説明

移動体情報取得装置および画像取得装置

【課題】異なる時刻で撮像した複数の画像を用いずに、移動体の情報を取得する。
【解決手段】同一のタイミングにおいて、入射光強度に応じた強度画像、および、入射光強度と各画素共通の複素参照信号との時間相関を各画素ごとに生成した相関画像を生成し生成した1つの強度画像、および、1つの相関画像に基づいて、移動体の時系列情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の情報を取得する移動体情報取得装置および移動ブレの無い画像を生成する画像取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる時刻で移動体を撮像した複数の画像に基づいて、移動体のオプティカルフローを検出する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−314262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、異なる時刻で撮像した複数の画像を用いなければ、移動体のオプティカルフローを検出することができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明による移動体情報取得装置は、入射光強度に応じた強度画像を生成する強度画像生成手段と、入射光強度および各画素共通の複素参照信号の時間相関を各画素ごとに生成した相関画像を生成する相関画像生成手段と、同一のタイミングにおいて強度画像生成手段およびが相関画像生成手段がそれぞれ生成した強度画像および相関画像に基づいて、移動体の時系列情報を取得する処理手段とを備えることを特徴とする。
(2)本発明による画像取得装置は、入射光強度に応じた強度画像を生成する強度画像生成手段と、入射光強度、および、各画素共通の周波数が変更する複素参照信号の時間相関を表す相関画像を各画素ごとに生成する相関画像生成手段と、同一のタイミングにおいて強度画像生成手段および相関画像生成手段がそれぞれ生成した強度画像および相関画像に基づいて、フレーム時間内の少なくとも1つの時刻における移動ブレの無い画像を生成する画像処理手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
(1)本発明による移動体情報取得装置によれば、異なる時刻に撮像された複数の画像を用いずに、移動体の時系列情報を取得することができる。
(2)本発明による画像取得装置によれば、異なる時刻に撮像された複数の画像を用いずに、フレーム時間内の少なくとも1つの時刻における移動ブレの無い画像を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
−第1の実施の形態−
図1は、第1の実施の形態における移動体情報取得装置の全体構成を示す図である。第1の実施の形態における移動体情報取得装置は、時間相関イメージセンサ100および処理装置200を備える。
【0008】
図2は、時間相関イメージセンサ100の基本構造を示す図である。図2に示す時間相関イメージセンサ100の基本構造の要点は、(1)入射フォトンを光電流(被乗数)に変換するフォトダイオード検出器PD(変換手段)を備え、(2)全画素に共通に外部電気信号(乗数)Sを供給するようにし、(3)光電流と電気信号との間の積に比例する電流を生成する電流モード乗算器1(電流変調手段)を備え、(4)上述した積電流を時間積分して相関値として蓄積するコンデンサC(積分手段)を備え、(5)相関値を走査して通常のビデオ信号として出力することにある。すなわち、時間相関イメージセンサ100は、入射光強度と、各画素共通の外部参照信号との時間相関を各画素ごとに生成して画素として出力するデバイスであり、既知のイメージセンサである(特開平10−281868号公報参照)。
【0009】
イメージセンサのフレーム時間をT、撮像対象の明暗をf(x、y、t)とすると、一般にイメージセンサの強度出力g0(x、y)は,対応する画素の入射光量の1フレーム時間の積分として、次式(1)で表される。
【数1】

【0010】
時間相関イメージセンサ100では,この出力に加えて,全画素に共通な3本のアナログ参照信号V(t)(k=1,2,3)との時間相関値Fk(x、y)を出力する(次式(2)参照)。
【数2】

ただし、参照信号は、V1(t)+V2(t)+V3(t)=0を満たす成分のみが相関積分に寄与するため,独立に選べる参照信号は2個である。通常は,この2個の参照信号としてヒルベルト変換対などの直交信号対を用いる。ここでは、2個の独立な参照信号として、cosωtおよびsinωtを用い、それらの相関出力を実部、虚部とみなすと、次式(3)で示す出力g(x、y)を得ることができる。
【数3】

ただし、ωは入力信号の振動数であり、jは虚数である。
【0011】
式(3)に示すように、出力g(x、y)は、対応する画素の入射光量に複素数の参照信号e−jωtを乗じてから、1フレーム時間の積分を演算した値である。本明細書では、複素数を用いた参照信号を複素参照信号と呼ぶ。
【0012】
時間相関イメージセンサ100を用いれば、式(1)で表される出力に基づいた画像、および、式(3)で表される出力に基づいた画像を同時に得ることができる。本明細書では、式(1)で表される画像を強度画像と呼び、式(3)で表される画像を相関画像と呼ぶことにする。
【0013】
図3は、時間相関イメージセンサ100および処理装置200の詳細説明図である。ただし、図3では、時間相関イメージセンサ100が備える複数の受光素子のうちの1つの受光素子の構成を示しているが、他の受光素子の構成も同様である。図2に示す乗算器1は、トランジスタT1,T2,T3により構成されている。すなわち、各コンデンサC1〜C3には、フォトダイオードPDで変換された光電流と参照信号V1〜にV3との間の積に比例する電流の電荷が蓄積される。各受光素子の走査時に、スイッチ素子Sx1,Sx2,Sx3,Sy1,Sy2,Sy3がオンされると、コンデンサC1〜C3に蓄えられている電荷がA/D変換回路101に出力されてデジタル信号に変換され、時間相関イメージセンサ100に出力される。
【0014】
処理装置200は、プロセッサで構成されており、時間相関イメージセンサ100から出力されるデジタル信号を入力する。処理装置200は、機能的には、入力された信号に基づいて強度画像を生成する強度画像生成部201と、入力された信号に基づいて相関画像を生成する相関画像生成部202と、強度画像および相関画像に基づいて、移動体のオプティカルフローを算出するオプティカルフロー算出部203と、画像復元部204とを備える。
【0015】
時間相関イメージセンサ100に複素参照信号を与えて得られる相関画像では、移動体の時間的な変化が、その変化時刻における参照信号の位相として記録されている。第1の実施の形態における移動体情報取得装置では、時間相関イメージセンサ100により得られる強度画像および相関画像に基づいて、移動体のオプティカルフローを検出する。以下では、強度画像および相関画像に基づいて、処理装置200のオプティカルフロー算出部203が移動体のオプティカルフローを算出するためのアルゴリズムについて説明する。
【0016】
xy座標面において、(vx,vy)の速度で運動している物体の明暗は、次式(4)で表される。
【数4】

式(4)で表されるモデルでは、上式(1)の−{vxx0(x、y)+vyy0(x、y)}を計算すると、次式(5)を得る。
【数5】

ただし、∂x、∂y、はそれぞれx、yの偏微分を表す。
【0017】
同様に、式(3)の−{vxxg(x、y)+vyyg(x、y)}を計算し、部分積分を適用すると、次式(6)が得られる。
【数6】

【0018】
ここで、ωT=2nπのように、入力信号振動数ωを指定すると、次式(7)が得られる。
【数7】

【0019】
式(7)と式(5)とを連立させると、ωT=4nπの時に、次式(8)が得られ、ωT=4nπ+2πの時に、次式(9)が得られる。
【数8】

【数9】

ただし、
【数10】

である。
【0020】
式(8)および(9)は、それぞれ複素方程式であるから、従来のオプティカルフロー検出の際に必要であった時間軸方向の差分を必要とせずに、対象の運動速度vx,vyを検出できることを示している。
【0021】
式(8)の実部と虚部とを分けると、次式(11),(12)が得られる。
【数11】

【数12】

ただし、式(11),(12)において、R{g(x、y)}およびF{g(x、y)}はそれぞれ、g(x、y)の実部および虚部を表している。
【0022】
ここで、ai,bi,ci,di,ei,fiをそれぞれ次式(13)で定義する。ただし、iは、i番目の画素のデータであることを表している。
【数13】

式(11)、(12)、(13)より、次式(14)を得る。
【数14】

【0023】
画素の近傍領域では、速度ベクトルが等しいと仮定すると、最小二乗法により、次式(15)が得られる。
【数15】

【0024】
式(15)において、左辺の行列が正則であれば、速度(vx,vy)を得ることができる。
【0025】
式(9)の場合、すなわち、ωT=4nπ+2πの場合には、ai,bi,ci,di,ei,fiをそれぞれ次式(16)で定義すれば、上式(15)が同様に成立する。
【数16】

【0026】
ここで、参照信号の初期位相φ(x、y)を考えると、時間相関イメージセンサ100により得られる相関画像は、次式(17)により表される。
【数17】

【0027】
時間相関イメージセンサ100は逐次走査型であり,1フレームで取る画像のサイズを、例えば、200×200とすると、図4に示すように、データが取得される。このため, 隣り合う画素の初期位相は、ωT/Nの差がある。ただし、Nは1フレームの画像のサイズであり、200×200=40000である。画面上にひとつの画素の初期位相を定めれば、全部の画素における初期位相を計算することができ、g(x、y)の補正を行うことができる。
【0028】
第1の実施の形態における移動体情報取得装置によれば、入射光強度に応じた強度画像、および、入射光強度と各画素共通の複素参照信号との時間相関を各画素ごとに生成した相関画像を同一のタイミングで生成し、生成した1つの強度画像および1つの相関画像に基づいて、移動体のオプティカルフローを取得するので、異なる時刻で撮像された複数の画像を用いることなく、移動体のオプティカルフローを取得することができる。
【0029】
また、第1の実施の形態における移動体情報取得装置によれば、時間相関イメージセンサ100によって得られる強度画像および相関画像に基づいて、移動体のオプティカルフローを検出するので、測定対象に変調光等を与える必要もない。
【0030】
−第2の実施の形態−
第2の実施の形態における移動体情報取得装置は、時間相関イメージセンサによって取得される強度画像、および、相関画像に基づいて、対象の動きによりボケた画像を復元する処理を行う。なお、対象の動きによりボケた画像を復元する処理は、処理装置200の画像復元部204によって行われる。以下では、ボケた画像を復元する処理のアルゴリズムについて説明する。
【0031】
上式(5)および(6)を連立して、実部と虚部とを分けて書くと、次式(18)が得られる。
【数18】

ただし、a=cos(ωT/2)、b=sin(ωT/2)とし、g1、g2をそれぞれ相関画像g(x、y)の実部、g(x、y)の虚部とし、f1、f2をそれぞれ対象の明暗初端画像および明暗終端画像とする。なお、初端画像とは、対象のフレーム開始時刻における瞬時画像のことであり、終端画像とは、対象のフレーム終端時刻における瞬時画像のことである。
【0032】
=運動方向が既知の場合=
対象の運動方向が分かる場合、運動方向をx軸であると仮定すると、vy=0となる。従って、式(18)は、次式(19)のように表せる。
【数19】

参照信号の振動数ωをωT=πと指定すると、a=0、b=1より、次式(20)が得られる。
【数20】

【0033】
式(20)において、左辺の行列が正則であれば、f1、f2を求めることができるので、初端画像および終端画像を復元することができる。また、同時に、vxを求めることもできる。
【0034】
また、開口問題が生じ、被写体が動いているか判断できないとき、つまり、次式(21)が成り立つときには、次式(22)から、f1、f2を求めればよい。
【数21】

【数22】

【0035】
=運動方向が未知の場合=
対象の運動方向が未知の場合、式(18)において、未知数はvx、vy、f1、f2の4つあり、式(18)の行列ではランクが不足しているため、vx、vy、f1、f2を同時に解くことはできない。従って、近傍の二つの点のオプティカルフローは同じであると仮定して、方程式を次式(23)のように連立する。
【数23】

ただし、g01,g02はそれぞれ第1画素と第2画素の強度画像を表し、g11,g12,g21,g22,f11,f12,f21,f22も同様に、それぞれ第1画素、第2画素の相関画像の実部、相関画像の虚部、対象の初端画像、対象の終端画像を表している。
【0036】
ここで、参照信号の振動数ωをωT=πのように指定すると、a=0、b=1より、次式(24)が得られる。
【数24】

【0037】
式(24)において、左辺の行列が正則であれば、f11,f12,f21,f22を求めることができるので、初端画像および終端画像を復元することができる。また、同時に、vx、vyを求めることもできる。左辺の行列の右4列を見ると、ランクは4以上であることが分かる。ランクは6の場合、行列は正則であり、f11,f12,f21,f22,vx、vyが一意に定まる。
【0038】
被写体が動いているか判断できない場合、つまり、次式(25)が成り立つときには、次式(26),(27)から、f11,f12,f21,f22を求めることができる。
【数25】

【数26】

【数27】

【0039】
上述した計算法によれば、1回で2点の画素の演算を行い、初端画像および終端画像が2つずつの合計4つの復元画像が得られる。最後に、初端画像と終端画像の2つずつの平均を取れば、さらに精度の良い画像を得ることができる。
【0040】
=運動方向が既知の場合のシミュレーション実験=
上述したアルゴリズムの有効性を確認するために、計算機によりシミュレーションを行った。シミュレーション実験は、カメラのフレーム時間を3/25秒、参照信号は正弦波で、角速度は25π/3 である。
【0041】
図5(g)および図5(h)はそれぞれ、明度が一様な白板20を写した元画像を表している。ここでは、時間相関イメージセンサ100の1フレーム間に、白板20が図5(g)に示す位置から、右方向へ定速度で移動して、図5(h)に示す位置まで移動するものとする。
【0042】
図5(a)は、式(1)で定義されているg0(x、y)、すなわち、時間相関イメージセンサ100の1フレーム積分によって得られる強度画像を表している。上述したように、白板20が移動しているため、強度画像では、白板がボケて写っている。図5(b)および図5(c)はそれぞれ、時間相関イメージセンサ100によって得られる相関画像の振幅、および、相関画像の位相を表している。相関画像の振幅は、式(3)で定義されているg(x、y)の大きさ|g(x、y)|であり、位相は、arctan(g2/g1)で決められ、明暗はその値に一対一対応している。ただし、g1とg2はそれぞれg(x、y)の実部と虚部である。
【0043】
図5(d)は、上述したアルゴリズムによって得られる対象のオプティカルフローを表している。図5(d)において、黒い点は始点であり、線の長さはオプティカルフローの大きさを表している。図5(d)において、画面中央では、オプティカルフローが表示されていないが、これは、白板の明暗が一定であるため、1フレーム間において、画面中央部では、対象が動いているかどうかが判断できず、いわゆる開口問題が生じているからである。
【0044】
図5(e)は、上述したアルゴリズムによって得られた復元画像のうち、初端画像を表しており、図5(f)は、終端画像を表している。図5(e)と図5(g)、および、図5(f)と図5(h)とをそれぞれ比較して分かるように、復元画像は元画像とよく一致している。
【0045】
=運動方向が未知の場合のシミュレーション実験=
図6(a)から図6(h)に示す各図は、図5(a)から図5(h)にそれぞれ対応したものであり、順に、強度画像、相関画像の振幅、相関画像の位相、オプティカルフロー、初端画像、終端画像、元画像(初端画像)、および、元画像(終端画像)をそれぞれ表している。ここでは、時間相関イメージセンサ100の1フレーム間に、女性が図6(g)に示す位置から右下方向へ一定速度で移動して、図6(h)に示す位置まで移動するものとする。
【0046】
被写体である女性が移動しているため、図6(a)に示す強度画像では、画像がボケてしまっており、被写体が何であるか判別することはできない。これに対して、上述したアルゴリズムによって得られた復元画像のうち、図6(e)に示す初端画像、および、図6(f)に示す終端画像では、女性の顔がはっきりと再現されている。また、図6(e)と図6(g)、および、図6(f)と図6(h)とをそれぞれ比較して分かるように、復元画像は元画像とよく一致している。また、オプティカルフローを表す図6(d)についても、画像の上端部および下端部を除けば、オプティカルフローが再現できていることが確認できる。
【0047】
図7から図11は、対象物の移動速度を変化させて、同様のシミュレーション実験を行った結果を示す図であり、各図の(a)から(d)はそれぞれ、強度画像、復元画像のうちの初端画像、復元画像のうちの終端画像、オプティカルフローを表している。図7から図11において、対象物の移動速度はそれぞれ、16画素/フレーム、32画素/フレーム、64画素/フレーム、80画素/フレーム、100画素/フレームとしている。
【0048】
図7(a)に示す強度画像では、ボケた画像から女性の顔を判断することができる。図8(a)に示す強度画像では、顔を判断できるほどではないが、輪郭はわずかに確認できる程度の画像ボケとなっている。これに対して、図9(a),図10(a),図11(a)に示すように、対象物の移動速度が64画素/フレーム以上になると、強度画像において、女性の顔や輪郭を確認することができなくなっている。
【0049】
復元画像に注目すると、対象物の移動速度に関わらず、初端画像および終端画像のいずれも、女性の顔がはっきりと再現されていることが分かる。また、オプティカルフローでは、図7(d)に示す画像では、オプティカルフローが表示されていないように見られるが、これは移動速度が遅いため、描画の線が短くて見えないことに起因するものである。すなわち、本アルゴリズムにより、オプティカルフローも再現できている。
【0050】
第2の実施の形態における移動体情報取得装置によれば、入射光強度に応じた強度画像、および、入射光強度と各画素共通の複素参照信号との時間相関を各画素ごとに生成した相関画像を同一のタイミングで生成し、生成した1つの強度画像および1つの相関画像に基づいて、移動体の時系列情報を取得する。特に、同一のタイミングにおいて生成された1つの強度画像、および、1つの相関画像に基づいて、フレーム開始時刻における初端画像と、フレーム終端時刻における終端画像とを取得するので、フレーム開始時刻およびフレーム終端時刻における瞬時画像を取得することができる。また、取得した初端画像および終端画像に基づいて、移動ブレの無い画像を生成することができる。
【0051】
本発明は、上述した第1および第2の実施の形態に限定されることはない。上述した第1の実施の形態では、同一のタイミングにて生成された強度画像および相関画像に基づいて、移動体のオプティカルフローを検出する例について説明し、第2の実施の形態では、移動体のフレーム開始時刻における初端画像およびフレーム終端時刻における終端画像を生成(復元)する例について説明したが、強度画像および相関画像に基づいて、移動体の時系列情報が取得できることから、後述するように、様々な応用例が考えられる。
【0052】
点光源や点ビームやの対象面での反射による光点や微小粒子の反射光、あるいは線光源またはシートビームの光切断や微小繊維の反射光を対象とし、光点あるいは光線の移動を一定周波数の参照信号のもとで時間相関イメージセンサ100により撮像すると、その通過時刻が位相として相関画像上に記録される。例えば、ペン先にLEDを装着したペンを用いて文字を描く様子を時間相関イメージセンサ100で撮像して、強度画像および相関画像を生成すれば、生成した強度画像および相関画像に基づいて、移動体の時系列情報、すなわち、どの時刻において文字のどの部分まで描いたかを検出することができる。これにより、筆跡だけでなく、文字を描く際の速度の情報も取得できるので、従来の筆跡に基づいた個人認証方法に比べて、より精度の高い個人認証を行うことができる。
【0053】
すなわち、本願発明によれば、上述した点状の移動物体に対して直接に位置の時系列を求めることができる。因みに、オプティカルフローは場所に固定された速度の分布で,位置の時系列は対象に固定された対象上の位置を時間の関数で表したものである。
【0054】
また、PIV(Particle Image Velocimetry:粒子画像流速測定)の分野に応用すれば、粒子の移動軌跡だけでなく、粒子の時系列情報、すなわち、各時刻における粒子の位置の情報を検出することができる。
【0055】
さらに、被写体の動きの情報と、時間相関イメージセンサ100によって取得される強度画像および相関画像とを組み合わせることにより、イメージセンサの解像度よりも高い解像度の画像を取得することができる。
【0056】
第2の実施の形態における移動体情報取得装置では、1フレーム間における初端画像および終端画像を生成することにより、移動体の移動ブレの無い画像を生成したが、撮像時の手ブレが生じた場合にも、同様の手法により、手ブレの無い画像を生成することができる。この場合、初端画像および終端画像の2枚の画像を生成するのではなく、1フレーム内の少なくとも1つの時刻における強度画像のボケを、同一時刻における相関画像に基づいて除去すればよい。手ブレ除去においては、1フレーム内で周波数が変化する参照信号を用いるのが好ましい。例えば、複素チャープ波を所定範囲だけ切り出して参照信号を作成することができる。なお、一般化複素チャープ波を参照信号として撮像すれば、1フレーム内における相関画像の周波数利得を低周波数優位から高周波数優位まで調整することができる。
【0057】
時間相関イメージセンサ100によって生成された強度画像および相関画像に基づいて、移動体を検出し、強度画像の中から移動体を消去する画像処理を行うこともできる。
【0058】
以上説明した手ブレ除去や移動体消去は、静止物体や背景は強度画像には混合するが、相関画像上には記録されないという本発明の特徴を利用したものである。言い換えると、相関画像は移動物体にのみ感度を有し、強度画像は静止物体と移動物体の双方に感度を有する。したがって、両画像を取得後に、強度画像から相関画像を差し引くことにより、手ブレ成分を除去したり移動体を消去することができる。ただし、強度画像と相関画像が相似であることが条件であり、例えば、参照信号として上述した複素チャープ波や一般化複素チャープ波などのFM波形の信号を用いる。
【0059】
上述した各実施の形態では、複素参照信号として、正弦波を用いたが、正弦波に限定されることはなく、チャープ波などの他の信号を用いることもできる。この信号は、周波数だけでなく、振幅が変化するようなものであってもよい。
【0060】
上述した各実施の形態では、強度画像および相関画像を生成するために、時間相関イメージセンサを用いたが、式(1)で定義される強度画像および式(3)で定義される相関画像を生成できるものであれば、上述した時間相関イメージセンサに限定されることはない。また、高速度カメラで撮像された複数の画像に対して画像処理を施すことにより、相関画像を生成することもできる。
【0061】
特許請求の範囲の構成要素と第1および第2の実施の形態の構成要素との対応関係は次の通りである。すなわち、時間相関イメージセンサ100および処理装置200が強度画像生成手段および相関画像生成手段を、処理装置200が処理手段をそれぞれ構成する。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する上で、上記の実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係に何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1の実施の形態における移動体情報取得装置の全体構成を示す図
【図2】時間相関イメージセンサの基本構造を示す図
【図3】時間相関イメージセンサおよび処理装置の詳細説明図
【図4】時間相関イメージセンサによる逐次走査の順序を示す図
【図5】図5(a)から図5(h)は、移動体の運動方向が既知の場合のシミュレーション実験結果を示す図であり、それぞれ、強度画像、相関画像の振幅、相関画像の位相、オプティカルフロー、初端画像、終端画像、元画像(初端画像)、および、元画像(終端画像)を示している。
【図6】図6(a)から図6(h)は、移動体の運動方向が未知の場合のシミュレーション実験結果を示す図であり、それぞれ、強度画像、相関画像の振幅、相関画像の位相、オプティカルフロー、初端画像、終端画像、元画像(初端画像)、および、元画像(終端画像)を示している。
【図7】図7(a)から図7(d)は、移動体の移動速度を16画素/フレームとした時のシミュレーション実験結果を示す図であり、それぞれ、強度画像、復元画像のうちの初端画像、復元画像のうちの終端画像、オプティカルフローを表している。
【図8】図8(a)から図8(d)は、移動体の移動速度を32画素/フレームとした時のシミュレーション実験結果を示す図であり、それぞれ、強度画像、復元画像のうちの初端画像、復元画像のうちの終端画像、オプティカルフローを表している。
【図9】図9(a)から図9(d)は、移動体の移動速度を64画素/フレームとした時のシミュレーション実験結果を示す図であり、それぞれ、強度画像、復元画像のうちの初端画像、復元画像のうちの終端画像、オプティカルフローを表している。
【図10】図10(a)から図10(d)は、移動体の移動速度を80画素/フレームとした時のシミュレーション実験結果を示す図であり、それぞれ、強度画像、復元画像のうちの初端画像、復元画像のうちの終端画像、オプティカルフローを表している。
【図11】図11(a)から図11(d)は、移動体の移動速度を100画素/フレームとした時のシミュレーション実験結果を示す図であり、それぞれ、強度画像、復元画像のうちの初端画像、復元画像のうちの終端画像、オプティカルフローを表している。
【符号の説明】
【0063】
1…乗算器、100…時間相関イメージセンサ、101…A/D変換回路、200…処理装置、201…強度画像生成部、202…相関画像生成部、203…オプティカルフロー算出部、204…画像復元部、PD…フォトダイオード、T1〜T3…トランジスタ、C1〜C3…コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光強度に応じた強度画像を生成する強度画像生成手段と、
入射光強度と各画素共通の複素参照信号との時間相関を表す相関画像を各画素ごとに生成する相関画像生成手段と、
同一のタイミングにおいて前記強度画像生成手段および前記相関画像生成手段がそれぞれ生成した前記強度画像および前記相関画像に基づいて、フレーム時間内の移動体の動きの情報を取得する処理手段とを備えることを特徴とする移動体情報取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体情報取得装置において、
前記処理手段は、前記移動体の動きを時系列の情報として取得することを特徴とする移動体情報取得装置。
【請求項3】
請求項2に記載の移動体情報取得装置において、
前記時系列の情報は、オプティカルフローであることを特徴とする移動体情報取得装置。
【請求項4】
請求項1に記載の移動体情報取得装置において、
前記処理手段は、同一のタイミングにおいて前記強度画像生成手段および前記相関画像生成手段がそれぞれ生成した前記強度画像および前記相関画像に基づいて、フレーム時間内の少なくとも1つの時刻の画像を生成することを特徴とする移動体情報取得装置。
【請求項5】
請求項4に記載の移動体情報取得装置において、
前記処理手段は、前記フレーム時間内の少なくとも1つの時刻の画像として、フレーム開始時刻における初端画像、および、フレーム終端時刻における終端画像のうちの少なくとも一方の画像を生成することを特徴とする移動体情報取得装置。
【請求項6】
請求項5に記載の移動体情報取得装置において、
前記処理手段は、同一のタイミングにおいて前記強度画像生成手段および前記相関画像生成手段がそれぞれ生成した前記強度画像および前記相関画像に基づいて、フレーム時間内の少なくとも1つの時刻の移動ブレの無い画像を生成することを特徴とする移動体情報取得装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の移動体情報取得装置において、
前記強度画像生成手段および前記相関画像生成手段は、時間相関イメージセンサから出力される信号に基づいて、前記強度画像および前記相関画像をそれぞれ生成することを特徴とする移動体情報取得装置。
【請求項8】
請求項7に記載の移動体情報取得装置において、
前記時間相関イメージセンサは、入力フォトンを電流に変換する変換手段、入力された参照信号に応じて前記変換手段により発生した電流を変調する電流変調手段、および、前記電流変調手段により変調された電流を時間積分する積分手段を有する複数の受光素子と、前記複数の受光素子を走査して前記積分手段の前記積分値を順次出力する出力手段とを備えることを特徴とする移動体情報取得装置。
【請求項9】
入射光強度に応じた強度画像を生成する強度画像生成手段と、
入射光強度と、各画素共通の周波数が変更する複素参照信号との時間相関を表す相関画像を各画素ごとに生成する相関画像生成手段と、
同一のタイミングにおいて前記強度画像生成手段および前記相関画像生成手段がそれぞれ生成した前記強度画像および前記相関画像に基づいて、フレーム時間内の少なくとも1つの時刻における移動ブレの無い画像を生成する画像処理手段とを備えることを特徴とする画像取得装置。
【請求項10】
請求項9に記載の画像取得装置において、
前記複素参照信号として、複素チャープ波もしくは一般化複素チャープ波の一部の波形を用いることを特徴とする画像取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−305061(P2007−305061A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135507(P2006−135507)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年11月10日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.414」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年12月9日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.478」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月17日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.615」に発表
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】