説明

神経幹細胞増殖剤および神経幹細胞分化剤の連続投与レジメン

【課題】神経幹細胞増殖剤および神経幹細胞分化剤のための有効な投与レジメン、キット、およびその使用を提供すること。
【解決手段】本発明は、神経幹細胞増殖剤のための有効な投与レジメン、神経幹細胞増殖剤のための有効な投与レジメンを含むキット、およびその使用を提供する。とくに、短期間における高用量投与と対照的に、神経幹細胞増殖剤は、哺乳類対象に低用量で連続的に送達する。本発明は、特に、有効量の神経幹細胞増殖剤を提供するためのキットであって、(a)第1治療期間に連続的に投与する前記神経幹細胞増殖剤の用量であって、前記第1治療期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が、哺乳類における神経変性疾患を治療または改善するのに有効な量に等しく、前記第1治療期間が少なくとも3日間となる用量と、(b)前記キットの使用説明書と、を含むキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2006年3月17日に出願された米国仮特許出願第60/783,500号;2006年4月5日に出願された米国仮特許出願第60/789,132号;2006年10月24日に出願された米国仮特許出願第60/862,669号に対する優先権および利益を主張する。これらの出願は、本明細書中に、その全体が参考として援用される。
【0002】
(背景)
多能性神経幹細胞(例えば、米国特許第5,750,376号、同第5,980,885号、同第5,851,832号を参照のこと)の単離技術およびin vitro培養技術の開発により、神経変性疾患および病態の治療の見通しが著明に改善された。胎児脳を用いて、in vitroで多能性神経幹細胞を単離し培養できることが発見された。さらに、成体脳細胞は脳細胞を複製または再生することができないという長年抱かれていた考えに反して、神経幹細胞は、成体哺乳類の脳からも単離しうることが判明した。胎児脳または成体脳に由来するこれらの幹細胞は、自己複製が可能である。子孫細胞は、さらに、ニューロン、星状膠細胞、および希突起膠細胞を含む、神経細胞系列内のいずれの細胞にも増殖または分化することができる。したがって、これらの知見は、移植に用いることのできる神経細胞源を提供するだけでなく、成体脳における多能性神経幹細胞の存在、およびin situにおけるこれら幹細胞からニューロンまたはグリア細胞を産生する可能性をも示すものである。
【0003】
ある種の分子が、in vitroまたはin vivoにおける神経幹細胞数を増大させることが判明している(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8)。こうした増大の機構は、神経幹細胞の増殖の刺激、分化の抑制、および/または死滅の阻害を含みうる。したがって、これらの分子を使用して、これらの細胞を必要とする対象中で神経幹細胞を、したがってニューロンおよびグリア細胞を産生することができる。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0245436号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0136967号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0092448号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0095956号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0054998号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0054551号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2003/0049838号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2003/0049837号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
本明細書では、神経幹細胞増殖剤および神経幹細胞分化剤のための有効な投与レジメン、キット、およびその使用を提供する。とくに、短期間における高用量投与と対照的に、神経幹細胞増殖剤は、哺乳類対象に低用量で連続的に送達する。こうした物質組成物および方法は、短期的(例えば、神経損傷後または神経症状の出現後数日以内)に用いることもでき、または長期的(例えば、持続性神経損傷または進行性神経症状用)に用いることもできる。
【0005】
したがって、本明細書では、哺乳類における神経幹細胞数を増大させるに際し、有効量の神経幹細胞増殖剤の有効性を最適化するための方法およびキットであって、場合によってはキットの使用により、一定期間にわたり哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、前記期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が有効量に等しく、前記期間が少なくとも3日間である方法およびキットを提供する。
【0006】
本明細書では、哺乳類における神経変性疾患または病態を治療または改善するに際し、有効量の神経幹細胞増殖剤の有効性を最適化するための方法およびキットであって、場合によってはキットの使用により、一定期間にわたり哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、前記期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が有効量に等しく、前記期間が少なくとも3日間である方法およびキットをも提供する。
【0007】
さらに、本明細書では、哺乳類における神経変性疾患または病態を治療または改善するための方法およびキットを提供する。その方法は、場合によってはキットの使用により、一定期間にわたり哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、前記期間が少なくとも3日間である。
【0008】
加えて、本明細書では、哺乳類における神経変性疾患または病態を治療または改善する、さらなる方法を提供する。この方法は、哺乳類に神経幹細胞増殖剤および神経幹細胞分化剤を投与するステップを含み、場合によってはキットの使用により、第1治療期間に神経幹細胞増殖剤を少なくとも3回、全身に連続的に投与し、第2治療期間に神経幹細胞分化剤を投与する。神経幹細胞増殖剤および神経幹細胞分化剤は、連続的にまたは断続的に投与することができる。例えば、第1治療期間の第1、第2、および第3日に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与した後、第2治療期間の第1、第2、および第3日に神経幹細胞分化剤を連続的に投与することができる。
【0009】
その方法およびキットにおいて、期間は、例えば、少なくとも3日間でよい。場合によっては、その方法は、場合によってはキットの使用により、第2治療期間において哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含んでもよく、第2治療期間は、期間の終了後に少なくとも1日の間隔を置いて始まり、第2治療期間は少なくとも3日間である。第2治療期間は、第1治療期間と同様に、例えば、少なくとも3日間でよい。このスケジュールは、第2、第3、第4、第5などの治療期間で複数回または多数回反復することができる。この治療スケジュールは、1回、2回、複数回、または多数回投与するいずれの場合であれ、1つまたは複数のキットの形をとり、有効量の神経幹細胞増殖剤、および場合によっては神経幹細胞分化剤を、特定の治療期間または複数の治療期間にわたる投与のために提供することができる。
【0010】
方法およびキットの詳細を、添付した図面および以下の説明に示す。その方法およびキットの他の特徴、目的、および利点は、その説明および図面、ならびに請求項から明らかとなるであろう。
【0011】
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
哺乳類に有効量の神経幹細胞増殖剤を提供する方法であって、第1治療期間にわたり上記哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、上記第1治療期間に投与する上記神経幹細胞増殖剤の総用量が上記有効量に等しく、上記第1治療期間が少なくとも3日間である方法。
(項目2)
上記第1治療期間の継続期間が、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、および少なくとも14日間からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目3)
さらに、第2治療期間において上記哺乳類に上記神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、上記第1治療期間の終了後に上記第2治療期間が始まり、上記第2治療期間が少なくとも3日間であるステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
1日あたり少なくとも1回の全身注射により上記神経幹細胞増殖剤を投与する、項目1、2、または3に記載の方法。
(項目5)
注入により上記神経幹細胞増殖剤を投与しない、項目1、2、または3に記載の方法。
(項目6)
上記神経幹細胞増殖剤が、プロラクチン、hCG、成長ホルモン、IGF−1、LH、CSF、GM−CSF、VEGF、およびフェロモンからなる群から選択される、項目1、2、または3に記載の方法。
(項目7)
上記神経幹細胞増殖剤がhCGである、項目1に記載の方法。
(項目8)
上記哺乳類に投与するhCGの量が0.5IU/kg/日〜約3,000,000IU/kg/日である、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記哺乳類に投与するhCGの量が約10,000IU/日である、項目7に記載の方法。
(項目10)
上記神経幹細胞増殖剤がプロラクチンである、項目1に記載の方法。
(項目11)
上記哺乳類に投与する上記プロラクチンの量が0.510IU/kg/日〜約100,000IU/kg/日の範囲にある、項目10に記載の方法。
(項目12)
さらに、上記哺乳類に神経幹細胞分化剤を投与するステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
上記神経幹細胞分化剤が、EPO、PACAP、TH、TSH、およびPDGFからなる群から選択される、項目12に記載の方法。
(項目14)
上記哺乳類が成体である、項目1に記載の方法。
(項目15)
哺乳類における神経変性疾患または病態を治療または改善する有効量の神経幹細胞増殖剤を提供する方法であって、第1治療期間にわたり上記哺乳類に上記神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、上記第1治療期間に投与する上記神経幹細胞増殖剤の総用量が上記有効量に等しく、上記第1治療期間が少なくとも3日間である方法。
(項目16)
上記第1治療期間の継続期間が、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、および少なくとも14日間からなる群から選択される、項目15に記載の方法。
(項目17)
さらに、第2治療期間において哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、上記第1治療期間の終了後に上記第2治療期間が始まり、上記第2治療期間が少なくとも3日間である、項目15に記載の方法。
(項目18)
1日あたり少なくとも1回の全身注射により上記神経幹細胞増殖剤を投与する、項目15、16、または17に記載の方法。
(項目19)
注入により上記神経幹細胞増殖剤を投与しない、項目15、16、または17に記載の方法。
(項目20)
上記神経幹細胞増殖剤がプロラクチン、hCG、成長ホルモン、IGF−1、LH、G−CSF、GM−CSF、VEGF、およびフェロモンからなる群から選択される、項目15、16、または17に記載の方法。
(項目21)
上記神経幹細胞増殖剤がプロラクチンである、項目15に記載の方法。
(項目22)
上記哺乳類に投与するプロラクチンの量が1μg/kg/日〜約300,000μg/kg/日の範囲にある、項目21に記載の方法。
(項目23)
上記神経幹細胞増殖剤がhCGである、項目15に記載の方法。
(項目24)
上記哺乳類に投与するhCGの量が1μg/kg/日〜約300,000μg/kg/日である、項目23に記載の方法。
(項目25)
上記哺乳類に投与するhCGの量が約1000μg/日である、項目23に記載の方法。
(項目26)
さらに、上記哺乳類に神経幹細胞分化剤を投与するステップを含む、項目15に記載の方法。
(項目27)
上記神経幹細胞分化剤が、EPO、PACAP、TH、TSH、およびPDGFからなる群から選択される、項目26に記載の方法。
(項目28)
上記哺乳類が成体である、項目15、16、または17に記載の方法。
(項目29)
上記神経変性疾患が、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋委縮性側索硬化症、パーキンソン病、CNS損傷、多発性硬化症、および統合失調症からなる群から選択される、項目15、16、または17に記載の方法。
(項目30)
上記神経変性疾患または病態の症状の出現または診断から14日以内に、上記神経幹細胞増殖剤の初回用量を上記哺乳類に投与する、項目15、16、または17に記載の方法。
(項目31)
上記神経変性疾患または病態の症状の出現または診断から5日以内に、上記神経幹細胞増殖剤の初回用量を上記哺乳類に投与する、項目15、16、または17に記載の方法。
(項目32)
哺乳類における神経変性疾患または病態を治療または改善するための方法であって、第1治療期間にわたり上記哺乳類に有効量の神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、上記第1治療期間が少なくとも3日間である方法。
(項目33)
上記第1治療期間の継続期間が、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、および少なくとも14日間からなる群から選択される、項目32に記載の方法。
(項目34)
さらに、第2治療期間において上記哺乳類に上記神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、上記第1治療期間の終了後に上記第2治療期間が始まり、上記第2治療期間が少なくとも3日間である、項目32に記載の方法。
(項目35)
1日あたり少なくとも1回の全身注射により上記神経幹細胞増殖剤を投与する、項目32、33、または34に記載の方法。
(項目36)
注入により上記神経幹細胞増殖剤を投与しない、項目32、33、または34に記載の方法。
(項目37)
上記神経幹細胞増殖剤が、プロラクチン、hCG、成長ホルモン、IGF−1、LH、G−CSF、GM−CSF、VEGF、およびフェロモンからなる群から選択される、項目32、33、または34に記載の方法。
(項目38)
上記神経幹細胞増殖剤がhCGである、項目32に記載の方法。
(項目39)
上記哺乳類に投与するhCGの量が1μg/kg/日〜約300,000μg/kg/日である、項目38に記載の方法。
(項目40)
上記哺乳類に投与するhCGの量が約1000μg/日である、項目38に記載の方法。
(項目41)
上記神経幹細胞増殖剤がプロラクチンである、項目32に記載の方法。
(項目42)
上記哺乳類に投与するプロラクチンの量が1μg/kg/日〜約300,000μg/kg/日の範囲にある、項目41に記載の方法。
(項目43)
さらに、上記哺乳類に神経幹細胞分化剤を投与するステップを含む、項目32に記載の方法。
(項目44)
上記神経幹細胞分化剤が、EPO、PACAP、TH、TSH、およびPDGFからなる群から選択される、項目43に記載の方法。
(項目45)
上記哺乳類が成体である、項目32、33、または34に記載の方法。
(項目46)
上記神経変性疾患がアルツハイマー病、ハンチントン病、筋委縮性側索硬化症、パーキンソン病、CNS損傷、多発性硬化症、および統合失調症からなる群から選択される、項目32、33、または34に記載の方法。
(項目47)
上記神経変性疾患または病態の症状の出現または診断から14日以内に、上記神経幹細胞増殖剤の初回用量を哺乳類に投与する、項目32、33、または34に記載の方法。
(項目48)
上記神経変性疾患または病態の症状の出現または診断から5日以内に、上記神経幹細胞増殖剤の初回用量を上記哺乳類に投与する、項目32、33、または34に記載の方法。
(項目49)
上記神経幹細胞分化剤がEPOである、項目43に記載の方法。
(項目50)
上記哺乳類に投与するEPOの量が約100IU/kg/日〜約2000IU/kg/日である、項目49に記載の方法。
(項目51)
上記哺乳類に投与するEPOの量が約570IU/kg/日〜約950IU/kg/日である、項目49に記載の方法。
(項目52)
上記哺乳類に投与するEPOの量が765IU/kg/日である、項目49に記載の方法。
(項目53)
上記哺乳類に投与するEPOの量が約30,000IU/日である、項目49に記載の方法。
(項目54)
有効量の神経幹細胞増殖剤を提供するためのキットであって、
(a)第1治療期間に連続的に投与する上記神経幹細胞増殖剤の用量であって、上記第1治療期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が、哺乳類における神経変性疾患を治療または改善するのに有効な量に等しく、上記第1治療期間が少なくとも3日間となる用量と、
(b)上記キットの使用説明書と、
を含むキット。
(項目55)
上記第1治療期間の継続期間を、少なくとも7日間および少なくとも28日間からなる群から選択する、項目54に記載のキット。
(項目56)
さらに、第2治療期間に連続的に投与する神経幹細胞増殖剤の第2用量であって、上記第2治療期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が上記有効量に等しく、上記第2治療期間が少なくとも3日間となる第2用量を含む、項目54に記載のキット。
(項目57)
さらに、少なくとも1つの薬剤送達機器を含む、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目58)
上記神経幹細胞増殖剤が、プロラクチン、hCG、成長ホルモン、IGF−1、LH、G−CSF、GM−CSF、VEGF、およびフェロモンからなる群から選択される、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目59)
さらに、有効量の分化剤を含む、項目54に記載のキット。
(項目60)
上記分化剤が、EPO、PACAP、TH、TSH、およびPDGFからなる群から選択される、項目59に記載のキット。
(項目61)
上記分化剤がEPOである、項目59に記載のキット。
(項目62)
さらに、ヘマクリットレベルをモニターするための機器を含む、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目63)
さらに、対象から血液試料を採取するための機器を含む、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目64)
医療施設において使用するための、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目65)
医療施設からの退院後に使用するための、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目66)
上記神経幹細胞増殖剤の総用量が単一の容器内にある、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目67)
上記神経幹細胞増殖剤の総用量が複数の容器内にある、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目68)
上記分化剤の総用量が単一の容器内にある、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目69)
上記分化剤の総用量が複数の容器内にある、項目54、55、または56に記載のキット。
(項目70)
有効量の神経幹細胞増殖剤を提供するためのキットであって、
(a)第1治療期間に連続的に投与する上記神経幹細胞増殖剤の用量であって、上記第1治療期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が、哺乳類における神経幹細胞数を増大させるのに有効な量に等しく、上記第1治療期間が少なくとも3日間である用量と、
(b)上記キットの使用説明書と、
を含むキット。
(項目71)
上記第1治療期間の継続期間が、少なくとも7日間および少なくとも28日間からなる群から選択される、項目70に記載のキット。
(項目72)
さらに、第2治療期間に連続的に投与する神経幹細胞増殖剤の第2用量であって、上記第2治療期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が上記有効量に等しく、上記第2治療期間が少なくとも3日間となる第2用量を含む、項目70に記載のキット。
(項目73)
さらに、少なくとも1つの薬剤送達機器を含む、項目70、71、72に記載のキット。
(項目74)
上記神経幹細胞増殖剤が、プロラクチン、hCG、成長ホルモン、IGF−1、LH、G−CSF、GM−CSF、VEGF、およびフェロモンからなる群から選択される、項目70に記載のキット。
(項目75)
さらに、有効量の分化剤を含む、項目69に記載のキット。
(項目76)
神経幹細胞分化剤が、EPO、PACAP、TH、TSH、およびPDGFからなる群から選択される、項目75に記載のキット。
(項目77)
分化剤がEPOである、項目75に記載のキット。

種々の図面中の同種の参照記号は、同種の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】脳室内注入に用いた濃度の10、15、および20倍の濃度での、雄ラットにおけるプロラクチンの6日間の皮下注入を示す図である。ラット各例からの8切片について、脳室下帯(SVZ)におけるブロモデオキシウリジン陽性(BrdU+)細胞総数を提示する。SVZ増殖レベルは、15倍投与(6日間にわたり170μg/日)時に最適な増加が観察された(10倍=113μg/日、20倍=226μg/日、対照=ラット血清アルブミン(RSA)のみ)。対照と比べた有意性:10×=p<0.05、15×=**p<0.01、20×=p<0.05、いずれの条件についてもn=3、テューキーポストホック検定による一元配置分散分析(ANOVA)。
【図2】毎日の単回腹腔内注射を用いた、雄ラットにおけるプロラクチンの投与を示す図である。各投与計画について、切片あたりのBrdU+細胞総数を示す。(A)3日間の高用量投与では、SVZ増殖のわずかな増加が観察された。(B)6日間にわたり毎日170μg/日の低用量を用いる投与条件が、SVZ増殖レベルの増加にもっとも頑健であった。有意性は、RSA対照と比べた。n=3、p<0.05、**p<0.01、テューキーポストホック検定による一元配置ANOVA。
【図3】脳卒中後第1、第3、第5日(脳卒中=第0日)におけるhCGの単回筋肉内注射が、前脳SVZにおける増殖を著明に増大させることを示す図である。1000μgの投与条件(n=3、p<0.05、テューキーポストホックによる一元配置ANOVA)において、脳室あたりのホスホヒストンH3陽性(pHH3+)細胞数の著明な増加が観察された。画像は、軟膜を剥離したRSA対照ラット側脳室の背側角における核標識ヘキストおよびpHH3発現を、1000μg hCG投与ラットと比べて示す図であり、1000μg投与ラットのSVZにおける総細胞数およびpHH3発現の増大を意味する。
【図4】脳卒中後第1、第3、第5日(脳卒中=第0日)におけるhCGの1日あたり1000μg単回筋肉内注射が、前脳SVZにおけるニューロン発生を増大させることを示す図である。投与ラットにおけるダブルコルチン+のニューロン数を測定したところ、1000μg投与ラット(n=3、**p<0.01)において倍増した。
【図5】脳卒中後24時間から7日間(脳卒中=第0日)にわたり毎日投与したhCGの単回筋肉内注射を示す図である。(A)毎日330μg/回の投与計画が、SVZにおける増殖数(pHH3+細胞)を、他のすべての投与条件および対照と比べて有意に増加させた(n=3、p<0.01、テューキーポストホックによる一元配置ANOVA)。(B)投与ラットの運動皮質における虚血性病変を観察したところ、毎日330μg/回の投与計画を受けるラットが、新たな組織成長および組織プラグによる病変部位の充填を示すことが明らかとなった。
【図6】BrdU+細胞カウントで確認される、毎日330μg/回のhCGを投与したラットのSVZにおける増殖の増大を示す図である。脳室あたりのBrdU+細胞数は、330μg/回の条件において、対照および100μg/回の場合と比べ有意に増大した(p<0.01、n=3、テューキーポストホック検定による一元配置ANOVA)。以上の結果は、pHH3染色により観察される増殖の増大をさらに裏付けた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(詳細な説明)
現在のところ、神経疾患または病態の治療における使用が臨床的に承認されている神経幹細胞増殖剤および分化剤は存在しない。これらの薬剤は、神経疾患または病態の治療に有用であるため、これらの薬剤を用いる有効な投与レジメンが必要である。神経幹細胞増殖剤のための有効な投与レジメン、神経幹細胞増殖剤のための有効な投与レジメンを含むキット、およびその使用を、本明細書で提供する。とくに、短期間における高用量投与と
対照的に、神経幹細胞増殖剤は、哺乳類対象に低用量で連続的に送達する。例えば、所与の総有効用量に対して、総量の1/6を6日間毎日送達することを含む投与レジメンの方が、総量の1/3を3日間毎日送達することよりも有効であった。
【0014】
その方法およびキットをさらに詳しく説明する前に、本出願において用いる用語を、別段示さない限り以下に定義する。本明細書における見出しは、構成上の目的のためのものに過ぎず、本明細書に提供する記載または本明細書に添付する特許請求の範囲を限定することを意味するものではない。
【0015】
定義
神経幹細胞またはNSCとは、神経細胞系列内の幹細胞である。幹細胞とは、自己再生が可能な細胞である。言い換えれば、幹細胞分裂から生じる娘細胞は、幹細胞を含む。神経幹細胞は、最終的には、ニューロン、星状膠細胞、および希突起膠細胞を含む、神経細胞系列内のすべての細胞種別に分化することができる(星状膠細胞および希突起膠細胞は、グリアまたはグリア細胞と総称される)。こうして、本明細書で言及する神経幹細胞は、多能性神経幹細胞である。
【0016】
神経幹細胞増殖剤とは、例えば、増殖の刺激、分化の抑制、および/または神経幹細胞死の阻害により、神経幹細胞数を増加させることのできる物質である。
【0017】
神経幹細胞分化剤とは、ニューロン形成またはグリア細胞形成を選択的に促進することのできる物質である。
【0018】
対象に物質を連続的に送達または投与するとは、連日、1日あたり少なくとも1回、または最長で連日にわたって1日中、一定期間にわたり物質を対象に送達または投与することを意味する。例えば、その物質は、注射(例えば、筋肉内または皮下)により全身投与してもよく、または1日に1回毎日経口投与してもよく、または対象の組織もしくは血流内に毎日送達するよう注入により投与してもよい。場合によっては、その物質は、注入または注入以外の方法で送達する。本明細書で用いる、全身にという用語は、脳室内注入を含まない。その物質を連続的に送達または投与する期間は、3日間から数年間にわたって継続する可能性があり、対象の残りの生涯にわたって継続する可能性もある。例えば、その期間は、3〜6日間、3〜14日間、3〜21日間、3〜28日間、1〜4カ月間、1〜6カ月間、1〜9カ月間、1〜12カ月間、1〜2年間、1〜3年間、1〜5年間、1〜10年間などでよい。さらなる例として、連続的送達のための治療期間は、少なくとも約3日間、少なくとも約4日間、少なくとも約5日間、少なくとも約6日間、少なくとも約7日間、少なくとも約14日間でありうる。さらに、その物質は、投与期間の第1、第2、および第3日に連続的に送達することができる。
【0019】
神経変性疾患または病態とは、ニューロンの喪失または機能不全をともなう疾患または病態である。神経変性疾患または病態の例は、神経変性疾患、中枢神経系の損傷または機能不全を含む。神経変性疾患は、例えば、アルツハイマー病または他の認知症、多発性硬化症(MS)、統合失調症、黄斑変性症、緑内障、糖尿病性網膜症、末梢神経障害、ハンチントン病、筋委縮性側索硬化症、およびパーキンソン病を含む。CNS損傷は、例えば、脳卒中などの脳血管事象(例えば、出血性脳卒中、限局性虚血性脳卒中、または広範性虚血性脳卒中)、眼虚血症、および硬膜静脈洞血栓症;外傷性脳損傷または外傷性脊髄損傷(例えば、脳または脊髄の手術または物理的事故により生じる損傷);脳震盪;薬剤により生じる損傷(例えば、化学療法剤、レクリエーショナルドラッグ、および神経遮断薬);冠動脈バイパスグラフト(CABG)術;および出産時の虚血を含む。CNS機能不全は、例えば、うつ病、てんかん、神経症、および精神病を含む。神経変性病態の例は、老化を含む。脳室下帯における神経幹細胞数は、老化マウスにおいて著明に減少する。したがって、老化に関連する神経学的問題の改善は、その方法およびキットに従う神経幹細胞増殖剤の投与、場合によっては、神経幹細胞分化剤の投与によって達せられる。
【0020】
治療および改善とは、疾患または病態の1つまたは複数の症状の抑制または完全な除去を意味する。こうした治療または改善は、疾患または病態の危険性にある患者への投与時における、1つまたは複数の症状の出現の遅延または除去を含む。
【0021】
天然因子と実質的な配列類似性を共有するポリペプチドは、アミノ酸レベルで、天然因子と少なくとも約30%相同である。そのポリペプチドは、アミノ酸レベルで、天然因子と少なくとも約40%相同であることが好ましく、少なくとも約60%相同であることがより好ましく、少なくとも約70%相同であることがさらにより好ましく、少なくとも約80%相同であることがもっとも好ましい。こうして、実質的な類似性は、約30〜約99%の同一性を構成しうる。
【0022】
類似体または変異体と天然因子とのパーセント相同性または%相同性という語句は、2つの配列を整列したとき、類似体または変異体中でも見出される天然因子中のアミノ酸配列の百分率を指す。パーセント同一性は、LALIGNまたはBLASTなど、当技術分野で確立された任意の方法またはアルゴリズムにより決定することができる。
【0023】
ポリペプチドは、天然因子の受容体に結合可能、または天然因子に対して作製したポリクローナル抗体により認識可能である場合、天然因子の生物活性を有する。そのポリペプチドは、受容体結合アッセイにおいて、天然因子の受容体に特異的に結合できることが好ましい。
【0024】
天然因子の機能的アゴニストは、天然因子との実質的な配列類似性を必ずしも共有しないが、天然因子の受容体に結合し、これを活性化する化合物である。
【0025】
黄体形成ホルモンまたはLHは、タンパク質であり、(1)天然哺乳類LH、好ましくは、天然のヒトLHと実質的な配列類似性を共有するポリペプチドを含み、(2)天然哺乳類LHの生物活性を有する。天然哺乳類LHは、下垂体前葉が分泌するゴナドトロピンである。LHは、非共有的に結合するアルファおよびベータサブユニットからなるヘテロダイマーである。アルファサブユニットは、LH、FSHおよびhCGの間で共通であり、ベータサブユニットは、各ホルモンに特殊である。本方法およびキットにおいて有用なLHは、天然哺乳類LHと実質的な配列類似性を共有するベータサブユニットとともに、天然のアルファサブユニットを有してよい。あるいは、LHは、天然哺乳類LHと実質的な配列類似性を共有するアルファサブユニットとともに、天然のベータサブユニットを有してよい。LHは、対応する天然のサブユニットと実質的な配列類似性を共有する、アルファおよびベータのいずれのサブユニットを有してもよい。こうして、LHという用語は、天然LHサブユニットの欠失的、挿入的、または置換的突然変異体を含むLH類似体を包含する。さらに、LHという用語は、他の種からのLHおよびその天然の変異体を包含する。加えて、LHは、天然哺乳類LH受容体の機能的アゴニストであってもよい。
【0026】
ヒト絨毛性ゴナドトロピンまたはhCGは、タンパク質であり、(1)天然hCGと実質的な配列類似性を共有するポリペプチドを含み、(2)天然哺乳類hCGの生物活性を有する。天然hCGは、非共有的に結合するアルファおよびベータサブユニットからなるヘテロダイマーである。アルファサブユニットは、LH、FSHおよびhCGの間で共通であり、ベータサブユニットは、各ホルモンに特殊である。ただし、hCGおよびLHのベータサブユニットは、85%の配列類似性を共有する。本方法およびキットにおいて有用なhCGは、天然hCGと実質的な配列類似性を共有するベータサブユニットとともに、天然のアルファサブユニットを有してよい。あるいは、hCGは、天然hCGと実質的な配列類似性を共有するアルファサブユニットとともに、天然のベータサブユニットを有してよい。hCGは、対応する天然のサブユニットと実質的な配列類似性を共有するアルファおよびベータのいずれのサブユニットを有してもよい。こうして、hCGという用語は、天然hCGサブユニットの欠失的、挿入的、または置換的突然変異体を含むhCG類似体を包含する。さらに、hCGという用語は、他の種からのhCG対応物およびその天然の変異体を包含する。加えて、hCGは、天然哺乳類hCG/LH受容体の機能的アゴニストであってもよい。
【0027】
プロラクチンは、ポリペプチドであり、(1)天然哺乳類プロラクチン、好ましくは、天然ヒトプロラクチンと実質的な配列類似性を共有し、(2)天然哺乳類プロラクチンの生物活性を有する。天然哺乳類プロラクチンは、おもに下垂体で合成される199アミノ酸のポリペプチドである。こうして、プロラクチンという用語は、天然プロラクチンの欠失的、挿入的、または置換的突然変異体である、プロラクチン類似体を包含する。さらに、プロラクチンという用語は、他の種からのプロラクチンおよびその天然の変異体を包含する。
【0028】
加えて、プロラクチンは、天然哺乳類プロラクチン受容体の機能的アゴニストであってもよい。例えば、その機能的アゴニストは、プロラクチン受容体に関する米国特許第6,333,031号に開示の活性化アミノ酸配列;プロラクチン受容体に対するアゴニスト活性を有する、金属錯体を含む受容体リガンド(米国特許第6,413,952号);ヒト成長ホルモンの類似体であるが、プロラクチンアゴニストとして作用するG120RhGH(Modeら、1996年);米国特許第5,506,107号および同第5,837,460号に記載のプロラクチン受容体のリガンドであってよい。
【0029】
上皮細胞成長因子またはEGFとは、天然EGF、または、天然EGFとの実質的なアミノ酸配列の類似性のほか、EGF受容体への結合など、天然EGFと少なくとも1つの生物活性を共有する、任意のEGF類似体もしくは変異体を意味する。任意の種の天然EGF、TGFα、または組換え修飾EGFを、とくにEGFとして含める。特殊例は、2つのC末端側アミノ酸の欠失、および位置51における中性アミノ酸置換を有する組換え修飾EGF(とくに、EGF51 gln51;米国特許出願公開第20020098178A1号)、位置16におけるHis残基が、中性または酸性のアミノ酸で置換された、EGF突然変異タンパク質(EGF−X16)(米国特許第6,191,106号)、天然EGFのアミノ末端側残基を欠くEGFの52アミノ酸欠失突然変異体(EGF−D)、N末端側残基のほか2つのC末端側残基(Arg−−Leu)が欠失するEGF欠失突然変異体(EGF−B)、位置21におけるMet残基が酸化されるEGF−D(EGF−C)、位置21におけるMet残基が酸化されるEGF−B(EGF−A)、へパリン結合EGF様成長因子(HB−EGF)、ベータセルリン、アンフィレグリン、ニューレグリン、または上記のいずれかを含む融合タンパク質を含むが、以上に限定されない。他の有用なEGF類似体または同変異体は、米国特許出願公開第20020098178A1号、ならびに米国特許第6,191,106号および同第5,547,935号に記載されている。
【0030】
加えて、EGFは、天然哺乳類EGF受容体の機能的アゴニストであってもよい。例えば、その機能的アゴニストは、EGF受容体に関する米国特許第6,333,031号に開示の活性化アミノ酸配列、またはEGF受容体に対するアゴニスト活性を有する抗体(Fernandez−Pol、1985年および米国特許第5,723,115号)であってよい。
【0031】
下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドまたはPACAPは、天然PACAPとの実質的なアミノ酸配列類似性のほか、PACAP受容体への結合など、天然PACAPと少なくとも1つの生物活性を共有する天然PACAPまたは任意のPACAP類似体もしくは同変異体を意味する。有用なPACAP類似体および同変異体は、PACAPの38アミノ酸変異体および27アミノ酸変異体(それぞれ、PACAP38およびPACAP27)、ならびに、例えば、米国特許第5,128,242号、同第5,198,542号、同第5,208,320号、同第5,326,860号、同第5,623,050号、同第5,801,147号、および同第6,242,563号に開示の類似体および変異体を含むが、以上に限定されない。
【0032】
加えて、PACAPは、天然哺乳類PACAP受容体の機能的アゴニストであってもよい。例えば、その機能的アゴニストは、PACAP1型受容体の特殊アゴニストとして作用するポリペプチドである、マキサジラン(Moroら、1997年)であってよい。
【0033】
エリスロポエチンまたはEPOは、天然EPOとの実質的なアミノ酸配列類似性のほか、EPO受容体への結合など、天然EPOと少なくとも1つの生物活性を共有する天然EPOまたは任意のEPO類似体もしくは同変異体を意味する。エリスロポエチン類似体および同変異体は、例えば、米国特許第6,048,971号および同第5,614,184号に開示されている。
【0034】
加えて、EPOは、天然哺乳類EPO受容体の機能的アゴニストであってもよい。例えば、その機能的アゴニストは、EPO模倣ペプチド1(EMP1;Johnsonら、2000年);Wrightonら、1996年および米国特許第5,773,569号に記載されるEPOの短ペプチド模倣体の1つ;Kaushansky、2001年に開示される任意の小分子EPO模倣体;米国特許第5,885,574号および国際公開第96/40231号、同第97/48729号、Fernandez−Pol、1985年または米国特許第5,723,115号に記載の、EPO受容体を活性化する抗体;EPO受容体に関する米国特許第6,333,031号に開示の活性化アミノ酸配列;EPO受容体に対するアゴニスト活性を有する、金属錯体を含む受容体リガンド(米国特許第6,413,952号)、または米国特許第5,506,107号および同第5,837,460号に記載のEPO受容体のリガンドであってよい。
【0035】
LH/hCG誘発剤は、動物に投与すると、動物におけるLHまたはhCG量を増加させることができる物質である。例えば、LH放出ホルモン(LHRH)は、LHの分泌を刺激する。
【0036】
フェロモンとは、同一種の別の動物、通常は異性の動物に対するシグナルとして働く物質である。哺乳類のフェロモンは、タンパク質または小分子でありうる。フェロモンは、2−sec−ブチル−4,5−ジヒドロチアゾール(SBT)、2,3−デヒドロ−exo−ブレビコミン(DHB)、アルファおよびベータファルネセン、6−ヒドロキシ−6−メチル−3−ヘプタノン、2−ヘプタノン、trans−5−ヘプテン−2−オン、trans−4−ヘプテン−2−オン、n−ペンチルアセテート、cis−2−ペンテン−1−イル−アセテート、2,5−ジメチルピラジン、ドデシルプロピオネート、および(Z)−7−ドデセン−1−イルアセテート(例えば、Dulacら、2003年を参照のこと)からなる群から選択することが好ましい。
【0037】
有効量とは、意図する目的を達成するのに十分な治療用薬剤の量である。例えば、神経幹細胞数を増加させるためのLHまたはhCGの有効量は、適用例に応じin vivoまたはin vitroにおいて、神経幹細胞数を増加させるために十分な量である。神経変性疾患または病態を治療または改善するためのLHまたはhCGの有効量は、神経変性疾患または病態の1つまたは複数の症状を抑制または除去するために十分なLH/hCG量である。所与の治療用薬剤の有効量は、その薬剤の性質、投与経路、治療用薬剤を投与される動物のサイズおよび種、ならびに投与目的などの因子により変化する。各個の適用例における有効量は、当技術分野において確立した方法により、当業者が経験的に決定してよい。
【0038】
神経幹細胞増殖剤の等効力量とは、別の神経幹細胞増殖剤と同一または同等の効果を得るために必要な神経幹細胞増殖剤の量である。等効力量は、等効力量の相対的レベルまたは結果により指定することができる。こうして、等効力量または等効力用量は、血清または脳脊髄液中において、別の特殊な神経幹細胞増殖剤と同一のレベルを得るために必要な神経幹細胞増殖剤の量または用量でありうる。
【0039】
薬剤送達機器とは、有効量の神経幹細胞増殖剤または分化剤の投与に好適なものである。薬剤送達機器は、例えば、静脈内、動脈内、結腸内、気管内、腹腔内、鼻腔内、血管内、髄腔内、頭蓋内、骨髄内、胸膜内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経口、外用投与、肺内投与、またはその任意の組合せを含む、当技術分野で確立された任意の方法により、神経幹細胞増殖剤または分化剤を投与することができる。薬剤送達機器は、例えば、浸透圧ポンプを含む、植え込み式機器またはポンプでありうる。場合によっては、薬剤送達機器は、注入器またはその構成成分、あるいは、注入以外の手段のための機器である。
【0040】
連続的送達
プロラクチン用の投与レジメンを改善するため、各量のプロラクチンを6日間毎日ラットに投与し、神経幹細胞数に対する効果を検討した(実施例1)。結果は、170μg/日が、この投与スケジュールでは最適であったことを示す。次いで、6日間にわたり170μg/日の本投与レジメンを、投与期間を短縮すること(3日間にわたり170μg/日)または毎日の高用量と期間の短縮とを組み合わせて同様の総用量を実現すること(3日間にわたり396μg/日)により変化させた。結果は、長期間における低用量の連続的送達の方が、高用量と短い送達期間との組合せよりも有効であることを示す。
【0041】
したがって、本明細書では、哺乳類における神経幹細胞数を増大させるに際し、有効量の神経幹細胞増殖剤の有効性を最適化するための方法であって、一定期間にわたり哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、前記期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が有効量に等しく、前記期間が少なくとも3日間である方法を提供する。
【0042】
哺乳類における神経変性疾患を治療または改善するに際し、有効量の神経幹細胞増殖剤の有効性を最適化するための方法であって、一定期間にわたり哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、前記期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が有効量に等しく、前記期間が少なくとも3日間である。
【0043】
哺乳類における神経変性疾患を治療または改善するための方法であって、一定期間にわたり哺乳類に有効量の神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含み、前記期間が少なくとも3日間である。
【0044】
加えて、本明細書では、哺乳類における神経変性疾患または病態を治療または改善する、さらなる方法を提供する。この方法は、哺乳類に神経幹細胞増殖剤および神経幹細胞分化剤を投与するステップを含み、第1治療期間に神経幹細胞増殖剤を少なくとも3回、全身に連続的に投与し、第2治療期間に神経幹細胞分化剤を投与する。
【0045】
本明細書で提供する方法は、神経変性疾患または病態を示す対象に対して有効量の神経幹細胞増殖剤を投与することで、神経変性疾患または病態を治療するために、例えば、プロラクチン、hCG、LH、G−CSF、GM−CSF、フェロモン、またはVEGFなどの増殖剤を用いることができる。実施例として、増殖剤hCGおよびLHは、同一の受容体に結合するので、本明細書で提供する特殊な実施例における等効力用量において、互換的に用いることができる。さらなる例として、増殖剤hCGを約120〜200IU/kg/日の用量で筋肉内(IM)投与した後で、約570〜950IU/kg/日のEPOを静脈内(IV)投与することができる。さらなる例として、hCGを約160IU/kg/日の用量で筋肉内投与した後で、765IU/kg/日のEPOを静脈内投与することができる。神経幹細胞刺激剤のこうした投与の後に、数日間にわたりEPOなどの分化剤を投与することができる。同様のレジメンで、等効力用量の他の神経幹細胞増殖剤をも用いることができる。
【0046】
本明細書では、有効量の神経幹細胞増殖剤を提供するためのキットであって、治療期間に用いる前記神経幹細胞増殖剤の用量であって、前記治療期間に投与する神経幹細胞増殖剤の総用量が有効量に等しく、前記治療期間が少なくとも3日間である用量と、そのキットの使用説明書とを含むキットをも提供する。
【0047】
そのキットは、さらに、治療期間に用いる分化剤の用量であって、前記治療期間に投与する分化剤の総用量が有効量に等しく、前記治療期間が少なくとも3日間である用量を提供することができる。
【0048】
そのキット中の各神経幹細胞増殖剤、同分化剤、または他の薬剤の総用量は、1つの容器、複数の容器、またはその任意の組合せでありうる。例えば、1つまたは複数の神経幹細胞増殖剤の総用量は、例えば、被投与者、または介護者などの他者が計量する用量を提供するのに好適な、または用量を抽出するのに好適な1つの容器に封入しうる。単一の容器の代わりに、毎日、毎週、毎月などの投与に好適な用量のために一定量ずつを提供する複数の容器において、1つまたは複数の神経幹細胞増殖剤を提供することができる。分化剤または他の薬剤のための単一の容器または複数の容器も、そのキットにおいて同様に提供することができる。そのキットには、神経幹細胞増殖剤は一容器であるが分化剤は複数容器である組合せをも含めてよく、またはその逆の組合せを含めてもよい。また、第1治療期間のための神経幹細胞増殖因子の総用量が単一の容器もしくは複数の容器内にあってもよく、または第2治療期間のための総用量が単一の容器もしくは複数の容器内にあってもよく、あるいはその任意の組合せでもよい。
【0049】
そのキットは、さらに、患者におけるヘマトクリットレベルをモニターするための機器または手段、あるいは患者から一定量の血液を採取するために好適な機器、あるいはモニターおよび血液試料採取機器の両方を含むことができる。ヘマトクリットレベルが許容できるレベルを超えて上昇することがあるので、血液試料採取およびモニターが望ましい。許容できるヘマトクリットレベルは、当技術分野において確立したいずれの基準によっても判定することができる。
【0050】
そのキットは、入院患者治療施設または救急患者治療施設などの医療施設における使用に好適である。医療施設は、例えば、病院を含む。そのキットは、入院患者治療施設からの退院後の使用またはその施設への入院なしでの使用にも好適である。キットの形でパッケージ化することは、例えば、自己治療、外来治療、または自宅、長期ケア施設などでの介護者もしくは医療提供者による投与により、長期ケア施設または自宅での患者治療を可能とすることで、医療施設からの患者の早期退院を促進する利点を有する。
【0051】
その方法およびキットにおいて、期間(すなわち、治療期間)は、例えば、少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、21、28、または約3〜約28日間の任意の日数であってよい。場合によっては、その方法およびキットは、第2治療期間において哺乳類に神経幹細胞増殖剤を連続的に投与するステップを含んでよく、第2治療期間がその期間の終了後に開始し、第2治療期間が少なくとも3日間である。第2
治療期間は、第1治療期間と同様に、例えば、少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、21、または28日間であってよい。第1治療期間と次の治療期間との間隔は、例えば、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、21、または28日間であってもよい。この治療スケジュールは、複数回または多数回反復することができる。第2以降の治療期間で使用する神経幹細胞増殖剤は、第1治療期間で使用する神経幹細胞増殖剤または他の治療期間で使用する神経幹細胞増殖剤と同じかまたは異なっていてよい。さらに、単一の治療期間において、複数の神経幹細胞増殖剤を用いてよい。こうして、その方法で有用なキットは、1つまたは複数の治療期間のために1つまたは複数の神経幹細胞増殖剤を含むことがある。
【0052】
静脈内、動脈内、結腸内、気管内、腹腔内、鼻腔内、血管内、髄腔内、頭蓋内、骨髄内、胸膜内、皮内、皮下、筋肉内、経口、外用投与、肺内投与、またはその任意の組合せなど、当技術分野で確立された任意の方法により、神経幹細胞増殖剤を投与することができる。場合によって、神経幹細胞増殖剤を含むキットに、投与のための薬剤送達機器またはその構成成分を含めることができる。
【0053】
本明細書に記載の方法は、哺乳類の体液中における神経幹細胞増殖剤または神経幹細胞分化剤のレベルをモニターするステップをも含むことができる。モニターされる体液は、例えば、脳脊髄液または血液でありうる。例えば、治療期間中または治療期間後のいずれかにおける投与後に、血清中のhCG(または別の神経幹細胞増殖剤もしくは神経幹細胞分化剤)レベルを測定することができる。等効力レベルの各種神経幹細胞増殖剤または神経幹細胞分化剤を、体液中において測定しかつモニターすることができる。
【0054】
神経幹細胞増殖剤または分化剤用に、特定の用量単位(すなわち、治療期間の一連の投与内における投与量または単回投与)を定め、本明細書で開示する方法と併用することができる。これらの用量単位は、本明細書で定める特定の用量および用量範囲内でありうる。用量単位は、対象において神経幹細胞増殖または分化剤の所望のレベルを達成するために投与しなければならない量との関係で定めることができる。例えば、血清中の神経幹細胞増殖または分化剤レベルとして0.03IU/L〜5,000,000IU/Lを与える神経幹細胞増殖剤の用量単位。または、さらなる例として、脳脊髄液中の増殖剤レベルとして約0.003IU/L〜約5,000IU/Lを与える神経幹細胞増殖または分化剤の用量単位。
【0055】
その方法およびキットの説明書においては、神経幹細胞増殖剤を全身に、より好ましくは1日あたり少なくとも1回の全身投与により送達する。一部の実施形態においては、神経幹細胞増殖剤は注入により送達しない。
【0056】
神経幹細胞増殖剤は、in vitroまたはin vivoにおいて、哺乳類の神経幹細胞数を増大させることのできる任意の物質であってよい。本明細書で用いる促進剤は、増殖剤と同じ意味を有する。神経幹細胞数を増大させることのできる薬剤は、以下を含むがこれに限定されない。
1.LHと呼応して作用し、LH受容体の発現を誘発することが多いために、LHシグナル伝達効果を高める濾胞刺激ホルモン(FSH)。
2.神経幹細胞増殖を刺激することができる成長ホルモン(GH)。
3.GHに応答して多数の組織から放出され、GHの成長増殖効果の多くを媒介し、神経幹細胞増殖を刺激するソマトメジンである、IGF−1を含むインスリン成長因子(IGF)。
4.視床下部から分泌され、下垂体前葉からのGH放出を誘発し、循環GHレベルの上昇を生じるホルモン放出成長ホルモン(GHRH)。
5.下垂体前葉から分泌され、神経幹細胞増殖を促進するプロラクチン(PRL)。
6.プロラクチン放出の誘因となるプロラクチン放出ペプチド(PRP)。
7.神経幹細胞の分裂促進剤である線維芽細胞成長因子(FGF)。
8.例えば視床下部内を含む神経幹細胞の増殖を促進するエストロゲン。
9.視床下部における神経幹細胞の増殖を促進するセロトニン。
10.神経幹細胞の分裂促進剤である上皮細胞成長因子(EGF)。
11.神経幹細胞の分裂促進剤である形質転換成長因子アルファ(TGFα)。
12.LH放出の誘因となるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)。
13.gp130サブユニット経由で神経幹細胞の自己再生を刺激するシグナル伝達経路によりシグナル伝達することで、脳の神経幹細胞集団を増大させる毛様体神経栄養因子(CNTF)および白血病抑制因子(LIF)。
14.顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)。
15.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)。
16.血管内皮細胞成長因子(VEGF)。
17.黄体形成ホルモン(LH)。
18.ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)。
19.フェロモン。
【0057】
さらに、分化剤を投与して、ニューロン発生またはグリア細胞発生を選択的に促進することができる。これらの分化剤は、投与レジメンおよびキットに従って送達することもできる。典型的な分化剤は、以下を含むがこれに限定されない。
1.神経幹細胞の神経細胞系列へのコミットメントを促進し、脳卒中のマウスおよびラットモデルへの投与に有用であるエリスロポエチン(EPO)。
2.既知の生存因子であり、神経細胞系列を促進する分化剤である脳由来神経栄養因子(BDNF)。
3.神経細胞系列および特定の神経細胞表現型(例えば、脊髄における知覚介在ニューロン)の発生を促進する分化剤である形質転換成長因子ベータおよび骨形成タンパク質(BMP)。
4.希突起膠細胞の成熟および発生を促進する分化剤である甲状腺ホルモン(T3およびT4のいずれの形態をも含むTH)。例えば、Rodriguez−Pena、1999年を参照のこと。
5.下垂体前葉からのTH放出を促進し、循環THレベルを増大させる、甲状腺刺激ホルモン(TSH)および甲状腺放出ホルモン(TRH)。本剤は、LHまたはhCGと併用して、神経幹細胞からの希突起膠細胞発生を促進しうると考えられる。
6.発達段階における発達中のCNSのパターンを定め、異なる濃度で、特定の種類のニューロン(例えば、脊髄における運動ニューロン)および希突起膠細胞の発生を促進するモルフォゲンであるソニックヘッジホッグ(SHH)。本剤は、LHまたはhCGと併用して、神経幹細胞からのニューロン発生および/または希突起膠細胞発生を促進しうると考えられる。
7.神経幹細胞からの希突起膠細胞発生および分化を促進する血小板由来成長因子(PDGF)。本剤は、LHまたはhCGと併用して、神経幹細胞からの希突起膠細胞発生を促進しうると考えられる。
8.サイクリックAMP、およびニューロン産生を選択的に促進する下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)やセロトニンなど、cAMP経路を促進する薬剤。
【0058】
その方法およびキットのいずれもが、複数の神経幹細胞増殖剤および/または神経細胞分化剤を含みうる。こうして、1つまたは複数の神経幹細胞増殖剤を同時または順次投与することができ、別個の組成物により、または単一の組成物内で組み合わせて投与することができる。さらに、1つまたは複数の神経幹細胞増殖剤、および1つまたは複数の神経幹細胞分化剤を、同時または順次投与することができ、別個の組成物により、または単一
の組成物内で組み合わせて投与することができる。例えば、PRLとLHまたはhCGとを併用することにより、神経幹細胞増殖を最大化することができる;PRPとLHまたはhCGとを併用することにより、神経幹細胞増殖を最大化することができる;GnRHをLHまたはhCGと組み合わせて、あるいはLHまたはhCGの代わりに用いることにより、LHの循環レベルを増大させ、神経幹細胞増殖を促進することができる;ならびにCNTFおよびLIFとLHまたはhCGとを併用することにより、神経幹細胞増殖を促進し、CNS内における神経幹細胞集団の規模を増大させることができる。さらに、例えば、プロラクチンをEPOと併用することができ、LHをEPOと併用することができ、hCGをEPOと併用することができる。明示しないが、他のすべての組合せをも用いることができる。
【0059】
当技術分野で確立された方法に従い、その因子に適切な用量を定めることができる。例として、プロラクチンの用量は、例えば、約0.510〜約100,000、約0.510〜約75,000、約0.510〜約50,000、約0.510〜約25,000、約0.510〜約10,000、約100〜約5,000、約100〜約2,000、約500〜約2,000、約1,000〜約2,000、約100〜約1,000、約200〜約800IU/kg/日など、約0.510IU/kg/日〜約100,000IU/kg/日の範囲であってよい。hCGの用量は、例えば、約0.5〜約2,000,000、約0.5〜約1,000,000、約0.5〜約500,000、約0.5〜約250,000、約0.5〜約100,000、約0.5〜約50,000、約10〜約25,000、約10〜約10,000、約240〜約216,000、約1,200〜約2,000、約2,160、または約1,600IU/kg/日など、約0.5IU/kg/日〜約3,000,000IU/kg/日の範囲であってよい。hCGは、10,000IU/日の用量で投与することもできる。LHの用量は、例えば、約0.5〜約300,000、約0.5〜約200,000、約0.5〜約100,000、約0.5〜約50,000、約0.5〜約25,000、約24〜約21,600、約1000、約120〜約200、約216、または約160IU/kg/日など、約0.5IU/kg/日〜約500,000IU/kg/日の範囲であってよい。LHは、10,000IU/日の用量で投与することもできる。EPOの用量は、例えば、約100〜約1500、約100〜約1000、約160〜約1000、約570〜約950、約765、または約1020IU/kg/日など、約100IU/kg/日〜約2000IU/kg/日の範囲であってよい。EPOは、約30,000IU/日の用量で投与することもできる。等効力用量の他の薬剤をも用いることができる。別段示さない限り、本明細書における用量は、1日あたりに送達する平均用量を指す。
【0060】
神経幹細胞増殖剤および分化剤は、場合によっては、治療期間に送達すべき神経幹細胞増殖剤および分化剤の総量をキットに含むよう、キットにパッケージ化することができる。そのキットは、場合によって、例えば、血液試料採取機器またはその構成成分を含む、他の構成成分または他の構成成分の組合せを含むことができる。
【0061】
静脈内、動脈内、結腸内、気管内、腹腔内、鼻腔内、血管内、髄腔内、頭蓋内、骨髄内、胸膜内、皮内、皮下、筋肉内、経口、外用投与、またはその任意の組合せなど、当技術分野で確立された任意の方法により、分化剤を投与することができる。場合によって、分化剤を含むキットに、投与のための薬剤送達機器を含めることができる。
【0062】
中枢神経系(CNS)の損傷、症状の出現、または診断から約14日以内(例えば、0〜約14日間)に、神経幹細胞増殖剤を哺乳類に投与することができる。本明細書で用いる0日間とは、CNSの損傷、症状の出現、または診断の時点を指す。場合によって、CNSの損傷、症状の出現、または診断後約13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1日以内(例えば、0〜約5日間)に、神経幹細胞増殖剤を哺乳類に投与することができる。場合によって、CNSの損傷、症状の出現、または診断から約24時間以内に、神経幹細胞増殖剤を哺乳類に投与することができる。場合によって、CNSの損傷、症状の出現、または診断から約12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1時間以内に、神経幹細胞増殖剤を哺乳類に投与することができる。
【0063】
本明細書に記載の方法およびキットを用いて投与を受ける哺乳類は、仔体、幼若体、または成体のいずれの年齢でもありうる。
【実施例】
【0064】
以下の実施例において、以下の略記は以下の意味を有する。定義のない略記は、一般的に許容されている意味を有する。
℃ = 摂氏度
hr = 時間
min = 分
μM = マイクロモル濃度
mM = ミリモル濃度
M = モル濃度
ml = ミリリットル
μl = マイクロリットル
mg = ミリグラム
μg = マイクログラム
FBS = ウシ胎仔血清
PBS = リン酸緩衝生理食塩水
DMEM = ダルベッコ改変イーグル培地
MEM = 改変イーグル培地
EGF = 上皮細胞成長因子
NSC = 神経幹細胞
SVZ = 脳室下帯
PACAP = 下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド
BMP = 骨形成タンパク質
RSA = ラット血清アルブミン
(実施例1)
プロラクチンの連続的投与
雄ラット(250〜300g)を、2つのプロラクチン投与実験に用いた。プロラクチンは、ミニ浸透圧ポンプによる皮下注入(Alzetミニポンプ)−毎日1回注射−により投与した。原料のプロラクチンは、重炭酸緩衝液中で希釈し、さらに、生理食塩水中1mg/mlのラット血清アルブミン(RSA)で希釈して注射した。ラットは、虚血性損傷を受けなかった。第6日に、ラットに10時間で6回のBrdU(Sigma−Aldrich社製)注射(60mg/kg、腹腔内)を行い、最終回BrdU注射の30分後にラットを屠殺した。脳の凍結切片を作製し、1匹あたり8切片を用いて、SVZにおけるBrdU+細胞を測定した。結果は、SVZにおけるBrdU+細胞総数、または図の説明に記した通り、切片あたりの平均として示した。
【0065】
実験#1
ラットには6日間投与し、RSA(対照)またはラットプロラクチン(カリフォルニア州、トーランス、National Hormone and Peptide Program)の皮下注入を、以下の用量で行った(各群にラット3例ずつ)。
10×=99ul/ポンプ(2mg/0.25ml PRL)−113μg/日
**15×=148.5ul/ポンプ(2mg/0.25ml PRL)−170μg/日
***20×=198ul/ポンプ(2mg/0.25ml PRL)−226μg/日ここで、
10×=脳室内注入のために投与した用量(約11μg/日)の10倍
**15×=脳室内注入のために投与した用量の15倍
***20×=脳室内注入のために投与した用量の20倍。
【0066】
結果
図1に示す通り、170μg/日が、前脳SVZ内の増殖(BrdU+細胞数)で最大の増加をもたらした。
【0067】
実験#2
ラットには3または6日間投与し、RSAまたはラットプロラクチン(カリフォルニア州、トーランス、National Hormone and Peptide Program)の毎日の単回腹腔内注射を、以下の用量で行った(各群にラット3例ずつ)。3日間にわたり170μg/日
3日間にわたり396μg/日
6日間にわたり170μg/日。
【0068】
結果
図2に示す通り、6日間にわたり送達した170μg/日が、前脳SVZ内の増殖(BrdU+細胞数)で最大の増加をもたらした。
【0069】
(実施例2)
hCGの連続的投与
本試験の目的は、運動皮質に軟膜剥離による血管遮断性の虚血性損傷を与えた、成体雄ラットの前脳胚帯における細胞増殖および組織再生を最大化するhCG用量を決定することである。
【0070】
方法
動物と手術
すでに記された(GonzalezおよびKolb、「A comparison of different models of stroke on behavior and brain morphology」、Eur J Neurosci、2003年、第18巻、第7号、1950〜1962頁)通りに、250〜300gの雄ラットの運動皮質に、軟膜剥離による血管遮断性の虚血性損傷を与えた。ラットをペントバルビタールナトリウム麻酔下に置き(60mg/kg)、ブレグマから前/後方向に+4〜−2mmおよび正中線から横方向に1.5〜4.5mmの直角の穴を、ドリルで前頭骨および頭頂骨に開けた。硬膜を除去し、無菌の生理食塩水に漬けた綿棒を用いて、皮質表面から軟膜および付随の血管を除去した。
【0071】
投与
脳卒中の1日後(24時間後)から、ラットにヒト絨毛性ゴナドトロピンの単回筋肉内(i.m.)注射を行った。投与は表1に記した通りに行い、5日間に3回の注射(第1、第3、および第5日に投与)または1週間毎日の注射のいずれかにより送達し、注射は各日午前9時に行った。対照ラットには、食塩水中のラット血清アルブミン(RSA;Sigma社製、1mg/ml)の注射を行った。最終投与日において、hCG注射の30分後から、10時間に6回のBrdU注射をラットに行った。BrdU(Sigma−Aldrich社製)は、60mg/kgの用量で腹腔内投与した。4%パラホルムアルデヒドにより、心臓経由でラットを灌流した。脳を解剖し、スクロースで凍結保護し、凍結切片を作製した。スライドあたり8切片とする8スライドずつの2シリーズにより、14ミクロン厚で脳の凍結切片を作製した。ウサギ抗ホスホヒストンH3(抗pHH3、1:100、Upstate Biotechnologies社製)、ラット抗BrdU(1:100、Seralab社製)、ヤギ抗ダブルコルチン(DCX、1:100、Santa Cruz Biotechnologies社製)を用いて、免疫染色を行った。各ラットの側脳室周囲の前脳脳室下帯(SVZ)における、ホスホヒストンH3(pHH3:分裂活性細胞のマーカー)、BrdU、およびダブルコルチン(DCX:未成熟ニューロンのマーカー)に陽性の細胞数を、8切片において測定し、側脳室あたりの平均陽性細胞数として提示した。
【0072】
統計学的分析
値は、平均+平均の標準誤差(SEM)である。有意性は、一元配置ANOVAを用いた後、テューキーHSDポストホック検定により判定した(p<0.05、**p<0.01)。各群にラット3例とした。
【0073】
結果
本試験では、hCGの筋肉内注射が、脳卒中後における成体の前脳脳室下帯(SVZ)に存在する神経幹細胞および前駆体細胞の増殖を促進する能力を検討した。ラットには、軟膜剥離による血管遮断術を行い、運動皮質に限局性の虚血性損傷を誘発し、24時間後に投与を開始した。高用量ボーラス投与法では、表1にまとめた通り、5日間にわたり第1(脳卒中の24時間後)、第3、および第5日に3回のhCG投与を行った。前脳SVZにおける増殖レベルを分析するため、第5日にラットを屠殺した。表2および図3に示す通り、本投与計画は、RSA対照注射を投与した脳卒中ラットと比べ、増殖の増大に有効であった。図4に示す通り、1000μg投与時に、増殖はほぼ2.5倍増大し、これらのラットのSVZ中で新たに産生されたダブルコルチン陽性(DCX+)ニューロン数も、同様に著明に増大した。
【0074】
別の試験では、表1にまとめた通り、脳卒中の24時間後から7日間、ラットにhCGを毎日投与し、第7日に10時間にわたりBrdUを投与し、次いでラットを屠殺した。図5Aに示す通り、pHH3免疫反応性が示すSVZ中の分裂細胞数は、330μg/回群において、他のすべての群と比べ著明に増大した。この増大は、これらのラットのSVZにおけるBrdU+細胞数を、RSA対照と比べて測定することにより確認した(図6)。100μg投与群においては、軟膜を剥離したRSA対照と比べ、レベル増大の傾向が見られた(図5Aおよび6)。図5の非投与ラットには注射を行わず、軟膜剥離による脳卒中も誘発しなかったことに注意のこと。内部対照として、1群に330μg/回群と同じ総用量を投与した(表1を参照のこと)が、第1、第3、および第5日に770μg/回のhCGを3回投与し、第5日にラットを屠殺した。本試験によれば、330μg/回で毎日行う低用量の定期的なhCG投与が、脳における虚血性損傷後の前脳SVZにおける増殖の増大にはもっとも有効であった。
【0075】
どの投与計画が、新たな皮質組織の成長をもたらしうるかを判定するため、発明者らは、hCG治療動物の皮質における病変部位を分析した。組織の再成長は、330μg/注射を投与する群のラットのための、低用量で定期的な毎日の投与計画において、とくに著明であった(図5B)。
【0076】
(実施例3)
hCGに続くEPOの連続的投与
神経変性疾患または病態を患う哺乳類に、投与の第1、第2、および第3日における毎日1回ずつ3回の筋肉内hCG投与(10,000IU/日)の後、1日の休薬期間(第4日)を置いて、投与の第5、第6、および第7日における毎日1回ずつ3回の静脈内EPO投与(30,000IU/日)を投与することができる。初回の筋肉内hCG投与は、中等度〜高度の脳卒中事象など、神経変性病態出現の24〜48時間後に送達することができる。患者には、脳卒中の発症後6週間および3カ月など、治療期間の複数の時点において検査を行うことができる。ベースライン時の評価には、臨床/安全性状態、神経学的状態、血液学的状態、および血管状態のほか、脳MRIを含めることができる。臨床/安全性状態、神経学的状態、血液学的状態、および血管状態の評価は、治療終了の1日後、15日後、および80日後に繰り返すことができる。脳MRIは、比較のために、治療終了の80日後(神経変性疾患または病態の出現または診断の約90日後となる)に繰り返すことができる。
【0077】
本明細書で言及する任意の特許または刊行物は、本発明が関連する当業者の水準を示す。個々の刊行物をそれぞれ参照により組み込むため具体的かつ個々に示す場合と同程度に、これらの特許および刊行物を、その全体において参照により本明細書に組み込む。
【0078】
本発明は、そのいくつかの態様の例示であることを意図する実施例において開示される実施形態により範囲を制限されず、機能的に等価であるいずれの実施形態も、本発明の範囲内にある。本発明の、本明細書で示し記載したものに加えての各種の変更は、当業者には明らかとなり、添付した特許請求の範囲内にあるものとする。さらに、上述の実施形態では、本明細書に開示する組成物のある種の代表的な組合せのみを具体的に述べたが、その組成物の他の組合せも、当業者には明らかとなり、添付した特許請求の範囲内にあるものとする。したがって、本明細書では、ステップまたは組成物の組合せについて明示的に言及する場合がある。ただし、明示的に述べない場合であっても、ステップまたは組成物の他の組合せを含む。
【0079】
表1 hCG投与法を示す表である。脳卒中後24時間から5日間に3回、または7日間毎日、ラットにhCGの筋肉内(I.M.)注射を行った。対照ラットには、RSA注射のみを行った。
【0080】
【表1】

表2 軟膜剥離による血管遮断性の脳卒中後24時間にhCGを投与したラットにおけるpHH3+、BrdU+、およびDCX+細胞を対照と比べて測定するために、側脳室あたりの平均陽性細胞数として提示する、実測値±SEM。
【0081】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−138203(P2010−138203A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56766(P2010−56766)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【分割の表示】特願2008−558610(P2008−558610)の分割
【原出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(506274785)ステム セル セラピューティクス コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】