説明

移動体位置等推定検出方法、装置及び移動体位置等推定検出方法のプログラム

【課題】移動体の位置を一意に推定することができ、位置等を高精度に推定検出することができる方法等を提供する。
【解決手段】設置位置が異なる第1磁気検知器1、第2磁気検知器2が、移動体に係る磁界を磁気信号として直交3軸方向の成分毎に同時に受信して得られた時系列の磁気データに基づいて、位置等推定検出器6が、ある軸方向について定めた複数の仮の値に対し、磁気データが各仮の値を含めた理論式を満たすようなパラメータの値を、最小自乗法によりそれぞれ決定する工程と、決定したそれぞれのパラメータの値に基づいて、ある時刻における移動体の設定上の位置を虚像として算出する工程と、検知手段毎の虚像について近似直線を算出する工程と、近似直線の交点の位置又は近似直線同士が最も接近する点に基づく位置を、ある時刻における移動体の真の位置として推定検出する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界による信号を検知し、特に等速直線運動を行っている移動体の位置等を推定し、検出する移動体位置検出方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体の位置を検出する方法として、例えば、3軸磁気センサを用いて船舶が発生する磁気信号の直交3軸成分を検知し、3軸磁気センサと等速直線運動をする移動船舶との相対位置を最小自乗法を用いて算出するものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−333484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の方法では、時系列の磁気信号の値から推定により複数のパラメータをそれぞれ算出しているが、位置、速度等に相似となる場合、例えば近距離を低速で通過する磁気量小の移動体と遠距離であっても高速で通過する磁気量大の移動体とが同じ磁気波形(磁力密度の値)となることがある。ここで、磁気モーメント数が1の位置検出等を行う場合の各パラメータの推定結果について、例えば(k3m,kX0 ,kY0 ,kz,kV,α,θ,φ)(kは任意の係数)と表すことができるが、kの値を特定することができなければ、相似性を有することになる。
【0004】
ここで、例えば海面を航行する船舶等の場合には、例えば深度計等により深度(センサと移動体との高さ方向の距離)を既知の値(一定の値)とすることができる。この場合、位置に関する2つのパラメータ(センサと移動体との水平方向の距離)が特定できればよい。しかしながら、海中を移動する航行体(移動体)も推定し、位置等を検出(以下、推定検出という)する対象とした場合、移動体の高さ方向の距離をあらかじめ特定できないことから、推定するパラメータが1つ増えることとなる。そのため、最小自乗法によるパラメータ推定計算を行って移動体の位置を推定することは不可能になる。
【0005】
そこで、本発明は上記のような問題点を解決し、移動体の位置を一意に推定することができ、位置等を高精度に推定検出することができる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る移動体位置等推定検出方法は、設置位置が異なる2以上の検知手段が、移動体に係る磁界を磁気信号として直交3軸方向の成分毎に同時に受信して得られた時系列の磁気データに基づいて、推定検出手段が、ある軸方向について定めた複数の仮の値に対し、磁気データが各仮の値を含めた理論式を満たすようなパラメータの値を、残差を用いた最小自乗法によりそれぞれ決定する工程と、決定したそれぞれのパラメータの値に基づいて、ある時刻における移動体の設定上の位置を虚像として算出する工程と、検知手段毎の虚像について近似直線を算出する工程と、近似直線の交点の位置又は近似直線同士が最も接近する点に基づく位置を、ある時刻における移動体の真の位置として推定検出する工程とを有するものである。
【0007】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法において、最小自乗法にはガウス・ニュートン法を適用する。
【0008】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法は、移動体の速度及び/又は磁気信号の受信位置と最接近する位置をさらに推定検出する。
【0009】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法は、磁界の強度又はパラメータの値に基づいて移動体又はその種別を判断する。
【0010】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置は、移動体に係る磁界を磁気信号として直交3軸方向の各成分で検知する、設置場所が異なる2以上の検知手段と、各検知手段がそれぞれ同時に検知した信号を磁気データとして記録するデータ記録手段と、ある軸方向について定めた複数の仮の値に対し、磁気データが各仮の値を含めた理論式を満足するようなパラメータの値を、残差を用いた最小自乗法によりそれぞれ決定し、決定したそれぞれのパラメータの値に基づいて、ある時刻における移動体の設定上の位置を虚像として算出し、虚像について算出した検知手段毎の近似直線の交点の位置又は近似直線同士が最も接近する点に基づく位置を、ある時刻における移動体の真の位置として推定検出する推定検出手段とを備える。
【0011】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置は、推定検出手段は、パラメータの値に基づいて移動体の速度及び/又は移動体と複数の検知手段との最接近位置をさらに推定検出する。
【0012】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置は、推定検出手段は、磁界の強度又はパラメータの値に基づいて、移動体又はその種別を判断する。
【0013】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置は、海面又は海水中を航走する航走体を移動体とする。
【0014】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法のプログラムは、設置位置が異なる2以上の検知手段が、移動体に係る磁界を磁気信号として直交3軸方向の成分毎に同時に受信して得られた時系列の磁気データに基づいて、ある軸方向について定めた複数の仮の値に対し、磁気データが各仮の値を含めた理論式を満たすようなパラメータの値を、残差を用いた最小自乗法によりそれぞれ決定する工程と、決定したそれぞれのパラメータの値に基づいて、ある時刻における移動体の設定上の位置を虚像として算出する工程と、検知手段毎の虚像について近似直線を算出する工程と、近似直線の交点の位置又は近似直線同士が最も接近する点に基づく位置を、ある時刻における移動体の真の位置として推定検出する工程とをコンピュータに行わせる。
【0015】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法のプログラムは、最小自乗法としてガウス・ニュートン法をコンピュータに行わせる。
【0016】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法のプログラムは、移動体の速度及び/又は磁気信号の受信位置と最接近する位置の推定検出をさらにコンピュータに行わせる。
【0017】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法のプログラムは、磁界の強度又はパラメータの値に基づいて移動体又はその種別の判断をさらにコンピュータに行わせる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ある軸方向について複数の仮の値をあらかじめ定めておき、2以上の検知手段が移動体による磁界をそれぞれ検知して得られた3軸方向の磁気データに基づいて、各仮の値の下でのパラメータの値を決定し、それぞれのパラメータの値から演算したある時刻における移動体の設定上の位置を虚像として算出した上で、さらに近似直線を算出し、近似直線の交点又は最接近する点をある時刻における移動体の位置として推定検出をするようにしたので、例えば、ある軸方向に関する検知手段と移動体との距離が未知であり、磁界に関する波形が相似であったとしても、その距離を推定することができる。移動体の位置を一意に推定検出することできるため、現在及び/又は将来の時刻において精度の高い位置推定検出を行うことができる。
【0019】
また、本発明によれば最小自乗法にガウス・ニュートン法を適用するようにしたので、計算時間の短縮を図りつつ、収束安定性のよい最小自乗法を適用し、位置等の推定検出をすばやく高精度に行うことができる。
【0020】
また、本発明によれば、決定したパラメータの値に基づいて、移動体の速度及び磁気信号の受信位置との最接近位置(最小距離)をさらに推定検出することで、位置以外の情報をさらに得ることができる。
【0021】
また、本発明によれば、磁界の強度、パラメータの値とそれに対応した移動体又はその種別の特徴とを例えばデータベース化しておくことで、得られた信号、パラメータの値に基づいて移動体又はその種別も判断することができる。
【0022】
また、本発明によれば、ある軸方向について複数の仮の値をあらかじめ定めておき、2以上の検知手段がそれぞれ移動体による磁界を検知し、データ記録手段に出たとして記録された3軸方向の磁気データに基づいて、推定検出手段が、各仮の値の下でのパラメータの値を決定し、それぞれのパラメータの値から演算したある時刻における移動体の設定上の位置を虚像として算出した上で、さらに近似直線を算出し、近似直線の交点又は最接近する点をある時刻における移動体の位置として推定検出をするようにしたので、例えば、ある軸方向に関する検知手段と移動体との距離が未知であり、磁界に関する波形が相似であったとしても、その距離を推定することができる。移動体の位置を一意に推定検出することできるため、現在及び/又は将来の時刻において精度の高い位置推定検出を行うことができる。
【0023】
また、本発明によれば、推定検出手段が、決定したパラメータの値に基づいて、移動体の速度及び磁気信号の受信位置との最接近位置(最小距離)をさらに推定検出するようにしたので、位置以外の情報をさらに得ることができる。
【0024】
また、本発明によれば、磁界の強度、パラメータの値とそれに対応した移動体又はその種別の特徴とを例えばデータベース化しておくことで、推定検出手段が、得られた磁気データ、パラメータの値に基づいて移動体又はその種別も判断することができる。
【0025】
また、本発明によれば、海面、海水中を航走する航走体を移動体としたので、例えば、海面、海中において磁気を発する移動体について、精度の高い位置推定検出を行うことができる。特に高さ(深さ)に関する位置が確定していない海中の航走体について効果を発揮することができる。
【0026】
また、本発明によれば、ある軸方向について複数の仮の値をあらかじめ定めておき、2以上の検知手段がそれぞれ検知した3軸方向の磁気データに基づいて、各仮の値の下でのパラメータの値を決定し、それぞれのパラメータの値から演算したある時刻における移動体の設定上の位置を虚像として算出した上で、さらに近似直線を算出し、近似直線の交点又は最接近する点をある時刻における移動体の位置として推定検出をコンピュータに行わせるようにしたので、例えば、ある軸方向に関する検知手段と移動体との距離が未知であったとしても、その距離を推定し、移動体の位置を一意に推定検出することできるため、現在及び/又は将来の時刻において精度の高い位置推定検出を行うことができる。
【0027】
また、本発明によれば最小自乗法にガウス・ニュートン法を適用するようにしたので、計算時間の短縮を図りつつ、収束安定性のよい最小自乗法を適用し、位置等の推定検出をすばやく高精度に行うことができる。
【0028】
また、本発明によれば、決定したパラメータの値に基づいて、移動体の速度及び磁気信号の受信位置との最接近位置(最小距離)をさらに推定検出することで、位置以外の情報をさらに得ることができる。
【0029】
また、本発明によれば、磁界の強度、パラメータの値とそれに対応した移動体又はその種別の特徴とを例えばデータベース化しておくことで、得られた磁気データ、パラメータの値に基づいて移動体又はその種別も判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
実施の形態1.
図1は本発明の第1の実施の形態に係る移動体位置等検出装置の構成ブロック図である。図1において、第1磁気検知器(磁気センサ)1及び第2磁気検知器2は磁界強度を信号として検知(受信)し、電気信号(以下、磁界信号という)に変換する(場合によっては、検知した他の電気的物理量に基づく信号に基づいて磁界強度を算出した電気信号を磁界信号とすることもある。また、光信号に変換した後に磁界信号に変換する場合もある)。ここで、第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2は、各々直交する3つの検知手段を有する検知器又は3軸センサとなる検知器であり、直交(相対)座標系の3軸方向での検知ができるものとする。ここで、第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2の座標系においてそれぞれの軸方向は同じであるとする(少なくとも他方の座標系に変換可能であればよい)。A/D変換器3、4は、例えばサンプリング等の処理を施して、第1磁気検知器1、第2磁気検知器2が検知した磁界信号をそれぞれデジタル信号に変換する。
【0031】
データ収集器5は、データ処理部5Aとデータ記録部5Bで構成される。データ演算部5Aは、デジタル信号に変換された、第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2による3軸方向の磁界信号及び検知した時刻を関連づける処理を行う、いわゆるデータベース管理システム(DBMS)である。データ記録部5Bは、記録装置で構成されており、磁界信号(3軸方向の成分)及び検知した時刻をそれぞれデータ(以下これらを磁気データ、時刻データという)として、少なくとも一定時間分又は一定個数分記録する。このデータ収集器5はいわゆるデータベースの役割を果たす。
【0032】
位置等推定検出器6は、データ収集器5に記録された磁気データに基づいて移動体の位置等を推定演算し、検出する(詳細については後述する)。ここで、通常、位置等推定検出器6は例えばCPU(Central Prosessing Unit )を中心としたコンピュータ等のような制御演算処理手段で構成されている。そして、位置等の推定演算処理手順をあらかじめプログラム化したものを制御演算処理手段が実行し、そのプログラムに基づく処理を行うことで、後述する各式に基づく加減乗除等の演算を行い、さらに演算結果に基づいて収束等を判断することにより位置等の推定を実現する。ここで、位置等推定検出器6は、座標系の原点からの第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2のそれぞれの座標に関するデータ等、第1磁気検知器1と第2磁気検知器2との位置関係に関するデータを有しており、演算に用いることができる。
【0033】
なお、本実施の形態の装置において必須の手段ではないが、接近検知器7、移動検知器8を設け、移動体の接近、移動を判断し、例えばデータ収集器5において、磁界信号の記録開始又は終了等を制御することもできる。
【0034】
ここで、本実施の形態における移動体は、海面又は海水中を移動する航走体であるものと想定する。また、移動体は水平方向に等速直線運動による移動を行っているものとする。ここで、第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2の座標系に関し、XY平面を海面と平行とするために、例えばジンバル機構(図示せず)を用い、Z軸と海面とが垂直に交わるように設置すればよい。また、例えば設置場所が凹凸によりジンバル機構を用いることができない場合、傾斜計(図示せず)を設け、傾斜計により得た第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2の傾きのデータに基づいて位置等推定検出器6が軸方向について補正を行い、演算を行うようにしてもよい。
【0035】
図2は移動体の位置と磁界信号との関係を表す図である。磁気検知器2の直上近傍を移動体が等速直線運動で移動する場合、磁界信号の3軸成分(HX ,HY ,HZ )は、ダイポール(双極子)磁気モーメントを用いて、次式(1)〜(3)で表すことができる。ここで本実施の形態では、磁気信号に基づいて移動体の位置を推定検出するため、磁気モーメントの位置が移動体の位置となるものとする。
【0036】
X ={(2X2 −Y2 −Z2 )Mmx+3XYMmy+3ZXMmz
/(X2 +Y2 +Z2 5/2 …(1)
y ={3XYMmx+(2Y2 −Z2 −X2 )Mmy+3YZMmz
/(X2 +Y2 +Z2 5/2 …(2)
z ={3XZMmx+3YZMmy+(2Z2 −Y2 −X2 )Mmz
/(X2 +Y2 +Z2 5/2 …(3)
ここで、Mmx,Mmy,Mmzは次式(4)〜(6)となる。
mx=Mm ・sinθ・cosφ …(4)
my=Mm ・sinθ・sinφ …(5)
mz=Mm ・cosθ …(6)
また、X,Y,Zについては、次式(7)〜(9)となる。
X=X0 +Vcosα・t …(7)
Y=Y0 +Vsinα・t …(8)
Z=Z0 …(9)
【0037】
ただし、
m :移動体の磁気モーメント
θ :磁気モーメントの方向と磁気検出器のz軸方向とのなす角
φ :磁気モーメントの方向と磁気検出器のx軸方向とのなす角
t :時間
V :移動体速度
α :電界検知器1と移動体の移動方向とのなす角
0 ,Y0 ,Z0 :移動体の基準位置
である。本実施の形態では、移動体と装置との再接近位置が基準位置(t=0のときの位置)となるようにする。
【0038】
図3はデータ記録部5Bに記録するデータを行列で示した図である。データ収集器5は、磁界信号のデータ(HX ,HY ,HZ )を、時刻データと関連づけて記録する。ここで、m回のサンプリング(mの時刻)によるそれぞれのデータが記録されているものとする。
【0039】
磁界信号による位置等の検出において、磁気モーメント数が1とした場合、磁界信号(磁界信号のデータ)から算出するパラメータの組は次式(10)のようになる。ここで、第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2と移動体との高さ(Z軸方向)の距離は未知であるため、本来であれば、高さ方向に関する基準位置であるZ0 もパラメータとして推定演算しなければならないが、本実施の形態では、Z0 の値に、例えば水深の1/5、2/5、3/5、4/5等、複数の仮の値をあらかじめ仮定し、設定しておく。そして、それぞれのZ0 の値に対する各パラメータの値を推定演算する。
【0040】
m =(Mm ,X0 ,Y0 ,V,α,θ,φ) …(10)
【0041】
位置等推定検出器6は、データ収集器5に記録されたデータに基づいて、第1磁気検知器1、第2磁気検知器2がそれぞれ実際に検知した磁界に基づく値が理論式を満足させるように、最小自乗法によって各パラメータを調整して値を決定する。最小自乗法を適用する際、パラメータに対して初期値を与え、計算を行う。例えば、基準位置X0 ,Y0 については、X0 =0、Y0 =0(第1磁気検知器1の直上)を初期値とする。
【0042】
最小自乗法には様々な方法があるが、本実施の形態ではガウス・ニュートン法を適用する。ここでは計算時間と収束安定性とのバランス、関数との関係等を考慮した上で、ガウス・ニュートン法を基本としたレーベンベルグ・マルカート(Levenberg-Marquardt )法を用いて行うことを想定しているが、ダンピング法、パウエル法等、ガウス・ニュートン法に基づく他の解法を用いてもよい。また、ガウス・ニュートン法でなくても、最急降下法等、他の非線形最小自乗法の解法を用いてもよい。上記のような最小自乗法を磁界信号(磁気データ)に適用すると、次式(11)〜(13)が成立する。
【0043】
mtm ・Δam =−Pmtm …(11)
mtm =Pmxt mx+Pmyt my+Pmzt mz …(12)
mtm =Pmxt mx+Pmyt my+Pmzt mz …(13)
【0044】
ただし、
mx:x軸方向の磁界信号の各パラメータの一階微分からなる行列
my:y軸方向の磁界信号の各パラメータの一階微分からなる行列
mz:z軸方向の磁界信号の各パラメータの一階微分からなる行列
m :残差の自乗和
Δam :パラメータの修正値
である。
【0045】
そして、位置等推定検出器6は、(11)式における残差の自乗和が所定の収束条件を満たすまで(例えば残差の自乗和が所定の値以下になる又は自乗和の変化率の減少が所定の値以下になるまで)反復計算を行う。位置等推定検出器6は、第1磁気検知器1、第2磁気検知器2のそれぞれの検知による磁気データについて、上述した演算処理を行う。ここで、データ記録部5Bには磁気データと時刻データとが関連づけられて記録され、管理されている。そのため、例えば、第1磁気検知器1、第2磁気検知器2のそれぞれの検知に係る磁気データの演算処理のタイミングを一致させる必要がなく、第1磁気検知器1の検知に係る磁気データについて演算処理を行った後に、第2磁気検知器2のの検知に係る磁気データを処理するようにしてもよい。
【0046】
図4は移動体の真の位置推定検出の概念を表す図である。以上のようにして、収束条件を満たし、推定演算したパラメータ(X0 ,Y0 ,V,α)に基づいて、CPA(Closest Point of Approach :最接近位置(t=0における移動体の位置))を推定検出することができる。さらに例えば時間tにおける移動体の位置を推定検出することもできる。
【0047】
ただ、この時点で推定演算したパラメータは、演算上、設定した各Z0 に基づいて仮に決定したものであり、それらのパラメータにより推定演算した位置は実際の位置とは必ずしも一致するものではないと考えられる(以下、この位置を虚像という)。ここで、本実施の形態では2組(第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2の分)について、それぞれ設定したZ0 の数(図6は25m、50m、…、200mまで、25m刻みで8つ設定したものである)の虚像が推定演算される。本実施の形態では、これらの虚像から時間tにおける移動体の位置(以下、移動体の真の位置という)を推定検出する。
【0048】
まず、時間tにおける移動体の位置の虚像を推定演算する。そして、各虚像をプロットし、第1磁気検知器1の分、第2磁気検知器2の分について、それぞれの点を通る直線又は近似直線を算出する。さらに2つの直線の交点を算出する。そして交点の位置を真の移動体の位置として推定検出する。ここで直線が交わらなければ、2つの近似直線が最接近する点に基づく点の位置を真の移動体の位置として推定検出する。最接近する点に基づく点の決定方法については特に限定するものではないが、例えば、第1磁気検知器1による近似直線上の点における最接近する点でもよい。また2つの近似直線のそれぞれの最接近する点を結ぶ線の中点としてもよい。以上のようにして、推定演算したパラメータの値に基づき、例えば時間tにおける真の移動体の位置を推定検出する。もちろん、CPAについても同様の方法で推定検出することができる。また、移動体は等速直線運動をしているものと扱っているため、推定検出した現在位置、速度に基づいて、将来の位置についても予測(推定検出)することができる。
【0049】
また、例えば移動体から発生される電気的物理量や音響信号、パラメータの値等のデータと移動体又はその種別のデータとを関連づけておけば、得られた磁界信号のデータ、決定したパラメータの値から、移動体又はその種類を特定することもできる。
【0050】
以上のように実施の形態1によれば、移動体の位置等を推定検出する際に、高さ(深さ)方向(Z軸方向)の位置(座標)の値について、複数の仮の値をあらかじめ定めておき、第1磁気検知器1及び第2磁気検知器2がそれぞれ検知した3軸(直交座標軸)方向の磁界信号(磁気データ)が表す波形に基づいて、各仮の値の下でのパラメータの値を決定し、それぞれのパラメータの値から演算した時刻tにおける移動体の位置(虚像)を算出した上で、さらに近似直線を算出し、2つの近似直線の交点又は最接近する点を時刻tにおける移動体の真の位置として推定検出をするようにしたので、例えば、磁気検知器と移動体との高さ方向に関する距離が未知であったとしても、その距離を推定することができる。移動体の位置を一意に推定検出することできるため、精度の高い位置推定検出を行うことができる。
【0051】
また、移動体の現在及び/又は将来の位置を推定検出するだけでなく、決定したパラメータの値に基づいて最接近位置、速度等も推定検出するようにすれば、移動体に関する詳細なデータを推定し、得ることができる。そして、例えば移動体による磁界強度、パラメータの値等のデータと移動体又はその種別のデータとを関連づけておけば、得られた磁界信号のデータ、決定したパラメータの値から、移動体又はその種類を特定することもできる。そして、例えば磁界等の信号に基づいて、船首の位置を特定することができれば船体長を推定することができるし、移動体又はその種類を特定することもできる。
【0052】
さらに、最小自乗法の解法としてガウス・ニュートン法、特にレーベンベルグ・マルカート法又は修正マルカート法を用いるようにしたので、計算時間の短縮を図りつつ、収束安定性のよい最小自乗法を適用し、位置等の検出をすばやく高精度に行うことができる。
【0053】
実施の形態2.
上述の実施の形態では、磁界信号の3軸成分(HX ,HY ,HZ )を(1)〜(3)式からなるダイポール磁気モーメントに基づく理論式で表したが、これに限定するものではない。例えば、位置等を推定検出しようとする移動体がなす形状(例えば回転楕円体等)を想定し、その形状に基づいて移動体から発せられる磁気信号の理論式を設定するようにしてもよい。これにより、所望の移動体の位置の推定精度を高めることができる。また、位置だけでなく、その速度、大きさ、種類等もより確実に推定することができる。
【0054】
実施の形態3.
上述の実施の形態では、磁気モーメント数が1である場合について演算を行ったが、これに限定するものではない。例えば、移動体に磁気モーメントが複数存在するものとして位置の推定等を行うことができる。この場合、磁気モーメントの間隔dをパラメータとして(10)式に含めた上で、位置等推定検出器6は上述の演算を行って、それぞれのZ0 の値に対する各パラメータの値を推定演算を行うようにする。
【0055】
実施の形態4.
上述の実施の形態では、2つの磁気検知器を用いて位置等の推定検出を行ったが、これに限定するものではなく、例えば3つ以上の磁気検知器を用いて得られる磁気信号に基づいた演算、推定検出を行うようにしてもよい。
【0056】
また、上述の実施の形態では、磁気検知器と装置との高さ方向(Z軸方向)に関する距離について仮の値を定めるようにしたが、特に仮の値を定める方向を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1に係る移動体位置等検出装置の構成ブロック図である。
【図2】移動体の位置と磁界信号との関係を表す図である。
【図3】データ記録部5Bに記録するデータを行列で示した図である。
【図4】移動体の真の位置推定検出の概念を表す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 第1磁気検知器
2 第2磁気検知器
3、4 A/D変換器
5 データ収集器
5A データ処理部
5B データ記録部
6 位置等推定検出器
7 接近検知器
8 移動検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置位置が異なる2以上の検知手段が、移動体に係る磁界を磁気信号として直交3軸方向の成分毎に同時に受信して得られた時系列の磁気データに基づいて、推定検出手段が、ある軸方向について定めた複数の仮の値に対し、前記磁気データが前記各仮の値を含めた理論式を満たすようなパラメータの値を、残差を用いた最小自乗法によりそれぞれ決定する工程と、
決定したそれぞれの前記パラメータの値に基づいて、ある時刻における前記移動体の設定上の位置を虚像として算出する工程と、
前記検知手段毎の前記虚像について近似直線を算出する工程と、
前記近似直線の交点の位置又は前記近似直線同士が最も接近する点に基づく位置を、前記ある時刻における前記移動体の真の位置として推定検出する工程と
を有することを特徴とする移動体位置等推定検出方法。
【請求項2】
前記最小自乗法にはガウス・ニュートン法を適用することを特徴とする請求項1記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項3】
前記移動体の速度及び/又は前記磁気信号の受信位置と最接近する位置をさらに推定検出することを特徴とする請求項1又は2記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項4】
前記磁界の強度又は前記パラメータの値に基づいて前記移動体又はその種別を判断することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項5】
移動体に係る磁界を磁気信号として直交3軸方向の各成分で検知する、設置場所が異なる2以上の検知手段と、
当該各検知手段がそれぞれ同時に検知した信号を磁気データとして記録するデータ記録手段と、
ある軸方向について定めた複数の仮の値に対し、前記磁気データが前記各仮の値を含めた理論式を満足するようなパラメータの値を、残差を用いた最小自乗法によりそれぞれ決定し、決定したそれぞれの前記パラメータの値に基づいて、ある時刻における前記移動体の設定上の位置を虚像として算出し、前記虚像について算出した前記検知手段毎の近似直線の交点の位置又は前記近似直線同士が最も接近する点に基づく位置を、前記ある時刻における前記移動体の真の位置として推定検出する推定検出手段と
を備えることを特徴とする移動体位置等推定検出装置。
【請求項6】
前記推定検出手段は、前記パラメータの値に基づいて前記移動体の速度及び/又は前記移動体と前記複数の検知手段との最接近位置をさらに推定検出することを特徴とする請求項5記載の移動体位置等推定検出装置。
【請求項7】
前記推定検出手段は、前記磁界の強度又は前記パラメータの値に基づいて、前記移動体又はその種別を判断することを特徴とする請求項5又は6記載の移動体位置等推定検出装置。
【請求項8】
海面又は海水中を航走する航走体を前記移動体とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の移動体位置等推定検出装置。
【請求項9】
設置位置が異なる2以上の検知手段が、移動体に係る磁界を磁気信号として直交3軸方向の成分毎に同時に受信して得られた時系列の磁気データに基づいて、ある軸方向について定めた複数の仮の値に対し、前記磁気データが前記各仮の値を含めた理論式を満たすようなパラメータの値を、残差を用いた最小自乗法によりそれぞれ決定する工程と、
決定したそれぞれの前記パラメータの値に基づいて、ある時刻における前記移動体の設定上の位置を虚像として算出する工程と、
前記検知手段毎の前記虚像について近似直線を算出する工程と、
前記近似直線の交点の位置又は前記近似直線同士が最も接近する点に基づく位置を、前記ある時刻における前記移動体の真の位置として推定検出する工程と
をコンピュータに行わせることを特徴とする移動体位置等推定検出方法のプログラム。
【請求項10】
前記最小自乗法としてガウス・ニュートン法をコンピュータに行わせることを特徴とする請求項9記載の移動体位置等推定検出方法のプログラム。
【請求項11】
前記移動体の速度及び/又は前記磁気信号の受信位置と最接近する位置の推定検出をさらにコンピュータに行わせることを特徴とする請求項9又は10記載の移動体位置等推定検出方法のプログラム。
【請求項12】
前記磁界の強度又は前記パラメータの値に基づいて前記移動体又はその種別の判断をさらにコンピュータに行わせることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の移動体位置等推定検出方法のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−155388(P2007−155388A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347957(P2005−347957)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【Fターム(参考)】