説明

移植用皮膚組織材料

【課題】 毛包がなくなっている皮膚を、ワクチン接種に対する適当な標的とすることができる材料を提供することを目的とする。
【解決手段】 複数の毛包を含む皮膚試料を摘出し;成長期にある前記複数の毛包を含む前記皮膚試料、前記毛包含有皮膚試料をコラゲナーゼ溶液を含む培地で処理し;コントロール配列と結合させた核酸分子を、ベクターを用いるか又はリポフェクションによって前記毛包中に導入して作製された、イクスビボで改変された無傷の毛包を含む移植用皮膚組織材料を提供する。また、上述した移植用皮膚組織材料を含む、移植用組織培養物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、その内容が参照文献としてこの明細書に組み入れられる1999年12月10日に提出された仮出願第60/170,166号から35U.S.C.§199(e)に基づく優先権を主張する。
本発明は、異種遺伝子を含むように哺乳動物被験体を改変することに関する。
更に特定すると本発明は、毛包を含む組織培養された組織をイクスビボ(ex vivo)で処理し、レシピエントに組織または毛包を再移植することを含む。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む哺乳動物被験体を遺伝的に補足するという体細胞性改変は、さまざまな技術を用いて試みられてきた。例えば、所望の遺伝子を含むアデノウイルスベクターは、組織及び器官をインサイチューで直接的に感染させるために用いることができる。より一般的には、おそらく、細胞培養物または細胞の上清がイクスビボで改変され、その後で血流を介して無傷の被験体に戻される。例えば、マウスのチロシナーゼ遺伝子中のアルビノ点突然変異を修正するように設計されたRNA-DNAオリゴヌクレオチド(RDO)は、培養されたアルビノメラニン細胞においてこの状態を修正することができた。この研究は、同じグループによって報告されているように、リポソームに入れてRDOを供給することによって、または皮内注入することによって同じ欠陥のインビボでの修正に拡張された(Alexeed, D.らの論文、以下、「非特許文献1」という。)。初期の研究は、リポソーム−トラップlacZを用いた毛包の選択的遺伝子治療について記載していた(Li, L.ら、以下、「非特許文献2」という。)。リポソーム組成物の好ましいレシピエントは、成長期にある内因性の毛包であった(Domashenko, A.ら、以下、「非特許文献3」という。)。
【0003】
このように、培養物中で個別に毛包細胞を改変すること、およびインビボで無傷の毛包を改変することが可能となっている。また、ラメラ状魚鱗癬を持っている患者から得られた培養された突然変異性皮膚ケラチン細胞をインビトロで遺伝的に安全に改変し、続いて正常の表皮が得られるようにヌードマウスに移植するとよいこともわかっている(Choate, K. A.ら、以下、「非特許文献4」という。)。同様に、インビトロで個々に培養したケラチン細胞を遺伝的に改変し、その後でヌードマウスに移植することによって再−形成組織が得られるようにしてもよい(Deng, H.ら、以下、「非特許文献5」という)。毛包が、別の個体の頭皮から採取される毛包皮膚鞘細胞から形成できることもわかった(Reynolds, J.ら、以下、「非特許文献6」という。)。
【0004】
要約すると、個々の細胞を遺伝的に改変してから無傷のまま生物に移植できること、また移植が行われた場合に個々の細胞が適当な条件下で構造化組織を形成できることが判明した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Alexeed, D. et al, Nature Biotechnol.(1998) 16: 1343-1346
【非特許文献2】Li, L. et al, Nature Med (1995) 1: 705-706
【非特許文献3】Domashenko, A. et al, J. Invest Dermatol (1999) 112:552
【非特許文献4】Choate, K. A. et al, Nature Med (1996) 2: 1263-1267
【非特許文献5】Deng, H. et al, Nature Biotechnol (1997) 15: 1388-1391
【非特許文献6】Reynolds, J. et al, Nature (1999) 402: 33-34
【非特許文献7】Fan, H. et al, Nature Biotechnol (1999) 17: 870-872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒトの皮膚に遺伝子、即ち、一般的にはDNA、を直接的に適用すると、コードされた抗原に関して免疫化された期間は少なくとも効果的であることがわかっている。このことは、Tang, D-Cらの論文(Nature (1997) 388: 729-730、Yu, W-HらのJ. Invest Dermatol. (1999) 112: 370-375)、Falo, L. D. Jr.の論文(Proc Assoc Am Physicians (1989) 111: 211-219)、Shi, Z.らの論文(Vaccine (1999) 17: 2136-2141)、及びTuting. P.らの論文(J. Invest Dermatol (1998) 111: 183-188)等、多くのグループによって報告されている。Fan, H.らはさらに、B型肝炎表面抗原に対する応答を誘導するために、毛包を含む正常の皮膚に適用する場合には、この抗原をコードする遺伝子が効果的であることを示した(以下、「非特許文献7」という。)。
しかしながら、毛包がなくなっている皮膚は、ワクチン接種に対する適当な標的ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、毛包を含む組織などの組織培養された組織がイクスビボで遺伝子的にうまく改変され、続いて無傷の哺乳動物被験体に首尾よく移植できるという発見に基づいて完成されたものである。その改変は、遺伝子的に改変する前にコラゲナーゼを用いて組織培養された組織を処理することによって、促進される。
【0008】
このように一態様における本発明は、複数の毛包を含む皮膚試料を摘出し;成長期にある前記複数の毛包を含む前記皮膚試料を三次元マトリックス中で培養し;次いで、前記毛包の三次元構造を保持するように、前記毛包含有皮膚試料を、コラゲナーゼ溶液を含む培地で処理し;コントロール配列と結合させた核酸分子を、ベクターを用いるか又はリポフェクションによって前記毛包中に導入して作製された、イクスビボで改変された無傷の毛包を含む移植用皮膚組織材料である。
【0009】
ここで、前記ベクターは、ウイルスベクター又はパッケージング細胞の上澄であることが好ましく、前記ベクターが、レトロウイルスベクター又はアデノウイルスベクターであることが好ましい。
また、前記核酸分子は、免疫原、ホルモン、及び毛髪の成長に影響を与える産生物、及び毛髪の質に影響を与える産生物からなる群から選ばれるいずれかをコードするものであることが好ましい。
【0010】
さらに、前記コントロール配列は、CMVプロモーター、HSVプロモーター、アデノウイルス由来のLTR、及びメタロチオニンプロモーターからなる群から選ばれるいずれかのプロモーターを含むものであることが好ましい。
さらにまた、前記皮膚試料は、皮膚組織又はリンパ組織であることが好ましい。
本発明の別の実施態様は、上述した移植用皮膚組織材料を含む、移植用組織培養物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、毛包への特異的な作用を意図した核酸を、選択的に毛包へ送達することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、一般的な毛包を示す模式図である。
【図2】図2は、コラゲナーゼを用いた処理を行った場合と行わなかった場合の組織培養された皮膚におけるアデノウイルス−送達GFPについて、ウイルス力価又はウイルスインキュベート時間のそれぞれに対する関数として示したグラフ表示である。図2Aは、ウイルス力価に対する関数として示したグラフであり、図2Bは、ウイルスインキュベート時間に対する関数として示したグラフである。
【図3】図3は、GFPの持続性を示すグラフである。図3Aは組織培養物の場合である、図3Bは移植された皮膚の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
遺伝的改変のための基質として組織培養された組織を用いると、直接的にインビボ(in vivo)で適用した場合を越えるいくつかの利点、また、引き続いてインビボで移植するために個別に培養された細胞をイクスビボ(ex vivo)で改変した場合を越えるいくつかの利点がある。この組織は三次元の保全性を維持しており、したがってレシピエントに移植された場合にはより容易に再構成される。組織をイクスビボで操作することによって遺伝的改変のレベルを調節でき、被験体の侵襲性の処理を行う前に結果が評価できる。異種の核酸を受け入れる組織の能力を高めるためにコラゲナーゼを用いてその培養組織を処理することは有利であるが、その処理は三次元配列の保全性を完全に破壊するほど苛酷ではない。
【0014】
三次元の組織培養物は、皮膚、特に毛包を含む皮膚、リンパ組織、または腫瘍組織といった任意の組織から集めることができる。組織の選択は、計画した処理の特徴に依存する。組織培養物は、無傷の断片として与えられる組織サンプルの構造を維持している。「無傷の」とは、その組織の三次元構造が、異種の核酸を含むように細胞を改変する前と後のどちらにおいてもその組織培養物に保存されていることを意味する。下記のように組織培養物は、適当な核酸−含有ベクターまたはその核酸を含む配合物を提供する前に、コラゲナーゼを用いて処理できる。しかしながらコラゲナーゼを用いた処理は、構造の必須の要素を保存できるように充分に緩和でなくてはならない。したがって「無傷の」組織、または「無傷の」断片とは、本発明の方法に従いコラゲナーゼを用いて処理を行う前と後の双方における、ドナーである被験体から入手した組織の断片を意味する。
【0015】
例えば毛包は、毛髪の成長または質に影響を与えることを意図する遺伝子の有用な受容体であり、それだけでなく免疫原や、採用した生物体に全体として有用でありうる他の産物を産生する能力もある。したがって毛包を形質転換することは、生物体全体に向けられる遺伝子治療の際の中間工程として容易に利用できる。例えば必要な抗原を産生するために毛包を改変する工程を経た免疫化では、毛包を含む皮膚のみが、抗原に対する免疫応答を誘導できるDNAを受け入れることができ、これに対して毛包が全くない皮膚ではそれが起こる可能性がないという上記で報告された観察結果と一致している。
【0016】
こうして毛包または毛包を含む皮膚は、治療すべき被験体の重要でない領域から採取され、インビトロで培養される。好ましくは毛包を含む皮膚は、組織培養する。それからその組織培養された皮膚は、異種の核酸を取り込む毛包の能力を高めるのに充分な量と時間でコラゲナーゼを用いて処理されるが、ただしその処理は、結果的に組織培養物の壊変が生じないように調節される。続いて培養物中、または組織培養物中の無傷の毛包は、目的の核酸を送達できる適当なベクターを用いて処理される。このようなベクターには、アデノウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターのようなウイルスベクター、またはパッケージング細胞由来の上澄が含まれる。
【0017】
概して言うと一態様において本発明は、遺伝子発現ベクターのため、またはむき出しのままのDNAのための送達システムとして毛包を利用することに関する。本発明を実施するためには、毛包を採集して処理を行う適当な方法を用いるべきである。即ちさまざまな手段が毛包を改変するために利用可能であり、その毛包はその後レシピエントに再移植できる。
【0018】
毛包を採集するためには、好ましくはその包を含む皮膚が小片として適当なドナーから採取される。毛包が既に成長期にある場合には、それらは直接組織培養できる。しかし、組織を提供するものが成長期ではない毛包を有しているのであれば、例えばワックス法を用いて皮膚を脱毛し、その後成長が確立されたら適当な時点で毛包を含有する皮膚片を採取することによって、再同調させることが可能である。一般にこれは、マウスの被験体では3-10日後、より好ましくは5-7日後、そして最も好ましくは6日後であり、他の哺乳動物被験体では成長性が再び確立されるための期間はさまざまである。最適の待機期間はたやすく決定できる。その後、成長期にある毛包を含む皮膚は、一般的にはコラーゲンをベースとする三次元マトリックスに埋め込まれる。その組織培養物がコラゲナーゼまたは感染もしくは形質導入を促す他の適当な溶菌酵素を用いて処理されると、続いて行われる所望の異種遺伝子を用いた改変が改良されることが本発明者らによって見出されている。
【0019】
コラゲナーゼを用いた処理は、続いて行われる遺伝的改変を高めるのに十分であるが、組織培養物の保全性を破壊するほど過酷にならないようにすべきである。コラゲナーゼによる分解の程度は、コラゲナーゼの濃度、インキュベーションの温度、及びインキュベーションの時間を調節することによって調整できる。これらは相互依存するファクターであり、最適レベルは経験的により容易に決定できる。一般に適する条件は、約2mg/mlのコラゲナーゼ溶液、37℃で1-2時間である。
【0020】
支持マトリックスを「開放」した後、その組織培養物は遺伝子の改変を受け入れるための適当な条件下に置かれる。この工程で考慮すべきファクターは、改変方法の特徴、即ち、用いるベクター系または方法論、及び挿入すべき遺伝子の性質である。
【0021】
遺伝的改変は、典型的には、市販されている系を含む、リポソームを基本的に用いる系、または一般にはリポフェクションを用いて処理することによって成し遂げられる。アデノウイルスベクターやレトロウイルスベクターのようなウイルスベクター、また一般的にウイルスベクターの場合では、このようなベクターのパッケージング細胞から得られる上澄である。裸のままのDNAを用いて適した条件下で形質導入を行うこともできる。
【0022】
図1は、一般的な毛包の模式図である。ここに示すように、毛管は、脂を分泌する皮脂腺に結合している。一般に組成物の毛包への選択的送達は、リポソーム組成物を用いて行うことができることが本発明者らによって見出された。例えば参照としてこの明細書に組み入れられる米国特許第5,914,126号を参照されたい。このように、場合によってコラゲナーゼで処理された組織培養サンプルにおいて、毛包への特異的な作用を意図した核酸の毛包への選択的な送達が成し遂げられる。
【0023】
本発明の別法では、特に局所送達を全身化する、即ち核酸分子を全身的に送達することが望まれる場合、被験体の皮膚または他の組織を組織培養したサンプルを用いることができる。この例では選択的な送達は必要ではない。一般にサンプルを組織培養するための適切な技術は周知であり、例えば参照としてここに組み入れられる米国特許第5,849,579号及び米国特許第5,726,009号に開示されている技術が好ましい。
【0024】
挿入すべき遺伝子は、それら自体のコントロール配列に機能的に結合させて用いることができるし、また毛包細胞にある内因性のプロモーターを利用するむき出しのままのDNAを供給してもよい。このコントロール配列には通常、構成的または誘導的な、哺乳動物の細胞と適合できるプロモーターが含まれる。そのようなプロモーターとしては、限定するわけではないが、CMVプロモーター、HSVプロモーター、アデノウイルス由来のLTR、及びメタロチオニンプロモーターが挙げられる。
【0025】
適切なヌクレオチドのオープンリーディングフレームは、免疫応答を誘起したり、毛髪の成長を調節したり、毛髪の色を変化させたりするタンパク質、またはホルモンや治療用化合物であるタンパク質をコードするものを含む。ヌクレオチド配列の選択は、状況や目的とする結果に応じて異なる。したがって例えば、レシピエントに色や密度についてある特徴を持つ髪を提供することが、望まれる最終的な結果であるならば、メラニンの生成に関与するチロシナーゼのようなタンパク質をコードするヌクレオチドオープンリーディングフレームが含まれているとよいし、また、毛髪の成長を刺激するタンパク質をコードするヌクレオチド配列が含まれていてもよい。この場合の好適な方法には、レシピエントの皮膚に本発明の方法によって改変した毛包を移植することが含まれるであろう。目的が原虫、細菌、またはウイルスのような病原体に対する個体の免疫感作に影響を与えることにあるならば、B型肝炎の表面抗原、ウイルスの皮膜タンパク質、細菌や原虫の表面抗原ペプチドサブユニット、または他のペプチドをベースとする免疫原のような適当な免疫原がヌクレオチド配列によってコードされているとよい。
【0026】
この例では、本発明の方法によって改変された毛包、あるいは組織培養した組織サンプルのいずれかの移植を用いることが可能である。上記したように組織培養されたサンプルには、皮膚以外にリンパ組織または腫瘍組織が含まれる。さらに、FSH、LH、ヒト成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、オキシトシン、カルシトニン、組織プラスミノーゲンアクチベーター、エリスロポエチン、インターロイキンのような種々のサイトカインなどのホルモンまたは治療薬を、それらをコードするヌクレオチド配列を与えることによって投与し、実質的に被験体の代謝を改変することも本発明の範囲に含まれる。局所作用と全身作用のどちらもが得られるであろう。一般に、改変した毛包の移植、または組織培養された一部の移植のいずれかを用いることができる。
【0027】
上述したように、所望のタンパク質をコードするヌクレオチド配列をむき出しのままのDNAとして用いることもできるが、発現させるためのコントロール配列を有する構築物の形態でこれらのヌクレオチド配列を提供する方が好ましい。この構築物はさらに、標的細胞に形質導入するためのウイルスベクターまたは別の手段によって達成されるような感染法によって、毛包や組織サンプルに含まれる細胞の形質導入機構をもたらすことができる。例えばリポフェクション、リポソームの利用、エレクトロポレーション、及び他の同種の方法を用いることもできる。
【0028】
毛包または組織が上記の遺伝子構築物を含むように改変されると、それらは適当なレシピエントに移植される。レシピエントへの毛包の移植技術、また、毛包を含む組織などの組織の移植技術はこの技術分野では周知である。組織培養された毛包または組織は、無傷で構造の整った移植片として与えられる。
【0029】
移植片のレシピエントである被験体は、哺乳動物被験体である。移植された組織の拒絶反応を抑えるために、レシピエントは毛包または培養組織の提供者と同系であること、またレシピエントが免疫無防備状態にあることが好ましい。ヒトの同種移植の設定で毛包を移植することは周知である。同様にヒト被験体では、例えば被験体に再移植するのに先だって遺伝的改変するために、その同一の個体自身の皮膚組織を用いることが明らかに好ましい選択である。しかしながら何らかの理由で同一の個体の皮膚を用いることができない場合には、従来から行われているように、免疫抑制剤の投与を伴って、別の提供者から入手した組織の移植がなされる。
【0030】
同様の考え方は、免疫原、ホルモンまたは治療用化合物を産生する核酸構築物を投与する場合の獣医学での利用に関してもあてはまる。
【0031】
実験室の環境で用いる場合にはこの移植技術は、この遺伝子治療法によって導入されたタンパク質の効果が評価できるように、改変された被験体を形成する点で有用である。要するにこの技術は、そのモデル系に他の物質を投与したことによる効果を評価するための実験モデルとして用いることができる、トランスジェニック被験体を産生する。この状況では、改変された組織を同一又は同系の被験体から誘導してもよいし、あるいはSCIDマウスやヌードマウスのような免疫無防備状態のレシピエントを、任意の起源から誘導された組織に対するレシピエントとして利用することもできる。これらの免疫無防備状態のマウス被験体以外に他の哺乳動物を、例えば、Hodgin, E. C.らの論文(M. J. Vet. Res. (1978) 39: 1161-1167、Perryman, L. E.らのThymus (1984) 6: 263-272によるウマ、Roth, A.らのM. J. Vet. Res. (1984) 45: 1151-1155)に記載されているイヌ、及びBaskin, G. B.の論文(Am. J. Pathol. (1987) 129: 345-352)に記載されているサルを、放射線照射または免疫抑制剤の投与によって免疫無防備状態にすることができる。
【0032】
このように任意の哺乳動物被験体は、改変されて構造の整った組織または毛包が移植されるレシピエントとして適当である。被験体には、ウサギ、マウス及びラットのような実験動物はもちろん、ヒト以外に、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、イヌ、及びネコのような獣医学上の被験体も含まれる。
【0033】
レシピエントの一部に十分な免疫無防備状態を確実に起こさせるために所与の工程を行ったレシピエントに移植する際には、任意の起源から得られる組織を用いることが可能であるが、本発明の利点の一つは、遺伝子構築物を送達するためのビヒクルとして皮膚組織及び/または毛包を用いることによって、同種移植片の利用がかなり可能になることである。これによって、さもなければ免疫抑制状態において困難を伴う合併症が回避される。
【実施例】
【0034】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図するものであり、本発明を限定するものではない。
【0035】
[GFPを形質導入した毛包及び毛幹を評価する方法]
毛包とGFP陽性毛包の数を、自然光視野の顕微鏡及び蛍光視野の顕微鏡下で測定した。0.581mm2の視野(200×倍率の1視野)をカバーする5カ所の無作為に選択した顕微鏡視野から得られる毛髪の平均数に基づいて計算を行った。1つの群あたり少なくとも500本の毛髪を、GFP陽性毛包のパーセントを得るためにカウントした。毛球または毛幹のどこかでGFPが明視化されている毛包をGFP陽性として数えた。
【0036】
50W水銀ランプのパワー電源を装着したニコン(Nikon)(Tokyo, Japan)の蛍光顕微鏡及びレイカ(Leica)の蛍光立体顕微鏡モデルLZ12(Leica Inc., Deerfield, IL)を用いた。放射された蛍光は、ハママツ(Hamamatsu)C5810 3-チップ冷却カラーCCDカメラ(Hamamatsu Photonics Systems, Bridgewater, NJ)に装着した長波-透過フィルターGG475(Chroma Technology, Brattleboro, VT)を通過させて集めた。
【0037】
ウイルスのGFPを形質導入した後、組織学的研究を行うべく数回の時点で皮膚片を採取し、GFP発現の局在化を検出した。組織培養された皮膚片または皮膚移植片は、培養培地に入れた2mg/mlのI型コラゲナーゼ溶液中で2時間、37℃にてインキュベートし、毛包を遊離させるために培養培地ですすいだ。また組織学的研究では、組織培養された皮膚片または皮膚移植片は-80℃で保存した。凍結させた試験片はクリオスタット(Hacker Instruments, Inc., Fairfield, NJ)上で薄片に切断し、スライドガラス(Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)の上に収集した。
【0038】
さらに、RT-PCRにかけた組織培養した皮膚または移植された皮膚からRNAを単離した。皮膚サンプル(100mg)は、1mlのTRI REAGENT(Sigma, St. Louis, MO)中で均質化することでRNA(13,14)を抽出した。RT-PCRでは約10μgのRNAが第1 cDNA鎖に逆転写された。逆転写は20μlの第1鎖緩衝液、500μMの各dNTP、及び20ユニットのAMV逆転写酵素(Stratagene, San Diego, CA)中で行った。第1鎖のプライマーはpGFPアンチセンスであった。インキュベーションは42℃で50分間行った。
それから逆転写の生成物をPCRによって増幅した。マウスβ-アクチンのmRNAを標準物質として用いた。比較参照としてマウスβ-アクチン(514bp)を、GFP陽性およびGFP陰性である皮膚の両方から抽出したRNAでRT-PCRによって増幅した。GFP上流のプライマーの配列は、
5'-ATG GCT AGC AAA GGA GAA GAA CT-3'(配列番号1)
であった。
下流側のプライマーは、
5'-TCA GTT GTA CAG TTC ATC ACT G-3'(配列番号2)
であった。GFPとβ-アクチンの両方のPCR条件は以下のとおりである。即ち、97℃で30秒間の変性;55℃で30秒間のアニール化;そして72℃で45秒間の伸張;続いて72℃で10分間の最終的な伸張である。
【0039】
(実施例1)組織培養された皮膚の毛包の遺伝的改変
C57BL/10とアルビノのマウスをこの研究では用いた。修飾される場合の毛包は成長期にあった。この研究で使用した6日齢のマウスの毛包は、天然には成長期にあった。この研究で使用した8週齢のマウスは、ピンク色を示すことから休止期にあることが判断される。これらのマウスに麻酔をかけ、3×5cmの背部領域を、ワックスを用いて脱毛することによって、毛包が同期した成長期となるように処理した。これはつまり、8週齢のマウスの毛包は天然には休止期であったが、背部領域から脱毛を行った6日後に、成長期に切り替わったということである。
【0040】
各マウスについて、皮下組織を取り出して1mm×2mmの切片とした。その皮膚片を組織培養した。組織培養した試料のいくつかを、37℃で1〜2時間、2mg/mlコラゲナーゼ溶液を含む培養培地(RPMI 1640、10%のFBS)中でインキュベートすることによって、コラゲナーゼ処理した。コラゲナーゼで処理された組織培養物を、続いてPBSですすいだ。
【0041】
より詳細には、動物を脱毛後6日目に頚椎脱臼によって殺した。背部の皮膚を皮下組織の深さまで切開した。皮下組織を取り出し、その皮膚をカルシウム及びマグネシウム不含リン酸緩衝生理食塩水(CMF-PBS、pH7.4)ですすいだ。その皮膚サンプルを小片(1mm×1mm〜2cm×2cm)に切断した。この試料小片を、10%のウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640中で培養して非処理のコントロールとして直接用いた。その試料の残りは、2mg/mlのI型コラゲナーゼ(Sigma、St. Louis, MO)溶液を含む培地中、37℃で45分〜3時間45分、インキュベートし、CMF-PBSにてすすいだ。
【0042】
未処理培養物及び処理培養物をともに、加湿された5%のCO2/95%空気中、37℃でインキュベートし、その後、pQBI-AdCMV5GFP(Quantum, Montreal, Quebec)を用いて、培養培地1mlあたり2.4×106個から5.0×109個のプラーク形成単位(PFU)で、90分間感染させ、続いて新しいRPMI 1640(10%のFBS)中にて、37℃で1〜6時間インキュベートした。グリーン蛍光タンパク質(GFP)の発現を、その後数日の間観察した。結果を表1に示す。遺伝子修飾は、コラゲナーゼを用いた場合でも用いなかった場合でも首尾よく達成されているが、この効果はコラゲナーゼを用いて処理すると改善されることがわかる。
【0043】
【表1】

【0044】
同様の実験では、コラゲナーゼ処理を行った皮膚と処理を行わなかった皮膚との組織培養物の両方を、2.4×106から5.0×109pfu/mlの範囲のアデノウイルスGFPを用いて、37℃で2.5時間処理した。GFPを形質導入した3日後には、コラゲナーゼ処置した組織培養物に含まれるGFP-ポジティブな毛包の数は、ウイルス力価が高くなるにつれて80%まで増加した。非処理の組織培養物では、GFPポジティブな毛包の数は非常に少なく、より高い力価でもわずかに増加するにすぎず、コラゲナーゼ処理した組織培養物の毛包数の4分の1以下であった。これらの結果は図2Aに示されており、それはウイルス力価に依存することを示している。
【0045】
さらに同様の実験では、コラゲナーゼ処理を行った組織培養物と処理を行わなかった組織培養物の両方を、3.4×108pfu/mlのアデノウイルスGFPとともに、37℃で1時間〜6時間インキュベートした。コラゲナーゼ処理した組織培養物に含まれるGFP-ポジティブな毛包の数は、ウイルスとのインキュベーションの時間が最大で4時間に達するまでに80%まで増加した。4時間を過ぎるとそれ以上の増加は観察されなかった。非処理の組織培養物ではGFPポジティブな毛包の数は非常に少なく、時間が経過してもほんのわずかに増加したにすぎなかった。これらの結果を図2Bに示す。
【0046】
GFP陽性毛包の数は、皮膚の組織培養物をコラゲナーゼ処理した時間が最大で1時間30分に達するまでは増加したが、それを過ぎると時間の経過につれてその数は減少した。
【0047】
これらの実験では、アデノウイルス-GFP処理を行った1日後に、組織培養された皮膚の毛髪マトリックス細胞においてGFPが可視化された。アデノウイルス-GFP処理をした3日後に組織培養された皮膚から毛包を単離し、GFP蛍光の局在を調べた。GFPは、毛球及び真皮乳頭にある細胞の大部分で広範囲に可視化された。
アデノウイルスGFP処理の7日後には、組織培養した皮膚の毛幹でGFPが可視化された。図3A参照。GFP陽性毛幹、GFP陰性毛幹、および部分的にGFP陽性である毛幹は、イクスビボでアデノウイルス-GFP遺伝子治療を行った3日後には特異的なGFP蛍光によって明瞭に識別され、GFP蛍光はコラゲナーゼ処理を行って組織培養された皮膚に存在する毛包の79%で可視化された。対照的に、処理を行わなかった組織培養された皮膚においては、わずか12%の毛包しかGFP蛍光を有しなかった。図3Aを参照のこと。組織培養物においては少なくとも35日間にわたり、高いGFP蛍光が毛包において維持されていた。
【0048】
異なる時点での毛包におけるGFP遺伝子の発現を確認するために、RT-PCR分析を用いて、3日目、6日目、9日目、12日目、15日目、及び17日目においてアデノウイルス-GFP遺伝子を形質導入した組織培養皮膚に存在するGFP-特異的mRNAを検出した。RT-PCR産物は、GFPのcDNAが上記の時点で全RNAから特異的に増幅されたことを示していた。電気泳動分析は、アデノウイルス-GFP-形質導入された組織培養皮膚から増幅された産物の推定サイズが720bpであることを示した。非感染組織培養皮膚から抽出した全RNAを用いたRT-PCRでは、この配列は増幅されなかった。
【0049】
どの場合においても、組織培養された皮膚の毛包、毛球、及び真皮乳頭においてGFPの発現が示されることが目視観察によって示された。
【0050】
(実施例2)レシピエントへの改変された組織培養物の移植
毛包が休止期にある8週齢のメスのC57BL/10マウスを、ドナーとして用いた。その背部領域をワックスにより脱毛することによって、脱毛後6日で起こる成長を誘導した。組織を背部領域から採取し、小片に切断してから、培養、コラゲナーゼを用いた処理、及びGFPを含むアデノウイルスを用いた感染を実施例1に記載されたように行った。それからその皮膚片を7週齢/3日齢のメスのヌードマウスの背部領域に移植した。移植後の移植皮膚を観察すると、毛包においてGFPが広範囲に発現すること、およびその発現はコラゲナーゼで前処理することにより増強されることが示された。
【0051】
より詳細には、インビボでトランスジーンの発現を可視化するために、ウイルスGFPを形質導入した後、組織培養した皮膚をヌードマウスまたはC57BL/10マウスに移植した。組織培養された試料は、採集した24時間以内に移植した。移植外科術は、滅菌法を用いて層流フード内で行った。マウスはケタミンを用いて麻酔した。1×1cmの皮膚片を、筋膜の下にあるレシピエントマウスの皮膚をとり除いて準備した同じ大きさの埋め込み部に移植した。皮膚移植片は、6-0の非吸収性の単繊維縫合糸を用いて適切に固定した。
【0052】
移植後のコラゲナーゼ処理した組織培養皮膚においては、毛包のより広範囲のGFP蛍光が可視化され、この蛍光は非処理の皮膚におけるよりも広範囲であった。移植の8日後には、皮膚移植片における最大蛍光の領域において毛包の75%でGFPが可視化されていた。移植後、コラゲナーゼ−処理された皮膚においてGFP蛍光を有する毛包のパーセントは、非処理の皮膚の毛包における該パーセントの5.7倍大きかった。図3Bを参照するとよい。上記に記載した免疫応答性を有するC57BL10マウスに移植したGFP-アデノウイルス処理を行った皮膚においては、免疫不全のヌードマウスに移植した皮膚と同様の期間、同様の効率で、GFPが可視化された。
【0053】
GFP-形質導入した移植皮膚について、6日目、8日目、そして10日目にRT-PCRを行った。GFP-特異的mRNAがそれぞれの時点で同様に増幅された。これらのデータからは、組織培養を行う少なくとも17日間にわたって、およびマウスへの皮膚の移植後少なくとも10日間にわたって、GFP遺伝子が発現することが確認された。
【0054】
(実施例3)ストレプトマイセス(Streptomyces)チロシナーゼ遺伝子、上流ORF-438、および内部リボソームエントリー部位(IRES)のクローニング
ストレプトマイセス・アンチビオティカス(Streptomyces antibioticus)のチロシナーゼ遺伝子およびORF-438をエンコードする配列を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)より入手したプラスミドpIJ702 (ATCC #35287) からPCRによって増幅した。Katz, E.らのJ. Gen. Microbiol. (1983) 129: 2703-2714。
【0055】
PCR増幅するためのオリゴマーは、S. アンチビオティカス(S. antibioticus)チロシナーゼ遺伝子とORF-438のcDNAの配列に従って設計した。Bernan, V.らのGene, (1985) 37: 101-110。哺乳動物細胞において上記細菌遺伝子の発現を増強するために、ORF-438およびチロシナーゼ遺伝子のTGA終止コドンをTAAに変更した。翻訳効率を向上させるために、それぞれの場合にATG開始コドンのすぐ前に、コザック共通配列であるGCCGCCACCを上流側に付加した。
【0056】
コザック共通配列を含むORF-438上流側プライマーの配列は、
5'-CGGAATTCGCCGCCACCATGCCGGAACTCACCCGTC-3'(配列番号3)
であった。下流側プライマーの配列は、
5'-GGCTGATCATTAGTTGGAGGGGAAGGGGAGGAGC-3'(配列番号4)
であった。
コザック共通配列を含むチロシナーゼの上流側プライマーの配列は、
5'-CTCGAGGCCGCCGCCATGACCGTCCGCAAGAACCA-3'(配列番号5)
であった。
【0057】
下流側プライマー配列は、
5'-GGATCCTTAGACGTCGAAGGTGTAGTGC-3'(配列番号6)
であった。ORF-438とチロシナーゼの両方について、PCR反応条件は以下のとおりであった。即ち、97℃で10分間の変性;次に97℃で30秒間の変性、66℃で30秒間のアニーリング、および72℃で45秒間の伸長を10サイクル;それから72℃で10分間の最後の伸長。
【0058】
PCRオリゴマーは、Clonetech(Palo Alto, CA)から入手したレトロウイルスベクターpLISNに含まれる内部リボソームエントリー部位(IRES)の配列に従って設計した。上流側プライマーの配列は、
5'-GGCTGATCATTCGCCCCTCTCCCTCCCC-3'(配列番号7)
であった。下流側プライマーの配列は、
5'-AGCGGCCATTATCATCGTGTTTTTCAAAGG-3'(配列番号8)
であった。
【0059】
IRES遺伝子は、鋳型としてのpLXINからPCRによって増幅した。PCRの反応条件は以下のとおりであった。即ち、まず96℃で10分間の変性;次に94℃で30秒間の変性、50℃で30秒間のアニーリング、および72℃で45秒間の伸長を30サイクル;それから72℃で10分間の最後の伸長。
【0060】
電気泳動分析は、増幅された産物の推定サイズが、ORF-438、チロシナーゼ及びIRESに対してそれぞれ438bp、800bp及び580bpであることを示した。
【0061】
(実施例4)レトロウイルスベクターpLmelSNの構築およびパッケージング
pLmelSNの構築を記述する。レトロウイルスベクターpLXSN(Clonetech, Palo Alto, CA)は、二つのプロモーター、即ち、挿入遺伝子を調節する5'-長末端反復配列(5'-LTR)と、ネオマイシンリン酸転移酵素(neoR)を調節するSV40プロモーター、とを含むマウス白血病ウイルス系ベクターである。800-bpのチロシナーゼPCR産物をXholによって切断し、pLXSNのHapI/XhoIクローニング部位に挿入することによってpLtyrSNが得られた。ORF-438とIRES PCR産物をBcl I部位で連結し、その後pLtyrSNのEcoRI/Xholクローニング部位に挿入することによって、pLmelSNが得られた。ORF-438とチロシナーゼ遺伝子はどちらも、pLmelSN中のモロニーマウス白血病ウイルスの5'-LTRによって駆動される。5'-LTRプロモーターの制御下にあるORF-438、IRES及びチロシナーゼ遺伝子を含む二シストロン配列がそのベクター中に存在している。
【0062】
pLmelSNを、lipoTAXI(Clonetech, Palo Alto, CA、Stratagene, San Diego, CA)を用いてPT67パッケージング細胞系にトランスフェクトした。そのトランスフェクトされたPT67細胞系は、0.4mg/mlのG418(Gibco BRL)を含むDMEM培地にて選択した。G418-耐性細胞をクローン化し増殖させた。G418を用いて2週間の選択的培養を行った後、陽性であるトランスフェクトされた細胞であるPT67-melが得られた。
【0063】
(実施例5)PT67-mer細胞における発現
ORF-438遺伝子とチロシナーゼ遺伝子の両方の発現を確認するために、RT-PCR分析を用いてトランスフェクトされたパッケージング細胞において各mRNAを検出した。RT-PCR産物は、S. antibioticus由来のチロシナーゼ遺伝子とORF-438遺伝子がpLmelSN形質導入したPT7-細胞の全RNAから特異的に増幅された産物であることを示していた。比較対照として、PT67-melとPT67細胞の両方から得られるマウスのβ-アクチンをRT-PCRによって増幅した。電気泳動分析は、RT67-mel細胞から得られる増幅産物の予測サイズが、チロシナーゼとORF-438に対してそれぞれ800bpと438bpであることを示した。感染を行わなかったPT67細胞から得られる全RNAを用いたRT-PCR反応では、これらの断片は増幅しなかった。
【0064】
より詳細に述べると、PT67-mel細胞をトリプシンを用いて消化し、そして遠心分離によってペレット化した。全RNAはグアニジンチオシアナート法(MicroRNA Reagent Kit, Stratagene, San Diego, CA)によって抽出した。RNAは、260nmにおける吸光度を測定することによって定量した。約10μgの全RNAを第1cDNA鎖へと逆転写した。逆転写は20μlの第1鎖緩衝液、500μMの各dNTP、及び20ユニットのAMV逆転写酵素(Stratagene, San Diego, CA)で行った。第1鎖に対するPCRプライマーは、pORF-438アンチセンスとpTyrアンチセンスであった。サンプルを42℃で50分間インキュベートした、逆転写の産物をPCR反応によって増幅した。マウスβ-アクチンを標準として用いてRNAの品質を調節した(Stratagene, San Diego, CA)。
【0065】
(実施例6)チロシナーゼ活性アッセイ
トランスフェクトしたパッケージング細胞を、G418-耐性パッケージング細胞のクローンの溶解物に含まれるチロシナーゼ活性を測定することによって、活性を有するチロシナーゼタンパク質の発現についてスクリーニングした。チロシナーゼ活性は、NakajimaらのPigment Cell Res (1998) 11: 12-17によって記載された方法で評価した。pLmelSN感染したPT67パッケージング細胞を、96ウェルプレートに2,000細胞/ウェルの密度で植え付けた。培養を24時間行った後、そのパッケージング細胞をPBSを用いて洗浄し、1%のトリトン-100(45μ/ウェル)を用いて溶解した。振とうしてその溶解物を混合した後、5μlの10mM L-DOPAをそれぞれのウェルに添加した。その培養物を37℃で30分間インキュベートしてから、490nmでの吸光度を分光光度測定法で測定した。
【0066】
またDOPA-オキシダーゼ反応も、無傷のトランスフェクトしたPT67細胞におけるメラニンの産生を検出するために利用した。その細胞を、1mg/mlのDOPAと2mg/mlのチロシンとを含むPBS(pH 7.4)とともに37℃で12時間、先に記載したようにインキュベートした。Kugelman, T.らのJ. Invest Dermatol (1961) 37: 66-73参照。
【0067】
同じ条件を用いて細胞上清のメラニン含有量について490nmで測定した。図3は、PT67クローン1-4が比較対照のPT67よりも多いメラニンを生成することを示している。チロシナーゼ陽性細胞は、自然光視野の顕微鏡を用いて観察される茶色のメラニン顆粒を産生することによって同定した。茶色に着色した顆粒は、pLmelSN-トランスフェクトした細胞でのみ観察された。
【0068】
(実施例7)アルビノマウスの成長期の毛包の培養
メスのアルビノマウスC57BL/6J-チロシナーゼ(c-2J)(8週齢)は、Jackson Laboratoryから購入した。全ての毛包が毛髪サイクルの休止期(テロゲン期)に入っている背部の皮膚に、毛髪サイクルの成長期(組織再生期)を誘導した。全身麻酔を行った後、温かいワックス/ロジン混合液を適用してから皮膚を剥離し、全ての休止期の毛幹を脱毛し、それによって成長期に入るように毛包を誘導した。Schilli J Invest Dermatol (1998) 111: 598-604参照。
【0069】
脱毛後6日目に全ての毛包が成長期に入った時点でそのマウスを殺し、その背部の皮膚を採集した。マウスの皮膚の小片(2×5×2mm)をハサミで切断し、HBSSで3度洗浄した。採集した皮膚を抗生物質(1mlあたり100μgのゲンタマイシン、1mlあたり10μgのシプロフロキサシン、1mlあたり2.5μgのアンホテリシン-B、1mlあたり100IU-100μgのペニシリン-ストレプトマイシン)を含むMEM中で30分間、37℃でインキュベートした(Sigma)。その皮膚をHBSS培地を用いて3回洗浄することによって残っている抗生物質を除去し、10%のウシ胎児血清とゲンタマイシンを補充したイーグルの最小必須培地(MEM)において組織培養するため、コラーゲンを含むゲルに入れた。培養は5%のCO2を含むガス封入インキュベーター中で、37℃に維持した。
【0070】
(実施例8)培養したアルビノマウスの毛包の感染
実施例7の組織培養したアルビノマウスの皮膚を、PT67-mel細胞とともに以下のとおりに共培養した。
【0071】
最も多く産生したクローンから得られるPT67-mel細胞を計数し、24-ウェルのプレートに植え付けてから80%のコンフルエントに達するまで37℃で増殖させ、24-ウェルのプレートで組織培養されたアルビノ皮膚とともに、12時間、24時間及び72時間共培養した。その後組織培養された皮膚を、新しいMEM培地を用いて24ウェルのプレートで単独培養し、更に4〜6日間インキュベートした。ウイルス感染させた皮膚の小片を無作為にサンプリングした。新しい凍結切片を標準法によって調製した。
【0072】
メラニンは、レトロウイルス感染の4日後の組織培養物の毛球の深部にある毛マトリックスにおいて観察された。またメラニンは毛包の上部にも見られ、感染の6日後には毛マトリックスと毛幹の両方で観察することができた。
【0073】
共培養した組織培養アルビノマウスの皮膚をPT67-mel細胞とともに24時間共培養する工程が含まれる最初の実験では、皮膚組織培養物のほぼ2.5−15%がメラニン産生性の毛包を含んでいた。PT67-melと共培養しなかった組織培養したアルビノマウスの皮膚ではメラニンは観察されなかった。
【0074】
次に、アルビノ皮膚とPT67-melの共培養物のインキュベーション時間が長くなるほどチロシナーゼ感染の効率が良くなるかどうかを調べるために、経時的実験を行った。組織培養皮膚の感染効率は、共培養した時間につれて有意に向上した。12時間の共培養を行った後では、皮膚の7%(30片のうちの2片)がメラニンを産生し、また毛包の15%(60片のうち40片)がメラニンを産生した。共培養を24時間行った後では皮膚片の25%(20片のうち5片)がメラニンを産生し、毛包の35%(80片のうち28片)がメラニンを産生した。共培養を72時間行った後では、皮膚片の60%(20片のうち12片)がメラニンを産生し、毛包の53%(80片のうち42片)がメラニンを産生した。
【0075】
これらの結果は、ウイルス力価とウイルスに曝露された時間が形質導入の頻度に影響をあたえ得ることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、医療の分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の毛包を含む皮膚試料を摘出し;
成長期にある前記複数の毛包を含む前記皮膚試料を三次元マトリックス中で培養し;
次いで、前記毛包の三次元構造を保持するように、前記毛包含有皮膚試料をコラゲナーゼ溶液を含む培地で処理し;
コントロール配列と結合させた核酸分子を、ベクターを用いるか又はリポフェクションによって前記毛包中に導入して作製された、イクスビボで改変された無傷の毛包を含む移植用皮膚組織材料。
【請求項2】
前記ベクターは、ウイルスベクター又はパッケージング細胞の上澄である、請求項1に記載のイクスビボで改変された無傷の毛包を含む移植用皮膚組織材料。
【請求項3】
前記ベクターが、レトロウイルスベクター又はアデノウイルスベクターである、請求項1又は2のいずれかに記載のイクスビボで改変された無傷の毛包を含む移植用皮膚組織材料。
【請求項4】
前記核酸分子は、免疫原、ホルモン、及び毛髪の成長に影響を与える産生物、及び毛髪の質に影響を与える産生物からなる群から選ばれるいずれかをコードする、請求項1〜3のいずれかに記載のイクスビボで改変された無傷の毛包を含む移植用皮膚組織材料。
【請求項5】
前記コントロール配列は、CMVプロモーター、HSVプロモーター、アデノウイルス由来のLTR、及びメタロチオニンプロモーターからなる群から選ばれるいずれかのプロモーターを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のイクスビボで改変された無傷の毛包を含む移植用皮膚組織材料。
【請求項6】
前記皮膚試料は、皮膚組織又はリンパ組織である、請求項1〜5のいずれかに記載のイクスビボで改変された無傷の毛包を含む移植用皮膚組織材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の無傷の毛包を含む移植用組織培養物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−157365(P2012−157365A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108670(P2012−108670)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【分割の表示】特願2001−544325(P2001−544325)の分割
【原出願日】平成12年12月11日(2000.12.11)
【出願人】(502326772)アンチキャンサー インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】