説明

神経細胞分化誘導剤

本発明は、神経疾患、特にアルツハイマー病、パーキンソン病、末梢神経障害又は脊髄損傷を治療するために有用な薬剤である、シノビオリンの発現阻害物質を含む神経細胞分化誘導剤を提供する。シノビオリンの発現抑制物質としては、例えばシノビオリンをコードする遺伝子(配列番号1又は2)に対するsiRNA若しくはshRNA、シノビオリン遺伝子のプロモーターの転写因子と結合してプロモーター活性を阻害するデコイ核酸又はシノビオリンをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。本発明の神経細胞分化誘導剤は、アルツハイマー病、パーキンソン病、末梢神経障害又は脊髄損傷などの神経系疾患を治療するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、シノビオリンの発現阻害物質を含む神経細胞分化誘導剤に関する。
【背景技術】
シノビオリンは、リウマチ患者由来滑膜細胞に存在する膜タンパク質として発見されたタンパク質である(WO02/05207)。遺伝子改変動物を用いた研究により、骨・関節の発生および関節症の発症に同因子が直接関与することが明らかとなったことから、シノビオリンは正常な骨形成又は四肢の発達に貢献するタンパク質であると考えられる。
また、シノビオリン(Synoviolin)は小胞体関連タンパク質分解(ERAD)に関与するユビキチンリガーゼである。近年、家族性アルツハイマー病、パーキンソン病等の神経変性疾患の原因遺伝子がERADに関与することが明らかにされた(Nakagawa T,Zhu H,Morishima N,Li E,Xu J,Yankner BA,Yuan J.Caspase−12 mediates endoplasmic−reticulum−specific apoptosis and cytotoxicity by amyloid−beta.Nature.2000 Jan 6;403(6765):98−103.)。
アルツハイマー病は、高齢化が進む現代において高い関心が払われている疾患の一つである。その最も重要な特徴は、脳に老人斑、すなわち繊維状のβ−アミロイドタンパク質(Aβ)の沈着が観察されることである。
しかし、シノビオリンの神経変性疾患への関連は、まだ明らかではない。
【発明の開示】
本発明は、神経疾患、特にアルツハイマー病又はパーキンソン病、末梢神経障害、脊髄損傷を治療するために有用な薬剤を提供することを目的とする。本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行なった結果、シノビオリンの発現を抑制すると、神経細胞が分化誘導されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)シノビオリンの発現阻害物質を含む神経細胞分化誘導剤。
シノビオリンの発現抑制物質としては、例えばシノビオリンをコードする遺伝子(配列番号1又は2)に対するsiRNA若しくはshRNA、シノビオリン遺伝子のプロモーター活性を阻害するデコイ核酸又はシノビオリンをコードする遺伝子(配列番号1又は2)に対するアンチセシスオリゴヌクレオチドが挙げられる。
siRNAは、配列番号1に示す塩基配列のうち一部の配列(例えば配列番号3に示す配列)、あるいは配列番号2に示す塩基配列のうち一部の配列(例えば配列番号4に示す配列)を標的とすることができる。
デコイ核酸としては、例えば、以下の(a)又は(b)に示すデコイ核酸が挙げられる。
(a)配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるデコイ核酸
(b)配列番号6若しくは7に示される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ、シノビオリン遺伝子のプロモーター活性を阻害する機能を有するデコイ核酸
また、デコイ核酸は、以下の(a)又は(b)に示すデコイ核酸でもよい。
(a)配列番号6及び7に示される塩基配列からなるデコイ核酸
(b)配列番号6及び7に示される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ、シノビオリン遺伝子のプロモーター活性を阻害する機能を有するデコイ核酸
上記デコイ核酸は、シノビオリン遺伝子のプロモーター活性を阻害することによりシノビオリンの発現を阻害するものである。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1又は配列番号2に示す塩基配列のうち一部の配列を標的とすることができる。
本発明の神経細胞分化誘導剤は、アルツハイマー病、パーキンソン病、末梢神経障害又は脊髄損傷などの神経系疾患を治療するために使用される。
(2)シノビオリンの発現を抑制することを特徴とする、神経細胞の分化を誘導する方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、シノビオリンの発現をsiRNAで阻害することにより、神経細胞分化が誘導されたことを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、シノビオリンの神経変性疾患への関連を明らかにすることを目的とし、まず神経細胞におけるシノビオリンの機能解析を行った。その結果、シノビオリンの発現を阻害すると、神経細胞におけるによる細胞分化が誘導されることを見出した。
<神経細胞の分化>
神経細胞の分化とは、ある種の細胞が神経細胞への形態変化をすること、及び神経細胞として機能し得るようになるまで分化することのいずれか又は両者を意味する。ある種の細胞が、神経細胞様の形態変化及び/又は機能変化を示したときに、神経細胞の分化が誘導されたと判断する。神経細胞の由来又は種類等は特に限定されるものではなく、ヒト由来の細胞(ヒト患者由来細胞、健常人由来細胞)でも、ラットやマウス由来の細胞であってもよい。また、細胞の種類としては、例えば未分化神経細胞、幹細胞、株化細胞等が挙げられる。幹細胞は、exvivoで神経細胞に分化させてこれを移植することで、神経系疾患の治療(再生医療)などに使用することができる。株化細胞としては、例えばラットPC−12細胞、マウスNeuro2a細胞、ヒトNB−1細胞などが挙げられる。
<シノビオリンの発現阻害>
また、シノビオリンの発現阻害についても、その手法は特に限定されるものではなく、例えばRNA干渉(RNA interference:RNAi)、デコイ核酸又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを利用することができる。
1.RNA干渉
シノビオリン遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを細胞内に導入させることによって、RNAiを引き起こすことができる。
RNAiとは、dsRNA(double−strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを細胞内に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
siRNAの設計は、例えば、以下の通り行なうことができる。
(a)シノビオリンをコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。例えば、ヒトの場合では、GenBank Accession number AB024690(配列番号1)の任意の領域を候補にすることができ、マウスの場合ではAccession number NM_028769(配列番号2)の任意の領域を候補にすることができる。
(b)選択した領域から、AAで始まる配列を選択し、その配列の長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。その配列のGC含量は、例えば40〜70%となるものを選択するとよい。具体的には、配列番号1又は2に示される塩基配列のうち、以下の塩基配列を含むDNAをsiRNAの標的配列として使用することができる。

シノビオリンsiRNA1は、配列番号1に示される塩基配列のうち640〜658番目の領域を標的とした配列である。また、シノビオリンsiRNA2は、配列番号2に示される塩基配列のうち1373〜1391番目の領域を標的とした配列である。
siRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本のRNAをアニールする方法などを採用することができる。
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNAとは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるシノビオリン遺伝子(配列番号1又は2)の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。
2.デコイ核酸
本発明のデコイ核酸は、転写因子の結合部位を含む短い『おとり核酸』を意味する。この核酸を細胞内に導入すると、転写因子がこの核酸に結合することにより、転写因子の本来のゲノム結合部位への結合が競合的に阻害され、その結果、その転写因子の発現が抑制されるような機能を有する。代表的には、デコイ核酸は核酸又はその類似体であり、転写因子に結合しうる核酸を少なくとも一つ含む。
本発明の好ましいデコイ核酸の例は、例えば、シノビオリンプロモーター中の構成的発現を担うEts結合部位であるEBSに結合する転写因子と結合し得る核酸、プロモーターの転写因子結合部位であるABS(AML binding site)に結合する転写因子と結合し得る核酸、プロモーターの転写因子結合部位であるSBS(Sp1 binding site)に結合する転写因子と結合し得る核酸、これらの相補体を含むオリゴヌクレオチド、これらの変異体、又はこれらを分子内に含む核酸などが挙げられる。デコイ核酸は、上記EBS、ABS又はSBSの配列をもとに、1本鎖、又はその相補鎖を含む2本鎖として設計することができる。長さは特に限定されるものではなく、15〜60塩基、好ましくは20〜30塩基である。
本発明においては、例えばEBSに結合する転写因子と結合し得る核酸(配列番号6)及び/又はその相補鎖(配列番号7)をデコイ核酸として好ましく使用することができる。
核酸は、DNAでもRNAでもよく、またはその核酸内に修飾された核酸及び/又は擬核酸を含んでいてもよい。またこれらの核酸、その変異体、又はこれらを分子内に含む核酸は、1本鎖又は2本鎖であってもよく、また環状でも線状でもよい。変異体とは、上記デコイ核酸配列の1又は数個(例えば1個〜10個、1個〜5個又は1個〜2個等)の塩基が、欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、かつ、シノビオリン遺伝子のプロモーター活性を阻害する機能、すなわち、転写因子と結合する機能を有する核酸をいう。上記塩基配列を1つ又はそれ以上含む核酸であってもよい。
本発明で用いられるデコイ核酸は、当業界で公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、遺伝子組換え技術として一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。また、鋳型となる塩基配列を単離又は合成した後に、PCR法又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を使用することもできる。さらに、これらの方法により得られた核酸を、制限酵素等を用いて切断し、DNAリガーゼを用いて結合することにより所望の核酸を製造してもよい。さらに、細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、塩基等にアルキル化、アシル化等の化学修飾を付加することができる。デコイ核酸の変異体の作製方法は、当業界で公知の方法を用いて、たとえば、部位特異的突然変異誘発法等によって合成することもできる。部位特異的突然変異誘発法は当分野において周知であり、市販のキット、例えばGeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Mutan−K、Mutan−Super Express Km等(タカラバイオ社製))を使用することができる。
デコイ核酸を使用した場合のプロモーターの転写活性の解析は、一般的に行なわれるルシフェラーゼアッセイ、ゲルシフトアッセイ、CATアッセイ等を採用することができる。これらのアッセイを行なうためのキットも市販されている(例えばpromega dual luciferase assay kit)。
例えばルシフェラーゼアッセイの場合は、目的遺伝子の転写開始点の上流にレポーターとしてホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結する。また、アッセイの対象となる細胞間の導入効率を補正するために、サイトメガロウイルス(CMV)βガラクトシダーゼ(β−gal)遺伝子をレポーターとしてプロモーターの下流につないだベクターを細胞に同時に導入してもよい。細胞への導入は、例えばリン酸カルシウム法等を採用することができる。ベクターを導入した細胞は所定時間培養した後に回収し、凍結−融解等によって細胞を破壊した後、一定量の細胞抽出液を用いてルシフェラーゼ及びβガラクトシダーゼ活性を測定する。
3.アンチセンスオリゴヌクレオチド
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドとは、シオビオリン遺伝子をコードする塩基配列に相補的な配列を有するヌクレオチドをいう。このアンチセンスオリゴヌクレオチドが、シノビオリン遺伝子をコードする塩基配列の全部又は一部とハイブリッドを形成すると、シノビオリン遺伝子の発現を阻害し、シノビオリンタンパク質の合成を効率よく阻害することができる。また、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、本発明のシノビオリン遺伝子のRNA又は本発明のシノビオリン関連RNAの全部又は一部とハイブリダイズすると、上記のRNAの合成又は機能が阻害されるか、あるいは本発明のシノビオリン関連RNAとの相互作用を介して本発明のシノビオリン遺伝子の発現が調節・制御されうる。
本発明の好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドの例は、例えば、本発明のシノビオリン遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域、および3’端ヘアピンループなどの配列に対して相補的な配列が挙げられるが、シノビオリン遺伝子内のいかなる領域も対象領域として選択しうる。具体的には、(イ)翻訳阻害を指向したアンチセンスオリゴヌクレオチドの場合は、本発明のシノビオリンのN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)と相補的な配列が好ましく、(ロ)RNaseHによるRNA分解を指向するアンチセンスオリゴヌクレオチドの場合は、イントロンを含む本発明のシノビオリン遺伝子をコードする塩基配列に相補的な配列が好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、上記の配列をもとに、1本鎖、又はその相補鎖を含む2本鎖、さらにはDNA:RNAハイブリッドとして設計することができる。長さは特に限定されるものではなく、通常、10〜40塩基、好ましくは15〜30塩基である。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNAでもRNAでもよく、またはその核酸内に修飾された核酸及び/又は擬核酸を含んでいてもよい。またこれらの核酸、その変異体、又はこれらを分子内に含む核酸は、1本鎖又は2本鎖でもよい。変異体とは、上記の配列の1又は数個(例えば1個〜10個、1個〜5個又は1個〜2個等)の塩基が、欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、かつ、シノビオリン遺伝子の発現を阻害する機能を有するヌクレオチドをいい、アンチセンスオリゴヌクレオチド自体が、配列番号1又は2で表される塩基配列を有するDNAにハイブリダイズするものであればいずれのものでもよい。上記塩基配列を1つ又はそれ以上含むヌクレオチドであってもよい。
本発明で用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドの合成、変異導入、修飾等は、前記デコイ核酸の項で記載した内容と同様に行うことができる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドの阻害活性は、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドが導入された形質転換体、その形質転換体を用いた生体内や生体外の遺伝子発現系などを用いて調べることができる。
<本発明の医薬組成物>
本発明において作製されたshRNA又はsiRNA、デコイ核酸及びアンチセンスオリゴヌクレオチドは、シノビオリンの発現を阻害する物質であり、神経細胞の分化誘導を目的とした医薬組成物(神経系疾患の遺伝子治療剤)として使用することができる。
本発明の医薬組成物を神経系疾患の遺伝子治療剤として使用する場合は、脳(大脳、間脳、中脳、小脳)、延髄、脊髄などの中枢神経系および末梢神経を対象として適用される。
神経系疾患としては、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、末梢神経障害、脊髄損傷などが挙げられる。
上記神経系疾患は、単独であっても、併発したものであってもよい。
本発明の医薬組成物は、shRNA若しくはsiRNA、デコイ核酸又はアンチセンスオリゴヌクレオチドが患部の細胞内又は目的とする組織の細胞内に取り込まれるような形態で用いられる。
本発明の医薬組成物の投与形態は、経口、非経口投与のいずれでも可能である。経口投与の場合は、適当な剤型、例えば錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物により投与が可能である。非経口投与の場合は、経肺剤型(例えばネフライザーなどを用いたもの)、経鼻投与剤型、経皮投与剤型(例えば軟膏、クリーム剤)、注射剤型等が挙げられる。注射剤型の場合は、例えば点滴等の静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等により全身又は局部的に直接的又は間接的に患部に投与することができる。
本発明の医薬組成物を遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の医薬組成物を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。本発明の医薬組成物を目的の組織又は器官に導入するために、市販の遺伝子導入キット(例えばアデノエクスプレス:クローンテック社)を用いることもできる。
また、本発明の医薬組成物をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。本発明の医薬組成物を保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内、動脈内等から全身投与する。脳等に局所投与することもできる。リポソーム構造を形成するための脂質としては、リン脂質、コレステロール類や窒素脂質等が用いられるが、一般に、リン脂質が好適であり、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを定法に従って水素添加したものが挙げられる。また、ジセチルホスフェート、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン等の合成リン脂質を用いることができる。
リポソームの製造方法は、siRNA若しくはshRNA、デコイ核酸又はアンチセンスオリゴヌクレオチドが保持されるものであれば特に限定されるものではなく、慣用の方法、例えば、逆相蒸発法(Szoka、Fら、Biochim.Biophys.Acta、Vol.601 559(1980))、エーテル注入法(Deamer、D.W.:Ann.N.Y.Acad.Sci.,Vol.308 250(1978))、界面活性剤法(Brunner,Jら:Biochim.Biophys.Acta,Vol.455 322(1976))等を用いて製造できる。
これらのリン脂質を含む脂質類は単独で用いることができるが,2種以上を併用することも可能である。このとき、エタノールアミンやコリン等の陽性基をもつ原子団を分子内に有するものを用いることにより、電気的に陰性のデコイ核酸の結合率を増加させることもできる。これらリポソーム形成時の主要リン脂質の他に一般にリポソーム形成用添加剤として知られるコレステロール類、ステアリルアミン、α−トコフェロール等の添加剤を用いることもできる。このようにして得られるリポソームには、患部の細胞又は目的とする組織の細胞内への取り込みを促進するために、膜融合促進物質、例えば、センダイウイルス、不活化センダイウイルス、センダウイルスから精製された膜融合促進タンパク質、ポリエチレングルコール等を添加することができる。
本発明の医薬組成物は、常法にしたがって製剤化することができ、医薬的に許容されるキャリアーを含むものであってもよい。このようなキャリアーは添加物であってもよく、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
上記添加物は、本発明の治療剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれる。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製されたデコイ核酸を溶剤(例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等)に溶解し、これにTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥用賦形剤としては、例えば以下のものが挙げられる。すなわち、マンニトール、ブドウ糖、ラクトース等の糖類、トウモロコシ、コムギ、その他の植物由来のデンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース、アラビアゴム、トラガカントゴム等のゴム、ゼラチン、コラーゲン等である。所望により、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)等の崩壊剤又は可溶化剤を使用することができる。
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なる。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択する。有効投与量は、疾患の徴候又は状態を軽減するsiRNA若しくはshRNA、デコイ核酸又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの量である。例えば、デコイ核酸では、治療効果及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順、例えばED50(集団の50%において治療的に有効な用量)、あるいはLD50(集団の50%に対して致死的である用量)によって決定され得る。
治療効果と毒性効果との間の用量比は治療係数であり、ED50/LD50として表され得る。本発明の医薬組成物の投与量は、例えば1回につき体重1kgあたり0.1μg〜100mg、好ましくは1〜10μgである。但し、上記治療剤はこれらの投与量に制限されるものではない。例えば、アデノウイルスを投与する場合の投与量は、1日1回あたり10〜1013個程度であり、1週〜8週間隔で投与される。但し、本発明の医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
siRNAを用いた神経細胞の分化誘導試験
<材料及び方法>
本実施例は、マウス神経芽細胞腫由来Neuro2a細胞を使用した。なお、Neuro2a細胞は、血清除去、薬剤添加により軸索を伸長し、分化能を有する細胞である。Neuro2a細胞はDoulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)に10%Fetal Calf Serum(FCS)、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した培地を使用し、37℃、5%COインキュベーターで培養した。Neuro2a細胞を播種し(4×10cells/60mm dish)、24時間培養した。シノビオリンをコードする遺伝子(配列番号1又は2)に対するshort interfering RNA(siRNA)2種類、およびコントロールとしてGreen Fluorescent Protein(GFP)遺伝子に対するsiRNAをOligofectamineTMReagent(Invitrogen社)を用いてトランスフェクションした。
siRNAは終濃度100nMとしOligofectamineTMReagentは8μL使用した。トランスフェクション時は、無血清、無抗性物質の培地とし、トランスフェクションより4時間後、10%FCSを加え培養を続けた。
siRNA作製のための標的配列は以下の通りである。

<結果>
トランスフェクションより2日後、シノビオリンに対する両siRNAを導入した細胞において、軸索の伸長等の細胞の形態変化が観察された(図1)。
シノビオリンsiRNA1、シノビオリンsiRNA2をトランスフェクションした細胞(それぞれ図1パネル(A)、パネル(B))は、対照として使用したGFPに対するsiRNA(GFP siRNA)(図1パネル(C))と比較して、軸索が伸長した細胞が多いことが観察された。GFPに対するsiRNAでは変化は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明により、シノビオリンの発現抑制物質を含む神経細胞分化誘導剤が提供される。本発明の誘導剤は、アルツハイマー病、パーキンソン病、末梢神経障害又は脊髄損傷などの神経系疾患治療薬として有用である。
【配列表フリーテキスト】
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シノビオリンの発現阻害物質を含む神経細胞分化誘導剤。
【請求項2】
シノビオリンの発現阻害物質が、シノビオリンをコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAである請求項1記載の誘導剤。
【請求項3】
シノビオリンをコードする遺伝子が、配列番号1又は2に示される塩基配列を含むものである請求項2記載の誘導剤。
【請求項4】
siRNAが、配列番号1又は2に示す塩基配列のうち一部の配列を標的とするものである請求項2記載の誘導剤。
【請求項5】
一部の配列が、配列番号3又は4に示す塩基配列を有するものである請求項4記載の誘導剤。
【請求項6】
シノビオリンの発現阻害物質が、シノビオリン遺伝子のプロモーターの転写因子と結合してプロモーター活性を阻害するデコイ核酸である請求項1記載の誘導剤。
【請求項7】
デコイ核酸が、以下の(a)又は(b)に示すデコイ核酸である請求項6記載の誘導剤。
(a)配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるデコイ核酸
(b)配列番号6若しくは7に示される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ、シノビオリン遺伝子のプロモーター活性を阻害する機能を有するデコイ核酸
【請求項8】
デコイ核酸が、以下の(a)又は(b)に示すデコイ核酸である請求項6記載の誘導剤。
(a)配列番号6及び7に示される塩基配列からなるデコイ核酸
(b)配列番号6及び7に示される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ、シノビオリン遺伝子のプロモーター活性を阻害する機能を有するデコイ核酸
【請求項9】
シノビオリンの発現阻害物質が、シノビオリンをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである請求項1記載の誘導剤。
【請求項10】
シノビオリンをコードする遺伝子が配列番号1又は配列番号2に示される塩基配列を含むものである請求項9記載の誘導剤。
【請求項11】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが配列番号1又は2に示す塩基配列のうち一部の配列を標的とするものである請求項9記載の誘導剤。
【請求項12】
神経系疾患を治療するための請求項1〜11のいずれか1項に記載の誘導剤。
【請求項13】
神経系疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、末梢神経障害又は脊髄損傷である請求項12記載の誘導剤。
【請求項14】
シノビオリンの発現を阻害することを特徴とする、神経細胞の分化を誘導する方法。

【国際公開番号】WO2005/074988
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517834(P2005−517834)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002106
【国際出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(301050902)株式会社ロコモジェン (15)
【Fターム(参考)】