髄と脳室に沿って並び、脳脊髄液を分泌する。ミクログリアと呼ばれる他の小さなグリア細胞は貪食細胞であって、成人中枢神経系の炎症および修復に関与している。
【0036】
神経組織は励起可能な組織であるから、電気インパルスを受け取り伝達することができる。中心的な細胞型はニューロンと呼ばれる。通常、ニューロンには細胞本体、入力信号を受け取る樹状突起、および電位を伝達する軸索がある。
【0037】
ニューロンは知覚、運動、分泌、または連合ニューロンに分類してよい。しばしばこれらは伝達速度、直径、およびミエリンと呼ばれる脂質タンパク質の特化した絶縁物の存在の有無によって分類されている。A型繊維はミエリン化されており、インパルスを12〜120m/秒で伝達することができる。B型もミエリン化された繊維であるが、インパルスを3〜5m/秒で単に伝達する。C型繊維はミエリン化されておらず、直径が小さく、非常に緩徐(2.5m/秒)である。A型繊維の例は運動神経であり、腓腹筋を神経支配する。自律神経の遠心性節前ニューロンはB型繊維の例であり、広範性の痛みに関する情報を伝達する知覚ニューロンは緩徐なC型繊維の例である。
【0038】
知覚ニューロンは或る形式の情報を環境から検出するのに適している。これらには、例えば、圧力やストレッチのようなものを知覚する機械的受容器、温度受容器、網膜の光受容器、および化学受容器、例えば味蕾や嗅覚受容器が挙げられる。連合ニューロン、または介在ニューロンは通常は脊髄および脳に存在し、その場所で求心性の知覚ニューロンを遠心性の運動または分泌ニューロンに連結する。
【0039】
ニューロンどうしはシナプスと呼ばれる構造を介して相互に交信する。軸索の終末には一個以上の末端ボタンがあり、これには多数の小胞が含有されている。これらの小胞は神経伝達物質と呼ばれる化学物質で満たされている。アセチルコリンはシナプスに最も頻繁に存在する神経伝達物質であるが、ノルエピネフリン、セロトニン、およびGABAのような他の化学物質もニューロンに応じて利用されることがある。インパルスが軸索を降下して末端ボタンに到達すると小胞はニューロン膜と融合し、神経伝達物質が放出される。次に化学物質は狭いシナプス間隙を横断し、信号を受け取るニューロンのシナプス後部膜の上にあるこの化学物質に対する特定の受容器に拡散する。
【0040】
神経伝達物質が受容器と相互作用すると、膜電位に変化が生じ、この変化により新たなインパルスがシナプス後部のニューロンに誘起される。酵素アセチルコリンエステラーゼがシナプスに存在すると、アセチルコリンが分解され刺激が終息する。他の神経伝達物質は分解するか、またはシナプス前部のニューロン中に取り戻されて刺激が終息する。
【0041】
中枢神経系では、多数のニューロンが一個のニューロンに集中することがある。シナプス前部の各ニューロンがシナプス後部の一個のニューロンに係るシナプス中に神経伝達物質を放出すると、累積した膜電位が局所的に生ずる。その結果生ずる信号は抑制信号であっても刺激信号であってもよい。累積した膜電位がその一個のニューロンの最小閾値に達すると活動電位が起ち上がる。
【0042】
跳躍的な伝導によって活動電位が細胞本体から一方向に移動する。最速のニューロンでは、それを覆うミエリン鞘がランビエ絞輪と呼ばれる露出ニューロン膜の結節によって分離された不連続な区域に並んでいる。跳躍的な伝導の際に電位が結節から結節へ飛越し、それによって活動電位の伝導に係わる膜領域が減少し伝導がスピードアップする。
【0043】
神経系に存在する非神経的な細胞をグリア細胞と呼ぶ。その中で星状神経膠細胞は最も数が多く、ニューロンを保持し栄養供給をする。ミクログリア細胞は神経組織に特異的な小さな貪食細胞である。脳室系と脊髄中心管に沿って並び脳脊髄液を作製する細胞を上衣細胞と呼ぶ。中枢神経系において、希突起神経膠細胞は多ニューロンのミエリン鞘区域を形成する。末梢神経系においてミエリン鞘の各区域は単一のシュワン細胞によって作られる。
【0044】
中枢神経系
【0045】
中枢神経系(CNS)は脳と脊髄から構成される。CNSは頭蓋骨と椎骨によって保護される以外に、髄膜(硬膜、クモ膜、および軟膜)によって保護され栄養を供給される。脳脊髄液は、クモ膜下の空間、脊柱の中心管、および脳室に存在する。軟膜は最も内側の層であり、神経組織に付着性である。軟骨と硬骨の間にクモ膜層がある。強靭な繊維性の硬骨は頭蓋骨の真下にある。
【0046】
脳は、前脳、中脳、および脳幹の三つの基本領域に分けることができる。前脳には、視床、視床下部、脳幹神経節、および大脳が包含される。大脳は、意識的思考、感覚解釈、全ての自発運動、精神的能力、および感情を司る。
【0047】
大脳組織は、構造的領域と機能的領域に分けることができる。大脳の表面は湾曲して回(隆線)と溝(溝部)になる。大脳皮質の知覚領域および運動領域はそれぞれ大脳の中心後回および中心後溝に地図化することができる。知覚領域は身体の反対側からの知覚情報を受け取り、その情報は視床で加工処理された後に神経発射される。更に知覚的な神経末端の身体部分は皮質の更に知覚的な領域によって表示されている。運動領域は身体の反対側の部分の自発的な筋肉運動を制御するが、連結領域は運動の開始に重要である。
【0048】
大脳は脳の最大部分であり、二つの半球、すなわち数個の葉を持った右半球と左半球に分けられる。その前頭葉には運動領域、ブロカの言語領域、連想領域、および知能と行動の機能部分が含まれる。頭頂葉には知覚領域および感情と聴取の機能部分が含まれる。一次性の視覚連想領域は後頭葉に局在し、側頭葉には聴覚連想、嗅覚および記憶のための領域が含まれる。
【0049】
視床は大脳皮質と脳幹の間にある。嗅覚を除く全ての知覚入力は視床で加工処理されてから、脳の他の領域に発射される。視床下部は視床の真下にあり、体内刺激の加工処理および体内環境の維持を司る。血圧、体温、心拍速度、呼吸、水分代謝、浸透圧、空腹、神経内分泌の諸作用を常に無意識下に制御するのは視床下部で行われる。下垂体後葉からオキシトシンおよびADHを放出する神経内分泌細胞の核は視床下部にある。
【0050】
脳幹神経節(尾状核、淡蒼球、黒質、視床下部核、赤核)は大脳の各半球の内部に埋没しているニューロン群である。これらは複雑な運動制御、情報の加工処理、および無意識下の全意識動作の制御に関与する。
【0051】
脳幹には、延髄および脳橋が含まれる。延髄には、呼吸、心臓、および血管の運動反射を制御するための重要な機能領域およびリレー中心が含まれる。脳橋には呼吸制御に関与する気流調節中心が含まれる。
【0052】
小脳は脳幹の上方にあり、他の場所で加工処理された身体位置、運動、姿勢および平衡に関する知覚情報を利用する。運動は小脳では開始しないが、小脳は運動を調整するためには必要である。
【0053】
末梢神経系
【0054】
末梢神経系には、脳および脊髄の外部に位置する神経、神経節、および脊髄神経と脳神経が含まれる。12個の脳神経が脳幹に位置する核から立ち上がり、インパルスを運搬する特定の場所に移動して種々の自律機能、例えば嗅覚、視覚、唾液分泌、心臓速度、および皮膚感覚を制御する。脳神経は、それらが知覚成分と運動成分を運搬する点において時折混合状態になるが、しかしそれらには単に運動繊維または知覚繊維があるだけである。以下の表に脳神経とそれらの機能を示す。
【0055】
【表1】

【0056】
末梢神経系の知覚部門は種々の型の受容器から入力情報を受け、それを加工処理し、中枢神経系に送る。知覚される入力情報は、例えば固有感覚(関節および筋肉の位置感覚)の対象である体内起源から、あるいは例えば皮膚上の圧力または熱の感覚の対象である体外起源から由来可能である。特定の脊髄神経が支配する皮膚領域を皮膚知覚帯と呼ぶ。求心性の繊維は知覚入力情報を収集し、脊索に到り、視床に集まり、最後は大脳の知覚皮質で終わる。更に知覚的な受容器を有する領域、すなわち指先または唇は脳の知覚皮質上にある更に大きな領域に対応する。同様に、固有感覚の対象情報を運搬する繊維は小脳に分散されている。ほとんど全ての知覚系はインパルスを視床の各部に伝達する。大脳皮質は知覚情報の認知と解釈に関与する。
【0057】
筋肉および腺への運動入力情報は自律神経性および体性の遠心的な系を介して起こる。関節、腱、筋肉へのCNS神経支配は体性の遠心的な系を介して伝わる。ある種の筋肉応答は脊髄反射を介して処理される。この例は指が熱いストーブに触れた時に見られる引っ込め反射である。指を引っ込める動作は、痛覚が脳に達するよりもかなり前に単純な脊髄反射を介して起こる。明らかにこれは更なる傷害を回避するための保護メカニズムである。腺および平滑筋への運動入力情報は通常は自律神経系を介して起こる。
【0058】
大部分の臓器は自律神経系の2つの枝から入力情報を受け取る。臓器または組織において枝の1つは興奮性であり、他の枝は抑制性である。自律神経系の交感神経の枝は身体に対し生理学的な緊張を準備するように作用する。交感神経の枝を刺激するのは、自動車のアクセルを踏むのに似ており、身体は走行または闘争の反応を準備する。効果、例えば心拍速度の上昇、気道の拡張、および貯留グリコーゲンからのグルコースの動員が見られる。交感神経は第一胸椎から第四腰椎に生ずる。これらには短い節前ニューロンがあり、このニューロンは脊柱に沿って存在する鎖状の神経節の1つで終わる。アセチルコリンは長い節後ニューロンを有するシナプスでの神経伝達物質であるが、そのニューロンが次に到達する標的組織では大部分の交感神経末端からノルエピネフリンが放出される。ただし数種の交感神経節後ニューロン、例えば汗腺または骨格筋血管網を神経支配するニューロンはアセチルコリンを放出する。
【0059】
副交感神経の枝はCNSの頭側領域および仙椎領域から生ずるニューロンを介して交感神経の枝に対抗して平衡をとるように作用する。例えば、副交感神経を刺激すると気道を圧縮し心拍速度を減少する。これは安静活性、例えば消化、排尿、および勃起を制御する。長い節前ニューロンは終末臓器に近いシナプスでアセチルコリンを放出する。短い節前ニューロンも効果器官組織にアセチルコリンを放出する。
【0060】
TGF−β、アクチビン、およびBMPは発達過程での細胞分化、増殖、および臓器形成に関与する。BMPは、増殖/分化因子(GDF)、骨形成タンパク質(OPs)、およびミューラー阻害物質/抗ミューラーホルモン(MIS/AMH)とともにTGF−βスーパーファミリーのメンバーである(Ebara and Nakayama, Spine, 2002,16S: S10-S15)。歴史的には1965年にUrist (Urist, MR: Bone, formationby autoinduction, Science, 1965, 150(698): 893-899)が、金属を除いた骨マトリックスをげっ歯類またはラビットの筋肉内に挿入したところ胚の骨化および軟骨内骨化に似た他のプロセスを観察した。移植後に未分化の間葉系細胞が挿入骨組織に走化性によって移動し、その後に有糸分裂し濃密化した。次に、間葉系細胞から誘導される軟骨芽細胞が細胞外マトリックスを分泌したので、これにより軟骨のテンプレートの形成が可能となった。この細胞外マトリックスは造血細胞および内皮細胞を経由して血管化する。骨芽細胞および破骨細胞の局所的出現が始まり、吸収された軟骨が骨組織に変形した。21日後に骨髄の芯を有する小骨が形成された(Wangら, Proc Nat Acad Sci USA, 1988, 85: 9484-9488)。この成分は、金属を除いた骨マトリックスからの変化プロセスに伴ったので、骨形成タンパク質(BMP)と呼ばれた。
【0061】
1988年に、Wangら (Wangら, Proc Nat Acad Sci USA, 1988,85: 9484-9488)は、分子量16KDa、18KDa、および30KDaの三つのポリペプチドをウシの骨から単離した。その後、Wozneyら (Woozney, MoI Rep Dev, 1992, 32: 160-167)は、これらのポリペプチドを使用してヒトRNAと対応するDNAを同定した。追跡検討の結果、少なくとも16個の内因性BMPの存在が明らかになっている(Wozney and Rosen, Clin Orthop,1998, 346: 26-37)。
【0062】
BMP1(プロコラーゲンC−プロテアーゼ)を除いて、それらは全てトランスフォーミング増殖因子(TGF)−β遺伝子ファミリーのメンバーである(Wozney and Rosen, Clin Orthop, 1998, 346:26- 37)。構造的には、BMPは大型前駆体の形態で産生され、12〜25個のアミノ酸シグナルペプチド、50〜375個のアミノ酸を有する前駆領域、および100〜125個のアミノ酸を有する成熟カルボキシル末端から構成される。後者には良好に保存される7個のシステイン残基があるので、これによりペプチドの二量体化が可能になるが、それに先立ちタンパク質分解処理によってこの前駆体からカルボキシ末端領域を切断する(Croteauら, 1999; 22: 686-695)。活性で成熟した各BMPタンパク質は、ジスルフィド結合した同じ単量体から構成されるホモ二量体、またはジスルフィド結合した二つの異なる単量体から構成されるヘテロ二量体として存在する(Sampathら, J Biol Chem, 1990, 265: 13198-13250)。興味深いことに、タンパク質の二量化はその活性に関連しており、ヘテロ二量体としてのBMP2およびBMP7は、同一の単量体から構成されるホモ二量体よりも強力な形態であることが判っている(Kawabataら, Cytokine Growth Factor Rev, 1998, 9: 49-61; Sampathら, J Biol Chem, 1990, 265: 13198- 13250)。
【0063】
BMPの生物学的活性について強調するには、細胞でのBMP遺伝子発現の制御およびBMP二量化のメカニズムを理解する必要がある。BMPの遺伝子発現についてあまり判っていないが、その発現は基礎的なヘリックス−ループ−ヘリックス(bHLH)タンパク質によって制御されている可能性があることが判っている(Ebara ら, Biochem Biophys Res Commun, 1997, 240: 136-141)。このbHLHは三つの領域から構成されており、外側の二つの領域は正の転写活性化体として作用し、中央の領域は負の制御体として作用する。これらの領域の中で、E−ボックス(246〜265塩基対の範囲のDNA配列)は、USF転写因子により認識され、マウスにおいてBMPの発現を制御する重要な役割を担っている。またBMPは細胞死の経路を制御することにも関係している。
【0064】
BMPの生物学的活性は、いろいろな時点で転写レベルを超えて、かつ細胞外であっても厳重に制御される。細胞外ではBMPの受容体が阻害性タンパク質として機能し、簡単にBMPと反応し、BMPの活性が上昇するのに応答して負のフィードバック信号を促進的に産生するように誘導し、究極的にはBMPの制御に到ると考えられている(Ebara and Nakayama, Spine, 2002,16S: S10-S15)。細胞内では、細胞は信号導入によりおよび抑圧的なSmadタンパク質により制御され、これはBMPが抑圧的なSmadタンパク質の発現を上方制御することができることを意味する(Ebara and Nakayama, Spine, 2002,16S: S10-S15)。
【0065】
細胞外のレベルでは、細胞は、BMPに結合するタンパク質、例えばノギンおよびコンドリンによって制御され、これらタンパク質は受容体に対するBMPの結合を阻害する。原腸形成が捻れるとコンドリンの機能は促進される(Ebara and Nakayama, Spine, 2002,16S: S10-S15)。フォリサチンはOP−1/BMP−7およびBMP−4のタンパク質に結合し、BMPを抑制する(Matzukら, Nature, 1995, 374: 360-363)。
【0066】
BMPに対する受容体
【0067】
BMPは二つの異なる型(IおよびII型)のセリン−スレオニンキナーゼ受容体に結合する。二つのI型受容体と1つのII型受容体が哺乳動物で確認されている(Kawabataら, Cytokine Growth Factor Rev, 1998, 9: 49-61)。哺乳動物では、I型受容体にはアイソフォームAおよびBがあり、これらは構造的には似ているが、これらがSmadタンパク質を活性化する挙動は異なる(Imamuraら, Nature, 1997, 389: 549- 551)。信号伝達のためにはI型およびII型の受容体は複合体を形成する必要がある。I型受容体はII型受容体によって活性化され、信号はI型受容体により細胞に伝達される。細胞中の信号はSmadタンパク質により伝達される。Smad1、Smad5、およびSmad8は同じ構造に属し、信号をBMPから伝達する。Smad2およびSmad3は信号をTGF−βおよびアクチビンから伝達する。これらSmadはヘテロ多量複合体を形成して核の中に転座して各種遺伝子を活性化する。Smad6、Tob、Ski、およびSmurf1はそれら遺伝子の負の制御に関与する。これらの中でSmad6はBMPの転写を抑圧し、またBMPの信号経路の負のフィードバックに役割を有する(Baiら, J Biol Chem, 2000, 275: 8267- 8270)。Tobは抗増殖性タンパク質ファミリーのメンバーであり、BMP/Smad信号の負の制御に関与する(Yoshidaら, Cell, 2000, 103: 1085-1097)。Ski癌タンパク質はBMP信号化遺伝子およびBMP応答遺伝子の発現を抑制し、およびBMPの活性化を抑制するためにSmad複合体と直接に反応する。これはBMPの特徴である(Wangら, Proc Natl Acad Sci USA, 2000, 97: 14394-14399)。Smurf1はユビキチンリガーゼのヘクト(Hect)ファミリーに属し、BMPの信号伝達を阻害するために、受容体によって制御されるSmadに選択的に結合する(Zuhら, Nature, 1999, 400: 687-693)。
【0068】
BMPファミリーのタンパク質の機能についての更なる研究は進行中であり、それらは基本的な身体、例えば、神経系(Farkasら, J Neurosci, 1999, 92: 227-235)、眼(Mohans ら, Invest Ophthalmol Vis Sci, 1998, 39: 2626-2636)、肺、腎、前立腺、生殖臓器、および初期段階の毛包、の形成機構に関与しているようである。例えば、指および指の間の空間が形成される原因は指の間の細胞がBMPによってアポプトーシスするからであると報告されている(Zou and Niswander, Science, 1996,272: 738)。
BMPは、骨格系の胚の段階における形成、分化、および治癒に関連する。誕生後の骨格系では、BMPは脳小孔、骨膜細胞、および間葉系細胞の造血要素で満たされたマトリックスのコラーゲン中に存在する。またBMPは骨肉腫および軟骨肉腫からも単離されている(Lianjia and Yan, Clin Orthop,1990, 257: 249-256)。骨折後に、BMPは吸収された骨のマトリックス中に拡散し、骨前駆体細胞を活性化し、および逆にBMPを一層産生する。BMPの分布は治療の時間および骨折の場所に依存するが、反応を交互に繰り返すので一層複雑になる可能性がある。BMPの研究は他のいろいろな組織についても行われ、それら組織の保護効果あるいは再生効果が検討されており、心臓筋肉を虚血潅流している状態で心臓筋肉の機能を保護する効果(Leferら, J MoI Cell Cardiol, 1992, 24: 585-593(非特許文献1))、大脳虚血を誘起する実験において伸長した神経系をBMPの腹腔内注入後保護する効果、および傷害を受けた腎臓の再生効果(Ripamonti and Duneas, PlastReconstr Surg, 1998, 101: 227-239(非特許文献2))が立証されている。
【0069】
BMPタンパク質での治療
【0070】
本発明には、BMPタンパク質を神経変性部位に投与して神経を再構成するまたは更なる変性を防止することが包含される。
【0071】
治療組成物
【0072】
1つの実施態様では、本発明は神経変性を特徴とする各種疾患の治療に関する。ここで、疾患に罹患している、または罹患傾向にあるヒト患者に本発明の治療化合物を投与するに当たり、神経変性を阻害する化合物を供与してもよい。疾患は、神経変性させる脳の不調、神経細胞、特に海馬および大脳皮質の欠損、神経伝達物質の減少、脳血管変性、脊髄神経の挫傷、およびまたは認知能の欠落に関連する。
【0073】
治療化合物の製剤化は当分野で一般に公知であり、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa., USAを好都合なことに参照することができる。例えば、体重1kg当たり約0.05μg〜約20mgを投与すればよい。用法は最適の治療応答が得られるように調節してよい。例えば、1日の用量を数回に分けて投与してもよく、あるいは緊急の治療状況によって指示用量を応分に減らしてもよい。活性化合物は好都合な方式で投与すればよく、例えば、経口、静脈内(水溶性)、筋肉内、皮下、鼻内、皮内、または座薬の経路があり、あるいは移植する(例えば、徐放化合物を使用するために腹腔内経路する、あるいは細胞、例えば単球細胞または突起細胞を使用するためにインビトロで感作し受容者に適合移植する)。ペプチドは、投与経路に応じて物質中に被覆することによって、この成分を不活性化する可能性のある酵素、酸、他の天然条件の作用から保護する必要があることもある。
【0074】
例えば、親油性が低いペプチドは、消化管ではペプチド結合を切断する酵素によって、または胃では酸による加水分解によって崩壊する。非経口投与以外によりペプチドを投与するには、ペプチドの不活性化を防止する物質によって被覆するか、またはその物質とともに投与する。例えば、ペプチドをアジュバント中にて投与するか、酵素阻害剤と一緒に投与するか、またはリポソーム中にて投与してよい。ここで考えているアジュバントには、レゾルシノール、非イオン界面活性剤、例えばポリオキエチレンオレイルエーテル、およびn−ヘキサデシルポリエチレンエーテルが挙げられる。酵素阻害剤には、すい臓トリプシン阻害剤、フルオロリン酸ジイソプロピル(DEP)、およびトラジロールが挙げられる。リポソームには、水中油中水CGFエマルジョンおよび通常のリポソームが挙げられる。
【0075】
活性化合物は非経口または腹腔内で投与してよい。分散液はグリセロール液体ポリエチレングリコール、およびその混合液中に、および油中に調製することができる。通常の保存および使用の条件下でこれらの調製物には微生物の増殖を防止する保存剤が含有される。
【0076】
注射用途に適した医薬形態には、無菌の水溶液(水溶性)または分散液、および無菌の注射溶液または分散液に即座に調製される無菌の粉末が挙げられる。全ての場合にこの形態は無菌であり、かつ容易に注射器に入れることができる程度に液状でなければならない。製造および保存の条件にて安定であり、かつ微生物、例えば菌や黴の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は溶媒または分散媒が可能であり、それらは例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、これらの適切な混合液、および植物油を含有する。適切な液体性を維持可能にするために、例えばレシチンのような被覆剤を使用し、分散液の場合には必要な粒径を維持し、および界面活性剤を使用する。微生物の作用を防止可能にするために、各種の抗菌剤および抗黴剤、例えばクロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、テオメルサール等がある。多くの場合に等張化剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含有するのが好ましい。注射組成物の吸収を持続させるために、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成で使用する。
【0077】
無菌注射溶液を調製するには、必要量の活性化合物を上に列挙した他の各種成分を必要に応じて含有する適切な溶媒に加え、次に無菌濾過する。一般に、分散液を調製するには、基礎となる分散媒および上に列挙したものから必要とされる他の各種成分を含有する担体に無菌の各種活性成分を配合する。無菌の注射可能な溶液を調製するための無菌粉末の場合には、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥の技術であり、この技術により、活性成分プラス所望の他成分からなる粉末が予め無菌濾過したそれらの溶液から得られる。
【0078】
ペプチドを上記のように適切に保護した場合には、活性化合物は、例えば不活性な希釈剤または消化吸収可能な食品担体とともに経口投与してもよく、あるいは硬または軟のゼラチンカプセルに封入してもよく、あるいは錠剤に圧縮してもよく、あるいは食物を直接に配合してもよい。経口による治療投与には、活性化合物に賦形剤を配合して摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ、カプセル、エリキサール、懸濁液、シロップ、ウエハー等の形態で使用してもよい。そのような組成物および調製物は少なくとも1%重量の活性化合物を含有するのが望ましい。組成物および調製物でのパーセンテージは当然変化してよく、単位重量の約5〜約80%が好都合であり得る。治療に有用な組成物中での活性化合物の量は、適切な投与が得られる量である。本発明の好ましい組成物または調製物を調製すれば、経口投与の単位形態には約0.1μg〜2000mgの活性化合物が含まれる。
【0079】
また錠剤、ピル、カプセル等は以下を含有してよい。結合剤、例えばトラガカントガム、アカシヤ、トウモロコシ澱粉、またはゼラチン;賦形剤、例えばリン酸ニカルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシ澱粉、ポテト澱粉、アルギン酸等;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;および甘味料、例えばショ糖、乳糖、またはサッカリンを添加してもよく、あるいは芳香剤、例えばペパーミント、冬緑油、チェリーで賦香する。投与の単位形態がカプセルである場合に上記種類の材料以外に液状担体が含有されてもよい。被覆剤として、あるいは投与単位の物理的形態を修飾するために他の各種材料が存在してもよい。例えば、錠剤、ピル、またはカプセルをシェラック、砂糖、または両者で被覆してもよい。シロップまたはエリキサールには、活性化合物、甘味料としてショ糖、保存剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベン、色素賦香料チェリーまたはオレンジのフレーバーが含有されてよい。もちろん、任意の投与の単位形態を調製して使用する材料は全て医薬的に純粋で、使用する量にて実質的に無毒であるのが望ましい。更に、活性化合物を徐放型の調製物および製剤中に配合してもよい。
【0080】
本明細書で使用する「医薬的に受容可能な担体および/または希釈剤」には、溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌剤および抗黴剤、等張剤および吸収遅延剤等の全てが挙げられる。医薬的に活性な物質としてこのような媒体および薬剤を使用することは当分野で公知である。通常の媒体または薬剤が活性成分と相容しない場合を除き、それらを治療組成物中に使用することが検討されている。補充の活性成分も組成物中に配合することができる。
【0081】
投与の単位形態において非経口組成物を製剤化することは、投与が容易で投与量が均一なので特に有利である。本明細書で使用している投与の単位形態とは、物理的に独立した単位体であって、治療対象の哺乳動物への単一投与に適したものを言う。各単位には、必要な医薬用担体との関連において所望の治療効果を挙げるように計算して予め定めた量の活性材料が含有される。本発明の投与単位形態についての詳細は、(a)活性物質の特異な特徴および達成すべき特別な治療効果、および(b)身体の健康を損ねた疾病状態の生物対象中に治療目的でこのような活性物質を配合することに対する当分野に特有の制限、によって特定されかつそれに依存する。
【0082】
主要な活性成分の有効量を適切な医薬的に受容可能な担体とともに投与の単位形態に配合する。投与の単位形態には、例えば主要な活性化合物を0.5μg〜2000mgの範囲の量で含有させることができる。比率で表現すれば、一般に活性化合物は担体1ml当たり約0.5μgから存在する。組成物中に補充の活性成分が含有される場合には、その成分の通常の投与用量と方法を参考にして決定する。
【0083】
送達系
【0084】
各種送達系が公知であり、これらを利用して本発明化合物を投与することができ、例えばリポソーム中へのカプセル化、微小粒子、マイクロカプセル、本化合物を発現可能な組換え細胞、受容体を介するエンドサイトーシス、レトロウイルスベクター等の部分としての核酸の構築がある。導入の方法には、限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外、および経口の諸経路が挙げられる。化合物または組成物を投与するのにどのような便利な経路でもよく、例えば点滴または大量注射、上皮または粘膜皮膚(例えば口内粘膜および腸粘膜)がある。また他の生物学的に活性な薬剤とともに投与してもよい。全身投与または局所投与ができる。更に本発明の医薬化合物または組成物を適切な経路、例えば心室内または硬膜下腔内注射によって中枢神経系に導入するのが望ましい。心室内注射は、心室内カテーテル、例えばオンマヤ貯留槽のような貯留槽に取り付けたカテーテルによって容易となる。また肺投与を利用するには、例えば吸入器またはネブライザーを使用し、およびエアロゾール化薬剤での製剤がある。
【0085】
具体的な実施態様では、本発明の医薬化合物または組成物を治療の必要な区域に局所的に投与するのが望ましい。これを達成するには、例えば、限定されないが、手術中は局所点滴、手術後は傷の包帯との関連で注射、カテーテル、座剤、あるいは移植物を局所に適用する、なお移植物は多孔性、非多孔性またはゼラチン性の材料からなり、膜、例えばシリコーンエラストマーの膜あるいは繊維である。好ましくはペプチド、例えば抗体あるいは本発明ペプチドを投与する場合には、そのペプチドが吸収されない材料を使用するように注意する必要がある。別の実施態様では、化合物または組成物を小胞、特にリポソームにて送達することができる。更に別の実施態様では、化合物または組成物を放出制御系にて送達することができる。一実施態様ではポンプを使用してもよい。別の実施態様ではポリマー材料を使用することができる。更に別の実施態様では、治療標的、すなわち脳の近位に放出制御系を設置することができ、したがって全身用量の一部が必要になるだけである。
【0086】
組成物が「薬理学的にまたは生理学的に受容可能」であると言われるのは、摂取動物がその組成物の投与に対して耐性があるか、さもなければその組成物がその動物への投与に適している場合である。投与量が生理学的に有意である場合に、その薬剤は「治療的有効量」で投与されると言われる。薬剤が生理学的に有意であるのは、その薬剤の存在によって摂取患者の生理現象が検出可能な程度に変化した場合である。
【0087】
遺伝子治療
【0088】
具体的な実施態様では、TGFスーパーファミリーのポリペプチドをコードする核酸含有配列を投与することによって、神経変性に関連する疾患疾病を遺伝子治療で治療、阻止または防止する。遺伝子治療とは、発現または発現可能な核酸を被験体に投与して実施される治療を言う。本発明の実施態様では、核酸によってそれがコードするタンパク質が産生され、そのタンパク質が治療効果を達成する。
【0089】
遺伝子治療の方法の概説には、Goldspielら, Clinical Pharmacy 12:488-505 (1993); Wu and Wu, Biotherapy 3:87-95(1991); Tolstoshev, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 32:573-596 (1993); Mulligan,Science 260:926-932 (1993); および Morganand Anderson, Ann. Rev. Biochem. 62:191-217 (1993); May, TIBTECH 11(5):155- 215(1993)を参照する。組換えDNA技術の分野で一般に公知の方法は、Ausubel ら (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,NY (1993); および Kriegler, Gene Transfer andExpression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY (1990) に記述されている。
【0090】
好ましい態様では、核酸配列はTGFスーパーファミリーのポリペプチドに属するタンパク質をコードするが、核酸配列は適切な宿主中でそのポリペプチドを発現する発現ベクターの一部分である。特にそのような核酸配列にはそのポリペプチドをコードする領域に機能的に連結しているプロモーターが存在し、そのプロモーターは誘起可能または構成的であって、かつ任意に組織特異的である。別の特定な実施態様で使用する核酸分子では、ポリペプチドをコードする配列および何か他の所望の配列は、ゲノムの所望部位において相同的な組換えを促進する領域の側面に配置してあり、したがって抗体をコードする核酸が染色体の中で発現する(Koller and Smithies, Proc. Natl.Acad. Sci. USA 86:8932-8935 (1989); Zijlstraら, Nature 342:435-438 (1989))。
【0091】
患者への核酸の送達は直接的であるか間接的であるかであり、前者の場合には患者をその核酸または核酸担持ベクターに直接に曝し、後者の場合にはインビトロにて細胞をその核酸で形質転換し、次に患者に移植する。これら2つのアプローチは、それぞれインビボ遺伝子治療およびエクスビボ遺伝子治療として公知である。
【0092】
具体的な実施態様では、核酸配列を直接にインビボにて投与し、生体内で核酸配列を発現せしめてコードしたタンパク質を産生する。これを実行するには当分野で公知の多数の方法があり、例えば核酸配列をその核酸配列の適当な発現ベクターの一部分として構築し、それらが細胞内になるように投与する、例えば欠損または減毒したレトロウイルスまたは他のウイルスベクターを使用して感染するか、または裸のDNA、またはそれを脂質または細胞表面受容体または形質導入用薬剤で被覆し、リポソーム、ミクロ粒子、またはマイクロカプセルにカプセル化して直接に注入するか、または細胞核内に入ることが判っているペプチドに連結して核酸配列を投与するか、受容体を介するエンドサイトーシスを受けるリガンドに連結して投与する(例えばWu and Wu, J. Biol. Chem.262:4429-4432 (1987) を参照)(これを利用すれば、この受容体を特異的に発現する細胞型を標的にすることができる)、等である。別の実施態様では核酸−リガンドの複合体を形成可能であり、この複合体中のリガンドにはエンドソームを分裂する融合性ウイルスペプチドが含まれているので、核酸はリポソームによる分解を回避することができる。更に別の実施態様では、核酸をインビボにて標的化し細胞特異的な摂取と発現を可能にするために、特定の受容体を標的にする。あるいは、相同的な組換えによって、核酸を細胞内に導入し、宿主細胞の発現用DNAの中に取り込むことができる(Koller and Smithies, Proc. Natl.Acad. Sci. USA 86:8932-8935 (1989); Zijlstraら, Nature 342:435-438 (1989))。
【0093】
具体的な実施態様では、ポリペプチドをコードする核酸配列を含有するウイルスベクターを使用する。このポリペプチドをコードする核酸配列を遺伝子治療に使用するために、この核酸配列を一つ以上のベクター中にクローン化する。これにより患者への遺伝子の送達が容易になる。レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスが使用可能なウイルスベクターの例である。レトロウイルスベクターには、ウイルスゲノムを正しくパッケージし宿主細胞のDNA中に組み込むのに必要な成分が含有されている。
【0094】
アデノウイルスは、呼吸上皮に自然に感染しその場所に緩和な疾患を起こすので、遺伝子を呼吸上皮に送達するには特に魅力的な担体である。アデノウイルス系の送達系のための他の標的は肝臓、中枢神経系、内皮細胞、および筋肉である。アデノウイルスの利点は非分裂細胞に感染可能であることである。更にアデノ随伴ウイルス(AAV)も遺伝子治療での使用が提案されてきた。
【0095】
遺伝子治療への他のアプローチは、エレクトロポレーション、リポ移入、リン酸カルシウムが介在するトランスフェクション、またはウイルス感染といった方法により組織培地の細胞に遺伝子を移入する必要がある。通常、移入の方法には、選択可能なマーカーを細胞に移入することが挙げられる。次に細胞を選択条件下に置き、移入遺伝子を取り上げてそれを発現している細胞を単離する。次にその細胞を患者に送達する。
【0096】
この実施態様では、核酸を細胞に導入してから、得られた組換え細胞をインビボ投与する。このような導入を実施可能にするには、当分野で公知の任意の方法を行えばよく、例えばトランスフェクション、エレクトロポレーション、ミクロ注入、その核酸配列を含有しているウイルスベクターまたはバクテリオファージベクターによる感染、細胞融合、染色体を介する遺伝子移入、ミクロ細胞を介する遺伝子移入、スフェロプラスト融合等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞に外来遺伝子を導入する技術は当分野で多数公知であり、本発明に従って使用してよいが、ただしそれによって摂取細胞の発達上および生理上で必要な機能が破壊されてはならない。この技術によってその核酸は細胞に安定に移入され、その結果その核酸が細胞により発現可能であり、かつその細胞の子孫により遺伝的に継承されて発現可能であるのが望ましい。
【0097】
遺伝子治療の目的で核酸を導入可能な細胞には、所望の入手可能な全ての細胞型が包含され、例えば皮内細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋肉細胞、肝細胞、血球、例えばT−リンパ球、B−リンパ球、単核細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、巨核球、顆粒球、各種の幹細胞または前駆細胞、特に造血の幹細胞または前駆細胞、例えば骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓から取得されるもの等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
好ましい実施態様では、遺伝子治療に使用する細胞は患者由来である。あるいは患者が細胞に同系でもよい。
【0099】
具体的な実施態様では、遺伝子治療の目的で導入する核酸にはコード領域に機能的に連結した誘起可能なプロモーターが含有されているので、核酸の発現を制御可能にするためには転写の適切な誘起剤の存在または非存在を制御する。
【0100】
特に、NIH3T3細胞にBMP−3またはBMP−4をコードする遺伝子を形質導入しても細胞障害剤メタンフェタミンに曝した場合に、細胞は死滅した。更に神経毒カイニン酸塩に曝したマウスを,BMP−4コード遺伝子を形質導入したNIH3T3細胞で処理した場合には神経保護が生じた。
【実施例】
【0101】
実施例1−材料と方法
【0102】
材料
【0103】
成熟したスプラーグ−ドーリー系ラット(16〜18週齢)体重400±10gを本研究に使用した。成熟ラットを使用した理由は、神経変性による変化および生理的変化の観察が成長段階のラットに比較して容易だからである。
【0104】
方法
【0105】
機能タンパク質BMPを末梢神経に注入するのは技術的に困難である。そこで研究では、BMP−2、BMP−4、BMP−9およびグリア細胞由来の神経親和性因子(GDNF)を産生するラット線維芽細胞を直接に末梢神経にトランスフェクトし、BMP2、BMP9およびGDNFを局所的に分泌させた。全60匹のラットを5個の群に分けた。各群は12匹の神経傷害ラットで構成した。第1群は対照群であり、神経傷害ラットを導入遺伝子のない非組み換え線維芽細胞で処理した。第2群(BMP2群)は神経傷害ラットから構成され、BMP−2導入遺伝子で遺伝子を組み換えた線維芽細胞で処理した。第3群(BMP4)は神経傷害ラットから構成され、BMP−4導入遺伝子で遺伝子を組み換えた線維芽細胞で処理した。第4群(BMP9)は神経傷害ラットから構成され、BMP−9導入遺伝子で遺伝子を組み換えた線維芽細胞で処理した。第5群(GDNF群)は神経傷害ラットから構成され、GDNF導入遺伝子で遺伝子を組み換えた線維芽細胞で処理した。処理後2、4および8週に組織検査を実施するために、各群から2匹を屠殺し両方の肢から坐骨神経を取り出した。また神経の運動伝達を肢からの坐骨神経で研究するために、実験前に最初のベースライン値を設定し、手術後8週まで1週おきに神経伝達を測定した。
【0106】
神経傷害
【0107】
白色ラットを麻酔するに当たり4%の抱水クロラールを300mg/Kgの濃度で腹腔内に注入した。背面と右肢の大腿区域から毛を除去してから、傾斜位置に固定した。ポタジンと70%アルコールで大腿区域を滅菌後、大腿区域の中央部周辺の表皮約1〜1.5cmを垂直に切り開き、大腿の二頭筋を外側に引き出し坐骨神経を露出した。DeKoningら(De Koningら, J Neurol Sci, 1986, 74:237-246)に従って神経傷害を作製するために、大腿と全膝関節の間の皮膚を切開し背面と全膝関節の筋肉を剥離して坐骨神経を露出し、次に坐骨ヘルニア化箇所に露出した神経を傷害するために止血用ピンセット(Crile, 15 cm)で30秒間破壊した。ピンセットの把握力は三つの異なるレベルに設定することができた。固定区域の神経傷害に同じレベルの把握力が架かるようにピンセットの末端から5cmの位置に黒線をマークし、固定区域への傷害に最強レベルの把握力での破壊を可能にした。止血ピンセットを外した後、第1の対照群に、0.05mlの非組み換え線維芽細胞(単位:5×10細胞/50μl)含有の緩衝液を2mmの神経傷害区域内に超微小針(30ゲージ)で注入した。第2および第3実験群には、BMP2、BMP4、BMP9、GDNFをそれぞれ分泌する遺伝子組み換え線維芽細胞を同じ方法で注入し、次に傷区域を縫合し滅菌した。
【0108】
神経伝導テスト
【0109】
4%抱水クロラールでラットを麻酔後、神経伝導テストを行った。活性記録電極を胎児筋肉に設置して坐骨切痕を刺激し、参照電極を足に設置し、基底電極を刺激電極と記録電極の間に設置した。パッチ様電極を記録電極として使用し、基底電極を皮膚の下に針電極を使用して設置した。神経伝導テストを行うためにKeyPoint (Dantec, Denmark)を使用した。この研究での振動数、記録印刷速度、記録感度をそれぞれ2〜10,000Hz、2msec/分割、5mV/分割に設定した。神経伝導テストを2週ごとに行った。実験の開始時に測定値を取り、その後2、4、6、および8週目に続けた。テスト中の潜伏期間と振幅を基底ラインと負の電極点の間の振幅により測定した。各群からラット5匹を選定して神経伝導テストを行い、10個の測定値を両方から得た。実験室およびラットの温度をそれぞれ25℃および30℃に維持した。
【0110】
組織の病理学的/組織学的検査
【0111】
ラットの神経組織を検査し傷害後の自然治癒を観察するために、正常神経を検査してからそれらを実験の開始時から傷害した。4匹のラット(神経8個)を使用して遺伝子導入操作を欠いた細胞で神経の変性を観察した。2匹のラット(神経4個)を各群から無作為に選定し2、4、および8週後に組織を検査した。組織検査のために、麻酔ラットの破壊傷害区域から約2cmの坐骨神経を取り出した。ホルムアルデヒドの緩衝液で固定語、神経組織の変化を光学顕微鏡の下に観察し、次にヘマトキシリン−エオシン(H&E)および改良トリクローム(MT)染料で染色した。
【0112】
データ解析
【0113】
神経傷害後2、4、6および8週目の各群の複合筋肉の作用ポテンシャルの最大振幅および潜伏期間中の変化を解析するために、参照群と比較し、総計解析をSPSS−PCプログラムによって行った。各群間の比較をANOVAおよびt検定を行い、有意レベルを0.05に設定した。傷害と変性の程度を組織学的データにより決定し、それを病理学者により解釈した。
【0114】
実施例2−重量の変化
【0115】
最初に測定したラットの重量は400±10gの範囲であった。その後の体重変化を表2に示す。2週目に各群間に差が観察されなかった。しかし4および6週目に、BMP9群は他の群との比較で多少の差(p<0.05)を示した。8週目では群間に統計的に有意な差がなかった(p>0.05)(表1)。
【表2】

【0116】
実施例3−潜伏期間の変化
【0117】
各群から無作為に測定した実験前のベースラインデータによれば潜伏期間は1.44±0.11msecであった。外傷後の潜伏期間は、2および4週目で対照群、BMP2、BMP4、BMP9とGDNF群との間に差があったが、統計的な有意性はなかった。BMP2およびBMP9群の潜伏期間は6週目で対照群より有意に短縮された(p<0.05)。しかし、8週目で五つの群の間に潜伏期間の差はなかった(p>0.05)(表3)。
【表3】

【0118】
実施例4−振幅の変化
【0119】
各群から無作為に測定した実験前のベースラインデータによれば振幅は23.9±4.3mVであった。外傷後2および4週目でBMP9群の振幅は対照群より有意に増大した(p<0.05)。6週目でBMP2およびBMP9群は対照群と有意な差があり、8週目ではBMP9、BMP2および対照群の順序で有意差があった(p<0.05)(表4)。
【表4】

【0120】
実施例5−組織的および病理的観察
【0121】
各群から無作為に選択したラットの神経組織の組織的検査では、神経生理検査の結果に似た変化があった。対照群は神経組織の軸索を変性しなかた以後の回復速度が最も遅く、炎症反応が残った。BMP2、BMP4、BMP9、またはGDNFを分泌するように遺伝子を組み換えた線維芽細胞でトランスフェクトした群は、初期段階で対照群と有意な差がなかったが、それらの群すべては、神経の破壊傷害が原因である重篤な病理的指標、例えば空砲状変化、炎症性単核細胞の浸潤、神経上膜静脈の出血を2週目になって示した。対照群ではこれらの症状は8週間終始継続した。それに対しBMP2群では炎症の大型化および空砲変化は有意に減少し、4週と8週目にこれらの症状が示されたのは半分に過ぎなかった。BMP4、BMP9、またはGDNF群では、4週と8週目でのこれら減少成果はBMP2群よりも顕著であり、軸索の欠損および空砲変化を示したのは3分の1に過ぎなかった。炎症は非常に緩和であった。
【0122】
実施例6
【0123】
材料
【0124】
成熟したスプラーグ−ドーリー系ラット(16〜18週齢)体重400±10gを本研究に使用した。成熟ラットを使用した理由は、神経変性による変化および生理的変化の観察が成長段階のラットに比較して容易だからである。
【0125】
方法
【0126】
癌形成の可能性を回避するために、照射したシュワン細胞を注入して最大かつ安全な結果を得た。そこで本研究では、BMP2、BMP4、およびGDNFを産生するラットシュワン細胞に強度15Gyの放射線を照射し、末梢神経に直接に移入し、BMP2、BMP4、およびGDNFが局所的に分泌されるようにした。全60匹のラットを5個の群に分けた。各群は12匹の神経傷害ラットで構成した。第1群は対照群であり、神経傷害ラットを導入遺伝子のない非組み換え線維芽細胞で処理した。第2群(BMP2群)は神経傷害ラットから構成され、BMP−2導入遺伝子で遺伝子を組み換えた線維芽細胞で処理した。第3群(BMP4)は神経傷害ラットから構成され、BMP−4導入遺伝子で遺伝子を組み換えた線維芽細胞で処理した。第4群(GDNF群)は神経傷害ラットから構成され、GDNF導入遺伝子で遺伝子を組み換えた線維芽細胞で処理した。処理後2、4および8週に組織検査を実施するために、各群から2匹を屠殺し両方の肢から坐骨神経を取り出した。
【0127】
神経傷害
【0128】
白色ラットを麻酔するに当たり4%の抱水クロラールを300mg/Kgの濃度で腹腔内に注入した。背面と右肢の大腿区域から毛を除去してから、傾斜位置に固定した。ポタジンと70%アルコールで大腿区域を滅菌後、大腿区域の中央部周辺の表皮約1〜1.5cmを垂直に切り開き、大腿の二頭筋を外側に引き出し坐骨神経を露出した。DeKoningら (De Koningら, J Neurol Sci, 1986, 74:237-246)に従って神経傷害を作製するために、大腿と全膝関節の間の皮膚を切開し背面と全膝関節の筋肉を剥離して坐骨神経を露出し、次に坐骨ヘルニア化箇所に露出した神経を傷害するために止血用ピンセット(Crile, 15 cm)で30秒間破壊した。ピンセットの把握力は三つの異なるレベルに設定することができた。固定区域の神経傷害に同じレベルの把握力が架かるようにピンセットの末端から5cmの位置に黒線をマークし、固定区域への傷害に最強レベルの把握力での破壊を可能にした。止血ピンセットを外した後、第1の対照群に、0.05mlの非組み換え線維芽細胞(単位:5×10細胞/50μl)含有の緩衝液を2mmの神経傷害区域内に超微小針(30ゲージ)で注入した。第2および第3実験群には、BMP2、BMP4、BMP9、GDNFをそれぞれ分泌する遺伝子組み換え線維芽細胞を同じ方法で注入し、次に傷区域を縫合し滅菌した。
【0129】
末梢神経テスト
【0130】
実験の開始時に測定値を取り、その後2、4、6、および8週目に続けた。テスト中の潜伏期間と閾値を測定するために、機械的閾値にはRandall Selittoを使用し、温度潜伏期間には温水浴(49)を使用した。実験室およびラットの温度をそれぞれ25℃および30℃に維持した。
【0131】
データ解析
【0132】
神経傷害後2、4、6および8週目の各群からの最大潜伏期間および閾値を解析するために、参照群と比較し、総計解析をSPSS−PCプログラムによって行った。各群間の比較をANOVAおよびt検定を行い、有意レベルを0.05に設定した。
【0133】
実施例7−温度潜伏期間の変化
【0134】
各群から無作為に測定した実験前のベースラインデータによれば潜伏期間は12.44±3.13secであった。外傷後の潜伏期間は、対照群、BMP2、BMP4、とGDNF群との間に差があった。BMP2、BMP4、およびGDNF群の潜伏期間は6週目で対照群より有意に短縮された(p<0.05)(表5)。
【表5】

【0135】
実施例8−機械的閾値の変化
【0136】
各群から無作為に測定した実験前のベースラインデータによれば閾値は12.1±1.0gであった。GDNF群の閾値は外傷後の6および9日目で対照群より有意に減少した(p<0.05)。BMP2およびBMP4群は9日目で対照群と有意差があった(p<0.05)(表6)。
【表6】

【0137】
実施例9−組織的および病理的観察
【0138】
各群から無作為に選択したラットの神経組織の組織的検査では、神経生理検査の結果に似た変化があった。対照群は神経組織の軸索を変性しなかた以後の回復速度が最も遅く、炎症反応が残った。BMP2、BMP4、またはGDNFを分泌するように遺伝子を組み換えた線維芽細胞でトランスフェクトした群は、初期段階で対照群と有意な差がなかったが、それらの群は、神経の破壊傷害が原因である重篤な病理的指標、例えば空砲状変化、炎症性単核細胞の浸潤、神経上膜静脈の出血を2週目になって示した。対照群ではこれらの症状は8週間終始継続した。それに対しBMP2群では炎症の大型化および空砲変化は有意に減少し、4週と8週目にこれらの症状を示したのは半分に過ぎなかった。BMP4、BMP9、またはGDNF群では4週と8週目でのこれら減少成果はBMP2群よりも顕著であり、軸索の欠損および空砲変化を示したのは3の1に過ぎなかった。炎症は非常に緩和であった。
【0139】
実施例10−メタンフェタミン(MAP)誘導性細胞障害に応答するBMP−3の神経保護効果
【0140】
NIH3T3細胞(対照)、BMP3またはBMP4の培養培地としてDMEMを使用した。高用量(1mM)のメタンフェタミン(MAP)に24時間曝すことによって3T3細胞に有意な細胞障害を誘起した。(図1の「3T3」群の上の斜線バー、および代表写真Dを参照)。これの細胞生存率は3T3細胞のみ(図1の黒塗りバー、代表写真A。細胞生存率は100%)と比較して約40%であった。3T3+MAP対3T3のみ、p<0.01(スチューデントのt検定)。
【0141】
MAP誘導性細胞障害はBMP−3プラスMAPで処理した場合に有意に観察された(図1の「3T3−PMT−BMP3」の上の黒塗りと斜線のバーを参照)。代表写真Bは3T3/BMP−3のみを示し、代表写真EはMAPに曝された3T3/BMP−3を示す。3T3+MAP対3T3/BMP4+MAP、p<0.01(スチューデントのt検定)。
【0142】
しかし、BMP4は、MAP誘導性細胞障害を防止しなかった(図1の「3T3−hBMP4」の上の黒塗りおよび斜線バーを参照。黒塗りバーは3T3/BMP−4のみを示し、代表写真C。斜線バーはMAPで処理した3T3/BMP−4を示し、代表写真F。)。3T3/BMP4のみ対3T3/BMP4+MAP、p<0.01(スチューデントのt検定)。各ウエルの細胞個数は約300,000であった。
【0143】
実施例11−マウスでのカイニン酸塩誘導性神経変性をBMP4処理が有意に防止した
【0144】
カイニン酸塩(KA)は神経興奮毒であり、ヒトの興奮性葉癲癇のモデルと認識されている。更に、神経変性の変化を測定するのに有用なインビボでのツールである。KA誘導性のニューロン欠損はKA受容体の活性化を経由している。KA受容体は主に小脳のCA3領域に局在した。生理食塩水を摂取している動物では、小脳に無傷で錐体状の細胞層(細胞性構造物)が見られた。生理食塩水プラスKAを摂取した動物では、CA3領域にニューロンの有意な欠損(対照/生理食塩水に対して0.001)が現れた(左側のC様領域の細胞数は有意に減少した)。3T3を大脳室内注入(I.C.V.)しても、CA3領域のKA(I.C.V.)誘導性ニューロン欠損は影響されなかった。しかし、遺伝子組換えによりBMP4を発現する3T3細胞をKA(I.C.V.)の約6時間前にI.C.V.すると、CA3領域内のニューロン欠損は有意に減衰した(生理食塩水+KAに対してp<0.01)。したがって、BMP−4はKA誘導性の小脳変性に応答する保護因子である。
【0145】
本明細書に引用の全ての参照文献はすべて参照により援用される。本発明の範囲は本明細書に記載の具体的な実施態様によって限定されるべきものでない。本明細書に記載の実施態様に加えて本発明の各種の改変実施態様は、前述の記載および添付図面に基づけば当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】3T3−hBMP細胞においてメタンフェタミン(MAP)により誘導された細胞障害性を示す。
【図2】図1で観察した各細胞に対応する細胞顕微鏡写真を示す。
【図3】マウスにおいて、カイニン酸塩(I.C.V. 0.1μg/頭)で誘起されたニューロン欠損に対するNIH3T3−BMP4の効果を示す。
【図4】マウスをカイニン酸塩処理した結果としてのニューロン欠損の顕微鏡写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経の変性を防止する方法であって:
(a)トランスフォーミング増殖因子のスーパーファミリーのメンバーまたは神経栄養因子タンパク質をコードするDNA配列をプロモーターに機能的に連結して含む組換え体ウイルスベクターまたはプラスミドベクターを作り出すこと;
(b)培養細胞群を該組換え体ベクターでインビトロにてトランスフェクトして、該培養細胞群を得ること;および
(c)傷害を受けた神経の近辺領域に該トランスフェクト細胞を移植し、該傷害を受けた神経の近辺領域内において該DNA配列を発現させて該神経の変性を防止すること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
該トランスフォーミング増殖因子がBMPである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該BMPがBMP−2、BMP−3、BMP−4、およびBMP−9である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該神経栄養因子がGDNFである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該細胞が結合組織細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該細胞が線維芽細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該細胞が神経細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該細胞がグリア細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該細胞がシュワン細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
該細胞を放射線照射することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該シュワン細胞を放射線照射することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該神経が末梢神経である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該ベクターがウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該ベクターがレトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはヘルペスウイルスベクターである、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
神経の変性を防止する方法であって、傷害を受けた神経の近辺領域にBMPタンパク質を含む組成物を投与することを特徴とする方法。
【請求項16】
該BMPタンパク質がBMP−2、BMP−3、BMP−4、またはBMP−9である、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−506982(P2009−506982A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518473(P2008−518473)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/024656
【国際公開番号】WO2007/002512
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(504346352)ティシュージーン,インク (6)
【Fターム(参考)】