説明

移動体の識別方法

各々の移動体が、当該移動体が受けた操作指令を含む走行状態を事前情報として、その移動体の識別情報と共に伝達する手段と、他の移動体の挙動を監視する手段とを備え、近傍に位置する複数の移動体を識別する方法であって、複数の移動体の少なくとも1つの移動体を、ターゲットの移動体として、他の移動体に対する挙動が差別化できる顕示動作を行わせる工程と、他の移動体の監視する手段により顕示動作を検出し、ターゲットの移動体の相対的位置を把握することにより、複数の移動体を識別する工程とを有する移動体の識別方法を提供する。この識別方法を採用することにより、近隣を併走している車両を精度良く識別でき、他の車両の挙動を予測しながら安全に走行できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速道路などにおいて近傍に位置する複数の車両などの移動体を識別する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交通事故や渋滞などの道路交通の諸問題を解決するために、最先端の情報技術を駆使した新しい道路交通システムを示す高度道路交通システム(ITS,Intelligent Transport System)が開発されている。
【発明の開示】
【0003】
前方にいる車の挙動を適当なセンサにより検出して車間を維持したり、自車の速度を制御することは交通事故を未然に防止するために重要である。また、車間を一定に保持することは車群による隊列走行を自動制御により行うために重要な要素である。しかしながら、他の車両の挙動を見てから自車の行動を決定するのでは対処が遅くなる可能性があり、そのようなリスクを防止するために十分な車間距離を確保する必要がある。一方、車間距離を確保すると他車の挙動を監視することは難しくなる。センサの種類にもよるが、磁気センサでは車間距離により感度が大幅に低下する。また、光学的なセンサあるいは超音波を用いたセンサであると、雨、雪、砂嵐などの悪天候の場合に他車との間に障害物が存在するので感度が低下し、車間距離が開くとその影響は大きくなる。
【0004】
他車の挙動をセンサで監視する代わりに、あるいは、それとともに、他車の操作情報、たとえば、ブレーキを作動させて減速しようとしている、アクセルを操作して加速しようとしている、ステアリングを操作して進路変更をしようとしている、ギヤを操作しているといった情報を事前に取得できれば、他車の挙動を予測することができ、走行の安全性は格段に向上する。この場合、単に事前情報を取得しても活かすことができず、その事前情報が近隣の走行している車のいずれの情報であるかを判断する必要がある。車両の識別情報としては、固有の登録番号がありナンバープレートを見れば知ることができる。特開2003−115095号公報では、追従したい車両の存在の有無を車両番号により運転者が確認し、その車群における先頭車両の制御情報を受信して自車両の車速を制御することが記載されている。
【0005】
しかしながら、車間距離が開いている状態ではナンバープレートを視認することは困難である。また、悪天候の場合は肉眼でも、高感度なセンサでもナンバープレートを正確に認識することは難しい。さらに、側方を併走している状態では、物理的にナンバープレートが見えないので登録番号はわからない。車種や色によりある程度、周囲の車を特定できるかもしれないが信頼性が高いとはいえない。
【0006】
IPアドレスなどの通信によりデータを交換するのに適した識別情報を各車両に割り当てることも可能であり、自車の操作情報は、無線によりブロードキャストしたり、無線LANにより送出することにより、周囲の他車に対し比較的容易に提供できる。また、交通を管理する集中管理システムがあるのであれば、集中管理システムを経由して他車に提供することも可能である。しかしながら、IPアドレスなどの識別情報を利用しても他車の識別が容易になるというわけではない。個々の車両にレーダシステムを搭載すればレーダの解像度の範囲内で他車を識別できるかもしれないが、数mあるいはそれ以下の解像度のレーダを搭載することは経済的とはいえない。光学的なシステムは解像度が上げられるかもしれないが悪天候のときの有効性は疑問がある。衛星からの電波を測位して自車位置を演算するGPSも有効であるが、近接している複数の車両の位置を明確に差別化できるほどの精度はない。いずれにしても、自車の識別情報は、電波などの指向性のほとんどない方式で近隣の車両や、あるいは複数の車両を管理する集中管理システムに伝達することは可能であるが複数の車両の相対的な位置を特定することはできない。
【0007】
そこで、本発明においては、簡単なシステムで、近隣を併走している車両を精度良く識別できる方法を提供する。そして、他車からの事前情報を利用して、さらに安全に車両を運行できるシステムを提供することを目的としている。
【0008】
本発明においては、各々の移動体が、当該移動体が受けた操作指令を含む走行状態を事前情報として、その移動体の識別情報と共に伝達する手段と、他の移動体の挙動を監視する手段とを備えていると共に、複数の移動体の少なくとも1つの移動体をターゲットの移動体として、他の移動体に対する挙動が差別化できる顕示動作を行わせる工程と、他の移動体の監視する手段により顕示動作を検出し、ターゲットの移動体の相対的位置を把握することにより、複数の移動体を識別する工程とを有する移動体の識別方法を提供する。ターゲットの移動体は、事前情報として、ターゲットの移動体が受けた顕示動作の操作指令を、ターゲットの移動体の識別情報と共に他の移動体に伝達できる。したがって、他の移動体は、事前情報として受け取った顕示動作と相対的な挙動が一致する移動体を識別することにより、ターゲットの移動体との相対的な位置関係を把握できる。たとえば、3車線を前後に3台ずつの9台の車両が一定速度で群走行していたときに、真ん中の車両がターゲットの移動体として若干スピードを遅くするなどの顕示動作を行い、それを前後左右および斜めに位置する周囲の他の車両が検出することにより、ターゲットの移動体を識別でき、ターゲットの移動体に対するすべての他の車両の相対的な位置がわかる。したがって、9台の車両のすべてを完全に特定することができる。
【0009】
これら群走行を行っている複数の車両が近傍にいることは、たとえば、GPSによる位置情報により把握することができる。各車の走行経過をトレースするなどの方法によっても各車の概略の走行位置はわかる。近傍に存在するはずの各車の位置が、その位置の誤差範囲より離れている場合は、各車の位置情報から近傍に存在する各車を特定することは困難ではない。したがって、前後左右の各車が識別された状態から群走行に移行した場合は、各車が識別できた状態が保持される可能性もある。しかしながら、各車が位置情報の誤差範囲内で群走行に移行する可能性は常にある。また、相対的な位置関係が識別できた状態で群走行に移行した場合であっても、その相対的な位置関係が確実なものであるかを確認することは重要である。
【0010】
ターゲットの移動体が行う顕示動作は、周囲の他の車両との関係が安全な範囲で、他の車両に対する挙動が差別化できるような動作を示す。顕示動作は、無線により識別情報をブロードキャストするのとは異なり、移動体が備えている他の移動体の挙動を監視する周辺監視システムにより顕示動作の元となるターゲットの車両を明確に特定できる。たとえば、一定速度で群走行しているのであれば、若干加速したり減速したりする動作は、乗員に不快感を与えず周囲の他の車両との距離を変化させるので顕示動作として適している。また、車両間隔という最も基本的な監視項目であるので、昼夜を問わず、悪天候であっても他の車両が把握しやすい顕示動作である。ステアリングを操作して進路を安全な範囲で変えることも顕示動作としては可能である。しかしながら、乗員に不安を与えるかもしれない。顕示動作としてライトを点滅させたり、ウィンカーを点滅させることも可能であるが、日中は他の車両が把握できない可能性もあり、また、別の意味を示す動作である可能性もあるので、顕示動作としてはそれほど適しているとは言えない。
【0011】
顕示動作として車線変更といった大きな動きを行うことも可能である。しかしながら、車線変更といった動作を各移動体が搭載している周辺監視システムが受動的に捉えて対応するより先に事前情報として取得して能動的あるいは積極的に対応し、移動体が安全に走行できるようにすることを本発明の目的としている以上、他の移動体が対応する必要が生じるような動作は顕示動作として適しているとは言えない。
【0012】
本発明により、群走行を行っている移動体を確実に識別することができる。したがって、速度、進行方向などの定常的な走行状態に加えて、他の移動体から、その移動体が受けた操作指令、たとえば、車線変更、加速、減速、ブレーキングなどを含む情報を事前情報として取得し、他の移動体の挙動が明確にわかる前に自らの移動体を適切に制御できる。たとえば、前を走行している車両が、その前の車両やその他の事情により急ブレーキをかけたときに、そのブレーキを操作したという事前情報や急停止したいという操作指令の事前情報により後続の車両は減速することができる。したがって、後続の車両のブレーキ操作が遅れることはない。さらに、前送の車両にブレーキ故障、ランプ故障、スリップなどの事態が起きている場合であっても後続の車両はすばやく適切な対応が可能であり、群走行状態で他の車両との車間距離が少ない場合であっても安全に走行できる。事前情報は、他の移動体から無線などにより直接受信しても良く、移動体の走行を管理している集中管理システムを介して受信しても良い。
【0013】
本発明の移動体の運行管理システムは、当該移動体が受けた操作指令を含む走行状態を事前情報として、当該移動体の識別情報と共に他の移動体および/または集中管理システムに提供し、他の移動体の事前情報を取得する手段と、他の移動体の挙動を含む周辺情報を取得する手段と、事前情報および/または周辺情報に基づき操作指令を生成する制御手段と、当該移動体をターゲットの移動体として、他の移動体に対する挙動が差別化できる顕示動作を行う操作指令を出力する手段と、周辺情報に基づき他の移動体の顕示動作を検出し、ターゲットの移動体に対する当該移動体の相対的位置を判断する手段と、ターゲットの移動体に対する当該移動体の相対的位置を識別情報と共に他の移動体および/または集中管理システムに伝達する手段とを有する。個々の移動体が運行管理システムを搭載することにより、他の移動体の相対的位置と、その他の移動体の識別情報を取得できる。このため、他の移動体または集中管理システムから移動体を特定しないでブロードキャストされている識別情報を含む事前情報を受け取り、周辺を走行している移動体の事前情報から各移動体の挙動を予測することが可能となり、移動体を安全に走行させることができる。
【0014】
周辺の他の移動体の事前情報は、集中管理システムにより相対的な位置関係に関連付けられて移動体に提供することも可能である。群走行している複数の移動体を識別する処理が移動体に搭載されている情報処理システムにおいて負荷が大きい場合は、その処理を複数の移動体の走行を監視あるいは制御している集中管理システムが実行することは有効である。本発明の集中管理システムは、相互に接近した位置にいる複数の移動体から、各々の移動体が受けた操作指令を、その移動体の識別情報と共に取得し、他の移動体に対して事前情報として提供する手段と、複数の移動体の少なくとも1つの移動体に対し、ターゲットの移動体として、他の移動体に対する挙動が差別化できる顕示動作を行うように指示する手段とを有する。さらに、集中管理システムは、各々の移動体の、他の移動体を監視する手段からの情報を取得し、顕示動作を検出し、ターゲットの移動体の相対的位置を把握することにより、複数の移動体を識別する手段を有していても良い。
【0015】
このように、本発明において提供する移動体の認識方法においては、ターゲットの移動体に顕示動作を行わせ、その挙動を他の移動体の周辺を監視する手段により捉えて複数の移動体の相互位置を識別し、複数の移動体を完全に識別する。したがって、移動体を識別するために解像度の高いレーダ装置などの高価なシステムは不要である。さらに、周辺の他の移動体の挙動を監視するシステムを用いることにより、昼夜、悪天候を問わず、高い精度で各移動体を識別できる。この周辺の他の移動体の挙動を監視するシステムは、ITSを実現するためには、各移動体にほぼ必ず搭載することが要求されるシステムであり、その点では、本発明はハードウェアを追加することなく、近傍の移動体を完全に識別できるということができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の運行管理システムの一例の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の移動体の識別方法の適用例を示す図である。
【図3】本発明の移動体の識別方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に、本発明の移動体の識別方法を適用可能な車両の一例を示してある。この車両1は、4輪の自動車であり、車両1を駆動し、その進行方向などの挙動を制御する運行機構9と、車両の乗員(ユーザ)が運行機構9を制御するための操作端末4と、操作端末4の機能をバックアップし、場合によっては操作端末4からの指示をオーバーライドして乗員の安全を図ることができる運行管理システム10とを備えている。運行機構9は、エンジン、ギア、減速機構、加速機構、操舵機構などを含んでおり、操作端末4は、運行機構9を操作するスイッチ、レバー、ステアリングなどを含んでいる。運行管理システム10は、他の車両の挙動を含む周辺情報φ1を取得する周辺監視システム11と、周辺情報に基づき自車10を制御する操作指令を生成する制御システム12と、その操作指令を事前情報φ2として自車の識別情報(ID)φ9と共に他車および/または集中管理システムに対し無線により提供し、他者の事前情報を取得する事前情報交換システム13とを備えている。制御システム12は、周辺情報φ1だけではなく、他車の事前情報φ2に基づき操作指令を生成する。また、制御システム12には、操作端末4のアクセル、ブレーキ、ステアリングなどをユーザが操作した情報、GPSを備えたカーナビゲーション5からの情報なども供給され、これらの情報を適当な制御ロジックにより処理することにより操作指令φ3が生成され、車両1の駆動および制御を行う運行機構9を操作する。
【0018】
さらに、運行管理システム10は、自車1をターゲットの移動体として動作させる顕示動作指令φ3を出力する顕示動作指示機能21と、周辺情報φ1により他車の顕示動作を検出し、他車がターゲットの移動体のときにそのターゲットに対する自車の相対位置を判断するターゲット識別機能22とを備えている。これらの機能21および22は、制御システム12と共に車両に搭載される適当な能力を備えたコンピュータにより実現され、このコンピュータは以下で説明する通信システムなどの制御も行う。さらに、運行管理システム10は、ターゲットに対する自車の相対的な位置を自車のIDφ9と共に他車または集中管理システムに無線により提供し、周辺の他車の相対的な位置とそれぞれの識別情報を取得する識別情報交換システム23とを備えている。事前情報交換システム13および識別情報交換システム23は、適当な無線方式により情報を送受信できる通信システム18により実現される。その好適な1つの例は、無線LANであり、各車両1の識別情報φ9としてIPアドレスを採用することにより、事前情報φ2、識別情報φ9を他の様々な情報と共に、他車あるいは集中管理システムと交換できる。また、通信システム18によりインターネットに接続して、車両の情報に限らず、その他の様々な情報を取得し、発信することができる。あるいは、カーナビゲーション5に対して情報を提供する道路交通情報通信システム(VICS)を用いて事前情報および識別情報を提供できるかもしれない。
【0019】
図2により、顕示動作を用いて複数の車両の相対的位置を決定する処理を説明する。図2では、3車線の道路100を9台の車両101〜109が一定の速度で群走行している様子を示してある。仮に車両101〜109は、それぞれに付した番号が識別情報φ9であるとする。これらの車両101〜109が近傍を併走していることは、各車両が搭載しているナビゲーションシステム5により走行中の現在地がほぼ同じであることから判断でき、道路100を走行中の多数の車両の中から周囲を走行している車両の候補は容易に抽出することができる。
【0020】
ここで、中央の車両105をターゲットとして、顕示動作指示機能21から指示を出し若干減速させる顕示動作を行わせる。顕示動作は減速に限らないことは上述した通りであり、増速でも良く、ステアリング操作であっても良い。周囲の車両に危険を与えずに、また、乗員に不信感や不快感を与えない範囲でスピードに変化をつける顕示動作は、本発明の顕示動作の最適なものの1つである。ターゲット105が顕示動作を行っていることは、その車両105の乗員に適当な方法で伝達することが望ましい。たとえば、顕示動作指示機能21が顕示動作の指示を出すと共に、運転席の表示板に顕示動作中であることを表示しても良い。顕示動作中であることを乗員に伝達することにより、乗員が自車の動きに不信感を持つことを防止でき、顕示動作に逆らった操作を乗員が行うことを未然に防止できる。
【0021】
車両101〜109が一定の速度で群走行している状態で、ターゲットの車両105が減速すれば、一点鎖線で示すように他の車両101〜104および106〜109に対する相対的な位置が変化する。したがって、他の車両101〜104および106〜109のターゲット識別機能22は、周辺監視システム11により取得した周辺情報φ1に基づき顕示動作を行ったターゲット105を特定することができる。したがって、各車はターゲット105に対する相対的な位置関係が判断でき、自車の群走行内の位置を特定することができる。たとえば、ターゲット105が右斜め後ろに見える車両101は、ターゲット105が後ろに見える車両102の左側に位置し、ターゲット105が右横に見える車両104の前方に位置する。同様に、ターゲット105に対する自車の位置関係を判断することにより、すべての車両101〜104および106〜109の相対的な位置関係が明確になる。このため、各車101〜109は、識別情報交換システム23により、識別情報φ9とターゲットに対する相対的な位置情報を交換することにより、周辺に居る車両を完全に識別でき、それぞれの車両から供給される事前情報φ2を正確に用いて自車を制御することができる。
【0022】
顕示動作は、減速だけに限定されず、減速と増速を1度または複数回繰り返して行っても良い。車両101〜109が多少異なる速度で走行している場合や、これらの車両の相互の速度が多少変化する場合であっても、ターゲット105が顕示動作を行うタイミングは事前情報φ2として周囲の他の車両101〜104および106〜109に提供されるので、ターゲット105の事前情報φ2による自車との相対位置の挙動と、その挙動を検出したタイミングに基づき、ターゲット識別機能22は精度良くターゲット105を識別できる。減速と増速を繰り返すことにより、ターゲット105を識別する機会が増えるので、他車の挙動を差別化することが容易になり、さらに精度よくターゲットを識別できる。
【0023】
また、ターゲット105の顕示動作は、他車101〜104および106〜109の周辺監視システム11からの周辺情報φ1により識別できる。特に、車間を監視する機能と、側方を走行する車両の状態を判別する機能とは、他車との衝突を避け、自車の安全を確保するために必須の機能ということができるので、ターゲット105の挙動はITSを実現するために各車両に搭載される監視システムの機能を用い、ほとんどハードウェアの追加なく実装できる。さらに、車両に搭載される周辺監視システム11は、昼夜、雨、雪、霧あるいは砂嵐などの悪天候を問わずに他車の挙動を監視できる能力を備えているので、ターゲット105の顕示動作はどのような条件でも確実に識別することが可能となり、本発明の車両の識別方法は極めて信頼性の高い識別方法となる。
【0024】
群走行している車両101〜109のいずれをターゲットの車両にするかは、近傍を走行していると判断される車両101〜109の間で適当な方法で決定できる。たとえば、車両101〜109の間でターゲットを決める投票を行ったり、乱数を用いてターゲット車両を決めるなどの方法がある。図2に示した例では、車両105がターゲットになることが最も効率的である。車両101がターゲットになった場合は、車両102、105および104の相対的な関係が求まるので、さらに、車両105をターゲットにして顕示動作を行うといったように、ターゲットとなる車両を変えながら車両の識別処理を繰り返すことができる。
【0025】
道路100を走行する車両を集中管理する制御システム50がある場合は、その集中管理システム50により、ターゲットとなる車両を指定し、各車両101〜109から得られた各車の周辺情報φ1に基づき車群の配置を判断することも可能である。図2に示した集中管理システム50は、無線LANなどにより各車と情報交換できる通信システム51と、相互に接近した位置にいる複数の車両101〜109から識別情報φ9および事前情報φ2を取得して他車に提供する事前情報提供システム52を備えている。集中管理システム50において、車群内の車両101〜109の配置が判明していれば、特定の車両に対して、その車両に対する他車の位置とその事前情報を個別に提供することができ、個々の車両において、その処理能力が他車を識別するために割かれてしまうことを防止できる。
【0026】
このため、この集中管理システム50は、近傍を群走行していると想定される複数の車両101〜109の少なくとも1つに対し、ターゲットの車両として、他の車両に対する挙動が差別化できる顕示動作を行うように指示する機能53と、各々の車両が取得した周辺情報φ3を各車両から取得し、ターゲットの顕示動作を検出し、ターゲットの車両に対する各車の相対的位置を把握することにより、複数の車両を完全に識別する機能54とを備えている。
【0027】
図3に、車両1に搭載された運行管理システム10あるいは集中管理システム50における処理を、車両を識別するときの処理を中心にフローチャートにより示してある。まず、ステップ61において、近傍を走行している複数の車両の間で相対的な位置関係を明確にする必要が生じたときは、ステップ62においてターゲットに顕示動作を行う指示を出す。自車がターゲットであれば、ステップ62において顕示動作を行う。顕示運動の事前情報がターゲットまたは中央管理システム50から提供されると、ステップ63において、各車両は周辺の車両の強度を検出し、顕示動作を行っているターゲットを発見する。ステップ64において、ターゲットに対する自車の相対的位置を決定し、必要に応じて、他の車両および集中管理システム50に対して識別情報とターゲットに対する相対的な位置関係を伝達する。近傍を走行している車両の位置関係と識別情報がわかると、ステップ65において他車の運行管理システム10あるいは集中管理システム50から識別情報φ9を付した事前情報φ2を取得することにより、周囲の車両1の挙動を予測することが可能となり、自車1を安全に走行させることができる。特に、速度、進行方向といった定常的な運行機構9の走行状態だけではなく、ステアリング操作、ブレーキ操作、アクセル操作といった運行機構9に対する指令φ3を含めた事前情報を提供することにより、他車がターゲットの顕示動作を予測できると共に、それ以外の他車の挙動も予測することができ、群走行の安全性は大きく向上する。
【0028】
GPSなどの電波測位機能を備えている車両を管理する場合は、各々の車両の現在地が電波測位の誤差範囲を十分に超えて離れていれば顕示動作を行わせなくても十分な精度で認識できる。また、各車の走行履歴が精度良く把握できるような機能があれば、走行履歴から各車の現在地を十分な精度で把握できる。したがって、各車が接近して走行する群走行に移行する前に得られた各車の認識を維持することができれば、ターゲットを決めて顕示動作を行わせなくても群走行している各車は識別でき、各車からの事前情報を相互の車両に伝達して有効利用できるはずである。しかしながら、レーンチェンジにより位置変化まで測定できる測位機能はなく、また、そこまで精度良くトレースできるシステムもないので、車両相互の間に明白は速度差があったり、大型トラックと自家用車といった明白なサイズの相違などがない限り、実際には、群走行に移行したときの各車の関係は不確かなものとなる。
【0029】
意図的に複数の車両が隊列を成して走行する群走行は、相互の車両の位置関係が安定に保持される限り、車両の自動運転には適した走行形態である。しかしながら、複数の車両が比較的接近して走行することになるので、車両が群走行に加入したり抜け出したりするときの安全な走行を確保したり、群走行中の車両の故障、運転者の不用意な操作などの不安定要因による各車の挙動の変化に迅速に対処できないと大事故に繋がる可能性がある。本発明により、ターゲットが顕示動作を行って群走行を行っている各車の識別情報が明らかになれば、各車からの事前情報により各車の挙動が、実際に各車の挙動が外界から明確に観察される前に他車に伝達される。したがって、近距離を複数の車両が走行している状態であっても、他車の挙動を事前情報から予測し、他車の挙動に対して迅速に対応することが可能となる。また、群走行している車両の位置関係が明白に識別されていれば、集中管理システム50により、群走行している1つの車両が特別な操作指令を受けたり、異常が発生したときに、その車両の挙動が明白になる前に、その影響を受けると想定される他の車両に対して組織的な回避動作を行うように指示することも可能となる。
【0030】
本発明の移動体の識別方法、それを用いた運行管理システムおよび集中管理システムは、すべての移動体の運行管理に有用である。特に、複数の移動体が、GPSなどの移動体の位置取得システムの誤差範囲内でグループを構成して、あるいはグループに近い状態で移動しているような状況において、そのグループあるいは擬似グループを成している各移動体とそれぞれの位置を識別するのに好適である。上記の例では、地上を走行する四輪車を例に説明しているが、本発明は、四輪車に限定されず、二輪車、トラック、バスなどの移動体も含めてそれぞれの車両を明確に識別できる。また、地上を走行する移動体に限らず、水上、さらには、水中および空中などの空間を移動する移動体に対しても本発明を適用できる。空間を移動する移動体に対しては、前後左右の動きだけではなく、上下を含めた3次元の動きが顕示動作として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近傍の複数の移動体を識別する方法であって、
各々の移動体は、当該移動体が受けた操作指令を含む走行状態を事前情報として、その移動体の識別情報と共に伝達する手段と、他の移動体の挙動を監視する手段とを備えており、
前記複数の移動体の少なくとも1つの移動体を、ターゲットの移動体として、他の移動体に対する挙動が差別化できる顕示動作を行わせる工程と、
前記他の移動体の前記監視する手段により前記顕示動作を検出し、前記ターゲットの移動体の相対的位置を把握することにより、前記複数の移動体を識別する工程とを有する移動体の識別方法。
【請求項2】
当該移動体が受けた操作指令を含む走行状態を事前情報として、当該移動体の識別情報と共に他の移動体および/または集中管理システムに提供し、前記他の移動体の前記事前情報を取得する手段と、
前記他の移動体の挙動を含む周辺情報を取得する手段と、
前記事前情報および/または周辺情報に基づき前記操作指令を生成する制御手段と、
当該移動体をターゲットの移動体として、前記他の移動体に対する挙動が差別化できる顕示動作を行う前記操作指令を出力する手段と、
前記周辺情報に基づき前記他の移動体の前記顕示動作を検出し、前記ターゲットの移動体に対する当該移動体の相対的位置を判断する手段と、
前記ターゲットの移動体に対する当該移動体の相対的位置を前記識別情報と共に前記他の移動体および/または前記集中管理システムに提供する手段とを有する運行管理システム。
【請求項3】
請求項2において、前記他の移動体の相対的位置と、その他の移動体の識別情報を取得する手段を有する運行管理システム。
【請求項4】
請求項2に記載の運行管理システムを有する移動体。
【請求項5】
相互に接近した位置にいる複数の移動体から、各々の移動体が受けた操作指令を含む走行状態を、その移動体の識別情報と共に取得し、他の移動体に対して事前情報として提供する手段と、
前記複数の移動体の少なくとも1つの移動体に対し、ターゲットの移動体として、他の移動体に対する挙動が差別化できる顕示動作を行うように指示する手段とを有する集中管理システム。
【請求項6】
請求項5において、前記各々の移動体の、他の移動体を監視する手段からの情報を取得し、前記顕示動作を検出し、前記ターゲットの移動体の相対的位置を把握することにより、前記複数の移動体を識別する手段を有する集中管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/006275
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511485(P2005−511485)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008119
【国際出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(503248433)
【Fターム(参考)】