説明

移動無線システム

【課題】電界強度が強く、且つ明瞭度が良好な通信回線を自動的に設定することができる移動無線システムを提供する。
【解決手段】所定の場所に固定して設置された固定局1と、車両を有し通信サービスエリア内で固定局1との間で通信を行う移動局9と、固定局1と移動局9との間の通信を中継するA中継局4及びB中継局7と、を備え、固定局1は、固定局1から送信する音声信号にA中継局4及びB中継局7のそれぞれを特定するトーン信号を付加してA中継局4及びB中継局7に送信し、自局を特定するトーン信号を受信した中継局は、このトーン信号を音声信号に付加して移動局9に送信し、この音声信号に所定の時間内に応答した移動局9は、応答相手の中継局を特定する特定信号を音声信号に付加して送信することにより、これ以降の通信は、この中継局を介して固定局1と移動局9との間で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動無線システムに関し、さらに詳しくは、電界強度の強い中継局を指定して、その中継局を介して固定局と移動局間の通信を行う移動無線システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の移動無線システムにおいては、広範囲なサービスエリアを確保するために、複数の無線中継局(以下、単に中継局と呼ぶ)を、例えば山上に配置して、送受信で異なるFM波を使用する2周波中継方式を採用して、無線固定局(以下、単に固定局と呼ぶ)と移動局との通信が行われている。
図8は従来の移動無線システムの構成例を示す図である。この図では、説明を簡略化するために、固定局を1箇所、中継局を2箇所(A、B)、移動局を1箇所として説明する。また、中継局54、57からの受信レベルは、混変調による受信障害を防ぐために、A中継局54の方がB中継局57より高くなるように設定している(即ち、A中継局4はB中継局より優先度が高い)。その結果、固定局51がA中継局54とB中継局57から同時に受信した場合は、マスキング効果により、受信レベルが高いA中継局54の信号を復調するように働く。このような条件下で、固定局51と移動局59との間で通信を行う場合、例えば、A中継局54から中継された電波が、障害物(山)55により妨害されて受信電界が低く、且つ明瞭度が悪くなり移動局59に伝達し、B中継局57から中継された電波は、どこにも妨害されずに受信電界がA中継局54より高く、且つ明瞭度が良い状態で移動局59に伝達されたとする(尚、移動局59の場所によりこの状態は変化する)。その結果、移動局59ではマスキング効果によりB中継局57の電波が復調される。
【0003】
次に、移動局59から固定局51に音声を送信すると、移動局59から発射された電波(F1)は、A中継局54とB中継局57に送信され、A中継局54からはB中継局57より電界強度が強い電波で固定局51に伝達される。その結果、マスキング効果により、自動的にA中継局54の電波が復調されて、結果的に明瞭度が悪い通信を行うことになる。即ち、固定局51から移動局59への通信では明瞭度は良いが、移動局59から固定局51への通信では明瞭度が悪いというケースが発生する。
この問題を解決するために、特許文献1には、単一通話路方式の複数の中継局無線装置において、トーンスケルチ制御回路を備えたもので、特に固定局の選局通信から混信障害を排除する回路に利用して好適なトーン信号による中継局選択回路について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案出願公告 平2−1974号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている従来技術は、移動無線局が、どの無線中継所のサービスエリアにいるか人的に判断して選択する必要があり、選択した無線中継局以外のサービスエリア内に移動無線局がいると無線通話ができないといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、固定局から音声信号を送信する場合、それぞれの中継局を特定する特定信号を付加して送信し、マスキング効果により選択された中継局の特定信号を付加した音声信号を受信した移動局は、その特定信号を音声信号にそのまま付加して送信することにより、電界強度が強く、且つ明瞭度が良好な通信回線を自動的に設定することができる移動無線システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、固定局と、移動手段を有し通信サービスエリア内で前記固定局との間で通信を行う移動局と、前記固定局と前記移動局との間の通信を中継する中継局と、を備え、前記各局での送信時と受信時でそれぞれ異なる周波数を使用する二周波中継方式による移動無線システムであって、前記固定局は、前記二周波による無線通信の変復調を行う固定局送受信手段と、各中継局をそれぞれ特定する特定信号を、送信する音声信号に付加する固定局特定信号付加手段と、前記固定局送受信手段を介して受信した受信信号に含まれる前記特定信号が何れの中継局かを識別する固定局特定信号識別手段と、を備え、前記中継局は、前記二周波による無線通信の変復調を行う中継局送受信手段と、該中継局を特定する特定信号を前記固定局から受信した音声信号に付加する中継局特定信号付加手段と、前記中継局送受信手段を介して受信した受信信号に含まれる前記特定信号が自局の特定信号か否かを識別する中継局特定信号識別手段と、を備え、前記移動局は、前記二周波による無線通信の変復調を行う移動局送受信手段と、該移動局送受信手段により電波を受信してから応答するまでの時間を計時する応答時間計時手段と、各中継局を特定する特定信号を音声信号に付加する移動局特定信号付加手段と、前記移動局送受信手段を介して受信した受信信号に含まれる前記特定信号を検知する特定信号検知手段と、を備えたことを特徴とする。
最初に固定局から送信する場合は、移動無線局が、どの無線中継所のサービスエリアにいるか分からないので、全ての中継局の特定信号を付加して送信する。中継局は、自局の特定信号であるか否かを判断する中継局特定信号識別手段を備え、自局が識別されると、その特定信号を音声信号に付加して移動局に送信する。また、移動局は、移動しながら通信する場合が多いので、通信環境が常に変化する場合が多い。従って、1つの中継局の電波を受信する場合や、複数の中継局からの電波を受信する場合がある。前者の場合は、応答するのであれば、受信した中継局の特定信号を音声信号に付加する。後者の場合は、マスキング効果により1つの中継局が選択されるので、その特定信号を音声信号に付加する。これにより、固定局、中継局、及び移動局が特定信号に基づいて通信ルートを確立することができる。
【0007】
請求項2は、前記移動局が1つの中継局から電波を受信して前記固定局と通信を行う場合、前記固定局は、該固定局から送信する音声信号に前記中継局を特定する特定信号を付加して該中継局に送信し、前記中継局特定信号識別手段により自局を特定する特定信号であると識別した中継局は、該特定信号を前記音声信号に付加して前記移動局に送信し、該電波を受信した移動局は、前記特定信号検知手段により特定信号を検知すると、検知した特定信号をそのまま音声信号に付加して前記中継局に送信することを特徴とする。
固定局は1つの中継局を選択して、その中継局を中継して移動局と通信を確立する場合がある。そのような時には、固定局は選択する中継局の特定信号のみを音声信号に付加して送信する。電波を受信した中継局は、自局の特定信号であれば、その特定信号を音声信号に付加して移動局に送信する。受信した移動局は、その特定信号をそのまま音声信号に付加して中継局に送信する。これにより、固定局により選択された中継局を介して移動局と通信を確立することができる。
【0008】
請求項3は、前記移動局が複数の中継局から電波を受信して前記固定局と通信を行う場合、前記固定局は、該固定局から送信する音声信号に前記複数の中継局をそれぞれ特定する複数の特定信号を付加して該中継局に送信し、前記中継局特定信号識別手段により自局を特定する特定信号であると識別した各中継局は、該特定信号を前記音声信号に付加して前記移動局に送信し、該電波を受信した移動局は、マスキング効果により復調された電波に係る特定信号をそのまま音声信号に付加して前記中継局に送信することを特徴とする。
移動局が複数の中継局から電波を受信した場合は、マスキング効果により、受信電界が最も強い電波を復調するように働く。従って、移動局は特定信号を識別する必要がなく、受信した特定信号をそのまま音声信号に付加して送信する。これにより、移動局の送信動作がマスキング効果により自動的に確立させることができる。
【0009】
請求項4は、前記移動局が複数の中継局から電波を受信し、前記移動局が所定の時間内に前記音声信号に応答する場合は、マスキング効果により復調された電波に係る特定信号をそのまま音声信号に付加して前記中継局に送信することを特徴とする。
複数の中継局から電波を受信した場合は、マスキング効果により1つの中継局からの電波が復調される。従って、その電波によって固定局から呼ばれた移動局が所定の時間内に音声により応答する場合は、その通信ルートで固定する必要がある。そこで本発明では、応答した中継局から受信した特定信号をそのまま付加して送信する。これにより、良好な通信状態を維持したまま通信を行うことができる。
【0010】
請求項5は、前記移動局が所定の時間内に前記音声信号に応答しない場合は、該移動局は、それぞれの中継局を特定する特定信号を前記音声信号に付加して送信することを特徴とする。
移動局が所定の時間内に音声信号に応答しない場合は、呼び出しに対する応答とは別の通信、例えば、他の無線局の呼び出し等と判断して、固定局と同様に全中継局の特定信号を音声信号に付加する。これにより、他の無線局(例えば、他の移動局)との通信を迅速に行うことができる。
【0011】
請求項6は、前記特定信号は、前記音声信号の周波数帯域と異なる周波数により構成したトーン信号であることを特徴とする。
音声信号は、500Hzから3kHz帯域で行われる。従って、その帯域外は制御信号の帯域として利用することができる。本発明では、特定信号を音声信号の周波数帯域と異なる周波数により構成されたトーン信号とする。これにより、各特定信号を識別する回路が簡略化することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1つの中継局の電波を受信する場合や、複数の中継局からの電波を受信する場合がある。前者の場合は、応答するのであれば、受信した中継局の特定信号を音声信号に付加する。後者の場合は、マスキング効果により1つの中継局が選択されるので、その特定信号を音声信号に付加する。これにより、固定局、中継局、及び移動局が特定信号に基づいて通信ルートを確立することができる。
また、固定局は1つの中継局を選択して、その中継局を中継して移動局と通信を確立する場合がある。そのような時には、固定局は選択する中継局の特定信号のみを音声信号に付加して送信する。電波を受信した中継局は、自局の特定信号であれば、その特定信号を音声信号に付加して移動局に送信する。受信した移動局は、その特定信号をそのまま音声信号に付加して中継局に送信するので、固定局により選択された中継局を介して移動局と通信を確立することができる。
また、移動局が複数の中継局から電波を受信した場合は、マスキング効果により、受信電界が最も強い電波を復調するように働く。従って、移動局は特定信号を識別する必要がなく、受信した特定信号をそのまま音声信号に付加して送信するので、移動局の送信動作がマスキング効果により自動的に確立させることができる。
また、応答した中継局から受信した特定信号をそのまま付加して送信するので、良好な通信状態を維持したまま通信を行うことができる。
また、特定信号を音声信号の周波数帯域と異なる周波数により構成されたトーン信号とするので、各特定信号を識別する回路が簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る移動無線システムの構成例を示す図である。
【図2】本発明の固定局の機能を説明する機能ブロック図である。
【図3】本発明の中継局の機能を説明する機能ブロック図である。
【図4】本発明の移動局の機能を説明する機能ブロック図である。
【図5】(a)は移動局が1つの中継局から電波を受信した場合のシーケンス図、(b)は移動局が複数の中継局から電波を受信した場合のシーケンス図である。
【図6】(a)は移動局が複数の中継局から電波を受信した際、一定時間に応答する場合のシーケンス図、(b)は移動局が複数の中継局から電波を受信した際、一定時間に応答しない場合のシーケンス図である。
【図7】本発明の動作を説明するフローチャートである。
【図8】従来の移動無線システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る移動無線システムの構成例を示す図である。この図では、説明を簡略化するために、固定局を1箇所、中継局を2箇所(A、B)、移動局を1箇所として説明する。この移動無線システム100は、所定の場所に固定して設置された固定局1と、車両(移動手段)を有し通信サービスエリア内で固定局1との間で通信を行う移動局9と、固定局1と移動局9との間の通信を中継するA中継局4及びB中継局7と、を備え、各局での送信時と受信時でそれぞれ異なる周波数(F1、F2)を使用する二周波中継方式による移動無線システム100であって、固定局1は、固定局1から送信する音声信号にA中継局4及びB中継局7のそれぞれを特定するトーン信号(特定信号)を付加してA中継局4及びB中継局7に送信し、自局を特定するトーン信号を受信した中継局は、このトーン信号を音声信号に付加して移動局9に送信し、この音声信号に所定の時間内に応答した移動局9は、応答相手の中継局を特定するトーン信号を音声信号に付加して送信することにより、これ以降の通信は、この中継局を介して固定局1と移動局9との間で行う。尚、本実施形態では固定局1の送信信号は周波数F1で行い、A中継局4及びB中継局7は固定局1から受信したF1をF2に変換して移動局9に送信し、移動局9はF2を受信して送信時にはF1に変換してA中継局4及びB中継局7に送信し、A中継局4及びB中継局7ではF1をF2に変換して固定局1に送信する。尚、移動局9が所定の時間内(例えば、10秒以内)に音声信号に応答しない場合は、この移動局9は、それぞれの中継局4、7を特定するトーン信号を音声信号に付加して送信する。
【0016】
即ち、本実施形態では、マスキング効果だけを利用して通信を行うのではなく、各中継局4、7にそれぞれの中継局を特定するトーン信号を与え、固定局1から音声信号を送信する場合は、夫々の中継局4、7を特定するトーン信号(例えば、中継局4は100Hzのトーン信号、中継局7は200Hzのトーン信号)を音声信号に付加して中継局に送信する。各中継局では、自局のトーン信号を検出すると、そのトーン信号を音声信号に付加し、且つ周波数F1からF2に変換して移動局9に送信する。移動局9では、例えば、中継局4からの電波に応答する場合は、その電波に付加されたトーン信号をそのまま音声信号に付加して中継局4に送信する。その結果、1つの特定された中継局4のみ音声信号を中継して固定局1に送信する。固定局1では、その中継局4のトーン信号を検出して、以後の通信は、その中継局4と通信を行うようにトーン信号を固定する。これにより、固定局1に応答した移動局9が特定の中継局4と通信を行うことができる。
【0017】
図2は本発明の固定局の機能を説明する機能ブロック図である。
固定局1は、二周波(F1、F2)による無線通信の変復調を行う送受信部(固定局送受信手段)11と、各中継局4、7をそれぞれ特定するトーン信号(特定信号)を、送信する音声信号に付加するトーン信号付加回路(固定局特定信号付加手段)13と、送受信部11を介して受信した受信信号に含まれるトーン信号が何れの中継局かを識別するトーン信号識別部(固定局特定信号識別手段)12と、各部を制御する制御部14と、を備えて構成されている。尚、送受信部11にはアンテナ2が備えられている。
即ち、送信時は、制御部14は、全ての中継局それぞれを特定するトーン信号をトーン信号付加回路13により、送信する音声信号に付加して周波数F1で送受信部11により変調してアンテナ2から送信する。受信時は、アンテナ2から受信した周波数F2の電波を送受信部11で復調して、トーン信号識別部12で識別して、どの中継局から送信されたトーン信号であるかを判断する。また、音声信号は制御部14に別ルートで入力される。以後の通信は、識別した中継局のトーン信号を、送信する音声信号に付加して周波数F1で送受信部11で変調してアンテナ2から中継局に送信する。
【0018】
図3は本発明の中継局の機能を説明する機能ブロック図である。この中継局4(7)は、二周波(F1、F2)による無線通信の変復調を行う送受信部(中継局送受信手段)15と、中継局を特定するトーン信号(特定信号)を固定局1から受信した音声信号に付加するトーン信号付加回路(中継局特定信号付加手段)17と、送受信部15を介して受信した受信信号に含まれるトーン信号が自局のトーン信号か否かを識別するトーン信号識別部(中継局特定信号識別手段)16と、各部を制御する制御部19と、を備えて構成されている。また、音声信号は制御部19に別ルートで入力される。尚、送受信部15にはアンテナ3(6)が備えられている。
即ち、受信時は、アンテナ3から受信した周波数F1の電波を送受信部15で復調して、トーン信号識別部16でトーン信号が識別されて、自局のトーン信号であるか否かを識別する。音声信号は制御部14に別ルートで入力される。送信時は、制御部19は、トーン信号識別部16で自局が呼ばれていることを認識すると、自局の中継局を特定するトーン信号をトーン信号付加回路17により、送信する音声信号に付加して周波数F2で送受信部15により変調してアンテナ3から送信する。
【0019】
図4は本発明の移動局の機能を説明する機能ブロック図である。この移動局9は、二周波(F1、F2)による無線通信の変復調を行う送受信部(移動局送受信手段)20と、送受信部20により電波を受信してから応答するまでの時間を計時する応答時間計時手段23と、各中継局を特定するトーン信号(特定信号)を音声信号に付加するトーン信号付加回路(移動局特定信号付加手段)22と、送受信部20を介して受信した受信信号に含まれるトーン信号を検知するトーン信号検知部(特定信号検知手段)21と、各部を制御する制御部24と、を備えて構成されている。尚、送受信部20にはアンテナ8が備えられている。
即ち、受信時は、アンテナ8から受信した周波数F2の電波を送受信部20で復調して、トーン信号識別部21でトーン信号を識別する。このとき制御部24は、応答時間計時手段23をスタートさせて受信した電波に応答するか否かをチェックする。時間内に応答した場合は、受信したトーン信号をそのままトーン信号付加回路22により、送信する音声信号に付加して周波数F1で送受信部20で変調してアンテナ8から送信する。時間内に応答しない場合は、全ての中継局のトーン信号をトーン信号付加回路22により、送信する音声信号に付加して周波数F1で送受信部20により変調してアンテナ8から送信する。
【0020】
このように、最初に固定局1から送信する場合は、どの中継局が選択されるか分からないので、全ての中継局4、7のトーン信号を付加して送信する。中継局4、7は、自局のトーン信号であるか否かを識別するトーン信号識別部16を備え、自局が選択されると、そのトーン信号を音声信号に付加して移動局9に送信する。また、移動局9は、移動しながら通信する場合が多いので、通信環境が常に変化する。従って、1つの中継局の電波を受信する場合や、複数の中継局からの電波を受信する場合がある。前者の場合は、応答するのであれば、受信した中継局のトーン信号を音声信号に付加する。後者の場合は、マスキング効果(受信電界が最も強い電波を復調する)により1つの中継局が選択されるので、その中継局を特定するトーン信号を音声信号に付加する。また、電波を受信した場合に、所定の時間内に応答する場合は、応答した中継局から受信したトーン信号をそのまま付加して送信する。また、所定の時間内に応答しない場合は、他の無線局の呼び出しと考えて、全ての中継局のトーン信号を付加して送信する。これにより、固定局1、中継局4、7、及び移動局9がトーン信号に基づいて通信ルートを確立することができる。
【0021】
図5(a)は移動局が1つの中継局から電波を受信した場合のシーケンス図である。この場合は、固定局1は、例えばA中継局4を選択するために、音声信号にA中継局4を特定するトーン信号aを付加して周波数F1で送信する。その電波は、A中継局4及びB中継局7に同時に送信されるが、B中継局7ではトーン信号bが付加されていないため応答せず、A中継局4のみが応答する。そして、A中継局4からトーン信号aを音声信号に付加して移動局9に周波数F2で送信される。移動局9では、1つの中継局から電波を受信したので、トーン信号aをそのまま音声信号に付加してA中継局4及びB中継局7に同時に周波数F1で送信する。その電波を受信したA中継局4及びB中継局7では、トーン信号を識別してA中継局4は応答するが、B中継局7は応答しない。その結果、A中継局4からトーン信号aを音声信号に付加して固定局1に周波数F2で送信する。
【0022】
図5(b)は移動局が複数の中継局から電波を受信した場合のシーケンス図である。この場合は、固定局1は、音声信号にA中継局4及びB中継局7を特定するトーン信号a及びトーン信号bを付加して周波数F1で送信する。その電波は、A中継局4及びB中継局7に同時に送信され、A中継局4及びB中継局7の双方が応答する。そして、A中継局4からトーン信号aを音声に付加して移動局9に周波数F2で送信され、B中継局7からトーン信号bを音声に付加して移動局9に周波数F2で送信される。移動局9では、マスキング効果により、例えばB中継局7が復調されたとすると、トーン信号bを音声信号に付加してA中継局4及びB中継局7に同時に周波数F1で送信する。その電波を受信したA中継局4及びB中継局7では、トーン信号を識別してB中継局7は応答するが、A中継局4は応答しない。その結果、B中継局7からトーン信号bを音声信号に付加して固定局1に周波数F2で送信する。
【0023】
図6(a)は移動局が複数の中継局から電波を受信した際、一定時間に応答する場合のシーケンス図である。この場合は、固定局1は、音声信号にA中継局4及びB中継局7を特定するトーン信号a及びトーン信号bを付加して周波数F1で送信する。その電波は、A中継局4及びB中継局7に同時に送信され、A中継局4及びB中継局7の双方が応答する。そして、A中継局4からトーン信号aを音声信号に付加して移動局9に周波数F2で送信され、B中継局7からトーン信号bを音声信号に付加して移動局9に周波数F2で送信される。移動局9では、マスキング効果により、例えばB中継局7が復調されたとすると、その電波に一定時間内に応答した場合、トーン信号bを音声信号に付加してA中継局4及びB中継局7に同時に周波数F1で送信する。その電波を受信したA中継局4及びB中継局7では、トーン信号を識別してB中継局7は応答するが、A中継局4は応答しない。その結果、B中継局7からトーン信号bを音声信号に付加して固定局1に周波数F2で送信する。
【0024】
図6(b)は移動局が複数の中継局から電波を受信した際、一定時間に応答しない場合のシーケンス図である。この場合は、固定局1は、音声信号にA中継局4及びB中継局7を特定するトーン信号a及びトーンb信号を付加して周波数F1で送信する。その電波は、A中継局4及びB中継局7に同時に送信され、A中継局4及びB中継局7の双方が応答する。そして、A中継局4からトーン信号aを音声信号に付加して移動局9に周波数F2で送信され、B中継局7からトーン信号bを音声信号に付加して移動局9に周波数F2で送信される。移動局9では、マスキング効果により、例えばB中継局7が復調されたとすると、その電波に一定時間内に応答しない場合、トーン信号aとトーン信号bを音声信号に付加してA中継局4及びB中継局7に同時に周波数F1で送信する。その電波を受信したA中継局4及びB中継局7では、トーン信号を識別してA中継局4及びB中継局7の双方が応答する。その結果、A中継局4及びB中継局7からトーン信号a及びトーン信号bをそれぞれ音声信号に付加して固定局1に周波数F2で送信する。
【0025】
図7は本発明の動作を説明するフローチャートである。固定局1は、音声信号にA中継局4及びB中継局7を特定するトーン信号a及びトーン信号bを付加して周波数F1で送信する(S1)。その電波は、A中継局4及びB中継局7に同時に送信され、A中継局4及びB中継局7の双方が応答する(S4でY、S9でY)。そして、A中継局4からトーン信号aを音声信号に付加して移動局9に周波数F2で送信され(S5)、B中継局7からトーン信号bを音声信号に付加して移動局9に周波数F2で送信される(S10)。移動局9では、電波を受信すると(S14でY)、一定時間内に応答した否かをチェックし(S16)、一定時間内に応答しない場合(S15でY)、音声信号にトーン信号aとbを付加して(S19)、周波数をF2からF1に変換してA中継局4及びB中継局7に送信する(S18)。ステップS16で一定時間内に応答があると(S16でY)、応答した中継局のトーン信号を音声信号に付加して(S17)、周波数をF2からF1に変換してA中継局4及びB中継局7に送信する(S18)。その電波を受信したA中継局4及びB中継局7では、トーン信号を識別して(S6、S11)、ステップS19でトーン信号aとトーン信号bが付加された場合は、A中継局4及びB中継局7の双方が応答する。その結果、A中継局4及びB中継局7からトーン信号a及びトーン信号bをそれぞれ音声信号に付加して固定局1に周波数F2で送信する。一方、ステップS17で応答した中継局のトーン信号を付加した場合は、何れか一方の中継局が応答してその中継局のトーン信号を音声信号に付加して固定局1に周波数F2で送信する(S7、S12)。固定局1では、受信したトーン信号に固定して以後の通信を行う(S3)。
【0026】
尚、以上の説明では固定局1と移動局9が、中継局4、7を中継して通信する場合について説明したが、移動局9と他の移動局が、中継局4、7を中継して通信する場合についても本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 固定局、2 固定局アンテナ、3 A中継局アンテナ、4 A中継局、5 障害物、6 B中継局アンテナ、7 B中継局、8 移動局アンテナ、9 移動局、11 固定局送受信部、12 固定局トーン信号識別部、13 固定局トーン信号付加回路、14 固定局制御部、15 中継局送受信部、16 中継局トーン信号識別部、17 中継局トーン信号付加回路、19 中継局制御部、20 移動局送受信部、21 トーン信号検知部、22 移動局トーン信号付加回路、23 応答時間計時手段、24 移動局制御部、100 移動無線システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定局と、移動手段を有し通信サービスエリア内で前記固定局との間で通信を行う移動局と、前記固定局と前記移動局との間の通信を中継する中継局と、を備え、前記各局での送信時と受信時でそれぞれ異なる周波数を使用する二周波中継方式による移動無線システムであって、
前記固定局は、前記二周波による無線通信の変復調を行う固定局送受信手段と、各中継局をそれぞれ特定する特定信号を送信する音声信号に付加する固定局特定信号付加手段と、前記固定局送受信手段を介して受信した受信信号に含まれる前記特定信号が何れの中継局かを識別する固定局特定信号識別手段と、を備え、
前記中継局は、前記二周波による無線通信の変復調を行う中継局送受信手段と、該中継局を特定する特定信号を前記固定局から受信した音声信号に付加する中継局特定信号付加手段と、前記中継局送受信手段を介して受信した受信信号に含まれる前記特定信号が自局の特定信号か否かを識別する中継局特定信号識別手段と、を備え、
前記移動局は、前記二周波による無線通信の変復調を行う移動局送受信手段と、該移動局送受信手段により電波を受信してから応答するまでの時間を計時する応答時間計時手段と、各中継局を特定する特定信号を音声信号に付加する移動局特定信号付加手段と、前記移動局送受信手段を介して受信した受信信号に含まれる前記特定信号を検知する特定信号検知手段と、
を備えたことを特徴とする移動無線システム。
【請求項2】
前記移動局が1つの中継局から電波を受信して前記固定局と通信を行う場合、
前記固定局は、該固定局から送信する音声信号に前記中継局を特定する特定信号を付加して該中継局に送信し、前記中継局特定信号識別手段により自局を特定する特定信号であると識別した中継局は、該特定信号を前記音声信号に付加して前記移動局に送信し、該電波を受信した移動局は、前記特定信号検知手段により特定信号を検知すると、検知した特定信号をそのまま音声信号に付加して前記中継局に送信することを特徴とする請求項1に記載の移動無線システム。
【請求項3】
前記移動局が複数の中継局から電波を受信して前記固定局と通信を行う場合、
前記固定局は、該固定局から送信する音声信号に前記複数の中継局をそれぞれ特定する複数の特定信号を付加して該中継局に送信し、前記中継局特定信号識別手段により自局を特定する特定信号であると識別した各中継局は、該特定信号を前記音声信号に付加して前記移動局に送信し、該電波を受信した移動局は、マスキング効果により復調された電波に係る特定信号をそのまま音声信号に付加して前記中継局に送信することを特徴とする請求項1に記載の移動無線システム。
【請求項4】
前記移動局が複数の中継局から電波を受信し、前記移動局が所定の時間内に前記音声信号に応答する場合は、マスキング効果により復調された電波に係る特定信号をそのまま音声信号に付加して前記中継局に送信することを特徴とする請求項1に記載の移動無線システム。
【請求項5】
前記移動局が所定の時間内に前記音声信号に応答しない場合は、該移動局は、それぞれの中継局を特定する特定信号を前記音声信号に付加して送信することを特徴とする請求項1に記載の移動無線システム。
【請求項6】
前記特定信号は、前記音声信号の周波数帯域と異なる周波数により構成したトーン信号であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の移動無線システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−4792(P2012−4792A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137180(P2010−137180)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】