説明

移植機

【課題】乗用型田植機等の移植機による圃場の植付作業では、畦際を経由して枕地まで移植機を移動させる際、その車輪跡を消すために植付作業機を下降させて整地フロートを圃場面に接地させた状態で走行することが一般的に行なわれているが、直前の植付行程において線引きマーカにより圃場面に形成した次の植付け行程の走行指標が消されてしまう不具合を解消する。
【解決手段】次の植付け行程の走行指標を圃場面に形成する指標形成装置7L,7Rに備える指標形成体21を着脱自在に構成すると共に、取り外した指標形成体21を用いて整地フロート17後方の圃場面に次の植付け行程の走行指標を形成し得るように、当該指標形成体21を植付作業機6の後部に装着する取付具35を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型田植機等の移植機において、次の植付け行程の走行指標を圃場面に形成する線引きマーカの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用型田植機等の移植機においては、次の植付け行程の走行指標を圃場面に形成する左右一対の線引きマーカを備えており、これらの線引きマーカは、植付作業機の左右外方に突出可能な背面視で略L字状の揺動アームの先端に指標形成体を設けている。そして、前記線引きマーカにより圃場面に形成された走行指標に乗用型田植機の機体中心を合わせながら植付作業を行なっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−247902号公報(第3−4頁、図1、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
また、図8は、長方形圃場における乗用型田植機Pの植付経路の一例を示す模式図であり、圃場の出入り口Aから進入した乗用田植機Pは、該乗用田植機Pが旋回する枕地B,B´における点線矢印で示す一往復の植付行程と、両枕地B,B´と繋がる圃場端の畦際C,C´における点線矢印で示す片道の植付行程とを残して、先ず実線矢印で示すようにS1地点からE1地点まで圃場の長手方向に連続する複数回に及ぶ広範囲な往復植付作業を行なう。
【0004】
その後、乗用田植機Pを畦際C´を経由して枕地BのS2地点まで移動させ、このS2地点からE2地点まで点線矢印で示す一往復の植付作業を行なった後、畦際C´のS3地点からE3地点まで点線矢印で示す片道行程の植付作業を行うが、上述の如く乗用田植機Pを畦際C´を経由して枕地BのS2地点まで移動させる際は、その車輪跡を消すために植付作業機を下降させて整地フロートを圃場面に接地させた状態で走行することが一般的に行なわれている。
【0005】
ところが、上述したように整地フロートを圃場面に接地させた状態で走行する場合は、車輪跡が消されるだけでなく、その直前の植付行程において線引きマーカにより圃場面に形成した次の植付け行程の走行指標も消されてしまうので、畦際C´のS3地点からE3地点まで点線矢印で示す片道行程の植付作業を行なうにあたり、乗用田植機Pの機体中心を合わせる走行指標が不明確で安定した前進走行がなされないといった不具合を有していた。
【0006】
そして、畦際C´のS3地点からE3地点まで点線矢印で示す片道行程の植付作業を行なった後は、枕地B´のS4地点まで乗用田植機Pを移動させ、このS4地点からE4地点まで点線矢印で示す一往復の植付作業を行なった後、畦際CのS5地点からE5地点まで点線矢印で示す片道行程の植付作業を行なって圃場の出入り口Aから乗用田植機Pを脱出させる。尚、畦際C´におけるS3地点からE3地点までの点線矢印で示す片道行程(植付作業機の全条植付け1行程)を確保すべく、その直前の植付行程において植付条数を調整するための条止め植付けを行う場合もある。また、圃場における乗用型田植機Pの植付経路は、圃場の形状や出入り口Aの位置によって大きく左右される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、次の植付け行程の走行指標を圃場面に形成する指標形成装置を設けた走行機体の後部にリンク機構を介して植付作業機を昇降自在に連結し、この植付作業機に苗載せ台から苗を掻取って圃場に移植する植付装置と、圃場面を整地する整地フロートを備えた移植機において、前記指標形成装置に備える指標形成体を着脱自在に構成すると共に、取り外した指標形成体を用いて整地フロート後方の圃場面に次の植付け行程の走行指標を形成し得るように、当該指標形成体を植付作業機の後部に装着する取付具を設けたことを第1の特徴としている。
そして、前記取付具の左右位置を条止め植付けに対応して変更できるように構成したことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、移植機の次の植付け行程の走行指標を圃場面に形成する指標形成装置に備える指標形成体を着脱自在に構成すると共に、取り外した指標形成体を用いて整地フロート後方の圃場面に次の植付け行程の走行指標を形成し得るように、当該指標形成体を植付作業機の後部に装着する取付具を設けたことによって、従来の長方形圃場における植付作業のように、圃場の長手方向に連続する複数回に及ぶ広範囲な往復植付作業を行なった後、畦際を経由して枕地まで移植機(乗用田植機)を移動させるにあたり、車輪跡を消すために植付作業機を下降させて整地フロートを圃場面に接地させた状態で移動する場合であっても、植付作業機の後部に指標形成体を装着して整地フロート後方の圃場面に次の植付け行程の走行指標を形成することができるので、この走行指標は、移植機の移動に伴って消えることがない。したがって、上述した枕地の植付作業を終えて畦際の植付作業を行う時は、移植機の機体中心を当該走行指標に合わせながら安定した前進走行が行なえる。
そして、請求項2の発明によれば、前記取付具の左右位置を条止め植付けに対応して変更できるように構成したことによって、植付条数を調整するための条止め植付けを行う場合には、圃場面に走行指標を形成する指標形成体の位置を次の植付け行程における移植機の機体中心に容易に合わせることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、移植機の一例である乗用型田植機1の側面図であり、該乗用型田植機は、左右一対の前輪2及び後輪3に支持した走行機体4を有し、該走行機体4の後部に昇降リンク機構5を介して植付作業機6を昇降自在に連結すると共に、この植付装置6の左右両側に、次の植付行程の指標を田面に形成するために左右一対の指標形成装置7L,7Rを設けている。
【0010】
また、昇降リンク機構5の後部には、リンクホルダ8が取付けてあり、このリンクホルダ8に備える図示しないローリング軸を介して、植付作業機6をローリング自在に支持する角パイプ状の植付フレーム9を横設している。そして、植付フレーム9に立設した左右一対の苗載台支持フレーム11L,11Rによって、植付け用のマット苗を載置する苗載せ台12を前高後低状の傾斜姿勢で左右に往復移動自在に支持している。
【0011】
また、走行機体4側の図示しない植付PTO軸から出力される植付動力は、植付フレーム9の左右略中間部に設けた入力ケース13を介して左右に分岐された後、植付フレーム9の左右方向に所定間隔を存して後方に延設した複数の植付伝動ケース14に伝達され、
更にこの植付伝動ケース14内の図示しないチェン伝動機構を介して、当該植付伝動ケース14の後端部に組付けた植付装置(ロータリケース)15に備える移植杆16,16が回転駆動するようになっている。即ち、植付装置15には、自らの回転に伴って移植杆16,16を所定の軌跡に沿って回転運動させることができる図示しない遊星ギヤ機構を内装しており、それによって苗載せ台12上に載置したマット苗から一株分の苗を掻取って連続的に圃場に移植することができるようになっている。
【0012】
また、植付伝動ケース14の下方には、植付作業機6を所望の高さに制御する油圧感知フロートとして作用すると共に、圃場面を整地する整地フロートを兼ねる図示しないセンターフロートと、左右一対の前輪2と後輪3の車輪跡を消して圃場面を整地する整地フロートであるサイドフロート17を支持しており、これらセンターフロートとサイドフロート17の下面が圃場面に接地して滑走する状態まで植付作業機6を下降させた後、機体を走行させながらの移植(植付け)作業を行なえるようになっている。
【0013】
次に、上述した左右一対の指標形成装置7L,7Rの構成を図2及び図3に基づいて説明する。植付フレーム9の左右両端部近傍には、指標形成装置7L,7Rの基部を構成する支持アーム18L,18Rを起伏自在に支持するブラケット19L,19Rを固設している。そして、支持アーム18L,18Rの先端には、次の植付け行程の指標を圃場面に形成する指標形成体である回転式マーカ21を詳細は後述するように着脱自在に取付けると共に、この回転式マーカ21を支持アーム18L,18Rを介して圃場面から持ち上げた図1及び図2に示す格納姿勢Aと、隣接する未植付け領域における乗用型田植機1の植付け中心部に接地させた図2に示す作業姿勢Bとに切換えることができるようになっている。尚、回転式マーカ21は、従来公知のように外周部に土掬い上げ用の複数の爪21a・・・を備えている。
【0014】
更に詳しくは、支持アーム18L,18Rの主構成部材はパイプ材22であり、このパイプ材22にスナップピン23を介して着脱自在に嵌挿する棒材24を設けると共に、該棒材24の先端に、回転式マーカ21を先端部に回転自在に螺設した連杆25の基部側折り曲げ部分25aを装着具26を介して螺設している。即ち、指標形成装置7L,7Rに備える回転式マーカ21は、支持アーム18L,18Rに嵌挿する棒材24と一体的に容易に着脱することができる。
【0015】
尚、装着具26の位置決めは、棒材24の先端側に固設したL字状のストッパ24aとワッシャ27,27、及び当該装着具26の抜け止めを図る割ピン28によってなされる。また、連杆25は、棒材24に外嵌すると共に、ストッパ24aと装着具26と間に介装される捩りスプリング29によって後下がり傾斜で接地方向に常時付勢されている。
【0016】
ところで、植付作業機6には、苗載せ台12に載置したマット苗の下部を受けるエプロン31を横設してあり、苗載せ台12は、図示しない横送り装置を介してエプロン31上を左右往復動するようになっている。そして、エプロン31の左右両端部をガードするエプロンガードと、植付作業機6を非接地姿勢に保持するスタンドとを兼ねる左右一対の棒状スタンド32L,32Rを、植付フレーム9の左右両端部に固設した図示しないブラケットを介して上下回動自在に支持し、更に図4に示す6条植えの植付作業機6における苗載せ台12のように、植付装置15の後方をガードする平面視で前方に開口した略コ字状のパイプ材からなるガード体33の左右開口端を前記ブラケットに固設すると共に、ガード体33を複数の植付伝動ケース14の上部に螺設するための取付プレート33aを当該ガード体33に設けている。
【0017】
また、図4に示す如くパイプ材からなるガード体33の左端側には、このガード体33を把持する左右2箇所の把持手段35a,35aを備えると共に、ガード体33を植付伝動ケース(左側)14の上部に螺設する取付プレート33aと共締め可能な連結プレート35bとを備えた回転式マーカ21の取付具35を設けている。更に詳しくは、取付具35の主構成部材はパイプ材35cであり、左右の指標形成装置7L,7Rに備える回転式マーカ21のうち、何れか一方の回転式マーカ21を棒材24と一体に取り外した後、この棒材24を前記パイプ材35cに嵌装すると共に、図示しないスナップピンを介して回転式マーカ21を苗載せ台12の左右中心位置Mに位置決めできるように構成している。尚、取付プレート33aと連結プレート35bの共締めは、ノブ付ボルト36を用いてなされる。
【0018】
以上説明した構成によれば、乗用型田植機1の次の植付け行程の走行指標を圃場面に形成する指標形成装置7L,7Rに備える指標形成体(回転式マーカ)21を着脱自在に構成すると共に、取り外した指標形成体21を用いて整地フロート17後方の圃場面に次の植付け行程の走行指標を形成し得るように、当該指標形成体21を植付作業機6の後部に装着する取付具35を設けたことによって、従来の長方形圃場における植付作業(図8参照)のように、圃場の長手方向に連続する複数回に及ぶ広範囲な往復植付作業を行なった後、畦際を経由して枕地まで乗用田植機1を移動させるにあたり、車輪跡を消すために植付作業機6を下降させて整地フロート17を圃場面に接地させた状態で移動する場合であっても、植付作業機6の後部に指標形成体21を装着して整地フロート17後方の圃場面に次の植付け行程の走行指標を形成することができるので、この走行指標は、乗用田植機1の移動に伴って消えることがない。したがって、上述した枕地の植付作業を終えて畦際の植付作業を行う時は、乗用田植機1の機体中心を当該走行指標に合わせながら安定した前進走行が行なえる。
【0019】
また、長方形圃場における乗用型田植機Pの植付経路の一例を示した模式図(図8)のように、畦際C´におけるS3地点からE3地点までの点線矢印で示す片道行程(植付作業機の全条植付1行程)を確保すべく、その直前の植付行程において植付条数を調整するための条止め植付けを行う場合がある。例えば、図5に示すものは、6条植えの植付作業機6において右側2条を条止め植付けする場合であり、この場合は、先ず回転式マーカ21の取付具35に備える取付プレート33aと、ガード体33の連結プレート35bとを右側の植付伝動ケース14の上部にノブ付ボルト36を用いて共締めすると共に、当該取付具35の左右2箇所の把持手段35a,35aによってガード体33を把持する。その後、回転式マーカ21と一体な棒材24を取付具35のパイプ材35cに嵌装し、前記右側2条の条止め植付けに対応する次の植付け行程の走行指標形成位置R1に図示しないスナップピンを介して回転式マーカ21を位置決めすればよい。
【0020】
そして、取付具35は、その他の条止め植付けを行う際の次の植付け行程の走行指標形成にも使用することができる。図6及び図7に示すものは、6条植えの植付作業機6において右側4条または左側4条を条止め植付けする場合であり、両者は先ず、回転式マーカ21の取付具35に備える取付プレート33aと、ガード体33の連結プレート35bとを右側または左側の植付伝動ケース14の上部にノブ付ボルト36を用いて共締めすると共に、当該取付具35の左右2箇所の把持手段35a,35aによってガード体33を把持する。その後、回転式マーカ21と一体な棒材24を取付具35のパイプ材35cに嵌装し、前記右側4条または左側4条の条止め植付けに対応する次の植付け行程の走行指標形成位置R2,L2に図示しないスナップピンを介して回転式マーカ21を位置決めすればよい。
【0021】
即ち、植付作業機6の後部に装着する回転式マーカ21の取付具35の左右位置を、上述の如く条止め植付けに対応して変更できるように構成したことによって、植付条数を調整するための条止め植付けを行う場合には、圃場面に走行指標を形成する回転式マーカ21の位置を次の植付け行程における乗用田植機1の機体中心に容易に合わせることできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】乗用型田植機の側面図。
【図2】指標形成装置の構成を示す一部を省略した正面図。
【図3】指標形成装置の先端部(回転式マーカ)の構成を示す要部正面図。
【図4】植付作業機の平面図(畦際移動時)。
【図5】植付作業機の平面図(右側2条を条止め植付け時)。
【図6】植付作業機の平面図(右側4条を条止め植付け時)。
【図7】植付作業機の平面図(左側4条を条止め植付け時)。
【図8】長方形圃場における乗用型田植機の植付経路の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0023】
4 走行機体
5 リンク機構
6 植付作業機
7L 指標形成装置(左側)
7R 指標形成装置(右側)
12 苗載せ台
15 植付装置
17 整地フロート
21 指標形成体
35 取付具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の植付け行程の走行指標を圃場面に形成する指標形成装置(7L,7R)を設けた走行機体(4)の後部にリンク機構(5)を介して植付作業機(6)を昇降自在に連結し、この植付作業機(6)に苗載せ台(12)から苗を掻取って圃場に移植する植付装置(15)と、圃場面を整地する整地フロート(17)を備えた移植機において、前記指標形成装置(7L,7R)に備える指標形成体(21)を着脱自在に構成すると共に、取り外した指標形成体(21)を用いて整地フロート(17)後方の圃場面に次の植付け行程の走行指標を形成し得るように、当該指標形成体(21)を植付作業機(6)の後部に装着する取付具(35)を設けたことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記取付具(35)の左右位置を条止め植付けに対応して変更できるように構成した請求項1に記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−136192(P2009−136192A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314577(P2007−314577)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】