説明

移動体検出方法及び移動体検出システム

【課題】高精度で位置検出ができ、絶対位置が検出できる移動体検出方法及び移動体検出システムを提供する。
【解決手段】移動体1に磁石2を取り付け、互いに直交する2方向の磁界の大きさを検出する磁気センサ3を移動体1の移動経路に臨ませて設置し、磁気センサ3により検出された互いに直交する2方向の磁界の大きさの組み合わせに基づいて磁気センサ3に対する磁石2の位置を検出することにより、移動体1の位置を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度で位置検出ができ、絶対位置が検出できる移動体検出方法及び移動体検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁石を用いた移動体位置検出方法としては、移動体に磁石を取り付け、ある場所に移動体が近付いたときにその場所の磁界が大きくなることを利用し、移動体の移動経路に臨ませて設置した磁気センサで磁界の大きさを検出し、検出された磁界の大きさが所定の閾値を超えたとき、移動体が前記閾値で決まる磁気センサからの距離範囲(ゾーン)内に存在することを検出するという移動体位置検出方法が知られている。
【0003】
また、移動体に磁気センサを取り付け、移動体の移動経路に臨ませて磁石を設置する移動体位置検出方法が知られている。
【0004】
磁界を検出する磁気センサとしては、ホール素子、磁界により接点がON−OFFされる磁気式リミットSWなどがある。
【0005】
これらの移動体位置検出方法は、磁気センサにより磁界の大きさを検出し、所定の閾値を超えたかどうかで、ゾーン内に移動体が存在するかどうかを判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−260723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁界の大きさにより移動体がゾーン内に存在することを検出する移動体位置検出方法では、温度による磁石の磁界変動や磁気センサの感度の変化により、ゾーンを示す磁界の大きさが変動するので、移動体が検出される位置の変動が大きい。移動体が検出される位置の変動が大きいため、検出される絶対位置が変動する。絶対位置とは、移動体の移動経路中のどこであるかを特定する位置のことであるが、従来技術では、ゾーンを特定することで、絶対位置に代用している。よって、従来技術における絶対位置の精度はゾーンの大きさで決まる。このため、従来の移動体位置検出方法は、絶対位置を精度良く検出することが必要な分野には適用できない。
【0008】
温度による磁石の磁界変動や磁気センサの感度の変化を温度補正することが考えられるが、そのためには温度センサや温度補償回路が必要となるため、装置構成が複雑になる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、高精度で位置検出ができ、絶対位置が検出できる移動体検出方法及び移動体検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の移動体検出方法は、移動体に磁石を取り付け、互いに直交する2方向の磁界の大きさを検出する磁気センサを前記移動体の移動経路に臨ませて設置し、前記磁気センサにより検出された互いに直交する2方向の磁界の大きさの組み合わせに基づいて前記磁気センサに対する前記磁石の位置を検出することにより、前記移動体の位置を検出するものである。
【0011】
前記磁石の磁極SNを前記移動体の前後に向かせて前記移動体に前記磁石を取り付けてもよい。
【0012】
前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値が所定の閾値以上である前記磁気センサからの距離範囲をゾーンとし、前記磁気センサを前記磁石が前記ゾーンの中央にあるとき前記一方の検出磁界の絶対値が極値となり、かつ、前記磁石が前記ゾーンの中央を通過したときもう一方の検出磁界の極性が反転するように設置してもよい。
【0013】
前記一方の検出磁界の絶対値が前記閾値以上であることにより、前記磁石が前記ゾーン内に存在することを検出し、前記もう一方の検出磁界の極性が反転したことにより、前記磁石が前記ゾーンの中央を通過したことを検出してもよい。
【0014】
前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値を前記閾値と比較し、前記磁気センサによる一方の検出磁界の大きさが前記閾値以上になったとき、ゾーン信号を立ち上げ、前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値が前記閾値より小さくなったとき前記ゾーン信号を立ち下げ、前記もう一方の検出磁界の符号付き値をゼロと比較し、前記もう一方の検出磁界の符号付き値がゼロ未満からゼロ以上になったとき、絶対位置信号を立ち上げ、前記もう一方の検出磁界の符号付き値がゼロ以上からゼロ未満になったとき、前記絶対位置信号を立ち下げ、前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に、前記絶対位置信号が立ち上がるか又は立ち下がったとき、前記磁石が前記移動体の移動経路中に前記磁気センサの位置で特定される絶対位置にあることを検出してもよい。
【0015】
前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に前記絶対位置信号が立ち上がったとき、前記磁石が一方向に前記絶対位置を通過したことを検出し、前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に前記絶対位置信号が立ち下がったとき、前記磁石が反対方向に前記絶対位置を通過したことを検出してもよい。
【0016】
本発明の移動体検出システムは、移動体に取り付けられた磁石と、前記移動体の移動経路に臨ませて設置され、互いに直交する2方向の磁界の大きさを検出する磁気センサと、前記磁気センサにより検出された互いに直交する2方向の磁界の大きさの組み合わせに基づいて前記磁気センサに対する前記磁石の位置を検出することにより、前記移動体の位置を検出する演算回路とを備えたものである。
【0017】
前記磁石は、磁極SNを前記移動体の前後に向かせて前記移動体に取り付けられてもよい。
【0018】
前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値が所定の閾値以上である前記磁気センサからの距離範囲がゾーンと定義され、前記磁気センサは、前記磁石が前記ゾーンの中央にあるとき前記一方の検出磁界の絶対値が極値となり、かつ、前記磁石が前記ゾーンの中央を通過したときもう一方の検出磁界の極性が反転するように設置されてもよい。
【0019】
前記演算回路は、前記一方の検出磁界の絶対値が前記閾値以上であることにより、前記磁石が前記ゾーン内に存在することを検出し、前記もう一方の検出磁界の極性が反転したことにより、前記磁石が前記ゾーンの中央を通過したことを検出してもよい。
【0020】
前記演算回路は、前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値を前記閾値と比較し、前記磁気センサによる一方の検出磁界の大きさが前記閾値以上になったとき、ゾーン信号を立ち上げ、前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値が前記閾値より小さくなったとき前記ゾーン信号を立ち下げるゾーン信号用比較器と、前記もう一方の検出磁界の符号付き値をゼロと比較し、前記もう一方の検出磁界の符号付き値がゼロ未満からゼロ以上になったとき、絶対位置信号を立ち上げ、前記もう一方の検出磁界の符号付き値がゼロ以上からゼロ未満になったとき、前記絶対位置信号を立ち下げる絶対位置信号用比較器と、前記ゾーン信号をデータ入力とし、前記絶対位置信号を立ち上がりトリガ入力及び立ち下がりトリガ入力とし、前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に、前記絶対位置信号が立ち上がるか又は立ち下がったとき、前記磁石が前記移動体の移動経路中に前記磁気センサの位置で特定される絶対位置にあることを示す信号を立ち上げるマルチバイブレータとを有してもよい。
【0021】
前記マルチバイブレータは、前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に前記絶対位置信号が立ち上がったときトリガされ、前記磁石が一方向に前記絶対位置を通過したことを示す信号を立ち上げ、前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に前記絶対位置信号が立ち下がったときトリガされ、前記磁石が反対方向に前記絶対位置を通過したことを示す信号を立ち上げてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0023】
(1)高精度で位置検出ができる。
【0024】
(2)絶対位置が検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の移動体検出方法の原理を説明するための、上面視磁界図と磁界検出値グラフを併記した図である。
【図2】本発明の移動体検出システムのブロック構成図である。
【図3】本発明の移動体検出方法の動作を説明するための、磁界検出値グラフと信号遷移図を併記した図である。
【図4】(a)は半円弧状磁石の上面図、(b)は半円弧状磁石による磁界のイメージ図である。
【図5】(a)は棒状磁石の上面図、(b)は棒状磁石による磁界のイメージ図である。
【図6】(a)は半円弧状磁石と磁束密度調査ラインの上面図、(b)は棒状磁石と磁束密度調査ラインの上面図、(c)は磁束密度調査ライン上におけるX方向成分図、(d)は磁束密度調査ライン上におけるY方向成分図である。
【図7】(a)は半円弧状磁石と磁束密度調査ラインの上面図、(b)は棒状磁石と磁束密度調査ラインの上面図、(c)は磁束密度調査ライン上におけるX方向成分図、(d)は磁束密度調査ライン上におけるY方向成分図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0027】
図1に示されるように、本発明に係る移動体検出システムは、移動体1に取り付けられた磁石2と、移動体1の移動経路に臨ませて設置され、互いに直交する2方向の磁界の大きさを検出する磁気センサ3と、磁気センサ3により検出された互いに直交する2方向の磁界の大きさの組み合わせに基づいて磁気センサ3に対する磁石2の位置を検出することにより、移動体1の位置を検出する演算回路4(図2参照)とを備える。
【0028】
移動体1の移動経路は、ここでは説明を簡単にするため、直線としている。
【0029】
磁石2は、磁極SNを移動体1の前後に向かせて移動体1に取り付けられる。図1の移動体検出システムでは、移動方向が図示右方向であるときN極が前に臨み、移動方向が図示左方向であるときS極が前に臨むことになる。移動体1に対する磁石2の大きさ、及び移動体1内のどの位置に磁石2を取り付けるかは限定しない。
【0030】
磁気センサ3は、例えば、GMRセンサである。GMRセンサは、GMR効果(Giant Magneto Resistive effect;巨大磁気抵抗効果)を利用したセンサであり、磁界の大きさ(絶対値)と磁界の方向(符号)とを検出することができる。検出結果は、電気的な信号(電圧信号又は電流信号)であり、信号の絶対値が磁界の大きさ(絶対値)を示し、信号の符号が磁界の方向を示す。磁気センサ3は、互いに直交するX方向とY方向についてそれぞれ磁界の大きさ(絶対値)と磁界の方向(符号)とを検出することができるよう、X方向検出部3xとY方向検出部3y(図2参照)とを備える。本発明では、この磁気センサで3により、移動体1の移動方向に平行な方向の磁界と移動体1の移動方向に垂直な方向の磁界について検出を行う。
【0031】
図1に示された5つの磁気センサ3は全て同一物であり、磁気センサ3と磁石2との位置関係A,B,C,D,Eを示す。すなわち、位置関係Aでは、磁気センサ3は磁石2のN極よりかなり前にあり、位置関係Bでは、磁気センサ3は磁石2のN極よりやや前にあり、位置関係Cでは磁気センサ3は磁石2のS極とN極の中心(境界)の位置にあり、位置関係Dでは、磁気センサ3は磁石2のS極よりやや後にあり、位置関係Eでは、磁気センサ3は磁石2のS極よりかなり後にある。
【0032】
X方向検出部3xとY方向検出部3yが検出するX方向とY方向の磁界は、位置関係A,B,C,D,Eによって異なることが分かっている。すなわち、X方向の磁界検出値は、位置関係Bと位置関係Dにおいて符号が反転し、位置関係Cにおいて極大となる。Y方向の磁界検出値は、位置関係Cにおいて符号が反転する。X方向の磁界検出値は、温度による磁石2の磁界変動や磁気センサ3の感度の変化によって変わる。また、X方向の磁界検出値は、磁石2と磁気センサ3のY方向の相対位置の変化によって変わる。これらのため、X方向の磁界検出値の符号が反転する位置関係Bと位置関係Dの場所も変わる。しかし、Y方向の磁界検出値の符号が反転する位置関係Cの場所は、温度による磁石2の磁界変動や磁気センサ3の感度の変化によっても変わらず、磁石2と磁気センサ3のY方向の相対位置の変化によっても変わらない。本発明では、このことを利用してY方向の磁界検出値の符号が反転したことをもって絶対位置(詳しくは後述)を安定的に検出する。
【0033】
なお、図1から明らかなように、本発明では磁気センサ3に対する磁石2の位置を検出するものであるが、移動体1への磁石2の取付位置は既知であり、磁石2の位置を検出することは移動体1の位置を検出することにほかならない。
【0034】
本発明では、移動体1の移動方向に平行な方向の磁界の大きさ(絶対値)を磁気センサ3のX方向検出部3xで検出し、従来と同様に磁気センサ3から所定の距離範囲をゾーンと定義する。検出された磁界の絶対値が所定の閾値(図3参照)以上であれば磁石2がゾーン内に存在することを検出することができる。
【0035】
さらに、磁気センサ3は、磁石2がゾーンの中央にあるときX方向検出部3xで検出された磁界の絶対値が極値となり、かつ、磁石2がゾーンの中央を通過したときY方向検出部3yで検出された磁界の極性が反転するように設置される。Y方向検出部3yでは、移動体1の移動方向に垂直な方向の磁界の方向(磁力線の向き)を検出する。このとき、磁石2のS極とN極の中心が磁気センサ3の位置を通過すると、磁気センサ3におけるY方向の磁界が180°変化する(極性が反転する)ので、磁界の大きさの符号が反転する。これにより、絶対位置が検出できる。絶対位置は、移動体1の移動経路中において磁気センサ3の設置された位置で特定される。すなわち、磁気センサ3と磁石2が位置関係Cであるとき、磁石2の絶対位置は磁気センサ3の設置位置である。
【0036】
図2に示されるように、移動体検出システムの演算回路4は、X方向検出部3xで検出された磁界の絶対値が閾値以上であることにより、磁石2がゾーン内に存在することを検出し、Y方向検出部3yで検出された磁界の極性が反転したことにより、磁石2がゾーンの中央を通過したことを検出するようになっている。
【0037】
より具体的には、演算回路4は、X方向検出部3xで検出された磁界の絶対値を閾値と比較し、X方向検出部3xで検出された磁界の大きさが閾値以上になったとき、ゾーン信号を立ち上げ、X方向検出部3xで検出された磁界の絶対値が閾値より小さくなったときゾーン信号を立ち下げるゾーン信号用比較器5と、Y方向検出部3yで検出された磁界の符号付き値をゼロと比較し、Y方向検出部3yで検出された磁界の符号付き値がゼロ未満からゼロ以上になったとき、絶対位置信号を立ち上げ、Y方向検出部3yで検出された磁界の符号付き値がゼロ以上からゼロ未満になったとき、絶対位置信号を立ち下げる、いわゆるゼロクロス検出を行う絶対位置信号用比較器6と、ゾーン信号をデータ入力とし、絶対位置信号を立ち上がりトリガ入力及び立ち下がりトリガ入力とし、ゾーン信号が立ち上がっている期間中に、絶対位置信号が立ち上がるか又は立ち下がったとき、磁石2が絶対位置にあることを示す信号を立ち上げるマルチバイブレータ7とを有する。
【0038】
なお、演算回路4における比較器5,6の出力以降の各信号は、「0」か「1」の論理値を取るデジタル信号である。
【0039】
マルチバイブレータ7は、ゾーン信号が立ち上がっている期間中に絶対位置信号が立ち上がったときトリガされて、磁石2が一方向(X軸の+方向)に絶対位置を通過したことを示す信号(絶対位置方向パルス(移動方向+X))を立ち上げ、ゾーン信号が立ち上がっている期間中に絶対位置信号が立ち下がったときトリガされて、磁石2が反対方向(X軸の−方向)に絶対位置を通過したことを示す信号(絶対位置方向パルス(移動方向−X))を立ち上げるようになっている。
【0040】
本実施形態では、マルチバイブレータ7は、立ち上げた信号を図示しない時定数回路により決まる所定時間後に立ち下げることで、所定のパルス幅を有する絶対位置方向パルスとする、いわゆるワンショットマルチバイブレータである。
【0041】
磁気センサ3とゾーン信号用比較器5及び絶対位置信号用比較器6との間には、それぞれ信号増幅器8を設けても良い。
【0042】
移動体1は、走行路9上を移動するものであっても良い。
【0043】
以下、動作を説明する。
【0044】
図3に示されるように、磁石2と磁気センサ3のX方向の相対位置の変化に応じて、X方向磁界検出値とY方向磁界検出値が変化する。X方向磁界検出値の絶対値に対して所定の閾値が設けられており、X方向磁界検出値の絶対値が閾値以上であれば、ゾーン信号用比較器5がゾーン信号を論理値「1」とし、磁石2がゾーン内に存在することを検出する。
【0045】
一方、Y方向磁界検出値の符号が反転すると、絶対位置信号用比較器6が絶対位置信号の論理を反転させる。したがって、絶対位置信号の論理が反転したことにより、磁石2が絶対位置を通過したことが検出される。
【0046】
ただし、絶対位置の検出にY方向磁界検出値の符号が反転のみを用いた場合、磁石2が絶対位置を通過していない時に、ノイズの影響でY方向磁界検出値が変動して符号が反転すると、絶対位置信号用比較器6から絶対位置信号が出力されてしまい、誤検出が発生する。これに対し本発明では、X方向磁界検出値に基づいてゾーンを検出しておき、ゾーン信号が立ち上がっている期間中にY方向磁界検出値の符号に基づいて絶対位置を検出するので、ノイズに影響されない正確な検出ができる。これに加え、X方向磁界検出値が極値であるという条件を設けることで、いっそう正確な検出ができる。
【0047】
また、移動体1の移動方向が図3の右方向である場合、絶対位置においてY方向磁界検出値はゼロ未満からゼロ以上に変化するので、絶対位置信号用比較器6は絶対位置信号を立ち上げる。その結果、マルチバイブレータ7は、絶対位置方向パルス(移動方向+X)を出力する。逆に、移動体1の移動方向が図3の左方向である場合、絶対位置においてY方向磁界検出値はゼロ以上からゼロ未満に変化するので、絶対位置信号用比較器6は絶対位置信号を立ち下げる。その結果、マルチバイブレータ7は、絶対位置方向パルス(移動方向−X)を出力する。このようにして移動体1の移動方向が検出できる。
【0048】
次に、磁石2の形状について考察する。
【0049】
磁石2としては、半円弧状磁石、棒状磁石などがある。
【0050】
図4(a)に示されるように、半円弧状磁石2は、断面が、例えば、断面直径φ=3mmの円形に形成された強磁性体が、例えば、内径d=20mmで半円弧状に形成された形状であり、着磁方向は半円弧に沿う方向である。保持力は、例えば1[A/m]である。半円弧状磁石2による磁界のイメージは、図4(b)のようになる。
【0051】
図5(a)に示されるように、棒状磁石2は、断面が、例えば、縦h=3mm、横w=3mmの矩形に形成された強磁性体が、例えば、長さl=26mmで直線状に形成された形状であり、着磁方向は長手方向である。保持力は、例えば、1[A/m]である。棒状磁石2による磁界のイメージは、図5(b)のようになる。
【0052】
磁石2と磁気センサ3の距離及び磁石2の向きについて考察する。
【0053】
図6(a)に示されるように、半円弧状磁石2のNS両極の面(X軸)に対して平行に磁束密度調査ラインaを定義する。NS両極の面から磁束密度調査ラインaまでの距離(Y軸の値)を1mmとする。また、図6(b)に示されるように、棒状磁石2の長手方向(X軸)に対して平行に磁束密度調査ラインbを定義すると共に、棒状磁石2の片側極の面に対して平行(Y軸に対して平行)に磁束密度調査ラインcを定義する。棒状磁石2の側面から磁束密度調査ラインbまでの距離を1mmとし、棒状磁石2の片側極の面から磁束密度調査ラインcまでの距離を1mmとする。
【0054】
このとき、各磁束密度調査ライン上における磁界のX方向成分は、図6(c)のようになる。また、各磁束密度調査ライン上における磁界のY方向成分は、図6(d)のようになる。
【0055】
図7(a)に示されるように、半円弧状磁石2のNS両極の面(X軸)に対して平行に磁束密度調査ラインaを定義する。NS両極の面から磁束密度調査ラインaまでの距離(Y軸の値)を10mmとする。また、図7(b)に示されるように、棒状磁石2の長手方向(X軸)に対して平行に磁束密度調査ラインbを定義すると共に、棒状磁石2の片側極の面に対して平行(Y軸に対して平行)に磁束密度調査ラインcを定義する。棒状磁石2の側面から磁束密度調査ラインbまでの距離を10mmとし、棒状磁石2の片側極の面から磁束密度調査ラインcまでの距離を10mmとする。
【0056】
このとき、各磁束密度調査ライン上における磁界のX方向成分は、図7(c)のようになる。また、各磁束密度調査ライン上における磁界のY方向成分は、図7(d)ようになる。
【0057】
図6、図7の調査結果を見ると、磁束密度調査ラインcが棒状磁石2の片側極の面から1mmしか離れていないときには、磁束密度調査ラインc上の位置が変わると磁界のX方向成分とY方向成分が変化するが、磁束密度調査ラインcが棒状磁石2の片側極の面から10mm離れているときには、磁束密度調査ラインc上の位置が変わっても、磁界は、X方向成分もY方向成分もほとんど変化が見られない。一方、磁束密度調査ラインaと磁束密度調査ラインbに関しては、半円弧状磁石2面からの距離あるいは棒状磁石2の側面からの距離が10mmであっても、ライン上の位置に応じて磁界のX方向成分とY方向成分が変化する。
【0058】
この調査結果から、磁石2は、磁極SNを移動体1の前後に向かせたほうが、磁極SNを移動体1の前後と直角に向かせるよりも有利であり、磁気センサ3と磁石2のY方向距離が大きい場合でも、あるいは磁石2の磁力又は磁気センサ3の感度が小さい場合でも、位置検出を行うことができる。
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、磁気センサ3により検出された互いに直交する2方向の磁界の大きさの組み合わせに基づいて磁気センサ3に対する磁石2の位置を検出するようにしたので、従来のように1方向の磁界のみに基づいて検出する方法よりも精度が向上する。
【0060】
本発明によれば、磁石2の磁極SNを移動体1の前後に向かせて移動体1に磁石2を取り付けたので、磁石2の磁極SNを移動体1の移動方向に対して直交するように向かせるよりも有利であり、磁気センサ3と磁石2のY方向距離を大きく、あるいは磁石2の磁力又は磁気センサ3の感度を小さくすることができる。
【0061】
本発明によれば、ゾーンを定義し、磁石2がゾーンの中央にあるとき一方の検出磁界の絶対値が極値となり、かつ、磁石2がゾーンの中央を通過したときもう一方の検出磁界の極性が反転するように磁気センサ3を設置したので、絶対位置の検出が可能となる。
【0062】
本発明によれば、一方の検出磁界の絶対値が閾値以上であることにより、磁石2がゾーン内に存在することを検出し、もう一方の検出磁界の極性が反転したことにより、磁石2がゾーンの中央を通過したことを検出するので、絶対位置の誤検出が防止される。
【0063】
本発明によれば、ゾーン信号が立ち上がっている期間中に絶対位置信号が立ち上がったときは、磁石2が一方向に絶対位置を通過したことを検出し、ゾーン信号が立ち上がっている期間中に絶対位置信号が立ち下がったときは、磁石2が反対方向に絶対位置を通過したことを検出するようにしたので、移動体1の移動方向が検出できる。
【0064】
なお、本発明では、移動体1に磁石2を取り付け、磁気センサ3を移動体1の移動経路に臨ませて設置したが、磁石2を移動体1の移動経路に沿わせて設置し、移動体1に磁気センサ3を取り付けても、絶対位置検出については同等の効果が得られる。磁気センサ3を移動体1外に設置する構成では、位置検出結果を利用した情報処理が移動体1外で行いやすく、例えば、道路交通システムにおいて車両の位置検出結果を利用するのに好適である。また、この場合、移動体1には磁石2を設けるだけでよいので、移動体1側のコスト負担が小さい。
【符号の説明】
【0065】
1 移動体
2 磁石
3 磁気センサ
4 演算回路
5 ゾーン信号用比較器
6 絶対位置信号用比較器
7 マルチバイブレータ
8 増幅器
9 走行路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に磁石を取り付け、
互いに直交する2方向の磁界の大きさを検出する磁気センサを前記移動体の移動経路に臨ませて設置し、
前記磁気センサにより検出された互いに直交する2方向の磁界の大きさの組み合わせに基づいて前記磁気センサに対する前記磁石の位置を検出することにより、前記移動体の位置を検出することを特徴とする移動体検出方法。
【請求項2】
前記磁石の磁極SNを前記移動体の前後に向かせて前記移動体に前記磁石を取り付けることを特徴とする請求項1記載の移動体検出方法。
【請求項3】
前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値が所定の閾値以上である前記磁気センサからの距離範囲をゾーンとし、
前記磁気センサを前記磁石が前記ゾーンの中央にあるとき前記一方の検出磁界の絶対値が極値となり、かつ、前記磁石が前記ゾーンの中央を通過したときもう一方の検出磁界の極性が反転するように設置することを特徴とする請求項1又は2記載の移動体検出方法。
【請求項4】
前記一方の検出磁界の絶対値が前記閾値以上であることにより、前記磁石が前記ゾーン内に存在することを検出し、
前記もう一方の検出磁界の極性が反転したことにより、前記磁石が前記ゾーンの中央を通過したことを検出することを特徴とする請求項3記載の移動体検出方法。
【請求項5】
前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値を前記閾値と比較し、前記磁気センサによる一方の検出磁界の大きさが前記閾値以上になったとき、ゾーン信号を立ち上げ、前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値が前記閾値より小さくなったとき前記ゾーン信号を立ち下げ、
前記もう一方の検出磁界の符号付き値をゼロと比較し、前記もう一方の検出磁界の符号付き値がゼロ未満からゼロ以上になったとき、絶対位置信号を立ち上げ、前記もう一方の検出磁界の符号付き値がゼロ以上からゼロ未満になったとき、前記絶対位置信号を立ち下げ、
前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に、前記絶対位置信号が立ち上がるか又は立ち下がったとき、前記磁石が前記移動体の移動経路中に前記磁気センサの位置で特定される絶対位置にあることを検出することを特徴とする請求項4記載の移動体検出方法。
【請求項6】
前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に前記絶対位置信号が立ち上がったとき、前記磁石が一方向に前記絶対位置を通過したことを検出し、
前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に前記絶対位置信号が立ち下がったとき、前記磁石が反対方向に前記絶対位置を通過したことを検出することを特徴とする請求項5記載の移動体検出方法。
【請求項7】
移動体に取り付けられた磁石と、
前記移動体の移動経路に臨ませて設置され、互いに直交する2方向の磁界の大きさを検出する磁気センサと、
前記磁気センサにより検出された互いに直交する2方向の磁界の大きさの組み合わせに基づいて前記磁気センサに対する前記磁石の位置を検出することにより、前記移動体の位置を検出する演算回路とを備えたことを特徴とする移動体検出システム。
【請求項8】
前記磁石は、磁極SNを前記移動体の前後に向かせて前記移動体に取り付けられることを特徴とする請求項7記載の移動体検出システム。
【請求項9】
前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値が所定の閾値以上である前記磁気センサからの距離範囲がゾーンと定義され、
前記磁気センサは、前記磁石が前記ゾーンの中央にあるとき前記一方の検出磁界の絶対値が極値となり、かつ、前記磁石が前記ゾーンの中央を通過したときもう一方の検出磁界の極性が反転するように設置されることを特徴とする請求項7又は8記載の移動体検出システム。
【請求項10】
前記演算回路は、
前記一方の検出磁界の絶対値が前記閾値以上であることにより、前記磁石が前記ゾーン内に存在することを検出し、
前記もう一方の検出磁界の極性が反転したことにより、前記磁石が前記ゾーンの中央を通過したことを検出することを特徴とする請求項9記載の移動体検出システム。
【請求項11】
前記演算回路は、
前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値を前記閾値と比較し、前記磁気センサによる一方の検出磁界の大きさが前記閾値以上になったとき、ゾーン信号を立ち上げ、前記磁気センサによる一方の検出磁界の絶対値が前記閾値より小さくなったとき前記ゾーン信号を立ち下げるゾーン信号用比較器と、
前記もう一方の検出磁界の符号付き値をゼロと比較し、前記もう一方の検出磁界の符号付き値がゼロ未満からゼロ以上になったとき、絶対位置信号を立ち上げ、前記もう一方の検出磁界の符号付き値がゼロ以上からゼロ未満になったとき、前記絶対位置信号を立ち下げる絶対位置信号用比較器と、
前記ゾーン信号をデータ入力とし、前記絶対位置信号を立ち上がりトリガ入力及び立ち下がりトリガ入力とし、前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に、前記絶対位置信号が立ち上がるか又は立ち下がったとき、前記磁石が前記移動体の移動経路中に前記磁気センサの位置で特定される絶対位置にあることを示す信号を立ち上げるマルチバイブレータとを有することを特徴とする請求項10記載の移動体検出システム。
【請求項12】
前記マルチバイブレータは、
前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に前記絶対位置信号が立ち上がったときトリガされ、前記磁石が一方向に前記絶対位置を通過したことを示す信号を立ち上げ、
前記ゾーン信号が立ち上がっている期間中に前記絶対位置信号が立ち下がったときトリガされ、前記磁石が反対方向に前記絶対位置を通過したことを示す信号を立ち上げることを特徴とする請求項11記載の移動体検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−54134(P2011−54134A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205111(P2009−205111)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】