説明

移植物の保存

細胞または組織を保存するためのキット(1)。本キット(1)は、その中に開口および該開口を取り囲む周壁を有するフレーム(7)を含む。該フレーム(7)を受容し、かつ培養液(6)を受容するためのシール可能な容器(2)もまた提供される。該シール可能な容器(2)の一部分は、貫入要素が該容器(2)の内部に接近することを可能にし、かつ、その後、該貫入要素を引き出した後にシールを形成するための弾性部材(5)から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植またはインプラント等のための、細胞または組織を保存するためのキットおよび細胞または組織を保存するためのキットの使用に関する。本発明はまた、縁上皮細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、上皮細胞(すなわち皮膚)、または骨髄由来細胞を含む細胞または組織を保存する方法に関する。本発明はさらに、縁細胞外植片を提供する方法および細胞保存培養液に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は眼の窓の役割を果たし、3層からなっており、その最外層は上皮と呼ばれている。角膜の最周辺部、すなわち眼の半透明部分と白い部分との間の遷移ゾーン(縁とも呼ばれる)に、角膜幹細胞が位置している。これらの細胞は角膜を侵す様々な種類の疾患および障害を受け、縁幹細胞欠損症と呼ばれる状態を起こすことがある。角膜が不透明になるにつれて、この状態は失明につながることがある。
【0003】
エクスビボで増殖させたヒト縁上皮細胞(HLEC)の移植は、縁幹細胞欠損症(LSCD)の治療法である20〜25。HLECのエクスビボ増殖の原理は、患者から採取した機能性縁組織の生検(自家移植片)または生体血縁ドナーもしくは死体眼(同種移植片)から未分化角膜上皮を生成させることである。HLECは、縁外植片培養26〜29、細胞懸濁培養20,26,30,31、未処理28,29,32,33もしくは上皮を露出した26,31〜35羊膜(AM)または他の細胞培養表面20,26,36〜40、致死的放射線照射3T3線維芽細胞との共培養20,22,27,30およびエアリフト培養23,41を含む種々の増殖プロトコルによりエクスビボで培養することができる。LSCDを治療するための代替的な手法は、自家口腔粘膜上皮シートを用いることであった42〜45。このプロトコルは良好な臨床成績を示しているが、縁上皮幹細胞療法は現在も、手術の後方支援、組織の無菌性、組織の運搬、および組織の入手性等に関する問題に直面している。多層上皮を処理するには3〜4週間の培養期間が必要であり、また組織培養は培養の準備、培養液交換、および手術室への運搬の間の微生物汚染を受けやすいので、手術の時期決定は困難な場合がある。縁上皮幹細胞療法の臨床的応用は現在のところ知識と組織工学に使用し得る実験施設を有する眼科に限られている。
【0004】
現在のところ、縁上皮細胞の保存において生じる、いくつかの問題点がある。
【0005】
第1に、縁上皮細胞は典型的には現在のところポリエステル膜担体上に縫合された羊膜上で培養することによって保存される。次いで膜担体は、羊膜および培養上皮細胞とともに器官培養液(一般には栓をした瓶の中に保存される)に浸漬される。この手法における問題点は、羊膜を膜担体に固定することに時間と手間がかかることである。さらに、膜担体を一旦培養液中に浸漬すると、栓をした瓶を開けることなく微生物検査をすることが容易ではなく、開栓すると培養液が汚染される危険があることである。
【0006】
第2の問題点は縁上皮細胞の保存の機械的本質におけるものである。上皮細胞を保存するための現在の手法では、細胞を添加した羊膜が培養液中で自由に浮遊することになる。しかし実際上、上皮細胞を輸送する場合には、これは上皮細胞を保護しない。培養縁上皮細胞の輸送は重要である。というのは、実際上、細胞を「眼球銀行」に保存しておき、次いでインプラント手技が行われる病院へ輸送するのが効率的であるからである。さらに、培養縁上皮細胞を浸漬する培養液の深さが、細胞の保存および増殖に影響することがある。したがって、細胞を添加した羊膜が培養液中で自由に浮遊するようにすることが、細胞を次善の条件下におくことになろう。
【0007】
培養縁上皮細胞の保存における第3の問題点は、細胞を保存する温度である。培養角膜上皮47〜50の処理のためのHLEC源である全層角膜移植後の残存角強膜ドナーリムは、一般に31℃〜37℃の間の温度でOC培養液51中(欧州眼球銀行協会指令書、2007年)、または4℃でOptisol-GS52中(Bausch & Lomb、Irvine、CA)で保存される。さらに、縁上皮をOptisol-GS中に保存すると、6日後に基底層細胞生存率が95%となることが示されている53。しかし、そのような温度で外植片を保存するためには、特別の装置が必要である。
【0008】
上述のように、HLECはドナーから採取した機能性縁組織の生検を得ることによって生成される。しかし、先行技術においては生検位置の円周上の位置はほとんど報告されていない。したがって、ある位置から得られた生検の質が改善されているかどうかについてはこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Schlotzer-Schrehardt Uら、Experimental Eye Research、81巻、3号、2005年9月、247〜264頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題の1つまたは複数を解決しようとするものである。
【0011】
本明細書において実施例1は初めて、培養HLECの短期眼球銀行保存のための方法を報告するものであり、これは縁上皮幹細胞療法において有益であろう46。この研究で、元の多層構造および未分化表現型を維持しながら、3週のHLEC培養を器官培養(OC)液とともにインキュベーターからガラス容器に移して23℃で1週間保存した(図8)。この方法の実験デザインにはいくつかの利点がある。第1に、縁表現型の維持により、移植のスケジュール作成に融通性が得られる。第2に、組織保存により保存培養液の微生物試験を実施する時間の余裕が得られ、これによりエクスビボ増殖HLECの移植の安全性が強化されるであろう。第3に、閉鎖系であるので組織を実験室から手術室へ、また眼球銀行間で輸送することが可能となり、組織の利用性が高まる。最後に、室温での保存により、加熱キャビネットの必要性がなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様によれば、細胞または組織を保存するためのキットであって、
その中に開口および該開口を取り囲む周壁を有するフレーム;および
該フレームを受容し、かつ培養液を受容するためのシール可能な容器であって、該シール可能な容器の一部分は、貫入要素が該容器の内部に接近することを可能にし、かつ、その後、該貫入要素を引き出した後にシールを形成するための弾性部材から形成されている、シール可能な容器
を含むキットが提供される。
【0013】
好都合には、キットは細胞または組織の培養のための基材の保存に適している。
【0014】
好ましくは、基材は平面状またはアーチ形の基材である。
【0015】
好都合には、基材は羊膜、コンタクトレンズ、コラーゲンゲルまたはプラスチック材料であり、好ましくは羊膜は支持メッシュ上に位置している。
【0016】
好ましくは、細胞は縁細胞、結膜細胞、内皮細胞、粘膜細胞、網膜細胞、骨髄由来細胞または表皮細胞である。
【0017】
好都合には、縁細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、表皮細胞または骨髄由来細胞は培養細胞である。
【0018】
有利には、キットはフレーム内の開口にわたって平面状の基材を固定するために周壁に設置することができる細長いまたは環状の弾性要素をさらに含む。
【0019】
好都合には、周壁は細長いまたは環状の弾性要素を受容するための円周溝を含む。
【0020】
好ましくは、キットはフレームを培養液中に支持するための、フレームに取り付け可能な少なくとも1個のフロートをさらに含む。
【0021】
有利には、フロートは周壁の外部に取り付け可能である。
【0022】
好都合には、フレームはフロートを受容するための円周溝を含む。
【0023】
好ましくは、フレームが容器内に位置して1個または複数のフロートがフレームを培養液中に支持する際に、1個または複数のフロートが周壁と容器との間に挿置されるように、1個または複数のフロートは周壁の周囲に位置している。
【0024】
好都合には、1個または複数のフロートの任意の部分の間の最大距離は最大直径を形成し、かつ最大直径は容器の最小直径の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%である。
【0025】
好ましくは、少なくとも1個のフロートは衝撃吸収性材料から作られている。
【0026】
有利には、少なくとも1個のフロートは貫入要素によって穿刺することができる変形可能な材料から作られている。
【0027】
好都合には、貫入要素を受容するための間隙が1個または複数のフロートの中に設けられている。
【0028】
好ましくは、フロートは、フレーム上に支持される平面状基材が培養液の液面より2mm未満下、好ましくは1mm未満下に存在するように、フレーム上に位置させることができる。
【0029】
有利には、キットは容器を保持し、かつ支持機構の少なくとも一部分に対する容器の自由回転を可能にするための支持機構をさらに含む。
【0030】
好都合には、支持機構はジンバルを含む。ジンバルは1、2または3つの垂直な軸における回転を可能にすることができる。
【0031】
あるいは、支持機構は容器を保持するための球状内部ケーシングおよび内部ケーシングを受容するための球状凹部を含む外部ケーシングを含み、内部ケーシングは外部ケーシングの内部で回転可能である。
【0032】
好ましくは、容器は取り外し可能なキャップを含む。
【0033】
有利には、取り外し可能なキャップはヒンジによって容器に取り付けられている。
【0034】
好都合には、弾性部材はキャップの中に位置している。
【0035】
好ましくは、フレームは中空円筒である。
【0036】
有利には、周壁はその中を培養液が通過することを可能にするための1個または複数の開口を含む。
【0037】
好都合には、キットは培養液をさらに含む。
【0038】
好ましくは、培養液は器官培養液である。
【0039】
あるいは、培養液は無血清培養液CnT-20である。
【0040】
有利には、培養液は最小必須培養液を含む。
【0041】
好都合には、培養液は血清系培養液である。
【0042】
好ましくは、培養液はウシ胎児血清を含む。
【0043】
あるいは、培養液は無血清培養液である。
【0044】
好都合には、無血清培養液はOptisol-GSまたはPAA-Quantumを含む。
【0045】
あるいは、無血清培養液は緩衝剤および最小必須培養液を含む。
【0046】
好ましくは、緩衝剤はHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)を、より好ましくは濃度25mMで含む。
【0047】
有利には、最小必須培養液はアミノ酸、塩、グルコースおよびビタミンを含む。
【0048】
好都合には、塩は塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムの少なくとも1種を含み、および/またはビタミンは葉酸、ニコチンアミド、リボフラビンおよびB-12の少なくとも1種を含む。
【0049】
有利には、培養液は重炭酸ナトリウムを含む。
【0050】
好都合には、培養液は抗生物質を含む。
【0051】
好ましくは、抗生物質はゲンタマイシン、バンコマイシン、アンホテリシンBまたはそれらの混合物である。
【0052】
有利には、培養液は少なくとも、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-エタンスルホン酸緩衝ダルベッコ改変イーグル培養液60%、重炭酸ナトリウム5〜15%、ウシ胎児血清2〜10%、ゲンタマイシン10〜100mg/ml、バンコマイシン20〜300mg/ml、およびアンホテリシンB 0.1〜5mg/mlを含む。
【0053】
好都合には、培養液の体積は10〜100mlの間である。
【0054】
有利には、容器はプラスチック材料から作られている。
【0055】
好都合には、貫入要素は皮下注射針である。
【0056】
好ましくは、キットは基材を位置させるために適したメッシュをさらに含み、好ましくはメッシュはポリエステルメッシュである。
【0057】
本発明の別の態様によれば、細胞または組織を保存するための本発明によるキットの使用が提供される。
【0058】
好都合には、使用は細胞または組織を基材上で培養するステップをさらに含む。
【0059】
有利には、基材は平面状またはアーチ状基材である。
【0060】
好ましくは、細胞外植片は基材上に位置する。
【0061】
有利には、縁上皮外植片は3℃〜37℃の間、好ましくは3℃〜30℃の間、好ましくは18℃〜28℃の間、より好ましくは20℃〜25℃の間、より好ましくは22℃〜24℃の間、より好ましくは22℃および23℃の温度で、より好ましくは少なくとも1、2、3または4日の間、より好ましくは少なくとも7日の間、保存される。
【0062】
本発明のさらなる態様によれば、細胞または組織を3℃〜37℃の間の温度に保持するステップを含む細胞または組織の保存方法が提供され、ここで細胞または組織は縁上皮細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、表皮細胞または骨髄由来細胞を含む。
【0063】
これにより、細胞の分化の増大を実質的に起こさずに細胞を保存することが可能になる。
【0064】
好ましくは、縁上皮細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、表皮細胞または骨髄由来細胞は培養細胞である。
【0065】
本発明の別の態様によれば、細胞の分化の増大が実質的に起こらない縁上皮細胞の保存方法が提供される。
【0066】
好ましくは、縁上皮細胞は培養縁上皮細胞である。
【0067】
いくつかの実施形態においては、「細胞の分化の増大が実質的に起こらない」とは、保存終了時において開始時と同様に、少なくとも80%、90%、95%または99%の未分化細胞数があることを意味する。
【0068】
細胞の分化の増大が実質的に起こらないか否かを判定するために使用可能ないくつかの試験がある。例えば、それは細胞中の種々の免疫組織化学的マーカーを分析することによって判定できる。例えば、マーカーp63、K19およびビメンチンは、それぞれ細胞が未分化であることを示すために使用できる。分化がないことを示す別の試験は、細胞がマーカーK3の発現について陰性であることである。別の試験は、マーカーCx43、K5、K14および/またはインテグリンβ1の低または無発現である。
【0069】
細胞を培養して分化させる際には、一般には細胞が存在する培養液を2〜3日毎に交換するが、本発明の実施形態においてはそのような培養液交換は行われないということにも注意されたい。
【0070】
好都合には、本方法は細胞または組織を3℃〜37℃の間の温度に保持するステップを含む。
【0071】
好ましくは、本方法は縁上皮細胞を2つの場所の間で輸送するステップをさらに含む。
【0072】
好都合には、本方法は細胞または組織を3℃〜30℃の間、好ましくは18〜28℃の間、好ましくは20℃〜25℃の間、好ましくは22℃〜24℃の間、好ましくは22℃または23℃に保持するステップを含む。
【0073】
好ましくは、本方法は細胞または組織を18℃〜28℃の間の温度で、少なくとも1日の間、無血清培養液中に浸漬して保存するステップを含む。
【0074】
実際に、本発明の1つの特定の態様によれば、細胞または組織を18℃〜28℃の間の温度で、少なくとも1日の間、無血清培養液に浸漬して保持するステップを含む細胞または組織の保存方法が提供され、ここで細胞または組織は縁上皮細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、表皮細胞または骨髄由来細胞を含み、好ましくは培養細胞である。この方法により、細胞の分化の増大を実質的に起こさずに細胞を保存することが可能になる。
【0075】
有利には、本方法は細胞または組織を基材、好ましくは平面状またはアーチ状基材の上に位置させるステップをさらに含む。
【0076】
好ましくは基材は羊膜、コンタクトレンズ、コラーゲンゲルまたはプラスチック材料である。
【0077】
好都合には、基材は羊膜であり、細胞は上皮細胞であり、細胞は上皮側が羊膜に面して位置している。
【0078】
好ましくは、羊膜は未処理の羊膜上皮を含む。
【0079】
有利には、本方法は基材をポリエステルメッシュに取り付けるステップをさらに含む。
【0080】
好ましくは、細胞または組織は縁上皮細胞を含み、ドナーの眼の領域から得られたものであり、該領域は眼の最上位置のいずれかの側30°のセクターを含む。
【0081】
有利には、該領域は眼の最上位置のいずれかの側15°のセクターを含む。
【0082】
好都合には、本方法は細胞または組織を前記温度に少なくとも1日、好ましくは少なくとも2日、より好ましくは少なくとも3日、より好ましくは少なくとも4日の間、より好ましくは少なくとも7日の間、保持するステップを含む。
【0083】
好ましくは、細胞または組織は培養液中に浸漬される。
【0084】
有利には、培養液は最小必須培養液を含む。
【0085】
好都合には、培養液は血清系培養液である。
【0086】
好ましくは、培養液はウシ胎児血清を含む。
【0087】
あるいは、培養液は無血清培養液である。
【0088】
好都合には、無血清培養液はOptisol-GSまたはPAA-Quantumを含む。
【0089】
あるいは、無血清培養液は緩衝剤および最小必須培養液を含む。
【0090】
好ましくは、緩衝剤はHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)を好ましくは25mMの濃度で含む。
【0091】
有利には、最小必須培養液はアミノ酸、塩、グルコースおよびビタミンを含む。
【0092】
好都合には、塩は塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムの少なくとも1種を含み、および/またはビタミンは葉酸、ニコチンアミド、リボフラビンおよびB-12の少なくとも1種を含む。
【0093】
有利には、培養液は重炭酸ナトリウムを含む。
【0094】
好都合には、培養液は抗生物質を含む。
【0095】
好ましくは、抗生物質はゲンタマイシン、バンコマイシン、アンホテリシンBまたはそれらの混合物である。
【0096】
有利には、培養液は少なくとも、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-エタンスルホン酸緩衝ダルベッコ改変イーグル培養液60%、重炭酸ナトリウム5〜15%、ウシ胎児血清2〜10%、ゲンタマイシン10〜100mg/ml、バンコマイシン20〜300mg/ml、およびアンホテリシンB 0.1〜5mg/mlを含む。
【0097】
好都合には、培養液の体積は10〜100mlの間である。
【0098】
有利には、本方法は培養液の上の気体の組成を調整するステップをさらに含む。
【0099】
好ましくは、細胞または組織は少なくとも3日、より好ましくは少なくとも7日、より好ましくは少なくとも2週、より好ましくは少なくとも3週の間、保存される。
【0100】
有利には、細胞または組織は閉鎖系で保存される。
【0101】
好都合には、本方法は細胞または組織を保存の前に培養するステップをさらに含む。
【0102】
好ましくは、細胞または組織を培養するステップは、細胞または組織を以下の条件、すなわち35℃〜39℃の間の温度、好ましくは37℃で、酸素90%〜99%の間かつ二酸化炭素10%〜1%の間、好ましくは酸素95%および二酸化炭素5%を含む雰囲気下で細胞培養に適した培養液に浸漬して維持するステップを含む。
【0103】
好都合には、本方法は本発明のキットを使用する。
【0104】
本発明の別の態様によれば、縁上皮細胞をドナーの眼から、眼の最上位置のいずれかの側30°のセクターを含む領域においてのみ採取するステップを含む、縁細胞外植片を提供する方法が提供される。この態様においては、ドナーの眼の残存セクターは元のまま残っている。
【0105】
好ましくは、本方法は、縁上皮細胞をドナーの眼から、眼の最上位置のいずれかの側15°のセクターを含む領域においてのみ採取するステップを含む。
【0106】
好都合には、ドナーは死体である。
【0107】
本発明のさらなる態様によれば、HEPES緩衝液および最小必須培養液を20mM〜30mMの間、好ましくは25mMの濃度で含む細胞保存培養液が提供される。
【0108】
好ましくは、細胞保存培養液は抗生物質、好ましくはゲンタマイシンをさらに含む。
【0109】
本明細書において、「細胞」への言及は、そのような細胞を含む「組織」への言及を含む。
【0110】
本明細書において、用語「培養された」は細胞および組織に関して、細胞または組織が「エクスビボ増殖」させられたことを示すために用いられ、用語は相互交換可能に用いることができる。例えば、縁細胞外植片の場合には、組織が典型的には2個または3個の幹細胞のみを含む点で、組織がドナーから取り出される(残りの細胞は分化細胞である)。外植片は次いで酸素95%、二酸化炭素5%の雰囲気下でホルモン性上皮培養液中、37℃で培養に付される。培養液は2日毎に交換する。培養のプロセス、またはエクスビボ増殖により、幹細胞の複製によって外植片中の未分化細胞数の増加がもたらされる。培養細胞は一般に非培養細胞の結合組織がなく、細胞層が少ない。培養細胞は、ドナーから直接取り出した組織よりも移植に適している。
【0111】
縁細胞はSchlotzer-Schrehardt Uら、Experimental Eye Research、81巻、3号、2005年9月、247〜264頁に記載されているようなある種の細胞質/核および細胞表面マーカーを参照することによって特徴づけることができる。例示的な幹細胞マーカーを表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
本発明の実施形態は、以下について示す添付の図を参照し、単なる例としてここに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の一実施形態による羊膜保存デバイスの横断図である。
【図2】本発明の第二の実施形態による羊膜保存デバイスの横断図である。
【図3】第二の実施形態の羊膜保存デバイスの透視図である。
【図4】第三の実施形態の羊膜保存デバイスの透視図である。
【図5】第四の実施形態の羊膜保存デバイスを隠れている細部と共に示す透視図である。
【図6A】培養上皮の器官培養保存の画像である。移植片がポリエステル膜担体に付着される一実施形態の画像である。膜担体は、保存培養液を含むガラス製注入瓶のゴム栓に付着される。
【図6B】培養上皮の器官培養保存の画像である。器官培養液に完全に浸漬された培養上皮の画像である。羊膜は、6-0単一繊維縫合糸を使用して四隅でポリエステル膜担体に留められた。AM=羊膜、E=縁外植片PM=ポリエステル膜。
【図7】未保存上皮および23℃、1週間の保存後の上皮での染色切片の画像である(元拡大率×100)。図7Aおよび7Bは、ヘマトキシリンおよびエオシンでの染色を示す。図7Cおよび7Dは、p63の免疫染色を示す。図7Eおよび7Fは、K19の免疫染色を示す。図7Gおよび7Hは、ビメンチンの免疫染色を示す。
【図8】培養ヒト縁上皮細胞(HLEC)のアイバンク保存の図表である。図8Aは、眼からの縁組織の除去を示す。縁外植片は、健康な眼から(自家移植用)または屍体の眼から(同種間移植用)切り出される。図8Bは、HLEC培養を示す。HLEC31は、培養プレートインサートのポリエステル膜33に縫合糸を使用して留められるヒト羊膜32上で3週間培養される。図8Cは、培養HLECのアイバンク保存を示す。培養HLECを付着させたポリエステルメッシュ膜を7.5%重炭酸ナトリウム、8%ウシ胎児血清、50μg/mlゲンタマイシン、100μg/mlバンコマイシンおよび2.5μg/mlアンホテリシンBを含むダルベッコ改変イーグル培養液からなる器官培養液中で1週間、23℃で保存する。これは、i)移植スケジューリングの柔軟性;ii)微生物検査実施のための時間;およびiii)安全な組織搬送の利益を提供する。
【図9】3週間培養後(A)ならびに31℃(B)および5℃(C)での1週間保存後の培養ヒト縁上皮細胞でのヘマトキシリンおよびエオシンで染色した切片の画像である。矢頭は、上皮細胞の脱離を示し、矢印は、羊膜からの基底層脱離を示す。元拡大率:×400。
【図10】3週間培養および3種の異なる温度で1週間保存した後の培養ヒト縁上皮細胞を示す透過型電子顕微鏡の画像である。(A)3週間HLEC培養物は、羊膜への接着を促進する多数の細胞間デスモソーム(B、矢印)およびヘミデスモソーム(C、矢印)を有する多層状上皮を呈した。(D)31℃での器官培養条件では、拡張した細胞間腔、デスモソーム複合体の脱離(矢印、挿入図)、および羊膜への乏しい接着が明らかになった。(E)元の上皮構造は、23℃での1週間の器官培養保存後に多数のデスモソーム(F、矢印)およびヘミデスモソーム(G、矢印)と共に保存された。(H)5℃でのOptisol-GS保存は、拡張した細胞間腔、上皮細胞の脱離、羊膜からの上皮の脱離および細胞内空胞数の増大を誘発した。弱から中程度のクロマチン凝縮(矢印)に加えて、細胞膜の破裂(矢印)およびオルガネラの溶解(矢印)が通常観察された。Lc:縁上皮細胞;AM:羊膜;D:デスモソーム;Hd:ヘミデスモソーム;Cc:クロマチン凝縮;Rcm:細胞膜の破裂;Do:オルガネラの溶解。尺度図:10μm(A);1μm(B、C、F、G);1μm;2μm(D);5μm(E、H)。
【図11】3週間培養ならびに1週間の31℃および5℃での保存後のp63(A、B、C)、K19(D、E、F)、ビメンチン(G、H、I)およびK3(J、K、L)の免疫染色後の培養ヒト縁上皮細胞の切片の画像である。未分化細胞のマーカー(p63/K19/ビメンチン)の発現は31℃、OC保存および低温保存後に維持された。アイバンク保存後の細胞の未分化な性質は、角膜上皮の分化のマーカー、K3の不発現により支持された。元拡大率:×400。
【図12】培養ヒト縁上皮細胞における3週間培養および3種の異なる温度での1週間の保存後のH&Eアポトーシス指数、カスパーゼ-3標識指数およびTUNEL標識指数を例示する柱状図である。結果は、個々の実験群でのアポトーシスまたは標識指数の平均百分率として表される。エラーバーは、1SEを意味する。
【図13】培養ヒト縁上皮細胞の23℃での1週間の器官培養保存後のヘマトキシリンおよびエオシン(HE)染色、切断されたカスパーゼ-3免疫組織化学的検査、およびTUNEL染色を示す図である。(A)H&E染色は、環状核断片(矢印)を有するアポトーシス性上皮細胞を示す。(B)細胞質免疫反応性および良好に輪郭が示された核膜(矢頭)を有する切断されたカスパーゼ-3陽性表面細胞。(C)TUNEL陽性表面細胞(矢頭)。元拡大率:×400。
【図14】外気温、Optisol-GS中2日間保存後のCAM/EH-1染色した培養ヒト縁上皮細胞の蛍光画像である。
【図15】外気温、Optisol-GS中4日間保存後のCAM/EH-1染色した培養ヒト縁上皮細胞の蛍光画像である。
【図16】外気温、MEM+HEPES中2日間保存後のCAM/EH-1染色した培養ヒト縁上皮細胞の蛍光画像である。
【図17】外気温、MEM+HEPES中4日間保存後のCAM/EH-1染色した培養ヒト縁上皮細胞の蛍光画像である。
【図18】外気温、PAA-Quantum中2日間保存後のCAM/EH-1染色した培養ヒト縁上皮細胞の蛍光画像である。
【図19】外気温、PAA-Quantum中4日間保存後のCAM/EH-1染色した培養ヒト縁上皮細胞の蛍光画像である。
【図20】外気温、Cnt-20中2日間保存後のCAM/EH-1染色した培養ヒト縁上皮細胞の蛍光画像である。
【図21】外気温、Cnt-20中4日間保存後のCAM/EH-1染色した培養ヒト縁上皮細胞の蛍光画像である。
【図22】13日間培養ヒト縁上皮細胞のH&E染色画像である。
【図23】外気温、Optisol-GS中2日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図24】外気温、Optisol-GS中4日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図25】外気温、MEM+HEPES中2日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図26】外気温、MEM+HEPES中4日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図27】外気温、EpiLife中2日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図28】外気温、EpiLife中4日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図29】外気温、Cnt-20中2日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図30】外気温、Cnt-20中4日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図31】外気温、PAA-Quantum中2日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図32】外気温、PAA-Quantum中4日間保存後のH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図33】外気温、Optisol-GS中2日間保存後にデルタNp63α抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図34】外気温、Optisol-GS中4日間保存後にデルタNp63α抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図35】外気温、PAA-Quantum中2日間保存後にデルタNp63α抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図36】外気温、PAA-Quantum中4日間保存後にデルタNp63α抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図37】外気温、Optisol-GS中2日間保存後にp63抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図38】外気温、Optisol-GS中4日間保存後にp63抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図39】外気温、PAA-Quantum中2日間保存後にp63抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図40】外気温、PAA-Quantum中4日間保存後にp63抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図41】外気温、Optisol-GS中2日間保存後にケラチン19抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図42】外気温、Optisol-GS中4日間保存後にケラチン19抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図43】外気温、PAA-Quantum中2日間保存後にケラチン19抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図44】外気温、PAA-Quantum中4日間保存後にケラチン19抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図45】外気温、Optisol-GS中2日間保存後にケラチン3抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図46】外気温、Optisol-GS中4日間保存後にケラチン3抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図47】外気温、PAA-Quantum中2日間保存後にケラチン3抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図48】外気温、PAA-Quantum中4日間保存後にケラチン3抗体での染色に続いてH&E染色した培養ヒト縁上皮細胞の画像である。
【図49】2週間保存および3週間保存に続く生存率染色したヒト縁上皮細胞ならびに陽性対照の画像である。
【図50】23℃、2および3週間保存に続く追加的免疫組織化学的染色の後にH&E染色した培養HLECの画像である。
【図51】未処理(A、CおよびE)ならびに剥皮(B、DおよびF)の羊膜での23℃、1週間保存後の培養HLECの画像である。
【図52】未処理(A、CおよびE)ならびに剥皮(B、DおよびF)の羊膜での23℃、1週間保存後の培養HLECの画像である。
【図53】実施例8の実験設計を示す図表である。
【図54】上方、鼻側、下方および耳側縁部由来の培養ヒト縁上皮細胞でのヘマトキシリンおよびエオシンで染色した切片の画像である。S:上方;N:鼻側;I:下方;T:耳側;1:ドナー1;2:ドナー2;3:ドナー3;4:ドナー4;R:右;L:左。元拡大率:×400。
【図55】上方、鼻側、下方および耳側縁部由来の培養ヒト縁上皮細胞での細胞層の平均(±SEM)数の比較を示すグラフである。*/**上方群から有意な差。
【図56】p63、ΔNp63α、ABCG2、K19、ビメンチン、インテグリンβ1、PCNA、Ki67、CK3、CK5およびE-カドヘリンで免疫染色した上方、鼻側、下方および耳側由来の培養ヒト縁上皮細胞の切片の画像である。異なる縁部由来の培養HLECにおいて主な表現型的差異の証拠は見出せなかった。元拡大率:×400。
【発明を実施するための形態】
【0115】
図1を参照して、羊膜保存デバイス1はプラスチック材料から作られた円筒状容器2を含む。
【0116】
容器2の頂部に、ヒンジ4を通して容器2にシールして接続するキャップ3が備えられている。キャップ3は剛性材料(例えばプラスチック材料)から作られていて、一般的には円形である。キャップ3の中央部において、円形部分は剛性材料から作られておらず、代わりにゴム等の弾性材料から作られた円形の隔膜5によって置き換えられている。隔膜5は例えば皮下注射針が貫入することができるようになっており、皮下注射針が抜かれるとシールが形成される。したがって隔膜5はシールされた様式で容器内部への接近を可能にする。
【0117】
容器2は培養液6を含んでいる。本実施形態において培養液は器官培養液であるが、他の実施形態においてはCnT 20培養液等の異なった培養液を使用することができる。Optisol GSまたはPAA Quantum等の無血清培養液は、血清を含む培養液に比べていくつかの利点を有している。というのは、培養液を通じての感染の危険が解消されるからである。さらに、無血清培養液の含有量はより正確に再現することができ、これは比較研究を実施する場合に意義がある。別の例示的な無血清培養液は、25mM HEPESおよびMEM(最小必須培養液)および50μg/mlゲンタマイシンである。
【0118】
容器2の中にはまた、培養液6の液面の下に、フレームまたは培養インサート7がある。フレーム7は中空円筒を含む。円筒の壁には、円周に沿って等間隔で、フレーム7の上端9からフレーム7の下端10へ約四分の三離れたところに位置している一連の開口8が設けられている。フレーム7の円筒の壁にはまた、開口とフレーム7の下端10との間に位置する円周溝11がある。
【0119】
使用時には、これから説明するように、羊膜12をフレーム7に取り付ける。フレーム7を容器2から取り出し、羊膜をフレーム7の下端10を越えて引き伸ばす。フレーム7は中空円筒であるので、フレーム7の下端10は周壁で取り囲まれた円形開口を形成する。ガイドスリーブ(図示せず)を準備する。ガイドスリーブはフレーム7と同じ直径の円筒状ロッドである。弾性ゴムバンド13をガイドスリーブの一端に嵌め、次いでガイドスリーブをフレーム7にぴったりと合わせ、羊膜12をその間に位置させる。次いで弾性バンド13をガイドスリーブからフレーム7に転がして移し、溝11に掛けて羊膜12の外縁がゴムバンド13とフレーム7との間に挟まれるようにする。次いでガイドスリーブを廃棄する。これは膜12がフレーム7に比較的素早く容易に取り付けられることを意味する。
【0120】
本実施形態の変形においては、ガイドスリーブは中空で、フレーム7の外径よりわずかに大きい内径を有することに注意されたい。使用時にはゴムバンド13はガイドスリーブの上に位置し、ガイドスリーブはフレームの上方に位置する。次いでゴムバンド13をガイドスリーブの端部から直接フレーム7に滑らせて移し、羊膜を所定の位置に保持させる。
【0121】
一方、患者(自家移植の場合)またはドナーのいずれかの縁から外植片を採取する。より具体的には、2個の穿孔器を用いて直径15mmの円板に穴をあけて組織の縁輪を作成する。この円板は隣接する強膜の部分に加えて角膜の切片を含む。次いで外植片の中央部分を穿孔して直径約7.5mmの円形部分を除去し、幅約4mmの環状リングを残す。外植片の採取は当技術において既知である。しかし、本実施形態においては、環からの切片は、図8Aに見られるように、角膜のいわば上部であるいわゆる「12時の位置」または「上部位置」から得られ、この切片が引き続く手技に使用される。12時の位置は、角膜の最上位置のいずれかの側30°、またはより好ましくは最上位置のいずれかの側15°に存在するセクターである。この位置から採取した外植片は、より大きな機械的強度を与えるであろう他の位置からの外植片よりも、増殖の可能性が高く、細胞層の数が多いことが見出されている。確かに、上部位置から得られた外植片の利点は、外植片がドナー(生体ドナーまたは死体)の上部位置からのみ得られ、他の位置からの組織を元のまま残すことができることを意味している。
【0122】
次いで外植切片を、外植片の上皮側が羊膜に面するように羊膜12の上に置く。
【0123】
次いでフレーム7を羊膜12および外植片とともに容器2の中の培養液6に浸漬し、キャップ3を容器2の頂部の上にシールする。開口8により培養液6が膜12の上側を越えて自由に動くことができる。
【0124】
容器2は22℃または23℃、換言すれば「室温」で保存され、面倒で費用がかかるいかなる冷却または加温装置もなしに、外植片を保存および輸送することができる。隔膜5を通して皮下注射針を挿入することによって、培養液6の試料が取り出される。通常、微生物試験のためには培養液の1試料のみを採取すればよいが、必要であれば定期的に試料を取り出してもよい。必要であれば、再び隔膜5を通して針を挿入することによって、容器2から培養液6を実質的に取り出し、新鮮な培養液で置換することができる。しかし、容器2はシールされているという本質により、そのような過程の間に培養液6が汚染される危険はほとんどまたはまったくない。保存の間、培養液を交換する必要はなく、保存の間、細胞の分化の顕著な増大は起こらない。
【0125】
移植のために外植片が必要な場合には、キャップ3を開けて培養液6からフレーム7を取り出し、培養された縁上皮細胞に自由に接近することが可能である。
【0126】
この実施形態への変形においては、容器2の中でフレーム7をシールした後、容器2の中の培養液6の液面より上の気体の濃度を変化させる。これは、隔膜5を通して第1および第2の針を短い距離、挿入することにより、針が培養液6の液面より上にとどまるようにすることによって達成される。所望の組成を有する気体を第1の針を通して容器2に入れ、一方第2の針を通して同じ体積の気体を容器2から除去する。この方法により、例えば培養液6より上の気体の酸素張力を調節することができる。
【0127】
本発明の上述の実施形態においては、羊膜12をフレーム7に取り付けるためにゴムバンド13を用意する。しかし本発明の他の実施形態においては、弾性バンド13は縫合糸、コード(金属コード等)または他のいくつかの細長いもしくはリング状の弾性要素で置き換えられる。さらに、他のいくつかの実施形態においては、膜12はリングクランプを用いてフレーム7に取り付けられる。
【0128】
ここで図2および図3を参照して、本発明の第2の実施形態を説明する。ここで類似の部品は第1の実施形態と同じ参照番号を有する。本実施形態においては円周溝11に加えて、円筒状フレーム7の中に円周溝14がフレーム7の下端10から上端9までの途中四分の三付近に設けられている。溝14は溝11よりも顕著に幅広い。溝の中には、拡張したフォーム材料から作られたリング状フロート15が置かれている。フロート15の内径は溝14の中にぴったりと適合するような寸法となっている。フロート15の外径は容器2の内径よりわずかに小さい寸法となっている。
【0129】
本発明のこの第2の実施形態は第1の実施形態と同様に使用されるが、容器2にフレーム7を挿入する前にフロート15がフレーム7の上端9の上を滑って溝14の中に入るところが異なっている。フレーム7が容器2の内部に位置する場合、フロート15の浮力によりフロート7が培養液6の中に支持される。したがって膜は培養液6の中で予め決められた深さで浮いている。フレーム7の上端9は培養液6の液面より上に位置していることに注意されたい。しかし、培養液は開口8の内外に自由に流れるので、羊膜12の上側は培養液6にさらされている。
【0130】
第1の実施形態と同じく、容器2は22℃または23℃で保存され、培養液6の試料は隔膜5によって挿入される皮下注射針を用いて取り出される。本実施形態においては、隔膜5から垂直下向きに針を挿入してそれによりフレーム7の中から培養液6を採取するか、あるいはフロート15の外縁を超えて培養液6が得られるように垂直に対して大きな角度で針を挿入する必要がある。
【0131】
培養液6の中でフレーム7を支持する役割を提供する他に、フロート15はまた、フレーム7(および羊膜)が容器2の中で回転することを可能にしながら、羊膜12が容器2の側面に接触することを防ぐことを認識されたい。さらに、拡張した発泡材料が衝撃を吸収する性質により、フォーム15は容器2に対する軽微な打撃および衝撃からフレームおよび羊膜12を保護することになる。
【0132】
代替の実施形態においては、フロート15への変形が提供されることも認識されたい。例えば、いくつかの実施形態においては、フロート15は拡張したポリスチレン材料から作られる。さらに、いくつかの他の実施形態においては、リング状フロート15の1つのセクターが存在せず、欠けたセクターの位置において培養液6に針を挿入することが容易になる。さらなる実施形態においては、単一のリング状フロート15を備える代わりに、フレーム7の円周に複数のフロートが備えられる。例えば1つの実施形態においては、フレーム7の円筒壁の円周に、等間隔(120°)離れて間隔をあけた3個の離れたフロートが備えられる。フロートはフレーム7の半径方向外向きに十分に拡張し、フレーム7が培養液6の上で浮いている間にフレーム7が容器2と接触することを防ぐ。いくつかの実施形態においては、フロート15は浮力を失わずに皮下注射針で穿刺することができる材料(フォーム材料等)から作られる。そのような実施形態においては、培養液6の試料は、培養液6に到達するために隔膜5およびフロート15を通して針を挿入することによって採取することができる。
【0133】
さらなる実施形態においては、リング状フロート15は空気または気体で満たされた部材を含む。さらなる実施形態においては、フレーム7の上に、フロート15の軸方向に位置して、フレーム7の下端11の方向に第2の環状リングが備えられる。第2の環は浮揚性はないが、フレーム7の下端11が容器2の側面に接触することを防ぐ保護的役割を提供する。
【0134】
本発明のさらなる実施形態においては、フロート15は省略され、培養液6の中でフレーム7を支持するために別の手段が提供されることも理解されたい。例えば1つの実施形態においては、フレーム7は一端でフレーム7に取り付けられ、他端でキャップ3に取り付けられたワイヤを用いて吊り下げられる。ワイヤの長さは、フレームが容器2の壁に接触できない(容器が極端な角度に置かれなければ)ように十分に短く選択することができる。このため、そのような実施形態は、容器を含む外部構造の動きにかかわらず容器を垂直に保つ以下の第3実施形態の特徴と組み合わせるために特によく適している。あるいは、複数のワイヤを備えることができる。別の実施形態においては、フロート15は、フレーム7から半径方向外向きに延長し、次いでフレーム7の下端11より下に下降する複数のレッグで置き換えられる。次いでレッグは容器2の底に位置し、フレーム7の残りは容器2の中の予め決められた液面で支持される。さらに、レッグはフレーム7の円筒壁が容器2の側面に接触することを防止する。
【0135】
図4を参照して、羊膜保存デバイスがジンバルに結合される本発明のさらなる実施形態について、ここで説明する。
【0136】
第2の実施形態におけるように羊膜保存デバイス1が提供され、これはその中に第2の実施形態のフレーム7、フロート15等を含む。容器2の底にはまた、円周状の重り16が備えられている。容器2の外壁の対向側かつ容器2の重心のレベルより上に位置して、容器2から半径方向外向きに伸びる2つの軸17が備えられている。第1の軸17の方は、容器2と同軸でその外部から半径方向外向きに位置する第1のリング18に結合している。第1のリング18の上には、第1の軸17から90°の位置にあって、こちらは第1のリング18と同軸でこれから半径方向外向きに位置する第2のリング20に結合した、2個の外向きに伸びる第2の軸19が位置している。第2のリング20は外部構造に結合している(示していない)。
【0137】
容器2は第1の軸17によって画定される軸の周りで第1のリング18に対して回転可能である。第1のリング18の方は(第1の軸17によって容器2と結合しているので)第2の軸19によって画定される軸の周りに第2のリング20に対して回転可能である。したがって、外部構造(これは例えば保存箱であってよい)が傾くと、容器2は第1および第2のリング18、20の中で揺れることができ、重り16の存在により容器2の重心が第1および第2の軸17、19よりも十分下になるので、容器2は常に揺れ、その下端は最低の位置にあり、容器の直立が保たれる。
【0138】
この配置の利点は、容器2(およびその中の羊膜および外植片)が例えば車両により輸送される場合、外部構造の動きは容器2の直立姿勢に影響しないであろうということである。したがって羊膜および外植片は培養液6の予め決められた深さで支持されたままであろう。
【0139】
第3の実施形態の変形においては、第3のリングが第2のリング20の半径方向外向きに備えられている。第2のリングは第3の軸によって第3のリングに結合され、これによって第2のリングが第3のリングに対して第1および第2の軸17、19によって画定される軸に垂直な軸の周りで回転することができる。外部構造は第2のリングよりはむしろ第3のリングに結合している。この変形においては、外部構造のいかなる軸に沿ったいかなる回転も容器2に移送されない。垂直軸の周りの外部構造のねじれる動きでさえも、容器2の回転をもたらさない。
【0140】
ここで図5を参照して、本発明の第4の実施形態をここで説明する。羊膜保存デバイス1は第2の実施形態と実質的に同じ形態で提供される。したがって上端9および下端11を有する円筒状のフレーム7がある。既述のようにフレーム7には一組の開口8が備えられている。上端9の近傍にフロート15を受容するための溝が備えられており、フロート15は容器2の側面への皮下注射針の接近を可能にするための60°のセクター21を除いて、フレーム7の周りに円周状に取り付けられている。フレーム7の下端11には羊膜12が位置しており、これは下端11に隣接する円周溝の中にある円周状に位置するゴムバンド13によって定位置に保持されている。この特定の実施形態においては、フロート15とゴムバンド13との間にあり、円筒状フレーム7の周りに円周状に位置する第2の環状リング22を受容するために、第2の溝も設けられている。環状リング22は浮揚性はないが、フレーム7を保護し、フレーム7が容器2の内壁と接触することを防止するように作用する。前の実施形態と同じく、容器2は培養液6を含み、その中にフレーム7がフロート15によって支持されている。容器2はシールされており、その頂部は弾性シートから作られた隔膜5を有し、容器の内部への皮下注射針の接近を可能にしている。第3の実施形態と同じく、容器2の底には円周状の重り16が備えられている。
【0141】
容器2は上および下半球24、25を含む球状のケーシング23の内部に位置している。上半球24は赤色で、下半球25は緑色である。上および下半球24および25は赤道26で合する。上および下半球24および25はその中に円筒状の凹部を有し、これは上および下半球24、25が結合してケーシング23を形成する際に互いに対向し、容器2を受容する寸法を有している。上および下半球24、25は赤道26で互いに係合するためのねじ山を有している。内側ケーシング23は外側ケーシング27の内部に位置し、外側ケーシングは立方体の形をしており、それぞれ外側ケーシング27の立方体の半分を形成する上部28と下部29を含む。上部および下部28、29はそれぞれ、内側ケーシング23を受容するための個別の半球状凹部を含む。内側ケーシング23と外側ケーシング27との間には、油状の性質をもつ流体が位置している。
【0142】
使用の際には、上述のように羊膜および外植片がフレーム7に取り付けられ、容器2とともに設置される。次いで容器2は、その緑色によって識別することができる下半球25の円筒状凹部の中に置かれる。次いで上半球24が設置され、容器2がその中の円筒状挿入物の中に受容される。次いで上および下半球24、25がねじ山によって互いに結合される。次いで内側ケーシング23が外側ケーシング27の中に設置され、油状流体が内側および外側ケーシング23、27の間に供給される。その後、外側ケーシング27は輸送することができ、羊膜および外植片は内部に安全に保存される。より具体的には、いかなる衝撃もフロート15および環状リング22によって吸収され、外側ケーシング27の回転は容器2の姿勢に影響しない。なぜなら重力の影響(特に重り16に対する)の下で内側ケーシング23が回転し、容器2は常に直立しているからである。したがって、羊膜12は培養液6の所定の深さに保たれる。さらに、垂直軸の周りの外側ケーシング27のいかなる回転も、一般的には内側ケーシング23のいかなる回転をもまったくもたらさないであろう。
【0143】
第4の実施形態の部品には広範囲の寸法が可能であるが、以下は例示的なものと考えられるであろうということを認識されたい。容器2の直径は18〜12cmの間、好ましくは10cmであり、高さは18〜12cmの間、好ましくは10cmである。フレーム7の直径は3〜5cmの間、好ましくは4cmである。上および下半球24、27の円筒状凹部の深さはそれぞれ5.1cmで、内径は10.1cmである。そのような寸法の配置により、フレーム7を容器2の内部に位置させ、容器2を内側ケーシング23の内部に位置させることができる。
【0144】
本実施形態の変形においては、環状リング22は第2のフロートによって置き換えられ、それによりフレーム7は培養液6の中により高く支持され、膜12は気体-流体の界面、換言すると羊膜12より上の培養液6の約1または2mmに支持される。これは羊膜12のいわゆる「エアリフト」をもたらす。Prunieras Mらの研究によって、エアリフティングによって増殖した培養皮膚は、培養液に浸漬して増殖した組織よりも、形態学的にインビボの組織により類似しているように見えるということが示されている。確かに、エアリフティング法は本発明の本実施形態に限定されず、他の実施形態にも適用できることを理解されたい。
【0145】
培養液6がいくらか蒸発したとしても、膜12は培養液6の表面下の同じ深さに保持されていることを認識されたい。したがって、上述のようにエアリフティング法を使用すれば、容器2内の培養液6の量のいかなる変化(例えば微生物分析のために試料を取り出した後)にもかかわらず、膜12の必要な深さは維持される。
【0146】
本発明の上述の実施形態はフレーム7の上に羊膜12を備えることを含むが、本発明の代替の実施形態においては、外植片を培養するために異なった平面状基材が使用され、羊膜は例えばコラーゲンゲルまたはプラスチック材料で置き換えることができることを理解されたい。あるいは、基材は例えばコンタクトレンズ等のアーチ状(すなわちアーチ状断面を有する)であってもよい。
【0147】
上述の実施形態は縁細胞外植片の培養および保存を含んでいるが、代替の実施形態においては、他の種類の細胞の外植片が使用されることも理解されたい。例えば他の実施形態においては、結膜、内皮、網膜、粘膜、表皮(すなわち皮膚)または骨髄由来細胞の外植片が使用される。さらなる実施形態においては、そのような細胞を含む組織が保存される。
【0148】
さらに、上述の実施形態は培養上皮細胞の外植法を含んでいたが、本発明は細胞懸濁液の方法にも同様に適用可能であることに注意されたい。
【0149】
(実施例)
(実施例1)
本実施例は、長期間にわたる培養縁上皮細胞の保存における研究に関する。
【0150】
材料および方法
縁上皮細胞の細胞培養および器官培養保存
本研究は、ヘルシンキ宣言に従って実施し、研究目的のドナー組織の使用についての承認を取得した。以前報告されたとおり保存した1ヒト羊膜をNetwell培養プレートインサート(Costar、Corning、New York、New York、USA)のポリエステル膜に6-0非吸収性縫合糸を使用して付着させた。眼は、屍体から眼球除去し、外植片培養物(n=32)をMellerら2によって以前記載されたとおり調製した。
【0151】
ディスパーゼ(Roche Diagnostics、Basel、Switzerland)にさらした縁外植片は、角膜実質を羊膜側にして21日間、37℃で、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-エタンスルホン酸緩衝、重炭酸ナトリウムおよびHam's F12(Sigma-Aldrich、St Louis、Missouri、USA)を含み、5%ウシ胎児血清、0.5%ジメチルスルホキシド、2ng/mlヒト上皮増殖因子、5μg/mlインスリン、5μg/mlトランスフェリン、5ng/mlセレン、3ng/mlヒドロコルチゾン、30ng/mlコレラ毒素(Biomol、Exeter、UK)、50μg/mlゲンタマイシンおよび1.25μg/mlアンホテリシンBを補充したダルベッコ改変イーグル培養液からなる培養液中でインキュベートした。培養上皮が付着したポリエステルメッシュ底をスチール製の刃を使用して取り、ポリエステル膜の端に結び付けられたエチコンエチロン6-0単一繊維縫合糸を使用して滅菌済50mlガラス製注入瓶中に浮遊させた(図6)。上皮(n=16)は、7.5%重炭酸ナトリウム、8%ウシ胎児血清、40mg/mlゲンタマイシン(ガラマイシン)、100mg/mlバンコマイシン(Abbott Laboratories、Abbott Park、IL、USA)および1.5mg/mlアンホテリシンBを含むN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-エタンスルホン酸緩衝ダルベッコ改変イーグル培養液を含む器官培養液中で1週間、23℃でインキュベートした。
【0152】
細胞生存率分析
細胞生存率の指標、ミトコンドリア機能を比色分析アッセイを使用して以前報告されたとおり3〜5測定した。この技術は、水溶性テトラゾリウム塩-8-(2(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム一ナトリウム塩)のミトコンドリア酵素還元および生成された水溶性ホルマザンの分光光度的定量に基づく。最初に、光学密度と保存していない培養上皮細胞由来の試料中の生存可能細胞の数との関係を調査するために検量線を作成した。培養上皮のディスク(n=12)を様々な直径(2、3、4、5および6mm)の生検穿孔器(カイインダストリーズ株式会社、岐阜、日本)を使用して穿孔した。次いでそれらをCCK-8溶液(Alexis Corporation、Lausen、Switzerland)20μlおよび器官培養液200μl中で2時間インキュベートした。溶液を比色分析的に450nmで自動化マイクロプレートリーダー(Kinetic-QCL、Bio-Whittaker、Walkersville、Maryland、USA)で分析した。次にディスクをトリプシン処理し、細胞数をトリパンブルー色素排除法を使用して直接計数した。3mm上皮ディスクの測定に基づいて、保存後(n=8)の光学密度を保存前(n=8)のそれの百分率として算出した。
【0153】
光学顕微鏡および免疫組織化学的検査
保存した上皮(n=8)および保存していない上皮(n=8)を中性に緩衝した4%ホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。厚さ5μmの系列切片をヘマトキシリンおよびエオシンで通常どおり染色した。免疫組織化学的検査を抗体のパネルで実施した(表2)。免疫反応を視覚化するために、本発明者らは、標準的ペルオキシダーゼ技術(DAB detection kit)をVentana ES Immunohistochemistry Instrument(Tucson、Arizona、USA)で使用した。最適な抗体希釈を製造者によって推奨される陽性対照を使用する滴定によって決定した。発現パターンは、2名の独立した調査員によって評価された。
【0154】
統計分析
データは、平均(SD)として表す。SPSS V.14.0を細胞生存率を評価するために使用した(2つの独立した群についての相関分析およびt検定)。p値0.05を有意とした。
【0155】
結果
生存率
光学密度と保存していない培養上皮細胞由来の試料における生存可能細胞数との間に直線関係が観察された(相関r=0.97)。保存していない上皮の光学密度は0.27(0.03)である一方、保存した上皮のそれは0.23(0.05)であり、生存百分率84%(20%)を与えた。2群の間に有意差は見出されなかった(p=0.07)。
【0156】
光学顕微鏡および免疫組織化学的検査
全体的に見ると、細胞境界は維持され、核は変性の徴候を示さなかった(図7B)。上皮は、羊膜に十分に付着した。軽度の細胞間浮腫が時折観察された。K19、ビメンチン、K3、K5およびK14について染色様式に変化はなかった。Ki67、p63、Cx43、E-カドヘリンおよびインテグリンb-1についてわずかな変化が明らかになった(表2、図7)。
【0157】
【表2】

【0158】
考察
過去の研究は、縁上皮細胞の供給源としての器官培養強角膜縁部の上皮増殖ポテンシャルを検討している6〜8。しかし、エクスビボ拡張縁上皮細胞の器官培養保存を検討した報告はない。本実施例は、培養縁上皮細胞が器官培養液中、室温で1週間、本来の層構造および未分化な表現型を維持しながら保存できることを示す。
【0159】
最初の挑戦は、羊膜用の適切な担体を見出すことであった。最終的には単なるポリエステル膜培養プレートインサートが本発明者らのすべての要求に合致した。膜(1)は、縫合糸の張力に耐えることができ、羊膜を拡げたままにする;(2)は、培養プレートインサートから容易に外れる;(3)はガラス製注入瓶に取り付けられる、および;(4)は、羊膜から容易に取り外される。
【0160】
ドナー角膜の器官培養保存は、ヨーロッパにおいて現在最も広く使用される角膜保存法であり9、培養液供給および栄養素が組織内の細胞内代謝を維持するために必要である10。本実施例は、温蔵倉の必要をなくし、眼研究部門間の移植物の分配を容易にする室温(23℃)で実施された。マックキャリー-カウフマン培養液、12 K-Sol培養液12、TC199培養液13およびRPMI 1640器官培養液14などの培養液中で保存された角膜における室温(23〜25℃)の影響を考察するいくつかの報告が刊行されている。しかし、これらの研究においては角膜上皮が注目の主な焦点であった。
【0161】
光学密度と細胞数との間に観察される直線関係は、高い相関(R2=0.976)を報告したKitoら5の結果と一致する。細胞生存率アッセイおよび光学顕微鏡検査の結果は、培養上皮細胞の大部分が保存後に生存可能であったことを示した。器官培養保存後に以前報告されている15、16軽度の細胞間浮腫が時折生じた。
【0162】
本発明者らの免疫組織化学的発見との直接比較のための入手可能なデータがないことから、本発明者らは、器官培養液で3〜4週間保存した縁外植片を調査したJosephら7による研究の結果を本発明者らのデータと比較した。p63、ビメンチン、Ki67およびCx43の発現は、彼等の結果に近かった。しかし、彼等の研究においては、数個の細胞だけがK19に陽性であり、K3は表在層において発現された。
【0163】
縁上皮細胞を培養する標準化された方法はない。本実施例において、本発明者らは、3T3線維芽細胞支持細胞層を除いたまたはエアリフトしない無処理の羊膜を、この方法が縁上皮幹細胞の特性を保存することを以前の研究が示唆していることから2、17、18、使用した。しかし、エアリフティングの使用は、器官培養での保存の前に有益であり得る機械的強度が増大した上皮シートを提供することが報告されている19
【0164】
結論として、本発明者らの研究は、器官培養が移植のための培養上皮を保存できることを示す。
【0165】
(実施例2)
目的。実施例1は、縁幹細胞欠損を治療するための組織の信頼できる供給源を提供するための培養ヒト縁上皮細胞(HLEC)のアイバンク保存を記載している。本研究は、従来の器官培養(OC)保存およびOptisol-GS保存が培養HLECに応用できるかどうかを調査することを目的とした。本発明者らは、43のヨーロッパのアイバンク(European Eye Bank Association Directory、2007)の内26において選ばれている温度、31℃でのOC保存、およびOptisol-GS低温保存が培養HLECの特性を保存できると仮定した。したがって本発明者らは、これらの従来の保存方法と新規保存方法とを比較した。さらにOC培養保存後54および低温保存後に55、56ヒト角膜上皮でアポトーシスによる細胞死が報告されていることから、本発明者らはアポトーシス調節遺伝子の発現を研究し、アイバンク保存後に培養HLECでアポトーシスマーカーを調査した。
【0166】
方法。3週間HLEC培養物を密閉容器中で1週間、31℃もしくは23℃で器官培養したかまたはOptisol-GS中5℃で保存した。形態を光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡によって研究し、表現型特徴付けを免疫組織化学的検査によって評価した。アポトーシスは、リアルタイムPCRマイクロアレイ分析、カスパーゼ3免疫組織化学的検査および末端デオキシヌクレオチジル転移酵素介在dUTPニック-エンド標識(TUNEL)によって評価した。
【0167】
結果。超微細構造は、23℃で保存された、一方31℃および5℃での保存は、細胞間腔の拡張、デスモソームの分離および上皮細胞の脱離を伴った。培養HLECは、すべて保存の条件下で未分化のままであった。抗アポトーシス遺伝子BCL2の発現は、23℃および5℃での保存において著しく上方制御された。23℃および5℃保存条件下でのBCL2A1、BIRC1およびTNFの下方制御ならびにCARD6の上方制御は、核内因子κB活性の低減を示唆した。アイバンク保存への反応において切断されたカスパーゼ-3およびTUNEL染色に顕著な増大は観察されず、切断されたカスパーゼ-3(範囲0.0%〜4.7%)およびTUNEL(範囲0.0%〜7.8%)の標識指数は、低かった。
【0168】
結論。これらのデータは、培養HLECの外気温でのOC保存が31℃でのOC保存および5℃でのOptisol-GS保存より優れていること、ならびにアポトーシスが培養HLECのアイバンク保存後に最少であることを示す。
【0169】
材料および方法
ダルベッコ基礎培養液(DMEM)、重炭酸ナトリウムおよびHam's F12(1:1)を含有するHEPES緩衝DMEM、ダルベッコ改変イーグル培養液、ハンクス平衡塩類溶液、ウシ胎児血清(FBS)、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム培養液補充物、ヒト上皮増殖因子、ジメチルスルホキシド、ヒドロコルチゾン、ゲンタマイシン、アンホテリシンB、およびウサギポリクローナル抗コネキシン43抗体は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。ディスパーゼIIはRoche Diagnostics(Basel、Switzerland)から、コレラ毒素AサブユニットはBiomol(Exeter、UK)から、エチコンエチロン6-0 C-2単一繊維縫合糸はJohnson & Johnson(New Brunswick、NJ)から、Netwell培養プレートインサートはCostar Corning(New York、NY)から、バンコマイシンはAbbott Laboratories(Abbott Park、IL)から、Optisol-GSはBausch & Lomb(Irvine、CA)から、およびガラス製用器はOneMed(Vantaa、Finland)から得た。マウス抗p63抗体(クローン4A4)、マウス抗CK19抗体(クローンRCK108)およびマウス抗Ki67抗体(クローンMIB-1)は、Dako(Glostrup、Denmark)から得た一方で、マウス抗ビメンチン抗体(クローンVIM 3B4)はVentana Medical Systems(Tucson、AZ)から、マウス抗CK3抗体(クローンAE5)はImmuQuest(Cleveland、UK)から購入した。以下は、Novocastra Laboratories Ltd(Newcastle、UK)から供給された:マウス抗CK5抗体(クローンXM26)、マウス抗CK14抗体(クローンLL02)、マウス抗E-カドヘリン抗体(クローンNCH-38)およびマウス抗インテグリンβ1抗体(クローン7F10)。ウサギポリクローナル抗カスパーゼ-3抗体はCell Signaling Technology(Danvers、MA)由来であった。EponはElectron Microscopy Sciences(Hatfield、PA)から購入した。ArrayGrade FFPE RNA isolation kit、RT2 Profiler Apoptosis PCR array(カタログ番号APHS-012)、True Labeling Picoamp kit、RT2 PCR array first strand synthesis kitおよびRT2 Real-Time(商標)SYBR Green PCR master mix PA-012は、SuperArray Bioscience(Frederick、MD)から得た。使用した7900HT 384-well blockは、Applied Biosciences(Foster City、CA)から購入し、使用したColorimetric TUNEL System kitはPromega Corporation(Madison、WI)から購入した。
【0170】
ヒト組織調製
ヒト組織は、ヘルシンキ宣言に従って取り扱った。強角膜組織は、Norwegian Corneal Eye Bank(Oslo、Norway)から、中央角膜ボタンを角膜移植に使用した後に得た。実験は、実施例1と同じヒトドナー由来の強角膜縁の4対を使用して実施し、4種の実験群の研究(3週間のHLEC培養ならびに31℃、23℃および5℃での保存)を同時に行った。縁組織は、Mellerら29によって以前報告されたとおり調製した。組織を50μg/mLゲンタマイシンおよび1.25μg/mLアンホテリシンBを含有するDMEMで3回リンスした。過剰の強膜、結膜、虹彩および角膜内皮の注意深い除去の後、残った組織を培養皿に置き、37℃、加湿した5%二酸化炭素下でMg2+およびCa2+を含まないハンクス平衡塩類溶液中のディスパーゼII(1.2U/mL)に10分間さらした。10%FBSを含むDMEMで1回リンスした後、すべての強角膜縁を4種の実験群に均等に分配される12個の縁外植片に分割した。
【0171】
未処理羊膜でのヒト縁外植片培養
ヒトAMは、Lee & Tseng57によって以前報告された方法によって、かつヘルシンキ宣言に従って保存した。室温で溶解後、未処理の上皮側を上に向けたAMを培養プレートインサートのポリエステル膜にエチコンエチロン6-0単一繊維縫合糸を使用して、実施例1に既に報告のとおり留めた(図8)。縁外植片培養物は、以前記載のとおり29調製した。各AMインサートの中央で、ヒト縁外植片を、重炭酸ナトリウムおよびHam's F12(1:1)を含むHEPES緩衝DMEMから作られた補充ホルモン上皮培養液中で培養した。培養液には5%FBS、0.5%ジメチルスルホキシド、2ng/mLヒトEGF、5μg/mLインスリン、5μg/mLトランスフェリン、5ng/mLセレン、3ng/mLヒドロコルチゾン、30ng/mLコレラ毒素、50μg/mLゲンタマイシンおよび1.25μg/mLアンホテリシンBを補充した。培養物は、加湿した5%二酸化炭素および95%大気の雰囲気で37℃、3週間インキュベートし、培養液は2〜3日ごとに交換した。
【0172】
培養ヒト縁上皮細胞のアイバンク保存
HLEC培養物(n=36)を実施例1に記載のとおりのアイバンク保存のために調製し、3週間HLEC培養物(n=12)を対照とした。培養上皮が付着したポリエステルメッシュ膜をスチール製の刃を使用して取り、ポリエステル膜の端およびゴム栓に結び付けられたエチコンエチロン6-0単一繊維縫合糸を使用して滅菌済50mLガラス製容器に浮遊させた(図8)。培養HLECは、7.5%重炭酸ナトリウム、8%FBS、50μg/mLゲンタマイシン、100μg/mLバンコマイシンおよび2.5μg/mLアンホテリシンBを含むダルベッコ改変イーグル培養液を含む器官培養液50ml中、31℃(n=12)もしくは23℃(n=12)、またはOptisol-GS 50mL中5℃(n=12)のいずれかで1週間保存した。ガラス容器は、閉じた組織保存系を確立するためにそれぞれゴム栓で閉じた。
【0173】
組織像および免疫染色
各実験群から8培養物を中性に緩衝した4%ホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。5μmの系列切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で通常どおり染色した。免疫組織化学的検査をヒト角膜表面上皮のマーカーに対する抗体のパネルで実施した(表3)。免疫反応を視覚化するために、本発明者らは、標準的ペルオキシダーゼ技術(DAB detection kit)をVentana ES Immunohistochemistry Instrument(Tucson、AZ)で使用した。最適な抗体希釈を製造者によって推奨される陽性対照を使用する滴定によって決定した。以前報告されたとおり58、59、従来の免疫組織化学的採点法を使用した。免疫反応性は、0(検出不能)、+(>50%細胞の弱陽性)、++(>50%細胞の中程度の陽性)、+++(>50%細胞の強陽性)のとおり等級分けした。すべての等級は、試料の由来を知らない2名の独立した熟達した調査員によって拡大率×400で決めた。
【0174】
透過型電子顕微鏡
各実験群から4培養物をpH7.4に調整した0.2Mカコジル酸緩衝液中の2%グルタルアルデヒドで固定し、1%四酸化オスミウム中で後固定し、100%までの段階的系列のエタノールで脱水した。組織ブロックを酸化プロピレンに2回、20分間浸漬し、Eponに包埋した。超薄切片をLeica Ultracut Ultramicrotome UCT(Leica、Wetzlar、Germany)で切り、Philips CM120透過型電子顕微鏡(Philips、Amsterdam、the Netherlands)を使用して検査した。
【0175】
リアルタイム定量的RT-PCR
RNAは、ArrayGrade FFPE RNA isolation kitを利用して、製造者の手順書に従ってホルマリン-固定パラフィン-包埋(FFPE)組織から単離した。3つの生物学的複製物を各実験群から無作為に選択した。RT2 Profiler human Apoptosis PCR Arrayをアポトーシスに関与する84個の鍵となる遺伝子のmRNAレベルを384ウェルフォーマットで分析するために製造者の説明書に従って使用した。簡潔には、RNAおよそ30〜40ngを最初にTrue Labeling Picoamp kitの修正版を使用して増幅した。第一鎖cDNAをRT2 PCR array first strand synthesis kit C-02を使用して増幅したcRNA 400ngを使用して合成した。このキットは、PowerScript逆転写酵素および、ランダムプライマーとオリゴdTプライマーとの組合せを使用する。反応物の合計容量は、20μLを希釈した100μLであった。PCR反応は、RT2 Real-Time(商標)SYBR Green PCR master mix PA-012を使用するApplied Biosystems 7900HT 384-well blockを使用して実施した。PCR反応物の合計容量は、20μLであった。等量のRNA 0.4ngをPCR反応に利用した。サーモサイクラーパラメータは、95℃で10分間に続いて、95℃で15秒間および60℃で1分間を40サイクルであった。保存したHLECの遺伝子発現を3週間HLEC培養物と比較した。遺伝子発現における相対的変化は、ΔΔCt(サイクル閾値)法60を使用して算出した。5種のハウスキーピング遺伝子、GAPDH、アクチン-β、β2m、Hprt1およびRpl13dのサイクル数の平均を試料間の発現を規準化するために使用した。発現データは、実際の倍数の変化として表される。
【0176】
切断されたカスパーゼ-3免疫組織化学的検査およびTUNELアッセイ
免疫組織化学的検査は、上に記載のとおり切断されたカスパーゼ-3に特異的な抗体(1:100希釈)で実施した。末端デオキシヌクレオチジル転移酵素介在dUTPニック-エンド標識(TUNEL)をColorimetric TUNEL Systemを製造者の手順書に従って使用して実施した。拡大率×400で、上皮増殖の全長から凝縮核を有し、抗カスパーゼ-3およびTUNELで陽性に標識される細胞をアポトーシスとして2名の独立した熟達した調査員によって計数した。アポトーシス指数、カスパーゼ-3標識指数およびTUNEL標識指数を以前Duanら61によって報告されたとおり組織学的切片におけるアポトーシスの定量的測定として使用した。
【0177】
統計分析
リアルタイムPCRデータの統計的比較を対応のないスチューデントt検定(Excel、Microsoft、Redmond、WA)で3週間HLEC培養物を対照として使用して実施した。
【0178】
アポトーシスおよび標識指数は、3週間HLEC培養におけるそれぞれの指数に対してマン-ホイットニー検定(SPSS V.14.0、SPSS Inc.、Chicago、IL)を使用して検定した。p値<0.05を有意とした。
【0179】
結果
上皮形態学
31℃での保存後に、上皮細胞の過剰な脱離が見られた(図9B)。線維芽細胞は、8個の反復物から3個において認められた。弱いクロマチン凝縮が時折見られたが、核クロマチンの凝縮および細胞膜の破裂は観察されなかった。隣接する細胞間は大きく広がった(図10D)。わずかなデスモソーム、デスモソームの分離およびデスモソーム複合体の脱離が明らかになった。基底細胞は、少数のヘミデスモソームを介してわずかに羊膜に付着した。細胞内空胞は、よく見られた。
【0180】
HLEC培養物の23℃での保存は、クロマチン凝縮、核断片化または核クロマチンの凝縮を誘発せず、細胞膜はそのまま残った(図10E)。細胞間腔はわずかに増加し、多数のデスモソーム接合が隣接する表在性上皮細胞間に見られた(図10F)。多形基底細胞は、ヘミデスモソームによって羊膜基底膜に十分に付着した(図10G)。細胞内腔は、まれに観察された。
【0181】
低温条件でのHLEC培養物の保存は、細胞間腔の相当な拡張、デスモソームの分離、上皮細胞の脱離、AMからの上皮の脱離および細胞内空胞数の増大を呈した(図9C、10H)。軽度から中程度のクロマチン凝縮に加えて細胞膜の破裂およびオルガネラの溶解がたびたび観察された。
【0182】
3-週間HLEC培養物は、対照として使用され、多数の細胞間デスモソーム(図10B)およびヘミデスモソーム(図10C)を有する多層状上皮(図10A)を示した。
【0183】
表現型特徴付け
培養HLECは、31℃ OC保存および低温保存条件下では未分化(p63/K19/ビメンチン陽性およびK3陰性)のままであった(表3、図11)。
【0184】
アポトーシス遺伝子発現プロファイル
表4は、3種の異なる温度での1週間の保存後の培養HLECにおける抗アポトーシス遺伝子およびアポトーシス促進遺伝子を示す。DNA断片化因子(DFFA)の発現は、保存HLECにおいて顕著に変化しておらず、カスパーゼ-3の発現は、検出レベルより低かった。23℃および5℃での保存後に、BCL2の上方制御、BCL2A1およびBIRC1の下方制御ならびにTNF受容体シグナル伝達成分(TNFおよびTRADD)の発現の低下が明らかになった。さらに、23℃保存条件では、Fas介在経路の成分(FAS、FASLGおよびFADD)およびBAG4の上方制御ならびにPYCARDの下方制御が明らかになった。すべての保存条件下でBNIP2の発現は上方制御され、一方MCL1発現は下方制御された。
【0185】
アポトーシス細胞の定量
わずかなアポトーシス細胞は、すべての保存条件下で観察され(表5、図12、13)、カスパーゼ-3(0.0%〜4.7%の範囲)およびTUNEL(0.0%〜7.8%の範囲)の低い標識指数を示した。実験群を対照群と比較した場合、保存温度が低下するとアポトーシス指数がより高くなる傾向があるが、差異は統計的に有意ではなかった。
【0186】
考察
本実施例において、従来の31℃でのOC保存および低温アイバンク培養は、23℃ OC保存法と比較して培養HLECの本来の層構造の保存において明らかに劣っていた。培養HLECのアイバンク保存は、3種すべての保存条件下でアポトーシスによる軽度の表現型変化および限定的な細胞死を伴った。
【0187】
興味深いことに上皮細胞の脱離は、脱離の徴候がなかった23℃での保存とは明確に対照的に、31℃および5℃での保存後に常に観察された。31℃で保存された培養HLECの形態学的特徴付けは、7日後に2〜3細胞層の上皮脱落62および細胞内空腔62、63を記載した31℃で実施された器官培養角膜の研究と一致する。上皮厚の低下は、37℃64、65および34℃54での角膜のOC保存後にも記録されている。さらに37℃で器官培養した角膜の研究は、細胞間腔の拡張64、65およびデスモソーム数の減少64を報告しており、どちらも本発明者らの発見と一致する。5℃での保存に関して本研究のものと類似している形態学的発見は、明確な細胞内浮腫および表在層下の細胞の分離を呈したOptisol-GS中、6〜10日間保存されたヒト角膜の研究66において見出された。
【0188】
縁上皮幹細胞に対する特異的マーカーが今日までに同定されていないので、未分化縁上皮表現型の記載は、現在、推定幹細胞関連マーカーの正の発現と分化関連マーカーの負または低い染色との組合せに依存している。本実施例において、転写因子p63および細胞骨格タンパク質K19およびビメンチンがすべての保存条件後に発現された。以前の研究はp63が角膜上皮細胞において高い増殖能力を伴って発現されることを示し、一過的増幅細胞(TAC)67〜69を示した。K19およびビメンチンは、縁上皮の基底細胞に局在し、幹細胞候補マーカーとして示唆されているが58、70、71、後の研究はK19も角膜上皮細胞によって発現されたことを示した59。アイバンク保存後の細胞の未分化な特性は、角膜上皮分化のマーカー、K3の負の発現によって支持された72
【0189】
本発明者らの研究におけるギャップ結合タンパク質Cx43の正の発現は、培養HLECの60%がCx43を発現したことを報告73したChenらによる最近の調査と一致する。しかし以前の報告は、Cx43が縁上皮の基底上層において発現されることを示し、Cx43発現が角膜TACの分化を表す54、74、75ことを示唆した。さらにHernandez-Galindoらは、デルタp63(クローン4A4)とCx43のHLEC培養物における共発現が初期のTACを示し得る68ことを示唆した。ケラチン対K5/K14およびインテグリンβ1の正の発現も、縁部および角膜の基底細胞がこれらのマーカーを発現すると示されたことから59、41、76、77、TAC分化の指標となり得る。
【0190】
免疫化学的分析も培養HLECアイバンク保存後の細胞生存への洞察を提供できる。p63高発現の維持およびKi67の発現におけるわずかな変化、増殖性細胞核マーカーは、アイバンク保存が培養HLECの増殖能力を保存することを示唆する。さらに膜貫通受容体E-カドヘリンの発現は、ほとんどの群において保持され、細胞増殖および生存を促進すると以前報告されている78
【0191】
細胞間浮腫は、31℃および5℃保存条件下での相当の細胞脱離に対する説明を与え得る。しかし、アポトーシスによる細胞死79、80が、OC保存54および低温保存後55、56のヒト角膜上皮において報告されている。本実施例においてクロマチン凝縮の徴候が31℃および5℃保存条件下で明らかになった。したがって本発明者らは、アポトーシスが上皮細胞の脱離に寄与しうると仮定したが、切断されたカスパーゼ-3およびTUNELについての免疫組織化学的検査はアイバンク保存への反応において顕著な増大を示さなかった。
【0192】
多遺伝子プロファイルは、アイバンク保存後の培養HLECにおいて遺伝子発現における興味深い変化を明らかにした。培養HLECの23℃および5℃での保存条件下での遺伝子発現におけるいくつかの変化は、核内因子κB(NF-κB)活性の低減と同様に、NF-κBの標的である、BCL2A1、BIRC1、TNFおよびPYCARDを含むいくつかのアポトーシス調節遺伝子がそれらの発現において低減しことを示唆した。TNF受容体アダプタータンパク質、TRADDも低減したが、TNF受容体シグナル伝達のアンタゴニスト、BAG4の発現は、増大した。さらに特定のNF-κB活性化経路81の修飾因子、CARD6の発現は、増大した。NF-κBタンパク質は、主な転写因子の1つである82、83。NF-κBの活性化は、炎症および免疫応答を介在するTNF-αおよびIL-1βを含む炎症誘発性サイトカインの合成を導き、細胞をアポトーシスから保護する85〜87
【0193】
細胞死についての外因性経路の成分(FAS、FASLGおよびFADD)およびカスパーゼ活性化88〜89は、すべて23℃保存条件下で顕著に上方制御された。さらにBCL2ファミリーに属する抗アポトーシス遺伝子MCL1の発現は、大きく下方制御され、BCL2アゴニストBNIP2およびBNIP3Lの発現は、増大した。遺伝子発現におけるこれらの変化がなぜアポトーシスの増大と関連しないのかは、まだ決定されていない。NF-κB誘発性抗アポトーシスタンパク質、BAG4およびCARD6の上方制御を含むFas介在アポトーシスへの下流ブロックは、Fas経路成分の発現の増大を中和できる。加えてカスパーゼ活性化の内在性経路91、92は、細胞死についてのミトコンドリアおよび小胞体の経路93におけるカスパーゼの活性化の上流に作用するアポトーシスの阻害剤BCL2の強力な上方制御によって阻害されうる。最後の仮定の支持において、BCL2は、ヒト角膜上皮においてアポトーシス性細胞はく離を調節すると示唆された。
【0194】
結論として、本明細書において表されたデータは、培養HLECの外気温でのOC保存が、31℃でのOC保存および5℃でのOptisol-GS保存より優れており、アポトーシスは、培養HLECのアイバンク保存後に最少であることを示す。これは、培養HLECのアイバンク保存が、縁幹細胞欠損を治療するための組織の信頼できる供給源を提供できることを示す。
【0195】
【表3】

【0196】
【表4】

【0197】
【表5】

【0198】
(実施例3)
本実施例は、培養縁上皮細胞の搬送についての研究に関する。より具体的には研究は、移植片が短距離を搬送される移植のためのヒト縁上皮細胞(HLEC)の培養したシートの機械的強度についてであった。
【0199】
方法
縁外植片から上皮側の位置を上下させて3週間Netwell 74μmポリエステル培養プレートインサートで培養したHLECを、25mL器官培養液を含む搬送用バイアルに移し、自転車で距離3キロメートルを搬送した。到着時に上皮ディスクの5mmを穿孔器を使用して打ち抜き、個々のHLECでの膜電位をパッチクランプ技術を使用して測定した。
【0200】
結果
膜電位は、未処理の細胞膜を有する生存可能な培養HLECの指標である、上皮側の位置を上下させた縁外植片から拡げた培養HLECにおいてと同様であった。
【0201】
結論
本実施例は、培養HLECが少なくとも短距離を搬送されうることを示す。
【0202】
(実施例4)
培養ヒト縁上皮細胞の無血清保存
本実施例の目的は、培養ヒト縁上皮細胞(HLEC)の短時間無血清保存の可能性を示すことであった。
【0203】
方法
ポリエステル培養プレートインサートに付着させた羊膜上での3-週間HLEC培養物をOptisol-GS(Bausch & Lomb、Irvine、CA)で2、4および7日間、4℃で閉じたPlastiques Gosselinポリプロピレン容器(Hazebrouck Cedex、France)中で保存した。培養HLECにおける遺伝子発現をAffymetrix GeneChip Human 1.0 ST Arrayおよびレーザー共焦点顕微鏡を使用して決定し、デジタル画像法を死滅(エチジウムホモダイマー1(EH-1)-陽性)細胞から生(カルセイン-アセトキシメチルエステル(CAM)-陽性)細胞を区別するために使用した。ポリエステル培養プレートインサートに付着させた羊膜上での13日間HLEC培養物をOptisol-GS(Bausch & Lomb)、ゲンタマイシン添加HEPES-MEM(Sigma-Aldrich/Invitrogen)、Epilife培養液(Invitrogen)、Cnt-20(CELLnTEC Advanced Cell Systems AG)およびPAA-Quantum(E.Pedersen&Sonn)中で2および4日間22℃で閉じたPlastiques Gosselinポリプロピレン容器で保存した。培養物を光学顕微鏡によって特徴付けし、生存率をCAM/EH-1アッセイによって分析した。
【0204】
ヒト組織調製
ヒト組織は、ヘルシンキ宣言に従って取り扱った。研究用承認を有する屍体のヒト角膜は、the Centro de Oftalmologia Barraquer(Barcelona、Spain)から得た。縁組織は、Mellerら2によって以前報告されたとおり調製した。組織を50μg/mLゲンタマイシンおよび1.25μg/mLアンホテリシンBを含有するDMEMで3回リンスした。過剰の強膜、結膜、虹彩および角膜内皮の注意深い除去の後、残った組織を培養皿に置き、37℃、加湿した5%二酸化炭素下でMg2+およびCa2+を含まないハンクス平衡塩類溶液中のディスパーゼIIに10分間さらした。10%FBSを含むDMEMで1回リンスした後、強角膜縁を12個の縁外植片に分割した。
【0205】
ヒト縁外植片培養
ヒト羊膜(AM)は、Lee & Tseng1によって以前報告された方法によって、かつヘルシンキ宣言に従って保存した。使用の直前にAMを溶解し、滅菌リン酸緩衝液(Sigma-Aldrich)で3回洗浄した。羊膜を、上皮側を上に向けて培養プレートインサートのポリエステル膜に単一繊維縫合糸を使用して、既に報告された46;96とおり留めた。各AMインサートの中央で外植片を上皮側を下にして補充ホルモン上皮培養液中で培養した97。培養液は、重炭酸ナトリウムおよびHam's F12(1:1)を含むHEPES緩衝DMEMから作られ、5%FBS、0.5%ジメチルスルホキシド、2ng/mLヒト上皮増殖因子、5μg/mLインスリン、5μg/mLトランスフェリン、5ng/mLセレン、3ng/mLヒドロコルチゾン、30ng/mLコレラ毒素、50μg/mLゲンタマイシンおよび1.25μg/mLアンホテリシンBを補充した。培養物は、加湿した5%二酸化炭素および95%大気の雰囲気で37℃、13日間(外気温での研究)または21日間(Optisol-GSでの低温保存)インキュベートし、培養液は2〜3日ごとに交換した。
【0206】
培養ヒト縁上皮細胞のOptisol-GSにおける低温保存
アイバンク保存のための調製をクラスII安全キャビネットにおいて実施した。31℃に予熱したOptisol-GS 25mlを放射線滅菌した90mLのPlastiques Gosselinポリプロピレン容器(内径43mm)に入れた。ポリエステル培養プレートインサート中の3週間HLEC培養物を保存容器に使い捨てピンセットで移した。閉じた組織保存系を確立するために隔膜付きヒンジキャップを閉じ、容器を4℃で、2(n=12)、4(n=12)および7日間(n=12)保存した。培養HLECにおける遺伝子発現をAffymetrix GeneChip Human 1.0 ST Arrayおよびレーザー共焦点顕微鏡を使用して決定し、デジタル画像法を死滅(エチジウムホモダイマー1(EH-1)-陽性)細胞から生(カルセイン-アセトキシメチルエステル(CAM)-陽性)細胞を区別するために使用した。
【0207】
培養ヒト縁上皮細胞の外気温での無血清保存
アイバンク保存のための調製をクラスII安全キャビネットにおいて実施した。Optisol-GS(Bausch & Lomb)、50μg/mlゲンタマイシン(Sigma)を加えた25mM HEPES(Sigma)-MEM(Invitrogen)、0.06mMカルシウム(Invitrogen)を補充したEpilife培養液、Cnt-20(CELLnTEC Advanced Cell Systems AG)およびPAA-Quantum(E.Pedersen&Sonn)の予熱した20mLを放射線滅菌した90mLのPlastiques Gosselinポリプロピレン容器(内径43mm)に入れた。ポリエステル培養プレートインサート中のHLEC培養物を保存用器に使い捨てピンセットで移した。閉じた組織保存系を確立するために隔膜付きヒンジキャップを閉じ、容器を2個(各実験群についてn=2)および4個(各実験群についてn=2)でワインキャビネットの管理された外気温(22℃)で保存した。
【0208】
RNA単離、チップハイブリダイゼーション、シグナル規準化および統計分析
保存後、培養プレートインサートを培養プレートからモデル用ワックスプレートに移し、5mm生検用穿孔器を使用して3週間HLEC培養物(n=6)ならびに2日間(n=6)、4日間(n=6)および7日間(n=6)保存したHLEC培養物から下層のポリエステル膜に付着した培養上皮のディスクを穿孔し、さらなる使用まで-80℃で凍結チューブに保存した。羊膜の試料(n=2)を、培養HLECを含まない失活させた羊膜上皮におけるRNAレベルを評価するために同様の手順で処理した。組織ディスクを融解し、製造者の手順書に従ってQIAGEN RNeasy Micro Kitで総RNAを抽出した。ベータ-メルカプトエタノールを含むRTL緩衝液350μlを微量遠心チューブ中のディスクに加え、2分間ボルテックスにかけた。No QIAshredder Spin Columnまたは同等物を使用した。RNA濃度および純度は、Nano Drop ND-1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific、Wilmington、DE、USA)でのA260/A280比の測定を通じて決定した。RNA品質の確認は、Agilent 2100 BioanalyzerおよびRNA 6000 Nano Assay(Agilent Technologies、Santa Clara、CA、USA)の使用によって評価した。すべてのRNA試料は高品質であり、DNA混入またはRNA分解の徴候を示さなかった。RNA試料はただちに凍結し、-80℃で保存した。
【0209】
総RNA 100ngを、GeneChip HT One-Cycle cDNA Synthesis KitおよびGeneChip HT IVT Labeling Kitに、全ゲノム遺伝子発現分析のために製造者の推奨する手順書に従ってかけた(Affymetrix)。標識されたおよび断片化された1本鎖cRNAをGeneChip Human Gene 1.0 ST Arrays(28869遺伝子)にハイブリダイズさせた。アレイを洗浄し、FS-450 fluidics station(Affymetrix)を使用して染色した。シグナル強度をHewlett Packard Gene Array Scanner 3000 7G(Hewlett Packard、Palo Alto、CA、USA)によって検出した。
【0210】
走査した画像をGCOS 1.4(Affymetrix)を使用して処理した。CELファイルをArrayAssist Advanced Software ver.5.5.1(Lobion Informatics、La Jolla、CA、USA)に移入し、各プローブセットについての相対シグナル値を算出するためにExon IterPLIER algorithmを使用して規準化した。加えて分位正規化を実行し、分散安定化係数16を使用した。
【0211】
走査した画像をGCOS 1.4(Affymetrix)を使用して処理した。CELファイルをExpression Console(Affymetrix)に移入し、各プローブセットについての相対シグナル値を算出するために規準化した。異なる群の発現比較のために、プロファイルを複数の検定についての補正を行わずにt検定を使用して比較した(Excel、Microsoft、Redmond、WA)。遺伝子リストをp<0.05の基準で作成した。
【0212】
アイバンク保存後の培養HLECの生-死生存率アッセイ
生存率染色をカルセイン-アセトキシメチルエステル(CAM)/エチジウムホモダイマー1(EH-1)アッセイを使用して実施した。生細胞中でCAMは細胞間エステラーゼによってカルセインに変換されるが、障害されたおよび膜損傷した細胞においてEH-1は細胞性DNAと結合する。簡潔にはアイバンク保存の前後のHLEC培養物を、2μM CAMおよび2μM EH-1を含むリン酸緩衝塩類溶液(PBS)中でインキュベートし(23℃、45分間)、PBSで洗浄した。上皮ディスクを6mmのカイ生検穿孔器(カイインダストリーズ株式会社、岐阜、日本)を使用して穿孔し、カバースリップ付きガラススライドに置いた。基底層の蛍光画像をAxiovert 100 LSM 510レーザー走査型共焦点顕微鏡(Carl Zeiss Micoscopy、Oberkochen、Germany)を使用して撮影した。カルセインを488nmのアルゴンレーザーで励起し、発光を505〜530nmで測定した。エチジウムホモダイマー1色素を543nmで励起し、>570nmで発光を回収した。生細胞(緑色蛍光)および死滅細胞(赤色蛍光)の数を拡大率40倍、2視野あたりで計数し、生細胞の百分率を算出した。HLEC培養物(n=2)を生細胞についての陽性対照とした。
【0213】
アイバンク保存後の培養HLECの組織像および免疫染色
2日間保存(各実験群においてn=2)および4日間保存(各実験群においてn=2)後のHLEC培養物を中性に緩衝した4%ホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。5μmの系列切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で通常どおり染色した。系列5μm切片をp63(1:25希釈)、デルタNp63α抗体(1:200)、K19(1:200)およびK3(1:500)を認識する抗体で免疫染色した。免疫反応を視覚化するために、標準的ペルオキシダーゼ技術(DAB detection kit)をVentana ES Immunohistochemistry Instrument(Tucson、AZ)で使用した。最適な抗体希釈を製造者によって推奨される陽性対照を使用する滴定によって決定した。
【0214】
結果
Optisol-GS中4℃での2、4および7日間のアイバンク保存後の培養ヒト縁上皮細胞における遺伝子の倍数変化値を表6に表す。わずかな遺伝子(28869検査中<1‰)は、Optisol-GS中4℃での2、4および7日間のアイバンク保存後に差次的かつ有意に発現された。ヒストンクラスター1遺伝子ファミリーに属するいくつかの遺伝子(HIST1H4D、HIST1H3F、HIST1H4B、HIST1H4K、HIST1H4C、HIST1H4JおよびHIST1H2BB)は、Optisol-GS中の主に4および7日間の低温保存後に差次的かつ有意に発現された。動物細胞は、即時型(IE)遺伝子の急速な上方制御および、クロマチン変化、全体としてヌクレオソーム応答と称される:核ヒストンの特徴的な修飾の平行する増大によって分裂促進刺激およびストレス刺激に反応することが知られている。縁幹細胞、前駆細胞、増殖および分化マーカー遺伝子の発現は、保存中に顕著に変化しなかった(表7)。
【0215】
【表6】

【0216】
【表7】

【0217】
外気温での培養HLECの無血清保存後のレーザー共焦点顕微鏡像を図14〜21に示す。図は、2日間保存後(図14、16、18および20)および4日間保存後(図15、17、19および21)の培養HLECの生存率染色を示す。生細胞は、カルセインAM陽性で緑色に染まるが、エチジウムホモダイマー1陽性細胞(死亡)は赤に染まる。結果を表8にまとめる。
【0218】
【表8】

【0219】
外気温での培養HLECの無血清保存後の免疫染色切片の画像を図22〜48に示す。2および4日間保存後の組織のpHおよび細胞層を表9にまとめる。
【0220】
【表9】

【0221】
3週間HLEC培養物を対照として使用し、およそ3細胞層の多層状上皮を示した。Optisol-GSおよびPAA-Quantumでの2および4日間の保存後、多層構造は維持され、細胞間腔の拡張、上皮細胞の脱離またはAMからの上皮の脱離はなかった。形態は、MEM-Hepesでの2日間の保存後に保存されていたが、わずかな細胞および上皮細胞の脱離が4日間の保存後に見られた。上皮細胞の相当な脱離がEpiLife中の保存後に明らかであり、わずかな細胞および細胞間浮腫がCnt-20中の保存後に観察された。
【0222】
全般に、HLEC培養物は、Optisol-GSおよびPAA-Quantum中での保存後に縁幹細胞(デルタNp63アルファ)、前駆細胞(p63およびK19)ならびに分化(K3)マーカーに同様の免疫反応性を示した。デルタNp63アルファの弱い核発現が培養上皮のすべての層で存在した。P63は、基底層および基底上層において強い核陽性を示したが、K19は、弱い細胞質染色をそれぞれの層で示した。K3タンパク質は、PAAQuantumでの保存後に基底層および基底上層で中程度に発現されたが、Optisol-GS中での保存後は基底層において弱く発現しただけであった。
【0223】
(実施例5)
保存培養液の無菌性検査
本実施例の目的は、アイバンク保存後の培養HLECの微生物学的無菌性を示すことであった。無菌性は、血液瓶法を使用して検査した。
【0224】
方法
HLEC保存培養液の微生物学的分析
ヒト縁外植片培養物は、培養物を21日間インキュベートした以外は、実施例4に記載のとおり調製した。保存培養液の無菌性検査は、いくつかの小さな変更を伴ってGainら100;101によって以前報告されたとおり血液瓶法を使用して実施した。1週間の保存後、クラスII安全ベンチ下でガラス容器(n=23)から培養液を系統的に試料採取した。10〜15mlを、濃縮ダイズカゼインダイジェスト培地25ml、16%(重量/容量)非イオン性吸着樹脂および1%(重量/容量)陽イオン交換樹脂を含むBactec Plus Aerobic/F bottle(Becton Dickinson、Cockeysville、MD、USA)に注入した。10〜15mlをダイズカゼインダイジェスト培地40ml、0.26%(重量/容量)サポニンを含むBactec Lytic/10 Anaerobic/F bottle(Becton Dickinson)に注入した。瓶を7日間、37℃でBactec 9240インキュベーター(Becton Dickinson)において継続的に揺らし、微生物の発育による二酸化炭素の上昇を検出した。
【0225】
結果
46個の血液培養瓶(Bactec Plus Aerobic/F bottles(n=23)およびBactec Lytic/10 Anaerobic/F bottles(n=23))で汚染されたものはなく汚染率0%であった。
【0226】
(実施例6)
培養HLECの長期間保存
本実施例の目的は、培養HLECの長期間保存を示すことであった。3週間HLEC培養物を23℃で器官培養した。生存率をCAM/EH-1-アッセイによって分析し、表現型を免疫組織化学的検査によって評価した。
【0227】
方法
ヒト縁外植片培養物
ヒト縁外植片培養物は、培養物を21日間インキュベートしたこと以外は実施例4に記載のとおり調製した。
【0228】
培養HLECのアイバンク保存
HLEC培養物を以前報告されたとおり102アイバンク保存した。培養液は、7.5%重炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、8% FBS(Sigma-Aldrich)、50μg/mLゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)、100μg/mLバンコマイシン(Abbott Laboratories、Abbott Park、IL、USA)および2.5μg/mLアンホテリシンB(Sigma-Aldrich)を含むダルベッコ改変イーグル培養液から作製された。iAM上のHLEC培養物は、23℃で2週間(n=16)または3週間(n=17)、クラスII安全ベンチ下で1週間に1回培養液を交換して保存した。
【0229】
アイバンク保存後の培養HLECの生-死生存率アッセイ
生存率染色を既に記載のとおり実施した。生細胞(緑色蛍光)および死滅細胞(赤色蛍光)の数を拡大率25倍、5視野あたりで計数し、生細胞の百分率を算出した。HLEC培養物(n=2)を生細胞についての陽性対照とし、メタノールに1時間さらしたHLEC培養物を死滅細胞の陽性対照として使用した。
【0230】
2および3週間アイバンク保存後のiAM上の培養HLECの組織像および免疫染色
2週間保存(n=10)および3週保存(n=11)後のHLEC培養物を中性に緩衝した4%ホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。5μmの系列切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で通常どおり染色した。免疫組織化学的検査をヒト角膜表面上皮のマーカーに対する抗体のパネルで実施した(表10)。免疫反応を視覚化するために、標準的ペルオキシダーゼ技術(DAB detection kit)をVentana ES Immunohistochemistry Instrument(Tucson、AZ)で使用した。最適な抗体希釈を製造者によって推奨される陽性対照を使用する滴定によって決定した。組織学的評価および上皮マーカーの半定量的免疫組織化学的局在確認は、顕微鏡を拡大率×400で使用して2名の独立した調査員によって実施された。
【0231】
統計分析
データは、平均±SDとして表す。マンホイットニー検定を細胞生存率における差異を評価するために適用した。5%の有意レベルを選択し、すべてのデータをSPSS software package version 14.0を使用して分析した。
【0232】
結果
培養縁上皮細胞の基底層生存率は、2週間保存後85.6%±13.5%に対して3週間保存後52.7%±13.1%(P<0.001、図49)であった。図49は、2週間および3週間保存後の培養HLECの基底層の生存率染色を示す。
【0233】
本来の多層構造は、2週間保存後に培養物10の内7において維持されていたが(図50A)、3週間保存後に、表在性および基底上の上皮細胞の実質的な脱離またはAMからの上皮の脱離を伴って培養物11の内10においてほとんど失われていた(図50B)。2および3週間保存後に免疫組織化学的検査は、わずかな変化を明らかにし、どちらの間隔でもK19、ビメンチンおよびp63の強い免疫染色を伴って比較的未分化な表現型を示した。CK3は、わずかに発現されているだけであった(図50C〜50J、表10)。
【0234】
【表10】

【0235】
(実施例7)
保存前AMの脱上皮化
本実施例の目的は、アイバンク保存される培養HLECの羊膜の脱上皮化の影響を示すことであった。未処理(iAM)または剥皮した羊膜(dAM)での3週間HLEC培養物を23℃で器官培養した。透過型および走査型の電子顕微鏡を1週間保存後のiAMおよびdAM培養物について実施した。
【0236】
方法
ヒト縁外植片培養物
ヒト縁外植片培養物は、培養物を21日間インキュベートした以外は、実施例4に記載のとおり調製した。ヒトAMは、Lee & Tseng1によって以前報告された方法によって、かつヘルシンキ宣言に従って保存した。使用の直前にAMを溶解し、滅菌リン酸緩衝液(Sigma-Aldrich)で3回洗浄した。膜8枚から、細胞接着を緩めるための0.02%エチレンジアミン四酢酸(Sigma-Aldrich)での37℃、2時間のインキュベーションに続く、セルスクレーパー(Nalge Nunc International、Naperville、IL、USA)を使用する穏やかな掻爬によって、Koizumi et a1.32によって報告されたとおり羊膜上皮細胞を取り除いた。膜は、既に記載のとおり留めた。
【0237】
培養HLECのアイバンク保存
HLEC培養物を以前報告されたとおり102アイバンク保存した。培養液は、7.5%重炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、8% FBS(Sigma-Aldrich)、50μg/mLゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)、100μg/mLバンコマイシン(Abbott Laboratories、Abbott Park、IL、USA)および2.5μg/mLアンホテリシンB(Sigma-Aldrich)を含むダルベッコ改変イーグル培養液から作られた。iAM上(n=6)およびdAM上(n=8)のHLEC培養物を1週間保存した。
【0238】
1週間保存後のiAM上およびdAM上のHLEC培養物における定量的透過型電子顕微鏡分析
1週間保存後のiAM上(n=6)およびdAM上(n=8)のHLEC培養物由来の試料を、pH7.4に調節した0.2Mカコジル酸緩衝液中の2%グルタルアルデヒドで固定し、1%四酸化オスミウム中で後固定し、100%までの段階的系列のエタノールを使用して脱水した。組織ブロックを酸化プロピレンに20分間、2回浸漬しEponに包埋した。超薄切片をLeica Ultracut Ultramicrotome UCT(Leica、Wetzlar、Germany)で切り、Philips CM120透過型電子顕微鏡(Philips、Amsterdam、the Netherlands)を使用して検査した。デスモソームおよびヘミデスモソームの数の比較をいくつかの修正を伴って以前記載されたとおり実施した。上皮層の全厚における隣接する細胞間のデスモソームの数を無作為に選択した領域において120μmの長さにわたって手作業で計数した。基底膜でのヘミデスモソームの数を、無作為に選択した長さ20μmにわたって定量した。細胞接着の計数は、2名の独立した調査員によって実施された。
【0239】
1週間保存後のiAM上およびdAM上のHLEC培養物の走査電子顕微鏡
1週間保存後のiAM上(n=6)およびdAM上(n=8)のHLEC培養物由来のグルタルアルデヒド固定試料をエタノール濃度を上昇させて脱水し、二酸化炭素を超臨界流体として使用する臨界点法(Polaron E3100 Critical Point Drier、Polaron Equipment Ltd.、Watford、UK)によって乾燥させた。標本を炭素製スタッブに固定し、Philips XL30 ESEM電子顕微鏡(Amsterdam、Netherlands)で検査および撮影する前にPolaron E5100 sputter coaterにおいて300Å厚の層のプラチナでコートした。
【0240】
統計分析
データは、平均±SDとして表す。マンホイットニー検定を細胞接着における平均差異を評価するために適用した。5%の有意レベルを選択し、すべてのデータをSPSS software package version 14.0を使用して分析した。
【0241】
結果
1週間保存後、両実験群は多層状上皮を呈した。羊膜上皮の存在にかかわらず(図51A、51B)、細胞間腔はわずかに増加し、多数のデスモソーム(図51C、51D)およびヘミデスモソーム(図51E、51F)が観察された。1μmあたりのデスモソームの総数は、1週間のアイバンク後のiAM上HLEC培養物において1.39±0.77に対して1週間のアイバンク後のdAM上HLEC拡張物において0.98±0.45であった(p=0.76)。無処理羊膜および剥皮羊膜での培養物における1μmあたりのヘミデスモソームの総数は、それぞれ0.87±0.34および0.78±0.31、p=0.70であった。
【0242】
細胞分離(矢印)の徴候を有する明るい(Lc)および暗い(Dc)上皮細胞のコンフルエント層が両群において観察された(図52A、52B)。ほとんどの上皮細胞は、向かい合った細胞間結合と明確な細胞境界を有して互いにしっかりと密着していた(図52C〜E、矢印)。しかし剥皮AM上の培養HLEC(図52D、F)において呈されたような細胞分離(図52D、二重矢印)および不明確な細胞境界(図52F、矢印)が両群において生じた。
【0243】
(実施例8)
縁部の由来領域の影響
本実施例の目的は、角膜外周に沿う異なる由来の縁外植片から拡げたヒト縁上皮細胞(HLEC)間の差異を示すことであった。
【0244】
図53を参照し、実験計画の概要がここで提供される。1時間幅(すなわち30°)の強角膜外植片31を上方、鼻側、下方および耳側縁部領域から切り出した(A)。HLECを3週間未処理の羊膜32上でポリエステル膜33に留めて、補充ホルモン上皮培養液中で培養した(B)。培養上皮のディスクを5mm生検穿孔器を使用して穿孔し、凍結チューブ中、-80℃でさらなる使用まで保存した(C)。RNAをQIAGEN RNeasy Micro Kitを使用して抽出した(D)。総RNAの100ngをGeneChip HT One-Cycle cDNA Synthesis Kitにかけ、標識化および断片化された1本鎖DNAを洗浄および染色のためにGeneChip Human Gene 1.0 ST Arrayにハイブリダイズさせた(E)。残りのHLEC培養物を中性に緩衝した4%ホルムアルデヒドで固定し、培養上皮および外植片を含む矩形標本を処理し、パラフィンに包埋した(F)。
【0245】
材料および方法
上方、鼻側、下方および耳側領域由来の縁外植片からのHLECを羊膜上で21日間培養した。上皮は光学顕微鏡、Affymetrix GeneChip Human 1.0 ST Array(Santa Clara、CA、USA)を使用する全ゲノム転写物プロファイリングおよび免疫組織化学的検査によって特徴付けた。
【0246】
ダルベッコ改変イーグル培養液(DMEM)、重炭酸ナトリウムおよびHam's F12(1:1)を含有するHEPES緩衝DMEM、ハンクス平衡塩類溶液、ウシ胎児血清(FBS)、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム培養液補充物、ヒト上皮増殖因子、ジメチルスルホキシド、ヒドロコルチゾン、ゲンタマイシン、アンホテリシンB、ベータ-メルカプトエタノール、およびマウス抗ABCG2抗体(クローンbxp21)は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA)から購入した。ディスパーゼIIはRoche Diagnostics(Basel、Switzerland)から、コレラ毒素AサブユニットはBiomol(Exeter、UK)から、5mm生検穿孔器はカイインダストリーズ株式会社(岐阜、日本)から、6-0 C-2単一繊維縫合糸(エチコンエチロン)はJohnson & Johnson(New Brunswick、NJ)から、24mm培養プレートインサート(Netwell、74μmメッシュサイズポリエステル膜)はCostar Corning(New York、NY、USA)から、バンコマイシンはAbbott Laboratories(Abbott Park、IL、USA)から得た。マウス抗p63抗体(クローン4A4)、マウス抗K19抗体(クローンRCK108)および抗PCNA抗体(クローンPC10)は、Dako(Glostrup、Denmark)から得た、ウサギポリクローナル抗デルタNp63α抗体は、Primm(Milano、Italy)から、マウス抗ビメンチン抗体(クローンVIM 3B4、使用準備済)はVentana Medical Systems(Tucson、AZ、USA)から、マウス抗Ki67抗体(クローンSP6)はLabVision Corporation(Fremont、CA、USA)から、マウス抗ネスチン抗体(クローン10C2)はSanta Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA、USA)から、およびマウス抗K3抗体(クローンAE5)はImmuQuest(Cleveland、UK)から得た。以下の抗体は、Novocastra Laboratories Ltd(Newcastle、UK)から供給された:マウス抗K5(クローンXM26)、マウス抗E-カドヘリン(クローンNCH-38)およびマウス抗インテグリンβ1(クローン7F10)。EnVision Peroxidase detection systemはDakoから、凍結チューブはNunc(Roskilde、Denmark)から、QIAGEN RNeasy Micro KitおよびRLT bufferはQIAGEN(Hilden、Germany)から、ならびに1.5mL微量遠心チューブはEppendorf(Hamburg、Germany)から購入した。GeneChip HT One-Cycle cDNA Synthesis Kit、GeneChip HT IVT Labeling KitおよびGeneChip Human Gene 1.0 ST ArraysはAffymetrix(Santa Clara、CA、USA)からであった。
【0247】
ヒト組織調製
ヒト組織は、ヘルシンキ宣言に従って取り扱った。研究用承認を有する志向型の屍体ヒト角膜は、the Centro de Oftalmologia Barraquer(Barcelona、Spain)から得た。研究は、ドナー4名(平均年齢74.8歳(範囲56〜83);死亡から摘出までの平均時間8.6時間(範囲6〜11)、死亡から培養までの時間7日間(範囲3.5〜11.5))から得た屍体ヒト角膜8個において実施した。縁組織は、Mellerら2によって以前報告されたとおり調製した。組織を50μg/mLゲンタマイシンおよび1.25μg/mLアンホテリシンBを含有するDMEMで3回リンスした。過剰の強膜、結膜、虹彩および角膜内皮の注意深い除去の後、残った組織を培養皿に置き、37℃、加湿した5%二酸化炭素下でMg2+およびCa2+を含まないハンクス平衡塩類溶液中のディスパーゼIIに10分間さらし、次いで10%ウシ胎児血清を含むDMEMで注意深くリンスした。上方、鼻側、下方および耳側経線からの強角膜外植片の1時間幅をスチール製の刃を使用して切り出した(図53)。
【0248】
未処理羊膜でのヒト縁外植片培養物
ヒト羊膜(AM)は、Lee & Tseng1によって以前報告された方法によって、かつヘルシンキ宣言に従って保存した。室温で溶解後、上皮側を上を向けた失活させた未処理AMを培養プレートインサートのポリエステル膜に単一繊維縫合糸を使用して、以前報告されたとおり46、96留めた。各AMインサートの中央で、外植片を補充ホルモン上皮培養液中で上皮側を下にして培養した97。培養液は、重炭酸ナトリウムおよびHam's F12(1:1)を含むHEPES緩衝DMEMから作られ、5%FBS、0.5%ジメチルスルホキシド、2ng/mLヒト上皮増殖因子、5μg/mLインスリン、5μg/mLトランスフェリン、5ng/mLセレン、3ng/mLヒドロコルチゾン、30ng/mLコレラ毒素、50μg/mLゲンタマイシンおよび1.25μg/mLアンホテリシンBを補充した。培養物は、加湿した5%二酸化炭素および95%大気の雰囲気で37℃、3週間インキュベートし、培養液は2〜3日ごとに交換した。
【0249】
RNA単離
培養プレートインサートを培養プレートからモデル用ワックスプレートに移し、5mm生検用穿孔器を使用して上方(n=8)、鼻側(n=8)、下方(n=8)および耳側(n=8)由来の培養物から下層のポリエステル膜に付着した培養上皮のディスクを穿孔し、さらなる使用まで-80℃で凍結チューブに保存した(図53)。羊膜の試料(n=2)を培養HLECを含まない失活させた羊膜上皮におけるRNAレベルを評価するために同様の手順で処理した。組織ディスクを融解し、製造者の手順書に従ってQIAGEN RNeasy Micro Kitで総RNAを抽出した。ベータ-メルカプトエタノールを含むRTL緩衝液350μlを微量遠心チューブ中のディスクに加え、2分間ボルテックスにかけた。No QIAshredder Spin Columnまたは同等物を使用した。RNA濃度および純度は、Nano Drop ND-1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific、Wilmington、DE、USA)でのA260/A280比の測定を通じて決定した。RNA品質の確認は、Agilent 2100 BioanalyzerおよびRNA 6000 Nano Assay(Agilent Technologies、Santa Clara、CA、USA)の使用によって評価した。すべてのRNA試料は高品質であり、DNA混入またはRNA分解の徴候を示さなかった。RNA試料はただちに凍結し、-80℃で保存した。
【0250】
チップハイブリダイゼーション
総RNA 100ngを、全ゲノム遺伝子発現分析のために製造者の推奨する手順書に従ってGeneChip HT One-Cycle cDNA Synthesis KitおよびGeneChip HT IVT Labeling Kitにかけた(Affymetrix)。標識され、かつ断片化された1本鎖cRNAをGeneChip Human Gene 1.0 ST Arrays(28869遺伝子)にハイブリダイズさせた。アレイを洗浄し、FS-450 fluidics station(Affymetrix)を使用して染色した。シグナル強度をHewlett Packard Gene Array Scanner 3000 7G(Hewlett Packard、Palo Alto、CA、USA)によって検出した。
【0251】
シグナル規準化
走査した画像をGCOS 1.4(Affymetrix)を使用して処理した。CELファイルをArrayAssist Advanced Software ver.5.5.1(Iobion Informatics、La Jolla、CA、USA)に移入し、各プローブセットについての相対シグナル値を算出するためにExon IterPLIER algorithmを使用して規準化した。加えて分位正規化を実行し、分散安定化係数16を使用した。
【0252】
組織像および免疫染色
遺伝子分析のための上皮ディスクの穿孔の後、残った組織を中性に緩衝した4%ホルムアルデヒドで固定した(図53)。縁外植片および培養上皮を含む矩形試料を整え、パラフィンに包埋した。上方(n=8)、鼻側(n=8)、下方(n=8)および耳側(n=8)由来の試料からの5μmの系列切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で通常どおり染色した。以前報告されたとおり、培養上皮における細胞層の数は、2名の独立した調査員によって、等間隔(50μm)で縁外植片周辺部から上皮増殖の前縁まで、iTEM software(Soft Imaging System;Olympus、Munster、Germany)97を使用して計数した。上方(n=4)、鼻側(n=4)、下方(n=4)および耳側(n=4)由来の試料において5μm系列切片を、p63(1:25希釈)、デルタNp63α抗体(1:200)、ABCG2(1:80)、K19(1:200)、ビメンチン(使用準備済)、インテグリンβ1(1:10)、Ki67(1:75)、PCNA(1:1500)、ネスチン(1:80)、K3(1:500)、K5(1:600)およびE-カドヘリン(1:25)を認識する抗体で免疫染色した(表11)。検出は、自動化免疫染色系を備えたEnVision Peroxidase(LabVision 360 Autostainer、LabVision Corporation)で実施した。最適な抗体希釈を製造者によって推奨される陽性対照を使用する滴定によって決定した。
【0253】
統計分析
実験群の間の細胞層およびRNA収量における平均差異をマン-ホイットニー検定(SPSS ver.14.0、SPSS Inc.、Chicago、IL、USA)を使用して検定した。p値<0.05を有意とした。異なる領域の遺伝子発現比較のためにクラス比較分析を単変量F-検定および名目有意レベル0.001を使用して実施した(BRB-ArrayTools ver.3.6.0、National Cancer Institute、National Institutes of Health、USA)。発現データの20%未満が遺伝子のメジアン値からいずれかの方向で少なくとも1.5倍の変化を有する場合に遺伝子は除外された。
【0254】
結果
組織像
上方由来の培養物の7/8は、鼻側由来の培養物の6/8、下方由来の培養物の4/8および耳側由来の培養物の3/8と対比して重層化した多層状上皮(≧2細胞層)を生成した(図54)。上方群のほとんどの上皮は、基底の円柱状細胞、基底上の立方翼細胞および扁平表在細胞からなる上皮を呈した。細胞層の数は、下方由来(P=0.02)および耳側由来(P=0.01)の培養物と比較して上方由来の培養物において有意に高かった(図55、表11)。鼻側、下方および耳側群の間の細胞層における差異は、有意ではなかった。
【0255】
RNA単離
平均RNA収量は、上方由来の培養物において最も高く、耳側領域由来の培養物において最も低かった(表12)。上方および鼻側由来の7培養物、下方由来の6培養物および耳側由来3培養物からのすべてのドナーを表す抽出物は、マイクロアレイ分析用に十分なRNAを提供した。失活させた無処理の羊膜上皮から抽出されたRNA収量は、投入量の許容される範囲を下回っており、したがってマイクロアレイデータの解釈における誤差の原因として羊膜上皮RNAを排除した。
【0256】
異なるドナーおよび縁部由来のHLEC培養物において差次的に発現される遺伝子の同定
4領域中でわずかな遺伝子(28869検査の<1‰)が、差次的かつ有意に発現された。クラス比較分析を実施した際の選別基準を通過した1989遺伝子の内、3遺伝子、36を含む3要素モチーフ(Tripartite Motif Containing 36)(TRIM36)、オッドスキップ関連2(Odd Skipped Related 2)(DROSOPHILA)(OSR2)およびRas相同遺伝子ファミリーメンバーU(RHOU)は4領域中で有意かつ差次的に発現された(表14)。提案の縁幹細胞、前駆細胞、増殖および分化マーカー遺伝子の発現は、異なる縁部由来のHLEC培養物と比較した場合に有意に変化しなかった(表13)。
【0257】
免疫表現型分析
異なる縁部由来のHLEC培養物は、提案の縁幹細胞および前駆細胞マーカーと類似の免疫反応性を呈した(表56)。デルタNP63αの弱い核小体発現およびABCG2の膜性発現が培養上皮のすべての層において存在した。P63、K19およびビメンチンは、基底層および基底上層において強い核/細胞質陽性を示したが、インテグリンβ1は、基底細胞の細胞膜において弱く発現された。核増殖マーカーKi67およびPCNAならびに分化マーカーは、縁部の由来にかかわらずHLEC培養物のタンパク質レベルで同程度発現された。すべての細胞層において中程度の細胞質K5発現が記録され、E-カドヘリンは、中程度の膜性免疫染色を主に基底上層および表在層において示した。K3タンパク質およびネスチンは、培養上皮のすべての層でなかった。
【0258】
【表11】

【0259】
【表12】

【0260】
製造者の手順書に従ってQIAGEN RNeasy Micro Kitを使用して培養上皮の5mm穿孔ディスクから総RNAを抽出した。RNA濃度および純度は、Nano Drop ND-1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific、Wilmington、DE、USA)でのA260/A280比の測定を通じて決定した。RNA品質の確認は、Agilent 2100 BioanalyzerおよびRNA 6000 Nano Assay(Agilent Technologies、Santa Clara、CA、USA)の使用によって評価した。*個々の群のRNA濃度を上方由来のHLEC培養物におけるRNA収量に対して検定することによってマンホイットニー検定を使用して算出した。
【0261】
【表13】

【0262】
【表14】

【0263】
考察
本実施例は、縁部外周に沿った異なる領域由来の培養HLECの組織像、全ゲノムプロフィールおよび表現型を比較した。形態学的には上方由来のHLEC培養物は、下方および耳側由来の培養物と比較して有意に多い細胞層数をもたらした。異なる縁部由来の培養HLECにおいて、重要な転写または表現型的差異の証拠は見出されなかった。
【0264】
実施例において組織学的分析は、エクスビボ培養HLECが、上方、鼻側、下方および耳側由来の縁外植片から生成されうることを示し、それは、それぞれの縁部領域での増殖ポテンシャルを有する細胞の存在にかかわる。しかし上皮層形成に関しては、HLEC培養物は、上方領域由来の外植片が有利で有意に異なった。さらに、コンフルエントな重層上皮の形成の観点での成功率およびRNA収量は、上方由来のHLEC培養物において高い傾向があった。観察された差異は、上方領域由来の縁外植片が他の縁部由来の外植片と比較して培養物においてより高い増殖ポテンシャルを有することを示す。発見は、上方領域が、幹細胞様特性を有する上皮細胞の高いプールを有し、それにより高い増殖ポテンシャルを有することを示唆するWileyらの研究103と一致する。しかし有糸分裂活性は、上方、下方、外側および内側縁部において同じであることが報告されている104、105、112、113
【0265】
多層状培養角膜上皮が高い階級の分化を示しうることが示唆されている31、32。しかし、実施例中で縁部の由来にかかわらず培養HLECにおいて分化マーカーK3およびネスチンが発現されないことは、上方由来の培養HLECがより分化しているべきであるという仮説を支持しない。一方多層状上皮は、移植後の臨床的転帰に関して一層の上皮より優れている場合がある31、35。高い機械的強度を提供し、細胞間デスモソームを有する多層状角膜上皮移植片は、移植に関連する機械的応力および摩擦により耐えるであろう。さらに未分化細胞の高含量は、レシピエントの角膜表面の再生を改善するであろう。
【0266】
本実施例において、検査した遺伝子28869個の1‰未満が2倍を超える変化示し、それぞれの縁部由来のHLEC培養物と比較して遺伝子発現において強い均一性を示している。以前報告された縁幹細胞、前駆細胞ならびに分化マーカー98、99および増殖マーカーの遺伝子発現レベルは、有意に変化しなかった。表現型分析の結果は、遺伝子発現分析と一致した。縁幹細胞、前駆細胞、増殖および分化タンパク質マーカーは、縁部の由来にかかわらず均一に発現され、集合的に未分化な表現型を示した。
【0267】
TRIM36、OSR2およびRHOUは、4領域中で差次的かつ有意に発現された。Shortらは、TRIM36が微小管細胞骨格に関連することをを見出したが、TRIM 36の正確な機能はまだ明確ではない106。OSR2は、造骨細胞増殖において鍵となる役割を果たす107。さらにOSR2は、口蓋の成長および形態形成ならびに腎臓の発達において役割を担う108、109。RHOUは、細胞接着および遊走、細胞周期進行、増殖ならびに分化の制御において中心的役割を果たすことが知られているRho GTPasesの群に属する110。Oryらは、遊走距離が活性化RhoUを発現している細胞においては増大し、RhoUをノックダウンすると減少することを見出した111。したがって3遺伝子すべては集合的に形態形成に関与する。
【0268】
これらのデータを合わせて上方領域は、生存および死亡ドナーから縁部を採取するための好ましい部位である。
(参考文献)












【符号の説明】
【0269】
1 羊膜保存デバイス
2 円筒状容器
3 キャップ
4 ヒンジ
5 隔膜
6 培養液
7 フレーム、培養インサート
8 開口
9 上端
10 下端
11 円周溝
12 羊膜
13 弾性ゴムバンド
14 円周溝
15 リング状フロート
16 円周状の重り
17 第1の軸
18 第1のリング
19 第2の軸
20 第2のリング
21 セクター
22 環状リング
23 内側ケーシング
24 上半球
25 下半球
26 赤道
27 外側ケーシング
28 上部
29 下部
31 HLEC、強角膜外植片
32 羊膜
33 ポリエステル膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞または組織を3℃〜37℃の間の温度に保持するステップを含む細胞または組織を保存する方法であって、前記細胞または組織が縁上皮細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、表皮細胞または骨髄由来細胞を含む方法。
【請求項2】
前記縁上皮細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、表皮細胞または骨髄由来細胞が培養細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
縁上皮細胞または縁上皮細胞を含む組織を保存する方法であって、前記細胞の分化の増大が実質的に起こらない方法。
【請求項4】
前記縁上皮細胞が培養縁上皮細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞または組織を3℃〜37℃の間の温度に保持するステップを含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記縁上皮細胞または組織を2つの場所の間で輸送するステップをさらに含む、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞または組織を3℃〜30℃の間、好ましくは18℃〜28℃の間、好ましくは20℃〜25℃の間、好ましくは22℃〜24℃の間、好ましくは22℃または23℃の温度に保持するステップを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞または組織を18℃〜28℃の間の温度で、少なくとも1日の間、無血清培養液中に浸漬して保存するステップを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞または組織を基材、好ましくは平面状またはアーチ状基材の上に位置させるステップをさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記基材が羊膜、コンタクトレンズ、コラーゲンゲルまたはプラスチック材料である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基材が羊膜であり、前記細胞または組織が上皮細胞を含み、前記細胞は前記上皮側が前記羊膜に面して位置している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基材をポリエステルメッシュに取り付けるステップをさらに含む、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞または組織が縁上皮細胞を含み、ドナーの眼の領域から得られたものであり、前記領域は眼の最上位置のいずれかの側30°のセクターを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記領域が眼の最上位置のいずれかの側15°のセクターを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞または組織を前記温度に少なくとも1日、好ましくは少なくとも2日、より好ましくは少なくとも3日、より好ましくは少なくとも4日の間、より好ましくは少なくとも7日の間、保持するステップを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞または組織が培養液中に浸漬される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記培養液が最小必須培養液を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記培養液が血清系培養液である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記培養液がウシ胎児血清を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記培養液が無血清培養液である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記無血清培養液がOptisol-GSまたはPAA-Quantumを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記無血清培養液が緩衝剤および最小必須培養液を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記緩衝剤がHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)を好ましくは25mMの濃度で含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記最小必須培養液がアミノ酸、塩、グルコースおよびビタミンを含む、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記塩が塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムの少なくとも1種を含み、および/または前記ビタミンが葉酸、ニコチンアミド、リボフラビンおよびB-12の少なくとも1種を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記培養液が重炭酸ナトリウムを含む、請求項8または16から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記培養液が抗生物質を含む、請求項8または16から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗生物質がゲンタマイシン、バンコマイシン、アンホテリシンBまたはそれらの混合物である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記培養液が少なくともN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-エタンスルホン酸緩衝ダルベッコ改変イーグル培養液60%、重炭酸ナトリウム5〜15%、ウシ胎児血清2〜10%、ゲンタマイシン10〜100mg/ml、バンコマイシン20〜300mg/ml、およびアンホテリシンB 0.1〜5mg/mlを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項30】
前記培養液の体積が10〜100mlの間である、請求項16から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記培養液の上の気体の組成を調整するステップをさらに含む、請求項16または30に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞または組織が少なくとも3日、好ましくは7日、より好ましくは少なくとも2週、より好ましくは少なくとも3週の間、保存される、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞または組織が閉鎖系で保存される、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞または組織を保存の前に培養するステップをさらに含む、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞または組織を培養するステップが、前記細胞または組織を以下の条件、すなわち35℃〜39℃の間の温度、好ましくは37℃で、酸素90%〜99%の間かつ二酸化炭素10%〜1%の間、好ましくは酸素95%および二酸化炭素5%を含む雰囲気下で細胞培養に適した培養液中に浸漬して維持するステップを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
細胞または組織を保存するためのキットであって、
その中に開口および前記開口を取り囲む周壁を有するフレーム;および
前記フレームを受容し、かつ培養液を受容するためのシール可能な容器であって、前記シール可能な容器の一部分は、貫入要素が前記容器の内部に接近することを可能にし、かつ、その後、前記貫入要素を引き出した後にシールを形成するための弾性部材から形成されている、シール可能な容器
を含むキット。
【請求項37】
細胞または組織を培養するための基材の保存に適している、請求項36に記載のキット。
【請求項38】
前記基材が平面状またはアーチ状基材である、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
前記基材が羊膜、コンタクトレンズ、コラーゲンゲルまたはプラスチック材料であり、好ましくは前記羊膜が支持メッシュ上に位置している、請求項37または38に記載のキット。
【請求項40】
前記細胞または組織が縁細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、表皮細胞または骨髄由来細胞を含む、請求項36から39のいずれか一項に記載のキット。
【請求項41】
前記縁細胞、結膜細胞、角膜内皮細胞、網膜細胞、粘膜細胞、表皮細胞または骨髄由来細胞が培養細胞である、請求項40に記載のキット。
【請求項42】
前記フレーム内の前記開口にわたって基材を固定するために前記周壁に設置することができる細長いまたは環状の弾性要素をさらに含む、請求項36から41のいずれか一項に記載のキット。
【請求項43】
前記周壁が前記細長いまたは環状の弾性要素を受容するための円周溝を含む、請求項42に記載のキット。
【請求項44】
前記フレームを前記培養液中に支持するための、前記フレームに取り付け可能な少なくとも1個のフロートをさらに含む、請求項36から43のいずれか一項に記載のキット。
【請求項45】
前記フロートが前記周壁の外部に取り付け可能である、請求項44に記載のキット。
【請求項46】
前記フレームが前記フロートを受容するための円周溝を含む、請求項45に記載のキット。
【請求項47】
前記フレームが前記容器内に位置して前記1個または複数のフロートが前記フレームを前記培養液中に支持する際に、前記1個または複数のフロートが前記周壁と前記容器との間に挿置されるように、前記1個または複数のフロートが前記周壁の周囲に位置している、請求項44から46のいずれか一項に記載のキット。
【請求項48】
前記1個または複数のフロートの任意の部分の間の最大距離が最大直径を形成し、かつ前記最大直径が前記容器の最小直径の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%である、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
前記少なくとも1個のフロートが衝撃吸収材料から作られている、請求項44から48のいずれか一項に記載のキット。
【請求項50】
前記少なくとも1個のフロートが貫入要素によって穿刺することができる変形可能材料から作られている、請求項44から49のいずれか一項に記載のキット。
【請求項51】
前記貫入要素を受容するための間隙が前記1個または複数のフロートの中に備えられている、請求項44から50のいずれか一項に記載のキット。
【請求項52】
前記フロートが、前記フレーム上に支持される基材が培養液の液面より2mm未満下、好ましくは1mm未満下に存在するように、フレーム上に位置させることができる、請求項44から51のいずれか一項に記載のキット。
【請求項53】
前記容器を保持し、かつ支持機構の少なくとも一部分に対する前記容器の自由回転を可能にするための支持機構をさらに含む、請求項36から52のいずれか一項に記載のキット。
【請求項54】
前記支持機構がジンバルを含む、請求項53に記載のキット。
【請求項55】
前記支持機構が前記容器を保持するための球状内側ケーシングおよび前記内側ケーシングを受容するための球状凹部を含む外側ケーシングを含み、前記内側ケーシングは前記外側ケーシングの内部で回転可能である、請求項53に記載のキット。
【請求項56】
前記容器が取り外し可能なキャップを含む、請求項36から55のいずれか一項に記載のキット。
【請求項57】
前記取り外し可能なキャップがヒンジによって前記容器に取り付けられている、請求項56に記載のキット。
【請求項58】
前記弾性部材が前記キャップの中に位置している、請求項56または57に記載のキット。
【請求項59】
前記フレームが中空円筒である、請求項36から58のいずれか一項に記載のキット。
【請求項60】
前記周壁がその中を培養液が通過することを可能にするための1個または複数の開口を含む、請求項36から59のいずれか一項に記載のキット。
【請求項61】
前記培養液をさらに含む、請求項36から60のいずれか一項に記載のキット。
【請求項62】
前記培養液が無血清培養液CnT-20である、請求項61に記載のキット。
【請求項63】
前記培養液が器官培養液である、請求項61に記載のキット。
【請求項64】
前記培養液が最小必須培養液を含む、請求項61に記載のキット。
【請求項65】
前記培養液が血清系培養液である、請求項64に記載のキット。
【請求項66】
前記培養液がウシ胎児血清を含む、請求項65に記載のキット。
【請求項67】
前記培養液が無血清培養液である、請求項61または64に記載のキット。
【請求項68】
前記無血清培養液がOptisol-GSまたはPAA-Quantumを含む、請求項67に記載のキット。
【請求項69】
前記無血清培養液が緩衝剤および最小必須培養液を含む、請求項67に記載のキット。
【請求項70】
前記緩衝剤がHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)を、好ましくは25mMの濃度で含む、請求項69に記載のキット。
【請求項71】
前記最小必須培養液がアミノ酸、塩、グルコースおよびビタミンを含む、請求項69または70に記載のキット。
【請求項72】
前記塩が塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムの少なくとも1種を含み、および/または前記ビタミンが葉酸、ニコチンアミド、リボフラビンおよびB-12の少なくとも1種を含む、請求項71に記載のキット。
【請求項73】
前記培養液が重炭酸ナトリウムを含む、請求項61から72のいずれか一項に記載のキット。
【請求項74】
前記培養液が抗生物質を含む、請求項61から73のいずれか一項に記載のキット。
【請求項75】
前記抗生物質がゲンタマイシン、バンコマイシン、アンホテリシンBまたはそれらの混合物である、請求項74に記載のキット。
【請求項76】
前記培養液が少なくともN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-エタンスルホン酸緩衝ダルベッコ改変イーグル培養液60%、重炭酸ナトリウム5〜15%、ウシ胎児血清2〜10%、ゲンタマイシン10〜100mg/ml、バンコマイシン20〜300mg/ml、およびアンホテリシンB 0.1〜5mg/mlを含む、請求項61に記載のキット。
【請求項77】
前記培養液の体積が10〜100mlの間である、請求項61から76のいずれか一項に記載のキット。
【請求項78】
前記容器がプラスチック材料から作られている、請求項36から77のいずれか一項に記載のキット。
【請求項79】
前記貫入要素が皮下注射針である、請求項36から78のいずれか一項に記載のキット。
【請求項80】
前記基材を位置させるために適したメッシュをさらに含み、好ましくは前記メッシュがポリエステルメッシュである、請求項36から79のいずれか一項に記載のキット。
【請求項81】
細胞または組織を保存するための、請求項36から80のいずれか一項に記載のキットの使用。
【請求項82】
前記細胞または組織を基材上で培養するステップをさらに含む、請求項81に記載の使用。
【請求項83】
前記基材が平面状またはアーチ状基材である、請求項82に記載の使用。
【請求項84】
細胞外植片が前記基材上に位置している、請求項82または83に記載の使用。
【請求項85】
前記縁上皮外植片が3℃〜37℃の間、好ましくは3℃〜30℃の間、好ましくは18℃〜28℃の間、より好ましくは20℃〜25℃の間、より好ましくは22℃〜24℃の間、より好ましくは22℃および23℃の温度で、より好ましくは少なくとも1、2、3または4日の間、より好ましくは少なくとも7日の間、保存される、請求項81から84のいずれか一項に記載の使用。
【請求項86】
請求項36から80のいずれか一項に記載のキットを使用する、請求項1から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項87】
縁上皮細胞をドナーの眼から、眼の最上位置のいずれかの側30°のセクターを含む領域においてのみ採取するステップを含む、縁細胞外植片を提供する方法。
【請求項88】
前記縁上皮細胞をドナーの眼から、眼の最上位置のいずれかの側15°のセクターを含む領域においてのみ採取するステップを含む、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記ドナーが死体である、請求項87または88に記載の方法。
【請求項90】
HEPES緩衝液および最小必須培養液を20mM〜30mMの間、好ましくは25mMの濃度で含む細胞保存培養液。
【請求項91】
抗生物質、好ましくはゲンタマイシンをさらに含む、請求項90に記載の細胞保存培養液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【公表番号】特表2010−528983(P2010−528983A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504584(P2010−504584)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003733
【国際公開番号】WO2008/131973
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(503464103)
【Fターム(参考)】