説明

神経細胞の維持や修復に有用な薬剤のスクリーニング方法

【課題】神経細胞の維持や修復に用いる薬剤のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】神経細胞の維持や修復に用いる薬剤の同定方法であって、グリア細胞において、候補薬剤の存在下での脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を測定する工程を含んでなる方法が提供される。この方法では、BDNFの発現が亢進された場合に、その候補薬剤が神経細胞の維持や保護に用いる薬剤として有効であると判定される。
【効果】脳虚血後の神経細胞障害保護及び修復、種々の神経変性疾患、正常眼圧緑内障等の治療に用いることが期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞の維持や修復に有用な薬剤のスクリーニング関するものであり、より具体的には、グリア細胞のひとつであるアストロサイトで脳由来神経栄養因子(Brain−derived neurotrophic factor:BDNF)の発現を亢進する薬剤で、脳虚血後または外傷後の神経細胞障害保護及び修復や正常眼圧緑内障の治療に有用な薬剤のスクリーニング法、およびその薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳虚血や外傷によって、神経細胞の障害が起こる。また、うつ病や過剰なストレスによっても、神経細胞の萎縮等障害が起こることが知られている。他にも、アルツハイマー病等の神経変性疾患で神経細胞の障害・萎縮が観察される。これら神経障害・萎縮の原因は疾患ごとに異なるが、神経細胞を構成する細かい樹状突起、軸索が退縮し、結果として神経細胞の退縮、機能障害が引き起こされる(非特許文献1)。
【0003】
神経細胞の障害や萎縮等の治療には、神経細胞を直接のターゲットとする薬剤が開発されてきた。例えば、脳卒中後の神経細胞障害はグルタミン酸神経細胞の過剰活動による興奮毒性により惹起されることから、神経細胞のグルタミン酸受容体を阻害する化学物質が多く開発された(特許文献1、2)。
【0004】
しかし、グルタミン酸神経伝達は、通常の脳内の興奮性伝達に必須であること、また記憶・学習などの脳高次機能と非常に強く関連していることから、グルタミン酸受容体を阻害する薬剤を臨床応用するには至っていない。この様に、神経細胞の活動は両刃の剣であり、その活動が過剰であっても過小であっても脳機能の障害が惹起される(非特許文献2)。
【0005】
その他、うつ病や過剰なストレスによって、神経細胞における脳由来神経栄養因子(Brain−derived neurotrophic factor:BDNF)の発現が著しく減少するという知見もある。BDNFは、神経細胞の新生、生存、成長、シナプスの機能亢進など、神経細胞の成長を調節する脳細胞の増加には不可欠な神経系の液性タンパク質である。
【0006】
しかしながら、BDNFはペプチドであるため、BDNF自体を薬剤として使用することは難しい。よって、BDNFの発現を亢進させる薬剤を摂取する方法が考えられる(特許文献3)。
【0007】
うつ病の治療に用いる抗うつ剤には、BDNFの発現を亢進する作用があることが報告されている(非特許文献3)。これまで抗うつ剤の効果は、抗うつ剤が神経細胞のセロトニントランスポーターに作用し、セロトニンの再取り込みを阻害することにより、シナプス間のモノアミン量を増やすためと考えられていた。
【0008】
しかし最近では、セロトニン系を賦活することによって神経細胞におけるBDNFの発現が誘導され、うつ病による神経萎縮が改善される効果があるとも考えられるようになっている。しかし、神経細胞の障害や萎縮に対する薬剤として使用されるまでには至っていない。
【0009】
以上のように、これまでの神経細胞をターゲットとした研究からは、神経細胞の障害の治療や保護に効果的な薬剤の開発は難しい状況にある。
一方で、神経系を構成する神経細胞以外の細胞であるグリア細胞に対しては、これまでほとんど目を向けられてこなかった。グリア細胞は、電気生理学的に不活発であり、神経細胞のような長い軸策突起も持たないので、情報の授受、伝導及び伝達には適切な細胞とは考えられず、当然のように高次脳機能の発現に直接係るとは考えられていなかった。
【0010】
グリア細胞の機能としては、神経細胞の物理的支持、栄養因子放出、老廃物除去など、神経細胞を支える裏方として働いていると考えられるに過ぎなかったのである。よって、グリア細胞を対象に、脳機能維持や修復を目的とした薬剤は、これまで全く開発されてきていない。
【0011】
しかし、最近では、グリア細胞が、神経細胞の活動をダイナミックに制御しているとして注目を集めている(非特許文献4)。高等動物の脳には、ニューロンをはるかに越えるグリア細胞が存在する。ヒトの脳においては、神経細胞の10倍もの数を占める。特に、グリア細胞で最大数を占めるアストロサイトは、神経細胞に寄り添い、シナプスを覆うように存在する。そして、ほとんどすべての神経伝達物質受容体を発現しており、各種神経伝達物質に即時的に応答する。
【0012】
また、活動依存的にグルタミン酸及びATPなどの液性伝達物質を放出する信号発信機能を有することなどから、第三のシナプスとして注目されている。以上から、グリア細胞−神経細胞間の積極的なコミュニケーションが脳機能のダイナミズムに重要であり、特にアストロサイト−神経細胞間の協力によってシナプス伝達が成り立っている可能性が強く示唆されている。
【0013】
よって、グリア細胞から神経細胞に対して、神経細胞の保護や障害の修復を促す信号を発信する薬剤を発見できれば、細胞脳機能の維持や修復に有効な治療法になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−265359号公報
【特許文献2】国際公開WO96/25927号公報
【特許文献3】特開2009−84271号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Buckner RL. Memory AND executive function in aging AND AD: multiple factors that cause decline AND reverse factors that compensate. Neuron, 2004, 44: 195−208.
【非特許文献2】Mattson, MP. Excitatory amino acids, growth factors, and calcium: a teeter−tooter model FOR neural plasticity AND degeneration. Adv. Exp. Med. Biol., 1990, 268: 211−220.
【非特許文献3】Santarelli, L. et al. Requirement of Hippocampal Neurogenesis FOR the Behavioral Effects of Antidepressants. Science, 2003, 301: 805−809.
【非特許文献4】Haydon PG. GLIA. Listening AND talking to the synapse. Nature Rev Neurosci., 2001, 2:185−193.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
脳機能の維持や修復を可能とするため、神経細胞の保護や障害に対する治療に有効な薬剤をスクリーニングする方法、およびその薬剤を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、これまで軽視されてきたグリア細胞に着目し、グリア細胞においてもBDNFが発現するかを検討し、グリア細胞においてもBDNF発現することを発見した。さらに、抗うつ剤によってグリア細胞におけるBDNFの発現が亢進することも見出した。
【0018】
本発明はこれらの知見にもとづくものである。
【0019】
請求項1に記載の発明は、脳細胞の維持及び/又は修復する薬剤の同定方法であって、
前記脳細胞を構成するグリア細胞において、候補薬剤の存在下におけるBDNFの発現を測定し、前記候補薬剤により前記BDNFの発現が亢進された場合に、前記候補薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする。
【0020】
前述の通り、BDNFは、神経細胞の新生、生存、成長、シナプスの機能亢進など、神経細胞の成長を調節する脳細胞の増加には不可欠な神経系の液性タンパク質であり、神経細胞よりも10倍多く存在するグリア細胞でBDNFの発現量が増加すれば、脳細胞の維持や修復に有効な薬剤と考えることができる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の同定方法であって、前記BDNFのmRNA及び/又はタンパク質の発現が亢進された場合に、前記候補薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする。BDNFの発現の亢進は、mRNA及び/又はタンパク質の量を測定することで判定できる。
【0022】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の同定方法であって、前記グリア細胞がアストロサイトであることを特徴とする。アストロサイトは、グリア細胞の中で最も数が多く、また炎症・障害時の細胞応答や神経伝達物質の除去・イオン恒常性保持など、多岐にわたる役割を有している。さらに、アストロサイトはほとんどすべての神経伝達物質受容体を発現しており、各種神経伝達物質に即時的に応答すること、また種々の細胞外液性因子を放出することが知られているため、アストロサイトを用いることとした。
【0023】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の発明であって、候補薬剤の存在下における前記グリア細胞のBDNFの発現の亢進割合と、ATP分解酵素と候補薬剤の存在下における前記グリア細胞のBDNFの発現の亢進割合とを比較し、前記ATP分解酵素存在下の方が、BDNFの発現が有意に抑えられている場合に、前記薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする。
【0024】
ATPは、アストロサイトから放出され、情報伝達物質として働くことが報告されている。さらに、このATPがアストロサイトを含む他のグリア細胞や神経細胞との積極的な情報交換に重要であることが知られている。
【0025】
発明者は、BDNFの発現の亢進においても、このATPが係っていること、より具体的には、ATPシグナル経路の活性化によりBDNFの発現が亢進することを発見した。ATP生合成の亢進又はATPの分解の抑制がおこると、アストロサイトの細胞膜上に発現しているATP受容体のP2Y1受容体に結合するATPが増加するため、細胞内に伝達されるシグナルが増強され、BDNFの発現が亢進される。
【0026】
請求項5の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の発明であって、候補薬剤の存在下における前記グリア細胞のBDNFの発現の亢進割合と、ATP受容体であるP2Y1受容体特異的阻害剤と候補薬剤の存在下における前記グリア細胞のBDNFの発現の亢進割合を比較し、前記P2Y1受容体特異的阻害剤存在下の方が、BDNFの発現が有意に抑えられている場合に、前記薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする。
【0027】
請求項6の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の発明であって、前記グリア細胞を候補薬剤存在下で培養し、培地内のATP濃度が上昇している場合に、前記候補薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、グリア細胞をターゲットして、グリア細胞におけるBDNFの発現を亢進させ、ATPシグナル経路を賦活する薬剤は、神経細胞の障害を治療および保護し、脳機能を修復及び維持することを目的とした薬剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例において、種々の抗うつ剤によって、アストロサイトにおけるBDNFのmRNAの発現が亢進することを示したグラフである。
【図2】実施例において、抗うつ剤fluoxetineが、アストロサイトにおけるBDNFのmRNAの発現を濃度依存的に亢進させることを示したグラフが図2(a)であり、刺激時間によるBDNFの発現量の変化を示したのが図2(b)である。
【図3】実施例において、抗うつ剤fluoxetineが、アストロサイトにおけるBDNFのタンパク質の発現を濃度依存的に亢進させることを示したグラフである。
【図4】実施例において、アストロサイトでのBDNFの発現の亢進が、セロトニン経路を介したものではないことを示したグラフである。
【図5】実施例において、抗うつ剤fluoxetineによるBDNFの発現の亢進は、ATPシグナル経路の賦活を介すことを示したのが図5である。図5(a)は、アストロサイトがATP刺激によってBDNFの発現を亢進することを示している。図5(b)は、抗うつ剤fluoxetineによるBDNFのmRNAの発現の亢進は、P2Y1受容体を介することを示したグラフである。MRS2179は、P2Y1受容体の特異的阻害剤である。図5(c)は、抗うつ剤fluoxetineが、アストロサイトに存在する細胞外ATP分解酵素を阻害する効果があることを示したグラフである。図5(d)は、ATP分解酵素の存在下では、抗うつ剤fluoxetineによるBDNF発現亢進効果が抑えられることを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のスクリーニングに用いる細胞は、グリア細胞の中でも、最も数が多く、神経細胞とのコミュニケーションに非常に重要と考えられるアストロサイトを用いる。アストロサイトにおけるBDNFの発現亢進を検討するためには、培養細胞を用いるのが簡便であり適当である。初代培養を用いても、細胞株を用いてもよい。種についても、ラット、マウス、ヒト他、様々な種の細胞を用いることが可能である。
【0031】
アストロサイトにおけるBDNFのmRNA発現量の検討には、定量的RT−PCRを、タンパク質発現量の検討には、Western blottingを用いているが、この限りではない。
【0032】
アストロサイトにおけるATPシグナル経路の活性化の検討は、(a)ATPの受容体であるP2Y1受容体の阻害物質と候補薬剤とを一緒にアストロサイト作用させて、BDNFの発現量を測定し、BDNFの発現量が抑えられていれば、候補薬剤にはATP経路を活性化する効果があると判断する方法、(b)候補薬剤下でアストロサイトを培養し、ATPの量を測定して、候補薬剤下でATP量が増加していれば、ATPシグナル経路を活性化する効果があると判断する方法、(c)候補薬剤とATP分解酵素とを同時にアストロサイトに作用させてBDNF発現量を測定し、候補薬剤のみを作用させたときよりもBDNFの発現量が抑えられていれば、候補薬剤にはATPシグナル経路を活性化する効果があると判断する方法、などが考えられる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例]
種々の抗うつ剤を候補薬剤とし、アストロサイトにおけるBDNFの発現の亢進する物質、及びATPシグナル経路の活性化を誘導する物質を探索する。
【0035】
検討に用いた細胞は、Wister 系ラット生後 1 日齢の海馬からアストロサイトを摘出し12日間培養した後、6ウェルプレートに播種したものを用いた。
【0036】
<アストロサイトにおいて、BDNFの発現を亢進する抗うつ剤のスクリーニング>
前述の初代培養細胞を、抗うつ薬 (fluoxetine、paroxetine、imipramin、milnacipran) で刺激し、mRNAの値を調べた。mRNAのは、定量的RT−PCRにて測定を行った。方法としては、まず、Total RNA をRNeasy Mini Kit (Qiagen)等用いて抽出した。PCR反応には Perfect Realtime RT―PCR Kit (Takara) を用い、 PCRの機械は、ABI PRISM 7500 (Applied Biosystems) を使用した。
【0037】
その結果、fluoxetineは30μMで刺激して12時間後の値がBDNFの発現を最も高かった。paroxetine、imipramin、milnacipranでは、すべて10μMで刺激を行い、刺激後3時間の値が最も高かったが、imipraminでは有意差が認められなかった。この結果を図1に示す。
【0038】
<fluoxetineによるBDNFのmRNAの発現量の変化>
スクリーニングによってBDNFのmRNAの発現が最も亢進されたfluoxetineの詳細な検討を行った。アストロサイトをfluoxetineで、1、3、10、30、100μMの濃度で12時間刺激したところ、図2Aに示すとおり、濃度依存的に海馬アストロサイトのBDNFのmRNAの発現を増加させた。10μMから有意差が検出され、BDNFのmRNAの発現が最も亢進されたのは、30μMで刺激を行ったときであった。
【0039】
また、経時的なBDNFmRNA発現量の変化についても検討した。この結果を図2Bに示す。図2Aの結果から、30μMで刺激を行い、1,3,6,12,24時間後のBDNFのmRNAの発現量の検討を行った。その結果、刺激後12時間のものがBDNFの発現量が最も亢進された。
【0040】
<アストロサイトにおけるBDNFのタンパク質量の変化>
次に、BDNFのタンパク質量についても検討を行った。タンパク質量の測定には、Western blottingを用いた。回収した試料を10%ゲルで SDS−PAGE後、ウェット法によりPVDF 膜に転写し、ブロッキング処理後、1次抗体 (anti BDNF: Santa cruz), (anti phospho―CREB: Cell Signaling) および2次抗体と反応させ、Super SIGNAL West Femto (Pierce) 化学発光反応による発光をLAS―1000 (Lumino image analyzer, FUJIFILM) を用いて撮影した。刺激したFluoxetineの濃度は30μM、刺激時間は12時間及び24時間である。この結果を図3に示す。24時間後において最も発現量が高かった。
【0041】
<セロトニン経路の賦活作用の検討>
神経細胞におけるBDNFの発現亢進については、セロトニン経路の賦活によることが先行研究により示唆されていたため、アストロサイトにおいてもセロトニン経路の賦活がBDNFの発現の亢進をもたらすか検討した。その結果を図4に示す。アストロサイトをセロトニン(5−HT)0.1、1、10μMで3時間および6時間刺激し、BDNFのmRNAの発現量の変化をみた。その結果、BDNFの発現量に有意な上昇は見られなかった。よって、fluoxetineによるBDNFの発現の亢進は、セロトニン経路を介さないことが示された。
【0042】
<ATPシグナル経路賦活作用の検討>
ATPシグナル経路の賦活により、アストロサイトでのBDNFの発現が亢進されることを図5(a)に示す。アストロサイトをATP100μMで3時間刺激した結果、グリア細胞内のBDNFのmRNAの値が有意に上昇している。
【0043】
次に、fluoxetineによるBDNFの発現の亢進が、ATPシグナル経路の賦活によるものかを検討した。方法は、細胞外ATP受容体であるP2Y1受容体の特異的阻害剤MRS2179を用い、ATPによるシグナルがアストロサイト内に送られるのを抑制した状態で、Fluoxetineの刺激によるBDNFのmRNAの発現量の変化をみた。その結果を図5(b)に示す。MRS2179の濃度依存的に、BDNFのmRNAの発現が抑えられていることが示されている。具体的には、10μMのMRS2179は、fluoxetine単独時のBDNFを23%にまで抑制する。
【0044】
また、fluoxetineの存在下では、fluoxetineの濃度依存的に、細胞外のATPの分解が抑制されることを図5(c)に示す。fluoxetineには、細胞外ATP分解酵素阻害効果があると考えられる。
【0045】
さらに、ATP分解酵素apyrase(20U/ml)の存在下では、fluoxetineのBDNF発現亢進作用が抑制されることを図5(d)に示す。
以上から、fluoxetineは、グリア細胞のATPシグナル経路を賦活することにより、BDNFの発現を亢進していると考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳細胞の維持及び/又は修復する薬剤の同定方法であって、前記脳細胞を構成するグリア細胞において、候補薬剤の存在下におけるBDNFの発現を測定し、前記候補薬剤により前記BDNFの発現が亢進された場合に、前記候補薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする薬剤の同定方法。
【請求項2】
前記BDNFのmRNA及び/又はタンパク質の発現が亢進された場合に、前記候補薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする、請求項1に記載の薬剤の同定方法。
【請求項3】
前記グリア細胞がアストロサイトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬剤の同定方法。
【請求項4】
候補薬剤の存在下における前記グリア細胞のBDNFの発現の亢進割合と、ATP分解酵素と候補薬剤の存在下における前記グリア細胞のBDNFの発現の亢進割合とを比較し、前記ATP分解酵素存在下の方が、BDNFの発現が有意に抑えられている場合に、前記薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の薬剤の同定方法。
【請求項5】
候補薬剤の存在下における前記グリア細胞のBDNFの発現の亢進割合と、ATP受容体であるP2Y1特異的阻害剤と候補薬剤の存在下における前記グリア細胞のBDNFの発現の亢進割合を比較し、前記P2Y1特異的阻害剤存在下の方が、BDNFの発現が有意に抑えられている場合に、前記薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の薬剤の同定方法。
【請求項6】
前記グリア細胞を候補薬剤存在下で培養し、培地内のATP濃度が上昇している場合に、前記候補薬剤を脳細胞の維持及び/又は修復に有効な薬剤として同定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の薬剤の同定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−36131(P2011−36131A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183294(P2009−183294)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月6日 社団法人日本薬理学会発行の「Journal of Pharmacological Sciences(Volume 109 Supplement 1 2009)」に発表
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】