説明

神経障害の検出方法

本発明は、個体におけるアミロイドペプチド関連神経障害を検出する方法;および個体におけるアミロイドペプチド関連神経障害の病期分類のための方法を提供する。本方法は、海馬ニューロン、特に歯状回の顆粒細胞における、カルビンジンなどのカルシウム応答遺伝子産物のレベルを検出する段階を含む。本発明はさらに、アミロイドペプチド関連神経障害を治療する薬剤を同定すること、ならびに本方法によって同定された薬剤も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本出願は、認知障害、特にアルツハイマー病、脳アミロイドーシス、加齢中枢神経系のプロテオパシー(proteopathy)および神経変性疾患の分野にある。なお、本出願は、2003年3月24日に提出された米国仮特許出願第60/457,200号(この出願はその全体が参照として本明細書に組み入れられる)の利益を請求する。また、米国政府は、National Institutes of Healthにより授与された助成金番号AG11385、NS41787およびNS43945に拠り、本発明において一定の権利を有すると考えられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
世界中の多くの集団で平均余命が伸びているという明るい展望は、アミロイドペプチド関連神経変性疾患の驚くべき増加によって薄らいでいる。アルツハイマー病はこれらの疾患の中でも最も頻度が高いものであり、記憶およびその他の認知機能を容赦なく失わせる。ほとんどのAD症例の発症原因は未解明であるが、本疾患のいくつかの重要な特徴をトランスジェニックマウスでシミュレートし、実験的な分析および操作の対象にすることは可能である。実際、hAPPマウスは、新規なAD治療法の評価にますます用いられるようになっている。アミロイド斑はこれらの研究における主要な病理学的アウトカム指標であり続けているが、AD関連認知障害に対するその寄与については議論がある。実際、ADおよび関連トランスジェニックモデルで同定されている多くの病理学的および生化学的変化のうち、どれが神経細胞機能の低下に最も決定的に寄与するかに関してはまだ明らかになっていない。
【0003】
現在、アルツハイマー病などのアミロイドペプチド関連神経障害のマウスモデルが、この種の障害の治療に有用な薬剤(agent)を同定する目的で用いられている。ある所定の被験薬剤の有効性は、一般に、学習および記憶などの行動特性の評価およびスコア化を行うことによって判定される。このような試験の一例は水迷路試験である。このような試験は時間がかかり、幾分主観的である上に、高度のばらつきおよび曖昧さがつきまとう。
【0004】
当技術分野には、神経毒性レベルのアミロイドペプチドと関連性のある神経障害を検出する改良された方法に対する需要がある。本発明はこの需要に対処し、認知障害の治療に対する被験薬剤の有効性に関する代替的な読み取り値(read-out)を提供する。
【0005】
文献

【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、個体におけるアミロイドペプチド関連神経障害を検出する方法;および個体におけるアミロイドペプチド関連神経障害の病期分類のための方法を提供する。本方法は、海馬ニューロン、特に歯状回の顆粒細胞における、カルビンジンなどのカルシウム応答遺伝子産物のレベルを検出する段階を含む。本発明はさらに、アミロイドペプチド関連神経障害を治療する薬剤を同定すること、ならびに本方法によって同定される薬剤も提供する。
【0007】
定義
本明細書で用いる「アミロイドペプチド関連神経障害」という用語は、中枢神経系における神経毒性レベルのアミロイドペプチドの蓄積および/または中枢神経系における神経毒性アミロイドタンパク質集合体の形成に起因する、またはそれらと関連性のある任意の障害のことを指す。このような障害には、AD、パーキンソン病およびレヴィ小体病が非制限的に含まれる。この用語には、学習能力低下および記憶障害を含む、ADに随伴する認知障害が含まれる。
【0008】
本明細書で用いる「アルツハイマー病」(本明細書では「AD」と略記する)という用語は、アミロイドβタンパク質を含む神経突起斑(neuritic plaque)の形成、ならびに学習および記憶の両方の障害を伴う状態のことを指す。本明細書で用いる「AD」には、ADならびにAD型の病態および臨床症状の両方が含まれるものとする。
【0009】
「カルシウム応答遺伝子産物」および「カルシウム依存性遺伝子産物」という用語は本明細書において互換的に用いられ、そのレベルが細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+])によって変化するタンパク質および/またはmRNAのことを指す。カルシウム応答遺伝子産物には、カルシウム応答性転写調節エレメント;カルシウム結合タンパク質(例えば、カルビンジン);ニューロペプチドY(NPY);アクチニンII遺伝子産物;ホスホ-細胞外シグナル調節性キナーゼ(ホスホ-ERKまたはp-ERK)遺伝子産物;即時応答遺伝子(例えば、c-Fos);などを含む、遺伝子の産物が含まれる。
【0010】
本明細書で用いる場合、「決定すること」「測定すること」および「評価すること」および「アッセイすること」という用語は、互換的に用いられ、これには定量的および定性的な決定の両方が含まれる。
【0011】
「生物試料」には、個体から入手した、診断アッセイまたはモニタリングアッセイに用いうるさまざまな種類の試料が含まれる。この定義には、血液および生物由来のその他の液体試料、生検標本もしくは組織培養物などの固形組織試料、またはそれらに由来する細胞およびその子孫が含まれる。この定義にはまた、入手した後に、試薬による処理、可溶化、またはポリヌクレオチドなどの特定の成分の富化などの何らかの方法で操作された試料も含まれる。「生物試料」という用語には臨床試料が含まれ、培養物、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、生物性液体および組織試料も含まれる。
【0012】
抗体結合の文脈における「特異的に結合する」という用語は、特定のポリペプチド、すなわち、ポリペプチドのエピトープ、例えば、カルビンジンポリペプチドまたはc-Fosポリペプチドなどのカルシウム応答ポリペプチドのエピトープに対する、抗体の高い結合活性および/または高親和性での結合のことを指す。例えば、特定のカルビンジンポリペプチドまたはその断片上のエピトープに対する抗体の結合性は、同一抗体の任意のその他のエピトープ、特に対象となる特定のポリペプチドに付随するか同一試料中にある分子中に存在する可能性があるものとの結合よりも強く、例えば、抗体が特定のカルビンジンエピトープとほぼ独占的に結合し、任意の他のカルビンジンエピトープとも、そのエピトープを含まない任意の他のカルビンジンポリペプチド(または断片)および任意の他のポリペプチドとも結合しないように結合条件を調整することにより、特定のカルビンジンエピトープに対して異なるカルビンジンエピトープに対するよりも強く結合する。あるポリペプチドに対して特異的に結合する抗体が、他のポリペプチドと弱いながらも検出可能なレベル(例えば、対象となるポリペプチドに対して示される結合の10%またはそれ未満)で結合可能であってもよい。このような弱い結合、またはバックグラウンド結合は、例えば適切な対照を用いることにより、対象となる化合物またはポリペプチドに対する特異的抗体結合と容易に識別しうる。一般に、特異的抗体は所定のポリペプチドに対して、10-7Mまたはそれを上回る、例えば、10-8Mまたはそれを上回る(例えば、10-9M、10-10M、10-11Mなど)結合親和性で結合する。一般に、結合親和性が10−6Mまたはそれ未満である抗体は、現在用いられている通常の方法を用いた場合に抗体と検出可能なレベルで結合しないと考えられるため、有用でない。
【0013】
「対象(subject)」「宿主」「罹患動物(patient)」および「個体」という用語は、診断または治療法が望まれる任意の哺乳動物対象、特にヒトを指すために本明細書において互換的に用いられる。その他の対象には、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマなどが含まれうる。
【0014】
「治療」「治療すること」などの用語は、本発明において、哺乳動物、特にヒトにおける任意の疾患または状態のあらゆる治療のことを指すために用いられ、これには以下が含まれる:a)疾患、状態または疾患もしくは状態の症状が、その疾患に対する素因がある可能性はあるがまだそれを有するとは診断されていない対象において発生するのを予防すること;b)患者における疾患、状態または疾患もしくは状態の症状を抑制すること、例えば、その進展を停止させること、および/またはその発症もしくは発現を遅らせること;ならびに/またはc)疾患、状態または疾患もしくは状態の症状を緩和すること、例えば、状態または疾患および/またはその症状の緩解をもたらすこと。
【0015】
本発明についてさらに説明する前に、本発明が、記載された特定の態様には限定されず、それらは当然ながら変更されうることが理解される必要がある。また、本発明の範囲は添付する特許請求の範囲のみによって限定されるため、本明細書中に用いる用語は特定の態様を説明することのみを目的としていて、制限を意図したものではないことも理解される必要がある。
【0016】
ある範囲の値が示される場合、その範囲の上限と下限との間にある各値、および別の指定された値またはその指定された範囲内にある値は、その文脈で明らかに別の指示がなされない限り、下限の単位の10分の1までが本発明に含まれるものと解釈される。これらのより小さい範囲の上限および下限は別個にその範囲に含まれてもよく、それも本発明に含まれ、指定された範囲に特定の除外される限界がある場合はその対象となる。指定された範囲が一方または両方の限界を含む場合、これらの含まれる限界のいずれか一方または両方を除外した範囲も本発明に含まれる。
【0017】
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般に理解しているものと同じ意味を持つ。本発明の実施または検討のために本明細書に記載したものと同様または同等の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料は以下に説明するものである。本明細書で言及するすべての刊行物は、その刊行物の引用と関係のある方法および/または材料の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。
【0018】
本明細書および添付する特許請求の範囲において用いる場合、単数形の「1つの(a)」「1つの(an)」および「その(the)」は、その文脈で明らかに別の指示がなされない限り、複数のものに関する言及も含むことに留意されたい。したがって、例えば、「1つの顆粒細胞」に対する言及には複数のこのような細胞が含まれ、「その薬剤」に対する言及は1つまたは複数の薬剤および当業者に公知であるその等価物に関する言及を含み、その他についても同様である。
【0019】
本明細書で考察する刊行物は、本出願の提出日の以前にさかのぼってそれらの開示を提供するためにのみ提供される。本明細書中のいかなる記載も、本発明者らが先行発明によるこのような開示に先行する権利を持たないことを認めたものとみなされるべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は実際の刊行日とは異なる可能性があり、それらは個別に確認される必要があると考えられる。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、個体におけるアミロイドペプチド関連神経障害を検出する方法;および個体におけるアミロイドペプチド関連神経障害の病期分類のための方法を提供する。本方法は、個体において歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム応答遺伝子産物(例えば、カルビンジン)のレベルを検出する段階を含む。本発明はさらに、アミロイドペプチド関連神経障害を治療する薬剤を同定することを提供する。本発明はさらに、個体における歯状回の顆粒細胞でのカルビンジンなどのカルシウム応答遺伝子産物のレベルを調節(modulate)する方法を提供する。
【0021】
本発明は、海馬ニューロン、特に歯状回の細胞における低下したカルビンジンレベルおよび低下したc-Fosレベルが、認知障害、およびAβペプチド中の海馬Aβ1-42の相対的存在量と相関するという観察所見に基づく。Aβトランスジェニックマウスなどのトランスジェニック非ヒト動物が、アルツハイマー病(AD)などのアミロイドペプチド関連障害の治療に有用な薬剤を同定するために用いられている。ある所定の被験薬剤の有効性は一般に、行動特性の評価およびスコア化を行うことによって判定される。このような試験は時間がかかる上に曖昧である。さらに、多くの薬剤は、行動試験の代わりにアウトカム指標としてプラーク形成を用いて評価されている。プラーク非依存的なニューロン障害もADに決定的な役割を果たすように思われるという証拠が増えつつあるため、プラーク形成の測定では、プラーク非依存的なニューロン障害を予防または改善する可能性のある薬剤を同定し損なう可能性がある。
【0022】
アミロイド斑は、ADなどの神経障害に伴う認知障害およびその他の行動障害とは十分には相関しない。実際、アミロイドタンパク質の中には、プラークを形成せず、その代わりにプラークとしては沈着しない小さな神経毒性集合体を形成するものもある。しかし、カルビンジンのレベルは、アミロイドタンパク質のレベルおよび神経毒性活性と相関する上にプラーク非依存的な認知機能低下とも相関し、このため、アミロイドタンパク質関連神経障害に関する信頼しうるマーカーとなる。
【0023】
本発明は、認知障害の治療に対する被験薬剤の有効性に関する代替的な読み取り値(read-out)を提供する。歯状回の顆粒細胞などの海馬ニューロンにおけるカルビンジンレベルの低下は認知障害と相関しているため、これらの細胞におけるカルビンジンならびにその他のカルシウム依存性タンパク質のレベルは、行動特性に関する代用マーカーとして役立つ。カルビンジンのレベルは定量可能である。定量化により、疾患の程度に関するより正確な分析が可能となり、所定の被験薬剤の有効性の度合いに関する指標が得られる。本発明は、臨床的に意味のある障害に対する読み取り値を提供し、それによって行動試験またはプラーク定量化による薬剤の評価を上回る大きな利益を与える。
【0024】
検出方法
本発明は、個体における、または個体に由来する生物試料におけるアミロイドペプチド関連神経障害を検出する方法を提供する。本方法は一般に、個体または個体に由来する生物試料における、海馬ニューロン内でのカルシウム応答遺伝子産物のレベルを検出する段階を含む。多くの態様においては、カルシウム応答遺伝子産物のレベルを、歯状回、特に歯状回の顆粒細胞で検出する。
【0025】
本発明の方法では、さまざまなカルシウム応答遺伝子産物の任意のものを、歯状回の顆粒細胞で検出することができる。その実例となる例には、カルビンジン、α-アクチニンII、ホスホ-ERK、c-FosおよびニューロペプチドYが含まれる。当業者は、この種の方法をその他のカルシウム応答遺伝子産物に対しても直ちに適用することができる。
【0026】
いくつかの態様においては、個体の歯状回におけるカルシウム依存性遺伝子産物のレベルが歯状回におけるその遺伝子産物の正常レベルよりも低いことにより、その個体における神経障害(特にアミロイドペプチド関連神経障害)の存在が示される。アミロイドペプチド関連神経障害を有する個体の歯状回で減少しているカルシウム依存性遺伝子産物の例には、カルビンジン、p-ERK、α-アクチニンIIおよびc-Fosが含まれる。したがって、例えば、カルシウム依存性遺伝子産物(例えば、カルビンジン、p-ERK、α-アクチニンIIおよびc-Fos)のレベルが、歯状回におけるその遺伝子産物の正常レベルよりも、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%または少なくとも約80%またはそれ以上低いことにより、その個体がアミロイドペプチド関連神経障害を有することが示される。
【0027】
また別の態様においては、個体の歯状回におけるカルシウム依存性遺伝子産物のレベルが歯状回におけるその遺伝子産物の正常レベルよりも高いことにより、その個体における神経障害(特にアミロイドペプチド関連神経障害)の存在が示される。アミロイドペプチド関連神経障害を有する個体において増加しているカルシウム依存性遺伝子産物の例には、ニューロペプチドY(NPY)が含まれる。したがって、例えば、カルシウム依存性遺伝子産物のレベル(例えば、NPY)が、歯状回におけるその遺伝子産物の正常レベルよりも、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%(または2倍)、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍または少なくとも約5倍(またはそれ以上に)高いことにより、その個体がアミロイドペプチド関連神経障害を有することが示される。
【0028】
ポリペプチドレベルの検出
いくつかの態様において、本方法は、海馬ニューロン(例えば、歯状回の顆粒細胞)におけるカルシウム応答タンパク質および/またはmRNAのレベル(例えば、カルビンジンタンパク質および/またはmRNAのレベル)をインビトロで検出する段階を含む。インビトロの生物試料におけるカルシウム応答タンパク質のレベル(例えば、カルビンジンタンパク質のレベル)を検出する任意の方法を、本発明とともに用いることができる。タンパク質の適した検出方法には、タンパク質ブロット法、固相酵素免疫アッセイ、ラジオイムノアッセイおよび免疫組織化学法が非制限的に含まれる。例えば、海馬脳切片を、カルビンジンと特異的に結合する抗体であって、検出可能なように直接的または間接的に標識された抗体と接触させる。
【0029】
直接的および間接的な抗体標識は当技術分野で公知である。抗体を、放射性同位体、酵素、蛍光剤(例えば、蛍光性タンパク質または蛍光色素)、化学発光剤、または直接的検出のためのその他の標識によって標識してもよい。または、シグナルを増幅するために第2段階の抗体または試薬が用いられる。このような試薬は当技術分野で周知である。例えば、一次抗体をビオチンと結合させ、西洋ワサビペルオキシダーゼが結合したアビジンを第2段階の試薬として添加してもよい。最終的な検出には、ペルオキシダーゼの存在下で色調変化を起こす基質を用いる。または、二次抗体を蛍光性化合物、例えばフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッドなどと結合させる。抗体結合の有無は、解離させた細胞のフローサイトメトリー、顕微鏡検査、X線検査、シンチレーション計数などを含む種々の方法によって判定しうる。
【0030】
蛍光性タンパク質には、緑色蛍光性タンパク質(GFP)、例えば、オワンクラゲ(Aequoria victoria)由来のGFPまたはその誘導体、例えば、WO 99/49019号およびPeelle et al. (2001) J. Protein Chem. 20: 507-519に記載されたようなレニラ・レニフォルミス(Renilla reniformis)、レニラ・ミュレリ(Renilla mulleri)またはウミエラ(Ptilosarcus guernyi)などの別の種由来のGFP;例えば、Matz et al. (1999) Nature Biotechnol. 17: 969-973に記載されたような花虫類種由来の種々の蛍光性タンパク質および有色タンパク質のいずれか;などが非制限的に含まれる。
【0031】
酵素標識には、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼなどが非制限的に含まれる。標識が検出可能な生成物を生じる酵素である場合には、その生成物を適切な手段を用いて検出することができ、例えば、β-ガラクトシダーゼは、基質に応じて、分光光学的に検出される有色生成物、または蛍光生成物を生じうる;ルシフェラーゼは照度計を用いて検出可能な発光性生成物を生じうる;などである。
【0032】
いくつかの態様では、カルビンジンなどのカルシウム応答タンパク質のレベルを定量する。タンパク質レベルを定量する方法は当技術分野で周知である。例えば、固相酵素免疫アッセイ(ELISA)によってカルビンジンレベルの定量化が得られる。免疫染色した脳組織切片中のカルビンジンレベルは、実施例の項に述べたように、免疫染色した脳切片の免疫反応性に関する累積光学密度を決定することによって定量可能である。
【0033】
また別の態様では、カルビンジン、ニューロペプチドY(NPY)、α-アクチニンII、ホスホ-ERK(p-ERK)およびc-Fosより選択されるカルシウム依存性タンパク質のレベルを検出する。カルビンジン、ニューロペプチドY(NPY)、α-アクチニンII、ホスホ-ERK(p-ERK)およびc-Fosなどのタンパク質のレベルは、免疫学的アッセイを含む周知の方法を用いて容易に検出される。例えば、p-ERKポリペプチドのレベルは、p-ERK特異的IgG抗体、およびアルカリホスファターゼで標識されたIgG特異的抗体の使用を含む、化学発光酵素免疫測定アッセイ(TiterZyme(登録商標)CLIA;Assay Designs, Inc., Ann Arbor, MI)を用いて容易に検出される。NPY、およびNPYを検出するための方法は文献中に詳細に記載されている。例えば、Erickson et al. (1996) Nature 381:415;およびMinth et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:4577を参照されたい。α-アクチニン-IIは文献中に詳細に記載されている。例えば、Wyszynski et al. (1998) J. Neurosci. 18: 1383を参照されたい。ホスホ-ERKは文献中に詳細に記載されている。例えば、Li et al. (2001) Neurobiol. Dis. 8: 127;およびFahlman et al. (2002) Brain Res. 958: 43-51を参照されたい。
【0034】
多くの態様において、検出方法は、神経変性疾患のトランスジェニック非ヒト動物モデルからの脳試料中の歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム応答遺伝子産物、例えばカルビンジンのレベルを検出する段階を含むインビトロ検出方法である。アルツハイマー病のトランスジェニック非ヒト動物モデルは当技術分野で周知である。例えば、ADなどの神経変性疾患のさまざまな非ヒト動物モデルは、米国特許第5,767,337号;第6,046,381号;第6,175,057号;および第6,455,757号;ならびにMucke et al. (2000) J. Neurosci. 20: 4050-4058;Masliah et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 12245-12250;およびRockenstein et al. (1995) J. Biol. Chem. 270: 28257-25267などに記載されている。適した動物モデルの非制限的な例には、高レベルのhAPPを発現するhAPPトランスジェニックマウス;および、低レベルにhAPPを発現し、しかもfynキナーゼに関してもトランスジェニック性であるhAPPトランスジェニックマウスが含まれる。これらの態様では、神経変性疾患のトランスジェニック非ヒト動物モデル海馬脳試料を採取し、歯状回におけるカルシウム依存性タンパク質および/またはカルシウム依存性タンパク質をコードするmRNAのレベルを検出する。
【0035】
mRNAレベルの検出
カルシウム応答遺伝子産物がmRNA(例えば、カルビンジンmRNA、NPY mRNA、c-Fos mRNA、α-アクチニンII mRNA、p-ERK mRNAなど)である場合には、mRNAを検出するための種々の既知の方法のうち任意のものを用いることができる。一般的には、カルシウム応答性mRNA、例えば、カルビンジンmRNAと特異的にハイブリダイズする核酸が用いられる。細胞内または試料中の特定のmRNAの存在および/またはレベルに関して核酸を分析する目的には、数多くの方法を用いることができる。mRNAを直接アッセイしてもよく、または分析のためにcDNAへと逆転写させてもよい。適した方法には、インサイチュー核酸ハイブリダイゼーション法、定量的逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、核酸ブロット法などが非制限的に含まれる。
【0036】
分析のために十分な量を得るために、核酸をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの従来の技法によって増幅してもよい。mRNAを逆転写させ、その後にPCR(rtPCR)を行ってもよい。ポリメラーゼ連鎖反応はSaiki, et al. (1985), Science 239:487に記載されており、技法の概説はSambrook, et al.「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、CSH Press 1989, pp.14.2-14.33にある。
【0037】
検出可能な標識を増幅反応に含めてもよい。適した標識には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、テキサスレッド、フィコエリトリン、アロフィコシアニン、6-カルボキシフルオレセイン(6-FAM)、2',7'-ジメトキシ-4',5'-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシ-2',4',7',4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、5-カルボキシフルオレセイン(5-FAM)またはN,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)などの蛍光色素、32P、35S、Hなどの放射性標識などが含まれる。標識は、増幅されたDNAをアビジン、特異抗体などの高親和性結合パートナーを有するビオチン、ハプテンなどと結合させ、結合パートナーを検出可能な標識と結合させる二段階システムでもよい。標識をプライマーの一方または両方と結合させてもよい。または、標識が増幅産物中に組み入れられるように、増幅に用いるヌクレオチドのプールを標識する。
【0038】
核酸の存在量を決定するための方法はさまざまなものが当業者に公知であり、関心が持たれる具体的な方法には、以下に記載されたものが含まれる:Pietu et al., Genome Res.(June 1996) 6: 492-503;Zhao et al., Gene (April 24, 1995) 156: 207-213;Soares、Curr. Opin. Biotechnol.(October 1997) 8: 542-546;Raval, J. Pharmacol Toxicol Methods (November 1994) 32: 125-127;Chalifour et al, Anal. Biochem (February 1, 1994) 216: 299-304;Stolz & Tuan, Mol. Biotechnol.(December 19960 6: 225-230;Hong et al., Bioscience Reports (1982) 2: 907;およびMcGraw, Anal. Biochem.(1984) 143:298。同じく関心が持たれるものには、WO 97/27317号(その開示内容は参照として本明細書に組み入れられる)に開示された方法がある。
【0039】
いくつかの態様においては、カルビンジンmRNAレベル(および/またはNPY mRNAレベル、c-Fos mRNAレベル、α-アクチニンII mRNAレベル、p-ERK mRNAレベル)を、定量的rtPCRを用いて定量する。所定のメッセージをrtPCRを用いて定量する方法は当技術分野で周知である。これらの態様のいくつかにおいては、色素で標識したプライマーを用いる。また別の態様においては、実施例の項に述べたように、SYBR(登録商標)などの二本鎖DNA結合性色素を用いる。定量的蛍光RT-PCRアッセイは当技術分野で周知であり、これを本方法においてカルビンジンmRNAのレベルを検出するために用いることもできる。例えば、Pinzani et al. (2001) Regul. Pept. 99: 79-86;およびYin et al. (2001) Immunol. Cell Biol. 79: 213-221を参照されたい。
【0040】
本発明の方法を用いる検出のために適したカルシウム応答遺伝子産物のその他の例には、c-FosおよびArcなどの即時型遺伝子産物がある。したがって、いくつかの態様において、本方法は、海馬における、例えば歯状回の顆粒細胞におけるc-Fosタンパク質のレベルを検出する段階を含む。実施例の項で考察するように、海馬ニューロンにおけるc-Fosレベルの低下は、ADに伴う認知障害などの行動障害と相関する。したがって、いくつかの態様において、本方法は、試料中のc-Fosタンパク質および/またはmRNAのレベルを検出する段階を含む。多くの態様において、c-Fosレベルは歯状回の顆粒細胞において検出される。c-Fosポリペプチドのレベルは、c-Fosに対して特異的な抗体を用いる上記のような免疫学的方法を用いることによって検出される。
【0041】
または、c-Fos mRNAは、c-Fos核酸と特異的にハイブリダイズする核酸を用いて検出される。上記のように、細胞内の特定のmRNAの存在および/またはレベルに関して核酸を分析する目的には数多くの方法を用いることができる。mRNAを直接アッセイしてもよく、または分析のためにcDNAへと逆転写させてもよい。
【0042】
アミロイドペプチド関連神経変性疾患の動物モデルにおけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルを、対照動物、例えば、その疾患のモデルではない同じ種の動物個体におけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルと比較する。例えば、動物モデルが、Aβ1-42などの神経変性促進タンパク質に関してトランスジェニック性である非ヒト動物である場合には、適した対照は野生型であり、例えば、神経変性促進タンパク質に関してトランスジェニック性でない。例えば、動物個体がトランスジェニックhAPP動物である場合には、同じ種の非トランスジェニック動物が対照として役立つ。一般的には、被験動物および対照動物の性別は同じである。
【0043】
必要というわけではないが、本方法の検証を、海馬(例えば、歯状回の顆粒細胞)におけるAβ1-42タンパク質のレベルを検出し、海馬(例えば、歯状回の顆粒細胞)におけるカルビンジンのレベルを海馬におけるAβ1-42タンパク質のレベルと相関づけることによって、行うこともできる。Aβ1-42レベルは、Aβ1-42に対して特異的な抗体を用いる、上記のような標準的な免疫学的方法を用いて測定する。
【0044】
いくつかの態様において、歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム応答遺伝子産物レベルの検出は、アミロイドペプチド関連神経障害の生きたマウスモデルおよび生きたヒト対象を含む、生きた対象においてインビボで行われる。したがって、本発明は、歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム応答遺伝子産物レベル、例えば、カルビンジンレベルの生前検出のための方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、カルシウム応答遺伝子産物と特異的に結合する検出可能なように標識された化合物を生きた対象に対して投与する段階、および歯状回の顆粒細胞における検出可能なように標識された化合物とカルシウム応答遺伝子産物との結合を検出する段階を含む。また別の態様において、本方法は、カルシウム応答遺伝子産物レベルの低下とともに減少する因子と結合する、検出可能なように標識された薬剤を生きた対象に対して投与する段階;および薬剤と因子との結合を検出する段階を含む。適した検出方法には、磁気共鳴画像法(MRI)、ポジトロン放射断層撮影法、単一光子放射型コンピュータ断層撮影法、機能的MRIなどが非制限的に含まれる。
【0045】
また別の態様において、歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム応答遺伝子産物レベルの検出は、死後にヒト対象の生物試料に対して行われる。カルシウム応答遺伝子産物レベルの検出は、例えば、死亡したヒト対象から採取した歯状回試料におけるカルビンジンおよび/またはmRNAのレベルを検出することにより、上記のようにして行われる。
【0046】
複数のカルシウム依存性遺伝子産物
いくつかの態様においては、複数種のカルシウム応答遺伝子産物を検出する。非制限的な一例として、いくつかの態様においては、カルビンジンタンパク質レベルおよびc-Fosタンパク質レベルの両方を検出する。したがって、いくつかの態様において、本方法は、脳試料における、例えば歯状回の顆粒細胞におけるカルビンジンタンパク質のレベルを検出する段階、およびその脳試料におけるc-Fosタンパク質のレベルを検出する段階を含む。また別の態様においては、脳試料において、例えば歯状回の顆粒細胞において、カルビンジンポリペプチド、NPYポリペプチド、c-Fosポリペプチド、p-ERKポリペプチドおよびα-アクチニンIIポリペプチドより選択される複数種のポリペプチドを検出する。したがって、いくつかの態様において、本方法は、脳試料における、例えば歯状回の顆粒細胞における、カルビンジンポリペプチド、NPYポリペプチド、c-Fosポリペプチド、p-ERKポリペプチドおよびα-アクチニンIIポリペプチドより選択される複数種のタンパク質のレベルを検出する段階を含む。
【0047】
また別の態様においては、カルビンジンmRNAレベルおよびc-Fos mRNAレベルの両方を検出する。したがって、いくつかの態様において、本方法は、脳試料における、例えば歯状回の顆粒細胞におけるカルビンジンmRNAのレベルを検出する段階、およびその脳試料におけるc-Fos mRNAのレベルを検出する段階を含む。また別の態様においては、カルビンジンmRNA、NPY mRNA、c-Fos mRNA、p-ERK mRNAおよびα-アクチニンII mRNAより選択される複数種のmRNAを検出する。したがって、いくつかの態様において、本方法は、カルビンジンmRNA、NPY mRNA、c-Fos mRNA、p-ERK mRNAおよびα-アクチニンII mRNAより選択される複数種のmRNAのレベルを検出する段階を含む。
【0048】
スクリーニング方法
本発明は、認知を改善するための薬剤を同定する方法;個体における海馬ニューロンでのカルシウム応答遺伝子産物(例えば、カルビンジン、α-アクチニンII、p-ERK、c-Fos)のレベルを上昇させる薬剤を同定する方法;ニューロンに対するアミロイドペプチドの影響を阻止する薬剤を同定する方法;異常アミロイド集合体のレベルを低下させる薬剤を同定する方法;アミロイドペプチドの排出を増加させる薬剤を同定する方法、および神経毒性レベルのアミロイドペプチドを減少させる薬剤を同定する方法を提供する。本方法は一般に、神経変性疾患のトランスジェニック非ヒト動物モデルに対して被験薬剤を投与して、被験薬剤を海馬ニューロン(例えば、歯状回の顆粒細胞)と接触させる段階;および動物の脳組織におけるインビトロでのカルシウム応答遺伝子産物(例えば、カルビンジン、α-アクチニンII、p-FRK、c-Fos、NPYなど)のレベルを検出する段階を含む。薬剤の非存在下でのカルシウム応答遺伝子産物のレベルとは有意に異なるカルシウム依存性遺伝子産物のレベルが脳組織において検出されることにより、被験薬剤がその動物の脳組織におけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルを調節することが示される。
【0049】
一般に、海馬ニューロンのカルシウム応答遺伝子産物レベル(例えば、歯状回の顆粒細胞におけるカルビンジンレベル)の上昇または低下を、その上昇または低下が遺伝子産物の正常レベルに向かうように生じさせる被験薬剤は、認知障害を治療するための候補薬剤となる。例えば、歯状回におけるカルビンジン、α-アクチニンIIまたはp-ERK遺伝子産物の増加を生じさせる被験薬剤は、認知障害(例えば、アミロイドペプチド関連認知障害)を治療するための候補薬剤となる。もう1つの例として、歯状回におけるNPY遺伝子産物のレベルを上昇させる被験薬剤は、認知障害(例えば、アミロイドペプチド関連認知障害)を治療するための候補薬剤となる。多くの態様において、本方法は、動物個体における認知障害を調節する薬剤の同定をもたらす。特定の態様においては、歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム依存性遺伝子産物、例えば、カルビンジン遺伝子産物、α-アクチニンII遺伝子産物、NPY遺伝子産物およびp-ERK遺伝子産物より選択されるカルシウム依存性遺伝子産物のレベルを検出する。
【0050】
被験薬剤
「候補薬剤」「被験薬剤」「薬剤」「物質」および「化合物」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。候補薬剤には数多くの化学クラスが含まれ、典型的には合成性分子、半合成性分子または天然の無機分子もしくは有機分子である。候補薬剤には、合成化合物または天然化合物の大規模ライブラリーに存在するものが含まれる。例えば、合成化合物ライブラリーは、Maybridge Chemical Co.(Trevillet, Cornwall, UK)、ComGenex社(South San Francisco, CA)およびMicroSource社(New Milford, CT)から販売されている。希少化学物質ライブラリーはAldrich社(Milwaukee, Wis.)から入手可能である。または、細菌、真菌、植物および動物の抽出物の形態にある天然化合物のライブラリーをPan Labs社(Bothell, WA)から入手することもでき、これらを作製することも容易である。さらに、天然または合成的に作製されたライブラリーおよび化合物は従来の化学的、物理的および生化学的な手段によって容易に改変され、それらをコンビナトリアルライブラリーの作製に用いることもできる。既知の薬理作用物質をアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの定方向的またはランダムな化学修飾に供し、構造的類似体を生成させることもできる。新たな治療薬の候補を、合理的薬物設計またはコンピュータモデル化などの方法を用いて作り出すこともできる。
【0051】
候補薬剤は一般に、分子量が50ダルトンよりも高く約2,500ダルトンよりも低い低分子量の有機化合物または無機化合物である。候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合のために必要な官能基を含んでよく、アミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を少なくとも1つ含んでよく、このような化学官能基のうち少なくとも2つを含んでもよい。候補薬剤が、上記の官能基のうち1つまたは複数によって置換された、環状炭素もしくは複素環式構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含んでもよい。候補薬剤は、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体またはそれらの組み合わせを含む、生体分子からも見いだされる。
【0052】
スクリーニングは、既知の薬理活性化合物およびそれらの化学的類似体に対象として行うこともでき、または合理的薬物設計によって作り出されるもののように特性が未知である新たな薬剤を対象として行うこともできる。
【0053】
本発明のアッセイは対照を含み、適した対照には、被験薬剤を投与されていない対照動物(例えば、遺伝子型が同じ動物)が含まれる。いくつかの態様においては、種々の濃度に対するさまざまな反応を得るために、複数のアッセイを並行して行う。典型的には、これらの濃度のうち1つが陰性対照、すなわちゼロ濃度または検出レベル未満としての役割を果たす。
【0054】
本発明のアッセイ方法において効果を有する薬剤を、周知のアッセイを用いて、細胞毒性、生物学的利用能などに関してさらに試験することができる。本発明のアッセイ方法において効果を有する薬剤を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化といった、定方向的もしくはランダムな、および/または定方向的な化学的修飾に供し、構造的類似体を生成させることもできる。このような構造的類似体には、生物学的利用能を高めるもの、および/または細胞毒性が低下したものが含まれる。当業者は、非常にさまざまな構造的類似体を容易に想定および作製することができ、それらを、生物学的利用能の向上および/または細胞毒性の低下および/または血液脳関門を通過する能力といった所望の性質に関して試験することができる。
【0055】
いくつかの態様において、例えば、アミロイドペプチド関連神経障害(認知障害を含む)を有する個体の歯状回におけるカルシウム依存性遺伝子産物のレベルが低下している場合には、カルシウム応答遺伝子産物の海馬ニューロンレベルの上昇を生じさせる被験薬剤(例えば、カルビンジンレベルの上昇を生じさせる薬剤)、特に歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルの上昇を生じさせるものは、認知障害を治療するための候補薬剤となる。被験薬剤と接触していない海馬ニューロン(例えば、歯状回の顆粒細胞)におけるレベルと比較して、被験薬剤が海馬ニューロンのカルシウム応答遺伝子産物レベル(例えば、歯状回の顆粒細胞におけるカルビンジンレベル)の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%またはそれ以上の上昇を生じさせることにより、その被験薬剤がアミロイドペプチド関連認知障害を治療するための候補薬剤となることが示される。
【0056】
また別の態様において、例えば、アミロイドペプチド関連神経障害(認知障害を含む)を有する個体の歯状回におけるカルシウム依存性遺伝子産物のレベルが上昇している場合には、カルシウム応答遺伝子産物の海馬ニューロンレベルの低下を生じさせる被験薬剤(例えば、NPY遺伝子産物レベルの低下を生じさせる薬剤)、特に歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルの低下を生じさせるものは、認知障害を治療するための候補薬剤となる。被験薬剤と接触していない海馬ニューロン(例えば、歯状回の顆粒細胞)におけるレベルと比較して、被験薬剤が海馬ニューロンのカルシウム応答遺伝子産物レベル(例えば、歯状回の顆粒細胞におけるNPYレベル)の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%または少なくとも約50%またはそれ以上の低下を生じさせることにより、その被験薬剤がアミロイドペプチド関連認知障害を治療するための候補薬剤となることが示される。
【0057】
投与
被験薬剤を神経変性疾患のトランスジェニック非ヒト動物モデルに対してインビボ投与し、被験薬剤を海馬ニューロンと接触させる。アミロイドペプチド関連神経変性疾患のトランスジェニック非ヒト動物モデルは当技術分野で周知である。例えば、神経変性疾患のさまざまな非ヒト動物モデルは、例えば、米国特許第5,767,337号、第6,046,381号;第6,175,057号;および第6,455,757号;ならびにMucke et al.(2000)J. Neurosci. 20: 4050-4058;Masliah et al.(2001)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 12245-12250;およびRockenstein et al.(1995)J. Biol. Chem. 270: 28257-25267に記載されている。
【0058】
被験薬剤は、胃内、頭蓋内、筋肉内、静脈内、局所的、皮下、気管内などを非制限的に含む、任意の好都合な投与経路によって投与される。
【0059】
いくつかの態様において、本スクリーニング方法は、被験薬剤が血液脳関門を通過するか否かの判定を与える。例えば、頭蓋内投与された場合に海馬ニューロンカルシウム応答遺伝子産物レベルを上昇させるのに有効な被験薬剤をインビトロで修飾し、そのようにして形成された誘導体を動物に対して静脈内投与する。薬剤が静脈内投与された場合に有効であるならば、それは血液脳関門を通過する可能性が高い。被験薬剤に対するさまざまな修飾物、例えば、アセチル化物、アシル化物、リン酸化物などをこのようにして試験することができる。
【0060】
インビトロスクリーニング
動物に対して被験薬剤を投与した後に、その動物の脳組織におけるカルシウム応答遺伝子産物(例えば、カルビンジン、α-アクチニンII、c-Fos、NPYおよびp-ERKより選択されるタンパク質および/またはmRNA)のレベルをインビトロアッセイで検出する。インビトロスクリーニングは、被験薬剤の投与から、例えば、通常、約10分後、約15分後、約30分後、約60分後、約2時間後、約4時間後またはそれ以上の後に行われる。
【0061】
典型的には、海馬脳試料を動物から採取し、カルシウム応答タンパク質(例えば、カルビンジン)を検出する。多くの態様において、脳試料は歯状回試料である。アミロイドペプチド関連認知障害の動物モデルに由来する試料をアッセイに用いる。典型的には、試料は海馬試料、例えば、解離させた海馬ニューロン、海馬脳切片などである。試料中の細胞の数は一般に少なくとも約10個、通常は少なくとも10個、より一般的には少なくとも約10個であると考えられる。固形組織の場合には細胞を解離させてもよく、または組織切片を分析してもよい。または、細胞の溶解物を調製してもよい。
【0062】
以下に考察するように、いくつかの態様においては、海馬脳試料におけるカルシウム応答タンパク質のレベルを検出する。いくつかの態様においては、カルビンジンタンパク質のレベルを検出する。また別の態様においては、海馬ニューロンにおけるc-Fosタンパク質のレベルを検出する。c-Fosタンパク質のレベルを検出する場合には、c-Fosに対して特異的な抗体を用いる点を除き、カルビンジンタンパク質を検出するために述べた方法を用いる。
【0063】
以下に考察するように、いくつかの態様においては、海馬脳試料におけるカルシウム応答性mRNAのレベルを検出する。これらの態様のいくつかにおいては、海馬脳試料におけるカルビンジンmRNAのレベルを検出する。または、c-Fos mRNAのレベルを検出する。
【0064】
カルシウム応答タンパク質の検出
多くの態様においては、ある所定のカルシウム応答ポリペプチドに対して特異的な抗体が用いられる。非制限的な一例としては、カルビンジンレベルを検出し、カルビンジンに対して特異的な抗体を用いる。抗体は、直接的または間接的に検出可能なように標識される。種々の標識があり、これには放射性同位体、蛍光剤、化学発光剤、酵素、特異的結合分子(例えば、特異的結合対のメンバー)、粒子(例えば、磁気粒子)などが含まれる。特異的結合分子には、ビオチンとストレプトアビジン、ジゴキシンとアンチジゴキシン、レクチンと糖質、抗体と抗原、抗体とハプテンなどの対が含まれる。特異的結合のメンバーに関しては、相補的なメンバーを通常、検出用の分子によって既知の手順に従って標識する。直接的および間接的な抗体標識は当技術分野で周知である。抗体を、放射性同位体、酵素、蛍光剤(例えば、蛍光性タンパク質または蛍光色素)、化学発光剤、または直接検出用のその他の標識によって標識してもよい。または、シグナルを増幅するために第二段階の抗体または試薬を用いる。このような試薬は当技術分野で周知であり、以上に考察されている。
【0065】
さまざまな他の試薬をスクリーニングアッセイに含めることもできる。これらには、最適なタンパク質-タンパク質結合を促すため、および/または非特異的もしくはバックグラウンドの相互作用を低下させるために用いられる、塩、中性タンパク質(例えば、アルブミン)、界面活性剤などの試薬が含まれる。プロテアーゼ阻害薬、抗菌薬といったアッセイの効率を向上させる試薬を用いてもよい。諸成分の混合物は、必要な結合(例えば、抗体と試料中のカルビンジンとの)が得られる任意の順序で添加される。インキュベーションは任意の適した温度で行われ、これは典型的には4〜40℃である。インキュベーション期間は至適活性が得られるように選択されるが、迅速なハイスループットスクリーニングが促されるように選択することもできる。典型的には、0.1〜1時間で十分であると考えられる。
【0066】
カルシウム応答タンパク質(例えば、カルビンジン)の検出には、従来の方法に従って行われる細胞または組織切片の染色を利用してもよい。対象となる抗体を細胞試料または脳切片試料に対して添加し、エピトープに対する結合を行わせるのに十分な期間、通常は少なくとも約10分間にわたってインキュベートする。抗体を、放射性同位体、酵素、蛍光剤、化学発光剤、または直接検出用のその他の標識によって標識してもよい。または、シグナルを増幅するために第二段階の抗体または試薬を用いる。このような試薬は当技術分野で周知である。例えば、一次抗体をビオチンと結合させ、西洋ワサビペルオキシダーゼと結合させたアビジンを第二段階の試薬として添加する。最終的な検出には、ペルオキシダーゼの存在下で色調の変化を来す基質を用いる。抗体結合の有無は、解離細胞のフローサイトメトリー、顕微鏡検査、X線検査、シンチレーション計数法などを含む、さまざまなによって判定しうる。
【0067】
1つの代替的な方法は、抗体と細胞溶解物中のカルシウム応答タンパク質(例えば、カルビンジン)との結合のインビトロ検出に依存する。抗体と試料中またはその画分中のタンパク質との結合の測定は、さまざまな特異的アッセイによって行うことができる。従来のサンドイッチ型アッセイを用いてもよい。例えば、サンドイッチ型アッセイではまず、特異的抗体を不溶性表面または支持体に対して付着させる。具体的な結合様式は、それに試薬および本発明の方法全般に対する適合性がある限り、特に重要ではない。それらはプレートに対して共有結合させても非共有的に結合させてもよい。
【0068】
不溶性支持体は、それに対してポリペプチドが結合可能であって、可溶性材料から容易に分離され、その他の点で方法全般に対する適合性がある任意の組成物であってよい。このような支持体の表面は充実性固体でも多孔性でもよく、任意の好都合な形態でありうる。受容体が結合する適した不溶性支持体の例には、磁性ビーズなどのビーズ、メンブランおよびマイクロタイタープレートが含まれる。これらは典型的には、ガラス、プラスチック(例えば、ポリスチレン)、多糖、ナイロンまたはニトロセルロース製である。少量の試薬および試料を用いて多数のアッセイを同時に行えることから、マイクロタイタープレートが特に好都合である。
【0069】
検出には、従来の方法に従って行われる細胞または組織切片の染色を利用してもよい。対象となる抗体を細胞試料に対して添加し、エピトープに対する結合を行わせるのに十分な期間、通常は少なくとも約10分間にわたってインキュベートする。抗体を、放射性同位体、酵素、蛍光剤、化学発光剤、または直接検出用のその他の標識によって標識してもよい。または、シグナルを増幅するために第二段階の抗体または試薬を用いる。このような試薬は当技術分野で周知である。例えば、一次抗体をビオチンと結合させ、西洋ワサビペルオキシダーゼと結合させたアビジンを第二段階の試薬として添加する。最終的な検出には、ペルオキシダーゼの存在下で色調の変化を来す基質を用いる。抗体結合の有無は、解離細胞のフローサイトメトリー、顕微鏡検査、X線検査、シンチレーション計数法などを含む、さまざまなによって判定しうる。
【0070】
c-Fosの検出
いくつかの態様においては、脳組織におけるc-Fosのレベルを同じくインビトロアッセイで検出する。c-Fosを検出するための方法については上述している。これらの態様のいくつかにおいては、海馬ニューロンカルビンジンレベルおよび海馬c-Fosレベルの両方の上昇を生じさせる被験薬剤が、認知障害を治療するための候補薬剤となる。被験薬剤と接触していない海馬ニューロンにおけるカルビンジンおよびc-Fosのレベルと比較して、被験薬剤が、海馬ニューロンカルビンジンレベルの少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%またはそれ以上の上昇を生じさせ、しかも海馬ニューロンc-Fosレベルの少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%またはそれ以上の上昇を生じさせることにより、その被験薬剤が認知障害などのアミロイドペプチド関連神経変性疾患を治療するための候補薬剤となることが示される。特定の態様においては、歯状回の顆粒細胞におけるカルビンジンのレベルを検出する。
【0071】
治療薬
本発明は、本明細書に記載した方法を用いて同定される薬剤を提供する。カルシウム応答遺伝子産物(例えば、カルビンジン、アクチニン-Il、p-ERK)のレベルを上昇させる薬剤は、神経病理学的状態において歯状回でのその遺伝子産物のレベルが低下している場合に、アミロイドペプチド関連神経障害、特に認知障害を治療するために用いられる。カルシウム依存性遺伝子産物のレベル(例えば、NPY)を低下させる薬剤は、神経病理学的状態において歯状回でのその遺伝子産物のレベルが上昇している場合に、アミロイドペプチド関連神経障害、特に認知障害を治療するために用いられる。有効薬剤の有効量が宿主に投与されるが、ここで「有効量」とは、所望の結果をもたらすために十分な投与量のことを意味する。一般に、所望の結果とは、対照との比較による、少なくとも1つの神経病理学的症状の少なくとも何らかの改善(例えば、学習障害の少なくとも何らかの軽減)のことである。
【0072】
製剤
本方法においては、有効薬剤を、任意のアミロイドペプチド関連神経障害、特にアミロイドペプチド関連認知障害における所望の軽減をもたらしうる任意の好都合な手段を用いて宿主に投与することができる。
【0073】
すなわち、薬剤を、治療的投与用の種々の製剤に組み入れることができる。より詳細には、本発明の薬剤は、薬理学的に許容される適切な担体または希釈剤と組み合わせて薬学的組成物として製剤化することが可能であり、錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、軟膏、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤およびエアロゾル剤などの固体、半固体、液体または気体の剤形として製剤化しうる。
【0074】
医薬品の剤形にある場合には、薬剤を薬学的に許容される塩の形態で投与してもよく、またはそれらを単独で、もしくは他の薬学活性化合物と適切に結び付けて、さらには組み合わせて用いてもよい。以下の方法および添加剤は単なる例であり、制限的なものでは全くない。
【0075】
経口製剤の場合には、薬剤を単独で用いることもでき、または例えば、ラクトース、マンニトール、コーンスターチもしくはジャガイモデンプンなどの通常の添加物;微結晶セルロース、セルロース誘導体、アラビアゴム、コーンスターチもしくはゼラチンなどの結合剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプンもしくはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤;タルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;および必要に応じて、緩衝剤、湿潤剤、保存料および着香料といった、錠剤、粉剤、顆粒剤もしくはカプセル剤を製造するための適切な添加物と配合することもできる。
【0076】
薬剤を、植物油もしくは他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステルまたはプロピレングリコールなどの水性または非水性溶媒中に、必要に応じて溶解補助剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤および保存料などの通常の添加物とともに、溶解、懸濁化または乳濁化させることにより、注射用製剤に製剤化することもできる。
【0077】
薬剤を吸入によって投与するためのエアロゾル製剤として用いることもできる。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの許容される加圧噴霧剤として製剤化することができる。
【0078】
さらに、乳化性塩基または水溶性塩基などの種々の塩基と混合することにより、薬剤を坐剤として製造することもできる。本発明の化合物は、坐剤によって直腸投与が可能である。坐剤は、体温で融解するが室温では固化したままであるカカオ脂、カーボワックスおよびポリエチレングリコールなどの媒体を含みうる。
【0079】
各々の投薬単位、例えば茶さじ量、大さじ量、錠剤または坐剤などが、1つまたは複数の阻害薬を含む規定量の組成物を含むような、シロップ剤、エリキシル剤および懸濁剤などの経口投与用または直腸投与用の単位投薬式剤形を提供することもできる。同様に、注射または静脈内投与のための単位投薬式剤形が、滅菌水、正常食塩溶液または別の薬学的に許容される担体中の溶液としての組成物中に阻害薬を含んでもよい。
【0080】
本明細書で用いる「単位投薬式剤形」という用語は、ヒトおよび動物の対象に対する単位投薬量として適した物理的に離散的な単位であって、各単位が薬学的に許容される希釈剤、担体または媒体とともに所望の効果を生じるのに十分な量であるように計算された既定量の本発明の化合物を含むもののことを指す。本発明の新規な単位投薬式剤形に関する仕様は、用いる具体的な化合物および達成しようとする効果、ならびに宿主における各化合物にかかわる薬力学に依存する。
【0081】
他の投与様式を本発明とともに用いることも考えられる。例えば、本発明の薬剤を坐剤として製剤化すること、場合によってはエアロゾル組成物および鼻腔内用組成物として製剤化することが可能である。坐剤の場合、媒体用組成物は、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドなどの従来の結合剤および担体を含むと考えられる。このような坐剤は、有効成分を約0.5%〜約10%(w/w)、好ましくは約1%〜約2%の範囲で含む混合物から形成されうる。
【0082】
鼻腔内用製剤は通常、鼻粘膜に対する刺激作用を引き起こさず、線毛機能を大きく妨げることもない媒体を含むと考えられる。水、食塩水またはその他の既知の物質などの希釈剤を本発明とともに用いることができる。鼻用製剤はまた、クロロブタノールおよび塩化ベンザルコニウムを非制限的に含む保存料を含んでもよい。鼻粘膜による対象タンパク質の吸収を高めるために界面活性剤が存在してもよい。
【0083】
本発明の薬剤は注射剤として投与することができる。典型的には、注射用組成物は溶液または懸濁液として調製される;注射の前に液体媒体中に入れる溶液用または懸濁液用の固体形態を調製することもできる。製剤を乳化すること、または活性成分をリポソーム媒体中に封入することもできる。
【0084】
適した添加剤媒体には、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールその他、およびそれらの組み合わせがある。さらに、必要に応じて、媒体が湿潤剤もしくは乳化剤またはpH緩衝剤などの補助物質を少量含んでもよい。このような剤形を調製する実際の方法は当業者には公知である、または明らかであると考えられる。「レミントン薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania、第17版、1985を参照のこと。投与しようとする組成物または製剤は、いかなる場合でも、治療しようとする対象において所望の状態を達成するために適切な量の薬剤を含むと考えられる。
【0085】
媒体、アジュバント、担体または希釈剤などの薬学的に許容される添加剤は容易に一般的に入手可能である。さらに、pH調整剤および緩衝剤、張性調整剤、安定剤、湿潤剤などの薬学的に許容される補助物質も容易に一般的に入手可能である。
【0086】
投与量
用いる投与量は達成しようとする臨床的目標に応じて異なると考えられるが、適した投与量の範囲は、海馬ニューロン(例えば、歯状回の顆粒細胞)におけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルを上昇させる薬剤を最大で約1μg〜約1,000μgまたは約10,000μg与え、しかも単回量として投与できるものである。または、海馬ニューロンにおけるカルビンジンのレベルを上昇させる薬剤の目標投与量は、薬剤投与後の最初の24〜48時間以内に採取した宿主血液の試料において、概ね約0.1〜l000μM、約0.5〜500μM、約1〜100μMまたは約5〜50μMの範囲にあると考えられる。
【0087】
当業者は、用量レベルが具体的な化合物、症状の重症度および対象の副作用に対する感受性の関数として変化しうることを容易に理解すると考えられる。所定の化合物に関する好ましい投与量を当業者は種々の手段によって容易に決定することができる。
【0088】
投与の経路
歯状回の顆粒細胞におけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルを上昇させる薬剤は、個体に対して、薬物送達のために適した任意の利用可能な方法および経路を用いて投与され、これにはインビボおよびエクスビボの方法、ならびに全身性および局所的な投与経路が含まれる。
【0089】
薬学的に許容される従来の投与経路には、鼻腔内、筋肉内、頭蓋内、気管内、腫瘍内、皮下、皮内、局所適用、静脈内、直腸内、経鼻、経口およびその他の非経口的な投与経路が含まれる。投与経路を必要に応じて組み合わせること、または薬剤および/もしくは所望の効果に応じて調節することもできる。組成物は単回投与または多回投与として投与することができる。
【0090】
薬剤は宿主に対して、全身性または局所的経路を含む、従来の薬剤の送達のために適した任意の利用可能な従来の方法および経路を用いて投与しうる。一般に、本発明が想定している投与経路には、経腸的または非経口的または吸入経路が含まれるが、必ずしもこれらには限定されない。
【0091】
吸入投与以外の非経口的な投与経路には、局所的、経皮的、皮下、筋肉内、眼窩内、被嚢内、髄腔内、胸骨内、頭蓋内および静脈内経路が含まれるが、必ずしもこれらには限定されず、すなわち、消化管以外を経由する以外の任意の投与経路が含まれる。非経口的投与は、薬剤の全身性または局所的な送達を生じさせるために行うことができる。全身性送達が所望である場合には、投与は一般に、医薬製剤の侵襲的投与または全身吸収性の局所もしくは粘膜投与を伴う。
【0092】
また、薬剤を経腸投与によって対象に送達することもできる。経腸的な投与経路には、経口的および直腸内(例えば、坐剤を用いる)送達が含まれるが、必ずしもこれらには限定されない。
【0093】
皮膚または粘膜を経由する薬剤の投与方法には、適した医薬製剤の局所適用、経皮的伝達、注射および表皮投与が含まれるが、必ずしもこれらには限定されない。経皮的伝達の場合には、吸収促進剤またはイオントフォレシスが適した方法である。イオントフォレシス性伝達は、無傷の皮膚を経由して電気パルスを介して数日間またはそれ以上の期間にわたって連続的に製品を送達する、市販の「パッチ」を用いて行うことができる。
【0094】
治療とは、宿主を苦しませる病的状態に付随する症状の少なくとも何らかの改善のことを意味し、改善とは、ADに付随するパラメーター(例えば、症状)の強度の少なくとも何らかの低下のことを指して広義の意味で用いられる。このため、治療には、病的状態もしくは少なくともそれに付随する症状が完全に抑制される(例えば発生が防止される)、または停止し(例えば終わる)、そのために宿主が病的状態または少なくとも病的状態を特徴づける症状に苦しまなくなるという状況も含まれる。
【0095】
さまざまな宿主(ここで「宿主」という用語は、本明細書において「対象」および「患者」という用語と互換的に用いられる)を、本方法に従って治療することができる。一般にこのような宿主は「哺乳動物」または「哺乳類」であり、これらの用語は、肉食動物(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯類(例えば、マウス、モルモットおよびラット)および霊長類(例えば、ヒト、チンパンジーおよびサル)などの目を含む、哺乳類網に属する生物体を記載するために広義の意味で用いられる。多くの態様において、宿主はヒトであると考えられる。
【0096】
例えば経口剤または注射剤の剤形にある、有効薬剤の単位用量を備えたキットも提供する。この種のキットには、単位用量を含む容器に加えて、対象となる病的状態の治療における薬剤の使用およびそれに伴う利点を説明する情報添付文書が存在すると考えられる。好ましい化合物および単位用量は本明細書における上記のものである。
【0097】
血液脳関門の通過
血液脳関門は、多くの治療薬の、全身循環から脳および脊髄への取り込みを制限する。血液脳関門を通過する分子は主に2種類の機構を用いている:自由拡散;および促進輸送である。血液脳関門が存在することから、中枢神経系(CNS)において所定の治療薬を有益な濃度に到達させるためには薬物送達戦略を用いることが必要な場合がある。CNSへの治療薬の送達はいくつかの方法によって実現することができる。
【0098】
1つの方法は、神経外科的な手法に依拠する。事故の被害者または種々の形態の痴呆に罹患した患者といった危篤状態にある患者の場合には、外科的介入が、リスクは伴うものの正当化される。例えば、治療薬を、薬剤の脳室内または髄腔内注射といったCNSへの直接的な物理的導入によって送達することができる。脳室内注射は、例えばOmmayaリザーバーなどのリザーバーと接続された、脳室内カテーテルによって容易となる。導入の方法を、再装填可能な、または生分解性のデバイスによって得ることもできる。もう1つのアプローチは、血液脳関門の透過性を高める物質によって血液脳関門を働かなくさせることである。その例には、低拡散性薬剤(マンニトールなど)、脳血管透過性を高める医薬品(エトポシドなど)または血管作動薬(ロイコトリエンなど)の動脈内注入が含まれる。Neuwelt and Rappoport (1984) Fed. Proc. 43: 214-219;Baba et al.(1991) J. Cereb. Blood Flow Metab. 11: 638-643;およびGennuso et al.(1993) Cancer Invest. 11: 638-643。
【0099】
さらに、治療を必要とする領域に医薬品を局所的に投与することが望ましい場合もある;これは例えば、手術中の局所注入により、注射により、カテーテルを用いることにより、または、シラスティック膜もしくはファイバーを含む、多孔性、無孔性もしくはゼラチン状材料であるインプラントを用いることによって行うことができる。
【0100】
また、治療用化合物を、化学的修飾、または血液脳関門を通過すると考えられる類似体に関するスクリーニングを含む、薬理学的手法を用いて送達することもできる。化合物は、分子の疎水性を高めるか、分子の実効電荷または分子量を低下させて、それが血液脳関門を通常通って輸送されるものに類似するように修飾することができる。Levin (1980) J. Med. Chem. 23: 682-684;Pardridge (1991);「ペプチド薬剤の脳への送達(Peptide Drug Delivery to the Brain)」;およびKostis et al.(1994)J. Clin. Pharmacol. 34: 989-996。
【0101】
リポソームなどの疎水性環境内への薬剤の封入も、CNSに薬剤を送達するために有効である。例えば、WO 91/04014号は、薬剤がリポソーム内部に封入され、それに対して、通常、血液脳関門を通って輸送される分子が添加されている、リポソーム送達システムを開示している。
【0102】
血液脳関門を通過するように薬剤を製剤化するもう1つの方法は、薬剤をシクロデキストリン中に封入することである。血液脳関門を通過する任意の適したシクロデキストリンを用いることができ、これにはα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびそれらの誘導体が非制限的に含まれる。概論については、米国特許第5,017,566号、第5,002,935号および第4,983,586号を参照されたい。このような組成物が、米国特許第5,153,179号に記載されたようなグリセロール誘導体を含んでもよい。
【0103】
送達を、治療薬を輸送可能な作用因子と結合させて新たなキメラ性の輸送可能な治療薬を生じさせることによって得ることもできる。例えば、血管作動性腸管ペプチド類似体(VIPa)は、VIPa-mAb結合物の血液脳関門を介した取り込みを促進させる、特異的な担体分子トランスフェリン受容体に対するモノクローナル抗体(mAb)と結合させた場合にのみ、その血管作動効果を発揮する。Pardridge(1991);およびBickel et al.(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2618-2622。いくつかの他の具体的な輸送系も同定されており、これらにはインスリンまたはインスリン様増殖因子IおよびIIに対するものが非制限的に含まれる。他の適した非特異的な担体には、ピリジウム、脂肪酸、イノシトール、コレステロールおよびグルコース誘導体が非制限的に含まれる。中枢神経系に入ると薬剤が担体から切断されて有効薬剤が遊離する、ある種のプロドラッグが記載されている。米国特許第5,017,566号。
【0104】
治療のために適した対象
本薬剤による治療のために適した対象には、任意のアミロイドペプチド関連神経変性疾患を有するものが含まれる。本薬剤による治療のために適した対象には、ADを有する、またはADの疑い(probable AD)があると診断された個体が含まれる。治療のために適した対象には、ADに関連した認知障害、および/または、彼らがこの種の障害を発症するリスクが高いことを示す遺伝学的、画像上もしくは生化学的な証拠を示すものがふくまれる。また、ADを発症するリスクが高い個体(例えば、apoE4アレルを2つ有する個体)も治療のために適している。
【0105】
有用性
本方法は、アミロイドペプチド関連神経障害(例えば、AD)を検出するため;アミロイドペプチド関連神経障害の重症度を判定するため;アミロイドペプチド関連障害の進行をモニターするため;アミロイドペプチド関連障害を治療するための薬物に対する個体の反応をモニターするため;ならびに、ADの動物モデルにおけるAD型病態に影響を及ぼす経路および分子的操作を同定するために有用である。
【0106】
本方法は、アミロイドペプチド関連神経障害の非ヒト動物モデルにおけるアミロイドペプチド関連神経障害を診断するために有用である。すなわち、例えば、対照と比較して、海馬(特に歯状回)におけるカルビンジンレベル(および/またはα-アクチニン-IIレベル、および/またはp-ERKレベル)が少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%またはそれ以上低下していれば、アミロイドペプチド関連神経障害と診断される。
【0107】
本方法は、アミロイドペプチド関連神経障害の非ヒト動物モデルにおけるアミロイドペプチド関連神経障害の重症度を評価するために有用である。アミロイドペプチド関連神経障害の重症度は、カルビンジンの検出レベルを試料中のカルビンジンのレベルと比較し、そのレベルをアミロイドペプチド関連神経障害の重症度と関連づけることによって評価しうる。この態様において、相対的に極めて低いレベルのカルビンジンは通常、重症(すなわち、高度に進行した)アミロイドペプチド関連神経障害と関連づけられ、相対的に低いレベルのカルビンジンは通常、中等症アミロイドペプチド関連神経障害と関連づけられ、正常レベルよりも幾分低いものは通常、軽症アミロイドペプチド関連神経障害と関連づけられる。疾患の重症度はより効果的な治療の選択を可能にし、例えば、アルツハイマー病の軽症例はある種の薬剤に対して重症例よりも感受性が高い可能性がある。
【0108】
本方法はまた、アミロイドペプチド関連神経障害の非ヒト動物モデルにおける、薬物による治療に対する反応をモニターするためにも有用である。例えば、歯状回カルビンジンのレベルを、ADなどのアミロイドペプチド関連神経障害に付随する行動障害の治療に対する有効性に関して試験しようとする薬物が投与されたアミロイドペプチド関連神経障害の非ヒト動物モデルで検出する。薬物による治療を受けていない対照動物と比較して、薬物による治療後のカルビンジンのレベルが上昇していることにより、その薬物治療が行動障害の治療に有効であることが示される。
【0109】
本方法はまた、ヒトにおけるインビボ検出方法のためにも有用である。ヒトの歯状回顆粒細胞におけるカルビンジンレベルのインビボ検出は、アミロイドペプチド関連神経変性疾患の診断のため、アミロイドペプチド関連神経変性疾患の病期分類のため、およびアミロイドペプチド関連神経変性疾患の薬物治療に対する個体の反応を評価するために有用である。
【0110】
本方法はまた、ヒト生物試料の死後分析、例えば、歯状回の顆粒細胞の死後分析のためにも有用である。このような分析は、ヒト対象における、ADなどの神経変性疾患の病期分類のため、および/またはADなどの神経変性疾患に対する所定の治療法の有効性を評価するために有用である。
【0111】
本方法はまた、ADの動物モデルにおけるAD型病態に影響を及ぼす経路および分子的操作を同定するためにも有用である。
【0112】
実施例
以下の実施例は、本発明の実施および利用の方式に関する完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されており、発明とみなしている内容の範囲を制限するものではなく、示した実験が実施したすべてまたは唯一の実験に過ぎないことを表現または意味するものでもない。用いている数字(例えば、量、温度など)に関して正確であるように努力は払っているが、ある程度の実験的誤差および偏差は許容されるべきである。別に特記しない限り、各部分は総重量にしめる部分重量であり、分子量は平均分子量であり、温度は℃で示され、圧力は大気圧またはその近傍圧である。標準的な略号を用いている場合もあり、これには例えば、bp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;s、秒;min、分;hまたはhr、時間などがある。
【0113】
実施例1:海馬カルビンジンレベルと、Aβ1-42の相対レベルとの、および認知障害との相関
材料および方法
動物および行動試験
本検討には、ヘテロ接合性トランスジェニックマウスとC57BL/6非トランスジェニック種との交配によるF6〜F10子孫に相当する、系統J20由来の148匹のマウス(80匹が非トランスジェニック、68匹がトランスジェニック)および系統I5由来の57匹のマウス(25匹が非トランスジェニック、33匹がトランスジェニック)を含めた。Mucke et al.(2000) J. Neurosci. 20: 4050-4058。トランスジェニックマウスと非トランスジェニックマウスとの比較は同腹子に対して行った。マウスには飼料(Rodent Diet 20, PicoLab)および水を自由に摂取させた。マウスは行動試験の24時間前から個別に収容し、それ以外は集団で飼育した。午前6: 00に点灯する12時間毎の明/暗サイクル下に置いた。行動試験は明サイクル中に行った。行動試験には雄性マウスを用い、雌性マウスはELISAによるAβ測定のために用いた。その他の測定は性別を均衡させた群に対して行った。齢数および遺伝子型を一致させた雄性マウスと雌性マウスとの間にカルビンジン、c-Fos-IR顆粒細胞およびプラーク量に関する有意差は認められなかった。
【0114】
水迷路は、表面から2.0cm下に浸漬させたプラットフォーム(直径10cm)を備えた、不透明な水(24℃)のプール(直径122cm)からなる。手がかり付き訓練のセッションでは、プラットフォームの上に、その位置を示すために、赤いキャップの付いた白いペン(長さ14.5cm)を置いた。プラットフォーム隠蔽セッションではペンは取り除いた。マウスには、まず視認しうるプラットフォーム(セッション1〜4)の位置を探し出し、続いて隠されたプラットフォーム(セッション5〜10)の位置を探し出すように訓練する、それぞれが60秒の試行(試行間隔は15分)からなる、1日に2種類のセッション(3.5時間間隔で)を行った。手がかり付き訓練では、プラットフォームの位置を各セッションごとに変更した。プラットフォーム隠蔽訓練では、プラットフォームの位置は各マウスで一定のままとした。マウスをプールの周辺部に置き、進入点は試行のたびに準ランダムに変更させた。プラットフォームの位置を探し出せなかったマウスには、その試行に対する脱出潜時値(escape latency value)として60秒を割り当てた。各セッションにおいて、プラットフォームにたどり着くまでに必要とした平均時間(潜時)および経路長を、学習の推定的指標とした。プラットフォーム隠蔽訓練の完了から1時間後に、プラットフォームが以前に隠されていた四分円(目標四分円)の中に他の四分円よりも長時間にわたってマウスが滞在しているか否かを判定するために、60秒プローブトライアル(プラットフォームを取り除いて行う)を行った。プローブトライアルに関する進入点は、目標四分円の反対側の四分円とした。マウスの成績は、1秒当たり2件のサンプルを解析するように設定されたEthoVision ビデオ追跡システム(Noldus Instruments)を用いてモニターした。
【0115】
組織学的分析および生化学的分析に関しては、マウスを抱水クロラールで麻酔した上で、リン酸緩衝液食塩水(PBS)により経心臓的にフラッシュ灌流を行った。脳を摘出し、矢状方向に分割した。AβのELISAに関しては、一方の大脳半球の海馬を氷上で解離し、ドライアイス上で急速凍結した上で、分析時まで-70℃で保存した。もう一方の大脳半球に対してはリン酸緩衝4%パラホルムアルデヒド、pH 7.4により4℃で48h時間、後固定(post-fixed)を行った。
【0116】
ヒト脳組織
ヒト脳組織は、死亡する12カ月以内に、University of California at San DiegoのAlzheimer Disease Research Centerで神経学的および精神測定学的な検査(Blessedスコア、ミニメンタルテストおよび痴呆評価尺度を含む)を受けた人々から、死後に入手した。15例のAD症例(女性9例、年齢75〜90歳(84.6±4.6、平均±SD);男性6例、年齢71〜92歳(82.2±9.2))および2例の非痴呆対照(女性1例、74歳;男性1例、71歳)を本検討に含めた。各症例からの新皮質組織、辺縁組織および皮質下組織を10%緩衝ホルマリン中で固定し、パラフィンで包埋した上で切片化し、ヘマトキシリン/エオシンまたはチオフラビン-Sで染色した上で光学顕微鏡検査によって分析し、プラークおよび原線維変化の程度ならびにBraak病期を判定した。症例は、Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's disease(CERAD)およびNational Institute on Aging(NIA)の診断基準に従って、ADおよび非痴呆対照に分類した。免疫組織化学的分析に関しては、海馬組織を4%リン酸緩衝パラホルムアルデヒド中にて72時間、後固定し、ビブラトームを用いて連続切片とした。
【0117】
免疫組織化学
マウス組織のフリーフローティング法によるビブラトーム切片(50μm)を蛍光二重免疫染色(カルビンジンおよびNeu-N)のために用い、フリーフローティング法による凍結滑走式ミクロトーム切片(30μm)を標準的なアビジンビオチン/ペルオキシダーゼ法による単免疫標識(カルビンジン、c-FosまたはAβ)のために用いた。ヒト組織のフリーフローティング法によるビブラトーム切片(40μm)はカルビンジン免疫ペルオキシダーゼ染色のために用いた。内因性ペルオキシダーゼ活性を消失させ、非特異的な結合部位をブロックした後に、二次抗体を産生させたのと同じ種に由来する3%免疫前血清、0.2%ゼラチンおよび0.5%Triton X-100(PBS中)において、切片を一次抗体とともにインキュベートした。以下の一次抗体を用いた:抗カルビンジン抗体(ウサギポリクローナル性、Swant、1:15,000)、抗c-Fos抗体(ウサギポリクローナル性Ab-5、Oncogene、1:10,000)、抗Neu-N抗体(マウスモノクローナル性、Chemicon International、1:5,000)および抗Aβ抗体(マウスモノクローナル性3D6、Elan Pharmaceuticals、1:500)。二次抗体は、フルオレセイン結合ロバ抗ウサギ抗体(Jackson ImmunoResearch、1:300)、テキサスレッド結合ロバ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch、1:300)、ビオチン化ヤギ抗ウサギ抗体(Vector Laboratories、1:300)、ビオチン化ヤギ抗マウス抗体(Vector Laboratories、1:600)およびビオチン化ヤギ抗ウサギ抗体(Vector Laboratories、1:200)からなる。ジアミノベンチジンを、免疫ペルオキシダーゼ反応における色素原として用いた。免疫蛍光は共焦点顕微鏡装置(Radiance 2000、BioRad)によって観察し、免疫ペルオキシダーゼ染色は光学顕微鏡検査によって観察した。
【0118】
免疫反応性構造の定量
免疫染色切片のデジタル化画像を、BX-60顕微鏡(Olympus)に装着したDEI-470デジタルカメラ(Optronics)により、最終倍率を300倍(カルビンジン)、100倍(c-Fos)および60倍(Aβ)として入手した。カルビンジンレベルは以下のようにして定量化した。各マウスに関して、ブレグマから-2.54および-2.80mmの間にある2つの冠状切片(300μm間隔)を選択した。歯状回の分子層の2つの領域(それぞれ0.04mm)およびCAI領域の放射状層の2つの領域(それぞれ0.04mm)における免疫反応の総合光学密度(IOD)を、BioQuant画像解析パッケージ(R&M Biometrics)を用いて決定した。これらの測定値を、各脳領域に関する平均lODの算出に用いた。相対的カルビンジンレベルは、同一切片の分子層および放射状層で得られたIOD読み取り値の比として表した。非トランスジェニック対照で得られた平均比を1.0として任意に定義した。
【0119】
c-Fos-IR顆粒細胞の相対的レベルは、顆粒細胞層の体軸方向の全範囲にわたり、冠状切片(連続切片、30μm厚)10枚おきに歯状回の顆粒層におけるすべてのc-Fos-IR細胞の数を算定することによって決定した。各マウス当たり4枚ずつの冠状切片(300μm間隔)における、Aβ免疫反応性沈着物により占有されている海馬の平均面積率(%)を、BioQuant画像解析パッケージを用いることによって決定した。
【0120】
マイクロダイセクションにより入手した歯状回のウエスタンブロット法および定量的蛍光性逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qfRT-PCR)分析
【0121】
マウスを麻酔した上で、RNA分解酵素を含まないPBSによる経心臓的なフラッシュ灌流を行った。大脳半球を解離して、ドライアイス上で急速凍結し、-70℃で保存した。歯状回の組織試料を入手するためには、大脳半球を氷上で融解させ、ビブラトームを用いて450μm厚の矢状切片とした。氷上で双眼実体顕微鏡下にて各切片から歯状回を単離した。
【0122】
タンパク質の定量に関しては、試料を直ちに50%グリセロールPBS溶液中で-70℃にて保存した。同等の内側-外側レベルにある矢状切片から単離した歯状回の試料を、個別に3回ずつ、1mM HEPES pH 7.4、150mM NaCl、50mM NaF、1mM EDTA、1mM DTT、1mM PMSF、1mM NaVOおよび10μg/mlロイペプチン、10μg/mlアプロチニンおよび1%SDSを含む溶解バッファー中にて4℃で超音波処理した(それぞれ5秒間)。4℃で15分のインキュベーションの後に、試料を5,000×gで10分遠心した。タンパク質の濃度はブラッドフォード(Bradford)アッセイによって決定し、同量のタンパク質をSDS-PAGEの各レーンにローディングして分離した上で、ニトロセルロース膜に移行させた。5%脱脂粉乳を含むTris緩衝食塩水/0.05% Tween 20中でブロックした後に、膜を抗カルビンジン抗体(ウサギポリクローナル性、Swant、1:20,000)、抗hAPP抗体(マウスモノクローナル性8E5、Elan Pharmaceuticals、1:1,000)または抗α-チューブリン抗体(マウスモノクローナル性B512、Sigma、1:100,000)で標識し、その後にHRP結合ヤギ抗ウサギIgG(Chemicon、1:5,000)またはヤギ抗マウスIgG(Chemicon、1:10,000)二次抗体とインキュベートした。バンドをECLによって可視化し、Quant One 4.0ソフトウエア(BioRad)を用いて密度測定的に定量した。カルビンジンおよびhAPPのレベルはα-チューブリンレベルに対して標準化した。
【0123】
mRNA定量に関しては、全RNAを単離し、RNeasyキット(Qiagen)を用いてDNA分解酵素処理をした。RT反応物(Applied Biosystems)には120ngの全RNAならびに各2.5μMのランダムヘキサマーおよびオリゴd(T)プライマーを含めた。RT反応の後に、試料を1:60に希釈し、SYBR Green試薬(Molecular Probes)およびABI Prism 7700配列検出装置(Applied Biosystems)を用いるPCRにより分析した。カルビンジン cDNA、hAPP cDNAおよびGAPDH cDNAのレベルは、すべての試料からプールしたcDNAの連続希釈物(1:3)を用いた標準曲線との対比により決定した。標準曲線の勾配は以下の通りであった:カルビンジン -3.48、hAPP -3.51およびGAPDH -3.40。PCR産物の純度は解離曲線によって確認した。RTを反応から省いた場合には明らかなシグナルは全く検出されなかった。GAPDH cDNAレベルは諸遺伝子型の間で同等であったため、それらを試料間でのcDNA含有量の非特異的なばらつきに関する調整のために用いた。

【0124】
統計
統計分析はSPSS 10.0プログラム(SPSS, Chicago, IL)を用いて行った。別に指示する場合を除き、定量データは平均±SEMとして表し、平均間の差は独立両側スチューデントt検定によって評価した。平均間の差は分散分析(ANOVA)およびTukey-Kramer事後検定によって評価した。多変量解析に関しては多段階線形回帰法を行った。齢数を独立変数として含め、可溶性Aβ1-42、APβ-xおよびプラーク量は自然対数尺度で表した。いずれの分析に関してもα=0.05とした。
【0125】
結果
hAPPのニューロン発現が血小板由来増殖因子(PDGF)β鎖プロモーターによって導かれるトランスジェニックマウスにおける形態学的、生化学的および行動学的な変化について調べた。Mucke et al.(2000) J. Neurosci. 20: 4050-4058。
【0126】
系統J20由来のマウスは家族性AD変異型(K670N、M671L、V717F;hAPP770の番号付け)hAPP(hAPPFAD)を発現し、海馬形成物(これは歯状回を含み、学習および記憶に決定的にかかわる)におけるヒトAβが高レベルである。Mucke et al.(2000)、前記。これらの脳領域におけるカルシウム依存性タンパク質の発現を分析した。まず、歯状回のニューロンに特に豊富に存在する28kDカルシウム結合タンパク質であり、カルシウム流入に対して特に応答性が高いカルビンジンについて分析した。
【0127】
ほとんどのhAPPFADマウスでは、歯状回におけるニューロンカルビンジンのレベルが非トランスジェニック対照よりも有意に低かった(図1a)。このカルビンジン低下は、顆粒層、ならびに顆粒細胞が樹状突起を伸ばす分子層において最も顕著であり、一方、海馬のCAI領域内の錐体細胞および放射状層にあるその樹状突起に対しては目立った影響を及ぼさなかった(図1a)。hAPPFADマウス由来の脳切片へのカルビンジンおよびニューロンマーカーNeu-Nに対する二重標識からは、歯状回におけるカルビンジン低下が主として、カルビンジン産生ニューロンの減少ではなくニューロンのカルビンジンレベルの低下を反映していることが示された。
【0128】
AD症例の皮質野におけるカルビンジン陽性ニューロンの減少は以前に観察されているが、本発明者らの知る限り、ADにおける歯状回の顆粒細胞でのカルビンジン減少は報告されていない。実際、顆粒細胞は特にADに付随する細胞死に対する抵抗性が強い。しかし、本発明者らAD症例の歯状回におけるニューロンカルビンジンレベルの大きな低下を見いだしており、最も顕著な欠乏は最も重症の痴呆を有する個体で認められた。これらの結果は、本発明者らがhAPPFADマウスで観察したカルビンジン減少の臨床的意義を裏づけている。これらはまた、ADにおいて細胞死に抵抗するニューロン集団は、依然として分子レベルで劇的に変化しうることも示している。カルビンジン減少がADにおける認知障害と相関する度合いを確かめるためには、より多くの症例を分析する必要があると考えられるが、このような分子的変化が機能的意味を有すると推測することは興味深い。
【0129】
hAPPFADマウスにおけるカルビンジン減少は、6カ月齢では非常に顕著であるが4〜5カ月齢ではほとんど認められないという点で齢数依存的である(図1a)。野生型hAPP(hAPPWT)のニューロン発現がみられる、系統I5由来のPDGF-hAPPトランスジェニックマウス(Mucke et al.(2000)、前記)は、6〜9カ月齢(図1b、I c)でも11〜13および13〜15カ月齢でもカルビンジンの減少を示さず(各群当たり、hAPPWTマウスはn=8〜12、非トランスジェニック対照はn=5〜11)、このことはhAPPFADマウスにおける顕著なカルビンジン減少にFAD変異およびその病態生理学的な結果との因果関係があることを示唆する。
【0130】
6〜7カ月齢のhAPPFADマウスにおけるカルビンジン免疫反応性の低下は、対側の大脳半球の歯状回におけるカルビンジンタンパク質およびmRNAのレベルと密接に相関し(図1cおよび1d)、このことは遺伝子発現に影響を及ぼす機構があることを示している。カルビンジン発現はカルシウムによって強く影響されるため、本発明者らは次に、同じくカルシウムに決定的に依存する即時型遺伝子c-fosの発現について検討した。歯状回の顆粒細胞層におけるc-Fos免疫反応性(IR)ニューロンの数は、hAPPFADマウスでは4〜5カ月齢であっても有意に減少しており、6〜7カ月までにはさらなる減少が認められた(図1e、1f)。後者の時点では、hAPPFADマウスにおけるc-Fosの減少は、分析した歯状回の体軸方向のすべてのレベルで有意であった(図1f)。
【0131】
図1a〜f.歯状回におけるカルビンジンおよびc-Fosの減少が齢数および発現されるhAPPのタイプに依存する。図1a、1b、冠状脳切片を、系統J20のhAPPFADマウス(a)、系統I5のhAPPWTマウス(b)および非トランスジェニック(NTG)同腹子対照から入手した。月齢(mo)での齢数を各図面の上方に示している(齢数および遺伝子型毎にn=10〜13匹)。IOD、総合光学密度。ML、分子層。SR、放射状層。hAPPFADマウスにおける有意なカルビンジン減少は、6〜7、9〜11および14〜15カ月でも検出されたが(齢数および遺伝子型毎にn=4〜8匹)、6カ月齢のものより増悪してはいなかった(非提示データ)。図1c、1d、全タンパク質およびRNAを、系統J20のhAPPFADマウス、系統I5のhAPPWTマウスおよび非トランスジェニック対照の歯状回試料から抽出した。カルビンジンタンパク質(c、d、左)およびmRNA(d、右)のレベルをそれぞれウエスタンブロット分析およびqfRT-PCRによって決定し、カルビンジン/α-チューブリン比(d、左)およびカルビンジン/GAPDH比(d、右)として表した。図1e、1f、系統J20のhAPPFADマウスおよび非トランスジェニック対照(齢数および遺伝子型毎にn=13〜18匹)からの冠状脳切片をc-Fosに関して免疫標識し、顆粒層におけるc-Fos-IRニューロンの相対数を決定した。データは分析した全切片(e)または異なる体軸方向レベルにある歯状回(f)に関する群平均を示している。いずれの図面とも*P<0.05、**P<0.001である。
【0132】
非トランスジェニック対照とは異なり、hAPPFADマウスはカルビンジンおよびc-Fosに関してかなりの個体間変動を示した(図2a)。しかし、hAPPFADマウスにおけるカルビンジンおよびc-Fosの減少は密接に相関しており(図2a)、このことはこれらの変動の基礎をなす機構は非ランダム的で重複していることを示唆する。
【0133】
6-7カ月齢hAPPFADマウス(n=9)の歯状回において、カルビンジン(mRNA、タンパク質またはIR)のレベルは、hAPPFAD(mRNAまたはタンパク質)のレベルとは相関せず(6通りのカルビンジン-hAPPFAD相関のいずれに関してもP>0.7)、このことは、hAPPFADマウスにおけるカルビンジン減少はhAPPFADそれ自体の発現によっては引き起こされないことを示唆する。カルビンジンおよびc-Fosの減少がAβによって引き起こされるか否かを評価するために、本発明者らは、それらとAβ沈着物(プラーク)、可溶性Aβ1-42およびAβ1-xおよびAβ1-42/Aβ1-x比との関係について分析した。hAPPFADマウスにおけるカルビンジンおよびc-Fosの減少はAβ沈着の程度とは相関しなかったが(図2b)、Aβ1-42/Aβ1-x比とは強く相関し(図2c)、これは残基42で終わるAβがその他の、ほとんどはより短いAβペプチドよりも豊富に存在することを反映する。
【0134】
これらの結果は、AD関連ニューロン障害はプラークではなく非沈着性Aβ集合体によって引き起こされるのではないかという多くの証拠と一致する。これらはまた、絶対的な閾値濃度よりも上では、神経毒性Aβ集合体の形成はAβ1-42の絶対レベルよりも相対レベルに依存することを示唆した研究とも一致する。Aβ産生はhAPPレベルに依存するが、神経毒性Aβ集合体の形成はAβと結合するかAβを分解するタンパク質によって大きく影響される可能性がある。このことは、カルビンジンおよびc-Fosの減少がAβ1-42の相対的存在量とは相関したがhAPPFADレベルとは相関しなかった理由の説明になるかもしれない。Aβ集合体がカルビンジンおよびc-Fosのレベルを低下させる厳密な機序はまだ明らかにされていない。これには、慢性炎症、細胞膜における孔の形成、ならびにカルシウムチャンネルおよびその他の膜タンパク質の変化によるニューロンのカルシウムホメオスタシスの不安定化が関与している可能性がある。
【0135】
図2a〜c.カルビンジン、c-Fos、プラーク量およびAβレベルの関係.系統J20由来のhAPPFADマウス(図2a-c)および非トランスジェニック対照(図2a)から脳切片および急速凍結した海馬を入手した。RおよびP値はhAPPFADマウスのみを指す。図2a、歯状回におけるカルビンジンおよびc-Fos-IR顆粒細胞の相対的レベルは、hAPPFADマウスでは強く相関したが、非トランスジェニック対照ではそうではなかった(遺伝子型ごとにn=48〜60、齢数:4〜7カ月)。図2b、カルビンジンもc-Fos-IR顆粒細胞も、早期プラーク形成を有するhAPPFADマウスにおける海馬プラーク量とは相関しなかった(n=39、齢数:4〜7カ月)。図2c、Aβ1-42およびAβ1-x(ほぼAβ全体)の海馬レベルを、幅広い齢数(4〜22カ月、平均±SD:10.7±6.7カ月)hAPPFADマウス(n=18)において決定した。カルビンジンおよびc-Fos-M顆粒細胞のレベルはAβ1-42/Aβ1-x比と逆相関したが、プラーク量とは相関しなかった(P>0.6)。
【0136】
hAPPFADマウスにおけるカルビンジンおよびc-Fosの減少病態生理学的意義をさらに評価するために、本発明者らは、hAPPFADマウスおよび非トランスジェニック対照を、学習および記憶の推定的指標を与えるモリス水迷路試験にて分析した。hAPPFADマウスにおける行動障害はニューロンでのカルビンジンおよびc-Fosの減少と強い関連性を示した(図3A〜I)。
【0137】
hAPPFADマウスの大半は視認しうるプラットフォームへの到達を学習し、これは効率的な手がかり付き学習を行うことを示すが(セッション1〜4)、隠されたプラットフォームの位置を探し出すために迷路外の手がかりを用いる必要のある、試験の空間的要素の点では有意な障害が認められた(セッション5〜10)(図3a)。また、これらのhAPPFADマウスは、記憶保持の推定的指標を与えるプローブトライアル(図3b)にも障害がみられた。しかし、これらは泳速の点では非トランスジェニック対照と差がなく(図3c)、このことからプラットフォーム隠蔽セッションにおけるそれらの脱出潜時の長さは運動障害には起因しないことが示唆された。
【0138】
非トランスジェニック対照、および手がかり付き学習ではなく空間学習の点で障害のあるhAPPFADマウスにおいて、歯状回におけるカルビンジンレベルは手がかり付き学習とは相関しなかった(図3d)。hAPPFADマウスおよび非トランスジェニック対照におけるカルビンジンレベルは、明らかな空間学習が対照で認められるようになる前の(図3a)プラットフォーム隠蔽訓練の最初の2回のセッションでの成績とも相関しなかった(図3e、セッション5〜6)。しかし、非トランスジェニックマウスとは異なり、hAPPFADマウスは、空間学習が対照マウスで明らかに起こった(図3a)プラットフォーム隠蔽訓練の後半4つのセッションでは、カルビンジンレベルと空間学習障害との間に密接な相関を示した(図3e、セッション7〜10)。脱出潜時および経路長をすべてのプラットフォーム隠蔽試行に関して平均した場合にも、この相関は強いままであった(図3f)。hAPPFADマウスではc-Fos-IR顆粒細胞の相対的レベルも空間学習と強く相関したが非トランスジェニック対照では相関しなかった(図3g)。
【0139】
いくつかのhAPPFADマウスは、手がかり付き学習にも明らかな障害があったため、空間学習の以上の分析から除外した(図3h)。興味深いことに、これらのマウスではカルビンジンおよびc-Fos-IR顆粒細胞がいずれも最も著しく減少していた(図3i)。これらの高度の行動障害の基礎をなす機序は、より選択的な空間学習障害の原因となるものとは(図3a-g)、量的、質的またはその両方の点で異なる可能性がある。水迷路試験の視認性および隠蔽性プラットフォームの要素は部分的に重複した認知機能を含むように思われ、障害が一方の要素から他方に波及している可能性がある。海馬形成の選択的な病変は一般に、試験の手がかり付き要素ではなく空間的な要素を障害させるが、ADは海馬のほかに多くの脳領域を冒し、空間学習障害に加えて他の認知障害が伴う。hAPPFAD/Aβの広範囲にわたるニューロン発現は、高度の障害のあるトランスジェニックマウスにおいて同様の影響を及ぼす可能性がある。
【0140】
図3a〜i.カルビンジンおよびc-Fosの減少は行動障害と密接に相関する。系統J20由来のhAPPFADマウス(黒のドットまたはカラム)および非トランスジェニック同腹子対照(白抜きドットまたはカラム)(遺伝子型ごとにn=12匹の雄、齢数:6〜7カ月)をモリス水迷路で訓練した。行動試験の後に、歯状回におけるカルビンジンおよびc-Fos-IRニューロンの相対的レベルを測定した。図3a〜c、非トランスジェニック対照(n=12)およびhAPPFADマウス(n=8)の学習曲線(図3a)、プローブトライアルの成績(図3b)および平均泳速(図3c)であり、プラットフォームを隠した場合には学習障害がみられるが視認しうる場合にはないことを示している。反復測定値のANOVAによる(図3a)におけるセッション効果から、hAPPFADマウスは手がかり付き課題は学習するが(P<0.001)、空間的課題は学習せず(P>0.95)、一方、非トランスジェニック対照は両方の課題を学習することが判明した(P<0.001)。(図3c)における平均泳速を、それぞれのセッションで行ったすべての試行でのセッション5および10に関して算出した。図3d〜e、相対的カルビンジンIRレベルと、プラットフォームが可視(図3d)または不可視(図3e)であるセッション中の脱出潜時との関係。セッションの順序については(図3a)を参照されたい。ドットは、各図面の上に示したセッションから算出した個々のマウスの平均潜時値を表す。バーは、表記の訓練セッションにおけるhAPPFADマウスに関する線形回帰式(y=a+bx)における勾配係数「b」を表す。図3f、相対的カルビンジンレベルと、プラットフォーム隠蔽訓練の全セッションに関して算出した平均脱出潜時(左)および経路長(右)との相関。カルビンジンレベルは、試験の視認性(P=0.86)および隠蔽性(P=0.47)プラットフォーム要素のいずれにおいても平均泳速と相関しなかった。図3g、c-Fos-IR顆粒細胞の相対的レベルと、(図3f)において算出した平均脱出潜時(左)および経路長(右)との相関。非トランスジェニック対照において同定されたcFos-IR顆粒細胞の平均数を1.0として任意に定義した。図3h、4匹のhAPPFADマウス(グレーのカラム)は、視認性プラットフォーム訓練でも、平均潜時(セッション3および4における全試行の平均)が非トランスジェニック対照における平均潜時+2SDを上回るものと今回定義した有意な障害を示したことから、以上の分析から除外した。他のマウスとは異なり、この群のhAPPFADマウスは、水迷路から脱出させた時には試験者に対して正しい向きをとったものの(提示せず)、視認しうるプラットフォームを確実には見いだすことができなかった。図3i、非トランスジェニック対照およびhAPPFADマウス(視認性プラットフォーム訓練における障害を示したもの、または示さなかったもの)におけるカルビンジンおよびc-Fos-IR顆粒細胞の相対的レベル。*P<0.05。(図3e-g)におけるRおよびP値はhAPPFADマウスのみを表す;非トランスジェニック対照では有意な相関は特定されなかった。
【0141】
図4〜10は、アミロイド関連病態の動物モデルにおける、その他のカルシウム依存性タンパク質のレベルの変化に関する証拠を提示している。図4は、hAPPFADマウスにおける、苔状線維でのNPYの異所性発現、および分子層での異常NPY/GABA作動性神経発芽を示している。図5は、分子層における異常NPY/GABA作動性神経発芽がカルビンジン減少と相関するという観察所見を示している(NTG;非トランスジェニック性)。図6は、hAPPFADマウスにおける苔状線維でのNPYの異所性発現を示している。図7は、苔状線維における異所性NPY発現がカルビンジン減少と相関するという観察所見を示している。図8は、hAPPFADマウスの分子層ではα-アクチニン-IIが著しく減少しているという観察所見を示している。図9は、hAPPFADマウスにおけるα-アクチニン-IIの欠乏がカルビンジン減少と相関するという観察所見を示している。図10は、hAPPFADマウスにおける、カルビンジン免疫反応性(IR)の低下とカルビンジンタンパク質およびmRNAの減少との相関を示している。
【0142】
hAPPFAD/Aβがニューロンのカルビンジンおよびc-Fosレベルをインビボで低下させるのに十分であり、この影響が行動障害と密接な関連性があるという著者らの所見には、特に、トランスジェニックマウスモデルにおけるADに対する新規治療法を評価するための取り組みが増加しつつあることを考慮すれば、実際的な意味がある。マウスの行動試験は時間がかかる上、異なる研究施設で得られた試験の結果はかなり異なる可能性がある。Crabbe, J. C., Wahlsten, D. & Dudek, B. C. 「マウスの行動の遺伝学:実験環境との相互作用(Genetics of mouse behavior: Interactions with laboratory environment)」、Science 284, 1670-1672 (1999)。行動障害に関する信頼しうる分子指標があれば、これらの障壁が克服され、AD治療法の前臨床評価が容易になる。
【0143】
本発明をその具体的な態様を参照しながら説明してきたが、当業者には、発明の真の精神または範囲を逸脱することなく、さまざまな変更を加えうること、および同等物と置換しうることは理解されるはずである。さらに、特定の状況、材料、物質の組成物、工程、工程の1つまたは複数の段階を本発明の目的、精神および範囲に対して適合させるために、多くの変更を加えることも可能である。このような変更はすべて本明細書に添付される請求の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】A〜Fは、歯状回におけるカルビンジンおよびc-Fosの減少が齢数および発現されるhAPPのタイプに依存することを示す結果を示している。
【図2】A〜Cは、カルビンジン、c-Fos、プラーク量(plaque load)およびAβレベルの間の関係を示している。
【図3】A〜Iは、カルビンジンおよびc-Fosの減少が行動障害と密接に相関することを示す結果を示している。
【図4】hAPPFADマウスにおける、苔状線維でのニューロペプチドY(NPY)の異所性発現、および分子層での異常NPY/GABA作動性神経発芽を示している。
【図5】分子層における異常NPY/GABA作動性神経発芽がカルビンジン減少と相関するという観察所見を示している(NTG;非トランスジェニック性)。
【図6】hAPPFADマウスにおける苔状線維でのNPYの異所性発現を示している。
【図7】苔状線維における異所性NPY発現がカルビンジン減少と相関するという観察所見を示している。
【図8】hAPPFADマウスの分子層ではα-アクチニン-IIが著しく減少しているという観察所見を示している。
【図9】hAPPFADマウスにおけるα-アクチニン-IIの欠乏がカルビンジン減少と相関するという観察所見を示している。
【図10】hAPPFADマウスにおけるカルビンジン免疫反応性(IR)の低下とカルビンジンタンパク質およびmRNAの減少との相関を示している。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物モデルにおけるアミロイドペプチド関連神経障害を検出するための方法であって、
動物モデルの脳組織におけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルを検出する段階を含み、
正常対照動物に関連するカルシウム応答遺伝子産物のレベルとは異なるカルシウム応答遺伝子産物のレベルが脳組織において検出されることにより、その動物におけるアミロイドペプチド関連神経障害が示される方法。
【請求項2】
非ヒト動物モデルが、アルツハイマー病のhAPPFAD/Aβトランスジェニック非ヒト動物モデルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
脳組織が海馬脳試料である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
脳組織が歯状回の顆粒細胞である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
カルシウム応答遺伝子産物が、カルビンジンポリペプチド、ニューロペプチドYポリペプチド、α-アクチニンIIポリペプチドおよびホスホ-ERKポリペプチドより選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
カルシウム応答遺伝子産物が、カルビンジンmRNA、ニューロペプチドY mRNA、α-アクチニンII mRNAおよびホスホ-ERK mRNAより選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
神経障害が空間学習障害である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
アミロイドペプチド関連神経障害を治療するための候補薬剤(candidate agent)を同定するための方法であって、
アミロイドペプチド関連神経障害の非ヒト動物モデルに対して被験薬剤を投与する段階;および
その動物の脳組織におけるインビトロでのカルシウム応答遺伝子産物のレベルを検出する段階を含み、
薬剤の非存在下におけるカルシウム応答遺伝子産物のレベルとは有意に異なるカルシウム応答遺伝子産物のレベルが脳組織において検出されることにより、被験薬剤がアミロイドペプチド関連神経障害を治療するための候補薬剤であることが示される方法。
【請求項9】
非ヒト動物モデルが、アルツハイマー病のhAPPFAD/Aβトランスジェニック非ヒト動物モデルである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
脳組織が海馬脳試料である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
脳組織が歯状回の顆粒細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
神経障害が空間学習障害である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
カルシウム応答遺伝子産物が、カルビンジンポリペプチド、ホスホ-ERKポリペプチドおよびα-アクチニンIIポリペプチドより選択される、請求項8記載の方法。
【請求項14】
カルシウム応答遺伝子産物が、カルビンジンmRNA、ホスホ-ERK mRNAおよびα-アクチニンII mRNAより選択される、請求項8記載の方法。
【請求項15】
生きた対象におけるアミロイドペプチド関連神経障害を検出する方法であって、カルシウム応答遺伝子産物と結合する、検出可能なように標識された薬剤を対象に投与する段階;および、その個体の歯状回における薬剤とカルシウム応答遺伝子産物との結合を検出する段階、を含む方法。

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate

【図3E】
image rotate

【図3F】
image rotate

【図3G】
image rotate

【図3H】
image rotate

【図3I】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2006−521115(P2006−521115A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509314(P2006−509314)
【出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/009216
【国際公開番号】WO2004/084711
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505438764)
【Fターム(参考)】