神経再生チューブ及びその製造方法
【課題】 神経再生効果が高く、製造が容易な神経再生チューブ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなる。
【解決手段】 キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経の再生に用いられる神経再生チューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の事故により末梢神経を損傷した場合、切断した神経を外科手術により繋ぐという方法が従来から行われているが、損傷が大きい場合には他の材料によって損傷部位を補うことになる。このとき用いられる材料は、生体適合性に優れ、神経の再生を促すものが求められる。
【0003】
神経の再生に適した材料として、例えば、ペプチドを基材に固定化した神経再生用材料及び神経再生用材料を生体吸収性のチューブに充填した神経再生材(特許文献1参照)、スポンジ及び該スポンジより分解吸収期間の長い生体吸収性高分子から構成される神経再生チューブ(特許文献2参照)、管状被覆材と繊維の束とからなる神経再生チューブ(特許文献3参照)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの神経再生材料は、製造するのが困難であるという問題があった。
【0005】
また、さらなる神経再生効果が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−143531号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2003−19196号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2005ー237476号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、神経再生効果が高く、製造が容易な神経再生チューブ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0009】
かかる第1の態様では、キトサン繊維が絡み合ったメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなることより、製造が容易で、神経系細胞の接着性に優れ、且つ神経断端から発芽しやすく、神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記筒状繊維体がメッシュ状のマトリックスを二層以上積層して筒状としたものであることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0011】
かかる第2の態様では、機械的強度に優れた神経再生チューブとなる。また、線維芽細胞の侵入を防止しつつ筒状繊維体の内壁へ生体内の栄養分を取り入れることができ、より効果的に神経再生を促すことができる神経再生チューブとなる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記筒状繊維体が、キトサン繊維が筒状繊維体の軸方向に配向した配向層と、キトサン繊維が配向していない無配向層とからなることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0013】
かかる第3の態様では、接着した神経系細胞が所望の方向に配向し、再生軸索がその方向へ伸びやすく、より神経再生効果が高くなる。また、より機械的強度に優れた神経再生チューブとなる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1又は2の態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維が前記筒状繊維体の軸方向に配向していることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0015】
かかる第4の態様では、接着した神経系細胞が所望の方向に配向し、再生軸索がその方向へ伸びやすく、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。また、より機械的強度に優れた神経再生チューブとなる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維がエレクトロスピニングにより形成されたものであることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0017】
かかる第5の態様では、小さく均一な繊維径の繊維からなる神経再生チューブとなり、繊維部分に神経系細胞が接着するのみならず、繊維と繊維の間に神経系細胞が接着しやすく、接着した神経系細胞を安定して保持することができ、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維が、脱アセチル化度が90%以上であることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0019】
かかる第6の態様では、生体内において変性しにくく、吸収されにくい神経再生チューブとなる。また、生体内での炎症細胞浸潤が少ない神経再生チューブとなる。
【0020】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維の繊維径が5μm以下であることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0021】
かかる第7の態様では、より神経系細胞や再生軸索の接着性に優れ、且つ安定して保持することができるため、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。
【0022】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維の繊維径が400nm以下であることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0023】
かかる第8の態様では、より神経系細胞や再生軸索の接着性に優れ、且つ安定して保持することができるため、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。
【0024】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、内径がφ1.5〜2.0mmであることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0025】
かかる第9の態様では、生体内で好適に使用できる神経再生チューブとなる。
【0026】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、厚さが0.3〜0.5mmであることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0027】
かかる第10の態様では、生体内で好適に使用できる神経再生チューブとなる。
【0028】
本発明の第11の態様は、第1〜10の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維がペプチド修飾されていることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0029】
かかる第11の態様では、より神経系細胞の接着性に優れた神経再生チューブとなる。
【0030】
本発明の第12の態様は、エレクトロスピニング法により形成された筒状繊維体からなる神経再生チューブの製造方法であって、キトサン類を含むキトサン溶液の液滴を液滴供給部から紡糸空間へ供給し、紡糸空間に設けられた回転支持体にキトサン繊維を巻き取る捕集工程と、前記回転支持体を回転させながら捕集したキトサン繊維に押圧部材を押し当てる押圧工程とを具備することを特徴とする神経再生チューブの製造方法にある。
【0031】
かかる第12の態様では、接着剤等を塗布することなく、繊維径の小さいキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを二層以上積層した筒状繊維体からなる神経再生チューブを容易に製造することができる。
【0032】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の神経再生チューブの製造方法において、前記捕集工程の前記回転支持体の外周速度を3m/秒以上とすることを特徴とする神経再生チューブの製造方法にある。
【0033】
かかる第13の態様では、回転支持体の円周方向にキトサン繊維を配向させたメッシュ状のマトリックスを容易に製造することができ、配向した神経再生チューブを容易に製造することができる。
【0034】
本発明の第14の態様は、第12又は13の態様に記載の神経再生チューブの製造方法において、前記押圧工程後に得られたメッシュ状のマトリックスを前記回転支持体から取り外して巻き取ることで筒状繊維体を得る巻取り工程を具備することを特徴とする神経再生チューブの製造方法にある。
【0035】
かかる第14の態様では、機械的強度に優れた神経再生チューブを製造することができる。また、回転支持体の回転方向と異なる方向に巻き取ることで、キトサン繊維を回転支持体の円周方向とは異なる、任意の方向に配向させた神経再生チューブを製造することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、製造が容易で、神経系細胞の接着性に優れ、且つ神経断端から発芽しやすく、神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。また、線維芽細胞の侵入を防止しつつ筒状繊維体の内壁へ生体内の栄養分を取り入れることができ、より効果的に神経再生を促すことができる神経再生チューブとなる。
【0037】
また、接着剤等を塗布することなく、繊維径の小さいキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを二層以上積層した筒状繊維体からなる神経再生チューブを容易に製造することができる。さらに、容易にキトサン繊維を一定方向に配向させた筒状繊維体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明にかかる神経再生チューブは、キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなる。かかる神経再生チューブは、キトサン繊維からなることにより、生体適合性に優れ、メッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなることで、神経系細胞の接着性に優れ、且つ神経断端から発芽しやすく、神経再生効果が高いものである。また、製造が容易な神経再生チューブである。
【0039】
筒状繊維体は、キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状としたものである。メッシュ状のマトリックスとは、繊維が絡み合って開口を有する網目状となるように形成された繊維の集合体のことをいい、外部との栄養交換、ガス交換、液交換の効率がよく、代謝産物の廃棄に好適な不織布である。このため、本発明にかかる神経再生チューブにおいては、神経系細胞が接着し易く、神経軸索の発芽が促進され、また再生神経の成熟も促進されやすい。
【0040】
キトサン繊維は、エレクトロスピニングにより形成されたものであることが好ましい。エレクトロスピニングにより形成された繊維は、小さく均一な繊維径の繊維からなるため、繊維部分に神経系細胞や再生軸索が接着するのみならず、繊維と繊維の間に神経系細胞や再生軸索が接着しやすく、接着した神経系細胞や再生軸索を安定して保持することができる。なお、キトサン繊維の繊維径は、好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは0.01〜3.0μm、特に好ましくは100〜400nmである。繊維径がこの範囲となることで、より神経再生効果の高いものとなり、さらに機械的強度に優れた筒状繊維体とすることができる。
【0041】
キトサン繊維は、キトサン類を主成分とする繊維である。すなわち、本発明における繊維体はキトサン類繊維からなるものである。このため、本発明の神経再生チューブは、神経系細胞の接着性に優れ、且つ神経断端から発芽しやすく、神経再生の効果が高いものとなる。
【0042】
なお、キトサン類とは、キチン(β‐ポリ‐N‐アセチル‐D‐グルコサミン)を脱アセチル化した生成物又はこの誘導体をいい、キトサン(β‐ポリ‐D‐グルコサミン)及びその誘導体の他、未反応のキチン及びその誘導体を含有するものをいう。本発明で用いることができるキトサン類は、特に限定されないが、脱アセチル化度が50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、特に好ましくは、キチンの脱アセチル化度が90%以上である。なお、脱アセチル化度とは、キトサン類におけるキトサンの割合を示すものである。
【0043】
キトサンの脱アセチル化度を90%以上とすることで、生体内において変性しにくく、吸収されにくい神経再生チューブとすることができる。また、生体内での炎症細胞浸潤が軽度な神経再生チューブとすることができる。さらに、エレクトロスピニングした場合、キトサン繊維の繊維径を小さいものとしやすくなる。具体的には、例えば、400nm以下にすることができ、このように径の細い繊維が密集することで、神経再生チューブは機械的強度が非常に高いものとなる。また、移動してきた神経系細胞や再生軸索が接着しやすく、接着した細胞を安定して保持することができるものとなる。
なお、本発明で用いるキトサン類の主成分は特に限定されず、例えば、キトサン、N−アリルキトサン、N−アルキルキトサン、o−アリルキトサン、o−アルキルキトサン、硫酸化キトサン、ニトロ化キトサン、カルボキシメチル化キトサン等が挙げられるが、キトサン、カルボキシメチル化キトサンが好ましい。
【0044】
なお、キトサン繊維は、キトサン類を含有するものであればよく、生体適合性に優れた他の成分を含んでいてもよい。例えば、性能を最大限に発揮させるために必要に応じて、合成高分子や繊維の改質剤、生理活性物質(細胞接着活性因子、細胞増殖因子、線維芽細胞成長因子、免疫活性因子、神経作用因子等)、血清成分、生物組織成分、界面活性剤等を加えることができる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、絹フィブロイン、プリテオグリカン、フィブロネクチン、ヴィトロネクチン、エンタネクチン、エラスチン、ラミニン、セレクチン、ガレクチン、レクチン(WGA、コンカナバリンA等)、コラーゲン、ゼラチン、酵素(コラゲナーゼ、トリプシン、グルコシダーゼ、プロテインキナーゼ、ウロキナーゼ、SOD等)、アルブミン、フィブリン、フィブリノーゲン、ポリ−L−リジン、ポリ−L−グルタミン酸、細胞外マトリクスタンパク質、インテグリン、アミノ酸(グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アラニン、セリン、アスパラギン、グルタミン酸、スレオニン、システイン、ロイシン、メチオニン等)、ジペプチド、トリペプチド、ペプチドタンパク質(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン配列、アルギニン−グルタミン酸−アスパラギン酸−バリン配列、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸配列を含む)、グリコサミノグリカン、ムチン型結合糖鎖、アスパラギン型結合糖鎖、オリゴ糖(トレハロース、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フルクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、シクロデキストリン等)、単糖(マンノース、N-アセチル−D−グルコサミン、グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミン、シアル酸、ムラミン酸、グルコース、ガラクトース、ラクトース、フコース、アラビノース等)、ガングリオシド、スフィンゴ脂質、糖脂質(アルキルグリコシド、ガラクトシルセラミド等)、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸エステル(DHA、EPA等)、長鎖脂肪酸(アラキドン酸、リノール酸、レチノイン酸等)、グリセロール、多価アルコール、コレステロール、スクアレン、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン、ステロイド、インシュリン、トランスフェリン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、チロキシン、トリヨードチロシン、β‐メルカプトエタノール、アセチルコリン、酸類(乳酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、グルコン酸、グルコロン酸、パントテン酸、ピルビン酸等)、グリチルリチン、ルチン、ステビオシド、サポニン、アルブチン、ポリフェノール(カテキン)、SOD様活性物質、インターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、TNF‐α、モノクローナル抗体、補体因子、遺伝子、DNA、RNA、アデニン、牛胎仔血清、ビタミン類、無機塩類、シリコン、セラミック、アパタイト、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、エチレンジアミンテトラ酢酸等が挙げられる。
また、神経再生チューブの神経再生効果を向上させるために、適宜、キトサン繊維の表面を修飾してもよく、例えば、ペプチドによる修飾等が挙げられる。キトサン表面を修飾するペプチドとしては、例えば、ラミニン由来活性ペプチドである、YIGSR、IKVAVなどが挙げられる。ペプチド修飾することにより神経系細胞の接着性に優れた神経再生チューブとなる。
【0045】
本発明にかかるキトサン繊維は、筒状繊維体の軸方向に配向していることが好ましい。
キトサン繊維が筒状繊維体の軸方向に配向していることにより、軸索が神経再生チューブの軸方向へ伸びやすく、接着した神経系細胞が軸方向に配列してこれを支持することにより神経再生効果の高い神経再生チューブとなるからである。また、軸方向に配向することで軸方向に対する機械的強度が向上する。
【0046】
ここで、繊維が筒状繊維体の軸方向に配向しているとは、キトサン繊維の軸方向への配向度が例えば60%以上の状態を指す。なお、軸方向に配向とは、軸方向に実質的に平行に延びている状態だけではなく、軸方向に対して傾斜して延びている状態も含むものである。すなわち、軸方向に傾斜した繊維や一部の配向していない繊維と、軸方向に実質的に平行な繊維とが絡まり合うことで、メッシュ状のマトリックスとなっている。
【0047】
なお、ここでいう配向度は、キトサン繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された画像を画像処理ソフト(A像くん:旭化成エンジニアリング製)により処理して求められる。具体的には、得られた繊維の傾きを0〜180°まで10°刻みで18等分に区分けし、各範囲の繊維の個数(度合)の度数分布図(ヒストグラム)を描き、下記式より求められる。
【0048】
【数1】
【0049】
図1に配向繊維の配向角度のヒストグラムの一例を示す。図1に示すヒストグラムは、全区間数は18であり、最大度数60の半分、すなわち30以下の区間数は15であることより、配向度は83.3%と求められる。
【0050】
また、筒状繊維体は、メッシュ状のマトリックスを二層以上積層して筒状としたものであることが好ましい。なお、ここでいう積層とは、メッシュ状のマトリックスを複数回巻き回して形成されるものでもよい。筒状繊維体がメッシュ状のマトリックスを二層以上積層して筒状としたものであることより、機械的強度に優れた神経再生チューブとなる。また、線維芽細胞の侵入を防止しつつ筒状繊維体の内部へ生体内の液性因子や酸素を取り入れることができ、代謝産物を外部へ廃棄できることにより効果的に神経再生を促すことができる神経再生チューブとなる。
【0051】
筒状繊維体は、異なる種類のメッシュ状マトリックスを積層させたものであってもよい。例えば、キトサン繊維が軸方向に配向した配向層を複数設け、その外周面にキトサン繊維が配向していない無配向層を複数設けたものが挙げられる。この場合は、配向層の外表面に無配向層を設けるのが好ましい。軸方向に配向した配向層において、神経軸索が神経再生チューブの軸方向へ伸びやすく、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなるからであり、また、無配向層により配向層が保護されることで、例えば、外部からの径方向への圧迫に耐性のある機械的強度に優れた神経再生チューブとなるからである。
【0052】
また、キトサン繊維が軸方向に配向した配向層と、キトサン繊維が配向していない無配向層とを交互に積層させてもよい。このような構成とすることで、神経再生チューブの内層が剥離したとしても、配向層へ接着した神経断端からの軸索が軸方向へ伸びやすいため、高い神経再生効果が得られる。
【0053】
本発明にかかる筒状繊維体は、何層から形成されるものであってもよい。所望の機械的強度、浸透性等にあわせて、適宜、調整すればよい。
【0054】
なお、筒状繊維体は、キトサン繊維が軸方向に配向した配向層と、キトサン繊維が円周方向に配向した配向層とからなるものであってもよい。このような層から形成されることで、いずれの方向に対しても機械的強度の高い筒状繊維体となる。
【0055】
また、本発明における神経再生チューブは、内径は特に限定されないが、φ1.5〜2.0mmであることが好ましい。例えば、生体内の指神経等の太さにマッチし好適に用いることができるものとなるからである。なお、太い神経部分に移植する場合は、神経再生チューブを何本か束ねてケーブルグラフトすることで、血行不良により壊死しやすい中央部分の再生神経も壊死することがなくなる。
【0056】
神経再生チューブの厚さは、特に限定されないが、例えば0.3〜0.5mmであることが好ましい。この範囲であれば、外部との栄養交換、ガス交換、液交換の効率が優れたものとなり、神経再生効果が高いものとなる。また、機械的強度を十分に保つことができる。
【0057】
本発明の神経再生チューブの製造方法は、キトサン類を含むキトサン溶液の液滴を液滴供給部から紡糸空間へ供給し、紡糸空間へ設けられた回転支持体にキトサン繊維を巻き取る捕集工程と、回転支持体を回転させながらキトサン繊維に押圧部材を押し当てる押圧工程とを具備する。この製造方法によれば、繊維径の小さいキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスの積層体からなる神経再生チューブを容易に製造することができる。具体的には、回転支持体にキトサン繊維を巻き取ることでメッシュ状のマトリックスの筒状繊維体を容易に得ることができ、押圧工程により筒状繊維体の形状を整えながら、メッシュ状のマトリックスの積層体を形成することができ、接着剤を塗布することなく容易に神経再生チューブを製造することができる。
【0058】
また、捕集工程において、回転支持体の外周速度を3m/秒以上とすることにより回転支持体の円周方向にキトサン繊維を配向させたメッシュ状のマトリックスを容易に形成することができる。配向していないキトサン繊維を形成する場合は、回転支持体の外周速度を3m/秒未満とすればよい。このように、回転支持体の外周速度を調整することにより、容易に繊維の配向を調整することができる。
【0059】
また、神経再生チューブの製造方法は、押圧工程後に得られたメッシュ状のマトリックスを前記回転支持体から取り外して巻き取ることで筒状繊維体を得る巻取り工程を具備していてもよい。これにより、機械的強度の優れた神経再生チューブを製造することができる。また、回転支持体の回転方向と異なる方向に巻き取ることで、キトサン繊維を回転支持体の円周方向とは異なる、任意の方向に配向させた神経再生チューブを製造することができる。例えば、金属軸を中心に回転支持体と垂直な方向に巻き取ることで、軸方向に配向した筒状繊維体、すなわち、神経再生チューブを得ることができると共に、神経再生チューブを多層化することもできる。勿論、斜め方向に巻き取ることで、斜め方向に配向した神経再生チューブも得ることができる。
【0060】
なお、上述した方法により配向した配向層からなる筒状繊維体を形成した後、回転支持体に筒状繊維体を再び装着し、回転支持体の外周速度を3m/秒未満として同様の操作を行うことで、繊維が配向した配向層と、繊維が無配向の無配向層との境目がない神経再生チューブを形成することもできる。
【0061】
ここで、神経再生チューブの製造方法の一実施形態を詳細に説明する。
【0062】
まず、キトサン類をトリフルオロ酢酸等の溶媒に溶解させて、適宜ろ過等を行うことでキトサン溶液を調製する。このとき、キトサン溶液には生体適合性に優れた他の成分を溶解させてもよい。
【0063】
次に、キトサン溶液をエレクトロスピニング(静電紡糸)することにより繊維化する。図2及び図3に、キトサン繊維からなる神経再生チューブの成形を行うエレクトロスピニング装置の模式図を示す。当該装置は、図2に示すようにインフュージョンポンプ1、注射器2、液滴供給部3、高圧直流定電圧電源4、電極板5、回転支持体6及び回転モーター7から構成されている。
【0064】
まず、注射器2中にキトサン溶液8を充填する。また、シリンジ針等の液滴供給部3に注射器2を接続する。さらに、注射器2をインフュージョンポンプ1にセットする。一方、液滴供給部3は、高圧直流定電圧電源4の陽極に接続する。また、電極板5を高圧直流定電圧電源4の陰極に接続する。さらに、棒状の回転支持体6を回転モーター7に接続する。
【0065】
次いで、液滴供給部3と電極板5との間に高圧直流定電圧電源4を使用して、高電圧をかけることで電場を発生させる。その電場に対して、インフュージョンポンプ1からキトサン溶液8を押出し、液滴供給部3から液滴が形成されるように、キトサン溶液8を噴射する。このようにして形成された液滴が電荷反発と電場によって、細分化し、延伸する。同時に、液滴中のほとんどの溶媒が蒸発する。
【0066】
この際、回転モーター7の駆動によって、回転モーター7に接続した回転支持体6を回転させることで、図3に示すように、メッシュ状のマトリックス10が回転支持体6の表面に直接筒状繊維体が形成されることとなる。このとき、回転支持体6の外周速度を3m/秒以上とすると、円周方向に配向した繊維が得られ、回転支持体6の外周速度を3m/秒未満とすることで配向していない繊維を得ることができる。そして、例えば、数分に1、2回、回転支持体6を回転させたまま、押圧部材9を回転支持体6上に捕集したキトサン繊維に押し当てる。この操作を繰り返すことで、二層以上の層からなる筒状繊維体を回転支持体6上に形成することができる。
【0067】
液滴を形成する際のインフュージョンポンプ1の送液速度は、0〜30ml/時間、好ましくは0〜10ml/時間、特に好ましくは0〜5ml/時間とする。また、電場を発生させるための電圧は、1〜100kV、好ましくは1〜50kV、特に好ましくは10〜30kVとする。
【0068】
また、インフュージョンポンプ1からのキトサン溶液8の噴出量、回転支持体6の種類や径の大きさ及び回転支持体6の回転速度を変えることでチューブの寸法、密度、強度等を任意に設定することができる。
【0069】
押圧部材9の押圧は、0.2〜2.0kg/cm2程度が好ましい。
【0070】
そして、得られたキトサン繊維に不溶化処理を行う。本発明に係る製造方法では、成形された筒状繊維体を不溶化処理することで、製造された筒状繊維体を水分が多い環境である生体内に曝露しても溶解しないものとすることができる。不溶化処理として、例えば残存する溶媒に対して脱溶媒や中和処理を行った後、水による洗浄を行う。特に、キトサン溶液の作製に使用した溶媒を完全に除去すべく、アンモニア水や水酸化ナトリウム溶液等の高濃度(例えば、10〜50%の濃度)のアルカリ水溶液中に、成形された筒状繊維体を1〜100時間、好ましくは1〜50時間、特に好ましくは1〜20時間浸漬することで、不溶化処理を行う。
【0071】
最後に、得られた筒状繊維体付きの回転支持体をエタノール等の溶液に浸漬する。これにより、得られた筒状繊維体がわずかに収縮し、回転支持体から容易に除去することができる。
【0072】
本発明の製造方法によれば、積層体からなる神経再生チューブを容易に形成することができる。
【0073】
本実施形態では、陰極として電極板5を設けたが、回転支持体6を陰極としてもよい。
【0074】
また、回転支持体6は、金属棒でも、金属ドラムでもよい。金属棒を用いた場合は、容易に筒状繊維体を得ることができる。なお、軸方向に配向した筒状繊維体を製造する場合は、回転支持体6として金属ドラムを使用する。そして、キトサン繊維を配向させたメッシュ状のマトリックを回転支持体6から取り外して、例えば、金属軸を中心に回転支持体6の回転方向と垂直方向に手動で巻くことで軸方向に配向した筒状繊維体が得られる。勿論、無配向の筒状繊維体も同様の方法により製造してもよい。
【0075】
本実施形態により、配向層と無配向層を形成する場合は、例えば、配向した配向層からなる筒状繊維体を金属棒上に形成した後、当該金属棒を回転支持体6とし、回転支持体6の外周速度を3m/秒未満として同様の操作を再び行うことで、繊維が配向した配向層と、繊維が無配向の無配向層との境目をつくることなく神経再生チューブを形成することもできる。
【0076】
本発明の製造方法によれば、継ぎ目をつくることなく、繊維径の小さく均一なキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを二層以上積層した筒状繊維体からなる神経再生チューブを製造することができる。
【0077】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
<キトサン溶液の調製>
脱アセチル化度93%のキトサン(北海道曹達株式会社製)1.6gをトリフルオロ酢酸(和光純薬工業株式会社製)20mlに50℃で12時間かけて溶解し、塩化メチレン5mlを加え、ガラスフィルター(3G型−2、フィルター径30mm、ポアサイズ40〜100μm;日本理化学器械株式会社製)でろ過してキトサントリフルオロ酢酸液を得た。
【0079】
<キトサン繊維のメッシュ状のマトリックスの製造>
得られたキトサントリフルオロ酢酸液を注射器(テルモシリンジSS−30ESZ;テルモ株式会社製)に入れて内径φ0.7mmの針(シェアフィールドSVセット22G;テルモ株式会社製)につなぎ、インフュージョンポンプ(11Plus;HARVARD APPRATUS製)にセットした。針先に高電圧直流電圧電源(HSP−30k−2;日本スタビライザー株式会社製)の陽極を接続した。そして、回転支持体としてφ1.2mmのステンレス棒を針の向きに対して垂直かつ同じ高さになるように設置し、ステンレス棒の一端を回転モーターと連結し、他端を高電圧直流電圧電源の陰極に接続した。
【0080】
ステンレス棒の回転速度0.01m/秒、25kvの電圧をかけて、1時間かけて針からステンレス棒へトリフルオロ酢酸液を噴出し、ステンレス棒と平行に設けたテフロン(登録商標)棒を1分に1回、1.0kg/cm2で押し付けることで、ステンレス棒上にキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを得た。
【0081】
<神経再生チューブの製造>
その後、メッシュ状のマトリックスをステンレス棒ごと28重量%のアンモニア水(和光純薬工業株式会社製)に室温で1時間浸漬させた後、蒸留水を室温で2時間連続的に供給して洗浄した。
【0082】
得られたメッシュ状のマトリックスをステンレス棒ごとエタノールに3分間浸漬させ、その後、ステンレス棒からメッシュ状のマトリックスをはがすことで、外径φ2.0mm×内径φ1.2mmの実施例1の神経再生チューブを得た。
【0083】
(実施例2)
脱アセチル化度78%のキトサンを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2の神経再生チューブを得た。
【0084】
(実施例3)
ステンレス棒の代わりにステンレスドラム(直径100mm、長さ150mm)を用い、その外周速度を0.52m/秒とした以外は実施例1と同様にしてキトサン繊維を得た。得られたキトサン繊維をステンレスドラムからはずし、ステンレス棒を中心にステンレスドラムの回転方向と垂直方向に手動で巻き取り、ステンレス棒上にキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを得た。その後、実施例1と同様の方法によりステンレス棒からキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスをはずすことで、無配向のキトサン繊維からなる外径φ2.0mm×内径φ1.2mm、0.006g/cmの実施例3の神経再生チューブを得た。
【0085】
また、得られたメッシュ状マトリックスを厚さ70μm、ダンベル状6号形(JIS K6251:加硫ゴムの引張試験方法に準拠)に打ち抜き、実施例3の試験片を作製した。なお、引張方向がステンレスドラムの回転方向に垂直な方向となるようにした試験片を試験片(1)、引張方向がステンレスドラムの回転方向と一致するようにした試験片を試験片(2)とした。
【0086】
(実施例4)
ステンレスドラムの外周速度を5.2m/秒とした以外は、実施例3と同様にしてキトサン繊維を得た。得られたキトサン繊維をステンレスドラムからはずし、ステンレス棒を中心に繊維がステンレス棒の軸方向に配向するように手動で巻き取り、ステンレス棒上にキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを得た。その後実施例1と同様にしてステンレス棒からキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスをはずすことで、外径φ2.0mm×内径φ1.2mm、0.006g/cmのキトサン繊維が軸方向に配向した実施例4の神経再生チューブを得た。
【0087】
また、得られたメッシュ状マトリックスを厚さ70μm、ダンベル状6号形(JIS K6251:加硫ゴムの引張試験方法に準拠)に打ち抜き、実施例4の試験片を作製した。なお、引張方向がステンレスドラムの回転方向に垂直な方向となるようにした試験片を試験片(1)、引張方向がステンレスドラムの回転方向と一致するようにした試験片を試験片(2)とした。
【0088】
(実施例5)
キトサントリフルオロ酢酸液の量を半分とした以外は実施例4と同様にして0.003g/cmのキトサン繊維を作製し、このキトサン繊維をステンレス棒の軸方向に配向するようにステンレス棒上に巻き取った。さらにこのステンレス棒を実施例1と同様にして装置にセットし、外周速度0.01m/秒、25kvの電圧をかけ、30分かけて針からステンレス棒へ残り半分のキトサントリフルオロ酢酸液を噴出し、ステンレス棒と平行に設けたテフロン(登録商標)棒を1分に1回、1.0kg/cm2で押し付けることで、キトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを得た。その後、実施例1と同様にしてステンレス棒からキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスをはがすことで、外径φ2.0mm×内径φ1.2mm、0.006g/cmの実施例5の神経再生チューブを得た。このマトリックスは軸方向に配向したキトサン繊維を無配向のキトサン繊維が覆うように構成されており、このときの配向繊維と無配向繊維の重量比は50:50であった。
【0089】
(比較例1)
脱アセチル化度93%のキトサン(北海道曹達株式会社製)5.5gを、酢酸5.5g、水89.5gに溶かし、室温で2時間攪拌し、ろ過した。得られた溶液にφ2.0mmのSUS棒を浸漬させ、50℃で20分間乾燥させた。この操作を4回行い、5%の苛性ソーダに10分間浸し、蒸留水で2時間洗浄することで、外径φ2.1mm×内径φ2.0mmのフィルムからなる比較例1の神経再生チューブを得た。
【0090】
(試験例1):表面観察
実施例1及び2の神経再生チューブ断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真をそれぞれ図4及び図5に示す。これより、実施例1及び2の神経再生チューブはいずれも多層構造となっていることがわかった。
【0091】
また、実施例3及び4の試験片表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真をそれぞれ図6及び図7に示す。回転支持体(ステンレス棒)の外周速度を0.52m/秒として製造した実施例3の試験片表面は、図6に示すように繊維が無配向であった。また、回転支持体(ステンレス棒)の外周速度を5.2m/秒として製造した実施例4の試験片表面は、図7に示すように繊維が配向していた。
【0092】
(試験例2):繊維径分布
実施例1及び2の神経再生チューブの繊維径をチューブのSEM像をImage Pro Plus 4.1(Media Cybernetics,Carlsbad,CA)で測定し、繊維径の分布を求めた。結果を図8に示す。
【0093】
脱アセチル化度(DAc)93%のキトサンを用いた実施例1の神経再生チューブは、40%以上の繊維が繊維径φ200nm未満であり、非常に繊維径が小さいものであった。これに対し、DAc78%のキトサンを用いた実施例2の神経再生チューブは、繊維径φ400〜600nmが最も多かった。これより、同様の条件でエレクトロスピニングにより繊維を作製する場合には、DAc93%のキトサンを用いた方が繊維径は小さくなることがわかった。
【0094】
(試験例3):機械的特性
実施例1及び実施例2の神経再生チューブのヤング率、破断歪、破断応力を測定した。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示すように、DAc93%のキトサンを用いた実施例1の神経再生チューブは、DAc78%のキトサンを用いた実施例2の神経再生チューブに比べていずれの機械的特性も著しく向上することがわかった。
【0097】
(試験例4):生体移植
180〜200gのオスのラットにペントバルビタールソーダで麻酔をかけ、右大腿中央部で坐骨神経10mmを切除した。その後、実施例1、2、及び比較例1の神経再生チューブを15mmにカットして、ラットの生体内にそれぞれ移植し、切除された神経をつなぐように神経再生チューブを縫合(架橋移植)した。
【0098】
また、対照実験として、切除した部分に他のラットから坐骨神経を取り出し、15mmの架橋移植(同系移植)を行った。
【0099】
これらの移植後、知覚神経、運動神経の機能的回復を評価するため、術後4週、8週、12週において、それぞれVon Frey Hair test、及びstatic toe spread factor (STSF)の測定を行った。Von Frey Hair testでは、ナイロンファイバー(Touch−Test Sensory Evaluator, North Coast Medical Inc.USA)を用いて、ラットの足の裏に刺激を与え、反応が観察されたときのナイロンファイバーの直径を記録した。下記式(1)より求めた値を図9に示す。
【0100】
(式1)
Von Frey Hair test :(Rtφ−Ltφ)/Ltφ ・・・(1)
なお、Rtφは移植を行った右足が反応した際のナイロンファイバーの直径、Ltφは移植を行っていない左足が反応した際のナイロンファイバーの直径を表す。
【0101】
また、static toe spread factor (STSF)では、ラットを透明なプレートにのせて傾けたとき、デジタルカメラ(Exilim−Z55,カシオ社製)で下から両足の画像を撮り、足の第1指と第5指間の距離を求めた。なお、距離はそれぞれ3連続で画像を取り、平均値を求めた。下記式(2)より求めた値を図10に示す。
【0102】
(式2)
static toe spread factor (STSF) :
(LtTD1-5−RtTD1-5)/LtTD1-5 ・・・(2)
なお、RtTD1-5は移植を行った右足の第1指と第5指間の距離、LtTD1-5 は移植を行っていない左足の第1指と第5指間の距離を表す。
【0103】
図10に示すようにいずれの群においても運動神経の機能回復は遅れたが、図9に示すように知覚神経の機能はまず同系移植群で回復し、これにDAc93%の実施例1の神経再生チューブの回復が続いた。
【0104】
また、術後15週で電気生理学的検査を行った。むき出しの坐骨神経の付近の坐骨神経のノックに2極式電極を配置し、1−Hz square−wave pulses(日本光電社製:0.2-ms duration, provided by Neuropack 8)により、筋肉活動電位を測定した。結果を図11に示す。
【0105】
図11より運動神経の機能回復が実施例1の神経再生チューブで同系移植に次いで生じていることがわかった。
【0106】
また、各神経再生チューブと同系移植神経を採取して組織学的観察を行った。
【0107】
まず、実施例1の神経再生チューブの移植5週間後の透過電子顕微鏡(TEM)画像を図12Aに、移植後10週間後のTEM画像を図12Bに示す。
【0108】
図12Aに示すように、5週間後では多くのマクロファージ(Mac)浸潤が多かったが、図12Bに示すように、10週間後には、マクロファージ浸潤は減少し、神経再生チューブの内壁に沿って、神経再生していることが確認された。
【0109】
さらに、実施例1、2、及び比較例1の神経再生チューブの移植後15週間後のトルイジンブルー染色標本を図13(A)及び(B)に示す。なお、図13(B)は、拡大画像である。DAc78%の実施例2の神経再生チューブはつぶれてしまったのに対し、DAc93%の実施例1の神経再生チューブは内腔が保たれ、大きな神経組織が形成されていた。また、実施例1及び2の神経再生チューブにおいてはチューブ壁に沿って再生神経が形成されていた。これに対し、比較例1のフィルムチューブにおいては、チューブの中央部分に神経が再生しており、再生神経の足場として不適切なものであった。これは、フィルム層が再生神経の足場として不適切なため、フィブリンを足場として軸索が伸びたと考えられる。
【0110】
図(B)に示すように、DAc93%の実施例1の神経再生チューブではDAc78%の実施例2の神経再生チューブより軸索数が多く、その専有面積も優位に大きかった。これより、特にDAc93%のメッシュ状マトリックスからなる実施例1の神経再生チューブは、神経再生に好適なものであることがわかった。
【0111】
さらに、各神経再生チューブの中央断面図における有髄軸索数と占有領域を計測した。また再生血管数と直径も計測した。結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示すように、実施例1の神経再生チューブは、他のチューブに比べ軸索数と軸索占有領域が有意に大きかった。また、大径の再生血管数が他のチューブに比べ有意に多かった。これより、実施例1の神経再生チューブは、再生神経の効果的な足場となるだけでなく、血行の再生も促進する効果があることが証明された。
【0114】
以上より、特に、DAc93%のメッシュ状マトリックスからなる神経再生チューブは、神経再生に好適なものであることがわかった。
【0115】
(試験例5):引張試験
実施例3及び4の各試験片を万能材料試験機 ((株)島津製作所製)に取り付け、試験速度5mm/minにて引張り、破断するときの荷重を求めた。結果を表3、図14に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
図14に示すように、無配向繊維からなる実施例3は試験片(1)、試験片(2)とも破断時の荷重は変わらなかった。これに対し、実施例4は、試験片(2)の破断荷重が非常に高かった。すなわち、軸方向に配向させた繊維は軸方向に対する破断荷重が非常に高いことがわかった。これより、軸方向に配向繊維を用いることで、神経再生チューブは軸方向の強度が非常に高くなることがわかった。
【0118】
(試験例6):扁平試験
実験例1、3、4、5の神経再生チューブの扁平荷重を万能材料試験機((株)島津製作所)にて測定した。図15に扁平荷重の測定方法の模式図を示す。図15に示すように、各神経再生チューブの軸方向と直角方向に荷重をかけ、チューブの内径(φ1.2mm)の半分がつぶれた時(0.6mm)の際の荷重を求めそれを1/2扁平強さとした。結果を表4に示す。
【0119】
【表4】
【0120】
表4に示すように、キトサン繊維を手動で巻き取った実施例3及び実施例4の神経再生チューブは、配向、無配向に関わらず扁平強さが高くなることがわかった。なお、いずれの実施例の神経再生チューブも十分な扁平強さを有するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】配向繊維の配向角度のヒストグラムの一例を示す図である。
【図2】キトサン繊維からなる神経再生チューブの成形を行うエレクトロスピニング装置の模式図である。
【図3】キトサン繊維からなる神経再生チューブの成形を行うエレクトロスピニング装置の模式図である。
【図4】実施例1の神経再生チューブ断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図5】実施例2の神経再生チューブ断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図6】実施例3の試験片表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図7】実施例4の試験片表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図8】試験例2の結果を示すグラフである。
【図9】Von Frey Hair testの結果を示すグラフである。
【図10】STSFの結果を示すグラフである。
【図11】電気生理学的検査の結果を示すグラフである。
【図12】神経再生チューブの透過電子顕微鏡(TEM)画像である。
【図13】トルイジンブルー染色標本である。
【図14】試験例5の結果を示すグラフである。
【図15】試験例6の扁平荷重の測定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0122】
1 インフュージョンポンプ
2 注射器
3 液滴供給部
4 高圧直流定電圧電源
5 電極板
6 回転支持体(ステンレス棒)
7 回転モーター
8 キトサン溶液
9 押圧部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経の再生に用いられる神経再生チューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の事故により末梢神経を損傷した場合、切断した神経を外科手術により繋ぐという方法が従来から行われているが、損傷が大きい場合には他の材料によって損傷部位を補うことになる。このとき用いられる材料は、生体適合性に優れ、神経の再生を促すものが求められる。
【0003】
神経の再生に適した材料として、例えば、ペプチドを基材に固定化した神経再生用材料及び神経再生用材料を生体吸収性のチューブに充填した神経再生材(特許文献1参照)、スポンジ及び該スポンジより分解吸収期間の長い生体吸収性高分子から構成される神経再生チューブ(特許文献2参照)、管状被覆材と繊維の束とからなる神経再生チューブ(特許文献3参照)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの神経再生材料は、製造するのが困難であるという問題があった。
【0005】
また、さらなる神経再生効果が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−143531号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2003−19196号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2005ー237476号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、神経再生効果が高く、製造が容易な神経再生チューブ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0009】
かかる第1の態様では、キトサン繊維が絡み合ったメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなることより、製造が容易で、神経系細胞の接着性に優れ、且つ神経断端から発芽しやすく、神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記筒状繊維体がメッシュ状のマトリックスを二層以上積層して筒状としたものであることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0011】
かかる第2の態様では、機械的強度に優れた神経再生チューブとなる。また、線維芽細胞の侵入を防止しつつ筒状繊維体の内壁へ生体内の栄養分を取り入れることができ、より効果的に神経再生を促すことができる神経再生チューブとなる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記筒状繊維体が、キトサン繊維が筒状繊維体の軸方向に配向した配向層と、キトサン繊維が配向していない無配向層とからなることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0013】
かかる第3の態様では、接着した神経系細胞が所望の方向に配向し、再生軸索がその方向へ伸びやすく、より神経再生効果が高くなる。また、より機械的強度に優れた神経再生チューブとなる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1又は2の態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維が前記筒状繊維体の軸方向に配向していることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0015】
かかる第4の態様では、接着した神経系細胞が所望の方向に配向し、再生軸索がその方向へ伸びやすく、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。また、より機械的強度に優れた神経再生チューブとなる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維がエレクトロスピニングにより形成されたものであることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0017】
かかる第5の態様では、小さく均一な繊維径の繊維からなる神経再生チューブとなり、繊維部分に神経系細胞が接着するのみならず、繊維と繊維の間に神経系細胞が接着しやすく、接着した神経系細胞を安定して保持することができ、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維が、脱アセチル化度が90%以上であることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0019】
かかる第6の態様では、生体内において変性しにくく、吸収されにくい神経再生チューブとなる。また、生体内での炎症細胞浸潤が少ない神経再生チューブとなる。
【0020】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維の繊維径が5μm以下であることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0021】
かかる第7の態様では、より神経系細胞や再生軸索の接着性に優れ、且つ安定して保持することができるため、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。
【0022】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維の繊維径が400nm以下であることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0023】
かかる第8の態様では、より神経系細胞や再生軸索の接着性に優れ、且つ安定して保持することができるため、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。
【0024】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、内径がφ1.5〜2.0mmであることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0025】
かかる第9の態様では、生体内で好適に使用できる神経再生チューブとなる。
【0026】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、厚さが0.3〜0.5mmであることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0027】
かかる第10の態様では、生体内で好適に使用できる神経再生チューブとなる。
【0028】
本発明の第11の態様は、第1〜10の何れかの態様に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維がペプチド修飾されていることを特徴とする神経再生チューブにある。
【0029】
かかる第11の態様では、より神経系細胞の接着性に優れた神経再生チューブとなる。
【0030】
本発明の第12の態様は、エレクトロスピニング法により形成された筒状繊維体からなる神経再生チューブの製造方法であって、キトサン類を含むキトサン溶液の液滴を液滴供給部から紡糸空間へ供給し、紡糸空間に設けられた回転支持体にキトサン繊維を巻き取る捕集工程と、前記回転支持体を回転させながら捕集したキトサン繊維に押圧部材を押し当てる押圧工程とを具備することを特徴とする神経再生チューブの製造方法にある。
【0031】
かかる第12の態様では、接着剤等を塗布することなく、繊維径の小さいキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを二層以上積層した筒状繊維体からなる神経再生チューブを容易に製造することができる。
【0032】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の神経再生チューブの製造方法において、前記捕集工程の前記回転支持体の外周速度を3m/秒以上とすることを特徴とする神経再生チューブの製造方法にある。
【0033】
かかる第13の態様では、回転支持体の円周方向にキトサン繊維を配向させたメッシュ状のマトリックスを容易に製造することができ、配向した神経再生チューブを容易に製造することができる。
【0034】
本発明の第14の態様は、第12又は13の態様に記載の神経再生チューブの製造方法において、前記押圧工程後に得られたメッシュ状のマトリックスを前記回転支持体から取り外して巻き取ることで筒状繊維体を得る巻取り工程を具備することを特徴とする神経再生チューブの製造方法にある。
【0035】
かかる第14の態様では、機械的強度に優れた神経再生チューブを製造することができる。また、回転支持体の回転方向と異なる方向に巻き取ることで、キトサン繊維を回転支持体の円周方向とは異なる、任意の方向に配向させた神経再生チューブを製造することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、製造が容易で、神経系細胞の接着性に優れ、且つ神経断端から発芽しやすく、神経再生効果の高い神経再生チューブとなる。また、線維芽細胞の侵入を防止しつつ筒状繊維体の内壁へ生体内の栄養分を取り入れることができ、より効果的に神経再生を促すことができる神経再生チューブとなる。
【0037】
また、接着剤等を塗布することなく、繊維径の小さいキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを二層以上積層した筒状繊維体からなる神経再生チューブを容易に製造することができる。さらに、容易にキトサン繊維を一定方向に配向させた筒状繊維体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明にかかる神経再生チューブは、キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなる。かかる神経再生チューブは、キトサン繊維からなることにより、生体適合性に優れ、メッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなることで、神経系細胞の接着性に優れ、且つ神経断端から発芽しやすく、神経再生効果が高いものである。また、製造が容易な神経再生チューブである。
【0039】
筒状繊維体は、キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状としたものである。メッシュ状のマトリックスとは、繊維が絡み合って開口を有する網目状となるように形成された繊維の集合体のことをいい、外部との栄養交換、ガス交換、液交換の効率がよく、代謝産物の廃棄に好適な不織布である。このため、本発明にかかる神経再生チューブにおいては、神経系細胞が接着し易く、神経軸索の発芽が促進され、また再生神経の成熟も促進されやすい。
【0040】
キトサン繊維は、エレクトロスピニングにより形成されたものであることが好ましい。エレクトロスピニングにより形成された繊維は、小さく均一な繊維径の繊維からなるため、繊維部分に神経系細胞や再生軸索が接着するのみならず、繊維と繊維の間に神経系細胞や再生軸索が接着しやすく、接着した神経系細胞や再生軸索を安定して保持することができる。なお、キトサン繊維の繊維径は、好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは0.01〜3.0μm、特に好ましくは100〜400nmである。繊維径がこの範囲となることで、より神経再生効果の高いものとなり、さらに機械的強度に優れた筒状繊維体とすることができる。
【0041】
キトサン繊維は、キトサン類を主成分とする繊維である。すなわち、本発明における繊維体はキトサン類繊維からなるものである。このため、本発明の神経再生チューブは、神経系細胞の接着性に優れ、且つ神経断端から発芽しやすく、神経再生の効果が高いものとなる。
【0042】
なお、キトサン類とは、キチン(β‐ポリ‐N‐アセチル‐D‐グルコサミン)を脱アセチル化した生成物又はこの誘導体をいい、キトサン(β‐ポリ‐D‐グルコサミン)及びその誘導体の他、未反応のキチン及びその誘導体を含有するものをいう。本発明で用いることができるキトサン類は、特に限定されないが、脱アセチル化度が50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、特に好ましくは、キチンの脱アセチル化度が90%以上である。なお、脱アセチル化度とは、キトサン類におけるキトサンの割合を示すものである。
【0043】
キトサンの脱アセチル化度を90%以上とすることで、生体内において変性しにくく、吸収されにくい神経再生チューブとすることができる。また、生体内での炎症細胞浸潤が軽度な神経再生チューブとすることができる。さらに、エレクトロスピニングした場合、キトサン繊維の繊維径を小さいものとしやすくなる。具体的には、例えば、400nm以下にすることができ、このように径の細い繊維が密集することで、神経再生チューブは機械的強度が非常に高いものとなる。また、移動してきた神経系細胞や再生軸索が接着しやすく、接着した細胞を安定して保持することができるものとなる。
なお、本発明で用いるキトサン類の主成分は特に限定されず、例えば、キトサン、N−アリルキトサン、N−アルキルキトサン、o−アリルキトサン、o−アルキルキトサン、硫酸化キトサン、ニトロ化キトサン、カルボキシメチル化キトサン等が挙げられるが、キトサン、カルボキシメチル化キトサンが好ましい。
【0044】
なお、キトサン繊維は、キトサン類を含有するものであればよく、生体適合性に優れた他の成分を含んでいてもよい。例えば、性能を最大限に発揮させるために必要に応じて、合成高分子や繊維の改質剤、生理活性物質(細胞接着活性因子、細胞増殖因子、線維芽細胞成長因子、免疫活性因子、神経作用因子等)、血清成分、生物組織成分、界面活性剤等を加えることができる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、絹フィブロイン、プリテオグリカン、フィブロネクチン、ヴィトロネクチン、エンタネクチン、エラスチン、ラミニン、セレクチン、ガレクチン、レクチン(WGA、コンカナバリンA等)、コラーゲン、ゼラチン、酵素(コラゲナーゼ、トリプシン、グルコシダーゼ、プロテインキナーゼ、ウロキナーゼ、SOD等)、アルブミン、フィブリン、フィブリノーゲン、ポリ−L−リジン、ポリ−L−グルタミン酸、細胞外マトリクスタンパク質、インテグリン、アミノ酸(グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アラニン、セリン、アスパラギン、グルタミン酸、スレオニン、システイン、ロイシン、メチオニン等)、ジペプチド、トリペプチド、ペプチドタンパク質(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン配列、アルギニン−グルタミン酸−アスパラギン酸−バリン配列、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸配列を含む)、グリコサミノグリカン、ムチン型結合糖鎖、アスパラギン型結合糖鎖、オリゴ糖(トレハロース、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フルクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、シクロデキストリン等)、単糖(マンノース、N-アセチル−D−グルコサミン、グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミン、シアル酸、ムラミン酸、グルコース、ガラクトース、ラクトース、フコース、アラビノース等)、ガングリオシド、スフィンゴ脂質、糖脂質(アルキルグリコシド、ガラクトシルセラミド等)、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸エステル(DHA、EPA等)、長鎖脂肪酸(アラキドン酸、リノール酸、レチノイン酸等)、グリセロール、多価アルコール、コレステロール、スクアレン、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン、ステロイド、インシュリン、トランスフェリン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、チロキシン、トリヨードチロシン、β‐メルカプトエタノール、アセチルコリン、酸類(乳酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、グルコン酸、グルコロン酸、パントテン酸、ピルビン酸等)、グリチルリチン、ルチン、ステビオシド、サポニン、アルブチン、ポリフェノール(カテキン)、SOD様活性物質、インターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、TNF‐α、モノクローナル抗体、補体因子、遺伝子、DNA、RNA、アデニン、牛胎仔血清、ビタミン類、無機塩類、シリコン、セラミック、アパタイト、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、エチレンジアミンテトラ酢酸等が挙げられる。
また、神経再生チューブの神経再生効果を向上させるために、適宜、キトサン繊維の表面を修飾してもよく、例えば、ペプチドによる修飾等が挙げられる。キトサン表面を修飾するペプチドとしては、例えば、ラミニン由来活性ペプチドである、YIGSR、IKVAVなどが挙げられる。ペプチド修飾することにより神経系細胞の接着性に優れた神経再生チューブとなる。
【0045】
本発明にかかるキトサン繊維は、筒状繊維体の軸方向に配向していることが好ましい。
キトサン繊維が筒状繊維体の軸方向に配向していることにより、軸索が神経再生チューブの軸方向へ伸びやすく、接着した神経系細胞が軸方向に配列してこれを支持することにより神経再生効果の高い神経再生チューブとなるからである。また、軸方向に配向することで軸方向に対する機械的強度が向上する。
【0046】
ここで、繊維が筒状繊維体の軸方向に配向しているとは、キトサン繊維の軸方向への配向度が例えば60%以上の状態を指す。なお、軸方向に配向とは、軸方向に実質的に平行に延びている状態だけではなく、軸方向に対して傾斜して延びている状態も含むものである。すなわち、軸方向に傾斜した繊維や一部の配向していない繊維と、軸方向に実質的に平行な繊維とが絡まり合うことで、メッシュ状のマトリックスとなっている。
【0047】
なお、ここでいう配向度は、キトサン繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された画像を画像処理ソフト(A像くん:旭化成エンジニアリング製)により処理して求められる。具体的には、得られた繊維の傾きを0〜180°まで10°刻みで18等分に区分けし、各範囲の繊維の個数(度合)の度数分布図(ヒストグラム)を描き、下記式より求められる。
【0048】
【数1】
【0049】
図1に配向繊維の配向角度のヒストグラムの一例を示す。図1に示すヒストグラムは、全区間数は18であり、最大度数60の半分、すなわち30以下の区間数は15であることより、配向度は83.3%と求められる。
【0050】
また、筒状繊維体は、メッシュ状のマトリックスを二層以上積層して筒状としたものであることが好ましい。なお、ここでいう積層とは、メッシュ状のマトリックスを複数回巻き回して形成されるものでもよい。筒状繊維体がメッシュ状のマトリックスを二層以上積層して筒状としたものであることより、機械的強度に優れた神経再生チューブとなる。また、線維芽細胞の侵入を防止しつつ筒状繊維体の内部へ生体内の液性因子や酸素を取り入れることができ、代謝産物を外部へ廃棄できることにより効果的に神経再生を促すことができる神経再生チューブとなる。
【0051】
筒状繊維体は、異なる種類のメッシュ状マトリックスを積層させたものであってもよい。例えば、キトサン繊維が軸方向に配向した配向層を複数設け、その外周面にキトサン繊維が配向していない無配向層を複数設けたものが挙げられる。この場合は、配向層の外表面に無配向層を設けるのが好ましい。軸方向に配向した配向層において、神経軸索が神経再生チューブの軸方向へ伸びやすく、より神経再生効果の高い神経再生チューブとなるからであり、また、無配向層により配向層が保護されることで、例えば、外部からの径方向への圧迫に耐性のある機械的強度に優れた神経再生チューブとなるからである。
【0052】
また、キトサン繊維が軸方向に配向した配向層と、キトサン繊維が配向していない無配向層とを交互に積層させてもよい。このような構成とすることで、神経再生チューブの内層が剥離したとしても、配向層へ接着した神経断端からの軸索が軸方向へ伸びやすいため、高い神経再生効果が得られる。
【0053】
本発明にかかる筒状繊維体は、何層から形成されるものであってもよい。所望の機械的強度、浸透性等にあわせて、適宜、調整すればよい。
【0054】
なお、筒状繊維体は、キトサン繊維が軸方向に配向した配向層と、キトサン繊維が円周方向に配向した配向層とからなるものであってもよい。このような層から形成されることで、いずれの方向に対しても機械的強度の高い筒状繊維体となる。
【0055】
また、本発明における神経再生チューブは、内径は特に限定されないが、φ1.5〜2.0mmであることが好ましい。例えば、生体内の指神経等の太さにマッチし好適に用いることができるものとなるからである。なお、太い神経部分に移植する場合は、神経再生チューブを何本か束ねてケーブルグラフトすることで、血行不良により壊死しやすい中央部分の再生神経も壊死することがなくなる。
【0056】
神経再生チューブの厚さは、特に限定されないが、例えば0.3〜0.5mmであることが好ましい。この範囲であれば、外部との栄養交換、ガス交換、液交換の効率が優れたものとなり、神経再生効果が高いものとなる。また、機械的強度を十分に保つことができる。
【0057】
本発明の神経再生チューブの製造方法は、キトサン類を含むキトサン溶液の液滴を液滴供給部から紡糸空間へ供給し、紡糸空間へ設けられた回転支持体にキトサン繊維を巻き取る捕集工程と、回転支持体を回転させながらキトサン繊維に押圧部材を押し当てる押圧工程とを具備する。この製造方法によれば、繊維径の小さいキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスの積層体からなる神経再生チューブを容易に製造することができる。具体的には、回転支持体にキトサン繊維を巻き取ることでメッシュ状のマトリックスの筒状繊維体を容易に得ることができ、押圧工程により筒状繊維体の形状を整えながら、メッシュ状のマトリックスの積層体を形成することができ、接着剤を塗布することなく容易に神経再生チューブを製造することができる。
【0058】
また、捕集工程において、回転支持体の外周速度を3m/秒以上とすることにより回転支持体の円周方向にキトサン繊維を配向させたメッシュ状のマトリックスを容易に形成することができる。配向していないキトサン繊維を形成する場合は、回転支持体の外周速度を3m/秒未満とすればよい。このように、回転支持体の外周速度を調整することにより、容易に繊維の配向を調整することができる。
【0059】
また、神経再生チューブの製造方法は、押圧工程後に得られたメッシュ状のマトリックスを前記回転支持体から取り外して巻き取ることで筒状繊維体を得る巻取り工程を具備していてもよい。これにより、機械的強度の優れた神経再生チューブを製造することができる。また、回転支持体の回転方向と異なる方向に巻き取ることで、キトサン繊維を回転支持体の円周方向とは異なる、任意の方向に配向させた神経再生チューブを製造することができる。例えば、金属軸を中心に回転支持体と垂直な方向に巻き取ることで、軸方向に配向した筒状繊維体、すなわち、神経再生チューブを得ることができると共に、神経再生チューブを多層化することもできる。勿論、斜め方向に巻き取ることで、斜め方向に配向した神経再生チューブも得ることができる。
【0060】
なお、上述した方法により配向した配向層からなる筒状繊維体を形成した後、回転支持体に筒状繊維体を再び装着し、回転支持体の外周速度を3m/秒未満として同様の操作を行うことで、繊維が配向した配向層と、繊維が無配向の無配向層との境目がない神経再生チューブを形成することもできる。
【0061】
ここで、神経再生チューブの製造方法の一実施形態を詳細に説明する。
【0062】
まず、キトサン類をトリフルオロ酢酸等の溶媒に溶解させて、適宜ろ過等を行うことでキトサン溶液を調製する。このとき、キトサン溶液には生体適合性に優れた他の成分を溶解させてもよい。
【0063】
次に、キトサン溶液をエレクトロスピニング(静電紡糸)することにより繊維化する。図2及び図3に、キトサン繊維からなる神経再生チューブの成形を行うエレクトロスピニング装置の模式図を示す。当該装置は、図2に示すようにインフュージョンポンプ1、注射器2、液滴供給部3、高圧直流定電圧電源4、電極板5、回転支持体6及び回転モーター7から構成されている。
【0064】
まず、注射器2中にキトサン溶液8を充填する。また、シリンジ針等の液滴供給部3に注射器2を接続する。さらに、注射器2をインフュージョンポンプ1にセットする。一方、液滴供給部3は、高圧直流定電圧電源4の陽極に接続する。また、電極板5を高圧直流定電圧電源4の陰極に接続する。さらに、棒状の回転支持体6を回転モーター7に接続する。
【0065】
次いで、液滴供給部3と電極板5との間に高圧直流定電圧電源4を使用して、高電圧をかけることで電場を発生させる。その電場に対して、インフュージョンポンプ1からキトサン溶液8を押出し、液滴供給部3から液滴が形成されるように、キトサン溶液8を噴射する。このようにして形成された液滴が電荷反発と電場によって、細分化し、延伸する。同時に、液滴中のほとんどの溶媒が蒸発する。
【0066】
この際、回転モーター7の駆動によって、回転モーター7に接続した回転支持体6を回転させることで、図3に示すように、メッシュ状のマトリックス10が回転支持体6の表面に直接筒状繊維体が形成されることとなる。このとき、回転支持体6の外周速度を3m/秒以上とすると、円周方向に配向した繊維が得られ、回転支持体6の外周速度を3m/秒未満とすることで配向していない繊維を得ることができる。そして、例えば、数分に1、2回、回転支持体6を回転させたまま、押圧部材9を回転支持体6上に捕集したキトサン繊維に押し当てる。この操作を繰り返すことで、二層以上の層からなる筒状繊維体を回転支持体6上に形成することができる。
【0067】
液滴を形成する際のインフュージョンポンプ1の送液速度は、0〜30ml/時間、好ましくは0〜10ml/時間、特に好ましくは0〜5ml/時間とする。また、電場を発生させるための電圧は、1〜100kV、好ましくは1〜50kV、特に好ましくは10〜30kVとする。
【0068】
また、インフュージョンポンプ1からのキトサン溶液8の噴出量、回転支持体6の種類や径の大きさ及び回転支持体6の回転速度を変えることでチューブの寸法、密度、強度等を任意に設定することができる。
【0069】
押圧部材9の押圧は、0.2〜2.0kg/cm2程度が好ましい。
【0070】
そして、得られたキトサン繊維に不溶化処理を行う。本発明に係る製造方法では、成形された筒状繊維体を不溶化処理することで、製造された筒状繊維体を水分が多い環境である生体内に曝露しても溶解しないものとすることができる。不溶化処理として、例えば残存する溶媒に対して脱溶媒や中和処理を行った後、水による洗浄を行う。特に、キトサン溶液の作製に使用した溶媒を完全に除去すべく、アンモニア水や水酸化ナトリウム溶液等の高濃度(例えば、10〜50%の濃度)のアルカリ水溶液中に、成形された筒状繊維体を1〜100時間、好ましくは1〜50時間、特に好ましくは1〜20時間浸漬することで、不溶化処理を行う。
【0071】
最後に、得られた筒状繊維体付きの回転支持体をエタノール等の溶液に浸漬する。これにより、得られた筒状繊維体がわずかに収縮し、回転支持体から容易に除去することができる。
【0072】
本発明の製造方法によれば、積層体からなる神経再生チューブを容易に形成することができる。
【0073】
本実施形態では、陰極として電極板5を設けたが、回転支持体6を陰極としてもよい。
【0074】
また、回転支持体6は、金属棒でも、金属ドラムでもよい。金属棒を用いた場合は、容易に筒状繊維体を得ることができる。なお、軸方向に配向した筒状繊維体を製造する場合は、回転支持体6として金属ドラムを使用する。そして、キトサン繊維を配向させたメッシュ状のマトリックを回転支持体6から取り外して、例えば、金属軸を中心に回転支持体6の回転方向と垂直方向に手動で巻くことで軸方向に配向した筒状繊維体が得られる。勿論、無配向の筒状繊維体も同様の方法により製造してもよい。
【0075】
本実施形態により、配向層と無配向層を形成する場合は、例えば、配向した配向層からなる筒状繊維体を金属棒上に形成した後、当該金属棒を回転支持体6とし、回転支持体6の外周速度を3m/秒未満として同様の操作を再び行うことで、繊維が配向した配向層と、繊維が無配向の無配向層との境目をつくることなく神経再生チューブを形成することもできる。
【0076】
本発明の製造方法によれば、継ぎ目をつくることなく、繊維径の小さく均一なキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを二層以上積層した筒状繊維体からなる神経再生チューブを製造することができる。
【0077】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
<キトサン溶液の調製>
脱アセチル化度93%のキトサン(北海道曹達株式会社製)1.6gをトリフルオロ酢酸(和光純薬工業株式会社製)20mlに50℃で12時間かけて溶解し、塩化メチレン5mlを加え、ガラスフィルター(3G型−2、フィルター径30mm、ポアサイズ40〜100μm;日本理化学器械株式会社製)でろ過してキトサントリフルオロ酢酸液を得た。
【0079】
<キトサン繊維のメッシュ状のマトリックスの製造>
得られたキトサントリフルオロ酢酸液を注射器(テルモシリンジSS−30ESZ;テルモ株式会社製)に入れて内径φ0.7mmの針(シェアフィールドSVセット22G;テルモ株式会社製)につなぎ、インフュージョンポンプ(11Plus;HARVARD APPRATUS製)にセットした。針先に高電圧直流電圧電源(HSP−30k−2;日本スタビライザー株式会社製)の陽極を接続した。そして、回転支持体としてφ1.2mmのステンレス棒を針の向きに対して垂直かつ同じ高さになるように設置し、ステンレス棒の一端を回転モーターと連結し、他端を高電圧直流電圧電源の陰極に接続した。
【0080】
ステンレス棒の回転速度0.01m/秒、25kvの電圧をかけて、1時間かけて針からステンレス棒へトリフルオロ酢酸液を噴出し、ステンレス棒と平行に設けたテフロン(登録商標)棒を1分に1回、1.0kg/cm2で押し付けることで、ステンレス棒上にキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを得た。
【0081】
<神経再生チューブの製造>
その後、メッシュ状のマトリックスをステンレス棒ごと28重量%のアンモニア水(和光純薬工業株式会社製)に室温で1時間浸漬させた後、蒸留水を室温で2時間連続的に供給して洗浄した。
【0082】
得られたメッシュ状のマトリックスをステンレス棒ごとエタノールに3分間浸漬させ、その後、ステンレス棒からメッシュ状のマトリックスをはがすことで、外径φ2.0mm×内径φ1.2mmの実施例1の神経再生チューブを得た。
【0083】
(実施例2)
脱アセチル化度78%のキトサンを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2の神経再生チューブを得た。
【0084】
(実施例3)
ステンレス棒の代わりにステンレスドラム(直径100mm、長さ150mm)を用い、その外周速度を0.52m/秒とした以外は実施例1と同様にしてキトサン繊維を得た。得られたキトサン繊維をステンレスドラムからはずし、ステンレス棒を中心にステンレスドラムの回転方向と垂直方向に手動で巻き取り、ステンレス棒上にキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを得た。その後、実施例1と同様の方法によりステンレス棒からキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスをはずすことで、無配向のキトサン繊維からなる外径φ2.0mm×内径φ1.2mm、0.006g/cmの実施例3の神経再生チューブを得た。
【0085】
また、得られたメッシュ状マトリックスを厚さ70μm、ダンベル状6号形(JIS K6251:加硫ゴムの引張試験方法に準拠)に打ち抜き、実施例3の試験片を作製した。なお、引張方向がステンレスドラムの回転方向に垂直な方向となるようにした試験片を試験片(1)、引張方向がステンレスドラムの回転方向と一致するようにした試験片を試験片(2)とした。
【0086】
(実施例4)
ステンレスドラムの外周速度を5.2m/秒とした以外は、実施例3と同様にしてキトサン繊維を得た。得られたキトサン繊維をステンレスドラムからはずし、ステンレス棒を中心に繊維がステンレス棒の軸方向に配向するように手動で巻き取り、ステンレス棒上にキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを得た。その後実施例1と同様にしてステンレス棒からキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスをはずすことで、外径φ2.0mm×内径φ1.2mm、0.006g/cmのキトサン繊維が軸方向に配向した実施例4の神経再生チューブを得た。
【0087】
また、得られたメッシュ状マトリックスを厚さ70μm、ダンベル状6号形(JIS K6251:加硫ゴムの引張試験方法に準拠)に打ち抜き、実施例4の試験片を作製した。なお、引張方向がステンレスドラムの回転方向に垂直な方向となるようにした試験片を試験片(1)、引張方向がステンレスドラムの回転方向と一致するようにした試験片を試験片(2)とした。
【0088】
(実施例5)
キトサントリフルオロ酢酸液の量を半分とした以外は実施例4と同様にして0.003g/cmのキトサン繊維を作製し、このキトサン繊維をステンレス棒の軸方向に配向するようにステンレス棒上に巻き取った。さらにこのステンレス棒を実施例1と同様にして装置にセットし、外周速度0.01m/秒、25kvの電圧をかけ、30分かけて針からステンレス棒へ残り半分のキトサントリフルオロ酢酸液を噴出し、ステンレス棒と平行に設けたテフロン(登録商標)棒を1分に1回、1.0kg/cm2で押し付けることで、キトサン繊維のメッシュ状のマトリックスを得た。その後、実施例1と同様にしてステンレス棒からキトサン繊維のメッシュ状のマトリックスをはがすことで、外径φ2.0mm×内径φ1.2mm、0.006g/cmの実施例5の神経再生チューブを得た。このマトリックスは軸方向に配向したキトサン繊維を無配向のキトサン繊維が覆うように構成されており、このときの配向繊維と無配向繊維の重量比は50:50であった。
【0089】
(比較例1)
脱アセチル化度93%のキトサン(北海道曹達株式会社製)5.5gを、酢酸5.5g、水89.5gに溶かし、室温で2時間攪拌し、ろ過した。得られた溶液にφ2.0mmのSUS棒を浸漬させ、50℃で20分間乾燥させた。この操作を4回行い、5%の苛性ソーダに10分間浸し、蒸留水で2時間洗浄することで、外径φ2.1mm×内径φ2.0mmのフィルムからなる比較例1の神経再生チューブを得た。
【0090】
(試験例1):表面観察
実施例1及び2の神経再生チューブ断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真をそれぞれ図4及び図5に示す。これより、実施例1及び2の神経再生チューブはいずれも多層構造となっていることがわかった。
【0091】
また、実施例3及び4の試験片表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真をそれぞれ図6及び図7に示す。回転支持体(ステンレス棒)の外周速度を0.52m/秒として製造した実施例3の試験片表面は、図6に示すように繊維が無配向であった。また、回転支持体(ステンレス棒)の外周速度を5.2m/秒として製造した実施例4の試験片表面は、図7に示すように繊維が配向していた。
【0092】
(試験例2):繊維径分布
実施例1及び2の神経再生チューブの繊維径をチューブのSEM像をImage Pro Plus 4.1(Media Cybernetics,Carlsbad,CA)で測定し、繊維径の分布を求めた。結果を図8に示す。
【0093】
脱アセチル化度(DAc)93%のキトサンを用いた実施例1の神経再生チューブは、40%以上の繊維が繊維径φ200nm未満であり、非常に繊維径が小さいものであった。これに対し、DAc78%のキトサンを用いた実施例2の神経再生チューブは、繊維径φ400〜600nmが最も多かった。これより、同様の条件でエレクトロスピニングにより繊維を作製する場合には、DAc93%のキトサンを用いた方が繊維径は小さくなることがわかった。
【0094】
(試験例3):機械的特性
実施例1及び実施例2の神経再生チューブのヤング率、破断歪、破断応力を測定した。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示すように、DAc93%のキトサンを用いた実施例1の神経再生チューブは、DAc78%のキトサンを用いた実施例2の神経再生チューブに比べていずれの機械的特性も著しく向上することがわかった。
【0097】
(試験例4):生体移植
180〜200gのオスのラットにペントバルビタールソーダで麻酔をかけ、右大腿中央部で坐骨神経10mmを切除した。その後、実施例1、2、及び比較例1の神経再生チューブを15mmにカットして、ラットの生体内にそれぞれ移植し、切除された神経をつなぐように神経再生チューブを縫合(架橋移植)した。
【0098】
また、対照実験として、切除した部分に他のラットから坐骨神経を取り出し、15mmの架橋移植(同系移植)を行った。
【0099】
これらの移植後、知覚神経、運動神経の機能的回復を評価するため、術後4週、8週、12週において、それぞれVon Frey Hair test、及びstatic toe spread factor (STSF)の測定を行った。Von Frey Hair testでは、ナイロンファイバー(Touch−Test Sensory Evaluator, North Coast Medical Inc.USA)を用いて、ラットの足の裏に刺激を与え、反応が観察されたときのナイロンファイバーの直径を記録した。下記式(1)より求めた値を図9に示す。
【0100】
(式1)
Von Frey Hair test :(Rtφ−Ltφ)/Ltφ ・・・(1)
なお、Rtφは移植を行った右足が反応した際のナイロンファイバーの直径、Ltφは移植を行っていない左足が反応した際のナイロンファイバーの直径を表す。
【0101】
また、static toe spread factor (STSF)では、ラットを透明なプレートにのせて傾けたとき、デジタルカメラ(Exilim−Z55,カシオ社製)で下から両足の画像を撮り、足の第1指と第5指間の距離を求めた。なお、距離はそれぞれ3連続で画像を取り、平均値を求めた。下記式(2)より求めた値を図10に示す。
【0102】
(式2)
static toe spread factor (STSF) :
(LtTD1-5−RtTD1-5)/LtTD1-5 ・・・(2)
なお、RtTD1-5は移植を行った右足の第1指と第5指間の距離、LtTD1-5 は移植を行っていない左足の第1指と第5指間の距離を表す。
【0103】
図10に示すようにいずれの群においても運動神経の機能回復は遅れたが、図9に示すように知覚神経の機能はまず同系移植群で回復し、これにDAc93%の実施例1の神経再生チューブの回復が続いた。
【0104】
また、術後15週で電気生理学的検査を行った。むき出しの坐骨神経の付近の坐骨神経のノックに2極式電極を配置し、1−Hz square−wave pulses(日本光電社製:0.2-ms duration, provided by Neuropack 8)により、筋肉活動電位を測定した。結果を図11に示す。
【0105】
図11より運動神経の機能回復が実施例1の神経再生チューブで同系移植に次いで生じていることがわかった。
【0106】
また、各神経再生チューブと同系移植神経を採取して組織学的観察を行った。
【0107】
まず、実施例1の神経再生チューブの移植5週間後の透過電子顕微鏡(TEM)画像を図12Aに、移植後10週間後のTEM画像を図12Bに示す。
【0108】
図12Aに示すように、5週間後では多くのマクロファージ(Mac)浸潤が多かったが、図12Bに示すように、10週間後には、マクロファージ浸潤は減少し、神経再生チューブの内壁に沿って、神経再生していることが確認された。
【0109】
さらに、実施例1、2、及び比較例1の神経再生チューブの移植後15週間後のトルイジンブルー染色標本を図13(A)及び(B)に示す。なお、図13(B)は、拡大画像である。DAc78%の実施例2の神経再生チューブはつぶれてしまったのに対し、DAc93%の実施例1の神経再生チューブは内腔が保たれ、大きな神経組織が形成されていた。また、実施例1及び2の神経再生チューブにおいてはチューブ壁に沿って再生神経が形成されていた。これに対し、比較例1のフィルムチューブにおいては、チューブの中央部分に神経が再生しており、再生神経の足場として不適切なものであった。これは、フィルム層が再生神経の足場として不適切なため、フィブリンを足場として軸索が伸びたと考えられる。
【0110】
図(B)に示すように、DAc93%の実施例1の神経再生チューブではDAc78%の実施例2の神経再生チューブより軸索数が多く、その専有面積も優位に大きかった。これより、特にDAc93%のメッシュ状マトリックスからなる実施例1の神経再生チューブは、神経再生に好適なものであることがわかった。
【0111】
さらに、各神経再生チューブの中央断面図における有髄軸索数と占有領域を計測した。また再生血管数と直径も計測した。結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示すように、実施例1の神経再生チューブは、他のチューブに比べ軸索数と軸索占有領域が有意に大きかった。また、大径の再生血管数が他のチューブに比べ有意に多かった。これより、実施例1の神経再生チューブは、再生神経の効果的な足場となるだけでなく、血行の再生も促進する効果があることが証明された。
【0114】
以上より、特に、DAc93%のメッシュ状マトリックスからなる神経再生チューブは、神経再生に好適なものであることがわかった。
【0115】
(試験例5):引張試験
実施例3及び4の各試験片を万能材料試験機 ((株)島津製作所製)に取り付け、試験速度5mm/minにて引張り、破断するときの荷重を求めた。結果を表3、図14に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
図14に示すように、無配向繊維からなる実施例3は試験片(1)、試験片(2)とも破断時の荷重は変わらなかった。これに対し、実施例4は、試験片(2)の破断荷重が非常に高かった。すなわち、軸方向に配向させた繊維は軸方向に対する破断荷重が非常に高いことがわかった。これより、軸方向に配向繊維を用いることで、神経再生チューブは軸方向の強度が非常に高くなることがわかった。
【0118】
(試験例6):扁平試験
実験例1、3、4、5の神経再生チューブの扁平荷重を万能材料試験機((株)島津製作所)にて測定した。図15に扁平荷重の測定方法の模式図を示す。図15に示すように、各神経再生チューブの軸方向と直角方向に荷重をかけ、チューブの内径(φ1.2mm)の半分がつぶれた時(0.6mm)の際の荷重を求めそれを1/2扁平強さとした。結果を表4に示す。
【0119】
【表4】
【0120】
表4に示すように、キトサン繊維を手動で巻き取った実施例3及び実施例4の神経再生チューブは、配向、無配向に関わらず扁平強さが高くなることがわかった。なお、いずれの実施例の神経再生チューブも十分な扁平強さを有するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】配向繊維の配向角度のヒストグラムの一例を示す図である。
【図2】キトサン繊維からなる神経再生チューブの成形を行うエレクトロスピニング装置の模式図である。
【図3】キトサン繊維からなる神経再生チューブの成形を行うエレクトロスピニング装置の模式図である。
【図4】実施例1の神経再生チューブ断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図5】実施例2の神経再生チューブ断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図6】実施例3の試験片表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図7】実施例4の試験片表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図8】試験例2の結果を示すグラフである。
【図9】Von Frey Hair testの結果を示すグラフである。
【図10】STSFの結果を示すグラフである。
【図11】電気生理学的検査の結果を示すグラフである。
【図12】神経再生チューブの透過電子顕微鏡(TEM)画像である。
【図13】トルイジンブルー染色標本である。
【図14】試験例5の結果を示すグラフである。
【図15】試験例6の扁平荷重の測定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0122】
1 インフュージョンポンプ
2 注射器
3 液滴供給部
4 高圧直流定電圧電源
5 電極板
6 回転支持体(ステンレス棒)
7 回転モーター
8 キトサン溶液
9 押圧部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項2】
請求項1に記載の神経再生チューブにおいて、前記筒状繊維体がメッシュ状のマトリックスを二層以上積層して筒状としたものであることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項3】
請求項2に記載の神経再生チューブにおいて、前記筒状繊維体が、キトサン繊維が筒状繊維体の軸方向に配向した配向層と、キトサン繊維が配向していない無配向層とからなることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維が前記筒状繊維体の軸方向に配向していることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維がエレクトロスピニングにより形成されたものであることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維が、脱アセチル化度が90%以上であることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維の繊維径が5μm以下であることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項8】
請求項7に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維の繊維径が400nm以下であることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、内径がφ1.5〜2.0mmであることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、厚さが0.3〜0.5mmであることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維がペプチド修飾されていることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項12】
エレクトロスピニング法により形成された筒状繊維体からなる神経再生チューブの製造方法であって、キトサン類を含むキトサン溶液の液滴を液滴供給部から紡糸空間へ供給し、紡糸空間に設けられた回転支持体にキトサン繊維を巻き取る捕集工程と、前記回転支持体を回転させながら捕集したキトサン繊維に押圧部材を押し当てる押圧工程とを具備することを特徴とする神経再生チューブの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の神経再生チューブの製造方法において、前記捕集工程の前記回転支持体の外周速度を3m/秒以上とすることを特徴とする神経再生チューブの製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の神経再生チューブの製造方法において、前記押圧工程後に得られたメッシュ状のマトリックスを前記回転支持体から取り外して巻き取ることで筒状繊維体を得る巻取り工程を具備することを特徴とする神経再生チューブの製造方法。
【請求項1】
キトサン繊維からなるメッシュ状のマトリックスを筒状とした筒状繊維体からなることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項2】
請求項1に記載の神経再生チューブにおいて、前記筒状繊維体がメッシュ状のマトリックスを二層以上積層して筒状としたものであることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項3】
請求項2に記載の神経再生チューブにおいて、前記筒状繊維体が、キトサン繊維が筒状繊維体の軸方向に配向した配向層と、キトサン繊維が配向していない無配向層とからなることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維が前記筒状繊維体の軸方向に配向していることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維がエレクトロスピニングにより形成されたものであることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維が、脱アセチル化度が90%以上であることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維の繊維径が5μm以下であることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項8】
請求項7に記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維の繊維径が400nm以下であることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、内径がφ1.5〜2.0mmであることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、厚さが0.3〜0.5mmであることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の神経再生チューブにおいて、前記キトサン繊維がペプチド修飾されていることを特徴とする神経再生チューブ。
【請求項12】
エレクトロスピニング法により形成された筒状繊維体からなる神経再生チューブの製造方法であって、キトサン類を含むキトサン溶液の液滴を液滴供給部から紡糸空間へ供給し、紡糸空間に設けられた回転支持体にキトサン繊維を巻き取る捕集工程と、前記回転支持体を回転させながら捕集したキトサン繊維に押圧部材を押し当てる押圧工程とを具備することを特徴とする神経再生チューブの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の神経再生チューブの製造方法において、前記捕集工程の前記回転支持体の外周速度を3m/秒以上とすることを特徴とする神経再生チューブの製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の神経再生チューブの製造方法において、前記押圧工程後に得られたメッシュ状のマトリックスを前記回転支持体から取り外して巻き取ることで筒状繊維体を得る巻取り工程を具備することを特徴とする神経再生チューブの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−200299(P2008−200299A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40106(P2007−40106)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(390021393)北海道曹達株式会社 (7)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(593130810)早坂理工株式会社 (3)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(390021393)北海道曹達株式会社 (7)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(593130810)早坂理工株式会社 (3)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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