説明

神経因性疼痛の治療のための2H−[1,3]−オキサジノ[3,2−A]インドール誘導体の使用

神経因性疼痛の治療において活性のある医薬品組成物を調合するための、式(I):


[式中、Rは、H、1から12個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐のアルキル鎖、又はアリールアルキル基である]の化合物、並びに、該化合物と医薬として許容される有機酸又は無機酸との酸付加塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経因性疼痛の治療において、活性のある医薬品組成物を調合するためのインドール化合物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
欧州特許出願EP−A−0 630 376は、式I:
【化1】


[式中、Rは、H、1から12個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐のアルキル鎖、又はアリールアルキル基である]の多数の化合物に関するものである。
【発明の開示】
【0003】
上述の文書によると、式(I)の化合物は、消化管、心臓、及び中枢神経系の病気の治療または予防において有効である。
【0004】
以下、Rが前述の意味を有する式(I)の化合物を略して“化合物(I)”と呼ぶことにする。
【0005】
驚くべきことに、現在、化合物(I)が特に神経因性疼痛において活性があることが分かった。
【0006】
平均して、成人人口の約10-20%が慢性の疼痛に苦しんでいることが知られている。慢性の疼痛は、通常、慢性及び/又は変性した病巣を特徴とする臨床状態を伴う。
【0007】
慢性の疼痛を特徴とする病状の典型的な例は、関節リウマチ、変形性関節症、繊維筋痛、ニューロパチーなどである[Ashburn M A, Staats P S, Management of chronic pain. Lancet 1999; 353: 1865-69]。
【0008】
慢性の疼痛、特に神経因性疼痛は、しばしば体を衰弱させ、作業能率を失わせたり生活の質を低下させたりする原因となる。その結果として、慢性の疼痛は、経済的及び社会的な消失をもたらす。
【0009】
神経因性疼痛の治療において現在使用されている鎮痛薬には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗うつ薬、オピオイド鎮痛薬、及び抗けいれん薬がある[Woolf C J, Mannion R J. Neuropathic pain: aetiology, symptoms, mechanism, and management. Lancet 1999; 353: 1959-1964]。
【0010】
しかしながら、慢性の疼痛、特に神経因性疼痛は、現在利用可能な薬物で治療するのが困難なことで有名である。従って、新しい鎮痛薬を開発することは、常に医薬品産業の主要な目標のうちの1つである。そのうえ、適切な鎮痛性化合物を特定することを目的とした多くの研究努力にもかかわらず、満足な治療法がいまだに存在しない疼痛状態の患者がかなり多数存在する[Scholz J, Woolf C J. Can we conquer pain? Nat Neusci. 2002; 5: 1062-76]。
【0011】
本発明の目的は、神経因性疼痛の治療において活性のある医薬品組成物を調合するために、式(I)の化合物[式中、Rは、H、1から12個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐のアルキル鎖、又はアリールアルキル基である]、並びに、該化合物と医薬として許容される有機酸又は無機酸との酸付加塩を使用することにある。
【0012】
好ましくは、前記アリールアルキル基において、アルキル部分は1から4個の炭素原子を有し、アリール部分はフェニル環又はナフチル環である。
【0013】
医薬として許容される有機酸又は無機酸の典型例は、シュウ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、塩酸、リン酸及び硫酸である。
【0014】
神経因性疼痛を特徴とする病状の典型例は、糖尿病、癌、免疫不全症、外傷、虚血、多発性硬化症、座骨神経痛、三叉神経痛及び帯状疱疹後症候群である。
【0015】
本発明の医薬品組成物は、有効投与量の少なくとも一種の化合物(I)又は該化合物(I)と医薬として許容される有機酸又は無機酸との酸付加塩、並びに少なくとも一種の医薬として許容される不活性成分を含む、適切な服用形態で調合されることが好ましい。
【0016】
適切な服用形態の例としては、経口投与の場合は、錠剤、カプセル剤、コート錠剤、顆粒剤、液状製剤及びシロップ剤があり、経皮的投与の場合は、薬用硬膏剤、液状製剤、ペースト剤、クリーム剤及び軟膏剤があり、経直腸投与の場合は、座薬があり、注射又は噴霧投与の場合は、無菌液がある。
【0017】
他の適切な服用形態としては、経口又は注射投与のための、徐放性製剤及びリポソーム製剤がある。
【0018】
また、前記服用形態は、保存剤、安定剤、界面活性剤、緩衝剤、浸透圧を調整する塩類、乳化剤、甘味料、着色剤、香味料等の他の従来成分を含むことができる。
【0019】
特定の治療に必要な場合、本発明の医薬品組成物は、同時投与が有効な他の薬理学的に活性な成分を含むことができる。
【0020】
本発明の医薬品組成物における、化合物(I)又は該化合物(I)と医薬として許容される有機酸又は無機酸との酸付加塩の量は、例えば、治療対象となる神経因性疼痛を伴う病状の種類、疾患の重症度、患者の体重、服用の形態、選択された投与経路、一日当たりの投与回数、および、選択された式(I)の化合物の有効性といった既知の因子に依存して広い範囲に渡って変化しうる。しかしながら、当業者であれば、単純で慣例的な方法で最適量を決定することができる。
【0021】
典型的には、本発明の医薬品組成物における、化合物(I)又は該化合物(I)と医薬として許容される有機酸又は無機酸との酸付加塩の量は、基本的に、0.001から100mg/kg/dayの化合物(I)の投与濃度を確保するような量となるだろう。投与濃度は、好ましくは、0.05から50mg/kg/dayであり、より一層好ましくは、0.1から10mg/kg/dayである。
【0022】
本発明の医薬品組成物の服用形態は、混合、顆粒化、圧縮、溶解、殺菌などの、薬剤師によく知られた技術で調製することができる。
【0023】
化合物(I)の鎮痛活性は、ラットを用いた、坐骨神経結紮によって誘発される異痛症、及びストレプトゾトシンによって誘発される糖尿病性ニューロパチーにおける機械的痛覚過敏の、2つの実験モデルによって証明された。
【0024】
当業者に公知のように、上述した実験モデルはヒトにおける活性を予測できるものとみなされる。
【0025】
ラットの坐骨神経結紮の実験モデルは、神経因性疼痛を伴う多くの外傷や病状において、ヒトで観察される反応と類似した一連の反応を再現するニューロパチーである。坐骨神経を結紮すると、痛み知覚のコントロールを担う特定の回路の活性化を伴う症候群を実際に誘発することができ、異痛症、痛覚過敏症及び自発痛の発症を特徴とする。周知のように、このモデルは、ヒトの神経因性疼痛の治療、特に、異痛症および痛覚過敏のような状態をコントロールするために使用する薬の研究において、効果的な手段である。
【0026】
また逆に、ラットにおいてストレプトゾトシンによって誘発される糖尿病性ニューロパチーは、運動神経および知覚神経の伝導速度の同時減少、および痛み知覚の一連の異常の発症を特徴とするインスリン依存性症候群である。周知のように、このモデルは、ヒトの神経因性疼痛の治療に用いられる薬の研究において有用な手段である。特に、このモデルは、神経系の原発病変や機能不全による痛覚過敏症や異痛症等の現象を特徴とする神経因性疼痛タイプの大部分の妥当な例である。
【0027】
前述の2つの実験モデルで記載された機能不全を特徴とし、且つ神経因性疼痛の存在を特徴とするヒト病態の典型的な例は、糖尿病、癌、免疫不全、外傷、虚血、多発性硬化症、坐骨神経痛、三叉神経痛及び帯状疱疹後症候群である。
【0028】
試験
1.ラットにおいて坐骨神経結紮により誘発される異痛症
到着時体重200から250gのオスのCDラットを用いた。
【0029】
麻酔下で左後脚の坐骨神経を結紮することによって、異痛症を誘発した[Seltzer Z, Dubner R, Shir Y. A novel behavioral model of neuropathic pain disorders produced in rats by partial sciatic nerve injury. Pain 1990; 43: 205-218; Bennett G J, Xie Y K. A peripheral mononeuropathy in rat that produces disorders of pain sensation like those seen in man. Pain 1998; 33: 87-107]。坐骨神経を結紮した少なくとも2週間後に、手術前に記録した反応閾値が最低50%減少したラットを選択した。ラットの左後脚の足底ゾーンに漸増する圧力をかけることによって、脚を引っ込める瞬間に対応してグラム単位で表される侵害防衛反応の記録を可能とする、フォン・フレイ計測器によって、痛覚閾値を測定した。
【0030】
処理後30分、1時間、2時間、及び4時間の時点で、対照動物で計測された痛覚閾値を、供試化合物で処理された動物で計測された痛覚閾値と比較した。
【0031】
供試化合物(EP−A−0 630 376の実施例3、方法2に開示された方法に従って合成された、Rがn-ブチル基である式(I)の化合物の塩酸塩)の投与のために使用したのと同じ媒体(水)で、対照動物を処理した。
【0032】
結果を図1に示す
【0033】
EP−A−0 630 376の例23に従って合成した、Rがシクロヘキシル基である式(I)の化合物の塩酸塩を用いた場合も、同様の結果が得られた。
【0034】
2.ストレプトゾトシンによって誘発された糖尿病のラットにおける機械的痛覚過敏症
到着時体重240-300gのオスのCDラットを用いた。
【0035】
殺菌した生理溶液に溶かした80mg/kgのストレプトゾトシンを一回腹腔内投与することによって、糖尿病症候群を誘発した[Courteix C, Escalier A, Lavarenne J. Streptozotocin-induced diabetic rats: behavioural evidence for a model of chronic pain. Pain, 1993; 53: 81-88; Bannon A W, Decker M W, Kim Dj, Campbell J E, Arneric S P. ABT-594, a novel cholinergic channel modulator, is efficacious in nerve ligation and diabetic neuropathy models of neuropathic pain. Brain Res. 1998; 801: 158-63]。
【0036】
ストレプトゾトシンを投与した少なくとも3週間後に、血糖値300mg/dl以上、かつ、機械的な侵害防衛反応誘発刺激に対する反応閾値が120g以下のラットを選択した。ブドウ糖酸化酵素が染み込んだ反応紙を利用した反射率計を使って、血糖値を測定した。無痛覚計を使って、痛覚閾値を測定した。この装置は、ラットの左後脚の足底ゾーンに漸増する圧力をかけることによって、脚を引っ込める瞬間に対応してグラム単位で表される侵害防衛反応を記録することができる。
【0037】
処理後30分、1時間、2時間、及び4時間の時点で、対照動物で計測された痛覚閾値を、供試化合物で処理された動物で計測された痛覚閾値と比較した。
【0038】
供試化合物(EP−A−0 630 376の実施例3、方法2に開示された方法に従って合成された、Rがn-ブチル基である式(I)の化合物の塩酸塩)の投与のために使用したのと同じ媒体(水)で、対照動物を処理した。
【0039】
結果を図2に示す。
【0040】
EP−A−0 630 376の例23に従って合成した、Rがシクロヘキシル基である式(I)の化合物の塩酸塩を用いた場合も、同様の結果が得られた。
【実施例】
【0041】
実施例1
有効成分として本発明の化合物(I)を含む錠剤は、以下の組成を有する。
有効成分 50mg
ラクトース一水和物 161mg
第二リン酸カルシウム二水和物 161mg
微結晶性セルロース 95mg
トウモロコシスターチ 30mg
カルボキシメチルスターチナトリウム 24mg
ポビドン 11mg
ステアリン酸マグネシウム 3mg
【0042】
実施例2
有効成分として本発明の化合物(I)を含むアンプル剤は、以下の組成を有する。
有効成分 25mg
ソルビトール 等張液とするための適量
水 100mlまでの適量
【0043】
実施例3
有効成分として本発明の化合物(I)を含む顆粒剤の医薬品組成物は、以下の組成を有する。
有効成分 50mg
マルチトール 1300mg
マンニトール 2700mg
サッカロース 1000mg
クエン酸 20mg
アスパルテーム 20mg
香味料 200mg
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】坐骨神経結紮に対する効果。
【図2】糖尿病性ニューロパチーに対する効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経因性疼痛の治療において活性のある医薬品組成物を調合するための、式I:
【化1】


[式中、Rは、H、1から12個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐のアルキル鎖、又はアリールアルキル基である]の化合物、並びに、該化合物と医薬として許容される有機酸又は無機酸との酸付加塩の使用。
【請求項2】
前記Rは、アルキル部分が1から4個の炭素原子を有するアリールアルキル基であることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記Rは、アリール部分がフェニル環又はナフチル環であるアリールアルキル基であることを特徴とする、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
前記Rがn-ブチル基であることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記Rがシクロヘキシル基であることを特徴とする、請求項1記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−528142(P2006−528142A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520721(P2006−520721)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007633
【国際公開番号】WO2005/014001
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(592160973)アジェンデ・キミケ・リウニテ・アンジェリニ・フランチェスコ・ア・チ・エレ・ア・エフェ・ソシエタ・ペル・アチオニ (36)
【氏名又は名称原語表記】AZIENDE CHIMICHE RIUNITE ANGELINI FRANCESCO A.C.R.A.F.SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】