説明

移動局、及び送信電力制御方法

【課題】移動局の送信電力の過剰を抑制することである。
【解決手段】移動局10は、基地局B1との間で各種データの送受信を行う。移動局10は、タイミング変化量監視部16とTPC値制御部17とを有する。タイミング変化量監視部16は、基地局B1へデータを送信するタイミングの変化量を監視する。TPC値制御部17は、当該監視の結果、基地局B1へデータを送信するタイミングの変化量が所定値に達した場合に、基地局B1へのデータ送信に用いる送信電力の値を低減させる制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局、及び送信電力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動局と基地局間における無線通信において、移動局から基地局へのデータ送信に必要な電力を制御する技術として、TPC(Transmission Power Control)がある。TPCでは、まず、基地局が、移動局からデータを受信し、その受信レベルを検出する。基地局は、この受信レベルが所定値以下である場合には、下り方向の制御チャネルを用いて、移動局側の送信電力の値を表すTPC値を移動局に通知することで、移動局に対して、TPC値を上げる指示を行う。反対に、上記受信レベルが所定値より高い場合には、基地局は、TPC値を移動局に通知することで、移動局に対して、TPC値を下げる指示を行う。移動局は、基地局からTPC値を通知されると、受信レベルが適切な値となるように、該TPC値に基づき、送信電力をフレーム単位で増減させる制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−216788号公報
【特許文献2】特開2004−208180号公報
【特許文献3】特開平11−261480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した技術では、移動局は、基地局からの指示に基づき、自局の送信電力を制御することから、移動局の状態によっては、送信電力制御のタイミングにタイムラグが生じることがある。すなわち、移動局が、上記基地局のセル端部から基地局側に移動している場合、上述したように、基地局は、移動局に対して、移動局のTPC値を低下させる指示を出す。この場合、例えば、移動局が基地局側に向かって高速で移動している時には、基地局側での上記指示が追い付かず、移動局側での送信電力制御に、何フレーム分かの遅延が生じてしまうこととなる。その結果、移動局の送信電力は、受信レベルに見合わない過剰な値となる。このことが、移動局の消費電力が増加する、あるいは、基地局付近において他の移動局との間に干渉が生じる要因となっていた。
【0005】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、移動局の送信電力の過剰を抑制することのできる移動局、及び送信電力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本願の開示する移動局は、一つの態様において、監視部と制御部とを有する。監視部は、基地局へデータを送信するタイミングの変化量を監視する。制御部は、前記監視の結果、前記変化量が所定値に達した場合に、前記基地局へのデータ送信に用いる送信電力の値を低減させる。
【発明の効果】
【0007】
本願の開示する移動局の一つの態様によれば、移動局の送信電力の過剰を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、基地局と移動局との位置関係、及び移動局の移動方向を示す図である。
【図2】図2は、移動局の機能的構成を示す図である。
【図3】図3は、移動局のハードウェア構成を示す図である。
【図4】図4は、送信電力制御処理を説明するためのタイミングチャートの前半部分を示す図である。
【図5】図5は、送信電力制御処理を説明するためのタイミングチャートの後半部分を示す図である。
【図6】図6は、送信タイミング制御処理を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願の開示する移動局、及び送信電力制御方法の実施例を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する移動局、及び送信電力制御方法が限定されるものではない。
【0010】
以下、本願の開示する移動局の実施例について、図面を参照しながら説明する。説明の前提として、本実施例では、図1に示すように、移動局10が、基地局B1の形成するセルC1の端部に在圏する場合を想定し、矢印Xの方向に移動するときの送信電力制御について説明する。移動局10は、セルC1端部から、基地局B1に接近する方向に移動するため、かかる移動に伴い、基地局B1に対する送信電力を低減する制御を行うこととなる。
【0011】
まず、本願の開示する一実施例に係る移動局の構成を説明する。図2は、本実施例に係る移動局10の機能的構成を示す図である。図2に示すように、移動局10は、TPC値変換部11と、算出部12と、算出部13と、タイミング変化量蓄積部14と、リセット判定部15と、タイミング変化量監視部16と、TPC値制御部17とを有する。これら各構成部分は、一方向又は双方向に、信号やデータの入出力が可能なように接続されている。
【0012】
TPC値変換部11は、UPまたはDOWN命令としてのTPC値を、基地局B1から受信すると、このTPC値を、UPまたはDOWNの幅を表す値(dB値)に変換する。そして、TPC値変換部11は、TPC値の変換結果であるdB値を、TPC値制御部17に出力する。
【0013】
算出部12は、後述するTPC値制御部17からの制御信号と、後述する算出部13からの送信電力算出結果とを、入力信号とし、上記制御信号に従い、当該算出結果に対するTPC値の加算または減算を行う。この算出処理は、フレーム単位で実行され、算出結果は、後段の算出部13に出力される。
【0014】
算出部13は、送信電力の初期値と算出部12による算出結果とを、入力信号とし、当該初期値と当該算出結果との加算結果を、TPC値として出力する。TPC値は、算出部12にフィードバックされると共に、後述のリセット判定部15と、タイミング変化量監視部16とに出力される。
【0015】
タイミング変化量蓄積部14には、リセット判定部15によりリセット状態が解除されている間、下り方向のパス変動情報(以下、単に「パス変動情報」と記す。)とTiming Advance情報とが蓄積される。蓄積結果は、送信タイミングの変化量として、タイミング変化量監視部16に出力される。パス変動情報は、下り方向のパスサーチ(DownLink追従制御)の結果による、送信タイミングの変化量を示す情報である。Timing Advance情報は、基地局B1から送信される、送信タイミングの制御コマンドであり、移動局10は、このコマンドに基づき、基地局B1との距離の変化を調整した上で、基地局B1に対するデータ送信を行う。移動局10は、送信タイミングを制御する際、Timing Advance情報を基に、大まかな位置まで送信タイミングを変化させた後、パス変動情報を基に、細かなタイミング制御を行う。
【0016】
リセット判定部15は、事前に設定されているリセット電力値(例えば18dB)と、フレーム単位で入力されるTPC値とを比較し、その結果、TPC値がリセット電力値を超過した場合、タイミング変化量蓄積部14とタイミング変化量監視部16とに対し、その旨の通知を行う。同様に、リセット判定部15は、TPC値がリセット電力値以下となったことを契機として、タイミング変化量蓄積部14とタイミング変化量監視部16とに対し、その旨の通知を行う。また、リセット判定部15は、タイミング変化量蓄積部14における蓄積結果をリセットし、再びリセット解除前の状態(送信タイミングの変化量=0)とする。
【0017】
タイミング変化量監視部16は、リセット判定部15から、TPC値がリセット電力値を超過したことの通知があると、タイミング変化量蓄積部14に蓄積されている、基地局B1に対する送信タイミングの変化量の監視を開始する。その後、タイミング変化量監視部16は、リセット判定部15から、TPC値がリセット電力値以下となったことの通知を受けると、上記送信タイミングの変化量の監視を停止する。監視結果は、TPC値制御部17に出力される。
【0018】
TPC値制御部17は、タイミング変化量監視部16から入力された監視結果である送信タイミング変化量と、事前に設定されているタイミング閾値(例えば、−14)とを比較し、上記変化量がタイミング閾値に達した場合に、TPC値を低減させる。TPC値制御部17は、事前に設定されているTPC制御回数分(例えば、3フレーム分)のTPC値の増減を、強制的にプラス(UP)からマイナス(DOWN)に変更することで、TPC値を低減させる。そして、TPC値制御部17は、低減制御されたTPC値を、算出部12に出力する。
【0019】
図3は、移動局10のハードウェア構成を示す図である。図3に示すように、移動局10においては、CPU10bと、メモリ10cと、FPGA(Field Programmable Gate Array)10dと、DSP(Digital Signal Processor)10eと、RF(Radio Frequency)回路10fと、表示装置10gとが、スイッチ10aを介して各種信号やデータの入出力が可能なように接続されている。RF回路10fは、アンテナ10hを有する。移動局10のTPC値変換部11と、算出部12と、算出部13と、リセット判定部15と、タイミング変化量監視部16と、TPC値制御部17とは、例えば、CPU10bあるいはDSP10eによって実現される。また、タイミング変化量蓄積部14は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等のメモリ10cによって実現される。
【0020】
次に、移動局10の動作を説明する。
【0021】
図4は、送信電力制御処理を説明するためのタイミングチャートの前半部分を示す図である。動作説明の前提として、送信電力制御前におけるTPC値の増減は、図4に示すように、フレームF1〜F15においては、増加を表す“+”であり、フレームF16〜F18では、減少を表す“−”であるものとする。移動局10による送信電力制御前においては、TPC値は、基地局B1からの指示(UP、DOWN命令)に基づき、所定値ずつ、フレーム単位で増減される。所定値は、例えば2dBであり、フレーム周期は、例えば1msである。また、移動局10には、送信タイミング変化量閾値として“−14”が設定され、低減制御回数として“3”が指定されているものとする。
【0022】
図4では、x軸方向に時間tが、y軸方向にTPC値がそれぞれ規定されている。TPC値には、移動局10固有のTPC値の上限値として「送信電力上限値」が、リセット状態が解除されるTPC値として「リセット電力値」が、それぞれ設定されている。送信電力上限値は、例えば23dBであり、リセット電力値は、例えば18dBである。移動局10のTPC値は、フレームF1から時間の経過に伴って上昇し、フレームF4においてリセット電力値を超えた後、フレームF8において送信電力上限値に到達する。その後、TPC値は、基地局B1からのUP命令とは反対に、TPC値制御部17により、3フレーム分低減制御される。移動局10による低減制御が終了すると、TPC値は、再び、基地局B1からの指示に従い、一旦上昇した後、リセット電力値を下回る値にまで減少する。
【0023】
上述のように、TPC値は、時間の経過に伴うフレームの進行と共に増減するが、移動局10は、図1に示したように、基地局B1との距離を縮めるため、パス変動情報は、フレームF1、F2を除き、マイナスの値を採る。Timing Advance情報に関しても同様に、移動局10の基地局B1への接近により、フレームF8、F14において、それぞれマイナスの値(−7、−5)を採る。
【0024】
図5に移り、フレームF1〜F4においては、移動局10はリセット状態にあることから、タイミング変化量蓄積部14には、送信タイミング変化量は蓄積されていない。フレームF4において、TPC値がリセット電力値を超えると、次フレームであるフレームF5以降、移動局10は、送信タイミング変化量の蓄積を開始する。その後、フレームF18において、TPC値が、再度、リセット電力値を下回ると、リセット状態が再開される。すなわち、移動局10がリセット状態にある間は、送信タイミングの変化量は0であるが、リセットが解除されたことを契機として算出及び蓄積が開始され、リセット再開に伴い、フレームF5〜F17の間に蓄積された送信タイミング変化量は、0にリセットされる。したがって、本実施例において、送信電力制御の要否を判定するために参照されるフレーム(以下、「判定対象フレーム」と記す。)は、フレームF5〜F17となる。
【0025】
本実施例では、図4に示したように、パス変動情報は、フレームF5以降、フレームF17迄の全てのフレームにおいて“−1”の値をとる。また、Timing Advance情報は、フレームF8において“−7”の値をとり、フレームF14において“−5”の値をとる。送信タイミングの変化量は、各フレームにおけるパス変動情報とTiming Advance情報との合計の累積値であるので、フレームF5における変化量は“−1”となり、例えばフレームF8における変化量は“−11(=−1×4−7)”となる。また、フレームF14では、Timing Advance情報が“−5”の値をとっていることから、当該フレームにおける送信タイミングの変化量は、パス変動情報の変化量である−10(=−1×10)と、Timing Advance情報の変化量である−12(=−7−5)との合計により、“−22”と算出される。
【0026】
上述のように、本実施例では、送信タイミング変化量閾値は“−14”に設定されていることから、送信タイミングの変化量は、フレームF11において閾値に到達する。また、低減制御回数は“3”に設定されていることから、低減制御回数満了フラグは、フレームF11を始点として3つ目のフレームであるフレームF13に設定される。これにより、移動局10のTPC値制御部17は、フレームF11〜F13において、送信電力の低減制御が有効な状態となる。そして、低減制御回数満了フラグを過ぎたフレームF14以降、送信電力の低減制御は、再び無効な状態となる。
【0027】
一方、TPC値は、フレームF8において上限値に達しており(図4参照)、かつ、フレームF8は上記判定対象フレーム内のフレームであることから、TPC値制御部17は、フレームF8に、送信電力上限値フラグを設定する。
【0028】
移動局10は、低減制御が有効状態にあるフレームF11〜F13を対象として、TPC値制御部17により、TPC値を低減させる制御を実行する。その結果、TPC値は、1フレーム分のタイムラグを伴い、フレームF12〜F14において、減少する。これにより、移動局10は、リセット解除状態にある場合に、送信電力上限値フラグが設定され、かつ、送信タイミングの変化量が閾値に達したとき、基地局B1からの増減指示に拘らず、自発的に送信電力を低減する制御を行う。
【0029】
移動局10は、判定対象フレームを、リセット解除状態にある場合のフレームに限定することで、送信タイミングの変化量の算出及び蓄積処理の実行を、TPC値が高くなった場合に限定し、不要な処理を削減することができる。また、移動局10は、送信電力の低減制御を行う場合を、送信電力上限値フラグが設定された場合に限定することで、送信電力が、減少が必要なほど高くない場合にまで低減制御が実行されることを未然に防止することができる。更に、移動局10は、送信電力の低減制御を行う場合を、送信タイミングの変化量が閾値に達した場合に限定する。これにより、移動局10は、送信電力の低減制御の実行を、基地局B1に接近している場合に限定し、移動局10が停止している、あるいは、基地局B1から遠ざかっている場合等、送信電力が過剰となっていない場合にまで送信電力が低減されることを未然に防止する。これにより、移動局10の送信電力が必要以上に減少して不足し、基地局B1へのデータ送信に支障を来たすといった事態は回避される。
【0030】
続いて、移動局10のTPC値制御部17が、パス変動情報とTiming Advance情報とを用いて、送信タイミングを制御する方法について説明する。基地局B1は、移動局10からデータを受信すると、そのデータから移動局10の送信タイミングを測定する。基地局B1は、当該測定結果を基に、移動局10からの信号が基地局B1に到達するタイミングが、基地局B1に接続している他の移動局のタイミングと一致する様なタイミング変動量を算出し、その算出結果をTiming Advance情報として、以後移動局10宛に送信するデータに挿入する。
【0031】
移動局10は、基地局B1から当該データを受信すると、そのデータの先頭位置を検出し、今回検出された先頭位置が、前回検出されたデータの先頭位置から変動している場合には、その変動量をパス変動情報としてメモリ10cに記憶する。また、移動局10は、基地局B1側で挿入された上記Timing Advance情報を受信データから抽出する。移動局10は、これらの情報(パス変動情報とTiming Advance情報)を用いて、基地局B1へのデータの送信タイミングを変動させる。例えば、移動局10がパス変動情報として“+1”の値を検出した場合には、TPC値制御部17は、送信データの先頭位置をプラス側(送信タイミングを遅らす方向)に“1”クロック分変動させる。一方、移動局10がTiming Advance情報として“−5”の値を受信した場合には、TPC値制御部17は、送信データの先頭位置をマイナス側(送信タイミングを早める方向)に“5”クロック分変動させる。
【0032】
図6は、送信タイミング制御処理を説明するためのタイミングチャートである。図6では、x軸方向に時間tが規定されている。図6において、タイミング変動が生じていない(移動局10が停止している)場合における送信データの先頭位置T11、T12、T13は、等間隔である。これに対し、タイミング変動が生じた(移動局10が基地局B1に接近している)場合における送信データの先頭位置T21、T22、T23の内、データ先頭位置T22、T23は、本来のデータ先頭位置T12、T13と比較して、それぞれ時間T、T分ずつ、早い時点に変動している。移動局10のTPC値制御部17は、例えば数10ms周期で、送信データの先頭位置を検出しており、検出された先頭位置のずれ(上述の時間T、Tに相当)を、上記パス変動情報として認識する。
【0033】
以上説明したように、本実施例に係る移動局10によれば、タイミング変化量監視部16とTPC値制御部17とを有する。タイミング変化量監視部16は、基地局B1へデータを送信するタイミングの変化量を監視する。TPC値制御部17は、上記監視の結果、上記変化量が所定値(送信タイミング変化量閾値)に達した場合に、基地局B1へのデータ送信に用いる送信電力の値を低減させる。したがって、移動局10は、基地局主導の送信電力制御ではなく、移動局による自発的な送信電力制御を実現することができる。これにより、移動局10は、移動局10と基地局B1間の距離の変化に伴う所要TPC値の変動に、容易かつ迅速に追従することが可能となる。その結果、移動局10が基地局B1に近付いた際に懸念される、送信電力の供給過多が抑制されると共に、同一の基地局に接続する他の移動局への干渉、あるいは、当該他の移動局からの干渉が低減される。
【0034】
具体的には、移動局10は、自局が基地局B1に向かって移動しているか否かを判断する指標として、送信タイミングの変化量を用いる。移動局10が基地局B1に近付いている場合には、移動局10から基地局B1への送信タイミングは早くなり、変化量は、マイナスの値を採る。反対に、移動局10が基地局B1から遠ざかる場合には、移動局10から基地局B1への送信タイミングは遅くなり、変化量は、プラス側に振れる。送信タイミングの変化量は、送信データの先頭位置の基準位置からの変位を表す情報(パス変動情報)と、基地局B1が移動局10に対してデータ送信のタイミングを指示するための情報(Timing Advance情報)とから容易に求められる。したがって、移動局10は、これらのパス変動情報及びTiming Advance情報の蓄積結果を参照することで、自局が基地局B1に近付いているか否かのみならず、どの程度近付いているか(接近の度合い)を、検知することができる。送信電力の過剰は、移動局10と基地局B1との距離が急速に短縮し、供給電力が所要電力を上回った場合に顕著となる。このため、移動局10は、上記検知結果を基に、送信電力を低減させるよう制御することで、移動局10の移動に伴う過剰な送信電力を抑制することが可能となる。
【0035】
更に、移動局10は、送信タイミングの変化量として、パス変動情報あるいはTiming Advance情報といった既存の情報を用いるため、新たな情報の生成や変更、加工をすることなく、送信電力を適切な値に制御することができる。したがって、送信電力制御に際して、新規の情報を生成したり変更する場合と比較して、送信電力制御に伴う処理負荷や伝送遅延の増大が抑制される。
【0036】
特に、移動局10のタイミング変化量監視部16は、送信電力の値が所定値(リセット電力値)を超えている間、タイミングの変化量を監視する。すなわち、移動局10は、移動局10のTPC値(送信電力値)がリセット電力値を上回ったことに伴い、送信タイミングの変化量の監視を開始すると共に、TPC値がリセット電力値を下回ったことに伴い、上記監視を停止する。すなわち、移動局10は、移動局10のTPC値がリセット電力値を超えている間は、移動局10が基地局B1に接近しているにも拘らず、送信電力が高い値にあるものと判断し、上記送信タイミングの変化量を監視する。換言すれば、移動局10は、送信電力が過剰となる恐れのある場合以外は、送信タイミングの変化量を監視する必要はなく、その結果、当該変化量を蓄積する必要もない。これにより、移動局10は、不要なデータの蓄積と監視を省略することで、常時、送信タイミングの変化量を蓄積及び監視する場合と比較して、少ない容量のデータを基に、送信電力を制御することができる。したがって、移動局10は、上記蓄積処理に伴うメモリの使用容量や監視処理に伴うプロセッサの負荷を節減することができる。その結果、送信電力制御の高速化を図ることが可能となる。
【0037】
また、移動局10のタイミング変化量監視部16は、単なる変化量ではなく、変化量の蓄積結果を監視し、TPC値制御部17は、変化量の蓄積結果を基に、TPC値の制御を行う。これにより、移動局10は、自局が送信電力を低減すべき状態にあるか否かを判定する指標として、相当程度に長い期間の変化量を用いることができる。したがって、移動局10は、パス変動情報やTiming Advance情報の突発的な変動や、一過性の増減の影響を極力排除して、送信電力が過剰であるか否かを精度良く判定することができる。その結果、移動局10による送信電力制御の信頼性を向上することが可能となる。
【0038】
更に、移動局10のTPC値制御部17は、TPC値の低減制御を開始した後、低減制御回数が満了した時点で、低減制御を停止すると共に、基地局B1からの指示に基づくTPC値の増減を再開する。これにより、移動局10を主導とする送信電力制御は、一時的なものとなるため、TPC値が、移動局10と基地局B1との通信に支障を来たす様な値にまで低下することはない。したがって、移動局10が基地局B1に接近した場合でも、送信電力が必要以上に減少することはなくなり、基地局B1との通信に際して、送信電力が不足するといった不都合は回避される。その結果、過剰送信電力の抑制と、不足送信電力の解消が両立される。
【0039】
なお、上記実施例では、移動局10が送信電力制御を実行する条件として、リセット解除状態、送信電力の上限値への到達、送信タイミング変化量の閾値への到達を設定した。しかしながら、これら3つの条件は、必ずしも全て満たされる必要は無く、移動局10は、少なくとも1つの条件が満たされた場合に、送信電力制御を実行するものとしてもよい。また、複数の条件が設定される場合であっても、条件が満たされる順序は、必ずしも上記実施例の通りでなくてもよく、例えば、送信タイミング変化量が閾値に到達した後に、送信電力が上限値に到達したことを契機として、送信電力制御が実行されるものとしてもよい。
【0040】
また、上記実施例では、送信電力を低減させる契機となる送信タイミング変化量閾値を“−14”とし、低減制御回数を“3”としたが、これらの値は、送信タイミングの変化する頻度や1フレーム当たりのTPC値の増減数に応じて、適宜変更可能である。例えば、送信タイミング変化量閾値が“−14”よりも小さい値(例えば、−20)に設定されている場合には、送信タイミングの変化量が余程大きくならない限り、その閾値に到達し得ないことから、TPC値の過剰が大きいものと推測される。したがって、移動局10は、低減制御回数を“3”よりも大きい値(例えば、5)に設定することで、TPC値の下げ幅を大きくし、できる限り早い段階でTPC値の減少を図る。これにより、送信電力の浪費や他の移動局との干渉を回避する。
【0041】
これに対して、送信タイミング変化量閾値が“−14”よりも大きい値(例えば、−10)に設定されている場合には、送信タイミングの変化量があまり大きくない段階で、閾値に到達する可能性が高い。このため、かかる場合には、TPC値の過剰は小さいものと推測される。したがって、移動局10は、低減制御回数を“3”よりも小さい値(例えば、2)に設定することで、TPC値の下げ幅を減少し、TPC値の調整を図る。これにより、より早い段階での過剰送信電力の抑制が可能となり、木目細やかな送信電力制御が実現される。
【0042】
また、上記実施例では、移動局として、携帯電話、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)を想定して説明したが、本発明は、移動局に限らず、送信タイミング制御を行う様々な通信機器に対しても適用可能である。
【0043】
更に、図2に示した移動局10の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的態様は、図示のものに限らず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することもできる。例えば、タイミング変化量監視部16と、TPC値制御部17とを1つの構成要素として統合してもよい。反対に、TPC値制御部17に関し、実際に送信電力を切り替える部分と、送信電力の制御回数を計数する部分とに分散してもよい。また、メモリ10cを、移動局10の外部装置としてネットワークやケーブル経由で接続するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 移動局
10a スイッチ
10b CPU
10c メモリ
10d FPGA
10e DSP
10f RF回路
10g 表示装置
10h アンテナ
11 TPC値変換部
12 算出部
13 算出部
14 タイミング変化量蓄積部
15 リセット判定部
16 タイミング変化量監視部
17 TPC値制御部
B1 基地局
C1 セル
F1〜F18 フレーム
11、T12、T13、T21、T22、T23 送信データの先頭位置
、T 送信データの先頭位置の変位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局へデータを送信するタイミングの変化量を監視する監視部と、
前記監視の結果、前記変化量が所定値に達した場合に、前記基地局へのデータ送信に用いる送信電力の値を低減させる制御部と
を有することを特徴とする移動局。
【請求項2】
前記監視部は、前記送信電力の値が所定値を超えている間、前記タイミングの変化量を監視することを特徴とする請求項1に記載の移動局。
【請求項3】
基地局へデータを送信するタイミングの変化量を監視し、
前記監視の結果、前記変化量が所定値に達した場合に、前記基地局へのデータ送信に用いる送信電力の値を低減させる
ことを特徴とする送信電力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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