説明

神経細胞の成長又は移動の制御剤

【課題】一連の細胞間相互作用を担う分子機構を明らかにするため機能未知な新規分泌型タンパク分子を同定すること。
【解決手段】配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチドを有効成分として含有する、神経細胞の成長又は移動の制御剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞の軸索成長又は移動の制御剤に関する。さらに詳細には、本発明は、神経細胞の軸索成長又は移動に関与するタンパク質及びその遺伝子を用いた神経細胞の成長又は移動の制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳は、多数の(ヒト脳では100-150億個)多様な神経細胞集団が極めて複雑なネットワークを形成して機能しているが、発生過程を見れば、個々の神経細胞やグリア細胞が細胞間相互作用を積み重ねることにより形成され、維持される。個々の神経細胞が結合してシナプスを形成する相手の神経細胞集団は、神経細胞が誕生した時点では既に運命付けられているので、個々の神経細胞は正しい結合相手に向かって能動的に軸索を伸展する。また、神経細胞の細胞体も所定の解剖学的部位に移動する。この選択的な軸索の成長を可能にするのが軸索ガイダンス分子であり、軸索ガイダンス分子は神経細胞の移動にも関与する。
【0003】
神経軸索を制御する分子には、その成長を誘引する分子と成長を阻害し反発させる分子の二つのグループが有り、それぞれに分泌型のタンパクと膜に結合して機能するタンパクが有るので、軸索ガイダンス分子は4種に分類される(非特許文献1)。神経細胞によって反応性が異なるので、多数のガイダンス分子が存在し、代表的なnetrin, semaphorin, slit, ephrinの他に、L1やカドヘリンのような細胞接着分子、sonic hedgehog, BMPなどのこれまで形態形成に関与することが明らかにされてきた分子もガイダンス分子として機能する。これらのガイダンス分子の一部は、神経細胞ばかりではなく、血管を形成する細胞の移動なども制御する (非特許文献2から4)。
【0004】
【非特許文献1】Tessier-Lavigne M, Goodman CS. The molecular biology of axon guidance. Science. 1996, 274:1123-33.
【非特許文献2】Lu X, Le Noble F, Yuan L, Jiang Q, De Lafarge B, Sugiyama D, Breant C, Claes F, De Smet F, Thomas JL, Autiero M, Carmeliet P, Tessier-Lavigne M, Eichmann A. The netrin receptor UNC5B mediates guidance events controlling morphogenesis of the vascular system. Nature. 2004, 432:179-86.
【非特許文献3】Gitler AD, Lu MM, Epstein JA. PlexinD1 and semaphorin signaling are required in endothelial cells for cardiovascular development. Dev Cell. 2004, 7:107-16.
【非特許文献4】Hinck L. The versatile roles of "axon guidance" cues in tissue morphogenesis. Dev Cell. 2004, 7:783-93.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発生過程と成熟後の可塑的なダイナミックな神経回路網の形成と維持機構を理解し、将来的にそれを制御し、介入して治療するためには物質的な基盤の解明が必須である。近年神経系に関わる多数の分子の機能が解明されつつあるが、中枢神経系には未だ発見されていない重要な機能分子が多数存在する。この観点から、本発明は、一連の細胞間相互作用を担う分子機構を明らかにするため機能未知な新規分泌型タンパク分子を同定することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、発生過程のニワトリ胚脊髄から運動神経細胞分画を材料としてシグナルシークエンストラップ法とin situ hybridization法を用いて探索し、抑制性の神経軸索ガイダンス分子Draxin (Dorsal repulsive axon guidance protein)を見出した。
【0007】
Draxinと名付けた分子のマウスとヒトcDNAは既にクローニングされており、分子量約50 KD(349アミノ酸)の分泌型タンパクである。Draxinは培養下でニワトリ胚脊髄背側組織片(DSC)からのnetrin依存性の神経突起成長を阻害するが、後根神経節(DRG)からのBDNFとNT-3依存性の軸索成長には影響しない。さらに、異所的に発現されたDraxinはニワトリ胚脊髄においても、DSCからの交連線維の成長を阻害する。マウスDraxinタンパクは種を越えてトリ神経に対する活性も持っていた。シェーマ(図2)で示してある脊髄交連神経は、脊髄腹側細胞が分泌するnetrinとsonic hedgehog(shh)に誘引され、背側の細胞が発現するBMP7とGDF7に反発され腹側に成長するが、BMP7/GDF7のダブル遺伝子欠損マウスでも背側細胞により反発されるため、別の反発分子(X)が想定されている。DraxinはこのX分子の候補である。
【0008】
Draxin mRNAは発生初期にはroof plate(蓋板)に限局するが、発生と共に脊髄背側内部に発現領域が広がり、この時期には脊髄の介在神経細胞が背腹軸に沿って移動する。Draxinを過剰発現させたところ、背側脊髄介在神経 (dorsal spinal cord interneuron: dI, dI1-dI6の6種に分けられる) のdI3神経細胞の腹側への移動が抑制されていることが、マーカーである転写因子Islet1の免疫組織化学で明らかになった。即ち、Draxinは一部の神経細胞の軸索成長も神経細胞の移動にも阻害的に作用する。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。即ち、本発明によれば、
(1) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチドを有効成分として含有する、神経細胞の成長又は移動の制御剤。
(2) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドを有効成分として含有する、神経細胞の成長又は移動の制御剤。
(3) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質を有効成分として含有する、神経細胞の成長又は移動の制御剤。
【0010】
(4) 神経疾患の予防及び/又は治療のために使用する、(1)から(3)の何れかに記載の制御剤。
(5) 活性が、脊髄背側組織片(DSC)からのnetrin依存性の神経突起成長を阻害する活性、脊髄交連神経の脊髄内での軸索成長を阻害する活性、網膜組織片からの神経突起成長を阻害する活性、又は背側脊髄介在神経のdI3神経細胞の腹側への移動を抑制する活性である、(3)に記載の制御剤。
【0011】
(6) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチドを用いることを特徴とする、該タンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規な神経細胞の成長又は移動の制御剤、並びに上記制御剤として有用な物質のスクリーニング方法が提供されることになった。本発明の神経細胞の成長又は移動の制御剤は、神経疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
(A)神経細胞の成長又は移動の制御剤
本発明の神経細胞の成長又は移動の制御剤は、以下の何れかを有効成分として含有するものである。
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド;又は
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質:
【0014】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質(以下、本発明のタンパク質とも称する)は、ヒトを含む哺乳動物(例えば、ヒト、ニワトリ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)の神経細胞(例えば、脊髄の細胞など)に由来するタンパク質であってもよいし、合成タンパク質でもよい。
【0015】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号2で表わされるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。ここで言うアミノ酸配列の相同性は、例えば、NCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic LocalAlignment Search Tool)を用いて計算することができる。このような本発明のタンパク質としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は数個(例えば、1〜20個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個程度)のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。
【0016】
また、配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質であることが好ましい。実質的に同質の活性としては、例えば、脊髄背側組織片(DSC)からのnetrin依存性の神経突起成長を阻害する活性、脊髄交連神経の脊髄内での軸索成長を阻害する活性、網膜組織片からの神経突起成長を阻害する活性、又は背側脊髄介在神経のdI3神経細胞の腹側への移動を抑制する活性などを挙げることができる。実質的に同質とは、それらの性質が生理学的に同質であることを示し、活性が同等(例えば、約0.01〜100倍、好ましくは約0.1〜10倍、より好ましくは0.5〜2倍)であることが好ましいが、これらの活性の程度は異なっていてもよい。
【0017】
本発明のタンパク質の部分ペプチドとしては、上記した本発明のタンパク質の部分ペプチドであって、好ましくは、上記した本発明のタンパク質と同様の性質を有する部分ペプチドを挙げることができる。部分ペプチドとしては、本発明のタンパク質を構成するアミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、さらに好ましくは70個以上、より好ましくは100個以上、最も好ましくは200個以上のアミノ酸配列を有するペプチドを用いることができる。
【0018】
また、本発明のタンパク質または部分ペプチドは塩として使用することもできる。塩としては、生理学的に許容される酸(無機酸又は有機酸など)や塩基(アルカリ金属塩など)との塩を用いることができる。特に、生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。酸付加塩の具体例としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、及び有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩を挙げることができる。
【0019】
本発明のタンパク質又はその部分ペプチドは、ヒトを哺乳動物の細胞または組織から通常のタンパク質の精製方法によって精製してもよいし、当該タンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによって組み換えタンパク質として製造してもよいし、あるいはペプチド合成法によって製造してもよい。
【0020】
ヒトや哺乳動物の組織または細胞から精製する場合、ヒトや哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズした後、酸などで抽出を行ない、該抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。
【0021】
ペプチドの化学合成は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の、当業者に公知の方法によって行うことができる。また、桑和貿易(米国Advanced Chem Tech社製)、パーキンェルマージャバン(米国Perkin Elmer社製)、アマシャムファルマシアバイオテク(Amersham Pharmacia Biotech社製)、アロカ(米国Protein Technology Instrument社製)、クラボウ(米国Synthecell-Vega社製)、日本パーセプティブ・リミテッド(米国PerSeptive社製)、島津製作所等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0022】
本発明のタンパク質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、上記した本発明のタンパク質又はその部分ペプチドをコードする塩基配列を含有するものであれば、任意のポリヌクレオチドを使用することができる。ポリヌクレオチドは、好ましくは、DNAである。DNAとしては、ゲノムDNA、cDNA、又は合成DNAのいずれでもよい。本発明のタンパク質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、または配列番号1で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同質の性質を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。
【0023】
配列番号1で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号1で表される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
【0024】
本明細書において「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNA」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSCの組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0025】
本発明のタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAのクローニング法としては、本発明のタンパク質をコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだDNAを本発明のタンパク質の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによって選別することができる。
【0026】
本発明のDNAは適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
【0027】
組み換えタンパク質を製造する場合には、発現ベクターを用いる。発現ベクターにおいて本発明のポリヌクレオチドは、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜することができる。
【0028】
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillusstearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha-amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosldase gene)のプロモータ、またはファージ・ラムダのPR若しくはPLプロモータ、大腸菌の lac、trp若しくはtacプロモータなどが挙げられる。
【0029】
哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、またはアデノウイルス2主後期プロモータなどがある。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2-4cプロモータなどが挙げられる。
【0030】
糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータまたはtpiAプロモータなどがある。
【0031】
また、本発明のポリヌクレオチドは必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネータまたは真菌宿主についてはTPI1ターミネータ若しくはADH3ターミネータのような適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサ配列(例えばSV40エンハンサ)および翻訳エンハンサ配列(例えばアデノウイルス VA RNA をコードするもの)のような要素を有していてもよい。
【0032】
組み換えベクターは更に、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。組み換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、または例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
【0033】
本発明のポリヌクレオチド又は組み換えベクターは、適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。
【0034】
本発明のポリヌクレオチドまたは組み換えベクターを導入される宿主細胞は、本発明のDNA構築物を発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌および高等真核細胞等が挙げられる。
細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセス等のグラム陽性菌又は大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行なえばよい。
【0035】
哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法も公知であり、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。
酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
【0036】
他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、公知の方法に従い、例えば相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。
【0037】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、蛋白質を発現させることができる(例えば、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manua1;及びカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Bio/Technology, 6, 47(1988)等に記載)。
バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
【0038】
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W. H. Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法又はリポフェクション法等を挙げることができる。
【0039】
上記の形質転換体は、導入されたDNA構築物の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、本発明の蛍光融合蛋白質を単離精製するには、通常の蛋白質の単離、精製法を用いればよい。
例えば、本発明のタンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常の蛋白質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0040】
本発明で用いることができる配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質の具体例としては、抗体、アンチセンスポリヌクレオチド、又は低分子化合物などのその他の物質を挙げることができる。
【0041】
本発明のタンパク質に対する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の何れでもよい。本発明のタンパク質に対する抗体は、本発明のタンパク質又はその部分ペプチドを抗原として用い、当業者に公知の常法に従って製造することができる。
【0042】
本発明のタンパク質に対する抗体は、例えば、本発明のタンパク質又はその部分ペプチドを抗原として哺乳動物を免疫感作し、該哺乳動物から血液を採取し、採取した血液から抗体を分離・精製することにより得ることができる。本発明では、例えば、マウス、ハムスター、モルモット、ニワトリ、ラット、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ等の哺乳動物を免疫することができる。免疫感作の方法としては、当業者に公知の通常の免疫感作の方法を用いて、例えば抗原を1回以上投与することにより行うことができる。
【0043】
抗原投与は、例えば、7から30日、特に12から16日間隔で2または3回投与することができる。投与量は1回につき、例えば抗原約0.05から2mg程度を目安とすることができる。投与経路も特に限定されず、皮下投与、皮内投与、腹膜腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与等を適宜選択することができるが、静脈内、腹膜腔内もしくは皮下に注射することにより投与することが好ましい。また、抗原は適当な緩衝液、例えば完全フロイントアジュバント、RAS〔MPL(Monophosphoryl Lipid A)+TDM(Synthetic Trehalose Dicorynomycolate)+CWS(Cell Wall Skeleton) アジュバントシステム〕 、水酸化アルミニウム等の通常用いられるアジュバントを含有する適当な緩衝液に溶解して用いることができるが、投与経路や条件等によっては、上記したアジュバントは使用しない場合もある。ここでアジュバントとは抗原とともに投与したとき、非特異的にその抗原に対する免疫反応を増強する物質を意味する。
【0044】
免疫感作した哺乳動物を0.5から4ケ月間飼育した後、該哺乳動物の血清を耳静脈等から少量サンプリングし、抗体価を測定することができる。抗体価が上昇してきたら、状況に応じて抗原の投与を適当回数実施する。例えば10μg〜1000μgの抗原を用いて追加免疫を行なうことができる。最後の投与から1〜2ケ月後に免疫感作した哺乳動物から通常の方法により血液を採取して、該血液を、例えば遠心分離、硫酸アンモニウムまたはポリエチレングリコールを用いた沈澱、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー等の通常の方法によって分離・精製することにより、ポリクローナル抗血清として、本発明のポリクローナル抗体を得ることができる。なお血清は、たとえば、56℃で30分間処理することによって補体系を不活性化してもよい。
【0045】
また、本発明の抗体がモノクローナル抗体の場合、該モノクローナル抗体のグロブリンタイプは特に限定されず、例えばIgG、IgM、IgA、IgE、IgD等が挙げられる。また、本発明のモノクローナル抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体でもよい。
【0046】
モノクローナル抗体の作製は、当業者に既知の方法により行うことができ、例えば、ハイブリドーマを用いた方法により行うことができる。本発明のモノクローナル抗体を産生する細胞株は特に制限されないが、例えば、抗体産生細胞とミエローマ細胞株との細胞融合によりハイブリドーマとして得ることができる。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、以下のような細胞融合法によって得ることができる。
【0047】
抗体産生細胞としては、免疫された動物からの脾細胞、リンパ節細胞、Bリンパ球等を使用する。免疫される動物としてはマウス、ラット等が使用され、これらの動物への抗原の投与は常法に従って行う。例えば完全フロインドアジュバント、不完全フロインドアジュバントなどのアジュバントと抗原との懸濁液もしくは乳化液を調製し、これを動物の静脈、皮下、皮内、腹腔内等に数回投与することによって動物を免疫化する。免疫化した動物から抗体産生細胞として例えば脾細胞を取得し、これとミエローマ細胞とをそれ自体公知の方法(G.Kohler et al .,Nature,256 495(1975))により融合することにより、ハイブリドーマを作製することができる。
【0048】
細胞融合に使用するミエローマ細胞株としては、例えばマウスではP3X63Ag8、P3U1株、Sp2/0株などが挙げられる。細胞融合を行なうに際しては、ポリエチレングリコール、センダイウイルスなどの融合促進剤を用い、細胞融合後のハイブリドーマの選抜にはヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)培地を常法に従って使用することができる。細胞融合により得られたハイブリドーマは限界希釈法等によりクローニングすることができる。更に、酵素免疫測定法(ELISA)等によりスクリーニングを行なうことにより、本発明のタンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生する細胞株を得ることができる。
【0049】
このようにして得られたハイブリドーマから目的とするモノクローナル抗体を製造するには、通常の細胞培養法や腹水形成法により該ハイブリドーマを培養し、培養上清あるいは腹水から該モノクローナル抗体を精製すればよい。培養上清もしくは腹水からのモノクローナル抗体の精製は、常法により行なうことができる。例えば、硫安分画、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて使用できる。
【0050】
また、上記したような各種抗体の断片も本発明の範囲内である。抗体の断片としては、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント等が挙げられる。
【0051】
アンチセンスポリヌクレオチドとしては、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列に相補的または実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有し、本発明のポリヌクレオチドの発現を抑制することができるものであれば、任意のアンチセンスポリヌクレオチドを使用することができる。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドに実質的に相補的な塩基配列とは、例えば、本発明のポリヌクレオチドに相補的な塩基配列の全塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列などを挙げることができる。翻訳阻害を指向したアンチセンスポリヌクレオチドの場合は、本発明のタンパク質のN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスポリヌクレオチドを使用することが好ましい。また、RNaseHによるRNA分解を指向するアンチセンスポリヌクレオチドの場合は、イントロンを含む本発明のDNAの全塩基配列の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスポリヌクレオチドが好ましい。
【0053】
アンチセンスポリヌクレオチドの長さは、一般的には10〜50塩基、好ましくは10〜40塩基、さらに好ましくは15〜30塩基である。本発明で用いることができるアンチセンスポリヌクレオチドは、通常のDNA合成装置を用いて製造することができる。
【0054】
上記したアンチセンスポリヌクレオチドと同様に、本発明のタンパク質をコードするRNAの一部を含有するリボザイム、本発明のタンパク質が結合するDNA配列に対するデコイオリゴヌクレオチドなども、本発明のポリヌクレオチドの発現を抑制することができ、生体内における本発明のタンパク質の機能を抑制することができる。
【0055】
リボザイムは、公知の方法に準じて、本発明のポリヌクレオチドの配列を基に設計して製造することができる。例えば、本発明のタンパク質をコードするRNAの一部に公知のリボザイムを連結することによって製造することができる。本発明のタンパク質をコードするRNAの一部としては、公知のリボザイムによって切断され得る本発明のRNA上の切断部位に近接した部分(RNA断片)が挙げられる。
【0056】
デコイオリゴヌクレオチドは、公知の方法に準じて、本発明のタンパク質が結合するDNAの配列を基に設計して製造することができる。具体的には、該デコイオリゴヌクレオチドとしては、本発明のタンパク質が結合するDNAの配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、本発明のタンパク質が結合し得るものであれば何れのものでもよい。本発明のタンパク質が結合するDNAの配列とハイブリダイズできる塩基配列としては、例えば、本発明のタンパク質が結合するDNAの配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列などが用いられる。
【0057】
さらに本発明では、RNAiを引き起こすことができるsiRNA又はshRNAなどを、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性又は発現を抑制する物質として使用することもできる。siRNA は、約20塩基(例えば、約21〜23塩基)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAである。このようなsiRNA は、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNA の標的となる遺伝子の発現を抑制することができる。
【0058】
siRNA は、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態のものでもよい。ここで、「siRNA 」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5'−リン酸、3'−OHの構造を有しており、3'末端は約2塩基突出している。このsiRNA に特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNA と同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNA の中央部でmRNAを切断する。
【0059】
siRNA の配列と、標的として切断するmRNAの配列とは100%一致することが好ましい。しかし、siRNA の中央から外れた位置の塩基が一致していない場合については、RNAiによる切断活性は部分的には残存することが多いので、必ずしも100%一致していなくてもよい。
【0060】
本発明では、siRNAをRNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNA を生成するような因子(例えば、約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。例えば、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列の一部に対して少なくとも約70%、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の相同性を有する配列を含む、二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体を使用することができる。相同性を有する配列部分は、通常は、少なくとも約15ヌクレオチド以上であり、好ましくは少なくとも約19ヌクレオチドであり、より好ましくは少なくとも約20ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは少なくとも約21ヌクレオチド長である。
【0061】
本発明においては、RNAiを引き起こす因子として、3'末端に突出部を有する短いヘアピン構造から成るshRNA(short hairpin RNA)を使用することができる。shRNAとは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子のことを言う。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことができる。上記の通りshRNAは、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことから、本発明において有効に用いることができる。
【0062】
shRNAは好ましくは、3'突出末端を有している。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド以上であり、より好ましくは約20ヌクレオチド以上である。ここで、3'突出末端は、好ましくはDNAであり、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド以上のDNAであり、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチドのDNAである。
【0063】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチド、本発明のタンパク質の活性または発現を阻害する化合物、または本発明のタンパク質に対する抗体を含有する医薬は、神経疾患の治療及び/又は予防のために使用することができる。さらに、本発明のタンパク質をコードする遺伝子、本発明のタンパク質をコードする遺伝子 のアンチセンスポリヌクレオチドまたは本発明のタンパク質に対する抗体は、神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン症候群、脊髄損傷、てんかん、精神分裂病、うつ病など)などの診断薬として使用することができる。
【0064】
本発明のタンパク質は、脊髄背側組織片(DSC)からのnetrin依存性の神経突起成長を阻害する活性、脊髄交連神経の脊髄内での軸索成長を阻害する活性、網膜組織片からの神経突起成長を阻害する活性、又は背側脊髄介在神経のdI3神経細胞の腹側への移動を抑制する活性を有し、神経組織において発現が見られる。従って、本発明のタンパク質は、神経細胞の成長又は移動の制御剤として使用することができる。さらに、本発明のタンパク質の活性や発現量を制御することにより、神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン症候群、脊髄損傷、てんかん、精神分裂病、うつ病など)を予防又は治療できる可能性がある。
【0065】
本発明の神経細胞の成長又は移動の制御剤を作製する場合、本発明のタンパク質は、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは無菌性溶液または懸濁液剤などの注射剤の形態で非経口的に投与することができる。
【0066】
錠剤及びカプセル剤用の添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤を使用することができる。
【0067】
注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖等を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)を挙げることができる。また緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などを適宜配合してもよい。
【0068】
本発明の薬剤は、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して投与することができる。
【0069】
本発明のタンパク質の投与量は、対象疾患、投与対象、投与経路に応じて適宜設定することができるが、例えば、成人(体重60kgとして)においては、一日につき該タンパク質を約0.01〜100mg、好ましくは約0.1〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg投与することができる。
【0070】
本発明のタンパク質の活性を中和する作用を有する中和抗体、アンチセンスポリヌクレオチドなどの配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質も、脊髄背側組織片(DSC)からのnetrin依存性の神経突起成長を阻害又は促進する活性、脊髄交連神経の脊髄内での軸索成長を阻害する活性、網膜組織片からの神経突起成長を阻害する活性、及び背側脊髄介在神経のdI3神経細胞の腹側への移動を抑制又は促進する活性を有するため、神経細胞の成長又は移動の制御剤として使用することができ、例えば、神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン症候群、脊髄損傷、てんかん、精神分裂病、うつ病など)の予防又は治療のために使用することができる。
【0071】
抗体は、適当な医薬組成物として投与することができる。抗体を含む医薬組成物としては、上記抗体と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤を含む医薬組成物を挙げることができる。このような医薬組成物は、経口または非経口投与(例えば、関節内投与)に適する剤形として提供することができ、吸入剤として投与することもできる。
【0072】
アンチセンスポリヌクレオチドを本発明の制御剤として使用する場合は、公知の方法にしたがって製剤化し、投与することができる。例えば、アンチセンスポリヌクレオチドを用いる場合、該アンチセンスポリヌクレオチドを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエイテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常法に従って、ヒトまたは哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的に投与することができる。該アンチセンスポリヌクレオチドはそのままで、あるいは補助剤などの生理学的に認められる担体とともに製剤化し、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与できる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記のアンチセンスポリヌクレオチドを単独またはリポゾームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。さらに、アンチセンスポリヌクレオチドは、組織や細胞における本発明のDNAの存在やその発現状況を調べるための診断用オリゴヌクレオチドプローブとして使用することもできる。
【0073】
(B)本発明のタンパク質の活性を増大又は抑制する化合物をスクリーニングする方法
本発明のタンパク質は、脊髄背側組織片(DSC)からのnetrin依存性の神経突起成長を阻害する活性、脊髄交連神経の脊髄内での軸索成長を阻害する活性、網膜組織片からの神経突起成長を阻害する活性、又は背側脊髄介在神経のdI3神経細胞の腹側への移動を抑制する活性を有するため、本発明のタンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質は、神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン症候群、脊髄損傷、てんかん、精神分裂病、うつ病など)などの治療・予防剤として使用することができる。
【0074】
従って、本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質をスクリーニングするための試薬として有用である。すなわち本発明によれば、本発明のタンパク質又はその部分ペプチドを用いることを特徴とする、該タンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質をスクリーニングする方法が提供される。
【0075】
具体的には、上記スクリーニング方法においては、例えば、試験化合物の存在下と非存在下において、本発明のタンパク質の発現量を測定して、比較することができる。
【0076】
試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク質、生体由来非ペプチド性化合物(糖質、脂質など)、合成化合物、微生物培養物、細胞抽出液などが挙げられ、これら化合物は新規化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。上記のスクリーニングの際には、本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞をスクリーニングに適した培地を用いて培養することによってスクリーニングを行うことができる。
【0077】
本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞としては、本発明のタンパク質をコードするDNAを含有するベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体を使用することができる。宿主としては、例えば、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞などの動物細胞を用いることができる。
【0078】
本発明のタンパク質の発現量は、タンパク質又はmRNAの量を測定することによって調べることができる。タンパク質量の測定は、公知の方法、例えば、本発明のタンパク質を認識する抗体を用いて、細胞抽出液中などに存在するタンパク質を、ウェスタンブロット、ELISA法などの方法により測定することができる。mRNA量の測定は、例えば、ノーザンブロッティングやRT−PCRなどの方法により測定することができる。
【0079】
例えば、本発明のタンパク質の発現量を、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上増大又は抑制する試験化合物を本発明のタンパク質の活性を増大又は抑制する物質として選択することができる。
【0080】
さらに本発明のスクリーニング方法により得られる物質を、本発明の神経細胞の成長又は移動の制御剤として使用する場合は、常法に従って製剤化することができる。
【0081】
例えば、経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。上記組成物は、通常の担体、希釈剤もしくは賦形剤などを用いて、公知の方法により製造することができる。非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などが挙げられる。
【0082】
上記した組成物は、例えば、ヒトまたは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。該化合物の投与量は、対象疾患、投与対象、投与経路に応じて適宜選択することができるが、一般的には、成人(体重60kgとして)においては、一日につき該化合物またはその塩を約0.01〜100mg、好ましくは約0.1〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg投与することができる。
【0083】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0084】
実施例1:anti-SC1抗体を用いたイムノパンニング
(1)パンニング皿の作成
細胞接着力が低い無菌プラスチック皿(細胞培養用でないもの)に精製された抗マウス Ig G 10μg in 10ml Tris buffer( 0.5M、pH 9.5)を入れ、4℃にて 12 時間以上置く。3回 10ml の PBS で洗った後、MAb SC1(運動神経細胞を認識するモノクローナル抗体;Tanaka, H. and Obata, K. : Developmental changes in unique cell surface antigens of chick embryo spinal motoneurons and ganglion cells. Dev. Biol. 106, 26, 1984)のハイブリドーマ培養上清 2ml (抗体として約 20μg)と 8ml PBSを 入れた後、室温にて1時間静置する。10ml の PBS で2回 洗った後、培養液(Ham F12-DMEM、10% horse serum、5% chick embryo extract)10ml を入れパンニング皿を作成する。
【0085】
(2)組織から目的の細胞を単離
ニワトリ 5 日目胚( 3 〜 5 匹)から脊髄全体を取り出し、Ca++ -Mg++ -free Hanks で 3 回洗う。取り出した脊髄全体を0.05% trypsin in Ca++ -Mg++ -free Hanks、37℃で15分間 処理し、培溶液で洗う。一次抗体が認識する 細胞表面抗原を損なわないように、酵素濃度は低くしている。培養液 1ml を入れピペットマンのブルーチップで 8 回ピペッテイングし、細胞塊が沈むまで数分間静置する。細胞塊を吸わないよう上清中の単離した細胞のみを得る。残った細胞塊に再び培養液 1ml を入れ同様にピペッティングし、細胞を集める。
【0086】
(3)細胞回収
パンニング皿に単離した細胞を入れ、室温で1時間静置する。接着しなかった細胞を除くため培養液を吸引し、 3ml の PBS を入れパンニング皿を旋回させ PBS を吸引する。PBS は皿壁から入れ、皿底に直接当てない。この操作を 8 回 繰り返し、浮遊する細胞がほとんど無くなっていることを顕微鏡下にて確認し、培養液を入れる。細胞を回収する際は、培養液で機械的に細胞を剥離し細胞数を計測して遠心機にかける。培養液で目的の細胞密度にして、細胞培養実験に用いる。
【0087】
(4)結果
精製したニワトリ胚運動神経細胞の神経突起成長例を図1に示す。
【0088】
実施例2:DraxincDNAのクローニング
実施例1で調製した濃縮したE5-5.5ニワトリ脊髄運動ニューロンのポリA+RNAから、cDNAライブラリーを構築し、レトロウイルスベクターpMX-SST(Kojima, T., Kitamura, T., 1999. A signal sequence trap based on a constitutively active cytokine receptor. Nat. Biotech. 17, 487-490)に挿入した。cDNAライブラリーを、Kojima, T., Kitamura, T., 1999. A signal sequence trap based on a constitutively active cytokine receptor. Nat. Biotech. 17, 487-490に記載されたシグナル配列トラップ法(SST-REX)によりスクリーニングした。得られたcDNAの配列を決定し、新規cDNAクローンを同定するためにNCBIでサーチした。次いで、新規又は機能未知のcDNAのmRNA発現をin situハイブリダイゼーションにより調べた。
【0089】
クローン12D3は、脊髄ではroof plate(蓋板)に、脳では背側領域で発現しており、その全長cDNAは、E14ニワトリ脳のcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって得た。クローン12D3を、フルオロセイン-11-dUTPで標識し、これを用いて、ECL Random-Prime Labeling and Detection Systemにより、ニワトリE14脳のλZAPII(Stratagene)cDNAライブラリー(106プラーク)をスクリーニングした。クローン12D3 は、Draxin (Dorsal repulsive axon guidance protein;)と命名した。Draxinは分子量約50 KD(349アミノ酸)の分泌型タンパクである。この分子は既にAK075558(ヒト)、D930012M21(マウス)としてcDNAはクローニングされていた。Draxin(クローン12D3)の塩基配列を配列表の配列番号1に記載し、アミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。
【0090】
実施例3:ニワトリ胚でのIn situハイブリダイゼーション
(方法)
胚を冷ジエチルピロカーボネート(DEPC)処理リン酸生理緩衝液(PBS、pH7.0)で切断し、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS中で4℃で一晩固定した。鋳型は、5'-UTR (276bp) Draxin cDNAのORF (969bp)の一部である。
【0091】
切片に対するIn situハイブリダイゼーションは、Schaeren-Wiemers, N., Gerfin-Moser, A., 1993. A single protocol to detect transcripts of various types and expression levels in neural tissue and cultured cells: in situ hybridization using digoxigenin-labelled cRNA probes. Histochemistry 100, 431-440に記載の通り行った。即ち、固定後、胚を30%ショ糖を含むPBS中に浸し、Tissue-Tek OCT 化合物(Sakura Fine Technical Co., Ltd., Tokyo, Japan)中に包埋した。切片を、低温装置上で14〜20μmに切断した。切片を10μg/mlプロテナーゼK、1%Triton X-100で処理し、プレハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×クエン酸ナトリウム食塩水[SSC]、5×Denhardt's溶液、250μg/ml酵母tRNA、500μg/mlニシン精子DNA)中で室温で2時間インキュベートした。ハイブリダイゼーションは、0.4μg/ml のプローブを含むプレハイブリダイゼーション溶液を用いて72℃で一晩行った。試料を、ハイブリダイゼーション温度で0.2×SSC中で洗浄し、ブロックした。次いで、1%熱不活化ヒツジ血清(HISS)及び緩衝液B1 (0.1 M Tris-HCl [pH 7.5], 0.15 M NaCl)で1:5000に希釈したアルカリホスファターゼ(AP)結合抗DIG Fabフラグメント(Roche)を用いて、4℃で一晩免疫化学検出を行った。試料を洗浄し、シグナルは、337.5 μg/mlの p-ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)及び175μg/ml 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート(BCIP)を含むNTMT溶液(0.1 M Tris-HCl [pH 9.5], 0.1 M NaCl, 50 mM MgCl2, 0.24 mg/mlレバミソール)を用いて室温で6〜72時間検出した。スライドを一晩乾燥し、エタノール及びキシレンを用いて段階的に脱水し、マウントした。
【0092】
全マウントin situハイブリダイゼーションは、Schaeren-Wiemers, N., Gerfin-Moser, A., 1993. A single protocol to detect transcripts of various types and expression levels in neural tissue and cultured cells: in situ hybridization using digoxigenin-labelled cRNA probes. Histochemistry 100, 431-440に記載の通り行った。即ち、固定後、胚を、段階的濃度のメタノールを含むPBT(0.1%のTween 20を含むPBS)で処理し、−20℃で保管した。胚を、段階的濃度のメタノールを含むPBT中で脱水し、20μg/mlプロテナーゼKで10〜20分間処理し、再固定した。試料をプレハイブリダイゼーション溶液中で70℃で1時間前処理し、0.1μg/ml のプローブを含むプレハイブリダイゼーション溶液を用いて70℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。胚を洗浄し、ブロッキングを行い、20%HISS を含む TBST (137 mM NaCl, 2.68 mM KCl, 25 mM Tris-HCl [pH 7.5], 1% Tween-20)で1:2000に希釈した抗DIG−AP Fabフラグメント(Roche)と、4℃で一晩免疫化学的に反応させた。試料を洗浄し、337.5μg/mlのNBTと175μg/ml BCIP を含む溶液(0.1 M Tris-HCl (pH 9.5), 0.1 M NaCl, 50 mM MgCl2, 1% Tween-20, 0.48 mg/ml レバミソール)中でシグナルを検出した。
【0093】
(結果)
結果を図3に示す。in situハイブリダイゼーションによりその3日目ニワトリ胚での分布を調べたところ、脳から脊髄にかけて背側に発現され、皮筋板の背側にも発現が見られた。脊髄での発現は発生と共に腹側に発現部位が移動した。
【0094】
実施例4:COS細胞での発現、精製、免疫によるモノクローナル抗体の作成
(1)Draxinタンパク質に対するモノクローナル抗体の作成
Draxinに対するモノクローナル抗体を作成するために、pEF-Fcベクターを用いてDraxinとヒトIgGのFc部分からなるキメラタンパク質を作成した(Suda, T., Takahashi, T., Golstein, P., Nagata, S., 1993. Molecular cloning and expression of the Fas ligand, a novel member of the tumor necrosis factor family. Cell 75, 1169-1178)。免疫及び細胞融合は、Ohta, K., Nakamura, M., Hirokawa, K., Tanaka, S., Iwama, A., Suda, T., Ando, M., Tanaka, H., 1996. The receptor tyrosine kinase, Cek8, is transiently expressed on subtypes of motoneurons in the spinal cord during development. Mech. Dev. 54, 59-69に記載の通り行った。Draxin-Fc融合タンパク質は、COS細胞で一時的に産生させ、プロテインG-セファロースカラムを用いて約1Lの培養上清から精製した。BALB/c雌マウスをキメラタンパク質(100μgずつ)で2週間間隔で免疫した。細胞融合は、Kohler and Milstein (1975)の標準法で行った。
【0095】
(2)Draxin-myc/Hisの精製
Draxin-Fc融合タンパク質は、精製工程中に不活化した。そこで、FreeStyle 293 Expression System (Invitrogen)を用いてmyc/HisのタグがついたDraxinを一過性に発現する293細胞株を作成し、Draxinを、293−Draxin-Hisの約1-200 mLの培養上清からProBondTM Purificataion System (Invitrogen)を用いて精製した。
【0096】
実施例5:免疫組織化学
(1)免疫組織化学
(方法)
ニワトリ胚を4%PFA/PBSで4℃で2時間固定し、30%ショ糖/PBSに4℃で浸し、O.C.T.化合物で包埋し、−80℃で凍結した。14μm厚の切片を低温装置上で切断し、ゼラチン被覆したガラススライド上にマウントした。5%熱不活化ヤギ血清/PBSで室温で1時間ブロッキングした後、切片を抗Draxin溶液(ブロッキング溶液中10μg/ml)、抗ニワトリTAG-1又はIslet-1ハイブリドーマ上清(DSHB:Developmental studies hybridoma bankから入手)と一緒に室温で1時間インキュベートし、PBSで洗浄し、抗マウスIgG-Cy3(ブロッキング溶液中に1:500、Jackson IR)と一緒に室温で1時間インキュベートした。
【0097】
(結果)
結果を図4に示す。図4に示す通り、免疫組織化学で組織内の分布を調べると、脊髄全体が薄く、背側の基底膜が強く染色され、分泌されたDraxinは拡散しやすいタンパクであることが分かった。
【0098】
(2)ウエスタンブロッティング
(方法)
COS-7細胞の培養上清をトランスフェクションの48時間後に回収し、4倍に濃縮した。等量の2×ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)試料緩衝液[20% グリセロール, 250 mM Tris (pH 6.8), 4% SDS, 10% 2-メルカプトエタノール]を上清と混合した。SDS-PAGE用の試料を10分間煮沸した後にゲルのレーンに載せた。電気泳動後、試料を250mAで30分間PVDF膜(Millipore)に電気泳動により転写した。得られたタンパク質ブロットを2%スキムミルクを含むPBSでブロッキングし、抗mycモノクローナル抗体(9E10; DSHB)で室温で1時間インキュベートした。ブロットを洗浄し、フィルター上に残っている免疫複合体を、ウサギ抗マウスIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗体(1:2000に希釈; Southern Biotechnology Associates Inc.)を用い、さらにECLとウエスタンブロッティング検出試薬(Amersham)で処理することにより可視化した。
【0099】
(結果)
結果を図5に示す。図5に示すイムノブロットからDraxinタンパクは培養液中に分泌されることが判明した。
【0100】
実施例6:Draxin発現COS細胞と、脊髄組織片との共培養実験
(方法)
Draxin cDNAをpMES-IRES-GFPベクター(Clontech)に挿入した。COS-7細胞を10%ウシ胎児血清(FCS)と50μg/mlゲンタマイシン(ともにSigma)を補充したDulbecco改変Eagle培地で維持した。細胞は、トランスフェクションの12〜16時間前に、6穴プレート中に2×105細胞/ウエルの密度でプレーティングした。トランスフェクションは、Lipofectamine 2000 試薬(Invitrogen)を用いて行い、取扱説明書に記載の通り3μgのプラスミドDNAを各ウエルについて使用した。DNAと一緒に24時間インキュベーションした後、トランスフェクション培地を、50μg/mlゲンタマイシンを補充した無血清Opti培地(Invitrogen)に交換した。細胞培養物をさらに24時間インキュベートし、2mlの培地を回収し、神経突起伸長分析に使用した。または、トランスフェクションしたCOS細胞を解離、洗浄し、50μlの培地に懸濁した。これを2mlの培地を含む35mmペトリ皿の蓋の反対側の上に4滴に分離し、一晩培養し、Draxinを発現するCOS細胞凝集物を形成させた。
【0101】
胸の高さの脊髄を18−19期のニワトリ胚から摘出し(Hamburger, V., Hamilton, H. L., 1951. A series of normal stages in the development of the chick embryo. J. Morphol. 88, 49-92)、そのroof plate(蓋板)及び腹側半分を切り出した。背側半脊髄(DSC)を、40 mMのグルコース、2 mMのGlutamax (Gibco)、及び脊髄の背側半分に位置する交連ニューロン由来の軸索成長を増強する300 ng/mlのニワトリnetrin-1 (R & D system)を補充したコラーゲンゲル中において、Draxin-COS 又はコントロール用COS凝集物と一緒に共培養した。
【0102】
(結果)
結果を図6に示す。図6の結果から分かるように、DraxinをCOS細胞に一過性に発現させ、このCOS細胞凝集塊と脊髄背側の組織片と共培養すると、神経成長促進因子netrinによって促進される軸索成長が阻害され、反発される。一方、後根神経節のNT-3, BDNF依存性の成長は影響されない。また、精製したDraxinタンパクは0.5-10 ng/mlの濃度で同様な軸索成長阻害活性を示す。
【0103】
実施例7:(dI3脊髄介在神経細胞の移動の抑制)
(方法)
13-14期ニワトリ胚脊髄胸部神経管の管空にDraxin cDNA-pMES-IRES-GFPを注入し、電気穿孔法でcDNAを片側半の神経管に導入し、2日後に胚を摘出固定し、凍結切片を作製し、マーカーであるIslet-1/2に対する抗体で染色する。または脊髄を摘出し、ホールマウント染色をする。
【0104】
(結果)
結果を図7に示す。ニワトリ胚齢3日目(E3)ではこの細胞集団は未発達であり、E4に一斉に出現し、E5のコントロール側ではIsle-1(+)の細胞が次々と腹側に移動するが、Draxin過剰発現側ではその移動が阻害された(図7A)。隣接する切片を脊髄交連神経のマーカーである抗TAG-1抗体で染色した。TAG-1陽性の脊髄交連神経軸索の成長がDraxin過剰発現側(右側、太い矢印)で阻害された(図7B)。
【0105】
実施例8:(網膜組織片からの神経突起成長の抑制)
(方法)
ニワトリ胚齢5-6日目(E5-E6)の網膜を取り出し、小さく切断した網膜組織片をラミニンをコートした培養皿で48時間培養し、Draxin添加の有無による差異を調べた。
【0106】
(結果)
結果を図8に示す。ラミニンは網膜組織片からの神経突起成長を著しく促進したが(図8A)、Draxinはこの成長を阻害した(図8B)。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、精製したニワトリ胚運動神経細胞の神経突起成長例を示す。
【図2】図2は、脊髄交連神経成長のシェーマを示す。
【図3】図3は、Draxinについての異なる発生段階のニワトリ胚でのIn situハイブリダイゼーションの結果を示す。
【図4】図4は、Draxinタンパクの免疫組織化学の結果を示す。
【図5】図5は、Draxinタンパクのウエスタンブロットの結果を示す。
【図6】図6は、Draxin発現COS細胞または非発現コントロールCOS細胞と脊髄背側組織片との共培養実験を示す。
【図7】図7Aは、Islet-1陽性のdI3脊髄介在神経細胞の正常発生(左側、細い矢印)とDraxin過剰発現側(右側、太い矢印)での背側から腹側への移動阻害の結果を示す。図7Bは、TAG-1陽性の脊髄交連神経軸索の正常発生(左側、細い矢印)とDraxin過剰発現側(右側、太い矢印)での成長阻害の結果を示す。
【図8】図8Aは、網膜組織片からのコントロールの神経突起成長、図8BはDraxinによって神経突起成長が阻害されていることを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0108】
SEQUENCE LISTING
<110> Kumamoto University
<120> An agent for control of growth or movement of nerve cells
<130> A61023A
<160> 2
<210> 1
<211> 1923
<212> DNA
<213> chicken
<220>
<221> CDS
<222> (97)..(1146)
<223>
<400> 1
tcctcctccg cggtccgcac gcccgcaccc cggcacagcc ctgccctgct ctgcccaccg 60
gcagccgcgc acaggtgacg cagaggcccc aggatt atg gca gct tct tcc acc 114
Met Ala Ala Ser Ser Thr
1 5
ttc ttc tct ccg tct ctt ttc ctg tgt gtg ctg gtt ctt att gac atc 162
Phe Phe Ser Pro Ser Leu Phe Leu Cys Val Leu Val Leu Ile Asp Ile
10 15 20
acc ctt gcc gtc tcc ctg gac act gac atg aag ctc aaa agt gag aac 210
Thr Leu Ala Val Ser Leu Asp Thr Asp Met Lys Leu Lys Ser Glu Asn
25 30 35
aac aac cac ctt caa aac caa gag acg tgg cct cag cag ccc agg agt 258
Asn Asn His Leu Gln Asn Gln Glu Thr Trp Pro Gln Gln Pro Arg Ser
40 45 50
ggg cac cac cac aag cat ggc ttg gcc aag aaa ggg agg gtc ctt gcc 306
Gly His His His Lys His Gly Leu Ala Lys Lys Gly Arg Val Leu Ala
55 60 65 70
ctg cct gtt aga ggg cag cca gct ggg gaa gag gcc ctc cga gtg ggc 354
Leu Pro Val Arg Gly Gln Pro Ala Gly Glu Glu Ala Leu Arg Val Gly
75 80 85
agt gga gct cca gcc atg gaa gag ctg gtg cca ctt ggc cag cca gca 402
Ser Gly Ala Pro Ala Met Glu Glu Leu Val Pro Leu Gly Gln Pro Ala
90 95 100
gcg ctg aaa cag gat aag gat aag gat gtg ttc ctg ggc ttt gag ctc 450
Ala Leu Lys Gln Asp Lys Asp Lys Asp Val Phe Leu Gly Phe Glu Leu
105 110 115
cca cac gct gag cgg gag aat cag tcc cct ggg tct gag agg gga aag 498
Pro His Ala Glu Arg Glu Asn Gln Ser Pro Gly Ser Glu Arg Gly Lys
120 125 130
aag cag aac cga gag cag cga cgg cac agc cgc aga gac agg ctg aaa 546
Lys Gln Asn Arg Glu Gln Arg Arg His Ser Arg Arg Asp Arg Leu Lys
135 140 145 150
cac cac aga ggg aag act gcc gtt ggg cca agc tcc ctg tat aag aaa 594
His His Arg Gly Lys Thr Ala Val Gly Pro Ser Ser Leu Tyr Lys Lys
155 160 165
cct gaa agc ttc gag caa cag ttt caa aac ctc cag gca gag gaa gca 642
Pro Glu Ser Phe Glu Gln Gln Phe Gln Asn Leu Gln Ala Glu Glu Ala
170 175 180
acc agc ccg acc ccc acc gtg ctt ccc ttc act gca ttg gat ctg gtc 690
Thr Ser Pro Thr Pro Thr Val Leu Pro Phe Thr Ala Leu Asp Leu Val
185 190 195
gtt tcc aca gaa gag cct cct gtt ctt cca gcc acg tcg ccg cgg tca 738
Val Ser Thr Glu Glu Pro Pro Val Leu Pro Ala Thr Ser Pro Arg Ser
200 205 210
cag gcc cgc ctc agg caa gat ggg gat gtg atg ccc acc cta gat atg 786
Gln Ala Arg Leu Arg Gln Asp Gly Asp Val Met Pro Thr Leu Asp Met
215 220 225 230
gca ctc ttt gac tgg aca gat tat gag gac ctc aaa cca gaa atg tgg 834
Ala Leu Phe Asp Trp Thr Asp Tyr Glu Asp Leu Lys Pro Glu Met Trp
235 240 245
ccg tca gct aaa aag aaa gag aaa cgc cgc agt aag agc tcc aat ggt 882
Pro Ser Ala Lys Lys Lys Glu Lys Arg Arg Ser Lys Ser Ser Asn Gly
250 255 260
gga aat gaa acc tca tcg gca gaa gga gag ccg tgt gac cac cac ctt 930
Gly Asn Glu Thr Ser Ser Ala Glu Gly Glu Pro Cys Asp His His Leu
265 270 275
gac tgc ctc cca ggc tct tgc tgt gac ttg cgt gag cac ctc tgc aaa 978
Asp Cys Leu Pro Gly Ser Cys Cys Asp Leu Arg Glu His Leu Cys Lys
280 285 290
cca cac aat cga ggc ctt aac aac aaa tgc tac gat gac tgt atg tgc 1026
Pro His Asn Arg Gly Leu Asn Asn Lys Cys Tyr Asp Asp Cys Met Cys
295 300 305 310
aca gaa ggg cta cgc tgt tat gcc aaa ttc cac cgg aac cga aga gtg 1074
Thr Glu Gly Leu Arg Cys Tyr Ala Lys Phe His Arg Asn Arg Arg Val
315 320 325
acc cga agg aaa ggg cgc tgt gtg gag cct gag tcg gcc aat gga gag 1122
Thr Arg Arg Lys Gly Arg Cys Val Glu Pro Glu Ser Ala Asn Gly Glu
330 335 340
cag gga tca ttc att aat gtt tag gagggtggga ctttatctcc tgcctggatg 1176
Gln Gly Ser Phe Ile Asn Val
345
gtcagtagct ggagtcaaac cacctacacc tagcagtgag gattagagaa gaagtcaagc 1236
aaatgattga agctgcaggc caggctccaa caaaactgag gctggtgtta actctacagt 1296
ggtctcagcc ttttccatac caggactgtg ttcctcctcc cttccctcag cacgttcctg 1356
tccttgatct gggtccccct ctcccagtta gttggagatg attgtgattg ccagtctggt 1416
ggcaagatat gaaagatcct tcaggtcaag agggatagga gcttaagctt gtggggagac 1476
aaaggaggga ggcaaagatg atagcaggaa gctgcctggg tgaggaggga ccctctgaca 1536
gagctctcct tctccccttt gctcactgct acagactgat attccccagc agttacacac 1596
taccacttcc tacctgtctt ctttgagagt attcactccc actccttccc ttctctcttg 1656
ctcccataga atgacctggt ttctgcaagg atgtggcaag gcatccctgc ctgcagctct 1716
ctcgttagtt atcctgccaa gtctgttatt tttaatgatt atttttagga gctttcaggg 1776
gaagtgatag ttttcctagt gagccaaaaa caaggttttt ggtaacagga gataggggga 1836
caggctgttc cactgtagtg aatcctgtga catgttgcat gtgtgtttcc acaatgtgta 1896
aataaagcta tgatagataa aaaaaaa 1923
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<211> 349
<212> PRT
<213> chicken
<400> 2
Met Ala Ala Ser Ser Thr Phe Phe Ser Pro Ser Leu Phe Leu Cys Val
1 5 10 15
Leu Val Leu Ile Asp Ile Thr Leu Ala Val Ser Leu Asp Thr Asp Met
20 25 30
Lys Leu Lys Ser Glu Asn Asn Asn His Leu Gln Asn Gln Glu Thr Trp
35 40 45
Pro Gln Gln Pro Arg Ser Gly His His His Lys His Gly Leu Ala Lys
50 55 60
Lys Gly Arg Val Leu Ala Leu Pro Val Arg Gly Gln Pro Ala Gly Glu
65 70 75 80
Glu Ala Leu Arg Val Gly Ser Gly Ala Pro Ala Met Glu Glu Leu Val
85 90 95
Pro Leu Gly Gln Pro Ala Ala Leu Lys Gln Asp Lys Asp Lys Asp Val
100 105 110
Phe Leu Gly Phe Glu Leu Pro His Ala Glu Arg Glu Asn Gln Ser Pro
115 120 125
Gly Ser Glu Arg Gly Lys Lys Gln Asn Arg Glu Gln Arg Arg His Ser
130 135 140
Arg Arg Asp Arg Leu Lys His His Arg Gly Lys Thr Ala Val Gly Pro
145 150 155 160
Ser Ser Leu Tyr Lys Lys Pro Glu Ser Phe Glu Gln Gln Phe Gln Asn
165 170 175
Leu Gln Ala Glu Glu Ala Thr Ser Pro Thr Pro Thr Val Leu Pro Phe
180 185 190
Thr Ala Leu Asp Leu Val Val Ser Thr Glu Glu Pro Pro Val Leu Pro
195 200 205
Ala Thr Ser Pro Arg Ser Gln Ala Arg Leu Arg Gln Asp Gly Asp Val
210 215 220
Met Pro Thr Leu Asp Met Ala Leu Phe Asp Trp Thr Asp Tyr Glu Asp
225 230 235 240
Leu Lys Pro Glu Met Trp Pro Ser Ala Lys Lys Lys Glu Lys Arg Arg
245 250 255
Ser Lys Ser Ser Asn Gly Gly Asn Glu Thr Ser Ser Ala Glu Gly Glu
260 265 270
Pro Cys Asp His His Leu Asp Cys Leu Pro Gly Ser Cys Cys Asp Leu
275 280 285
Arg Glu His Leu Cys Lys Pro His Asn Arg Gly Leu Asn Asn Lys Cys
290 295 300
Tyr Asp Asp Cys Met Cys Thr Glu Gly Leu Arg Cys Tyr Ala Lys Phe
305 310 315 320
His Arg Asn Arg Arg Val Thr Arg Arg Lys Gly Arg Cys Val Glu Pro
325 330 335
Glu Ser Ala Asn Gly Glu Gln Gly Ser Phe Ile Asn Val
340 345

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチドを有効成分として含有する、神経細胞の成長又は移動の制御剤。
【請求項2】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドを有効成分として含有する、神経細胞の成長又は移動の制御剤。
【請求項3】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質を有効成分として含有する、神経細胞の成長又は移動の制御剤。
【請求項4】
神経疾患の予防及び/又は治療のために使用する、請求項1から3の何れかに記載の制御剤。
【請求項5】
活性が、脊髄背側組織片(DSC)からのnetrin依存性の神経突起成長を阻害する活性、脊髄交連神経の脊髄内での軸索成長を阻害する活性、網膜組織片からの神経突起成長を阻害する活性、又は背側脊髄介在神経のdI3神経細胞の脊髄腹側への移動を抑制する活性である、請求項3に記載の制御剤。
【請求項6】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその部分ペプチドを用いることを特徴とする、該タンパク質の活性又は発現を増大又は抑制する物質をスクリーニングする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−186443(P2007−186443A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4872(P2006−4872)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】