説明

神経成長因子の医薬製剤

【課題】アルツハイマー病およびその他のニューロン性疾患の処置に有用な製剤を提供する。
【解決手段】pHを約4.5から約6.0に維持するように緩衝化し、所望により、ヒト血清アルブミンなどのキャリアーを含有する、水性等張溶液中のヒト神経成長因子(NGF)の安定な水性医薬製剤を提供する。また、rhNGFを糖、所望によりHSA、および緩衝化剤と混合した、凍結乾燥、およびその後の再生に適した水性NGF製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、神経成長因子の医薬製剤に関する。本発明は、また、凍結乾燥に適した神経成長因子製剤処方に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
非常に多くのポリペプチド類およびタンパク質類が、細胞の成長または生存を調節しており、このような分子は、“成長因子”と称される。成長因子の例には、上皮増殖因子(EGF)、酸性および塩基性繊維芽細胞増殖因子、血小板由来成長因子(PDGF)、繊毛神経栄養因子(CNTF)、および神経成長因子(NGF)がある。これらの中で、NGFが同定および特性化された最初のものであった(レビモンタルチーニ、R.等、ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・ズーロジー、116巻、321頁、1951年)。
【0003】
NGFは、ある種の神経細胞の生存および活性を増進する。加えて、NGFは、未熟ニューロン細胞の有糸分裂後の成熟ニューロンへの分化を増進する。
【0004】
マウス顎下腺由来のNGFを精製した結果、3つのサブユニット、α、β、およびγからなる複合体であることが同定された。NGFの神経栄養活性は全て、約13,000Daの分子量を有する118アミノ酸タンパク質であるβサブユニットに存すると考えられている(ヴァロン、S.等、プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシィズ・USA、57巻、1782−1789頁、1967年;グリーン、L.A.等、ニューロバイオロジー、1巻、37−48頁、1971年)。溶解状態では、βサブユニットは、分子量約26,500Daの二量体を形成する。
【0005】
NGFは、末梢神経系および中枢神経系両方のある種の変性疾患を処置するのに有効であることが示唆されている。NGFの投与は、NGFの欠損、その受容体の異常、またはその輸送または細胞内作用の変化が、ニューロン機能の低減、萎縮、または細胞死さえも導くような疾患を処置するのに有益であり得ることが示唆されている。このような疾患には、遺伝性の知覚および運動ニューロパシー(神経障害)、遺伝性および散発的に発生する組織変性(hereditary and sporadically occurring system degeneration)、筋萎縮側索硬化症、パーキンソン病、およびアルツハイマー病がある(ゴーダート、M.等、モレキュラー・ブレイン・リサーチ、1巻、85−92頁、1986年;モブレイ、W.C.等、ソーシャル・ニューロサイエンス・アブストラクト、13巻、186頁、1987年;モブレイ、W.C.等、ソーシャル・ニューロサイエンス・アブストラクト、4巻、302頁、1988年;ヘフティ、F.等、アナルス・オブ・ニューロロジー、20巻、275−281頁、1986年)。NGFは、ある種の毒素、例えば、6−ヒドロキシ−ドーパミン(アロエ、L.、アルチブス・イタリエン・デ・ビオロジー、113巻、326−353頁、1975年)、ビンブラスチンおよびコルチシン(メネシニ−チェン、M.G.等、プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシィズ・USA、74巻、5559−5563頁、1977年;ジョンソン、E.M.、ブレイン・リサーチ、141巻、105−118頁、1978年)、およびカプサイシン(オッテン、U.、ネイチャー、301巻、515−577頁、1983年)にさらした後のニューロン細胞死を低減するとも考えられている。
【0006】
記憶および学習に関連する領域である海馬においてNGF mRNAの発現が高いことは、NGFの臨床的応用が、痴呆の処置に有効であり得ることを示唆している(カイショ、Y.等、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ、174巻、379−385頁、1991年)。NGFの脳室内投与により、軸索切断後の基底前脳コリン作動性ニューロンの死を妨げることが報告されており、NGFが損傷後の細胞生存を増進するのに有効であり得ることを示唆している。(ヘフティ、F.、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス、6巻、2155−2162頁、1986年;ウィリアムス、L.等、プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシィズ・USA、83巻、9231−9235頁、1986年;クロマー、L.、サイエンス、235巻、214−216頁、1987年)。
【0007】
治療を目的とするNGFの使用は、重要な問題を抱えている。これらの問題は、1)製造、精製、または貯蔵中に変化し得るNGFの生物活性を維持すること;および2)比較的大きい、親水性分子であるNGFを、それが有効であるために充分な量で活性部位に達するように投与することに関連するものである。NGFの生物活性は、他のタンパク質同様、その二次および三次構造によって変わる。NGFのβサブユニットは、3つの内部ジスルフィド結合を有し、これが、生物活性に重要であると考えられている(カナヤ、E.等、ジーン、83巻、65−74頁、1989年;イワネ、M.等、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ、171巻、116−122頁、1990年;フー、G.L.およびニート、K.E.、ジーン、70巻、57−65頁、1988年)。更に、あらゆるタンパク質が変性するような範囲まで、生物学的に活性なNGFの有効量を減らされる。従って、製造および貯蔵中、並びに投与中、タンパク質の完全状態を維持しなければならない。タンパク質は、特に、昇温時に変性し易い。
【0008】
一般に、低温では、タンパク質変性は低減する。しかしながら、タンパク質を約4℃の冷蔵温度で貯蔵するよりも、室温、即ち、約25℃で貯蔵するほうが一層経済的である。それ故に、室温での貯蔵または約4℃での冷蔵のいずれかに対する製剤処方の安定性が望まれている。
【0009】
安定性の問題に加えて、NGFは、他の多くのタンパク質同様、各種表面に非特異的に付着する。このような非特異的付着は、ガラスおよびプラスチック、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含む様々な材料に対して起こり得る。これらの材料は、製造、貯蔵、または投与中にNGFと接触することになり得る、バイアル、チューブ、シリンジ、インプラント用注入装置、またはその他の容器の形態であり得る。
【0010】
NGFのようなタンパク質を治療剤として投与する際の他の難点は、体内吸収性に乏しいこと、および胃酸により分解されることである。従って、一般に、経口投与は不適である。そのようなタンパク質の注射および注入は、このような吸収障壁を克服するために必要となろう。
【0011】
処置部位に容易にアクセス可能であるときは、注射が有用である。しかしながら、その部位が中枢神経系(CNS)などのように比較的アクセスしにくい場合、連続注入が長期投与にはより実用的であり得る。このような投与は、様々の複雑な要因のために非実用的であった。例えば、連続注入は、脳内にNGFポンプを注入することによって行うことができるが、タンパク質を長時間体温にさらすと、しばしば、タンパク質の変性が起こる。また、時間をかけすぎたとき、ポンプチャンバーにタンパク質が吸着することによって、更に損失を生ずる場合もある。
【0012】
NGFの投与に関連する問題に加えて、その製造時から投与まで長期間貯蔵されることに関連する問題もある。生物学的タンパク質の変性、凝集、および/または非特異的吸着を防ぐ長期間貯蔵法の1つは、凍結乾燥である。しかしながら、凍結乾燥法自身に難点が存在する。凍結処理中に液量が減少するので、実効塩濃度が劇的に増大し、これがタンパク質を変性させ、再生時の有効な治療活性を低減させ得る。加えて、凍結処理中の氷結晶の生成により、変性がおこり、また、利用できる生物活性なNGFの有効量も減少する。従って、製剤処方は、塩濃度の変動を防ぎ、氷結晶の生成を最小にするようなものでなければならない。
【0013】
本発明の目的の1つは、約4℃から約40℃の範囲の温度で、少なくとも1カ月以上、生物活性を保持する、NGFの水性製剤を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、生物活性が凍結乾燥および再生後も維持されている、NGFの製剤処方を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、生物学的に活性なNGFを溶解状態で貯蔵する方法を提供することである。
【発明の開示】
【0016】
発明の概要
本発明は、タンパク質の量または活性を実質的に損失することなく、周辺温度、準周辺温度、および高めた温度で貯蔵可能である、神経成長因子の安定な製剤を提供するものである。この製剤処方は:
(a)神経成長因子;
(b)所望により、生物学的に許容され得る水溶性キャリアー;
(c)等浸透圧の維持に十分な量の生物学的に許容され得る塩;
(d)製剤のpHを約4.5から約6.0に維持するための緩衝剤;および
(e)水
からなる水性溶液を含んで成る。
【0017】
別の態様では、本発明は、凍結乾燥に適したNGFの医薬製剤処方を提供する。
凍結乾燥に適した本発明の医薬製剤処方は:
(a)神経成長因子;
(b)生物学的に許容され得る増量剤;
(c)製剤のpHを約5.5から約6.5に維持するための緩衝剤;
(d)所望により、生物学的に許容され得る、水溶性キャリアー;および
(e)水
からなる水性溶液を含んで成る。
【0018】
本発明の更なる実施態様は、製剤から水を実質的に除去した凍結乾燥製剤である。所望により生物学的に許容され得るキャリアーを含む再生用媒体を用いて再生する際、本発明の凍結乾燥製剤は、治療の必要な患者に投与するのに適している。
【0019】
本発明は、約4℃から約40℃の温度で、本発明の水性製剤中のNGFを貯蔵する方法もまた提供する。
【0020】
本発明のその他の実施態様は、本発明のNGF製剤を治療上有効量投与することを含んで成る、ヒトにおけるニューロン機能不全を処置する方法である。
【0021】
発明の詳細な説明
NGFに対する安定な非経口投薬形態の開発には、投与経路、吸着相互作用、および、処理設備および落差利用輸送(ポテンシャルデリバリー)装置との適合性を含む、多くの要因の評価が要求される。更に、周辺温度、準周辺温度、および高めた温度での水性製剤中におけるNGFの安定性も考慮される。本発明の一実施態様は、ある温度範囲、特に、高めた温度(少なくとも、約40℃で)で安定性を示す、NGFの水性溶液製剤処方である。この製剤は、NGF、塩、および緩衝剤からなるpH約4.5ないし約6.0を有する水性溶液を含んで成る。この製剤は、更に、所望により、キャリアーを含んで成ることもできる。この各成分の組み合わせは、驚くべきことに、該溶液に非常に好適な特性、特に、昇温時の安定性に関する特性を与えるものである。また、凍結乾燥に適したNGFの製剤も提供する。本発明は、NGFの貯蔵法も提供する。
【0022】
本明細書で使用するとき、"生物学的に許容され得る”とは、インビボで逆の生物学的作用がないことにより特徴付られる物質に適用される。“室温”とは、約22℃ないし約25℃である。“体温”とは、約36℃ないし約40℃である。“凍結乾燥可能製剤”とは、湿分含量約2%以下まで凍結乾燥でき、再生時になお最初のNGF生物活性の少なくとも約70%を保持する、NGFの水性製剤を意味する。“等浸透圧の”とは、1リットル当たり約300ミリモルの血清とほぼ同一の浸透圧を有する溶液を意味する。“キャリアー”とは、何かの表面へのNGFの吸着を低減する生物学的に許容され得る乳化剤、分散剤、界面活性剤、またはタンパク質である。
【0023】
“NGF”とは、生物学的活性を示し、NGF受容体に結合する神経成長因子のあらゆる形態、好ましくは、神経成長因子のβサブユニットを意味する。NGFの用語は、NGF受容体に結合し、NGF生物活性を保持する、NGFのハイブリダイズした形態、および修飾した形態をも含む。NGFの修飾した形態には、イワイ、S.等、ケミカル・ファーマシューティカル・ブレティン、34巻、4724−4730頁、1986年、およびカナヤ、E.等、ジーン、83巻、65−74頁、1989年に記載されているような融合タンパク質、および、あるアミノ酸が欠失または置換されているが、治療活性を提供するのに充分なNGF生物活性および受容体結合を維持している、NGFフラグメントおよびハイブリッドをも含め得る。
【0024】
NGFの好ましい形態は、ヒトNGF(hNGF)である。hNGFの最も好ましい形態は、組換えhNGF(rhNGF)である。本発明の製剤に使用するのに適したNGFを得る方法は、当業者には知られている。例えば、適切なrhNGFは、バキュロウイルス発現系(バーネット、J.等、エクスペリメンタル・ニューロロジー、110巻、11−24頁、1990年;EPO 370,171)、酵母発現系(カナヤ、E.等、ジーン、83巻、65−74頁、1989年)、哺乳類細胞(CHO)発現系(イワネ、M.等、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ、171巻、116−122頁、1990年)、またはCOS発現系(ブルス、G.等、ニューロバイオロジカル・エイジング、10巻、89−94頁、1989年)により生産できる。NGFは、少なくとも純度65%;好ましくは、少なくとも純度85%;より好ましくは、少なくとも純度95%;および、最も好ましくは少なくとも純度98%であるべきである。本製剤に使用する単離したNGFの純度は、銀染色SDS−PAGE、または当業者には知られている他の手段により測定できる。
【0025】
提供される水性NGF製剤中で、NGFは、治療上有効量で存在する。好ましくは、NGFは、水性組成物の約0.0001から約0.125重量%を含んで成り、それは約1ないし約1250μg/mlに相当する。より好ましくは、NGFは、水性製剤の約0.001から約0.10重量%(10ないし1000μg/ml)の量で存在する。更に、より好ましくは、NGFは、水性製剤の約0.01から約0.10重量%(100ないし1000μg/ml)の量で存在する。最も好ましくは、NGFは、水性製剤の約0.01から約0.05重量%(100ないし500μg/ml)の量で存在する。
【0026】
水性NGF製剤は、所望によりキャリアーを含む。製剤中にキャリアーが存在すると、様々な表面へのNGFの吸着が低減または防止される。キャリアーが必要であるかどうかは、水性組成物中のNGF濃度に依存する。顕著に高い(約500μg/ml以上)NGF濃度では、表面吸着により失われた量を補うに充分なNGFが溶解状態で残る。適切なキャリアーは、ツイーン(登録商標)80などのポリソルベート類、プルロニック(登録商標)F68などのポロキサマー類、および血清アルブミンなどのタンパク質であるが、これらに限定されるわけではない。好ましいキャリアーは、タンパク質である。ヒト血清アルブミン(HSA)は、特に好ましい。キャリアーに対するNGFの重量比は、約0.0001:1から約1:1である。より好ましい重量比は、約0.01:1から約1:1である。キャリアーに対するNGFの最も好ましい重量比は、約0.01:1から約0.5:1である。従って、HSAをキャリアーとして使用する場合、好ましいHSA濃度は、水性製剤の約0.1から約1.25重量%(即ち、1ないし12.5mg/ml)である。好ましい製剤処方は、HSAが水性製剤の約0.3ないし0.7重量%であり、より好ましいのは、HSAが水性製剤の約0.4ないし0.6重量%である。最も好ましい製剤処方は、HSAが水性製剤の約0.5重量%(即ち、5mg/ml)である。
【0027】
NGF製剤は、液体張度を維持するのに充分な量の生物学的に許容され得る塩を含有する。塩は、また溶解状態のNGFを維持するように働く。好ましくは、NGF製剤は、生理学的に許容され得る範囲内で、ヒト血液または大脳脊髄液と等浸透圧であるために十分な塩を含有する。好ましい塩は、塩化ナトリウム(NaCl)であるが、他の生物学的に許容され得る塩類、例えば、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl)、および塩化マグネシウム(MgCl)も使用できる。この塩は、1種の塩、または複数塩の組み合わせであってもよい。好ましい製剤は、水性製剤の約0.5ないし1.0重量%(即ち、5ないし10mg/ml)の塩を含んでなる。より好ましい製剤は、製剤の約0.6ないし0.9重量%の塩を含んでなる。より好ましくは、製剤は、水性製剤の約0.7ないし0.9重量%の塩を含んでなる。最も好ましい製剤は、水性製剤の約0.87重量%(即ち、8.7mg/ml)の塩を含んでなる。
【0028】
NGF製剤は、貯蔵中のpHを維持するために、更に、生物学的に許容され得る緩衝剤を含有する。NGFは、低pHでより安定であることが分かっている。好ましい安定なNGF製剤は、生物学的に許容され得る緩衝剤を用いてpHを約4.5ないし約6.0の間に、より好ましくは約5.0ないし約5.4の間に調整する。該製剤の最も好ましいpHは、約5.2である。好ましい緩衝剤は、クエン酸であるが、所望の範囲内のpHを維持する能力のある他の緩衝剤も採用される。その他の適切な緩衝剤は、酢酸/酢酸塩、およびマレイン酸/マレイン酸塩である。緩衝剤の好ましい量は、使用する緩衝液の種類、およびその緩衝能力によって変わる。緩衝剤は、製剤の最終pHを好ましいpH範囲に維持するのに十分な量で製剤中に存在すべきである。安定なNGF製剤のために好ましい緩衝剤濃度は、水性製剤の約0.01ないし約0.3重量%(0.1ないし3.0mg/ml)であり、より好ましい緩衝剤濃度は、水性製剤の約0.1ないし約0.25重量%(1.0ないし2.5mg/ml)であり、最も好ましい緩衝剤濃度は、水性製剤の約0.2重量%(2.0mg/ml)である。
【0029】
製剤は、製剤成分の適切な濃度を達成するのに十分な量の水を含む。
好ましい安定な水性NGF製剤は、NGFを約1ないし1250μg/ml、HSAを1ないし12.5mg/ml、NaClを5ないし10mg/ml、クエン酸を0.2ないし3.0mg/mlおよび水を含んで成り、ここで製剤のpHは、約4.5ないし約6.0、より好ましくは約5.0から約5.4に調整されている。NGFの最も好ましい安定な製剤は、NGFを10ないし500μg/ml、HSAを5mg/ml、NaClを8.7mg/ml、クエン酸を2.1mg/mlおよび水を含んで成り、ここで製剤のpHは、約5.2に調整されている。
【0030】
本発明の凍結乾燥製剤は、特に、昇温温度でNGFを長期間貯蔵する場合に特に有用なものである。本発明の凍結乾燥可能製剤は、NGF、生物学的に許容され得る増量剤、製剤のpHを約5.5から約6.5に維持するための緩衝剤、所望による生物学的に許容され得る塩、所望による生物学的に許容され得る水溶性キャリアー、および水を含んで成る。
【0031】
NGFは、水性製剤中と同様の濃度範囲で凍結乾燥可能製剤中に存在する。増量剤は、一般に、凍結乾燥処理中ならびに処理後、マトリックスにその形状を維持させることにより、構造的支持を与えるものである。1種またはそれ以上の糖類を増量剤として使用できる。本明細書で使用する糖類には、モノサッカライド類、オリゴサッカライド類、およびポリサッカライド類があるが、これらに限定されるものではない。安定な糖類の例には、フルクトース、グルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、ラクトース、スクロース、およびデキストランがあるが、これらに限定されるものではない。また、糖は、糖アルコール類、例えば、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、ズルシトール、キシリトール、およびアラビトールを含む。糖類の混合物も、本発明に従い使用することができる。
【0032】
好ましい増量剤は、糖類の組み合わせを含む。好ましい増量剤は、スクロースとマンニトールの組み合わせである。理論に束縛されることなく、スクロースは、フリージングし、次いで凍結乾燥すると、無定形ガラス状物を形成すると考えられ、かくしてNGFを堅いガラス状物中に分子分散させることにより、タンパク質の潜在的安定性の増大(例えば、凝集を防ぐ)が可能となる。安定性は、糖が凍結乾燥時に失われた水の代替物として働くことによっても高められていると思われる。水分子よりもむしろ糖分子の方が、水素結合によりタンパク質に結合し易い。マンニトールを1:1の質量比でスクロース(−36℃のガラス状態への遷移温度を有する)と混合した場合、製剤のガラス状態への遷移温度は、5℃ないし−31℃まで上がる。これは、凍結乾燥中の製剤の一次乾燥時間をかなり短縮するものであり、その間、依然として無定形ガラス状製剤マトリックスのままで保たれるので、大規模生産装置において有利であると考えられる。これらの特性を有するその他の増量剤をこれらの糖の一方、または両方の代わりに使用することもできる。
【0033】
凍結乾燥される本発明の製剤は、好ましくは、凍結乾燥されない、または再生される製剤よりも高いpHを有する。本発明の凍結乾燥可能製剤中に存在する増量剤(糖類)は、一般に、高pHでより安定である。凍結乾燥前の製剤のpHは、好ましくは、約5.5ないし約6.5の間である。より好ましくは、凍結乾燥可能なNGF製剤のpHは、約5.8ないし約6.2の間である。最も好ましい凍結乾燥可能NGF製剤のpHは、約6.0である。スクロースが増量剤として存在する場合、凍結乾燥可能製剤の好ましいpHは、6.0であるが、これは、酸性pHでは、ある種の非還元ジサッカライドであるスクロースが、還元糖D−フルクトースとD−グルコースに加水分解してしまうためである。クエン酸塩は、凍結乾燥可能なNGF製剤には最も好ましい緩衝剤であるが、マレイン酸塩などの他の生物学的に許容され得る緩衝剤も使用できる。酢酸が凍結乾燥中に揮発する傾向にあるので、酢酸塩以外の緩衝剤類が好ましい。最終pHを、酸、または塩基を用いて調整することが必要な場合があると認識されるべきである。pHが約6.0と高めであることによる、水性NGFの長期安定性におけるいかなる損失も、NGFの凍結乾燥による安定性の増大により、克服されるようである。
【0034】
理想的には、緩衝剤の選択に際し、凍結乾燥中に緩衝剤成分の一連の結晶化により生じるpH移動の可能性を考慮に入れる。例えば、リン酸緩衝剤を用いる場合、塩基性成分は、酸性成分よりも高い共晶点を有するため、最初に塩基性成分が晶出し、次いでpHが下がる。クエン酸緩衝剤は、両方の緩衝剤成分が、ほぼ同一の共晶点を持つため、温度が下がっても殆どpH変動がないと考えられるので、好ましい。その他の適切な緩衝剤は、同一か、または類似の共晶点を有する成分を持つものである。
【0035】
凍結乾燥可能製剤は、また、所望により生物学的に許容され得る塩を含む。塩は、水性製剤の場合に有用な塩類と同一のものから選択され得るものであり、凍結乾燥可能製剤中に、水性製剤の場合と同一か、または低い濃度で存在する。塩濃度は、凍結乾燥中に増大することがあるため、凍結乾燥可能製剤中に存在する塩の濃度を減少させることが、タンパク質変性を阻止するために望ましい。凍結乾燥可能製剤中の塩濃度の減少分は、再生中に補って、各個体への投与に適する十分に等張性の最終製剤とすることができる。
【0036】
所望により、凍結乾燥可能製剤は、生物学的に許容され得る水溶性キャリアーを含む。本発明の凍結乾燥可能製剤に使用され得るキャリアーおよびキャリアーの濃度は、本発明の水性製剤での使用に適した濃度と同一である。
【0037】
好ましい凍結乾燥可能製剤は、NGFを約1ないし1250μg/ml、スクロースを15ないし45mg/ml、マンニトールを15ないし45mg/ml、所望によりNaClを7ないし9mg/ml、およびクエン酸を0.1ないし0.7mg/ml、pH約5.5ないし約6.5で含んで成る。NGFの最も好ましい凍結乾燥可能製剤は、NGFを約100ないし1250μg/ml、スクロースを30mg/ml、マンニトールを30mg/ml、ヒト血清アルブミンを5mg/ml、所望によりNaClを8.7mg/ml、およびクエン酸を0.3mg/ml含んで成る。凍結乾燥可能製剤の最も好ましいpHは、約6.0である。
【0038】
本発明の凍結乾燥可能製剤は、残存湿分含量約2%以下まで凍結乾燥される;しかしながら、それより高い、または低い量の湿分含量でNGFの生物学的活性を保持するような製剤をも企図している。
【0039】
好ましい凍結乾燥製剤は、神経成長因子0.001ないし1.25部、糖30ないし90部、および水約1部以下を含んで成る。
【0040】
凍結乾燥したNGF製剤は、再生して得られた製剤が、液体水性製剤と同様に、即ち、NGFが約1ないし1250μg/ml、HSAが1ないし12.5mg/ml、NaClが5ないし10mg/ml、クエン酸が0.2ないし3.0mg/ml、スクロースが1.5ないし30mg/ml、およびマンニトールが1.5ないし30mg/ml、pH5.2であるために要求され得るように、クエン酸などの緩衝剤を含有する希釈剤、および塩化ナトリウムなどの塩を用いて再生される。
【0041】
本発明の凍結乾燥したNGF製剤は、安定な凍結乾燥NGFを、処置の必要な患者に投与するために、適切な媒体で迅速、かつ容易に再生し得る形態で提供する便利で経済的な方法を提供するためのキットの成分としても有用である。凍結乾燥NGF製剤に加えて、本発明のキットも、再生用媒体を含んでなる。再生用媒体は、滅菌水、および最終的に再生した製剤を実質的に等張性にするのに充分な量の塩を含んでなる。また、再生用媒体は、さらに緩衝剤を含むこともできる。キット中に存在する再生用媒体の総容量は、処置の必要な個人に投与するのに適した最終NGF濃度を達成するのに充分であるべきである。本発明の好ましい実施態様では、2つのバイアルを含むキットを提供する。1つのバイアルは、本発明の無菌凍結乾燥NGF製剤を含んでなり、第2のバイアルは、無菌再生用媒体を含んでなる。キットを使用するためには、適切な量の再生用媒体を、凍結乾燥NGF製剤を含んでなるバイアルに移す。凍結乾燥製剤が溶解したら、再生した製剤を直ちに患者に投与することができる。
【0042】
本発明の再生製剤は長期安定性を有するので、再生製剤を複数用量に供するのに充分量で調製することも可能である。
【0043】
本発明の製剤は、NGF治療に感応する症状の個体を処置するのに有用である。代表的には、これらの製剤は、無菌状態であり、かつ静脈内、筋肉内、非経口的、または大脳室内投与に適している。このような治療は、ニューロン損傷またはNGF応答ニューロンの変性に関わるニューロン機能不全を処置するのに有用であり得る。NGFは、特に、アルツハイマー病などの中枢コリン作動性ニューロン(central cholinergic neurons)の損失に起因する疾患の処置に有用であり得る。ヨーロッパ特許 0 370 171には、アルツハイマー病および他の形態の痴呆処置剤として、NGFが記載されている。
【0044】
本発明の製剤は、痴呆の処置剤として、特定の末端使用によって変わる様々な定形処置のいずれによっても投与することができる。最適な経路は、用途および処置対象によって変わるものである。
【0045】
血液脳関門によってひき起こされる難点を克服するために、NGFを、直接脳室内注射により、または薬剤含浸インプラントまたはポンプを介してCNS内に投与することができる。その他の投与経路は、大脳室内カニューレ装置を通す連続注入によるものである。他にも、NGFをトランスフェリンなどのキャリアー分子とコンジュケーションすることも血液脳関門を貫通するのに必要であり得る。
【0046】
治療上有効量のNGFは、1日当たり約0.001から約0.5mg、好ましくは、1日当たり約0.01から約0.10mg、最も好ましくは、1日当たり約0.02から約0.06mgであると思われる。正確な投与用量および投与法は、多くの要因、例えば、投与経路、および処置を受ける個体の苦痛の程度によって変わるものである。
【0047】
アッセイ法
逆相HPLCを用いるNGFの同定および定量
NGFは、ダイナマックス300Å5μm 4.6mm×1.5cmガードカラムの付いた4−6mm×25cm Lダイナマックス(レイニン・インストルメント社、ウオバーン、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)300Å5μm分析用逆相カラム、および220nmに設定した二極管配列UV検出器を備えた、逆相HPLC(ヒュレット・パッカード HP1090 液体クロマトグラフ)を用いて、試料100μlを分析することにより、同定および定量した。移動相は、(A)水中0.1%トリフルオロ酢酸、および(B)アセトニトリル中0.1%トリフルオロ酢酸であり、圧力1700−2000psi、周囲温度、流速0.5ml/分で45分の間に、勾配を(B)25%から(B)60%に変えた。
【0048】
NGFの同定は、試料の保持時間を、同じロット由来のNGFから新たに調製し定量した標準NGF溶液のそれぞれの保持時間と比較することにより、確認した。試料中のNGFの量は、濃度の分かっている一連の希釈液で得られた標準曲線と比較することにより算出した。
【0049】
ELISAによるNGF濃度(μg/ml)の測定
NGF濃度は、ELISAによってもアッセイした。標準と試料の両方を三重にアッセイした。各プレートには、完全な標準曲線を描くNGFとNGFを含まない対照ブランクを入れた。
【0050】
コーティング抗体(rhNGFに対して産生したマウスモノクローナル24C1)100μlを96ウェルアッセイプレートの各ウェルに加えた後、プレートを湿らせたペーパータオルと共にサランラップで包み、冷蔵庫中2〜8℃で一晩インキュベートした。ウェルを空にし、洗浄緩衝液(500mMトリス、2M塩化ナトリウムを含有し、pH7に調整したもの)250μl/ウェルを分配するように設定したウィートン自動充填注射器を用いて3回洗浄し、パッティング乾燥させた。続いて、非特異的部位をブロックするために、ブロッキング緩衝液(blocking buffer)200μl(1%ウシ血清アルブミン溶液)を各ウェルに加え、試料50μlを各ウェルに加え、平台震盪器(platform shaker)で混合しながらプレートを最低1時間、室温でインキュベートした。ウェルを再び空にして、パッティング乾燥させ、標準溶液、および試料溶液50μlを加えた。次いで、プレートを覆い、室温で2時間インキュベートした。プレートのウェルを再び空にし、洗浄緩衝液で4回洗浄し、パッティング乾燥させた。ビオチン化抗体(rhNGFに対して産生したマウスモノクローナル8C1)50μlを各ウェルに加え、プレートを覆い、2時間インキュベートした。プレートのウェルを、上記のように空にし、洗浄および乾燥して、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたストレプトアビジン50μlを各ウェルに加えた。プレートを覆い、平台震盪器で混合しながら、室温で20分間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で5回洗浄した。オルソ−フェニレンジアミン(OPD)基質緩衝液50μlを各ウェルに加えた後、プレートを覆い、暗所で1時間インキュベートした。
【0051】
Vmaxキネティック・マイクロプレート(モレキュラー・デバイス、マウンテン・ビュー)リーダーを用いて、各ウェルの吸光度を測定した。各ウェルについて、650nmでのバックグラウンド吸光度を450nmでのピーク吸光度から引いて、正味の吸光度を得た。試料中のNGF濃度は、NGF標準曲線と比較して定めた。
【0052】
NGF活性の測定
NGFの生物活性は、PC−12バイオアッセイにより測定した。PC−12バイオアッセイは、NGFにさらしたときの、PC−12褐色細胞腫細胞の代謝活性増大に基づくものである(グリーン、トレンズ・ニューロサイエンス、7巻、91頁、1986年)。PC−12細胞の代謝活性は、3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(C1816Br)(MTT)の細胞取り込みにより測定するが、これは細胞のデヒドロゲナーゼにより不溶性細胞内青色結晶に変換される。
【0053】
96ウェルプレートの各ウェルは、RPMI−1640培地(シグマ)50μl中、約30,000のPC−12細胞を含有した。各試料および標準の一連の希釈液を調製して、0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むRPMI−1640中、1ml当たりrhNGF0.006ないし400ngの溶液を生成した。その後、各溶液50マイクロリットルを各ウェルに加えて、1ml当たりNGF0.003ないし200ngの濃度を得、各濃度を三重にアッセイした。プレートを37℃、5%CO2中で2日間維持した後、MTT10μgを各ウェルに加え、プレートを更に4時間インキュベートした。次いで、50%ジメチルホルムアミド(DMF)中20%SDSの一定量を加え、プレートをセロファンで包み、プラスチック袋内に封止し、37℃で一晩インキュベートした。翌日、575nmに設定したVmaxプレートリーダーを用いてプレートを読んだ。標準NGF曲線のED50に対する試料曲線のED50の比率は、2つの調製物の相対的な有効性の尺度を与えるものである。
【実施例】
【0054】
実施例1
NGF製剤
rhNGFを1、10、100、および1000μg/ml、HSAを5mg/ml、塩化ナトリウム8.7mg/ml、およびクエン酸2.1mg/ml、および製剤10mlを調製するのに充分な水を含んで成る、pH5.2に調整した水性製剤を調製した。クエン酸および塩を総容量の約70%中に溶解した後、NaOH/HClを用いてpHを調整し、HSAおよびNGFを水と一緒に穏やかに撹拌しながら水と一緒に加えて、容量を満たし、この製剤を0.2μミリポア・ミレックス−GVフィルターを通して濾過した。
【0055】
バーネット、J.等、エクスペリメンタル・ニューロロジー、110巻、11−24頁、1990年に記載されているように、製剤を調製するのに使用したrhNGFを、バキュロウイルス発現ベクターを用いて昆虫細胞中で発現させ、イオン交換、および逆相クロマトグラフィーにより精製した。
【0056】
実施例2
5℃および25℃でのNGF製剤の安定性
実施例1のNGF製剤100μg/mlの250μlずつを、ポリエチレン製ドロップ−チップバイアル中、5℃および25℃(室温)で6カ月間まで貯蔵した。これらの試料の(上記)RP−HPLC、ELISA、およびバイオアッセイ分析は、6カ月にわたり、タンパク質の損失がなかったことを示した(表1)。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例3
ポリエチレンカテーテル中37℃で貯蔵した様々なNGF製剤の安定性
実施例1に記載のようにして得られたrhNGFを1から1,000μg/ml含有するNGF製剤の250μlずつを、非放射線不透過性ポリエチレンカテーテル(内径0.030インチおよび外径0.048インチ)中、37℃で4週間貯蔵した。結果は、表2に示した通りであり、タンパク質含量(RP−HPLCにより測定)、またはNGF活性(PC−12バイオアッセイにより測定)の有意な損失がないことを示している。
【0059】
【表2】

【0060】
実施例4
様々な投与装置中でのNGF製剤の安定性
実施例1のNGF製剤100μg/mlの1部ずつを、インフューセッド・モデル600インプラント用注入ポンプ(シレイ−インフューセッド社、ノーウッド、マサチューセッツ州)、メドトロニックス・シンクロームドインプラント用注入ポンプ(メドトロニックス社、ミネアポリス、ミネソタ州)、またはアルゼット・モデル2ML4ミニ浸透性注入ポンプ(アルザ社、パロ・アルト、カリフォルニア州)のいずれかに充填した。ポンプを37℃の水浴中に置き、ポンプからの製剤流出を開始した。4週間にわたり、週毎に試料を集め、タンパク質含量および活性をRP−HPLC、ELISA、およびPC−12バイオアッセイにより分析した。
表3のデータは、NGF濃度、または活性における有意な増加は、何ら観察されなかったことを示している。
【0061】
【表3】

【0062】
実施例5
pH4ないし10でのNGF製剤の安定性研究
NGFを100μg/ml、HSAを1mg/ml、および塩化ナトリウムを9mg/ml含んでなり、pHを4〜10に緩衝化した水性製剤を、実施例1の方法で調製し、0.2μフィルター(ミレックス−GV;ミリポア社)を通して滅菌濾過した。pH4ないし5の製剤を酢酸塩で緩衝化し、pH6〜10の製剤をトリスで緩衝化した。1mlずつをポリプロピレン製ドロップ−チップバイアルに移し、次いで、これを室温(23℃ないし25℃)または37℃のいずれかでインキュベートした。様々な時点で試料を取り出し、RP−HPLCにより分析した。溶液からのNGFの損失を表す一次反応速度定数をpHの関数としてプロットした。溶液中のNGF変性速度は、約4.5以下および約6.0以上のpHで増大することが分かった。最大安定性は、pH5.2で生じた。
【0063】
実施例6
キャリアー濃度の関数としてのNGF製剤の安定性
NGF安定性への影響を測定するために、キャリアーの種類と量を試験した。実施例1に記載の水性製剤100μg/ml、およびその他のキャリアーを含んでなる水性製剤を調製して、表4に列挙している。各製剤を0.2μミリポアミレックス−GVフィルターを通して濾過滅菌した。様々な製剤中のNGFの安定性は、NGF製剤をポリプロピレン製ドロップ−チップバイアル中、37℃でインキュベートすることにより、測定した。2週間後、試料を取り出し、RP−HPLCにより、タンパク質含量について測定した。
【0064】
【表4】

【0065】
実施例7
凍結乾燥用NGF製剤
NGF100μg/ml、スクロース30mg/ml、マンニトール30mg/ml、HSA 5mg/ml、およびクエン酸0.3mg/mlを含んでなり、NaOHを用いてpH6.0に調製した水性NGF製剤を室温で調製した。総容量の約70%にクエン酸および糖を溶解した後、pHを調整し、HSAおよびNGFを十分量の水と一緒に穏やかに撹拌しながら加えて、用量を満たした。
【0066】
実施例8
NGF製剤の凍結乾燥
実施例7の製剤中における水性NGFの凍結乾燥安定性を試験した。実施例7に従い調製したNGF製剤1mlずつを、凍結乾燥ストッパーで覆った5mlのI型ガラスバイアルに入れた。製剤含有バイアルを、フリージング開始に先立ち、5℃で平衡化したフリーズドライアーチャンバー(FTSシステム社)中に装填した。次いで、チャンバーの温度を−40℃に下げた。−40℃で2時間置いた後、チャンバーを排気して、窒素吹流により圧力を80ないし100ミリトルに調節した。最終乾燥温度が25℃に達するまで、1時間当たり4℃の温度勾配を実施した。その周期で、約30時間で生成物の1%および2%の間の最終水分含量を達成した。
フリーズドライした粉末を5℃で貯蔵し、3日後室温で、塩化ナトリウム8.7mg/mlおよびクエン酸1.1mg/mlを含んでなる、pH5.2に緩衝化した希釈剤1mlを用いて再生した。試料をRP−HPLCによりNGF濃度について分析した。凍結乾燥後タンパク質の損失がないことが、観察された。
【0067】
実施例9
2〜8℃でガラスバイアルに貯蔵した場合のNGF製剤の安定性研究
rhNGF 100または1,000μg/mlを含んでなる水性製剤を、バッチサイズを1.5リットルに増やした以外は、実施例1の方法を用いて調製した。4.2mlずつをブチルゴム、テフロン加工ストッパーの付いたI型フリントガラスバイアル中に入れ、2〜8℃で貯蔵した。結果は、下記表5に示したが、タンパク質含量(RP−HPLCおよびELISAにより測定)、またはNGF活性(PC−12バイオアッセイにより測定)の有意な損失がないことを示している。
【0068】
【表5】

【0069】
逆相HPLCを用いるNGFの同定および定量
本実施例9において、使用した方法は、下記の通りである:
4〜6mm×250mm、バッカーボンド・ワイドポア・ブチル(C4)300Åポアサイズ(J.T.バッカー社、ニュージャージー州フィリップスバーグ、アメリカ合衆国)、および210nmに設定した二極管配列UV検出器を備えた逆相HPLC(ヒュレット・パッカードHP1090液体クロマトグラフ)を用いて、試料100μlを分析することにより、NGFを同定および定量した。移動相は、(A)水中0.2%トリフルオロ酢酸、および(B)緩衝液(A)中60%アセトニトリルであり、110バールの圧力、周辺温度、流速1.0ml/分で65分間、勾配を(B)29%から(B)75%に変えた。
以後、アッセイ法のHPLCのところで上記した操作を使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)約1ないし約1250μg/mlの神経成長因子;
(b)約30ないし約90mg/mlの生物学的に許容され得る増量剤;
(c)製剤のpHを約5.5から約6.5に維持するのに十分な量の緩衝剤;
(d)生物学的に許容され得る水溶性タンパク質キャリアー;および、
(e)水、
を含んでなる、凍結乾燥に適した神経成長因子の水性医薬製剤。
【請求項2】
増量剤が糖である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
増量剤が、スクロースとマンニトールの混合物であり、緩衝剤がクエン酸塩緩衝剤であり、製剤のpHが約5.8ないし約6.2である、請求項1または請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
凍結乾燥させて、湿分含量を約2%以下に減少させた、請求項1−3項のいずれか1項記載の製剤。
【請求項5】
神経成長因子を0.001ないし1.25部、糖を30ないし90部、生物学的に許容され得る水溶性タンパク質キャリアー、さらに水を1部以下含んでなる、凍結乾燥医薬組成物。
【請求項6】
ヒトにおけるニューロン機能不全の処置に使用するための、請求項1−5のいずれか1項記載の製剤、または組成物。
【請求項7】
ヒトにおけるアルツハイマー病の処置に使用するための、大脳室内注入形態の、請求の範囲第6項記載の製剤、または組成物。

【公開番号】特開2007−314572(P2007−314572A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206876(P2007−206876)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【分割の表示】特願平7−507644の分割
【原出願日】平成6年8月16日(1994.8.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(391039243)シンテックス(ユー・エス・エイ)インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SYNTEX(U.S.A.)INCORPORATED
【Fターム(参考)】