説明

神経障害性疼痛の抑制および治療

本発明は、対象における神経障害性疼痛の発症を抑制するか、またはそれを治療する方法であって、以下の式、すなわち、X1−X2−X3(I)またはX1−X2(II)のペプチドを有効量、上記対象に投与するステップを含み、式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;X2が酸性アミノ酸であり;かつ式(I)中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法を提供する。これらのペプチドは、神経損傷または脊髄損傷を治療するか、またはそのような損傷後の慢性の神経学的転帰を改善するのに使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、神経障害性疼痛の治療と、その発症の抑制とに関する。
【0002】
発明の背景
通常、疼痛は、組織損傷の自然な結果であり、多くの場合、治癒の過程と共に解消する。疼痛の2つの基本的な型、すなわち急性および慢性を識別することができる。急性疼痛または侵害受容性疼痛は、通常、自己限定的であり、有害化学物質、熱刺激、および機械刺激によって引き起こされる進行中の組織損傷に関して警告することによって、防御的な生物学的機能を果たす。急性疼痛の主要媒介因子は、皮膚、骨、結合組織、筋、および内臓に位置するAδ線維およびC線維上の受容体を刺激する発痛物質(例えば、ヒスタミン、ブラジキニン、サブスタンスPなど)である。侵害受容性疼痛の例には、術後痛、外傷関連の疼痛、および関節炎関連の疼痛が含まれる。
【0003】
一方、慢性疼痛は、防御的な生物学的機能を果たさず、苦痛な刺激の不十分な解消を反映するものであるか、それ自体が疾患の過程である。慢性疼痛は、たゆまないものであり、自己限定的ではなく、最初の損傷後、何年もの間、そして何十年間もの間までも持続しうる。慢性疼痛は、大部分は、実際は神経障害性であり、末梢神経系または中枢神経系への損傷に関与している。神経障害性疼痛は、神経系における一次病巣、機能不全または機能障害によって引き起こされる。そのような疼痛は、実際は、「灼けつく」、「電気的」、「ピリピリした」、「電撃的」などと描写される。上記疼痛は、持続的に現れることも、発作的に現れることもある。
【0004】
神経障害性疼痛は、末梢神経系もしくは中枢神経系への損傷、またはそれらにおける病理学的な変化の結果として発症する。多くの神経損傷が、スポーツおよびレクリエーション活動に関連したストレスならびに過労などの外因から生じるか、あるいは自動車事故で生じる転倒、急激な衝撃、もしくは衝突、襲撃、または火器もしくはナイフによる貫通創の結果として発症する。他の神経損傷は、内因を有し、脳卒中、ウイルス感染、腫瘍、無酸素、低酸素、毒素、変性疾患、アレルギー、ストレス、関節リウマチ、妊娠中の体液貯留、閉経、または心臓および腎臓病の結果として生じる。
【0005】
良好な転帰には、神経障害性疼痛の早期認識および積極的管理が重要である。
【0006】
したがって、最終的に神経障害性疼痛の発症を引き起こしうる状態を抑制できる薬剤を用いた治療を開始することが望ましい。炎症誘発性サイトカイン(腫瘍壊死因子、インターロイキン−1、およびインターロイキン−6)の選択的阻害薬/アンタゴニスト、活性酸素種、および補体が、坐骨神経炎症性の神経症によって引き起こされた異痛を軽減することが示されている(Twining CM、Sloane EM、Milligan ED、Chacur M、Martin D、Poole S、Marsh H、Maier SF、Watkins LR.、Pain.、2004年7月、110(1−2):299−309)。メチルプレドニゾロンコハク酸ナトリウムなどの一部の薬剤は、脊髄損傷(SCI)を含めた外傷性神経損傷を治療するために一部のセンターで使用されているが、ささやかな有益性があるのみで、また、他の治療の有益な作用を無効にしうる(Gorio A、Madaschi L、Di Stefano B、Carelli S、Di Giulio AM、De Biasi S、Coleman T、Cerami A、Brines M.、Proc Natl Acad Sci USA.、2005年11月8日、102(45):16379−84)。この結果は、メチルプレドニゾロンが、SCIのラットモデルで酸化損傷を低減する(Kalayci M、Coskun O、Cagavi F、Kanter M、Armutcu F、Gul S、Acikgoz B.、Neurochem Res.、2005年3月、30(3):403−10)ことを考慮すると驚くべきものであり、ROS産生を抑制する一部の薬剤が必ずしも神経障害の転帰の改善をもたらすわけではないことを示している。また、抗炎症剤として使用されており、侵害受容性疼痛を抑制できるロイコトリエン受容体拮抗薬は、慢性疼痛を治療するのに使用した場合には無効である(Cartmell MT、O’Reilly DA、Porter C、Kingsnorth AN.、J Hepatobiliary Pancreat Surg.、2004年、11(4):255−9)。
【0007】
一部の患者には高用量のオピオイドが有効でありうるが、ほとんどの神経障害性疼痛は、NSAIDSおよびオピオイド鎮痛薬に対する応答が不十分である。盛んに論じられている選択的セロトニン再取込み阻害薬は、神経障害性疼痛に対して有効であることが証明されていない。局部麻酔ブロックによる治療は、短期的効果しか有さない。
【0008】
神経障害性疼痛の新規治療の必要性が依然として存在する。
【0009】
顎下腺は、経口および全身性の免疫反応および炎症反応の調節に関与する内分泌性因子を分泌する(Mathisonら、(1994年)、Immunol.Today、15巻、527〜532頁)。恒常性調節に関与するペプチドの1つが顎下腺ペプチドT(SGP−T;アミノ酸配列TDIFEGG)であり、これは1μg/kgほどの低用量でも生物学的作用を示す(Mathisonら、(1997年)、Dig.Dis.Sci.、42巻、2378〜2383頁)。SGP−Tが、トリペプチドのFEGに末端切除された場合でも、生物活性が維持されることが構造活性相関研究によって示されており、さらに、FEGの多くの類似体および変異体が生物活性を有することも示されている(米国特許第6852697号および米国特許第6586403号)。神経障害性疼痛の治療または抑制においてこれらのペプチドが効力を有するということは、以前には示されていない。
【0010】
発明の概要
本発明は、慢性疼痛または神経障害性疼痛の発症に関連した状態または状況で、改善された神経学的転帰をもたらすか、あるいは慢性疼痛または神経障害性疼痛を治療する新規方法を提供する。
【0011】
一実施形態では、本発明は、対象における神経障害性疼痛の発症を抑制するか、またはそれを治療する方法であって、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドを有効量、上記対象に投与するステップを含み、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法を提供する。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、神経損傷または脊髄損傷を治療する方法であって、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドを有効量、上記対象に投与するステップを含み、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法を提供する。
【0013】
さらに別の実施形態では、本発明は、神経障害性疼痛の発症に関連した状態を患っている対象を治療する方法であって、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドを有効量、上記対象に投与するステップを含み、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法を提供する。
【0014】
さらに別の実施形態では、本発明は、対象における神経損傷後または脊髄損傷後の慢性の神経学的転帰を改善する方法であって、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドを有効量、上記対象に投与するステップを含み、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法を提供する。
【0015】
さらに別の実施形態では、X1が、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、フェニルグリシン、ノルメチルフェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、およびノルロイシンからなる群から選択される。
【0016】
さらに別の実施形態では、X2がグルタミン酸である。
【0017】
さらに別の実施形態では、X3が、DもしくはL−アラニン、β−アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、サルコシン、メチオニン、およびγ−アミノ酪酸からなる群から選択されるアミノ酸残基であるか、または1から3個のグリシン残基である。
【0018】
さらに別の実施形態では、本発明の方法で投与されるペプチドが、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−アラニン、D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−D−アラニン、D−チロシン−D−グルタミン酸−グリシン、L−フェニルグリシン−L−グルタミン酸−グリシン、L−ノルメチルフェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、D−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン、L−ノルロイシン−L−グルタミン酸−グリシン、L−メチオニン−L−グルタミン酸−グリシン、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−メチオニン、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−イソロイシン、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−β−アラニン、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−サルコシン、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−γ−アミノ酪酸、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸、D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸、D−チロシン−D−グルタミン酸、L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸、またはD−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸のうちの少なくとも1つである。
【0019】
さらに別の実施形態では、投与されるペプチドが、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン、L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、またはD−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸−グリシンである。
【0020】
さらに別の実施形態では、本発明は、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドであって、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されているペプチドの、神経障害性疼痛の発症を抑制するか、またはそれを治療する薬物を調製するための使用を提供する。
【0021】
さらに別の実施形態では、本発明は、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドであって、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されているペプチドの、神経損傷または脊髄損傷を治療する薬物を調製するための使用を提供する。
【0022】
さらに別の実施形態では、本発明は、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドであって、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されているペプチドの、神経障害性疼痛の発症に関連した状態を患っている対象を治療する薬物を調製するための使用を提供する。
【0023】
さらに別の実施形態では、本発明は、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドであって、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、上記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されているペプチドの、神経損傷後または脊髄損傷後の慢性の神経学的転帰を改善する薬物を調製するための使用を提供する。
【0024】
図面の概要
本発明の特定の実施形態は、添付図面を参照して説明される。添付図面において、
図1aは、脊髄損傷後の、示されている時(週)(X軸)における、feGペプチドで処置されたラット(黒塗り四角)および対照(白抜き四角)の運動スコア(Y軸)を示す。*対照と比較すると、p<0.05。
【0025】
図1bは、脊髄損傷後の、示されている時(週)(X軸)における、feGで処置されたラット(黒塗り四角)および対照(白抜き四角)の回避反応(Y軸)を示す。*対照と比較すると、p<0.05。
【0026】
発明の詳細な説明
本明細書で使用される場合、「神経障害性疼痛」には、神経障害性疼痛と、神経因性疼痛(この用語は、時には文献中で神経障害性疼痛の別名として使用され、時には一過性疼痛を指し、「神経障害性」という用語はより慢性的な状態のために残している)と、通常は疼痛ではない刺激が罹患対象中で疼痛を引き起こす障害である異痛と、通常も疼痛である刺激が罹患対象中で正常レベルを超える疼痛を引き起こす痛覚過敏と、幻痛とが含まれる。
【0027】
トリペプチドであるfeG(D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン)は、ラットモデルで、脊髄損傷後における慢性の神経学的転帰を改善することが示されている。脊髄損傷ラットでは、広範な薬理学的介入が、機械的異痛に対して短期的な効果しか有さないことが示されている。対照的に、feG治療は持続的な効果を有し、それによって、損傷部位の下で誘発された機械的異痛が50%ほども抑制された。feG処置の後、運動機能が有意に改善され、損傷の7週間後に観察を終えたとき、処置群のスコアは依然として増大していた。一方、対照ラットのスコアは、損傷の約3週間後にプラトーに達した。
【0028】
feGペプチドは、上記の背景の節で論じた、feGの他の生物活性を共有するペプチドの群を代表するものである。そのようなペプチドには、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン(FEG)、D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン(feG)、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−アラニン(FEA)、D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−D−アラニン(fea)、D−チロシン−D−グルタミン酸−グリシン(yeG)、L−フェニルグリシン−L−グルタミン酸−グリシン((Phg)EG)、L−ノルメチルフェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン((NMeF)EG)、L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン((Cha)EG)、D−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン((cha)eG)、L−ノルロイシン−L−グルタミン酸−グリシン((Nle)EG)、L−メチオニン−L−グルタミン酸−グリシン(MEG)、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−メチオニン(FEM)、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−イソロイシン(FEI)、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−β−アラニン(FE−β−アラニン)、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−サルコシン(FE−サルコシン)、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−γ−アミノ酪酸(FE−γ−アミノ酪酸)、L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸(FE)、D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸(fe)、D−チロシン−D−グルタミン酸(ye)、L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸((Cha)E)、およびD−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸((cha)e)が含まれる。
【0029】
本発明の方法および使用で用いられるペプチドは、任意選択で、C末端カルボキシル基でアミド化されていてよい。
【0030】
fdG(D−フェニルアラニン−D−アスパラギン酸−グリシン)ペプチドは、本明細書に記載の、慢性の神経学的転帰を改善する活性を有していなかった。これは、活性であるためには、式Iにおける位置X2の酸性アミノ酸が、グルタミン酸のように、カルボキシル基とアミノ酸バックボーンとの間に少なくとも2個のメチレン基を必要とすることを示している。
【0031】
式Iおよび式IIの構造に関して、本明細書で使用される場合、「酸性アミノ酸」は、カルボキシル基とアミノ酸バックボーンとの間に2個以上のメチレン基を有する酸性アミノ酸を意味する。
【0032】
神経障害性疼痛の発症を抑制するとは、そうしなければ、続く神経障害性疼痛の発症に関連した損傷または状態を患っている対象で発症するであろう神経障害性疼痛のレベルを低減させることを意味する。そのような損傷および状態には、脊髄損傷、および例えば関節脱臼によって引き起こされる神経の極端な伸長から、例えば外圧に起因する神経への血液供給の減少から、または外傷に起因する神経の火傷もしくは切断から生じる末梢神経損傷が含まれる。そうしなければ発症するであろう疼痛のレベルを低減させることは、部分的な低減から完全な低減まで及ぶ。
【0033】
神経障害性疼痛を治療するとは、神経障害性疼痛を患っている対象における神経障害性疼痛の症状を改善することを意味する。
【0034】
神経損傷および神経障害性疼痛は、疾患の結果として生じうるものであり、そのような疾患には、脳卒中、感染、腫瘍、無酸素、低酸素、糖尿病、代謝症候群、毒物曝露、変性疾患、およびアレルギー反応が含まれる。
【0035】
「有効量」は、神経障害性疼痛または異痛の1つまたは複数の症状の改善を生じさせるのに十分な量を意味する。
【0036】
対象は、ヒト、またはイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ウサギ、ラット、およびマウス、ならびに他のペットもしくは家畜を含めた非ヒト動物でありうる。
【0037】
本発明の方法で使用するためのペプチドは、当業者に知られている任意の適切なペプチド合成方法によって調製することができる。
【0038】
化学合成を利用してもよい。例えば、標準的な固相ペプチド合成技法を用いてもよい。標準的な固相ペプチド合成において、市販の機器を用いて様々な長さのペプチドを調製することができる。この機器は、例えばApplied Biosystems社(カリフォルニア州フォスターシティー(Foster City)所在)から入手できる。ペプチド合成の反応条件は、副反応を防止するため、そして高収量を得るために、立体化学中心の異性化を阻止するように最適化される。ペプチドは、標準的な自動化プロトコルを用い、t−ブトキシカルボニル−α−アミノ酸を使用し、干渉基のブロッキング、反応させるべきアミノ酸の保護、連結、脱保護、および非反応残基のキャッピングに関する製造業者の指示に従って合成する。固体支持体は、概ね、ポリスチレン樹脂をベースにしたものであり、この樹脂は、成長中のペプチド鎖の支持体としても、カルボキシ末端の保護基としても働く。樹脂からの切断によって、遊離のカルボキシル酸が生じる。ペプチドは、例えば、調製用C18逆相カラム上で、0.1%トリフルオロ酢酸中のアセトニトリル勾配を用いてHPLC技法を行い、その後真空乾燥させることにより精製する。必要なペプチドは、液相ペプチド化学によっても産生できる。
【0039】
ペプチドは組換え合成によって産生させることができる。所望のペプチドをコードするDNA配列を調製し、発現プラスミドDNA中にサブクローニングする。適切な哺乳動物発現プラスミドには、Invitrogen社のpRC/CMVが含まれる。この遺伝子コンストラクトを、Cos細胞系またはCHO細胞系などの適切な細胞系で発現させ、発現されたペプチドを、従来の方法によって抽出および精製する。ペプチドの組換え合成に適した方法は、Sambrookら、(1989年)、「Molecular Cloning」(Cold Spring Harbor,Lab.Press社、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor)所在)に記載されている。類似の合成方法によってペプチドの誘導体を調製してもよい。本発明によって企図されている側鎖修飾の例には、アルデヒドとの反応による還元アルキル化と、その後の、NaBH4を用いた還元とによるもの;メチルアセトイミデートを用いたアミド化によるもの;無水酢酸を用いたアセチル化によるもの;2,4,6,トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基のカルバミル化によるもの;無水コハク酸およびテトラヒドロフタル酸無水物を用いたアミノ基のアルキル化によるもの;ならびにピリドキサール−5’−リン酸を用いたリジンのピリドキシル化と、その後のNaBH4を用いた還元とによるものなどのアミノ基の修飾が含まれる。
【0040】
多くの状況で、脊髄損傷、事故、自動車衝突事故、襲撃およびレクリエーション活動から生じた損傷、脳卒中、または毒物の摂取などの特定の事象の結果として、神経障害性疼痛の発症の可能性が高いことが予期できる。そのような事象を経験し、神経障害性疼痛を発症する危険性の高い対象は、神経障害性疼痛の発症を抑制または軽減するために上記事象の後できるだけ早く開始される、本発明の方法による治療の候補である。治療は、任意の望ましい期間、例えば数日間から数週間、毎日続けることができる。
【0041】
当業者に知られている通り、ペプチドは、治療のため、様々な処方で、注射によって投与しても、または経口、経鼻、口腔内、舌下、直腸、膣内、経皮、もしくは経眼経路によって投与してもよい。
【0042】
経口投与用に、例えば化学修飾、プロテアーゼ阻害剤の処方および使用に基づいた様々な技法を用いて、安定性を改善することができる。安定性は、ベチダミノ酸(betidamino acid)などの合成アミノ酸を使用するか、または代謝的に安定な類似体を調製すれば改善することができる。
【0043】
製剤は、安定性の改善のために、例えば水/油型エマルション中、またはリポソーム中に処方してもよい。ペプチドの保護をもたらすために、アプロチニン、ダイズトリプシン阻害剤、またはFK−448などのプロテアーゼ阻害剤を、経口投与されるペプチドに随伴させてもよい。ペプチド性薬物の経口製剤を調製するのに適した方法は、例えばLundinら、(1986年)、Life Sci.、38巻、703〜709頁;Saffranら、(1979年)、Can J.Biochem.、57巻、548〜553頁;およびVilhardtら、(1986年)、Gen Pharmacol.、17巻、481〜483頁に見出すことができる。
【0044】
鼻腔は、表面積が大きく、血管網が張り巡らされているので、特に吸収促進薬を同時投与した場合、親油性薬物および親水性薬物の両方の吸収に良い部位となっている。Amidonら、(1994年)、Rev.Pharmacol.Toxicol.、34巻、321〜341頁に記載されている通り、ペプチドベースの薬物の経鼻吸収は、アミノボロン酸誘導体であるアマスタチンおよび他の酵素阻害剤を吸収促進薬として用いることによって、ならびにグリコール酸ナトリウムなどの界面活性物質を用いることによって改善することができる。経皮経路は、送達の良好な制御と、長期間にわたる薬物の治療濃度の維持とをもたらす(Amidonら、同上:Choiら、(1990年)、Pharm.Res.、7巻、1099〜1106頁)。ペプチドの全身への到達をもたらすために、皮膚透過性を増大させる手段が望ましい。例えば、荷電ペプチドの能動的な原動力としてイオン泳動を用いることができ、または非イオン表面活性剤であるn−デシルメチルスルホキシド(NDMS)などの化学的増強剤を用いることができる。
【0045】
血漿内半減期を増大させるために、ペプチドをポリエチレングリコール、デキストラン、またはアルブミンなどの水溶性重合体と結合させても、または重合体マトリックスなどの薬物送達系に組み入れてもよい。
【0046】
より一般的には、ペプチド投与の特定の形態に適した製剤は、例えば、「Peptide and Protein Drug Delivery」、(1991年、Lee,V.H.L.、Marcel Dekker社、ニューヨーク州ニューヨーク所在)、または「Protein Formulation and Delivery(Drugs and the Pharmaceutical Sciences:a Series of Text books and Monographs」、(2000年、McNally,E.J.、Marcel Dekker社、ニューヨーク州ニューヨーク所在)に記載されている。
【0047】
所与の対象で必要な特定の用量は、主治医が決定できる。当業者が理解している通り、特定の対象の反応に基づいた用量調節を用いて、1μgから1000μgペプチド/kg体重の範囲の開始用量を利用することができる。
【0048】
上記ペプチドは、それらを食物製品または飲料製品に添加することによって、食品補助剤として処方してもよい。食品添加物としてのペプチドの使用、および食物または飲料製品中へのそれらの組み入れは、食品加工分野の当業者には周知である。上記ペプチドが天然アミノ酸のみを含有する場合、これらの産物は天然薬および天然健康製品を支持する人々にとって魅力的なものである。
【0049】
実施例
実施例は、例示を目的として記述するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0050】
この開示および実施例で、明確に説明されてはいないが言及されている化学的、生化学的、および免疫学的方法は、科学文献に報告されており、当業者には周知のものである。
【0051】
方法
動物の準備
機械的異痛および後肢の運動を評価するのに、17匹の個別に収容された雄性Wistar系ラット(Charles River社、ケベック州セントコンスタント(St.Constant)所在、250〜320g)を用いた。これらの検査では、ホルモン周期が神経障害性疼痛の評価における交絡変数となるのを回避するために雄を用いた。すべてのプロトコルは、「カナダにおける実験動物の管理および使用に関するガイド(Canadian Guide to Care and Use of Experimental Animals)」に記載のガイドラインに従って実行した。すべての実験は、動物の倫理的な使用に関する国際的ガイドラインに従い、使用される動物の数とそれらの苦痛を最小限にとどめた。以前に記載の通り(Grisら、(2004年)、J.Neurosci.、24巻、4043〜4051頁;Weaverら、(2001年)、J.Neurotrauma、18巻、1107〜1119頁)、すべてのラットに手術前投薬および外科的介入用のハロセン麻酔を行い、クリップの加圧による脊髄損傷(SCI)を生じさせた。第12胸部(T12)脊髄セグメントを露出させるために、背側椎弓切除術を行った。60秒間、クリップで加圧することによって、硬膜または隣接している後根を破壊せずに、脊髄を損傷させた。35gに較正された改良動脈瘤クリップ(トロント大学トロント西研究所(Toronto Western Research Institute,University of Toronto)、カナダ国オンタリオ州トロント所在)を用いて、T12セグメントに中程度の損傷を与えた。以前に記載(Gris、同上)の通り、ラットに術後処置を行った。このクリップ加圧モデルは、ヒト脊髄損傷で一般的に見られる主要な病態生理学的特徴を模倣する脊髄損傷モデルとして当技術分野で受け入れられている。以前の記載(Bruceら、Exp.Neurol.、178巻、33〜48頁;Gris同上)の通り、運動機能および機械的異痛を評価するために、処置ラットを7週間検査した。
【0052】
feGを用いた処置のプロトコル
盲検的に動物を対照または治療群に割り当てた。治療群(n=7)には、feG[フェニルアラニン−(D)グルタミン酸−(D)グリシン]ペプチド(200μg/kg)を投与した。対照の損傷ラットには、生理食塩水(n=4)または無効なペプチドであるフェニルアラニン−(D)アスパラギン酸−(D)グリシン(fdG)のいずれかを投与した(n=6;200μg/kg)。食塩水処置ラットは、このプロジェクトのためのパイロット検査の一部であったが、これらの動物から得られた結果はfdG処置ラットのものと相違がなかったので、これら2つの対照群は併合された。上記ペプチドは、SCIの2、12、24、36、48、および60時間後における6回の連続した大量瞬時投与として、尾部静脈を介して静脈内注射した。これらの注射には麻酔は必要ではなかった。この検査はSCIの7週間後に完了した。すべての試験およびデータ分析は、各動物が受けた処置を知らされていない検査員が行った。
【0053】
feG、fdGまたは食塩水で処置された動物は、T12損傷からの典型的な回復に従った。この治療の明白な副作用は認められなかった。これらのラットは、損傷の24時間以内に飲食を開始し、それらの前肢を用いて、そして最終的にはそれらの後肢を用いてそれらのケージ内を動き回った。ラットの体重はSCI後の7週間で増加し、検査の終了時には、対照の体重は336±10.4g、feG処置ラットの体重は359±15.8gであった。
【0054】
神経学的転帰
T12に損傷を有する動物の運動の回復を、SCIの7日前から7週間後まで、21点のBasso、Beattie、およびBresnahan(BBB)のオープンフィールド運動スコア(Bassoら、(1995年)、J.Neurotrauma、12巻、1〜21頁)を用いて評価した。左右の後肢のスコアを平均した。これらのスコアを1週間あたり2回記録し、各週の平均を計算した。
【0055】
T12 SCIの前の1週間の間、後足の足底表面に機械的異痛がないかどうかラットを試験した。その後、以前の記載(Oatwayら、(2005年)、J.Neurosci.、25巻、637〜647頁)の通り、SCI後の第3週から第7週までの間それらを再試験した。機械的異痛は、通常は非侵害性である刺激が回避反応を生成する神経障害性疼痛である。15mNの力を生成するように較正された改良Semmes Weinsteinフィラメントを用いて、1週間に1回、後足の足底表面を刺激することによって、回避反応に関してラットを試験した。刺激を5秒間隔で与え、10回の刺激に対する回避反応の数を記録した。ひるみ(flinching)、逃避、足の引き込みおよび/もしくは舐め、啼鳴、または異常な攻撃的行動を回避反応と定義し、ラットがその刺激を有害なものとして知覚したことを示した。
【0056】
統計的分析
GB−Stat V7.0ソフトウェア(Dynamic Microsystems社)を用いてすべての統計的分析を行った。BBBスコアは、反復測定を用いた二元配置分散分析(ANOVA)およびそれに続く多重比較のためのFisherのLSD(tを保護)検定と、回帰分析およびそれに続く勾配の均質性の比較のための一元配置分散分析とを用いて分析した。群相互の足スコアは、時間対反応曲線の下の平均面積を一元配置分散分析を用いて比較することによって評価した。治療効果を評価するために、反復測定を用いた二元配置分散分析を用いて、病変分析を行った。有意差は、P<0.05で認めた。可変性は標準誤差として表す。
【0057】
実施例1
SCI後のfeG処置は運動機能を改善する
反復測定を用いた二元配置分散分析を用いると、検査最初の4週間では、feG処置ラットの平均BBBスコアは、対照群のものより有意に大きくはなかった[相互作用F=.23(5,75)、P=.949)。しかしSCIの31〜45日後から、最初の28日間におけるそれぞれの勾配(1.49)と比較して、時間対運動スコア回復曲線の勾配(0.21)が対照群で減少した。この減少は、線形回帰法と、その後の勾配の比較とで評価したところ、有意であった[F=74.12(1,9)、P=0.00001]。同様に、feG処置ラットの回復曲線の勾配(0.64)も、最初の28日間のもの(1.57)と比較して減少した[F=23.82(1,8)、P=0.001]。さらに、線形回帰法で評価した場合、時間対運動スコア(31〜45日)を表す線の勾配は、feG処置された動物(0.64)では、対照におけるもの(0.21)より有意に大きかった[F=16.21(1,10)、P=.00241]。対照群はプラトーに達したが、feG群のスコアは増大し続けた。反復測定を用いた二元配置分散分析を用いると、この間隔の間、feG処置ラットの平均BBBスコアは、対照のものより有意に大きかった[相互作用F=2.65(4,60)、P=.042]。したがって、ペプチドfeGを用いた処置は、SCI後における運動機能に、遅いが有意な改善を引き起こした。SCIの7週間後には、対照ラットのBBBスコアは7.8±0.2点の最大スコアを有し、一方、feG処置ラットのスコアは、9.1±0.7点の最大スコアに達した(図1a)。8点のスコアと、9点のスコアとの間にある相違は著しいものである。それらは両方とも回復の中間期を意味するが、9点のスコアのみが、後肢を用いた体重の支持に与えられるからである。
【0058】
実施例2
feG処置はSCI後における機械的異痛を軽減する
15mNの力を生成するように較正された改良Semmes Weinsteinフィラメントを、後足の足底表面を調査することによって、回避反応に関して試験するのに用いた。SCIの前には、後足で試験されたラットは、ほとんど回避行動を示さなかった(図1b)。SCIの3週間後に足試験を再開し、すべてのラットが、10回の刺激に反応して、より高い発生頻度の回避行動を有した。この挙動パターンは、機械的異痛の発症と一致している。feGペプチドを用いた処置は、SCIの7週間後に後足の足底表面に適用された10回の刺激に反応した回避行動の発生頻度を低減させた。(図1b)。feG処置ラットにおける時間対反応曲線の下の平均面積は、対照ラットの曲線の下の平均面積より有意に小さかった[F=8.32(1,15)、P=0.011]。SCIの7週間後に、対照ラットは、10回の刺激に対して4.8±0.6回の回避反応を示したが、feGを用いて処置されたラットは、それより少ない回数を有し、この時点で若干3.1±0.6回の回避反応しか示さなかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】aは、脊髄損傷後の、示されている時(週)(X軸)における、feGペプチドで処置されたラット(黒塗り四角)および対照(白抜き四角)の運動スコア(Y軸)を示す。*対照と比較すると、p<0.05。bは、脊髄損傷後の、示されている時(週)(X軸)における、feGで処置されたラット(黒塗り四角)および対照(白抜き四角)の回避反応(Y軸)を示す。*対照と比較すると、p<0.05。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における神経障害性疼痛の発症を抑制するか、またはそれを治療する方法であって、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドを有効量、前記対象に投与するステップを含み、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、前記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法。
【請求項2】
神経損傷または脊髄損傷を治療する方法であって、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドを有効量、前記対象に投与するステップを含み、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、前記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法。
【請求項3】
神経障害性疼痛の発症に関連した状態を患っている対象を治療する方法であって、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドを有効量、前記対象に投与するステップを含み、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、前記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法。
【請求項4】
前記状態が脊髄損傷である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記状態が神経損傷である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記神経損傷が、スポーツ損傷、転倒、事故、および創傷からなる群から選択される事象の結果生じる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記神経損傷が疾患の結果生じる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記疾患が、脳卒中、感染、腫瘍、無酸素、低酸素、糖尿病、代謝症候群、毒物曝露、変性疾患、およびアレルギー反応からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対象における神経損傷後または脊髄損傷後の慢性の神経学的転帰を改善する方法であって、以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドを有効量、前記対象に投与するステップを含み、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、前記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されている方法。
【請求項10】
1が、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、フェニルグリシン、ノルメチルフェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、およびノルロイシンからなる群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
2がグルタミン酸である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
3が、DもしくはL−アラニン、β−アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、サルコシン、メチオニン、およびγ−アミノ酪酸からなる群から選択されるアミノ酸残基であるか、または1から3個のグリシン残基である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
投与されるペプチドが、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、
D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−アラニン、
D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−D−アラニン、
D−チロシン−D−グルタミン酸−グリシン、
L−フェニルグリシン−L−グルタミン酸−グリシン、
L−ノルメチルフェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、
L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、
D−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン、
L−ノルロイシン−L−グルタミン酸−グリシン、
L−メチオニン−L−グルタミン酸−グリシン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−メチオニン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−イソロイシン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−β−アラニン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−サルコシン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−γ−アミノ酪酸、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸、
D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸、
D−チロシン−D−グルタミン酸、
L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸、および
D−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸
からなる群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
投与されるペプチドがL−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシンである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
投与されるペプチドがD−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−グリシンである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
投与されるペプチドがL−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸−グリシンである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
投与されるペプチドがD−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸−グリシンである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドであって、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、前記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されているペプチドの、神経障害性疼痛の発症を抑制するか、またはそれを治療する薬物を調製するための使用。
【請求項19】
以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドであって、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、前記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されているペプチドの、神経損傷または脊髄損傷を治療する薬物を調製するための使用。
【請求項20】
以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドであって、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、前記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されているペプチドの、神経障害性疼痛の発症に関連した状態を患っている対象を治療する薬物を調製するための使用。
【請求項21】
以下の式、すなわち、
1−X2−X3
または
1−X2 II
のペプチドであって、
式中、X1が芳香族アミノ酸残基であるか、または2−アミノ−ヘキサン酸、2−アミノ−ヘプタン酸;2−アミノ−オクタン酸;シクロヘキシル置換2−アミノ酢酸、シクロヘキシル置換2−アミノ−プロパン酸もしくは2−アミノ−ブタン酸、およびメチオニンからなる群から選択され;
2が酸性アミノ酸であり;かつ式I中、X3が1から3個のアミノ酸残基であり、前記1から3個のアミノ酸残基が同一または別々であり、脂肪族アミノ酸残基であり、かつC末端アミノ酸が任意選択でアミド化されているペプチドの、神経損傷後または脊髄損傷後の慢性の神経学的転帰を改善する薬物を調製するための使用。
【請求項22】
1が、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、フェニルグリシン、ノルメチルフェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、およびノルロイシンからなる群から選択される、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
2がグルタミン酸である、請求項18から22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
3が、DもしくはL−アラニン、β−アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、サルコシン、メチオニン、およびγ−アミノ酪酸からなる群から選択されるアミノ酸残基であるか、または1から3個のグリシン残基である、請求項18から23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記ペプチドが、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、
D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−アラニン、
D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−D−アラニン、
D−チロシン−D−グルタミン酸−グリシン、
L−フェニルグリシン−L−グルタミン酸−グリシン、
L−ノルメチルフェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、
L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸−グリシン、
D−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸−グリシン、
L−ノルロイシン−L−グルタミン酸−グリシン、
L−メチオニン−L−グルタミン酸−グリシン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−メチオニン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−イソロイシン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−β−アラニン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−L−サルコシン、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−γ−アミノ酪酸、
L−フェニルアラニン−L−グルタミン酸、
D−フェニルアラニン−D−グルタミン酸、
D−チロシン−D−グルタミン酸、
L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸、および
D−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸
からなる群から選択される、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記ペプチドがL−フェニルアラニン−L−グルタミン酸−グリシンである、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記ペプチドがD−フェニルアラニン−D−グルタミン酸−グリシンである、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
前記ペプチドが、L−シクロヘキシルアラニン−L−グルタミン酸−グリシンである、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
前記ペプチドが、D−シクロヘキシルアラニン−D−グルタミン酸−グリシンである、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記対象がヒト対象である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−531335(P2009−531335A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501802(P2009−501802)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際出願番号】PCT/CA2007/000502
【国際公開番号】WO2007/112556
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508291733)サルペップ バイオテクノロジー インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】SALPEP BIOTECHNOLOGY INC.
【Fターム(参考)】