説明

神経成長因子産生促進剤

【課題】 食経験があり、ベータNGF産生促進作用を有する食品由来の破砕物又は抽出物を好ましくは摂取して痴呆や神経障害を防止又は改善する。
【解決手段】 神経成長因子産生促進活性を示すフミヅキタケ属の子実体又は菌糸体、好ましくはヤナギマツタケの子実体又は菌糸体の粉砕物、好ましくは平均粒径1mm以下の粉砕物、又はこの粉砕物からメタノール、エタノール、アセトンなどの溶媒によって抽出された抽出物からなる神経成長因子産生促進活性を有する組成物、またはこれらを有効成分として含む神経成長因子産生促進剤及び神経成長因子産生促進活性を有する飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経成長因子(beta nerve growth factor、以下「ベータNGF」と略記)産生促進活性を有する組成物及びその製造方法並びにベータNGF産生促進剤などに関するものであり、さらに詳しくは、神経系の老化予防や神経障害の進行防止、あるいはこれら疾患の改善等に有効な安全性の高いベータNGF産生促進活性を有する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会への移行に伴って老年型痴呆症が増加する傾向にあり、社会的な問題となりつつある。老年型痴呆症の原因となる疾患は数多く知られ、脳器質性障害による痴呆、脳以外の臓器疾患に付随した痴呆、およびストレスによる身体疾患に起因する痴呆に分類される。また、脳器質性障害による痴呆は、原因の違いにより脳血管性痴呆症とアルツハイマー型痴呆症とに分類される。
【0003】
現在、脳血管性痴呆症に対しては脳血管拡張薬などがある程度の効果を示すことが知られているが、アルツハイマー型痴呆症に対しては、その発症原因が今なお不明であり、適切な治療方法も明らかになっていない。そのため、脳器質性障害による痴呆、特にアルツハイマー型痴呆症に対して有用な医薬や食品の開発が所望されている。
【0004】
近年、神経細胞から分泌されるベータNGFなどの神経栄養因子が神経変性疾患に対して優れた効果を示すことが見出され、注目を集めている。ベータNGFは、神経組織の成長および機能維持にとって重要かつ必要な因子である。ベータNGFは、末梢神経における知覚および交感神経の、ならびに中枢神経における大細胞性コリン作動性ニューロンの、成熟、分化、および生命維持に不可欠であり、脳損傷時の神経細胞の変性を防ぐという作用を示す。これにより、生体内においてベータNGFレベルを上昇させることは、アルツハイマー型痴呆症及び脳血管性痴呆症のような中枢機能障害、精髄障害、末梢神経損傷、糖尿病性神経障害、並びに筋萎縮変性側索硬化症のような抹消機能障害の治療に有用であると考えられる。
【0005】
しかし、ベータNGFはモノマーで13000又はダイマーでは26000もの分子量を有するタンパク質であり、血液脳関門を通過することができない。そのため、例えば中枢機能障害の治療を目的とした場合には、脳室内投与が必要となる。さらに、ベータNGFの大量調製も困難である。このようにベータNGF自体の使用には多くの問題があり、ベータNGF自体を用いることは非常に困難である。
【0006】
ベータNGFが、末梢神経系においては胎生期の知覚および交感神経節神経細胞の分化及び成長を促進し、神経細胞突起の伸長を促すペプチドであること、さらに成熟交感神経細胞にとっては一生を通じて生存および機能維持に不可欠なペプチドであることが知られている。たとえば、幼若動物に抗ベータNGF抗体を連続投与してベータNGFの生理活性を中和した場合には、交感神経節の顕著な萎縮や神経節神経細胞の死滅が観察されている(非特許文献1、2)。この現象は不可逆的であり、ベータNGFの生理的役割の重要性を証明するものである。また、ベータNGFの作用に関する応用研究も行なわれており、ベータNGFが神経軸索の再生にも有効であることが明らかにされている(非特許文献3)。
【0007】
一方、中枢神経系におけるベータNGFの重要性も知られており、たとえば、中隔から海馬へ投射している神経路を切断したラットの脳室内にベータNGFを投与することによって、中隔のコリン作動性神経細胞の変性、脱落が抑制されること(非特許文献4、5)、老齢ラットの学習、記憶能力がベータNGFの脳室内投与で改善されること(非特許文献6)、脳虚血後に見られる海馬の錐体細胞の遅延性細胞死がベータNGFの前投与により抑制されること(非特許文献7)等が報告されている。
【0008】
このように、ベータNGFが神経細胞の生存に不可欠な因子であることから、神経疾患や神経細胞障害の進行防止ないしは治療を目的として、ベータNGFの産生を促進する物質の検索が行なわれている。その結果、これまでにカテコールアミン類(非特許文献8)、コリン作動性アゴニスト(特許文献1)、桂皮酸アミド化合物(特許文献2)、ベンゾキノン誘導体(非特許文献9)及びプロペントフィリン(非特許文献10)にベータNGF産生促進作用のあることが報告されている。また、線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor)、トランスフォーミング成長因子アルファ及びベータ(transforming growth factor α and β)、上皮細胞成長因子(epidermal growth factor)及びインシュリン様成長因子(insulin-like growth factor)等のいわゆる細胞増殖因子にもベータNGFの産生を促進する活性が認められている(非特許文献11)。
【0009】
ベータNGF産生を促進する食品由来の物質又は抽出物としては、ホップ又はアシタバから得られる破砕物又は抽出物(特許文献3)、ローズマリー由来のカルノジン酸(特許文献4)、緑茶由来のテアニン(特許文献5)、ガゴメコンブ由来のフコイダン(特許文献6)、プロタミン(特許文献7)、ブナハリタケ抽出物(非特許文献12)などが知られている。
【0010】
ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)は木材腐朽菌であり、春から秋にかけて広葉樹の枯れ木や生木の腐朽部に発生する。まれに街路樹のポプラ、ハコヤナギ、カエデなどの木の根元に束生しているのを見かけることがある馴染みの高いキノコである。ヤナギマツタケは食用キノコであり、歯切れがよく、食味がきわめてよいため人工栽培技術が確立された新しい食用キノコである。(特許文献8)
ヤナギマツタケに含まれる成分の機能性については、抗突然変異性(非特許文献16)、抗カビ活性(非特許文献17)、抗酸化活性(非特許文献18)、白血病細胞の増殖抑制活性(特許文献9)、抗菌活性(特許文献10)、皮膚疾患改善作用(特許文献11)が知られているが、ベータNGF産生促進活性などの脳機能改善効果については全く知られていなかった。
【非特許文献1】R. Levi‐Montalcina他、Physiological Review,48, 534−569, 1968
【非特許文献2】H. Thoenen他、Physiological Review, 60, 1284−1335, 1980
【非特許文献3】Rich他、Experimental Neurology, 105, 162−170, 1989
【非特許文献4】F. Hefti, Journal of Ncuroscience, 6, 2155−2162, 1986 : L. F.Kromer, Science, 235, 214−216, 1987
【非特許文献5】L. R. Williams他、Proceedings of National Academy of Sciences U. S. A. 83, 9231−9235, 1986
【非特許文献6】W. Fisher他、Nature, 329, 65−68, 1987
【非特許文献7】茂野他、医学のあゆみ、第145巻、579−580, 1988
【非特許文献8】Y.Furukawa他、Journal of Biological Chemistry, 261, 6039−6047,1986
【特許文献1】特開昭63−83020号公報
【特許文献2】特開平2−104568号公報
【非特許文献9】R. Takeuchi他、FEBS Letter, 261, 63-66, 1990
【非特許文献10】I. Shinoda他、Biochemical Pharmacology, 39, 1813−1816, 1990
【非特許文献11】篠田 他、生化学、第62巻、835頁、1990年
【特許文献3】再表2003−006037号公報
【特許文献4】特開2001−233835号公報
【特許文献5】特開平7−173059号公報
【特許文献6】再表2000−062785号公報
【特許文献7】特開平5−51325号公報
【非特許文献12】Okuyama S他 、Nutr Neurosci. 7, 741-47,2004
【非特許文献13】平成8年 食品試験研究成績 計画概要旨集 p109-110
【非特許文献14】Drug metab. Rev.,2000, 32;395-411
【非特許文献15】PNAS,1994, 91: 3147-50
【非特許文献16】Taira K, Miyashita Y他、Mutat Res. 2005 Oct 3;586(2):115-23.
【非特許文献17】Ngai PH, Zhao Z, Ng TB.、Peptides. 2005 Feb;26(2):191-6.
【非特許文献18】Kim WG, Lee IK他、J Nat Prod. 1997 Jul;60(7):721-3.
【特許文献8】特開平6−245645号公報
【特許文献9】特開2000−191547号公報
【特許文献10】特開2002−212137号公報
【特許文献11】特開2005−893890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
豊富な食経験があり、ベータNGF産生促進作用を有する食品由来の破砕物又は抽出物を好ましくは摂取して痴呆や神経障害の防止又は改善が可能となることが期待されている。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ベータNGFの産生を高めることにより神経細胞の生存と機能維持を促して神経系の老化を予防ないし改善し、また障害を受けた神経細胞に対してはその細胞自身の変成脱落を予防し、神経障害の進行を防止ないし改善する、ベータNGF産生促進活性を有するフミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の破砕物又は抽出物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ベータNGF産生促進作用を有する子実体又は菌糸体の破砕物又は抽出物の検討を鋭意行い、フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の破砕物又は抽出物にベータNGF産生促進活性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体から得られることを特徴とするベータNGF産生促進活性を有する組成物を要旨とするものであり、好ましくは、フミヅキタケ属が、ヤナギマツタケであるものである。
【0015】
別の本発明は、フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体を平均粒径1mm以下に破砕して破砕物を得ることを特徴とする前記したベータNGF産生促進活性を有する組成物の製造方法を要旨とするものである。
【0016】
また、別の本発明は、フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体から溶媒を用いて抽出物を得ることを特徴とする前記したベータNGF産生促進活性を有する組成物の製造方法を要旨とするものであり、好ましくは、溶媒が、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、エーテル類及び二酸化炭素からなる群から選ばれる1種の溶媒又は2種以上を混合した溶媒であるものである。
【0017】
別の本発明は、前記したベータNGF産生促進活性を有する組成物を有効成分とすることを特徴とするベータNGF産生促進剤を要旨とするものである。
【0018】
さらに別の本発明は、前記したベータNGF産生促進活性を有する組成物を含有することを特徴とするベータNGF産生促進活性を有する飲食品を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、食経験豊かなフミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の破砕物又は抽出物を薬学的組成物や食品組成物として利用することにより、神経系の老化予防や神経障害の進行防止、あるいはこれら疾患の改善が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明におけるフミヅキタケ(Agrocybe)属はオキナタケ(Bolbitiaceae)科に属し、フミヅキタケ(Agrocybe praecox)、ツバナシフミヅキタケ(Agrocybe farinacea)、ハタケキノコ(Agrocybe semiorbicularis)、タマムクエタケ(Agrocybe arvalis)、ツチナメコ(Agrocybe erebia)、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)などが属する。
【0022】
これらのフミヅキタケ属のうち、本発明においてはヤナギマツタケが特に好ましい。ヤナギマツタケは別名カエデモタシとも呼ばれ、ヨーロッパでは美味な食用キノコとして珍重されている。近年、その食感や味の良さから、国内でも人工栽培の研究が行われて栽培技術が確立され、特定のメーカーから一般に販売されているキノコである。
【0023】
本発明で用いられるフミヅキタケ属の子実体は、天然のものでも人工栽培されたものでもよい。
【0024】
また、本発明においては、フミヅキタケ属の菌糸体も用いることができる。菌糸体は液体培養法によって得ることができる。培地に使用する炭素源としては、グルコースなどの単糖の他、デキストリン、グリセロールなど通常用いられる炭素源が使用できる。また、窒素源としては無機又は有機窒素源が使用できるが、生育速度の観点からは有機窒素源を用いるほうが好ましい。また、必要に応じて微量元素やビタミン等の生育因子を添加することは通常の培養と何ら変わりはない。培養温度は15℃〜30℃、好ましくは18℃〜28℃、20℃〜25℃が最も好ましい。pHは2.5〜8.0、好ましくは3.0〜7.0、3.5〜5.0が最も好ましい。培地成分には不溶成分を添加することが均一に生育させることができることから好ましい。培養期間は菌株により、数日から数週間程度に設定されうる。
【0025】
本発明はフミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の破砕物又は抽出物を用いるものであり、フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の乾燥破砕物、該破砕物を各種溶媒で抽出した抽出物、該抽出物を濃縮乾燥したものなどが含まれる。本発明で使用するフミヅキタケ属としては、子実体や菌糸体を使用することができるが、栽培時間を短縮できる点で菌糸体を使用することが好ましい。
【0026】
フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の乾燥条件は特に限定されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば常温乾燥、加熱乾燥や凍結乾燥、減圧乾燥、真空乾燥などの方法が利用でき、好ましくは経済的な30〜100℃での加熱乾燥であり、50〜80℃での加熱乾燥がさらに好ましい。乾燥機は、例えばドラムドライヤーや流動層式乾燥機、棚式乾燥機、振動乾燥機、ロータリードライヤーなどの機械装置類が挙げられるが特に限定するものではない。
【0027】
フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の乾燥後、公知の破砕方法によって乾燥物を破砕することが出来る。破砕する方法は特に限定しないが、破砕物の粒径が1mm以下になるように調整できる破砕機を使用することが好ましい。例えば、乾式石臼式破砕機、ローラーミル、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、ハンマーミルなどが挙げられるが特に限定するものではない。
【0028】
以上のようにして得られたフミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の破砕物は、そのままで、あるいは必要に応じて他の成分を加えることで本発明のベータNGF産生促進活性を有する組成物となる。
【0029】
また、フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体から抽出物を得る際に用いられる抽出溶媒としては、例えば水、二酸化炭素、低級1価アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、低級エステル(酢酸エチル等)、炭化水素(ベンゼン、ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル等)、アセトニトリル等が挙げられ、それらの1種の溶媒又は2種以上を混合した溶媒を用いることができる。好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、エーテル類、二酸化炭素である。
【0030】
抽出を行うには、フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体に溶媒を添加してもよいが、できれば上記したようにフミヅキタケ属の子実体又は菌糸体を破砕した後、破砕物に対して溶媒を添加するほうが好ましい。
【0031】
抽出温度は、抽出溶媒が液体状態であり、抽出中にフミヅキタケ属の子実体又は菌糸体が腐敗して変質しない条件であれば特に限定しないが、好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは10℃以下である。抽出温度は使用する溶媒の種類によって適宜選択すればよい。また抽出時間は5時間以上が好ましく、さらに好ましくは1週間以上であり、最も好ましくは20日以上である。
【0032】
抽出後、破砕物と溶媒との混合物は公知の方法によって固液分離し、抽出液のみを回収すればよい。固液分離する方法としては遠心分離、フィルタープレス、吸引ろ過などが挙げられるが特に限定しない。さらに、必要に応じて抽出液を濃縮・乾燥することもできる。
【0033】
以上のようにして得られたフミヅキタケ属の子実体又は菌糸体の抽出物は、そのままで、あるいは必要に応じて他の成分を加えることで本発明のベータNGF産生促進活性を有する組成物となる。
【0034】
組成物に含まれ得る他の成分としては、本発明におけるベータNGF産生促進活性を低下させないものであれば混合することが可能であり、例えば従来から用いられている薬学的に許容された界面活性剤、溶媒、増粘剤、安定剤、保存料、酸化防止剤、香味料、等のような添加剤と混合されることが出来る。
【0035】
組成物の形態としては、錠剤、液体、カプセル、軟カプセル、ペースト若しくはトローチ、ガム、又は飲用可能な溶液若しくは乳濁液、ドライ経口サプリメント 、ウェット経口サプリメントなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、これらの形態は従来から知られている方法によって作製することができる。
【0036】
本発明のベータNGF産生促進剤は、上記した本発明のベータNGF産生促進活性を有する組成物を有効成分として含むものである。有効成分の含有量としては、摂取する対象者の年齢、体重などによって変わり得るが、成人1日あたり0.01〜100mg/kg服用できるように含有するのが好ましく、さらに0.1〜10mg/kgが好ましく、0.5〜5mg/kgが最も好ましい。
【0037】
本発明のベータNGF産生促進剤に含まれる各種添加剤としては、界面活性剤、賦形剤、着色料、保存料、コーティング助剤ならびにこれらの組合せが挙げられる。これら添加剤は、通常の医薬品製造における添加剤であれば特に限定されず、より具体的な例としては、ラクトース、デキストリン、スクロース、マンニトール、コーンスターチ、ソルビトール、結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、デキストリン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、ステアリン酸及びその塩、タルクなどの添加剤であり、これらの組合せが挙げられる。さらに、香辛料、甘味料などを添加してもよい。またさらに、必要に応じて他の薬剤や食品粉砕物、食品抽出物を添加してもよい。
【0038】
本発明のベータNGF産生促進剤の投与剤形も特に限定されず、日本薬局方に従って適切な剤形に製造される。具体的には、カプセル剤、錠剤、粉剤、除放剤などの剤形に製造される。
【0039】
本発明のベータNGF産生促進活性を有する飲食品は、上記した本発明のベータNGF産生促進活性を有する組成物を含有するものである。有効成分の含有量は1日あたりの摂取量が0.01〜100mg/kgになるようそれぞれの飲食品の形態に合わせて設定すればよく、さらには0.1〜10mg/kgが好ましく、0.5〜5mg/kgが最も好ましい。
【0040】
本発明のベータNGF産生促進活性を有する飲食品に混合され得る他の材料としては、一般に食品用材料として使用され得るものである。例としては、米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、昆布などから得られる多糖類、大豆や乳製品、動物原料などから得られるタンパク質、グルコース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マンニトール、キシリトールや各種オリゴ糖などの糖類、ならびにこれらの組合せが挙げられる。さらに、香辛料、着色料、甘味料、酸味料、食用油、ビタミンや他の食品破砕物、食品抽出物などを添加してもよい。これら適切な材料および添加剤は単独または組合せて使用される。またさらに、必要に応じて水を添加して所望の形状に加工してもよい。
【0041】
飲食品の具体例としては、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック菓子、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、インスタント食品に本発明の抽出物を添加しても良い。例えば、抽出物を粉末セルロースとともにスプレードライまたは凍結乾燥したものを、粉末、顆粒、打錠または溶液にすることで容易に飲食品に含有させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を試験例によりさらに詳細に説明する。
【0043】
なお、ベータNGF産生促進活性の測定は以下のようにして行なった。
〔ヒトグリオブラストーマによるベータNGFの産生〕
終濃度が10%FBS(ウシ胎児血清)、110mg/mlピルビン酸ナトリウム、1%NEAA(非必須アミノ酸溶液:インビトロジェン株式会社)を含むEMEM培地に、12.5 x10細胞/mlの濃度になるよう調製したヒトグリオブラストーマ(神経膠芽腫)T98G細胞懸濁液を、24穴マルチプレートの各穴に接種し、3日間培養した。その後、5mg/mlのBSA(ウシ血清アルブミン)を含むOpti-MEM培地に交換し、さらに4日間培養した。再度培地交換し、上記で調製した抽出物DMSO溶液を、各抽出物の固形分終濃度が200μg/mlになるよう添加し、4日間培養した。培養上清を回収し、ベータNGF量を測定した。
【0044】
〔培養上清中のベータNGFの測定法〕
ベータNGFの測定はR&Dシステム社の「ベータNGF、Human, DuoSet Kit」を使用した。ポリスチレン製の96穴マルチプレートに、Capture Antibodyとしてマウス抗ヒトベータNGF抗体溶液を各穴に100μlづつ分注し、室温で一夜放置した。マイクロプレートに吸着されなかった抗体を除去後、Wash Buffer(0.05% Tween20を含むPBS)で各穴を3回洗浄した。各穴に300μlのReagent Diluent(1%BSAを含むPBS)を加えて1時間以上、室温でブロッキングをし、Wash Buffer(0.05% Tween20を含むPBS)で各穴を3回洗浄した。標準溶液としてのヒト組み換えベータNGF溶液あるいは、上記の実験により得られた各培養上清100μlを各穴に分注し、室温で2時間放置した後、標準溶液あるいは、培養上清を除去した。さらに各穴を3回づつ洗浄した。Detection Antibodyとしてヒツジ抗ヒトベータNGF抗体溶液を各穴に100μlづつ分注し、室温で2時間放置した後、ホースラーディッシュ由来パーオキシダーゼを各穴に100μlづつ加えて遮光して室温で20分間静置し、Wash Buffer(0.05% Tween20を含むPBS)で各穴を3回洗浄した。各穴にSubstrate Solution(過酸化水素とテトラメチルベンジジンの混合液)を100μlづつ加え室温で20分間反応させた。Stop Solutionとして2Nの硫酸を50μlづつ加え、直ちに吸光度計にて450/540nmの吸光度を測定し、標準曲線よりベータNGF量を算出した。
【0045】
実施例1
〔子実体抽出物の調製〕
フミヅキタケ属のフミヅキタケとヤナギマツタケ、キヌガサタケ属のキヌガサタケ、コウタケ属のケロウジ、ブナハリタケ属のブナハリタケ、ヤマブシタケ属のヤマブシタケについて市販品を購入し、これらの子実体を80℃で熱風乾燥し、回転刃付ブレンダーで破砕処理を行い、1mm以下の破砕物を得た。この破砕物1gに対してメタノール10mlを添加し、4℃にて2週間抽出処理を行った。また、ヤナギマツタケについては、さらに水、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、ジエチルエーテルを用いて同様の抽出処理を行った。これらの各抽出物を遠心分離(3000rpm、10分間)して上清を回収し、上清を減圧下で乾燥させ、固形分を測定した。この乾燥物を再度、DMSO(ジメチルスルホキシド)10mlに溶解し、終固形分濃度が200μg/ml時のベータNGF産生促進活性を測定した。
【0046】
〔菌糸体抽出物の調製〕
フミヅキタケ属のフミヅキタケとヤナギマツタケ、キヌガサタケ属のキヌガサタケの子実体から内部の組織を無菌的に切り出した。この組織をポテトデキストロース寒天培地又は、ポテトスクロース寒天培地、ペプトンデキストロース寒天培地に移し、25℃で20日間培養した。20日後成長した菌糸体 を寒天培地に継代培養した。この操作を2度繰り返し、得られた菌糸体 をポテトデキストロース液体培地又は、ポテトスクロース液体培地、ペプトンデキストロース液体培地に移植し、40日間、静地培養 した。40日後、培養 液と菌糸体 をろ紙を用いてろ別した。この乾燥菌糸体を回転刃付ブレンダーで破砕処理を行い、1mm以下の破砕物を得た。この破砕物1gに対してメタノール10mlを添加し、上記子実体破砕物と同様に抽出してベータNGF産生促進活性を試験した。
【0047】
結果を表1に示した。表1の結果からフミズキタケ属、特にヤマギマツタケの子実体及び菌糸体のアルコール抽出物に強いベータNGF産生促進活性があることが分かる。これらの活性は既にベータNGF産生促進活性があるとされるヤマブシタケやケロウジ、ブナハリタケよりも優れたものであった。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例2
上記実施例1で得たヤナギマツタケの子実体、ヤナギマツタケ菌糸体のメタノール抽出物DMSO溶液を終固形分濃度が25、50、100、200、400μg/mlとなるように加える以外は同様にして、ヒトグリオハイブリドーマT98G細胞を用いてベータNGFを培養上清中に産生させ、ベータNGF量を測定した。
【0050】
結果を表2に示した。表2の結果から、ヤナギマツタケの子実体又は菌糸体のメタノール抽出画分は濃度依存的にベータNGF産生促進活性を有することが明らかである。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体から得られることを特徴とする神経成長因子産生促進活性を有する組成物。
【請求項2】
フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体が、ヤナギマツタケの子実体又は菌糸体である請求項1記載の神経成長因子産生促進活性を有する組成物。
【請求項3】
フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体を平均粒径1mm以下に破砕して破砕物を得ることを特徴とする請求項1又は2記載の神経成長因子産生促進活性を有する組成物の製造方法。
【請求項4】
フミヅキタケ属の子実体又は菌糸体から溶媒を用いて抽出物を得ることを特徴とする請求項1又は2記載の神経成長因子産生促進活性を有する組成物の製造方法。
【請求項5】
溶媒が、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、エーテル類及び二酸化炭素からなる群から選ばれる1種の溶媒又は2種以上を混合した溶媒である請求項4記載の神経成長因子産生促進活性を有する組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の組成物を有効成分とすることを特徴とする神経成長因子産生促進剤。
【請求項7】
請求項1又は2記載の組成物を含有することを特徴とする神経成長因子産生促進活性を有する飲食品。



【公開番号】特開2007−106729(P2007−106729A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301758(P2005−301758)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】