説明

移動棚用ストッパ装置

【課題】緩衝機能を維持しながらも歩行者の躓きを防止しつつ、静粛性の高い移動棚のストッパ装置を提供する。
【解決手段】ストッパ装置は、床に配置されたレール7に沿って移動する移動棚3Aの下部に設けられた弾性材質で構成された当り部材21と、移動棚の移動方向Aに配置されていて当り部材21と当接する弾性材質で構成された緩衝手段とを有し、緩衝手段をレール7の内部にその全てが収納されるよう配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動棚を任意の位置で停止させるストッパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
書籍、資料、荷物などの物品を収納する移動式の棚(以下、「移動棚」と記す)は、車輪を有する台車部がその下部に設けられていて、床に敷設されたレールの溝内を車輪が走行することでレールに沿って移動可能とされている。床やレール部材には、移動棚を任意の位置で停止させるストッパ装置が配置されている。例えば特許文献1には、レール側にばね部材とストッパ部材を配置し、ばね部材を介して移動棚をストッパ部材に当接させることで当接時の衝撃を緩衝しながら移動棚を停止させる装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】実公平05−27067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、レールよりも上方にストッパ部材が突出しているので、移動棚の移動作業を阻害するだけでなく、通路として使用する際に歩行者が歩行中に躓くおそれがあった。また、移動棚とばね部材の双方が金属製の場合、両者の接触音とともに、経時劣化により緩衝機能を長期間維持することが困難となる。特に、図書館などの静粛な場所に移動棚を設置した場合、金属製の接触音は耳障りなものとなる。
【0005】
本発明は、緩衝機能を維持しながらも歩行者の躓きを防止しつつ、静粛性の高い移動棚のストッパ装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本願発明者らは、レール上面に突出が無く、移動棚を停止させ、かつ停止時の衝撃や地震時のエネルギーを極力抑える(吸収する)緩衝機能を持った移動棚専用のストッパ装置を提案するに至った。
【0007】
その特徴とするところは、床に配置されたレールに沿って移動する移動棚の下部に設けられた弾性材質で構成された当り部材と、移動棚の移動方向に配置されていて当り部材と当接する弾性材質で構成された緩衝手段とを有し、緩衝手段をレールの内部にその全てが収納されるように配設した。
【0008】
上記ストッパ装置において、緩衝手段は、当り部材と当接する弾性材質で構成された衝撃拡散部と、弾性材質で構成され衝撃拡散部が装着される緩衝支持部とを備え、衝撃拡散部が当り部材と正対するとともに、衝撃拡散部と緩衝支持部を移動棚の移動方向に並列配置した。
【0009】
上記ストッパ装置において、緩衝支持部の端部に設けられたナット部材と、レール部材の上方からレール部材の底部に向かってナット部材に締結されるボルト部材とを有する緩衝支持部をレール内に固定する固定手段を移動棚の移動方向に位置する緩衝支持部の端部側に配置した。
【0010】
上記ストッパ装置において、緩衝支持部の上面をレール部材の底面に向かって押圧するように押圧部材を設けた。
【0011】
上記ストッパ装置において、移動棚の進行方向に対してレールを両側から挟み込むように当り部材を形成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移動棚に設けた当り部材と、移動棚の移動方向に配置されていて、当り部材と当接する弾性材質で構成された緩衝手段とを有し、緩衝手段をレールの内部にその全てが収納されるように配設したので、当り部材と緩衝手段との当接で移動棚の停止、当接時の衝撃を吸収しながら、緩衝手段がレールや床面から突出しないので、緩衝機能を維持しながらも歩行者の躓きを防止しつつ、静粛性の高い移動棚のストッパ装置となる。
【0013】
本発明によれば、緩衝手段が、当り部材と当接する弾性材質で構成された衝撃拡散部と、衝撃拡散部を支持する緩衝支持部とを備え、衝撃拡散部が当り部材と正対するとともに、衝撃拡散部と緩衝支持部が移動棚の移動方向に並列配置されているので、当り部材と衝撃拡散部の当接時に当り部材からの圧力を衝撃拡散部が受け、当該衝撃拡散部が受けた圧力が緩衝支持部全体に拡散されるので、偏った劣化がなく安定した緩衝効果を長期間維持することができる。
【0014】
本発明によれば、緩衝支持部の端部に設けられたナット部材と、レール部材の上方からレール部材の底部に向かってナット部材に締結されるボルト部材とを有し、緩衝支持部をレール内に固定する固定手段を移動棚の移動方向に位置する緩衝支持部の端部側に配置したので、緩衝支持部がレール内に固定される。このため、当り部材と衝撃拡散部との当接時の衝撃が大きくなると、衝撃拡散部と緩衝支持部との弾性変形量が大きくなってレール部材との摩擦抵抗が高まり、衝撃の増大に応じて緩衝支持部のレール部材に対する固定力が大きくすることが出来る。
【0015】
本発明によれば、緩衝支持部の上面をレール部材の底面に向かって押圧する押圧部材を有するので、緩衝支持部とレール部材との接触抵抗が大きくなるとともに、緩衝支持部の強度が高くなり、より確実に当り部材からの衝撃を吸収するとこができる。
【0016】
本発明によれば、移動棚の進行方向に対してレールを両側から挟み込むように当り部材を形成したので、移動棚の移動時に際して移動棚の向きが規制され、移動棚の斜行を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて順次説明する。図4は、本発明の一実施の形態である移動棚を備えた書庫の平面図である。同図において書庫1は、固定棚2A,2B、各固定棚2A,2B間に配置された移動棚3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G,3H,3Iを備えている。
【0018】
各固定棚2A,2Bは互いに向き合う面に間口を有しており、各間口面には物品を収納するための複数のラック部が形成されている。各固定棚2A,2Bはそれぞれ左右対称の形状を呈しており、各ラック部が向き合うように構成されている。
【0019】
各移動棚3A〜3Iは全て同じ形状を呈しており、図5及び図6に移動棚3Aを代表して示すように、各移動棚3A〜3Iは上部に複数のラック部3bを有する棚部3aを有し、下部に複数の棚用車輪3dをそれぞれ有する複数の台車部3cを有している。本実施形態において、ラック部3bは6列4段に配置され、各移動棚3A〜3Iの両間口面の双方にラック部3bが設けられている。棚部3aの間口面から見た両側部及び各ラック部3b間の下部には7個の台車部3cが取り付けられており、各台車部3cにはそれぞれ2個の棚用車輪3dが支軸3eによってそれぞれ回転自在に支持されている。各棚用車輪3dは、それぞれフランジを有さないフラットな同一の円筒形状を呈しているが、無論フランジを有するものを用いても良い。
【0020】
各移動棚3A〜3Iは、レール7上をその間口面と直交する方向に個別に移動され、各移動棚3A〜3Iのうちの任意の2つの移動棚間には、図4に示す通路23が形成される。図4において、矢印Aは各移動棚の移動方向を示す。
【0021】
次に本発明の主要部となる移動棚用ストッパ装置(以下「ストッパ装置」と記す)20の構成について図1〜図3を用いて説明する。このストッパ装置20は、各移動棚の移動の停止や地震発生時の各移動棚の振動を吸収するものであり、各移動棚とそれが通過するレール7とに設けられる。本形態では、移動棚3Aとレール7を例にとって説明する。
【0022】
ストッパ装置20は、移動棚3Aの下部に設けられた弾性材質で構成された当り部材21と、移動棚3Aの移動方向Aに配置されて当り部材21と当接する弾性材質で構成された緩衝手段23とを備えている。そして最大の特徴は、緩衝手段23が、レール7の内部にその全てが収納されるように構成・配設されている点にある。
【0023】
当り部材21は、金属製のブラケットとなる受金具22を介して移動棚3Aの台車部3cに取り付けられている。受金具22は、その下端が略直角に屈曲されていて、屈曲部22Aが台車部3cの下部(移動棚3の下部)に位置するように、移動棚3Aの移動方向に位置する台車部3cの側面3c1に図示しないしネジで締結されている。この屈曲部22Aには、複数のネジ孔22Bが形成されている。
【0024】
当り部材21は、全体形状が直方体または立方体をなし、その中央部全域に図2,図3に示すように凹部21Aが形成されて断面コの字形状とされている。凹部21Aには、その部分を貫通するように、複数の孔21B,21Bが形成されている。各孔21Bには、それぞれ図1に示すようにネジ26が挿入される。当り部材21は、この挿入されたネジ26を受金具22のネジ孔221Bに締込むことで、受金具221に固定される。すなわち、当り部材21は、ネジ26を締めたり緩めたりすることで、移動棚3Aに対して、台車部3cの外側から台車部組立終了後でも取り付けることが可能であり、施工が容易に行える構造とされている。
【0025】
当り部材21は、弾性部材の一例である樹脂で構成されている。樹脂としては、例えば、ポリアセタール樹脂などの耐衝撃性に優れた樹脂が好ましい。当り部材21は、凹部21Aの開口側がレール7に向かうように受金具22に装着されるとともに、凹部21Aの両側に位置する壁部21C,21Dがレール7に形成された溝7A,7B内に位置する高さとされている。壁部21C,21Dの幅Wは、レール7の溝7A,7Bの幅W1よりも幾分狭く形成されていて、移動棚3Aの進行方向に対してレール7を両側から挟み込むように形成されている。すなわち、当り部材21は、衝撃拡散部24と接触して移動棚3Aを停止させる機能と、移動棚3Aの斜行を防止する機能を備えている。
【0026】
緩衝手段23は、図1,図3に示すように、当り部材21と当接する弾性材質で構成された衝撃拡散部24と、衝撃拡散部24を支持する緩衝支持部25とを備え、レール7の端部に配置されている。本形態では2組の緩衝手段23をそれぞれレール7の溝7A、7B内に設けるが、図1においては一方の緩衝手段23の構成を示す。
【0027】
各衝撃拡散部24は、当り部材21と正対するレール7の溝7A、7B内で、緩衝支持部25よりも当り部材21側にあり、移動棚3Aの移動方向Aに緩衝支持部25と並列にそれぞれ配置されている。各衝撃拡散部24は、直方体又は立方体を成し、ポリアセタール樹脂などの耐衝撃性に優れた樹脂で構成されており、緩衝支持部25の端面25Aに両面テープなどの接着手段により貼り付けられて装着支持されている。
【0028】
各緩衝支持部25は、周知のCRゴム材で形成された長方形状を成し、緩衝拡散部24が貼設される端面25Aと反対側に位置する部分となる、すなわち、移動棚の移動方向Aに位置する緩衝支持部25の端部側には、段差部25Bがそれぞれ形成されている。この段差部25Bには、スクエアナット27が固着されている。各衝撃拡散部24及び各緩衝支持部25の高さHは、本形態では同一とされていて、かつレール7の高さH1よりも低く設定されている。スクエアナット27には、レール部材7A,7Bの上方からレール底部7Cに向かってボルト部材32が締結される。これらスクエアナット27とボルト部材32で固定手段30が構成されている。
【0029】
各緩衝支持部25の上方には、レール7の端部を覆う金属製のエッジカバー28が配置される。エッジカバー28には、断面がL字状を成し、レール7へエッジカバー28を装着した時に、緩衝支持部25の上面25Dに上方からレール底面7Cに向かって接触し、レール底面7Cに向かって押圧する弾性部材であるゴム製の押圧部材31と孔29がそれぞれ設けられている。
【0030】
このような構成のストッパ装置20では、当り部材21を台車部3cに装着するとともに、緩衝支持部25の端面25Aに緩衝拡散部24を、段差部25Bにナット27をそれぞれ予め装着した状態で、緩衝手段23をレール7の溝7A、7Bからレール7内部に挿入してレール端部に位置するレール底面7C上に載置する。次にエッジカバー28をレール7の上方から被せ、孔29からボルト部材32を挿入してスクエアナット27に締め込む。すると、このスクエアナット27がボルト部材32に引き寄せられて溝7A,7Bの内面7Dと接触するとともに、段差部25Bがボルト部材32の先端32Aでレール底面7Cへと押え込まれる。これによりレール底面7Cと緩衝支持部25の底面25Cとの接触力が強くなり、緩衝手段23がレール7内に固定されることになる。
【0031】
このとき、衝撃拡散部24及び緩衝支持部25の高さHは、本形態では同一とされていて、かつレール7の高さ(溝の深さ)H1よりも低く設定されている。すなわち、緩衝手段23がレール7の内部にその全てが収納されるようにレール7内に配設されるので、緩衝手段23がレール7や床面6から突出しなくなり、歩行者の躓きを防止することができる。当り部材21及び緩衝手段23を弾性材質で構成したので、当り部材21が緩衝手段23と当接することで移動棚3Aの移動を停止することができるとともに、当接時の衝撃を吸収することができる。このため、金属製の衝突音が発生せず、静粛性の高いものとなる。
【0032】
衝撃拡散部24は当り部材21と正対し、かつ移動棚3Aの移動方向Aに緩衝支持部25と隣接して並列配置されているので、当り部材21と衝撃拡散部24の当接時に当り部材21からの圧力を衝撃拡散部24が受けて収縮するとともに、衝撃拡散部24が受けた圧力が緩衝支持部25に伝達されて弾性変形することで緩衝支持部25全体に拡散されることとなり、偏った劣化がなく安定した緩衝効果を長期間維持することができる。
【0033】
また、衝撃拡散部24が、その収縮範囲以上の圧力で押された場合でも緩衝支持部25の弾性変形によって、緩衝支持部25とレール底面7C及び内面7Dとの抵抗が増すとともに、段差部25Bが溝7A,7Bの内面7Dとスクエアナット27との接触抵抗も増すため、緩衝支持部25が固着された状態となり、圧力を受ければ受けるほどレール7に対して緩衝手段23を強く固着することができる。このため、緩衝手段23の位置が安定し、移動棚3Aが勢いよく移動された場合でも、確実に所定の位置に停止させることができる。
【0034】
緩衝支持部25の上面25Dが、レール底面7Cに向かって押圧部材31で押圧されるので、緩衝支持部25とレール部材7Cとの接触抵抗が大きくなるとともに、緩衝支持部25の強度が高くなり、より確実に当り部材21からの衝撃を吸収するとこができる。
【0035】
さらに、当り部材21は、移動棚3Aの進行方向に対してレール7を両側から挟み込むように壁部21C,21Dが形成されているので、移動棚3Aの移動時に際して壁部21C,21Dと溝7A、7Bとにより移動棚3Aの向きが規制され、移動棚3Aの斜行を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態を示す移動棚用ストッパ装置の構成を示す拡大断面図である。
【図2】移動棚用ストッパ装置を構成する当り部材の構成と取付け状態を移動棚の移動方向から見た拡大図である。
【図3】移動棚用ストッパ装置の構成を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の一実施の形態である移動棚を備えた物流装置の平面図である。
【図5】移動棚の概略構成を示す正面図である。
【図6】移動棚の概略構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0037】
3A〜3I 移動棚
6 床
7 レール
21 当り部材
23 緩衝手段
24 衝撃拡散部
25 緩衝支持部
25B 緩衝支持部の端部
25D 緩衝支持部の上面
27 ナット部材
30 固定手段
31 押圧部材
32 ボルト部材
A 移動棚の移動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床に配置されたレールに沿って移動する移動棚の下部に設けられた弾性材質で構成された当り部材と、
前記移動棚の移動方向に配置されていて前記当り部材と当接する弾性材質で構成された緩衝手段とを有し、
前記緩衝手段が、前記レールの内部にその全てが収納されるように配設されていることを特徴とする移動棚用ストッパ装置。
【請求項2】
前記緩衝手段は、前記当り部材と当接する弾性材質で構成された衝撃拡散部と、弾性材質で構成され前記衝撃拡散部が装着される緩衝支持部とを備え、
前記衝撃拡散部が前記当り部材と正対するとともに、前記衝撃拡散部と前記緩衝支持部が、前記移動棚の移動方向に並列配置されていることを特徴とする請求項1記載の移動棚用ストッパ装置。
【請求項3】
前記移動棚の移動方向に位置する前記緩衝支持部の端部側に設けられ、前記緩衝支持部をレール内に固定する固定手段を有し、
前記固定手段が、前記緩衝支持部の端部に設けられたナット部材と、前記レール部材の上方からレール部材の底部に向かって前記ナット部材に締結されるボルト部材とを有することを特徴とする請求項2記載の移動棚用ストッパ装置。
【請求項4】
前記緩衝支持部の上面を前記レール部材の底面に向かって押圧する押圧部材を有することを特徴とする請求項1、2または3記載の移動棚用ストッパ装置。
【請求項5】
前記当り部材は、前記移動棚の進行方向に対して前記レールを両側から挟み込むように形成されていることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1つに記載の移動棚用ストッパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−179473(P2008−179473A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170900(P2007−170900)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000163833)金剛株式会社 (31)
【Fターム(参考)】