説明

移植および炎症または血栓症状態の遺伝子治療

【課題】内皮細胞における血小板および白血球媒介損傷および炎症を阻害可能にする方法の提供。
【解決手段】内皮細胞にATPジホスホヒドロラーゼまたはそれらの酸化耐性類似体をコードするDNAを挿入し、細胞活性化条件下で機能的ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するタンパク質、例えば、ヒトCD39タンパク質をその細胞から発現させることを含んでなる方法。対応する細胞、組織、または器官、ヒト以外のトランスジェニック哺乳動物または体細胞組換え哺乳動物、医薬組成物および人工静脈内器官装置に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、遺伝子治療および組織および器官移植の分野における改良を提供するものである。広義の態様では、本発明は内皮細胞の遺伝子修飾に関し、炎症または他の活性化刺激対する内皮細胞の感受性を低くするものである。
【0002】
特に、本発明は、血小板媒介活性化刺激を受ける内皮細胞の遺伝子修飾に関し、内皮細胞活性化条件または炎症条件下で機能的ATPジホスホヒドロラーゼ活性を発現することにより、内皮細胞が血小板凝集を阻害できるようにするものである。
【0003】
好ましい実施態様では、本発明は、既にB細胞活性化マーカーとして同定されているポリペプチドまたはそのクラスのポリペプチド群、CD39の新規使用を指向する。現在のところ、CD39は、Bリンパ球、活性化NK細胞、ある種のT細胞および内皮細胞に関係する細胞表面糖タンパク質であって、今までのところ細胞特異的機能は割付けられていないが、ATP−およびADP−分解活性、すなわち、ATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を発揮することが分かっている。それ故、本発明が意図するCD39の新規使用は、特に細胞活性化条件下のまたは組織炎症に伴う、ADPが誘導する血小板凝集および血栓形成の抑制または阻害を含む。従って、本発明は、その更なる態様および実施態様において、哺乳類細胞、および該細胞を含む組織または器官を遺伝子修飾して、かかる細胞、器官または組織がCD39タンパク質を発現でき、かつ、発現したタンパク質の機能を細胞活性化条件下、充分なレベルで維持できるようにし、それによって、該細胞表面での血小板凝集(つまりは血栓形成)を抑制または阻害することに関する。
【0004】
本発明は、本明細書にてATPジホスホヒドロラーゼ活性タンパク質について総括的に開示したさらなる実施態様に関連して、CD39タンパク質またはそれをコードする遺伝子の使用も包含する。
【0005】
発明の背景
血栓塞栓現象は、様々なアテローム硬化症および血栓症状態、例えば、急性心筋梗塞、慢性不安定アンギナ、一過性脳虚血発作、頸動脈内膜切除、末梢血管疾患、再狭窄、および/または血管形成術後またはカテーテルまたはシャントなどの心臓血管用装置の吻合後の血栓症を含む多くの血管疾病に含まれる。その他関連するのは子癇前症、並びに、様々な形態の脈管炎、例えば、高安病およびリウマチ性脈管炎である。重要なのは、同種または異種移植の分野では、移植片の脈管系での血栓形成が移植された組織および器官の生存能に影響を与える深刻な問題であるということである。
【0006】
身体の複雑な生理学的血栓生成機構のうち認識されている素因は、血小板活性化(血小板“接着”および“凝集”とも呼ばれる)を起こす事象の続発である。要約すると、内皮(“血管内皮”としても知られている)は、心臓の、および血管およびリンパ管の内腔の内側を覆う細胞の層からなる。サイトカインTNFαなどの活性化因子の放出に付随する血小板および白血球媒介損傷および炎症による内皮細胞の“活性化”プロセスは、文献に記載されている。F.Bach等、Immunological Reviews 141(1994)5-30およびPoberおよびCotran,Transplantation 52(1991)1037-1042参照。このプロセスに関連する現象は、内皮表面の陥入(retraction)およびコラーゲンおよびフォン・ビルブラント因子(vWF)などの内皮下マトリックスの構成成分の表出である。
【0007】
内皮“活性化”に付随して、通常、血液内を自由に循環している血小板は表出した内皮下マトリックスの構成成分により、同じく血栓および活性化補体成分により“活性化”されることになる。この活性化状態で、血小板糖タンパク質(GP)IIb/IIIaおよびP−セレクチンの発現が増大し、内皮および内皮下の構成成分に対する親和性を増進する。更に、血小板が生物学的活性成分、特にアデニンヌクレオチド、ATPおよびADPを分泌し始める。ADPは、連続した血小板活性化応答にとって最重要であり、血小板の更なる補充を導く。ATPもまたそのP2y受容体を介して好中球を刺激し、その結果、反応性酸素中間体の放出が増大する。各事象が継続的に相互関係して続発すると、ADP、並びに、トロンビン、エピネフリン、ADP、コラーゲン、およびトロンボキサンA2などのアゴニストが血小板膜受容体へと結合することにより血小板“凝集”が始まる。アゴニストによる刺激の結果、潜伏性フィブリノーゲン受容体が血小板表面上に表出し、最終的に、フィブリノーゲンが血小板GPIIb/IIIa受容体複合体に結合するが、これが、インビボでの血小板凝集および血栓形成の主な原因であると考えられている。
【0008】
上記血小板凝集プロセスに対抗するのは、第1に内皮に局在する有力な抗血栓症機構、例えば、(i)プロスタサイクリン類の放出、(ii)酸化窒素の生成および(iii)ADP−分解酵素の活性、およびフィブリン溶解機構など様々である。しかしながら、これらの機構は効果がなく、多くの炎症性血管異常を予防できない、または移植片生着を維持できず、その結果、血小板活性化および凝集が非常に非制御下に進行し、最終的に血管閉塞および血小板性血栓症を起こす場合もあることは自明である。
【0009】
移植片保存誘導化内皮損傷(graft preservation-induced endothelial damage)に伴い、また、同種移植片および異種移植片拒絶の場合に見られる移植片損傷および損失は、内皮組織が活性化条件下で血栓合併症の影響を受け易いことの一例である。例えば、移植片脈管系の吻合の後に、レシピエントの血小板は、移植片の内皮および内皮下細胞と相互作用し始める。炎症環境下で移植片内皮が活性化されることにより、血小板凝集カスケードを開始でき、その結果、移植片内皮上で血小板の接着および凝集が起こるので移植片は血栓症の影響を受け易くなり、最終的には移植片機能不全を生じる。
【0010】
血小板凝集を制御できる薬剤成分の究明には、当分野の研究者らにより相当な努力が払われてきた。しかしながら、現在、臨床使用されている抗血小板剤は、副作用が認められており、選択性を欠くのが欠点である。比較的新しいGPIIb/IIIaアンタゴニスト類、例えば、ペプチド類、ペプチド模擬体類、および抗体類は、より選択的かつ強力であるが、炎症または損傷の初期段階での予防機能は果さない。ある種のプリン作動性P2T受容体アンタゴニスト類およびある程度はPAFアンタゴニスト類も同様の欠点がある。従って、内皮細胞活性化に関連して起こる血小板凝集を妨げるまたは最低限に抑制する方法に対する大きな要望が存在する。特に、利用可能な血小板活性化阻害因子に関連する毒性およびその他の逆作用を最低限に抑えながら移植器官生着を長くする必要がある。
【0011】
発明の概要
この度、細胞活性化条件下での血小板凝集の調節および阻害が内皮細胞によるエクト(ecto)ATP−ジホスホヒドロラーゼ活性の維持に大きく依存していることが分かった。より具体的には、免疫または炎症刺激に応答する内皮細胞(以下“EC”)の活性化は該細胞の表面上でのADP−加水分解活性の低減または損失を導くこと、更には、このADP−加水分解活性の低減または損失の結果、内皮細胞表面に対する血小板接着および血小板凝集が起こり、最終的には血栓形成に至ることが分かった。
特に、ECが活性化剤なしで血小板活性化を阻害する能力のある細胞結合ATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を発現できること、およびECの活性化を増進する条件下(例えば、TNFα/補体への暴露および異種移植片の超急性拒絶反応/再環流傷害/酸化的侵襲)でエクトATP−ジホスホヒドロラーゼ活性の低減または損失があり、その結果、血小板凝集に対する感受性を増大した細胞環境を生むことが観察された。
【0012】
更に、天然の哺乳動物/ブタのATPジホスホヒドロラーゼの活性は、酸化の影響を受け易いこと、および酸化された場合、そのタンパク質が血小板活性化を抑制する能力を失うことが分かった。現在のところ、この現象は、移植片拒絶に見られる血小板凝集や血栓形成を含む多くの病原性状態において重大な役割を果すと考えられている。血小板凝集の抑制を目的とする治療が必要な病状または疾病状態の多くは、高レベルの毒性酸素ラジカルおよびその他の反応性酸素中間体と関連する。このような病状の一例は、移植片保存損傷および虚血−再環流である。それに伴う疾病状態は、心筋梗塞に関連する再環流傷害、敗血症に関連する散在性血管内凝固、成人呼吸症候群に関連する肺胞線維症および非心臓性肺水腫である。更に、内皮に対する傷害は、活性化単球、多形核白血球等の流入に関連し、これもまた、毒性酸素種を創製し得る。
【0013】
ここまでのことろ、内皮細胞損傷、炎症および血栓症との総括的な関連を認識したが、本発明ではまず、酵素ATPジホスホヒドロラーゼが酸化侵襲条件下で血小板凝集を妨げる能力の低下を示すことを確認した。この新たな特徴は、細胞血小板活性化−抑制機能、または抗血栓症機能の回復を必要とする多くの病理的症状の処置において非常に重要である。
【0014】
顕著な(例えば95%以上、典型的には98%以上、例えば、99%以上の、更にはまさに100%の)相同性がI型とII型のエクト−ATPジホスホヒドロラーゼに対応するペプチド配列、例えば、Christoforidis等、Eur.J.Biochem.234(1)(1995年11月15日)66-74に記載されている、とCD39リンパ球活性化マーカー[C.R.Maliszewski等、J.Immunol.153(1994)3574-3583]との間に存在する。当分野では、CD39タンパク質またはそのタンパク質のクラスがATP加水分解機能、特に、エクト−ATPジホスホヒドロラーゼをコードすることは従来、認められていなかった。
【0015】
それ故に、"ATPジホスホヒドロラーゼ”または“エクト−ATPジホスホヒドロラーゼ”の用語は、天然のCD39タンパク質(特に、天然ヒトCD39タンパク質)を表し、それを含む。
【0016】
従って、本発明は、その広義の態様において哺乳動物細胞、例えば、内皮細胞を遺伝子的に修飾して、それらの炎症または免疫学的刺激および血小板接着に対する感受性を低くさせる方法に関し、その方法は、細胞活性化条件下で、ATPジホスホヒドロラーゼの活性を有するポリペプチドを安定に発現する能力、即ち、細胞表面での血小板接着または凝集を抑制または阻害するのに十分なレベルでATPジホスホヒドロラーゼを発現する能力をかかる細胞に与えることからなる。
【0017】
“安定に”発現するとは、その細胞によるATPジホスホヒドロラーゼタンパク質またはそれらの類似体の転写および発現が抗血栓症(即ち、血小板栓子/血栓症抑制)有効量で維持されることを意味する。このようなタンパク質の濃度は止血条件下で細胞により発現されるのと同一である場合や、より高い場合、またはより低いような場合さえもあるが、しかしながら、ATPジホスホヒドロラーゼタンパク質のこのような“安定な”発現は、本発明により修飾していない、即ち、挿入遺伝子/タンパク質を含有しない細胞と類似の活性化条件下で比較して、細胞の局所的微環境の脈管系における、即ち、修飾細胞表面での血小板凝集および血小板血栓の低減または抑制を起こすのには十分である。
【0018】
“細胞活性化条件”とは、I型EC活性化(ECの連続的陥入、並びに出血および浮腫を含む、刺激後の初期事象を表す);および/またはII型EC活性化(経時的に起こり、転写調節およびタンパク質合成に依存する後期事象を表す)を意味する(Bach等、上記、参照)。I型EC活性化の一般に許容されるインジケーターは、細胞環境中、高レベルのPAFおよび/またはP−セレクチンである。II型EC活性化の一般に受け入れられているインジケーターは、細胞環境または細胞膜中、高レベルのE−セレクチンである。
【0019】
本発明により修飾した細胞の表面での血小板接着または凝集の抑制または阻害は、例えば、Marcus等、J.Clin.Investig.88(1988)1690-1696およびBorn,Nature 194(1962)927-930に記載のような既知の方法により測定できる[Peerschke、Semin.Hematol.22(1985)241に概説]。細胞表面での血小板凝集形成の50%以上、および好ましくは65%以上の減少は、本発明の目的とする血小板阻害または抑制を表している。
【0020】
本発明により提供される安定な、または高レベルのADP−加水分解活性は、ATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチド、特に、ATPジホスホヒドロラーゼタンパク質をコードするDNAを含むベクター構築物を用い、細胞活性化または酸化的侵襲条件下でDNAの転写を開始する能力のあるプロモーターの制御下で得ることができ、そうして、通常存在するATPジホスホヒドロラーゼの活性に取って変わる。このようなプロモーターの例には、“構成的”または“誘導的”プロモーターがある。
【0021】
“構成的”とは、タンパク質発現が実質的に細胞活性化因子と無関係であり、かつ実質的に細胞寿命にわたって連続的であることを意味する。
【0022】
“誘導的”とは、タンパク質発現が、細胞環境中に典型的には存在しないか、または、活性化条件下で細胞環境から無くなるかまたは減少するかのいずれかである外来因子の投与により制御され得ることを意味する。このような外来因子にはサイトカイン類または成長因子類がある。
【0023】
酸化条件下でADP−加水分解活性を有するペプチドを提供することにより、“安定な”ATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を達成することもまた本発明の範囲内である。そのため、本発明は、CD39、好ましくはヒトCD39タンパク質のような天然ATP−ジホスホヒドロラーゼの活性を有し、更に実質的に酸化耐性であるペプチド類似体を提供する。
【0024】
エクト−ATPジホスホヒドロラーゼの発現と付随して、抗酸化剤を罹病細胞、組織または器官に同時投与することもまた包含する。
【0025】
従って、本発明は、そのより具体的な態様において、哺乳動物細胞、例えば、内皮細胞および単球、NK細胞、リンパ球、赤血球および島細胞を遺伝子的に修飾して、それらが血小板凝集を阻害できるようにさせる方法を含み、その方法は、その細胞またはそれらの前駆細胞にATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする、特に機能性エクト−ATPジホスホヒドロラーゼタンパク質またはそれらの酸化耐性類似体をコードするDNAを誘導的プロモーターと作動的に結合して挿入し、そして、細胞活性化条件下でかかるポリペプチド、特にエクト−ATPジホスホヒドロラーゼを血小板凝集抑制有効レベルでその細胞から発現させることからなる。
【0026】
“機能性”とは、発現したかかる細胞のATP−ジホスホヒドロラーゼが血小板分泌ADPをAMPとモノホスフェートに加水分解することを意味する。
【0027】
本発明は、また、血小板凝集を制御し、それによって治療を必要とする哺乳動物対象における血栓症状態を予防または軽減する方法も含み、それは、血小板媒介活性化に対して感受性である対象の細胞、好ましくは内皮細胞を、それらに、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドまたはそれらの酸化耐性類似体をコードするDNAを、特に適切なプロモーターと作動的に結合して挿入することにより遺伝子的に修飾して、かかる細胞からポリペプチドを血小板凝集抑制有効レベルで発現させることからなる。好ましくは、細胞をインビボで、即ち、対象の体内にあるままで修飾する。
【0028】
その他の態様では、細胞集団を患者から取り出し、ベクターDNAの挿入によりエクスビボで遺伝子的に修飾して、次いで、対象内に再移植することもできる。対象は好ましくはヒトである。
【0029】
さらなる態様では、本発明は、ドナー同種または異種細胞、好ましくは内皮細胞またはかかる細胞を含む移植可能組織または器官を、これらの細胞または組織または器官がその血液または血漿中で活性化刺激に対して感受性である哺乳動物レシピエントに移植する方法を含み、その方法は:
【0030】
(a)かかるドナー細胞またはそれらの前駆細胞を、それらに、ATPジホスホヒドロラーゼの活性を有するポリペプチドまたはそれらの酸化耐性類似体をコードするDNAをプロモーターと作動的に結合して挿入することにより遺伝子的に修飾し;さらに
【0031】
(b)得られた修飾ドナー細胞、組織、または器官をレシピエントに移植し、得られた修飾細胞または組織または器官から、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドを血小板凝集抑制有効レベルで発現させる
ことからなる。
【0032】
段階(b)の“修飾ドナー細胞”とは、それら自身が段階(a)の遺伝子修飾の対象である細胞類、並びにそれらの前駆細胞を表す。これらもまた、本発明の一部を形成するものである。
【0033】
段階(a)および(b)は、いずれかの順番で実施でき;即ち、上記ドナー同種または異種細胞、組織、または器官は、レシピエントへの移植前、あるいは移植後に修飾または遺伝子操作(例えば、トランスフェクション、形質導入または形質転換による)することができる。
【0034】
例えば、ブタの組織または器官由来の内皮細胞は、ヒトATP−ジホスホヒドロラーゼタンパク質またはそれらの酸化耐性類似体をコードするDNAをプロモーターの制御下で挿入することにより、インビボで遺伝子的に修飾でき、その後、修飾した細胞または組織をヒト レシピエントへ移植するために用いられる。一旦、移植すると、トランスジェニック細胞または組織または器官は、その他のダウンレギュレーション因子の存在下や炎症環境でさえも、機能性ヒト エクト−ATP−ジホスホヒドロラーゼまたはそれらの酸化耐性類似体を発現する。
【0035】
例えば、ブタまたはウシATP−ジホスホヒドロラーゼ因子は、種間活性(cross-species activity)を有するので、ブタまたはウシのタンパク質発現トランスジェニック(または体細胞組換え)動物は、ヒトへ移植するための細胞、組織および器官の補充に有用に採用され得る。しかしながら、好ましくは、適切なベクターにてヒトタンパク質または類似体を用い、ブタドナー細胞または器官を修飾し、それらを移植目的のためにトランスジェニック(または体細胞組換え)させる。
【0036】
体細胞組換えまたはトランスジェニックドナー動物は、その動物の細胞を、またはもっと初期の、例えば、胚段階のものをよく知られた技術により修飾して、所望のタンパク質を発現する動物を産生させることにより、得ることができる。
【0037】
ドナー細胞または組織はまた、エクスビボで遺伝子的に修飾することもでき、それによって、ドナーから抽出し、培養維持しておいた細胞、組織または器官を上記のように遺伝子的に修飾し、次いで、レシピエントに移植すると、そこで移植片が所望の機能性タンパク質を発現できる。
【0038】
ドナーの遺伝子修飾はインビボで行うのが好ましい。
【0039】
本発明の更なる態様によれば、ドナーとしての同種または異種の移植片レシピエントにおいて細胞活性化条件下で、血小板抑制有効レベルでATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現できるように修飾したドナー哺乳類動物種の細胞、特に内皮細胞または組織または器官を提供する。
【0040】
本発明は更に、細胞活性化条件下でその細胞中、特にその内皮細胞中に、ATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする異種DNAを含む、ヒト以外のトランスジェニックまたは体細胞組換え哺乳動物、およびかかる細胞、組織および器官自身、およびかかるヒト以外のトランスジェニックまたは体細胞組換え哺乳動物の製法を提供する。かかるヒト以外のトランスジェニックまたは体細胞組換え哺乳動物は、特にブタ種のものであるが、しかしながら、ヒトATPジホスホヒドロラーゼを発現するハツカネズミトランスジェニックもまた本発明の範囲内である。
【0041】
哺乳動物(例えば、ヒト)対象において血小板凝集を阻害し、それによって血栓症異常を処置する方法、および医薬的に許容され得る担体中、かかるポリペプチドまたは医薬的に許容され得るそれらの塩またはそれらの酸化耐性類似体を好ましくは可溶性形態で含んでなる医薬組成物もまた含み、その方法は、対象に、ATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を有する組換えペプチドまたは医薬的に許容され得るそれらの塩、またはそれらの酸化耐性類似体の血小板凝集阻害有効量を投与することを含む。
【0042】
更に、組換えATP−ジホスホヒドロラーゼまたは上記それらの酸化耐性類似体を塗布した合成の生物学的適合性物質を含んでなる人工静脈内器官装置もまた包含する。
【0043】
かかる治療は、患者における血栓症状態を軽減する、具体的には、特に移植片レシピエントがヒトである場合に器官移植に関して起こる血栓合併症を緩解するのに有用である。本発明は、更に、特に血栓症での血小板凝集を低減する医薬品の製造における、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有する組換えポリペプチドまたはそれらの医薬的に許容され得る塩、またはそれらの酸化耐性類似体、特に、ヒトCD39タンパク質の使用を含む。
【0044】
図面の説明
図1: エクト−ADPアーゼの調節:エクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性に対するヒトγTNFαの阻害効果を示す棒グラフ:
■=TLC nmol ADP/100万細胞/分;
□=LeBel/Fiske μmolホスフェート/時/mg細胞タンパク質[実施例1(c)]。γTNFα=組換え腫瘍壊死因子α。
図2: LWB(ラインウィーバー・バーク)エクトADPアーゼ(酵素速度論の二重逆数プロット):これは、静止期のおよびサイトカイン媒介PAECの速度論を示す。
■=対照;□=TNF
[実施例1(d)]。
図3: 酸化的侵襲および細胞活性化によるエクトADPアーゼ活性の阻害(HOOH 5μM/エクトADPアーゼ):PAECに対するエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性の過酸化物およびサイトカイン媒介損失を示す棒グラフ[実施例2(a)]。BME=β−メルカプトエタノール。
図4: エクトADPアーゼ活性に対するβ−メルカプトエタノールの保護効果:β−メルカプトエタノール(BME)がPAECに対するエクトATP−ジホスホヒドロラーゼ活性のサイトカイン−媒介損失を保護することを示す棒グラフ。[実施例2(b)]。BME=β−メルカプトエタノール。
図5: エクトADPアーゼ調節の動態:TNFαおよび酸化剤によりエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ調節の動態を示す棒グラフ:(グラフ上の順序で)■=対照;□=XO/X;■=HOOH;■=TNF
[実施例2(c)]。XO/X=キサンチンオキシダーゼ/キサンチン;HOOH=過酸化水素。
図6: 抗酸化剤によるエクトADPアーゼ活性の調節:抗酸化剤で処理した活性化PAECのエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性のプロット[実施例3]。SOD=スーパーオキシドジスムターゼ;Cat=カタラーゼ。
図7: 再環流傷害:インビボでの再環流時間の関数として、精製ラット糸球体におけるエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性を示す棒グラフ[実施例5]。Isch=虚血時間(分);Reperf=再環流時間(分)。
図8: CVFの効果:虚血状態、次いで再環流状態にさせたラット糸球体のコブラ毒因子(CVF)での前処理の効果を示す棒グラフ。
図9: CD39のノーザン分析:TNFα刺激後のHUVECは、CD39に対するmRNAのレベルを減じることを示す[実施例7]。hEC=HUVEC=ヒト臍静脈内皮細胞;TNF=組換え腫瘍壊死因子。
図10: pCDNA3/CD39でのCOS−7細胞の一過性トランスフェクション:非−トランスフェクションCOS−7細胞およびCD39 cDNAでトランスフェクションしたCOS−7細胞のFACS分析。CD39に対するmoAB(=モノクローナル抗体)による分析。アイソタイプ対照を同時に使用。細胞をヒトCD39に対するmoAB(正確)で染色した。
図11: CD39−トランスフェクションCOS−7細胞のエクトADPアーゼ活性:CD39 cDNAでトランスフェクションしたCOS−7細胞の細胞全体溶解物は、特異的Ca++エクト−ADPアーゼ活性を発現する(基質=200μM ADP)。第1の棒:対照;第2の棒:空のベクター;第3の棒:CD39ベクター。
図12: CD39でトランスフェクションしたCOS−7細胞の精製膜のエクトADPアーゼ活性:活性は主に細胞膜に局在した。第1の棒:対照COS細胞;第2の棒:空のベクターでトランスフェクションしたCOS細胞;第3の棒:CD39ベクターでトランスフェクションしたCOS細胞。
図13: 血小板凝集アッセイ:CD39による血小板凝集の阻害;5μM ADPおよびCOS−7細胞膜抽出物(27.4μgタンパク質)でのPRPの凝集。CD39−トランスフェクション細胞由来のCOS−7細胞膜抽出物はADP5μMにより誘導される血小板凝集を効果的に阻害し、CD39/エクトADPアーゼタンパク質の機能的潜在能力を確立する。
図14: ヒトCD39ヌクレオチドおよびアミノ酸配列(J.Immunol.153(8)[1994]3577から)(=配列番号1)。
【0045】
定義
“移植(片)"、"移植"、または"(内)移植"は、互換的に使用され、レシピエントへの移植のためにドナーから得る生物学的物質およびかかる生物学的物質をレシピエント内に配置する行為を表す。
【0046】
“宿主”または“レシピエント”は、ドナー生物学的物質を移植する患者の身体を表す。
【0047】
“同種の”は、同一種のドナーおよびレシピエントを表す。このサブセットとして、“同系の”は、ドナーおよびレシピエントが遺伝子的に同一である状態を表す。“自己(自家)の”は、ドナーとレシピエントが同一個体であることを表す。“異種の”および“異種移植片”は、移植片ドナーとレシピエントが異なる種である状態を表す。
【0048】
“ATPジホスホヒドロラーゼ”:アデノシントリホスフェート(ATP)のアデノシンジホスフェート(ADP)ないしアデノシンモノホスフェート(AMP)への連続加水分解を触媒する能力のある酵素(この酵素は、ADPアーゼ;ATPDアーゼ;ATPアーゼ;ADPモノホスファターゼ;またはアピラーゼ;EC3.6.1.5と表されることもある)。
【0049】
“ATPジホスホヒドロラーゼの活性を有するポリペプチド”という用語は、天然のエクト−ATPジホスホヒドロラーゼタンパク質、並びに、それらの酸化耐性ペプチド類似体、および可溶性切断(truncated)形態を含む。
【0050】
エクト−ATPジホスホヒドロラーゼの一例は、CD39タンパク質である。“CD39”は、天然哺乳動物遺伝子(そのcDNAを含む)またはタンパク質を表し、タンパク質のATP−加水分解活性に損傷を与えないDNAまたはアミノ酸配列上の変異(例えば、5アミノ酸までの僅かな変異または欠失など)を持つそれらの誘導体も含む。本発明にて採用したCD39遺伝子またはタンパク質は、例えば、ブタ、ウシまたはヒトのものであってもよく、また、ヒト以外の霊長類であることもでき、修飾すべき細胞の性質や例えば、移植対象のレシピエント種によって変わる。本明細書に使用した用語“ヒトCD39”は、J.Immunol.153(8)(1994)3574-3584においてC.R.Maliszewskiらにより、ヒトB細胞リンパ芽球細胞系からクローン化されたCD39リンパ球活性化マーカーのアミノ酸配列(ジーンバンク/NCBI受託番号765256:1995年3月23日)と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%(例えば、95%以上、例えば、99%または100%)相同であるタンパク質を表す[配列番号1]。
【0051】
発明の詳細な説明
ATPジホスホヒドロラーゼ類は、ATPからADPないしAMPへの連続加リン酸分解(即ち、ホスフェート基の除去)を触媒するタンパク質ファミリーからなる。一般に、このクラスのタンパク質は、ヌクレオシドジーまたはトリホスフェートに対する特異性は示さず;Ca2+またはMg2+により活性化される。ADPをAMPへ、同じく、ATPを、ADPを介してAMPへ変換することにより、これらの酵素は、血小板凝集を阻害または逆転する。最終生成物であるAMPは、5'ヌクレオチダーゼの基質であり、アデノシンを作り、重要な血小板抗アクチベーターおよび血管拡張神経薬である。
【0052】
このタンパク質は、主に血液および血管壁の細胞エレメントに見られる。このような細胞性酵素が有効であるためには、この酵素が細胞表面で、即ち、エクト酵素として、機能性であるべきである。ATPジホスホヒドロラーゼは、細胞表面上で発現する膜結合不溶性タンパク質であるため、これらは、慣用的にエクト−ATPジホスホヒドロラーゼと呼ばれている。かかるタンパク質の可溶性類似体もまた既知の方法で調製して注入できる。例えば、可溶性類似体は、そのタンパク質全長を標準的な洗剤で処理することにより得ることができる。あるいは、機能性タンパク質をコードするDNAを含有するDNA構築物は、遺伝子の膜スパンニング配列(membrane-spanning sequence)の欠失を引き起こすことによって、発現したタンパク質を内皮細胞膜を介して脈管系内の隣接環境へと溶解可能および/または分泌可能にすることにより調製することもできる。
【0053】
エクト−ATP−ジホスホヒドロラーゼの活性は、内皮細胞、同じく白血球および血小板にて示され、これらのタンパク質は、哺乳動物血管内皮に広範囲に分布すると考えられている。ヒト臨月期胎盤の特定画分から単離されたATPジホスホヒドロラーゼのキモトリプシン切断後の部分的内部アミノ酸配列情報が利用できる[S.Christofiridis等、Eur.J.Biochem.134(1)(1995年11月15日)66-74]。ウシ大動脈および腸骨内皮エクト−ATPアーゼの精製については、J.Sevignyら(カナダ、シャーブルック大学)により1994年10月24〜25日、ボストンでのIBC Anticoagulant and Antithrombotic Meetingにて紹介および概略報告されている。更に、S.H.LinおよびG.Guidotti,J.Biol.Chem.264(1989)14408-14414は、ラット肝臓CAM−105cDNAおよびポリクローナル抗体を所有し、同時にそのタンパク質内のコンセンサス配列(GPAYSGRET、アミノ酸92−100)を同定していることを報告し、およびヌクレオチド−40ないし−24(5')および473ないし496(3')に対応するオリゴヌクレオチドプライマーを調製した;更にC.J.Sippel等、J.Biol.Chem.264(1994)2800-2826;Cheung等、J.Biol.Chem.268(1993)24303-24310もまた参照。ラット血液血小板中で活性なATPジホスホヒドロラーゼの特性化、S.S.Frasetto等、Molec.Cell.Biochem.129(1993)47-55;ウシ大動脈の脈管内膜および中膜におけるATP−ジホスホヒドロラーゼ活性の特性化、Y.P.Cote等、Biochimica et Biophysica Acta 1139(1992)133-142;ウシ大動脈ミクロソーム由来のATPジホスホヒドロラーゼの精製、K.Yagi等、Eur.J.Biochem.180(1989)509-513;およびブタ膵臓由来のカルシウム−感受性ATPジホスホヒドロラーゼの特性化および精製、LeBel等、J.Biol.Chem.255(1980)1227-1233、に関連する更なる研究も報告されている。
【0054】
当業者にとって更に役立つのは、ウシおよびヒト肝臓内皮のcDNAライブラリーである(例えば、Clontech、パロ・アルト、カルフォルニア、USAから入手および開発)
【0055】
ブタまたはヒトのエクト−ATPジホスホヒドロラーゼの単離は、例えば、Y.P.Cote等、上記、またはJ.Sevigny等、上記に記載されているように、FSBA標識および免疫検出を利用して実施する。5'−フルオロスルホニルベンゾイルアデノシン(FSBA)は、エクトADPアーゼの特異的アンタゴニストである。酵素の特異的活性は、LeBel等、上記に記載のようにして測定する。
【0056】
タンパク質精製に続き、例えば、ウシ種のタンパク質配列を、標準的な市販の方法、例えば、アプライド・バイオシステム・シーケネーター(Applied Biosystems Sequenator)を用いて測定できる。同時にウシATPジホスホヒドロラーゼタンパク質に対するポリクローナル抗体を産生する。そのタンパク質に対するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体は、例えば、LinおよびGuidotti、上記およびCheung等、上記、に開示されている技術により産生する。モノクローナルおよび既に記載したポリクローナル抗体を少なくとも一部のタンパク質配列の情報と共に得た場合、ウシ、ブタまたはヒト細胞中の遺伝子を入手する2つの手法がある:
(i)発現ライブラリーを利用して、入手可能な抗体を用いてATPジホスホヒドロラーゼをコードするcDNAを含むコロニーを検出する;および
(ii)正確なcDNAエレメントを得るために、入手しておいたアミノ酸配列に対応する所定のオリゴマーを利用する。例えば、LinおよびGuidotti、上記およびCheung等、上記参照。
【0057】
ブタcDNA配列は、適切な抗体またはオリゴマーでプローブする上記と同様の技術により得ることができる。同様に、ヒト エクト−ATPジホスホヒドロラーゼタンパク質は、上記の方法に従い、あるいは内皮細胞またはゲノムライブラリー由来のヒトcDNAをプローブすることにより、決定できる。
【0058】
その後は、cDNA全長を知られている方法(N.Rosenthal,NEJMed.332[1995年3月2日]589-591)により配列決定できる。得られた天然cDNAもまた、E.coli中で組換え発現させることができる。
【0059】
上記方法は、Sambrook,Fritsch および Maniatis,Molecular Cloning.A,Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,USA(1989)に詳しく記載されている。
【0060】
Bリンパ球上のCD39タンパク質、活性化NK細胞、およびある種のT細胞および内皮細胞系列の分布(Plesner,Inter.Rev.Cytology 158(1995)141-214;Maliszewski等、上記;Kansas等、J.Immunol.146(1991)2235-44)は、知られているエクトADPアーゼの分布と矛盾なく一致する。細胞表面糖タンパク質CD39は、2つの潜在的なトランスメンブレン領域を有し、ある種の抗体が結合することにより、シグナル伝達を誘発する。報告された天然CD39タンパク質の分子量は、6つの潜在的N−グリコシル化部位を持つ場合70−100kDであり、N−結合糖を酵素的に除去した後に観察された分子量は54kDである(Maliszewski等、上記)。更に、入手可能な論理推定配列データがこのタンパク質がシステイン(n=11)、メチオニン(n=12)およびチロシン(n=27)を豊富に持つことを示しているので、酸化的損傷の標的となり得る幾つかの部分がある。
【0061】
他のマーカーと同様の形質でCD39をB細胞活性化マーカーと定める(Engel等、Leukemia & Lymphoma 1[1994],61-4)。CD39は、酵母グアノシンジホスファターゼと部分的同一性を持つことが示されているが、同型B細胞接着の仲介および抗原特異的応答における役割は報告されている(Maliszewski等、上記;Kansas等、上記)とはいえ、具体的な機能については、依然、何ら挙げられていない。この抗原は、120を越える他の潜在的マーカーと結合して、活性化関連の変化が言われている内皮細胞で発現することが分かっており(Favaloro、Immun.Cell Biol.71(1993)571-581)、血管内皮、特に皮膚血管中で発現することが注目されている(Kansas等、上記)。
【0062】
一旦、対象となる天然タンパク質の配列を決定すれば、酸化的侵襲に対する耐性を増大するためにそれを誘導体化する(即ち、既知の方法により、突然変異させるか、切断(トランケート)(truncated)するか、またはその他変化させる)ことができる。
【0063】
酸化耐性が希望通りに維持される生理学的酸化剤の例には、スーパーオキシドおよびヒドロキシルラジカル類、過酸化水素および次亜ハロゲン酸などのおよび関連種がある。スーパーオキシドおよびヒドロキシルラジカル類などの酸素遊離ラジカル中間体は、正常代謝プロセスによっても異常代謝プロセスによっても生じる。
【0064】
タンパク質を構成するアミノ酸の中でも、ヒスチジン、メチオニン、システイン、トリプトファン、およびアルギニンは、最も酸化され易いようである。例えば、天然タンパク質のメチオニンの酸化は、タンパク質の失活を引き起こすことがある。チロシンは、酸化窒素およびペルオキソ硝酸塩に対して感受性であり、また、それによって、酵素機能を不活性化し得る。従って、このような場合、例えば、C.B.Glaser等、USP5,256,770に記載のように、天然メチオニンの変わりに異なるアミノ酸を使用できる。
【0065】
アミノ酸を酸化耐性にするための方法は、一般的に知られている。好ましい方法は、影響を受けるアミノ酸を除去するか、またはそれを酸化剤と反応しない1またはそれ以上の異なるアミノ酸で置換することである。例えば、ロイシン、アラニンおよびグルタミンなどのアミノ酸が、そのサイズおよび中性であるという特性の点で好ましい置換アミノ酸である。アミノ酸をタンパク質の配列中で除去または置換できる方法は、当業者にも知られている。部分的に変化したアミノ酸配列を有するペプチドをコードする遺伝子は、合成的に作ることができる[例えば、Higuchi,PCR Protocols,Acad.Press.,San Diego USA(1990)177-183参照]。好ましい方法は、部位特異的インビトロ突然変異誘起を含むものであり、標的一本鎖DNAのヌクレオチド配列を特異的に変化させるように設計した所望のヌクレオチド置換、挿入または欠失を含む合成オリゴデオキシリボヌクレオチドの使用を含む。このプライマーは、プライマー伸長により一本鎖鋳型にハイブリダイズさせると、形質転換細胞中で複製されたときに意図した突然変異を持つタンパク質配列をコードするヘテロ二本鎖DNAを生じる。
【0066】
酸化剤にさらした後に正常活性の少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも70%、一層望ましくは少なくとも90%を保持する突然変異エクト−ATPアーゼ類似体は、実質的に酸化耐性であるとみなすことができる。
【0067】
本発明は、また、医薬的に許容され得る担体中に、可溶性の、好ましくは酸化耐性のエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ類似体のユニット用量の滅菌製剤を含む、血小板凝集阻害活性を有する医薬組成物を提供する。
【0068】
かかる類似体の投与は、ボーラス静脈内注射、定速静脈内点滴、またはこの両方の経路の組み合わせによることができる。
【0069】
本発明は、また、酸化耐性エクト−ATPジホスホヒドロラーゼ類似体で被覆した人工器官装置などの生物学的適合性器具を意図する。例えば、R.K.Ito等、USP5,126,140参照。
【0070】
本発明は、広義には、炎症または他の血小板媒介活性化刺激に対する哺乳動物細胞(例えば、内皮細胞)の機能不全応答または活性化応答を処置する方法を含み、その方法は、かかる細胞を、その中にATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを、適切なプロモーターと作動可能に結合して挿入することにより修飾し、該細胞から機能性エクト−ATPアーゼを有効レベルで分泌および/または発現させることによって、その細胞表面での血小板凝集を阻害することからなる。
【0071】
また、本発明は、そのように修飾された細胞、およびかかる細胞を含む組織または器官を含む。
【0072】
細胞または細胞集団は、本発明に従い、インビボまたはインビトロ(エクスビボ)で処置できる。例えば、インビボ処置の場合、エクト−ATPジホスホヒドロラーゼベクターを細胞、組織または器官のその部位(in situ)での直接感染により挿入できる。その場合、器官(例えば、腎臓)の血管を一時的に患者の血液循環からクランプ止めし、その器官の中にベクター構築物を挿入することによりその器官の少なくとも一部の細胞が遺伝子的に修飾されるのに充分な時間、エクト−ATPジホスホヒドロラーゼ遺伝子を含有する伝達性ベクター構築物を含む溶液で血管を環流させ;そして、クランプをはずすと、血流をその器官に回復させることができ、その正常機能が再開する。
【0073】
形質導入環流法による管または器官へのアデノウイルス媒介遺伝子導入は、まさに記載のとおりインビボで細胞を遺伝子的に修飾する方法である。
【0074】
本発明は、更なる態様において、治療を必要とする対象における血小板凝集または血栓形成を阻害する方法を含み、その方法は、血小板媒介活性化状態または炎症状態にある対象の細胞にATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAをプロモーターと作動可能に結合して挿入し、ポリペプチドを血小板凝集(血栓抑制)有効レベルで発現させることからなる。
【0075】
その他の態様では、細胞を対象またはドナー動物から摘出し、ベクターDNAの挿入によりエクスビボで遺伝子的に修飾し、次いで、その対象に再移植するかまたは他のレシピエントに移植することができる。その場合、例えば、器官を患者またはドナーから摘出し、エクスビボで前記した環流工程に付すことができ、次いで、その器官を患者に再移植するか、または同一かまたは異なる種の異なるレシピエントに移植することができる。
【0076】
エクスビボで遺伝子的に修飾した内皮細胞は、静脈内注射または動脈内注射により所定条件下で患者に投与してもよい。
【0077】
更にその他の実施態様では、本発明は、ドナー細胞、またはかかる細胞を含む組織または器官を哺乳動物レシピエント、ただしその哺乳動物レシピエント内でこれらの細胞は血小板媒介活性化刺激に対して感受性である、に移植する方法を含み、その方法は:
(a)ドナー細胞、またはそれらの前駆細胞を、それらにATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを導入することにより、修飾し;
(b)そのように修飾したドナー細胞、組織、または器官をレシピエントに移植し、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドを発現させ、それによってレシピエントの細胞表面での血小板凝集を低減または阻害する、
ことからなる。
【0078】
ドナー種は、レシピエント種と同一かまたは異なり、移植または(組織)移植に好適な内皮細胞、組織または器官を提供できる適切な種であることができる。
【0079】
好ましい実施態様では、ヒトのエクト−ATPジホスホヒドロラーゼを、ヒトレシピエント内に配置または移植しておいた異なる哺乳動物種の細胞から発現させる。ドナーは、レシピエントと同種または異種のものであってよい。レシピエントは哺乳動物、例えば、霊長類であり、主にヒトである。しかしながら、ヒト以外の霊長類などのその他の哺乳動物も適切なレシピエントであり得る。ヒト レシピエントの場合、ヒト(即ち、同種)やブタ(即ち、異種)ドナーが適切であると考えられているが、その他いかなる哺乳動物種(例えば、ウシまたはヒト以外の霊長類)でもドナーとして適切であり得る。例えば、ブタ動脈内皮細胞(PAEC)またはそれらの前駆細胞は、ブタ対象から得ることができ、遺伝子的に修飾して、同種ドナー(移植のために補充するのに適切な時まで)再移植するか、またはその他の哺乳動物(即ち、ヒト)対象に移植するかのいずれかができる。
【0080】
ドナー細胞または組織は、異なる種の移植片レシピエント内に移植されているか、または移植されるであろうから、それらがその異種移植片レシピエントのエクト−ATPジホスホヒドロラーゼタンパク質をコードするDNAを含有および発現するという点で体細胞組換え体またはトランスジェニック体であることができる。このような細胞または組織は、所望のエクト−ATPジホスホヒドロラーゼをその細胞寿命中無期限に発現し続けることができる。例えば、ヒト レシピエントに移植する場合、ブタ動脈内皮細胞(PAEC)またはそれらの前駆細胞を遺伝子的に修飾して、ブタまたはヒトATPジホスホヒドロラーゼタンパク質を有効レベルで発現させることができる。
【0081】
異種遺伝子を生殖細胞(例えば、卵子)に挿入して、その遺伝子を持つトランスジェニック動物を生産することができ、次いで、これを子孫へと継代する。例えば、ATPジホスホヒドロラーゼをコードするDNAをその動物またはその動物の母細胞(ancestor)に単細胞段階または初期桑実胚段階で挿入できる。好ましい段階は、単細胞段階であるが、このプロセスは2から8細胞段階の間で実施してもよい。トランスジェニックブタの製法は、W.L.FodorおよびS.P.Squinto,Xeno 3(1995)23-26およびその引用文献に記載されている。
【0082】
その他の態様では、遺伝子をドナー動物の体細胞に挿入して、体細胞組換え動物を提供でき、その動物由来のDNA構築物は、子孫へと継代される能力がない[例えば、A.D.MillerおよびG.T.Rosman,Biotechniques 7,No.9(1989)980-990参照]。
【0083】
好ましくは、挿入したDNA配列をその細胞のゲノムへ組み込む。あるいは、挿入した配列をその細胞内の染色体外に、安定にまたは限られた期間のいずれかで維持することもできる。
【0084】
細胞、組織、または器官をドナーから摘出し、よく知られた外科手法によりレシピエント内へ移植することもできる。いかなる哺乳動物細胞もエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ遺伝子挿入の標的となる得るが、内皮細胞が操作上、好ましい細胞である。内皮細胞の修飾は、当分野で知られているあらゆる様々な方法によることができる。例えば、細胞または組織をDNAと共にインビボで直接注入することができる。外来細胞または外来DNAを動物組織に挿入する好適な方法には、マイクロインジェクション、胚性幹(ES)細胞操作、電気穿孔法、細胞ガン、トランスフェクション−k、形質導入、レトロウイルス感染等がある。
【0085】
その他の実施態様では、遺伝子を特定の遺伝子座、例えば、トロンボモジュリン遺伝子座、またはフォン・ビルブラント因子を含有する遺伝子座に挿入する。このような遺伝子を持つトランスジェニック動物を作製するために、構築物を胚性幹(ES)細胞に導入し、得られた子孫がその管内皮でその構築物を発現する。
【0086】
遺伝子輸送については、レトロウイルスベクター、特に、レトロウイルス複製に必要なgag、polおよびenv配列の1またはそれ以上を欠く複製不全レトロウイルスベクターが当分野でよく知られており、内皮細胞を形質転換するために使用できる。ヘルパーフリーのウイルスベクターを生産するPA317または他のプロデューサー細胞系列は、文献に詳しく記載されている。
【0087】
代表的なレトロウイルス構築物は、治療物質のヌクレオチド配列の上流に少なくとも1つのウイルス性のロング・ターミナル・リピートおよびプロモーター配列、さらに治療配列の下流に少なくとも1つのウイルス性のロング・ターミナル・リピートおよびポリアデニル化シグナルを含む。
【0088】
アデノウイルス、即ち、上部呼吸器官疾患を引き起こし、また霊長類における潜伏性感染物中に存在するウイルス、に由来するベクターもまた、一般的に当分野では知られており、ある種の状況では、特に、非複製体細胞に感染する能力の点で有用である。アデノウイルスが低い周辺温度で細胞に結合する能力もまた、冷却保存中に遺伝子導入を促進できるように設定した移植において有利である。
【0089】
移植に先立ち、処理した内皮細胞または組織を、構築物を含有および発現する遺伝子修飾細胞についてスクリーニングしてもよい。そのためにはベクター構築物に、選択マーカー物質に対する耐性を与える発現産物をコードする第2のヌクレオチド配列を与えることができる。スクリーニング用の適切な選択マーカーには、ネオマイシンまたはネオマイシン類似体G418に対する耐性を与えるneo遺伝子がある。
【0090】
別の標的遺伝子輸送法は、DNA−タンパク質コンジュゲート、リポソーム等を含む。
【0091】
挿入したDNAのタンパク質コード領域および/またはプロモーター領域は、異種である、即ちその細胞本来のものでなくてもよい。あるいは、タンパク質コード領域およびプロモーター領域の1つまたは両方が細胞本来のものであることもできるが、ただしその場合、プロモーターはその細胞におけるATPジホスホヒドロラーゼ発現を正常に制御するプロモーター以外のものである。
【0092】
タンパク質コード配列は、好適なシグナル配列、例えば、核特異的シグナル配列をコードする配列を含み得る。
【0093】
血栓抑制有効(即ち“安定”)レベルのATP加水分解タンパク質、例えばCD39の発現を内皮活性化条件下で達成する手段もまた利用できる。
【0094】
好ましくは、タンパク質コード領域は、構成的または誘導的(即ち、"調節性”のサブセット)プロモーターの制御下にある。
【0095】
誘導的プロモーターを移植目的に使用する利点は、活性遺伝子/タンパク質の所望の高レベル転写/発現を移植前の適切な期間、遅延させ得ることである。例えば、転写は、細胞環境におけるテトラサイクリンの存在等のような予め決められた刺激に応答して、必要に応じて得ることができる。本発明での使用に適したテトラサイクリン誘導的プロモーターの例は、Furte等、PNAS USA 91(1994)9302-9306に開示されている。あるいは、テトラサイクリンの離脱により転写を開始する調節性プロモーターシステムがGossenおよびBujard,PNAS USA 90(1992)5547-51により記載されている。
【0096】
好ましくは、ATPジホスホヒドロラーゼ遺伝子/タンパク質の転写/発現は、予め決められた外部刺激に応答して誘導されるものであり、そしてその刺激は細胞に活性化刺激を与える直前に与えるので、発現は既に血小板凝集−抑制目的に有効なレベルである。例えば、ドナー哺乳動物(例えば、ブタ)の細胞を、例えば、テトラサイクリンなどの薬剤により誘導されるプロモーターの制御下でATPジホスホヒドロラーゼ遺伝子(例えば、ブタまたはヒト)の挿入により、本発明に従い遺伝子的に修飾できる。細胞、またはその細胞を含む組織または器官が移植目的で外科的に摘出される時まで、体細胞組換え動物またはトランスジェニック動物をテトラサイクリン−フリー条件下で所望レベルの成熟度まで成長させることができる。このような場合、器官の外科的摘出に先立ちドナー動物にテトラサイクリンを投与してATP加水分解遺伝子/タンパク質の高レベルの転写/発現を誘導開始してもよい。次いで、その器官をレシピエント(例えば、ヒト)に移植でき、レシピエントにおける血小板凝集を阻害するためにその移植細胞中のATPジホスホヒドロラーゼタンパク質を所望レベルで維持するのに充分な時間、テトラサイクリンをレシピエントに投与し続けてもよい。あるいは、ドナーから外科的摘出した後に、その器官を、レシピエントへの移植に適した時まで、エクスビボでテトラサイクリン含有培地中に維持してもよい。
【0097】
その他の実施態様では、細胞環境からテトラサイクリンを除くことによって転写を起こすこともできる。この場合、ドナー動物の細胞を、本発明に従い、テトラサイクリンにより遮断されるプロモーターの制御下でATPジホスホヒドロラーゼタンパク質をコードする遺伝子を挿入することにより遺伝子的に修飾できる。このような場合は、細胞、組織または器官を回収する時まで、テトラサイクリンを投与しながら、その動物を所望レベルの成熟度まで成長させることができる。外科的摘出前には、ドナー動物へのテトラサイクリンの投与を止めてATPジホスホヒドロラーゼタンパク質の発現を誘導開始させ、その後、細胞、組織または器官の移植対象である患者を適切なATPジホスホヒドロラーゼレベルの発現を維持するのに充分な時間、テトラサイクリン−フリーで維持することもできる。
【0098】
高レベル発現を促進する構成的または誘導的プロモーターの使用に加えて、ATPジホスホヒドロラーゼをコードするDNAの多数のコピーを、更に遺伝子転写およびタンパク質発現を増大するようなプロモーターと作動可能に結合して配置することもできる。
【0099】
異種移植において、上記定義の修飾細胞およびドナー組織および器官は、その主たる応答が超急性拒絶反応であるから、移植拒絶の防止という補足的な機能を有する。それ故に、ドナー器官の細胞の遺伝物質もまた、典型的には、レシピエントの補体経路の活性化を妨げるように変化する。これは、レシピエント種の補体阻害因子を発現するトランスジェニック動物を提供することによっても為し得る。かかる動物から得られたドナー器官の内皮細胞を遺伝子治療技術により修飾し、上記定義の内皮細胞を提供できる。あるいは、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを含有するベクターを単細胞段階または初期桑実胚段階でトランスジェニック動物に導入することもできる。この方法では、得られたトランスジェニック動物は、補体阻害因子を発現し、上記定義の内皮細胞を有するものである。従って、更なる態様では、本発明は、また、1またはそれ以上のヒト補体阻害因子を発現する、上記定義の、内皮細胞、組織、ドナー器官およびヒト以外のトランスジェニック動物または体細胞組換え動物を提供する。
【0100】
単球、NK細胞、リンパ球または島細胞などのあらゆる哺乳動物細胞がATPジホスホヒドロラーゼ遺伝子挿入の標的となり得るが、操作上好ましい細胞は、内皮細胞である。
【0101】
本発明の別の実施態様では、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドを、医薬的に許容され得る担体にて、細胞、組織または器官へインビボで直接働かせることができる。
【0102】
その場合、本発明は、また、温血哺乳動物における血小板凝集を阻害する方法も含み、医薬的に許容され得る担体にて、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチド(例えば、CD39)またはそれらの医薬的に許容され得る塩を血小板凝集を阻害するのに有効な量、その動物に投与することからなる。
【0103】
本発明は、更に、医薬的に許容され得る担体中、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチド(例えば、CD39)またはそれらの医薬的に許容され得る塩のユニット用量からなる、抗血小板凝集活性を有する医薬組成物を含む。
【0104】
本発明に従うポリペプチドまたはそれらのハロゲン化水素酸誘導体は、典型的には、医薬組成物として溶液または懸濁液の形態で投与する。しかしながら、十分知られているように、ペプチドは、治療的投与のために錠剤、丸薬、カプセル、遅延放出製剤、または散剤として製剤化することもできる。有効成分としてポリペプチドを含む治療用組成物の作製は、当分野では十分に理解されている。典型的には、かかる組成物は、注射可能形態で、例えば、液体溶液または懸濁液として作製する。
【0105】
本発明の実施に有用な医薬組成物は、医薬的に許容され得る中性塩形態として治療用組成物へと製剤化したATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドを含有できる。医薬的に許容され得る塩類には、酸付加塩(ポリペプチドの遊離アミノ基で形成される)があり、これらは、塩酸またはリン酸などの無機酸、または酢酸またはシュウ酸、酒石酸、またはマンデル酸などの有機酸で形成される。遊離のカルボキシル基で形成された塩類はまた、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化鉄(III)などの無機塩基、またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、(2−エチルアミノ)エタノール、ヒスチジン、またはプロカインなどの有機塩基から得ることもできる。
【0106】
治療用ペプチド含有組成物は、例えばユニット用量の注射によるなど、通常は静脈内投与される。“ユニット用量”の用語は、ヒトへの単回投薬に適した物理的に別個のユニットを表し、各ユニットは、必要な賦形剤と関連して所望の治療効果を生むように算出した予め決めた量の活性物質を含有する。
【0107】
この組成物は、投薬形態に合致した手段かつ治療上有効量で投与する。投与すべき量は、処置対象、その対象の血液凝血系の有効成分利用能力、所望される血小板凝集阻害程度によって変わる。投与に必要とされる有効成分の正確な量は、従業者の判断によって変わり、各個体に特有である。しかしながら、適切な投薬範囲は、1分につき体重キログラム当たりポリペプチド1ないし100ナノモルのオーダーであり、投与経路によって変わる。
【0108】
ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチド(例えば、CD39)を塗布した人工血管もまた本発明の範囲内である。かかる人工器官を製造するのに適した市販の材料には、ダクロン(登録商標)(C.R.Bard)などのポリエステルまたはテフロン(登録商標)(Gore-Tex)などのポリフルオロカーボンがある。
【0109】
本発明は、血小板凝集傾向の増大が見られる哺乳動物における広範囲の疾病状態(例えば、虚血性心臓病、アテローム硬化、多発性硬化、頭蓋内腫瘍、血栓塞線栓症および高脂血症、血栓静脈炎、静脈血栓症、脳血栓症、冠動脈血栓症および網膜血栓症などのアテローム硬化および血栓症状)の治療処置、並びに分娩後処置または冠動脈バイパス手術、血管形成術、または人工心臓弁移植などの外科手術に応用できる。
下記実施例は、単なる例示説明であって、本発明を限定するものではない。
【0110】
実施例1(a)
異種静止期ブタ動脈内皮細胞(PAEC)は、血漿異種反応性抗体および補体の不在下で、標準血小板アゴニストに対するヒト血小板活性化応答に対し阻害効果を発揮する。
インビトロ系においてヒト血小板活性化を阻害する因子は、細胞に結合しており、細胞培養上清中には見られない。この細胞結合因子は、単層、ビーズ培養物または細胞懸濁液において、PAECの存在下、ADP(2−10μM)、コラーゲン(2−10μg/ml)および低濃度のトロンビン(<1U/ml)に対するヒト血小板応答を完全に遮断する。
プロスタサイクリン代謝、トロンボモジュリン(トロンビン中和による)およびNOの重要性は、幾つかの方法により評価されており、このPAECにより行われる血小板活性化の阻害には重要でないことが示されている。
実施した実験シテスムにおいて、PAECと関連するヒト血小板応答に対するADP−β−S(加水分解不可能なADPの類似体であるので、エクト−ADPアーゼによって分解されない)の非阻害性効果が論証できることからして、阻害性内皮細胞結合因子をエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ(アピラーゼ)と同定する。
【0111】
実施例1(b)PAEC活性化後のPAECの阻害因子表現型の損失
インビトロにおける標準的ヒト組換えによるPAECの活性化により、血小板活性化を受け入れる環境の発生に伴い、30ないし60分以内でEC抗凝集性表現型の迅速な損失が生じる。
【0112】
実施例1(c):rTNFaによるPAECにおけるエクト−ATPジホスホヒドロラーゼの調節
内皮細胞エクト−ATPジホスホヒドロラーゼは、EC活性化応答により顕著に調節される。
エクト−ATPジホスホヒドロラーゼの動態:14C−ADPの異化作用により測定したところ、PAECエクト−ATPジホスホヒドロラーゼVmaxは、1×10細胞/分当たり変換されたADP50−55nmolのオーダーである(Kmおよそ200μM)。これらの数字は、他の方法[A.J.Marcus等、J.Clin.Invest.88(1991)1690-1696;E.L.Gordon等、J.Biol.Chem.261(1986)15496-15507]により測定されるヒト臍静脈ECおよび前記のブタECについて記載されたものに一致する。
内皮細胞は、10および50ng/mlのTNFαにより活性化された場合、インキュベーション60分後にエクト−ADPアーゼ活性を失う。図1は、生化学的方法(D.LeBel等、上記)と14C−ADPないしAMPの細胞分解のTLC測定(A.J.Marcus等、上記)により測定した、4時間での酵素活性レベルを示す。一旦、ECが活性化されると、この阻害可能能力が損失するので血小板活性化が起こり得る。この阻害活性は、主に、PAECにて発現されるエクト−ATPジホスホヒドロラーゼに関連する。
【0113】
実施例1(d)
無傷細胞の活性化後のPAECエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ動態もまた、TLCにより測定した:Vmax15nmolADP/1×10細胞/分(Km70μM)。逆数プロットは、非拮抗的阻害プロセスを示している。この新規観測結果は、酵素−基質複合体(但し、遊離酵素自身ではない)に結合する阻害因子または基質結合とは独立して酵素触媒機能を乱す阻害プロセスのいずれかに一致している(図2)。
【0114】
実施例2(a)酸化的侵襲はブタ内皮細胞エクト−ATPジホスホヒドロラーゼを阻害する
HOOHと共にPAECをカタラーゼ活性なしで活性化内皮細胞により産生される可能性のある5μMおよび10μMの濃度でインキュベーションすると、次のサイトカインによる細胞活性化で観察される場合に匹敵する、かつ非付加的なエクト−ATPジホスホヒドロラーゼの活性に対して顕著な効果をもつ。図3は、4時間インキュベーション後、5μM HOOH処理後の酵素活性の損失を表す。
インビトロにおける、TNFなどのサイトカイン類での活性化に続くPAECによるHOOHの産生は、約0.015nmoles/分/10細胞のオーダーであることを測定した。
従って、エクト−ATPジホスホヒドロラーゼは、PAECのサイトカイン活性化により促進される酸化プロセスに感受性であり得る。PAEC中の酵素系である内因性キサンチンオキシダーゼおよびその他、例えば、NADPHオキシダーゼは、細胞活性化後に有意なレベルの反応性酸素中間体を同化し、これらは、膜結合エクト酵素に対して絶大な効果を持つ。
【0115】
実施例2(b)
酸化的侵襲を誘導する薬剤に対する逆方向の形式では、マイクロモル濃度で強力な還元剤であるβ−メルカプトエタノールが酵素活性を保護する。このこともまた、内皮細胞がサイトカインにより活性化される状況を支持するものである(図4)。
【0116】
実施例2(c)
PAECにおけるエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性の損失は、インビトロでのTNFα活性化、続く、HOOH(過酸化水素、5μM)およびキサンチンオキシダーゼ/キサンチン(XO/X、キサンチン200μMと典型的には、ホスフェートフリーのキサンチンオキシダーゼ100mU/mlの組み合わせ)による内皮細胞のインキュベーションおよび摂動(perturbation)の結果として表される。XO/Xは、過酸化物およびスーパーオキシドラジカルの両方により細胞およびそれらの膜タンパク質および脂質に酸化的損傷を引き起こす。鉄の存在下では、毒性ヒドロキシルラジカルが形成される。酸素ラジカルに暴露した後の酵素活性の後期減少に注目されたい(図5)。
【0117】
実施例3
同様の試験システムにSOD/カタラーゼを追加した抗酸化剤戦略は、活性化プロセス後の内皮細胞エクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性の維持を保護することが示されている。スーパーオキシドジスムターゼ(ウシ赤血球由来のCu−Zn形態)は、酸素ラジカルを除去するものであり、330U/mlの濃度で使用した。カタラーゼはHOOHを分解するものであり、ウシ肝臓由来の調製物を1000U/mlの最終濃度で使用した。
亜鉛は、細胞膜上で多様な効果を有するが、本明細書にその可能性が示されているように、サイトカイン摂動後のブタ内皮完全性をインビトロで維持することが既に示されている濃度で強力な抗酸化剤としても働き得る。これらのシステムに追加することにより、同様に、内皮細胞エクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性の維持が保護されるようである(図6)。
【0118】
実施例4
内皮細胞エクト−ATPジホスホヒドロラーゼの直接酸化は、細胞活性化設定における内皮細胞−血小板相互作用の調整を担うものである。
精製タンパク質における上記と同様の実験を行い、更にタンパク質分解修飾を伴うか、または伴わない酸化後の活性の直接損失を評価する[Rivett,Curr.Top.Cell Requl.28(1986)291]。
【0119】
実施例5
図7は、インビボで60分の温虚血時間(warm ischaemic time)および更に5、15、30および60分の温再環流(warm reperfusion)後の活性の損失を表している。インビボで30分の再環流後の活性の損失に注目されたい。ATPジホスホヒドロラーゼ活性における初期増加は、インビボで損傷内皮に結合した白血球接着を表し得る。
【0120】
実施例6
図8は、ラットをコブラ毒素因子(CVF)で前処理して動物から補体を涸渇することによってもまた、酸化的侵襲の誘導を伴う全身的補体活性化損傷を生じ、糸球体を虚血させ、次いで30分間再環流した場合に、結果としてATPジホスホヒドロラーゼ活性の損失を増すことを表している。
【0121】
実施例7:サイトカイン活性化後のHUVECにおけるCD39のノーザン分析
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)をTNFα(最終濃度10ng/ml)と共に2、6および24時間インキュベーションした。細胞をホスフェート緩衝液で2回洗浄し、RNAを精製し、ノーザンブロットにより分析した。1ウェル当たり計10ugのRNAをTAE−アガロースゲル(TAE=トリス/酢酸/EDTA緩衝液)にのせた。電気泳動を40mAで2時間行った。RNAを電荷修飾ナイロン膜に移し、UV−架橋させた。プラスミドDNAから切断したCD39 cDNAフラグメント(pCDNA3−CD39)を無作為六量体標識法(random hexamer labeling method)により2×10cpm/μgDNAの比活性まで[α32P]−dCTPで標識した。Stratagene社の迅速ハイブリダイゼーションプロトコールを用いて、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、洗浄、および膜ストリッピングを行った。0.1−xクエン酸ナトリウム食塩水(SSC)/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)中、60℃で最終洗浄した。ブロットを−80℃で1日、スクリーンを補力しながらコダックXAR−2フィルムに露光した。図9に示した結果は、ECを6時間以上ないし24時間TNFα刺激した後にCD39/エクト−ADPアーゼ mRNAレベルが著しく減少したことを示している。
【0122】
実施例8CD39でトランスフェクションしたCOS−7細胞は、エクト−ADPアーゼの生化学的および機能的活性を有する
CD39 cDNAでトランスフェクションしたCOS−7細胞は、FACS分析により測定したところ、免疫学的に同定されたCD39を発現する(図10)。
COS−7細胞の全細胞溶解物(図11)および膜調製物(図12)は、空のベクターまたは対照COS−7細胞に比べ、COS−7細胞をCD39ベクターでトランスフェクションした場合のみ有意な活性を示す。エクト−ADPアーゼ活性の評価は、Ca++−依存性条件下、200μM ADPの加水分解により測定した。
CD39 cDNAでトランスフェクションしたCOS−7細胞の膜調製物は、インビトロでADPに対する血小板凝集物を首尾よく排除した(図13)。
【0123】
配列表
(1) 一般的情報:
(i) 特許出願人:
(A) 名称:サンド・リミテッド
(B) 通り:リヒトシュトラーセ35
(C) 市:バーゼル
(E) 国:スイス連邦
(F) 郵便番号(ZIP):CH−4002
(G) 電話:61−324 5269
(H) ファックス:61−322 7532

(A) 名称:ニュー・イングランド・ディーコネス・ホスピタル・コーポ レーション
(B) 通り:ピルグリム・ロード185
(C) 市:ボストン
(D) 州:マサチューセッツ
(E) 国:アメリカ合衆国
(F) 郵便番号(ZIP):02215

(A) 名称:バッハ,フリッツ・エイチ
(B) 通り:ブロッサム・レーン8
(C) 市:ボストン、マンチェスター−バイ−ザ−シー
(D) 州:マサチューセッツ
(E) 国:アメリカ合衆国
(F) 郵便番号(ZIP):01966

(A) 名称:ロブソン,サイモン
(B) 通り:ロングウッド・アベニュー45,アパートメント705
(C) 市:ブルックリン
(D) 州:マサチューセッツ
(E) 国:アメリカ合衆国
(F) 郵便番号(ZIP):02146

(ii) 発明の名称:移植および炎症または血栓症状態の遺伝子治療
(iii) 配列の数:1
(iv) コンピューター解読書式:
(A) 媒体型:フロッピー・ディスク
(B) コンピューター:IBM PCコンパティブル
(C) オペレーティング・システム: PC−DOS/MS−DOS
(D) ソフトウエア:
(v)本出願データ:
出願番号:WO PCT/EP96/.....
(vi)優先権出願データ:
(A)出願番号:US 08/410371
(B)出願日:1995年3月24日
(A)出願番号:US .....
(B)出願日:1996年2月12日
【0124】
(2) 配列番号1の情報:
(i) 配列の特徴
(A) 長さ:1818塩基対
(B) 型:核酸
(C) 鎖の数:一本鎖
(D) トポロジー:直鎖状
(ii) 配列の種類:mRNA
(iii) ハイポセティカル:NO
(iii) アンチセンス:NO
(vi) 起源:ヒト MP−1 B リンパ芽球細胞系列
(A)生物名:ホモ・サピエンス
(x) 公開常情報:
C.R.Maliszewski等、J.Immunol.153(8)(1994)3574-3583(3577頁図2)
(xi) 配列:配列番号1:
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】エクト−ADPアーゼの調節:エクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性に対するヒトγTNFαの阻害効果を示す棒グラフ:■=TLC nmol ADP/100万細胞/分;□=LeBel/Fiske μmolホスフェート/時/mg細胞タンパク質[実施例1(c)]。γTNFα=組換え腫瘍壊死因子α。
【図2】LWB(ラインウィーバー・バーク)エクトADPアーゼ(酵素速度論の二重逆数プロット):これは、静止期のおよびサイトカイン媒介PAECの速度論を示す。■=対照;□=TNF[実施例1(d)]。
【図3】酸化的侵襲および細胞活性化によるエクトADPアーゼ活性の阻害(HOOH 5μM/エクトADPアーゼ):PAECに対するエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性の過酸化物およびサイトカイン媒介損失を示す棒グラフ[実施例2(a)]。BME=β−メルカプトエタノール。
【図4】エクトADPアーゼ活性に対するβ−メルカプトエタノールの保護効果:β−メルカプトエタノール(BME)がPAECに対するエクトATP−ジホスホヒドロラーゼ活性のサイトカイン−媒介損失を保護することを示す棒グラフ。[実施例2(b)]。BME=β−メルカプトエタノール。
【図5】エクトADPアーゼ調節の動態:TNFαおよび酸化剤によりエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ調節の動態を示す棒グラフ:(グラフ上の順序で)■=対照;□=XO/X;■=HOOH;■=TNF[実施例2(c)]。XO/X=キサンチンオキシダーゼ/キサンチン;HOOH=過酸化水素。
【図6】抗酸化剤によるエクトADPアーゼ活性の調節:抗酸化剤で処理した活性化PAECのエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性のプロット[実施例3]。SOD=スーパーオキシドジスムターゼ;Cat=カタラーゼ。
【図7】再環流傷害:インビボでの再環流時間の関数として、精製ラット糸球体におけるエクト−ATPジホスホヒドロラーゼ活性を示す棒グラフ[実施例5]。Isch=虚血時間(分);Reperf=再環流時間(分)。
【図8】CVFの効果:虚血状態、次いで再環流状態にさせたラット糸球体のコブラ毒因子(CVF)での前処理の効果を示す棒グラフ。
【図9】CD39のノーザン分析:TNFα刺激後のHUVECは、CD39に対するmRNAのレベルを減じることを示す[実施例7]。hEC=HUVEC=ヒト臍静脈内皮細胞;TNF=組換え腫瘍壊死因子。
【図10】pCDNA3/CD39でのCOS−7細胞の一過性トランスフェクション:非−トランスフェクションCOS−7細胞およびCD39 cDNAでトランスフェクションしたCOS−7細胞のFACS分析。CD39に対するmoAB(=モノクローナル抗体)による分析。アイソタイプ対照を同時に使用。細胞をヒトCD39に対するmoAB(正確)で染色した。
【図11】CD39−トランスフェクションCOS−7細胞のエクトADPアーゼ活性:CD39 cDNAでトランスフェクションしたCOS−7細胞の細胞全体溶解物は、特異的Ca++エクト−ADPアーゼ活性を発現する(基質=200μM ADP)。第1の棒:対照;第2の棒:空のベクター;第3の棒:CD39ベクター。
【図12】CD39でトランスフェクションしたCOS−7細胞の精製膜のエクトADPアーゼ活性:活性は主に細胞膜に局在した。第1の棒:対照COS細胞;第2の棒:空のベクターでトランスフェクションしたCOS細胞;第3の棒:CD39ベクターでトランスフェクションしたCOS細胞。
【図13】図13: 血小板凝集アッセイ:CD39による血小板凝集の阻害;5μM ADPおよびCOS−7細胞膜抽出物(27.4μgタンパク質)でのPRPの凝集。CD39−トランスフェクション細胞由来のCOS−7細胞膜抽出物はADP5μMにより誘導される血小板凝集を効果的に阻害し、CD39/エクトADPアーゼタンパク質の機能的潜在能力を確立する。
【図14】ヒトCD39ヌクレオチドおよびアミノ酸配列(J.Immunol.153(8)[1994]3577から)(=配列番号1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞活性化条件下でATP−ジホスホヒドロラーゼの活性を有するポリペプチドをコードする異種DNAをその細胞中に含んでなる、ヒト以外のトランスジェニック哺乳動物または体細胞組換え哺乳動物。
【請求項2】
異種DNAがその内皮細胞中に含有される、請求の範囲第1項に記載の哺乳動物。
【請求項3】
ポリペプチドがヒトCD39タンパク質を含む、請求の範囲第1項に記載の哺乳動物。
【請求項4】
ブタである請求の範囲第3項に記載の哺乳動物。
【請求項5】
ポリペプチドがヒトCD39タンパク質の酸化耐性類似体を含む、請求の範囲第4項に記載の哺乳動物。
【請求項6】
ドナーとして同種または異種の移植片レシピエントにおいて、細胞活性化条件下、血小板抑制有効レベルでATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現できるように修飾したドナー哺乳類動物種の細胞、またはその細胞を含む組織または器官。
【請求項7】
内皮細胞である、請求の範囲第6項に記載の細胞、または請求の範囲第6項に記載の細胞を含む組織または器官。
【請求項8】
ヒトの、請求の範囲第7項に記載の細胞、組織または器官。
【請求項9】
ブタの、請求の範囲第7項に記載の細胞、組織または器官。
【請求項10】
細胞活性化条件下でATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする異種DNAを発現できる、内皮細胞、またはその細胞を含む組織または器官。
【請求項11】
哺乳動物細胞を遺伝子的に修飾して、それらの炎症または免疫学的刺激および血小板凝集に対する感受性を低くさせるためのベクター構築物であって、細胞活性化または酸化的侵襲条件下、DNAの転写を開始する能力のあるプロモーターの制御下でATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを含む、ベクター構築物。
【請求項12】
コードされるポリペプチドがヒトCD39タンパク質を含む、請求の範囲第11項に記載のベクター構築物。
【請求項13】
コードされるポリペプチドが誘導的プロモーターの制御下にある、請求の範囲第11項に記載のベクター構築物。
【請求項14】
医薬的に許容され得る担体中に、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有する組換えポリペプチドまたはそれらの医薬的に許容され得る塩、またはそれらの酸化耐性類似体を含む、血小板凝集−阻害活性を有する医薬組成物。
【請求項15】
ポリペプチドがヒトCD39タンパク質を含む、請求の範囲第14項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
組換えATPジホスホヒドロラーゼまたはそれらの酸化耐性類似体を塗布しておいた合成の生物学的適合性物質を含んでなる人工静脈内器官装置。
【請求項17】
哺乳動物細胞を遺伝子的に修飾して、それらの炎症または免疫学的刺激および血小板接着に対する感受性を低くさせる方法であって、細胞活性化条件下で、ATPジホスホヒドロラーゼの活性を有するポリペプチドを安定に発現する能力をかかる細胞に与えることを含んでなる、方法。
【請求項18】
哺乳動物細胞を遺伝子的に修飾して、それらが血小板凝集を阻害できるようにさせる方法であって、その細胞またはそれらの前駆細胞にATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを挿入し、そして、細胞活性化条件下でそのポリペプチドを血小板凝集抑制有効レベルでその細胞から発現させることを含んでなる、方法。
【請求項19】
ポリペプチドがヒトCD39タンパク質を含む、請求の範囲第17または18項に記載の方法。
【請求項20】
ポリペプチドが実質的に酸化耐性である、請求の範囲第17または18項に記載の方法。
【請求項21】
ポリペプチドが誘導的プロモーターと作動可能に結合している、請求の範囲第17または18項に記載の方法。
【請求項22】
治療を必要とする哺乳動物対象において、血小板凝集を制御し、それによって血栓症状態を予防または軽減する方法であって、血小板媒介活性化に対して感受性である対象の細胞を、それらに、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを挿入することにより遺伝子的に修飾し、そして、そのポリペプチドを血小板凝集抑制有効レベルでその細胞から発現させることを含んでなる、方法。
【請求項23】
細胞が内皮細胞である、請求の範囲第22項に記載の方法。
【請求項24】
ポリペプチドがヒトCD39タンパク質である、請求の範囲第22項に記載の方法。
【請求項25】
対象がヒトである、請求の範囲第22項に記載の方法。
【請求項26】
ポリペプチドが実質的に酸化耐性である、請求の範囲第22項に記載の方法。
【請求項27】
ドナー同種または異種細胞、またはかかる細胞を含む移植可能組織または器官を、それらの細胞または組織または器官がその血液または血漿中で活性化刺激に対して感受性である哺乳動物レシピエントに移植する方法であって:
(a)かかるドナー細胞またはそれらの前駆細胞を、それらに、ATPジホスホヒドロラーゼの活性を有するポリペプチドまたはそれらの酸化耐性類似体をコードするDNAをプロモーターと作動的に結合して挿入することにより遺伝子的に修飾し;さらに
(b)得られた修飾ドナー細胞、組織、または器官をレシピエントに移植し、得られた修飾細胞または組織または器官から、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドを血小板凝集抑制有効レベルで発現させる、
ことからなる、方法。
【請求項28】
細胞が内皮細胞である、請求の範囲第27項に記載の方法。
【請求項29】
ポリペプチドがヒトCD39タンパク質を含む、請求の範囲第27項に記載の方法。
【請求項30】
レシピエントがヒトである、請求の範囲第29項に記載の方法。
【請求項31】
ポリペプチドが実質的に酸化耐性である、請求の範囲第27項に記載の方法。
【請求項32】
ドナーがレシピエントに関して異種である、請求の範囲第30項に記載の方法。
【請求項33】
ドナー細胞、組織または器官がブタである、請求の範囲第30項に記載の方法。
【請求項34】
哺乳動物対象において血小板凝集を制御し、それによって血栓症異常を処置する方法であって、医薬的に許容され得る担体中、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有する組換えポリペプチドまたはそれらの医薬的に許容され得る塩を血小板凝集を阻害するのに有効な量、対象に投与することを含んでなる、方法。
【請求項35】
ポリペプチドがヒトCD39タンパク質を含む、請求の範囲第34項に記載の方法。
【請求項36】
対象がヒトである、請求の範囲第34項に記載の方法。
【請求項37】
血小板凝集を低減する薬物の製造における、ATPジホスホヒドロラーゼ活性を有する組換えポリペプチドまたはそれらの医薬的に許容され得る塩、またはそれらの酸化耐性類似体の使用。
【請求項38】
ポリペプチドがヒトCD39タンパク質を含む、請求の範囲第37項に記載の使用。
【請求項39】
天然のATP−ジホスホヒドロラーゼ活性を有し、実質的に酸化耐性である、ヒトCD39タンパク質のペプチド類似体。
【請求項40】
可溶性である、請求の範囲第39項に記載のペプチド類似体。
【請求項41】
実質的に膜スパンニングドメインのない、請求の範囲第40項に記載のペプチド類似体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【公開番号】特開2006−187291(P2006−187291A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32866(P2006−32866)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【分割の表示】特願平8−528904の分割
【原出願日】平成8年3月22日(1996.3.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【出願人】(301033259)ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター,インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】