説明

神経傷害の処置におけるシリマリンおよびシリビンの使用

【課題】新規神経傷害処置用組成物を提供する。
【解決手段】マリアアザミ(Silybum marianum)から単離されたフラボノリグナン類の混合物であるシリマリンまたはシリビンが神経保護活性を有し、脊髄傷害を有するラットの機能回復を改善するとの予期しない発見に基づき、神経傷害、例えば、脊髄傷害(SCI)の処置し、または神経傷害からの回復を亢進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年7月24日出願の米国仮出願61/228,434の優先権を主張し、その内容を、その全体を引用することにより本明細書に包含させる。
【0002】
発明の分野
本発明は、神経傷害の処置のためのシリマリンまたはシリビンの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
マリアアザミ(Silybum marianum)から単離されたフラボノリグナン類の混合物であるシリマリンは、肝臓障害に一般的に使用されている。それはまた抗炎症性、細胞保護性、および抗癌性活性も示す。シリビンはシリマリン中の主フラボノリグナンであり、上記の治療効果を有することが判明している。
【0004】
脊髄傷害(SCI)は、感覚および運動調節の喪失に至る脊髄の損傷である。それは脊髄の疾患(例えば、フリードライヒ失調症)または物理的外傷(例えば、挫傷)が原因であり得る。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、シリマリンまたはシリビンが神経保護活性を有し、脊髄傷害を有するラットの機能回復を改善するとの予期しない発見に基づく。
【0006】
従って、本発明は、処置を必要とする対象に有効量のシリマリンまたはシリビンを投与することによる、神経傷害(例えば、SCI)の処置方法に関する。特に、シリマリンまたはシリビンを、傷害された神経領域に送達できる。一例として、それを注射により髄腔内に投与する。本発明の方法において使用するシリビンは単離された形態、すなわち、合成法により製造されたものであっても、天然源(例えば、Silybum marianum)から富化された形態でもよい。単離されたシリビン化合物は、乾燥重量でその化合物を少なくとも40%含む調製物を言う。単離された化合物の純度は、例えば、カラムクロマトグラフィー、質量分析、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、NMR、または任意の他の適当な方法で測定できる。
【0007】
ここで使用する用語“処置”は、傷害、傷害の症状、または傷害に対する素因を治癒する、回復させる、緩和させる、軽減する、変化させる、治療する、寛解させる、改善する、または影響を与える目的で、神経傷害、傷害の症状、または傷害に対する素因を有する対象に、1種以上の活性成分を含む組成物を適用するまたは投与することを言う。ここで使用する“有効量”は、単独でまたは1種以上の他の活性剤と組み合わせて、対象に治療効果を与えるのに必要な各活性剤の量を意味する。有効量は、当業者には認識される通り、投与経路、選択した賦形剤、および他の薬剤との併用によって変わる。
【0008】
本発明はまた、シリマリンまたはシリビンでSCI(例えば、挫傷性SCI)からの回復を亢進させる方法にも関する。
【0009】
また本発明の範囲内にあるのは、神経傷害処置用医薬の製造のための、シリマリンまたはシリビンの使用である。
【0010】
本発明の1つ以上の態様の詳細を以下に明示する。本発明の他の特性または利点は、図面および数種の態様の詳細な記載、およびまた添付する特許請求の範囲から明らかであろう。
【0011】
図面の簡単な説明
前記の要約、ならびに下記の本発明の詳細な説明は、添付の図面と共に読んだときによりよく理解される。本発明を説明する目的で、現在好ましいと考えられる態様を図面に示す。しかしながら、本発明は示す厳密な配合および手段に限定されないことは理解されるべきである。
図面において:
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1はラット脊髄神経細胞−膠細胞培養におけるLPSおよびカイニン酸誘発毒性に対するシリマリンおよびシリビンの効果を示し、ここで、(A)は、各処置群(Con=コントロール群;a:P<0.05(LPS対コントロール);b:P<0.05(LPS+SM対LPS))における1.5mmあたりのiNOS陽性細胞の数を示し;(B)は、各処置群(Con=コントロール群)におけるiNOSおよびシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)レベルのウェスタンブロット分析を示す;そして(C)は、各処置群(a:P<0.05(treatment対コントロール);b:P<0.05(SM/LPSまたはSB/LPS対LPS);SM=シリマリン;SB=シリビン)における培養培地に放出される亜硝酸の量を示す。
【図2】図2は、混合膠細胞培養における細胞増殖およびH誘発フリーラジカル形成に対するシリマリンおよびシリビンの効果を示し、ここで、(A)は、各処置群における1.5mmあたりのBrdU陽性細胞の数を示し;そして(B)は、シリマリン(80μM)およびシリビン(80μM)によるH誘発フリーラジカル形成(ROS)の有効な阻害を示す。
【図3】図3は、(A)脊髄または(B)皮質から調製した神経膠細胞培養におけるH誘発フリーラジカル形成に対するシリマリンの用量依存的保護効果を示す。
【図4】図4(A)は、脊髄性神経膠細胞培養におけるHまたはt−BOOH誘発フリーラジカル形成に対するシリマリン(80μM)およびシリビン(80μM)の効果を示す。図4(B)は、皮質性神経膠細胞培養におけるHまたはt−BOOH誘発フリーラジカル形成に対するシリマリン(80μM)およびシリビン(80μM)の効果を示す。図4(C)は、ミクログリア培養におけるHまたはt−BOOH誘発フリーラジカル形成に対するシリマリン(80μM)の効果を示す。(* 各DMSO群と比較してP<0.05)
【図5】図5は、MTTアッセイにおけるシリマリンおよびシリビンの結果を示す。
【図6】図6は、挫傷性SCIラットにおける後肢機能の回復で証明される髄腔内投与したシリマリンの効果を示す(SM20=50%PEG中20μg/μlのシリマリン、6μl/ラット;SM5=50%PEG中5μg/μlのシリマリン、6μl/ラット;* 一元配置ANOVAおよびスチューデント・ニューマン・クールズ法でP<0.05)。
【図7】図7は、傷害された脊髄中心点においてシリマリン(SM)が傷害誘発ED1およびシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)発現を減少させることを示す、ラット脊髄中心点のウェスタンブロット分析の結果を示す。
【図8】図8は、シリマリン(120μg/ラット)の髄腔内投与後種々の時点での傷害された脊髄におけるシリビン保持を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な記載
本発明は、神経傷害の処置のため、およびかかる傷害からの回復を促進するためのシリマリンおよびシリビンの使用に関する。
【0014】
ここで使用するとき、句“SCIからの回復”は、SCIを有する対象の病態の改善および/または傷害された脊髄の身体機能の(少なくとも部分的な)回復を言う。例えば、本発明の実施例において使用する動物モデルにおいて、ラットの脊髄のT9−T10領域を挫傷により(contusively)傷害した。かかる場合、SCIからの回復は、後肢の運動障害により証明された。
【0015】
シリマリンは、基準が決められたマリアアザミSilybum marianum Gaertn(Carduus marianus Lとしても既知)の種子および果実からの抽出物であり、その主成分として、フラボノリグナン類であるシリビン(シリビニンと同義)を含む。シリマリンは任意の慣用法で製造してよく、例えば、Barreto et al. (Extraction of nutraceuticals from milk thistle. Hot water extraction; Appl. Biochem Biotechnol. 108:881-9, 2003), Wallace et al. (Extraction of nutraceuticals from milk thistle:part II. Extraction with organic solvents; Appl. Biotechnol. 105-108:891-903, 2003)およびWallace et al. (Batch solvent extraction of flavanolignans from milk thistle; Phyotchemical Analysis. 16:7-16, 2005)に開示された技術を参照のこと。あるいは、それはSigma-Aldrich(St. Louis, MO)のような販売社から購入できる。
【0016】
シリビン、すなわち、シリビニンまたは2,3−ジヒドロ−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−2−(ヒドロキシメチル)−6−(3,5,7−トリヒドロキシ−4−オキソベンゾピラン−2−イル)ベンゾジオキシンは2個のジアステレオマー形態を有する。両方の異性体を天然源から単離でき、または合成法により製造できる。シリマリンと同様、シリビンもSigma-Aldrich(St. Louis, MO)および他の供給者から商業的に入手可能である。
【0017】
特に、良好な効果を達成するために、シリマリンまたはシリビンを傷害された神経領域に直接投与し得る。一つの態様において、シリマリンまたはシリビンを髄腔内に投与する、すなわち、脊髄および脳を満たす脳脊髄液内に注射する。
【0018】
送達を促進するために、シリマリンまたはシリビンを、適当な薬学的に許容される担体と医薬組成物に製剤し得る。ここで使用する用語“薬学的に許容される担体”は、組成物中の活性成分と融和性であり、好ましくは、活性成分を安定化でき、そして処置する対象に対して有害ではない担体を言う。例示的担体は、食塩水、緩衝化食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノールおよびそれらの組み合わせを含み、これらに限定されない。
【0019】
SCIの領域に投与すべきシリマリンまたはシリビンの量は、対象の状態およびSCIのタイプおよび重症度のような多くの因子を考慮して決められる。シリマリンまたはシリビンの量は、SCIを有する対象に投与するとき、所望の効果を達成しなければならず、すなわち、傷害された領域を回復させるおよび/または傷害された脊髄の機能の回復を少なくとも部分的に促進しなければならない。適当な量は、過度の実験をせずに当業者は本明細書の開示を考慮して容易に決定できる。
【0020】
本発明をさらに下記の実施例により説明する。これらの実施例は説明の目的で提供するものであり、いかなる方法でも本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【実施例】
【0021】
化学物質
シリマリンおよびシリビンをSigma-Aldrich(St. Louis, MO)から購入した(それぞれ製品番号S0292およびS0417)。全てのインビトロ培養実験についてシリマリンまたはシリビニンをジメチル−スルホキシド(DMSO)に溶解し、培養培地で新たに希釈した。
液体クロマトグラフィーグレート溶媒および試薬をE. Merck(Darmstadt, Germany)から得た。
他の試薬は、特記しない限りSigma-Aldrichから購入した。
【0022】
混合神経細胞/膠細胞培養
混合神経細胞−膠細胞培養を、Hung et al. (Mol. 脳 Res. 75(2000):330-336)およびTsai et al. (Ann. N.Y. Acad. Sci. 1042(2005):338-348)に記載の通り、妊娠15日目の胎生期Sprague-Dawleyラット胎児の皮質または脊髄領域から調製した。簡単に言うと、細胞をパパイン/プロテアーゼ/デオキシリボヌクレアーゼI(0.1%:0.1%:0.03%)混合物で分離させ、ポリ−リシン被覆皿に1−2×10細胞/cmの密度でプレーティングした。細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)添加ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)に維持した。
【0023】
混合膠細胞培養
混合膠細胞培養を、Tsai and Lee(Free Radical Biology & Medicine 24(1998):705-713)に記載の通り、新生仔Spraque-Dawleyラットの大脳皮質または脊髄から調製した。簡単に言うと、磨砕した皮質または脊髄をナイロン布(80および10μm)を通し、75cmフラスコにプレーティングし、5.5mM グルコースを含み、10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したDMEMに維持した。細胞を37℃で5%CO/95%空気の水飽和雰囲気中でインキュベートした。培養物から汚染細胞を無くすために、培養物を、培養10日目に一夜、180rpmで振盪させ、浮遊細胞を除去することにより精製した。フラスコ中の培養物を多ウェルプレートに再プレーティングした。培養物は、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)での染色に90%を超える陽性を示した。
【0024】
ミクログリア培養
ミクログリア培養を、ラット混合膠細胞培養から精製した(Tzeng and Huang, J. Cell Biochem. 90(2)(2003):227-33)。簡単に言うと、培養10〜14日後、浮遊細胞および混合膠細胞層に弱く付着している細胞をフラスコを振盪させることにより単離した。得られた細胞懸濁液を多ウェルプレート(Corning, USA)に移し、37℃で付着させた。非接着細胞を30分後に除去し、ミクログリアを強く付着する細胞として単離した。ミクログリアの純度は、イオン化カルシウム結合アダプター分子1(IBA1、Wako Chemicals, Japan)またはED−1(Serotec, UK)の免疫染色で測定して、96%を超えた。
【0025】
動物
Sprague-Dawley(SD)ラットを、Animal Center of National Yang-Ming UniversityまたはNational Science Council, Taiwanから得た。240−280gの雌成熟SDラットを、誘導性挫傷性SCIモデルとして使用した。動物の取り扱いおよび実験プロトコールは、Taipei Veteran General Hospitalの動物実験委員会により注意深く検閲され、承認された。
【0026】
脊髄挫傷
挫傷性SCIを、NYU重り落下装置を使用して誘発させた。雌成熟SDラットを麻酔した。背部椎弓切除術を、第9胸椎(T)位置で行った。T9−T10脊髄の背部表面を、10gの棒の50mmの高さから落とすことにより損傷させた。硬膜は物理的に無傷のままであったが、重りの落下による傷害は体軸方向に数脊髄骨にわたり伸びる特徴的な卵形の壊死帯をもたらした(Grossman et al., Exp Neurol. 168(2)(2001):283-9;Widenfalk et al., J Neurosci. 21(10)(2001):3457-75)。
【0027】
実施例1:シリマリンは、脊髄神経膠細胞培養における細胞型に影響しない。
細胞播種2日目に、混合神経細胞/膠細胞培養をシリマリン(40μM)と3日間インキュベートした。次いで細胞を、神経細胞、星状膠細胞またはミクログリアマーカーについて免疫組織化学に処理した。
初代神経膠細胞培養をポリ−リシン被覆プレートにプレーティングし、4%パラホルムアルデヒド溶液で20分間固定した。細胞を0.2%Triton X−100で透過性にした。次いで細胞を、抗βIIIチューブリン(Covance MMS-435P)、抗GFAP(Chemicon AB 5804)および抗ED1(Serotec MCA 341)抗体を含む一次抗体および各蛍光標識した二次抗体(Jackson ImmunoResearch Inc.)で染色した。βIIIチューブリンは神経細胞特異的マーカーであり、GFAPは星状膠細胞マーカーであり、そしてED1はミクログリアマーカーである。脊髄神経細胞または非神経細胞の画像を、蛍光レンズ(fluorescence optics)を備えた蛍光顕微鏡で得た。神経細胞または免疫反応性細胞の画像をCCDカメラで撮った。
この結果によると(データは示していない)、シリマリンは、脊髄培養における神経細胞生存および非神経細胞数に影響しない。
【0028】
実施例2:シリマリンは、LPSおよびカイニン酸誘発毒性から脊髄神経膠細胞培養を保護する。
細胞播種2日目に、混合神経膠細胞培養を、内毒死リポポリサッカライド(LPS、1.2μg/ml)または外毒素カイニン酸(KA、150μM)の存在下または非存在下、2日間シリマリン(40μM)で処理した。培地を、硝酸/亜硝酸遊離のアッセイのために回収し、細胞を免疫組織化学およびウェスタンブロット分析のために採取した。
パラホルムアルデヒド固定およびtriton X−100透過処理後、細胞を一次抗体抗IL−1β(Chemicon)と一夜(4℃)インキュベートし、続いてロバ抗ヤギ488(Alexa)またはロバ抗マウスcy3(Jackson Lab)と室温で90分間インキュベートした。この結果によると(データは示していない)、LPSまたはKA処理は、脊髄培養においてIL−1β発現を誘発した。
細胞をまた誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)およびシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)発現についてのウェスタンブロット分析のために処理した。簡単に言うと、等量の細胞ライセートタンパク質を、SDS−PAGEゲルに負荷し、分離した。電気泳動を標準法に従い行った。電気泳動後、ゲルをPVDF膜(Millipore, USA)に移し、一夜、4℃でiNOS(BD transduction, USA)またはCOX−2(Cayman)に対する抗体とインキュベートした。ブロットをロバ抗ウサギIgG HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)接合二次抗体(Santa Cruz)またはヤギ抗マウスIgG HRP接合二次抗体(Santa Cruz)と1時間インキュベートし、HRP検出をSuperSignal Chemiluminescent Substrate(Pierce, USA)を使用して行った。
NO産生をグリース(Griess)試薬との比色反応を使用して、培地中の亜硝酸の蓄積としてアッセイした。簡単に言うと、LPS処理2日後、培養上清(150μl)を集め、1%スルファニルアミド/0.1%ナフチルエチレンジアミンジヒドロクロライド/2%リン酸を含む50μlのグリース試薬と混合し、室温で10分間インキュベートした。吸光度を540nmで測定した。ナトリウム亜硝酸(NaNO)を二酸化窒素(NO)を計算するための標準として使用した。
図1(A)から(C)に示す通り、LPSはCOX−2およびiNOS発現の増加、iNOS陽性細胞数の増加、および硝酸/亜硝酸レベルで示される一酸化窒素(NO)の遊離の増加を誘発した。シリマリンはLPSまたはKA刺激を有効に減少させた。シリビンはLPS誘発NO遊離を顕著に減少させた。
【0029】
実施例3:シリマリンおよびシリビンは混合膠細胞培養における細胞増殖を阻止する。
混合膠細胞培養の増殖性活性を、細胞を、有糸分裂のS期に遺伝物質に取り込まれるチミジン類似体である5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)で処理することにより試験した。
シリマリンまたはシリビン(20〜80μM)を、サブコンフルエント膠細胞に2日間添加した。細胞固定2時間前に、増殖細胞により取り込まれ得る5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU、10μM)を培養細胞に添加した。4%パラホルムアルデヒド(aldhyde)で固定後(30分間、室温)、細胞を2M HClで処理し(10分間、37℃)、そのDNAを変性させた。次いで細胞を、pHが6.5以上に到達するまでPBSで繰り返し洗浄した。細胞をさらにマウス抗BrdU(1:100、Chemicon, Temecula, CA)およびウサギ抗GFAP(1:300、Chemicon)抗体(4℃、一夜)で二重処理し、続いてFITCおよびローダミン接合二次抗体(室温、90分間)とインキュベートした。7個の無作為の視野を各ウェルで捕捉し、BrdU取り込み細胞を計数した。BrdU/総細胞の比を計算した。
図2(A)に示す通り、シリマリンおよびシリビンの両方とも膠細胞増殖を有効に減少させた(BrdU(+)/GFAP(+)の比率により表示)。
【0030】
実施例4:シリマリンおよびシリビンは、脊髄星状膠細胞、ミクログリアおよび神経膠細胞培養および皮質性神経膠細胞培養における毒素誘発フリーラジカル形成を減少させる。
抗酸化活性は、フリーラジカル損傷が種々の物質の神経毒性作用ならびに炎症、虚血および再灌流、アテローム性動脈硬化症および加齢のような過程の病因において重要な役割を有するため、神経保護剤の重要な作用機序である。フリーラジカルレベル(酸化的ストレス)を、Hまたはtert−ブチルヒドロペルオキシド(t−BOOH)での攻撃により細胞に誘発できる(図3(C)、図4(A−B)および図5(A−C)の“コントロール”参照)。
本実施例において、酸化的ストレスを、混合膠細胞、ミクログリアまたは混合神経膠細胞培養を種々のフリーラジカル発生剤で処理することにより誘発し、シリマリンおよびシリビンの抗酸化活性を、蛍光マイクロプレートリーダーで使用するために改変したDCFアッセイにより試験した。細胞内活性酸素種(ROS)の形成を、細胞内酸化剤産生の検出のための感受性で広く使用されているプローブである非蛍光2',7'−ジクロロジヒドロフルオレッセインジアセテート(DCF−DA)により検出した。DCF−DAは細胞に自由に入り、細胞内エステラーゼで親水性(故に“捕捉された”)、非蛍光レポーター分子DCFに修飾される。DCFの酸化は非常に蛍光性のDCFを産生し、それはフローサイトメトリーまたは他の蛍光検出法により検出できる。
DCFアッセイのために、培養物を最初に無血清培地(DMEM+N2)中40μM DCF−DA(Molecular Probe D-399;Invitrogen, Carlsbad, CA)で1時間負荷した。次いで、培地をH(神経細胞に1mM;非神経細胞に3mM)およびt−BOOH(0.75mM)を含む毒素を含む増殖培地に2時間変えた。シリマリンまたはシリビンの(20〜160μMにわたる)投与量を培養毒素処理開始後10分以内に添加した。得られた蛍光DCFレベルを蛍光プレートリーダーで485nm/538nmの励起/発光で測定した。
【0031】
図2(B)、図3(A)および(B)、および図4(A)から(C)に示す通り、シリマリンおよびシリビンの両方とも、脊髄混合膠細胞培養(図2(B))、脊髄混合神経膠細胞培養(図3(A);図4(A))、皮質性混合神経膠細胞培養(図3(B)、図4(B))および脊髄ミクログリア培養(図4(C))を含む全ての培養試験においてHまたはt−BOOH誘発フリーラジカル形成を顕著に減少させたため、強い抗酸化剤である。重要なことに、20μM〜160μMの範囲のシリマリンは、脊髄性または皮質性混合神経細胞−膠細胞培養におけるH誘発フリーラジカルの減少に有効である(図3(A)および(B))。
【0032】
MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム)減少の程度を、細胞生存能の測定のためにまたは生存細胞の代謝活性を測定するために使用する。MTTは、生存細胞のミトコンドリア酵素により青色ホルマザン産物に還元され、それは代謝機能の完全さに比例する(Edmondson et al., J. Tiss. Cult. Meth. 11(1998):15-17)。MTTアッセイのために、培養物を上記の通り毒素およびシリマリンまたはシリビンで2時間処理した。処理後、培養培地をウェルから除去し、グルコース(5mM)添加PBS中0.5mg/mLのMTTに置き換えた。2時間、37℃でインキュベーション後、この溶液を除き、青色ホルマザン結晶を酸性イソプロパノールに可溶化した。得られた溶液の光学密度を分光光度計で570nmで測定した。
【0033】
図5に示す通り、シリマリンおよびシリビンはMTT還元を強く増強した。MTT還元アッセイは、MTTテトラゾリウム塩をホルマザンに還元する代謝活性細胞の能力に依存する。還元ピリジンヌクレオチド補因子、NADHは大部分のMTT還元を担う。これは、シリマリンおよびシリビンの強い抗酸化特性を示す。
【0034】
実施例5:挫傷性SCIに対するシリマリンの髄腔内投与の効果
高濃度の(純粋)DMSOの直接輸液が神経毒性を引き起こし得るため、別のより安全な薬剤であるポリエチレングリコール(PEG;MW2000Da)を、髄腔内注射のためにシリマリンを溶解するために使用した。親水性ポリマーであるPEGは安全であり、急性脊髄傷害に対して神経保護的であることが証明されている。(Shi and Borgens, J. Neurophysiol. 81(1999):2406-2414;Shi et al., J. Neurotrauma 16(1999):727-738;Shi and Borgens, J. Neurocytol. 29(2000):633-644)。PEG(50%)の溶液を塩水で調製した。次いでシリマリンを5または20mg/ml濃度でPEG溶液に溶解した。シリマリンを含むまたは含まない6μlのPEGを、挫傷性傷害誘発後30分以内に傷害された脊髄の中心点に髄腔内投与した。皮膚を縫合し、後肢機能(BBBスケール)を上記の脊髄傷害後2日目および毎週モニターした。図6に示す通り、髄腔内シリマリン注射(20μg/μl)はSCIラットにおける機能回復を顕著に促進し、シリマリンの媒体であるPEGは神経保護的ではない。傷害5週後、ラットに麻酔し、4%パラホルムアルデヒドを血管内に灌流させた。次いで、脊髄を矢状に切断し(10μm厚)、抗神経フィラメント(神経細胞用)または抗ED1(活性化ミクログリア用)での免疫組織化学的染色について処理した。この結果によると(データは示していない)、シリマリン処理脊髄において脊髄軸索(神経フィラメント陽性)は良好に保護され、ミクログリア活性化(ED−1)の程度が低いことが判明した。
【0035】
外傷性脊髄傷害は破壊的であり、一次および二次傷害カスケードの両方を含む一連の細胞的および分子的事象を開始させる。脊髄の傷害は、炎症応答を引き起こし、これは最初にさらなる組織損傷をもたらす。故に、脊髄傷害の初期炎症応答の減弱は、組織傷害の程度を、そしてそれ故にその後の身体障害を減縮する可能性がある。シリマリンの髄腔内投与を行ったまたは行っていないSCIラットを、傷害3日後に殺した。傷害された脊髄の中心点を直ぐに摘出し、氷冷抽出緩衝液(7M ウレア、2M チオウレア、4%CHAPS、40mM Tris緩衝液(pH7.5)およびプロテアーゼ阻害剤(Roche 11836145001))中で均質化した。Bradford法(Bio-Rad Protein Assay, Bio-Rad Laboratories)を使用して、タンパク質濃度を測定した。等量のタンパク質を8%SDS−PAGEゲルに負荷し、分離した。移した後、得られたPVDF膜を抗COX−2、抗ED−1および抗アクチン抗体で試験した。図6の結果に一致して、図7に示す通り、髄腔内投与したシリマリンは、傷害3日後の傷害された脊髄で炎症促進性酵素であるCOX−2の発現を低下させ、ED−1(+)ミクログリア浸潤を阻止した。
【0036】
髄腔内シリマリンの位置は、全身的皮下(sc)投与されたものと異なり得る。SCIラットに、シリマリン(120μg/6μl/ラット)を髄腔内投与した。傷害1日、2日、7および14日後、脊髄中心点を摘出し、5体積の50mM Tris−HCl(pH7.4)中で均質化した。組織ホモジネートをさらに等体積の溶媒(ブタノール:メタノール、95:5;v/v)で抽出した。遠心分離後、得られた有機層を回収し、濃縮し、UV検出器を備えたHPLC装置に直接注入した。図8は、脊髄において達成されるシリマリン暴露の経時変化を示す(薬物動態学)。シリマリンの位置は傷害された脊髄中心点に限定される。注射2週目で、約8μg/組織gのシリマリンがまだ残っていた。故に、シリマリンの薬物動態学の差異が、髄腔内シリマリン注射の有効な結果に寄与している可能性がある。
【0037】
当業者には、上記の態様を、その広い発明的概念から逸脱することなく変え得ることが認識されよう。それ故に、本発明は開示した特定の態様に限定されず、添付の特許請求の範囲に定義する本発明の精神および範囲内の改変を包含することを意図することは理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてシリマリンまたはシリビンを含む、神経傷害処置用組成物。
【請求項2】
神経傷害が脊髄傷害(SCI)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
SCIが挫傷性SCIである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
髄腔内投与する、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
傷害された神経領域に投与する、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
活性成分としてシリマリンまたはシリビンを含む、SCIからの回復を亢進させるための組成物。
【請求項7】
SCIが挫傷性SCIである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
髄腔内に投与する、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
傷害された神経領域に投与する、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項10】
神経傷害の処置またはSCIからの回復の亢進のための医薬の製造における、シリマリンまたはシリビンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−26293(P2011−26293A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−95073(P2010−95073)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(502290266)
【氏名又は名称原語表記】Taipei Veterans General Hospital
【Fターム(参考)】