説明

移動体無線通信装置、TCPフロー制御装置及びその方法

【課題】 基地局から受信するデータ(下り回線)のトラフィック制御、特に、非優先トラフィックのTCPフローを動的に制御する。
【解決手段】
基地局4との間で無線通信を行い、基地局4を介してネットワーク6上のIP通信装置(CN)7とTCP通信を行う移動機20に設けられるTCPフロー制御装置1に関する。TCPリンクモニタ12が、ネットワーク6上のIP通信装置(CN)7と移動機20に設けられたIP通信装置(MN)2との間のTCP通信に用いる複数のTCPリンクのフローを監視し、TCPリンク毎のトラフィック量を計測する。TCPフロー制御部13は、複数のTCPリンク中の各TCPリンクを優先トラフィック用TCPリンク、非優先トラフィック用TCPリンクのいずれかに特定し、総トラフィック量に対する優先トラフィック量の割合が所定の閾値を超えた場合には、非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を抑圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TCP(Transmission Control Protocol)スループットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及により、家庭内、企業内からのインターネットアクセスが一般的になってきている。現在のインターネットアクセスの大半は、HTTP(HyperText Transfer Protocol)によるWebの閲覧である。
HTTPはTCP/IPを使用した通信プロトコルである。現在のインターネットアクセスの大半はTCP/IPのプロトコルを使用していることになる。
【0003】
次にTCP/IPの動作概要を説明する。TCPは信頼性のある通信の実現を目的とし、パケットの損失、重複、順序入れ替えの検出、再送制御を行うため、シーケンス番号を有し、シーケンス番号を用いた確認応答(ACK)の仕組みを持つ。受信端末がTCPデータパケットを受信すると、確認応答としてACKパケットを送信サーバに返送する。ACKパケットとTCPデータパケットにはシーケンス番号が記載されている。
【0004】
TCPデータパケットのシーケンス番号は、TCPが送受信するデータのうちどこまで送信または受信したかを表しており、パケットの重複、順序入れ替えの検出に用いられる。ACKパケットのシーケンス番号は、受信端末が次にどのTCPデータパケットの受信を期待しているかを表す。仮に、あるTCPデータパケットに損失が発生し、その次のTCPデータパケットを受信できた場合、受信端末はTCPデータパケットのシーケンス番号を参照することにより、TCPデータパケットに損失が発生した可能性があることがわかる。そのとき、受信端末が返送するACKパケットには、次に受信することを期待するTCPデータパケットのシーケンス番号が記載される。
【0005】
TCPは送信サーバと受信端末で送受信を確認しながら通信を行うが、1パケットごとに確認応答を待って通信を行うと、パケットの往復時間(RTT:Round Trip Time)が長くなると通信性能が悪くなる。このような問題を回避するために、TCPではACKを待たずに複数のパケットを一度に送信する機能を有する。一度に送信するパケットの数は、輻輳ウィンドウサイズと受信可能ウィンドウサイズにより決定される。
【0006】
輻輳ウィンドウサイズは、帯域が未知のネットワークにおいて突然大量のパケットを送ることで、ネットワークの許容量を超えパケットに損失が発生することを回避するため定義されている。この値は初期値を1セグメント(1パケット分)としACKパケットを受信するたびに増加される。
受信可能ウィンドウサイズは、受信端末が一度に受信できるデータ量を表し、受信端末が受信しきれないTCPデータパケットを送信サーバが一度に送信しないように定義されている。
【0007】
TCPでは、そのときの輻輳ウィンドウサイズと受信可能ウィンドウサイズのうち小さい方を送信サーバが選択し、選択した値を上限としてパケットを送ることで、RTTが長くなっても通信性能が低下しないように、送信するパケットの量を制御する。
【0008】
また、TCPには帯域が未知のネットワークにおいて、大量のパケットを急に送信してパケットの損失が発生するのを防ぎ、なおかつ効率良く最大のスループットを実現するためスロースタート、輻輳回避、Fast Retransmitの機能を有する。スロースタートアルゴリズム、輻輳回避アルゴリズムは、輻輳ウィンドウサイズの制御を行う。
【0009】
まず輻輳ウィンドウサイズがスロースタート閾値に達するまでは輻輳ウィンドウサイズは指数的に増加していく。指数的に輻輳ウィンドウサイズを増加させているのは、スロースタート閾値は一度に送信しても損失が発生する危険性が比較的低いデータ量の閾値として設定されているためであり、輻輳ウィンドウサイズがこの閾値を下回っている間は急激に輻輳ウィンドウサイズを増加させる。これをスロースタートフェーズという。
【0010】
輻輳ウィンドウサイズがスロースタート閾値を上回ると、指数的に増加していた輻輳ウィンドウサイズの増加が線形の増加に変化する。輻輳ウィンドウサイズを線形に増加させるのは、輻輳ウィンドウサイズがスロースタート閾値を上回り、損失が発生する危険性が高くなったと判断したためであり、輻輳ウィンドウサイズがこの値を上回っている間は緩やかに輻輳ウィンドウサイズを増加させる。これを輻輳回避フェーズという。
【0011】
パケット損失を検知した場合には、スロースタート閾値をそのときの輻輳ウィンドウサイズと受信可能ウィンドウサイズの小さい方の値の半分の値とし、輻輳ウィンドウサイズを初期値に戻し、スロースタートフェーズに移行する。
【0012】
Fast Retransmitアルゴリズムは、同じシーケンス番号を持つACKパケットが三つ重複して到着(重複確認応答)した場合に、パケットの損失が起こったと判断し、再送タイムアウトを待たずにパケットを再送するアルゴリズムである。このとき、輻輳ウィンドウサイズを初期値に戻す。
【0013】
携帯電話によるWebアクセスに代表される無線インターネットアクセスは、近年著しく進展して来た。携帯電話以外の機器、例えばノートパソコンやPDAなどに携帯電話のパケット通信網へ接続するアダプタを使用したインターネット接続サービスが展開されてきている。また、無線LANホットスポットでのノートパソコンやPDAなどのインターネット接続サービスも展開され、屋外の移動環境下でのインターネット接続は一般的なものになりつつある。
【0014】
また、通信衛星を使用したインターネットアクセスサービスもある。このサービスでは衛星回線等の高遅延のあるネットワークではRTTが長大になる。このため、TCPのスループット性能が上がらない問題が発生する。このようなTCPの特性により性能の影響を与える場合には、TCP リンク間にTCP Proxy装置を配置して、TCPのスループットを向上させる技術が存在する。TCP Proxy装置はRTTの大きい回線の間に設置され、TCP ACKを無線ネットワークから受信する前にTCP Proxy内部で送信することで見かけ上のRTTを小さくし、TCPのスループットを増大させる装置である。
【0015】
また、固定回線のTCPトラフィックの帯域制御を実現する装置がある。この帯域制御装置は、固定回線の端末側のネットワークのGatewayとして設置され、回線の伝送レートを一定としてTCPのウィンドウサイズ制御、ACK分割制御を実施することで端末側の下り回線のTCPの帯域をコントロールする装置である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「Controlling WAN Bandwith and Application Traffic」、PACKETEER社発行
【非特許文献2】「高速衛星インターネットに適したコネクション分割機構TCP-gSTAR」,電子情報通信学会論文誌B,Vol.J91−B,no.12,pp.1587−1599,2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
TCP通信リンクの中間にTCPをプロキシーする機能や一部終端する機能を実装する技術はあるが、有線通信や衛星回線等の通信リンクが安定した状態で使用する技術である。例えば、車、列車、バス等の移動体に携帯電話パケット通信網を接続した場合、従来技術では無線帯域の変動に伴いTCPパケットのロスや遅延が発生し、かえって性能を劣化させてしまうという問題があった。また、移動や無線状態に伴い変化する通信帯域に追従することが出来ないという問題があった。
本発明はこのような問題を解決するものであり、基地局から受信するデータ(下り回線)のトラフィック制御、特に、非優先トラフィックのTCPフローを動的に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明における、移動体無線通信装置は、基地局との間で無線通信を行い、前記基地局を介してネットワーク上のIP通信装置とTCP通信を行う移動体無線通信装置において、
前記TCP通信に用いる複数のTCPリンクのフローを監視し、前記TCPリンク毎のトラフィック量を計測するTCPリンク監視部と、前記複数のTCPリンク中の各TCPリンクを優先トラフィック用TCPリンク、非優先トラフィック用TCPリンクのいずれかに特定し、前記優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量に応じて、前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を制御するTCPフロー制御部とを有する。
【0019】
また、本発明におけるTCPフロー制御装置は、基地局との間で無線通信を行い、前記基地局を介してネットワーク上のIP通信装置とTCP通信を行う移動体無線通信装置に設けられるTCPフロー制御装置において、前記ネットワーク上のIP通信装置と前記移動体無線通信装置に設けられたIP通信装置との間のTCP通信に用いる複数のTCPリンクのフローを監視し、前記TCPリンク毎のトラフィック量を計測するTCPリンク監視部と、前記複数のTCPリンク中の各TCPリンクを優先トラフィック用TCPリンク、非優先トラフィック用TCPリンクのいずれかに特定し、前記優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量に応じて、前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を制御するTCPフロー制御部とを有する。
【0020】
さらに、本発明におけるTCPフロー制御方法は、基地局との間で無線通信を行い、前記基地局を介してネットワーク上のIP通信装置とTCP通信を行う移動体無線通信装置又は移動体無線通信装置に接続されるIP通信装置において実行されるTCPフロー制御方法であって、前記TCP通信に用いる複数のTCPリンクのフローを監視し、前記TCPリンク毎のトラフィック量を計測する計測ステップと、前記複数のTCPリンク中の各TCPリンクを優先トラフィック用TCPリンク、非優先トラフィック用TCPリンクのいずれかに特定し、前記計測ステップにより計測された前記優先トラフィック用TCPリンクの前記トラフィック量に応じて、前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を抑制するTCPフロー制御ステップとを有する。
【発明の効果】
【0021】
以上のように構成したので、非優先トラフィックのTCPリンクの帯域を受信可能ウィンドウサイズ制御またはACK制御により抑制し、結果的に優先トラフィックの通信可能帯域を拡大するようになり、優先するトラフィックのスループットを向上させることが可能となる。
また、優先するトラフィックを常時監視しているので、優先トラフィックと非優先トラフィックのデータ量を認識することが可能となり、帯域が十分に確保されている場合には、非優先トラフィックの制御量を削減したり、優先トラフィックが一時的に流れていないことを識別した場合には、空いている通信帯域を非優先トラフィックに一時的に割り当てて効率的な通信を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態1のネットワークの全体構成図である。
【図2】モバイルルータ1の内部構成図である。
【図3】TCPフローの制御動作を説明するシーケンス図である。
【図4】RFリンクモニタ10の動作説明図である。
【図5】フロー制御モニタ11の動作説明図である。
【図6】フロー制御モニタ11の動作を示すフローチャートである。
【図7】TCPフロー制御部13の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。実施の形態で説明する全図について同一機能を有するものには同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0024】
実施の形態1.
図1はインターネットを含めたネットワークの全体構成を示している。
移動機20は、モバイルルータ1、モバイルノード(MN)としてのIP通信装置2、無線装置(RF)3から構成されている。モバイルルータ1は移動機内にローカルネットワーク21を構成し、ローカルネットワーク21にIP通信装置(MN)2が接続されている。図1では2つのIP通信装置2a、2bが接続されている例を示している。
【0025】
モバイルルータ1は無線装置3と接続され、無線基地局(BS)4、無線IPネットワーク5を経由してインターネット6に接続され、インターネット上にはコレスポンドノード(CN)としてのIP通信装置7が存在する。図1では、2つのIP通信装置7a、7bが存在する場合を示している。
【0026】
次にデータの流れについて説明する。移動機20内にあるIP通信装置(MN)2は、インターネット6上にあるIP通信装置(CN)7とTCP通信を実施する。通常のWebアクセスを例に置き換えると、IP通信装置(MN)2はパソコン、IP通信装置(CN)7はWebサーバに相当する。
【0027】
IP通信装置(MN)2は、IP通信装置(CN)7と複数のTCPリンクを張り、通信を実施する。複数のTCPリンクの中には、優先度の高いトラフィック(優先トラフィック)用のTCPリンクと優先度の低いトラフィック(非優先トラフィック)用のTCPリンクが存在する。例えば常時送受信が必要な制御系通信を優先度の高いトラフィックとし、Webアクセスによるエンターテイメント系メディア通信を優先度の低いトラフィックと分類することが出来る。
【0028】
モバイルルータ1の内部のTCPフローを管理制御する機構の構成を、図2のブロック図に示す。TCPデータは、無線装置(RFモジュール)3を経由してインターネット6上のIP通信装置(CN)7とIP通信装置(MN)2の間で送受信される。図2の点線で囲われた部分がTCPフローを管理制御するTCPフロー制御装置である。このTCPフロー制御装置は移動機20側のモバイルルータ1内に設置され、Webサーバに相当するIP通信装置(CN)7には実装されない。
本実施の形態は、移動局が基地局から受信するデータ(下り)のトラフィックを制御するものであり、特に優先度の低いトラフィックを抑制する制御について説明する。
【0029】
TCPフロー管理機構の内部には、使用する複数のTCPリンクの内、各TCPリンクの状態を監視し、各TCPリンクの情報を入手するTCPリンクモニタ12、無線装置3から無線リンク情報を得るRFリンクモニタ10、TCPリンクモニタ12とRFリンクモニタ10から得た情報を加工し、TCPフロー制御の内容を決定するために必要なパラメータを出力するフロー制御モニタ11、フロー制御モニタ11から出力された情報を元にTCPフローを制御するTCPフロー制御部13から構成される。
【0030】
次に動作について説明する。
図3は、TCPフローを管理制御する機構の動作を説明するシーケンス図である。図中上部のブロックは図2の各ブロックに相当する。
【0031】
無線装置3は無線基地局4と無線レイヤで接続している。無線装置3は無線状態を監視し、必要に応じて無線通信の状態を変更する。この無線の通信状態の変更内容は無線装置の無線方式により異なる。例えば3G携帯電話ネットワークであれば、無線基地局の無線リソースの状況に応じて通信レートを変化させる。例えば無線LANの場合は、電波の強度に応じて変調方式を変更することで通信レートを変化させる。この変更に伴い、通信可能な帯域が変動することになる。
【0032】
無線レイヤの下位レイヤでは、変調方式の変更情報や基地局との伝送レートを入手し、通信レートに変換し、RFリンク情報として保持する。また、無線レイヤの下位レイヤの制御を使用しなくても、3G携帯電話機であればアンテナピクト、無線LANであれば電波強度から通信品質を推定することも出来る。これらの方法で入手したRFリンク情報を無線装置3の内部で保持する。この実施の形態では、RFリンク情報として、例えば受信信号強度情報(RSSI:Received Signal Strength Indication)や受信感度情報を用いる。
【0033】
RFリンクモニタ10は、一定周期毎に無線装置3に対して無線状態の問い合わせを実行する(S1)。無線装置3は問い合わせ時の無線状態を示すRFリンク情報を通知する(S2)。通知するRFリンク情報は、前記のように無線レイヤの下位レイヤから入手可能であれば、より詳細な情報が入手可能となる。
【0034】
入手したRFリンク情報はRFリンクモニタ10で加工され、フロー制御モニタ11に通知される(S3)。RFリンクモニタ10で情報を加工するのは、無線レイヤの詳細な情報を直接フロー制御モニタ11に通知する必要はない為、情報を抽象化するためである。例えば、RSSIや受信感度情報を1〜5段階で示し、RFリンク情報として出力する。また、他の例としては無線品質を高/中/低の3段階で示し、接続状態を無線接続/無線切断の2段階で抽象化しても良い。
【0035】
IP通信装置(MN)2とIP通信装置(CN)7の間でTCPを用いた通信(S4)が実施されている間、TCPリンクモニタ12は、TCPリンクの状態を常時監視する(S5)。具体的には、TCPリンクモニタ12は、TCPリンク毎の送受信バイト数の測定、各TCPリンクが優先トラフィック用か非優先トラフィック用かの識別、各TCPリンクのロスパケット数の計測及びRTT計測を実施する。そして、一定周期毎に、集めた情報をTCPリンク状態情報としてフロー制御モニタ11に通知する(S6)。TCPリンク状態情報としては、例えば総トラフィック量、パケットロス量、RTT、TCPリンクが優先トラフィック用か非優先トラフィック用かを示す識別情報等が含まれる。TCPリンクモニタ12は、使用している全てのTCPリンクについて、上述のTCPリンク状態情報を通知する。
【0036】
フロー制御モニタ11は、RFリンクモニタ10、TCPリンクモニタ12から入手した情報を加工し、TCPフロー制御の内容を決定するために必要な情報を出力する(S7)。フロー制御モニタ11がTCPフロー制御部13に通知する情報としては、例えばTCPフロー制御の実行又は停止を示す情報(TCP Flow Cont ON/OFF)、優先トラフィック用のTCPリンクを特定する優先TCP識別情報、RFリンク情報、各TCPリンクの総トラフィック量、RTT、パケットロス量及び測定周期を含む。
【0037】
TCPフロー制御部13は、フロー制御モニタ11から受信した情報を基に、TCPリンクの帯域抑制を行う(S8)。
【0038】
図4はRFリンクモニタ10の動作を説明する図である。前述した通り、RFリンクモニタ10は、一定周期で無線装置3に対してRFリンク情報要求メッセージを送信し、その応答としてRFリンク情報を入手する。このとき入手したRFリンク情報は、前回入手時からの平均等の加工をした上で、一定周期でフロー制御モニタ11に送出する。RFリンク情報としては、例えば受信信号強度情報(RSSI:Received Signal Strength Indication)や受信感度情報を含む。
【0039】
図5はフロー制御モニタ11の動作を説明する図である。フロー制御モニタ11は、一定周期でRFリンクモニタ10とTCPリンクモニタ12から情報を受信する。RFリンクモニタ10からは上述のRFリンク情報を受信する。TCPリンクモニタ12からは、各TCPリンクの総トラフィック量、RTT、パケットロス量、各TCPリンクが優先トラフィック用か非優先トラフィック用かを示す識別情報を受信する。
【0040】
フロー制御モニタ11は予め定められた回数分の情報を受信し、TCPフロー制御の内容を決定するために必要なデータを算出して、TCPフロー制御部13に送信する。図5の例では、受信した情報を10回蓄積して平滑化してから通知している。これは無線状態の急激な変動への追従を緩和させるためである。
【0041】
図6はフロー制御モニタ11動作をフローチャートで示したものである。フロー制御モニタ11は、規定回数(10回)分のRFリンク情報及び各TCPリンクについての総トラフィック量、RTT、パケットロス量を受信する(S21〜S23)。そして、規定回数分の受信情報から、RFリンク状態の決定と総トラフィック量、RTT、パケットロス量の算出を行う(S24)。
【0042】
総トラフィック量の算出方法は、以下のいずれかの方式を適用することで無線特性、システム特性に対応させる。
(1)受信回数の平均を算出し、平均値×受信回数=総トラフィック量として規定する。
(2)規定回数の受信したトラフィックの最大値を記録し、最大値×受信回数=総トラフィック量とし規定する。
(3)規定回数の受信したトラフィックの最小値を記録し、最小値×受信回数=総トラフィック量とし規定する。
パケットロス量は、TCPシーケンス番号の抜けを検出し、抜けたパケットのバイト数をパケットロス量として算出する。
【0043】
RTTは、TCPデータとACKのレスポンス関係をTCPリンク毎にモニタし、モニタした応答時間の平均をRTTとして規定する。応答時間の内、平均RTT時間+N時間以上のRTTは遅延ACKと判断し、RTT平均の測定からは除外する。
【0044】
RFリンク状態の決定は、例えば1〜5段階で示されたRFリンク情報を規定回数分受信し、その平均値をRFリンク状態情報として得る。
【0045】
一方、初期設定で決められた測定周期、TCPフロー制御の実行又は停止を示す情報(TCP Flow Cont ON/OFF)を得る。また、優先トラフィック用のTCPリンクを示す優先TCP識別情報(IP Address/Port)は、TCPリンクモニタ12から受信した各TCPリンクが優先トラフィック用か非優先トラフィック用かを示す識別情報から得る。(S25)
【0046】
フロー制御モニタ11は、各TCPリンクについて算出した総トラフィック量、パケットロス量、RTTと、測定周期、TCPフロー制御の実行又は停止を示す情報(TCP Flow Cont ON/OFF)、優先TCP識別情報(IP Address/Port)をTCPフロー制御部13に送出する(S26)。
【0047】
次に、TCPフロー制御部13の動作について説明する。図7はTCPフロー制御部13内部の動作を説明した図である。
TCPフロー制御部13は、優先トラフィック帯域占有率と非優先トラフィック抑圧率の関係を示す複数のターゲットテーブル30を有する。ここで、優先トラフィック帯域占有率とは、所定時間の総トラフィックに対する優先トラフィックの割合に相当する。非優先トラフィック抑圧率とは、非優先トラフィックのデータ量をどの程度抑圧すべきかを示した値である。それぞれのターゲットテーブル30は、優先トラフィック帯域占有率に対して異なった非優先トラフィック抑圧率が設定されている。
【0048】
まず、TCPフロー制御部13は、フロー制御モニタ11から定期的に情報を受信し(S31)、TCP Flow ContがONであるかどうかを確認する(S32)。ONであれば、TCPフロー制御を実行する必要があると判断し、以下の処理を行う。
【0049】
次に、RFリンク状態情報、パケットロス量、RTTに基づいて、複数のターゲットテーブル30の中から適切なターゲットテーブル30を選定する(S33)。例えば、RFリンク状態が悪く、パケットロス量が多い場合には、非優先トラフィック抑圧率が高い値に設定されたターゲットテーブル30を選定する。
【0050】
フロー制御モニタ11は、受信した情報を基に、優先トラフィック帯域が規定時間内のスループットの何%に対応するか(上述の優先トラフィック帯域占有率に相当)を計算する(S34)。
【0051】
具体的には、下記(1)〜(4)の手順で算出する。
(1)優先TCP識別情報により、優先トラフィックを送信しているTCPリンクを特定。
(2)特定したTCPリンクのトラフィック量を算出(優先トラフィック用のTCPリンクが複数存在する場合には、その複数のTCPリンクについてトラフィック量の合計値を算出)。この値が、優先トラフィック帯域に相当する。
(3)使用している全てのTCPリンクによって受信したトラフィック量を総受信トラフィック量として算出。
(4)(2)と(3)の値から、算出式
優先トラフィック帯域占有率=優先トラフィック帯域/t÷総受信トラフィック/t
により、優先トラフィック帯域占有率を算出。(ここでtは、所定周期を示す)
【0052】
S34で算出した優先トラフィック帯域占有率に応じて、ステップS35〜S38のいずれかを選択する。例えば、優先トラフィック帯域占有率がX%以上、Y%未満の場合には、非優先トラフィックの抑圧率がA%となるようTCP ACK制御及び受信可能ウィンドウサイズ制御を実施する(S35)。
【0053】
一方、優先トラフィック帯域占有率がX%未満の場合には、非優先トラフィックの抑圧は不要と判断し、TCP ACK制御及び受信可能ウィンドウサイズ制御を停止する(S38)。
【0054】
フロー制御の対象は、優先TCP識別情報に該当しないTCPトラフィック、即ち非優先トラフィックである。非優先トラフィックを扱う各TCPリンクに対して、TCP ACKの送信タイミングを遅らせる制御及び受信可能ウィンドウサイズを小さくする制御を行う。この制御により、非優先トラフィックを抑制することができる。
【0055】
以上説明した手順によって、基地局から受信するデータ(下り回線)のトラフィック制御、特に、非優先トラフィックのTCPフローを動的に抑制することができる。この制御は、TCPリンク単位で実施することができる。
また、無線装置3の無線特性、パケットロスの状況、RTTの値に応じて、複数のターゲットテーブル30の中から適切なテーブルを選定することで、無線状態や通信リンク全体の状況に連動した制御を実現できる。
【0056】
非優先トラフィックのTCPフローを抑制することにより、通信リンクに空き領域を確保し、優先トラフィックのTCPフローの抑制を実施しないことで、優先トラフィックのTCPフローが帯域を優先的に使用するようにしている。
【0057】
尚、本実施の形態ではX、Y、Z%の3つの閾値を用いて、トラフィック制御の内容を切り替えているが、閾値はより細かく設定しても良い。
また、上述の例では、非優先トラフィック抑圧率を0%、A%、B%、C%のいずれかに設定することになっているが、ターゲットテーブル30に示された優先トラフィック帯域占有率と非優先トラフィック抑圧率との関係(ターゲットテーブル30の曲線等)から、S34で算出した優先トラフィック帯域占有率に対応する非優先トラフィック抑圧率を得て、この抑圧率を満たすように制御しても良い。この場合、よりきめ細かい制御が可能となる。
【0058】
さらに、ターゲットテーブル30の代わりに、計算式を用いて優先トラフィック帯域占有率から非優先トラフィック抑圧率を算出するようにしてもよい。この場合、使用する計算式は、RFリンク状態情報、パケットロス量に応じて変更する。
【0059】
上述の実施の形態ではS35〜37では、TCP ACK制御と受信可能ウィンドウサイズ制御の両方を実施しているが、いずれかを行うようにしてもよい。また、要求される非優先トラフィック抑圧率が低い場合には、TCP ACK制御、受信可能ウィンドウサイズ制御のいずれかを実行し、非優先トラフィック抑圧率が高い場合には、TCP ACK制御、受信可能ウィンドウサイズ制御の両方を実行する等、抑圧率に応じて制御方法の組み合わせを変更してもよい。
これにより、通信帯域が十分確保されていない場合でも、優先トラフィックが一時的に流れていない場合には非優先トラフィックの通信帯域を増加させることが出来る。
【0060】
また、上述の実施の形態では、非優先トラフィックの抑圧を行う方法を説明したが、優先トラフィックが流れていない又はその量が少ない等、TCPリンクの状態に余裕があれば、非優先トラフィックを増加させる制御を行うようにしても良い。この場合には、非優先トラフィックを扱う各TCPリンクに対して、TCP ACKの送信タイミングを早める制御及び受信可能ウィンドウサイズを大きくする制御を行う。
【0061】
実施の形態2.
実施の形態1では、RFリンクモニタ10からフロー制御モニタ11にRFリンク情報を通知しているが、この処理を無くすことも可能である。RFリンクモニタ10の機能を省略するとTCPフロー制御部13に通知する情報が少なくなるが、制御の精度レベルが少し低下するのみで動作をさせることは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、基地局との間で無線通信を行う移動機に設けられ、前記基地局を介してネットワーク上のIP通信装置(CN)とTCP通信を行う通信装置に適用される。
【符号の説明】
【0063】
1 モバイルルータ
2 IP通信装置(MN:モバイルノード)
3 無線装置(RF Module)
7 IP通信装置(CN:コレスポンドノード)
10 RFリンクモニタ(RF Link Monitor)
11 フロー制御モニタ(Flow Control Monitor)
12 TCPリンクモニタ(TCP Link Monitor)
13 TCPフロー制御部(TCP Flow Controller)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局との間で無線通信を行い、前記基地局を介してネットワーク上のIP通信装置とTCP通信を行う移動体無線通信装置において、
前記TCP通信に用いる複数のTCPリンクのフローを監視し、前記TCPリンク毎のトラフィック量を計測するTCPリンク監視部と、
前記複数のTCPリンク中の各TCPリンクを優先トラフィック用TCPリンク、非優先トラフィック用TCPリンクのいずれかに特定し、前記優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量に応じて、前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を制御するTCPフロー制御部と、
を有することを特徴とする移動体無線通信装置。
【請求項2】
前記TCPフロー制御部は、
所定時間当たりの前記複数のTCPリンクの総トラフィック量を計算し、この総トラフィック量に対する前記優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量の割合を計算し、この割合が所定の閾値を超えた場合に前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を抑制することを特徴とする請求項1記載の移動体無線通信装置。
【請求項3】
前記TCPフロー制御部は、前記総トラフィック量に対する前記優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量の割合と予め定められた複数の閾値とを比較し、その比較結果に応じて前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィックの抑圧率を決定することを特徴とする請求項2記載の移動体無線通信装置。
【請求項4】
前記TCPフロー制御部は、前記総トラフィック量に対する前記優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量の割合が前記所定の閾値よりも小さい場合には、前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィックの抑制処理を停止することを特徴とする請求項2記載の移動体無線通信装置。
【請求項5】
前記総トラフィック量に対する前記優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量の割合及び要求される非優先トラフィックの抑圧率の関係を定めたターゲットテーブルを有し、
前記TCPフロー制御部は、前記ターゲットテーブルを用いて、計算した前記割合に対応した前記非優先トラフィックの抑圧率を得て、この抑圧率を満たすよう前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を抑制することを特徴とする請求項2記載の移動体無線通信装置。
【請求項6】
前記TCPフロー制御部は、前記要求される前記非優先トラフィックの抑圧率がそれぞれ異なった複数の前記ターゲットテーブルを有し、前記複数のターゲットテーブルから1つのターゲットテーブルを選択し、選択したターゲットテーブルに基づいて前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を抑制することを特徴とする請求項5記載の移動体無線通信装置。
【請求項7】
前記基地局との無線通信の状態を監視し、該無線通信の状態を示す無線リンク情報を出力する無線リンク監視部を有し、
前記TCPフロー制御部は、前記無線リンク情報に基づいて、前記複数のターゲットテーブルから1つのターゲットテーブルを選択することを特徴とする請求項6記載の移動体無線通信装置。
【請求項8】
前記TCPフロー制御部は、
前記非優先トラフィック用TCPリンクについて、ACK信号を前記ネットワーク上のIP通信装置に送信するタイミングを調整する、又は前記非優先トラフィック用TCPリンクについて、受信可能ウィンドウサイズを調整することにより、前記非優先トラフィック用TCPリンクによって前記基地局から受信する下りデータのトラフィック量を制御することを特徴とする請求項1記載の移動体無線通信装置。
【請求項9】
基地局との間で無線通信を行い、前記基地局を介してネットワーク上のIP通信装置とTCP通信を行う移動体無線通信装置に設けられるTCPフロー制御装置において、
前記ネットワーク上のIP通信装置と前記移動体無線通信装置に設けられたIP通信装置との間のTCP通信に用いる複数のTCPリンクのフローを監視し、前記TCPリンク毎のトラフィック量を計測するTCPリンク監視部と、
前記複数のTCPリンク中の各TCPリンクを優先トラフィック用TCPリンク、非優先トラフィック用TCPリンクのいずれかに特定し、前記優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量に応じて、前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を制御するTCPフロー制御部と
を有するTCPフロー制御装置。
【請求項10】
基地局との間で無線通信を行い、前記基地局を介してネットワーク上のIP通信装置とTCP通信を行う移動体無線通信装置において実行されるTCPフロー制御方法であって、
前記TCP通信に用いる複数のTCPリンクのフローを監視し、前記TCPリンク毎のトラフィック量を計測する計測ステップと、
前記複数のTCPリンク中の各TCPリンクを優先トラフィック用TCPリンク、非優先トラフィック用TCPリンクのいずれかに特定し、前記計測ステップにより計測された前記優先トラフィック用TCPリンクの前記トラフィック量に応じて、前記非優先トラフィック用TCPリンクのトラフィック量を抑制するTCPフロー制御ステップと、
を有することを特徴とするTCPフロー制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−176693(P2011−176693A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40155(P2010−40155)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】