説明

移動距離測定装置を備えたスレーブシリンダ

【課題】ダストと外的な負荷とに対して防護されていて、廉価に製作可能である、スレーブシリンダのピストンの移動距離測定もしくは位置規定のための装置を提案する。
【解決手段】それぞれ1つのセンサ11に、保持リング5に固定された磁石6が、位置決めされて対応配置されているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両クラッチに用いられるレリーズ装置のスレーブシリンダであって、少なくとも1つの磁石と、該磁石に作用接続された少なくとも1つのセンサとから形成された、ピストンの移動距離測定および位置規定のための装置が設けられており、ピストンが、汚染防止スリーブによってカバーされた円筒状のハウジング内に軸方向に運動可能に支承されていて、保持リングによって取り囲まれており、センサが、ハウジングに取り付けられている形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
公知先行技術に基づき、ドイツ連邦共和国特許出願公開第10242841号明細書によって、移動距離測定装置を備えたスレーブシリンダが公知である。移動距離測定装置によって、スレーブシリンダ内のピストンの軸方向の位置がピストンの移動の経過において規定可能となる。このためには、ピストンがカラーに結合されている。このカラーは、半径方向外向きに延びる支持アームを有している。この支持アームは半径方向の端部に1つの磁石を支持している。この磁石はインサートの形で形成されている。磁石もしくは磁石発信器には、スレーブシリンダのピストンの位置を規定するために、スレーブシリンダのハウジングの外部に1つのセンサが位置決めされて対応配置されている。
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10242841号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、ダストと外的な負荷とに対して防護されていて、廉価に製作可能である、スレーブシリンダのピストンの移動距離測定もしくは位置規定のための装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決するために本発明の構成では、それぞれ1つのセンサに、保持リングに固定された磁石が、位置決めされて対応配置されているようにした。
【0005】
本発明の有利な構成によれば、ピストンに磁石のための固定部が設けられている。
【0006】
本発明の有利な構成によれば、ピストンと磁石のための固定部とが、一体に形成されている。
【0007】
本発明の有利な構成によれば、ピストンが、磁石のための固定部と共にプラスチックから製作されている。
【0008】
本発明の有利な構成によれば、保持リングが、磁石のための収容部として形成された軸方向の少なくとも1つの延長部を備えている。
【0009】
本発明の有利な構成によれば、収容部が、磁石を取り囲むための3つの側壁から形成されるようになっており、磁石が、保持リングに設けられた、半径方向外側に向けられた底面に軸方向で支持されている。
【0010】
本発明の有利な構成によれば、少なくとも側壁が、端側に少なくとも1つの係止フックを備えており、側壁に半径方向でそれぞれ係止フックが設けられている。
【0011】
本発明の有利な構成によれば、保持リングの周面に配置された磁石が、保持リングの材料の射出成形により該材料で取り囲まれるようになっている。
【0012】
本発明の有利な構成によれば、磁石が、保持リングの周面内に接着により埋め込まれるようになっている。
【0013】
本発明の有利な構成によれば、磁石が、保持リングの周面上に接着により被着されるようになっている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スレーブシリンダの、すでに汚染防止スリーブとピストンとの間に配置された保持リングが使用される。これによって、この保持リングに少なくとも1つの磁石が固定される。この磁石は、汚染防止スリーブの外部に配置されたセンサに対して位置決めされて対応配置されている。
【0015】
保持リング内への磁石のための少なくとも1つの収容部の組込みによって、測定装置の一部がスレーブシリンダのハウジング内に設けられる。これによって、1つには、スレーブシリンダの内部における既存の構成スペースが使用され、もう1つには、磁石がスレーブシリンダの汚染防止スリーブの内部に位置している。これによって、磁石は汚染されず、運動する部材における摩耗によるメタルチップも蓄積され得ない。したがって、センサの寿命も高められる。なぜならば、センサに摩耗が生ぜしめられないからである。さらに、この構造上の構成によって、非接触式の移動距離測定もしくは位置測定が可能となる。さらに、この測定装置によって、スレーブシリンダにおける力に影響が与えられない。故障防護を保証するためには、2つの磁石を保持リング内に組み込むことが有利である。両磁石は、ハウジングに相応に位置決めされた2つのセンサに対してコンタクトしている。
【0016】
しかし、本発明による解決手段の有利な構成では、磁石が、保持リングの代わりに、相応の収容部もしくは固定装置によって直接ピストンに固定されてもよい。
【0017】
さらに、磁石のための収容部をピストン内に組み込み、これによって、固定部とピストンとが1つの部材を形成している可能性が存在する。このためには、この部材をプラスチックから製作することが特に廉価である。
【0018】
保持リングへの磁石の固定時には、保持リングが軸方向に少なくとも2つの延長部を有している。これらの延長部は、それぞれ1つの磁石のための収容部として形成されている。
【0019】
本発明による解決手段の有利な形式では、収容部が、磁石を取り囲むための3つの側壁から形成される。この場合、磁石は、保持リングに設けられた、半径方向外側に向けられた底面に軸方向で支持されていてよい。側壁は、プラスチックから形成される保持リングの製作時に、この製作と同時に廉価に保持リングに一体成形される。
【0020】
半径方向だけでなく軸方向にも磁石に対する紛失防止手段を形成するためには、互いに角度を成して位置する少なくとも2つの側壁が、端側にそれぞれ少なくとも1つの係止フックを備えている。したがって、それぞれ1つの磁石が、こうして形成されたスナップ結合部を介して保持リングに係止する。本発明の別の有利な構成では、保持リングの周面に配置された磁石が、保持リングの材料の射出成形により、この材料で取り囲まれてよい。本発明による解決手段の構成の別の廉価な構成は、磁石が保持リングの周面内に接着により埋め込まれるかもしくは保持リングの周面上に接着により被着されることである。
【0021】
本発明の更なる利点および有利な構成は、以下の図面ならびに図面の説明部分の対象である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面につき詳しく説明する。
【0023】
図1には、本発明によるスレーブシリンダ1の構造が断面図で示してある。このスレーブシリンダ1はハウジング2を有している。このハウジング2内には、ピストン3が軸方向に運動可能に支承されている。このピストン3の端側には、汚物を掻き取るための掻取りリング4が設けられている。この掻取りリング4には、保持リング5が続いている。この保持リング5は、掻取りリング4を位置決めするために働くと共にピストン3の回動防止手段として働く。これらの構成部材は汚染防止スリーブ7によって取り囲まれる。この汚染防止スリーブ7は、可動の構成部材内への汚物の侵入を阻止する。ピストンに対する回動防止は、保持リング5に回動防止手段8として形成された延長部によって実現される。さらに、図1から認めることができるように、保持リング5には、磁石6を固定するための収容部9が設けられている。磁石6に対して位置決めされて、ハウジング2にセンサ11が配置されている。故障防護を保証するために、有利には常に2つの磁石6が2つのセンサ11にコンタクトしている。
【0024】
したがって、ピストン3への保持リング5の結合によって、磁石6が、ピストンの運動時に所定のストロークを移動距離変化量として進行する。磁石6にコンタクトしているセンサ11によって、このセンサ11がピストン3の移動距離を非接触式に汚染防止スリーブ7を通して測定することができ、これによって、ピストン3のその都度目下の位置を規定することができる。
【0025】
図2には、図1に示したスレーブシリンダが立体図で示している。この立体図から、ハウジング2へのセンサの結合を認めることができる。固定エレメント10を介して、センサ11がハウジング2に固定される。汚染防止スリーブ7は、ハウジング2内で運動可能なピストン3に対するカバーとして働く。
【0026】
図3には、本発明による保持リング5が斜視図で示してある。この斜視図から、磁石6のための収容部9と、ピストン3に対する回動防止手段8の構成とが明らかとなる。この回動防止手段8は、プラスチックから製作された保持リング5に射出成形プロセスの間に一緒に一体成形されている。こうして、収容部9が3つの側壁9a,9b,9cから形成される。この場合、1つの側壁9a,9b,9cの高さは、軸方向への保持リング5の延長部を成している。収容部9は、保持リングの、相応に強化された箇所に設けられている。この強化部は側壁9a,9b,9cに対して底面5aを形成している。磁石6の位置固定のためには、軸方向に側壁9bが係止フックを備えており、側壁9a,9cが半径方向に係止フック9dを備えている。
【0027】
保持リング5に設けられた回動防止手段8と、センサ11を直接スレーブシリンダ1のハウジング2に定置にねじ締結することとによって、センサ11に対する磁石6の半径方向の位置が常に保証されており、これによって、常に測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるスレーブシリンダの断面図である。
【図2】図1に示したスレーブシリンダの立体図である。
【図3】本発明による保持リングの立体図である。
【符号の説明】
【0029】
1 スレーブシリンダ、 2 ハウジング、 3 ピストン、 4 掻取りリング、 5 保持リング、 5a 底面、 6 磁石、 7 汚染防止スリーブ、 8 回動防止手段、 9 収容部、 9a,9b,9c 側壁、 9d 係止フック、 10 固定エレメント、 11 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両クラッチに用いられるレリーズ装置のスレーブシリンダ(1)であって、少なくとも1つの磁石(6)と、該磁石(6)に作用接続された少なくとも1つのセンサ(11)とから形成された、ピストン(3)の移動距離測定および位置規定のための装置が設けられており、ピストン(3)が、汚染防止スリーブ(7)によってカバーされた円筒状のハウジング(2)内に軸方向に運動可能に支承されていて、保持リング(5)によって取り囲まれており、センサ(11)が、ハウジング(2)に取り付けられている形式のものにおいて、それぞれ1つのセンサ(11)に、保持リング(5)に固定された磁石(6)が、位置決めされて対応配置されていることを特徴とする、車両クラッチに用いられるレリーズ装置のスレーブシリンダ。
【請求項2】
ピストン(3)に磁石(6)のための固定部が設けられている、請求項1記載のスレーブシリンダ。
【請求項3】
ピストン(3)と磁石(6)のための固定部とが、一体に形成されている、請求項1記載のスレーブシリンダ。
【請求項4】
ピストン(3)が、磁石(6)のための固定部と共にプラスチックから製作されている、請求項3記載のスレーブシリンダ。
【請求項5】
保持リング(5)が、磁石(6)のための収容部(9)として形成された軸方向の少なくとも1つの延長部を備えている、請求項1記載のスレーブシリンダ。
【請求項6】
収容部(9)が、磁石(6)を取り囲むための3つの側壁(9a,9b,9c)から形成されるようになっており、磁石(6)が、保持リング(5)に設けられた、半径方向外側に向けられた底面(5a)に軸方向で支持されている、請求項5記載のスレーブシリンダ。
【請求項7】
少なくとも側壁(9b)が、端側に少なくとも1つの係止フック(9d)を備えており、側壁(9a,9c)に半径方向でそれぞれ係止フック(9d)が設けられている、請求項6記載のスレーブシリンダ。
【請求項8】
保持リング(5)の周面に配置された磁石(6)が、保持リング(5)の材料の射出成形により該材料で取り囲まれるようになっている、請求項1記載のスレーブシリンダ。
【請求項9】
磁石(6)が、保持リング(5)の周面内に接着により埋め込まれるようになっている、請求項1記載のスレーブシリンダ。
【請求項10】
磁石(6)が、保持リング(5)の周面上に接着により被着されるようになっている、請求項1記載のスレーブシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−209412(P2008−209412A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38607(P2008−38607)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(390009070)ルーク ラメレン ウント クツプルングスバウ ベタイリグングス コマンディートゲゼルシャフト (236)
【氏名又は名称原語表記】LuK Lamellen und Kupplungsbau  Beteiligungs KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 3, D−77815 Buehl, Germany
【Fターム(参考)】